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Title 第 3 篇薬剤耐性上昇阻止効果(結核化学療法に於ける薬剤 交互併用療法と同時併用療法との効果比較に関する試験 管内実験) Author(s) 中井, 準 Citation 京都大學結核研究所紀要 (1965), 13(2): 172-183 Issue Date 1965-03 URL http://hdl.handle.net/2433/51851 Right Type Departmental Bulletin Paper Textversion publisher Kyoto University

第 3 篇薬剤耐性上昇阻止効果(結核化学療法に於ける薬剤 Title 交互 … · 結核化学療法に於ける薬剤交互併用療法と同時 併用療法との効果比較に関する試験管内実験

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Title第 3 篇薬剤耐性上昇阻止効果(結核化学療法に於ける薬剤交互併用療法と同時併用療法との効果比較に関する試験管内実験)

Author(s) 中井, 準

Citation 京都大學結核研究所紀要 (1965), 13(2): 172-183

Issue Date 1965-03

URL http://hdl.handle.net/2433/51851

Right

Type Departmental Bulletin Paper

Textversion publisher

Kyoto University

結核化学療法に於ける薬剤交互併用療法 と同時

併用療法 との効果比較に関する試験管内実験

第 3 篇 薬 剤 耐 性 上 昇 阻 止 効 果

京都大学結核研究所内科学第1(教授 内藤 益-)

大学院学生 中 井 準

昭和40年 1月 8月受付

第 1章 緒 言

第 1篇 1), 第 2篇 2) に述べた如 く,薬剤交互

併用療法の着眼点の一つは,砂原3) によれば薬

剤の比較的短期間での交代による,結核菌の耐

性上昇の阻止 にあ り,この耐性上昇を防 ぐこと

によって,薬剤の効果を長期間にわたって低下

す ることな く持続 させて,より優れた治療効果

をもた らそ うとす るものであ る。

薬剤を単独 に使用 した場合,薬剤の種類によ

って差はあ るが,結核菌 は比較的速やかに耐性

化す るものであ り,また,この耐性上昇を阻止

す るには,交叉耐性のない薬剤を併用す ること

が有効であ ることは既に古 くから知 ら れ て い

る4)。 この耐性上昇阻止 という点での併用効果

は,薬剤を併用すれば,その うちの一部の薬剤

だけに耐性化 して も,他剤の作用を受けるであ

ろうし,また,併用 した薬剤の総てに対 して耐

性化す る機会は,確率か らみて,単独の薬剤に

対 して耐性化す る機会 よりず っと少 ないとい う

ことで説明され る。

然 し,薬剤交互併用療法が,通常の同時併用

法に比 して,耐性上昇阻止効果に於て一層有力

であろうという実験的根拠はまだ見 当らない。

そ こで この交互併用療法の試験管内での耐性上

昇阻IL効果を,第 1篇 1), 第 2第 2) と同様に,

シリコー ンスライ ド培養法を5)6)用 いて, 同時

併用 との比較に於て検討 した次第である。

第 2幸 美戟材料及び実験方法

第1節 実 験 材 料

使用菌株, 培地, シリコーン被覆スライ ド (以下

SS), ガラスキャップ付試験管,被検薬剤等実験材料

は第 1篇1)に記載したと同様である。尚その他に増菌

用に1%小川培地を使用した。

第2節 実 l験 方 法

実験群の構成 :第 1第,第2篇と同様,図 1に示し

た8種の併用方式を行なったが,各群の第 1管の薬剤

濃度はス トレプ トマイシン (以下 SM)16γ/ml,パラ

アミノサリチル酸 (以下PAS)160γ/ml,イソニコチ

ン酸ヒドラジッド(以下 INH)8γ/ml,スルフィソキ

サゾール (以下SI)50γ/ml,サイクロセリン (以下ー

CS)8γ/ml,ビラジナマイ ド(以下 PZA)30γ/ml,

1314TH (以下TH)8γ/mlである。

実験手技 :第 1篇1) に記載した通りの方法で SSに

結核菌 H37Rvを付着させ,薬剤交互併用及び同時併

用を8週間行なった後,各 SSを生理的食塩水で2回

ずつ洗液して SS表面の薬剤を除いてから薬剤非含有

培地に移して更に4週間培養した。 こうして交 互併

用,同時併用によって殺菌されるに至らなかった菌集

落を増殖させた後,小試験管にとった約 2mlの石油

ベンジン中にSSを浸漬,振遺して石油ベンジン菌液

を作製し,これの各々 0.1mlを1%小川培地に接種,

37oCで培養した。尚,発育集落数の少ないSSについ

ては,石油ベンジン菌液を作製せず,SSを直接 1%

小川培地に塗擦,培養した。 こうして4週間培養後,

小川培地に発育して来た,%核菌についてそれぞれ耐性

検査を行なった。

ー172一

昭40.3

図 1 実 験 群 の 構 成

-173-

圭 ÷ 第 1 過 第 2 過 罪 3 週 邦 4 週 第 5 遇 第 6 過

薬刺交互併用群 1234 SMFASTNHSⅠSMFASⅠNtiCSSMPASⅠNtiPZASMFASINtITH

◆ き梵 妻詔 謡≡監重き ・i芸妻芯 鞭詔

p ▼r1 .I_?.芯 ㌫㌫群三幸 鍔 妻蒜 妻;訂

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卓識芯那 覇芯 ●:l毒 ZT'77ーヽ廿ヽ◆†tナ竹†ナ叶 i:.ヱ▲ uWⅧL;3;3;3;評;3;3号鮒m ミ首位TITtJ= u=ulu

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川川日日 l=lllHl HIllrl=l旧 llⅢ= 川=LILHlIHl

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耐性検査は当研究室松島7)の方法に準 じて 行 なっ

た。即ち,菌集落の発育した1%小川培地に約 2mlの

石油ベンジンを加え,振遺 して,全集落より石油ベン

ジン菌液を作製 し,別の試験管にとってから更に石油

ベンジンの適当量を加えて, 0.15mg/mlの硫酸バ リ

ウム標準液と肉眼的に等 しい濁度になる様調製 した。

この菌液濃度は約 1mg/mlとなる。 この薗液に SS

を瞬時浸漬 して菌を付着させ,数秒後 SSの石油ベン

ジンが蒸発 してから,予め調製 した耐性培地に投入,

培養 した。

耐性培地は,表 1記載の濃度に薬剤を含む10%牛血

清加キルヒナ-培地である。

いずれの群 も SM,FAS,INHについての耐性検査

を行なうとともに, 図1の実験群番号 1と5とは SI

についての耐性を,2と6とは CS,3と7とは PZA,

4と8とは TH の耐性をも検査 した。

-174-

表1 各薬剤の耐性検査濃度

INH ! 1, 10

SI . 50,

CS 20,0-0-0-5-

10

5

10

判定は培養4過後まで毎週行なったが,ここでは2

遇後の成績をとった。判定基準は第 1篇1),第2篇2)

と同様,菌集落がSS表面の2/3以上を覆う時(肘),

2/3-1/3の時(≠),1/3以下の時(+)とした。 尚,

集落数50以下の場合はその数を記録した。

第 3章 実 験 成 練

耐性検査成績のうち,SM+PASと INH十一SI

との交互併用方式と, SM+PAS+INH+SI4

着同時併用方式との INH に対する耐性検査成

績を代表として表 2に示 した。 この表で,試験

管番号 1の列は,交互併用方式では SM 16γ/ml

十PAS 160γ/mlと INH 8γ/ml+SI50γ/ml

とを 1週間ずつ交互に作用させた菌株の,INH

に対する耐性検査成績であり,同時併用の方は

SM 16γ/ml,PAS160γ/ml,INH 8γ/ml,SI50

γ/ml の 4剤を同時に連続作用させた菌株の耐

性検査成績である。試験管番号 2の列は,試験

管番号 1のそれぞれ 1/2量の薬剤を作用させた

菌の耐性検査成績である。以下同様に第N番の

列は,交互併用,同時併用 ともにそれぞれの第

表 2 SM+PAS字INH+SI

京大結研紀要 第13巻 第 2号

1管目の 1/2m~1 量の薬剤を作用させた菌株の

耐性検査成績である。

薬剤作用によって殺菌され, 1筒の菌集落 も

得 られなかったため,耐性検査が出来なかったl

ものを×印で示 し,菌集落の発育をみたが耐性

検査を行なわなかったものを○印で示 した。耐

性検査に於て,少数の集落が発育 したものはそ

の集落数を記載 したが,薬剤の種類または濃度

によっては,対照株にも少数の集落の発育を認

めた場合があるので,これを直ちに耐性発現 と

認めることは出来ない。 しか し,対照株の耐性

検査成績で薬剤含有培地に(+)以上の発育を示

したものはなかったので,本研究では,薬剤含

有培地に(+)以上の発育を認めた場合を,その

薬剤濃度に於ける耐性ありとした。

上記基準に従 って,各交互併用 と同時併用 と

の各薬剤別の耐性検査成績を簡略化 して表現 し

たのが図 2- 5である。図中,作用 SM濃度の

欄に記 した数字は,その試験管番号の菌が,交

互併用或は同時併用の期間中,交互併用では隔

週に,同時併用では連続 して,その濃度の SM

の作用を受けたことを示す。他の薬剤作用濃度

についても全 く同様である。

第1節 各薬剤に対する交互併用方式及び同時

併用方式の耐性上昇 (図2-5)

SM 耐性

どの交互併用,同時併用に於ても,SM IOγ,

100γに対する耐性はみられなかった。 即ち,

SM 耐性の上昇阻止に関 しては,両併用方式は

殆んど同等の効果を有すると思われる。

交互併用及び SM+FAS+INH+SI4者同時併用の INH耐性検査成績

× :殺菌効果を認め耐性検査不能 (⊃:耐性検査を行わず

175

昭40.3

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IS・HNH..+~SVd・MS

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図 3 SM・PAS≠INH・CS交互併用と SM・PAS・INH・CS4者同時併用とに於ける耐性検査成績

哩 :耐性獲得あり

欄 ‥耐性獲得なし

区1:殺菌 されたため~~ 耐性検査不能

匝 :耐性検査せず

画 ‥雑菌汚染

検 査 濃 度作用薬剤濃度

いずれもγ/ml

検作

1 162 8 F××××.× ×× 160 ×80 ×匡匡××× 8×××昏藍8××× × × ×

× ×× ×× ×llX+×× 4 ×l4×】×× × × ×

3 4 × 40 × >く ××× 2 ××2×××× × × ×

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昭40.3

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京大結研紀要 第13巻 第 2号

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178

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昭40.3

PAS 耐性

交互併用方式ではどの併用 も PASlγ,lo†,

100γに対す る耐性は認め られなか ったが,同時

併用では SM・PAS・INH・SI4着同時併用の第

10管に於てのみ PASlつ′の耐性が認め られた。

INH 耐性

SM,PAS,INH,SIの組合せ (凶 2)に於て

は,交互併用には INHlγ,10γに対す る耐性は

認め られなかったが,同時併用の第 9:F;:・にINH

IOγの耐性を認めた。

SM,PAS,INH,CSa)組合せ (図 3)では,

交互併用の第10管に INHlγの耐性を認め,同

時併用では 1γ,10γに対す る耐性を認めなか っ

た 。

SM,PAS,INH,PZA の組合せ(図 4)では,

交互併用, 同時併用 ともに INH lγ,10γの耐

性を認めなか った。

SM,PAS,INH,TH c/)組合せ(図 5)では,

交互併用には耐性を認めず,同時併用の第10円

に INH IOγの耐性を認めた。

SI耐性 (図 2)

交互併用,同時併用 とも SI50γ,looヮ,500γ

に対す る耐性は認め られなか った。

CS耐性 (図 3)

これ も,交互併用,同時併用 ともに CS20γ,

50γ,100γ に対す る耐性は認め られなか った。

PZA 耐性 (図 4)

交互併用 には PZAIOOγ,500γに対す る耐性

は認められなか ったが,同時併用では第 9,10

管に PZA IOOγの耐性を認めた。

TH 耐性 (図 5)

交互併用 に於ては,第 8,12,14,16,180)

各管に 1γの耐性を,第10管には 5γの耐性を

認めたが,同時併用では第 9,10管に 1γ の耐

性を認めたのみであ った。

第 4章 考 按

第 1節 交互併用と同時併用との耐性

上昇阻止効果の比較考察

本実験の交互併用 と同時併用 との耐性上昇を

各薬剤別 にみて行 くと,PAS耐性 に関 しては,

SM,FAS,INH,SIの組ノ合せによる同時併用に

- 179-

於て第10・'E封こPASlry耐性を認めたほかは,

各交互併用,同時併用に PAS耐性はみ られな

かった。全体 として,PAS耐性上昇阻止作用は

交互併用 も同時併用 もほとん ど同程度であると

いって も差支えないであろう。

INH耐性上昇阻止効果については,I-,__二C/)

併用で耐性上昇を認めたもの もあ ったが,交互

併用 と同時併用 との閥に著明な差がない 。

PZA 耐性 についてみ ると, 同時併用の方に

100ry耐性がみ られたが,SSCに於ける PZA oj

MIC は,菌液濃度 1mg/mlの場合 62.5γ/m18)

とされてい るので,確実 に耐性上昇 といい得 る

かどうか疑わ しい 。 この場合 も交互併用,同時

併用の問に著明な差がないとい うべ き で あ ろ

う 。

TH について も, 1γ 耐性が交互併用 に多く

みられたが, TH a)SSC に於ける MIC8)は

0.625γ/ml程度であ るか ら,THlγ耐性を耐性

上昇 と考え るには無理があるか も知れない。 そ

こで TH 5γ耐性以上を耐性上昇 と考え ると,

耐性上昇の認められたのは交互併用の第10円 の

みで,交互併用,同時併用間に著明な差がない。

また,SM,SI及び CS については,交互併

捕,同時併用 ともに耐性上昇を認めず, これ ら

薬剤の耐性 上昇阻止 には,両併用方式は殆ん ど

同程度o)効果を有す るものと思われ る。

以上を総括す ると,二,三の併用方式に於て

耐性上昇を認めたものもあったが,全体 として

交互併用又は同時併用のどちらかに耐性上昇が

著 しいとい う傾向はみ られなか った。 つまりこ

の実験範囲内では交互併用方式その ものが耐性

上昇阻止効果に於て同時併用に勝 るとはいい難

く,む しろ両者はほとん ど同程度の効果を有す

ると解 した方が適 当であろう。

本実験では,各併用 とも8週間作用後の耐性

上昇を検討 し,INH,PAS,PZA,THの 4種の

薬剤 に対す る耐性を認めたが,SM,SI及び CS

には両併用 とも殆んど耐性上昇を認めなか った

のである。 SI,CSは元来耐性の上昇 しに くい

薬剤であるが12),SM は比較的耐性の上昇 し易

い薬剤であ るか ら,その耐性が上昇 しなか った

刷 ま,薬剤 作用期間が短かか ったためか も知れ

- 180-

ない。 交互併用 と同時併用 との耐性上昇阻止効

果の比較を更 に確実 にす るためにも, もっと薬

剤作用期間を長 くした場合 も検討すべきであ る

が,薬剤作用を長期にわたって行な うと,薬剤

濃度の低い側の SSの菌は,発育過剰 となって

培地中に脱落す るおそれがあ る。 この点 に於け

る制約か ら8週間 とい う薬剤作用期間は,著者

の経験上,ある程度の余裕を見込んでの最長限

度である。

第 2節 耐性上昇と発育阻止漉度及び

殺昔濃度との関係

本篇で検討 した薬剤交互併用及び同時併用の

耐性上昇 と, 第 1篇1),第 2篇2) で述べた発育

阻止効果及び殺菌効果 との関係をみ るために,

図 6- 9に, これ らの関係を簡略化 して 示 し

た。尚,SM,PAS,SI,CSについては,見 るべ

き耐性上昇を認めなか ったので省略 した。

図 6 SM・PA S等±INH・SI交互併用と,

SM・PAS・INH・SI4者同時併用と

に於ける発育阻止効果及び殺菌効果

と INH耐性獲得との関係(薬剤濃度はいずれもγ/ml)

試験管番号

1 8 × × × ×

2 4 × × × ×

3 2 × × × ×

4 1 × × × ×

5 0.5 × × × ×

6 0.25 × ×

7 0.125 QQ × ×

8 0.0625 × ×

9 0.0313 ○910 0.0156±◆◆◆ll 0.0078 QQ,+ ◆-.-.-12 9

li 0.00195 千Q◆◆÷

」旦 _15 llllリ●0.00049 千Q◆享

16 0.00024 ≡17 0.00012 ○

18 0.00006. -

耐性獲得

発育阻止作用なし

漸 :不完全発育一 阻止,殺菌

作用なし

r6l:不完全発育- 阻止,不完

全殺菌

亘 :完全発育阻

止,不完全殺菌

_rg :完全殺菌

同 :耐性検査せ- ず

[亘 :雑菌汚染

京大結研紀要 第13巻 第2号

図7 SM・PAS-+(INH・CS交互併 用と,SM・PAS・INH・CS4者同時 併用とに於ける発育阻止効果及び殺 菌効果

とINH耐性獲得との関係(薬剤濃度はいずれも γ/ml)

作用INH波㌫ 讐;1

犀筈 E!:耐性獲得i-1≡巨発育閉止作

10¶ 用なし__画 ‥否琴全重要

1

234

5

6

7

_8ー9

10

駐I_L2_13

14

15

16

17

18

」旦ー20

0.0625

0.0313

3.0156

0.0078

0.001950.00098

0.00049

0.00024

0.00012

0.000060.00003

×

- 阻止,殺菌作用なし

「ij:完全発育阻竺 " 止,不完全× 殺菌

訂 L旦 :完全殺菌

訂 岨 ‥撃性検査せ

[亘 :雑菌汚染

この図で薬剤の菌に対す る作用を,次の如 く

分類 して表現 した。但 し,以下の文中 「ほぼ同

程度の菌集落数」 とは,集落の発育程度を示す

記号(+),(小一),(・肝)に於て差がない程度の菌

集落数を意味す る。

発育阻止作用については,薬剤作用終 了時 ま

で全 く菌集落を認めなか ったものを完全発育阻

止 とし,各判定時 に対照の薬斉帽巨含有培地で培

養 した SSと,ほぼ同程度の集落の発育をみた

ものを発育阻止作用な しとした。 この両者の中

間にあたるものを不完全発育阻止 とした。殺菌

作用については,最終判定時に全 く集落を認め

なか った 「完全殺菌」, 対憎 より明らかに集落

数の少ない 「不完全殺菌」, ,対Il弱とほぼ同程度

の集落数を認めた 「殺菌作用な し」の 3つに分

けた。

この発育阻止作用 と殺菌作用 との組合せで

昭40.3

(1) 光背阻」L作用な し,(勿論殺菌作用な し)(-I_-I-2)

(2) 不完全発育阻」l二で殺菌作用なし (財)

(3) 不完全発育阻止で不完全殺菌 (田)

(4) 完全糞百阻 止で殺菌作用な し

(6) 完全殺菌 (区f)などの作用形式が考えられるが,(4)の完全発育

阻止で殺菌作用なしという例は,本実験ではみ

られなかった。

以上の如 き種々の薬剤作用をうけた結果,耐

性上昇が認められたものを,太い枠で囲んで示

した。 (⊂J)

図6-9によると,耐性上昇は大体に於て,

不完全殺菌作用を示す濃度 (図の 田 及び 享)

と,殺菌作用はないが,不完全な発育阻止作用

を示す濃度 (図の趣)のあたりにみられたo

かなりの数の菌が殺菌される様な 薬 剤 濃 度

---181-

で,その作i射こ耐えて生き洩った菌,及びほと

んど殺菌はされなかったが,ある程度の発育阻

止作用を受けた菌が耐性上昇を示 したのであっ

て,これは地目9)が薬剤の単独作用, 2着, 3

者併用でみたのと同様の成績で,内藤10,ll)のい

う薬剤作用に抗 して増殖 した蘭が耐性化すると

いう現象がここにも見られたので あ る。 しか

し, 中にはこの様な薬剤作用に耐えて生き残 っ

た菌が,耐性を示さない場合もあった.一例を

挙げると,図 9の試験管番号 4の交互併用の菌

は, 8週間にわたって SM,PAS,INH,THの

作用をうげ, しかもその INHの作用濃度は 1ry

であるから,これに耐えて生き残った菌が INH

lγに耐性を示さなかったのは奇異の感を 抱 か

せるが,この説明は今後の検討に侯たねばなら

ない。

図 8 SM・PAS三三INH・PZA交互併用と,SM・PAS・INH・PZA 4者同時併用とに於ける発育阻止効果及び殺菌効果と INH耐性獲得及び PZA耐性獲得との関係

(薬剤濃度はいずれもγ/ml)

試 INH

蒜 ?二二、-壁讐 式庵 烹耐産\、・、検査香

号 作 用 \\濃度INH濃度 \\-㌔

PZA

_∴ ・二\

1 忘tti作用 \二 撃震度PZA濃度、\\\

3≡ 2 × × × × ㌔7.5 × × × ×

45 10.5 1× × × ×表 3.75 × × × ×× × ×- I× i.875 × × × ×

67 0.25 ×× × × 0.938 】× × × ×

8 0.0625 ■●●●× × 0234 ×

9, 0.0313 二 ∵ 0.1170.059 /oLQ

10 0.015611 0.007812. 0.0039ー__些__ 0.00195.哩_ 0.0009815 0.00049

ご ÷ 0.029 :ニQラ 百 0.015 ∵ 育

百LJ 0.0073 ㍗ 萱○ C 0.0037 ○ 二一

千守 0.0018 -op ㍗

4年ー 0.0002417 0.00012 ⊂ミ÷ 0.0009 ・㌻工1

≡■ 0.0005 主 主 ≡ 〒18 0.00006 ∵ ↓ 0.0002

19 0.00003 , 0.0001

.◆∴

J

:耐性獲得

:発育阻止作用なし

:不完全発育阻止,殺菌作用なし

:完全発育阻止,不完全殺菌

:完全殺菌

:耐性検査せず

- 182- 京大結研紀要 第13巻 第2号

図 9 SM・PAS-+tINH・TH 交互併用 と,SM・PAS・INH・TH 4者同時併用 とに於ける

発育阻止効果及び殺菌効果 と INH 耐性獲得及び TH 耐性獲得 との関係

(薬剤濃度はいずれ も γ/ml)

互!同時⊆ :耐性獲得1≡I:発育阻止作用なし

併用 漸 :不完全発育阻止,殺菌作用なし

「~1~弓~

1 8 × × × × 8 × × × × × ×

2 4 × × × × 4 × × × × × ×

3 2 × × × × 2 × × × × × ×

4 1 × × 1 × × ×

5 0.5 ㍉l÷ × × 0.5 丁百∵ × × ×

6 0.25 × × 0.25 × × ×

7 0.125 QQ × × 0.125 ↓ .育 育 × × ×

8 0.0625 × × 0.0625 × × ×

9 0.0313 萱○ 0.0313 ○○○●●」旦 0.0156 ◆ ◇ 0.0156 ◆ ◇ 杏 垂

ー_旦L 0.0078 QQ◆萱◆-Q 0.0078 ⊇○○◆◆±」旦_ 0.0039・.-I-I--- 0.0039 育○○

13 0.00195 Q ⊇≡ ±◆萱 0.00195 ○○、コ◆i◆

【. Q lm■●● 育llll■● - ○15 0.00049 ○ ◆ ± 0.00049 f⊃育◆◆ ◆

≡ Q ○◆ 育看 ≡17 0.00012 萱 ± 0.00012 ○ ◆享享18 0.00006 ▲.-.ll.・.・. 0.00006 亡19 0.00003

20 0 ≡ l 0 E≡ 声

第 5章 結 論

著者の採用 した4種の交互併用方式は,薬剤

作用期間が 8週間という本実験の条件では,同

種薬剤の同時併用 とほぼ同程度の耐性上昇阻止

効果を示 した。

第 6章 全 篇 の 総 括

結核化学療法強化の趨勢は,多剤併用,大量

投与 という方向に 向っている様であるが, -

方,薬剤交互併用療法という強化策も提唱され

ている。著者は,結核化学療法の強化には,多

剤同時併用と交互併用 とのどちらの方式を採用

する方が有利であるかを明らかにするため,こ

の両方式の優劣を,シリコーンスライ ド培養法

を用いて試験管内で比較検討 した結果,次の成

績を得た。

L9J:不完全発育阻止,不完全殺菌

[]-完全発育阻止,不完全殺菌

[亘:完全殺菌

R3i:耐性検査せず

薬剤交互併用方式は 1, 2, 3篇で検討 した

結核菌発育阻止作用,殺菌作用,耐性上昇阻止

作用のいずれの面に於ても,同時併用方式より

劣るか,或はせいぜい同程度の効果 しか示さな

かった。

以上を総合 して考えると,結核化学療法の術

式を強化 しようとする場合,交互併用方式より

はむしろ同時併用方式の方がす ぐれているので

はないかと推定される。少な くとも本実験の範

囲ではその逆の成績を得 ることは出来なかった

のである。

副作用という点からみれば,各薬剤に休止期

間をお くことの出来る交互併用が有利な場合も

あろう。特に,現在いわゆる2次抗結核剤の範

暗に入れられている薬剤の中には,かなり強い

副 作用のため,継続投与が しば しば困難な薬剤

昭40.3

もあ り,またす ぐれた治療効果を もちなが ら,

副作用が強いため,臨床に繁用 されていない薬

剤 もあ る。 これ らを,その併用効果 と副作用 と

を勘案 して,交互併用 とい う方式で用い ること

は有力な方法で,今後検討の余地があ ると考え

られ る。

(潤筆に臨み御指導を賜った津久間博士に深甚の謝

意を表 します)

文 献

1)中井 :本論文第 1篇

2)中井 :本論文第 2篇

-183-

3)砂原 :結核研究の進歩,30号 :22,昭和36年

4)Middlebrook,Gり andYegian,D∴Amer.

Rev.Tuberc.,54:553,1946.

5)莱 :京大結研紀要,7-3増 1:461,昭和34年

6)Higashi,K.,etal∴ Am.Rev.Resp.Dis.,

85:392,1962.

7)松島 :京大結研紀要,8-1増 2:595,昭和34年

8)久世 :京大結研紀要,12:97,昭和39年

9)池田 :京大結研紀要,12:43,昭和38年

10)内藤 :日本医事薪幸払 No.1698:8,昭和31年

ll)内藤 :臨床病現 4:348,昭和31年

12)田中 :京大結研紀要,13:35,昭和39年