10
1 歯学科 4 年生講義,口腔生命科学各論 II,歯科放射線学 舌下・顎下・頸部の疾患の画像診断 担当:林 孝文 口腔領域に発生した炎症や腫瘍は、蜂窩織炎やリンパ節転移といった病態でしばしば頸 部へ進展する。口腔領域の診療医は、口腔領域と同様に、頸部についても解剖学的事項を 熟知する必要がある。 解剖学的には、口腔は気道消化管の最上部に位置し、中咽頭とは有郭乳頭・扁桃柱・軟 口蓋により区別される。ここには、舌の前方 3 分の 2 が含まれ、上方は口蓋・上顎歯槽突 起・上顎歯、外側は頬、後方は口蓋舌弓・口蓋咽頭弓、下方は口底・下顎歯槽突起・下顎 歯、前方には口唇が存在している。口腔の表面全体は粘膜上皮に覆われており、小唾液腺 がその下に広く分布している。粘膜上皮は扁平上皮癌の発生母地となり、小唾液腺からは 良性・悪性の唾液腺腫瘍が発生する。 筋膜は骨や筋、神経、血管などの周囲に存在する結合組織が膜状になったものであり、 頸部では浅頸筋膜と深頸筋膜(浅葉、中葉、深葉)に大別される。筋膜間には疎性結合組 織で構成される筋膜隙が存在し、その部位により、舌骨上頸部、舌骨下頸部に大別される。 舌骨上頸部には、舌下隙、顎下隙、咀嚼筋隙、傍咽頭隙、咽頭粘膜隙、耳下腺隙がある。 また舌骨下頸部には臓側隙があり、さらに両者に共通して頸動脈隙、咽頭後隙、危険隙、 椎周囲隙がある。 画像上確認すべき隙としては、頬隙 buccal spacebuccinator space (BS)、咀嚼筋隙 masticator space (MS)、翼突下顎隙 pterygomandiular space (PMS)、舌下隙 sublingual space (SLS)、顎下隙 submandibular space (SMS)、傍咽頭隙 parapharyngeal space (PPS)咽頭後隙 retropharyngeal space (RPS)、耳下腺隙 parotid space (PS)、頸動脈隙 carotid space(CS)などがある。頬隙は、内側で頬筋、外側で大・小頬骨筋などの表情筋に境界され、 後方で咬筋や下顎骨、内・外側翼突筋や耳下腺に接する。舌下隙は、顎舌骨筋の上方で口 腔粘膜の下方、オトガイ舌筋とオトガイ舌骨筋の外側に位置し、舌下腺、顎下腺の一部と その導管(ワルトン管)、舌神経、舌下神経、舌動・静脈が含まれる。顎下隙(オトガイ下 隙を含む)は、顎舌骨筋の下方で舌骨の上方に位置し、顎下腺、顎二腹筋前腹、顔面動・ 静脈、顎下リンパ節・オトガイ下リンパ節が含まれ、後端部では、舌下隙や傍咽頭隙との 間の筋膜による境界が存在しない。傍咽頭隙は顔面深部に位置し、周囲に重要な多数の隙 が接しており、偏位状態から病変の由来を推定できる。前外側に接するのは咀嚼筋隙であ り、咬筋、側頭筋、内側・外側翼突筋、下歯槽神経・動脈・静脈、下顎枝などが含まれる。 この中にあり、下顎枝と内側・外側翼突筋との間の領域が翼突下顎隙である。後外側に接 するのは耳下腺隙であり、耳下腺、顔面神経、下顎後静脈、外頸動脈、耳下腺リンパ節な どが含まれる。後方に接するのは頸動脈隙であり、頸動脈鞘に包まれた頸動脈、内頸静脈、

歯学科 4 年生講義,口腔生命科学各論 IIradiology/edu/lecture/...1 歯学科4 年生講義,口腔生命科学各論II,歯科放射線学 舌下・顎下・頸部の疾患の画像診断

  • Upload
    others

  • View
    1

  • Download
    0

Embed Size (px)

Citation preview

Page 1: 歯学科 4 年生講義,口腔生命科学各論 IIradiology/edu/lecture/...1 歯学科4 年生講義,口腔生命科学各論II,歯科放射線学 舌下・顎下・頸部の疾患の画像診断

1

歯学科 4 年生講義,口腔生命科学各論 II,歯科放射線学

舌下・顎下・頸部の疾患の画像診断

担当:林 孝文

口腔領域に発生した炎症や腫瘍は、蜂窩織炎やリンパ節転移といった病態でしばしば頸

部へ進展する。口腔領域の診療医は、口腔領域と同様に、頸部についても解剖学的事項を

熟知する必要がある。

解剖学的には、口腔は気道消化管の最上部に位置し、中咽頭とは有郭乳頭・扁桃柱・軟

口蓋により区別される。ここには、舌の前方 3 分の 2 が含まれ、上方は口蓋・上顎歯槽突

起・上顎歯、外側は頬、後方は口蓋舌弓・口蓋咽頭弓、下方は口底・下顎歯槽突起・下顎

歯、前方には口唇が存在している。口腔の表面全体は粘膜上皮に覆われており、小唾液腺

がその下に広く分布している。粘膜上皮は扁平上皮癌の発生母地となり、小唾液腺からは

良性・悪性の唾液腺腫瘍が発生する。

筋膜は骨や筋、神経、血管などの周囲に存在する結合組織が膜状になったものであり、

頸部では浅頸筋膜と深頸筋膜(浅葉、中葉、深葉)に大別される。筋膜間には疎性結合組

織で構成される筋膜隙が存在し、その部位により、舌骨上頸部、舌骨下頸部に大別される。

舌骨上頸部には、舌下隙、顎下隙、咀嚼筋隙、傍咽頭隙、咽頭粘膜隙、耳下腺隙がある。

また舌骨下頸部には臓側隙があり、さらに両者に共通して頸動脈隙、咽頭後隙、危険隙、

椎周囲隙がある。

画像上確認すべき隙としては、頬隙 buccal space、 buccinator space (BS)、咀嚼筋隙

masticator space (MS)、翼突下顎隙 pterygomandiular space (PMS)、舌下隙 sublingual

space (SLS)、顎下隙 submandibular space (SMS)、傍咽頭隙 parapharyngeal space (PPS)、

咽頭後隙 retropharyngeal space (RPS)、耳下腺隙 parotid space (PS)、頸動脈隙 carotid

space(CS)などがある。頬隙は、内側で頬筋、外側で大・小頬骨筋などの表情筋に境界され、

後方で咬筋や下顎骨、内・外側翼突筋や耳下腺に接する。舌下隙は、顎舌骨筋の上方で口

腔粘膜の下方、オトガイ舌筋とオトガイ舌骨筋の外側に位置し、舌下腺、顎下腺の一部と

その導管(ワルトン管)、舌神経、舌下神経、舌動・静脈が含まれる。顎下隙(オトガイ下

隙を含む)は、顎舌骨筋の下方で舌骨の上方に位置し、顎下腺、顎二腹筋前腹、顔面動・

静脈、顎下リンパ節・オトガイ下リンパ節が含まれ、後端部では、舌下隙や傍咽頭隙との

間の筋膜による境界が存在しない。傍咽頭隙は顔面深部に位置し、周囲に重要な多数の隙

が接しており、偏位状態から病変の由来を推定できる。前外側に接するのは咀嚼筋隙であ

り、咬筋、側頭筋、内側・外側翼突筋、下歯槽神経・動脈・静脈、下顎枝などが含まれる。

この中にあり、下顎枝と内側・外側翼突筋との間の領域が翼突下顎隙である。後外側に接

するのは耳下腺隙であり、耳下腺、顔面神経、下顎後静脈、外頸動脈、耳下腺リンパ節な

どが含まれる。後方に接するのは頸動脈隙であり、頸動脈鞘に包まれた頸動脈、内頸静脈、

Page 2: 歯学科 4 年生講義,口腔生命科学各論 IIradiology/edu/lecture/...1 歯学科4 年生講義,口腔生命科学各論II,歯科放射線学 舌下・顎下・頸部の疾患の画像診断

2

舌咽・迷走・副・舌下神経、交感神経叢、リンパ節などが含まれるが、頸動脈分岐部より

も上方では頸動脈鞘は不完全もしくは欠如する。後内側に接するのは咽頭後隙であり、主

にリンパ節が含まれる。外側咽頭後リンパ節(Rouviere リンパ節)は口腔領域からの転移

が認められる場合がある。

筋群としては、舌骨上筋には顎二腹筋、顎舌骨筋、茎突舌骨筋、オトガイ舌骨筋が含ま

れ、舌骨下筋には胸骨舌骨筋、肩甲舌骨筋、胸骨甲状筋、甲状舌骨筋が含まれる。

頸部のリンパ節には、顎下リンパ節・オトガイ下リンパ節、深頸リンパ節外側群として

上・中・下内深頸(内頸静脈)リンパ節、副神経リンパ節、鎖骨上窩リンパ節が、正中群

としては喉頭前リンパ節、気管前リンパ節、咽頭後リンパ節などがあり、さらに耳下腺リ

ンパ節や浅頸部の前頸静脈リンパ節、外頸静脈リンパ節などが存在する。

画像診断の最大の目的は、炎症や腫瘍など病変の進展範囲の把握であり、断面画像によ

り軟組織の解剖学的な情報を得られる CT や MRI、超音波診断(US)が頻用される。炎症

の場合には、 CT が異物や石灰化物、歯や顎骨との関係を把握するのに有用だが、骨髄内

の炎症の評価は MRI が優れている。腫瘍の検出にも MRI が優れているが、石灰化や顎骨

の吸収を詳細に評価するために CT が必要となる場合も多い。CT・MRI ともに、進展範囲

の正確な評価のために、経静脈的造影が通常用いられる。US は、視野が限定され客観性に

劣るという欠点があるものの、簡便・非侵襲的で経済的という利点を有しており、唾液腺

や頸部リンパ節などの病変の検出に威力を発揮し、口腔内走査により腫瘍の深達度の評価

も可能である。また悪性腫瘍に対しては、PET(陽電子放射断層撮影法)が病期診断(リ

ンパ節転移・遠隔転移など)、悪性度診断、治療効果判定、再発診断などに利用され、放射

性医薬品として 18F-フルオロデオキシグルコース(18F-FDG)が頻用されている。

※画像診断で確認すべき解剖構造

a.骨組織:舌骨 HB,上顎洞 MA,下顎骨 MAN,上顎骨 MAX,下顎管 MC,下顎枝 MR

b.筋肉:顎二腹筋前腹 ADM,頬筋 BM,口角下制筋 DAO,オトガイ舌筋 GGM,オトガ

イ舌骨筋 GHM,舌骨舌筋 HGM,舌骨下帯状筋(胸骨舌骨筋,胸骨甲状筋,甲状舌骨筋)

ISM,上唇鼻翼挙筋 LAN,口角挙筋 LAO,頭長筋 LCA,頸長筋 LCO,上唇挙筋 LLS,

外側翼突筋 LPM,口蓋帆挙筋 LVP,オトガイ筋 MEM,顎舌骨筋 MHM,咬筋 MM,

内側翼突筋 MPM,大頬骨筋 MZM,鼻筋・口輪筋 NM/OOM,顎二腹筋後腹 PDM,広

頸筋 PM,胸鎖乳突筋 SCM,茎突舌筋 SGM,甲状軟骨 TC,側頭筋 TM,口蓋帆張筋

TVP

c.血管:上行咽頭動脈 APA,総頸動脈 CCA,外頸動脈 ECA,外頸静脈 EJV,顔面動脈

FA,顔面静脈 FV,内頸動脈 ICA,内頸静脈 IJV,内顎動脈 IMA,舌動脈 LA,下顎後

静脈 RMV

d.隙:頬隙 BS,頸動脈隙 CS,咀嚼筋隙 MS,翼突下顎隙 PMS,傍咽頭隙 PPS,耳下腺

隙 PS,舌下隙 SLS,顎下隙 SMS

Page 3: 歯学科 4 年生講義,口腔生命科学各論 IIradiology/edu/lecture/...1 歯学科4 年生講義,口腔生命科学各論II,歯科放射線学 舌下・顎下・頸部の疾患の画像診断

3

e.唾液腺:耳下腺 PG,舌下腺 SLG,顎下腺 SMG

f.リンパ節:中内深頸リンパ節 MIJN,上内深頸リンパ節 SIJN,顎下リンパ節 SMLN

g.その他の解剖構造:頬脂肪体 BF,喉頭蓋 EG,耳管咽頭口 ETO,下鼻甲介 INC,外側

咽頭陥凹(Rosenmüller 窩)LPR,舌中隔 LS,中咽頭 OP,舌 OT,耳下腺導管 PD,

口蓋扁桃 PT,上頸神経節 SCG,粘膜下脂肪層 SFL,軟口蓋 SP,耳管隆起 TT

LPM

TM

MA

MMINC

PG

LCA

TTTVP→

MZM↓

←ETO←LPR

←ICA←IJV

MR

LVP→

MPM→

RMV↑ECA→

IMA→

↓LLS

↓LAN

LPM

TM

MA

MMINC

PG

LCA

TTTVP→

MZM↓

←ETO←LPR

←ICA←IJV

MR

LVP→

MPM→

RMV↑ECA→

IMA→

↓LLS

↓LAN

LPMTM

MA

MMINC

PG

LCA

TTTVP→

MZM↓

←ETO←LPR

←ICA←IJV

MR

LVP→

MPM→

ECA→IMA→

↓LLS

↓LAN

RMV↑

LPMTM

MA

MMINC

PG

LCA

TTTVP→

MZM↓

←ETO←LPR

←ICA←IJV

MR

LVP→

MPM→

ECA→IMA→

↓LLS

↓LAN

RMV↑

下鼻道レベルの造影 CT 横断像・T1 強調 MR 横断像

MPMMM

PG

LCA

↓MZMFV→

←ICA←IJV

MR

↓ECA

PDM→

←BMPD↑

SP

RMV→

MA

OP

←APA

LLS↓

↓LAO

↓NM/OOM

MPMMM

PG

LCA

↓MZMFV→

←ICA←IJV

MR

↓ECA

PDM→

←BMPD↑

SP

RMV→

MA

OP

←APA

LLS↓

↓LAO

↓NM/OOM

MPMMM

PG

LCA←ICA

←IJV

MR

↓ECA

PDM→

←BMPD↑

SP

OP

RMV→

MAFV→↓MZM

←APA

LLS↓

↓LAO

↓NM/OOM

MPMMM

PG

LCA←ICA

←IJV

MR

↓ECA

PDM→

←BMPD↑

SP

OP

RMV→

MAFV→↓MZM

←APA

LLS↓

↓LAO

↓NM/OOM

上顎洞底レベルの造影 CT 横断像・T1 強調 MR 横断像

Page 4: 歯学科 4 年生講義,口腔生命科学各論 IIradiology/edu/lecture/...1 歯学科4 年生講義,口腔生命科学各論II,歯科放射線学 舌下・顎下・頸部の疾患の画像診断

4

MPMMM

PG

LCA→

FV↓

←ICA←IJV

MR

↓ECA

PDM→

SP

OP

OT

RMV→

MAX

←BM

PT

SGM→

←LAO

MPMMM

PG

LCA→

FV↓

←ICA←IJV

MR

↓ECA

PDM→

SP

OP

OT

RMV→

MAX

←BM

PT

SGM→

←LAO

MPM

MM

PG

LCA→←ICA

←IJV

MR

↓ECA

PDM→

SP

OP

OT

RMV→

MAX

PT

SGM→

FV↓ ←BM←LAO

MPM

MM

PG

LCA→←ICA

←IJV

MR

↓ECA

PDM→

SP

OP

OT

RMV→

MAX

PT

SGM→

FV↓ ←BM←LAO

上顎歯槽突起レベルの造影 CT 横断像・T1 強調 MR 横断像

SMG

←MM

SCM

←ICA←IJV

MAN

←ECA

OP

SGM→

HGM→

SIJN→

←MHM

RMV→ ←PDM

←BM

SCG→

←FA

←DAO

SFL→

SMG

←MM

SCM

←ICA←IJV

MAN

←ECA

OP

SGM→

HGM→

SIJN→

←MHM

RMV→ ←PDM

←BM

SCG→

←FA

←DAO

SFL→

SMG

←MM

SCM

←ICA←IJV

MAN

←ECA ←PDM

OP

SGM→

HGM→

SIJN→

←MHM

RMV→

←BM

SCG→

←FA

←DAO

SFL→

SMG

←MM

SCM

←ICA←IJV

MAN

←ECA ←PDM

OP

SGM→

HGM→

SIJN→

←MHM

RMV→

←BM

SCG→

←FA

←DAO

SFL→

下顎歯槽突起レベルの造影 CT 横断像・T1 強調 MR 横断像

SMG

SCM

←ICA←IJV

MAN

←ECAOP

HGM→

SIJN→

←MHM

←PDM

GGM←LS

SLG

SMLN→

←DAO

←EJV

←FA

←LA

SCG→

SMG

SCM

←ICA←IJV

MAN

←ECAOP

HGM→

SIJN→

←MHM

←PDM

GGM←LS

SLG

SMLN→

←DAO

←EJV

←FA

←LA

SCG→

SMG

SCM

←ICA←IJV

MAN

←ECAOP

HGM→

SIJN→

←MHM

←PDM

GGM

←LS

SLG

SMLN→ SGM→

←DAO

←EJV

←FA

SCG→

SMG

SCM

←ICA←IJV

MAN

←ECAOP

HGM→

SIJN→

←MHM

←PDM

GGM

←LS

SLG

SMLN→ SGM→

←DAO

←EJV

←FA

SCG→

口底レベルの造影 CT 横断像・T1 強調 MR 横断像

Page 5: 歯学科 4 年生講義,口腔生命科学各論 IIradiology/edu/lecture/...1 歯学科4 年生講義,口腔生命科学各論II,歯科放射線学 舌下・顎下・頸部の疾患の画像診断

5

SMG

SCM

←ICA←IJV

MAN

←ECA

MHM→

←PDM

GGMSLG

SMLN→

GHM

EGHB

←MEM

←DAO

←EJV

LCO

SMG

SCM

←ICA←IJV

MAN

←ECA

MHM→

←PDM

GGMSLG

SMLN→

GHM

EGHB

←MEM

←DAO

←EJV

LCO

SMG

SCM

←ICA←IJV

MAN

←ECA

←PDM

GGMSLG

SMLN→

GHM

EGHB

HB

←MEM

←DAO

←EJV

LCO

MHM→

SMG

SCM

←ICA←IJV

MAN

←ECA

←PDM

GGMSLG

SMLN→

GHM

EGHB

HB

←MEM

←DAO

←EJV

LCO

MHM→

顎下レベルの造影 CT 横断像・T1 強調 MR 横断像

SCM

←ICA←IJV

MAN

←ECA

ADM

HBISMEG

←EJV

PM→

SCM

←ICA←IJV

MAN

←ECA

ADM

HBISMEG

←EJV

PM→

SCM

←ICA←IJV

MAN

←ECA

ADM

HB

ISMEG

←EJV

PM→

SCM

←ICA←IJV

MAN

←ECA

ADM

HB

ISMEG

←EJV

PM→

オトガイ下レベルの造影 CT 横断像・T1 強調 MR 横断像

BS

MS

PS CS

←PMS

上顎歯槽突起レベルの T1 強調 MRI 横断像

Page 6: 歯学科 4 年生講義,口腔生命科学各論 IIradiology/edu/lecture/...1 歯学科4 年生講義,口腔生命科学各論II,歯科放射線学 舌下・顎下・頸部の疾患の画像診断

6

CS

SLS

SMS

口底レベルの T1 強調 MRI 横断像

←PMS

MS

SMS

PPS

T1 強調 MRI 冠状断像

※講義で呈示する予定の疾患について

・嚢胞性病変:ガマ腫,類皮・類表皮嚢胞,甲状舌管嚢胞,鰓嚢胞,粉瘤

・先天性・発育性病変:血管腫,リンパ管腫,異所性甲状腺

・良性腫瘍:神経鞘腫,脂肪腫,傍神経節腫

・リンパ節の疾患:リンパ節炎,リンパ節転移

Page 7: 歯学科 4 年生講義,口腔生命科学各論 IIradiology/edu/lecture/...1 歯学科4 年生講義,口腔生命科学各論II,歯科放射線学 舌下・顎下・頸部の疾患の画像診断

7

リンパ節の疾患

1)リンパ節の構造

リンパ節は免疫反応の場として、また生体内を循環するリンパ球の移動路として、生

体防御に重要な役割を有している。

リンパ節は通常、扁平な楕円体の形態であり、リンパ門(hilum)と呼ばれる陥凹を有す

る。主に膠原線維からなる被膜に包まれ、内部は被膜に近い皮質と門に近い髄質とに大別

される。さらに実質部分は、リンパ球が密集したリンパ髄と疎な網目状構造のリンパ洞に

大別され、リンパ髄は皮質では小節を、髄質では髄索を構成している。数本から数十本の

輸入リンパ管が被膜を貫き、リンパ洞へと合流する。リンパ洞には被膜直下の辺縁洞、髄

索の間に広がる髄洞とその間の中間洞がある。リンパ液はこれらを灌流してリンパ門へと

向かう。リンパ門からは 1 本から数本の輸出リンパ管が出ており、リンパ節に分布する血

管や神経も主としてこの門を経由する。

2)頸部リンパ節の解剖(分類)

頸部リンパ節の分類は、わが国では頭頸部癌取扱規約(2012 年 6 月)あるいは日本癌治

療学会リンパ節規約(2002 年 10 月)が用いられることが多い。また、頸部郭清範囲を基

本としたレベル分類(AJCC Cancer Staging Manual 8th Ed.,2017)も用いられている。

頸部リンパ節の分類

1.オトガイ下・顎下リンパ節

a. オトガイ下リンパ節

広頸筋と顎舌骨筋の間で下顎骨・舌骨・顎二腹筋に囲まれた部位のリンパ節

b. 顎下リンパ節

広頸筋と顎舌骨筋の間で下顎骨と顎二腹筋の前腹と後腹に囲まれた部位のリンパ節

2.深頸リンパ節-外側群-

a. 上内深頸リンパ節/上内頸静脈リンパ節

顎二腹筋の後腹の高さで内頸静脈周囲に存在するリンパ節(上限は顎二腹筋後腹の後端)

b. 中内深頸リンパ節/中内頸静脈リンパ節

肩甲舌骨筋上腹の高さで内頸静脈周囲に存在するリンパ節

c. 下内深頸リンパ節/下内頸静脈リンパ節

肩甲舌骨筋下腹の高さで内頸静脈周囲に存在するリンパ節

d. 副神経リンパ節

副神経に沿ったリンパ節で、僧帽筋前縁より前方にある

上方では内頸静脈リンパ節と区別ができない(その場合は内頸静脈リンパ節とする)

e. 鎖骨上窩リンパ節

Page 8: 歯学科 4 年生講義,口腔生命科学各論 IIradiology/edu/lecture/...1 歯学科4 年生講義,口腔生命科学各論II,歯科放射線学 舌下・顎下・頸部の疾患の画像診断

8

頸横静脈に沿うリンパ節であり、大・小鎖骨上窩にある

3.深頸リンパ節-正中群-

[前群] a. 喉頭前リンパ節 b. 甲状腺周囲リンパ節

c. 気管前リンパ節 d. 頸部気管傍リンパ節

[後群] a. 咽頭後リンパ節 b. 頸部食道傍リンパ節

4.耳下腺リンパ節 a. 浅耳下腺リンパ節 b. 深耳下腺リンパ節

5.浅頸リンパ節 a. 前頸静脈リンパ節 b. 外頸静脈リンパ節

レベル分類と頸部リンパ節分類の対応

Level I A オトガイ下リンパ節

Level I B 顎下リンパ節

Level II A 上内深頸/上内頸静脈リンパ節(前方)

Level II B 上内深頸/上内頸静脈リンパ節(後方)

Level III 中内深頸/中内頸静脈リンパ節

Level IV 下内深頸/下内頸静脈リンパ節

Level V A 副神経リンパ節

Level V B 鎖骨上窩リンパ節

癌治療学会リンパ節規約による頸部リンパ節分類

Page 9: 歯学科 4 年生講義,口腔生命科学各論 IIradiology/edu/lecture/...1 歯学科4 年生講義,口腔生命科学各論II,歯科放射線学 舌下・顎下・頸部の疾患の画像診断

9

レベル分類

3)頸部リンパ節の疾患

臨床的に最も代表的な病的所見は、リンパ節腫脹である。リンパ節腫脹は、その発生機

序から炎症性(感染性・反応性)と腫瘍性に大別できる。画像診断のみでこれらを確実に

鑑別することは困難だが、結核性リンパ節炎や転移リンパ節では、内部に石灰化が生じる

場合があり、画像診断上有益な情報となる。

1.炎症性(感染性・反応性)

・急性化膿性,亜急性壊死性,伝染性単核球症,その他のウィルス感染症

・猫引っかき病,トキソプラズマ症,梅毒性

・結核性,薬剤性,自己免疫性(関節リウマチ,全身性エリテマトーデスなど)

・サルコイドーシス

2.腫瘍性

・悪性リンパ腫,白血病

・悪性腫瘍のリンパ節転移

3.その他

・内分泌疾患,脂質代謝異常,IgG4 関連疾患

Page 10: 歯学科 4 年生講義,口腔生命科学各論 IIradiology/edu/lecture/...1 歯学科4 年生講義,口腔生命科学各論II,歯科放射線学 舌下・顎下・頸部の疾患の画像診断

10

4)頸部リンパ節の画像診断

リンパ節疾患に対する画像診断としては、CT、MRI、US、PET などが利用されている。

CT、MRI、US ともに、非転移リンパ節は扁平な楕円体の形態を呈し、リンパ門が認めら

れる場合が多い。リンパ節の実質部分は、造影 CT や造影 MRI では筋と同程度からやや強

い程度に造影され、T2 強調 MR 画像では比較的高信号を呈し、US ではほぼ均一な低エコ

ーとして描出される。リンパ門は、CT、MRI、US ともに、周囲と連続性のある脂肪組織

あるいは結合組織様の構造として認められる。

一般に画像上、短径(リンパ節を楕円体に模した場合の三軸径のうち最短のもの)10 mm

以上のリンパ節は、病的腫大像と判断されている。炎症性腫脹では、リンパ門や楕円形の

形態を残しつつ腫大する場合が多いのに対し、腫瘍性腫脹(転移を含めて)では、リンパ

門が消失し全体の形態が球体に近くなる場合が多い。特に内部が不均一化したり、周囲と

の境界が不明瞭となった場合には、転移リンパ節の可能性が高いとされている。ただし、

壊死性リンパ節炎や結核性リンパ節炎では転移リンパ節類似の所見を呈する場合がある点

には注意が必要である。また、悪性リンパ腫によるリンパ節腫脹では内部が均一な場合が

多いが、不均一な場合もある。

2019.11.29 版