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37第 62 巻 第 3 号(2018 年 3 月号)
特別企画
リチウムドープ法による� �リチウムイオンキャパシタの製作―�真空グローブボックスに収納可能な小型捲回治具とハンドル式コーターバーを使用した塗工機―
執 筆 者
大阪電気通信大学 客員教授/客員研究員 工学博士 臼田 昭司連絡先:[email protected](http://usuda-lab.info/)
リチウムイオンキャパシタの製作法は,企業では非公開であるため具体的な内容は知ることができない。また,特許の公開公報でも,製作例についてはわずかに垣間見ることができる程度である。市販のリチウムイオンキャパシタを入手し,充放電特性を評価することにより,その評価結果からリチウムイオンキャパシタの特徴を知ることができるが,製作にかかる中身までは推し量ることはできない。筆者らの研究室では,リチウムイオン電池の川上から川下に至るセルの製作を行ってきたが,これらの経験を基に新たにリチウムイオンキャパシタの製作に取り組んでいる。本稿では,研究室で実施しているリチウムイオンキャパシタの具体的な製作例について説明する。
38 機 械 設 計
特別企画
1�.リチウムイオンキャパシタの基本構成と特徴
リチウムイオンキャパシタの原理図を図1に示す。また,リチウムイオンキャパシタの構成材料をほかの 2種類の蓄電デバイスと比較したものを表1に示す。 リチウムイオンキャパシタの動作原理は次のようになる。(1)充電 充電時は,電解液中のリチウムイオン(Li+)が負極のグラファイト(炭素系材料)に吸蔵され,図 1に示すようにグラファイト内部に保有される状態になる。これをドープという。また,電解液中の陰イオン(アニオンという)である BF4-イオン(または PF4-イオン)が正極の活性炭にドープされる。このとき,正極である活性炭の界面ではBF4-イオンと正極のプラスイオンで蓄電機構である電気二重層を形成する。(2)放電 一方,放電時は,負極グラファイトから Li+イオンが電解液中に放出され,正極の活性炭から
BF4-イオン(またはPF4-イオン)が放出される。 リチウムイオンキャパシタは,従来の電気二重層キャパシタと比較して,以下のような特徴が挙げられる。 ・静電容量が大きくとれる ・セル電圧が大きくとれる ・エネルギー密度が大きい ・急速充放電が可能である ・高温サイクル特性に優れる ・耐久性,信頼性が高い ・自己放電が少ない ・安全性が高い
リチウムイオンキャパシタとほかの蓄電デバイスとの一般的な特性比較をしたものを表2に示す。
2�.リチウムイオンキャパシタの製作方法
リチウムイオンキャパシタの製法は負極のプリドープ方法により 2種類に大別される。集電体に負極活物質を塗工した負極にリチウムを事前にドープしておくことをプリドープという。負極にプリドープを施すことによりエネルギー密度の高い
図1 リチウムイオンキャパシタの動作原理図
Li+
Li+
Li+
Li+
Li+
-
--
--- -
-
+
+
++
+
+
+
- 出力
Liドープグラファイト 電解液 活性炭
リチウムイオン電池の反応 電気二重層
表1 蓄電デバイスの構成
種類 正極 電解液 負極
リチウムイオン電池 コバルト酸リチウム リチウム塩(LiBF4, LiPF6) グラファイト
電気二重層キャパシタ 活性炭 プロピレンカーボネート系 活性炭
リチウムイオンキャパシタ 活性炭 リチウム塩(LiBF4, LiPF6) リチウムがドープ可能な炭素材料
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特別企画リチウムドープ法によるリチウムイオンキャパシタの製作
キャパシタが実現できる。また,負極電位が低下してキャパシタの電圧を高くすることができる。 負極活物質を塗工した多孔構造の集電体(負極電極)にリチウム金属箔を対抗して設置する方法(孔開箔法または垂直ドープ法という,図 2)と製造時に非多孔構造の負極電極にリチウム金属箔を貼り付ける方法(貼付法または水平ドープ法という,図3)がある。
多孔構造の集電体にはエッティング箔,ロール成形箔,PF箔(ポリエチレン製マイクロフィルムを貼り付けた箔)の種類がある。多孔構造の集電体の例を図4に示す。 リチウム金属箔の負極電極への貼付法には筆者らが実施したニッケル金属箔による一体取り付け法や従来の合金法などがある。 プリドープの処理方法として,組立て後のセル
表2 蓄電デバイスの特性比較
項目 リチウムイオン電池 電気二重層キャパシタ リチウムイオンキャパシタ
最高使用温度 60℃ 60℃ 80℃
使用下限電圧 2.7 V なし 2.2 V
パワー密度 100~5000 W/L 1000~5000 W/L 5000 W/L
エネルギー密度 150~600 Wh/L 2~6 Wh/L 10 Wh/L
サイクル寿命 1000回 100万回(容量定価30%)
100万回以上(容量定価10%)
充電性能 充電に時間を要する 秒単位の充放電が可能 秒単位の充放電が可能
内部抵抗 高抵抗 低抵抗 低抵抗
寿命 短寿命 長寿命 長寿命
安全性 発熱・発火 安全 安全
リチウムドープ
リチウムドープリチウム金属
セパレータ
セパレータ
セパレータ
正極活物質
正極活物質
負極活物質リチウム金属
集電体(負電極)負極活物質
集電体(正電極)
正極活物質
多孔性集電体(負電極)
負極活物質
セパレータリチウム箔金属Li+
プレドープ
多孔集電体(正電極)
図2 孔開箔法のイメージ
図3 貼付法のイメージ
40 機 械 設 計
特別企画
を 60℃前後の恒温室中で長時間保温することによりリチウム金属箔からリチウムイオンが溶出し,電解液中を移動して負極活物質に吸蔵される。孔開箔法では,気孔率が 30~50%の多孔性電極を用いているので,リチウムイオンは孔を通過してスムーズに移動することができる。 孔開箔法はセルを積み上げていく積層方式のセルに適しており,貼付法はセル製造時にリチウム箔を負極電極に貼り付ける方法なので捲回方式に適している。研究レベルの捲回治具の製作例については「6.小型捲回治具の製作」で説明する。 正極電極シートの製作(正極活物質の塗工)は,活性炭をバインダーと混合し,スラリー化したものをアルミニウム箔に塗布,乾燥処理(ベーキング)して仕上げる。負極電極シートの製作(負極活物質の塗工)は,リチウムイオン電池と同じ炭
素材であるグラファイトを使う。正極と同じようにバインダーと混合し,スラリー化したものを集電体である銅箔に塗布,乾燥処理して仕上げる。その後,タブ付き電極リードをスポット溶接によりそれぞれの電極シートに取り付ける。塗工治具の製作例については「7.半自動塗工機の製作」で説明する。 次に,アルミラミネートの収納ケースに収める電極体を組み立てる。電極体の製法にはプリドープの方法により捲回方式と積層方式がある。いずれの方式もセパレータで正負電極およびリチウム金属箔を絶縁するサンドイッチ構成で組み立てる。 最後に,収納ケースに電解液を注入した後,注入口を封止してセルとして仕上げる。その後,定温乾燥器に入れプリドープ処理を行い,リチウムイオンキャパシタとして完成する。
図4 多孔構造の集電体
拡大
(左:アルミ箔厚み15μm,孔直径100μφ,孔ピッチ0.4 mm,右:銅箔厚み10μm,孔直径100μφ,孔ピッチ0.4 mm)
(a)正負極の電極シート
(b)正極シートに活物質を両面塗工
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特別企画リチウムドープ法によるリチウムイオンキャパシタの製作
3.リチウムイオンキャパシタの製作例
筆者らの研究室では水平ドープ法を採用した。すなわち,リチウム金属箔を所定のサイズにカットし,これを負極シートの所定の位置に貼り付けた後,セル構造として積層方式(試作 A)と捲回方式(試作B)の2種類を製作した。(1)正負極シートの仕様 使用した正極,負極シートの基本仕様を表3に,電極シートの形状を図5に示す。 試作に使用する正負極シートのサイズは,試作Aの場合は正負極ともに50 mm幅×85 mm長さに,試作 Bの場合は,正極は63 mm幅×240 mm長さ,負極は75 mm幅×240 mm長さにカットした(図6)。また,負極シートの両端の非塗工面は NMP 溶液を用いて塗工面の両端を指定の幅に剥離した。(2)リチウム金属のカッティング処理 リチウム金属(Lithium Metal,原子番号 3,原子量 6.941,元素記号 Li)はアルカリ金属元素の 1つで白銀色の軟らかい元素である。すべての金属元素の中で最も軽く(比重 0.5),比熱容量は全固体元素中で最も高い。常態は安定であるが,化学的にきわめて活性が強く,室温でも大気中の水分と反応し灰白色に変色してしまうので,空気中では速やかに作業することが必要となる。 金属箔はコイル状に捲きとられ,不活性ガス雰
囲気でパックされた状態で出荷される。これらのことを十分配慮し,水分に触れないように,負極シートに貼り付けるリチウム金属のカッティングの作業は,アルゴンガス置換の不活性ガス雰囲気中の真空グローブボックス内で行った。使用したリチウム金属箔は,圧延加工の 0.1 mm 厚×44 mm幅×100 cmを使用した。 リチウム金属箔のカッティングサイズは,試作Aの場合は10 mm幅×35 mm長さで,試作Bの場合は 8 mm幅×45 mm長さと 8 mm幅×35 mm長さの 2種類とした。グローブボックス内のカッティング作業を図7に示す。(3)キャパシタ試作Aの製作 片面塗工の負極シートの非塗工面に,カットしたリチウム金属箔を長手方向両端に電極テープで貼り付けて固定し,片方の端部にタブ付き電極リードをスポット溶接した。 リチウム金属箔と電極リードの取り付けイメージを図8に示す.正極シートは両面塗工したものを用い,それぞれ 4枚ずつ製作し,図 9に示すようにダブルの積層方式の電極体を製作した。2 枚の負極シートは裏面(銅箔)同士が接触するように重ね,リチウム金属からのドーピングが塗工面であるグラファイトに効率よく行われるように配置した。これは負極シートを片面塗工にした理由である。また,2 枚の負極シートと正極シートは
表3 正負電極シートの仕様
項目 活物質 塗工条件単位μm
集電体 サイズ 非コート面総厚 塗工厚 集電体厚
正極シート 活性炭 両面 18 2 16 アルミ箔 幅26 cm,ロール長80 m 両サイズ2 cm
負極シート グラファイト 片面 60 50 10 銅箔 24×20 cm なし
銅箔(裏面)
(a)正極シート (b)負極シート
活物質面
図5 正負電極シート
42 機 械 設 計
特別企画
互いにショートしないようにセパレータを挟みサンドイッチ構造とした。このようにして電極体が製作される。 積層方式の電極体が完成した後に,定尺のアルミラミネートシートから必要サイズを切り出し,ガスポットを確保できるように折り曲げて製作した収納容器(70 mm×140 mm×5 mm厚み)に電極体をセットしてセルとして仕上げた。電解液の注
入量は約10 mLとした。正負電極シート製作からリチウムイオン金属を貼り付け,積層方式のセル製作までの具体例を図10に示す。(4)キャパシタ試作Bの製作 片面塗工の負極シートの両端の非塗工面にそれぞれ 4個のリチウム金属片を取り付ける負極構造とし,セパレータを介してこの負極シートと両面塗工の正極シートが重なるように数回捲いていく
図6 試作AとBの正負電極シートのサイズ(単位:mm)
塗工面
(a)試作Aの正負電極シート(左:負極,右:正極)
非塗工面 非塗工面
10
85
5050
85
10
(b)試作Bの正負電極シート(上:負極,下:正極)
240
240
非塗工面
非塗工面
非塗工面
塗工面
5151
1212
1275
63
(a)リチウム金属箔 (b)ロールカッタでカット
図7 グローブボックス内のリチウム金属箔のカット
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特別企画リチウムドープ法によるリチウムイオンキャパシタの製作
構造の捲回方式でキャパシタを製作する。リチウム金属箔とタブ付き電極リードの取り付けイメージを図11に示す。 リチウム金属箔の取り付けは,新たに製作した穴あきニッケル箔(10 mm 幅×50 mm 長さ×0.1 mm厚み,開口率:約30%,図12)で上部から押さえるようにスポット溶接して固定した。このようにして製作した負極シートを図13に示す。 次に,正負極シートの塗工面が合うようにセパレータを介して両手で数回捲きながら電極体として仕上げていく(図 14)。最後に,リチウムイオン電池用ポーチ型アルミラミネート収納容器(60 mm×100 mm×5 mm 厚)に電極体をセットし,電解液を注入してセルとして仕上げる。電解液の
注入量は試作Aと同程度の約10 mLとした。
4�.試作リチウムイオンキャパシタの充放電評価
試作AとBについて,充放電評価を実施し,リチウムイオンキャパシタとしての基本特性について評価した。製作したキャパシタセルは,室温中に4日間放置しプリドープしたものである。 試作 Aの 40 mA定電流定電圧(CCCV)充電時の充電特性を図 15 に示す。充電電圧の経時特性は,リチウムイオン電池の非線形の電圧特性と異なり,大略直線形状で漸増する。また,充電電流の経時特性は,キャパシタの満充電到達までは定電流充電し,到達後は漸次減少する。
タブ付き電極リード
塗工面
(a)負極シート (b)正極シート
非塗工面
電極テープ
電極テープ
リチウム金属箔
タブ付き電極リード
塗工面
非塗工面
図8 リチウム金属箔と電極リードの取り付けイメージ
セパレータ
セパレータ
負極活性層
負極活性層
正極活性層
正極活性層
リチウム金属箔
正極活性層
集電体(銅箔)
集電体(銅箔)
集電体(アルミ箔)
図9 ダブルの積層タイプのセル構造