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PC プレス 2021 / Jan. vol.024 006 p.24 仕事場拝見 007 p.27 [お天気雑記帳] 高松城水攻め 008 p.28 PCニュース~北から南から~ 社会を支えてくださるすべての方々に 感謝を申し上げます 新型コロナウイルス感染症のリスクと闘いながら、 命と暮らしを守ってくださっているすべての方々へ 心から感謝を申し上げます。 005 p.22 北海道大学大学院 工学研究院土木工学部門 環境機能マテリアル工学研究室 [研究・教育の現場から] 004 p.20 [こんなところにPCが!] ヨナハ丘の上病院 003 p.16 甑はひとつ [明日を築くプロジェクトの風景] 001 p.1 国内外におけるPC技術の現状と展望 [特別企画]PC建協業務報告会 特別講演 002 p.10 プレストレストコンクリート技術者の必携書 - PCアシスタント(2020 年版)発刊 -

社会を支えてくださるすべての方々に 感謝を申し上げます...世界にはACI(米国コンクリー まずひとつ目、建設基準のお話で①基準のガラパゴス化日本が直面する4つの課題いてお話をいたします。

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Page 1: 社会を支えてくださるすべての方々に 感謝を申し上げます...世界にはACI(米国コンクリー まずひとつ目、建設基準のお話で①基準のガラパゴス化日本が直面する4つの課題いてお話をいたします。

表紙のイラスト

甑大橋

「明日を築くプロジェクトの風景」で紹介し

た甑大橋をイラストとして描いたものです。

PCプレス2021 / Jan.vol.024

♯006 p.24仕事場拝見

♯007 p.27[お天気雑記帳] 高松城水攻め

♯008 p.28PCニュース~北から南から~

社会を支えてくださるすべての方々に感謝を申し上げます

新型コロナウイルス感染症のリスクと闘いながら、命と暮らしを守ってくださっているすべての方々へ

心から感謝を申し上げます。

♯005 p.22北海道大学大学院 工学研究院土木工学部門環境機能マテリアル工学研究室

[研究・教育の現場から]

♯004 p.20[こんなところにPCが!] ヨナハ丘の上病院

♯003 p.16甑はひとつ[明日を築くプロジェクトの風景]

♯001 p.1国内外におけるPC技術の現状と展望[特別企画]PC建協業務報告会 特別講演

♯002 p.10プレストレストコンクリート技術者の必携書- PCアシスタント(2020 年版)発刊 -

Page 2: 社会を支えてくださるすべての方々に 感謝を申し上げます...世界にはACI(米国コンクリー まずひとつ目、建設基準のお話で①基準のガラパゴス化日本が直面する4つの課題いてお話をいたします。

▶ 西湘バイパス小田原ブルーウェイブリッジ神奈川県小田原市の小田原漁港の上に架設された世界初のPCエクストラドーズド橋。1994年土木学会田中賞、PC技術協会賞、1998年FIP賞を受賞。

国内外における

PC技術の現状と展望

令和2年度 第 10 回PC建協業務報告会特別講演

三井住友建設株式会社 執行役員副社長

春日 昭夫 氏講師

令和3年1月、三井住友建設株式会社 副社長の春日昭夫氏が、コンクリートに関する世界最大の組織、国際コンクリート連合(fib)の会長に欧米豪以外で初めて就任されました。今回は令和2年度第10回PC建協業務報告会(令和2年7月16日)において「国内外におけるPC技術の現状と展望」と題し、ご講演いただいた内容をご紹介します。

特別企画

01  PCプレス 2021 / Jan. / Vol.024

PRESTRESSED CONCRETE CONTRACTORS ASSOCIATION

Page 3: 社会を支えてくださるすべての方々に 感謝を申し上げます...世界にはACI(米国コンクリー まずひとつ目、建設基準のお話で①基準のガラパゴス化日本が直面する4つの課題いてお話をいたします。

0

5,000

10,000

15,000

20,000

90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 00 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19

(1990 2019 )

大洋州東欧欧州中南米北米アフリカ中東・北アフリカアジア

20,000

15,000

10,000

5,000

0

(億円)海外建設受注の地域別推移(1990年度~2019年度)

20,609

18,515

19,375

15,464

16,82516,029

18,153

10,347

6,969

9,072

13,503

11,828

10,617

11,710

16,48416,813

15,926

12,765

9,663

7,297

10,000

8,0837,584

8,982

12,832

10,48210,639

8,531 8,6019,357

PC プレス 2021 / Jan. / Vol.024  02

 

ご紹介いただきました春日です。

本日は、「国内外におけるPC技術の

現状と展望」と題し、日本が直面する

課題、世界の動き、将来の方向性につ

いてお話をいたします。

日本が直面する4つの課題

①基準のガラパゴス化

 

まずひとつ目、建設基準のお話で

す。世界にはACI(米国コンクリー

ト工学協会)のビルディングコード、

CEN(欧州標準化委員会)のユーロ

コード、fib(国際コンクリート連

合)のモデルコードがあります。特に

ACIコードとユーロコードが、世

界を席巻しています。これらのコー

ドの特長はいろいろな構造が含まれ

ている点で、建築、土木、すべての分

野に対応しています。一方、日本では

学協会が土木学会、日本建築学会、P

C工学会などに分かれており、学会

各々で独自の基準を構築しています。

この結果、世界各地で日本のODA

(政府開発援助)で道路や橋が建設さ

環境分野が期待されます。先ほどお

話したように、気候変動に対する世

界の意識が先鋭化していますので、

それに対応できない場合は非常に重

いペナルティ、あるいは市場から淘

汰される社会が近づいています。こ

のような社会が近づいているからこ

そ、サステナビリティを基本にした

低炭素技術への取り組みアクション

を起こし、世の中にアピールしてい

く必要があろうかと思います。その

手段のひとつとしてPC工学会、P

C建協を含めてサステナビリティ委

員会との協業をお願いします。

 

最後にfibを十分活用してくだ

さい。特に若い方にはオンラインで

参加しやすくなったfibのイベン

トに積極的に参加し、世界の技術開

発を見ていただきたい。参画をお待

ちしています。よろしくお願いいた

します。

 

以上で終わります。ご清聴、ありが

とうございました。

れているにも関わらず、日本の基準

はほぼ使われずに他国の基準で作ら

なければならない状況になっていま

す。縦割り社会の弊害が基準にも現

れているのです。

②日本企業の内向きマインド

 

次に建設市場に注目します。日本

の建設市場は一時期より落ちついて

今は60兆円くらいです。公共投資に

関しては、新設の時代から更新の時

代に入っていくといわれています。

しかしこの60兆円という市場規模は、

ヨーロッパ、アメリカ、中国に続く世

界第4位ということになります。

 

PC建協によると、令和元年度の

PC業界は3000億円程度の受注

があり、そのうちの

2000億円が新

設で、残りの100

0億円が更新事業、

および維持管理と

いうことです。鋼橋、

および下部工を含

めた橋梁全体とし

ては日本国内で約

7000億円程度

となります。

 

一方、世界に目を

向けると500兆

円程度の市場規模

があり、拡大基調に

あります。このうち

日本企業のシェア

は市場の約0・3%、

2002年から日

本も若干増えてい

ますが、他国に比べ

て大きな伸びはな

く、多い時でも2兆

▲ 図2:「PCの受注実績」(PC建協、2020 年)

▲ 図1:世界全体の建設市場規模 (出所:「みずほ産業調査vol.63 日本産業の中期見通し 向こう5年(2020ー2024年)の需給動向と求められる事業戦略」(みずほ銀行、2019年12月)をもとに講師作成(1米ドル=110円換算))

円程度です。

 

外国の建設会社の海外進出の傾向

を見ると、中国はかなり増え、ドイツ、

スペインも国内にあまり仕事がないの

で増加し、アメリカも海外が増えてい

ます。韓国も高速鉄道、高速道路の整

備が終わり国内の市場がなくなり、や

はり海外に行くしかありません。こう

した傾向とは逆に「日本には60兆円の

国内市場があり、それならあえてリス

クの大きい海外に行く必要はない」と

いう姿勢が見えてきます。

 

日本の建設会社が海外で行う仕事

はODAが中心です。ODAは借款、

無償資金協力、技術協力といったも

のがありますが、本邦技術活用条件

(STEP)案件の借款や無償資金協

力は日本縛りのシステムで、当然、海

外からは参加できません。このため、

海外の会社とコスト競争のある一般

円借款には消極的というのが日本の

建設会社の現状です。これは、投資先、

出資先の国から見るとやる気がない

と見られます。また日本の建設技術

は確かに高いのですが、相手はその

高い水準を要求していません。過剰

な水準は、コスト高になるので、お金

を借りる国としては安い建設会社の

方がいいのです。加えて、日本の建設

会社は先進国と比べると財務能力が

低く、前払金をもらわないとプロ

ジェクトに参加できないことが日本

に対するマイナス評価につながって

しまっています。我々も一生懸命に

やっているのですが、「良かろう、高

かろうは、いりません」というのが残

念ながら世界の見方になっています。

③海外志向が薄れつつある若者

 

3つ目に、先ほどの基準に関連す

るお話を交えてご紹介します。fi

bには委員会が10あり、各国・各地

域の委員は自分たちの技術情報を積

極的に発信しています。そのうちタ

スクグループ5・5(委員長:睦好

宏史埼玉大学名誉教授)というケー

ブルに関する委員会には日本人が5

人参加しており、自分たちのノウハ

ウをいかに入れ込むか非常に熾烈な

戦いを行いました。しかしその他の

委員会には、ほぼ日本人はおらず(全

委員301人/日本人委員18人)、こ

ういうところでの発信力が弱いため、

基準に日本の技術情報が入らないの

です。

 

一方、日本の若者の動向を見ると、

アメリカへの留学生は年間2万人未

満です。2004年が年間8万人

だったので激減しています。中国は

年間37万人、韓国は5万人の中で、日

本は2万人。近年、海外に行こうとい

う若者が激減しており、日本人は年

齢に関係なく内向きになってしまっ

ている、という傾向が、この辺のデー

タで示されています。

④世界のイノベーションに鈍感

 

その内向きの結果、日本人は世界

のイノベーションに対して鈍感に

なってしまっているのではないか、

というお話です。

 

2018年にノーベル医学生理学

賞を受賞した本庶佑先生が日本経済

新聞の記事で「日本の大学の成果の

4割はアメリカが活かしており、残

念ながら日本は4分の1程度で、日

本には非常に技術の目利きがいな

い」と嘆いておられました。

 

事例を挙げますと、皆さんご存知

の波形ウエブですが、1965年に

名古屋大学の島田静雄先生が土木学

会論文集に初めて投稿されました。

残念ながら、先生の理論は実際の橋

梁には適用されませんでしたが、20

年後にフランスで、複合構造という

形でこの波形ウエブが登場しました。

フランス人は先生の日本語の論文の

存在を知らなかったそうです。しか

し我々はフランスの技術を、特許料

を支払ってまで、高速道路を中心に

200橋を超えて建設してきました。

逆輸入です、よくいわれるノーベル

賞現象です。私どもの先達が196

5年にこういう世界初の構造を考え

ましたが、残念ながら日本では育た

なかったということになります。こ

の事例からも、日本はイノベーショ

ンに鈍感であることを認識させられ

ます。

 

以上が日本が直面する4つの課題

に関するお話でした。

現在の世界の動き

 

次に、現在の世界の動きとして、①

fibの話、②環境に対する世界の

意識、③建設産業のCO2、という3

つの話をします。

①世界の建設基準を左右するfib

 

まずfibについてです。199

8年に学問分野のヨーロッパ国際コ

ンクリート委員会(ceb)と、実務

分野の国際プレストレストコンク

リート連合(FIP)が合体して、f

ibとなりました。「研究と実務の橋

渡し」というスローガンのもと、メン

バーは大学の先生、特にコンサルタ

ントの方が主流で、私のようなゼネ

コン出身者はマイナーな部類に入り

ます。あとは材料のサプライヤーで

す。活動目的は最先端技術を広める

ことで、基本的に非営利です。個人会

員は約1000人で、42の国と地域

に法人会員があります。

 

私はプレシディアムという意志決

定機関に所属しており、ここで決

まったことを、総会で承認していた

だく。その下に先ほどご紹介した10

の委員会があります。私はこの総会

での投票を得て、正式に2021年

1月1日から会長を務めることにな

りました。日本はもちろんアジア初

です。その会長の国からヤングメン

バーグループという35歳下のグルー

プの主査を出すことになっており、

東京大学大学院工学系研究科の大野

元寛先生に主査をお願いして202

0年の1月に日本のヤングメンバー

グループを発足しました。メンバー

は約40名で、日本人16名、外国人26名

で、企業、大学、学生で、海外のグルー

プと情報交換、会議をやっていきま

す。ぜひ35歳以下の方にメンバーに

なっていただき日本の存在感を出し

てもらいたいです。

日本人が会長になるまで60年

 fibと日本との関わりです。昨年、

創立60周年を迎えたPC工学会は、1

958年にPC技術協会として設立

と同時にfibの前身であるFIPの

メンバーになりました。FIPは195

2年設立で、その設立にはフランスが大

きく関わり、1955年にドイツが入

りました。当時のPC技術協会は、初

代会長が吉田徳次郎先生、二代目は坂

静雄先生でした。このおふたりを中心

とした方々が国際的な学会であるFI

Pに入ろうと考えられていたように思

います。

 FIPの初代会長がフレシネー氏

(Eugene Freyssinet

)、2代目がスペイ

ンのエドワード・トロハ氏(Eduardo

Torroja y Miret

)という構造の先生で

す。3代目がギヨン氏(Yves Guyon

)で

す。1998年からfibになって初代

がビルロージュ氏(M

ichel Virlogeux

)、

その後、実務者の会長が続き、今はオル

セン氏(Tor O

le Olsen

)、2021年か

らは私となります。考えてみると日本人

が会長になるのに60年掛かりました。い

ろいろな先生方が長年関わられてきて、

やっと今、会長職が日本に回ってきたこ

とを重責に感じています。

fibモデルコードは世界に

影響を与えるユーロモデルの原案

 

fibはアウトプットとして技術

広報誌「Structural Concrete

」を

2ヵ月に1回、定期発行しています、

また委員会からはテクニカルレポー

トからモデルコードまでいくつかの

報告書を発行しています。そのモデ

ルコードは、10年に一度改訂してお

り、ちょうど現在、新しく2020年

版を作成中です。今回の改訂での特

筆事項は、サステナビリティの観念

が全体を流れている点です。既設構

造物が新設構造物と同じレベルで、

設計から施工までパラレルになって

いるのも特長です。モデルコードは

後々、ユーロコードに取り込まれて、

研究開発や設計を始め世界の建築市

場に影響を与えるため、委員会の各

国技術者たちは一生懸命です。

②環境への意識が世界的に先鋭化

 

現在協議中ですが、fibは活動

戦略をはっきり表に打ち出そうとし

ています。その骨子は、①持続可能性、

②環境に対する重要性、③社会への

影響、④国際化、⑤新しい挑戦、です。

fibの人員構成は半分がヨーロッ

パ人です。しかし、アジア、中南米、ア

フリカなどいろいろな地域の人が関

わっていかないといけない、真の国

際化に向けてヤングメンバーに積極

的に参加していただきたいというこ

とで、この五つを戦略キーワードに

挙げています。

 

また今後の活動としてサステナビ

リティで支え合う社会、経済、環境と

いう3つの柱に対してどのように対

応していくか。今はまだ経済的なこ

とが多いのですが、いずれは環境の

要素を多くしてひとつの指標として

活動し、世の中にいつでも姿勢を示

せるようにしよう、ということで、今、

やっています。

 

こうした動きの背景には環境に対

する世界的な意識の先鋭化がありま

す。昨今、環境に対する非常にいろい

ろなムーヴメントがありました。皆

さんもご存知のスウェーデンの環境

活動家グレタさんが航空機を批判し

ました。交通トランスポーテーショ

ン(輸送)は全CO2の2割もなく、

航空機はその内のわずか4・5%で

すが、航空機がターゲットにされま

した。

③建設産業のCO2、見える化へ

 

こうした時に最も重要なことは、

CO2の削減に取り組んでいますと

アピールすることです。

 

図9は全世界での建設産業の資源

消費量を示しています。これは45m

×

45mの壁を地球の赤道上に作るの

と同じぐらいの物量を1年間に使っ

ていて、特に中国がすごく資源の消

費をしているということです。

 

国際エネルギー機関(IEA)の

「Global Energy &

CO2 Status

Report 2018

」によると人類が排出

する化石燃料由来の全CO2は

331億t、「2018 G

lobal Status Report

」によると世界のエネルギー

使用量のうち建設業の上流側から下

流側すべての行為が占める割合は

40%です。全人類の産業の中で建設

業関連が一番CO2を排出していま

すし、また建設業で使用するコンク

リートのCO2排出量は少なくあり

ませんので、航空機の次にコンク

リート、あるいは建設業が環境活動

家の批判対象になるかもしれません。

 

事実、昨年の2月にイギリスの

ガーディアンという新聞が、「コンク

リートはCO2を大量に排出する

ディストラクティブ・マテリアルで

ある」と抗議しました。それに対しA

CIの会長は「コンクリートは非常

に耐久性のある強靱なものであり、

CO2排出の観点だけでは計れな

い」と、すぐに反論しました。fib

はアクションを起こしていません。

コロナ以降は特に環境に対する意識

が先鋭化していくでしょうから真剣

に考えていかなくてはいけません。

 

国際NGOのCDPは、どれだけ

CO2を出しているのか「見える化」

を要求しています。例えば建物を建

てる時に「あなたの会社は、どれだけ

CO2を出しているのか」と要求され

る時代になり、建設時あるいは材料

の調達時、竣工後のオペレーションで

CO2の排出の「見える化」をやらな

いと排除される世の中が近い将来

やってきます。

 

SDGs(持続可能な開発目標)と

いう考え方ですが、PC工学会には

サステナビリティ委員会(委員長:

加藤佳孝東京理科大学理工学部教

授)があります。PC建協もサステナ

ビリティ委員会と一緒になって、国

内でのプレストレストコンクリート

のCO2に対してどういうアクショ

ンをするか具体的に示していくこと

が大事です。PC工学会では、サステ

ナビリティ宣言をしましたので、そ

の後の具体的なアクションを、PC

建協とPC工学会の皆様が一緒に

なって取り組んでいただければあり

がたいです。

 

2019年の国連気候変動枠組条

約第25回締約国会議(COP25)で日

本は火力発電が多いと批判されまし

た。日本よりもドイツの方が火力の

比率が多いのですが、そのドイツは

何年までにCO2を減らしてゼロに

すると発言しています。できようが

できまいが関係なく、発言している

事実を世界は注目しているので、そ

ういうアクションをとることが大事

なのです。

PCの将来を開く方向性

 このような将来のため、次世代のた

めという世界の潮流を踏まえ、我々は

売れる技術とは何かを考えていかな

ければなりません。そこで、これまでの

日本を少し振り返ってみます。

 

戦前、日本では、吉田徳次郎先生

(元東京大学教授、元土木学会会長)、

仁杉巌氏(元日本国有鉄道総裁、元極

東鋼弦コンクリート振興株式会社取

締役最高顧問)がPCの研究を行って、

戦後になって独自に研究しながら技

術開発を行ってきました。フレシネー

氏がPCの実用特許を取得したのが

1928年ですから、あまり遅れずに

日本も取り組んできたことがわかり

ます。そして終戦から6年後の195

1年、石川県の長生橋が初めてPCで

架設されました。それ以降、10万橋以

上の実績を積み、日本のインフラ発展

に多大な貢献をしたのです。

 

こうして「海外に追い付け追い越

せ」が日本のモチベーションとなり、

私も2000年までFIP、fib

を含めて海外へ行き、いろいろな素

晴らしい橋梁を数多く見てきました。

 

しかしここに来て、手本がなく

なってきました。2018年の建設

通信新聞も「基本的に全部海外から

の技術移転で、今までインフラを

作ってきたが、ここにきて見習う目

標が見当たらなくなった」という記

事を掲載しています。

①生産性の向上

 

では今後、我々はどこを向いてい

けばいいのか。それは第一に生産性

向上が挙げられます。例えばプレ

キャスト化あるいはデジタルトラン

スフォーメーションを使った技術な

どの利用促進です。2つ目に海外が

持っていないニッチな特化技術の国

際展開。3つ目に、環境に配慮した低

炭素な技術、そしてライフサイクル

コスト(LCC)をトータルで見て最

小最適解を説いていく、という4つ

の方向です。

 

海外のODAでは初期コストが低

いほうが良いとのことでしたが、最

近の大規模更新事業のプロセスを見

るとそれが最適ではないことが明ら

かなため、今後ははっきり言ってい

くべきです。また海外では、現場での

仕事をなくして、できるだけ現場に

入る前にプレキャスト化してモ

ジュール化するオフサイト・コンス

トラクション(オフサイト建設)とい

う流れが始まっています。このほか

日本が得意とする免震に関しては、

橋も建物も含めて、統一された基準

がありませんので、地震国のイタリ

ア、トルコ、アメリカ、ニュージーラ

ンドなどと共同し、fibの中のタ

スクで、免制震技術のデファクトス

タンダードを作っていくのも必要で

す。

 図11はアメリカの労働生産性を10

0とした時の各産業の生産性を比較し

た図です。建設が80%ということは、アメ

リカもそれほど生産性は良くないので

す。建設は一品生産だから、アメリカだろ

うが、ヨーロッパだろうが、日本だろうが、

大変なのです。こうした中、地震のない

オーストラリアと、政府主導によるシン

ガポールが、モジュール化で生産性を向

上させており、こうした傾向についてコン

サルティングファームのマッキンゼーも

「建設産業における価値の源泉は現場

から工場に移る」としています。例えば

ホテルチェーン世界最大手のマリオッ

ト・インターナショナルはニューヨークで

26階建ての高層ビルをプレキャストの部

屋を積み重ね、わずか3ヵ月で作ったそ

うです。またフランスのミヨー高架橋は、

大型プレキャスト化により2・5㎞の

橋を3年で施工しました。今後はできる

だけ部材を大型化して急速施工する技

術をどんどん進化させなければなりま

せん。そしてICT(情報通信技術)です。

特に建築の世界ではBIM(Building

Information M

odeling

)、レーザース

キャナーによる計測、鉄筋組立をロボッ

ト化して生産性を上げています。すべて

がこれに代わるわけではありませんが、

我々も生産性を上げていかなければな

らない現状があります。

②ニッチ分野の基準化

 

ニッチな部分での基準化の成功事

例をご紹介します。2009年にP

C工学会で斜張橋・エクストラドー

ズド橋の設計施工基準を出し、20

12年に英訳をしました。昨年、この

基準の一部をfibのレポートにイ

ンプットし、やっと発行されました。

今、世界中に配っているところです。

このfib版の基準にはPC工学会

の設計の考え方が入っています。A

CIコードとユーロコードで抜けて

いるところを日本が補完していくこ

とで、日本の先進技術を世界に向け

て発信していく。これしか今は方法

がないと考えています。

③イノベーションとLCC

 

耐久性とLCCについてお話しし

ます。現在、イニシャルコスト最少化

が大きな問題を引き起こしています。

維持管理には建設よりも高度な技術

が必要となり、イニシャルコストの

2、3倍くらいメンテナンスコスト

がかかるといわれており、全国で進

んでいるRC床版のPC床版取り替

えには膨大なお金がかかっています。

本来、コンクリート自体は非常に超

高耐久な素材で、2000年前に建

築されたローマのパンテオン神殿が

いまだ健在です。しかし鉄筋が入る

とそうはいきません。イタリア・ジェ

ノバのポルチェベーラ高架橋(通称

モランディ橋)は1967年当時の

最先端技術で建設されたのですが、

特に腐食に対する維持管理が不十分

で2018年に落橋しました。

 

今、弊社では徳島でノンメタルの

橋を作っています。アラミド緊張材

でコンクリートを繋ぐ鉄筋を使わな

い25mの橋にトライをしています。

イニシャルコストは1・5倍かかり

ますが、ほとんどメンテナンスがい

らなくなるのでLCCは最低になり

ます。またアラミド材で緊張力を入

れた桁長10m程度のセメント不使用

のコンクリートプレテン桁を弊社の

PC工場に架設しました。CO2が

7割程度削減され、耐久性と環境に

配慮した新技術の方向のひとつを示

すことができたと思います。

 

SDGsの目標17項目の中で我々

に関係あるのは再生エネルギー、気

候変動、イノベーションです。これら

の目標をにらみながら技術開発を行

うことが今後の大きな流れとしてあ

り、コロナ禍以降はさらに加速され

ていくと考えます。

④サステナビリティを軸に展開を

 PC業界がこれから展開するべき

と考える方向性をまとめます。

施工は現場から工場へ

ニッチな分野での貢献

環境の取り組みは絶対条件

サステナビリティを基本にした低

炭素技術への取り組み

 

今後、施工は現場から工場へ移っ

ていきます。これは担い手確保にも

関係しますが、コロナ禍で現場に人

が集まって施工するリスクを回避す

る意味でも、現場作業をできるだけ

減らしてオフサイト作業を増やすこ

とが流れのひとつとなっていきます。

 

また日本には欧米のようなアンブ

レラコード(包括的な基準)はありま

せんが、ニッチな分野での貢献、特に

0.50 0.45 0.46 0.49 0.47 0.44 0.41 0.47 0.46 0.48 0.54 0.57 0.53 0.48 0.42 0.49 0.50 0.50

0.84 0.85 0.89 0.99 1.12 1.16 1.15 1.08 0.91 0.81 0.79 0.85 0.91 1.01 1.11 1.19 1.25 1.29

1.22 1.271.42

1.611.65 1.83 2.17 2.30

1.891.78

1.93 1.76 1.77 1.82 1.581.59

1.71

1.86

0.07 0.080.09

0.110.13

0.16

0.200.27

0.330.40

0.51 0.58 0.660.73

0.750.75

0.79

0.85

0.02 0.030.03

0.030.04

0.05

0.060.07

0.08 0.11

0.12 0.13 0.140.14

0.140.16

0.15

0.16(17.4兆円)

(515.3兆円)

(94.3兆円)

(205.9兆円)

(142.0兆円)

(55.6兆円)

2.66 2.67 2.90

3.23 3.40

3.64

3.98 4.18

3.67 3.58 3.89 3.89 4.00

4.18 4.01 4.17 4.39

4.67

0.00

0.50

1.00

1.50

2.00

2.50

3.00

3.50

4.00

4.50

5.00

2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015 2016 2017 2018 E

Asean

China

Europa

United States

日本

(兆ドル)515兆円

27(昭和) (平成) (令和)

補修・補強工事

プレテンション

ポストテンション

総受注額

55

6,000

5,000

4,000

3,000

2,000

1,000

0 56 57 58 59 60 61 62 63 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 1

受注額(億円)

▲ 図3:海外建設協会会員の地域別受注額の推移 (出所:海外建設協会「令和元年度海外建設受注実績」海外建設受注の地域別推移(1990年度~2019年度))

Page 4: 社会を支えてくださるすべての方々に 感謝を申し上げます...世界にはACI(米国コンクリー まずひとつ目、建設基準のお話で①基準のガラパゴス化日本が直面する4つの課題いてお話をいたします。

03  PCプレス 2021 / Jan. / Vol.024

 

ご紹介いただきました春日です。

本日は、「国内外におけるPC技術の

現状と展望」と題し、日本が直面する

課題、世界の動き、将来の方向性につ

いてお話をいたします。

日本が直面する4つの課題

①基準のガラパゴス化

 

まずひとつ目、建設基準のお話で

す。世界にはACI(米国コンクリー

ト工学協会)のビルディングコード、

CEN(欧州標準化委員会)のユーロ

コード、fib(国際コンクリート連

合)のモデルコードがあります。特に

ACIコードとユーロコードが、世

界を席巻しています。これらのコー

ドの特長はいろいろな構造が含まれ

ている点で、建築、土木、すべての分

野に対応しています。一方、日本では

学協会が土木学会、日本建築学会、P

C工学会などに分かれており、学会

各々で独自の基準を構築しています。

この結果、世界各地で日本のODA

(政府開発援助)で道路や橋が建設さ

手段のひとつとしてPC工学会、P

C建協を含めてサステナビリティ委

員会との協業をお願いします。

 

最後にfibを十分活用してくだ

さい。特に若い方にはオンラインで

参加しやすくなったfibのイベン

トに積極的に参加し、世界の技術開

発を見ていただきたい。参画をお待

ちしています。よろしくお願いいた

します。

 

以上で終わります。ご清聴、ありが

とうございました。

れているにも関わらず、日本の基準

はほぼ使われずに他国の基準で作ら

なければならない状況になっていま

す。縦割り社会の弊害が基準にも現

れているのです。

②日本企業の内向きマインド

 

次に建設市場に注目します。日本

の建設市場は一時期より落ちついて

今は60兆円くらいです。公共投資に

関しては、新設の時代から更新の時

代に入っていくといわれています。

しかしこの60兆円という市場規模は、

ヨーロッパ、アメリカ、中国に続く世

界第4位ということになります。

 

PC建協によると、令和元年度の

PC業界は3000億円程度の受注

があり、そのうちの2000億円が

新設で、残りの1000億円が更新

事業、および維持管理ということで

す。鋼橋、および下部工を含めた橋梁

全体としては日本国内で約7000

億円程度となります。

 

一方、世界に目を向けると500

兆円程度の市場規模があり、拡大基

調にあります。このうち日本企業の

シェアは市場の約0・3%、200

2年から日本も若干増えていますが、

他国に比べて大きな伸びはなく、多

い時でも2兆円程度です。

 

外国の建設会社の海外進出の傾向

を見ると、中国はかなり増え、ドイツ、

スペインも国内にあまり仕事がないの

で増加し、アメリカも海外が増えてい

ます。韓国も高速鉄道、高速道路の整

備が終わり国内の市場がなくなり、や

はり海外に行くしかありません。こう

した傾向とは逆に「日本には60兆円の

国内市場があり、それならあえてリス

クの大きい海外に行く必要はない」と

PRESTRESSED CONCRETE CONTRACTORS ASSOCIATION

いう姿勢が見えてきます。

 

日本の建設会社が海外で行う仕事

はODAが中心です。ODAは借款、

無償資金協力、技術協力といったも

のがありますが、本邦技術活用条件

(STEP)案件の借款や無償資金協

力は日本縛りのシステムで、当然、海

外からは参加できません。このため、

海外の会社とコスト競争のある一般

円借款には消極的というのが日本の

建設会社の現状です。これは、投資先、

出資先の国から見るとやる気がない

と見られます。また日本の建設技術

は確かに高いのですが、相手はその

高い水準を要求していません。過剰

な水準は、コスト高になるので、お金

を借りる国としては安い建設会社の

方がいいのです。加えて、日本の建設

会社は先進国と比べると財務能力が

低く、前払金をもらわないとプロ

ジェクトに参加できないことが日本

に対するマイナス評価につながって

しまっています。我々も一生懸命に

やっているのですが、「良かろう、高

かろうは、いりません」というのが残

念ながら世界の見方になっています。

③海外志向が薄れつつある若者

 

3つ目に、先ほどの基準に関連す

るお話を交えてご紹介します。fi

bには委員会が10あり、各国・各地

域の委員は自分たちの技術情報を積

極的に発信しています。そのうちタ

スクグループ5・5(委員長:睦好

宏史埼玉大学名誉教授)というケー

ブルに関する委員会には日本人が5

人参加しており、自分たちのノウハ

ウをいかに入れ込むか非常に熾烈な

戦いを行いました。しかしその他の

委員会には、ほぼ日本人はおらず(全

委員301人/日本人委員18人)、こ

ういうところでの発信力が弱いため、

基準に日本の技術情報が入らないの

です。

 

一方、日本の若者の動向を見ると、

アメリカへの留学生は年間2万人未

満です。2004年が年間8万人

だったので激減しています。中国は

年間37万人、韓国は5万人の中で、日

本は2万人。近年、海外に行こうとい

う若者が激減しており、日本人は年

齢に関係なく内向きになってしまっ

ている、という傾向が、この辺のデー

タで示されています。

④世界のイノベーションに鈍感

 

その内向きの結果、日本人は世界

のイノベーションに対して鈍感に

なってしまっているのではないか、

というお話です。

 

2018年にノーベル医学生理学

賞を受賞した本庶佑先生が日本経済

新聞の記事で「日本の大学の成果の

4割はアメリカが活かしており、残

念ながら日本は4分の1程度で、日

本には非常に技術の目利きがいな

い」と嘆いておられました。

 

事例を挙げますと、皆さんご存知

の波形ウエブですが、1965年に

名古屋大学の島田静雄先生が土木学

会論文集に初めて投稿されました。

残念ながら、先生の理論は実際の橋

梁には適用されませんでしたが、20

年後にフランスで、複合構造という

形でこの波形ウエブが登場しました。

フランス人は先生の日本語の論文の

存在を知らなかったそうです。しか

し我々はフランスの技術を、特許料

を支払ってまで、高速道路を中心に

200橋を超えて建設してきました。

逆輸入です、よくいわれるノーベル

賞現象です。私どもの先達が196

5年にこういう世界初の構造を考え

ましたが、残念ながら日本では育た

なかったということになります。こ

の事例からも、日本はイノベーショ

ンに鈍感であることを認識させられ

ます。

 

以上が日本が直面する4つの課題

に関するお話でした。

現在の世界の動き

 

次に、現在の世界の動きとして、①

fibの話、②環境に対する世界の

意識、③建設産業のCO2、という3

つの話をします。

①世界の建設基準を左右するfib

 

まずfibについてです。199

8年に学問分野のヨーロッパ国際コ

ンクリート委員会(ceb)と、実務

分野の国際プレストレストコンク

リート連合(FIP)が合体して、f

ibとなりました。「研究と実務の橋

渡し」というスローガンのもと、メン

バーは大学の先生、特にコンサルタ

ントの方が主流で、私のようなゼネ

コン出身者はマイナーな部類に入り

ます。あとは材料のサプライヤーで

す。活動目的は最先端技術を広める

ことで、基本的に非営利です。個人会

員は約1000人で、42の国と地域

に法人会員があります。

 

私はプレシディアムという意志決

定機関に所属しており、ここで決

まったことを、総会で承認していた

だく。その下に先ほどご紹介した10

の委員会があります。私はこの総会

での投票を得て、正式に2021年

1月1日から会長を務めることにな

りました。日本はもちろんアジア初

です。その会長の国からヤングメン

バーグループという35歳下のグルー

プの主査を出すことになっており、

東京大学大学院工学系研究科の大野

元寛先生に主査をお願いして202

0年の1月に日本のヤングメンバー

グループを発足しました。メンバー

は約40名で、日本人16名、外国人26名

で、企業、大学、学生で、海外のグルー

プと情報交換、会議をやっていきま

す。ぜひ35歳以下の方にメンバーに

なっていただき日本の存在感を出し

てもらいたいです。

日本人が会長になるまで60年

 fibと日本との関わりです。昨年、

創立60周年を迎えたPC工学会は、1

958年にPC技術協会として設立

と同時にfibの前身であるFIPの

メンバーになりました。FIPは195

2年設立で、その設立にはフランスが大

きく関わり、1955年にドイツが入

りました。当時のPC技術協会は、初

代会長が吉田徳次郎先生、二代目は坂

静雄先生でした。このおふたりを中心

とした方々が国際的な学会であるFI

Pに入ろうと考えられていたように思

います。

 FIPの初代会長がフレシネー氏

(Eugene Freyssinet

)、2代目がスペイ

ンのエドワード・トロハ氏(Eduardo

Torroja y Miret

)という構造の先生で

す。3代目がギヨン氏(Yves Guyon

)で

す。1998年からfibになって初代

がビルロージュ氏(M

ichel Virlogeux

)、

その後、実務者の会長が続き、今はオル

セン氏(Tor O

le Olsen

)、2021年か

らは私となります。考えてみると日本人

が会長になるのに60年掛かりました。い

ろいろな先生方が長年関わられてきて、

やっと今、会長職が日本に回ってきたこ

とを重責に感じています。

fibモデルコードは世界に

影響を与えるユーロモデルの原案

 

fibはアウトプットとして技術

広報誌「Structural Concrete

」を

2ヵ月に1回、定期発行しています、

また委員会からはテクニカルレポー

トからモデルコードまでいくつかの

報告書を発行しています。そのモデ

ルコードは、10年に一度改訂してお

り、ちょうど現在、新しく2020年

版を作成中です。今回の改訂での特

筆事項は、サステナビリティの観念

が全体を流れている点です。既設構

造物が新設構造物と同じレベルで、

設計から施工までパラレルになって

いるのも特長です。モデルコードは

後々、ユーロコードに取り込まれて、

研究開発や設計を始め世界の建築市

場に影響を与えるため、委員会の各

国技術者たちは一生懸命です。

②環境への意識が世界的に先鋭化

 

現在協議中ですが、fibは活動

戦略をはっきり表に打ち出そうとし

ています。その骨子は、①持続可能性、

②環境に対する重要性、③社会への

影響、④国際化、⑤新しい挑戦、です。

fibの人員構成は半分がヨーロッ

パ人です。しかし、アジア、中南米、ア

フリカなどいろいろな地域の人が関

わっていかないといけない、真の国

際化に向けてヤングメンバーに積極

的に参加していただきたいというこ

とで、この五つを戦略キーワードに

挙げています。

 

また今後の活動としてサステナビ

リティで支え合う社会、経済、環境と

いう3つの柱に対してどのように対

応していくか。今はまだ経済的なこ

とが多いのですが、いずれは環境の

要素を多くしてひとつの指標として

活動し、世の中にいつでも姿勢を示

せるようにしよう、ということで、今、

やっています。

 

こうした動きの背景には環境に対

する世界的な意識の先鋭化がありま

す。昨今、環境に対する非常にいろい

ろなムーヴメントがありました。皆

さんもご存知のスウェーデンの環境

活動家グレタさんが航空機を批判し

ました。交通トランスポーテーショ

ン(輸送)は全CO2の2割もなく、

航空機はその内のわずか4・5%で

すが、航空機がターゲットにされま

した。

③建設産業のCO2、見える化へ

 

こうした時に最も重要なことは、

CO2の削減に取り組んでいますと

アピールすることです。

 

図9は全世界での建設産業の資源

消費量を示しています。これは45m

×

45mの壁を地球の赤道上に作るの

と同じぐらいの物量を1年間に使っ

ていて、特に中国がすごく資源の消

費をしているということです。

 

国際エネルギー機関(IEA)の

「Global Energy &

CO2 Status

Report 2018

」によると人類が排出

する化石燃料由来の全CO2は

331億t、「2018 G

lobal Status Report

」によると世界のエネルギー

使用量のうち建設業の上流側から下

流側すべての行為が占める割合は

40%です。全人類の産業の中で建設

業関連が一番CO2を排出していま

すし、また建設業で使用するコンク

リートのCO2排出量は少なくあり

ませんので、航空機の次にコンク

リート、あるいは建設業が環境活動

家の批判対象になるかもしれません。

 

事実、昨年の2月にイギリスの

ガーディアンという新聞が、「コンク

リートはCO2を大量に排出する

ディストラクティブ・マテリアルで

ある」と抗議しました。それに対しA

CIの会長は「コンクリートは非常

に耐久性のある強靱なものであり、

CO2排出の観点だけでは計れな

い」と、すぐに反論しました。fib

はアクションを起こしていません。

コロナ以降は特に環境に対する意識

が先鋭化していくでしょうから真剣

に考えていかなくてはいけません。

 

国際NGOのCDPは、どれだけ

CO2を出しているのか「見える化」

を要求しています。例えば建物を建

てる時に「あなたの会社は、どれだけ

CO2を出しているのか」と要求され

る時代になり、建設時あるいは材料

の調達時、竣工後のオペレーションで

CO2の排出の「見える化」をやらな

いと排除される世の中が近い将来

やってきます。

 

SDGs(持続可能な開発目標)と

いう考え方ですが、PC工学会には

サステナビリティ委員会(委員長:

加藤佳孝東京理科大学理工学部教

授)があります。PC建協もサステナ

ビリティ委員会と一緒になって、国

内でのプレストレストコンクリート

のCO2に対してどういうアクショ

ンをするか具体的に示していくこと

が大事です。PC工学会では、サステ

ナビリティ宣言をしましたので、そ

の後の具体的なアクションを、PC

建協とPC工学会の皆様が一緒に

なって取り組んでいただければあり

がたいです。

 

2019年の国連気候変動枠組条

約第25回締約国会議(COP25)で日

本は火力発電が多いと批判されまし

た。日本よりもドイツの方が火力の

比率が多いのですが、そのドイツは

何年までにCO2を減らしてゼロに

すると発言しています。できようが

できまいが関係なく、発言している

事実を世界は注目しているので、そ

ういうアクションをとることが大事

なのです。

PCの将来を開く方向性

 このような将来のため、次世代のた

めという世界の潮流を踏まえ、我々は

売れる技術とは何かを考えていかな

ければなりません。そこで、これまでの

日本を少し振り返ってみます。

 

戦前、日本では、吉田徳次郎先生

(元東京大学教授、元土木学会会長)、

仁杉巌氏(元日本国有鉄道総裁、元極

東鋼弦コンクリート振興株式会社取

締役最高顧問)がPCの研究を行って、

戦後になって独自に研究しながら技

術開発を行ってきました。フレシネー

氏がPCの実用特許を取得したのが

1928年ですから、あまり遅れずに

日本も取り組んできたことがわかり

ます。そして終戦から6年後の195

1年、石川県の長生橋が初めてPCで

架設されました。それ以降、10万橋以

上の実績を積み、日本のインフラ発展

に多大な貢献をしたのです。

▲ 図4:アジア・オセアニアの海外建設市場における受注企業国籍別の受注額の推移  (出所:「PRI Review 第52号」(国土交通政策研究所、2014年4月)をもとにPC建協で作成)

出典:Engineering News-Record(2012)「The Top 225 International Contractors」等を基に作成

 

こうして「海外に追い付け追い越

せ」が日本のモチベーションとなり、

私も2000年までFIP、fib

を含めて海外へ行き、いろいろな素

晴らしい橋梁を数多く見てきました。

 

しかしここに来て、手本がなく

なってきました。2018年の建設

通信新聞も「基本的に全部海外から

の技術移転で、今までインフラを

作ってきたが、ここにきて見習う目

標が見当たらなくなった」という記

事を掲載しています。

①生産性の向上

 

では今後、我々はどこを向いてい

けばいいのか。それは第一に生産性

向上が挙げられます。例えばプレ

キャスト化あるいはデジタルトラン

スフォーメーションを使った技術な

どの利用促進です。2つ目に海外が

持っていないニッチな特化技術の国

際展開。3つ目に、環境に配慮した低

炭素な技術、そしてライフサイクル

コスト(LCC)をトータルで見て最

小最適解を説いていく、という4つ

の方向です。

 

海外のODAでは初期コストが低

いほうが良いとのことでしたが、最

近の大規模更新事業のプロセスを見

るとそれが最適ではないことが明ら

かなため、今後ははっきり言ってい

くべきです。また海外では、現場での

仕事をなくして、できるだけ現場に

入る前にプレキャスト化してモ

ジュール化するオフサイト・コンス

トラクション(オフサイト建設)とい

う流れが始まっています。このほか

日本が得意とする免震に関しては、

橋も建物も含めて、統一された基準

がありませんので、地震国のイタリ

ア、トルコ、アメリカ、ニュージーラ

ンドなどと共同し、fibの中のタ

スクで、免制震技術のデファクトス

タンダードを作っていくのも必要で

す。

 図11はアメリカの労働生産性を10

0とした時の各産業の生産性を比較し

た図です。建設が80%ということは、アメ

リカもそれほど生産性は良くないので

す。建設は一品生産だから、アメリカだろ

うが、ヨーロッパだろうが、日本だろうが、

大変なのです。こうした中、地震のない

オーストラリアと、政府主導によるシン

ガポールが、モジュール化で生産性を向

上させており、こうした傾向についてコン

サルティングファームのマッキンゼーも

「建設産業における価値の源泉は現場

から工場に移る」としています。例えば

ホテルチェーン世界最大手のマリオッ

ト・インターナショナルはニューヨークで

26階建ての高層ビルをプレキャストの部

屋を積み重ね、わずか3ヵ月で作ったそ

うです。またフランスのミヨー高架橋は、

大型プレキャスト化により2・5㎞の

橋を3年で施工しました。今後はできる

だけ部材を大型化して急速施工する技

術をどんどん進化させなければなりま

せん。そしてICT(情報通信技術)です。

特に建築の世界ではBIM(Building

Information M

odeling

)、レーザース

キャナーによる計測、鉄筋組立をロボッ

ト化して生産性を上げています。すべて

がこれに代わるわけではありませんが、

我々も生産性を上げていかなければな

らない現状があります。

②ニッチ分野の基準化

 

ニッチな部分での基準化の成功事

例をご紹介します。2009年にP

C工学会で斜張橋・エクストラドー

ズド橋の設計施工基準を出し、20

12年に英訳をしました。昨年、この

基準の一部をfibのレポートにイ

ンプットし、やっと発行されました。

今、世界中に配っているところです。

このfib版の基準にはPC工学会

の設計の考え方が入っています。A

CIコードとユーロコードで抜けて

いるところを日本が補完していくこ

とで、日本の先進技術を世界に向け

て発信していく。これしか今は方法

がないと考えています。

③イノベーションとLCC

 

耐久性とLCCについてお話しし

ます。現在、イニシャルコスト最少化

が大きな問題を引き起こしています。

維持管理には建設よりも高度な技術

が必要となり、イニシャルコストの

2、3倍くらいメンテナンスコスト

がかかるといわれており、全国で進

んでいるRC床版のPC床版取り替

えには膨大なお金がかかっています。

本来、コンクリート自体は非常に超

高耐久な素材で、2000年前に建

築されたローマのパンテオン神殿が

いまだ健在です。しかし鉄筋が入る

とそうはいきません。イタリア・ジェ

ノバのポルチェベーラ高架橋(通称

モランディ橋)は1967年当時の

最先端技術で建設されたのですが、

特に腐食に対する維持管理が不十分

で2018年に落橋しました。

 

今、弊社では徳島でノンメタルの

橋を作っています。アラミド緊張材

でコンクリートを繋ぐ鉄筋を使わな

い25mの橋にトライをしています。

イニシャルコストは1・5倍かかり

ますが、ほとんどメンテナンスがい

らなくなるのでLCCは最低になり

ます。またアラミド材で緊張力を入

れた桁長10m程度のセメント不使用

のコンクリートプレテン桁を弊社の

PC工場に架設しました。CO2が

7割程度削減され、耐久性と環境に

配慮した新技術の方向のひとつを示

すことができたと思います。

 

SDGsの目標17項目の中で我々

に関係あるのは再生エネルギー、気

候変動、イノベーションです。これら

の目標をにらみながら技術開発を行

うことが今後の大きな流れとしてあ

り、コロナ禍以降はさらに加速され

ていくと考えます。

④サステナビリティを軸に展開を

 PC業界がこれから展開するべき

と考える方向性をまとめます。

施工は現場から工場へ

ニッチな分野での貢献

環境の取り組みは絶対条件

サステナビリティを基本にした低

炭素技術への取り組み

 

今後、施工は現場から工場へ移っ

ていきます。これは担い手確保にも

関係しますが、コロナ禍で現場に人

が集まって施工するリスクを回避す

る意味でも、現場作業をできるだけ

減らしてオフサイト作業を増やすこ

とが流れのひとつとなっていきます。

 

また日本には欧米のようなアンブ

レラコード(包括的な基準)はありま

せんが、ニッチな分野での貢献、特に

環境分野が期待されます。先ほどお

話したように、気候変動に対する世

界の意識が先鋭化していますので、

それに対応できない場合は非常に重

いペナルティ、あるいは市場から淘

汰される社会が近づいています。こ

のような社会が近づいているからこ

そ、サステナビリティを基本にした

低炭素技術への取り組みアクション

を起こし、世の中にアピールしてい

く必要があろうかと思います。その

日本日本

日本 中国 米国 ドイツ スペイン 韓国

2002

250

200

150

100

50

02007 2010 2011 2012

(年)

(億米ドル)

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PC プレス 2021 / Jan. / Vol.024  04

 

ご紹介いただきました春日です。

本日は、「国内外におけるPC技術の

現状と展望」と題し、日本が直面する

課題、世界の動き、将来の方向性につ

いてお話をいたします。

日本が直面する4つの課題

①基準のガラパゴス化

 

まずひとつ目、建設基準のお話で

す。世界にはACI(米国コンクリー

ト工学協会)のビルディングコード、

CEN(欧州標準化委員会)のユーロ

コード、fib(国際コンクリート連

合)のモデルコードがあります。特に

ACIコードとユーロコードが、世

界を席巻しています。これらのコー

ドの特長はいろいろな構造が含まれ

ている点で、建築、土木、すべての分

野に対応しています。一方、日本では

学協会が土木学会、日本建築学会、P

C工学会などに分かれており、学会

各々で独自の基準を構築しています。

この結果、世界各地で日本のODA

(政府開発援助)で道路や橋が建設さ

手段のひとつとしてPC工学会、P

C建協を含めてサステナビリティ委

員会との協業をお願いします。

 

最後にfibを十分活用してくだ

さい。特に若い方にはオンラインで

参加しやすくなったfibのイベン

トに積極的に参加し、世界の技術開

発を見ていただきたい。参画をお待

ちしています。よろしくお願いいた

します。

 

以上で終わります。ご清聴、ありが

とうございました。

れているにも関わらず、日本の基準

はほぼ使われずに他国の基準で作ら

なければならない状況になっていま

す。縦割り社会の弊害が基準にも現

れているのです。

②日本企業の内向きマインド

 

次に建設市場に注目します。日本

の建設市場は一時期より落ちついて

今は60兆円くらいです。公共投資に

関しては、新設の時代から更新の時

代に入っていくといわれています。

しかしこの60兆円という市場規模は、

ヨーロッパ、アメリカ、中国に続く世

界第4位ということになります。

 

PC建協によると、令和元年度の

PC業界は3000億円程度の受注

があり、そのうちの2000億円が

新設で、残りの1000億円が更新

事業、および維持管理ということで

す。鋼橋、および下部工を含めた橋梁

全体としては日本国内で約7000

億円程度となります。

 

一方、世界に目を向けると500

兆円程度の市場規模があり、拡大基

調にあります。このうち日本企業の

シェアは市場の約0・3%、200

2年から日本も若干増えていますが、

他国に比べて大きな伸びはなく、多

い時でも2兆円程度です。

 

外国の建設会社の海外進出の傾向

を見ると、中国はかなり増え、ドイツ、

スペインも国内にあまり仕事がないの

で増加し、アメリカも海外が増えてい

ます。韓国も高速鉄道、高速道路の整

備が終わり国内の市場がなくなり、や

はり海外に行くしかありません。こう

した傾向とは逆に「日本には60兆円の

国内市場があり、それならあえてリス

クの大きい海外に行く必要はない」と

いう姿勢が見えてきます。

 

日本の建設会社が海外で行う仕事

はODAが中心です。ODAは借款、

無償資金協力、技術協力といったも

のがありますが、本邦技術活用条件

(STEP)案件の借款や無償資金協

力は日本縛りのシステムで、当然、海

外からは参加できません。このため、

海外の会社とコスト競争のある一般

円借款には消極的というのが日本の

建設会社の現状です。これは、投資先、

出資先の国から見るとやる気がない

と見られます。また日本の建設技術

は確かに高いのですが、相手はその

高い水準を要求していません。過剰

な水準は、コスト高になるので、お金

を借りる国としては安い建設会社の

方がいいのです。加えて、日本の建設

会社は先進国と比べると財務能力が

低く、前払金をもらわないとプロ

ジェクトに参加できないことが日本

に対するマイナス評価につながって

しまっています。我々も一生懸命に

やっているのですが、「良かろう、高

かろうは、いりません」というのが残

念ながら世界の見方になっています。

③海外志向が薄れつつある若者

 

3つ目に、先ほどの基準に関連す

るお話を交えてご紹介します。fi

bには委員会が10あり、各国・各地

域の委員は自分たちの技術情報を積

極的に発信しています。そのうちタ

スクグループ5・5(委員長:睦好

宏史埼玉大学名誉教授)というケー

ブルに関する委員会には日本人が5

人参加しており、自分たちのノウハ

ウをいかに入れ込むか非常に熾烈な

戦いを行いました。しかしその他の

委員会には、ほぼ日本人はおらず(全

委員301人/日本人委員18人)、こ

ういうところでの発信力が弱いため、

基準に日本の技術情報が入らないの

です。

 

一方、日本の若者の動向を見ると、

アメリカへの留学生は年間2万人未

満です。2004年が年間8万人

だったので激減しています。中国は

年間37万人、韓国は5万人の中で、日

本は2万人。近年、海外に行こうとい

う若者が激減しており、日本人は年

齢に関係なく内向きになってしまっ

ている、という傾向が、この辺のデー

タで示されています。

④世界のイノベーションに鈍感

 

その内向きの結果、日本人は世界

のイノベーションに対して鈍感に

なってしまっているのではないか、

というお話です。

 

2018年にノーベル医学生理学

賞を受賞した本庶佑先生が日本経済

新聞の記事で「日本の大学の成果の

4割はアメリカが活かしており、残

念ながら日本は4分の1程度で、日

本には非常に技術の目利きがいな

い」と嘆いておられました。

 

事例を挙げますと、皆さんご存知

の波形ウエブですが、1965年に

名古屋大学の島田静雄先生が土木学

会論文集に初めて投稿されました。

残念ながら、先生の理論は実際の橋

梁には適用されませんでしたが、20

年後にフランスで、複合構造という

形でこの波形ウエブが登場しました。

フランス人は先生の日本語の論文の

存在を知らなかったそうです。しか

し我々はフランスの技術を、特許料

を支払ってまで、高速道路を中心に

200橋を超えて建設してきました。

逆輸入です、よくいわれるノーベル

賞現象です。私どもの先達が196

5年にこういう世界初の構造を考え

ましたが、残念ながら日本では育た

なかったということになります。こ

の事例からも、日本はイノベーショ

ンに鈍感であることを認識させられ

ます。

 

以上が日本が直面する4つの課題

に関するお話でした。

現在の世界の動き

 

次に、現在の世界の動きとして、①

fibの話、②環境に対する世界の

意識、③建設産業のCO2、という3

つの話をします。

①世界の建設基準を左右するfib

 

まずfibについてです。199

8年に学問分野のヨーロッパ国際コ

ンクリート委員会(ceb)と、実務

分野の国際プレストレストコンク

リート連合(FIP)が合体して、f

ibとなりました。「研究と実務の橋

渡し」というスローガンのもと、メン

バーは大学の先生、特にコンサルタ

ントの方が主流で、私のようなゼネ

コン出身者はマイナーな部類に入り

ます。あとは材料のサプライヤーで

す。活動目的は最先端技術を広める

ことで、基本的に非営利です。個人会

員は約1000人で、42の国と地域

に法人会員があります。

 

私はプレシディアムという意志決

定機関に所属しており、ここで決

まったことを、総会で承認していた

だく。その下に先ほどご紹介した10

の委員会があります。私はこの総会

での投票を得て、正式に2021年

1月1日から会長を務めることにな

りました。日本はもちろんアジア初

です。その会長の国からヤングメン

バーグループという35歳下のグルー

プの主査を出すことになっており、

東京大学大学院工学系研究科の大野

元寛先生に主査をお願いして202

0年の1月に日本のヤングメンバー

グループを発足しました。メンバー

は約40名で、日本人16名、外国人26名

で、企業、大学、学生で、海外のグルー

プと情報交換、会議をやっていきま

す。ぜひ35歳以下の方にメンバーに

なっていただき日本の存在感を出し

てもらいたいです。

日本人が会長になるまで60年

 fibと日本との関わりです。昨年、

創立60周年を迎えたPC工学会は、1

958年にPC技術協会として設立

と同時にfibの前身であるFIPの

メンバーになりました。FIPは195

2年設立で、その設立にはフランスが大

きく関わり、1955年にドイツが入

りました。当時のPC技術協会は、初

代会長が吉田徳次郎先生、二代目は坂

静雄先生でした。このおふたりを中心

とした方々が国際的な学会であるFI

Pに入ろうと考えられていたように思

います。

 FIPの初代会長がフレシネー氏

(Eugene Freyssinet

)、2代目がスペイ

ンのエドワード・トロハ氏(Eduardo

Torroja y Miret

)という構造の先生で

す。3代目がギヨン氏(Yves Guyon

)で

す。1998年からfibになって初代

がビルロージュ氏(M

ichel Virlogeux

)、

その後、実務者の会長が続き、今はオル

セン氏(Tor O

le Olsen

)、2021年か

らは私となります。考えてみると日本人

が会長になるのに60年掛かりました。い

ろいろな先生方が長年関わられてきて、

やっと今、会長職が日本に回ってきたこ

とを重責に感じています。

fibモデルコードは世界に

影響を与えるユーロモデルの原案

 

fibはアウトプットとして技術

広報誌「Structural Concrete

」を

2ヵ月に1回、定期発行しています、

また委員会からはテクニカルレポー

トからモデルコードまでいくつかの

報告書を発行しています。そのモデ

ルコードは、10年に一度改訂してお

り、ちょうど現在、新しく2020年

版を作成中です。今回の改訂での特

筆事項は、サステナビリティの観念

が全体を流れている点です。既設構

造物が新設構造物と同じレベルで、

設計から施工までパラレルになって

いるのも特長です。モデルコードは

後々、ユーロコードに取り込まれて、

研究開発や設計を始め世界の建築市

場に影響を与えるため、委員会の各

国技術者たちは一生懸命です。

②環境への意識が世界的に先鋭化

 

現在協議中ですが、fibは活動

戦略をはっきり表に打ち出そうとし

ています。その骨子は、①持続可能性、

②環境に対する重要性、③社会への

影響、④国際化、⑤新しい挑戦、です。

fibの人員構成は半分がヨーロッ

パ人です。しかし、アジア、中南米、ア

フリカなどいろいろな地域の人が関

わっていかないといけない、真の国

際化に向けてヤングメンバーに積極

的に参加していただきたいというこ

とで、この五つを戦略キーワードに

挙げています。

 

また今後の活動としてサステナビ

リティで支え合う社会、経済、環境と

いう3つの柱に対してどのように対

応していくか。今はまだ経済的なこ

とが多いのですが、いずれは環境の

要素を多くしてひとつの指標として

活動し、世の中にいつでも姿勢を示

せるようにしよう、ということで、今、

やっています。

 

こうした動きの背景には環境に対

する世界的な意識の先鋭化がありま

す。昨今、環境に対する非常にいろい

ろなムーヴメントがありました。皆

さんもご存知のスウェーデンの環境

活動家グレタさんが航空機を批判し

ました。交通トランスポーテーショ

ン(輸送)は全CO2の2割もなく、

航空機はその内のわずか4・5%で

すが、航空機がターゲットにされま

した。

③建設産業のCO2、見える化へ

 

こうした時に最も重要なことは、

CO2の削減に取り組んでいますと

アピールすることです。

 

図9は全世界での建設産業の資源

消費量を示しています。これは45m

×

45mの壁を地球の赤道上に作るの

と同じぐらいの物量を1年間に使っ

ていて、特に中国がすごく資源の消

費をしているということです。

 

国際エネルギー機関(IEA)の

「Global Energy &

CO2 Status

Report 2018」によると人類が排出

する化石燃料由来の全CO2は

331億t、「2018 G

lobal Status Report

」によると世界のエネルギー

使用量のうち建設業の上流側から下

流側すべての行為が占める割合は

40%です。全人類の産業の中で建設

業関連が一番CO2を排出していま

すし、また建設業で使用するコンク

リートのCO2排出量は少なくあり

ませんので、航空機の次にコンク

リート、あるいは建設業が環境活動

家の批判対象になるかもしれません。

 

事実、昨年の2月にイギリスの

ガーディアンという新聞が、「コンク

リートはCO2を大量に排出する

ディストラクティブ・マテリアルで

ある」と抗議しました。それに対しA

CIの会長は「コンクリートは非常

に耐久性のある強靱なものであり、

CO2排出の観点だけでは計れな

い」と、すぐに反論しました。fib

はアクションを起こしていません。

コロナ以降は特に環境に対する意識

が先鋭化していくでしょうから真剣

に考えていかなくてはいけません。

 

国際NGOのCDPは、どれだけ

CO2を出しているのか「見える化」

を要求しています。例えば建物を建

てる時に「あなたの会社は、どれだけ

CO2を出しているのか」と要求され

る時代になり、建設時あるいは材料

の調達時、竣工後のオペレーションで

CO2の排出の「見える化」をやらな

いと排除される世の中が近い将来

やってきます。

 

SDGs(持続可能な開発目標)と

いう考え方ですが、PC工学会には

サステナビリティ委員会(委員長:

加藤佳孝東京理科大学理工学部教

授)があります。PC建協もサステナ

ビリティ委員会と一緒になって、国

内でのプレストレストコンクリート

のCO2に対してどういうアクショ

ンをするか具体的に示していくこと

が大事です。PC工学会では、サステ

ナビリティ宣言をしましたので、そ

の後の具体的なアクションを、PC

建協とPC工学会の皆様が一緒に

なって取り組んでいただければあり

がたいです。

 

2019年の国連気候変動枠組条

約第25回締約国会議(COP25)で日

本は火力発電が多いと批判されまし

た。日本よりもドイツの方が火力の

比率が多いのですが、そのドイツは

何年までにCO2を減らしてゼロに

すると発言しています。できようが

できまいが関係なく、発言している

事実を世界は注目しているので、そ

ういうアクションをとることが大事

なのです。

PCの将来を開く方向性

 このような将来のため、次世代のた

めという世界の潮流を踏まえ、我々は

売れる技術とは何かを考えていかな

ければなりません。そこで、これまでの

日本を少し振り返ってみます。

 

戦前、日本では、吉田徳次郎先生

(元東京大学教授、元土木学会会長)、

仁杉巌氏(元日本国有鉄道総裁、元極

東鋼弦コンクリート振興株式会社取

締役最高顧問)がPCの研究を行って、

戦後になって独自に研究しながら技

術開発を行ってきました。フレシネー

氏がPCの実用特許を取得したのが

1928年ですから、あまり遅れずに

日本も取り組んできたことがわかり

ます。そして終戦から6年後の195

1年、石川県の長生橋が初めてPCで

架設されました。それ以降、10万橋以

上の実績を積み、日本のインフラ発展

に多大な貢献をしたのです。

fib

▲ 図7 : fib加盟国(出所:fib)

▲ 図6 : fibとは(出所:fib)

▲ 図5 : 橋梁におけるノーベル賞現象

 

こうして「海外に追い付け追い越

せ」が日本のモチベーションとなり、

私も2000年までFIP、fib

を含めて海外へ行き、いろいろな素

晴らしい橋梁を数多く見てきました。

 

しかしここに来て、手本がなく

なってきました。2018年の建設

通信新聞も「基本的に全部海外から

の技術移転で、今までインフラを

作ってきたが、ここにきて見習う目

標が見当たらなくなった」という記

事を掲載しています。

①生産性の向上

 

では今後、我々はどこを向いてい

けばいいのか。それは第一に生産性

向上が挙げられます。例えばプレ

キャスト化あるいはデジタルトラン

スフォーメーションを使った技術な

どの利用促進です。2つ目に海外が

持っていないニッチな特化技術の国

際展開。3つ目に、環境に配慮した低

炭素な技術、そしてライフサイクル

コスト(LCC)をトータルで見て最

小最適解を説いていく、という4つ

の方向です。

 

海外のODAでは初期コストが低

いほうが良いとのことでしたが、最

近の大規模更新事業のプロセスを見

るとそれが最適ではないことが明ら

かなため、今後ははっきり言ってい

くべきです。また海外では、現場での

仕事をなくして、できるだけ現場に

入る前にプレキャスト化してモ

ジュール化するオフサイト・コンス

トラクション(オフサイト建設)とい

う流れが始まっています。このほか

日本が得意とする免震に関しては、

橋も建物も含めて、統一された基準

がありませんので、地震国のイタリ

ア、トルコ、アメリカ、ニュージーラ

ンドなどと共同し、fibの中のタ

スクで、免制震技術のデファクトス

タンダードを作っていくのも必要で

す。

 図11はアメリカの労働生産性を10

0とした時の各産業の生産性を比較し

た図です。建設が80%ということは、アメ

リカもそれほど生産性は良くないので

す。建設は一品生産だから、アメリカだろ

うが、ヨーロッパだろうが、日本だろうが、

大変なのです。こうした中、地震のない

オーストラリアと、政府主導によるシン

ガポールが、モジュール化で生産性を向

上させており、こうした傾向についてコン

サルティングファームのマッキンゼーも

「建設産業における価値の源泉は現場

から工場に移る」としています。例えば

ホテルチェーン世界最大手のマリオッ

ト・インターナショナルはニューヨークで

26階建ての高層ビルをプレキャストの部

屋を積み重ね、わずか3ヵ月で作ったそ

うです。またフランスのミヨー高架橋は、

大型プレキャスト化により2・5㎞の

橋を3年で施工しました。今後はできる

だけ部材を大型化して急速施工する技

術をどんどん進化させなければなりま

せん。そしてICT(情報通信技術)です。

特に建築の世界ではBIM(Building

Information M

odeling

)、レーザース

キャナーによる計測、鉄筋組立をロボッ

ト化して生産性を上げています。すべて

がこれに代わるわけではありませんが、

我々も生産性を上げていかなければな

らない現状があります。

②ニッチ分野の基準化

 

ニッチな部分での基準化の成功事

例をご紹介します。2009年にP

C工学会で斜張橋・エクストラドー

ズド橋の設計施工基準を出し、20

12年に英訳をしました。昨年、この

基準の一部をfibのレポートにイ

ンプットし、やっと発行されました。

今、世界中に配っているところです。

このfib版の基準にはPC工学会

の設計の考え方が入っています。A

CIコードとユーロコードで抜けて

いるところを日本が補完していくこ

とで、日本の先進技術を世界に向け

て発信していく。これしか今は方法

がないと考えています。

③イノベーションとLCC

 

耐久性とLCCについてお話しし

ます。現在、イニシャルコスト最少化

が大きな問題を引き起こしています。

維持管理には建設よりも高度な技術

が必要となり、イニシャルコストの

2、3倍くらいメンテナンスコスト

がかかるといわれており、全国で進

んでいるRC床版のPC床版取り替

えには膨大なお金がかかっています。

本来、コンクリート自体は非常に超

高耐久な素材で、2000年前に建

築されたローマのパンテオン神殿が

いまだ健在です。しかし鉄筋が入る

とそうはいきません。イタリア・ジェ

ノバのポルチェベーラ高架橋(通称

モランディ橋)は1967年当時の

最先端技術で建設されたのですが、

特に腐食に対する維持管理が不十分

で2018年に落橋しました。

 

今、弊社では徳島でノンメタルの

橋を作っています。アラミド緊張材

でコンクリートを繋ぐ鉄筋を使わな

い25mの橋にトライをしています。

イニシャルコストは1・5倍かかり

ますが、ほとんどメンテナンスがい

らなくなるのでLCCは最低になり

ます。またアラミド材で緊張力を入

れた桁長10m程度のセメント不使用

のコンクリートプレテン桁を弊社の

PC工場に架設しました。CO2が

7割程度削減され、耐久性と環境に

配慮した新技術の方向のひとつを示

すことができたと思います。

 

SDGsの目標17項目の中で我々

に関係あるのは再生エネルギー、気

候変動、イノベーションです。これら

の目標をにらみながら技術開発を行

うことが今後の大きな流れとしてあ

り、コロナ禍以降はさらに加速され

ていくと考えます。

④サステナビリティを軸に展開を

 PC業界がこれから展開するべき

と考える方向性をまとめます。

施工は現場から工場へ

ニッチな分野での貢献

環境の取り組みは絶対条件

サステナビリティを基本にした低

炭素技術への取り組み

 

今後、施工は現場から工場へ移っ

ていきます。これは担い手確保にも

関係しますが、コロナ禍で現場に人

が集まって施工するリスクを回避す

る意味でも、現場作業をできるだけ

減らしてオフサイト作業を増やすこ

とが流れのひとつとなっていきます。

 

また日本には欧米のようなアンブ

レラコード(包括的な基準)はありま

せんが、ニッチな分野での貢献、特に

環境分野が期待されます。先ほどお

話したように、気候変動に対する世

界の意識が先鋭化していますので、

それに対応できない場合は非常に重

いペナルティ、あるいは市場から淘

汰される社会が近づいています。こ

のような社会が近づいているからこ

そ、サステナビリティを基本にした

低炭素技術への取り組みアクション

を起こし、世の中にアピールしてい

く必要があろうかと思います。その

Euro-International Committee for Concrete

Comite euro-internationale du beton1953

International Federation of Prestressing

Federation internationale de la precontrainte

1952

Page 6: 社会を支えてくださるすべての方々に 感謝を申し上げます...世界にはACI(米国コンクリー まずひとつ目、建設基準のお話で①基準のガラパゴス化日本が直面する4つの課題いてお話をいたします。

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fibfibfib

05  PCプレス 2021 / Jan. / Vol.024

PRESTRESSED CONCRETE CONTRACTORS ASSOCIATION

 

ご紹介いただきました春日です。

本日は、「国内外におけるPC技術の

現状と展望」と題し、日本が直面する

課題、世界の動き、将来の方向性につ

いてお話をいたします。

日本が直面する4つの課題

①基準のガラパゴス化

 

まずひとつ目、建設基準のお話で

す。世界にはACI(米国コンクリー

ト工学協会)のビルディングコード、

CEN(欧州標準化委員会)のユーロ

コード、fib(国際コンクリート連

合)のモデルコードがあります。特に

ACIコードとユーロコードが、世

界を席巻しています。これらのコー

ドの特長はいろいろな構造が含まれ

ている点で、建築、土木、すべての分

野に対応しています。一方、日本では

学協会が土木学会、日本建築学会、P

C工学会などに分かれており、学会

各々で独自の基準を構築しています。

この結果、世界各地で日本のODA

(政府開発援助)で道路や橋が建設さ

手段のひとつとしてPC工学会、P

C建協を含めてサステナビリティ委

員会との協業をお願いします。

 

最後にfibを十分活用してくだ

さい。特に若い方にはオンラインで

参加しやすくなったfibのイベン

トに積極的に参加し、世界の技術開

発を見ていただきたい。参画をお待

ちしています。よろしくお願いいた

します。

 

以上で終わります。ご清聴、ありが

とうございました。

れているにも関わらず、日本の基準

はほぼ使われずに他国の基準で作ら

なければならない状況になっていま

す。縦割り社会の弊害が基準にも現

れているのです。

②日本企業の内向きマインド

 

次に建設市場に注目します。日本

の建設市場は一時期より落ちついて

今は60兆円くらいです。公共投資に

関しては、新設の時代から更新の時

代に入っていくといわれています。

しかしこの60兆円という市場規模は、

ヨーロッパ、アメリカ、中国に続く世

界第4位ということになります。

 

PC建協によると、令和元年度の

PC業界は3000億円程度の受注

があり、そのうちの2000億円が

新設で、残りの1000億円が更新

事業、および維持管理ということで

す。鋼橋、および下部工を含めた橋梁

全体としては日本国内で約7000

億円程度となります。

 

一方、世界に目を向けると500

兆円程度の市場規模があり、拡大基

調にあります。このうち日本企業の

シェアは市場の約0・3%、200

2年から日本も若干増えていますが、

他国に比べて大きな伸びはなく、多

い時でも2兆円程度です。

 

外国の建設会社の海外進出の傾向

を見ると、中国はかなり増え、ドイツ、

スペインも国内にあまり仕事がないの

で増加し、アメリカも海外が増えてい

ます。韓国も高速鉄道、高速道路の整

備が終わり国内の市場がなくなり、や

はり海外に行くしかありません。こう

した傾向とは逆に「日本には60兆円の

国内市場があり、それならあえてリス

クの大きい海外に行く必要はない」と

いう姿勢が見えてきます。

 

日本の建設会社が海外で行う仕事

はODAが中心です。ODAは借款、

無償資金協力、技術協力といったも

のがありますが、本邦技術活用条件

(STEP)案件の借款や無償資金協

力は日本縛りのシステムで、当然、海

外からは参加できません。このため、

海外の会社とコスト競争のある一般

円借款には消極的というのが日本の

建設会社の現状です。これは、投資先、

出資先の国から見るとやる気がない

と見られます。また日本の建設技術

は確かに高いのですが、相手はその

高い水準を要求していません。過剰

な水準は、コスト高になるので、お金

を借りる国としては安い建設会社の

方がいいのです。加えて、日本の建設

会社は先進国と比べると財務能力が

低く、前払金をもらわないとプロ

ジェクトに参加できないことが日本

に対するマイナス評価につながって

しまっています。我々も一生懸命に

やっているのですが、「良かろう、高

かろうは、いりません」というのが残

念ながら世界の見方になっています。

③海外志向が薄れつつある若者

 

3つ目に、先ほどの基準に関連す

るお話を交えてご紹介します。fi

bには委員会が10あり、各国・各地

域の委員は自分たちの技術情報を積

極的に発信しています。そのうちタ

スクグループ5・5(委員長:睦好

宏史埼玉大学名誉教授)というケー

ブルに関する委員会には日本人が5

人参加しており、自分たちのノウハ

ウをいかに入れ込むか非常に熾烈な

戦いを行いました。しかしその他の

委員会には、ほぼ日本人はおらず(全

委員301人/日本人委員18人)、こ

ういうところでの発信力が弱いため、

基準に日本の技術情報が入らないの

です。

 

一方、日本の若者の動向を見ると、

アメリカへの留学生は年間2万人未

満です。2004年が年間8万人

だったので激減しています。中国は

年間37万人、韓国は5万人の中で、日

本は2万人。近年、海外に行こうとい

う若者が激減しており、日本人は年

齢に関係なく内向きになってしまっ

ている、という傾向が、この辺のデー

タで示されています。

④世界のイノベーションに鈍感

 

その内向きの結果、日本人は世界

のイノベーションに対して鈍感に

なってしまっているのではないか、

というお話です。

 

2018年にノーベル医学生理学

賞を受賞した本庶佑先生が日本経済

新聞の記事で「日本の大学の成果の

4割はアメリカが活かしており、残

念ながら日本は4分の1程度で、日

本には非常に技術の目利きがいな

い」と嘆いておられました。

 

事例を挙げますと、皆さんご存知

の波形ウエブですが、1965年に

名古屋大学の島田静雄先生が土木学

会論文集に初めて投稿されました。

残念ながら、先生の理論は実際の橋

梁には適用されませんでしたが、20

年後にフランスで、複合構造という

形でこの波形ウエブが登場しました。

フランス人は先生の日本語の論文の

存在を知らなかったそうです。しか

し我々はフランスの技術を、特許料

を支払ってまで、高速道路を中心に

200橋を超えて建設してきました。

逆輸入です、よくいわれるノーベル

賞現象です。私どもの先達が196

5年にこういう世界初の構造を考え

ましたが、残念ながら日本では育た

なかったということになります。こ

の事例からも、日本はイノベーショ

ンに鈍感であることを認識させられ

ます。

 

以上が日本が直面する4つの課題

に関するお話でした。

現在の世界の動き

 

次に、現在の世界の動きとして、①

fibの話、②環境に対する世界の

意識、③建設産業のCO2、という3

つの話をします。

①世界の建設基準を左右するfib

 

まずfibについてです。199

8年に学問分野のヨーロッパ国際コ

ンクリート委員会(ceb)と、実務

分野の国際プレストレストコンク

リート連合(FIP)が合体して、f

ibとなりました。「研究と実務の橋

渡し」というスローガンのもと、メン

バーは大学の先生、特にコンサルタ

ントの方が主流で、私のようなゼネ

コン出身者はマイナーな部類に入り

ます。あとは材料のサプライヤーで

す。活動目的は最先端技術を広める

ことで、基本的に非営利です。個人会

員は約1000人で、42の国と地域

に法人会員があります。

 

私はプレシディアムという意志決

定機関に所属しており、ここで決

まったことを、総会で承認していた

だく。その下に先ほどご紹介した10

の委員会があります。私はこの総会

での投票を得て、正式に2021年

1月1日から会長を務めることにな

りました。日本はもちろんアジア初

です。その会長の国からヤングメン

バーグループという35歳下のグルー

プの主査を出すことになっており、

東京大学大学院工学系研究科の大野

元寛先生に主査をお願いして202

0年の1月に日本のヤングメンバー

グループを発足しました。メンバー

は約40名で、日本人16名、外国人26名

で、企業、大学、学生で、海外のグルー

プと情報交換、会議をやっていきま

す。ぜひ35歳以下の方にメンバーに

なっていただき日本の存在感を出し

てもらいたいです。

日本人が会長になるまで60年

 fibと日本との関わりです。昨年、

創立60周年を迎えたPC工学会は、1

958年にPC技術協会として設立

と同時にfibの前身であるFIPの

メンバーになりました。FIPは195

2年設立で、その設立にはフランスが大

きく関わり、1955年にドイツが入

りました。当時のPC技術協会は、初

代会長が吉田徳次郎先生、二代目は坂

静雄先生でした。このおふたりを中心

とした方々が国際的な学会であるFI

Pに入ろうと考えられていたように思

います。

 FIPの初代会長がフレシネー氏

(Eugene Freyssinet

)、2代目がスペイ

ンのエドワード・トロハ氏(Eduardo

Torroja y Miret

)という構造の先生で

す。3代目がギヨン氏(Yves Guyon

)で

す。1998年からfibになって初代

がビルロージュ氏(M

ichel Virlogeux

)、

その後、実務者の会長が続き、今はオル

セン氏(Tor O

le Olsen

)、2021年か

らは私となります。考えてみると日本人

が会長になるのに60年掛かりました。い

ろいろな先生方が長年関わられてきて、

やっと今、会長職が日本に回ってきたこ

とを重責に感じています。

fibモデルコードは世界に

影響を与えるユーロモデルの原案

 

fibはアウトプットとして技術

広報誌「Structural Concrete

」を

2ヵ月に1回、定期発行しています、

また委員会からはテクニカルレポー

トからモデルコードまでいくつかの

報告書を発行しています。そのモデ

ルコードは、10年に一度改訂してお

り、ちょうど現在、新しく2020年

版を作成中です。今回の改訂での特

筆事項は、サステナビリティの観念

が全体を流れている点です。既設構

造物が新設構造物と同じレベルで、

設計から施工までパラレルになって

いるのも特長です。モデルコードは

後々、ユーロコードに取り込まれて、

研究開発や設計を始め世界の建築市

場に影響を与えるため、委員会の各

国技術者たちは一生懸命です。

②環境への意識が世界的に先鋭化

 

現在協議中ですが、fibは活動

戦略をはっきり表に打ち出そうとし

ています。その骨子は、①持続可能性、

②環境に対する重要性、③社会への

影響、④国際化、⑤新しい挑戦、です。

fibの人員構成は半分がヨーロッ

パ人です。しかし、アジア、中南米、ア

フリカなどいろいろな地域の人が関

わっていかないといけない、真の国

際化に向けてヤングメンバーに積極

的に参加していただきたいというこ

とで、この五つを戦略キーワードに

挙げています。

 

また今後の活動としてサステナビ

リティで支え合う社会、経済、環境と

いう3つの柱に対してどのように対

応していくか。今はまだ経済的なこ

とが多いのですが、いずれは環境の

要素を多くしてひとつの指標として

活動し、世の中にいつでも姿勢を示

せるようにしよう、ということで、今、

やっています。

 

こうした動きの背景には環境に対

する世界的な意識の先鋭化がありま

す。昨今、環境に対する非常にいろい

ろなムーヴメントがありました。皆

さんもご存知のスウェーデンの環境

活動家グレタさんが航空機を批判し

ました。交通トランスポーテーショ

ン(輸送)は全CO2の2割もなく、

航空機はその内のわずか4・5%で

すが、航空機がターゲットにされま

した。

③建設産業のCO2、見える化へ

 

こうした時に最も重要なことは、

CO2の削減に取り組んでいますと

アピールすることです。

 

図9は全世界での建設産業の資源

消費量を示しています。これは45m

×

45mの壁を地球の赤道上に作るの

と同じぐらいの物量を1年間に使っ

ていて、特に中国がすごく資源の消

費をしているということです。

 

国際エネルギー機関(IEA)の

「Global Energy &

CO2 Status

Report 2018

」によると人類が排出

する化石燃料由来の全CO2は

331億t、「2018 G

lobal Status Report

」によると世界のエネルギー

使用量のうち建設業の上流側から下

流側すべての行為が占める割合は

40%です。全人類の産業の中で建設

業関連が一番CO2を排出していま

すし、また建設業で使用するコンク

リートのCO2排出量は少なくあり

ませんので、航空機の次にコンク

リート、あるいは建設業が環境活動

家の批判対象になるかもしれません。

 

事実、昨年の2月にイギリスの

ガーディアンという新聞が、「コンク

リートはCO2を大量に排出する

ディストラクティブ・マテリアルで

ある」と抗議しました。それに対しA

CIの会長は「コンクリートは非常

に耐久性のある強靱なものであり、

CO2排出の観点だけでは計れな

い」と、すぐに反論しました。fib

はアクションを起こしていません。

コロナ以降は特に環境に対する意識

が先鋭化していくでしょうから真剣

に考えていかなくてはいけません。

 

国際NGOのCDPは、どれだけ

CO2を出しているのか「見える化」

を要求しています。例えば建物を建

てる時に「あなたの会社は、どれだけ

CO2を出しているのか」と要求され

る時代になり、建設時あるいは材料

の調達時、竣工後のオペレーションで

CO2の排出の「見える化」をやらな

いと排除される世の中が近い将来

やってきます。

 

SDGs(持続可能な開発目標)と

いう考え方ですが、PC工学会には

サステナビリティ委員会(委員長:

加藤佳孝東京理科大学理工学部教

授)があります。PC建協もサステナ

ビリティ委員会と一緒になって、国

内でのプレストレストコンクリート

のCO2に対してどういうアクショ

ンをするか具体的に示していくこと

が大事です。PC工学会では、サステ

ナビリティ宣言をしましたので、そ

の後の具体的なアクションを、PC

建協とPC工学会の皆様が一緒に

なって取り組んでいただければあり

がたいです。

 

2019年の国連気候変動枠組条

約第25回締約国会議(COP25)で日

本は火力発電が多いと批判されまし

た。日本よりもドイツの方が火力の

比率が多いのですが、そのドイツは

何年までにCO2を減らしてゼロに

すると発言しています。できようが

できまいが関係なく、発言している

事実を世界は注目しているので、そ

ういうアクションをとることが大事

なのです。

PCの将来を開く方向性

 このような将来のため、次世代のた

めという世界の潮流を踏まえ、我々は

売れる技術とは何かを考えていかな

ければなりません。そこで、これまでの

日本を少し振り返ってみます。

 

戦前、日本では、吉田徳次郎先生

(元東京大学教授、元土木学会会長)、

仁杉巌氏(元日本国有鉄道総裁、元極

東鋼弦コンクリート振興株式会社取

締役最高顧問)がPCの研究を行って、

戦後になって独自に研究しながら技

術開発を行ってきました。フレシネー

氏がPCの実用特許を取得したのが

1928年ですから、あまり遅れずに

日本も取り組んできたことがわかり

ます。そして終戦から6年後の195

1年、石川県の長生橋が初めてPCで

架設されました。それ以降、10万橋以

上の実績を積み、日本のインフラ発展

に多大な貢献をしたのです。

▲ 図8 : Model Code(10年ごとの改訂)(出所:fib)

▲ 図9 : 建設産業の年間資源消費量

 

こうして「海外に追い付け追い越

せ」が日本のモチベーションとなり、

私も2000年までFIP、fib

を含めて海外へ行き、いろいろな素

晴らしい橋梁を数多く見てきました。

 

しかしここに来て、手本がなく

なってきました。2018年の建設

通信新聞も「基本的に全部海外から

の技術移転で、今までインフラを

作ってきたが、ここにきて見習う目

標が見当たらなくなった」という記

事を掲載しています。

①生産性の向上

 

では今後、我々はどこを向いてい

けばいいのか。それは第一に生産性

向上が挙げられます。例えばプレ

キャスト化あるいはデジタルトラン

スフォーメーションを使った技術な

どの利用促進です。2つ目に海外が

持っていないニッチな特化技術の国

際展開。3つ目に、環境に配慮した低

炭素な技術、そしてライフサイクル

コスト(LCC)をトータルで見て最

小最適解を説いていく、という4つ

の方向です。

 

海外のODAでは初期コストが低

いほうが良いとのことでしたが、最

近の大規模更新事業のプロセスを見

るとそれが最適ではないことが明ら

かなため、今後ははっきり言ってい

くべきです。また海外では、現場での

仕事をなくして、できるだけ現場に

入る前にプレキャスト化してモ

ジュール化するオフサイト・コンス

トラクション(オフサイト建設)とい

う流れが始まっています。このほか

日本が得意とする免震に関しては、

橋も建物も含めて、統一された基準

がありませんので、地震国のイタリ

ア、トルコ、アメリカ、ニュージーラ

ンドなどと共同し、fibの中のタ

スクで、免制震技術のデファクトス

タンダードを作っていくのも必要で

す。

 図11はアメリカの労働生産性を10

0とした時の各産業の生産性を比較し

た図です。建設が80%ということは、アメ

リカもそれほど生産性は良くないので

す。建設は一品生産だから、アメリカだろ

うが、ヨーロッパだろうが、日本だろうが、

大変なのです。こうした中、地震のない

オーストラリアと、政府主導によるシン

ガポールが、モジュール化で生産性を向

上させており、こうした傾向についてコン

サルティングファームのマッキンゼーも

「建設産業における価値の源泉は現場

から工場に移る」としています。例えば

ホテルチェーン世界最大手のマリオッ

ト・インターナショナルはニューヨークで

26階建ての高層ビルをプレキャストの部

屋を積み重ね、わずか3ヵ月で作ったそ

うです。またフランスのミヨー高架橋は、

大型プレキャスト化により2・5㎞の

橋を3年で施工しました。今後はできる

だけ部材を大型化して急速施工する技

術をどんどん進化させなければなりま

せん。そしてICT(情報通信技術)です。

特に建築の世界ではBIM(Building

Information M

odeling

)、レーザース

キャナーによる計測、鉄筋組立をロボッ

ト化して生産性を上げています。すべて

がこれに代わるわけではありませんが、

我々も生産性を上げていかなければな

らない現状があります。

②ニッチ分野の基準化

 

ニッチな部分での基準化の成功事

例をご紹介します。2009年にP

C工学会で斜張橋・エクストラドー

ズド橋の設計施工基準を出し、20

12年に英訳をしました。昨年、この

基準の一部をfibのレポートにイ

ンプットし、やっと発行されました。

今、世界中に配っているところです。

このfib版の基準にはPC工学会

の設計の考え方が入っています。A

CIコードとユーロコードで抜けて

いるところを日本が補完していくこ

とで、日本の先進技術を世界に向け

て発信していく。これしか今は方法

がないと考えています。

③イノベーションとLCC

 

耐久性とLCCについてお話しし

ます。現在、イニシャルコスト最少化

が大きな問題を引き起こしています。

維持管理には建設よりも高度な技術

が必要となり、イニシャルコストの

2、3倍くらいメンテナンスコスト

がかかるといわれており、全国で進

んでいるRC床版のPC床版取り替

えには膨大なお金がかかっています。

本来、コンクリート自体は非常に超

高耐久な素材で、2000年前に建

築されたローマのパンテオン神殿が

いまだ健在です。しかし鉄筋が入る

とそうはいきません。イタリア・ジェ

ノバのポルチェベーラ高架橋(通称

モランディ橋)は1967年当時の

最先端技術で建設されたのですが、

特に腐食に対する維持管理が不十分

で2018年に落橋しました。

 

今、弊社では徳島でノンメタルの

橋を作っています。アラミド緊張材

でコンクリートを繋ぐ鉄筋を使わな

い25mの橋にトライをしています。

イニシャルコストは1・5倍かかり

ますが、ほとんどメンテナンスがい

らなくなるのでLCCは最低になり

ます。またアラミド材で緊張力を入

れた桁長10m程度のセメント不使用

のコンクリートプレテン桁を弊社の

PC工場に架設しました。CO2が

7割程度削減され、耐久性と環境に

配慮した新技術の方向のひとつを示

すことができたと思います。

 

SDGsの目標17項目の中で我々

に関係あるのは再生エネルギー、気

候変動、イノベーションです。これら

の目標をにらみながら技術開発を行

うことが今後の大きな流れとしてあ

り、コロナ禍以降はさらに加速され

ていくと考えます。

④サステナビリティを軸に展開を

 PC業界がこれから展開するべき

と考える方向性をまとめます。

施工は現場から工場へ

ニッチな分野での貢献

環境の取り組みは絶対条件

サステナビリティを基本にした低

炭素技術への取り組み

 

今後、施工は現場から工場へ移っ

ていきます。これは担い手確保にも

関係しますが、コロナ禍で現場に人

が集まって施工するリスクを回避す

る意味でも、現場作業をできるだけ

減らしてオフサイト作業を増やすこ

とが流れのひとつとなっていきます。

 

また日本には欧米のようなアンブ

レラコード(包括的な基準)はありま

せんが、ニッチな分野での貢献、特に

環境分野が期待されます。先ほどお

話したように、気候変動に対する世

界の意識が先鋭化していますので、

それに対応できない場合は非常に重

いペナルティ、あるいは市場から淘

汰される社会が近づいています。こ

のような社会が近づいているからこ

そ、サステナビリティを基本にした

低炭素技術への取り組みアクション

を起こし、世の中にアピールしてい

く必要があろうかと思います。その

赤道上に45m×45mの壁を作る !!

赤道上に45m×45mの壁を作る !!

Page 7: 社会を支えてくださるすべての方々に 感謝を申し上げます...世界にはACI(米国コンクリー まずひとつ目、建設基準のお話で①基準のガラパゴス化日本が直面する4つの課題いてお話をいたします。

PC プレス 2021 / Jan. / Vol.024  06

 

ご紹介いただきました春日です。

本日は、「国内外におけるPC技術の

現状と展望」と題し、日本が直面する

課題、世界の動き、将来の方向性につ

いてお話をいたします。

日本が直面する4つの課題

①基準のガラパゴス化

 

まずひとつ目、建設基準のお話で

す。世界にはACI(米国コンクリー

ト工学協会)のビルディングコード、

CEN(欧州標準化委員会)のユーロ

コード、fib(国際コンクリート連

合)のモデルコードがあります。特に

ACIコードとユーロコードが、世

界を席巻しています。これらのコー

ドの特長はいろいろな構造が含まれ

ている点で、建築、土木、すべての分

野に対応しています。一方、日本では

学協会が土木学会、日本建築学会、P

C工学会などに分かれており、学会

各々で独自の基準を構築しています。

この結果、世界各地で日本のODA

(政府開発援助)で道路や橋が建設さ

手段のひとつとしてPC工学会、P

C建協を含めてサステナビリティ委

員会との協業をお願いします。

 

最後にfibを十分活用してくだ

さい。特に若い方にはオンラインで

参加しやすくなったfibのイベン

トに積極的に参加し、世界の技術開

発を見ていただきたい。参画をお待

ちしています。よろしくお願いいた

します。

 

以上で終わります。ご清聴、ありが

とうございました。

れているにも関わらず、日本の基準

はほぼ使われずに他国の基準で作ら

なければならない状況になっていま

す。縦割り社会の弊害が基準にも現

れているのです。

②日本企業の内向きマインド

 

次に建設市場に注目します。日本

の建設市場は一時期より落ちついて

今は60兆円くらいです。公共投資に

関しては、新設の時代から更新の時

代に入っていくといわれています。

しかしこの60兆円という市場規模は、

ヨーロッパ、アメリカ、中国に続く世

界第4位ということになります。

 

PC建協によると、令和元年度の

PC業界は3000億円程度の受注

があり、そのうちの2000億円が

新設で、残りの1000億円が更新

事業、および維持管理ということで

す。鋼橋、および下部工を含めた橋梁

全体としては日本国内で約7000

億円程度となります。

 

一方、世界に目を向けると500

兆円程度の市場規模があり、拡大基

調にあります。このうち日本企業の

シェアは市場の約0・3%、200

2年から日本も若干増えていますが、

他国に比べて大きな伸びはなく、多

い時でも2兆円程度です。

 

外国の建設会社の海外進出の傾向

を見ると、中国はかなり増え、ドイツ、

スペインも国内にあまり仕事がないの

で増加し、アメリカも海外が増えてい

ます。韓国も高速鉄道、高速道路の整

備が終わり国内の市場がなくなり、や

はり海外に行くしかありません。こう

した傾向とは逆に「日本には60兆円の

国内市場があり、それならあえてリス

クの大きい海外に行く必要はない」と

いう姿勢が見えてきます。

 

日本の建設会社が海外で行う仕事

はODAが中心です。ODAは借款、

無償資金協力、技術協力といったも

のがありますが、本邦技術活用条件

(STEP)案件の借款や無償資金協

力は日本縛りのシステムで、当然、海

外からは参加できません。このため、

海外の会社とコスト競争のある一般

円借款には消極的というのが日本の

建設会社の現状です。これは、投資先、

出資先の国から見るとやる気がない

と見られます。また日本の建設技術

は確かに高いのですが、相手はその

高い水準を要求していません。過剰

な水準は、コスト高になるので、お金

を借りる国としては安い建設会社の

方がいいのです。加えて、日本の建設

会社は先進国と比べると財務能力が

低く、前払金をもらわないとプロ

ジェクトに参加できないことが日本

に対するマイナス評価につながって

しまっています。我々も一生懸命に

やっているのですが、「良かろう、高

かろうは、いりません」というのが残

念ながら世界の見方になっています。

③海外志向が薄れつつある若者

 

3つ目に、先ほどの基準に関連す

るお話を交えてご紹介します。fi

bには委員会が10あり、各国・各地

域の委員は自分たちの技術情報を積

極的に発信しています。そのうちタ

スクグループ5・5(委員長:睦好

宏史埼玉大学名誉教授)というケー

ブルに関する委員会には日本人が5

人参加しており、自分たちのノウハ

ウをいかに入れ込むか非常に熾烈な

戦いを行いました。しかしその他の

委員会には、ほぼ日本人はおらず(全

委員301人/日本人委員18人)、こ

ういうところでの発信力が弱いため、

基準に日本の技術情報が入らないの

です。

 

一方、日本の若者の動向を見ると、

アメリカへの留学生は年間2万人未

満です。2004年が年間8万人

だったので激減しています。中国は

年間37万人、韓国は5万人の中で、日

本は2万人。近年、海外に行こうとい

う若者が激減しており、日本人は年

齢に関係なく内向きになってしまっ

ている、という傾向が、この辺のデー

タで示されています。

④世界のイノベーションに鈍感

 

その内向きの結果、日本人は世界

のイノベーションに対して鈍感に

なってしまっているのではないか、

というお話です。

 

2018年にノーベル医学生理学

賞を受賞した本庶佑先生が日本経済

新聞の記事で「日本の大学の成果の

4割はアメリカが活かしており、残

念ながら日本は4分の1程度で、日

本には非常に技術の目利きがいな

い」と嘆いておられました。

 

事例を挙げますと、皆さんご存知

の波形ウエブですが、1965年に

名古屋大学の島田静雄先生が土木学

会論文集に初めて投稿されました。

残念ながら、先生の理論は実際の橋

梁には適用されませんでしたが、20

年後にフランスで、複合構造という

形でこの波形ウエブが登場しました。

フランス人は先生の日本語の論文の

存在を知らなかったそうです。しか

し我々はフランスの技術を、特許料

を支払ってまで、高速道路を中心に

200橋を超えて建設してきました。

逆輸入です、よくいわれるノーベル

賞現象です。私どもの先達が196

5年にこういう世界初の構造を考え

ましたが、残念ながら日本では育た

なかったということになります。こ

の事例からも、日本はイノベーショ

ンに鈍感であることを認識させられ

ます。

 

以上が日本が直面する4つの課題

に関するお話でした。

現在の世界の動き

 

次に、現在の世界の動きとして、①

fibの話、②環境に対する世界の

意識、③建設産業のCO2、という3

つの話をします。

①世界の建設基準を左右するfib

 

まずfibについてです。199

8年に学問分野のヨーロッパ国際コ

ンクリート委員会(ceb)と、実務

分野の国際プレストレストコンク

リート連合(FIP)が合体して、f

ibとなりました。「研究と実務の橋

渡し」というスローガンのもと、メン

バーは大学の先生、特にコンサルタ

ントの方が主流で、私のようなゼネ

コン出身者はマイナーな部類に入り

ます。あとは材料のサプライヤーで

す。活動目的は最先端技術を広める

ことで、基本的に非営利です。個人会

員は約1000人で、42の国と地域

に法人会員があります。

 

私はプレシディアムという意志決

定機関に所属しており、ここで決

まったことを、総会で承認していた

だく。その下に先ほどご紹介した10

の委員会があります。私はこの総会

での投票を得て、正式に2021年

1月1日から会長を務めることにな

りました。日本はもちろんアジア初

です。その会長の国からヤングメン

バーグループという35歳下のグルー

プの主査を出すことになっており、

東京大学大学院工学系研究科の大野

元寛先生に主査をお願いして202

0年の1月に日本のヤングメンバー

グループを発足しました。メンバー

は約40名で、日本人16名、外国人26名

で、企業、大学、学生で、海外のグルー

プと情報交換、会議をやっていきま

す。ぜひ35歳以下の方にメンバーに

なっていただき日本の存在感を出し

てもらいたいです。

日本人が会長になるまで60年

 fibと日本との関わりです。昨年、

創立60周年を迎えたPC工学会は、1

958年にPC技術協会として設立

と同時にfibの前身であるFIPの

メンバーになりました。FIPは195

2年設立で、その設立にはフランスが大

きく関わり、1955年にドイツが入

りました。当時のPC技術協会は、初

代会長が吉田徳次郎先生、二代目は坂

静雄先生でした。このおふたりを中心

とした方々が国際的な学会であるFI

Pに入ろうと考えられていたように思

います。

 FIPの初代会長がフレシネー氏

(Eugene Freyssinet

)、2代目がスペイ

ンのエドワード・トロハ氏(Eduardo

Torroja y Miret

)という構造の先生で

す。3代目がギヨン氏(Yves Guyon

)で

す。1998年からfibになって初代

がビルロージュ氏(M

ichel Virlogeux

)、

その後、実務者の会長が続き、今はオル

セン氏(Tor O

le Olsen

)、2021年か

らは私となります。考えてみると日本人

が会長になるのに60年掛かりました。い

ろいろな先生方が長年関わられてきて、

やっと今、会長職が日本に回ってきたこ

とを重責に感じています。

fibモデルコードは世界に

影響を与えるユーロモデルの原案

 

fibはアウトプットとして技術

広報誌「Structural Concrete

」を

2ヵ月に1回、定期発行しています、

また委員会からはテクニカルレポー

トからモデルコードまでいくつかの

報告書を発行しています。そのモデ

ルコードは、10年に一度改訂してお

り、ちょうど現在、新しく2020年

版を作成中です。今回の改訂での特

筆事項は、サステナビリティの観念

が全体を流れている点です。既設構

造物が新設構造物と同じレベルで、

設計から施工までパラレルになって

いるのも特長です。モデルコードは

後々、ユーロコードに取り込まれて、

研究開発や設計を始め世界の建築市

場に影響を与えるため、委員会の各

国技術者たちは一生懸命です。

②環境への意識が世界的に先鋭化

 

現在協議中ですが、fibは活動

戦略をはっきり表に打ち出そうとし

ています。その骨子は、①持続可能性、

②環境に対する重要性、③社会への

影響、④国際化、⑤新しい挑戦、です。

fibの人員構成は半分がヨーロッ

パ人です。しかし、アジア、中南米、ア

フリカなどいろいろな地域の人が関

わっていかないといけない、真の国

際化に向けてヤングメンバーに積極

的に参加していただきたいというこ

とで、この五つを戦略キーワードに

挙げています。

 

また今後の活動としてサステナビ

リティで支え合う社会、経済、環境と

いう3つの柱に対してどのように対

応していくか。今はまだ経済的なこ

とが多いのですが、いずれは環境の

要素を多くしてひとつの指標として

活動し、世の中にいつでも姿勢を示

せるようにしよう、ということで、今、

やっています。

 

こうした動きの背景には環境に対

する世界的な意識の先鋭化がありま

す。昨今、環境に対する非常にいろい

ろなムーヴメントがありました。皆

さんもご存知のスウェーデンの環境

活動家グレタさんが航空機を批判し

ました。交通トランスポーテーショ

ン(輸送)は全CO2の2割もなく、

航空機はその内のわずか4・5%で

すが、航空機がターゲットにされま

した。

③建設産業のCO2、見える化へ

 

こうした時に最も重要なことは、

CO2の削減に取り組んでいますと

アピールすることです。

 

図9は全世界での建設産業の資源

消費量を示しています。これは45m

×

45mの壁を地球の赤道上に作るの

と同じぐらいの物量を1年間に使っ

ていて、特に中国がすごく資源の消

費をしているということです。

 

国際エネルギー機関(IEA)の

「Global Energy &

CO2 Status

Report 2018

」によると人類が排出

する化石燃料由来の全CO2は

331億t、「2018 G

lobal Status Report

」によると世界のエネルギー

使用量のうち建設業の上流側から下

流側すべての行為が占める割合は

40%です。全人類の産業の中で建設

業関連が一番CO2を排出していま

すし、また建設業で使用するコンク

リートのCO2排出量は少なくあり

ませんので、航空機の次にコンク

リート、あるいは建設業が環境活動

家の批判対象になるかもしれません。

 

事実、昨年の2月にイギリスの

ガーディアンという新聞が、「コンク

リートはCO2を大量に排出する

ディストラクティブ・マテリアルで

ある」と抗議しました。それに対しA

CIの会長は「コンクリートは非常

に耐久性のある強靱なものであり、

CO2排出の観点だけでは計れな

い」と、すぐに反論しました。fib

はアクションを起こしていません。

コロナ以降は特に環境に対する意識

が先鋭化していくでしょうから真剣

に考えていかなくてはいけません。

 

国際NGOのCDPは、どれだけ

CO2を出しているのか「見える化」

を要求しています。例えば建物を建

てる時に「あなたの会社は、どれだけ

CO2を出しているのか」と要求され

る時代になり、建設時あるいは材料

の調達時、竣工後のオペレーションで

CO2の排出の「見える化」をやらな

いと排除される世の中が近い将来

やってきます。

 

SDGs(持続可能な開発目標)と

いう考え方ですが、PC工学会には

サステナビリティ委員会(委員長:

加藤佳孝東京理科大学理工学部教

授)があります。PC建協もサステナ

ビリティ委員会と一緒になって、国

内でのプレストレストコンクリート

のCO2に対してどういうアクショ

ンをするか具体的に示していくこと

が大事です。PC工学会では、サステ

ナビリティ宣言をしましたので、そ

の後の具体的なアクションを、PC

建協とPC工学会の皆様が一緒に

なって取り組んでいただければあり

がたいです。

 

2019年の国連気候変動枠組条

約第25回締約国会議(COP25)で日

本は火力発電が多いと批判されまし

た。日本よりもドイツの方が火力の

比率が多いのですが、そのドイツは

何年までにCO2を減らしてゼロに

すると発言しています。できようが

できまいが関係なく、発言している

事実を世界は注目しているので、そ

ういうアクションをとることが大事

なのです。

PCの将来を開く方向性

 このような将来のため、次世代のた

めという世界の潮流を踏まえ、我々は

売れる技術とは何かを考えていかな

ければなりません。そこで、これまでの

日本を少し振り返ってみます。

 

戦前、日本では、吉田徳次郎先生

(元東京大学教授、元土木学会会長)、

仁杉巌氏(元日本国有鉄道総裁、元極

東鋼弦コンクリート振興株式会社取

締役最高顧問)がPCの研究を行って、

戦後になって独自に研究しながら技

術開発を行ってきました。フレシネー

氏がPCの実用特許を取得したのが

1928年ですから、あまり遅れずに

日本も取り組んできたことがわかり

ます。そして終戦から6年後の195

1年、石川県の長生橋が初めてPCで

架設されました。それ以降、10万橋以

上の実績を積み、日本のインフラ発展

に多大な貢献をしたのです。

▲ 図10 : 日本の先駆者たちの功績。戦後、独仏にあまり遅れることなくPCの研究に着手し、早期に実用化。

 

こうして「海外に追い付け追い越

せ」が日本のモチベーションとなり、

私も2000年までFIP、fib

を含めて海外へ行き、いろいろな素

晴らしい橋梁を数多く見てきました。

 

しかしここに来て、手本がなく

なってきました。2018年の建設

通信新聞も「基本的に全部海外から

の技術移転で、今までインフラを

作ってきたが、ここにきて見習う目

標が見当たらなくなった」という記

事を掲載しています。

①生産性の向上

 

では今後、我々はどこを向いてい

けばいいのか。それは第一に生産性

向上が挙げられます。例えばプレ

キャスト化あるいはデジタルトラン

スフォーメーションを使った技術な

どの利用促進です。2つ目に海外が

持っていないニッチな特化技術の国

際展開。3つ目に、環境に配慮した低

炭素な技術、そしてライフサイクル

コスト(LCC)をトータルで見て最

小最適解を説いていく、という4つ

の方向です。

 

海外のODAでは初期コストが低

いほうが良いとのことでしたが、最

近の大規模更新事業のプロセスを見

るとそれが最適ではないことが明ら

かなため、今後ははっきり言ってい

くべきです。また海外では、現場での

仕事をなくして、できるだけ現場に

入る前にプレキャスト化してモ

ジュール化するオフサイト・コンス

トラクション(オフサイト建設)とい

う流れが始まっています。このほか

日本が得意とする免震に関しては、

橋も建物も含めて、統一された基準

がありませんので、地震国のイタリ

ア、トルコ、アメリカ、ニュージーラ

ンドなどと共同し、fibの中のタ

スクで、免制震技術のデファクトス

タンダードを作っていくのも必要で

す。

 図11はアメリカの労働生産性を10

0とした時の各産業の生産性を比較し

た図です。建設が80%ということは、アメ

リカもそれほど生産性は良くないので

す。建設は一品生産だから、アメリカだろ

うが、ヨーロッパだろうが、日本だろうが、

大変なのです。こうした中、地震のない

オーストラリアと、政府主導によるシン

ガポールが、モジュール化で生産性を向

上させており、こうした傾向についてコン

サルティングファームのマッキンゼーも

「建設産業における価値の源泉は現場

から工場に移る」としています。例えば

ホテルチェーン世界最大手のマリオッ

ト・インターナショナルはニューヨークで

26階建ての高層ビルをプレキャストの部

屋を積み重ね、わずか3ヵ月で作ったそ

うです。またフランスのミヨー高架橋は、

大型プレキャスト化により2・5㎞の

橋を3年で施工しました。今後はできる

だけ部材を大型化して急速施工する技

術をどんどん進化させなければなりま

せん。そしてICT(情報通信技術)です。

特に建築の世界ではBIM(Building

Information M

odeling

)、レーザース

キャナーによる計測、鉄筋組立をロボッ

ト化して生産性を上げています。すべて

がこれに代わるわけではありませんが、

我々も生産性を上げていかなければな

らない現状があります。

②ニッチ分野の基準化

 

ニッチな部分での基準化の成功事

例をご紹介します。2009年にP

C工学会で斜張橋・エクストラドー

ズド橋の設計施工基準を出し、20

12年に英訳をしました。昨年、この

基準の一部をfibのレポートにイ

ンプットし、やっと発行されました。

今、世界中に配っているところです。

このfib版の基準にはPC工学会

の設計の考え方が入っています。A

CIコードとユーロコードで抜けて

いるところを日本が補完していくこ

とで、日本の先進技術を世界に向け

て発信していく。これしか今は方法

がないと考えています。

③イノベーションとLCC

 

耐久性とLCCについてお話しし

ます。現在、イニシャルコスト最少化

が大きな問題を引き起こしています。

維持管理には建設よりも高度な技術

が必要となり、イニシャルコストの

2、3倍くらいメンテナンスコスト

がかかるといわれており、全国で進

んでいるRC床版のPC床版取り替

えには膨大なお金がかかっています。

本来、コンクリート自体は非常に超

高耐久な素材で、2000年前に建

築されたローマのパンテオン神殿が

いまだ健在です。しかし鉄筋が入る

とそうはいきません。イタリア・ジェ

ノバのポルチェベーラ高架橋(通称

モランディ橋)は1967年当時の

最先端技術で建設されたのですが、

特に腐食に対する維持管理が不十分

で2018年に落橋しました。

 

今、弊社では徳島でノンメタルの

橋を作っています。アラミド緊張材

でコンクリートを繋ぐ鉄筋を使わな

い25mの橋にトライをしています。

イニシャルコストは1・5倍かかり

ますが、ほとんどメンテナンスがい

らなくなるのでLCCは最低になり

ます。またアラミド材で緊張力を入

れた桁長10m程度のセメント不使用

のコンクリートプレテン桁を弊社の

PC工場に架設しました。CO2が

7割程度削減され、耐久性と環境に

配慮した新技術の方向のひとつを示

すことができたと思います。

 

SDGsの目標17項目の中で我々

に関係あるのは再生エネルギー、気

候変動、イノベーションです。これら

の目標をにらみながら技術開発を行

うことが今後の大きな流れとしてあ

り、コロナ禍以降はさらに加速され

ていくと考えます。

④サステナビリティを軸に展開を

 PC業界がこれから展開するべき

と考える方向性をまとめます。

施工は現場から工場へ

ニッチな分野での貢献

環境の取り組みは絶対条件

サステナビリティを基本にした低

炭素技術への取り組み

 

今後、施工は現場から工場へ移っ

ていきます。これは担い手確保にも

関係しますが、コロナ禍で現場に人

が集まって施工するリスクを回避す

る意味でも、現場作業をできるだけ

減らしてオフサイト作業を増やすこ

とが流れのひとつとなっていきます。

 

また日本には欧米のようなアンブ

レラコード(包括的な基準)はありま

せんが、ニッチな分野での貢献、特に

環境分野が期待されます。先ほどお

話したように、気候変動に対する世

界の意識が先鋭化していますので、

それに対応できない場合は非常に重

いペナルティ、あるいは市場から淘

汰される社会が近づいています。こ

のような社会が近づいているからこ

そ、サステナビリティを基本にした

低炭素技術への取り組みアクション

を起こし、世の中にアピールしてい

く必要があろうかと思います。その

鉄道技術研究所(現鉄道総合研究所)内に鋼弦コンクリート委員会(1941年)吉田徳次郎先生と仁杉巌氏によって研究が始まる。

商工省(現経済産業省)内に「鋼弦コンクリート小委員会」(1946年)(フレシネー工法の特許延長の影響)

PCまくら木

第一大戸川橋梁(滋賀県甲賀市信楽)  日本初の本格的なPC橋梁で国の  登録有形文化財に登録(1954年)

写真提供:極東鋼弦コンクリート振興株式会社

Page 8: 社会を支えてくださるすべての方々に 感謝を申し上げます...世界にはACI(米国コンクリー まずひとつ目、建設基準のお話で①基準のガラパゴス化日本が直面する4つの課題いてお話をいたします。

07  PCプレス 2021 / Jan. / Vol.024

PRESTRESSED CONCRETE CONTRACTORS ASSOCIATION

 

ご紹介いただきました春日です。

本日は、「国内外におけるPC技術の

現状と展望」と題し、日本が直面する

課題、世界の動き、将来の方向性につ

いてお話をいたします。

日本が直面する4つの課題

①基準のガラパゴス化

 

まずひとつ目、建設基準のお話で

す。世界にはACI(米国コンクリー

ト工学協会)のビルディングコード、

CEN(欧州標準化委員会)のユーロ

コード、fib(国際コンクリート連

合)のモデルコードがあります。特に

ACIコードとユーロコードが、世

界を席巻しています。これらのコー

ドの特長はいろいろな構造が含まれ

ている点で、建築、土木、すべての分

野に対応しています。一方、日本では

学協会が土木学会、日本建築学会、P

C工学会などに分かれており、学会

各々で独自の基準を構築しています。

この結果、世界各地で日本のODA

(政府開発援助)で道路や橋が建設さ

そ、サステナビリティを基本にした

低炭素技術への取り組みアクション

を起こし、世の中にアピールしてい

く必要があろうかと思います。その

手段のひとつとしてPC工学会、P

C建協を含めてサステナビリティ委

員会との協業をお願いします。

 

最後にfibを十分活用してくだ

さい。特に若い方にはオンラインで

参加しやすくなったfibのイベン

トに積極的に参加し、世界の技術開

発を見ていただきたい。参画をお待

ちしています。よろしくお願いいた

します。

 

以上で終わります。ご清聴、ありが

とうございました。

れているにも関わらず、日本の基準

はほぼ使われずに他国の基準で作ら

なければならない状況になっていま

す。縦割り社会の弊害が基準にも現

れているのです。

②日本企業の内向きマインド

 

次に建設市場に注目します。日本

の建設市場は一時期より落ちついて

今は60兆円くらいです。公共投資に

関しては、新設の時代から更新の時

代に入っていくといわれています。

しかしこの60兆円という市場規模は、

ヨーロッパ、アメリカ、中国に続く世

界第4位ということになります。

 

PC建協によると、令和元年度の

PC業界は3000億円程度の受注

があり、そのうちの2000億円が

新設で、残りの1000億円が更新

事業、および維持管理ということで

す。鋼橋、および下部工を含めた橋梁

全体としては日本国内で約7000

億円程度となります。

 

一方、世界に目を向けると500

兆円程度の市場規模があり、拡大基

調にあります。このうち日本企業の

シェアは市場の約0・3%、200

2年から日本も若干増えていますが、

他国に比べて大きな伸びはなく、多

い時でも2兆円程度です。

 

外国の建設会社の海外進出の傾向

を見ると、中国はかなり増え、ドイツ、

スペインも国内にあまり仕事がないの

で増加し、アメリカも海外が増えてい

ます。韓国も高速鉄道、高速道路の整

備が終わり国内の市場がなくなり、や

はり海外に行くしかありません。こう

した傾向とは逆に「日本には60兆円の

国内市場があり、それならあえてリス

クの大きい海外に行く必要はない」と

いう姿勢が見えてきます。

 

日本の建設会社が海外で行う仕事

はODAが中心です。ODAは借款、

無償資金協力、技術協力といったも

のがありますが、本邦技術活用条件

(STEP)案件の借款や無償資金協

力は日本縛りのシステムで、当然、海

外からは参加できません。このため、

海外の会社とコスト競争のある一般

円借款には消極的というのが日本の

建設会社の現状です。これは、投資先、

出資先の国から見るとやる気がない

と見られます。また日本の建設技術

は確かに高いのですが、相手はその

高い水準を要求していません。過剰

な水準は、コスト高になるので、お金

を借りる国としては安い建設会社の

方がいいのです。加えて、日本の建設

会社は先進国と比べると財務能力が

低く、前払金をもらわないとプロ

ジェクトに参加できないことが日本

に対するマイナス評価につながって

しまっています。我々も一生懸命に

やっているのですが、「良かろう、高

かろうは、いりません」というのが残

念ながら世界の見方になっています。

③海外志向が薄れつつある若者

 

3つ目に、先ほどの基準に関連す

るお話を交えてご紹介します。fi

bには委員会が10あり、各国・各地

域の委員は自分たちの技術情報を積

極的に発信しています。そのうちタ

スクグループ5・5(委員長:睦好

宏史埼玉大学名誉教授)というケー

ブルに関する委員会には日本人が5

人参加しており、自分たちのノウハ

ウをいかに入れ込むか非常に熾烈な

戦いを行いました。しかしその他の

委員会には、ほぼ日本人はおらず(全

委員301人/日本人委員18人)、こ

ういうところでの発信力が弱いため、

基準に日本の技術情報が入らないの

です。

 

一方、日本の若者の動向を見ると、

アメリカへの留学生は年間2万人未

満です。2004年が年間8万人

だったので激減しています。中国は

年間37万人、韓国は5万人の中で、日

本は2万人。近年、海外に行こうとい

う若者が激減しており、日本人は年

齢に関係なく内向きになってしまっ

ている、という傾向が、この辺のデー

タで示されています。

④世界のイノベーションに鈍感

 

その内向きの結果、日本人は世界

のイノベーションに対して鈍感に

なってしまっているのではないか、

というお話です。

 

2018年にノーベル医学生理学

賞を受賞した本庶佑先生が日本経済

新聞の記事で「日本の大学の成果の

4割はアメリカが活かしており、残

念ながら日本は4分の1程度で、日

本には非常に技術の目利きがいな

い」と嘆いておられました。

 

事例を挙げますと、皆さんご存知

の波形ウエブですが、1965年に

名古屋大学の島田静雄先生が土木学

会論文集に初めて投稿されました。

残念ながら、先生の理論は実際の橋

梁には適用されませんでしたが、20

年後にフランスで、複合構造という

形でこの波形ウエブが登場しました。

フランス人は先生の日本語の論文の

存在を知らなかったそうです。しか

し我々はフランスの技術を、特許料

を支払ってまで、高速道路を中心に

200橋を超えて建設してきました。

逆輸入です、よくいわれるノーベル

賞現象です。私どもの先達が196

5年にこういう世界初の構造を考え

ましたが、残念ながら日本では育た

なかったということになります。こ

の事例からも、日本はイノベーショ

ンに鈍感であることを認識させられ

ます。

 

以上が日本が直面する4つの課題

に関するお話でした。

現在の世界の動き

 

次に、現在の世界の動きとして、①

fibの話、②環境に対する世界の

意識、③建設産業のCO2、という3

つの話をします。

①世界の建設基準を左右するfib

 

まずfibについてです。199

8年に学問分野のヨーロッパ国際コ

ンクリート委員会(ceb)と、実務

分野の国際プレストレストコンク

リート連合(FIP)が合体して、f

ibとなりました。「研究と実務の橋

渡し」というスローガンのもと、メン

バーは大学の先生、特にコンサルタ

ントの方が主流で、私のようなゼネ

コン出身者はマイナーな部類に入り

ます。あとは材料のサプライヤーで

す。活動目的は最先端技術を広める

ことで、基本的に非営利です。個人会

員は約1000人で、42の国と地域

に法人会員があります。

 

私はプレシディアムという意志決

定機関に所属しており、ここで決

まったことを、総会で承認していた

だく。その下に先ほどご紹介した10

の委員会があります。私はこの総会

での投票を得て、正式に2021年

1月1日から会長を務めることにな

りました。日本はもちろんアジア初

です。その会長の国からヤングメン

バーグループという35歳下のグルー

プの主査を出すことになっており、

東京大学大学院工学系研究科の大野

元寛先生に主査をお願いして202

0年の1月に日本のヤングメンバー

グループを発足しました。メンバー

は約40名で、日本人16名、外国人26名

で、企業、大学、学生で、海外のグルー

プと情報交換、会議をやっていきま

す。ぜひ35歳以下の方にメンバーに

なっていただき日本の存在感を出し

てもらいたいです。

日本人が会長になるまで60年

 fibと日本との関わりです。昨年、

創立60周年を迎えたPC工学会は、1

958年にPC技術協会として設立

と同時にfibの前身であるFIPの

メンバーになりました。FIPは195

2年設立で、その設立にはフランスが大

きく関わり、1955年にドイツが入

りました。当時のPC技術協会は、初

代会長が吉田徳次郎先生、二代目は坂

静雄先生でした。このおふたりを中心

とした方々が国際的な学会であるFI

Pに入ろうと考えられていたように思

います。

 FIPの初代会長がフレシネー氏

(Eugene Freyssinet

)、2代目がスペイ

ンのエドワード・トロハ氏(Eduardo

Torroja y Miret

)という構造の先生で

す。3代目がギヨン氏(Yves Guyon

)で

す。1998年からfibになって初代

がビルロージュ氏(M

ichel Virlogeux

)、

その後、実務者の会長が続き、今はオル

セン氏(Tor O

le Olsen

)、2021年か

らは私となります。考えてみると日本人

が会長になるのに60年掛かりました。い

ろいろな先生方が長年関わられてきて、

やっと今、会長職が日本に回ってきたこ

とを重責に感じています。

fibモデルコードは世界に

影響を与えるユーロモデルの原案

 

fibはアウトプットとして技術

広報誌「Structural Concrete

」を

2ヵ月に1回、定期発行しています、

また委員会からはテクニカルレポー

トからモデルコードまでいくつかの

報告書を発行しています。そのモデ

ルコードは、10年に一度改訂してお

り、ちょうど現在、新しく2020年

版を作成中です。今回の改訂での特

筆事項は、サステナビリティの観念

が全体を流れている点です。既設構

造物が新設構造物と同じレベルで、

設計から施工までパラレルになって

いるのも特長です。モデルコードは

後々、ユーロコードに取り込まれて、

研究開発や設計を始め世界の建築市

場に影響を与えるため、委員会の各

国技術者たちは一生懸命です。

②環境への意識が世界的に先鋭化

 

現在協議中ですが、fibは活動

戦略をはっきり表に打ち出そうとし

ています。その骨子は、①持続可能性、

②環境に対する重要性、③社会への

影響、④国際化、⑤新しい挑戦、です。

fibの人員構成は半分がヨーロッ

パ人です。しかし、アジア、中南米、ア

フリカなどいろいろな地域の人が関

わっていかないといけない、真の国

際化に向けてヤングメンバーに積極

的に参加していただきたいというこ

とで、この五つを戦略キーワードに

挙げています。

 

また今後の活動としてサステナビ

リティで支え合う社会、経済、環境と

いう3つの柱に対してどのように対

応していくか。今はまだ経済的なこ

とが多いのですが、いずれは環境の

要素を多くしてひとつの指標として

活動し、世の中にいつでも姿勢を示

せるようにしよう、ということで、今、

やっています。

 

こうした動きの背景には環境に対

する世界的な意識の先鋭化がありま

す。昨今、環境に対する非常にいろい

ろなムーヴメントがありました。皆

さんもご存知のスウェーデンの環境

活動家グレタさんが航空機を批判し

ました。交通トランスポーテーショ

ン(輸送)は全CO2の2割もなく、

航空機はその内のわずか4・5%で

すが、航空機がターゲットにされま

した。

③建設産業のCO2、見える化へ

 

こうした時に最も重要なことは、

CO2の削減に取り組んでいますと

アピールすることです。

 

図9は全世界での建設産業の資源

消費量を示しています。これは45m

×

45mの壁を地球の赤道上に作るの

と同じぐらいの物量を1年間に使っ

ていて、特に中国がすごく資源の消

費をしているということです。

 

国際エネルギー機関(IEA)の

「Global Energy &

CO2 Status

Report 2018

」によると人類が排出

する化石燃料由来の全CO2は

331億t、「2018 G

lobal Status Report

」によると世界のエネルギー

使用量のうち建設業の上流側から下

流側すべての行為が占める割合は

40%です。全人類の産業の中で建設

業関連が一番CO2を排出していま

すし、また建設業で使用するコンク

リートのCO2排出量は少なくあり

ませんので、航空機の次にコンク

リート、あるいは建設業が環境活動

家の批判対象になるかもしれません。

 

事実、昨年の2月にイギリスの

ガーディアンという新聞が、「コンク

リートはCO2を大量に排出する

ディストラクティブ・マテリアルで

ある」と抗議しました。それに対しA

CIの会長は「コンクリートは非常

に耐久性のある強靱なものであり、

CO2排出の観点だけでは計れな

い」と、すぐに反論しました。fib

はアクションを起こしていません。

コロナ以降は特に環境に対する意識

が先鋭化していくでしょうから真剣

に考えていかなくてはいけません。

 

国際NGOのCDPは、どれだけ

CO2を出しているのか「見える化」

を要求しています。例えば建物を建

てる時に「あなたの会社は、どれだけ

CO2を出しているのか」と要求され

る時代になり、建設時あるいは材料

の調達時、竣工後のオペレーションで

CO2の排出の「見える化」をやらな

いと排除される世の中が近い将来

やってきます。

 

SDGs(持続可能な開発目標)と

いう考え方ですが、PC工学会には

サステナビリティ委員会(委員長:

加藤佳孝東京理科大学理工学部教

授)があります。PC建協もサステナ

ビリティ委員会と一緒になって、国

内でのプレストレストコンクリート

のCO2に対してどういうアクショ

ンをするか具体的に示していくこと

が大事です。PC工学会では、サステ

ナビリティ宣言をしましたので、そ

の後の具体的なアクションを、PC

建協とPC工学会の皆様が一緒に

なって取り組んでいただければあり

がたいです。

 

2019年の国連気候変動枠組条

約第25回締約国会議(COP25)で日

本は火力発電が多いと批判されまし

た。日本よりもドイツの方が火力の

比率が多いのですが、そのドイツは

何年までにCO2を減らしてゼロに

すると発言しています。できようが

できまいが関係なく、発言している

事実を世界は注目しているので、そ

ういうアクションをとることが大事

なのです。

PCの将来を開く方向性

 このような将来のため、次世代のた

めという世界の潮流を踏まえ、我々は

売れる技術とは何かを考えていかな

ければなりません。そこで、これまでの

日本を少し振り返ってみます。

 

戦前、日本では、吉田徳次郎先生

(元東京大学教授、元土木学会会長)、

仁杉巌氏(元日本国有鉄道総裁、元極

東鋼弦コンクリート振興株式会社取

締役最高顧問)がPCの研究を行って、

戦後になって独自に研究しながら技

術開発を行ってきました。フレシネー

氏がPCの実用特許を取得したのが

1928年ですから、あまり遅れずに

日本も取り組んできたことがわかり

ます。そして終戦から6年後の195

1年、石川県の長生橋が初めてPCで

架設されました。それ以降、10万橋以

上の実績を積み、日本のインフラ発展

に多大な貢献をしたのです。

 

こうして「海外に追い付け追い越

せ」が日本のモチベーションとなり、

私も2000年までFIP、fib

を含めて海外へ行き、いろいろな素

晴らしい橋梁を数多く見てきました。

 

しかしここに来て、手本がなく

なってきました。2018年の建設

通信新聞も「基本的に全部海外から

の技術移転で、今までインフラを

作ってきたが、ここにきて見習う目

標が見当たらなくなった」という記

事を掲載しています。

①生産性の向上

 

では今後、我々はどこを向いてい

けばいいのか。それは第一に生産性

向上が挙げられます。例えばプレ

キャスト化あるいはデジタルトラン

スフォーメーションを使った技術な

どの利用促進です。2つ目に海外が

持っていないニッチな特化技術の国

際展開。3つ目に、環境に配慮した低

炭素な技術、そしてライフサイクル

コスト(LCC)をトータルで見て最

小最適解を説いていく、という4つ

の方向です。

 

海外のODAでは初期コストが低

いほうが良いとのことでしたが、最

近の大規模更新事業のプロセスを見

るとそれが最適ではないことが明ら

かなため、今後ははっきり言ってい

くべきです。また海外では、現場での

仕事をなくして、できるだけ現場に

入る前にプレキャスト化してモ

ジュール化するオフサイト・コンス

トラクション(オフサイト建設)とい

う流れが始まっています。この

ほか日本が得意とする免震に

関しては、橋も建物も含めて、

統一された基準がありません

ので、地震国のイタリア、トル

コ、アメリカ、ニュージーラン

ドなどと共同し、fibの中の

タスクで、免制震技術のデファ

クトスタンダードを作ってい

くのも必要です。

 図11はアメリカの労働生産性

を100とした時の各産業の生

産性を比較した図です。建設が

80%ということは、アメリカもそ

れほど生産性は良くないのです。

建設は一品生産だから、アメリカ

だろうが、ヨーロッパだろうが、日

本だろうが、大変なのです。こうし

た中、地震のないオーストラリア

と、政府主導によるシンガポール

が、モジュール化で生産性を向上

させており、こうした傾向について

コンサルティングファームのマッキ

ンゼーも「建設産業における価値

の源泉は現場から工場に移る」と

しています。例えばホテルチェーン

世界最大手のマリオット・イン

ターナショナルはニューヨークで

26階建ての高層ビルをプレキャス

トの部屋を積み重ね、わずか3ヵ月で

作ったそうです。またフランスのミヨー

高架橋は、大型プレキャスト化により

2・5㎞の橋を3年で施工しました。今

後はできるだけ部材を大型化して急速

施工する技術をどんどん進化させなけ

ればなりません。そしてICT(情報通

信技術)です。特に建築の世界ではBI

M(Building Information M

odeling

)、

レーザースキャナーによる計測、鉄筋組

立をロボット化して生産性を上げてい

ます。すべてがこれに代わるわけではあ

りませんが、我々も生産性を上げていか

なければならない現状があります。

②ニッチ分野の基準化

 

ニッチな部分での基準化の成功事

例をご紹介します。2009年にP

C工学会で斜張橋・エクストラドー

ズド橋の設計施工基準を出し、20

12年に英訳をしました。昨年、この

基準の一部をfibのレポートにイ

ンプットし、やっと発行されました。

今、世界中に配っているところです。

このfib版の基準にはPC工学会

の設計の考え方が入っています。A

CIコードとユーロコードで抜けて

いるところを日本が補完していくこ

とで、日本の先進技術を世界に向け

て発信していく。これしか今は方法

がないと考えています。

③イノベーションとLCC

 

耐久性とLCCについてお話しし

ます。現在、イニシャルコスト最少化

が大きな問題を引き起こしています。

維持管理には建設よりも高度な技術

が必要となり、イニシャルコストの

2、3倍くらいメンテナンスコスト

がかかるといわれており、全国で進

んでいるRC床版のPC床版取り替

えには膨大なお金がかかっています。

本来、コンクリート自体は非常に超

高耐久な素材で、2000年前に建

築されたローマのパンテオン神殿が

いまだ健在です。しかし鉄筋が入る

とそうはいきません。イタリア・ジェ

ノバのポルチェベーラ高架橋(通称

モランディ橋)は1967年当時の

最先端技術で建設されたのですが、

特に腐食に対する維持管理が不十分

で2018年に落橋しました。

 

今、弊社では徳島でノンメタルの

橋を作っています。アラミド緊張材

でコンクリートを繋ぐ鉄筋を使わな

い25mの橋にトライをしています。

イニシャルコストは1・5倍かかり

ますが、ほとんどメンテナンスがい

らなくなるのでLCCは最低になり

ます。またアラミド材で緊張力を入

れた桁長10m程度のセメント不使用

のコンクリートプレテン桁を弊社の

PC工場に架設しました。CO2が

7割程度削減され、耐久性と環境に

配慮した新技術の方向のひとつを示

すことができたと思います。

 

SDGsの目標17項目の中で我々

に関係あるのは再生エネルギー、気

候変動、イノベーションです。これら

の目標をにらみながら技術開発を行

うことが今後の大きな流れとしてあ

り、コロナ禍以降はさらに加速され

ていくと考えます。

④サステナビリティを軸に展開を

 PC業界がこれから展開するべき

と考える方向性をまとめます。

施工は現場から工場へ

ニッチな分野での貢献

環境の取り組みは絶対条件

サステナビリティを基本にした低

炭素技術への取り組み

 

今後、施工は現場から工場へ移っ

ていきます。これは担い手確保にも

関係しますが、コロナ禍で現場に人

が集まって施工するリスクを回避す

る意味でも、現場作業をできるだけ

減らしてオフサイト作業を増やすこ

とが流れのひとつとなっていきます。

 

また日本には欧米のようなアンブ

レラコード(包括的な基準)はありま

せんが、ニッチな分野での貢献、特に

環境分野が期待されます。先ほどお

話したように、気候変動に対する世

界の意識が先鋭化していますので、

それに対応できない場合は非常に重

いペナルティ、あるいは市場から淘

汰される社会が近づいています。こ

のような社会が近づいているからこ

プレキャストの推進

図11:産業別における米国との比較

 (出所:滝澤美帆「産業別労働生産性水準の国際比較」(「日

 本生産性本部

生産性レポートvol.13

」(2020年5月)を

 もとにPC建協で作成)

128.3

化学

建設

一次金属・

金属製品

汎用・生産用・

業務用機械、

電子、電気機械、

情報・通信機器

金融・保険

輸送用機械

専門・科学技術、

業務支援サービ

ス業

その他サービス

その他製造業

運輸・郵便

食料品

宿泊・飲食

電気・ガス・水道

販売・小売

不動産

情報・通信

75.464.0 60.8 58.6

51.0 46.1 43.1 38.536.632.6 32.3 27.1 20.6

13.9 6.52.9

79.4

100

50

0

0 20 40 60 80

61.4

米国の生産性水準(=100)

製造業全体:69.8サービス業全体:48.7

縦軸:労働生産性水準(米国=100) 横軸:付加価値シェア(%)(2017年)

▲ 図12 : プレキャストの推進

Page 9: 社会を支えてくださるすべての方々に 感謝を申し上げます...世界にはACI(米国コンクリー まずひとつ目、建設基準のお話で①基準のガラパゴス化日本が直面する4つの課題いてお話をいたします。

PC プレス 2021 / Jan. / Vol.024  08

 

ご紹介いただきました春日です。

本日は、「国内外におけるPC技術の

現状と展望」と題し、日本が直面する

課題、世界の動き、将来の方向性につ

いてお話をいたします。

日本が直面する4つの課題

①基準のガラパゴス化

 

まずひとつ目、建設基準のお話で

す。世界にはACI(米国コンクリー

ト工学協会)のビルディングコード、

CEN(欧州標準化委員会)のユーロ

コード、fib(国際コンクリート連

合)のモデルコードがあります。特に

ACIコードとユーロコードが、世

界を席巻しています。これらのコー

ドの特長はいろいろな構造が含まれ

ている点で、建築、土木、すべての分

野に対応しています。一方、日本では

学協会が土木学会、日本建築学会、P

C工学会などに分かれており、学会

各々で独自の基準を構築しています。

この結果、世界各地で日本のODA

(政府開発援助)で道路や橋が建設さ

手段のひとつとしてPC工学会、P

C建協を含めてサステナビリティ委

員会との協業をお願いします。

 

最後にfibを十分活用してくだ

さい。特に若い方にはオンラインで

参加しやすくなったfibのイベン

トに積極的に参加し、世界の技術開

発を見ていただきたい。参画をお待

ちしています。よろしくお願いいた

します。

 

以上で終わります。ご清聴、ありが

とうございました。

れているにも関わらず、日本の基準

はほぼ使われずに他国の基準で作ら

なければならない状況になっていま

す。縦割り社会の弊害が基準にも現

れているのです。

②日本企業の内向きマインド

 

次に建設市場に注目します。日本

の建設市場は一時期より落ちついて

今は60兆円くらいです。公共投資に

関しては、新設の時代から更新の時

代に入っていくといわれています。

しかしこの60兆円という市場規模は、

ヨーロッパ、アメリカ、中国に続く世

界第4位ということになります。

 

PC建協によると、令和元年度の

PC業界は3000億円程度の受注

があり、そのうちの2000億円が

新設で、残りの1000億円が更新

事業、および維持管理ということで

す。鋼橋、および下部工を含めた橋梁

全体としては日本国内で約7000

億円程度となります。

 

一方、世界に目を向けると500

兆円程度の市場規模があり、拡大基

調にあります。このうち日本企業の

シェアは市場の約0・3%、200

2年から日本も若干増えていますが、

他国に比べて大きな伸びはなく、多

い時でも2兆円程度です。

 

外国の建設会社の海外進出の傾向

を見ると、中国はかなり増え、ドイツ、

スペインも国内にあまり仕事がないの

で増加し、アメリカも海外が増えてい

ます。韓国も高速鉄道、高速道路の整

備が終わり国内の市場がなくなり、や

はり海外に行くしかありません。こう

した傾向とは逆に「日本には60兆円の

国内市場があり、それならあえてリス

クの大きい海外に行く必要はない」と

いう姿勢が見えてきます。

 

日本の建設会社が海外で行う仕事

はODAが中心です。ODAは借款、

無償資金協力、技術協力といったも

のがありますが、本邦技術活用条件

(STEP)案件の借款や無償資金協

力は日本縛りのシステムで、当然、海

外からは参加できません。このため、

海外の会社とコスト競争のある一般

円借款には消極的というのが日本の

建設会社の現状です。これは、投資先、

出資先の国から見るとやる気がない

と見られます。また日本の建設技術

は確かに高いのですが、相手はその

高い水準を要求していません。過剰

な水準は、コスト高になるので、お金

を借りる国としては安い建設会社の

方がいいのです。加えて、日本の建設

会社は先進国と比べると財務能力が

低く、前払金をもらわないとプロ

ジェクトに参加できないことが日本

に対するマイナス評価につながって

しまっています。我々も一生懸命に

やっているのですが、「良かろう、高

かろうは、いりません」というのが残

念ながら世界の見方になっています。

③海外志向が薄れつつある若者

 

3つ目に、先ほどの基準に関連す

るお話を交えてご紹介します。fi

bには委員会が10あり、各国・各地

域の委員は自分たちの技術情報を積

極的に発信しています。そのうちタ

スクグループ5・5(委員長:睦好

宏史埼玉大学名誉教授)というケー

ブルに関する委員会には日本人が5

人参加しており、自分たちのノウハ

ウをいかに入れ込むか非常に熾烈な

戦いを行いました。しかしその他の

委員会には、ほぼ日本人はおらず(全

委員301人/日本人委員18人)、こ

ういうところでの発信力が弱いため、

基準に日本の技術情報が入らないの

です。

 

一方、日本の若者の動向を見ると、

アメリカへの留学生は年間2万人未

満です。2004年が年間8万人

だったので激減しています。中国は

年間37万人、韓国は5万人の中で、日

本は2万人。近年、海外に行こうとい

う若者が激減しており、日本人は年

齢に関係なく内向きになってしまっ

ている、という傾向が、この辺のデー

タで示されています。

④世界のイノベーションに鈍感

 

その内向きの結果、日本人は世界

のイノベーションに対して鈍感に

なってしまっているのではないか、

というお話です。

 

2018年にノーベル医学生理学

賞を受賞した本庶佑先生が日本経済

新聞の記事で「日本の大学の成果の

4割はアメリカが活かしており、残

念ながら日本は4分の1程度で、日

本には非常に技術の目利きがいな

い」と嘆いておられました。

 

事例を挙げますと、皆さんご存知

の波形ウエブですが、1965年に

名古屋大学の島田静雄先生が土木学

会論文集に初めて投稿されました。

残念ながら、先生の理論は実際の橋

梁には適用されませんでしたが、20

年後にフランスで、複合構造という

形でこの波形ウエブが登場しました。

フランス人は先生の日本語の論文の

存在を知らなかったそうです。しか

し我々はフランスの技術を、特許料

を支払ってまで、高速道路を中心に

200橋を超えて建設してきました。

逆輸入です、よくいわれるノーベル

賞現象です。私どもの先達が196

5年にこういう世界初の構造を考え

ましたが、残念ながら日本では育た

なかったということになります。こ

の事例からも、日本はイノベーショ

ンに鈍感であることを認識させられ

ます。

 

以上が日本が直面する4つの課題

に関するお話でした。

現在の世界の動き

 

次に、現在の世界の動きとして、①

fibの話、②環境に対する世界の

意識、③建設産業のCO2、という3

つの話をします。

①世界の建設基準を左右するfib

 

まずfibについてです。199

8年に学問分野のヨーロッパ国際コ

ンクリート委員会(ceb)と、実務

分野の国際プレストレストコンク

リート連合(FIP)が合体して、f

ibとなりました。「研究と実務の橋

渡し」というスローガンのもと、メン

バーは大学の先生、特にコンサルタ

ントの方が主流で、私のようなゼネ

コン出身者はマイナーな部類に入り

ます。あとは材料のサプライヤーで

す。活動目的は最先端技術を広める

ことで、基本的に非営利です。個人会

員は約1000人で、42の国と地域

に法人会員があります。

 

私はプレシディアムという意志決

定機関に所属しており、ここで決

まったことを、総会で承認していた

だく。その下に先ほどご紹介した10

の委員会があります。私はこの総会

での投票を得て、正式に2021年

1月1日から会長を務めることにな

りました。日本はもちろんアジア初

です。その会長の国からヤングメン

バーグループという35歳下のグルー

プの主査を出すことになっており、

東京大学大学院工学系研究科の大野

元寛先生に主査をお願いして202

0年の1月に日本のヤングメンバー

グループを発足しました。メンバー

は約40名で、日本人16名、外国人26名

で、企業、大学、学生で、海外のグルー

プと情報交換、会議をやっていきま

す。ぜひ35歳以下の方にメンバーに

なっていただき日本の存在感を出し

てもらいたいです。

日本人が会長になるまで60年

 fibと日本との関わりです。昨年、

創立60周年を迎えたPC工学会は、1

958年にPC技術協会として設立

と同時にfibの前身であるFIPの

メンバーになりました。FIPは195

2年設立で、その設立にはフランスが大

きく関わり、1955年にドイツが入

りました。当時のPC技術協会は、初

代会長が吉田徳次郎先生、二代目は坂

静雄先生でした。このおふたりを中心

とした方々が国際的な学会であるFI

Pに入ろうと考えられていたように思

います。

 FIPの初代会長がフレシネー氏

(Eugene Freyssinet

)、2代目がスペイ

ンのエドワード・トロハ氏(Eduardo

Torroja y Miret

)という構造の先生で

す。3代目がギヨン氏(Yves Guyon

)で

す。1998年からfibになって初代

がビルロージュ氏(M

ichel Virlogeux

)、

その後、実務者の会長が続き、今はオル

セン氏(Tor O

le Olsen

)、2021年か

らは私となります。考えてみると日本人

が会長になるのに60年掛かりました。い

ろいろな先生方が長年関わられてきて、

やっと今、会長職が日本に回ってきたこ

とを重責に感じています。

fibモデルコードは世界に

影響を与えるユーロモデルの原案

 

fibはアウトプットとして技術

広報誌「Structural Concrete

」を

2ヵ月に1回、定期発行しています、

また委員会からはテクニカルレポー

トからモデルコードまでいくつかの

報告書を発行しています。そのモデ

ルコードは、10年に一度改訂してお

り、ちょうど現在、新しく2020年

版を作成中です。今回の改訂での特

筆事項は、サステナビリティの観念

が全体を流れている点です。既設構

造物が新設構造物と同じレベルで、

設計から施工までパラレルになって

いるのも特長です。モデルコードは

後々、ユーロコードに取り込まれて、

研究開発や設計を始め世界の建築市

場に影響を与えるため、委員会の各

国技術者たちは一生懸命です。

②環境への意識が世界的に先鋭化

 

現在協議中ですが、fibは活動

戦略をはっきり表に打ち出そうとし

ています。その骨子は、①持続可能性、

②環境に対する重要性、③社会への

影響、④国際化、⑤新しい挑戦、です。

fibの人員構成は半分がヨーロッ

パ人です。しかし、アジア、中南米、ア

フリカなどいろいろな地域の人が関

わっていかないといけない、真の国

際化に向けてヤングメンバーに積極

的に参加していただきたいというこ

とで、この五つを戦略キーワードに

挙げています。

 

また今後の活動としてサステナビ

リティで支え合う社会、経済、環境と

いう3つの柱に対してどのように対

応していくか。今はまだ経済的なこ

とが多いのですが、いずれは環境の

要素を多くしてひとつの指標として

活動し、世の中にいつでも姿勢を示

せるようにしよう、ということで、今、

やっています。

 

こうした動きの背景には環境に対

する世界的な意識の先鋭化がありま

す。昨今、環境に対する非常にいろい

ろなムーヴメントがありました。皆

さんもご存知のスウェーデンの環境

活動家グレタさんが航空機を批判し

ました。交通トランスポーテーショ

ン(輸送)は全CO2の2割もなく、

航空機はその内のわずか4・5%で

すが、航空機がターゲットにされま

した。

③建設産業のCO2、見える化へ

 

こうした時に最も重要なことは、

CO2の削減に取り組んでいますと

アピールすることです。

 

図9は全世界での建設産業の資源

消費量を示しています。これは45m

×

45mの壁を地球の赤道上に作るの

と同じぐらいの物量を1年間に使っ

ていて、特に中国がすごく資源の消

費をしているということです。

 

国際エネルギー機関(IEA)の

「Global Energy &

CO2 Status

Report 2018

」によると人類が排出

する化石燃料由来の全CO2は

331億t、「2018 G

lobal Status Report

」によると世界のエネルギー

使用量のうち建設業の上流側から下

流側すべての行為が占める割合は

40%です。全人類の産業の中で建設

業関連が一番CO2を排出していま

すし、また建設業で使用するコンク

リートのCO2排出量は少なくあり

ませんので、航空機の次にコンク

リート、あるいは建設業が環境活動

家の批判対象になるかもしれません。

 

事実、昨年の2月にイギリスの

ガーディアンという新聞が、「コンク

リートはCO2を大量に排出する

ディストラクティブ・マテリアルで

ある」と抗議しました。それに対しA

CIの会長は「コンクリートは非常

に耐久性のある強靱なものであり、

CO2排出の観点だけでは計れな

い」と、すぐに反論しました。fib

はアクションを起こしていません。

コロナ以降は特に環境に対する意識

が先鋭化していくでしょうから真剣

に考えていかなくてはいけません。

 

国際NGOのCDPは、どれだけ

CO2を出しているのか「見える化」

を要求しています。例えば建物を建

てる時に「あなたの会社は、どれだけ

CO2を出しているのか」と要求され

る時代になり、建設時あるいは材料

の調達時、竣工後のオペレーションで

CO2の排出の「見える化」をやらな

いと排除される世の中が近い将来

やってきます。

 

SDGs(持続可能な開発目標)と

いう考え方ですが、PC工学会には

サステナビリティ委員会(委員長:

加藤佳孝東京理科大学理工学部教

授)があります。PC建協もサステナ

ビリティ委員会と一緒になって、国

内でのプレストレストコンクリート

のCO2に対してどういうアクショ

ンをするか具体的に示していくこと

が大事です。PC工学会では、サステ

ナビリティ宣言をしましたので、そ

の後の具体的なアクションを、PC

建協とPC工学会の皆様が一緒に

なって取り組んでいただければあり

がたいです。

 

2019年の国連気候変動枠組条

約第25回締約国会議(COP25)で日

本は火力発電が多いと批判されまし

た。日本よりもドイツの方が火力の

比率が多いのですが、そのドイツは

何年までにCO2を減らしてゼロに

すると発言しています。できようが

できまいが関係なく、発言している

事実を世界は注目しているので、そ

ういうアクションをとることが大事

なのです。

PCの将来を開く方向性

 このような将来のため、次世代のた

めという世界の潮流を踏まえ、我々は

売れる技術とは何かを考えていかな

ければなりません。そこで、これまでの

日本を少し振り返ってみます。

 

戦前、日本では、吉田徳次郎先生

(元東京大学教授、元土木学会会長)、

仁杉巌氏(元日本国有鉄道総裁、元極

東鋼弦コンクリート振興株式会社取

締役最高顧問)がPCの研究を行って、

戦後になって独自に研究しながら技

術開発を行ってきました。フレシネー

氏がPCの実用特許を取得したのが

1928年ですから、あまり遅れずに

日本も取り組んできたことがわかり

ます。そして終戦から6年後の195

1年、石川県の長生橋が初めてPCで

架設されました。それ以降、10万橋以

上の実績を積み、日本のインフラ発展

に多大な貢献をしたのです。

 

こうして「海外に追い付け追い越

せ」が日本のモチベーションとなり、

私も2000年までFIP、fib

を含めて海外へ行き、いろいろな素

晴らしい橋梁を数多く見てきました。

 

しかしここに来て、手本がなく

なってきました。2018年の建設

通信新聞も「基本的に全部海外から

の技術移転で、今までインフラを

作ってきたが、ここにきて見習う目

標が見当たらなくなった」という記

事を掲載しています。

①生産性の向上

 

では今後、我々はどこを向いてい

けばいいのか。それは第一に生産性

向上が挙げられます。例えばプレ

キャスト化あるいはデジタルトラン

スフォーメーションを使った技術な

どの利用促進です。2つ目に海外が

持っていないニッチな特化技術の国

際展開。3つ目に、環境に配慮した低

炭素な技術、そしてライフサイクル

コスト(LCC)をトータルで見て最

小最適解を説いていく、という4つ

の方向です。

 

海外のODAでは初期コストが低

いほうが良いとのことでしたが、最

近の大規模更新事業のプロセスを見

るとそれが最適ではないことが明ら

かなため、今後ははっきり言ってい

くべきです。また海外では、現場での

仕事をなくして、できるだけ現場に

入る前にプレキャスト化してモ

ジュール化するオフサイト・コンス

トラクション(オフサイト建設)とい

う流れが始まっています。このほか

日本が得意とする免震に関しては、

橋も建物も含めて、統一された基準

がありませんので、地震国のイタリ

ア、トルコ、アメリカ、ニュージーラ

ンドなどと共同し、fibの中のタ

スクで、免制震技術のデファクトス

タンダードを作っていくのも必要で

す。

 図11はアメリカの労働生産性を10

0とした時の各産業の生産性を比較し

た図です。建設が80%ということは、アメ

リカもそれほど生産性は良くないので

す。建設は一品生産だから、アメリカだろ

うが、ヨーロッパだろうが、日本だろうが、

大変なのです。こうした中、地震のない

オーストラリアと、政府主導によるシン

ガポールが、モジュール化で生産性を向

上させており、こうした傾向についてコン

サルティングファームのマッキンゼーも

「建設産業における価値の源泉は現場

から工場に移る」としています。例えば

ホテルチェーン世界最大手のマリオッ

ト・インターナショナルはニューヨークで

26階建ての高層ビルをプレキャストの部

屋を積み重ね、わずか3ヵ月で作ったそ

うです。またフランスのミヨー高架橋は、

大型プレキャスト化により2・5㎞の

橋を3年で施工しました。今後はできる

だけ部材を大型化して急速施工する技

術をどんどん進化させなければなりま

せん。そしてICT(情報通信技術)です。

特に建築の世界ではBIM(Building

Information M

odeling

)、レーザース

キャナーによる計測、鉄筋組立をロボッ

ト化して生産性を上げています。すべて

がこれに代わるわけではありませんが、

我々も生産性を上げていかなければな

らない現状があります。

②ニッチ分野の基準化

 

ニッチな部分での基準化の成功事

例をご紹介します。2009年にP

C工学会で斜張橋・エクストラドー

ズド橋の設計施工基準を出し、20

12年に英訳をしました。昨年、この

基準の一部をfibのレポートにイ

ンプットし、やっと発行されました。

今、世界中に配っているところです。

このfib版の基準にはPC工学会

の設計の考え方が入っています。A

CIコードとユーロコードで抜けて

いるところを日本が補完していくこ

とで、日本の先進技術を世界に向け

て発信していく。これしか今は方法

がないと考えています。

③イノベーションとLCC

 

耐久性とLCCについてお話しし

ます。現在、イニシャルコスト最少化

が大きな問題を引き起こしています。

維持管理には建設よりも高度な技術

が必要となり、イニシャルコストの

2、3倍くらいメンテナンスコスト

がかかるといわれており、全国で進

んでいるRC床版のPC床版取り替

えには膨大なお金がかかっています。

本来、コンクリート自体は非常に超

高耐久な素材で、2000年前に建

築されたローマのパンテオン神殿が

いまだ健在です。しかし鉄筋が入る

とそうはいきません。イタリア・ジェ

ノバのポルチェベーラ高架橋(通称

モランディ橋)は1967年当時の

最先端技術で建設されたのですが、

特に腐食に対する維持管理が不十分

で2018年に落橋しました。

 

今、弊社では徳島でノンメタルの

橋を作っています。アラミド緊張材

でコンクリートを繋ぐ鉄筋を使わな

い25mの橋にトライをしています。

イニシャルコストは1・5倍かかり

ますが、ほとんどメンテナンスがい

らなくなるのでLCCは最低になり

ます。またアラミド材で緊張力を入

れた桁長10m程度のセメント不使用

のコンクリートプレテン桁を弊社の

PC工場に架設しました。CO2が

7割程度削減され、耐久性と環境に

配慮した新技術の方向のひとつを示

すことができたと思います。

 

SDGsの目標17項目の中で我々

に関係あるのは再生エネルギー、気

候変動、イノベーションです。これら

の目標をにらみながら技術開発を行

うことが今後の大きな流れとしてあ

り、コロナ禍以降はさらに加速され

ていくと考えます。

④サステナビリティを軸に展開を

 PC業界がこれから展開するべき

と考える方向性をまとめます。

施工は現場から工場へ

ニッチな分野での貢献

環境の取り組みは絶対条件

サステナビリティを基本にした低

炭素技術への取り組み

 

今後、施工は現場から工場へ移っ

ていきます。これは担い手確保にも

関係しますが、コロナ禍で現場に人

が集まって施工するリスクを回避す

る意味でも、現場作業をできるだけ

減らしてオフサイト作業を増やすこ

とが流れのひとつとなっていきます。

 

また日本には欧米のようなアンブ

レラコード(包括的な基準)はありま

せんが、ニッチな分野での貢献、特に

環境分野が期待されます。先ほどお

話したように、気候変動に対する世

界の意識が先鋭化していますので、

それに対応できない場合は非常に重

いペナルティ、あるいは市場から淘

汰される社会が近づいています。こ

のような社会が近づいているからこ

そ、サステナビリティを基本にした

低炭素技術への取り組みアクション

を起こし、世の中にアピールしてい

く必要があろうかと思います。その

▲ 図13 : ノンメタル橋の建設例「徳島自動車道別埜谷橋」2020年  (非鉄製材料を用いた超高耐久橋梁)

▲ 図14 : 低炭素コンクリート+ノンメタル例「ゼロセメントコンクリート+アラミド緊張   材」(2019年)

LCC=1/2

Page 10: 社会を支えてくださるすべての方々に 感謝を申し上げます...世界にはACI(米国コンクリー まずひとつ目、建設基準のお話で①基準のガラパゴス化日本が直面する4つの課題いてお話をいたします。

09  PCプレス 2021 / Jan. / Vol.024

PRESTRESSED CONCRETE CONTRACTORS ASSOCIATION

春日 昭夫 氏 (かすが・あきお)三井住友建設株式会社執行役員副社長。国際コンクリート連合(fib)会長。1980年九州大学工学部土木工学科卒業、同年住友建設株式会社入社。1989年米テキサス大学オースチン校客員研究員、1997年博士(工学)。主な受賞歴は2006年、2018年fib Outstanding Structures(青雲橋、田久保川橋)、2012年平成24年度土木学会田中賞・論文部門(高強度繊維補強コンクリートを用いた新しいウエブ構造を有する箱桁橋に関する研究)、土木学会田中賞・作品部門(小田原ブルーウェイブリッジ、揖斐川橋、古川高架橋、日見橋、桂島高架橋、青雲橋、青春橋、山切1号高架橋)。1957年、福岡県出身。

持続可能性、サステナビリ

ティを今後の展開の基本に

すべきだということだが、P

C建協の会員企業にとって、サステ

ナビリティというのはどのように

有利になっていくのか、基本にして

いくとどのような良いことがある

のかお教え願いたい。

はっきりいって日本の企業のほ

とんどが関係ないと思っていま

す。しかし海外では、環境、CO2

削減が大きな問題となっています。歴

史的に見て、海外からの波が必ず押し

寄せてきますので、その時に慌ててしま

うと「日本の企業は何もやってない」と

いうことになります。すぐには来ませ

んが、5年、10年先に来ることを想定

して、今から備えておく必要があると

思います。サステナビリティを考えなが

らPC建協の活動をすることが武器

になる時は必ず来ます。

Q.2A.2

ノンメタルの橋を国内で架

設されたということだが、海

外においてはこのような低

炭素を意識した新しい材料を使っ

た橋梁は増えてきているのかお教

え願いたい。

先ほどの例はアラミドです

けれども、アメリカの連邦高

速道路局(FHWA)からも、

炭素繊維のプレテン基準が出てい

ます。アメリカは炭素排出量が非常

に多くて、少しでも払拭しようとい

う方向にあります。ヨーロッパはま

だですが、世界の主流は炭素繊維と

なってきています。オーストリアで

もノンメタルにトライしたと聴い

ています(結局、ある部分にはステ

ンレス鉄筋を使用)。耐久性を上げ

ようという試みは、今世界の潮流に

なっています、ぜひ、日本の戦略技

術のひとつとして磨き上げていき

たいと願っています。

Q.3A.3

PC建協では生産性向上のた

めプレキャスト化を推進して

いるが、発注者との意見交換

会でもコストが問題となる。海外で

は、どのようにコストの壁を乗り越

えたのか、国内では、海外の事例が

適用できるのか、お教え願いたい。

コストはどの国でも、プレ

キャストにすると上がりま

す。建設現場の密を防ごうと

か、環境に対するCO2排出を下げ

よう、ということにはコストがかか

るのです。意見交換会の際にコスト

が確かに話題になるわけですが、世

界は変わってきており、工期を短縮

できるメリット、サステナビリティ

の環境とか、社会とか、そういう影

響を広げた観点をアピールして、P

C建協として「イニシャルコストだ

けではありません、こうしたら…

と事例を出せれば、もう少し理解し

ていただけるのではないかと思い

ます。

Q.1A.1 質疑応答

講師紹介