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加藤 今日はライブペインティングをさせていただくので、描いている 生の現場を見てもらって、考えないで、気持ちで受け取ってほしいと 思っています。 画 家として大 事 なことは 、「 やり 続けること、自分のモチベーショ ン を 維 持 し 続 けること 」そ の た めの大変さよりも描けることの 嬉しさの方が上回っています。 (左から) 水野里奈さん、加藤愛さん、木村了子さん、小林智さん 聞き手 シンガポール日本人学校中学部教諭 江頭久美子 ◉加藤愛さん 女の子の絵が多いと思うのですが、何か理由があるのでしょうか。 加藤さん(以下、敬称略) 子供の頃から女の子の絵は描いていまし た。本格的に描き始めたのは、高校の卒業制作のときです。立体フィ ギュアみたいなものを作って、塗装にシンナーを使ったのですが、 においがきつくてやめたいと何度も思っていたのです。そのときに自 分を応援する女の子の絵を描いて、それを机の前にいっぱい貼って 「頑張れ私」と自分を励ましていました。それをきっかけに自分を応 援する分身みたいな形で描き始めて、それからずっと未だに女の子 だけを描いているという感じですね。 裸体であっても、全然裸体である感じがしないのですが。 加藤 :女の人のヌードはすごく美しいものだと思うんです。下品にな らないことやいやらしさが出ないように心がけています。神秘的な感 じに見えるように描いています。妖精のような。 画家になって良かったと思うことは何ですか。 加藤 ずっと子どもの頃から絵を描くのが好きで、それが自然と仕事 になっている今が本当に幸せだと思っています。やりたくないことを 仕事にしている人や作家で食べていけない人もいる中で、とても恵 まれていると思います。 困ったことや苦しかったことはありますか。 加藤 描きたいものを思いついたときが一番楽しいのですが、塗り の作業とかが永遠に終わらない気がするときがあって、そういうとき は辛いです。でもやりたいことがやれているのでそんなに気にはなら ないです。 シンガポールの方に何か伝えたいことはありますか。 画家 加藤愛さん、木村了子さん 水野里奈さん、小林智さん 2019年3月16日から4月21日に開催されましたミヅマアー トギャラリー グループ展「Eyes & Curiosty-Flowers in t h e F i e l d」の四人の画家、加藤愛さん、木村了子さん、水野 里奈さん、小林智さん。素晴らしい個性でご活躍の皆さんに、 モチーフに向かう姿勢、思いなどをお伺いしました。 来星されてぜひ描いてみたいと思われたものはありますか。 加藤 屋台の壁やシャッターに描かせてもらえたらと思います。フード コートの看板など一般の方々が一番目につくところに描かせてもらい たいです。モチーフは変わらないので女の子の絵を描かせてもらえた らと思います。豆花を食べている女の子みたいな。シンガポールには 何回か来ているのですが、フードコートは好きでよく行きましたね。 日本だったらどうでしょうか。 加藤 日本でも先ほどと同じで、 なるべく外に向けていろいろな 人が通りすがりに見ることがで きるところに描きたいですね。広 告の壁だと期間が過ぎると消さ れてしまうので、できれば常設で きる壁とか人の家の壁とかそう いったところに描かせてもらいたいです。ギャラリーは閉鎖的で好き な人が見に来るだけでちょっと窮屈に感じる時があるので、できれば 広くたくさんの人に見てもらえる場所に描く、そういうのをやってみた いです。 画家として最も大事なことは何だと思われますか。 加藤 大事なことはやり続けること。後は鮮度だと思います。鮮度が 大事、色も鮮やかで生っぽい鮮度があることが大事だと思います。 例えばライブペイントも鮮度なんですけど、とれ立て描き立てみたい な。描き始めた絵はなるべく気持ちがあるうちに終わらせることが私 は大事だと思います。緻密に描かれる作家さんで3年とか時間をか けて大作を描かれる方もいますが、私には向いていないと思います。 その時の気持ちは今しか表現できないと思うので、それを大事にし たい。それでやり続けることですね。生活が変わっていくとやめてしま う方が多いのですが、やり続けているとどこかで見てくれている人が いると思うので、食べられなくても描き続けることです。 画家じゃなかったら何になっていますか。 加藤 難しいですね。やはり絵を描いていると思います。小さい頃は 漫画家にもなりたいと思っていましたが、一度漫画に取り組んでみ て表現のジャンルが全然違うということがわかりました。私が描くの は一枚絵なので描きたい構図で好きなように描いていますが、漫画 Iive painting 1,2,3 201 キャンバスにアクリル 60.5 x 50.cm

画家 (左から) 水野里奈さん、加藤愛さん、木村了子さん、小 …は読者に伝えるために説明的な絵を描かなければいけません。ポー ズだったり角度だったり。これがないと読み手に伝わらないというの

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  • 加藤:今日はライブペインティングをさせていただくので、描いている生の現場を見てもらって、考えないで、気持ちで受け取ってほしいと思っています。

    画家として大事なことは、「やり続けること、自分のモチベーションを維持し続けること」そのための大変さよりも描けることの嬉しさの方が上回っています。

    (左から) 水野里奈さん、加藤愛さん、木村了子さん、小林智さん

    聞き手 シンガポール日本人学校中学部教諭 江頭久美子

    ◉加藤愛さん

    ー女の子の絵が多いと思うのですが、何か理由があるのでしょうか。

    加藤さん(以下、敬称略):子供の頃から女の子の絵は描いていました。本格的に描き始めたのは、高校の卒業制作のときです。立体フィギュアみたいなものを作って、塗装にシンナーを使ったのですが、においがきつくてやめたいと何度も思っていたのです。そのときに自分を応援する女の子の絵を描いて、それを机の前にいっぱい貼って

    「頑張れ私」と自分を励ましていました。それをきっかけに自分を応援する分身みたいな形で描き始めて、それからずっと未だに女の子だけを描いているという感じですね。

    ー裸体であっても、全然裸体である感じがしないのですが。

    加藤:女の人のヌードはすごく美しいものだと思うんです。下品にならないことやいやらしさが出ないように心がけています。神秘的な感じに見えるように描いています。妖精のような。

    ー画家になって良かったと思うことは何ですか。

    加藤:ずっと子どもの頃から絵を描くのが好きで、それが自然と仕事になっている今が本当に幸せだと思っています。やりたくないことを仕事にしている人や作家で食べていけない人もいる中で、とても恵まれていると思います。

    ー困ったことや苦しかったことはありますか。

    加藤:描きたいものを思いついたときが一番楽しいのですが、塗りの作業とかが永遠に終わらない気がするときがあって、そういうときは辛いです。でもやりたいことがやれているのでそんなに気にはならないです。

    ーシンガポールの方に何か伝えたいことはありますか。

    画家

    加藤愛さん、木村了子さん

    水野里奈さん、小林智さん

    2019年3月16日から4月21日に開催されましたミヅマアートギャラリー グループ展「Eyes & Curiosty-Flowers in the Field」の四人の画家、加藤愛さん、木村了子さん、水野里奈さん、小林智さん。素晴らしい個性でご活躍の皆さんに、モチーフに向かう姿勢、思いなどをお伺いしました。

    ー来星されてぜひ描いてみたいと思われたものはありますか。

    加藤:屋台の壁やシャッターに描かせてもらえたらと思います。フードコートの看板など一般の方々が一番目につくところに描かせてもらいたいです。モチーフは変わらないので女の子の絵を描かせてもらえたらと思います。豆花を食べている女の子みたいな。シンガポールには何回か来ているのですが、フードコートは好きでよく行きましたね。

    ー日本だったらどうでしょうか。

    加藤:日本でも先ほどと同じで、なるべく外に向けていろいろな人が通りすがりに見ることができるところに描きたいですね。広告の壁だと期間が過ぎると消されてしまうので、できれば常設できる壁とか人の家の壁とかそういったところに描かせてもらいたいです。ギャラリーは閉鎖的で好きな人が見に来るだけでちょっと窮屈に感じる時があるので、できれば広くたくさんの人に見てもらえる場所に描く、そういうのをやってみたいです。

    ー画家として最も大事なことは何だと思われますか。

    加藤:大事なことはやり続けること。後は鮮度だと思います。鮮度が大事、色も鮮やかで生っぽい鮮度があることが大事だと思います。例えばライブペイントも鮮度なんですけど、とれ立て描き立てみたいな。描き始めた絵はなるべく気持ちがあるうちに終わらせることが私は大事だと思います。緻密に描かれる作家さんで3年とか時間をかけて大作を描かれる方もいますが、私には向いていないと思います。その時の気持ちは今しか表現できないと思うので、それを大事にしたい。それでやり続けることですね。生活が変わっていくとやめてしまう方が多いのですが、やり続けているとどこかで見てくれている人がいると思うので、食べられなくても描き続けることです。

    ー画家じゃなかったら何になっていますか。

    加藤:難しいですね。やはり絵を描いていると思います。小さい頃は漫画家にもなりたいと思っていましたが、一度漫画に取り組んでみて表現のジャンルが全然違うということがわかりました。私が描くのは一枚絵なので描きたい構図で好きなように描いていますが、漫画

    Iive painting 1,2,3 201 キャンバスにアクリル 60.5 x 50.cm

  • は読者に伝えるために説明的な絵を描かなければいけません。ポーズだったり角度だったり。これがないと読み手に伝わらないというのがたくさんあって、やってみてすごく勉強になりました。やはり私は漫画家になれない、この一回で終わりにしようと思いました。絵描きがいいなと思います。

    ー女の子をイラストで表現することの意味は何ですか。

    加藤:モチーフとして漫画っぽい女の子を私は「二次元の女の子」と呼んでいるのですが、自分のデフォルメした最高の理想を、現実には絶対存在しない、どんなに好きになっても絶対触れることができない、とても尊い存在だと思っています。女神的な、二次元の女の子に魅力を感じて描き続けているという感じです。

    ◉木村了子さん

    ー男性の絵が多いと思うのですが、それはなぜなのですか。

    木村さん(以下、敬称略):もともと人物を描くのが好きだったので、美人画みたいなものを描いていました。女性の絵を描いて発表している時に、これはあなたなのですかとよく質問されましたが、ちょっとそれに違和感を覚えて。自分は女性だし女性を描きたいと思うのですが、何で女性でなくてはいけないんだろうという疑問がきっかけとなって、恋愛対象としての男性も描いた方が絵に色気とかそういったものが出てくるのではないかと試してみました。それが2005年ぐらいですね。モデルさんを頼んで実際に描いてみましたが、非常に楽しくて。男の人を描いた方がまず自分がワクワクするし、発表する時もこれはあなたでしょって言われることが一切なくなって、完全な他者として客観的にモチーフと向き合えるので今も続けていられます。そのスタンスが自分で負荷が少ないのじゃないかと思っています。

    ー大変美しい作品だと思うのですが、何を伝えようとしているのですか。

    木村:私は基本的には美しいものが好きなんです。よく言われる女性の美しい体、例えば女性が細くてたおやかだったりすると美しいと言われますが、それって誰かが決めたことでそれだけじゃないと思います。逆に男性の体も女性から見てすごく美しいなと思います。男性を描くと男性よりも女性の方が綺麗なんじゃないかという意見もよく聞かれて、それがちょっと不思議でした。男の人だって綺麗でしょという感じがあったので。私の表現は男性賛歌であるのですが、同時に自分じゃないから何をやってもいいという不思議な感覚があって、すごく他人ごととして、男性がどのようなポーズをしても別に悪くないのでどんなことをしてもいいし、逆にそういう表現に対して怪訝な顔をされるからこそ、本当に美しく描こうと思えます。春画とか露骨にいろいろなものが描かれていて下手すると卑猥で不快な作品になるんですが、絵的に綺麗だと思うのは絵師が綺麗に描いているから美しい、それに似た感情がちょっとあるのです。

    ー仏画的に描かれているのは何かきっかけがあったのでしょうか。

    木村:身内に不幸があって供養しましょうということになったのですが、その時に美しい僧侶にお会いしました。死と向かい合っていたので落ち込んでいたのですけど、美しさって本当に感動するのだと。あまりに美しすぎて、でもいつか描きたいなと思っていたのです。日頃現代的な男子の絵に違和感を感じている人も、ああいう仏画になっているとかっこいいと素直に思っていただけるのでうれしいなと思いました。今日展示している普賢菩薩の絵のモデルをしていただいた方はタイの方ですが、タイなので仏教徒が多く、自分の踊りにも取り入れているような方だったので非常に刺激されました。

    ー将来の夢はなんですか 。

    木村:以前は美術館で展示をやってみたいと思っていたのですが、そういう夢が叶って、海外で展覧会をしたいというのも実現して。女性が描いた男性像は美術史の中で非常に少ないのですが、描く人自体も少ないのですぐに忘れられてしまいます。女性が男性を好きなのはマジョリティで、でも女性が男性を表現するのはマイノリティなのはなぜなんだろうと。それで美術史の流れに何とか点をつけたい、女の人も表現する意味において平等とまではいいたくないですが、それをやっている人がいるということを美術史の中に刻み込みたい、そういう気持ちですね。

    ー画家として最も大事なことは何だと思われますか。

    木村:何かいつもワクワクしてトライしてみようということ。実はいろいろな挫折を味わってきました。画家を長く続けていくには、モチベーションの維持やアップをさせていくにはどうしたらよいかを考える必要があるのではないかと思っています。

    ◉水野里奈さん

    ー緻密で鮮やかな作品だと思いましたが、そういう作風になったのはいつ頃からでしょうか。

    水野さん(以下、敬称略):もともとは油絵を学んでいたのですが、水墨画のタッチや中東の細密画の影響を受けています。インドとかトルコとかイスラムとかで昔の伝説とかそういったものを描いているすごく細かい絵があるんです。それを油絵などで描いてみたいというのがあって。でもいきなり描くのは難しかったので、水墨画のタッチであったり、細かい模様だけであったりを別々に描いていたのですが、大学4年生くらいの時からそれらを混ぜた作品を描き始めました。

    ーシンガポールの方に伝えたいことはありますか。

    水野:今回初めてシンガポールに来たのですが、アラブストリートやリトルインディア、チャイナタウンに私が描いている作品の要素がたくさんあることに衝撃を受けました。だからシンガポールにいる方々に、私の作品に親近感やつながりを感じていただけたらと思います。

    ー今お話にあったアラブストリートやその他いろいろなものの中で、描きたいものは何ですか。

    水野:朝の6時から外を歩いてたくさん見てきたんですけれど、一番感動したのがプラナカン博物館(現在閉館中)です。本当にすごいなと思いました。食器の装飾とか調度品と食器棚のあり方とか、服とかの織物とかの感じもすごく好きで、私の絵は細かいところが立体的になっているので、プラナカンのイメージが細密画のイメージに通じるものがあって、刺繍糸を刺し込むようなことが絵の具でできたら面白いのではないかと思っています。柄自体も本当に求めていたものがあったので、そこに今回また行ったら描きたいと思っています。私の刺繍は趣味程度なのですが、その工程を見ればわかりますので、想像を絶する手数、手間、手を抜いてないというところが伝わってきて、負けていられないと思いました。

    ー画家になってよかったと思うことは何ですか。

    水野:絵を描くことが一番やりたいことなので本当に描けるだけで幸運だし、ありがたいと思っています。作家さんとも会える機会が多

    普賢菩薩像 2018絹本着色金彩裏純金箔 104 x 104cm

  • いのでそういったものがすごく刺激になります。

    ー苦しかったことや困ったことはありますか。

    水野:辛いのと常に隣り合わせでうまく言えませんが、辛さはあります。気持ちの切り替えとか体力的な面もありますし、昨日よりもいいものを作ろうという持続の仕方とか日々のちょっとしたこととか。展覧会に良い形で作品を出したいので、前よりも悪い作品を出したら絶対ダメだという気持ちがあります。でも描けることの嬉しさの方が本当に上回っています。

    ーシンガポールで描きたいものはありますか。

    水野:日本庭園とか滝とか好きなので、シンガポールの果肉植物の質感の感じと逞しさ、鮮やかさを感覚的に日本庭園の感じと混ぜられたら面白いと思っています。

    ー将来の夢は何ですか。

    水野:二つあるんですけれど、どういったものを描きたいかという先ほどの質問と重なるのですが、特別な一枚を描きたいというのがあります。その一枚ができたら今までの作品をなかったことにしてもいいくらいの一枚を描きたいというふうに思っています。またその理由がおこがましいのですが、ダヴィンチだったらモナリザとか、ゴッホだったらひまわりだとか、その人といえばその一枚というものを描きたいです。できるかどうかわからないのですが、できると信じてそういったものを描くのが夢です。もう一つはいろいろな美術館に作品が置かれるのが夢です。美術館は特別なところなので。

    ー画家として最も大事なことは何だと思われますか。

    水野:作品とちゃんと向き合うことと日々の制作のメンタルバランスです。ちょっとでも難しいことをすると大変ですが、それを乗り越えること。筋肉痛みたいな感覚のようなものですね、ちょっと鍛えるじゃないですが。昨日よりも30分でも長く描ける、それもただ長く描ければいいというわけではないのです。完成度を高くしなければいけない、長くかかった作品がいいというわけでもないので。そういう冷静な判断もちゃんと向き合うことの一つだと思うので、誠実でいたいと思っています。

    ◉小林智さん

    ーなぜ揺れるものを作ろうと思ったのですか。

    小林さん(以下、敬称略):世界の全体を描きたいなと思って。曼荼羅みたいなもので世界の端から端までを作りたい。その一番の方法は複雑に描くこと。 複雑にするもう一つのやり方は小さいパーツにして複雑な感じを出すということなのです。ある部分がちゃんと繋がっていたり、ある部分がちゃんと繋がってなかったりする、そうすると見る人は混乱する。どうなっているのだろうと立ち止まってみなきゃいけない、それが複雑さということで、そういう複雑さを出すために、こういう作り方にしたということです。揺れているというのも同じことで、平らでピタッと固まっているものより、揺れているものは固定されていないものだから見る時にちょっと努力が要る。揺れているということは不安定感やいろいろな要素、複雑な要素をもっているということです。それが見る人に不安定感を与え、世界の複雑さを感じさせる。そういう効果を狙って作った、そういう感じです。

    ーパーツに分けたのは世界がパーツになっているからですか。

    小林:パーツを合わせたものの方が一つの統一されたものよりも複雑に見えるからで、実際世界がそのように見える時もある。世界が一つだって感じる時もあれば、世界っていうのはいろいろなものがより集まったものだという感じるときもありそれを表している、そういうことです。

    ー人の動きなど今現在の世界ではなく昔の感じがするのですが、それはなぜですか。

    小林:例えば建物、高層ビルとかは将来的には違う形になっているかもしれないけれど、植物の形とか生き物と形とか人間の形とかは何万年も前から変わらない、勝手に人間が変えられるものではない、すごく根源的なものでそれを選んで描いている、そういう気がします。植物は動物よりも早くから地上にいるからそういうものを選んで描いています。軟体動物が選ばれているのは、軟体動物が脊椎動物以前に存在するもので根源的なものに通じるからです。

    ー中心にあるものは何ですか。

    小林:太陽です。太陽を絵の中に描くことが多いのですが、 どういう気持ちで描いているかというと、太陽も誰かのデザイン、もしかしたら神様のデザインかもしれない。もし自分がそれをデザインしていいよと神様に言われたら、どのようなデザインにするかと考えた時、自分だったらこのような太陽にする。いろいろなものが混ざったデザインになるのは太陽がいろいろなものの起源になるような気がしているからです。

    ーグループ展には統一性があるという話をされていましたが、それはどのようなものですか。

    小林:僕は五年間シンガポールにいて、日本の画家の方と接する機会がなかったのですが、この展覧会には日本画風のもの、アニメ的なもの、水墨画風のものが展示されていて、日本的だと感じました。自分もずっと模索してきた中で版画的表現に出会って、版画ってべたっと塗れるじゃないですか、リアルに影を表現しなくていい、これって漫画に近いかもと思って。昔から漫画風なものを描きたいという気持ちがあったので、それで版画を好きになったところがあって。ここに展示されている作品はそういう意味で全部日本的だし統一感がある、そういうふうに感じました。

    ー画家として最も大事なことは何だと思われますか。

    小林:画家として大事なことはやめないことだと思います。他に仕事があるからやらなくてもいいことなのですが、アトリエにこもって絵を描いている。簡単にやめられることなんですが、やめたら画家にはなれない。やめないことが大事なことだと思います。

    Untitled 2019アクリルインク.アクリル, 木板140 x 225cm

    鍾乳洞の入り口 2019キャンバスに油彩 100 x 80cm

  • インタビュー後談 どの方にも共通していたことは、画家として大事なことは、「やり続けること、自分のモチベーションを維持し続けること」でした。そのための大変さも「描くことが好きだ」という気持ちが勝っていて苦ではないと答えてくださいました。観ていただくことに関しても皆さん

    「考えないでそのままで受け取ってほしい」というお考えで、多くのシンガポールの方に来場していただきたいと答えてくださいました。機会があれば街中で描いたり、アジア全体を含めたこちらの文化と自分が求める緻密さ、美しさなども描いたりしていきたいというお話も伺いました。アジアの文化のすばらしさを取り入れながら、ご自分の個性を発揮されて、ますますその活躍の場を広げていかれる姿に大変感銘を受けました。 最後に美術を志す子どもたちにもお言葉をいただきましたが、これも共通していて「好きなことを好きなだけやってほしいし、好きでなくてもやってみる。そして自分の好きなことを見つける。見つかった時の喜びはすごいから。」ということでした。プロとしての意気込み、これからの抱負を伺いながら、夢をもち、それを実現させる第一歩は、何かを誠実にやり続けること、そしてそこから好きなことを見つけていくことなのだと改めて感じました。出展中のお忙しいところをありがとうございました。

    加藤愛さん1984年生まれ、東京。愛☆まどんなとしても知られ、2003年に東京都立芸術高校を卒業後、2004年に美学校(東京)を卒業。2009年ミヅマ・アクション(東京)で初個展「きゅぴんッ」を開催。2017年「Ambiguous U Meeha Love」AWAJI Cafe & Gallery、東京などをはじめ日本、シンガポール、台湾、タイ、ポーランド、アメリカなど、世界各地でのグループ展に参加。

    水野里奈さん1989年生まれ、愛知県。2012年に名古屋芸術大学(愛知)で油画の学士を取得。2014年に多摩美術大学大学院(東京)で油画領域の修士を修了。2012年にTa imatz(東京)で最初の個展を開催。2018年ギャラリー桜林(茨城)、六本木ヒルズA/Dギャラリー(東京)、2017年大原美術館(岡山)で個展。2012年、2014年にアートアワードトーキョー丸の内で受賞。作品は大和プレス、三菱地所、第一生命保険株式会社、JAPIGOZZIコレクション(スイス)、大原美術館に収蔵されている。

    木村了子さん1971年生まれ、京都。1997年東京芸術大学大学院で壁画の修士課程を修了。2007年「お伽噺−Ikemen Märchen」The Art Complex Center of Tokyo。2015年に「 Beaute Animale de L'Homme−花鳥風月美男」 Galerie Vanessa Rau、パリ、フランスなどをはじめ韓国、台湾、中国、アメリカでも多数のグループ展に参加。スペンサー美術館(アメリカ)、ホノルル美術館(アメリカ)に作品が収蔵されている。

    小林智さん1981年生まれ、千葉県。2007年に東京芸術大学大学院で日本画の修士号を取得。2013年、第31回上野の森美術館大賞展に入選。2016年シンガポールで開催されたUOBペインティングオブザイヤーでブロンズ賞を受賞、など。個展「Of Craft and Carving」UOB Art Gallery (2018)など。

    文責:広報部編集委員 江頭久美子写真:広報部編集委員 小林 智