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平成25年6月 第714号
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日加宇宙産業交流会 カナダ訪問報告
2013年5月1日、第一回日加宇宙産業交流会(以下「第一回交流会」と言う)がカナダの首都・オタワにある外務省(Department of Foreign Affairs and International Trade)の会議室で開催された。また、それに先立ち、4月29日、30日はカナダの宇宙企業5社を訪問する機会を得た。この交流会は、2012年3月に日本側代表、宇宙開発担当大臣、文部科学大臣とカナダ側代表、国際貿易大臣の間で署名した「日加間の宇宙協力の促進のための覚書」に基づき開催されたものである。
第一回交流会には、日本側から内閣府宇宙戦略室、経済産業省、独立行政法人宇宙航空研究開発機構(JAXA)、在加日本大使館、日本航空宇宙工業会(SJAC)及び宇宙産業関連企業(三菱電機株式会社、三菱重工業株式会社、株式会社IHI、株式会社IHIエアロスペース、株式会社日立製作所、日本電気株式会社、富士通株式会社、住友商事株式会社、三菱商事株式会社)が、カナダ側からは、カナダ宇宙庁(CSA)、カナダ航空宇宙工業会
(AIAC)、在日カナダ大使館及び宇宙産業関連企業が参加した。以下にカナダの宇宙産業の近況、訪問各企業の概要、第一回交流会の概要について報
告する。
1.カナダの宇宙政策と宇宙産業カナダは、世界で第2位の面積(海岸線の長さは世界一)を持ち、人口は約34.8百万人(2012年)、GDPは日本の約3割である。また、宇宙予算は、2013年度489百万カナダドル(489億円(100円/1C$で換算))。宇宙産業の売上は、3.4十億カナダドル(約3,400億円)。但し、ア
プリケーションとサービスを含んでおり、それらを除くと約1,050億円が宇宙機器産業の売上となっている。売上の79%は通信・放送衛星関連であり、約50%が輸出となっている。また、約8,000人が宇宙産業に従事している。表1にカナダの宇宙産業をまとめる。カナダの宇宙政策は、基本的に企業からの
表1 カナダの宇宙産業
項 目 内 容 備 考
売上高・ 3.4BillonC$(約3,400億円) 但し、アプリケーション&サービスを除くと約1,050億円。
・ カナダの売上高には、アプリ&サービスが含まれている。
国内、輸出 ・ 国内:1,735MC$(50.5%)・ 輸出:1,703MC$(49.5%) 2010年のデータ
輸出先 ・ 米国:48%、欧州:33%、アジア:9% 他 2011年のデータ分野別売上(%)
・ アプリケーション&サービス:68.8%、宇宙機器:18.1%、地上機器:11.9% 他 2010年のデータ
利用分野別売上(%)
・ 衛星通信:79.4%、ナビゲーション:7.6%、地球観測:7.4%、ロボット:3.1%、宇宙科学:1.8% 他 2010年のデータ
人員と内訳(%)
・ 約8,000名 内訳:エンジニア&科学者:37.6%、行政機関:
23.4%、テクニシャン:15%、他:9.8%、マネジメント:9%、マーケッティング&セールス:5.2%
内訳は2010年のデータ
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要求を基に特定分野に特化して官民で開発を進め、世界トップクラスの製品を獲得するニッチ戦略を採っている。結果として、それが輸出、売上に貢献する構図である。カナダの重点分野は、①地球観測、②宇宙科学と探査、③衛星通信、④宇宙認識と学習であり、産業戦略として、①宇宙ロボテックス、②レーダーリモートセンシング、③高度衛星通信、
④宇宙科学の特定分野に力を入れて来た。図1にカナダの宇宙開発のための国の実態と優先度を示す。表2にカナダ宇宙産業のカテゴリと主要企業を示す。表2からわかるように大型衛星のバス、ロケットは自国では生産していない。図2にカナダの主要輸出マーケット(2011年)を示す。米国に約48%、欧州に約33%、アジアに約9%となっている。
出典:第一回日加宇宙産業交流会 CSA資料から
表2 カナダ宇宙産業のカテゴリと主要企業
出典:第一回日加宇宙産業交流会 CSA資料から
図1 カナダの宇宙開発のための国の実態と優先度
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2.カナダの宇宙産業の実態今回の訪問でわかったことの一つは、衛星通信分野は世界の商用通信・放送衛星分野の伸びと共に健在であること、一方、重要なパートを占めて来た宇宙ロボテックス分野は、シャトルの終結、国際宇宙ステーション(ISS)の完成と先の見えて来た運用のために、踊場に来ていることである。数年前から官民上げて次のロボテックス技術を活かせる分野の研究開発を急いでいる。望まれる方向としては、米国中心の新しい国際大型プロジェクトが立ち上がり、軌道上ロボテックス(ランデブー・ドッキング、燃料補給等)、あるいは月・惑星探査でのローバーにその技術を活かしてい
くものである。宇宙分野以外にも手術ロボット、原子力施設でのサービス、鉱物採掘等の応用も考えている。現在のカナダの世界的競争力のある分野を
表3にまとめる。表3の分野は、カナダの「選択と集中」、「ニッチ戦略」の成果と言えるものである。この中でロボテックス、地球観測分野は、国際プロジェクト、国家プロジェクトに左右されるもので、開発の構想段階からプロジェクト終了を見据えた計画が重要である。プロジェクトが終了した時を考え、獲得した技術を将来何に応用していくかも官民で並行して考えていくことが必要となる。一方、衛星、サブシステム分野の通信関連ペイロー
出典:第一回日加宇宙産業交流会 CSA資料から
図2 カナダの主要輸出マーケット(2011年)
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ドは、商用衛星分野に開けた市場を持つため、開発段階での国の支援は必要だが、その後は企業が独り立ち出来る分野である。今回の訪
問は、この対照的な分野の実態を垣間見ることが出来た。
3.訪問企業の概要4月29日、30日に訪問した各企業の概要を以下に表形式でまとめる。どの企業において
もプレゼンテーションと共に生産及び研究開発現場をよく見学することが出来た。
表3 カナダの世界的競争力のある分野と具体例
分 野 具体例ロボテックスとビジョンシステム カナダアーム/ISS/Dextre(2本のアー
ムを持ったロボット)惑星探査用ローバー等
衛星、サブシステム 通信関連ペイロード小型衛星
レーダーベースの地球観測 RADARSATファミリー
付加価値サービス地球観測地理情報通信サービス出典:第一回日加宇宙産業交流会 AIAC資料から
(1)COM DEV社(COM DEV International Ltd.)の概要
項 目 内 容企業概観 ・ 通信衛星向けコンポーネント(マルチプレクサー・フィルタ、RFスイッチ
など)の専門メーカーとしての地位を確立・ 従業員:1,271人、2012年度売上:208.6MC$・ 子会社exactEarth社を通じ、海洋情報を収集・提供
製品、技術 ・ マルチプレクサー・フィルタ、RFスイッチに特化。また、一部光学センサ部品を扱う・ エレクトロ-メカニカルスイッチ・マルチプレクサー:70%以上の世界シェア・ 72,000個以上のスイッチ、27,000個以上のフィルターの販売実績
特色、その他特記事項
・ 各種衛星に必ず一定量採用される共通部品であることから、高い世界シェアを確保・ 基本となる特許戦略を重視。特許により優先製造権を確保・ QCD(Quality, Cost, Delivery)の観点で競合他社を差別化・ 宇宙状況監視(SSA):米国の次期SSAに対応し、6,000㎞から40,000㎞の衛星をマイクロ衛星により監視するための光学センサを担当。次期に向け、分解能向上を実施中
海外戦略 ・ カナダ国内の他、欧州(イギリス)、米国に工場を持ち、欧州、米国への販売に力を入れている
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(3)MDA Robotics社(MDA Robotics Ltd.)の概要
項 目 内 容企業概観 ・ MDA社の子会社。創立は1999年、従業員約300人(親会社のMDA社はカナ
ダ最大の宇宙企業で、親・子会社11社の合計は、4,500人)・ 現状はISS用のロボットを核とした事業を展開。2020年以降のISS運用に対する不確実性があるため、他の事業セグメントを展開、発掘中
製品、技術 ・ ロボットシステム自体のISSへの提供に加え、各種組立作業、メンテナンス作業、HTVの捕獲等に必要な作業治工具類・システムを継続的に提供。ロボットアーム自体のバージョンアップ、ロボット作業に必要な事前検討・訓練の実施等を含め、ベースロード確保を行っている
特色、その他特記事項
・ ロボテックスの技術応用として、下記システムを研究開発中 1)商用衛星に対するロボット衛星による燃料補給システム 2)レスキュー用ロボット 3)ランデブーシステム 4)惑星探査ロボット(ローバー) 5)精密作業用ロボット など
海外戦略 ・ 親会社のMDA社は、事業基盤確保の観点から米国の商業衛星メーカ、スペーシステム/ロラール(SSL)社を買収したが、MDA社側からの直接的事業関与は無く、独立した別会社として運営。MDA社の通信部門はSSLに通信機器を納入している。SSLを買収した理由は、米国に販路を確保するためとのこと
(2)exactEarth社(exactEarth Ltd.)の概要
項 目 内 容企業概観 ・ exactEarth社は、COM DEV社(73%)とHispasat社(27%)が出資した、AIS
(自動船舶識別装置)サービスを専門とする企業・ 衛星を使って船舶搭載のAIS送受信機のAISメッセージを受信、処理、配信
製品、技術 ・ 衛星によるAISデータの収集・ グローバスAISデータ検出サービスを提供
特色、その他特記事項
・ 現状5機を運用。今は軌道1周回辺り、データダウンリンクは1回。将来的には2回にする計画・ 衛星の高度は817㎞に2機、515㎞に2機、500㎞に1機・ RADARSATとの協調も実施。AISで広域を監視し、問題のある特定エリアをRADARSAT で監視する・ データセンターはトロント市にあり、世界中で約98,000の船舶を監視・ AISには大きな船舶に搭載されるClassA機器と、小型船舶に搭載される
ClassB機器がある。前者は衛星により世界中で検出可能・ ClassB機器は電波が弱いため、現状、衛星での検出は難しい(改良を実施中)・ 本分野の競合会社は、OrbCom
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(4)Neptec社(Neptec Design Group Ltd.)の概要
項 目 内 容企業概観 ・ 1990年創立、従業員75人のベンチャー企業
・ 宇宙、防衛、産業向けの、高性能センサーおよびロボットの設計・製作を行い、宇宙探査、宇宙ロボティクス、防衛、産業応用分野での、ターンキー方式ソリューションを提供している。NASA/CSAの主要請負業者でもある
製品、技術 ・ スペースビジョンシステム(SVS)、レーザーカメラシステム(LCS)、時間遅延アレイレーダー(TiDAR)、長距離光学センサー(LROS)、宇宙用-IRカメラなど
特色、その他特記事項
・ インテリジェント3Dマシン視覚システムの設計、開発、実装、操作を専門とし、高品質が要求されるミッションクリティカル環境における事業に多くの実績を持つ・ 宇宙用技術を核に、鉱物資源掘削、海洋、レスキュー・航空分野への適用を検討中
海外戦略 ・ 世界の航空宇宙における防衛企業・団体とのパートナーシップ、またエンドユーザーとの協力体制の構築を目標としている
・ 共同事業として、共同エンジニアリング・研究開発・製品開発が含まれる
(5)Telesat 社(Telesat Ltd.)の概要
項 目 内 容企業概観 ・ 1969年創立、従業員434人
・ 通信衛星サービスで世界4位(我が国のスカパーJSATは5位)サービス内容 ・ 運用する衛星は、静止通信衛星(既存12機+G1(今週打上げ))+
RADARSAT2 計14機 ・ 顧客の保有する衛星 計9機
特色、その他特記事項
・ 売上の50%が放送、40%が通信(コンサルも含む)・ 売上の49%がカナダ向け、米国向けは32%
海外戦略 ・ テクニカルコンサルティングサービス事業も展開している
4.第一回交流会(1)全体概要日本代表である宇宙戦略室(国友参事官)、
カナダ代表のCSAが共同議長となり、第一回交流会が進められた。まず、代表の挨拶の後に両国の宇宙政策の紹介があった。その後、宇宙からの地球観測に関する両国の取り組み及び成果の報告があり、今後これら成果を利用した災害観測に関し両国で協力して取り組むとの合意書にJAXAとCSAが調印した。また、両国の宇宙産業を紹介し合い、今後のシ
ナジー効果を期待する産業ラウンドテーブルを実施した。
(2)セッション1:宇宙政策カナダの宇宙政策の発表があり、カナダの宇宙開発の歴史、研究開発予算、日本との25年に及ぶ宇宙開発での協力関係等が紹介された。日本の宇宙政策について発表があり、宇宙戦略室の国友参事官より、従来の研究開発から利用へのシフトを行うことが紹介された。
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(3)セッション2:地球観測カナダからは、観測衛星RADERSATを使った災害監視、流氷監視、船の監視について発表があった。日本からは、GOSAT、GCOM-W、AMSR2、
ALOS-2を使った地球観測、災害観測の成果の発表があり、JAXA-CSAの協力関係として災害観測によるデータ共有が候補であることが提案された。
(4)セッション3:産業ラウンドテーブル日本の宇宙産業をSJACが紹介した後に国内
8社から各社の宇宙事業の紹介を行った。カナダからは、カナダの宇宙産業をAIACが紹介した後に、3社(ABB社/Magellean社/MDA社)から宇宙事業の紹介があった。
ABB社は、スイスに本社を置く重工業会社であり、カナダではリモートセンシング技術があることが紹介された。Magellan社は、小型衛星の製造の他にサウンディングロケット
の製造・打上を行っている。日本のプレゼンに対しては、カナダがロケットを持っていない事情から打上げロケットに関する質問が相次いだ。この産業ラウンドテーブルは、相互の宇宙産業の実態、個別企業の技術、製品の情報交換の場となった。
(5)セッション 4:まとめJAXAとCSAの間で相互の衛星のデータを
利用した災害観測に両国で取り組む合意が結ばれたこと及び日本とカナダの産業間を含む宇宙関連の今後の交流の継続を進める旨の共同声明が発表された。
5.今後の関係カナダは、宇宙産業の維持、特に輸出の維
持・拡大のため国際協調をその政策としており(具体的には大型プロジェクトにおける相互補完、または得意分野の積極的輸出)、当面その実態に変更がないことが確認された。
第一回交流会の様子
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カナダの海外政策として、次の5点を挙げている。
1)外国政府との関係をより強固にする。2) 地球規模の問題(例えば、災害管理)に寄与する。
3) 国際的な共同作業の中でリーダーシップを発揮する。
4) カナダの能力を海外に積極的に活用していく。
5) 産・学のマーケット、ミッションへの安全なアクセスを実現する。
今回の訪問に際しても上記政策に基づく対応であった。特に日本とは防災分野、宇宙探査分野、環境観測分野等で協調したい方針であり、日加宇宙産業の交流を深めることにより技術的相互補完の具体化を通じ、相互の貿易拡大に結び付ける施策である。
6.あとがきカナダがこれまで推進して来た「選択と集中」の実態を各企業の訪問(プレゼン及び生産現場の見学)を通じて実感することが出来た。日本においても、世界的競争力のあるコンポーネントの開発、また輸出におけるシェア確保のために参考になるものと考える。今後は、相互の競争力強化・シェア拡大に向けた補完的相互関係を構築していく必要がある。今回の訪問は、両国企業にとって貴重な情報交換の場であり、今後の相互の技術、製品の活用の一助になるものと考える。
最後に今回の訪問にあたり、基本事項の決定から指示、ロジ関係の指導まで頂いた宇宙戦略室、更には訪問先の交渉・予約、また訪問時に種々の多大なご支援を頂いた在加日本大使館、カナダ宇宙庁及び在日カナダ大使館に感謝申し上げます。
カナダ訪問メンバー(4月29日最初の訪問先COM DEV社にて)
〔(一社)日本航空宇宙工業会 技術部長(宇宙担当) 堀井 茂勝〕