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住民が共に育てる 観光まちづくり 事例 31 高知県 四万十町 株式会社 四万十ドラマ 「地域にあるホンモノ」を売りたい 「四万十の栗は、普通の栗の 2 割程大きく、蒸すとメロンより甘い んです」株式会社四万十ドラマの畦地氏は言う。栗は四万十の暮らし を支える産業の柱だ。「しまんと地栗渋皮煮」など商品づくりの根底に は「“日本最後の清流”といわれる四万十川を共有の財産として捉え、 足元の豊かさ・生き方を考えよう」という思いがある。 四万十ドラマは、平成 6 年に四万十川流域町村(旧大正町・十和村・ 西土佐村)の出資により設立された第 3 セクターである。平成 17 年に 近隣住民に株式を売却し、住民が株主の株式会社となった。平成 19 年からは指定管理者として道の駅「四万十とおわ」の運営を行いなが ら「しまんと地栗渋皮煮」「四万十ひのき風呂」「しまんと緑茶」など、 農林漁業に基づく技術や知恵を活かした商品開発と販売に取り組んで きた。その結果、山あいの立地ながら平成 22 年度で年間 3.3 億円の売 上を生むまでになっている。また 28 名の従業員を有し、地域の雇用創 出にも寄与している。同社では、四万十川に負荷をかけない仕組みづ くりを提唱し、人と共に生活文化、技術、知恵、風景を残しながら、 四万十川流域に新たな産業をつくり出すことに成功している。 取組主体 株式会社四万十ドラマ (http://www.shimanto-drama.jp/) 設立年 平成 6 年(1994 年)11 月 1 日 高知県高岡郡四万十町十和川口 62-9 電話 0880-28-5527 FAX 0880-28-4875 畦地 履正氏 (あぜちりしょう) 昭和 39 年生まれ。四万十町(旧 十和村)出身。高校時代は野球 部で活躍した体育会系。昭和 62 年に地元へ U ターン、農協に勤 務。平成 6 年に株式会社四万十 ドラマが1名の常勤職員を全国 公募した際、その職員として手を 上げ採用される。現在、株式会 社四万十ドラマ代表取締役

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Page 1: 株式会社 四万十ドラマ - MLIT住民が共に育てる 観光まちづくり 事例 31 高知県 四万十町 株式会社 四万十ドラマ 「地域にあるホンモノ」を売りたい

住民が共に育てる観光まちづくり

事例

31 高知県 四万十町

株式会社 四万十ドラマ

「地域にあるホンモノ」を売りたい 「四万十の栗は、普通の栗の 2 割程大きく、蒸すとメロンより甘い

んです」株式会社四万十ドラマの畦地氏は言う。栗は四万十の暮らし

を支える産業の柱だ。「しまんと地栗渋皮煮」など商品づくりの根底に

は「“日本最後の清流”といわれる四万十川を共有の財産として捉え、

足元の豊かさ・生き方を考えよう」という思いがある。

四万十ドラマは、平成 6年に四万十川流域町村(旧大正町・十和村・

西土佐村)の出資により設立された第 3セクターである。平成 17年に

近隣住民に株式を売却し、住民が株主の株式会社となった。平成 19

年からは指定管理者として道の駅「四万十とおわ」の運営を行いなが

ら「しまんと地栗渋皮煮」「四万十ひのき風呂」「しまんと緑茶」など、

農林漁業に基づく技術や知恵を活かした商品開発と販売に取り組んで

きた。その結果、山あいの立地ながら平成 22 年度で年間 3.3 億円の売

上を生むまでになっている。また 28 名の従業員を有し、地域の雇用創

出にも寄与している。同社では、四万十川に負荷をかけない仕組みづ

くりを提唱し、人と共に生活文化、技術、知恵、風景を残しながら、

四万十川流域に新たな産業をつくり出すことに成功している。

取組主体 株式会社四万十ドラマ (http://www.shimanto-drama.jp/)

設 立 年 平成 6 年(1994 年)11 月 1 日

住 所 高知県高岡郡四万十町十和川口 62-9 電話 0880-28-5527 FAX 0880-28-4875

畦地 履正氏(あぜちりしょう)

昭和 39 年生まれ。四万十町(旧

十和村)出身。高校時代は野球

部で活躍した体育会系。昭和 62

年に地元へ U ターン、農協に勤

務。平成 6 年に株式会社四万十

ドラマが1名の常勤職員を全国

公募した際、その職員として手を

上げ採用される。現在、株式会

社四万十ドラマ代表取締役

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四万十川の自然や風景を守りながら活かす

には、どうしたらいいのか(コンセプト) → 明確なコンセプトを立ち上げ、地域の人たちを巻き

込みながら共有化・見える化【商品開発】

来訪者だけでなく、商品を通じて全国に地域

の姿を発信したい(商品づくり・流通)

→ 地域の本当の良さを伝えるためのチャネルづくり

【四万十ここしかないもの頒布会】

(地域の特徴)

四万十の自慢は風景と人

風景を保全しながら活用する仕組みをつくる 高知県西部の四万十川中流域は、川と人の暮らしが最も近い地域で

ある。四万十川の自然環境を保全しながら活用することをベースに「四

万十川に負担をかけないものづくり」を目指し、ローカル(足元の豊

かさ・生き方を考える)、ローテク(地元の 1~1.5 次産業の技術や知

恵)、ローインパクト(風景を保全しながら活用する仕組みづくり)が

コンセプトの 3本柱だ。コンセプトは、地球環境問題や食の安全安心

への関心の高まりを受けて、取り組みを進める中で自然に生まれてき

たものである。また、コンセプトやデザインについては、高知在住の

デザイナーである梅原真氏から大きな影響を受けている。

(取り組み概要)

農林漁業に生きづく技術・知恵や

第 1 次、1.5 次産業にこだわる 自然素材を活かした地産地消、交流、地域振興の拠点として平成 19

年にオープンしたのが「道の駅とおわ」である。高知市内からは車で

2時間強と決して立地に恵まれた場所ではないが、年間 15 万人の利用

者で賑わっている。直売所では、地元の生産者が育てた野菜や加工品

が並ぶ。中心となっているのは、地元女性グループ「十和おかみさん

市」(メンバーはなんと 130 名)である。特産である栗を使った「しま

んと地栗渋皮煮」、独特の香りを誇る香り米「十和錦」など、ここにし

かないオリジナル商品は 60 アイテムにのぼる。併設する「とおわ食堂」

では、天然ウナギの「四万十川の天然鰻丼」など地元食材にこだわっ

た料理を提供する。

また、「四万十ここしかないもの頒布会」通じてのインターネット販

売も行う。通信販売と卸販売をミックスさせ販路を拡大するとともに、

四万十川という付加価値をつけた販売で、地域の豊かさを掘り起こし

ている。

地域の課題 ソリューション

「道の駅とおわ」には川の幸、里の幸が並ぶ。年間 15 万人が訪れる

風景を保全しながら活用する仕組み(ローカル、ローテク、ローインパクト)

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単なる商品としてではなく、併せて地域として

の「考え方」も伝えたい

→ 地域に根ざしたデザイナーが自らも調査に参加する

ことで商品の背景を把握 【パッケージデザイン】

過疎化や高齢化により地域活力が失われ、

森林の荒廃や耕作放棄地の増加が進む → 四万十川のファンとの交流を通じて地域の活性化す

る仕組みを構築 【会員制度リバー】

(地域資源の発掘と活用術①)

「コミュニケーションスイッチ」としての

パッケージデザイン

四万十ドラマでは、商品を単に売るだけではなく、手に取ってもら

う際に地域としての「考え方」を併せて伝えることを重視しており、

商品のパッケージデザインを「コミュニケーションスイッチ」として

位置づけて開発を行っている。

パッケージデザインは、地域在住のデザイナーにより、生活者とし

ての視点を交えて行われる。また、デザイナー自らが商品の背景とな

る地域や人の状況を知った上でデザインを行うことが重要となるため、

商品開発のプロセスは、原材料がどのように栽培されているのか、ま

たそれを誰がどのように作っているかといった点について、デザイナ

ーも参加して、直接自分の目で見たり、話を聞いたり、時には酒を酌

み交わしたりといった調査を行うことからスタートする。

(地域資源の発掘と活用術②)

会員制度 RIVER を中心に全国と相互交流

四万十川の中流域では、過疎化や高齢化により地域の活力が失われ

るにつれ森林の荒廃や耕作放棄地の増加が進み、四万十川の環境が悪

化してきた。そこで、「四万十川を核とし、都会の人は都会に住む立場

で田舎の人は田舎に住む立場で豊かさを考える」という会員制度

RIVER(リバー)を創設した。以来、登録した会員に四万十川の自然や

文化、地域に暮らす人々、環境保全への取り組みなどを紹介する情報

誌を作成して届けるとともに、直接交流の機会を設け「顔の見えるお

付き合い」を目指してきた。全国に約 1,000 人いる会員に商品モニタ

ーになってもらい、消費者ニーズにあった商品開発も行っている。

地域の課題 ソリューション

しまんと地栗渋皮煮

しまんと荒茶

会員制度「RIVER」の情報誌

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(地域資源を観光事業に活かすまでのプロセス)

「四万十ドラマ」の名を全国に知らしめるきっかけとなったの

は、どこにでもある新聞紙でつくられたエコバック「四万十川新

聞バッグ」だった。四万十ドラマのプロデュースをしている梅原

真氏の「四万十で売る商品はすべて新聞で包もう」という一言か

ら始まった。形にしたのは流域に住む主婦。日本人の美意識「も

ったいない」と「おりがみ文化」が融合した、機能的で美しいバ

ッグとして、誕生以来、海を渡って海外のミュージアムショップ

で販売されたり、メディアに取り上げられたりするなど、注目を

集める。年 1回のコンクールには全国から応募がある。

(年表)

平成 14 年(2002 年) 日本最後の清流ラストリバーの“こころざし” にあわせて「四万十川流域で販売される商

品は、全て新聞紙で包もう」と発案

平成 15 年(2003 年) 流域に暮らす主婦・伊藤のおばちゃんが「こ

んなのどう?」とバッグを考案

平成 17 年(2005 年) アメリカから大量の注文が入りボストンのミ

ュージアムショップ、イギリスにも輸出

平成 18 年(2006 年) 「道の駅とおわ」で、レジバックとして販売

平成 19 年(2007 年) 製法特許を出願

平成 20 年(2008 年) 「作り方レシピ付き」を発売

平成 22 年(2010 年) 第 1 回四万十川新聞バッグコンクール開催

(統計データ)

数字でみる「四万十ドラマ」 株式会社四万十ドラマの年間売上高は、平成 22年度で約 3.3

億円である。その内訳は道の駅での物販や飲食関連が約 1.5 億

円、インターネット販売や観光事業関連が約 1.5 億円、その他

受託事業収入などが約 0.3 億円となっている。

読み終えた新聞で作る新

聞バッグは、誰でも簡単

につくれる。形や大きさに

はバリエーションがあり、

「作り方」をホームページ

で公開している

全国から公募した新聞

バッグを広井小学校(休

校中)に展示し、来校者

による投票と、審査員に

よる公開審査でグランプ

リ作品を決定

“こころざし”を伝える「四万十川新聞バッグ」ができるまで

物販・飲食

等1.5

インター

ネット販

売・観光事

業 等1.5

その他(受

託事業収

入等)

0.3

単位:億円(約)