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磁場の強い中性子星天体 Her-x1
のMAXI観測データ解析
12S1003 赤塚孔明
2
要旨
磁場の強い中性子星天体 Her-X1 の連星周期と超軌道周期を確認することを研究目的とし、
全天 X線監視装置MAXI(マキシ)観測データの解析をした。MAXIの観測データは
MAXI-dayデータとMAXI-orbitデータ、2種類あるためそれぞれの周期で観測データを使
い分ける。MAXI-dayデータはX線天体の 1日ごとの変化を、MAXI-orbitデータは 90分
ごとの変化を観測したデータである。Her-X1の場合、連星周期はMAXI-orbitデータを、
超軌道周期はMAXI-dayデータを使用する。これは、Her-X1の連星周期は約 1.7日であ
ることと、超軌道周期が約 35日であるとされているからである。解析は以下の手順で行う。
1. インターネットサイトMAXI RIKENから Her-X1のMAXI-dayデータと
MAXI-orbitデータをダウンロードする。
2. MAXIの観測データから観測不良部分を削除する。これは、観測不良により正しく
ないデータが存在するためである。
3. 修正後のデータを解析し、X線の変化からHer-X1の連星周期と超軌道周期を見つ
けていく。
その結果、解析したMAXI観測データからHer-X1の連星周期と超軌道周期を確認す
ることができた。
3
目次
1 中性子星天体 Her-X1
1.1 中性子星天体について
1.2 中性子星天体とHer-X1
2 全天 X線監視装置 MAXI(マキシ)
2.1 MAXIについて
2.2 使用したMAXIのデータについて
3 観測と解析
3.1 不要データの削除
3.2 観測結果の修正
3.3 Her-X1の連星周期と超軌道周期
4 結果と考察
4
1 中性子星天体 Her-X1
1.1 中性子星天体について
1967 年に電波パルサーとして発見されたとされている(電波パルサー…強い磁場を持
ち、高速で自転している天体)。中性子星天体は、質量の大きい恒星の超新星爆発によっ
て誕生する。超新星爆発により、外層部は宇宙に放出され、中心部に残った核が中性子
星となる。特徴として、非常に高速で自転していることと、非常に密度の高い天体であ
ることが挙げられる。また、中性子星天体全てではないが、強い磁場を持ったものが多
く、今回の研究対象である Her-X1も強い磁場を持っている。
1.2 中性子星天体と Her-X1
強い X線を放射している中性子星天体を「X線星」とよぶ。「X線星」の多くは、他の星
とペアになってお互いの周りをまわっている、近接連星系とよばれるものが多い。さらに、
「X線星」であり近接連星系であるものを「X線連星」とよぶ。例として、ブラックホール
天体などが挙げられる。その中でも非常に規則正しい周期性をもった X 線放射をしている
「X 線連星」を「連星 X線パルサー」とよぶ。「連星 X 線パルサー」に Her-X1も含まれ
る。
このことから、Her-X1 は非常に強い磁場を持った中性子星であり、ペアになってお互い
をまわっている天体が存在することがわかる。
*近接連星系とは、2つの星が互いに接触するくらい近くをまわっているようなもの。
図1 宇宙航空研究開発機構 http://www.isas.jaxa.jp/引用
5
図 1 のように、中性子星天体の周りを他の天体がペアとなってまわっている。星はガス
を吹き出しており、中性子星の強い重力場に引き付けられて流れ込んでいき、ちょうど地
球の南極や北極に相当する磁極にガスが落ち込んで、強い X線を放射する。
また、一定の周期でお互い周りをまわっており、ペアとなっている天体が中性子星の周
りを一周する周期を連星周期という。Her-X1 の場合もペアとなる天体が存在し、連星周
期は約1.7日であるとされている。図1からもペアとなっている天体から落ち込んだガスが、
中性子星天体の周りでリングのようなものになっているのがわかる。このリングが中性子
星の周りで歳差運動をしていることが、超軌道周期の起源となっていると考えられている。
Her X-1の超軌道周期は、約 35日である。
6
2 全天 X線監視装置MAXI(マキシ)
2.1 MAXIについて
全天 X線監視装置MAXI: Monitor of All-sky X-ray Imageの略である。世界最高性能の
広視野 X線カメラを国際宇宙ステーション(ISS)に搭載し、これによって全天のX線天体
を観測できる。X線による宇宙の観測を行い、X線を放射するのではなく、天体から発せら
れる宇宙に飛び交う X 線をカメラがとらえるという仕組みである。X線天体の1日から、
数カ月にわたる X 線の強度変化を 90 分に 1 回の間隔で監視し、1 日ごとの観測データを
MAXI-dayデータ、90分ごとの観測データをMAXI-orbitデータという。今回の実験では、
それぞれのデータを周期によって使い分ける。
図 2 宇宙航空研究開発機構 http://www.isas.jaxa.jp/引用
2.2 使用したMAXIのデータについて
インターネットサイト MAXI RIKEN から Her-X1 の観測データをダウンロードして
使用する。MAXI-dayデータとMAXI-orbitデータの 2種類のデータが存在するので、解析
の際には、連星周期と超軌道周期でそれぞれを使い分ける。また、MAXI 観測データは縦
軸を X 線のカウント数/cm2/s とし、横軸を修正したユリウス日とする。図 3 のみでこれを
表記しているが、以下の図も単位は同じである。
7
3 観測と解析
3.1 不要データの削除
図 3 MAXIによるHer-X1の 1日ごとのX線の動き
図 4 MAXIによるHer-X1の 90分ごとのX線の動き
-0.2
-0.1
0
0.1
0.2
0.3
0.4
0.5
0.6
0.7
54500 55000 55500 56000 56500 57000 57500
X線のカウント数
/cm
2/s
修正ユリウス日
MAXI-dayデータ
-1
-0.8
-0.6
-0.4
-0.2
0
0.2
0.4
0.6
0.8
1
1.2
54500 55000 55500 56000 56500 57000 57500
修正ユリウス日
MAXI-orbitデータ
8
図3、4が、ダウンロードしてきたMAXIの観測データをそのまま図示したものである。
図 3 が 1 日ごとの観測である MAXI-day データで、図 4 が 90 分ごとの観測である
MAXI-orbitデータである。2つのデータを比較すると、MAXI-orbitデータのほうが、非常
に細かくなっているのがわかる。また、それぞれのデータの赤で丸く囲っているのは不良
データ部分である。これは、MAXI の観測不良によって生じたもので、このままデータ解
析を行ってしまうと結果に悪影響を与えるので予め削除しておく。
3.2 観測結果の修正
図 5 修正後のMAXIによる Her-X1の 1日ごとのX線の動き
図 6 修正後のMAXIによる Her-X1の 90分ごとのX線の動き
-0.2
-0.1
0
0.1
0.2
0.3
0.4
0.5
0.6
0.7
54500 55000 55500 56000 56500 57000 57500
修正ユリウス日
MAXI-dayデータ
-0.4
-0.2
0
0.2
0.4
0.6
0.8
1
1.2
54500 55000 55500 56000 56500 57000 57500
修正ユリウス日
MAXI-orbitデータ
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図5と図6は、観測データの赤で囲った不良データ部分を削除したあとのものである。こ
のデータを解析してHer-X1の連星周期と超軌道周期を見出していく。
3.3 Her-X1の連星周期と超軌道周期
超軌道周期
図 7 解析後のMAXIによる Her-X1の 1日ごとのX線の動きと超軌道周期について
図 7 は、MAXI-day データを修正し、350 日程度の期間を拡大したものである。この散
布図は、MAXIによるHer-X1の 1日ごとのX線の変化を表しており、縦軸の 0.4付近の
データが等間隔で観測されていることがわかる。また、等間隔で変化している部分が、下
の目盛りから約 35日ごとに観測されている。Her-X1の超軌道周期は約 35日ごとである
とされているので、このX線の変化は、Her-X1の超軌道周期を表していると考えられる。
-0.1
0
0.1
0.2
0.3
0.4
0.5
0.6
55050 55100 55150 55200 55250 55300 55350 55400
修正ユリウス日
MAXI-dayデータ
35
日
10
連星周期
図 8 解析後のMAXIによる Her-X1の 90分ごとのX線の動きと連星周期について
図 8は、MAXI-orbitデータを修正し、拡大したものである。この散布図は、MAXIによ
る Her-X1の 90分ごとのX線の変化を表している。下の目盛りは 35日を 1とした 35日
周期の位相で、この図は約 12~13 日間のX線の変化を表している。Her-X1 の連星周期は
約 1.7日とされているので、35日の間で 20回程の等間隔でのX線の変化が見られることに
なる。よって、図 8は約 12~13日間のX線の変化を表しているので、約 7回の連星周期を
確認することができる。
MAXI データを解析した結果、等間隔でのX線の変化が 6 回確認できた。下の目盛りか
ら見ても約 1.7日であるので、これは Her-X1の連星周期であると考えられる。
*X線強度がマイナスにまでなってしまうのは、MAXI の観測データには多少の誤差があ
るためである。
-0.2
-0.1
0
0.1
0.2
0.3
0.4
0.5
0.6
0.7
0.25 0.3 0.35 0.4 0.45 0.5 0.55 0.6
35日を1とした35日周期の位相
MAXI-orbitデータ
1.7日
11
4 結果と考察
[考察]
Her-X1の連星周期と超軌道周期を解析したMAXI観測データから確認することができ
た。
Her-X1の超軌道周期について
解析したMAXI-dayデータから、約 35日周期の Her-X1 の超軌道周期をみることがで
きた。これは、MAXI-dayデータ解析が正確にできたためであると考える。超軌道周期は、
中性子星天体の周りをまわっているガスが歳差運動を繰り返しており、それによって中性
子星天体が見え隠れしてX線に変化があらわれる。
図 9 中性子星天体と歳差運動をしているガスの動きについて(降着円盤は中性子星天体の
周りのガスのことで、伴星はペアとなって周りをまわっている天体のことである)
左の図は井上先生の臨時授業からの引用
左の図から確認できるように、伴星から中性子星天体へガスが落ち込んでいく。落ち込
んでいくガスは中性子星天体の周りをリングのように囲み(降着円盤)右の図のように、
中性子星を中心としてコマの首ふりのような歳差運動をしている。Her-X1 の場合も、
MAXI方向からみて、Her-X1がガスによって隠れたときにX線が弱まり、Her-X1がみ
えてくるようになるとX線が強まる。作成した散布図からも、このX線の変化をみること
ができHer-X1の超軌道周期である 35日の等間隔で確認することもできた。
中性子星天体 降着円盤
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Her-X1の連星周期について
解析した MAXI-orbit データから、約 1.7 日ごとの変化をみることができた。これは、
MAXI-orbitデータ解析が正確にできたためであると考える。連星周期は、ペアになってお
互いの周りをまわっている天体が、中性子星天体の周りを1周する際のX線の変化である。
図 10 中性子星天体とペアとなっている天体の動き
図 10のように、中性子星天体の周りをまわっている天体が存在する。一定の周期でお互
いをまわっており、これを連星周期という。また、中心の中性子星天体はX線を放射して
おり、それを MAXI が観測する。MAXI からみて、中性子星天体とその周りをまわってい
る天体が日食のように重なってしまうと、中性子星天体から放射されているX線が弱くな
る。そして、」天体が遠ざかるとX線が強くなる。このようなX線の変化も作成したグラフ
からみることができHer-X1の連星周期である 1.7日の等間隔で確認することができた。
今回の実験から MAXI の観測データを解析し、作成したグラフから等間隔でX線が変化
しているのがわかった。また、それぞれが 1.7日と 35日であることがわかり、Her-X1の
連星周期と超軌道周期を確認することができたといえる。
中性子星天体
X線
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参考文献
宇宙情報センター http://spaceinfo.jaxa.jp
宇宙航空研究開発機構 http://www.isas.jaxa.jp/
MAXI RIKEN http://maxi.riken.jp/top/