62
(8)なたね (作付面積は近年増加傾向) 搾油用なたねは、北海道や青森県等の一部地域を中心に生産されています。近年は、耕作放棄地対策 やバイオマス 1 エネルギー等にも活用され、作付面積は増加傾向で推移しており、平成24(2012)年 産は 1,610ha となっています(表 3-5-6)。 また、生産量は、平成19(2007)年産までは1千t程度で推移していましたが、作付面積が増加し たため、平成 24(2012)年産は 1,870t となっています(図 3-5-47)。地域別には、北海道が約5割、 東北が約 3 割を占めています。 表 3-5-6 なたねの地域別作付面積の推移 (単位:ha) 昭和 55 年産 (1980) 平成 2 (1990) 8 (1996) 11 (1999) 22 (2010) 23 (2011) 24 (2012) 全国計 2,420 925 593 607 1,690 1,700 1,610 北海道 425 502 407 東北 481 276 317 353 557 465 533 九州 1,800 591 92 79 297 314 283 その他 140 58 184 175 411 419 387 資料:農林水産省「作物統計」 注:1)平成11(1999)年産までは主産県調査。 2)平成2(1990)~11(1999)年産の東北は青森県の値。 平成8(1996)、11(1999)年産の九州は鹿児島県の値。 図 3-5-47 なたねの生産量の推移 92 106 138 273 224 205 232 106 109 271 327 232 404 468 342 426 450 546 287 316 469 600 949 887 1,015 996 1,058 1,570 1,950 1,870 0 500 1,000 1,500 2,000 平成 15 年産 (2003) 17 (2005) 19 (2007) 22 (2010) 23 (2011) 24 (2012t 北海道 九州 東北 その他 資料:農林水産省「作物統計」、「特産農作物生産実績」 (新品種の育成・普及と搾油事業者との連携に期待) 油糧用なたねの需要量は年間 200 万 t ありますが、ほとんどを輸入に依存しています。国産なたねの 生産量は 2 千 t 弱に過ぎず、その価格は輸入なたねの 2 倍から 3 倍となっていることから、製造コスト 等が高くなり、国産なたね油の小売価格は輸入なたね油の 3 倍から 5 倍となっています。 このため、国産なたね油は、国産へのこだわりが強く、より自然な食品を求める消費者(生協会員 等)に支持されているものの、需要は極めて限定的となっていることから、国産なたね油の特徴(圧搾 法による色・風味の良さ)や希少性を最大限に引き出した製品づくりのため、契約栽培の推進等を通 じ、農業者と搾油事業者等との連携を促進しています。 また、心臓病を誘発するおそれがあるエルシン酸を含まず、収量性に優れた寒冷地向け品種「キザキ ノナタネ」、暖地向けに同様の性質を有する「ななしきぶ」等の品種が開発され、普及が進められてい ます。 (9)てんさい (作付面積は近年減少傾向) てんさいは、砂糖の原料として北海道の畑作地帯で作付けされています。畑作では、連作障害を回避 するため、3 年間から 4 年間を単位として、複数の作物を順番に作付けする輪作が行われています。輪 作は、十勝地域では、麦、てんさい、豆類、ばれいしょの 4 輪作、網走地域では、麦、てんさい、ばれ 1 [用語の解説]を参照。 213 13

第 (8)なたね 1 部 - maff.go.jp(2012) 全国計 2,420 925 593 607 1,690 1,700 1,610 北海道 - - - - 425 502 407 東北 481 276 317 353 557 465 533 九州 1,800

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(8)なたね

(作付面積は近年増加傾向)

搾油用なたねは、北海道や青森県等の一部地域を中心に生産されています。近年は、耕作放棄地対策やバイオマス1エネルギー等にも活用され、作付面積は増加傾向で推移しており、平成24(2012)年産は1,610haとなっています(表3-5-6)。また、生産量は、平成19(2007)年産までは1千t程度で推移していましたが、作付面積が増加し

たため、平成24(2012)年産は1,870tとなっています(図3-5-47)。地域別には、北海道が約5割、東北が約3割を占めています。

表3-5-6 なたねの地域別作付面積の推移(単位:ha)

昭和55年産

(1980)

平成2(1990)

8(1996)

11(1999)

22(2010)

23(2011)

24(2012)

全国計 2,420 925 593 607 1,690 1,700 1,610

北海道 - - - - 425 502 407

東北 481 276 317 353 557 465 533

九州 1,800 591 92 79 297 314 283

その他 140 58 184 175 411 419 387

資料:農林水産省「作物統計」注:1)平成11(1999)年産までは主産県調査。

2)平成2(1990)~11(1999)年産の東北は青森県の値。平成8(1996)、11(1999)年産の九州は鹿児島県の値。

図3-5-47 なたねの生産量の推移

92 106 138 273 224 205232 106 109

271 327 232

404468 342

426 450 546287 316 469

600

949 887

1,015 996 1,058

1,570

1,9501,870

0

500

1,000

1,500

2,000

平成15年産

(2003)

17(2005)

19(2007)

22(2010)

23(2011)

24(2012)

t

北海道

九州

東北

その他

資料:農林水産省「作物統計」、「特産農作物生産実績」

(新品種の育成・普及と搾油事業者との連携に期待)

油糧用なたねの需要量は年間200万tありますが、ほとんどを輸入に依存しています。国産なたねの生産量は2千t弱に過ぎず、その価格は輸入なたねの2倍から3倍となっていることから、製造コスト等が高くなり、国産なたね油の小売価格は輸入なたね油の3倍から5倍となっています。このため、国産なたね油は、国産へのこだわりが強く、より自然な食品を求める消費者(生協会員

等)に支持されているものの、需要は極めて限定的となっていることから、国産なたね油の特徴(圧搾法による色・風味の良さ)や希少性を最大限に引き出した製品づくりのため、契約栽培の推進等を通じ、農業者と搾油事業者等との連携を促進しています。また、心臓病を誘発するおそれがあるエルシン酸を含まず、収量性に優れた寒冷地向け品種「キザキ

ノナタネ」、暖地向けに同様の性質を有する「ななしきぶ」等の品種が開発され、普及が進められています。

(9)てんさい

(作付面積は近年減少傾向)

てんさいは、砂糖の原料として北海道の畑作地帯で作付けされています。畑作では、連作障害を回避するため、3年間から4年間を単位として、複数の作物を順番に作付けする輪作が行われています。輪作は、十勝地域では、麦、てんさい、豆類、ばれいしょの4輪作、網走地域では、麦、てんさい、ばれ

1[用語の解説]を参照。

213

第1部

第3章

Page 2: 第 (8)なたね 1 部 - maff.go.jp(2012) 全国計 2,420 925 593 607 1,690 1,700 1,610 北海道 - - - - 425 502 407 東北 481 276 317 353 557 465 533 九州 1,800

いしょの3輪作が一般的となっており、てんさいは、輪作体系の下での重要な作物となっています。また、てんさい糖は国産砂糖の7割を占めています。北海道においては、てんさいから砂糖を生産するための製糖工場が各産地に設置され、地域の産業としても重要な役割を担っています。北海道におけるてんさいの作付面積の推移をみ

ると、栽培技術の向上に伴って単収の向上・安定化が図られたこと等を背景として、昭和55(1980)年産の6万5千haから平成2(1990)年産の7万2千haまで増加しました(図3-5-48)。しかしながら、その後は、労働負担が大きいこと等の理由から減少傾向で推移しており、平成24(2012)年産は5万9千haとなっています。

(労働負担の軽減が課題)

北海道の工芸農作物部門1の農業粗収益の推移をみると、平成19(2007)年に製糖事業者が生産者から特定の価格で買い取る仕組み(最低生産者価格制度)を改め、品目横断的経営安定対策による国から生産者への直接支援を導入するとともに、価格については当事者間で決定する仕組みとしたことから、その構成は変化していますが、10万円/10aから12万円/10aの間で推移しています(図3-5-49)。また、平成23(2011)年は戸別所得補償制度による直接支払が実施されています。てんさいの販売収入は、単収の増減等に伴って変動しており、単収が低下した平成22(2010)年の販売収入は前年に比べて大幅に減少しています(図3-5-50)。農業経営費については、7万円/10aから8万円/10aの間で推移していますが、農業所得は、単収が上昇した平成16(2004)年に最高の4万7千円/10aとなる一方、単収が低下した平成22(2010)年は2万4千円/10aと最も低くなっています。

図3-5-49 工芸農作物部門(北海道)の10a当たり農業粗収益及び農業所得の推移

資料:農林水産省「農業経営統計調査 営農類型別経営統計(個別経営)」

注:図3-5-6の注釈参照。

0

20

40

60

80

100

120

140千円/10a

平成16年(2004)

17(2005)

18(2006)

19(2007)

20(2008)

21(2009)

22(2010)

23(2011)

119105 99 70 76

22 5

3132

121107 104 101

108

74 72 7070 75

4735 34 31 33

販売収入等共済・補助金等

(戸別所得補償以外)

農業経営費

7556

66

3336 44

11111 110

79 77

3124

33

戸別所得補償農業所得

農業粗収益

100

76

図3-5-50 てんさいの単収の推移

資料:農林水産省「作物統計」

平成16年(2004)

17(2005)

18(2006)

19(2007)

20(2008)

21(2009)

22(2010)

23(2011)

kg/10a

0

4,000

5,000

6,000

7,000

8,000

6,850

6,220

5,820

6,450 6,440

5,660

4,940

5,860

また、工芸農作物部門における農業所得を北海道で作付けされる主要な畑作物と比較すると、工芸農作物は3万3千円/10aとなっており、豆類(3万円/10a)と同水準になっています(図3-5-51)。一

図3-5-48 てんさいの作付面積(北海道)の推移

資料:農林水産省「作物統計」

0

20

40

60

80

昭和55年産

(1980)

平成2(1990)

12(2000)

17(2005)

22(2010)

23(2011)

24(2012)

千ha

65.072.0 69.2 67.5 62.6 60.5 59.3

1 平成23(2011)年の畑作経営(北海道)工芸農作物部門の作付面積のうち、てんさいの割合は98%。

214

第5節 主要農畜産物の生産等の動向

Page 3: 第 (8)なたね 1 部 - maff.go.jp(2012) 全国計 2,420 925 593 607 1,690 1,700 1,610 北海道 - - - - 425 502 407 東北 481 276 317 353 557 465 533 九州 1,800

方、工芸農作物の労働時間は、15時間/10aと麦類の4倍、豆類の1.5倍となっており、農家の労働負担が麦類や豆類に比べて大きくなっています。農家の高齢化等により農家数が減少する中、北海道畑作経営は規模拡大が進行しており、労働時間の

多いてんさいの作付面積は近年、減少傾向にあります。このような中、てんさい生産における労働力不足を補うため、作業の外部化や省力化に必要となる農業機械等のリース導入への支援を実施しています。また、直播栽培の導入に対する支援措置等により、てんさいの作付面積に占める直播栽培の割合は、

平成14(2002)年産の4%から平成23(2011)年産の12%まで上昇傾向で推移していますが、今後の更なる普及に向けた取組が重要となっています(図3-5-52)。

図3-5-51 畑作経営(北海道)部門別の10a当たり労働時間及び農業所得(平成23(2011)年)

1515

441010

2020

33

2030

49

0工芸農作物 麦類 豆類 ばれいしょ

時間/10a労働時間

千円/10a農業所得(右目盛)

05 1010 2015 3020 4025 50

資料:農林水産省「農業経営統計調査 営農類型別経営統計(個別経営)」

図3-5-52 てんさいの作付面積に占める直播栽培の割合の推移

資料:北海道「てん菜・てん菜糖に関する生産状況調査」

23(2011)

22(2010)

20(2008)

18(2006)

16(2004)

平成14年産(2002)

%14121086420

11.912.0

9.2

6.04.84.0

(10)さとうきび

(作付面積は減少傾向)

さとうきびは、沖縄県及び鹿児島県の南西諸島における基幹作物であり、沖縄県ではさとうきびの栽培面積が耕地面積の47%1を占めています。また、さとうきびから砂糖を製造する製糖工場が、離島を含めて各地に設置されており、地域経済を支える重要な作物となっています。沖縄県と鹿児島県におけるさとうきびの収穫面

積の推移をみると、平成2(1990)年産の3万3千haから平成12(2000)年産の2万3千haまで減少し、その後はおおむね横ばいで推移しています(図3-5-53)。県別にみると、鹿児島県では、平成2(1990)年産の1万2,400haから平成12(2000)年産の9,500haまで減少した後やや増加に転じ、平成23(2011)年産は1万300haとなっています。一方、沖縄県は平成2(1990)年産の2万400haから平成12(2000)年産の1万3,600haまで減少した後も減少傾向が続いており、平成23(2011)年産は1万2,300haとなっています。

1 農林水産省「作物統計」、「耕地及び作付面積統計」(平成23(2011)年)

図3-5-53 さとうきびの収穫面積及び収穫量の推移

資料:農林水産省「作物統計」

21.121.1 20.420.413.613.6 12.512.5 12.812.8 12.312.3

12.712.7 12.412.4

9.59.5 8.88.8 10.510.5 10.310.3

33.8 32.8

23.1 23.2 22.6

0

10

20

30

40

0

100

200

300

昭和55年産(1980)

平成2(1990)

12(2000)

17(2005)

22(2010)

23(2011)

千ha鹿児島県沖縄県

198140 121 147

100

万t

21.3

210

(収穫量)

(収穫面積)

215

第1部

第3章

Page 4: 第 (8)なたね 1 部 - maff.go.jp(2012) 全国計 2,420 925 593 607 1,690 1,700 1,610 北海道 - - - - 425 502 407 東北 481 276 317 353 557 465 533 九州 1,800

さとうきびの収穫量は平成2(1990)年産には198万tありましたが、収穫面積の減少に伴って減少し、平成22(2010)年産は147万tとなりました。しかしながら、平成23(2011)年産の収穫量は、台風、干ばつ、病害虫の被害により100万tと大きく減少しました。平成24(2012)年産についても、度重なる台風の襲来等により、2年連続の不作と見込まれています。また、この不作によって製糖工場の操業率が低下しており、製糖工場の経営にも影響がみられます。さとうきびの不作は回復に3年から4年かかるといわれており、地域経済の長期的な停滞を回避するため継続的な支援が必要です。このため、平成24(2012)年産においては、不作の原因となった病害虫に対する防除対策として、農薬、交信かく乱、フェロモントラップ、誘殺灯等の資材・機材の導入やほ場及びほ場周辺の除草の取組等への支援を実施しました。引き続き平成25(2013)年産以降においても、土づくり、農薬とフェロモントラップを組み合わせた総合防除、農地流動化等の増産や生産性の向上に向けた取組、経営安定化に向けた輪作体系の導入や複合経営の確立に向けた取組等について、各島・各地域の気象条件等に応じた支援を実施することとしています。

(収穫作業等の機械化が進展)

収穫期が労働のピークとなるさとうきび栽培は、特に高齢化による労働力不足が作付面積の減少に結び付くことが懸念されており、収穫期の労働力確保や収穫作業の機械化が重要な課題となっています。このような中、さとうきび栽培の機械化一貫体系の確立が進められています。鹿児島県と沖縄県における、ハーベスタ等の収穫機によるさとうきびの収穫面積は、それぞれ、平成11(1999)年の4,958ha、4,091haから平成23(2011)年の9,142ha、5,999haまで増加しています(表3-5-7)。また、総収穫面積に占める機械収穫面積の割合は、それぞれ、平成11(1999)年の53%、30%から平成23(2011)年の89%、49%まで上昇しており、さとうきび収穫作業の機械化が進展しています。さらに、苗の植え付けを行うプランタや収穫後の株からの出芽を揃える株出管理機等の農業機械の導入も進展しており、さとうきびの栽培管理の各段階における機械化が進められています。

表3-5-7 さとうきびの機械収穫面積の推移

(鹿児島県)(単位:ha、%)

平成11年(1999)

13(2001)

15(2003)

17(2005)

19(2007)

20(2008)

21(2009)

22(2010)

23(2011)

総収穫面積 9,327 9,376 9,885 8,749 9,378 9,762 10,283 10,465 10,326機械収穫面積 4,958 5,680 6,819 5,548 7,300 7,476 8,449 9,112 9,142

ハーベスタ 3,274 4,129 5,328 4,959 6,366 7,003 7,879 8,629 8,647その他 1,684 1,551 1,491 589 934 473 570 483 495

機械収穫率 53.2 60.6 69.0 63.4 77.8 76.6 82.2 87.1 88.5

(沖縄県)(単位:ha、%)

平成11年(1999)

13(2001)

15(2003)

17(2005)

19(2007)

20(2008)

21(2009)

22(2010)

23(2011)

総収穫面積 13,485 13,393 13,959 12,485 12,659 12,406 12,747 12,761 12,289機械収穫面積 4,091 4,393 5,322 4,392 5,146 5,292 5,553 5,715 5,999

ハーベスタ 3,901 4,278 5,167 4,219 4,973 5,093 5,353 5,502 5,764その他 191 115 155 173 173 199 200 213 235

機械収穫率 30.3 32.8 38.1 35.2 40.7 42.7 43.6 44.8 48.8

資料:鹿児島県「さとうきび及び甘しゃ糖生産実績」、沖縄県「さとうきび及び甘しゃ糖生産実績」

216

第5節 主要農畜産物の生産等の動向

Page 5: 第 (8)なたね 1 部 - maff.go.jp(2012) 全国計 2,420 925 593 607 1,690 1,700 1,610 北海道 - - - - 425 502 407 東北 481 276 317 353 557 465 533 九州 1,800

(作柄の悪化に伴い農業所得が減少)

さとうきび作部門(沖縄県)の農業粗収益の推移をみると、作柄が悪化した平成17(2005)年は8万4千円/10aと最も低くなりましたが、平成18(2006)年から実施されている「さとうきび増産プロジェクト」によって生産性の高い株出栽培1への移行が進み、収穫量が増加したこと等を背景として、平成21(2009)年には12万7千円/10aまで回復しました(図3-5-54)。平成23(2011)年は天候の影響等により作柄が悪化したことから、11万円/10aに減少しています。また、農業経営費は、平成16(2004)年から

平成21(2009)年にかけて、肥料費等の上昇の影響により増加しましたが、平成22(2010)年以降は、雇用労賃や農機具費等の低下により減少傾向にあります。このような中、農業所得は、農業粗収益の回復に伴い、平成18(2006)年の3万8千円/10aから

平成21(2009)年の6万4千円/10aまで増加しました。しかしながら、平成23(2011)年は作柄の悪化に伴い5万8千円/10aに減少しています。

(11)ばれいしょ

(作付面積は減少傾向)

平成23(2011)年度における、ばれいしょの消費仕向量は、前年度の325万tに比べて4%(14万t)増加し339万tとなっていますが、平成12(2000)年度の372万tから9%(33万t)減少しています(図3-5-55)。また、平成23(2011)年度における1人当たり供給数量は、前年度の14.8kgに比べて0.2kg増加

し15.0kgとなっていますが、平成12(2000)年度の16.2kgから7%(1.2kg)減少しています。一方、平成23(2011)年度における生産量は、前年度の229万tに比べて4%(10万t)増加し239

万tとなっていますが、平成12(2000)年度の290万tから18%(51万t)減少しています。なお、平成23(2011)年度における輸入量は、前年度の96万tに比べて3%(3万t)増加し99万t

となっており、平成12(2000)年度の82万tから21%(17万t)増加しています。このような中、平成23(2011)年産におけるばれいしょの作付面積は、前年産の8万3千haに比べ

て2%(2千ha)減少し8万1千haとなっており、平成12(2000)年産の9万5千haから14%(1万4千ha)減少しています(図3-5-56)。この作付面積を地域別にみると、平成12(2000)年産に比べて、北海道で10%(6千ha)減少す

るとともに、都府県で21%(8千ha)減少しています。この結果、ばれいしょの作付面積に占める北海道の割合は、平成12(2000)年産の62%から平成23(2011)年産の66%まで4ポイント上昇しています。

図3-5-54 さとうきび作部門(沖縄県)の10a当たり農業粗収益及び農業所得の推移

20

40

60

80

100

120

140千円/10a

平成16年(2004)

17(2005)

18(2006)

19(2007)

20(2008)

21(2009)

22(2010)

23(2011)

91

117127

119110

40 41

51 5062

62 5852

51 43

38 4755

64 61 58

農業経営費 農業所得農業粗収益

84 9097

資料:農林水産省「農業経営統計調査 営農類型別経営統計(個別経営)」

注:図3-5-6の注釈参照。

1 収穫後の地下株から出る芽を栽培し、再び収穫する作型。

217

第1部

第3章

Page 6: 第 (8)なたね 1 部 - maff.go.jp(2012) 全国計 2,420 925 593 607 1,690 1,700 1,610 北海道 - - - - 425 502 407 東北 481 276 317 353 557 465 533 九州 1,800

図3-5-55 ばれいしょの生産量、消費仕向量等の推移

0.02.04.06.08.010.012.014.016.018.0

昭和55年度(1980)

平成2(1990)

12(2000)

23(2011)

万t kg1人当たり供給数量(右目盛)

363363

355290

239

21 3982 99

342

394 372339

13.415.5 16.2

15.0

0

100

200

300

400

500

600

生産量

消費仕向量

輸入量

資料:農林水産省「食料需給表」

図3-5-56 ばれいしょの地域別作付面積の推移

資料:農林水産省「野菜生産出荷統計」

15 14 11 11 10 10

15 129 8 7 7

1310

6 5 5 4

6568

5956 54 53

123116

9587 83 81

0

20

40

60

80

100

120

140

昭和55年産(1980)

12(2000)

17(2005)

22(2010)

23(2011)

千ha北海道

関東・東山

東北

平成2(1990)

九州

(生食用の消費が減少)

ばれいしょは、生食用以外として、マッシュポテト、ポテトチップス、冷凍加工等の加工食品用やでん粉原料用としても消費されています。特に北海道の畑作地帯において、ばれいしょは輪作体系の下での重要な作物となっていることに加え、でん粉工場が北海道内の各産地に設置されており、地域の産業としても重要な役割を担っています。ばれいしょの用途別仕向量の推移をみると、生食用は昭和55(1980)年産の117万tから平成23(2011)年産の72万tに減少する一方、加工食品用は平成2(1990)年産以降減少傾向にあるものの、昭和55(1980)年産の36万tから平成23(2011)年産の51万tに増加しています(表3-5-8)。でん粉用は、昭和55(1980)年産の142万tからやや減少し、平成2(1990)年産以降は100万tから130万t程度で推移していますが、平成23(2011)年産については、天候等の影響によりばれいしょの生産量が減少したことから79万tとなっています。今後、ばれいしょの需要拡大等に向けて、フライドポテトやポテトチップス等の加工食品用への供給の拡大やばれいしょでん粉の需要の開拓、病害虫抵抗性品種についての消費者の理解の促進等が課題となっています。

(12)かんしょ

(作付面積が減少傾向)

平成23(2011)年度における、かんしょの1人当たり供給数量は、前年度の3.8kgに比べて5%(0.2kg)増加し4.0kgとなっていますが、平成12(2000)年度の4.9kgから18%(0.9kg)減少しています(図3-5-57)。また、平成23(2011)年度における生産量は、前年度の86万tに比べて3%(3万t)増加し89万tとなっていますが、平成12(2000)年度の107万tから17%(18万t)減少しています。なお、平成23(2011)年度における輸入量は、前年度の7万tに比べて1万t減少し6万tとなりま

表3-5-8 ばれいしょの用途別消費仕向量の推移

(単位:千t)昭和55年産

(1980)

平成2(1990)

12(2000)

17(2005)

22(2010)

23(2011)

合計 3,421 3,552 2,898 2,752 2,290 2,387

生食用 1,166 1,183 936 791 688 716

加工食品用 364 555 536 489 429 506

でん粉用 1,417 1,280 1,023 1,058 745 787

飼料用 91 47 17 8 3 3

種子用 224 240 178 166 154 154

減耗 159 248 209 241 271 221

資料:農林水産省調べ注:平成23(2011)年産の値は概算値。

218

第5節 主要農畜産物の生産等の動向

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したが、平成12(2000)年度の1万tから5万t増加しています。平成24(2012)年産におけるかんしょの作付面積は、前年に比べて100ha減少し3万9千haとなっ

ており、平成12(2000)年産の4万3千haから11%(5千ha)減少しています(図3-5-58)。この作付面積を地域別にみると、九州と関東・東山がそれぞれ全国の49%、33%と両地域で全体の8割を占めています。

図3-5-58 かんしょの地域別作付面積の推移

四国

資料:農林水産省「耕地及び作付面積統計」

0

10

20

30

40

50

60

70

80千ha

32.8 28.218.2 18.4 19.6 19.2 19.2

4.03.8

4.84.0

17.319.3

15.5 13.9 12.7 12.7 12.7

64.860.6

43.4 40.8 39.7 38.9 38.8

昭和55年産(1980)

平成2(1990)

12(2000)

17(2005)

22(2010)

23(2011)

24(2012)

東海関東・東山

九州

図3-5-57 かんしょの生産量、1人当たり供給数量等の推移

資料:農林水産省「食料需給表」注:1)1人当たり供給数量は粗食料ベースであるため、醸造用や

でん粉原料用等を含まない。2)消費仕向量は、ほぼ生産量と同じであるため掲載してい

ない。

132

140107

89

0 1 1 6

3.9

5.1

4.0

0.0

1.0

2.0

3.0

4.0

5.0

6.0

020406080100120140160180

昭和55年度(1980)

平成2(1990)

12(2000)

23(2011)

万t

生産量

輸入量

4.9

1人当たり供給数量(右目盛)

kg

(近年は焼酎用の仕向量が増加)

かんしょは、生食用や加工食品用に加えて、でん粉やアルコール(焼酎)の原料として利用されています。かんしょの用途別の仕向量をみると、平成23(2011)年産では、生食用が41万9千tと全体の47%を占め、アルコール用は19万t(21%)、でん粉用は15万t(17%)となっています(表3-5-9)。用途別仕向量の推移をみると、生食用は平成

12(2000)年産の57万tから平成23(2011)年産の41万9千tまで減少しています。また、でん粉用は平成12(2000)年産の21万4千tから平成23(2011)年産の15万3千tまで減少しています。一方、アルコール用は、焼酎需要が大きく伸びたことから、平成12(2000)年産の7万tから平成23(2011)年産の19万tに増加しています。また、加工食品用は平成12(2000)年産の10万7千tから平成23(2011)年産の9万2千tに減少しているものの、昭和55(1980)年産の4万tに比べて大きく増加しています。今後、かんしょの需要拡大に向けて、菓子等の加工食品用の供給拡大や、かんしょでん粉の需要開拓

等が課題となっています。

表3-5-9 かんしょの用途別仕向量の推移(単位:千t)

昭和55年産

(1980)

平成2(1990)

12(2000)

17(2005)

22(2010)

23(2011)

合計 1,317 1,402 1,073 1,053 864 886

生食用 464 620 570 512 398 419

飼料用 230 84 44 13 3 3

種子用 70 53 32 17 12 15

加工食品用 40 73 107 94 79 92

でん粉用 375 430 214 184 150 153

アルコール用 78 73 70 208 198 190

減耗 61 69 36 25 23 14

資料:農林水産省調べ注:1)平成23(2011)年産の値は概算値。

2)アルコール用は、生切り干し用、蒸留酒用、専売アルコール用の計。

219

第1部

第3章

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(13)茶

(栽培面積は減少傾向)

茶の栽培面積は、生産者の高齢化、小区画茶園や傾斜地茶園等の条件が不利な茶園の廃園等が進行したことから、平成12(2000)年の5万haから平成24(2012)年の4万6千haまで、9%(5千ha)減少しています(図3-5-59)。平成24(2012)年の栽培面積を地域別にみると、最大の産地である静岡県や3位の三重県を含む東海が全体の51%、次いで2位の鹿児島県を含む九州が34%を占めており、2つの地域で全体の8割以上を占めています。地域別の推移をみると、九州は平成12(2000)年以降、1万5千haから1万6千ha程度でほぼ横ばいで推移していますが、東海は平成12(2000)年の2万6千haから平成24(2012)年の2万3千haまで11%減少しています。

(茶の輸出は増加傾向)

二人以上の世帯における緑茶(リーフ)の購入数量は、平成17(2005)年の1,144gから平成23(2011)年の972gまで15%減少しており、支出金額も5,615円から4,567円まで19%減少しています(表3-5-10)。また、ペットボトル等の緑茶飲料の生産量は、平成17(2005)年の265万kLから平成23(2011)年の223万kLまで16%減少しています。このため、茶の消費拡大に向けて、茶のブランド化の推進、新しい茶の楽しみ方の提案、健康食品や化粧品等の新用途への利用に関する研究開発及びその成果の普及等を推進することが課題となっています。

表3-5-10 緑茶の購入数量及び緑茶飲料の生産量の推移

(緑茶(リーフ)の一世帯当たりの年間購入数量及び支出金額の推移)(単位:g、円)

平成16年(2004)

17(2005)

18(2006)

19(2007)

20(2008)

21(2009)

22(2010)

23(2011)

購入数量 1,072 1,144 1,095 1,038 982 937 948 972支出金額 5,536 5,615 5,484 5,290 5,031 4,780 4,424 4,567

資料:総務省「家計調査」(二人以上の世帯)

(緑茶飲料の生産量の推移)(単位:千kL)

平成16年(2004)

17(2005)

18(2006)

19(2007)

20(2008)

21(2009)

22(2010)

23(2011)

生産量 2,365 2,648 2,440 2,467 2,363 2,241 2,239 2,228

資料:(社)全国清涼飲料工業会「清涼飲料水関係統計資料」

図3-5-59 茶の地域別栽培面積の推移

資料:農林水産省「耕地及び作付面積統計」

昭和55年(1980)

12(2000)

17(2005)

22(2010)

24(2012)

23(2011)

平成2(1990)

16.0 15.6 15.2 15.3 15.7

5.0 4.7 3.6 3.3 3.2

29.0 29.326.1 25.3 23.8

6.8 5.73.3 2.8

61.0 58.5

50.4 48.7 46.8

0

10

20

30

40

50

60

70千ha

九州近畿

東海

四国中国

2.5

関東・東山

15.6 15.6

3.2 3.2

23.4 23.2

2.4 2.3 46.2 45.9

220

第5節 主要農畜産物の生産等の動向

Page 9: 第 (8)なたね 1 部 - maff.go.jp(2012) 全国計 2,420 925 593 607 1,690 1,700 1,610 北海道 - - - - 425 502 407 東北 481 276 317 353 557 465 533 九州 1,800

このような中、緑茶の輸出量は健康志向等を背景として、平成17(2005)年の1,096tから平成24(2012)年の2,351tまで2倍に増加しています(図3-5-60)。また、平成24(2012)年の輸出量を国別にみると、米国が1,127tと48%を占めており、次いで、台湾(262t)、シンガポール(257t)、カナダ(144t)の順となっています。

図3-5-60 緑茶の輸出数量の推移

資料:財務省「貿易統計」を基に農林水産省で作成

500

1,000

0

1,500

2,000

2,500

平成17年(2005)

18(2006)

19(2007)

20(2008)

21(2009)

22(2010)

24(2012)

23(2011)

t

353865 750 776

1,063 1,136 1,228 1,12784

51 91 73

78 107171 262

82

103 94 107

131169

166 257

74

56 137 162

149172

198 144

48 55 39

5898

86 114

96

73 92 124

82100

124 104

389

380 407 420

397450

413 343

1,096

1,576 1,625 1,7011,958

2,2322,387 2,351

米国

その他

ドイツ

シンガポール

カナダ

台湾

タイ

コラム

日本茶・宇治茶の世界文化遺産登録に向けた取組

茶は、平安時代(9世紀初め)に中国・唐から伝来し、京都の寺院等で栽培・利用が始まりました。鎌倉時代(12世紀末)に中国・宋から臨済宗の開祖栄

えい西さいにより挽き茶を使った点

てん茶ちゃ法が伝わり、栄

西の下で禅をきわめた明みょう恵え上人が茶の栽培を広めました。宇治において茶の生産が始まったのは13

世紀初めといわれています。室町時代(14世紀半ば)には喫茶の習慣が広がり、喫茶と料理を組み合わせ、座敷飾りや茶道具を鑑賞する「茶の湯」が登場しました。安土桃山時代(16世紀後半)には宇治で、「覆

おおい下した栽さい培ばい」と呼ばれる栽培法が開発されたことで、鮮

やかな濃緑色をしたうま味の強い茶が生産され、日本特有の抹茶が生まれました。千利休が16世紀に大成した「茶の湯」では宇治茶(抹茶)が用いられ、茶の湯はその作法だけでなく茶室や庭園、懐石料理と一体となって進展しました。茶園ごと、栽培年ごとに香りや味に違いのある茶の品質を一定に維持した茶師たちのブレンド技術も茶の湯を支えました。また、江戸時代中期(18世紀中期)には、宇

う治じ田た原わらの茶農家によって宇治製法(青

あお製せい煎せん茶ちゃ製せい法ほう)

が開発され、この製法で作られた煎茶は、色味、香りやうま味が良く、全国の茶産地に広められて、現在も日本茶の製法の主流となっています。さらに宇治では、19世紀に覆下栽培の葉を宇治製法で仕上げる玉露が生み出されました。このように、宇治茶が何世紀にもわたって日本茶のトップブランドとして評価される中で、京都・山城地域は、抹茶、煎茶、玉露という現代の日本茶を代表する茶の栽培・製法を常に開発するとともに、日本を代表する喫茶文化を生み、支え、育んできました。

221

第1部

第3章

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これらを踏まえ、京都府では、京都・山城地域に集積している茶畑・茶工場、茶師・茶商の屋敷や茶問屋、茶室・茶席等の茶の生産、流通、喫茶にわたる日本の茶文化の変遷を表す重要な文化遺産群を保全、継承、発信することにより、茶の生産体制の強化と担い手確保、消費拡大につなげていくことを目的として、「日本茶・宇治茶」のユネスコ世界文化遺産の登録に向けた取組を進めています。

本ずの覆下栽培 山の斜面を利用した茶畑 茶問屋の町並み 利休の茶室(妙喜庵待庵)

(茶作経営は農業所得が低下傾向)

畑作経営茶作部門(東海)の農業粗収益の推移をみると、平成16(2004)年の42万5千円/10aから平成21(2009)年の25万8千円/10aまで39%減少しています(図3-5-61)。この期間における荒茶の農産物価格指数(平成17(2005)年=100)をみると、平成16(2004)年の106から平成21(2009)年の71に低下しており、茶の価格低下が農業粗収益の減少要因となっていると考えられます(図3-5-62)。また、農業経営費は平成16(2004)年から平成20(2008)年にかけて、24万円/10aから26万円/10aの間で推移していますが、平成21(2009)年以降は低下傾向で推移し、平成23(2011)年は21万9千円/10aとなっています。一方、農業所得は平成16(2004)年の17万7千円/10aから平成21(2009)年の2万8千円/10aまで84%減少した後やや回復しましたが、平成23(2011)年は3万8千円/10aとなっており、平成16(2004)年に比べて79%減少しています。

図3-5-61 茶作部門(東海)の10a当たり農業粗収益及び農業所得の推移

平成16年(2004)

17(2005)

18(2006)

19(2007)

20(2008)

21(2009)

22(2010)

23(2011)

資料:農林水産省「農業経営統計調査 営農類型別経営統計(個別経営)」

注:図3-5-6の注釈参照。

425 405

353 361

050100150200250300350400450千円/10a

農業経営費農業所得

農業粗収益

308258 269 257249 252 243 263

257230 227 219

177153

110 99 5128 3842

図3-5-62 茶の農産物価格指数の推移(平成17(2005)年=100)

112100

87 8371

6471

89106100

94 92

7871

82

87

0

20

40

60

80

100

120

平成16年(2004)

17(2005)

18(2006)

19(2007)

20(2008)

21(2009)

22(2010)

23(2011)

生葉

荒茶

資料:農林水産省「農業物価統計」注:平成16(2004)年の指数については、平成17(2005)年

基準の指数と接続させるためのリンク係数を用いて算出した。

222

第5節 主要農畜産物の生産等の動向

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(14)牛乳・乳製品

(牛乳・乳製品の生産量は近年減少傾向)

我が国における牛乳・乳製品の消費仕向量(生乳換算ベース)は、国民1人当たり供給数量(生乳換算ベース)の増加とともに増加してきました。最近では、景気低迷等の要因から減少しつつも、平成23(2011)年度においては、前年度の1,137万tに比べて2%増加し、1,163万tとなっています(図3-5-63)。一方、生乳生産量は、需要に応じて増加してき

ましたが、近年、減少傾向にあり、平成23(2011)年度においては、前年度の猛暑による受胎率の低下や東日本大震災の影響等から、前年度の763万tに比べて1%減少し753万tとなっています。また、輸入量(生乳換算ベース)は、需要に応じて増加しており、平成23(2011)年度は、402万

tとなっています。

(牛乳等の生産量は伸び悩み、チーズ向けの需要増加に期待)

牛乳・乳製品の品目別の生産量の推移についてみると、牛乳は、平成16(2004)年の397万kLから平成23(2011)年の306万kLまで23%減少しています(表3-5-11)。また、加工乳・成分調整牛乳は、牛乳よりも安価であること等を背景に増加してきましたが、平成23(2011)年には、需要が反転し、前年から13%減の59万kLとなっています。このような中、はっ酵乳については、健康志向等を背景に生産量が増加していますが、牛乳、加工乳・成分調整牛乳等を加えた牛乳等全体では、生産量は伸び悩みの傾向となっています。一方、乳製品については、バター、脱脂粉乳等は、減少傾向となっていますが、チーズやクリームに

ついては、近年需要が高まっており、生産量も増加傾向にあります。特にチーズについては、国内需要の約8割を輸入品が占めているため、今後は、国産生乳の需要拡大

を図るためにも、国産チーズの生産を拡大していくことが重要となっています。このため、取引価格が安価となるチーズ向け生乳に対し、「チーズ向け生乳供給安定対策」により、1kg当たり14.6円(平成24(2012)年度)の助成金を交付し、国産生乳のチーズへの仕向量の増大等を図っています。

図3-5-63 牛乳・乳製品の生産量、消費仕向量等の推移

650820 841 753

141224

395 402

7941,058

1,2311,16365.3

83.294.2 88.6

0

20

40

60

80

10

30

50

70

10090

02004006008001,0001,2001,400万t

生産量

消費仕向量

輸入量

昭和55年度(1980)

平成2(1990)

12(2000)

23(2011)

1人当たり供給数量(右目盛)

kg

資料:農林水産省「食料需給表」注:生乳換算ベースの値。

223

第1部

第3章

Page 12: 第 (8)なたね 1 部 - maff.go.jp(2012) 全国計 2,420 925 593 607 1,690 1,700 1,610 北海道 - - - - 425 502 407 東北 481 276 317 353 557 465 533 九州 1,800

表3-5-11 牛乳等及び乳製品の品目別生産量の推移

(牛乳等)(単位:千kL)

平成16年(2004)

17(2005)

18(2006)

19(2007)

20(2008)

21(2009)

22(2010)

23(2011)

牛乳 3,971 3,823 3,702 3,592 3,509 3,180 3,069 3,064加工乳・ 成分調整牛乳 483 467 449 446 442 625 678 589

乳飲料 1,189 1,203 1,242 1,312 1,241 1,180 1,210 1,279はっ酵乳 778 800 839 844 813 821 841 843乳酸菌飲料 174 174 166 173 179 199 184 178

(乳製品)(単位:千t)

平成16年(2004)

17(2005)

18(2006)

19(2007)

20(2008)

21(2009)

22(2010)

23(2011)

全粉乳 14.9 14.4 13.8 14.0 13.5 12.6 13.2 14.3脱脂粉乳 182.7 186.8 180.7 172.5 158.2 167.3 155.6 137.1調製粉乳 34.8 32.0 31.2 30.0 30.2 34.9 32.9 27.6クリーム 91.5 91.0 95.6 103.1 107.5 104.9 107.4 111.7チーズ 119.6 122.5 124.9 125.4 118.3 122.1 125.0 131.3バター 80.1 84.1 80.5 75.1 71.7 81.0 73.6 62.8

資料:農林水産省「牛乳乳製品統計」

(都府県においては、生乳生産基盤の弱体化が懸念)

乳用牛の飼養頭数は、減少傾向で推移しており、平成12(2000)年の176万頭から平成24(2012)年の145万頭まで減少しています(図3-5-64)。飼養頭数を地域別にみると、平成24(2012)年においては、北海道が82万頭と全体の57%を占めています。飼養戸数についても減少傾向で推移しており、平成12(2000)年の3万4千戸から平成24(2012)年の2万戸まで減少1しています。しかしながら、1戸当たりの飼養頭数は、平成12(2000)年の52.5頭から平成24(2012)年の72.1頭まで増加2しており、規模拡大の進展がうかがえます。また、飼養頭数規模別にみると、平成24(2012)年においては、100頭以上の層は全国の飼養戸数の10%となっていますが、飼養頭数では36%を占めています(図3-5-65)。

図3-5-64 乳用牛の地域別飼養頭数の推移

資料:農林水産省「畜産統計」

19.1 19.7 15.8 15.1 12.2 11.9 12.010.9

12.0

44.2 39.929.1 25.2 21.3 20.7 20.2

24.621.6

16.4 14.712.3 12.0 11.7

77.1 84.7

86.785.8

82.7 82.8 82.2

210.4 205.8

176.4165.5

148.4 146.7 144.9

0

50

100

150

200

250

昭和56年(1981)

平成2(1990)

12(2000)

17(2005)

22(2010)

23(2011)

24(2012)

万頭北海道

近畿

四国

中国 東海

九州

東北

関東・東山

1、2 農林水産省「畜産統計」

224

第5節 主要農畜産物の生産等の動向

Page 13: 第 (8)なたね 1 部 - maff.go.jp(2012) 全国計 2,420 925 593 607 1,690 1,700 1,610 北海道 - - - - 425 502 407 東北 481 276 317 353 557 465 533 九州 1,800

図3-5-65 乳用牛の成畜飼養頭数規模別飼養戸数及び飼養頭数の割合

1.7

2.2

0.4

0.5

25.7

21.8

6.7

4.7

16.8

14.8

9.8

6.7

29.1

26.2

27.8

19.2

18.6

19.6

29.7

24.3

3.6

5.1

8.2

9.1

4.4

10.2

17.4

35.5

平成14年(2002)

24(2012)

14(2002)

24(2012)

子畜のみ

0 20 40 60 80 100 %

飼養戸数

飼養頭数

1 ~ 19頭 20~ 29頭 30~ 49頭50~ 79頭 80~ 99頭 100頭以上

資料:農林水産省「畜産統計」注:学校、試験場等の非営利的な飼養者は含まない。

飼養戸数の推移を北海道・都府県別にみると、平成12(2000)年から平成24(2012)年までに北海道で27ポイント減少しているのに対し、都府県では46ポイント減少しています(図3-5-66)。一方、この間の生乳生産量は、北海道ではほぼ横ばいで推移しているのに対し、都府県では115万t減少しています。特に都府県においては、飼養戸数の減少に規模拡大の進展が追いついておらず、生産基盤の弱体化が

懸念されます。

図3-5-66 乳用牛の飼養戸数の変化と生乳生産量の推移

485 442 408 398 382 360 370

365 386 391 393 390 388 394

850 829 798 791 772 747 763

0

200

400

600

800

1,000万t

北海道 都府県

7969 64 60 57 54

10089

81 79 77 75 73

北海道

都府県

60

40

80

100

120

0

資料:農林水産省「畜産統計」、「牛乳乳製品統計」

平成12年(2000)

17(2005)

20(2008)

21(2009)

22(2010)

23(2011)

24(2012)

(飼養戸数の変化(平成12(2000)年=100)) (生乳生産量の推移)

平成12年(2000)

17(2005)

20(2008)

21(2009)

22(2010)

23(2011)

24(2012)

(酪農の1頭当たりの粗収益は増加しつつも、所得は減少)

酪農経営(酪農部門)における農業粗収益については、平成16(2004)年の89万7千円/頭から、平成23(2011)年には97万8千円/頭まで増加していますが、農業経営費についても、平成16(2004)年の69万4千円/頭から平成23(2011)年の83万4千円/頭まで増加しています(図3-5-67)。このような中、農業所得の推移をみると、平成

16(2004)年の20万2千円/頭から平成20(2008)年の8万9千円/頭まで減少しましたが、平成21(2009)年は農業粗収益の増加に伴い17万6千円/頭に増加しました。しかしながら、

図3-5-67 酪農部門の搾乳牛1頭当たり農業粗収益及び農業所得の推移

897 900 864 878 920 983 961 978

694 712 722 764 830 808 808 834

202 188 142 114 89176 153 144

平成16年(2004)

17(2005)

18(2006)

19(2007)

20(2008)

21(2009)

22(2010)

23(2011)

0

200

400

600

800

1,000

1,200千円/頭 農業経営費 農業所得農業粗収益

資料:農林水産省「農業経営統計調査 営農類型別経営統計(個別経営)」

注:図3-5-6の注釈参照。

225

第1部

第3章

Page 14: 第 (8)なたね 1 部 - maff.go.jp(2012) 全国計 2,420 925 593 607 1,690 1,700 1,610 北海道 - - - - 425 502 407 東北 481 276 317 353 557 465 533 九州 1,800

平成22(2010)年以降は減少に転じ、平成23(2011)年の農業所得は14万4千円/頭となっています。これは、農業経営費の増加が一因となっており、この間における配合飼料価格高騰の影響がうかがえます。

(地域ぐるみで生産基盤の維持・確保に取り組むことが重要)

このように我が国の酪農の状況は、規模拡大は進展しつつも、特に都府県においては、生産基盤の弱体化が懸念され、今後、持続的に酪農経営を維持していくためにも、地域ぐるみで経営継承等に取り組み、生産基盤の維持・確保を図っていくことが重要です。このため、酪農における労力軽減を図るため、酪農ヘルパー制度の充実・強化、コントラクターやTMRセンター1等、作業の外部化に資する支援組織の設立・育成に向けた支援等を推進するほか、離農農家等の家畜や畜舎等の経営資源を有効活用し、後継農家に継承していくための支援等が重要となっています。また、配合飼料価格の高騰等による経営費の増大等を踏まえ、平成25(2013)年度の畜産物価格では、加工原料乳地域における生乳の再生産確保を図るため、加工原料乳生産者補給金単価を12.55円/kg(+35銭/kg)で決定したほか、その他関連対策についても措置することとしており、これら対策等を通じて生産基盤の維持・確保を推進しています(図3-5-68)。

図3-5-68 酪農の生産基盤維持・確保のための対策(平成25(2013)年度)

1.加工原料乳生産者補給金補給金単価 → 12.55円/kg(+35銭/kg)限度数量  → 181万t

2.チーズ向け生乳供給安定対策事業助成単価  → 15.1円/kg

3.加工原料乳確保緊急対策事業4.持続的酪農経営支援事業

持続的な経営を行う酪農家に対し、飼料作物作付面積に応じた交付金を交付

5.その他関連対策・生乳需要基盤強化対策(補正予算)・酪農生産基盤回復緊急支援事業・酪農ヘルパー事業の拡充・牛群検定システム高度化支援事業の拡充・国産粗飼料増産対策・飼料自給力強化支援(補正予算)・畜産経営力向上緊急支援リース事業(補正予算)

資料:農林水産省作成

(15)牛肉

(牛肉の生産量はほぼ横ばいで推移)

牛肉の消費仕向量は、平成2(1990)年度の110万tから平成12(2000)年度の155万tに41%増加しています。これ以降、国内でのBSE(牛海綿状脳症)2や口蹄疫3の発生のほか、景気の低迷等の影響により減少し、近年は回復傾向にあるものの、平成23(2011)年度には125万tとなっています(図3-5-69)。一方、生産量についてはほぼ横ばいで推移しており、平成23(2011)年度には51万tとなっています。

1~3[用語の解説]を参照。

図3-5-69 牛肉の生産量、消費仕向量等の推移

43

56

52 51

17

55

106 74

60

110

155155

1253.5

5.5

7.6

6.0

012345678

020406080100120140160180

昭和55年度(1980)

平成2(1990)

12(2000)

23(2011)

万t

生産量

消費仕向量

輸入量

1人当たり供給数量(右目盛)

kg

資料:農林水産省「食料需給表」

226

第5節 主要農畜産物の生産等の動向

Page 15: 第 (8)なたね 1 部 - maff.go.jp(2012) 全国計 2,420 925 593 607 1,690 1,700 1,610 北海道 - - - - 425 502 407 東北 481 276 317 353 557 465 533 九州 1,800

(九州、北海道が主な肉用牛産地)

肉用牛の飼養頭数の推移をみると、平成22(2010)年までは増加傾向にありましたが、平成22(2010)年に発生した口蹄疫や近年の需要低迷等により、減少に転じており、平成24(2012)年は、272万頭となっています(図3-5-70)。地域別にみると、北海道における飼養頭数が増

加しており、平成24(2012)年では、北海道は53万頭と九州の98万頭に次ぐ肉用牛の産地となっています。

(肉用牛農家は、小規模層が多く存在する中で大規模層中心に生産展開)

肉用牛の飼養戸数は、平成14(2002)年の10万4千戸から平成24(2012)年の6万5千戸に3万9千戸減少1しています。しかしながら、1戸当たりの飼養頭数は、平成14(2002)年の27.2頭から平成24(2012)年の41.8頭に増加2しており、規模拡大の進展がうかがえます。また、飼養頭数規模別の飼養戸数の割合をみると、100頭未満の層が全国の肉用牛飼養農家戸数の

93%を占める一方、飼養頭数をみると、100頭以上の層が全国の65%を占めています(図3-5-71)。このことから、我が国の肉用牛飼養農家は、全体として規模拡大の進展はみられるものの、小規模層

が数多く存在する中で、大規模層を中心に生産を展開している構造となっていることがうかがえます。この背景として、肉用牛経営のうち、繁殖経営については、稲作等との兼業の中で主に小規模に展開されてきた一方、肥育経営については、効率的な経営展開を目指し、大規模化が進展してきたことが考えられます。

図3-5-71 肉用牛の飼養頭数規模別飼養戸数及び飼養頭数の割合

40.440.4

32.732.7

3.83.8

2.42.4

23.323.3

22.122.1

5.95.9

3.83.8

16.416.4

17.717.7

8.18.1

6.06.0

10.810.8

14.014.0

11.911.9

11.111.1

4.04.0

6.56.5

10.310.3

11.511.5

2.72.7

3.63.6

13.513.5

12.712.7

2.52.5

3.43.4

46.446.4

52.452.4

0 20 40 60 80 100

平成14年(2002)

24(2012)

14(2002)

24(2012)

飼養戸数

飼養頭数

1 ~ 4頭

200頭以上100~ 199頭50~ 99頭

20~ 49頭10~ 19頭5~ 9頭

資料:農林水産省「畜産統計」注:学校、試験場等の非営利的な飼養者は含まない。

(牛枝肉価格と子牛価格は低下傾向から回復傾向に変化)

牛枝肉価格は、景気の低迷等を背景として、平成19(2007)年度以降、低下傾向で推移してきた中で、平成23(2011)年度には東日本大震災による消費の減退や牛肉から暫定規制値を超える放射性物

図3-5-70 肉用牛の地域別飼養頭数の推移

北海道

九州

四国

中国近畿

東海

関東・東山

東北

沖縄86.886.897.797.7 101.1101.1 105.9105.9 98.498.4 97.597.5

10.710.716.816.8

14.914.9 14.214.2 13.713.7 13.213.2 13.013.010.810.810.510.516.216.216.616.6 14.714.7 14.514.5

14.014.0 13.813.8

38.138.137.137.1 32.732.7 32.832.8

31.431.4 31.031.0

53.453.4 44.144.139.739.7 41.341.3

39.439.4 37.337.3

29.029.0 41.441.444.844.8

53.953.953.653.6 53.453.4

270.2270.2282.3282.3 274.7274.7

289.2289.2276.3276.3 272.3272.3

0

50

100

150

200

250

300

昭和56年(1981)

平成2(1990)

12(2000)

17(2005)

22(2010)

23(2011)

24(2012)

万頭

資料:農林水産省「畜産統計」

76.7

18.6

14.229.1

42.5

20.6

228.1

1、2 農林水産省「畜産統計」

227

第1部

第3章

Page 16: 第 (8)なたね 1 部 - maff.go.jp(2012) 全国計 2,420 925 593 607 1,690 1,700 1,610 北海道 - - - - 425 502 407 東北 481 276 317 353 557 465 533 九州 1,800

質が検出された影響により更に低下しましたが、平成23(2011)年度後半からは回復傾向にあります(図3-5-72)。また、肉用子牛の価格は、枝肉価格の低迷等の影響を受け、平成23(2011)年には和牛子牛(去勢)で39万3千円まで低下しましたが、その後枝肉価格の回復、肉用子牛の頭数の不足感等により上昇に転じ、平成24(2012)年には43万円となっています1。

図3-5-72 牛枝肉の規格別卸売価格の推移(東京市場)

0

500

1,000

1,500

2,000

2,500

平成16年(2004)

17(2005)

18(2006)

19(2007)

20(2008)

21(2009)

22(2010)

23(2011)

24(2012)

円/kg去勢和牛A-4

交雑種去勢牛B-4

乳用種去勢牛B-3

資料:農林水産省「畜産物流通統計」

(肥育経営は農業経営費の増大等により厳しい経営環境)

枝肉価格の低迷等を受け、肉用牛経営(肥育牛部門)における農業粗収益は、平成19(2007)年の63万2千円/頭から減少し、平成23(2011)年は61万8千円/頭となっています(図3-5-73)。一方、農業経営費は、動物費(もと畜費)2

や飼料費の増大等により、平成16(2004)年の48万2千円/頭から平成23(2011)年の57万9千円/頭まで増加しています。その結果、農業所得は、平成16(2004)年の12万3千円/頭から平成23(2011)年の3万9千円/頭まで減少しており、厳しい経営環境となっています。

(肉用牛経営に対して経営安定対策を実施)

このような状況の中、肉用牛肥育経営の安定を図るため、粗収益が生産コストを下回った場合に、生産者と国の積立金から差額の8割を補填金として交付する肉用牛肥育経営安定特別対策事業(新マルキン事業)を実施しています。本事業の実施に当たっては、より現場の実情が反映されるよう、平成25(2013)年度からは、一部の県における地域算定をモデル的に実施し、より一層の制度の改善を図ることとしています。また、肉用牛繁殖経営の安定を図るため、子牛価格が保証基準価格を下回った場合に生産者補給金を交付する肉用子牛生産者補給金制度を措置しているほか、これを補完するものとして肉専用種の子牛価格が発動基準を下回った場合に差額の4分の3を交付する肉用牛繁殖経営支援事業を実施しています。

図3-5-73 肉用牛肥育牛部門の1頭当たり農業粗収益及び農業所得の推移

23(2011)

22(2010)

21(2009)

20(2008)

19(2007)

18(2006)

17(2005)

平成16年(2004)

568 581 625 604531 489 534 521

38 2111 28

5678

63 97605 602

636 632586 567

597 618

482 502546 570 576 556 562 579

123 100 90 6210 11 35 39

0

100

200

300

400

500

600

700千円/頭

販売収入等 共済・補助金等共済・補助金等農業経営費農業所得

農業粗収益

資料:農林水産省「農業経営統計調査 営農類型別経営統計(個別経営)」

注:図3-5-6の注釈参照。

1 農林水産省「農業物価統計」(子畜・和子牛(雄))。平成23(2011)年は7月の値。平成24(2012)年は1~12月の平均値。2 肥育の材料となるもと畜(子牛、子豚等)を入手するために要した費用。

228

第5節 主要農畜産物の生産等の動向

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(16)豚肉

(豚肉の生産量は僅かに増加)

豚肉の消費仕向量は、増加傾向で推移し、平成2(1990)年度の207万tから平成23(2011)年度の246万tに19%増加しています(図3-5-74)。生産量については、平成2(1990)年度の

154万tをピークに減少しましたが、平成23(2011)年度は128万tと平成12(2000)年度の126万tに比べて僅かに増加しています。また、輸入量については、近年の需要の伸びに

応じて増加傾向にあります。

(九州、関東・東山、東北が豚の主産地)

豚の飼養頭数の推移をみると、平成2(1990)年に1,182万頭まで増加しましたが、平成12(2000)年には981万頭まで減少し、以降は、980万頭程度で推移しています(図3-5-75)。飼養頭数を地域別にみると、平成24(2012)

年においては、九州が最も多く、次いで関東・東山、東北の順となっており、これら3つの地域で全体の75%を占めています。

(飼養戸数が減少する一方、規模拡大は進展)

豚の飼養戸数は、平成14(2002)年の10,000戸から平成24(2012)年の5,840戸に4,160戸減少1しています。しかしながら、1戸当たりの飼養頭数は、平成14(2002)年の961頭から平成24(2012)年の1,667頭に増加2しており、規模拡大の進展がうかがえます。また、飼養頭数規模別にみると、平成24(2012)年においては、肥育豚2,000頭以上を飼養する層

は、全国の飼養戸数の17%となっていますが、飼養頭数では66%を占めていることから、依然として中小規模経営も存在するものの、大規模経営への集約が進んでいることがうかがえます(図3-5-76)。

図3-5-74 豚肉の生産量、消費仕向量等の推移

143 154 126 128

2149 95 120

165 207 2192469.6 10.3 10.611.9

02468101214

0

50

100

150

200

250

300

昭和55年度(1980)

平成2(1990)

12(2000)

23(2011)

万t

生産量

消費仕向量

輸入量

1人当たり供給数量(右目盛)

kg

資料:農林水産省「食料需給表」

図3-5-75 豚の地域別飼養頭数の推移

2626 3333 3030 2727 2424 2525 2525

218218304304 296296 302302 308308 298298 308308

5454

5959 3737 3535 3434 3232 34344343

38382525 2323 2525 2424 23232727

9494

1151158484 7777 7373 7070 6969

289289

305305

251251 249249 263263 259259 256256

4343

4646

3030 3030 2929 2727 2727

153153

198198

164164 167167 171171 174174 167167

5959

6464

5555 5454 5757 6161 5959

1,0071,007

1,1821,182

981981 972972 990990 977977 974974

0

200

400

600

800

1,000

1,200

昭和56年(1981)

平成2(1990)

12(2000)

16(2004)

21(2009)

23(2011)

24(2012)

万頭

北海道

九州

四国

中国

近畿

東海

関東・東山

北陸

東北

沖縄

資料:農林水産省「畜産統計」

1、2 農林水産省「畜産統計」

229

第1部

第3章

Page 18: 第 (8)なたね 1 部 - maff.go.jp(2012) 全国計 2,420 925 593 607 1,690 1,700 1,610 北海道 - - - - 425 502 407 東北 481 276 317 353 557 465 533 九州 1,800

図3-5-76 肥育豚の飼養頭数規模別飼養戸数及び飼養頭数の割合

16.2

8.6

3.9

3.0

14.5

13.0

1.1

0.7

17.3

13.2

4.3

1.9

12.3

11.2

6.0

3.0

18.4

18.5

15.4

9.0

12.7

18.0

19.7

16.3

8.6

17.4

49.5

66.0

0 20 40 60 80 100

平成14年(2002)

24(2012)

14(2002)

24(2012)

肥育豚なし

1~ 99頭 100~299頭

1000~1999頭

300~499頭

500~999頭

2000頭以上

飼養戸数

飼養頭数

資料:農林水産省「畜産統計」注:学校、試験場等の非営利的な飼養者は含まない。

(飼料価格等の上昇により農業経営費が増加)

養豚経営(養豚部門)における農業粗収益の推移をみると、豚肉価格の上昇に伴い、平成16(2004)年の3万4千円/頭から平成20(2008)年には4万円/頭まで増加しましたが、その後は3万3千円/頭から3万4千円/頭で推移しています(図3-5-77)。一方、農業経営費は飼料費の増加等により、平成16(2004)年の2万7千円/頭から平成23(2011)年の3万1千円/頭に増加しています。この結果、農業所得は、平成16(2004)年の7,000円/頭から平成23(2011)年の3,500円/頭に減少しています。養豚経営の安定を図るため、収益性が悪化した際に生産者と国との積立金から補填する養豚経営安定対策を措置しています。平成25(2013)年度からは、生産コストが変動した場合にも対応できるよう、四半期終了時に粗収益と生産コストの差額を計算する方式に変更することとしています。

(17)鶏肉

(鶏肉の生産量は増加傾向)

鶏肉の消費仕向量は、増加傾向で推移しており、平成2(1990)年度の168万tから平成23(2011)年の210万tに25%増加しています(図3-5-78)。特に、平成20(2008)年以降は、景気の低迷による牛肉や豚肉からの需要のシフト等により増加しています。生産量についても、近年、増加傾向で推移しており、平成12年度の120万tから平成23(2011)年度の138万tになっています。また、輸入量については、平成23(2011)年

図3-5-77 養豚部門の1頭当たり農業粗収益及び農業所得の推移

32.4 32.8 32.7 34.2 36.229.8 31.2 32.0

1.5 0.6 0.72.3

3.8

2.8 1.4 2.333.9 33.4 33.4

36.540.0

32.6 32.6 34.3

26.9 26.6 27.130.7

35.030.3 28.9 30.8

7.0 6.8 6.3 5.8 5.0 2.2 3.8 3.5

0

10

20

30

40

50

平成16年(2004)

17(2005)

18(2006)

19(2007)

20(2008)

21(2009)

22(2010)

23(2011)

千円/頭

販売収入等共済・補助金等農業経営費 農業所得

農業粗収益

資料:農林水産省「農業経営統計調査 営農類型別経営統計(個別経営)」

注:図3-5-6の注釈参照。

図3-5-78 鶏肉の生産量、消費仕向量等の推移

112138

120 138

830 69 76

119168

187 2107.79.4

10.211.4

0

2

4

6

8

10

12

0

50

100

150

200

250

昭和55年度(1980)

平成2(1990)

12(2000)

23(2011)

万t

生産量

消費仕向量

輸入量

1人当たり供給数量(右目盛)

kg

資料:農林水産省「食料需給表」

230

第5節 主要農畜産物の生産等の動向

Page 19: 第 (8)なたね 1 部 - maff.go.jp(2012) 全国計 2,420 925 593 607 1,690 1,700 1,610 北海道 - - - - 425 502 407 東北 481 276 317 353 557 465 533 九州 1,800

は東日本大震災等の影響により生産量が減少したため増加しています。

(九州と東北がブロイラーの主産地)

ブロイラーの飼養羽数の推移をみると、平成2(1990)年に1億5千万羽まで増加しましたが、輸入鶏肉との競合等により平成12(2000)年には1億1千万羽まで減少し、その後は1億羽から1億1千万羽の間で推移しています(図3-5-79)。飼養羽数の推移を地域別にみると、昭和54

(1979)年から平成2(1990)年にかけて、九州では4,700万羽から7,100万羽に増加しましたが、平成12(2000)年以降は5,000万羽程度で推移しています。平成21(2009)年の飼養羽数に占める割合は、九州、東北がそれぞれ46%、23%となっており、両地域で全国の7割を占めています。

(出荷戸数が減少する一方、規模拡大は進展)

ブロイラーの出荷戸数は、平成10(1998)年の3,768戸から平成20(2008)年の2,925戸に843戸減少1しています。しかしながら、1戸当たりの出荷羽数は、平成10(1998)年の15万2千羽から平成20(2008)年の21万5千羽に増加2しており、規模拡大の進展がうかがえます。また、出荷羽数規模別にみると、平成20(2008)年においては、10万羽以上の層が、出荷戸数の

64%、出荷羽数の92%を占めており、主に比較的大規模な階層によって生産が担われていることがうかがえます(図3-5-80)。

図3-5-80 ブロイラーの出荷羽数規模別出荷戸数及び出荷羽数の割合

29.029.0

19.019.0

4.84.8

2.42.4

19.419.4

17.317.3

9.29.2

6.16.1

42.942.9

47.747.7

48.248.2

40.040.0

8.88.8

16.016.0

37.837.8

51.651.6

0 20 40 60 80 100

平成10年(1998)

20(2008)

10(1998)

20(2008)

5万羽未満

5万~ 10万羽 10万~ 30万羽 30万羽以上

出荷戸数

出荷羽数

資料:農林水産省「畜産物流通統計」

図3-5-79 ブロイラーの地域別飼養羽数の推移

47477171

4747 4848 4848 4747 5050

1212

1212

99 88 99 88 881010

99

77 77 66 66 661010

1010

66 55 55 55 55

1212

88

55 44 44 44 44

1515

1111

55 55 55 55 44

1717

2323

2424 2222 2424 2525 2525

33

33 22 33 33 44

126126

150150

108108 102102 105105 103103 107107

0

80

40

120

160

昭和54年(1979)

平成2(1990)

12(2000)

17(2005)

19(2007)

20(2008)

21(2009)

百万羽

北海道

九州

四国

中国

近畿東

関東・東山

東北

資料:農林水産省「畜産物流通統計」

1、2 農林水産省「畜産物流通統計」

231

第1部

第3章

Page 20: 第 (8)なたね 1 部 - maff.go.jp(2012) 全国計 2,420 925 593 607 1,690 1,700 1,610 北海道 - - - - 425 502 407 東北 481 276 317 353 557 465 533 九州 1,800

(飼料価格等の上昇により農業経営費が増加)

ブロイラー養鶏経営(ブロイラー養鶏部門)における農業粗収益の推移をみると、鶏肉価格の上昇に伴い、平成16(2004)年の4万6千円/千羽から平成20(2008)年の5万3千円/千羽まで増加し、その後は4万9千円/千羽から5万円/千羽で推移しています(図3-5-81)。一方、農業経営費は飼料費等の増加に伴い、平成16(2004)年の4万2千円/千羽から平成23(2011)年の4万6千円/千羽に増加しました。この結果、農業所得は、平成16(2004)年の3万6千円/千羽から平成23(2011)年の2万6千円/千羽に減少しています。

(18)鶏卵

(鶏卵の生産量はほぼ横ばいで推移)

鶏卵の消費仕向量は、平成2(1990)年度の247万tから平成23(2011)年度の262万tに6%増加しています(図3-5-82)。生産量については、近年ほぼ横ばいで推移しており、平成23(2011)年度は248万tとなっています。

(飼養羽数は近年安定的に推移)

採卵鶏の飼養羽数の推移をみると、平成2(1990)年に1億9千万羽まで増加しましたが、平成16(2004)年以降は、やや減少して1億8千万羽程度で推移しています(図3-5-83)。平成24(2012)年の飼養羽数を地域別にみると、関東・東山の割合が最も高く、全国の24%を占めています。

(飼養戸数が減少する一方、規模拡大は進展)

採卵鶏(種鶏のみの飼養者を除く。)の飼養戸数は、平成14(2002)年の4,530戸から平成24(2012)年の2,810戸に1,720戸減少1しています。しかしながら、1戸当たりの成鶏めす飼養羽数は、平成14(2002)年の3万羽から平成24(2012)年の4万8千羽に増加2しており、規模拡大の進展がうかがえます。

図3-5-81 ブロイラー養鶏部門の千羽当たり農業粗収益及び農業所得の推移

450 470 461 475 499 481 497 477

1636457 472 466 492 534

489 497 486

421 426 423451

503458 468 460

36 45 43 40 31 31 29 260

100

200

300

400

500

600

平成16年(2004)

17(2005)

18(2006)

19(2007)

20(2008)

21(2009)

22(2010)

23(2011)

千円/千羽

販売収入等

共済・補助金等農業経営費 農業所得

農業粗収益

資料:農林水産省「農業経営統計調査 営農類型別経営統計(個別経営)」

注:図3-5-6の注釈参照。

図3-5-82 鶏卵の生産量、消費仕向量等の推移

05

10

15

20

25

30

050

100

150

200

250

300

資料:農林水産省「食料需給表」

昭和55年度

(1980)

平成2(1990)

12(2000)

23(2011)

万t

生産量

消費仕向量

輸入量1人当たり供給数量(右目盛)

kg

199 242 254 248

5 5 12 14

204 247 266 262

14.316.1 17.0 16.6

1

図3-5-83 採卵鶏の地域別飼養羽数の推移

35 33 28 25 24 24

12 11 12 11 10 11

18 20 20 21 21 21

12 12 11 9 9 9

28 26 26 25 25 27

37 41 42 44 45 43

11 10 8 11 11 11

24 2523 25 26 24

8 88 8 7 7

187 187179 181 179 178

0

資料:農林水産省「畜産統計」

20

40

60

80

100

120

140

160

180

200

昭和56年(1981)

平成2(1990)

12(2000)

16(2004)

21(2009)

23(2011)

24(2012)

百万羽

北海道

九州

四国

中国 近畿

東海

関東・東山

北陸

東北

2929

121216161212

2828

3232

1010171777165165

1、2 農林水産省「畜産統計」

232

第5節 主要農畜産物の生産等の動向

Page 21: 第 (8)なたね 1 部 - maff.go.jp(2012) 全国計 2,420 925 593 607 1,690 1,700 1,610 北海道 - - - - 425 502 407 東北 481 276 317 353 557 465 533 九州 1,800

また、飼養羽数規模別にみると、平成24(2012)年においては、成鶏めす5万羽以上を飼養する層は、全国の飼養戸数の22%となっていますが、飼養羽数では81%を占めており、依然として中小規模経営も存在するものの、大規模経営を中心に生産が展開されていることがうかがえます(図3-5-84)。

図3-5-84 成鶏めすの飼養羽数規模別飼養戸数及び飼養羽数の割合

資料:農林水産省「畜産統計」注:学校、試験場等の非営利的な飼養者及び種鶏のみの飼養者は含まない。

7.4

7.7

25.6

23.4

2.1

1.2

16.0

14.8

3.7

2.0

35.5

32.5

25.9

15.5

7.6

9.9

17.2

14.5

7.9

11.8

51.0

66.8

0 20 40 60 80 100

平成14年(2002)

24(2012)

14(2002)

24(2012)

5万~ 10万羽1万~ 5万羽5千~ 1万羽1千~ 5千羽

10万羽以上

飼養戸数

飼養羽数

ひなのみ

(農業所得は、近年ほぼ横ばいで推移)

採卵養鶏経営(採卵養鶏部門)における農業粗収益の推移をみると、鶏卵価格の変動等に伴って、27万円/百羽から33万円/百羽の間で推移しています(図3-5-85)。このような中、平成20(2008)年以降の農業所得は、飼料価格等の上昇に伴い農業経営費が増加しているものの、2万7千円/百羽から2万9千円/百羽の間で推移しています。鶏卵生産者の経営安定を図るため、鶏卵生産者

経営安定対策において鶏卵価格が低落した場合に価格差補填を行うとともに、鶏卵価格が更に低落した場合、成鶏の更新に当たって長期の空舎期間を設け、鶏卵の需給改善を推進することにより、鶏卵価格の安定を図っています。

(19)飼料作物等

(濃厚飼料は輸入に依存)

家畜の飼料は、粗飼料と濃厚飼料とに大きく分類することができます。粗飼料には、乾草やサイレージ(飼料作物を乳酸発酵させ、保存性・嗜

し好性を高めた飼料)、稲わら等があり、牛等の草食家畜に給

与されます。一方、濃厚飼料には、とうもろこしを中心とする穀類、糠ぬか類、粕

かす類等があり、豚や鶏のほ

か、肉用牛の肥育に多く使われています。飼料の供給量は、家畜の飼養頭数の増加に伴い、昭和55(1980)年度の2,511万TDNt1から平成2

(1990)年度の2,852万TDNtまで14%(341万TDNt)増加しています(図3-5-86)。その後、家畜

図3-5-85 採卵養鶏部門の100羽当たり農業粗収益及び農業所得の推移

253295 272 267

298 280 297 307

1322

3224

15266

299280 289

329304 306

321

253 245 245 265

301277 279 292

1354

35 24 29 27 28 29

0

50

100

150

200

250

300

350

400千円/百羽

販売収入等 共済・補助金等農業経営費

農業所得

農業粗収益

平成16年(2004)

17(2005)

18(2006)

19(2007)

20(2008)

21(2009)

22(2010)

23(2011)

資料:農林水産省「農業経営統計調査 営農類型別経営統計(個別経営)」

注:図3-5-6の注釈参照。

1 TDNとは、TotalDigestibleNutritionの略で、可消化養分総量と呼ばれるもの。家畜が消化できる養分の総量であり、カロリーに近い概念。

233

第1部

第3章

Page 22: 第 (8)なたね 1 部 - maff.go.jp(2012) 全国計 2,420 925 593 607 1,690 1,700 1,610 北海道 - - - - 425 502 407 東北 481 276 317 353 557 465 533 九州 1,800

の飼養頭数が減少したことから、平成12(2000)年度以降は2,500万TDNt程度で推移しており、平成23(2011)年度の飼料供給量は2,476万TDNtとなっています。飼料の供給量を粗飼料と濃厚飼料別にみると、粗飼料の供給量は昭和55(1980)年度の512万TDNtから平成2(1990)年度の624万TDNtまで増加しましたが、その後、減少傾向で推移しており、平成23(2011)年は527万TDNtとなっています。濃厚飼料は、輸入濃厚飼料の増加に伴い、昭和55(1980)年度の1,999万TDNtから平成2(1990)年度の2,228万TDNtまで増加し、平成12(2000)年度以降は2千万TDNt程度で推移しています。このような中、飼料自給率は、昭和55(1980)年度の28%から平成2(1990)年度の26%まで2ポイント低下した後、横ばいで推移しており、平成23(2011)年度の飼料自給率は26%となっています(図3-5-87)。なお、粗飼料の自給率は77%と比較的高い水準ですが、濃厚飼料の自給率は12%と低くなっています。

図3-5-86 飼料の供給量の推移

0

500

1,000

1,500

2,000

2,500

3,000

昭和45年度

(1970)

55(1980)

平成2(1990)

12(2000)

17(2005)

22(2010)

23(2011)

万TDNt

408408119119235235

1,7131,713

2,476

国産粗飼料輸入粗飼料

純国産濃厚飼料

輸入濃厚飼料(輸入原料)

濃厚飼料

粗飼料466466 512512 531531 449449 420420 416416

9393 127127 129129 121121230230 197197219219 218218 221221 212212

1,1441,1441,8021,802

2,0092,0091,7551,755 1,7471,747 1,7711,771

1,840

2,5112,852

2,548 2,516 2,520

資料:農林水産省「飼料需給表」注:1)純国産濃厚飼料とは、国内産に由来する濃厚飼料(国内産飼料用小麦・大麦等)であり、輸入食料原料から発生した副産物(輸入大

豆から搾油した後に発生する大豆油かす等)を除いたもの。2)昭和55(1980)年以前の輸入濃厚飼料は、輸入粗飼料を含む輸入飼料全体の値。

図3-5-87 飼料自給率の推移

資料:農林水産省「飼料需給表」

3828 26 26 25 25 26

8578 77 78 77

1710 10 11 11 11 12

0

20

40

60

80

100

昭和45年度

(1970)

55(1980)

平成2(1990)

12(2000)

17(2005)

22(2010)

23(2011)

%粗飼料自給率

純国産濃厚飼料自給率

飼料自給率

234

第5節 主要農畜産物の生産等の動向

Page 23: 第 (8)なたね 1 部 - maff.go.jp(2012) 全国計 2,420 925 593 607 1,690 1,700 1,610 北海道 - - - - 425 502 407 東北 481 276 317 353 557 465 533 九州 1,800

(米国の干ばつにより飼料価格が高騰)

我が国の飼料自給率は26%程度となっており、特に飼料穀物については、その多くを輸入に依存していることから、配合飼料価格は、とうもろこし等の国際価格や輸送費(海上運賃)、為替レート等の影響を受け変動しやすい状況にあります。畜産物生産費の費用合計に占める飼料費の割合は、平成23(2011)年において去勢若齢肥育牛33%、子牛(肉専用種)35%、牛乳45%、肥育豚64%と高くなっています(図3-5-88)。また、ブロイラー養鶏経営と採卵養鶏経営において、現金支出額に相当する農業経営費に占める飼料費の割合は、それぞれ、65%、68%を占めています1。このため、飼料価格が高騰した場合、畜産経営は大きな影響を受けます。穀物等を調合した配合飼料の価格の推移をみると、平成18(2006)年1月は4万3千円/tでしたが、

国際穀物価格の高騰に伴い、平成20(2008)年11月期には6万8千円/tまで56%上昇しています(図3-5-89)。その後、配合飼料価格はやや下落したものの、5万2千円/t以上の高い水準で推移しており、平成23(2011)年以降再び上昇傾向にあります。さらに、平成25(2013)年1月は、平成24(2012)年の上半期に米国で発生した干ばつ等により国際穀物価格が上昇した影響等を受け6万3千円/tまで上昇しています。このような中、配合飼料価格の上昇が畜産経営に与える影響を緩和するため、生産者と配合飼料メー

カーの自主的な積み立てによる通常補填制度に加え、異常な価格高騰に対応するために国の支援による異常補填制度が措置されています。なお、平成24(2012)年度は、配合飼料価格の高騰が生産者の経営に及ぼす影響を緩和するため、

異常補填の発動基準の引き下げや通常補填基金への無利子貸付け等の配合飼料価格安定制度の安定運用のための措置が行われました。

図3-5-89 配合飼料価格の推移

資料:農林水産省「流通飼料価格等実態調査」注:工場売渡価格(全畜種加重平均(袋物、バラ))。

43.350.0

58.1

67.6

55.353.1 55.5

55.7

63.1

30

40

50

60

70

平成18年(2006)1月

19(2007)1月

20(2008)1月

21(2009)1月

22(2010)1月

23(2011)1月

24(2012)1月

25(2013)1月

千円/t

0

図3-5-88 畜産物生産費の費用合計に占める飼料費の割合(平成23年(2011)年)

資料:農林水産省「畜産物生産費統計」

33.2 35.145.2

63.58.3

32.8 21.0

13.050.112.1 14.3 2.9

8.420.0 19.5 20.6

0

20

40

60

80

100

10

30

50

70

90

去勢若齢肥育牛

子牛 牛乳 肥育豚

飼料費

労働費

もと畜・家畜償却費

その他

874,503円/頭

529,868円/頭

759,890円/頭

31,792円/頭

1 農林水産省「農業経営統計調査 営農類型別経営統計(個別経営)」(平成23(2011)年)

235

第1部

第3章

Page 24: 第 (8)なたね 1 部 - maff.go.jp(2012) 全国計 2,420 925 593 607 1,690 1,700 1,610 北海道 - - - - 425 502 407 東北 481 276 317 353 557 465 533 九州 1,800

(飼料作物の作付(栽培)面積は近年横ばい)

このように、畜産経営は、穀物の国際価格等の影響を大きく受けることから、畜産経営の安定を図るため、飼料自給率を向上させることが重要な課題となっています。飼料作物の作付(栽培)面積の推移をみると、昭和40年代における草地の開発、既耕地への作付けの拡大や昭和50年代以降における水田の転作に伴う作付けの拡大等により、平成2(1990)年の109万6千haまで増加しました(図3-5-90)。その後、畜産農家戸数の減少に伴い、草地(離農跡地)が畜産経営に円滑に継承されなかったこと等により、飼料作物の作付(栽培)面積は平成21(2009)年に90万2千haまで減少したものの、草地基盤の整備や地域に適した優良品種の導入、飼料用米や稲発酵粗飼料(稲WCS)1の作付け拡大によって、平成24(2012)年は93万2千haに増加しています。また、作付(栽培)面積を地域別にみると、近年は都府県において作付(栽培)面積が増加しています。平成24(2012)年の飼料作物の収穫量は、天候不順の影響や原発事故による給与自粛に伴う廃棄が発生したこと等により、前年に比べて11万TDNt減少し340万TDNtとなっています。なお、東電福島第一原発の事故の影響を受け、岩手県、宮城県、福島県、栃木県、群馬県の5県において、都府県の飼料作物作付面積の1割に当たる3万9千haの牧草地について放射性物質の移行低減対策等の実施が必要となりました。しかしながら、急傾斜地にある牧草地では作土層が薄い場合が多く、また、作業機が転倒する危険性もあるため、一般的な農地で行われる表土の削り取りや反転耕等の実施が困難であり、作業が遅延する状況にあります。このため、急傾斜牧草地に対応した移行低減対策の実施方法の検討が進められています。

図3-5-90 飼料作物の収穫量及び作付(栽培)面積の推移

資料:農林水産省「耕地及び作付面積統計」、農林水産省調べ注:1)平成2(1990)年以前は飼肥料作物の作付(栽培)延べ面積。

2)収穫量は「作物統計」、「耕地及び作付面積統計」を基に推計。

36.1 42.7 46.7 32.2 30.3 30.0 31.0 33.2 33.3

37.560.7 62.9

61.3 60.3 60.1 60.1 60.1 59.973.6

103.4 109.693.5 90.6 90.2 91.1 93.3 93.2

0

0

2,000

3,000

4,000

5,000

20406080100120

昭和45年(1970)

55(1980)

平成2(1990)

12(2000)

17(2005)

21(2009)

22(2010)

23(2011)

24(2012)

万ha北海道 都府県

2,4342,437

4,485

(作付(栽培)面積)

(収穫量)

3,928 3,693 3,575 3,571 3,514 3,401

千TDNt

国産粗飼料の生産拡大を図るため、飼料生産組織(コントラクター等)による飼料生産作業の外部化を進め、畜産農家の労働負担の軽減及び飼料生産作業の効率化・低コスト化を促進することが重要となっています。また、自給飼料を活用した高品質な混合飼料の供給を可能とするとともに、畜産農家の飼料調製の労力やサイロ等の施設費の低減を図るため、粗飼料と濃厚飼料を適切な割合に混合した完全混合飼料(TMR)を畜産農家に提供するTMRセンターの整備も求められています。

1[用語の解説]を参照。

236

第5節 主要農畜産物の生産等の動向

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このような中、コントラクターの育成を図るため、飼料生産等に必要な機械の導入や飼料の保管・調整施設の整備等に対する支援措置を講じており、コントラクターの組織数は、平成15(2003)年度の317組織から平成24(2012)年度の605組織まで増加しています(表3-5-12)。また、TMRセンターの設置数は、平成15(2003)年度の32か所から平成24(2012)年度の109か所まで増加しています。

表3-5-12 コントラクター組織数及びTMRセンター数の推移(単位:組織、か所)

平成15年度

(2003)

17(2005)

19(2007)

20(2008)

21(2009)

22(2010)

23(2011)

24(2012)

コントラクター全国 317 437 479 522 525 564 595 605北海道 122 159 172 176 176 176 187 189都府県 195 278 307 346 349 388 408 416

TMRセンター全国 32 49 73 85 92 109北海道 7 20 31 35 39 49都府県 25 29 42 50 53 60

資料:農林水産省調べ注:平成22(2010)年度、平成23(2011)年度のTMRセンター数は調査を行っていない。

(飼料用米・稲発酵粗飼料の作付面積が増加)

近年、水田を有効に活用する観点から、飼料用米や稲WCSの生産・利用の拡大が進められています。飼料用米は、栽培体系が通常の稲作と同じであり、農機具等の新規投資が不要であることから稲作農

家における導入の拡大が期待されています。飼料用米の作付面積は、平成22(2010)年度から戸別所得補償制度の対象となり8万円/10aの交付金が交付されたこと等により、平成17(2005)年産の45haから平成24(2012)年産の3万5千haまで大幅に増加しています(図3-5-91)。また、WCS用稲の生産においては、専用の機械の導入が必要であるものの、稲の栽培技術を活用で

きることから、その導入の拡大が期待されています。WCS用稲は、飼料用米と同様に平成22(2010)年度から戸別所得補償制度の対象となり8万円/10aの交付金が交付されたこと等により、作付面積は平成17(2005)年の4,600haから平成24(2012)年の2万6千haまで増加しています。

図3-5-91 飼料用米とWCS用稲の作付面積の推移

資料:農林水産省「新規需要米の取組計画認定状況」注:作付面積は認定面積。

0.0 0.1 0.3 1.64.1

14.9

34.0 34.5

4.6 5.2 6.39.2 10.3

15.9

23.123.125.725.7

0510152025303540

平成17年(2005)

18(2006)

19(2007)

20(2008)

21(2009)

22(2010)

23(2011)

24(2012)

千ha

飼料用米

WCS用稲

237

第1部

第3章

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(食品残さの飼料利用を推進)

食品産業における食品残さは、平成22(2010)年度で年間2,086万t発生しており、そのうち1,471万tが飼料や肥料等に再生利用されているものの、355万tは焼却や埋立て等により廃棄処分されています(表3-5-13)。食品残さの再生利用率1を業種別にみると、食品製造業では81%と高く、うち飼料への仕向け割合も75%を占めていますが、食品小売業や外食産業では、再生利用率、飼料への仕向け割合は共に食品製造業に比べて低くなっています。廃棄物として処理されているものや肥料等に再生利用されているものの中には、品質的には飼料として再利用することが可能なものが多く含まれていると考えられるため、資源を有効に利用する点から食品残さを飼料化したエコフィードの更なる普及が期待されます。このような中、エコフィードの普及に向けて、食品関連事業者、飼料化業者、畜産農家等の関係者が地域的又は広域的な連携を図るとともに、量的・質的に安定したエコフィードの生産・供給体制の構築が課題となっています。

表3-5-13 食品廃棄物の再生利用状況(平成22(2010)年度)(単位:千t)

食品廃棄物の年間発生量

再生利用量 熱回収 減量 廃棄処分

飼料化 肥料化 その他

食品産業計 20,860 14,707 10,708 2,449 1,549 487 2,117 3,550食品製造業 17,152 13,938 10,419 2,180 1,339 486 2,054 674食品卸売業 223 116 38 50 28 0 2 106食品小売業 1,192 388 173 121 93 1 6 797外食産業 2,292 265 79 98 87 0 55 1,973

資料:農林水産省調べ 注:「食品リサイクル法」による定期報告結果(食品廃棄物等の発生量が100t以上の食品関連事業者は報告を義務付け)で把握できない部

分を「食品循環資源の再生利用等の実態調査結果」により補完し、全体を推計した。

1 再生利用率=再生利用量/食品廃棄物の年間発生量×100

238

第5節 主要農畜産物の生産等の動向

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第6節 農業の高付加価値化等の推進農村には、農産物を始め、バイオマス、自然エネルギー、伝統文化等有形無形の様々な資源が存在し

ています。農産物の価格低迷や生産資材価格の上昇等、農業経営を取り巻く情勢が厳しさを増す中、農業を持続的に発展させていくためには、農産物の生産のみならず、農村に由来する様々な地域資源を活用した6次産業化や農商工連携の推進による農産物の加工等を通じた農業の高付加価値化、国産農産物等の輸出促進等を図ることにより、農村地域の雇用の確保と所得の向上を実現していくことが重要です。また、これと併せ、地産地消1の取組等を通じ、生産者と消費者との絆を一層強めていくことも重要です。

(農業生産関連事業の年間総販売金額)

農業者の所得を高め経営を安定化させていくためには、農産物の生産・販売等の取組に加えて、農産物の加工や観光農園の開設等の農業生産関連事業2の取組が重要となっています。農林水産省が農業生産関連事業に取り組む農業

経営体及び農協等を対象に行った調査によると、平成23(2011)年度における全国の農業生産関連事業の年間総販売金額は1兆6,368億円となっています(図3-6-1)。この年間総販売金額の内訳をみると、農協等による農産物の直売や加工が1兆1,998億円となっており、全体の73%を占めています。一方、農業経営体による農産物の加工や直売所等での販売は4,370億円となっており、全体の27%を占めています。これを前年度と比較すると、農業生産関連事業全体で184億円減少していますが、業態別には、野

菜の価格低下に加え、東日本大震災の影響等により農産物直売所の年間総販売額が249億円減少する一方、農産物の加工(18億円増加)、観光農園(24億円増加)、農家レストラン等(23億円増加)はいずれも増加しています(表3-6-1)。

1[用語の解説]を参照。2 農業経営体及び農協等による農産物の加工及び農産物直売所、農業経営体による観光農園、農家民宿、農家レストラン等の各事業をいう。

図3-6-1 農業生産関連事業の年間総販売金額(平成23(2011)年度)

農産物の加工 2,702(16.5)

農産物直売所1,029(6.3)

観光農園376(2.3)

農家レストラン等263(1.6)

農業経営体 4,370(26.7)

農産物直売所(農協等)6,899(42.1)

農産物の加工(農協等)5,100(31.2)

年間総販売金額1兆

6,368億円

資料:農林水産省「農業・農村の6次産業化総合調査」注:( )内は年間総販売金額に占める割合。

239

第1部

第3章

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表3-6-1 農業生産関連事業の年間総販売金額の推移(単位:億円、%)

年間総販売金額

農産物の加工 農産物直売所観光農園 農家

レストラン等計 農業経営体 農協等 計 農業

経営体 農協等

平成22年度(2010)

16,552 7,783 2,693 5,091 8,176 1,064 7,112 352 241(100.0) (47.0) (16.3) (30.8) (49.4) (6.4) (43.0) (2.1) (1.5)

23(2011)

16,368 7,801 2,702 5,100 7,927 1,029 6,899 376 263(100.0) (47.7) (16.5) (31.2) (48.4) (6.3) (42.1) (2.3) (1.6)

対前年度差 ▲184 18 9 9 ▲249 ▲36 ▲213 24 23

資料:農林水産省「農業・農村の6次産業化総合調査」 注:( )内は年間総販売金額に占める割合。

(農業生産関連事業は地域の雇用を創出)

農業生産関連事業は、農村地域において雇用を創出する場としても重要な役割を果たしています。平成23(2011)年度の農業生産関連事業の総従事者数は42万9,200人となっており、その内訳をみると、農業経営体によるものが26万400人と全体の6割を占めています(図3-6-2)。このうち、農産物の加工を行う農業経営体が12万6,300人と最も多くなっています。これを前年度と比較すると、農業生産関連事業全体で2万9,800人増加しており、業態別には、農産物の加工が1万4,100人増加するとともに、農産物直売所も1万8,500人増加しています(表3-6-2)。各事業別に1事業体当たりの従事者数をみると、農協等による農産物の加工が最も多く29人、次いで農協等による農産物直売所13人、観光農園6人の順となっています(表3-6-3)。これを雇用形態別にみると、農協等による農産物の加工については、従事者数29人のうち14人が常雇いの雇用者となっており、従事者に占める常雇いの割合が他の事業体より高くなっています。一方、観光農園では、従事者の半数以上を占める4人が臨時雇いの雇用者となっており、繁忙期に対応した雇用が行われていることがうかがえます。また、農業経営体による農産物の加工については、従事者数が多いものの個々の事業体規模が小さく、1事業体当たりの従事者数は4人にとどまっています。

図3-6-2 農業生産関連事業の総従事者数(平成23(2011)年度)

農産物の加工(農業経営体)12万6,300(29.4)

農業経営体26万400(60.7)

農産物直売所(農業経営体)6万1,000(14.2)

観光農園5万5,900(13.0)農家レストラン等

1万7,200(4.0)

農産物の加工(農協等)2万9,700(6.9)

農産物直売所(農協等)13万9,000(32.4)

総従事者数42万9,200人

資料:農林水産省「農業・農村の6次産業化総合調査」注:( )内は総従事者数に占める割合。

240

第6節 農業の高付加価値化等の推進

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表3-6-2 農業生産関連事業の総従事者数の推移(単位:100人、%)

総従事者数農産物の加工 農産物直売所

観光農園 農家レストラン等計 農業

経営体 農協等 計 農業経営体 農協等

平成22年度(2010)

3,995 1,419 1,128 291 1,816 481 1,335 617 143(100.0) (35.5) (28.2) (7.3) (45.5) (12.0) (33.4) (15.4) (3.6)

23(2011)

4,292 1,561 1,263 297 2,000 610 1,390 559 172(100.0) (36.4) (29.4) (6.9) (46.6) (14.2) (32.4) (13.0) (4.0)

対前年度差 298 141 135 7 185 129 55 ▲57 29

資料:農林水産省「農業・農村の6次産業化総合調査」 注:( )内は総従事者数に占める割合。

表3-6-3 1事業体当たりの従事者数(平成23(2011)年度)(単位:人)

1事業体当たり従事者数 家族又は

構成員雇用者

常雇い 臨時雇い農業生産関連事業計 6.6 3.4 1.3 1.9

農産物の加工 5.2 2.4 1.2 1.6農業経営体 4.4 2.2 0.7 1.5農協等 28.6 8.5 13.8 6.3

農産物直売所 8.7 5.2 1.8 1.7農業経営体 4.8 2.6 0.5 1.7農協等 13.4 8.3 3.3 1.8

観光農園 6.3 2.5 0.4 3.5農家レストラン等 5.1 2.4 1.0 1.7

資料:農林水産省「農業・農村の6次産業化総合調査」

(6次産業化の取組は経営向上や地域雇用に効果)

日本公庫が6次産業化や大規模経営に取り組む農業者を対象に行った調査によると、6次産業化に取り組んだ目的については、「生産・加工・販売の一元化を通じた価格決定権の確保のため」が69%と最も高く、次いで「規格外品・キズもの、余剰品の活用のため」40%となっています(図3-6-3)。農産物の価格が低迷する中、農業者が価格決定権の確保や未利用資源の活用を通じて、所得の向上を目指していることがうかがえます。

241

第1部

第3章

Page 30: 第 (8)なたね 1 部 - maff.go.jp(2012) 全国計 2,420 925 593 607 1,690 1,700 1,610 北海道 - - - - 425 502 407 東北 481 276 317 353 557 465 533 九州 1,800

図3-6-3 6次産業化に取り組んだ目的(複数回答)

その他

後継者の経営参加等により労働力に余裕ができたため

有利な条件での融資や補助金が受けられたため

農閑期等の人材活用のため

流通コストを削減するため

雇用増等を通じた地域活性化に貢献するため

規格外品・キズもの、余剰品の活用のため

生産・加工・販売の一元化を通じた価格決定権の確保のため

80706050403020100

12.912.9

6.66.6

7.77.7

13.313.3

24.224.2

25.725.7

39.539.5

68.968.9

資料:(株)日本政策金融公庫「農業経営における6次産業化効果に関する調査結果」(平成25(2013)年2月公表)注:6次産業化・大規模経営に取り組む農業者2,087先を対象として実施したアンケート調査(回収率48.3%)。

また、日本公庫から融資を受けた農業者について、融資前と融資の3年後における売上高の変化をみると、6次産業化に取り組んでいる者の経営は25%増の高い伸びを示している一方、6次産業化に取り組んでいない者の経営は15%増にとどまっています(図3-6-4)。さらに、従業員等に支払う給与等についても、6次産業化に取り組んでいる者の経営は融資を受ける3年前に比べて32%増加していますが、6次産業化に取り組んでいない者の経営は9%増にとどまっています(図3-6-5)。このように、6次産業化の取組は、農業者の経営向上のみならず、雇用の増大を通じた地域経済の活性化にもつながっていることがうかがえます。

図3-6-5 融資後3年間の雇用創出等による従業員給与等増加率

35302520151050

9.1

32.0

%資料:(株)日本政策金融公庫「農業経営における6次産業化効果に

関する調査結果」(平成25(2013)年2月公表)注:図3-6-4の注釈参照。

6次産業化に取り組んでいる経営

(n=100)

6次産業化に取り組んでいない経営

(n=103)

図3-6-4 融資後3年間の売上高増加率

%302520151050

14.6

24.7

資料:(株)日本政策金融公庫「農業経営における6次産業化効果に関する調査結果」(平成25(2013)年2月公表)

注:1)6次産業化・大規模経営に取り組む農業者2,087先を対象として実施したアンケート調査(回収率48.3%)。

2)アンケート回収先1,003先のうち、分析可能な財務データのある203先を対象に分析。

6次産業化に取り組んでいる経営

(n=100)

6次産業化に取り組んでいない経営

(n=103)

242

第6節 農業の高付加価値化等の推進

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(生産・加工・販売部門別にみた課題)

農林水産省が6次産業化に取り組む事業者を対象に行った調査をみると、6次産業化に取り組む際の課題は、生産面では「需要に見合う生産量が確保できない」との回答が41%と最も高く、次いで「資材・燃料費用がかさむ」(38%)、「生産量が不安定で安定供給ができない」(36%)の順となっており、需要に即した生産物の安定供給とコスト低減が課題となっています(図3-6-6)。加工面では、「生産性が上がらない」、「資材・燃料等の費用がかさむ」が41%と最も高く、次いで「加工技術・製造技術が習得できない」(34%)となっており、生産性の向上と加工技術等の習得が課題となっています。販売面では、「広報宣伝・販売促進の費用がかさむ」が43%と最も高く、次いで「販売先の開拓が進まない」(42%)、「営業手法・販売手法が習得できない」(33%)の順となっており、販路の開拓等の販売促進機能の強化が課題となっています。

図3-6-6 農業の6次産業化に向けた課題(複数回答)

その他

自社ブランドが確立できない

必要な雇用の確保ができない

必要な資金の調達ができない

従業員の教育に手が回らない

適正な販売金額で販売できない

特定の販売先への依存度が高い

営業手法・販売手法が習得できない

販売先の開拓が進まない

広告宣伝・販売促進の費用がかさむ

その他

必要な雇用の確保ができない

従業員の教育に手が回らない

必要な資金の調達ができない

加工技術・製造技術が習得できない

資材・燃料等の費用がかさむ

生産性が上がらない

その他

必要な雇用が確保できない

従業員の教育に手が回らない

一定の品質での生産ができない

必要な資金の調達ができない

生産量が不安定で安定供給ができない

資材・燃料等の費用がかさむ

需要に見合う生産量が確保できない

50403020100

6.7

12.4

12.4

19.1

21.3

24.7

28.1

32.6

41.6

42.7

6.8

15.9

19.3

25.0

34.1

40.9

40.9

5.7

13.6

22.7

25.0

26.1

36.4

37.5

40.9

資料:農林水産省「6次産業化を推進するに当たっての課題の抽出と解決方法の検討(調査報告書)」(平成24(2012)年3月公表)注:1)農林水産省発行の「6次産業化の取組事例集(2010年6月)」及び「6次産業化の取組事例集(2011年4月)」に掲載されている

法人、平成23(2011)年5月に「地域資源を活用した農林漁業者による新事業の創出等及び地域の農林水産物の利用促進に関する法律」に基づく事業計画の認定を受けた法人並びに全国の穀物、野菜(きのこ類を含む。)、花き、果樹作の農業生産法人及びその関連法人で売上高3千万円以上の法人2,361先を対象として実施したアンケート調査(回収率11.9%)。

2)集計対象者は、6次産業化に取り組む88先。

農産物生産(1次)

加工品の製造(2次)

農産物の販売(3次)

243

第1部

第3章

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(総合化事業計画の認定件数は着実に増加)

農林水産省では、平成23(2011)年3月に施行された「地域資源を活用した農林漁業者等による新事業の創出等及び地域の農林水産物の利用促進に関する法律」に基づき、農林水産物等の特色を活かしつつ、1次産業から2次・3次産業を通じて消費者までをつなぐ6次産業化に取り組む農林漁業者等の事業計画を総合化事業計画1として認定しています。平成23(2011)年度の認定開始以降、総合化事業計画の認定件数は順調に増加しており、平成24

(2012)年度までの累積認定件数は1,321件(うち農畜産物関係1,190件)となっています。この認定件数を地域別にみると、近畿が232件と最も多く、次いで九州220件、関東209件の順となっています(図3-6-7)。また、都道府県別でみると北海道が81件、長野県60件、兵庫県52件、滋賀県48件の順となっています。認定案件の対象農林水産物は、野菜が最も高く32%、次いで果樹18%、米13%の順となっています。このうち、米については、米粉等を利用した加工品製造等に関する計画が増加したことにより、平成23(2011)年度の12%に比べて1ポイント上昇し13%となりました。

図3-6-7 総合化事業計画の認定状況の推移

林産物関係

水産物関係

(地域別の認定件数)

農畜産物関係

平成23(2011)年度平成24(2012)年度

沖縄九州中国四国近畿東海北陸関東東北北海道

250

200

150

100

50

0

2211

1717

88

2525

1212

88

66

77

1111 1111

1212

44

22

33

1313

44

88

33

77

44

99

33

88

22

66

3322

11

40402222

190190

9292119119

8484

217217

144144110110

616162623434

189189

8888

187187

828276764949

林産物 茶

花き

野生鳥獣

野菜

その他

そば

麦類水産物豆類

米畜産物果樹

24 (2012)

平成23年度(2011)

100806040200

11.911.912.612.620.820.833.233.2

(対象農林水産物)

資料:農林水産省調べ注:1)平成23(2011)年度以降の累積値。

2)複数の農林水産物を対象としている総合化事業計画については全ての品目を集計。3)関東は、山梨県、長野県、静岡県を含む。

31.9 18.4 11.9 12.8

1 農林漁業経営の改善を図るため、農林漁業者等が農林水産物及び副産物(バイオマス等)の生産及びその加工又は販売を一体的に行う事業活動に関する計画。

244

第6節 農業の高付加価値化等の推進

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(農商工等連携事業計画の認定件数は500件を超えるまでに増加)

農林水産省及び経済産業省では、農商工連携に取り組む中小企業者及び農林漁業者の事業計画を、平成20(2008)年7月に施行された農商工等連携促進法1に基づき、農商工等連携事業計画として認定しています。農商工等連携事業計画の累積認定件数は着実に増加しており、平成25(2013)年2月には546件と

なりました。認定件数を地域別にみると、関東が最も多く120件、次いで中国四国78件、東海73件、近畿70件の順となっています(図3-6-8)。また、事業内容は「新規用途開拓による地域農林水産物の需要拡大、ブランド向上」が261件と最も多く、次いで「新たな作目や品種の特徴を活かした需要拡大」(104件)、「規格外や低未利用品の有効活用」(87件)の順となっています。

事 例

「九条ねぎ」の栽培・加工でのバリューチェーンの構築

京都府京きょう都と市しのこと京都(株)(平成14(2002)年設立)は、

自ら生産した京都の伝統野菜「九条ねぎ」(800t(うち契約農家からの購入400t))を自社工場において、カットねぎやねぎ油等に加工し、ラーメン店(300店と独占契約)、スーパー、百貨店等に販売しています。6次産業化に取り組むことにより、売上高が平成24(2012)年には5億9,000万円まで拡大しました。代表取締役の山

やま田だ敏とし之ゆきさんは、アパレル業界での営業経験があ

り、そのノウハウを活かした飛び込み販売でラーメン業界のニーズを把握し、青ねぎの食習慣が少ない関東でラーメンの食材としての需要を創出しました。また、製造過程での低温管理、オゾン水による殺菌等の洗浄作業の工夫、物流段階でのクール便の直送等による鮮度管理の徹底により、バリューチェーンを構築し、カットねぎに「新鮮さ」を付加することで、商品価値の提案を行っています。さらに、京都府内の3か所の産地と結合し、九条ねぎの栽培管理を統一するとともに、産地出荷リレー体制の構築により品質が安定した原料の周年供給を実現させ、事業規模の拡大を可能としました。

兵庫県大阪府

京都府滋賀県

福井県京都市

九条ねぎの栽培風景

1 正式名称は「中小企業者と農林漁業者との連携による事業活動の促進に関する法律」

245

第1部

第3章

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図3-6-8 農商工等連携事業計画の認定状況

林産物関係

水産物関係

(地域別の認定件数)

資料:農林水産省、経済産業省調べ注:1)平成25(2013)年2月現在の数値。

2)関東は、山梨県、長野県、静岡県を含む。

農畜産物関係

沖縄九州中国四国

近畿東海北陸関東東北北海道

120

100

80

60

40

20

0

件3002001000

新規用途開拓による地域農林水産物の需要拡大、ブランド向上新たな作目や品種の特徴を

活かした需要拡大規格外や低未利用品の

有効活用生産履歴の明確化や減農薬栽培等による付加価値向上ITなどの新技術を活用した

生産や販売の実現観光とのタイアップによる

販路の拡大海外への輸出による

販路の拡大

(認定事業の類型)

27 43

101

3459 63

5440

13

5

1

5

5

5 25

5

1

7

6

14

6

9 5 19

9

3

7

13

27

47

87

104

261

(地産地消の取組)

地産地消とは、地域で生産された農林水産物をその地域内において消費する取組です。地産地消の取組は食料自給率の向上に加え、直売所や加工の取組等を通じて農林水産業の高付加価値化につながるものであり、「生産者」と「消費者」との結び付きの強化や地域の活性化等の効果が期待されます。地産地消については、「地域資源を活用した農林漁業者等による新事業の創出及び地域の農林水産物の利用促進に関する法律」及び同法に基づき平成23(2011)年3月に定められた基本方針1により、6次産業化と総合的に推進することとされました。このため、農林漁業者等による加工品の開発の促進や、そのために必要な処理加工施設や直売所等の6次産業化関連施設の整備等に加え、学校給食等における地域農林水産物の利用の促進、直売所等を利用した地域の農林水産物の利用の促進、活動の核となる人材の育成及び多様な主体の連携等の各種取組が推進されています。中でも、直売所を利用した地域の農林水産物の利用の促進については、上記の基本方針において、通年営業直売所のうち年間販売額が1億円以上のものの割合を、平成32(2020)年度までに50%以上とすることを目標としています。平成23(2011)年度における年間販売金額が1億円以上の通年営業直売所の割合は、前年(17.5%)と同程度の17.3%となっています(図3-6-9)。

1 正式名称は「農林漁業者等による農林漁業及び関連事業の総合化並びに地域の農林水産物の利用の促進に関する基本方針」

246

第6節 農業の高付加価値化等の推進

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図3-6-9 年間販売金額規模別の農産物直売所の割合の推移

73.273.2

66.666.6

71.271.2

70.670.6

11.111.1

13.113.1

11.311.3

12.012.0

12.812.8

15.315.3

12.412.4

13.413.4

3.03.0

2.12.1

2.72.7

1.71.7

2.72.7

2.52.5

2.22.2

5千万円未満 1億円~3億円

3億~5億円

5億円以上

不明

5千万~1億円3億円以上

資料:農林水産省「農産物地産地消等実態調査」、「農業・農村の6次産業化総合調査」(組替集計)注:農産物直売所は、農業経営体及び農協等による農産物直売所で、年間を通じて常設店舗形態の施設で営業しているもの。

0 20 40 60 80 100

平成18年(2006)

21(2009)

22 (2010)

23 (2011)

このほか、学校や老人ホームの給食においても、地場産物の利用の拡大が重要な課題となっています。学校給食における地場産物の利用については、平成18(2006)年3月に策定された食育推進基本計画において、学校給食における地場産物を使用する割合(食材数ベース)を平成22(2010)年度までに30%以上とする目標が設定されましたが、平成22(2010)年度の実績は25%にとどまっています1。このため、平成23(2011)年3月に策定された第2次食育推進基本計画において、学校給食における地場産物を使用する割合を平成27(2015)年度までに30%以上とする目標が改めて設定されました。また、老人ホームにおける地産地消の取組については、一部で取組がみられるものの、全国的な取組として発展するまでには至っていない状況にあります。農林水産省が、学校給食を実施する公立小学校や老人ホーム等の一部を対象に行った地場産物の利用

状況調査をみると、学校給食においては、「ほぼ毎日利用」が49%と最も高く、次いで「食材が豊富な時期のみ利用」(18%)となっています(図3-6-10)。一方、老人ホームにおいては、「国内産を意識して利用している」が61%と最も高く、次いで「市町村産を意識して利用している」(12%)となっています。

図3-6-10 学校給食、老人ホームにおける地場産物の利用状況

無回答

積極的に利用することはない

特定の促進期間のみ利用

食材が豊富な時期のみ利用

1ヶ月に1回以上利用ほぼ毎日利用

1週間に1回以上利用

100806040200

1.91.91.91.93.03.0

18.218.28.78.717.017.049.249.2

その他特に意識していない

国内産を意識して利用している

市町村内産を意識して利用している

都道府県産を意識して利用している

100806040200

20.520.52.02.061.261.24.14.112.212.2

(老人ホーム)(学校給食)

資料:農林水産省「学校や老人ホームの給食における地場産物利用拡大に向けた取組手法の構築等に関する調査」(平成24(2012)年2月公表)

注:1)学校給食については、全国の公立小学校、給食センター、共同調理場のうち、1,145施設を対象に実施(有効回答率23.1%)。2)老人ホームについては、老人ホーム、シニア向け分譲マンション、高齢者向け配食サービス実施団体165社を対象に実施(有効回答

率29.7%)。

1 文部科学省「平成22年度学校給食における地場産物の活用状況調査」。完全給食を実施する公立小・中学校29,255校のうち、490校を対象に実施。学校給食に使用した食品数のうち、当該都道府県で生産、収穫、水揚げされた食材の使用率。

247

第1部

第3章

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また、学校給食や老人ホームにおける地場産物の利用を拡大するための課題をみると、学校給食、老人ホーム共に、必要数量や品目の確保を課題とする回答の割合が高くなっています(図3-6-11)。特に、学校給食においては、品質の均質化、価格の低下や関係者の相互理解の促進についても課題として認識されており、老人ホームにおいては、コストの高さを課題とする割合が高くなっています。

図3-6-11 学校給食、老人ホームにおける地場産物利用拡大の課題(複数回答)

資料:農林水産省「学校や老人ホームの給食における地場産物利用拡大に向けた取組手法の構築等に関する調査」(平成24(2012)年2月公表)注:図3-6-10の注釈参照。

%その他

包装の簡素化規格の統一

関係者の相互理解の促進価格の低下

品質の均質化必要品目の確保必要数量の確保

60402004.74.70.90.9

15.515.519.019.020.720.728.928.932.332.3

51.351.3

%その他

包装状態が良くない・使いにくい利用しやすい加工品がない

規格(大きさ、形)食味、色味、香り等の品質が不安定

洗浄の処理基準安全性の担保

地場産物であることの表示が不明瞭必要な量を確保することが困難

仕入れ方法、仕入れ先コストが高い

品目、量、天候等による不安定さ必要な品目数を確保することが困難

60402004.12.08.28.210.212.214.314.3

36.738.840.844.9

57.1(老人ホーム)(学校給食)

事 例

学校給食に地元産有機農産物を供給する取組

愛媛県今いま治ばり市しのJA今

いま治ばり立たち花ばなでは、地域の農業者で組織する「立

花地区有機農業研究会」と連携して、地区内の小中学校の給食に地元産有機農産物を供給しています。この取組は、昭和58(1983)年に小学校1校への供給から始まり、現在では4小学校・1中学校に約1,700食を供給するまでに拡大し、給食で使用される野菜の4割(15t)を供給しています。当初は、学校側から農産物への虫の混入や規格の不揃い等による苦情がありましたが、有機農産物の特徴を理解してもらうことや農業者側が選果の努力を行うことで苦情を解消しました。JA今治立花は、「旬菜旬食」を原則として、露地野菜を中心に供給しているため、給食の献立に旬の野菜が使用されるようになったほか、毎日給食の時間に野菜を供給した生産者を紹介することで、児童生徒が自分の食べているものについて関心を示すようになり、食べ残しがほぼゼロに減少するという効果をもたらしました。JA今治立花では、取組の継続に当たって、高い技術が必要な有機JAS栽培の担い手確保や農地の減少の進行といった課題の解消に取り組みながら、今後は有機野菜だけでなく有機栽培米の供給も行っていきたいと考えています。

高知県愛媛県今治市

立花地区有機農業研究会のみなさん

248

第6節 農業の高付加価値化等の推進

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(農林水産物・食品の輸出の動向)

我が国では、少子高齢化等により農林水産物・食品市場が縮小傾向にあります。一方、世界に目を転じると、アジア諸国等を始め、経済発展に伴う富裕層の増加や人口増加により、今後拡大が予想される有望なマーケットが広がっています。このような中、我が国の農林水産業・食品産業を発展させていくためには、アジア諸国等を始めとす

る世界の経済成長を好機と捉え、農林水産物・食品の輸出拡大に取り組むことが不可欠です。我が国の農林水産物・食品の輸出額は、平成19(2007)年の5,160億円まで順調に増加してきまし

たが、急激な円高やリーマンショックを契機とした世界的な経済不況により、平成21(2009)年には4,454億円まで落ち込みました。その後、平成22(2010)年は4,920億円まで持ち直したものの、東日本大震災の影響等により平成23(2011)年は4,511億円に再度落ち込みました。平成24(2012)年の輸出額については4,497億円と対前年比0.3%のマイナスとなりました(図3-6-12)。農林水産物・食品の輸出額を輸出先国・地域別にみると、香港、台湾、韓国、中国を始めとするアジ

アが7割、北米が2割を占めており、この二地域で全体の9割を占めています。近年、アジア地域の国々の中では、タイ、インドネシア、ベトナム等ASEAN1諸国向けの輸出の伸びが著しくなっています(表3-6-4)。また、農林水産物・食品の輸出額を品目別にみると、農産物のうち加工食品が約3割と水産物(水産

物・水産調製品)が4割で、全体の約7割を占めています。農産物の輸出については、平成23(2011)年から平成24(2012)年にかけて野菜・果実や畜産品が減少したものの、穀物や加工食品が増加したことから、農産物全体では1%増加しています(表3-6-5)。なお、農産物の輸出額のうち、加工食品以外の畜産品、野菜、果実等について、加工度が低いと考え

られる生鮮等農産物を抽出2すると、平成24(2012)年の輸出額は、188億円と試算され、これは農産物の輸出額全体の7%を占めています。

図3-6-12 農林水産物・食品の輸出額の推移

0

1,000

2,000

3,000

4,000

資料:財務省「貿易統計」を基に農林水産省で作成

5,000

6,000農産物

林産物 水産物億円

2,038

88

1,482

3,609

2,168

92

1,748

4,008

2,678

104

2,378

5,160

2,883

118

2,077

5,078

2,637

93

1,724

4,454

2,865

106

1,950

4,920

2,652

123

1,736

4,511

2,680

118

1,698

4,497

90

2,359

平成16年(2004)

17(2005)

19(2007)

20(2008)

21(2009)

22(2010)

23(2011)

24(2012)

18(2006)

2,040

4,490

1[用語の解説]を参照。2 食用農産物のうち、HSコードの2類、4類7項、7類、8類、10類並びに16類2項及び20類8項のうち加工度の低い品目を抽出・試算したもので、生鮮・冷凍の肉、生鮮・冷凍・乾燥の野菜・果実、米等が含まれる。

249

第1部

第3章

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表3-6-4 主な国・地域別の輸出額の推移(単位:億円、%)

平成23年(2011)

24(2012) 増減率

世界 4,511 4,497 ▲� 0.3アジア 3,309 3,275 ▲� 1.0香港 1,111 986 ▲11.3台湾 591 610 3.3中国 358 406 13.4韓国 406 350 ▲�13.8ASEAN 743 810 9.0タイ 237 265 11.5ベトナム 196 215 9.6シンガポール 141 145 2.7フィリピン 62 56 ▲� 8.8マレーシア 50 52 4.7インドネシア 40 44 10.4GCC 54 55 0.9UAE 36 30 ▲�17.4

北米 716 741 3.5米国 666 688 3.4カナダ 43 46 7.6

欧州 296 267 ▲� 9.8EU 246 222 ▲� 9.8オランダ 49 50 2.2ドイツ 44 43 ▲� 1.9英国 42 37 ▲�13.3フランス 50 36 ▲�28.3ロシア 31 27 ▲�11.1

大洋州 113 126 11.7豪州 59 65 9.6ニュージーランド 24 27 14.0アフリカ 44 55 26.2南米 34 32 ▲� 3.3

資料:財務省「貿易統計」を基に農林水産省で作成

表3-6-5 品目別の輸出額の推移(単位:億円、%)

平成23年(2011)

24(2012) 増減率

農林水産物 4,511 4,497 ▲� 0.3農産物 2,652 2,680 1.1加工食品 1,253 1,305 4.1畜産品 309 295 ▲� 4.4穀物等 187 196 4.8野菜・果実等 155 133 ▲�13.8その他 748 751 0.3

林産物 123 118 ▲� 3.9水産物 1,736 1,698 ▲� 2.2水産物(調製品除く) 1,210 1,196 ▲� 1.1

水産調製品 526 502 ▲� 4.7

資料:財務省「貿易統計」を基に農林水産省で作成

これらの状況を踏まえ、減少した輸出を回復し、再び拡大するため、「日本経済再生本部」における安倍内閣総理大臣からの指示を踏まえ、農林水産省に設置した「攻めの農林水産業推進本部」において、省内横断的、さらに関係省庁・機関の参加も得ながら、オールジャパンでの農林水産物・食品の輸出拡大策の検討に取り組んでいるところです。

(農林水産物・食品の輸出に向けた支援)

近年、国内各地において、アジアを中心とした海外の市場に農産物や加工食品等を輸出する取組に関心が高まりつつあります。日本公庫が6次産業化や大規模経営に取り組む農業者を対象に行った調査によると、農産物輸出等の海外展開に関する取組状況は、「現在取り組んでいる」は10%となっていますが、「現在取り組んでいないが、今後は取り組む計画がある」、「現在取り組んでいないが、今後は取り組みたい」とする回答は25%を占めています(図3-6-13)。

250

第6節 農業の高付加価値化等の推進

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図3-6-13 海外展開(農産物輸出等)の取組状況について

35.535.5

現在取り組んでいないし、今後も取り組むつもりはない

現在取り組んでいないが、今後は取り組みたい現在取り組んでいないが、今後は取り組む計画がある

以前取り組んでいたが、現在は取り組んでいない現在取り組んでいる

%1009080706050403020100

60.960.93.63.622.022.03.23.210.310.3

資料:(株)日本政策金融公庫「農業者の農産物輸出の取組みに係る調査」(平成24(2012)年12月公表)注:6次産業化・大規模経営に取り組む農業者2,078先を対象として実施したアンケート調査(回収率48.3%)。

農産物輸出等に取り組む農業者の多くは、香港や中国、台湾を始めとするアジア地域を中心に輸出を行っており、輸出された農産物等は主に日系スーパーや高級スーパー(日系以外)、高級レストラン(日本食)等で販売されています。農産物輸出等の取組には様々な課題がありますが、農業者は諸外国・地域の輸入規制・検疫制度や輸

出・検疫・通関手続き等の貿易実務への対応に特に課題を感じており、課題の解消を図るため、行政や関係機関に対して、国内での商談機会の提供や海外展開に関する金融支援、セミナー等による情報提供等の支援策を期待しています1。このような農業者の動きに対応して、農林水産省では、農林水産物・食品の輸出に取り組む農業者等

に対して、海外の食品見本市等におけるジャパンパビリオンの設置や輸出に関するノウハウ等の情報提供、国内外の有力なバイヤーとの商談の場の提供等を行っています。

1(株)日本政策金融公庫「農業者の農産物輸出の取組みに係る調査」(平成24(2012)年12月公表)

事 例

輸出促進の取組

(1)「あきたこまち」を世界の人々へ秋田県大

だい仙せん市しのJA秋田おばこは、農業者の所得を向上させるた

め、平成20(2008)年度より「あきたこまち」の海外輸出に取り組んでいます。輸出に当たっては、米卸業者の(株)神

しん明めいがJA

秋田おばこから米を買い取り、輸出を行っており、海外での販売先や販売価格、販路拡大等は同社に一任しています。(株)神明による販路拡大と輸出先からの品質に対する評価を受け、輸出数量は年々増加し、現在は香港、豪州、シンガポール、米国、欧州等を中心に輸出されています。このような中、東日本大震災の影響により、一時的に輸出量が減少しましたが、徐々に震災前の状況に戻りつつあります。輸出の取組は、新規需要米として調整水田に輸出用米を作付けすることによる所得の向上効果や品質に対する海外の高い評価により、農業者の生産意欲の向上につながっています。

山形県秋田県

岩手県

青森県

大仙市

出荷の様子

251

第1部

第3章

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今後は、一定以上の価格で販売できるような品質の米を生産することにより、食味や安全性を海外に宣伝し、更に輸出を拡大していきたいと考えています。

(2)グロリオサの切り花をアメリカ、中国へ輸出高知県高

こう知ち市しの三

み里さと地区は、旧来よりしょうがの栽培が盛んな

土地でしたが、しょうがの供給が過剰気味となり農家所得が低下してきたため、農閑期の収入確保を図る作物として、昭和55(1980)年からグロリオサの栽培を始めました。グロリオサの年間出荷数量は年々増加し、バブル期には農家所得も一気に増加しましたが、バブル崩壊後は単価が頭打ちとなったことから更なる活路を求めて、平成14(2002)年に市の支援を受け、台湾への試験輸出を行うこととなりました。同年、オランダで開催されたインターナショナルフラワートレードショーでグランプリを受賞し、これをきっかけに本格的に輸出に取り組み、アメリカ(ニューヨーク)や中国(上海、香港)に、ピーク時には年間7万5千本を輸出しました。近年は円高の影響により、年間3万本程度に減少していますが、品質は海外でも高く評価されており、競合するヨーロッパ産の1.5倍以上の値が付いています。海外での高い評価を受け、農家は自信と誇りを持って生産に取り組むようになり、また、輸出の取組を通じて、海外輸送に適した荷造り・圧縮梱包等の技術や給水パック等の品質保持技術を国内輸送に活かすことにより、三里産の品質とブランドイメージが向上し、国内シェアは70%を超えています。このような中、グロリオサ農家における後継者の確保は順調に進んでおり、若い人たちが中心となった栽培が進められています。

高知県愛媛県

徳島県

高知市

ハウス内で開花するグロリオサ

(日本食・食文化の魅力を海外へ発信)

我が国の農林水産物・食品の輸出を拡大していくためには、単にモノを売るだけではなく、伝統と各地域の風土や自然環境の下で育まれた独特の食文化というコンテンツも併せて海外に発信することが重要です。また、海外に発信していくに当たって、日本食文化の良さが日本国内で十分に理解・浸透されることも重要です。我が国においては、平成32(2020)年に農林水産物・食品の輸出額を1兆円水準にするという目標達成に向けて、食文化の魅力を国内外へ発信する取組を推進しています。近年、海外の日本食レストランは、健康志向等を背景とした日本食ブームから、店舗数が急増しており、平成25(2013)年には5万5千店と平成18(2006)年(2万4千店)の2.3倍に増加しています1。農林水産省では、日本産農林水産物・食品のいわゆるショールームとなる海外の日本食レストランに対して、出汁の取り方等の調理技術や生食の取扱い等の衛生管理技術等、正しい日本食・食文化の知識を普及させていく取組を支援しています。また、平成24(2012)年7月のロンドンオリンピックや9月のサマーダボス会議(中国)において、関係省庁や民間団体と連携して日本食レセプションを開催しました。さらに、平成25(2013)年2月から3月までフランスのパリにおいて関係省庁や民間団体等と連携して日本食文化週間を開催し、料理学校での日本食講座、日本食レストランでの訪日観光プロモーション、食器等の関連商品の展示と販売、繁華街での情報発信拠点の設置等、海外の消費者を対象とした複数のイベントを集中的に展開しました(図3-6-14)。

1 外務省・在外公館の調査協力の下、農林水産省で推計。

252

第6節 農業の高付加価値化等の推進

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図3-6-14 パリにおける日本食文化週間イベントマップ

LE CORDON BLEU3/8 料理学校における日本食講座

日本食レストラン海外普及推進機構(JRO)

パリ商工会議所2/25 ビジネスマッチング商談会    経済産業省

大使公邸2/7  キックオフイベント

農林水産省・在仏大使館2/28 SAKEイベント 試飲会

在仏大使館・日本酒造組合中央会

大手給食事業者3/15 ELIOR社 日本食セミナー 農林水産省

ソルボンヌ大学3/18・19 食文化シンポジウム 在仏大使館・農林水産省・ソルボンヌ大学

Maison de la Mutualité3/17 ~ 19 フードフェスティバル OMNIVOREへ出展 農林水産省

FLUEX’2/25 ~ 3/10 日本テーブルアート展 経済産業省

L’ IMPRIMERIE2/1 ~ 23 POP UP STORE の開設 農林水産省

GALERIE CHOISEUL1/17 ~ 3/16 オールジャパン訪日プロモーション事務局設置 観光庁

ESPACE CINKO2/8・9 オールジャパン訪日プロモーション     「日本食の紹介と観光」イベント     観光庁

パリ日本文化会館2/9  宮城牡蠣料理欧州巡回レクチャー・デモンストレーション

国際交流基金2/27 SAKEイベント セミナー&試飲会

日本酒造組合中央会3/19 震災復興と子供たちの未来のために

国際交流基金

在仏日本国大使館

在仏日本国大使館

ノートルダム寺院

ノートルダム寺院

エッフェル塔エッフェル塔

凱旋門凱旋門

ルーヴル美術館ルーヴル美術館

コンコルド広場

コンコルド広場

資料:農林水産省作成

© OpenStreetMap contributors

(「食と農林漁業の祭典」の開催)

「食と農林漁業の祭典」は、国内外の食の市場を開拓していくために、我が国の農林漁業・食品産業・農山漁村が持つ素晴らしい価値を広く国民・世界に伝え、ジャパンブランドの再構築を図ることを目的として、平成24(2012)年に初めて開催されました。この祭典は、平成24(2012)年2月の世界的指揮者ワレリー・ゲルギエフ氏によるチャリティーコ

ンサートをキックオフイベントとして、①3月には東日本大震災で被災した子どもたちに地域食材を使用した料理を提供する「復興食イベント」、②7月にはロンドンオリンピックにおいて英国政府関係者やオリンピック関係者に日本食を提供する「ロンドン五輪食イベント」、③9月には世界のトップシェフを招き日本食の魅力を発信する「世界料理サミット」等、関係省庁等と連携して様々なイベントを開催しました。また、11月から12月にかけては祭典のクライマックスとして、「生産者と消費者の絆を深める」、

「日本と世界の絆を深める」をテーマとするイベントを関係省庁や民間団体等と連携して集中的に開催し、この期間内で約35万人が参加しました(図3-6-15)。

253

第1部

第3章

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コラム

「ご当地!絶品うまいもん甲子園」と「食と農林漁業大学生アワード」

「食と農林漁業の祭典」の一環として、「ご当地!絶品うまいもん甲子園」と「食と農林漁業大学生アワード」が開催されました。「ご当地!絶品うまいもん甲子園」は、高校生が地域の特産物を創意工夫して調理する料理コンテストです。全国77校の応募の中から書類審査で選ばれた9校が11月の本戦で料理のプレゼンと調理を行い、審査の結果、桂

かつら高等学校(京都府京都市)の「えー!

びっくり!京の海老芋三兄弟」が農林水産大臣賞、岩いわ見み沢ざわ農業高

等学校(北海道岩いわ見み沢ざわ市し)の「北の大地の夢岩農チリドック」と

相おう可か高等学校(三重県多

た気き町ちょう)の「伊な勢丼」が食料産業局長賞

を受賞しました。「食と農林漁業大学生アワード」は、食と農林漁業に関わる取組を行う大学生グループによる活動発表のコンテストです。全国37グループの応募の中から書類審査で選ばれた11グループが活動発表のプレゼンを行い、審査の結果、東京家政大学の「白藤プロジェクト」(古代米復活、アレルギーフリー商品の開発等)が農林水産大臣賞を受賞しました。今後も、このような学生たちの取組が活性化し、地域の食文化や農林水産物の魅力が次世代へ引き継がれるとともに、地域の活性化につながっていくことが期待されます。

本戦の調理の様子

東京家政大学白藤プロジェクトの皆さん

図3-6-15 「食と農林漁業の祭典」(平成24(2012)年11~12月)イベント

(11月第4週)農林水産祭式典(明治神宮会館)

①生産者による直接販売

②食育ワークショップ

③食と農のふれあい体験

④特産農林水産物の展示、即売

①世界遺産条約採択40周年記念会合での日本食アピール

②日本各地の食文化展示会

③既登録国との食文化交流セッション

①国際シンポジウム・世界の食と健康についてのシンポジウム

・アジアと日本の食と農の未来についてのシンポジウム②TOKYO農業祭・大学生グループの活動発表、表彰

・農業高校収穫祭等

①農林水産・食品分野の技術関係の展示会、基調講演②セミナー・シンポジウム③復興支援研究の紹介

①農業に係る先端技術やビジネスモデ ル の 展示・紹介②食・農の魅力を発信③食育・農育プログラム

①農業関係者による日本の食材アピール

②高校生料理コンテストの表彰、料理提供

③大学生農林漁業団体の活動発表

④料理マスターズシェフによる地域食材調理、提供

⑤家畜ふれあい体験等

12月第1週11月第3週11月第2週11月第1週

内容

4万3千人3万3千人2万人2千人6万4千人18万人来場者

ビッグサイトビッグサイト秋葉原京都日比谷公園丸の内仲通り等場所

農業フロンティア2012

アグリビジネス創出フェア2012

国際シンポジウム日本料理文化博覧会

ファーマーズ&キッズフェスタ実りのフェスティバル

資料:農林水産省作成

ジャパンフードフェスタ2012名称

(農業の高付加価値化をサポートする体制を整備し、取組を支援)

農山漁村の6次産業化を進めるためには、農林漁業者等への直接的な支援として経営の発展段階に即した個別相談等を行う体制を整備し、農林漁業者が6次産業化に取り組む際の課題を解決することが重要です。

254

第6節 農業の高付加価値化等の推進

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このため、地域段階の取組として、各都道府県に設置された6次産業化サポートセンターにおいては、6次産業化に関連する知識・経験を有する民間の専門家である「6次産業化プランナー」(平成24(2012)年11月30日現在で739人)等によって、6次産業化の取組に向けた計画づくり、新商品開発や販路開拓等の取組等、経営の発展段階に即した個別相談が行われています。また、農林漁業者等の6次産業化の取組を促す環境づくりを進めるため、6次産業化に取り組む農林漁業者等への技術研修や6次産業化に関係する業種との交流会を開催し、農林漁業者等の6次産業化を支援しています。このような地域段階の取組を効果的に進めるため、全国段階においては、6次産業化プランナー等の

質の向上を図る研修、6次産業化プランナー候補者の育成研修のほか、開発された商品等の販路開拓の機会を創出する商談会やフェアの開催等が行われています。さらに、農山漁村における所得や雇用を増大し、地域活力の向上を図るためには、農林漁業者が多様

な業種の事業者と連携して行う6次産業化の取組の面的拡大を支援することが課題となっています。

(農林漁業成長産業化ファンドを通じた支援)

6次産業化の取組をさらに拡大・高度化し、成長力・競争力のある事業へ発展・飛躍させるためには、自由度の高い資金の供給や販路の確保、効率的な経営手法の展開、加工・販売事業者とのマッチングの問題が生じてきます。このような課題に直面する農林漁業者等に対して出融資や経営支援を行うため、「株式会社農林漁業

成長産業化支援機構法」(以下「ファンド法」という。)が、平成24(2012)年8月に成立し、同年12月に施行されました。また、ファンド法に基づき設立された株式会社農林漁業成長産業化支援機構(略称:A-FIVE)が、

平成25(2013)年2月に開業し、農林漁業者と2次・3次産業を資本的に結合した6次産業化事業体への支援を行うための準備が進められています。

(知的財産の保護・活用に向けた支援)

我が国の農林水産業が国際競争力の強化や収益性の向上を図るためには、我が国に存在する卓越した栽培・製造技術に裏打ちされた優れた品質や特徴を有する農林水産物・食品といった知的財産を発掘し、適切に保護しながら、積極的・戦略的に活用していくことが重要です(図3-6-16)。

図3-6-16 農林水産業・食品産業における知的財産の例

○ 育成者権(植物新品種の育成)

知的財産権以外の重要な知的財産

○ 動物の遺伝資源

○ 食文化・伝統文化

○ 生産・製造・保存技術

○ ブランド(地域ブランド・農産品ブランド等)

○ 古くからある植物品種(伝統野菜等)

知的財産権

○ 特許権(栽培技術・ノウハウや独自の資材)

○ 意匠権(美しい外観、使い勝手の良い外観)

○ 実用新案権(物品の形状、構造又はその組合せに係る考案)

○ 商標権(商品のマーク・ブランド)

資料:農林水産省作成

255

第1部

第3章

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このため、農林水産省では、農林水産業・食品産業分野における知的財産の創造・保護・活用を推進するため、「新たな農林水産省知的財産戦略」(平成22(2010)年3月策定)に基づき、総合的な取組を展開しています。知的財産の創造・活用に当たっては、農林水産物・食品の地域ブランド化に取り組む地域を対象としたセミナー開催(全国8か所)、地域の食材を活用した伝統料理や創作料理について、地域団体商標権、意匠権等の取得を目指す取組(全国7か所)及び地域ブランド農林水産物を始めとする農山漁村の地域資源を活用した国内外からの観光客の誘致を促進する取組(全国7か所)等を支援しています。知的財産の保護に当たっては、中国や台湾における商標登録の一元的な監視や情報収集・提供を行う

「農林水産知的財産保護コンソーシアム」への支援を通じて、海外で我が国の地名等を利用した第三者による商標出願に対応しています。また、我が国の植物新品種の育成者権1が適切に保護されるよう、東アジア地域における植物新品種保護制度の整備を進めるため、平成20(2008)年に日本のイニシアチブにより、ASEAN+日中韓の13か国で構成する技術協力に関する情報交換等を行う「東アジア植物品種保護フォーラム」を設立し、各国の品種保護制度のレベルアップを図っています。我が国が、専門家の派遣や各国専門家の受入研修や意識啓発セミナーの開催等の積極的な協力活動を展開する中で、カンボジア、ラオスが「植物の新品種の保護に関する国際条約」(UPOV条約)加盟に向けた国内法を制定するなど、東アジア各国における植物品種保護制度の整備に向けた主体的な取組が現れてきています。今後は、こうした機運を更に醸成し、各国の政策決定者等に重点的に働きかけを行い、東アジアにおける植物品種保護フォーラムの活動を戦略的に展開することが期待されます。

(地理的表示の保護制度の導入に向けた検討)

地域特産品となっている農林水産物や食品について、高付加価値化・ブランド化を一層推進し、農山漁村の活性化を図るためには、その地域に由来する品質や特徴について適切な評価を与える地理的表示の保護制度を導入することが重要です。地理的表示とは、いわゆる地域ブランドのことであり、地域の自然的特性を活かした方法又は伝統的方法により生産・加工された結果、当該地域に固有の品質又は特徴を有する産品が、特定の地域を原産地とすることを示すために使用される名称をいいます。地理的表示制度においては、一定の生産方法・品質等の基準を満たしている場合に対してのみ当該産品の名称を用いることができるため、地域ブランドの信用を高める効果があるとされています。農林水産省では、適切な時期に地理的表示の保護制度を創設できるよう、平成24(2012)年3月以降、有識者等による研究会を5回開催し、産地関係者等の意見を聞くなど、検討を行っています。

1 種苗法に基づき登録された新品種の種苗、収穫物及び一定の加工品の利用を専有することができる権利。

256

第6節 農業の高付加価値化等の推進

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事 例

知的財産の戦略的保護と活用に向けた取組

(1)あまおう福岡県が開発したいちご「あまおう」は、育成者権を保護する品種登録名称を「福岡S6号」とし、名称を保護する商標登録名称を「あまおう」とすることにより、種苗を育成者権で保護すると同時に「あまおう」という名称を商標権で保護しています。また、商標登録によって、果実だけでなく加工品に対しても名称の使用を保護しています。さらに、中国において品種登録出願を行うとともに、香港、中国、韓国、台湾において「あまおう(甘王)」の商標登録を行っています。この方法により、商標登録の更新(10年ごと)を行えば、「あまおう」という名称を永続的に商標権で保護することが可能となります。このため、現行の「あまおう」を改良した新品種が開発された場合においても「あまおう」という名称で販売することができるようになり、継続的に「あまおう」のブランド化を図ることにつながります。

(2)つや姫山形県が開発した良食味米「つや姫」は、平成23(2011)年に「つや姫」として品種登録するとともに、「つや姫」という名称とパッケージデザインについて商標登録を行いました。また、中国、香港、台湾においても「つや姫」、「TSUYAHIME」、シンボルマークについて商標登録を行っています。さらに、認定された生産者が栽培基準に従って生産し、出荷基準に適合したものだけを出荷するなど、品質管理を徹底しているほか、生産者認定制度の実施要領で種苗の自家増殖を禁止し、育成者権の保護にも取り組んでいます。このように、「つや姫」の育成者権と商標権を一体的に管理することにより、生産から販売までを管理することができるようになり、育成者権の期間(25年)にとらわれない「つや姫」のブランド戦略が可能となりました。

(3)安代りんどう岩手県八

はち幡まん平たい市しの(一社)安

あ代しろリンドウ開

かい発はつは、八幡平市と合

同で開発した多数のりんどうの新品種を、「安代りんどう」のブランドで国内外に展開しています。同社は、世界市場への供給を見据えて、「安代りんどう」の育成者権を日本、ニュージーランド(NZ)、チリ及びEUにおいて取得し、商標権も日本、NZ、EU、米国及び中国において取得しています。さらに、地域(日本、NZ及びチリ)を限定して生産を許諾し、生産者は売上げの一部をロイヤリティとして(一社)安代リンドウ開発に支払うスキームを構築しています。このような知財マネジメントの下、季節が反対となる北半球(日本)と南半球(NZ及びチリ)での契約栽培により、世界市場への周年供給体制を実現しています。

あまおう

安代りんどう

つや姫のパッケージ

257

第1部

第3章

Page 46: 第 (8)なたね 1 部 - maff.go.jp(2012) 全国計 2,420 925 593 607 1,690 1,700 1,610 北海道 - - - - 425 502 407 東北 481 276 317 353 557 465 533 九州 1,800

第7節 研究・技術開発の推進我が国の農林水産業・農山漁村が直面する課題や、地球温暖化問題、食料問題等の国際的な課題に対応し、農林水産業・農山漁村の活力を維持していくためには、農林水産業・農山漁村が有する資源や潜在能力を最大限に活用することが重要です。このため、農林水産分野における研究・技術開発を加速化することが求められており、平成24

(2012)年度においても、様々な研究が進められているほか、これまでの研究成果の実用化や農業生産現場への普及に向けた取組が進められています。

(食料の安定供給に向けた研究開発)

食料自給率の向上と食料の安定供給を実現するため、実需者等のニーズに応じ、病害虫抵抗性や収量性、加工適性等に優れた品種の開発等に関する研究が進められています。例えば、水稲の新品種としては、業務用・加工用需要の増加に対応して、低コスト生産が可能で醸造適性を持つ「たちはるか」や米菓への加工適性に優れた「亀

かめの蔵

くら」が育成されました。このほ

か、米粉需要の増加に対応して、米粉麺やライスパスタへの加工適性に優れた北海道向けの新品種「北

きた瑞みず穂ほ」が育成されました。

また、温暖地における小麦の新品種として、日本麺(うどん)だけでなく、菓子等にも利用できる「ちくごまる」が育成されました(図3-7-1)。「ちくごまる」は、赤かび病やコムギ縞萎縮病への抵抗性を持ち、九州地域において長く栽培されてきた「農林61号」に代わる品種として期待されています。

(食品の安全確保に向けた研究開発)

農林水産物に含まれる様々な危害要因の実態を的確に把握し、科学的根拠に基づく措置を行い、消費者に安全な食品を安定的に供給するため、食品安全に係るリスク管理に必要な技術の開発が進められています。例えば、カドミウム1をほとんど吸収しないコシヒカリの変異体が開発され、この変異体から低カドミウムの原因となる遺伝子が発見されました(図3-7-2)。この低カドミウムコシヒカリと他の水稲品種を交配することにより、様々な水稲品種にカドミウムを吸収しない形質を付与することができるほか、水稲以外の作物についても、カドミ

1 全国の土壌に普遍的に存在する重金属。一定以上のカドミウムを、食品を通じて数十年にわたり継続して摂取すると、腎臓(近位尿細管)の機能に悪影響を及ぼす可能性がある。

図3-7-1 「ちくごまる」の菓子への加工適性

a b

c d

a:ちくごまる、b:農林61号、c:シロガネコムギ、d:チクゴイズミ

資料:(独)農業・食品産業技術総合研究機構九州沖縄農業研究センター作成

注:うどんに適する低アミロース品種の「チクゴイズミ」はスポンジの中央が凹み、体積が小さいが、「ちくごまる」は「農林61号」や「シロガネコムギ」と同程度にスポンジケーキを焼成可能。

図3-7-2 低カドミウムコシヒカリのカドミウム吸収性と品質

コシヒカリ

精玄米重(kg/10a) 700

6005004003002001000

低Cdコシヒカリ(lcd-kmt1)

低Cdコシヒカリの収量・玄米形質・草姿はコシヒカリと同等の性質を持つ

高濃度Cd試験ほ場においても低Cdコシヒカリの玄米中Cd濃度は食品衛生法の基準値を大幅に下回る

食品衛生法の基準値(0.4mg/kg)

低Cdコシヒカリ(lcd-kmt1)

コシヒカリ

玄米Cd濃度(mg/ kg)

ほ場Cほ場Bほ場A

21.81.61.41.210.80.60.40.20

低Cdコシヒカリのカドミウム吸収性

低Cdコシヒカリ(lcd-kmt1)

コシヒカリ

(草姿)

(玄米形質)(収量)

低Cdコシヒカリの品質の確認

資料:農林水産省作成

258

第7節 研究・技術開発の推進

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ウム濃度を低減する技術開発につながることが期待されます。

(地球温暖化問題に対応する研究開発)

低炭素社会の構築に向けて貢献するとともに、温暖化による農林水産物の品質や生産量の低下を回避するため、温室効果ガス1の排出削減・吸収機能の向上に向けた技術、温暖化への適応技術の開発、バイオマスの利用等に関する研究が進められています。例えば、稲の登熟期の高温により米が白濁する乳

にゅう白はく粒りゅう

2は、でん粉を分解する酵素(α-アミラーゼ)が高温条件下で活性化することにより生じることが明らかになりました(図3-7-3)。α-アミラーゼの働きを抑制することにより、乳白粒の発生が減少するため、今後、高温でも米の品質が低下しにくい、温暖化に強い水稲品種の開発が加速化することが期待されます。また、温暖化の原因物質の一つである一酸化二

窒素(N2O)還元酵素3活性を強化した根粒菌によって、大豆畑のN2Oの発生を大幅に抑制する技術が開発されました。今後、温室効果ガスを削減する新たな手法として実用化が期待されています。

(新需要・新産業の創出に向けた研究開発)

我が国の農林水産物に対する新たな需要開拓と生物の持つ多様な機能を活用した新産業を創出するため、高品質で付加価値の高い農林水産物・食品や、新たな医薬品・新素材の開発等に関する研究が進められています。例えば、うんしゅうみかんに多く含まれる「β-クリプトキサンチン」は、様々な生活習慣病に役立

つ成分として注目されていますが、この血中濃度が高い閉経女性は、低い人に比べて骨粗しょう症の発症リスクが低いことが明らかになりました(図3-7-4)。また、β-クリプトキサンチンをうんしゅうみかんの加工副産物から高濃度で大量に取り出す技術が開発され、平成25(2013)年3月には、うんしゅうみかん3個分のβ-クリプトキサンチンを含む機能性飲料が販売されました。このほか、家畜を医療分野に利用する技術とし

て、免疫不全ブタが開発されました。免疫機能のない動物は拒絶反応を示さないため、異種間の細胞や組織の移植が可能となります。人間との類似性が高く、家畜として扱いやすい免疫不全ブタを活用することにより、人間向け創薬の研究材料としての利用や新薬の前臨床試験、人間の組織や臓器の再生に向けた研究が進められることが期待されます。

1[用語の解説]を参照。2 胚乳部の横断面に白色不透明な部分が粒平面の2分の1以上、かつリング状となっているもの。3 N2Oを窒素ガス(N2)に還元する酵素。

図3-7-3 高温により乳白粒が発生するメカニズム

デンプンを分解する酵素α-アミラーゼ↑葉での

光合成葉での光合成

デンプン蓄積不足

デンプン蓄積良好

栄養源(糖分)

栄養源(糖分)

デンプンを合成する酵素

デンプンを合成する酵素

高温

乳白粒健全粒

平温

資料:(独)農業・食品産業技術総合研究機構中央農業総合研究センター作成

図3-7-4 β-クリプトキサンチンの血中濃度と骨粗しょう症の発症リスクの関係

低 中 高0.0

1.0

2.0

3.0

週に3個以下

毎日1~ 3個

毎日4個以上

血中β-クリプトキサンチンレベルとうんしゅうみかんの摂取頻度

骨粗しょう症の発症リスク

資料:(独)農業・食品産業技術総合研究機構果樹研究所資料を基に農林水産省で作成

注:グラフは閉経後の女性の骨粗しょう症の発生リスク。また、グラフ中の縦線は、発症リスクが95%の確率で現れる範囲を示す。

血中のβ-クリプトキサンチンが高濃度のグループの骨粗しょう症の発症リスクは、低濃度のグループを1とした場合0.08であり、92%低い

259

第1部

第3章

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(ゲノム情報の活用による農業生物の改良技術の開発)

継続的に技術シーズを生み出し、研究の基盤となる資源や情報を蓄積するため、農林水産生物に飛躍的な機能向上をもたらす生命現象の解明等に関する研究開発が進められています。例えば、トマトの全ゲノム1が解読され、約3万5千個の遺伝子のゲノム上の位置や構造が解明され

るとともに、大麦についてもゲノム情報が詳細に解読されました。今後、これらの情報を活用することにより、トマトや麦類の品種改良と新しい栽培技術の開発につながることが期待されます。家畜におけるゲノム研究については、ブタゲノムの塩基配列の90%以上について解読が行われ、約2万5千個の遺伝子が存在することが明らかになりました。今後、このゲノム情報を用いて、肉質・抗病性・繁殖性に優れたブタの開発や、臓器移植等の医療用モデル動物としてのブタの利用が加速化することが期待されます。

(研究・技術開発の成果の普及・実用化に向けた取組)

研究や技術開発の成果を確実に普及し実用化につなげていくため、農林水産省においては、産学官連携の促進や技術開発から実証試験まで切れ目のない支援と研究成果の円滑な移転を行い、研究開発から普及・産業化まで一貫した支援を実施しています。例えば、農林水産・食品産業分野の専門家を産学官連携事業コーディネーターとして全国に配置し、研究シーズの収集や共同研究グループの形成を支援しています。また、優れた研究成果を広く普及し、成果の活用の推進や新たに解決すべき技術的課題を発見するため、全国の産学官の機関が保有する最新技術を紹介する「アグリビジネス創出フェア」を開催しています。平成24(2012)年度には、全国の189機関が同フェアにおいて最新技術を紹介し、3日間の参加者数は過去最高の3万3千人となりました。

(研究・技術開発の成果の農業生産現場への普及)

普及指導員は、研究・技術開発の成果を農業生産現場に普及する大きな役割を果たしています。普及指導員は、国が行う普及指導員資格試験に合格した農業に関する高度な技術や知識を有する都道府県の職員であり、都道府県の普及指導センター、試験研究機関、研修教育施設等に配置され、開発された技術や経営に関する知識を農業者に伝え、地域の課題解決に向けた支援を行っています。平成24(2012)年度からは、この普及指導員の中に、主要な農政分野・技術分野2ごとに農業革新

支援専門員が配置されました。農業革新支援専門員は、専門分野に関する高い知見と豊富な経験を有する普及指導員から選定され、普及組織と研究・教育・行政機関等との連携強化による専門技術の高度化や政策課題への対応、先進的な農業者等からの高度かつ専門的な相談対応等を行っています。

1[用語の解説]を参照。2 土地利用型作物(米・普通畑作物)、園芸(野菜・果樹・花き)、畜産、生産工程管理・労働安全(GAP・労働安全)、持続可能な農業・鳥獣害(環境・鳥獣害)、担い手育成(就農・経営)、震災対策、普及指導活動及び各都道府県が定める分野。

260

第7節 研究・技術開発の推進

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事 例

普及指導員のコーディネートによる小麦新品種の導入と新商品の開発

岡山県津つ山やま市しでは、平成19(2007)年から、水田における転作作物として、

飼料作物や大豆等に代えて、菓子、麺類に適する小麦の新品種「ふくほのか」の生産に取り組んでいます。また、地域の菓子店と連携して、「ふくほのか」と地元の農産物を使ったロールケーキ等を商品化し、平成22(2010)年から販売を開始しています。「ふくほのか」は、平成17(2005)年に菓子、麺類に適する小麦の新品種として、(独)農業・生物系特定産業技術研究機構近畿中国四国農業研究センターにおいて育成されました。「ふくほのか」の導入に当たっては、普及指導員が中心となって実証展示ほ場を設置し、生育調査を通して地域適応性を検討しました。その結果、早生、多収、良質で津山地域への適応性も高いことが確認できたことから、農協、市等と連携して生産組合の立ち上げを支援し、作付けの推進や栽培技術指導を行いました。また、生産振興と同時に「ふくほのか」を利用した商品開発を支援するに当たり、関係機関、生産者、商工業者等と連携して協議会を設立し、農商工連携の体制を整備するとともに、消費者ニーズ調査を行いました。このように、産地全体として目指す方向性を統一するため、普及指導員が農協、市、生産組合等の関係者間のコーディネートを行い、生産振興と商品開発を一体的に支援してきました。こうした継続的な普及指導員の支援もあり、「ふくほのか」の作付面積は、平成19(2007)年産の1haから、平成24(2012)年産の60haまで拡大しています。また、ロールケーキも販売開始から2年間で約6万本を売り上げるヒット商品となるなど、「ふくほのか」の導入を契機とした様々な取組が地域の活性化に結び付いています。 商品化したロールケーキ

広島県

岡山県

鳥取県

兵庫県

津山市

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第1部

第3章

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第8節 環境保全を重視した農業生産の推進

(1)環境保全に向けた農業の推進

(農業と環境は相互に影響)

農業生産活動は自然循環機能1を有しており、適切な農業生産活動は、農地等において良好な二次的自然環境を形成するとともに、自然環境の保全、良好な景観形成等、環境保全上の多様な機能を発揮する面を有しています(図3-8-1)。一方、農業資材の不適切な利用や管理等は、環境への負荷や二次的自然環境の劣化を招くなどのおそ

れがあります。例えば、不適切な施肥は、河川や地下水等の水質汚染・富栄養化を招くおそれがあるほか、温室効果ガスである一酸化二窒素の発生、土壌劣化等、様々な面で環境へ負荷をかけるリスクがあります。

図3-8-1 農業の自然循環機能のイメージ

有機物

多様な生物

無機物

吸 収

食料食べ残し

人間

食料ふん尿

わら

家畜

エサ

緑 肥作物残さ

微 生 物土壌動物

資源の循環

健全な水環境

資料:農林水産省作成

健全な土

堆肥

河川、湖沼、地下水等の水環境

良好な景観

このように、農業と環境は相互に影響を与えています。持続的な農業の実現に向けて、農業の持つ物質循環機能を活かすとともに、生産性との調和に留意しつつ、肥料・農薬の使用等による環境負荷の軽減に配慮した生産を行うことが重要です。このため、農林水産省では、環境保全効果の高い営農活動の導入を推進しています。

(農薬による環境負荷を軽減する防除の推進)

農薬による環境負荷を軽減しつつ、病害虫の発生を抑制する防除体系として総合的病害虫・雑草管理(IPM2)があります。IPMとは、病害虫や雑草の発生しにくい環境を作るとともに、病害虫の発生予察

1 自然界における生物を介在する物質の循環に依存し、かつこれを促進する機能。2 IPMは、IntegratedPestManagementの略。

262

第8節 環境保全を重視した農業生産の推進

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情報やほ場の観察により適切な防除の時期を判断し、天敵(生物的防除)や粘着板(物理的防除)等の多様な防除技術を適切に組み合わせて防除を実施するものです。農林水産省では、農薬に依存した防除ではなく、IPMの考え方を採り入れた、従来以上に環境負荷を低減する防除を推進しています。

事 例

施設なす栽培における天敵を利用した防除の実践

なすの害虫であるアザミウマ類やコナジラミ類の防除に当たっては、農薬散布に多大な労力が必要です。このため、熊本県熊

くま本もと市しのJA鹿

か本もと大おお長なが

なす部会(部会員8人、栽培面積約3ha)においては、普及指導員の指導を受けて、同害虫の天敵であるスワルスキーカブリダニ(以下「天敵」という。)を導入した減農薬栽培の取組が進められています。天敵の導入に当たっては、防虫ネットにより害虫がハウス内に侵入するのを防ぎ、天敵を放

ほう飼しする

前に、天敵に影響の少ない農薬を散布して害虫の密度を抑制しておくこと、天敵が増殖・活動しやすい15℃以上の環境を保つことが重要となっています。その上で、天敵の利用と合わせ、害虫の発生状況に応じて天敵に影響の少ない農薬を用いて計画的に防除を行った結果、天敵の導入前に比べて、殺虫剤の使用量を4割程度、農薬散布回数を2割以上減らすことができました。同部会では、引き続き天敵を中心とした防除を実践し、安全・安心な大長なすの生産に取り組んでいきたいと考えています。

鹿児島県

宮崎県

大分県

熊本県熊本市

大長なすの栽培風景

(エコファーマーの認定件数は着実に増加)

エコファーマーとは、「持続性の高い農業生産方式の導入の促進に関する法律」に基づき、環境と調和のとれた農業生産の確保を図り、農業の健全な発展に寄与することを目的として、土づくりと化学肥料、化学合成農薬の使用低減に一体的に取り組む計画を策定し、都道府県知事から認定を受けた農業者の愛称です。エコファーマーに対しては、環境保全に効果の高い営農活動に取り組んだ場合に支援される環境保全型農業直接支援対策1等の支援措置が講じられています。エコファーマーの認定件数は、平成24(2012)年3月末時点で21万6千件となっており、伸び率は

鈍化しているものの、増加しています(図3-8-2)。平成24(2012)年の認定件数を地域別にみると、前年に比べて東北では3,600件減少しましたが、北陸では7,800件(うち福井県が7,400件)増加しており、全体の増加に大きく寄与しています。

1 環境保全型農業直接支援対策については第4章第2節「農業・農村の持つ多面的機能の発揮」を参照。

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第1部

第3章

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図3-8-2 エコファーマー認定件数の推移(地域別)

資料:農林水産省作成注:各年3月末の数値。

0.1 11 92262

478

757

989

1,270

1,6701,863

1,9642,116 2,163

0

500

1,000

1,500

2,000

2,500

平成12年(2000)

13(2001)

14(2002)

15(2003)

16(2004)

17(2005)

18(2006)

19(2007)

20(2008)

21(2009)

22(2010)

23(2011)

24(2012)

百件

北海道

東北

関東・東山

北陸

東海近畿中国

九州沖縄

四国

(有機JAS認定ほ場は増加傾向)

環境保全型農業の一環として、有機農業の取組を推進していくことも必要です。有機農業とは、化学肥料や農薬を使用しないこと、遺伝子組換え技術を利用しないことを基本として、環境への負荷をできる限り低減した方法で行う農業です。有機農業のうちJAS法1に基づく生産方法の基準を満たしているものについては、有機農産物のJAS規格認定を受けることができます。有機JAS認定を受けることにより、自ら生産・製造した食品に有機JASマークを貼付して市場に供給することができます。有機農業の取組状況をみると、有機JASの認定を受けたほ場面積は、平成24(2012)年において田3千ha、畑6千haで耕地面積全体の0.2%となっていますが、国内全体の耕地面積が減少する中、増加傾向で推移しています(表3-8-1)。また、平成23(2011)年度の有機農産物のJAS格付数量は、5万8千tとなっており、品目別では野菜が4万t(69%)と最も多く、次いで米が1万t(17%)、果実が2千t(4%)の順となっています。農林水産省では、有機農業の更なる普及を図るため、有機農業への参入促進、栽培技術の体系化、有機農産物の理解促進等、地域段階だけでは対応が困難な取組や有機農業に取り組む産地の収益力を向上させるための取組に対して支援を行っています。

表3-8-1 有機JAS認定ほ場の面積の推移(単位:ha、%)

合計 田 畑

その他国内の耕地面積(千ha)

日本国内に占める

有機ほ場の面積の割合

普通畑 樹園地 牧草地

平成21(2009)年 8,506 2,902 5,596 4,235 999 362 9 4,628 0.1822(2010) 9,084 2,998 6,076 4,396 1,196 483 10 4,609 0.2023(2011) 9,401 3,214 6,169 4,627 1,127 416 17 4,593 0.2024(2012) 9,495 3,148 6,331 4,745 1,076 510 16 4,561 0.21

資料:農林水産省「耕地及び作付面積統計」、農林水産省調べ注:有機JAS認定ほ場面積は各年4月1日、国内の耕地面積は前年7月15日現在の値。「その他」はきのこ栽培における採取場等。

1 正式名称は「農林物資の規格化及び品質表示の適正化に関する法律」

264

第8節 環境保全を重視した農業生産の推進

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(農薬・化学肥料の使用量は減少傾向)

こうした環境保全型農業の取組の成果は、農薬・化学肥料の使用実績にも現れています。平成22(2010)年における化学肥料(窒素肥料)の利用状況について、10a当たりの需要量をみると、平成2(1990)年の12.0kgに比べて2.7kg減少し、9.3kgになっています。また、平成23(2011)年における10a当たりの農薬の出荷量は、平成2(1990)年の9.5kgに比べて4.0kg減少し、5.6kgになっており、化学肥料の需要量と農薬の出荷量は、それぞれ減少傾向で推移しています(図3-8-3)。

図3-8-3 単位面積当たりの化学肥料需要量、農薬出荷量の推移

9.5

5.6

12.0

9.3

45678910111213

平成2年(1990)

7(1995)

12(2000)

17(2005)

23(2011)

kg/10a

単位面積当たり農薬出荷量

単位面積当たり化学肥料(窒素肥料)需要量

資料:農林水産省「耕地及び作付面積統計」、農林統計協会「ポケット肥料要覧」、(財)日本植物防疫協会「農薬要覧」を基に農林水産省で作成注:農薬出荷量は農薬年度(前年10月~当該年9月)、窒素肥料需要量は肥料年度(当該年7月~翌年6月)。単位面積当たり化学肥料(窒素

肥料)需要量は、前年度の肥料需要量/当年度の作付延べ面積の3か年移動平均。

事 例

自家採種を通じた有機農業の取組

千葉県佐さ倉くら市しで農業を営む林

はやし重しげ孝のりさん(58歳)

は、自家採種を通じた有機農業に取り組む野菜農家です。林さんは、昭和52(1977)年、22歳のときに親の後を継いで農業を始めましたが、埼玉県小

お川がわ町まちの金

かね子こ美よし登のりさんの農場で1年間の有機

農業の研修を経た後、昭和55(1980)年から本格的に野菜づくりを始めました。当初は、害虫等の被害により収穫は惨

さん憺たんたる状況でしたが、4年から5年経つうちに虫を食べる天敵(テントウムシ

やカマキリ)が戻ってくるなど、農薬や化学肥料がなくても野菜が生産できることを実感しました。自家採種に取り組むようになったのは、市販の野菜種子が化学肥料や農薬の使用を前提に品種改良されており、有機農業には適さないのではないかと考えたことによります。自家採種において交雑を防ぐための人工交配や選抜を重ねるうちに、これらの野菜は土が肥え過ぎず、やせ気味の土のほうがおいしく育つことも分かってきました。また、市販の種子は、野菜の大きさや形が流通に適すること、色の鮮やかさを求める消費者ニーズ等に沿って品種改良されますが、林さんは食べておいしい野菜を作ることを目標として、交雑を防ぐための人工交配や選抜に取り組んできました。現在、林さんの野菜の栽培面積は1.8haで、年間80品目、150品種の野菜を生産していますが、このうち自家採種の野菜は60品種であり、野菜の栽培面積の3分の2を占めています。また、収穫した野菜や加工品を地元の消費者(約100世帯)に軽トラックで配送しています。林さんは新規就農者への研修にも熱心で、現在4人の若者を研修生として受け入れています。これま

で林さんが受け入れた研修生は数十人ですが、それぞれ地元の農業に取り組んでいます。2か月に1度行われる農園見学会には、消費者や農業を志す若者が訪れ、熱心に林さんの話に聞き入っています。

神奈川県

東京都

千葉県

埼玉県茨城県佐倉市

自家採種した種

265

第1部

第3章

Page 54: 第 (8)なたね 1 部 - maff.go.jp(2012) 全国計 2,420 925 593 607 1,690 1,700 1,610 北海道 - - - - 425 502 407 東北 481 276 317 353 557 465 533 九州 1,800

なお、化学肥料と農薬の使用量を諸外国と比較すると、化学肥料については、日本の使用量は259kg/haと諸外国と比べて大きな差はありません。一方、農薬については、農薬使用量の計算方法や農薬の定義が国によって異なるため単純な比較はできませんが、我が国の農薬使用量は欧州各国に比べて多くなっています(図3-8-4)。この背景には、温暖多雨で、病害虫・雑草の発生が多く、農薬を使用しない場合の減収や品質低下が大きいといった実情があります。

図3-8-4 単位面積当たりの化学肥料、農薬使用量の国際比較

259

426

261

207158

218

138

0

100

200

300

400

500

日本 韓国 オランダ 英国 ドイツ ノルウェー フランス 日本 韓国 オランダ 英国 ドイツ ノルウェー フランス

kg/ha(窒素・リン酸・カリウム計)(化学肥料)

11.612.7

5.5

1.5 1.90.7

2.4

0

2

4

6

8

10

12

14kg/ha

(農薬)

資料:FAO「Statistical Yearbook 2010」、OECD「OECD Environmental Performance Reviews JAPAN 2010」を基に農林水産省で作成注:肥料は平成20(2008)年、農薬は平成18(2006)年の値。

(2)農業分野における地球温暖化対策の推進

(農業分野における温室効果ガス排出削減は着実に進展)

我が国は、京都議定書1の第一約束期間(平成20(2008)~24(2012)年)において、同議定書の規定による基準年2に比べて温室効果ガスの6%削減が求められています。平成23(2011)年度における温室効果ガスの排出量をみると、我が国全体では13億800万t-CO2となり、基準年の12億6,100万t-CO2に比べて3.7%増加しました(図3-8-5)。このうち、農林水産業(燃料の燃焼、家畜排せつ物の管理、肥料の施用等)の排出量は3,596万t-CO2となっており、基準年の5,425万t-CO2に比べて34%減少しました。長期的な推移をみても、農林水産業における温室効果ガスの排出量は減少傾向にあります。農林水産業からのCO2排出量は、平成2(1990)年度の2,201万t-CO2から、平成23(2011)年度の1,056万t-CO2まで半減しています。また、メタン(CH4)、一酸化二窒素(N2O)排出量は、それぞれ平成2(1990)年度の1,768万t-CO2、1,341万t-CO2から、平成23(2011)年度の1,418万t-CO2、1,122万t-CO2まで20%、16%減少しています。我が国全体の総排出量における農林水産業からの排出量の割合は3%と大きくはありませんが、農業は地球温暖化による影響を大きく受ける分野であることを踏まえ、引き続き温暖化対策に取り組んでいくことが必要です。

1[用語の解説]を参照。2 平成2(1990)年度。ただし、ハイドロフルオロカーボン類(HFCs)、パーフルオロカーボン類(PFC)、六ふっ化硫黄(SF6)については平成7(1995)年。

266

第8節 環境保全を重視した農業生産の推進

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図3-8-5 温室効果ガス総排出量の内訳と農林水産業における排出量の推移

11

14

1113

22

18

10

12

14

16

18

20

22

24

平成2年度(1990)

12(2000)

7(1995)

17(2005)

23(2011)

農林水産業からのCO2

農林水産業からのN2O

百万t-CO2

平成23(2011)年度総排出量

13億800万t-CO2(農林水産業の割合

約2.7%)

産業部門のCO2

農業で発生するCH41,418万t-CO2(1.1%)

非エネルギー転換部門のCO2

エネルギー転換部門のCO2

運輸部門のCO2

業務その他部門のCO2

家庭部門のCO2

食品製造業で発生するCO21,709万t-CO2(1.3%)

農業以外のCH4

農業以外のN2O

その他ガス

農業で発生するN2O1,122万t-CO2(0.9%)

農林水産業で発生するCO21,056万t-CO2(0.8%)

資料:(独)国立環境研究所温室効果ガスインベントリオフィスのデータを基に農林水産省で作成

農林水産業からのCH4

(COP18において新たな国際枠組みの構築に向けて議論)

平成24(2012)年11月26日から12月8日にかけて、ドーハ(カタール)において、気候変動枠組条約第18回締約国会議(COP18)が開催され、京都議定書の第二約束期間の設定、平成32(2020)年の発効を目指す気候変動問題に関する新たな国際枠組みの構築に向けた交渉の段取り等について議論が行われました。京都議定書については、第二約束期間を平成25(2013)年から平成32(2020)年までの8年間と

することや、同期間の参加国の排出抑制及び削減に関する約束を内容とする文書が採択され、同期間に参加しないという我が国の立場についても反映されました。また、先進国における森林・農地等吸収源の算定・報告については、第二約束期間に参加しない国を含め、平成23(2011)年の京都議定書締約国会合(CMP)1で定められたルールに従って行うことが決定しました。COP18における議論の結果、平成32(2020)年以降の新しい法的枠組みに関する平成27(2015)年までの合意に向けて、交渉の段取りに合意することができました。さらに、途上国における森林減少・劣化に由来する排出の削減等(REDD+)については、技術指針や資金の在り方が議論され、平成25(2013)年にワルシャワ(ポーランド)で開催されるCOP19に向けて、更なる検討が行われることとなりました。このほか、気候変動と農業に関して、科学的、技術的な観点から国際的な情報共有等を行うことについて参加国間で意見が一致しましたが、合意文書の採択には至りませんでした。

(農業分野における温室効果ガスの排出削減に向けた取組)

農林水産省では、政府の温室効果ガス排出削減目標の達成に向けて、農業分野における地球温暖化対策を推進しています。農業機械では、平成19(2007)年に策定した「農業機械の省エネ利用マニュアル」を活用し、省エ

ネ効果を高める取組の具体例を毎年更新して温室効果ガスの排出削減効果の高い農業機械の普及を推進しています。また、施設園芸では、省エネチェックシートの普及、木質バイオマス利用加温設備・ヒートポンプ等の施設園芸省エネ設備の導入支援に取り組んでいます。これらの取組により、省エネ効果の高い農業機械や施設園芸省エネ設備の導入数は着実に増加してお

1 京都議定書に基づき平成17(2005)年から毎年開催されている年次会合。

267

第1部

第3章

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り、平成23(2011)年度における農業機械・施設園芸の温室効果ガス累積排出削減量は、36万t-CO2となっています(図3-8-6)。また、稲作の営農活動に伴い水田から発生するメタン(CH4)は、水田の有機物管理の方法を稲わらのすき込みから堆肥の施用に転換することにより、発生量を抑制することができます。施肥に伴い発生する一酸化二窒素(N2O)についても、施肥量を低減することにより、排出量を抑制することができます。このような環境保全型農業の取組の推進により、平成22(2010)年度における温室効果ガス排出削減量は、38万t-CO21となっています。

図3-8-6 施設園芸・農業機械の温室効果ガス排出削減対策による効果

資料:農林水産省作成注:数値は、平成18(2006)年度以降の累積値。

4.18.7

18.9

27.131.9

36.0

0510152025303540

平成18年度(2006)

20(2008)

19(2007)

21(2009)

19(2007)

21(2009)

22(2010)

23(2011)

平成18年度(2006)

20(2008)

22(2010)

23(2011)

平成18年度(2006)

20(2008)

22(2010)

23(2011)

平成18年度(2006)

20(2008)

22(2010)

23(2011)

万t-CO2(施設園芸・農業機械の排出削減量の実績)

1.02.1

3.75.2

6.06.9

0

2

4

6

8万か所

(施設園芸省エネ設備の導入実績)

2.04.3

6.58.7

10.912.6

02468101214万台

(省エネ農業機械の導入実績)

0.91.7

2.83.5

4.1 4.5

0

1

2

3

4

5万台

(施設園芸省エネ機器の導入実績)

19(2007)

21(2009)

19(2007)

21(2009)

(温室効果ガスの排出削減の取組推進のためのクレジット制度)

農林水産業分野における温室効果ガスの排出削減・吸収を促すため、国内クレジット制度2やオフセット・クレジット(J-VER3)制度4の活用が進んでいます。国内クレジット制度においては、平成24(2012)年度までに約65万t-CO2のクレジットが認証さ

れ、J-VER制度においては、平成24(2012)年度までに約36万t-CO2のクレジットが認証されています。このうち国内クレジット制度については、農林水産業関係者からの計画申請件数は194件で全体の約12%であり、クレジット認証量は約15万t-CO2と全体の約24%となっています5。農林水産関

1 第16回食料・農業・農村政策審議会企画部会地球環境小委員会、林政審議会施策部会地球環境小委員会、水産政策審議会企画部会地球環境小委員会合同会議(平成25(2013)年3月12日)資料。

2 大企業等による技術や資金提供を通じて、中小企業や農林水産業者等が行った温室効果ガス排出削減量をクレジットとして第三者認証機関が認証し、大企業が削減目標の達成のために活用する制度。

3 J-VERは、Japan-Verifiedemissionreductionの略。4 カーボンオフセット(自らの温室効果ガス排出量を他の場所の温室効果ガス排出削減量(クレジット等)で埋め合わせて相殺すること)の仕組みを活用して、国内における温室効果ガス排出削減・吸収を促進するため、国内で実施されるプロジェクトによる温室効果ガス排出削減・吸収量をオフセット用クレジット(J-VER)として第三者認証機関が認証する制度。

5 第29回国内クレジット認証委員会(平成25(2013)年2月8日)。

268

第8節 環境保全を重視した農業生産の推進

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係の排出削減事業については、施設園芸におけるヒートポンプの導入、製材工場における木質バイオマスボイラーの導入が多くなっています。国内クレジット制度、J-VER制度共に、京都議定書第一約束期間の最終年である平成24(2012)年

度をもって終了することとなっていることから、平成24(2012)年4月から平成25(2013)年度以降のクレジット制度の在り方に関する検討を開始し、8月に「新クレジット制度の在り方について(取りまとめ)」を公表しました。この取りまとめでは、平成25(2013)年度以降もクレジット制度を継続すること、クレジット制度の継続に当たっては両制度を統合すべきことを提言するとともに、統合に当たって検討すべき諸論点について方向性が示されました。新制度の理念は、①多様な主体が参加できる制度とすること、②環境の観点からみて信頼が得られるものとするとともに、使いやすく適用範囲の広い利便性のある制度とすること、③地域資源の活用による温室効果ガス削減に向けた地域の取組やクレジットの地産地消を後押しし、地域活性化につながるような制度とすること、④国際的にも評価される取組とすることとされました。この理念を踏まえ、農林水産省、経済産業省、環境省において新たなクレジット制度の具体的検討を

行うとともに、平成25(2013)年3月に「新しいクレジット制度準備委員会」を設置し、制度文書、方法論等について専門的知見からの意見聴取等を行い、平成25(2013)年度から、J-クレジット制度1

として開始することとしています(図3-8-7)。

図3-8-7 新たなクレジット制度(J-クレジット制度)の概要

クレジット制度

国内クレジット オフセット・クレジット(J-VER制度)

新クレジット制度の在り方についての概要(有識者等による検討会の取りまとめ)

・平成25年度以降もクレジット制度を継続することが必要・国内クレジット制度とJ-VER制度を統合すべき

新クレジット制度の理念

買い手にアピールできるクレジット

クレジットを活用した農山漁村の振興

地域資源を有効に活用したクレジットは、環境貢献だけでなく地域振興の面からも人気が高い(例)・ホタルの源流を守る森林整備

・東日本大震災の被災地における震災復興プロジェクト(間伐によるクレジット収益の一部を震災復興に寄付)

農林水産分野での温室効果ガス削減等を推進するとともに、クレジットの活用により農山漁村地域の振興に貢献

(事例)じゅんさい栽培の水源と里山を守るプロジェクト

資金拠出

<事業者>

<購入者>じゅんさいツアー

クレジット

・森を守ることで清らかな水が守られ、じゅんさいを生産・クレジット購入者に「じゅんさい摘み取り」等の体験ツアーを企画

・多様な主体が参加できる制度とする・使いやすく適用範囲の広い利便性のある制度とする

・地域資源の活用による温室効果ガス削減に向けた地域の取組やクレジットの地産地消を後押しし、地域活性化につながるような制度とする

・国際的に評価され、参考となる制度とする

・中小企業、農林水産業等の低炭素投資を促進し、温室効果ガスの排出削減を推進するための制度として、平成20年に開始

・カーボンオフセットの取組により、国内における排出削減・吸収を一層推進するための制度として平成20年に開始

資料:農林水産省作成

(「CO2の見える化」を通じた農業者、消費者の意識の向上)

温室効果ガスの排出量の削減に向けては、排出量の削減効果を表示する「CO2の見える化」の取組により、農業者、消費者のCO2削減への意識を高めることも必要です。「CO2の見える化」に取り組むことにより、農業者はCO2排出量の多い工程や非効率な工程を把握し、排出量の効率的な削減や経営効率の向上が可能になるほか、取引先や消費者に対してCO2排出量の削減努力をアピールすることができます。一方、取引先や消費者は、CO2排出削減努力を評価して商品を購入することが可能になります。

1 J-クレジット制度のJはJapanの頭文字。

269

第1部

第3章

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排出量の表示を行うカーボンフットプリントは、「商品種別算定基準(PCR1)」に基づき、原料調達から生産、流通、使用・維持管理、廃棄・リサイクルの全段階で排出された温室効果ガスの排出量をCO2排出量に換算して商品に表示するものです。農林水産物においても、米、ばら、野菜、きのこ、卵等でカーボンフットプリントマークの表示をした農産物が販売されています。また、農林水産省では、農業者の排出削減意欲を高めるため、「農林水産分野における「CO2の見え

る化」ポータルサイト」を作成し、平成24(2012)年9月から公開しています。このポータルサイトでは、農業者がパソコン等を利用して農業生産で発生する温室効果ガスの排出量を簡単に計算できるようにする「農産物のCO2簡易算定ツール」について紹介しており、平成24(2012)年度には、生鮮品及び農産加工品に係る新たな品目としてミニトマト、生しいたけ等5品目を選定して温室効果ガス排出量に係る調査を行い、本ツールの利用環境の充実を図りました。このほか、地方公共団体や民間団体で独自にCO2排出量を計算し、マークを表示している事例もあ

ります。

1 PCRは、ProductCategoryRuleの略。

270

第8節 環境保全を重視した農業生産の推進

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第9節 農業を支える農業関連団体農業生産の現場において農業者の取組を支援する主な農業関連団体として、農業協同組合、農業委員

会、農業共済団体(農業共済組合、農業共済組合連合会)、土地改良区があります。これらの団体は、各種活動を通じて、農業経営の安定、生産性・品質の向上、食料の安定供給や農業

生産の増大等の役割を担っています。

(1)農業協同組合

(農協は経済事業に積極的に取り組み、農業所得の向上に寄与することが期待される)

農業協同組合(以下「農協」という。)は、農業生産力の増進及び農業者の経済的社会的地位の向上を図ることを目的として自主的に設立される農業者の相互扶助組織です。農協は、農産物の流通や生産資材の供給等を適切に行い、農業所得を向上させていくことが最大の使命であり、農村地域の発展に寄与することが期待されています。農協について近年の傾向をみると総合農協(信用事業を含む、複数の事業を行っている農協)の組合

数については、農協間の合併の進展等に伴い、年々減少していますが、組合員数は着実に増加を続けており、平成23(2011)年度においては、前年度より14万人増加し、983万4千人となりました。内訳をみると、高齢化や後継者不足等による農家戸数の減少等により、農業者(農民又は農業を営む法人)である正組合員が減少しているものの、離農後も農協の事業を継続して利用したい者の増加等により、非農業者である准組合員が増加しているため、准組合員数が正組合員数を上回る状況になっています(表3-9-1)。組合員の生産する農産物の販売を行う販売事業については、国産農畜産物の価格低迷等により減少傾

向で推移しており、平成23(2011)年度の事業取扱高は4兆円となっています。肥料、農薬、飼料、農業機械等の供給を行う生産資材購買事業についても、肥料・農薬需要の減少等により減少傾向で推移しており、平成23(2011)年度の事業取扱高は2兆円となっています。各農協の中には、農産物の新たな価値を見いだし輸出につなげたり、企業や大学と連携して加工品を

開発し販売することにより農家の所得向上に寄与しているものも見受けられるところであり、こうした取組が全国の農協で行われることが期待されます。

表3-9-1 農業協同組合(総合農協)数等の推移(単位:組合、千人、兆円)

平成19年度(2007)

20(2008)

21(2009)

22(2010)

23(2011)

組合数 818 770 741 725 723組合員数 9,433 9,494 9,579 9,694 9,834正組合員 4,888 4,828 4,775 4,720 4,669准組合員 4,544 4,666 4,804 4,974 5,165

販売事業取扱高 4.3 4.4 4.2 4.2 4.2生産資材購買事業取扱高 2.3 2.4 2.1 2.0 2.1

資料:農林水産省「総合農協統計表」注:1)組合数は「総合農協統計表」における集計組合数。

2)事業取扱高は全総合農協の合計。

271

第1部

第3章

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(総合農協の事業のうち、農業関連事業の自立性を高める必要)

農協は、組合員の自主的な選択により営農指導事業、信用事業、共済事業等の事業を行うことができます。生産資材や生活資材を供給する購買事業や営農技術等の指導を行う指導事業は赤字で推移しており、農協全体の収支は依然として信用事業や共済事業の黒字額に依存する構造となっています(図3-9-1)。このため、例えば、信用・共済事業の利益で経済事業の赤字を補填している場合には、赤字事業の原因を明らかにした上で対策を講じることにより、赤字額を段階的に縮減すること等、農業関連事業の自立性を高めていくことが必要とされています。

事 例

農家の所得向上に向けた農協の取組例

(1)産学との連携による飲料開発と原料の高値買取り富山県氷

ひ見み市しのJA氷見市では、同組合が設立した子会

社が、転作作物のハトムギを農家から買い取り、焙煎・加工まで担い、ハトムギ茶として付加価値をつけて商品化しました。また、金

かな沢ざわ大学と共同開発(特許取得)を

行い、ハトムギエキスを主原料とした美容飲料を商品化しました。これらの取組により、ハトムギを市場価格の約2倍で農業者から買い取ることが可能となりました。

(2)みかんの総合販売戦略静岡県浜

はま松まつ市しのJAみっかびでは、規格外みかんを1次

加工(ペースト・シロップ化)し、サントリーホールディングス(株)や山

やま崎ざき製せいパン(株)の製品の原料に使って

もらうことで三みっケか日びブランドをPRしました。また、規格

外みかんを高度に加工(ペースト・シロップ化)することにより生産者手取りを確保し、単純加工(ジュース化)した場合に比べ、4~7倍程度の付加価値化に成功しました。

(3)海外ニーズに合わせた規格選別と通年輸出体制の構築北海道帯

おび広ひろ市しのJA帯広かわにしでは、

台湾、米国への長いもの輸出拡大に向けて、近隣の8農協の連携により、薬膳用等に使われる海外で好まれる太物(4L規格)の通年出荷体制を構築しました。これにより、輸出開始前14年間平均と比べ、輸出開始後12年間平均では10a当たりの農家収入が約30%向上しました。

ハトムギを使用したお茶

岐阜県

長野県

石川県

富山県

氷見市

JAみっかびのキャラクター

愛知県 静岡県

長野県

山梨県

浜松市

4L規格の長いも

北海道

帯広市

図3-9-1 農協の部門別損益(1組合当たり)

203203 224224

-214-214

213213345345

210210

-235-235

320320

-300

-200

-100

0

100

200

300

400

信用 共済 計経済事業等

百万円平成17(2005)事業年度

平成23(2011)事業年度

資料:農林水産省「総合農協統計表」を基に農林水産省で作成注:「経済事業等」には農業関連事業(購買事業等)、生活その他

事業、営農指導事業等を含む。

272

第9節 農業を支える農業関連団体

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(2)農業委員会

(市町村合併の進展により農業委員会数や委員数は減少傾向)

農業委員会は、農業者の代表として公選等により選出された農業委員による市町村の行政委員会であり、農地法等に基づく売買・貸借の許可、農地転用案件への意見具申、遊休農地の調査・指導等農地に関する事務を行っています。委員会数、委員数については、市町村合併の進展に伴い年々減少しています。職員数は専任職員が減少しているものの、兼任職員が増加しているため、ほぼ横ばいで推移しています(表3-9-2)。

(農業委員会の果たす役割が大きく変化)

平成21(2009)年の農地法改正により農業委員会の役割は大きく変化し、これまで現場で農地制度を運用してきた農業委員会の果たす役割がますます重要となっています。農業委員会の業務は、これまで農地の権利移動の許可や県知事の農地転用許可に関しての意見具申な

ど、個別申請等を前提とする受け身の業務が中心でしたが、農地法改正後、毎年1回、地域の農地利用状況の調査を行い、遊休農地1の所有者に対する指導・勧告等(38万件指導(農地法改正後から平成24(2012)年10月までの累計))を行うとともに、地域の農業者の徹底した話し合いによる「人・農地プラン」(地域の中心経営体を明確にし、そこに農地を集積していくプラン)の作成にも積極的に関与するなど、地域全体としての農地利用集積・遊休農地の解消に積極的に関与する能動的な業務が追加されています。また、ほぼ全ての農業委員会で、①総会等の審議過程を詳細に記録した議事録、②許可のポイントや

申請に必要な書類・記載マニュアル等、③農業委員会活動の目標とその達成状況を作成・公開する取組を実施するなど、農業委員会の業務や審議過程の透明化に努めています。

(3)農業共済団体

(農業共済団体は1県1組合化への合併を推進)

農業共済団体等は、農業災害補償制度2の実務を担っており、地域で共済事業を行う農業共済組合等と都道府県段階で保険事業を行う農業共済組合連合会で構成されています。平成22(2010)年からは、事務の簡素化等による業務の効率化、内部監査の充実等による執行体制の強化、農家に対する均質な内容の補償の提供等による制度の安定的な運営等により、農業共済団体の機能を的確に発揮することを目指して、1県1組合化への合併を推進しています。この結果、農業共済団体数は年々減少しており、職員数についても、業務運営の効率化により減少しています(表3-9-3)。

1[用語の解説]を参照。2 農業災害補償制度については第3章第4節「農業産出額と農業所得等の動向」を参照。

表3-9-2 農業委員会数等の推移(単位:委員会、人)

平成20年(2008)

21(2009)

22(2010)

23(2011)

委員会数 1,793 1,776 1,732 1,713委員数 37,456 36,906 36,330 36,034職員数 7,80 7,815 7,875 7,758

資料:農林水産省調べ注:各年10月1日現在の数値。

表3-9-3 農業共済団体等の組織数等の推移(単位:組織、人)

平成20年(2008)

21(2009)

22(2010)

23(2011)

24(2012)

農業共済組合連合会 43 43 42 42 41農業共済組合等 277 275 258 258 255

組合営 205 204 204 204 201市町村営 72 71 54 54 54

職員数 7,885 7,877 7,889 7,769 7,606

資料:農林水産省調べ

273

第1部

第3章

9

Page 62: 第 (8)なたね 1 部 - maff.go.jp(2012) 全国計 2,420 925 593 607 1,690 1,700 1,610 北海道 - - - - 425 502 407 東北 481 276 317 353 557 465 533 九州 1,800

(4)土地改良区

(合併の進展に伴い土地改良区数は減少)

土地改良区は、土地改良法に基づき地域の関係農業者により組織された団体で、農業用用排水施設の整備、区画整理等の土地改良事業を実施するほか、造成した土地改良施設の維持管理等を行っています。土地改良区の地区数等の推移をみる

と、組織運営の合理化や施設の管理機能の強化のための合併等により、年々減少しています(表3-9-4)。

(合併の推進により大規模土地改良区の割合が増加)

集落機能の低下や農業従事者の高齢化、農産物価格の低迷による農家所得の減少等社会経済情勢の変化により、土地改良区の中には、管理体制や財政基盤の脆

ぜい弱じゃく化に伴い、その役割や機能を十分に果た

せなくなっているものもあります。このため、土地改良区の組織運営基盤の強化が図られるよう、土地改良区の統合及び合併を推進していくことが必要となっています。このような中、面積規模別の土地改良区数割合の推移をみると、100ha未満の土地改良区は大きく減少し、1,000ha以上の土地改良区の割合が増加しており、合併の推進による効果が現れています(図3-9-2)。しかしながら、平成23(2011)年度における100ha未満の土地改良区の割合は45%となっており、依然として小規模な土地改良区が多数存立している状況です。今後は、更なる合併の推進等による組織基盤の強化、施設管理の円滑化や農地利用集積の推進、技術力の向上等による事業実施体制の強化等を通じて土地改良区の体制強化を図ることが重要です。

図3-9-2 面積規模別にみた土地改良区の地区数割合

5,000ha以上1,000 ~ 5,000ha

500 ~ 1,000ha300 ~ 500ha100 ~ 300ha

100ha未満

23(2011)

22(2010)

17(2005)

12(2000)

平成2(1990)

55(1980)

45(1970)

昭和35(1960)年度

100806040200

10.910.9

10.710.7

10.010.0

8.58.5

7.67.6

6.66.6

5.05.0

3.63.6

10.310.3

10.310.3

9.69.6

8.88.8

8.78.7

8.98.9

7.47.4

6.26.2

9.29.2

9.19.1

9.19.1

9.89.8

10.110.1

10.210.2

8.18.1

7.57.5

22.922.9

23.123.1

24.324.3

24.824.8

25.125.1

23.123.1

21.221.2

19.119.1

45.245.2

45.445.4

45.745.7

47.147.1

47.747.7

50.350.3

57.757.7

63.163.1

資料:農林水産省調べ

表3-9-4 土地改良区の地区数等の推移(単位:地区、万ha)

平成19年度(2007)

20(2008)

21(2009)

22(2010)

23(2011)

地区数 5,474 5,255 5,150 5,040 4,943延べ面積 276.6 273.4 271.4 268.2 265.9

資料:農林水産省調べ

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第9節 農業を支える農業関連団体