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-機器・試薬 32(1),200985がん細胞のかたち 第5回 知っておきたい尿路上皮癌の亜型- 今回は,本シリーズ第 3 回と第 4 回で取り上げた尿路上皮癌の micropapillary 亜型と plasmacytoid 型についてまとめてみたいと思います。亜型を知る重要性としては,亜型により予後や治療法が異な ることや通常でない組織像を呈する浸潤癌を正確に診断することが可能となることなどが挙げられま す。この両亜型は,尿細胞像から組織亜型が推定できる可能性があること,「背景に騙されるな(背景 がきれいなのに進行癌で予後不良)」という意味を含めて知っておかなければいけない亜型ですので, 両者の特徴を対比するとともに既述の 2 症例を解説して理解を深めたいと思います。 【症例提供者・解説者・査読者】 大谷 博(白十字病院),岩崎啓介(佐世保市立総合病院),小島英明(三菱化学メディエンス) 井関充及(佐世保共済病院),岸川正大(長崎病理診断科) 【臨床・組織像は?】 Micropapillary 亜型は,診断時に約 9 割以上が 筋層浸潤を伴う予後不良の亜型である。組織学 的には非浸潤部と浸潤部に分けて考えると理解 しやすい。非浸潤部は上皮内癌を伴うことが多 く(65%),紐状の filiform pattern が見られるこ ともある。浸潤部では,脈管内浸潤を思わす retraction artifact と共に細胞異型の強い腫瘍 細胞が卵巣の漿液性乳頭状腺癌に類似した微小 乳頭状増殖を示す像を特徴とする。脈管侵襲の 頻度が高い。腫瘍細胞に対する生体反応は乏し いとされている。砂粒体は見られない(1)。 Plasmacytoid 亜型は,組織学的には浮腫状の 間質に核が偏在し形質細胞に類似する異型細胞 が単独,びまん性に増殖する像を特徴とする。 表層粘膜に上皮内癌や通常型の尿路上皮癌がみ られる。予後は悪いとされているが,全身の化 学療法に奏功したとの報告もある(1)。 1 Micropapillary 亜型と Plasmacytoid 亜型の臨床と組織像 Micropapillary 亜型 Plasmacytoid 亜型 頻 度 膀胱悪性腫瘍の 0.61.5% 浸潤性尿路上皮癌の 3%未満 男女比 3 : 15 : 1 圧倒的に男性に多い 症 状 血尿,尿路感染,排尿困難 血尿,排尿困難,下腹部痛 膀胱鏡 乳頭状または非乳頭状腫瘍 硬結,非乳頭状結節状腫瘍 組織像 1 .非浸潤部:約 65%に上皮内癌(65%)を 伴う,filiform process が特徴的 2.浸潤部は卵巣の漿液性乳頭状腺癌に類似 ・脈管類似の空隙内(retraction artifact) に乳頭状集塊 ・高度核異型,生体反応に乏しい ・高頻度に脈管浸潤を伴う psammoma bodyなし 1.約半数に上皮内癌の合併 2.形質細胞様腫瘍細胞の孤在性,びまん性増生 3.細胞の形は卵円形~類円形で過染偏在核と豊富な 好酸性細胞質を持つ,核小体不明瞭 42 核細胞,相互封入像あり 5Signet ring-like cell 及び胞体内粘液は稀 免疫染色 通常の尿路上皮癌と大差なし 上皮性マーカー陽性,E-cadherin 陰性,CD138 通常陰性 予 後 悪い(診断時,約 9 割に筋層浸潤あり) 一般に進行癌で悪い 化学療法に奏功の報告もあり(Kohno T et al, 2006)

続 がん細胞のかたち -第5回 知っておきたい尿路上皮癌の亜 …uys.me/labos/gan005.pdf5.相互封入像 Cannibalism 表3 Plasmacytoid 亜型の鑑別診断

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  • -機器・試薬 32(1),2009-

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    続 がん細胞のかたち -第5回 知っておきたい尿路上皮癌の亜型-

    今回は,本シリーズ第 3 回と第 4 回で取り上げた尿路上皮癌の micropapillary 亜型と plasmacytoid 亜型についてまとめてみたいと思います。亜型を知る重要性としては,亜型により予後や治療法が異な

    ることや通常でない組織像を呈する浸潤癌を正確に診断することが可能となることなどが挙げられま

    す。この両亜型は,尿細胞像から組織亜型が推定できる可能性があること,「背景に騙されるな(背景

    がきれいなのに進行癌で予後不良)」という意味を含めて知っておかなければいけない亜型ですので,

    両者の特徴を対比するとともに既述の 2 症例を解説して理解を深めたいと思います。

    【症例提供者・解説者・査読者】

    大谷 博(白十字病院),岩崎啓介(佐世保市立総合病院),小島英明(三菱化学メディエンス)

    井関充及(佐世保共済病院),岸川正大(長崎病理診断科)

    【臨床・組織像は?】

    Micropapillary 亜型は,診断時に約 9 割以上が

    筋層浸潤を伴う予後不良の亜型である。組織学

    的には非浸潤部と浸潤部に分けて考えると理解

    しやすい。非浸潤部は上皮内癌を伴うことが多

    く(65%),紐状の filiform pattern が見られることもある。浸潤部では,脈管内浸潤を思わす

    “ retraction artifact ”と共に細胞異型の強い腫瘍

    細胞が卵巣の漿液性乳頭状腺癌に類似した微小

    乳頭状増殖を示す像を特徴とする。脈管侵襲の

    頻度が高い。腫瘍細胞に対する生体反応は乏し

    いとされている。砂粒体は見られない(表1)。

    Plasmacytoid 亜型は,組織学的には浮腫状の

    間質に核が偏在し形質細胞に類似する異型細胞

    が単独,びまん性に増殖する像を特徴とする。

    表層粘膜に上皮内癌や通常型の尿路上皮癌がみ

    られる。予後は悪いとされているが,全身の化

    学療法に奏功したとの報告もある(表1)。

    表1 Micropapillary 亜型と Plasmacytoid 亜型の臨床と組織像

    Micropapillary 亜型 Plasmacytoid 亜型

    頻 度 膀胱悪性腫瘍の 0.6~1.5% 浸潤性尿路上皮癌の 3%未満 男女比 3 : 1~5 : 1 圧倒的に男性に多い

    症 状 血尿,尿路感染,排尿困難 血尿,排尿困難,下腹部痛

    膀胱鏡 乳頭状または非乳頭状腫瘍 硬結,非乳頭状結節状腫瘍 組織像 1.非浸潤部:約 65%に上皮内癌(65%)を

    伴う,filiform process が特徴的

    2.浸潤部は卵巣の漿液性乳頭状腺癌に類似

    ・脈管類似の空隙内 (retraction artifact)

    に乳頭状集塊

    ・高度核異型,生体反応に乏しい

    ・高頻度に脈管浸潤を伴う

    ・psammoma bodyなし

    1.約半数に上皮内癌の合併

    2.形質細胞様腫瘍細胞の孤在性,びまん性増生

    3.細胞の形は卵円形~類円形で過染偏在核と豊富な

    好酸性細胞質を持つ,核小体不明瞭

    4.2 核細胞,相互封入像あり

    5.Signet ring-like cell 及び胞体内粘液は稀

    免疫染色 通常の尿路上皮癌と大差なし 上皮性マーカー陽性,E-cadherin 陰性,CD138 通常陰性

    予 後 悪い(診断時,約 9 割に筋層浸潤あり) 一般に進行癌で悪い

    化学療法に奏功の報告もあり(Kohno T et al, 2006)

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    【細胞像は?】 Micropapillary 亜型は,乳頭状浸潤癌など他の

    合併病変がない場合(純粋型)は,きれいな背景

    に細胞異型の強い腫瘍細胞が孤在性および乳頭

    状集塊や胞体の空胞形成などを伴いながら出現

    する(表2)。

    Plasmacytoid 亜型は,純粋型ではきれいな背

    景中に大型の偏在核と豊富な厚い細胞質を持つ

    異型細胞が孤在性にみられ,一部に 2 核の細胞

    や相互封入像などがみられる。表3に鑑別診断

    を挙げる。

    表2 Micropapillary 亜型と Plasmacytoid 亜型の尿細胞像

    Micropapillary 亜型 Plasmacytoid 亜型

    1.きれいな背景

    2.多数の微少乳頭状細胞集塊

    3.細胞質:著明な空胞形成

    4.核:偏在傾向,強い核異型

    5.相互封入像 Cannibalism

    1.きれいな背景

    2.大型の異型細胞が孤在性に多数出現

    3.細胞質:豊富で厚い

    4.核:大部分が形質細胞様に偏在,粗クロマチン,

    不明瞭な核小体

    5.相互封入像 Cannibalism

    表3 Plasmacytoid 亜型の鑑別診断

    1.Lymphepithelioma-like carcinoma

    2.Small cell carcinoma

    3.Metastatic signet-ring cell carcinoma

    4.Malignant melanoma

    5.Embryonal rhabdomyosarcoma

    6.Plasmacytoma

    7.Paraganglioma

    【症例解説】 Micropapillary 亜型 : 75 歳の女性。主訴は下

    腹部痛。膀胱鏡では左側壁の粗糙な隆起性病

    変を認めた(図 1)。生検標本では表層部に

    filiform pattern がみられ,一部にビランを伴い

    粘膜固有層内に micropapillary pattern を示す腫

    瘍細胞もみられた(図2)。摘出標本では膀胱粘

    膜固有層から外膜側まで空隙中に浮遊するよう

    な腫瘍細胞の微小乳頭状増殖がみられ,純粋型

    であった。部分的には胞体内空胞の形成や管腔

    形成もみられた(図3)。尿細胞診では所謂,綺

    麗な背景に乳頭状異型細胞集塊や孤在性および

    数個の微少乳頭状集塊がみられ,表層部の病変

    が反映された細胞像と考えられた。また胞体内

    空胞形成や相互封入もみられた(図4)。きれい

    な背景だが,細胞異型や空胞形成,相互封入な

    左側壁に粗糙な隆起性病変が見られる

    図1 Micropapillary 亜型の膀胱鏡所見

  • -機器・試薬 32(1),2009-

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    非浸潤部では filiform pattern が見られ,浸潤部では,micropapllary pattern が観察される

    図2 Micropapillary 亜型の組織像(生検)

    A.卵巣の漿液性腺癌に類似する B.著明な胞体内空胞形成

    C.管腔形成像 D.脈管侵襲像

    図3 Micropapillary 亜型の組織像

    ど詳細な細胞所見の読みから浸潤癌であること

    が推察される。免疫染色の結果は他の報告者と

    ほぼ同様の結果であった(図5,表4)。

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    上段 : 胞体内空胞(左:尿細胞像,右:組織像),下段 : 相互封入(左:尿細胞像,右:組織像)

    図4 Micropapillary 亜型の尿細胞像と組織像の対比

    CK7,CK20,34β E12 が腫瘍細胞に陽性

    図5 Micropapillary 亜型の免疫組織学的結果

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    表4 免疫組織学的結果(Micropapillary urothelial carcinoma)

    CK7 CK20 34β E12 EMA CEA CA-125 Johanson SL.1) 20/20* 18/20* ○ 20/20* 13/20* 7/20* Samaratunga H.2) 3+ 1+ - 3+ 1+ 1+ 3+ 3+ 1+ 3+ 3+ - Present case 3+ 3+ 3+ 3+ - -

    n/N*; 陽性例数 / 全例数, 3+: 陽性細胞 60%以上, 1+; 陽性細胞 30%以下 1): J Urol 161; 1798-1802, 1999, 2): Histopathology 45; 55-64, 2004

    右側壁に非乳頭状隆起性腫瘍が見られる

    図6 Plasmacytoid 亜型の肉眼像

    形質細胞様腫瘍細胞のびまん性増生,浸潤像

    図7 Plasmacytoid 亜型の組織像

    Plasmacytoid 亜型 : 70 歳の男性。主訴は肉眼

    的血尿と排尿困難。膀胱鏡では広範な非乳頭状

    膀胱腫瘍であった。摘出標本では右側壁に結節

    状腫瘍が見られ(図6),組織学的には表層部にび

    らんを伴い浮腫状の間質に形質細胞様異型細胞

    がびまん性に増殖していた(図7)。腫瘍細胞は

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    過染偏在核と好酸性胞体を持ち,リンパ管浸潤

    が認められた。相互封入を思わす像も表層近く

    にみられる。一部に上皮内癌がみられ,上皮内

    および微小浸潤部に plasmacytoid 亜型の細胞形

    態を認めた(図8)。細胞像では偏在過染核を持

    つ異型細胞が孤在性に多数出現し,一部に 2 核

    細胞や相互封入像が観察された(図9)。

    Plasmacytoid 亜型は CK7,CK20 が陽性となる

    上皮内癌の部分にも形質細胞様の腫瘍細胞が見られる

    図8 Plasmacytoid 亜型の組織像(上皮内癌,微小浸潤癌部分)

    上段左右 : 形質細胞様の異型性細胞が孤在性に多数出現している

    下段左 : 2 核細胞の出現(矢印) 下段右 : 相互封入像(矢印)

    図9 Plasmacytoid 亜型の尿細胞像

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    腫瘍細胞に CK7,CK20,p63 が陽性

    図10 Plasmacytoid 亜型の免疫組織学的結果

    ことが報告されているが本症例でもCK7,CK20,

    p63 が陽性であった(図10)。

    【まとめ】

    尿路上皮癌の稀な亜型であるMicropapillary亜

    型とPlasmacytoid亜型を実際の症例とともに解

    説した。当然ながら,尿中に出現する細胞は粘

    膜表層部由来なので上皮内癌や高異型度尿路上

    皮癌を合併していれば,これらの細胞像が優勢

    となり亜型の推定が困難となる。また,背景が

    きれいであっても,細胞異型度,胞体内空胞,

    相互封入など細胞所見を丁寧に読むことによっ

    て浸潤癌の可能性を考慮することができる。両

    亜型の細胞像・組織像・臨床的特徴を理解し,

    それらを臨床医と共有することによって,より

    早く,正確で適切な治療に結びつくものと思わ

    れる。

    【文献】

    1) Ylagan LR, Humphrey PA: Micropapillary variant of

    transitional cell carcinoma of the urinary bladder: a

    report of three cases with cytologic diagnosis in urine

    specimens. Acta Cytol 45: 599-604, 2001

    2) 磯崎岳夫,植草 正,平林寧子,他 : 腹腔洗浄液

    に悪性細胞を認めた膀胱原発のurothelial carcinoma,

    micropapillary variantの1例.日臨細胞誌 44 : 381

    ~384,2005

    3) Ro JY, Shen SS, Lee HI, et al: Plasmacytoid

    transitional cell carcinoma of urinary bladder. A

    clinicopathologic study of 9 cases. Am J Surg Pathol

    32: 752-757, 2008

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    Micropapillary亜型のイラスト(A. 組織像,B. 細胞像)

    Plasmacytoid亜型のイラスト