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第1章 保存活用計画策定の経緯と目的 第1節 計画策定の経緯 特別名勝一乗谷朝倉氏庭園(以下、本庭園)は特別史跡一乗谷朝倉氏遺跡(以下、本遺跡)内に所在 し、朝倉館跡庭園、湯殿跡庭園、諏訪館跡庭園、南陽寺跡庭園の 4 庭園からなる。 昭和42年(1967)に発掘調査を開始して半世紀が経過した現在も、調査・研究が積み重ねられ、「歴 史に埋もれて来た遺構をして自らを語らせる」との発想、「つくりすぎない史跡環境整備により、歴史 を訪れる人々それぞれにくみとらせる」(『朝倉氏史跡公園基本構想』昭和47年(1972))という理念 に沿って、福井県が福井県教育庁朝倉氏遺跡調査研究所(以下、研究所)(昭和 56 年(1981)から福 井県立一乗谷朝倉氏遺跡資料館(以下、資料館)へ改編)を設立して整備を実施している。具体的には、 礎石や石組み溝、石垣、庭園の石組等、石を材料としている遺構の露出展示を基本とする整備を大部分 において実施しており、それらを広く保存及び活用するため福井市が一乗谷朝倉氏遺跡管理事務所(以 下、管理事務所)を設置し管理を行っている。 福井市の貴重な文化財であるとともに観光資源でもある本庭園は、年間約 72 万人(平成 30 年福井 県観光客入込数(推計)福井県交流文化部観光誘客課)が訪れる本市の拠点の 1 つである。北陸新幹 線福井・敦賀延伸などを控え、本庭園が今後ますます注目される中、魅力をより周知するとともに、更 なる保存及び活用を図ることは極めて重要と言える。 本遺跡全体の保存及び活用については、昭和47 年(1972)に『朝倉氏史跡公園基本構想』(以下、 『基 本構想』)が策定され、この理念に基づき、昭和49年(1974)に『一乗谷朝倉氏遺跡整備基本計画』(以 下、『基本計画』)(平成24年(2012)に一部見直し)を福井県が策定し、発掘等の調査・研究及び整 備事業を進めてきた。新たな課題については、平成 23 年(2011)に福井市が事業主体となり、福井 県とともに策定した『特別史跡一乗谷朝倉氏遺跡保存管理計画策定事業報告書』(以下、 『保存管理計画』) において今後の方針を概括している。しかしながら、これまで特別名勝についての具体的な方針を示し ていなかった。 現在、当初整備から半世紀以上が経過した本庭園においては、遺構そのものの経年劣化が見られ、遺 構に対する保存処置を優先して実施する必要があり、さらには獣害に伴う復旧・修繕等も課題となって いる。 以上のことから、遺構の経年劣化への対応を始めとした保存と活用の指標を明文化するため、平成 29 年度より福井市が事業主体となり、福井県の協力のもと、本庭園を対象とした『特別名勝一乗谷朝 倉氏庭園保存活用計画』(以下、本計画)を策定する。なお、本遺跡全体の再整備等に関する『特別史 跡一乗谷朝倉氏遺跡再整備等計画』(以下、『再整備等計画』)については、本計画に記載している今後 の事業計画とも整合性を図り、福井県が令和 2 年度中に策定する予定である。 第2節 計画策定の目的 本計画はこれまでの調査と資料を整理した上で、改めて本庭園の有する本質的価値と構成要素を明確 にし、それらを適切に保存し活用するための基本方針等を定めることを目的とする。 さらに、当初の整備から半世紀が経過したことによる自然環境・社会情勢の変化や、露出展示遺構に おける経年劣化への対応も踏まえながら、現状や課題を整理するとともに、保存と活用の指標に基づい た事業計画、今後発生しうる可能性のある諸問題への対応策、体制等を策定するものとする。 -1- 第 1 章 保存活用計画策定の経緯と目的

第1章 保存活用計画策定の経緯と目的 - Fukui...第1章 保存活用計画策定の経緯と目的 第1節 計画策定の経緯 特別名勝一乗谷朝倉氏庭園(以下、本庭園)は特別史跡一乗谷朝倉氏遺跡(以下、本遺跡)内に所在

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  • 第1章 保存活用計画策定の経緯と目的第1節 計画策定の経緯 特別名勝一乗谷朝倉氏庭園(以下、本庭園)は特別史跡一乗谷朝倉氏遺跡(以下、本遺跡)内に所在

    し、朝倉館跡庭園、湯殿跡庭園、諏訪館跡庭園、南陽寺跡庭園の 4 庭園からなる。

     昭和 42 年(1967)に発掘調査を開始して半世紀が経過した現在も、調査・研究が積み重ねられ、「歴

    史に埋もれて来た遺構をして自らを語らせる」との発想、「つくりすぎない史跡環境整備により、歴史

    を訪れる人々それぞれにくみとらせる」(『朝倉氏史跡公園基本構想』昭和 47 年(1972))という理念

    に沿って、福井県が福井県教育庁朝倉氏遺跡調査研究所(以下、研究所)(昭和 56 年(1981)から福

    井県立一乗谷朝倉氏遺跡資料館(以下、資料館)へ改編)を設立して整備を実施している。具体的には、

    礎石や石組み溝、石垣、庭園の石組等、石を材料としている遺構の露出展示を基本とする整備を大部分

    において実施しており、それらを広く保存及び活用するため福井市が一乗谷朝倉氏遺跡管理事務所(以

    下、管理事務所)を設置し管理を行っている。

     福井市の貴重な文化財であるとともに観光資源でもある本庭園は、年間約 72 万人(平成 30 年福井

    県観光客入込数(推計)福井県交流文化部観光誘客課)が訪れる本市の拠点の 1 つである。北陸新幹

    線福井・敦賀延伸などを控え、本庭園が今後ますます注目される中、魅力をより周知するとともに、更

    なる保存及び活用を図ることは極めて重要と言える。

     本遺跡全体の保存及び活用については、昭和 47 年(1972)に『朝倉氏史跡公園基本構想』(以下、『基

    本構想』)が策定され、この理念に基づき、昭和 49 年(1974)に『一乗谷朝倉氏遺跡整備基本計画』(以

    下、『基本計画』)(平成 24 年(2012)に一部見直し)を福井県が策定し、発掘等の調査・研究及び整

    備事業を進めてきた。新たな課題については、平成 23 年(2011)に福井市が事業主体となり、福井

    県とともに策定した『特別史跡一乗谷朝倉氏遺跡保存管理計画策定事業報告書』(以下、『保存管理計画』)

    において今後の方針を概括している。しかしながら、これまで特別名勝についての具体的な方針を示し

    ていなかった。

     現在、当初整備から半世紀以上が経過した本庭園においては、遺構そのものの経年劣化が見られ、遺

    構に対する保存処置を優先して実施する必要があり、さらには獣害に伴う復旧・修繕等も課題となって

    いる。

     以上のことから、遺構の経年劣化への対応を始めとした保存と活用の指標を明文化するため、平成

    29 年度より福井市が事業主体となり、福井県の協力のもと、本庭園を対象とした『特別名勝一乗谷朝

    倉氏庭園保存活用計画』(以下、本計画)を策定する。なお、本遺跡全体の再整備等に関する『特別史

    跡一乗谷朝倉氏遺跡再整備等計画』(以下、『再整備等計画』)については、本計画に記載している今後

    の事業計画とも整合性を図り、福井県が令和 2 年度中に策定する予定である。

    第2節 計画策定の目的 本計画はこれまでの調査と資料を整理した上で、改めて本庭園の有する本質的価値と構成要素を明確

    にし、それらを適切に保存し活用するための基本方針等を定めることを目的とする。

     さらに、当初の整備から半世紀が経過したことによる自然環境・社会情勢の変化や、露出展示遺構に

    おける経年劣化への対応も踏まえながら、現状や課題を整理するとともに、保存と活用の指標に基づい

    た事業計画、今後発生しうる可能性のある諸問題への対応策、体制等を策定するものとする。

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    第 1章 保存活用計画策定の経緯と目的

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    第3節 計画の対象地第 1 項 位置 本遺跡及び本庭園が所在する福井市は、福井県の北部、旧越前国中央部に位置し、西部及び東部の

    山地とそれ以外の大部分を占める平野から構成されている。西部は国見岳などが連なる丹生山地等を

    経て日本海に臨み、東部は勝山・大野市など越前中央山地に連なっている。中央部は日野・足羽の両

    川を含む九頭竜川水系の諸河川の土砂堆積により形成された福井平野が占め、交通の幹線や生活の中

    心であるほか、県下有数の穀倉地帯でもある。福井市の総面積は 536.41k㎡で、地目別面積では約 5

    割を山林が、約 3 割を田畑が占めている。

     本遺跡及び本庭園が所在する一乗谷は、福井市中心部から南東約 10km に位置している。一乗谷は、

    越前中央山地を穿入蛇行して西に向かって流れる足羽川へ合流する一乗谷川の流末に位置する谷地で

    ある。谷の奥行きは約 5km である。

    [図 1-1] 福井市位置図(国土地理院地図に一部加筆)

    [図 1-2] 福井市の地勢(国土地理院)(福井市教育委員会『特別史跡一乗谷朝倉氏遺跡保存管理計画策定事業報告書(改訂版)』平成 23 年)

    0 10km

    高浜町

    おおい町

    小浜市

    若狭町

    美浜町

    敦賀市

    南越前町

    越前市

    越前町

    池田町

    鯖江市

    福井市

    大野市

    坂井市

    あわら市

    勝山市永平寺町

    京都府

    日本海

    滋賀県

    岐阜県

    石川県

    特別史跡一乗谷朝倉氏遺跡特別名勝一乗谷朝倉氏庭園

    越前中央山地

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    第 1章 保存活用計画策定の経緯と目的

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    5+2

    5.5

    +26.

    0+2

    6.0

    +26.

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    6.5

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    8.0

    -1.1 -1.1

    -0.6 -0.6

    -0.1 -0.1

    +0.4 +0.4

    +0.9 +0.9

    +1.4 +1.4

    +1.9 +1.9

    15.8

    1 2 . 3

    2 5 . 7 5

    3 5 . 6

    4 2 . 3

    2 5 . 6 2

    3 7 . 2

    ダム

    砂防ダム

    被覆

    主曲

    計曲

    (土

    おう地

    )土がけ

    補助曲線

    岩がけ(岩)

    水がい線

    せき

    一条河川

    図 化 測 定 機

    かれ川

    標 高 点標石のない

    電子基準点

    公共基準点(水準点)

    公共基準点のある図根点多角点及び標石

    (三角点)

    水 準 点

    三 角 点

    町(丁)界大 字 ・指定都市の区界町 ・ 村 界特 別 区 界郡 ・ 市 ・

    都・府・県界

    耕 地 界

    区 域 界

    鉄 道 橋

    跨 線 橋

    普 通 鉄 道

    被 覆

    土 堤

    人 工 斜 面

    道 路 橋

    真 幅 道 路

    普 通 無 壁 舎

    堅ろう無壁舎

    堅ろう建物

    普 通 建 物

    植 生 界

    指 定 境 界特 別 史 跡による標高点

    座 標 系 第Ⅵ系等高線間隔 5m

    福井県

    行政区画

    特別史跡一乗谷朝倉氏遺跡

    本図は福井市共用空間データならびに福井県砂防基盤図より編集を行ったものである。

    0 100 200 300 400m

    1001

    1002 1003

    10041005

    1006

    南 山 町

    普 門 寺大 森 神 社

    77.6

    64.8

    25.5

    272.3

    207.3

    49.7

    147.7

    27.2

    22.4

    29.3

    24.721.5

    21.4

    20.7

    21.7

    20.5

    21.6

    21.6

    29.7

    50

    75

    250

    100

    100

    275

    225

    200

    175

    150

    125

    100

    25

    75

    150

    50

    176.1

    141.2

    福 井 市

    安 波 賀 中 島 町

    安 波 賀 町

    脇 三 ヶ 町

    国道

    15

    8号

    宿 布 大 橋

    下 城 戸 橋

    三 万 谷 ト ン ネ ル

    宿 布 ト ン ネ ル

    春 日 神 社

    足羽学園

    明 照 寺春 日 神 社

    滝 殿 社

    八 幡 神 社一 乗 谷 史 跡

    公 園 セ ン タ ー

    浄 覚 寺

    少 年 自 然 の 家

    脇 三 ヶ 町 公 民 館 足 羽 川

    西 山 光 照 寺 跡

    朝 倉 景 鏡 館 跡

    225

    75

    50

    48.9

    41 5

    31.9

    41.1

    44.2

    41.6

    41.2

    32.1

    46.136.7

    33.0

    32.3

    31.3

    30.2

    30.1

    30.8

    31.7

    30.430.1

    30.3

    34.0

    275.6

    243.7

    248.6

    325.6 258.4

    273.8

    288.6

    314.8

    259.2

    108.1

    32.9

    33.2

    36.4

    32.4

    36.1

    38.1

    38.836.142.9

    37.9

    181.3

    38.6

    39.4

    40.3

    43.0

    42.1

    92.9

    42.8

    45.6

    42.0

    43.9

    45.8

    45.1

    45.3

    47.2

    43.8

    45.8

    52.9

    47.4

    56.5

    46.8

    65.3

    47.6

    48.5

    49.0

    62.3

    63.5

    40.423.6

    33.3

    22.2

    241.3

    68.9

    199.7

    ( 岩 )

    75

    100

    125

    10012

    5

    75 50

    225

    150

    225

    220

    250

    100

    125

    150

    175

    200

    225

    250

    275

    300

    50

    325

    350

    375

    400

    100

    75

    50

    125

    150

    250

    69.9

    脇 三 ヶ 町

    宿 布 町

    一 乗 谷 駅

    一 乗 谷 朝 倉 氏 遺 跡 資 料 館

    22.5

    23.6

    23.6

    29.3

    24.324.2

    113.3

    29.629.3

    29.329.0

    28.9

    28.6

    55.5

    113.1

    28.3

    28.9

    29.7

    27.9

    30.4

    35.5

    32.4

    61.5136.5

    31.4

    106.3

    38.8

    33.2

    140.2

    107.3

    33.6

    39.2

    50

    75

    100

    50

    30

    50

    75 100

    125

    150

    100

    50

    75

    100

    75

    ( 土 )

    ( 岩 )

    50

    125

    100

    7550

    三 万 谷 町

    西 新 町

    城 戸 ノ 内 町

    上城

    戸橋

    神 明 神 社

    神 明 神 社

    西 新 町集 落 セ ン タ ー

    一 乗 ふ る さ と 交 流 館

    一 乗 小 学 校

    諏訪館跡

    朝倉館跡

    75.6

    75.4

    73.3

    79.4 83.1

    135.3

    152.1

    174.7

    237.7

    244.2

    277.0

    330.1

    334.2

    362.8

    69.1

    66.1

    66.9

    76.0

    84.6

    73.7

    61.8

    62.5

    225.9

    55.9

    59.7

    282.2

    52.6

    51.850.6

    87.9

    294.2

    314.8 365.0

    435.8

    382.5

    415.1

    427.0

    417.9

    390.6

    435.6

    306.3

    100

    150

    200

    225

    250

    200

    225

    275

    325

    350

    400

    450

    75

    100

    125

    125

    150

    225

    200

    75

    100

    300

    250

    275

    325

    350

    350

    400

    375

    425

    450

    400

    425

    350

    325

    150

    75

    375

    425

    375

    350300

    175

    275

    125

    床 固

    床 固床 固

    床 

    床 

    床 

    床 

    床 

    鹿 俣 町

    盛 源 寺

    93.9

    118.3

    89.6

    105.9

    105.8

    89.8

    97.0

    79.7

    125.1

    82.7

    156.7

    137.2

    79.3

    80.0

    77.7

    73.4

    76.8

    72.8

    155.1

    262.2

    204.6

    166.7

    297.0

    274.2

    284.6

    72.1

    71.4

    69.9

    150

    125

    100

    100

    100

    100

    75

    175

    西 新 町 調 整 池200

    125

    150

    床固

    21.521.0

    200

    175

    150175

    175

    200

    225

    250

    175

    225

    250

    275

    175

    200

    225

    250

    三の丸跡

    二の丸跡

    一の丸跡月見櫓跡

    宿直跡

    不動清水観音屋敷跡

    赤渕神社跡

    千畳敷跡

    櫓跡

    小見放城

    地蔵尊

    小城

    馬出

    南陽寺跡

    朝倉敏景墓

    中の御殿跡

    藤兵衛川原

    櫓跡

    上城戸跡

    御所跡

    安養寺跡

    櫓跡

    川合殿

    月見櫓跡

    赤渕神社跡

    道福谷

    下城戸跡

    古墳

    古墳

    古墳

    御葺山古墳群

    東 新 町

    八地谷

    一 乗 ふ れ あ い 会 館

    復原武家屋敷

    町並立体復原地区 朝倉義景墓

    湯殿跡

    福 井 県 立

    平成23年測量

    250

    240

    1.平成20年11月撮影2.

    記 号

    作業機関計画機関 福 井 市

    中央測量設計株式会社

    第2項 対象範囲  本計画の対象範囲は、本遺跡内に位置する本庭園(朝倉館跡庭園及び湯殿跡庭園:指定面積

    11,949㎡、諏訪館跡庭園:指定面積 2,448㎡、南陽寺跡庭園:指定面積 1,152㎡)の指定範囲

    15,549㎡とする。ただし、本庭園を取り巻く環境についても一体的に保存する必要があることから、

    本遺跡内や周辺地域を含め検討を行う。

     所在地:福井県福井市城戸ノ内町

    [図 1-3] 対象範囲位置図(「福井市都市計画図(平成 23 年度測量)」に一部加筆)

    特別名勝指定範囲特別史跡指定範囲

    0 10km

    高浜町

    おおい町

    小浜市

    若狭町

    美浜町

    敦賀市

    南越前町

    越前市

    越前町

    池田町

    鯖江市

    福井市

    大野市

    坂井市

    あわら市

    勝山市永平寺町

    京都府

    日本海

    滋賀県

    岐阜県

    石川県

    - 3 -

    第 1章 保存活用計画策定の経緯と目的

  • 第 4 節 関連計画本計画に関連する計画は、福井県又は福井市が策定した本遺跡に関する計画が 5 種類あり、さらに

    福井市が策定した市域全体に関する計画が 7 種類ある。次にその概要をまとめる。

    昭和 46 年(1971)に足羽町が福井市に合併するとともに、約 278ha の広い範囲が特別史跡に格上

    げ指定されることとなり、福井県及び福井市は本遺跡を史跡公園として保存、活用する基本方針を定め、

    翌 47 年(1972)3 月に『基本構想』を策定し、事業の基本的な理念を示した。

    さらに『基本構想』に基づく事業遂行の指導体制の万全を期すため、同年 3 月に「特別史跡一乗谷

    朝倉氏遺跡調査研究協議会」(以下、研究協議会。現・福井県朝倉氏遺跡研究協議会)を発足した。研

    究協議会の指導の下、福井県は同年 4 月に研究所を設立してこの事業に当たらせることとし、昭和 49

    年(1974)に研究所は『基本計画』 を策定した(昭和 61 年(1986)、平成 24 年(2012)に一部見直し)。

    一方、本遺跡の管理者である福井市は、昭和 48 年(1973)に管理事務所を設置し、平成 6 年(1994)

    には指定地の保存管理方法や、史跡公園の利用計画等をまとめた『保存管理計画』を策定した(平成

    23 年(2011)に一部見直し)。

    さらに、平成 27 年(2015)に『保存管理計画』を受けて、福井市が『特別史跡一乗谷朝倉氏遺跡植生・

    植栽管理計画』を策定した。また、北陸新幹線福井・敦賀開業にあわせた新博物館開館に向けては、福

    井県が平成 28 年(2016)に『一乗谷朝倉氏遺跡博物館(仮称)整備基本計画』を策定した。

    [図 1-4] 対象範囲詳細位置図(S=1:4,000)(「福井市基本図(平成 4 年)」に一部加筆)

    特別名勝 一乗谷朝倉氏庭園 範囲

    南陽寺跡庭園

    朝倉館跡庭園 湯殿跡庭園

    諏訪館跡庭園

    11,949㎡

    1,152㎡

    2,448㎡

    S=1/4,000

    特別名勝指定範囲

    0 10km

    高浜町

    おおい町

    小浜市

    若狭町

    美浜町

    敦賀市

    南越前町

    越前市

    越前町

    池田町

    鯖江市

    福井市

    大野市

    坂井市

    あわら市

    勝山市永平寺町

    京都府

    日本海

    滋賀県

    岐阜県

    石川県

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    第 1章 保存活用計画策定の経緯と目的

  • ◦『朝倉氏史跡公園基本構想』1)(福井県・昭和 47 年(1972)策定) 整備に関する全ての計画の最上位計画に位置付けられる。

    「 「歴史に埋もれて来た遺構をして自らを語らせる」との発想、「つくりすぎない史跡環境整備により、

    歴史を訪れる人々それぞれにくみとらせる」との考慮がそれである。」と整備理念が述べられている。

    ◦『特別史跡一乗谷朝倉氏遺跡保存管理計画策定事業報告書』(福井市・平成 23 年(2011)改定)  本遺跡を対象としており、本計画と同位の計画にあたる。

      今後の方針として、調査・研究、整備、活用、景観、日常管理、運営及び体制整備をまとめたもの

    である。保存及び活用の方針に関連するものを以下に抜粋する。

      整備について

       ◦快適な遺跡環境保存

       ◦整備事業に関する調査、研究、成果の公開

       ◦関係機関との協力体制

      活用について

       ◦遺跡への理解と愛着心を促すこと

       ◦より充実した遺跡情報の提供

       ◦見学ルートやアクセス方法

       ◦関係機関・関係遺跡との協力体制

    ◦『特別史跡一乗谷朝倉氏遺跡発掘・整備基本計画』2)(福井県・平成 24 年(2012)改定) 本遺跡の発掘及び整備に関する計画であり、本計画の今後の事業計画と関連する。

     基本方針は、以下のとおりである。

    「 本計画では、史跡指定地内においては、平地部で残された課題の解明および調査成果の公開を

    優先的に行い、山地部の調査・整備へと移行する。一方、史跡指定地外においては、一乗谷に

    おける城下町の全体像を把握し、史跡指定地拡大を目指すとともに、越前国における一乗谷の

    位置づけを明らかにすることを目標とした調査を行う。以上の目標に基づき、本遺跡を平地・

    山地部が一体となった史跡公園とし、また将来にわたり長く本遺跡の価値を保全し、同時に価

    値を高めながら、情報発信し公開活用を続けていく。」

    ◦『特別史跡一乗谷朝倉氏遺跡植生・植栽管理計画』(福井市・平成 27 年(2015)策定)特別史跡指定地を対象としており、本計画の植生・植栽に関する方針と関連 する。

    基本理念は、以下のとおりである。

    ◦「歴史に埋もれてきた遺構をして自ら語らせる史跡整備」を推進する

    ◦「歴史、自然、集落、遺構が重なり合う遺跡景観」を形成し、保全する

    ◦「四季の移ろいの中で心地よく滞在できる遺跡景観」を形成し、保全する

    ◦『一乗谷朝倉氏遺跡博物館(仮称)整備基本計画』(福井県・平成 28 年(2016)策定)令和4年(2022)10月頃の開館を目指す新博物館についての計画であり、特に本計画の活用の方

    針と関連する。基本理念は、以下のとおりである。

    ◦「物」と「知」の集積を図り、わが国の中世都市遺跡研究の拠点となる

    ◦ 身近な歴史文化遺産への関心やふるさとへの愛着を醸成する

    ◦ 国内外から多くの人々が集う場を創出する

    註 2)福井県立一乗谷朝倉氏遺跡資料館刊行の『福井県立一乗谷朝倉氏遺跡資料館紀要 2011』に掲載註 1)福井県が近畿都市学会へ計画作成を依頼

    - 5 -

    第 1章 保存活用計画策定の経緯と目的

  • 福井市では、昭和 43 年(1968)の「福井市行政計画(第一次)」以来、市政運営の基本となる総合

    計画をもとに市勢発展に努めてきた。本市の最上位計画となる「第七次福井市総合計画」を平成 29 年

    (2017)3 月に策定し、「みんなが輝く 全国に誇れる ふくい」を将来都市像に掲げ、豊かな地域づ

    くりと輝く未来への挑戦を推進している。

    平成 22 年(2010)3 月には、都市づくりの総合的な指針となる「【改訂】福井市都市計画マスター

    プラン」を策定し、新たな交流・連携づくりの方針として歴史のみえるまちづくりを掲げている。すべ

    ての市民が郷土の歴史を学び、まちに対する愛着と誇りを高めるよう、このような資源を活用し、身近

    に歴史とふれあえる都市づくりを推進している。

    平成 20 年(2008)には、景観法に基づく「福井市景観計画」を策定し、平成 23 年(2011)4 月

    に一乗谷地区を特定景観計画区域に追加している。下記に内容を抜粋して記載する。

    この他、環境に関する「第三次福井市環境基本計画」を平成 28 年(2016)に策定し、「未来へつな

    ごう 環境にやさしい持続可能なまち・ふくい」を目指す環境像に掲げ、市民・市民組織・事業者・行

    政が連携して実現に向け取り組んでいる。同年に前倒しで観光に関する「福井市観光ビジョン」を見直

    して「福井市観光振興計画」を策定し「また来たくなる ふくい」を掲げ、様々な施策に取り組んでいる。

    その中でも悠久の一乗谷を “ 感じる ” プロジェクトとして本遺跡の整備や魅力向上を計画し、AR シス

    テムの運用や歴史的価値を体験できる取組みの強化を挙げている。平成 29 年(2017)には、「福井市

    教育振興基本計画」を策定し、基本方針の 1 つに「郷土の歴史や文化遺産を保存・継承し、福井の誇

    りとして活用する」を掲げ、本遺跡の管理・運営と活用についての取組を挙げている。

    防災に関しては、昭和 37 年(1962)に「福井市地域防災計画」を策定し、平成 30 年(2018)に

    11 回目の改訂を行った。一般災害における土砂災害予防計画や避難計画、情報伝達の系統図などを定

    めている。

    ◦『福井市景観計画 一乗谷地区特定景観計画区域』(福井市・平成 23 年(2011)策定)

    本遺跡を中心とした集落及びその集落から眺望することができる尾根筋によって囲まれる区域を

    対象とした、景観法に基づく景観計画をまとめたもので、きめ細やかな方針などを示し、地域の景

    観特性と調和した景観を誘導するものである。計画書に示された目標と方針を以下に抜粋する。

       景観形成の目標

       『悠久の自然と歴史、生活文化の未来への継承』   

      景観形成の方針

       ◦『一乗谷の原風景となる悠久の自然を守り・育む』

       ◦『一乗谷に広がる朝倉氏縁の歴史遺産を守り・育む』

       ◦『悠久の自然や歴史と融和した集落や文化を守り・育む』

    福井市総合計画

    整合

    福井市環境基本計画

    福井市都市計画

    マスタープラン

    福井市景観計画

    福井市観光振興計画

    福井市教育振興

     

    基本計画

    福井市地域防災計画

    [図 1-5] 福井市域全体に関連する計画の位置付け

    - 6-

    第 1章 保存活用計画策定の経緯と目的

  • 第5節 事業体制第 1 項 組織体制 本計画の策定にあたり、平成 29 年(2017)より有識者会議として「特別名勝一乗谷朝倉氏庭園保存活用計画策定委員会」(以下、策定委員会)を設置した。 本計画の執筆は、福井市と福井県が協力して行い、策定委員会での議論を踏まえ文化庁、研究協議会等の意見をもとに策定を行った。 

    【特別名勝一乗谷朝倉氏庭園保存活用計画策定委員会 構成員名簿】 ※敬称略・五十音順・〔 〕内は専門分野

    委 員 長   吉岡 泰英(元福井県立一乗谷朝倉氏遺跡資料館 館長)〔建築学〕

    委 員   尼﨑 博正(京都造形芸術大学教授)〔庭園史〕

    小野 健吉(和歌山大学教授)〔造園学〕

    小野 正敏(国立歴史民俗博物館名誉教授)〔考古学〕

    高妻 洋成(国立文化財機構奈良文化財研究所 埋蔵文化財センター長)〔保存科学〕

    オブザーバー   青木 達司(文化庁文化財第二課 文化財調査官)

    本多 達哉(福井県教育庁生涯学習・文化財課 主任)(平成 30 年 3 月まで)

    清水 孝之(福井県教育庁生涯学習・文化財課 主任)(平成 30 年4月から)

    青木 元邦(福井市教育委員会事務局 文化財保護課 主幹)

    年度 日時 審議項目 現地確認 出席者(敬称略)

    第1回 平

    成29年度

    平成 29 年 8 月 31 日・計画策定の概要について・目次構成・現地視察、現況課題整理

    庭園の現状確認

    委員 : 吉岡泰英、尼﨑博正、小野健吉、小野正敏、高妻洋成 / オブザーバー : 福井県教育庁、福井市教育委員会 / 事務局

    第2回

    平成 30 年 1 月 25 日

    ・第 1 回委員会指摘内容の整理・沿革の整理・本質的価値の検討・構成要素の検討

    委員 : 吉岡泰英、尼﨑博正、小野健吉、小野正敏、高妻洋成 / オブザーバー : 文化庁、福井県教育庁、福井市教育委員会 / 事務局

    第3回

    平成30年度

    平成 30 年 9 月 3 日

    ・第 2 回委員会指摘内容の整理・全体構成について・本質的価値、構成要素の再検討・現状及び課題について

    委員 : 吉岡泰英、尼﨑博正、小野健吉、小野正敏オブザーバー : 福井県教育庁、福井市教育委員会 / 事務局

    第4回

    平成 30 年 12 月 11

    ・第 3 回委員会指摘内容の整理・本質的価値の再検討・保存・活用について

    委員 : 吉岡泰英、尼﨑博正、小野健吉、小野正敏、高妻洋成 / オブザーバー : 福井県教育庁、福井市教育委員会 / 事務局

    第5回

    平成 31 年 3 月 18 日

    ・第 4 回委員会指摘内容の整理・本質的価値の再検討・保存と活用の方針について・現状変更等の取扱い

    委員 : 吉岡泰英、尼﨑博正、高妻洋成 / オブザーバー :福井県教育庁、福井市教育委員会 / 事務局

    第6回

    令和元年度

    令和元年 9 月 27 日

    ・第 5 回委員会指摘内容の整理・本質的価値の再検討・現状変更等の取扱い・今後の事業の推進と課題

    委員 : 吉岡泰英、尼﨑博正、小野健吉、小野正敏、高妻洋成 / オブザーバー : 文化庁、福井県教育庁、福井市教育委員会 / 事務局

    第7回

    令和 2 年 2 月 10 日・第 6 回委員会指摘内容の整理・全体構成の確認

    委員 : 吉岡泰英、尼﨑博正、小野健吉、小野正敏、高妻洋成 / オブザーバー : 福井市教育委員会 / 事務局

    [表 1-1]策定委員会経過内容

    第 2 項 策定委員会の開催経過 平成 29 年(2017)から令和 2 年(2020)までの期間において、計 7 回の策定委員会を開催し、本計画について審議を行った。

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    第 1章 保存活用計画策定の経緯と目的

  • [写真 1-4]第 3 回策定委員会

    [写真 1-5]第 4 回策定委員会 [写真 1-6]第 5 回策定委員会

    [写真 1-7]第 6 回策定委員会

    [写真 1-1]第 1 回策定委員会 [写真 1-2]第 1 回策定委員会 現地確認

    [写真 1-3]第 2 回策定委員会

    [写真 1-8]第 7 回策定委員会

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    第 1章 保存活用計画策定の経緯と目的