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47 第2部 個票データによる分析 第1章 妻の雇用形態別にみた第一子出生意欲の規定要因の分析 ~有期妻の第一子出生意欲はなぜ正規妻より低いのか~ 3 麻田千穂子 はじめに 我が国で進行する少子化の要因は、未婚化と夫婦出生力の低下であると指摘されている。 このうち夫婦出生力の低下には様々な要因がかかわっているものと考えられるが、なかで も有配偶女性の就業形態と出生力との関係は、労働市場の非正規化を背景に、政府や研究 者の関心を集めてきた。 厚生労働省第 14 回出生動向基本調査(2010 年)によれば、正規雇用の妻の予定子ども 数が 2.14 人であるのに対し、パート・アルバイトでは 2.07 人、派遣・嘱託・契約社員では 1.93 人と非正規雇用の妻では予定子ども数が低めになっている。本調査においても、現在 子ども数別に正規妻、有期妻で出生意欲を比べると、正規妻に比べ有期妻は予定子ども数、 理想子ども数、追加出生意欲ともに低くなっている。特に、現在子ども数 1 人で正規雇用 妻と有期雇用妻の追加出生意欲の差が大きい(表 1このような、正規雇用妻、有期雇用妻の平均の出生意欲の差は何に起因するのか。両者の 出生意欲を規定するものは何なのだろうか。正規雇用に就く有配偶女性と有期雇用に就く 3 本稿の作成にあたっては、個票データの分析及び執筆において、内閣府経済社会総合研 究所堀雅博上席研究官から貴重なアドバイスをいただいた。ここに記して謝意を表する。 なお、残された誤りはすべて筆者の責任である。 現在子 ども数 妻就業 形態 A 現在子ども B 予定子ど も数 C 理想子ど も数 D 追加出産 意欲 B-A E 追加出生 意欲あり の率 正規 0.00 1.20 1.75 1.20 69% 有期 0.00 0.98 1.62 0.98 61% 正規 1.00 1.83 2.24 0.83 74% 有期 1.00 1.65 2.15 0.65 58% 無職 1.00 1.76 2.18 0.76 68% 正規 2.25 2.42 2.66 0.17 17% 有期 2.29 2.36 2.57 0.08 9% 無職 2.24 2.37 2.58 0.12 13% 表1 現在子ども数、妻雇用形態別 妻の出生意欲 0人 1人 2人以上

第2部 個票データによる分析 ~有期妻の第一子出生意欲はなぜ正規妻 … · ~有期妻の第一子出生意欲はなぜ正規妻より低いのか~ 3

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第2部 個票データによる分析

第1章 妻の雇用形態別にみた第一子出生意欲の規定要因の分析

~有期妻の第一子出生意欲はなぜ正規妻より低いのか~3

麻田千穂子

1 はじめに

我が国で進行する少子化の要因は、未婚化と夫婦出生力の低下であると指摘されている。

このうち夫婦出生力の低下には様々な要因がかかわっているものと考えられるが、なかで

も有配偶女性の就業形態と出生力との関係は、労働市場の非正規化を背景に、政府や研究

者の関心を集めてきた。 厚生労働省第 14 回出生動向基本調査(2010 年)によれば、正規雇用の妻の予定子ども

数が 2.14 人であるのに対し、パート・アルバイトでは 2.07 人、派遣・嘱託・契約社員では

1.93 人と非正規雇用の妻では予定子ども数が低めになっている。本調査においても、現在

子ども数別に正規妻、有期妻で出生意欲を比べると、正規妻に比べ有期妻は予定子ども数、

理想子ども数、追加出生意欲ともに低くなっている。特に、現在子ども数 1 人で正規雇用

妻と有期雇用妻の追加出生意欲の差が大きい(表 1)

このような、正規雇用妻、有期雇用妻の平均の出生意欲の差は何に起因するのか。両者の

出生意欲を規定するものは何なのだろうか。正規雇用に就く有配偶女性と有期雇用に就く

3 本稿の作成にあたっては、個票データの分析及び執筆において、内閣府経済社会総合研

究所堀雅博上席研究官から貴重なアドバイスをいただいた。ここに記して謝意を表する。

なお、残された誤りはすべて筆者の責任である。

現在子ども数

妻就業形態

A現在子ども数

B予定子ども数

C理想子ども数

D追加出産意欲B-A

E追加出生意欲ありの率

正規 0.00 1.20 1.75 1.20 69%有期 0.00 0.98 1.62 0.98 61%

正規 1.00 1.83 2.24 0.83 74%有期 1.00 1.65 2.15 0.65 58%無職 1.00 1.76 2.18 0.76 68%

正規 2.25 2.42 2.66 0.17 17%有期 2.29 2.36 2.57 0.08 9%無職 2.24 2.37 2.58 0.12 13%

表1  現在子ども数、妻雇用形態別 妻の出生意欲

0人

1人

2人以上

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有配偶女性は、もともともっている出生意欲が異なるのか。あるいは雇用環境や生活環境

の違いから、結果としてグループの平均の出生意欲に違いが出てくるのだろうか。例えば、

妻が有期雇用で働く夫婦は家計の余裕のなさや、将来の経済的不安のために子どもを増や

すことを控えるのであろうか。妻の雇用が不安定であることから出産に踏み切れないのだ

ろうか。あるいは有期雇用では育児休業や短時間勤務などの両立支援制度の利用が難しく、

両立が難しいために出生意欲が低下しているのだろうか。さらには、地域によっては有期

雇用では保育サービスの利用が難しいことが出生意欲を低下させているのだろうか。 妻の就業形態と出生行動についてはさまざまな研究が行われてきた。まず、妻の出産前

の雇用形態と出生率や出生タイミングとの関係については、多くの研究が、妻が非正規雇

用であることは出産確率を低め、あるいは出生タイミングを遅らせることを指摘4している。

一方で、上記とは反対に、女性のフルタイム就業は第一子及び第二子の出生年齢を上昇さ

せる、週労働時間が 20 時間以下のパートタイム就業はこれらの出産年齢を低下させるとの

研究5もある。 また、妻の雇用形態と出生意欲の関係については、年齢や現在子ども数をコントロール

したうえで、パートタイム就業妻の出生意欲がフルタイム就業妻よりも低いとするものが

ある67。 以上のように、既存の研究や調査では、正規雇用と非正規雇用の間で、あるいはフルタ

イム就業とパートタイム就業の間で出生確率、出産タイミングや出生意欲に差があり、非

正規雇用は正規雇用よりも出生確率や出生意欲が低く、出産タイミングが遅いとするもの

が多い。しかしながら、このような出生力の差が生じる要因を分析したものは把握する限

りでは見当たらない。また、経済環境や両立・育児環境が出生意欲に与える影響を実証し

たものは未見である8。 そこで、本稿では、正規妻と有期妻の第一子の出生意欲に焦点をあて、なぜ有期妻の出

生意欲は正規妻よりも低いのか、それぞれの出生意欲を規定する要因が何かを明らかにし

たい。

4 厚生労働省(2013)、別府(2010)、別府(2012)は、出産前に非正規雇用である妻は

出産前に正規雇用である妻に比べ、出生確率が低いこと、別府(2010)、岩澤(2004)は、

出産前に非正規雇用である妻は出産前に正規雇用である妻に比べ、出生タイミングが遅れ、

子ども数自体も少ないこと、守泉(2010)は出産前に非正規雇用である妻は出産前に正規

雇用である妻に比べ、第一子の先送り確率が高いことを指摘している。 5 小島(2009) 6 吉田(2005)、福田(2011)、山田ほか(2013) 7 このほかに、妻の学卒後結婚直前までの非正規雇用経験と、結婚や出生行動との関係を分

析したものがある。酒井・樋口(2005)は非正規雇用経験が結婚の遅れを通じて出生タイ

ミングを遅らせていること、守泉(2005)は学卒から結婚直前まで非正規雇用を継続した

者は平均予定子ども数が少ないこと、永瀬・守泉(2008)は学卒後又は結婚直前に非正規

雇用であった者は子の出産確率が低いことを指摘している。 8 福田(2011)は、正規・有期の出生意欲の差は両者の全体的な両立環境の差からきてい

るのではないかと指摘しているが、この点の実証はしていない。

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本稿の構成は以下のとおりである。次節では、サンプルの属性を概観する。第 3 節では

仮説と分析方法を説明し、第 4 節では推定結果の検証と考察を行う。第 5 節では本分析か

ら得られた知見をまとめ、政策的含意と今後の課題について述べる。 2 サンプルの属性

2―1 サンプルの属性

サンプルは、現在子ども数 0 人(妊娠中の者を除く9)の 25 歳~39 歳既婚女性で、正規

雇用及び有期雇用の者である。サンプルの規模は正規雇用 1126 人、有期雇用 1214 人の計

2340 人である。 サンプルとなる夫婦の基本属性を、表 2 により、妻の雇用形態別に確認しておきたい。

夫婦の現在の年齢、夫婦の結婚年齢及び結婚後経過年数については、結婚後年数が有期の

方が 1 年程度高くなっている(表 2A)。夫婦の出生意欲をみると、予定子ども数、理想子

ども数ともに正規のほうが有期よりも多くなっており、特に予定子ども数の方が理想子ど

も数よりも正規有期の差が大きい。追加出生意欲(予定子ども数-現在子ども数)、追加出

生意欲ありの率ともに正規が有期よりも高い(表 2B)。 夫婦の収入及び学歴を妻の雇用形態別にみると、夫の収入の分布、夫の学歴が大卒以上

である比率に差はみられない。妻の収入は正規有期で大きな差があり、妻の収入の差が夫

婦合計収入の差をもたらしている。夫の正規割合は妻正規の方が高い(表 2C)。 夫婦の労働時間をみると、夫の労働時間は妻の雇用形態による差はみられないが、妻の

労働時間は正規有期で差が大きい。ただし、有期妻の 27%が週労働時間 40 時間以上となっ

ており、有期妻の労働時間は多様とみられる(表 2D)。居住地域に正規有期の違いはみら

れない(表 2E) 妻のキャリアをみると、勤続年数 3 年以上率、年収 300 万円以上の率、初職正規率、結

婚時正規率、学校卒業時の理想のライフコースを両立コースとする率、結婚時に夫が妻に

望む理想のライフコースが両立コースである率ともに、正規が有期より高くなっている。

現在有期雇用の妻で結婚時正規雇用だった者は 24%にとどまる。現在有期雇用の妻の過半

数は結婚をきっかけに離転職している。有期妻のキャリアや就業意識の多様性がうかがわ

れる一方で、全体としてみると、正規妻グループと有期妻グループでは妻のキャリアには

大きな差がある(表 2F)。

9 被説明変数が、子どものいない夫婦が第1子を持とうとする意欲であるため、すでに第

1子を妊娠している者は分析対象から除外した。

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2-2 理想の数の子どもを持たない理由

次に、表 3 により、理想の数の子どもの数まで子どもを増やさない(増やせない)理由

を、妻の雇用形態別に確認する。予定の子ども数が理想の子ども数よりも少ない場合の、

理想の数まで子どもを増やさない(増やせない)理由をみると、正規有期ともに、「子育て

にお金がかかりすぎる」「ほしいけれど妊娠しない」「高年齢で生むのに不安がある」の割

合が高い。正規と有期を比べると、正規の方が経済的負担、保育サービス、両立環境を挙

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げる割合が高く、有期の方が高齢で生む不安、妊娠しないこと、雇用が安定しないことを

挙げる割合が高い。

2-3 記述統計

記述統計は表 4 のとおりである。

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3 仮説と分析方法

3―1 仮説

本稿では、現在子ども数 0 人の正規妻と有期妻の平均の出生意欲の差を生じさせている

表4  説明変数の記述統計量

正規 有期 合計子ども0人 子ども0人平均 平均 平均 最大値 最小値

300万円未満 0.11 0.13 0.12 1 0300万円以上500万円未満(参照) 0.43 0.39 0.41 1 0500万円以上700万円未満 0.26 0.26 0.26 1 0700万円以上 0.11 0.13 0.12 1 0わからない 0.09 0.10 0.09 1 0100万円未満 0.07 0.29 0.18 1 0100万円以上300万円未満(参照) 0.29 0.55 0.42 1 0300万円以上500万円未満 0.49 0.14 0.32 1 0500万円以上 0.15 0.02 0.09 1 0減る 0.13 0.19 0.16 1 0変わらない(参照) 0.50 0.48 0.49 1 0増える 0.37 0.33 0.35 1 0夫正規(参照) 0.90 0.83 0.87 1 0夫有期 0.04 0.10 0.07 1 0夫自営 0.06 0.07 0.06 1 0

家計余裕 家計苦しいダミー 0.36 0.39 0.38 1 0両立支援制度 1.75 1.19 1.47 5 0両立支援制度×有期 0.00 1.19 0.60 5 0親支援ダミー 0.29 0.22 0.26 1 0親同居近居ダミー 0.23 0.23 0.23 1 0探しても難しい(参照) 0.10 0.08 0.09 1 0探せば何とかなる 0.32 0.25 0.29 1 0待機せずに預けられる 0.06 0.05 0.06 1 0待機せずに預けられる×有期 0.00 0.05 0.03 1 0わからない 0.52 0.61 0.57 1 0わからない×有期 0.00 0.61 0.31 1 020歳代後半(参照) 0.20 0.16 0.18 1 030歳代前半 0.37 0.35 0.36 1 030歳代後半 0.42 0.49 0.46 1 020歳代以下(参照) 0.14 0.10 0.12 1 030歳代前半 0.29 0.27 0.28 1 030歳代後半 0.34 0.34 0.34 1 040歳代以上 0.23 0.30 0.27 1 0

結婚後年数

結婚後5年以内ダミー 0.67 0.56 0.61 1 0

高卒以下(参照) 0.16 0.22 0.19 1 0短大、高専、専修学校 0.29 0.33 0.31 1 0大学以上 0.55 0.45 0.50 1 0

その他 有期ダミー 0.00 1.00 0.50 1 0観察値 1300 1300 2600

妻年齢ダミー

夫年齢ダミー

妻学歴ダミー

夫就業形態ダミー

夫収入ダミー

妻収入ダミー

夫収入見込みダミー

両立環境

保育利用可能性ダミー

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要因に関し、以下の3つの仮説を検証する。 経済環境仮説:有期妻は正規妻に比べ経済環境に恵まれないことが出生意欲を低下させて

いる 両立支援仮説:有期妻は正規妻に比べ職場の両立支援の利用可能性が低いことが出生意欲

を低下させている 保育仮説:有期妻は正規妻に比べ保育サービスを利用しにくいことが出生意欲を低下させ

ている

3-1-1 経済環境仮説

予定子ども数が理想子ども数より少ない妻は、正規、有期ともにその理由として、子育

ての経済的負担をあげる割合が高かった。また、有期では「雇用が不安定だから」と回答

する者が正規より多かった。先々の子育ての経済的負担を踏まえると、現在の収入が少な

いこと、家計が苦しいこと、夫の将来の収入見込みが良くないこと、収入が不安定である

ことは、出産を躊躇させる可能性がある。

3-1-2 両立支援仮説

第一子出産前後の継続就業率は正規雇用に比べ有期雇用では低いこと10 が知られてい

る。これは、有期のほうが正規よりも自ら希望して出産退職する傾向が強いことにも一部

起因する11ものであるが、正規・有期ともに就業継続希望にもかかわらず両立が難しいため

に不本意に離職することが一定割合あること12も明らかにされている。 出産後も就業の継続を可能とする育児休業等の職場の両立支援は、制度上13又は実態上、

10 厚生労働省第1回 21 世紀出生児縦断調査(平成 22 年出生児)では、出産 1 年前に常勤

であった母親が出産半年後に有職である割合は 58.3%、出産 1 年前にパート・アルバイト

であった場合の同様の割合は 15.5%となっている。 11 厚生労働省第1回 21 世紀出生児縦断調査(平成 22 年出生児)では、第一子出産 1 年

前に常勤であった母親のうち、出産半年後無職となり「育児に専念したいため、自発的に

やめた」と回答した者の割合が 16.9%、第一子出産 1 年前にパート・アルバイトであった

母親のうち、出産半年後無職となり「育児に専念したいため、自発的にやめた」と回答し

た者の割合が 39.6%となっている。 12 三菱 UFJ リサーチ&コンサルティング「両立支援に係る諸問題に関する総合的調査研究」

(厚生労働省委託)(2008 年)によれば、最初の子をもつ直前に正社員で妊娠出産前後に退

職した女性の 26.1%が、「仕事を続けたかったが、両立が難しいのでやめた」と回答してい

る。また、最初の子をもつ直前に非正社員で妊娠出産前後に退職した女性の 16.4%が、「仕

事を続けたかったが、両立が難しいのでやめた」と回答している。 13 育児介護休業法上、有期契約労働者は、無期契約労働者と異なり、育児休業の取得には、

1 年以上の勤続、子の 1 歳の誕生日以降の雇用見込等の要件を満たすことが必要とされてい

る。また、有期契約、無期契約を問わず、週所定労働日が 2 日以下の場合には、労使協定

により育児休業の対象から除外される可能性がある。このため、有期契約労働者の中には、

法律上育児休業の対象とならない人もいる。

http://www.mhlw.go.jp/bunya/koyoukintou/pamphlet/27.html

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正規と有期では利用可能性に差があり、本調査でも同傾向にある14。有期では正規より職場

の両立支援の利用可能性が低く、両立が難しいことが、有期妻の出産の機会費用を高め、

出産意欲を低下させている可能性がある。 出生意欲が高いので両立支援が利用しやすい職場を選ぶことは皆無ではないが一般的で

はなく、両立支援が利用しやすいことが出生意欲を高めるという因果関係を想定する。

3-1-3 保育仮説

出産時の不本意な離職には、保育サービスの利用可能性が関係している可能性がある。

出産前後の継続就業者が保育サービスを利用する割合は、正規雇用妻の方が非正規雇用妻

よりも高い15。待機児童のいる地域では、保育所の入所にあたり、親がフルタイム就業であ

る場合の方がパートタイム就業の場合よりも保育の必要性が高いと判断されている。この

ような中で、パートタイム就業の割合の多い有期雇用では保育サービスを利用しにくく、

両立が難しいために出産意欲が低下する可能性がある16。 因果関係については、第一に保育利用可能性が高いことで出生意欲が高まる、第二に出

生意欲が高いので保育利用可能性の高い地域に住む、第三に出生意欲が低いので知識や関

心がなく「わからない」と回答する、の3つが考えられる。第一と第二、第三は因果関係

の方向が逆になっており、説明変数として問題があるが、適当な代替手段がないため投入

することとする。 3―2 分析方法

追加的出生意欲を被説明変数としたプロビット分析を行い、正規、有期を合わせた17現在

子ども数 0 人18の雇用者妻の出生意欲を規定している要因を特定し、正規妻、有期妻の当該

変数の分布を検討することにより、正規妻と有期妻の平均の出生意欲の差をもたらす要因

14 両立支援制度変数の平均値は、正規 1.68、有期 1.17 となっている(表 4) 15 出生動向基本調査によれば、第一子が 2000 年から 2007 年生まれの初婚どうしの夫婦

で、第一子が 3 歳になるまでに認可保育所を利用した率は、妻が出産前後に正規雇用継続

した夫婦は 56.8%、妻が出産前後に非正規雇用を継続した夫婦で 43.8%となっている。 16 姉崎ほか(2011)は、保育サービスと出生率の関係に関する実証研究のサーベイにおい

て、保育サービスの充実が出産を促進するという研究が多いことを指摘している。 17 正規、有期のサンプルは本調査では別々に割り付けを行ったものである。統合にあたり

サンプルの偏りが生じるおそれがあるため、既存の統計から母集団の大きさを確認した。

平成 19 年就業構造基本統計調査において、「夫婦のみからなる世帯」又は「夫婦と親から

なる世帯」の妻で 25 歳~39 歳の雇用者のうち、「正規の職員・従業員」が 485,600 人、「正

規の職員・従業員」以外の雇用者が 515,200 人となっており、ほぼ同数であったため、ウ

ェイトづけせずにサンプルを統合しても分析に支障がないものと判断した。ただし、最初

から現在子ども数 0 人の雇用者妻グループとして割り付けを行ったものではないため、サ

ンプルの偏りが残っている可能性がある。 18 現在子ども数 1 人グループ、同 2 人以上グループについては割り付けごとの母集団の大

きさの情報が得られなかったため、本稿の分析の対象とはしなかった。

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を検討する。また、上記によって説明できない差があるのかどうかを定数項有期ダミーに

より検証する。さらに、正規妻と有期妻の出生意欲に、同じ説明変数が異なる効果をもつ

可能性があることから、有期ダミーとの交互作用項を加えたモデルにより推定するととも

に、正規、有期別に同じ説明変数で推定を行う。 被説明変数の追加的出生意欲は、実際に持つつもりの子ども数(Q35 )が現在子ども数

より多い場合にあり(=1)とし、それ以外の場合にはなし(=0)とする。追加的出生意

欲ありの確率は、正規妻は 66%、有期妻は 58%であり、8 ポイントの差がある(表 2B)。 説明変数は以下のとおりである。 経済環境に関する説明変数としては、夫妻それぞれの昨年の収入、夫の 5 年後の収入の

見込、夫の就業形態、家計の苦しさを用いた。夫婦の収入及び家計の苦しさは調査時点で

の経済的余裕、夫の収入見込みは将来の経済的余裕、夫の就業形態は家計の安定性の変数

である。妻の収入は子をもつことの機会費用の変数でもある。夫の収入(Q29)は「300 万

円未満」「300 万円以上 500 万円未満」「500 万円以上 700 万円未満」「700 万円以上」「不

明」の5段階で、妻の収入(Q9)は「100 万円未満」「100 万円以上 300 万円未満」「300万円以上 500 万円未満」「500 万円以上」の 4 段階でそれぞれダミー化した。夫の収入見込

については、「今後 5 年後の収入の見通し」(Q29S1)への回答を「減る」「変わらない」「増

える」の 3 段階でダミー化した19。夫の就業形態(Q28)は、正規、有期、自営の 3 区分と

した。家計苦しいダミーは、家計収支が厳しくなったときにとる対応の準備を具体的に進

めている場合を1、それ以外を0とした20。 両立・育児資源に関する説明変数としては、職場両立支援、親支援、親同居近居、保育

利用可能性の4つを用いた。職場両立支援については、「あなたの職場の環境や制度の現状

について該当するものを選んでください」の問(Q26)に対し、育児休暇等の 5 項目から選

択された数を 0~5 点の変数とした21。親支援については、「自分か配偶者の親が子育てに協

力してくれる」(Q27)を1とする親支援ダミーを設定した。親同居近居(Q46S1)につい

ては、妻の母親又は夫の母親が同居、隣、同敷地内又は徒歩範囲内にいる場合に1とする

親近居同居ダミーを設定した。保育サービス利用可能性については、「あなたが住んでいる

地域は子どもを預けようと思った時に保育サービス(保育所など)が利用可能ですか」の

19 妻の 5 年後の収入の見通しについては、追加出生意欲があるために収入見通しが「減る」

と回答するという因果関係が考えられ、内生性の問題があるため、説明変数とはしなかっ

た。 20 Q48「今後家計収支が厳しくなることがあった場合、あなたの世帯はどのような対応を

すると思いますか。対応をとると思われるものをすべて選んでください」につづき、Q48S1「前問で、対応を取ると思われるとお答えになった中で、すでに具体的な準備を進めてい

るものがある場合にはお答えください」に対し、具体的な準備を進めている項目を1つ以

上選んだ場合に1、それ以外の場合に0とした。 21 選択できる項目は「フレックスタイムや在宅勤務など柔軟な働き方ができる」「育児休暇

がとれる」「子育て期に短時間勤務ができる」「時間単位の休暇がとれる」「子どもが病気の

ときや学校の行事等で休みがとれる」の 5 項目である。

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問(Q42)に対し「探しても難しい」「探せばどこかに預けられる」「待機せずに預けられる」

「わからない」の 4 区分でダミー化した。 さらに、先行研究を踏まえ、コントロール変数として、夫年齢、妻年齢、結婚後経過年

数、妻学歴を用いた。夫年齢は、29 歳以下、30~34 歳、35~39 歳、40 歳以上の 4 段階で、

妻年齢は 25~29 歳、30~34 歳、35~39 歳の 3 段階でそれぞれダミー化した。結婚後経過

年数については、現在の結婚後 5 年以内を1とする結婚後 5 年以内ダミーを用いた。妻学

歴は、高校以下、短大・高専・専修学校及びわからない、大学以上の 3 段階でダミー化し

た。

4 推定結果

4-1 推定結果

表 5 は、出生意欲の推定結果である。モデル(1)(2)は正規有期を統合した全体を、

モデル(3)(4)は正規、有期それぞれを対象とした。疑似決定係数はモデル(1)より

モデル(2)(3)(4)のほうがわずかに高い。正規妻及び有期妻の第一子出生意欲は、

共通の要因により一定程度説明が可能であり、これに加え、正規妻のみに効果のある変数

により説明できる部分、有期妻のみに効果のある変数により説明できる部分があると考え

られる。

以下、推定結果を仮説の妥当性とあわせ、順に検証する。

経済環境に関する説明変数については、モデル(1)及び有期妻において夫の収入が 300

万円未満であることが、妻の出生意欲に有意な負の効果があった。また、モデル(1)及

び有期妻において、夫が自営であることは、妻の出生意欲に正の有意な関係があった。以

上の 2 つの変数のほかには、夫の収入、妻の収入、夫の収入見込、夫の有期雇用、家計の

苦しさともに、出生意欲と有意な関係はみられなかった。

夫の収入と妻の出生意欲の間には一見して単純明白な関係はみられない。夫の収入が 300

万円未満であることのみ、出生意欲を明確に低めている。この傾向は正規妻よりも有期妻

で顕著である。夫が 300 万円未満の低収入では経済的余裕がなく、子どもを持つことを躊

躇するものと考えられる。また、有期妻は正規妻に比べ第一子出産離職の確率が高く、出

産の家計収入減リスクが大きい。夫が低収入の場合にはこのような家計リスクは許容しに

くく、出産離職による家計リスクの正規有期の差が、分析結果に反映されていると考えら

れる。

妻の収入は、出生意欲との関係は見られなかった。夫の収入見込みについては、符号か

らは収入見込みの良い(悪い)方が出生意欲が高い(低い)傾向がみられるが、統計的に

有意ではない。

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被説明変数:出生意欲1.有0.無

限界効果 標準誤差 限界効果 標準誤差 限界効果 標準誤差 限界効果 標準誤差〈300万円以上500万円未満〉300万円未満 -0.078 0.037 ** -0.062 0.056 -0.063 0.054 -0.100 0.052 *  〃    ×有期ダミー -0.032 0.074 500万円以上700万円未満 -0.001 0.028 0.009 0.040 0.003 0.038 -0.008 0.040  〃    ×有期ダミー -0.025 0.056 700万円以上 -0.012 0.036 -0.049 0.056 -0.062 0.055 0.032 0.050  〃    ×有期ダミー 0.064 0.067 不明 -0.034 0.039 -0.078 0.060 -0.086 0.059 0.011 0.054  〃    ×有期ダミー 0.079 0.071 〈100万円以上300万円未満〉100万円未満 0.032 0.029 0.085 0.063 0.077 0.057 0.021 0.035  〃    ×有期ダミー -0.068 0.078 300万円以上500万円以下 -0.010 0.028 -0.004 0.038 -0.005 0.037 -0.001 0.047  〃    ×有期ダミー 0.003 0.058 500万円以上 0.018 0.046 0.066 0.052 0.052 0.051 -0.137 0.121  〃    ×有期ダミー -0.218 0.131 *〈変わらない〉減る -0.020 0.030 -0.014 0.047 -0.016 0.045 -0.027 0.041  〃    ×有期ダミー -0.015 0.061増える 0.031 0.025 0.047 0.035 0.050 0.033 0.017 0.036  〃    ×有期ダミー -0.026 0.050〈正規〉有期 0.005 0.043 0.037 0.084 0.032 0.079 -0.004 0.053  〃    ×有期ダミー -0.045 0.104自営 0.117 0.039 *** 0.043 0.065 0.035 0.061 0.189 0.050 ***  〃    ×有期ダミー 0.134 0.074家計苦しいダミー 0.017 0.022 0.018 0.033 0.018 0.031 0.023 0.032  〃    ×有期ダミー 0.005 0.045 職場両立制度 0.016 0.008 ** 0.021 0.011 * 0.019 0.011 * 0.010 0.011  〃    ×有期ダミー -0.012 0.016 親支援ダミー 0.122 0.024 *** 0.145 0.034 *** 0.140 0.032 *** 0.112 0.037 ***  〃    ×有期ダミー -0.043 0.055 親同居ダミー 0.028 0.025 0.018 0.037 0.011 0.036 0.041 0.036  〃    ×有期ダミー 0.022 0.051 〈探しても難しい〉探せば何とかなる 0.043 0.041 0.092 0.055 0.084 0.052 -0.017 0.065  〃    ×有期ダミー -0.111 0.089 待機せずに預けられる 0.067 0.055 0.181 0.064 ** 0.167 0.057 ** -0.080 0.090  〃    ×有期ダミー -0.286 0.121 **わからない -0.087 0.038 ** 0.012 0.054 0.009 0.051 -0.194 0.056 ***  〃    ×有期ダミー -0.204 0.080 **〈20歳代後半〉30歳代前半 -0.109 0.040 *** -0.110 0.040 *** -0.092 0.055 * -0.127 0.058 **

30歳代後半 -0.210 0.042 *** -0.213 0.042 *** -0.190 0.058 *** -0.232 0.060 ***〈20歳代以下〉30歳代前半 -0.025 0.049 -0.020 0.049 0.003 0.065 -0.048 0.073

30歳代後半 -0.052 0.052 -0.048 0.052 -0.042 0.069 -0.059 0.077

40歳代以上 -0.188 0.055 *** -0.187 0.055 *** -0.113 0.076 -0.253 0.078 ***

結婚後5年以内ダミー 0.183 0.024 *** 0.184 0.024 *** 0.194 0.035 *** 0.179 0.033 ***〈高卒以下〉短大、高専、専修学校 0.072 0.029 ** 0.070 0.029 ** 0.037 0.043 0.098 0.040 **

大学以上 0.071 0.029 ** 0.069 0.029 ** 0.071 0.043 * 0.064 0.040

有期ダミー -0.025 0.025 0.172 0.088 *観察値 2340 2340 1126 1214対数尤度 -1319 -1309 -609 -697疑似決定係数 0.1507 0.1574 0.1554 0.1556

注)***、 **、*はそれぞれ有意水準1%、5%、10%を示す。説明変数〈  〉内は参照グループ

正規及び有期 正規及び有期 正規 有期

表5  妻の追加出生意欲を被説明変数としたプロビット分析の結果 (現在子ども数0人) 

(1) (2) (3) (4)

夫収入ダミー

妻収入ダミー

夫収入見込みダミー

妻学歴ダミー

夫就業形態ダミー

家計苦

両立・育児環境

保育利用可能性ダミー

妻年齢ダミー

夫年齢ダミー

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夫の就業形態が有期雇用であることの出生意欲への効果はみられなかった。(1)及び(4)

の有期で自営であることが出生意欲を有意に高めるとの結果であった。この点の解釈は、

自営の内容についての情報がないこと、自営サンプルが少ないことから、難しい22。家計苦 しいダミーには出生意欲への効果がみられなかった。

経済環境仮説との関係では、夫の収入について、一部仮説と整合的な結果が確認された。

ただし、経済環境に関する変数の中でも、夫の収入が高いこと、妻の収入、夫の有期雇用、

家計の苦しさについては仮説を支持する結果ではなかった。希望する数の子を持たない理

由として経済要因が挙げられることが多いが、分析結果から見る限り、少なくとも第一子

を持つ意欲には、家計の経済環境全般は影響せず、夫の低収入のみがネガティブな制約要

因として働いているとみられる。 両立・育児環境に関する説明変数をみると、職場の両立支援制度については、(1)及び

(3)の正規妻で出生意欲と正の有意な関係があった。有期妻では符号は正であるが有意

な結果ではなかった。職場の両立支援制度は、正規妻の出生意欲を高めるが、有期妻への

効果は明確でない。 両立支援仮説の妥当性は一刀両断の判断ができない。(1)で全体に有意な効果が見られ、

また、(2)の両立支援×有期ダミーの交互作用項が有意でないことをみると、正規有期と

もに両立支援は出生意欲を高める効果があり、仮説の前提と整合的にみえる。一方で、(3)

(4)からは、両立支援は正規妻の出生意欲を高めるが、有期妻の出生意欲への明確な効

果はなく、上記仮説が支持されないとの論も成り立つ。(2)(3)(4)からは、有期妻に

対しては統計的に有意ではないものの、両立支援の効果は正規にも有期にも正であり、か

つ正規の方が効果が大きい傾向がうかがわれる。以上を総合すると、両立支援は有期妻の

出生意欲になにがしかの正の効果があることがうかがえるが、有期妻への効果は正規妻に

対する効果ほどには明確でなく、かつ、大きくないといえよう。仮説は、明確に支持され

たとも支持されないともいえず、弱い材料に支持されていると解釈する。 親支援は、(1)(3)(4)ともに出生意欲と正の有意な関係がみられ、限界効果も大き

かった。親同居近居には有意な効果が見られなかった。 保育については、参照グループである「探しても難しい」に比べ「探せば何とかなる」

であることは、(1)(3)(4)とも有意な結果はみられなかった。一方、「待機せずに預

けられる」ことは、(3)の正規でのみ出生意欲に正の有意な効果がみられた。(3)の「探

せば何とかかなる」の結果23とあわせみると、保育の利用可能性が高まることは、正規妻の

出生意欲を高める傾向があり、有期妻に対してはそのような効果がないといえる。さらに、

「わからない」は、正規では出生意欲との関係は全くみられなかったが、有期では出生意

欲と負の有意な関係がみられた。

22 サンプル数は、妻正規夫自営が 39 人、妻有期夫自営が 56 人、計 95 人である。 23 z 値が 1.59

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保育仮説との関係では、保育の利用可能性が高いことは正規の出生意欲を高めるが、有

期の出生意欲には効果がなく、正規有期の保育利用可能性の差が出生意欲の差をもたらす

との仮説は支持されなかった。 妻年齢については 正規有期ともに、参照グループである 20 代後半に比べ、30 代前半、

30 代後半であることは出生意欲を低下させる効果がみられた。特に 30 代後半の限界効果が

大きい。 夫年齢については、参照グループである 20 代以下に比べ、40 歳代以上であることは(1)

及び(4)有期で出生意欲に有意な負の効果がみられた。正規においても同様の傾向にあ

る。 結婚後年数については、(1)(2)(3)とも、結婚後 5 年以内であることは、6 年目以

降であることに比べ、出生意欲に正の効果がみられ、限界効果も大きかった。 妻の学歴については、参照グループである高卒以下に比べ、(1)(4)で短大・高専・

専修学校であることが、(1)(3)で大学以上であることが、出生意欲に正の効果があっ

た。 定数項の有期ダミーは、モデル(1)で符号は負ではあるものの有意ではなかった。本

稿の分析の出発点は、有期妻の平均出生意欲が正規妻よりも低いことにあったが、属性や

育児環境など諸条件をコントロールした後では、有期妻の出生意欲が正規妻よりも有意に

低いとはいえないことが確認された。有期妻がもともと正規妻よりも出生意欲が低いとは

いえず、属性や生活環境の違いから両グループの出生意欲の平均値に差が生じていると考

えられる。 4-2 考察

4-2-1 正規有期の出生意欲の差について

正規と有期の出生意欲は、共通の要因により一定程度説明されるものであることがわか

った。すなわち、正規有期とも第一子の出生意欲には、夫の収入、夫就業形態、職場両立

支援、親支援、保育「わからない」、妻年齢、夫年齢、結婚後年数、妻学歴の各要因が関係

しており、これらの説明変数の分布が正規と有期で異なることが、正規有期の平均の出生

意欲の差に寄与している。 表6は、モデル(1)による推定結果に基づき、説明変数の分布の違いが出生意欲の差

にどの程度寄与しているかを各変数の平均値と限界効果を用いておおざっぱに推計した結

果である24。正規と有期の平均の追加出生意欲の差 7.84%であったところ、6.78%がこれら

の変数の分布の違いに起因すると推計された。 仮説に関連した正規、有期の出生意欲差への寄与は、経済環境仮説-0.07%、両立支援仮

説 0.84%、保育仮説なし25であった。統制変数の中では、親支援の正規有期の差が出生意欲

24 モデル(3)(4)において、正規と有期で異なる効果がみられた変数も含まれている。 25 保育「わからない」は保育利用可能性に関する変数とはいえないため、保育仮説による

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の差を 0.8%広げていた。また、年齢、結婚後年数、学歴の正規有期の分布の違いは、合計

で 4.43%差の拡大に寄与している。 全体として、正規有期の出生意欲の 7.84%の差のうち、半分強がサンプル夫婦の属性の

違いである年齢、結婚後年数、学歴の分布の差に起因し26、そのほかに親支援と両立支援の

正規・有期差がそれぞれ 0.8%寄与している。正規有期の経済環境の差の寄与はわずかであ

り、保育の利用可能性の差は全く寄与がなかった。本分析から見る限りでは、正規有期の

両立・育児環境の差は出生意欲の差を生じさせており、その大きさは 1~2%程度とみられる。

4-2-2 正規妻、有期妻の第一子出生意欲について

正規妻については、両立支援、親支援、保育利用可能性ともに出産意欲に正の効果があ

り、いずれも限界効果は比較的大きい27。正規妻の第一子の出生意欲には、出産後両立でき

るかどうかが大きく影響している。また、親支援は、保育と両立支援に加え、さらに出生

差への寄与には含めていない。 26 また、本分析では正規が有期よりも夫婦年齢や結婚後年数が高めに分布していること

が出生意欲の差に大きく寄与しているという結果を得ている。妻の年齢を 25 歳~39 歳に限

定してサンプリングした結果、現在子ども数 0 人有期雇用妻の夫婦の年齢及び結婚後年数

が正規妻の夫婦に比べ高めに分布していること自体が、先行研究の指摘する有期雇用妻の

第一子出産の先送り傾向の反映である可能性がある。(1はじめに 参照。) 27 両立支援は 5 点尺度であり、モデル(3)における 1 点の限界効果 0.019 を 5 倍すると

親支援、保育の限界効果に匹敵する。

表6 説明変数の分布の違いが正規妻・有期妻の平均出生意欲の差に与える効果の試算

A正規平均値

B有期平均値

A-B正規・有期の平均値の差

C

限界効果有意水準

(A-B)*C正規・有期の出生意欲の差拡大効果

300万円以上500万円未満(参照)300万円未満 0.117 0.129 -0.011 -0.078 ** 0.09%

夫就業形 自営 0.056 0.069 -0.013 0.117 *** -0.16%職場両立制度 1.680 1.168 0.512 0.016 ** 0.84%親支援ダミー 0.274 0.209 0.065 0.122 *** 0.80%探しても難しい(参照)わからない 0.537 0.627 -0.090 -0.087 ** 0.78%20歳代後半(参照)

妻年齢 30歳代前半 0.368 0.350 0.018 -0.109 *** -0.19%30歳代後半 0.446 0.502 -0.056 -0.210 *** 1.17%20歳代以下(参照)40歳代以上 0.252 0.306 -0.054 -0.188 *** 1.02%

結婚後5年以内ダミー 0.646 0.535 0.111 0.183 *** 2.04%高卒以下(参照)

妻学歴 短大、高専、専修学校 0.301 0.329 -0.028 0.072 ** -0.21%大学以上 0.528 0.442 0.085 0.071 ** 0.60%

計 6.78%(注)限界効果、有意水準は、(1)の推定結果による(注)***、 **、*はそれぞれ有意水準1%、5%、10%を示す。

説明変数

夫収入

保育利用可能性

夫年齢

両立・育児環境

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意欲を高める。職場の両立支援と保育に親の支援がもう一枚加わることで子育ての安心感

が増すとみることができる28。 有期妻については、親支援は出生意欲を高める一方で、職場の両立支援は効果がうかが

われるものの明確ではなく、また、保育の利用可能性は出生意欲への効果が認められなか

った。有期サンプルは表 2Fにみられるように、正規と比べると一定のキャリアを持つ割合

や、理想のライフコースを両立型とする割合が低い。有期妻の継続就業意向が多様であり、

全体としては弱いため、両立支援の出生意欲への効果が正規ほど明確でなく、また、保育

の効果がないと考えられる。また、有期妻グループはパートタイム労働の割合が高く29、フ

ルタイム労働に比べ両立支援制度の必要性が相対的に低いことも両立支援及び保育の出生

意欲への効果に関係していると思われる。 両立支援の有期妻の出生意欲への効果は皆無ではないが正規よりも弱く、また、保育は

効果がないことが明らかになった一方で、有期妻の出生意欲を積極的に説明する要因につ

いては知見が得られなかった。

5 まとめ

5-1 本分析で得られた知見

本稿では、現在子ども数 0 人の正規妻及び有期妻の追加出生意欲を規定する要因につい

て分析を行った。正規妻と有期妻を合わせた全体の第一子出生意欲は、夫が自営であるこ

と、職場両立支援、親支援と正の有意な関係があり、夫の収入が 300 万円未満であること、

保育の利用可能性がわからないことと負の有意な関係があった。正規妻の出生意欲は、両

立支援、親支援、保育が「待機せずに預けられる」ことと正の有意な関係があった。有期

妻の出生意欲は、夫が自営であること、親支援と正の有意な関係があり、夫の収入が 300万円未満であること、保育利用性が「わからない」ことと負の有意な関係があった。 雇用者妻の第一子出生意欲には、家計の経済環境全般は影響せず、夫の低収入のみが制

約要因となっている。正規妻有期妻間の経済環境の差が出生意欲差をもたらすとの仮説は

夫の低収入についてのみ支持されたが、その効果はわずかであった。 職場の両立支援は正規妻の第一子出生意欲を高める効果があった。有期妻にもなんらか

の正の効果がうかがえるが、正規妻ほど明確でない。正規有期の両立支援格差が両者の出

生意欲の差をもたらすとの仮説は弱く支持された。 保育の利用可能性が高いことは正規妻の第一子出生意欲を高めるが、有期妻には効果が

なく、正規有期の保育利用可能性の差が出生意欲の差をもたらすとの仮説は支持されなか

った。 28 今田・池田(2006) は、育児休業制度には単独で雇用継続を高める効果はないが、家

族・親族の育児援助や保育所の利用と組み合わされることで効果があるとしている。坂本・

森田・木村(2013)は、学童保育施策だけではなく、学童保育と家族内における子育て資

源の両方が利用できることが就業継続において重要であるとしている。 29 有期妻は、週労働時間が 40 時間未満の割合が 74%となっている。(表 2D)

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正規妻有期妻の平均出生意欲の差は 7.8%であるところ、推定結果に基づく試算では、正

規妻と有期妻の変数の分布の差により 6.8%の差が説明された。このうち 4.4%が、サンプル

夫婦の年齢、結婚後年数、学歴の分布の差に起因し、さらに親支援と両立支援の正規有期

差の寄与がそれぞれ 0.8%であった。経済環境の正規有期差の寄与はわずかであり、保育の

利用可能性の差は寄与がなかった。

5-2 政策的含意

正規妻が第一子出生意欲が持てるかは出産後両立できるかどうかがカギとなる。政府が

保育と両立支援に注力してきていることは、正規妻については、少子化緩和に有効であり、

今後も両政策の強力な推進が求められる。 有期の第一子出生意欲には、親支援は効果が確認され、両立支援は何らかの効果がうか

がわれ、保育の効果はなかった30。正規有期間の両立支援の差は、両者の出生意欲の差を一

定程度広げていると推計された。両立支援も保育も就業継続への支援であり、就業継続を

希望しない層には少子化緩和効果がないことは不思議ではない31。第2節でみたように、現

在子ども数0人の有期妻は希望のライフコースやキャリアの深さにおいて一様でなく、就

業継続意向も雇用の実態も多様であると考えられる。両立支援における有期妻の少子化緩

和策は、個々の就業継続意識や雇用の実態の多様性32を踏まえたものとする必要がある。こ

れまで両立支援の取組は正規が先行し、有期の両立支援には相対的に重きが置かれなかっ

たが、有期の育児休業利用も増加しており33、有期イコール出産退職との予断は改める必要

がある。有期の中で多数派ではないかもしれないが、就業継続を希望する層には、雇用の

実態に応じた両立支援34を充実していくことが少子化緩和策となろう35。 また、就業継続が難しいこと自体が有期妻の就業継続意向を弱めている可能性がある。

有期雇用ゆえに妊娠出産すなわち離職との思い込みには、企業と労働者双方の法制度の認

30 そもそも両立支援や保育には、就業継続の支援、子どもの良好な育成など出生率の動向

には左右されない本来の政策目的があり、これらの政策が、少子化緩和策としての有効性

のみから論じられるべきものでないことは言うまでもない。 31 山田(2007)は、現在行われている育児休業、保育などの少子化対策は、キャリア女性

念頭のものにかたよっており、スキルのない女性は結婚、出産、子育てがしにくい状況に

放置されていると指摘している。 32 有期雇用は、真に臨時的一時的なものから、無期雇用と実質的に変わらないものまで、

実態が多様である。 33 出生動向基本調査によれば、妻が出産前後に非正規雇用継続した初婚どうしの夫婦が、

第一子が 3 歳になるまでに育児休業を利用した率は、第一子の誕生が 1995 年から 1999 年

では 12.8%、第一子誕生が 2000 年から 2007 年では 15.1%であった。 34 ある程度の雇用の継続があり、継続就業を希望する場合には正規雇用同様に育児休業や

保育が効果的と考えられる。雇用の継続を前提としない両立支援は正規有期同様に考えて

よいのではないか。経済的事情から継続就業を希望する者にも保育は重要であろう。 35 平成 27 年から 10 年間延長された次世代育成支援対策推進法に基づく「一般事業主行動

計画策定指針」に、非正規雇用の労働者が子育て支援の取組の対象であることを事業主の

計画に明記することが新たに盛り込まれた。

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識不足が影響している。両立支援以前の問題として、有期雇用者にも産前産後休業が保障

されていることなど36の職場での常識化が、不本意な離職を減らし継続就業の改善に貢献す

ると考えられる。 一方で、継続就業を希望しない層に何が少子化緩和策として有効なのかについては、本

稿の分析からは、経済環境が出生意欲に関係しないこと以外には知見を得ることができな

かった。 より大局的には、女性が学卒時に正規雇用に就くこと、結婚時にも正規雇用を継続する

こと、若年期に有期雇用から正規雇用への移行を促進していくことが、少子化緩和の観点

からも重要と考えらえる。 なお、本稿の分析対象は現在子ども数 0 人の有期妻に限られており、上記の分析結果は

有期妻全体に関するものではないことに留意が必要である37。 5-3 今後の課題

本稿の分析では、有期妻の第一子出生意欲に積極的に何が関係しているのかについて知

見が得られなかった。特に、有期妻の第一子出生意欲と雇用の不安定性との関係について、

正面から取り上げることができなかった。現在子ども数 0 人の 25 歳から 39 歳の有配偶女

性の中で有期雇用者の数は正規雇用者とほぼ同数であり、その出生意欲は少子化の行方に

及ぼす影響が大きいことから、有期雇用妻、とりわけ継続就業意向のない層の第一子出生

意欲の解明が求められる。 また、現在子ども数 1 人及び 2 人以上の雇用者既婚女性について、雇用形態別の母集団

の大きさの情報が得られず分析の対象としなかった。先行研究では、既婚女性の出生意欲

の規定要因は第一子と第二子、第三子では異なることが報告されており、第二子以降の出

生意欲についても雇用形態や就業状態による比較を行うことが今後の課題である。 さらに、本稿は、一時点での就業状態と出生意欲との関係を分析したものであるため、

ライフコースを通じた有配偶女性の出生意欲の変化については視野に入れていない。就業

形態はライフコースの中で変わりうるものであり、特に、我が国女性のライフコースをみ

ると、第一子出産前後での正規、有期から無職への移行、正規から有期への移行が少なく

ないと考えられる。これをふまえ、ライフコースの中での就業形態の変化により出生意欲

がどう変化するのか、また、就業形態間の移行のパターンが最終的な出生数にどのような

影響があるのかを解明することが今後の課題と考えられる。

36 出産前後の労働者には、正規有期にかかわらず、産前産後休業、妊婦健診受診やその指

導事項に使用者が対応する責務、妊娠中及び産後 1 年以内の解雇の無効推定、妊娠等を理

由とする雇止め等の不利益取扱いの禁止などの法律上の保護があり、また、有期雇用で一

定の条件を満たす場合には育児休業の権利がある。(労働基準法第 65 条、男女雇用機会均

等法第 9 条、第 12 条、第 13 条、育児介護休業法第 5 条、第 6 条) 37 現在子ども数が 1 人以上の有期妻には、多様な就労経歴の者が含まれ、継続就業意向も

現在子ども数 0 人の有期雇用妻とは異なるものと考えられる。

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参考文献

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第2章 キャリア初期の人材育成と有配偶女性の就業

-少子化と夫婦の就労状況・生活環境に関する意識調査を用いた分析-

朝井 友紀子 1 はじめに38 日本女性の就業継続は未だに大きな課題である。「就業構造基本調査」から 15~64 歳人

口における正規就業率39を見てみると、2012 年では男性 67.4%、女性 33.9%と男女間で大

きな差がある。その要因の一つとしては、女性が就業しながら出産や育児をすることが難

しい状況が挙げられる。家庭内における家事・育児負担が女性に偏っているのに加え、保

育所不足も深刻である。配偶者控除などの税制も、働くことの利点を引き下げている40。ま

た、女性の昇進の機会が限られていることも大きな問題である。「賃金構造基本調査」から

管理職に占める女性の割合をみると、2010年において大卒者で係長級以上の役職では 9.0%、

課長級以上の役職では 6.2%とその割合は非常に低い41。人的資本投資の期待される収益率

は、就業する確率が高く、より多くの時間働くと予測される者でより高い。しかし、女性

は男性よりも相対的に経験年数が短く、短時間で働く者が多く、離職性向が高い傾向にあ

る。不完全情報の下では、使用者(雇用主)が得ることのできる労働者のスキル、離職性

向、生産性といった情報が限られている。よって、使用者は労働者の生産性や行動を、労

働者の属するグループの統計的な特性から予測し、評価するという行動が生じる。こうい

った行動により、企業が女性よりも男性により投資をした場合、女性が市場で価値のある

スキルを得る機会(たとえば、女性が受ける教育の質、専攻、大学教育へのアクセス、ト

レーニング機会)が相対的に少なくなるという状況が生じる。機会が限られていることに

より、女性の平均的な学歴やスキルが男性よりも低くなる。また、機会が限られているこ

とは離職を誘発する要因にもなる(Gronau(1988))42。より詳しくは、Altonji and Blank,

38 本稿は、内閣府経済社会総合研究所「少子化と夫婦の就労状況・生活環境に関する意識

調査」(2014)を用いた分析例として、速報性を重視し暫定的にまとめたものである。デー

タの提供をいただいた内閣府経済社会総合研究所に厚く御礼申し上げる。本稿のありうべ

き誤りは、全て筆者の責任である。 39 人口に占める正規の職員・従業員と会社などの役員の割合を指す。 40個人は、働くか働かないかを決める際に、市場で提示される賃金(賃金オファー)と市場

での就業を選択するために最低限ほしい賃金(以下、留保賃金)を比較する。𝑦∗ を留保賃

金、𝑦を賃金オファーとすると、女性が就業するのは、𝑦∗ < 𝑦 のときである。𝑦∗が上がる

と就業確率が低下し、𝑦が上昇すると就業確率が高まる。労働市場における女性の賃金オフ

ァーが男性のそれよりも低く、子育て責任を担う多くの女性の家庭内労働に費やす時間の

価値が高いこと(つまり、𝑦∗が高いこと)により、女性の就業率は男性よりも低いと考えら

れている。 41 企業規模 100 人以上の数値である。尚、厚生労働省「平成 24 年版 働く女性の実情」を

参考にした。 42 さらに、家事・育児のために労働市場から退出する期間があることは、その間に人的資

本が磨耗することを意味するため、女性の相対賃金を引き下げることが指摘されている

(Mincer and Polachek, 1974)。

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1999 などを参照されたい43。 本稿では、いまだに低い女性の正規就業継続率とキャリア初期における人材育成との関

係を検証する。具体的には、女性が受ける企業の能力開発投資のうち、入社初期の仕事中

における人材育成つまりOJT(On-the-Job Training)をだれが受けているのか、そしてOJTがその後の正規就業継続と賃金に及ぼす影響について、内閣府経済社会総合研究所「少子

化と夫婦の就労状況・生活環境に関する意識調査」(2014)を用いて検証する44。厚生労働

省職業能力開発局「能力開発基本調査」の定義に従うと、能力開発の種類には大きく分け

てOJT、計画的OJT45、OFF-JT、自己啓発の4つがある。本稿で注目するのはOJTであり、

業務の中で生じる上司や同僚からの指導、様々な仕事経験などを指す46。多くの日本企業は

研修やOJTを通じて企業特殊的技能を身につける機会を提供する47。特に、キャリア初期に

おける人的資源投資がその後のキャリア形成に重要であることが指摘されている(黒澤・

原(2010)、玄田・堀田(2010)等)。訓練機会が十分でない場合、技能の習得が遅れ、その後

の昇進や賃金に影響を及ぼす可能性がある。具体的に注目するOJTの項目は、初期キャリ

アにおける仕事の割り振りや経験であり、たとえばやってみたいポストへの異動、昇級、

アイデアや企画を提案する機会があったかどうかである。ここで、OJTの効果を計測する

にあたり、個々人の就業意欲や能力は異なることが問題となる。もともと就業意欲や能力

の高い者が高い投資を受けていたり、就業しやすい職場を選択しているようであれば、OJTの効果の過大評価をしてしまうことになる。本稿では、こういった個人の就業意欲の代理

変数として、学卒時における就業継続意欲を用いる48。 本稿の構成は以下の通りである。まず第2節で関連する先行研究をレビューし、その後、

どういった属性を持つ女性が入社 5 年間の間に OJT を受けているのかについて記述的に比

較する。最後に OJT と正規就業継続や賃金の関係について検証する。 2 先行研究のレビュー

2-1 就業継続に関する研究 女性の就業継続の規定要因については、育児休業制度などの両立支援制度の影響を検証

したものが多い。たとえば,樋口(1994)は,1987 年の「就業構造基本調査」から学卒後正規

就業した経験のある 25-29 歳の女性を対象として,制度のある企業に勤める者の有配偶率と

43 労働市場における男女差については朝井(2014b)を参照されたい。 44本調査は、サンプルサイズ割付によるインターネット調査である。その問題点については、

3-1 節を参照されたい。尚、本稿では補正を行っていないことに留意されたい。 45計画的 OJT は教育訓練に関する計画書を作成するなど内容や期間を具体的に決めて指導

することを指す 46能力開発について詳しくは、佐藤(2012)、原(2014)などを参照されたい。 47 ただし、研修や OJT の機会は企業によって異なる。 48 先行研究では、学業成績を能力の代理変数として用いているが、本調査では項目がない。

また、内生性に対処する方法として、操作変数法の使用を検討したが、用いることができ

なかった。

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継続就業率が制度のない企業に勤める者よりも高いことを明らかにした.滋野・大日(1998)

は,家計経済研究所「消費生活に関するパネル調査(JPSC)」から,1993 年に就業しかつ無

配偶の女性について,育休がある企業とない企業に勤める者の 1994 年の継続就業率を比較

し,制度が無配偶女性の継続就業を促す効果があることを明らかにした.駿河・張(2003)

は,JPSC の 1993-1997 年のデータから,有配偶の就労女性について勤め先に制度がある場

合に,出生率と継続就業確率が高まることを明らかにした.今田・池田(2006)は,労働政策

研究・研修機構「仕事と生活調査」(2005)から,制度は,親族援助や保育所の利用と組み合わ

されることで,継続就業確率を高める可能性があることを明らかにした.佐藤・馬(2008)

は,「慶應義塾家計パネル調査」の 2004 年データを使用し,制度がある職場に勤める女性

は,制度がない職場に勤める女性に比べて継続就業確率が高いことを明らかにした。しか

しながら、多くの先行研究では、就業選好のある女性が制度のある企業もしくは制度を利

用しやすい企業を選択したことによるセレクションバイアスを取り除いた上で就業確率へ

の影響を推定していない。育休取得率は、企業によって大きく異なり、取得が容易な企業

とそうではない企業があること、そして学生は育休の取得率を就職活動の際に考慮してい

る可能性があることを鑑みると、バイアスは大きいと考えられる。こういった問題を除去

した上で育児休業制度の効果を検証したものとしては、Asai(2014),朝井(2014a)が挙げら

れる。Asai(2014)は,就業構造基本調査から 1995 年と 2001 年の育児休業給付金増額の効果

を擬似実験の手法を用いて検証し,女性の就業継続を押し上げる効果はなかったことを示

した.また,朝井(2014 a)は,「慶應義塾家計パネル調査」を用いて育児休業職場復帰給

付金の給付率を休業前平均賃金の 10%から 20%に引き上げた 2007 年改正の政策効果を検

証し,女性の就業継続に影響がなかったことを明らかにしている。育児休業制度は短期的に

見ると就業継続を押し上げる効果がなかった可能性がある。

2-2 人材育成に関する先行研究49

黒澤・原(2010)は、学卒後正社員として入職した者について、学卒後の最初の3年間にお

ける OJT が離職確率に及ぼす効果を推定した。具体的には、「仕事をやり遂げたと実感し

た経験や仕事が自分に向いていると感じたことがあったかどうか」、「指導やアドバイスを

した経験」、「ロールモデルがいたかどうか」が、その後の就業を継続することを明らかに

した。一方、「将来のキャリアについて相談できる雰囲気」、「互いに助け合う雰囲気」、「他

社と比べて能力開発に積極的」な場合には、女性の就業継続を阻害する可能性を指摘した。

彼女らの研究では、入社前の個人の就業意欲の代理変数として出身高校の進学率や中卒時

49関連する調査としては、独立行政法人 労働政策研究・研修機構「若年者の離職理由と職

場定着に関する調査」(2007)が挙げられる。就職の際の重視条件と前職の離職理由の関係

を見てみると、就職の際の重視条件として「仕事の内容」(37.1%)を挙げるものがもっと

も多い。中途採用者について、前職の離職理由を見てみると、「能力開発の機会が少ない」

(53.8%)、「キャリアアップするため」(51.8%)、「仕事自体への不満関連(45.7%)」とな

っている。能力開発の機会が十分に与えられたとすれば、離職を引き下げる可能性がある。

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の成績を用いている。個人の就業意欲を考慮した上でも同じ結果が出るかどうかは明らか

でない。黒澤・大竹・有賀 (2007)は、OJT は労働者の生産性と賃金に統計的に有意な効果

を持っていないことを指摘した。彼らの研究では OJT を監督職の時間配分、業務に習熟し

ていない従業員の比率、新規採用者が仕事に習熟するまでの期間、訓練の時間数から計測

している。原(2014)は、OJT の生産性と賃金上昇に及ぼす効果について検証し、正社員に

ついて OJT により、仕事能力が向上し、仕事の範囲・レベル・責任も高まることを明らか

にした。一方、賃金上昇については、個別 OJT による効果は見られないものの、OJT 数で

見た受講密度が高いことが賃金上昇をもたらすことを明らかにした。 先行研究では、OJT については一貫した結果が得られていないが、Off-JT や自己啓発に

ついてはある程度一貫している。黒澤・大竹・有賀 (2007)は、事業所を対象にした調査か

ら、Off-JT が労働者の生産性と賃金を有意に引き上げていることを明らかにした。黒澤 (2010)は、初職以降の自己啓発や Off-JT 訓練歴が就業率と収入に及ぼす影響を検証し、女

性について最近の Off-JT が就業確率を高めること、10 年前から最近にかけての自己啓発が

収入を有意に高めることを明らかにした。一方、10 年以上前の Off-JT には就業確率を低下

させる効果があることを指摘した。原(2014)は、Off-JT の受講密度が高いことが賃金上昇

をもたらすことを明らかにした。Kawaguchi(2006)は、企業はより学歴の高い者に Off-JTの機会を与える傾向にあること、1年前の Off-JT により賃金が上昇することを示した。

Kurosawa(2001)は、北九州の企業と従業員のマッチングデータを使用して、1年前のOJT、Off-JT、自己啓発の効果を検証し、OJT は賃金上昇を有意に説明するのに対し、Off-JT と

自己啓発は賃金上昇をもたらさないことを示した。吉田(2004)は、女性労働者の自発的

な自己啓発がその後の賃金に与える影響を分析し、自己啓発を行っても月収は変化しない

が、通学・通信講座の受講が 4 年後の収入上昇に寄与することを明らかとした。奥井(2002)は仕事能力の向上を目的とした通信教育の受講は、2 年後の賃金を上昇させることを明らか

とした。平野(2007)は、通信教育による自己啓発が女性の就業確率を上げる効果を持つ

ことを明らかにした。戸田・樋口(2005)は女性については高学歴者ほど教育訓練を受講する

こと、97 年以降では Off-JT を受けることで 1 年後の離職率が下がり、賃金上昇率も高まる

ことを明らかにした。阿部・黒澤・戸田(2005)は、教育訓練給付制度の効果を検証し、

給付金を過去に受給することは賃金を高めないが、自己啓発は賃金にプラスの効果がある

ことを指摘している。これらの研究をまとめると、人的資本の期待収益率の高いものほど

訓練を受ける傾向にあり、特に近年の Off-JT と自己啓発が就業確率と賃金を高めるといえ

よう。 本稿では、黒澤・原(2010)の枠組みに従い、OJTについて就業継確率と賃金への効果を検

証する。本稿は以下の 2 つの点で先行研究とは異なる。第一に、就職前における個人の就

業意欲を統制することで、もともと就業意欲の高い者が就業しやすい職場を選択すること

による効果の過大評価を極力縮小することを試みた50。第二に、OJTの中でも「初期キャリ

50 ただし、データの制約上、課題もある。詳細は 7 節を参照されたい。

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アにおける仕事の割り振りや経験」に注目している。具体的には、やってみたいポストへ

の異動、昇級、アイデアや企画を提案する機会があったかどうか等、キャリア初期の段階

において女性の活躍を促進すると考えられる人員配置が行われていたかどうかである。 3 データと記述的分析

3-1 データ

分析には内閣府経済社会総合研究所「少子化と夫婦の就労状況・生活環境に関する意

識調査」(2014)51を用いる。調査の設問項目等の詳細については、本報告書の前半部分

を参照されたいが、サンプル割り付けによるインターネット調査である。大きく分けて 3つの母集団を対象としている(1)子どものいない有配偶女性(無職を除く)、(2)子

ども数が 1 人で、子どもの年齢が 6 歳未満である有配偶女性、(3)子ども数が 2 人以上

で、末子の年齢が 6 歳未満である有配偶女性。よって、(1)から(3)のグループを分

けて分析を行う。ただし、就業形態(無職、有期、正規)別にも割り付けをしている。

対象年齢は 25 歳以上 40 歳未満である。調査の設計や標本抽出の面で欠点は多々あるも

のの、利点をあげるとすれば、近年における有配偶女性の意識を捉えているという点、

子どもがいる有配偶就業女性のサンプルサイズが他の調査と比較して大きい点である。

以上の理由から、本稿の結果を解釈する際は、注意が必要であることを指摘しておきた

い。

3-2 記述的分析

分析の対象は、学卒時に正規就業していた者とする。グループ別・現在の就業形態別

に学卒時点における就業形態を見たものが表1である。現在無職の有配偶女性のうち、

約70%は学卒後に正規の職員として働いていた。現在有期の有配偶女性も同様で、約65%~70%が学卒後は正規の職員として働いていたことがわかる。公的統計と同じく、出産

を経験した 7 割程度の女性が離職している現状がみてとれる。

51 実査は 2013 年 11 月

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表 1 グループ別 学卒時点の就業形態

次に OJT の経験についてみてみる。OJT の指標としては、「あなたは最初に勤めてから

5年ぐらいのうちに、以下のような経験をしたことがありますか。」という設問を用いる。

「仕事の割り振り」に関する項目は以下の通りである。

(1)仕事で自分のアイデアや企画を提案する機会があった

(2)昇級や昇進、職種転換の機会があった

(3)やってみたい仕事やポストに異動する機会があった

これらに加え、黒澤・原(2010)でも検証されている項目に関連する以下の項目についても効

果を検証する。これらは、上司の部下に対する成長期待を意味する。 (4)仕事で期待されたり、頼られていたりすると感じたことがあった (5)仕事を通じて、自分の技術や能力を伸ばし、自分が成長していることを実感した (6)自分にとってのロールモデルとなるような女性の先輩がいた 学卒時点の就業状態が、正規就業であったものについて、グループ別に、就職してから 5

年間の間に各項目について経験したと回答した割合を見たものが表 2 である。大きな差は

みられないが、現在正規であるものは、仕事の割り振りに関する OJT を経験した者が多い

ようにみえる。

正規 有期 正規 有期 無職 正規 有期 無職

学卒時の就業形態 正規職員 85.3 65.2 83.9 67.5 73.3 84.7 70.9 73.2 有期雇用 9.9 29.1 10.6 27.5 18.6 10.1 21.9 17.4 自営業主 4.8 0.5 0.5 0.5 1.4 0.4 1.2 1.2 無職 0.0 5.2 5.0 4.5 6.7 4.9 6.1 8.2サンプルサイズ 1300 1300 1300 1300 1300 1300 1300 1300

子ども0人 6歳未満子ども1人 6歳未満子ども2人以上

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表2 グループ別 就職後 5 年間の経験

学卒時における就業意欲の設問文は、「あなたが、最後に学校を卒業した時点で理想とし

ていたライフコースは、以下のどれに当たりますか。」である。労働者の入職前における潜

在的能力の違いをコントロールする。選択肢のうち、「結婚するが子どもを持たず、仕事を

続ける」「結婚し、子どもを持つが、仕事も続ける」を就業意欲が高いグループとみなし、

結婚あるいは出産で退職することを希望していたグループを就業意欲が低いと考える52。表

3は就業意欲をみたものである。6歳未満の子どもを持ち、かつ現在正規就業している者は、

学卒時の就業意欲が高い傾向にある。回答者の属性は表4の通りである。学卒時に正規就

業し、現在も正規就業している者は高学歴者と大企業で多い。

52 希望の仕事に就くことができたために、就業意欲が高いという可能性も考えられるが、

本稿ではこの点については検証しない。

6歳未満子ども2人以上

正規 有期 正規 有期 無職 正規 有期 無職

(1)仕事で自分のアイデアや企画を提案する機会

33.6 28.8 38.1 34.1 34.0 30.9 23.9 28.2

(2)昇級や昇進、職種転換の機会

28.0 24.7 30.7 26.7 27.5 23.9 20.9 21.8

(3)やってみたい仕事やポストに異動する機会

14.3 12.8 14.1 12.5 13.8 12.2 11.2 10.0

(4)仕事で期待されたり、頼られていると感じたことがあった

55.6 56.1 63.2 59.0 62.2 53.0 53.5 53.6

(5)仕事を通じて技術や能力を伸ばし成長していることを実感

47.0 48.4 49.7 52.3 47.8 44.8 46.2 44.4

(6)ロールモデルとなるような女性がいた

19.0 21.6 25.1 23.5 24.6 23.7 22.1 23.8

サンプルサイズ 1,109 847 1,091 878 953 1,101 922 952

OJT経験

子ども0人 6歳未満子ども1人

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表3 グループ別 学卒時の就業意欲

表4 グループ別回答者の属性

6歳未満子ども2人以上

正規 有期 正規 有期 無職 正規 有期 無職

就業意欲あり 56.6 44.4 66.2 48.1 30.4 65.1 41.9 25.0サンプルサイズ 1,109 847 1,091 878 953 1,101 922 952

子ども0人 6歳未満子ども1人

6歳未満子ども2人以上

正規 有期 正規 有期 無職 正規 有期 無職

高卒以下 14.8 19.7 11.0 17.3 15.1 16.4 24.2 19.2高専・短大 27.9 32.8 27.1 38.4 39.8 32.7 43.9 40.4大学以上 57.0 46.9 60.9 42.7 44.5 50.4 31.6 40.2その他 0.4 0.6 1.0 1.6 0.6 0.5 0.3 0.1年齢 33.2 34.0 32.4 33.2 32.9 34.2 34.9 34.2勤続年数 6.8 2.9 7.3 2.4 8.1 2.6現職の企業規模100人未満 43.0 32.4 31.5 42.0 37.9 45.6100~300人未満 14.3 12.5 13.9 12.3 13.4 14.1300~500人未満 6.1 5.9 8.1 5.4 7.9 4.9500~1000人未満 6.4 8.6 11.3 6.7 6.9 5.41000人以上 22.4 22.6 25.9 16.6 22.5 15.0官公庁 4.5 3.5 7.1 3.3 8.5 2.4わからない 3.3 14.5 2.2 13.7 3.0 12.7初職の企業規模100人未満 36.5 34.2 26.8 40.4 36.4 31.8 42.5 37.0100~300人未満 15.1 17.5 14.7 18.0 19.0 14.2 16.7 16.3300~500人未満 7.8 9.2 10.0 8.4 9.9 9.4 8.6 10.9500~1000人未満 6.0 8.5 10.7 7.7 7.6 9.3 8.1 8.41000人以上 25.6 22.2 28.9 17.4 20.8 24.0 16.3 20.7官公庁 4.6 1.3 6.7 1.3 2.8 7.9 0.9 2.2わからない 4.4 7.1 2.3 6.7 3.6 3.5 6.9 4.5都道府県完全失業率 4.0 3.9 3.9 4.0 4.0 3.9 4.0 3.9サンプルサイズ 1,109 847 1,091 878 953 1,101 922 952

属性

子ども0人 6歳未満子ども1人

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73

4 だれが入職5年間にOJTを受けているのか

以下ではまず、どういった個人属性を持つ女性が入職5年間にOJTを受けているのかを明

らかにする。先行研究では、人的資本からの期待収益の高いものがより訓練を受ける傾向

にあることが指摘されている。OJTの(1)から(6)の項目53について、経験する確率を

推定したものが表5-1から5-3である。具体的には、「経験した場合」を1として、経

験確率のプロビットモデル推定を行った。コントロール変数は、学歴(高卒以下、高専・

短大、大学以上、その他)、年齢、年齢自乗、学卒時の企業規模である。これに加えて、入

社当時の個人の就業意欲の影響も見た。より長く働く意欲を持つ者の人的資本からの期待

収益は高いと考えられるからである。以下ではグループ別に結果を概観する。 まず、6歳未満の子どもを1人持つ女性を見てみると、就業意欲の高い者について(1)、

(3)、(4)、(5)の経験をする確率がそれぞれ約4%高い(表5-1)。また、特に(1)

の経験について大卒以上の学歴のもので経験する傾向にある。年齢は若い世代でより経験

する傾向にある。企業規模を見てみると、(1)については官公庁で高いのに対し、それ以

外では大きな差はない。(2)~(6)については企業規模の大きいところで経験をする傾

向にある。

次に、末子6歳未満の子どもを持ち、子ども数が2人以上の有配偶女性についてみてみ

る。コントロール変数には子どもの数を加えている(表5-2)。就業意欲の高い者で、(1)

から(5)を経験する確率が高い。また、学歴の高い者や 500人以上の企業規模の企業に

就職した者で、(2)、(4)、(6)を経験する傾向にある。

最後に、子どものいない女性を見てみると、大卒以上の学歴の者や就業意欲が高い者ほ

ど(1)を経験する。企業規模による違いは確認されない(表5-3)。また、年齢は低い

ところと高いところで経験が低くなっている。(2)から(6)の経験については、学卒時

の企業規模が大きいほど経験する傾向にある。また、学歴の高いものほど(4)、(5)を

経験している。学卒時の就業意欲が高いものは(4)を経験する傾向にある。

以上の結果から、企業はより人的資本からの収益率の高い者や、今後長く働くことが予

測されるもの(つまり、就業意欲が高い者)に対して、OJT の機会を提供していることが

わかった。この結果は先行研究とも整合的である。

53(1)仕事で自分のアイデアや企画を提案する機会 (2)昇級や昇進、職種転換の機会があった (3)やってみたい仕事やポストに異動する機会があった (4)仕事で期待されたり、頼られていたりすると感じたことがあった (5)仕事を通じて、自分の技術や能力を伸ばし、自分が成長していることを実感した (6)自分にとってのロールモデルとなるような女性の先輩がいた

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74

表5-1 入社5年間の経験のプロビットモデル推定(6歳未満の子どもが一人いる有配

偶女性)

注:10%で有意*、5%で有意**、1%で有意***

経験は以下の通りである:

(1)仕事で自分のアイデアや企画を提案する機会

(2)昇級や昇進、職種転換の機会があった

(3)やってみたい仕事やポストに異動する機会があった

(4)仕事で期待されたり、頼られていたりすると感じたことがあった

(5)仕事を通じて、自分の技術や能力を伸ばし、自分が成長していることを実感した

(6)自分にとってのロールモデルとなるような女性の先輩がいた

子ども1人 経験(1) 経験(2) 経験(3) 経験(4) 経験(5) 経験(6)

学卒時の就業意欲 0.043** 0.028 0.033** 0.037** 0.038** 0.002(0.018) (0.017) (0.013) (0.018) (0.019) (0.016)

高専・短大(ref 高卒) 0.051* 0.019 0.008 0.029 0.063** 0.104***(0.030) (0.027) (0.021) (0.028) (0.029) (0.028)

大学以上 0.131*** 0.033 0.011 0.060** 0.066** 0.083***(0.028) (0.026) (0.020) (0.028) (0.029) (0.026)

その他 0.306*** -0.106 0.073 0.118 0.123 0.184* (0.086) (0.072) (0.078) (0.081) (0.089) (0.094)

年齢 0.120*** 0.029 0.033 0.089** 0.059 0.008(0.042) (0.040) (0.030) (0.042) (0.044) (0.037)

年齢自乗 -0.002*** 0.000 0.000 -0.002** -0.001 0.000(0.001) (0.001) (0.000) (0.001) (0.001) (0.001)

100~300人未満(ref 100人未満) -0.012 0.01 0.000 0.022 0.027 0.04(0.027) (0.026) (0.019) (0.026) (0.028) (0.025)

300~500人未満 -0.003 0.012 0.011 0.04 0.003 0.072** (0.033) (0.032) (0.025) (0.032) (0.034) (0.032)

500~1000人未満 0.021 0.085** 0.042 0.094*** 0.102*** 0.090***(0.034) (0.034) (0.027) (0.032) (0.035) (0.034)

1000人以上 0.033 0.138*** 0.049** 0.078*** 0.044* 0.067***(0.025) (0.025) (0.019) (0.024) (0.026) (0.024)

官公庁 0.092* 0.076 0.122*** 0.057 0.125** 0.270***(0.051) (0.050) (0.045) (0.048) (0.050) (0.052)

わからない -0.113** -0.116*** -0.042 -0.129*** -0.173*** -0.063(0.044) (0.039) (0.030) (0.050) (0.047) (0.041)

対数尤度 -1849.56 -1706.74 -1139.77 -1905.55 -1994.58 -1577.2サンプルサイズ 2921 2921 2921 2921 2921 2921

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表5-2 入社5年間の経験のプロビットモデル推定(6歳未満の子どもがいる&子ども

が2人以上いる有配偶女性)

注:10%で有意*、5%で有意**、1%で有意***

経験は以下の通りである:

(1)仕事で自分のアイデアや企画を提案する機会

(2)昇級や昇進、職種転換の機会があった

(3)やってみたい仕事やポストに異動する機会があった

(4)仕事で期待されたり、頼られていたりすると感じたことがあった

(5)仕事を通じて、自分の技術や能力を伸ばし、自分が成長していることを実感した

(6)自分にとってのロールモデルとなるような女性の先輩がいた

子ども2人以上 経験(1) 経験(2) 経験(3) 経験(4) 経験(5) 経験(6)

学卒時の就業意欲 0.072*** 0.038** 0.049*** 0.061*** 0.056*** 0.017(0.017) (0.016) (0.012) (0.019) (0.019) (0.016)

高専・短大(ref 高卒) 0.078*** -0.007 0.002 0.081*** 0.099*** 0.074***(0.025) (0.022) (0.017) (0.025) (0.026) (0.023)

大学以上 0.151*** 0.041* 0.022 0.087*** 0.119*** 0.029(0.025) (0.022) (0.017) (0.026) (0.026) (0.023)

その他 0.035 0.010 0.205 -0.162 0.049(0.161) (0.108) (0.141) (0.157) (0.163)

年齢 -0.004 0.000 0.049 0.055 -0.033 0.014(0.046) (0.043) (0.032) (0.051) (0.051) (0.043)

年齢自乗 0.000 0.000 -0.001 -0.001 0.000 0.000(0.001) (0.001) (0.000) (0.001) (0.001) (0.001)

100~300人未満(ref 100人未満) -0.023 0.034 0.023 -0.009 -0.008 0.007(0.024) (0.024) (0.019) (0.028) (0.028) (0.024)

300~500人未満 -0.035 -0.046* -0.007 0.036 0.070** 0.03(0.029) (0.026) (0.021) (0.033) (0.034) (0.030)

500~1000人未満 0.049 0.063** 0.007 0.096*** 0.068* 0.118***(0.033) (0.032) (0.023) (0.034) (0.035) (0.034)

1000人以上 0.027 0.116*** 0.027 0.066*** 0.009 0.102***(0.023) (0.023) (0.017) (0.025) (0.025) (0.024)

官公庁 0.031 -0.016 -0.015 -0.073 -0.03 0.157***(0.045) (0.040) (0.028) (0.050) (0.049) (0.049)

わからない -0.03 -0.026 0.006 -0.078* -0.141*** -0.026(0.040) (0.037) (0.030) (0.045) (0.042) (0.038)

子どもの数 -(0.003) -(0.005) (0.007) -(0.002) -(0.006) (0.021)(0.017) (0.016) (0.012) (0.019) (0.019) (0.015)

対数尤度 -1710.88 -1542.17 -1024.96 -2025.64 -2014.03 -1583.43サンプルサイズ 2974 2965 2974 2974 2974 2974

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表5-3 入社5年間の経験のプロビットモデル推定(子どものいない有配偶女性)

注:10%で有意*、5%で有意**、1%で有意***

経験は以下の通りである:

(1)仕事で自分のアイデアや企画を提案する機会

(2)昇級や昇進、職種転換の機会があった

(3)やってみたい仕事やポストに異動する機会があった

(4)仕事で期待されたり、頼られていたりすると感じたことがあった

(5)仕事を通じて、自分の技術や能力を伸ばし、自分が成長していることを実感した

(6)自分にとってのロールモデルとなるような女性の先輩がいた

子どもなし 経験(1) 経験(2) 経験(3) 経験(4) 経験(5) 経験(6)

学卒時の就業意欲 0.038* 0.021 0.020 0.040* 0.035 0.001(0.021) (0.020) (0.016) (0.023) (0.023) (0.018)

高専・短大(ref 高卒) 0.042 -0.088*** 0.005 0.042 0.075** 0.024(0.034) (0.029) (0.025) (0.034) (0.035) (0.029)

大学以上 0.141*** 0.006 0.025 0.136*** 0.120*** 0.024(0.030) (0.028) (0.022) (0.032) (0.032) (0.026)

その他 0.124 -0.01 0.071 -0.049(0.167) (0.169) (0.166) (0.127)

年齢 -0.112** 0.027 -0.015 -0.072 -0.059 -0.053(0.049) (0.047) (0.035) (0.054) (0.053) (0.041)

年齢自乗 0.002** 0.000 0.000 0.001 0.001 0.001(0.001) (0.001) (0.001) (0.001) (0.001) (0.001)

100~300人未満(ref 100人未満) -0.002 0.044 0.038 0.033 0.009 0.03(0.032) (0.033) (0.026) (0.034) (0.034) (0.030)

300~500人未満 0.036 0.103** 0.074** 0.125*** 0.094** 0.151***(0.042) (0.043) (0.036) (0.041) (0.043) (0.043)

500~1000人未満 0.014 0.109** 0.027 0.115*** 0.099** 0.102** (0.044) (0.046) (0.036) (0.044) (0.047) (0.044)

1000人以上 0.037 0.160*** 0.065*** 0.055* 0.082*** 0.093***(0.029) (0.030) (0.024) (0.030) (0.031) (0.027)

官公庁 -0.017 0.082 0.02 -0.062 0.019 0.180***(0.062) (0.066) (0.051) (0.067) (0.067) (0.067)

わからない -0.164*** 0.002 0.043 -0.137*** -0.132*** -0.007(0.039) (0.048) (0.042) (0.052) (0.050) (0.043)

対数尤度 -1180.51 -1095.49 -767.336 -1296.06 -1324.05 -957.674サンプルサイズ 1956 1947 1947 1956 1956 1956

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77

5 正規就業確率の推定

以下では、卒業してから 5 年間の経験の正規就業継続に及ぼす影響を検証する。OJTの機会が十分に得られないことが、離職の一要因となっているのであろうか。具体的には、「現

在正規の職員である場合」を 1 として、正規就業のプロビットモデルモデル推定を行う。

コントロール変数は、学歴(高卒以下、高専・短大、大学以上、その他)、年齢、年齢自乗、

学卒時の企業規模、都道府県別完全失業率54、学卒時の就業意欲である。 まず、6歳未満の子どもを1人持つ女性を見てみると、大学卒の女性や大企業・官公庁

に就職した女性で、調査時点に正規就業している確率が高い(表6-1)。さらに、学卒時

の就業意欲が高いほど、就業確率が高い。一方、OJTの経験はどれも統計的に有意に離職を

引き下げていない。「(5)仕事を通じて、自分の技術や能力を伸ばし、自分が成長してい

ることを実感した」については、正規就業確率を引き下げている。(5)の経験があったと

しても、結婚や出産後に就業継続できる職場環境が整っていない等の理由で、離職した女

性がいることを示唆している。尚、推定結果は割愛するが、経験(1)~(6)を同時に

モデルに導入した場合にも推定結果には大きな変化がなかった。

次に、末子6歳未満の子どもを持ち、子ども数が2人以上の有配偶女性についてみてみ

ると、子ども 1人の女性と同じく就業意欲が高く、高学歴の女性がより就業していること

がわかる(表6-2)。企業規模を見てみると、特に、初職が官公庁である場合に、現在正

規就業している確率が高い。OJTの経験は(4)と(5)が就業確率にマイナスの影響を及

ぼしていた。

最後に子どものいない女性についてみてみる(表6-3)。就業意欲の効果は、子どもの

いる女性よりも小さいが、正規就業確率にプラスの影響を及ぼしている。企業規模を見て

みると、100人未満の企業と比較して、官公庁以外では就業継続確率が低い。本稿ではその

要因について検証することはできないが、労働環境などが要因となっている可能性はある。

OJT の経験は(6)が就業にマイナスの効果を有していた。

ではなぜ入職時における OJT 経験がその後の正規就業を引き上げる効果が確認されなか

ったのであろうか。正規就業を辞めて、現在は無職である者について、「再就職にあたって

心配なこと、不安なこと」を聞いた設問の集計結果が表7である。約7割が仕事と生活を

両立できるかどうかについて不安を持っていることがわかる。また、「子どものことが心配

である」と回答する者が約 8 割いる。初職の職場環境では、育児との両立が難しかったた

めに、離職を選択せざるを得なかった可能性を示唆している。

54 労働力調査から 2013 年の数値を用いた。

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78

表6-1 調査時点正規就業のプロビットモデル推定(6歳未満の子どもが一人いる有配

偶女性)

注:10%で有意*、5%で有意**、1%で有意*** カッコ内は標準誤差

子ども1人 (1) (2) (3) (4) (5) (6)学卒時の就業意欲 0.226*** 0.226*** 0.227*** 0.227*** 0.228*** 0.226***

(0.018) (0.018) (0.018) (0.018) (0.018) (0.018)高専・短大(ref 高卒) -0.004 -0.004 -0.004 -0.004 -0.002 -0.001

(0.030) (0.030) (0.030) (0.030) (0.030) (0.030)大学以上 0.093*** 0.092*** 0.093*** 0.093*** 0.095*** 0.094***

(0.029) (0.029) (0.029) (0.029) (0.029) (0.029)その他 0.02 0.018 0.021 0.02 0.024 0.023

(0.094) (0.094) (0.094) (0.094) (0.095) (0.095)年齢 -0.017 -0.018 -0.017 -0.016 -0.015 -0.017

(0.043) (0.043) (0.043) (0.043) (0.043) (0.043)年齢自乗 0.000 0.000 0.000 0.000 0.000 0.000

(0.001) (0.001) (0.001) (0.001) (0.001) (0.001)100~300人未満(ref 100人未満) 0.005 0.005 0.005 0.005 0.006 0.006

(0.028) (0.028) (0.028) (0.028) (0.028) (0.028)300~500人未満 0.076** 0.076** 0.076** 0.076** 0.076** 0.078**

(0.035) (0.035) (0.035) (0.036) (0.035) (0.036)500~1000人未満 0.127*** 0.126*** 0.128*** 0.128*** 0.131*** 0.129***

(0.037) (0.037) (0.037) (0.037) (0.037) (0.037)1000人以上 0.129*** 0.129*** 0.131*** 0.130*** 0.131*** 0.131***

(0.026) (0.026) (0.026) (0.026) (0.026) (0.026)官公庁 0.284*** 0.283*** 0.287*** 0.284*** 0.288*** 0.290***

(0.048) (0.048) (0.048) (0.048) (0.048) (0.048)わからない -0.103** -0.102** -0.104** -0.105** -0.108** -0.104**

(0.047) (0.047) (0.047) (0.047) (0.047) (0.047)都道府県完全失業率 -0.02 -0.02 -0.02 -0.02 -0.02 -0.019

(0.017) (0.017) (0.017) (0.017) (0.017) (0.017)経験(1) -0.005

(0.019) 経験(2) 0.003

(0.020) 経験(3) -0.029

(0.026) 経験(4) -0.016

(0.019) 経験(5) -0.038**

(0.019) 経験(6) -0.027

(0.022)対数尤度 -1763.696 -1763.726 -1763.147 -1763.386 -1761.618 -1762.972サンプルサイズ 2921 2921 2921 2921 2921 2921

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79

表6-2 調査時点正規就業のプロビットモデル推定(6歳未満の子どもがいる&子ども

が2人以上いる有配偶女性)

注:10%で有意*、5%で有意**、1%で有意***

子ども2人以上 (1) (2) (3) (4) (5) (6)学卒時の就業意欲 0.274*** 0.275*** 0.275*** 0.277*** 0.277*** 0.275***

(0.018) (0.018) (0.018) (0.018) (0.018) (0.018)高専・短大(ref 高卒) -0.003 -0.002 -0.002 0 0.001 -0.001

(0.026) (0.026) (0.026) (0.026) (0.026) (0.026)大学以上 0.072*** 0.073*** 0.073*** 0.076*** 0.077*** 0.073***

(0.027) (0.026) (0.026) (0.027) (0.027) (0.026)その他 0.254 0.255 0.254 0.26 0.248 0.255

(0.160) (0.160) (0.160) (0.160) (0.160) (0.161)年齢 -0.014 -0.014 -0.014 -0.012 -0.014 -0.013

(0.050) (0.050) (0.050) (0.050) (0.050) (0.050)年齢自乗 0.000 0.000 0.000 0.000 0.000 0.000

(0.001) (0.001) (0.001) (0.001) (0.001) (0.001)100~300人未満(ref 100人未満) -0.002 -0.002 -0.002 -0.002 -0.003 -0.002

(0.028) (0.028) (0.028) (0.028) (0.028) (0.028)300~500人未満 0.022 0.022 0.022 0.024 0.025 0.023

(0.034) (0.034) (0.034) (0.034) (0.034) (0.034)500~1000人未満 0.065* 0.065* 0.066* 0.069* 0.068* 0.068*

(0.036) (0.036) (0.036) (0.036) (0.036) (0.036)1000人以上 0.088*** 0.088*** 0.088*** 0.090*** 0.088*** 0.090***

(0.026) (0.026) (0.026) (0.026) (0.026) (0.026)官公庁 0.336*** 0.336*** 0.336*** 0.334*** 0.336*** 0.339***

(0.047) (0.047) (0.047) (0.047) (0.047) (0.047)わからない -0.020 -0.020 -0.020 -0.022 -0.024 -0.020

(0.045) (0.045) (0.045) (0.045) (0.045) (0.045)都道府県完全失業率 -0.005 -0.005 -0.005 -0.005 -0.006 -0.005

(0.016) (0.016) (0.016) (0.016) (0.016) (0.016)子ども数 0.013 0.013 0.013 0.013 0.012 0.013

(0.019) (0.019) (0.019) (0.019) (0.019) (0.019)経験(1) 0.004

(0.021) 経験(2) 0.003

(0.022) 経験(3) -0.003

(0.030) 経験(4) -0.034*

(0.019) 経験(5) -0.035*

(0.019) 経験(6) -0.018

(0.022)対数尤度 -1772.805 -1772.813 -1772.816 -1771.09 -1771.035 -1772.469サンプルサイズ 2974 2974 2974 2974 2974 2974

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表6-3 調査時点正規就業のプロビットモデル推定(子どものいない有配偶女性)

注:10%で有意*、5%で有意**、1%で有意***

子どもなし (1) (2) (3) (4) (5) (6)学卒時の就業意欲 0.109*** 0.109*** 0.109*** 0.111*** 0.111*** 0.110***

(0.023) (0.023) (0.023) (0.023) (0.023) (0.023)高専・短大(ref 高卒) 0.03 0.034 0.031 0.032 0.034 0.032

(0.034) (0.034) (0.034) (0.034) (0.034) (0.034)大学以上 0.083** 0.087*** 0.086*** 0.091*** 0.091*** 0.088***

(0.032) (0.032) (0.032) (0.032) (0.032) (0.032)その他 -0.079 -0.067 -0.073 -0.076 -0.072 -0.077

(0.172) (0.172) (0.172) (0.172) (0.171) (0.170)年齢 0.073 0.069 0.070 0.067 0.068 0.066

(0.053) (0.053) (0.053) (0.053) (0.053) (0.053)年齢自乗 -0.001 -0.001 -0.001 -0.001 -0.001 -0.001

(0.001) (0.001) (0.001) (0.001) (0.001) (0.001)100~300人未満(ref 100人未満) -0.062* -0.064* -0.063* -0.061* -0.062* -0.061*

(0.035) (0.035) (0.035) (0.035) (0.035) (0.035)300~500人未満 -0.086* -0.088** -0.086* -0.081* -0.081* -0.076*

(0.044) (0.044) (0.044) (0.044) (0.044) (0.044)500~1000人未満 -0.127*** -0.130*** -0.127*** -0.123*** -0.122** -0.121**

(0.047) (0.048) (0.047) (0.048) (0.048) (0.048)1000人以上 -0.018 -0.021 -0.018 -0.015 -0.013 -0.011

(0.031) (0.031) (0.031) (0.031) (0.031) (0.031)官公庁 0.224*** 0.222*** 0.224*** 0.224*** 0.226*** 0.233***

(0.059) (0.059) (0.059) (0.058) (0.058) (0.058)わからない -0.122** -0.127** -0.128** -0.131** -0.131** -0.127**

(0.052) (0.052) (0.052) (0.052) (0.052) (0.052)都道府県完全失業率 -0.001 0.001 0.001 0.002 0.003 0.001

(0.022) (0.022) (0.021) (0.021) (0.022) (0.022)経験(1) 0.029

(0.025)経験(2) 0.031

(0.026) 経験(3) 0.023

(0.033) 経験(4) -0.03

(0.023) 経験(5) -0.036

(0.023) 経験(6) -0.060**

(0.029)対数尤度 -1289.4 -1289.364 -1289.831 -1289.251 -1288.862 -1287.921サンプルサイズ 1956 1956 1956 1956 1956 1956

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表7 再就職にあたって心配なこと、不安なこと

注)初職が正規であったが、現在は無職の有配偶女性

6 賃金関数の推定 最後に、現在正規就業している者について、OJT経験が対数年間賃金55に及ぼす影響につ

いて推定する。ここで、OJTを受ける確率は、就業意欲や学歴といった個人の属性によっ

て異なる。単純に賃金を比較した場合、推定値は能力の高いものがOJTを受けていること

によるバイアスの影響を受けることとなる。この問題に対処するため、操作変数法を検討

したが、適当な操作変数が見つからなかった。よって、本稿では、OJTを受ける確率に影

響を与える変数をコントロール変数に用いた推定と、OJTを受ける確率を大きく左右する

就業意欲別の推定を行う。コントロール変数は、学歴(高卒以下、高専・短大、大学以上、

その他)、年齢、年齢自乗、勤続年数、勤続年数自乗、現在の企業規模、学卒時の就業意欲

である。 まず、6歳未満の子どもを1人持つ女性を見てみると、経験(2)、(3)、(5)が年間

賃金を高める要因であることがわかる。しかしながら、これらの経験は就業意欲がないも

のについて、統計的な効果を有していない。就業意欲と OJTの内生性が確認できる。就業

意欲のあるものに限ると、入社 5年間での昇級や昇進、職種転換の機会ややってみたい仕

事やポストへの異動の機会、仕事を通じて、自分の技術や能力を伸ばし、自分が成長して

いることを実感する経験は、賃金を高めている。もともと優秀なものが選抜され、このよ

うな経験をしているという可能性は否めないが、キャリア初期の人材配置がその後の賃金

に影響を及ぼしている可能性もあるといえよう。

末子6歳未満の子どもを持ち、子ども数が2人以上の有配偶女性については、経験(1)

が学卒時に就業意欲なしの者の賃金を高めている。キャリア初期の時点での「仕事で自分

のアイデアや企画を提案する機会」は、その後の就業意欲を高め、賃金を高める効果をも

たらした可能性も示唆されるが、この分析からはそれを確かめることはできない。また、

55 中央値を用いた。調査では、昨年度の年収を聞いているが、現在の収入はわからない。

一方、労働時間と就業日数は現在のものである。以上の理由から、時間あたり賃金率を用

いなかった。

子ども1人 子ども2人以上

就職後、仕事と生活を両立すること 71.19 70.28これまでの経験が活かせる仕事であるか 14.13 10.83子どものこと 77.09 79.34子どもの理解 24.03 27.51配偶者の理解 19.02 23.43サンプルサイズ 899 905

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経験(4)は、学卒時の意欲の有無に関わらず賃金を高めている。子どもを二人以上持ち、

かつ正規就業している女性は、労働市場へのアタッチメントが強く、観察されない能力も

高い可能性がある。こういった女性にとって、キャリア初期の段階で「仕事で期待された

り、頼られていたりすると感じるといった経験」は、その後の人材の成長に貢献する可能

性を示唆している56。子どものいない有配偶女性については、(5)の経験が意欲のある者

のみの賃金を高めている可能性が示唆された。ただし、繰り返しとなるが、学卒時の就業

意欲とOJT経験の内生性を完全に排除できていないため、結果の再検証が必要であることを

指摘しておきたい。

56 上司は、成長を期待できない部下には、能力開発機会を提供しないことになり、他の仕

事経験の機会を規定するということもできる。尚、子ども数によって結果が異なるが、サ

ンプルサイズ割付のため、子ども数別による単純な結果の比較はできない。

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表8-1 調査時点対数年間賃金の OLS 推定(6歳未満の子どもが一人いる有配偶女性)

注:10%で有意*、5%で有意**、1%で有意***

すべて 意欲あり 意欲なし すべて 意欲あり 意欲なし すべて 意欲あり 意欲なし すべて 意欲あり 意欲なし すべて 意欲あり 意欲なし すべて 意欲あり 意欲なし

OJTの経験あり 0.043 0.074 -0.029 0.108** 0.146*** 0.012 0.172*** 0.162** 0.200 0.016 0.062 -0.093 0.072* 0.106** -0.002 -0.002 0.027 -0.064(0.037) (0.042) (0.073) (0.039) (0.044) (0.079) (0.051) (0.056) (0.113) (0.037) (0.043) (0.072) (0.036) (0.041) (0.069) (0.041) (0.047) (0.082)

高専・短大(ref 高卒) 0.140*** 0.136*** 0.134*** 0.140*** 0.137*** 0.140*** (0.038) (0.038) (0.038) (0.038) (0.038) (0.038)

大学以上 0.261*** 0.240** 0.317** 0.263*** 0.253** 0.314** 0.258*** 0.237** 0.312** 0.264*** 0.250** 0.330** 0.262*** 0.248** 0.315** 0.265*** 0.244** 0.323** (0.064) (0.078) (0.114) (0.064) (0.078) (0.114) (0.064) (0.078) (0.113) (0.064) (0.078) (0.114) (0.064) (0.078) (0.114) (0.064) (0.079) (0.114)

その他 0.365*** 0.320*** 0.456*** 0.368*** 0.331*** 0.448*** 0.359*** 0.317*** 0.436*** 0.371*** 0.333*** 0.464*** 0.370*** 0.332*** 0.450*** 0.372*** 0.327*** 0.452***(0.061) (0.072) (0.114) (0.061) (0.072) (0.114) (0.061) (0.072) (0.113) (0.061) (0.072) (0.114) (0.061) (0.072) (0.114) (0.061) (0.072) (0.113)

年齢 0.355 0.132 0.955* 0.379* 0.175 0.952* 0.32 0.12 0.887* 0.368* 0.162 1.005* 0.346 0.128 0.951* 0.373* 0.156 0.963* (0.186) (0.205) (0.399) (0.185) (0.203) (0.399) (0.185) (0.204) (0.399) (0.186) (0.204) (0.400) (0.186) (0.204) (0.399) (0.186) (0.205) (0.399)

年齢自乗 -0.172* -0.154 -0.218 -0.175* -0.158 -0.223 -0.178* -0.157 -0.227 -0.169* -0.153 -0.21 -0.173* -0.155 -0.223 -0.167* -0.144 -0.217(0.085) (0.097) (0.169) (0.084) (0.096) (0.169) (0.084) (0.097) (0.168) (0.085) (0.097) (0.168) (0.084) (0.097) (0.169) (0.085) (0.097) (0.169)

勤続年数 0.003* 0.003 0.003 0.003* 0.003 0.003 0.003* 0.003 0.003 0.003* 0.003 0.003 0.003* 0.003 0.003 0.003* 0.003 0.003(0.001) (0.002) (0.003) (0.001) (0.001) (0.003) (0.001) (0.002) (0.003) (0.001) (0.002) (0.003) (0.001) (0.002) (0.003) (0.001) (0.002) (0.003)

勤続年数自乗 0.098*** 0.093*** 0.108*** 0.099*** 0.095*** 0.107*** 0.100*** 0.094*** 0.109*** 0.099*** 0.093*** 0.109*** 0.101*** 0.097*** 0.107*** 0.099*** 0.095*** 0.106***(0.015) (0.018) (0.027) (0.015) (0.018) (0.027) (0.015) (0.018) (0.027) (0.015) (0.018) (0.027) (0.015) (0.018) (0.027) (0.015) (0.018) (0.027)

100~300人未満 -0.004*** -0.004*** -0.003* -0.004*** -0.004*** -0.003* -0.004*** -0.004*** -0.004* -0.004*** -0.004*** -0.004* -0.004*** -0.004*** -0.003* -0.004*** -0.004*** -0.003*    (ref 100人未満) (0.001) (0.001) (0.002) (0.001) (0.001) (0.002) (0.001) (0.001) (0.002) (0.001) (0.001) (0.002) (0.001) (0.001) (0.002) (0.001) (0.001) (0.002)300~500人未満 0.098 0.094 0.082 0.097 0.089 0.082 0.105 0.102 0.088 0.098 0.095 0.084 0.096 0.096 0.082 0.098 0.091 0.087

(0.058) (0.067) (0.109) (0.057) (0.067) (0.109) (0.057) (0.067) (0.108) (0.058) (0.067) (0.109) (0.058) (0.067) (0.109) (0.058) (0.067) (0.109)500~1000人未満 0.083 0.073 0.087 0.08 0.063 0.087 0.084 0.079 0.072 0.078 0.061 0.084 0.078 0.065 0.086 0.079 0.06 0.085

(0.071) (0.083) (0.136) (0.071) (0.082) (0.136) (0.071) (0.082) (0.136) (0.071) (0.082) (0.136) (0.071) (0.082) (0.136) (0.071) (0.083) (0.136)1000人以上 0.214*** 0.239** 0.172 0.209*** 0.227** 0.172 0.216*** 0.244** 0.169 0.213*** 0.232** 0.175 0.208*** 0.232** 0.172 0.215*** 0.240** 0.174

(0.063) (0.074) (0.116) (0.063) (0.074) (0.116) (0.063) (0.074) (0.116) (0.063) (0.074) (0.116) (0.063) (0.074) (0.117) (0.063) (0.074) (0.116)官公庁 0.288*** 0.292*** 0.287** 0.271*** 0.272*** 0.282** 0.285*** 0.296*** 0.267** 0.289*** 0.289*** 0.293** 0.282*** 0.285*** 0.285** 0.290*** 0.294*** 0.285**

(0.049) (0.057) (0.094) (0.050) (0.057) (0.096) (0.049) (0.057) (0.094) (0.049) (0.057) (0.094) (0.049) (0.057) (0.095) (0.049) (0.057) (0.094)わからない 0.229** 0.300*** -0.072 0.224** 0.294*** -0.074 0.222** 0.300*** -0.104 0.229** 0.300*** -0.07 0.218** 0.285*** -0.072 0.230** 0.297*** -0.074

(0.076) (0.080) (0.200) (0.076) (0.080) (0.201) (0.076) (0.080) (0.200) (0.076) (0.080) (0.200) (0.076) (0.080) (0.201) (0.077) (0.081) (0.200)学卒時の就業意欲 0.18 0.066 0.366 0.19 0.08 0.368 0.192 0.079 0.384 0.178 0.061 0.357 0.192 0.084 0.367 0.177 0.063 0.35

(0.124) (0.146) (0.229) (0.123) (0.145) (0.229) (0.123) (0.145) (0.229) (0.124) (0.146) (0.229) (0.124) (0.146) (0.230) (0.124) (0.146) (0.230)定数項 7.299*** 7.069*** 8.152** 7.325*** 7.131*** 8.224** 7.374*** 7.124*** 8.260** 7.245*** 7.037*** 8.068** 7.281*** 7.057*** 8.217** 7.224*** 6.927*** 8.157**

(1.347) (1.531) (2.724) (1.342) (1.522) (2.719) (1.340) (1.525) (2.707) (1.347) (1.532) (2.715) (1.344) (1.527) (2.719) (1.346) (1.534) (2.718)自由度調整済決定係数 0.191 0.176 0.169 0.196 0.186 0.169 0.199 0.182 0.176 0.191 0.175 0.172 0.193 0.18 0.169 0.19 0.173 0.17サンプルサイズ 1091 722 369 1091 722 369 1091 722 369 1091 722 369 1091 722 369 1091 722 369

経験(1) 経験(2) 経験(3) 経験(4) 経験(5) 経験(6)

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84

表8-2 調査時点対数年間賃金の OLS 推定(6歳未満の子どもがいる&子どもが2人以上いる有配偶女性)

注:10%で有意*、5%で有意**、1%で有意***

すべて 意欲あり 意欲なし すべて 意欲あり 意欲なし すべて 意欲あり 意欲なし すべて 意欲あり 意欲なし すべて 意欲あり 意欲なし すべて 意欲あり 意欲なし

OJTの経験あり 0.111* 0.083 0.172* 0.065 0.058 0.049 0.013 -0.031 0.108 0.157*** 0.124** 0.225** 0.089* 0.109* 0.065 0.056 0.022 0.134(0.044) (0.050) (0.086) (0.047) (0.055) (0.091) (0.061) (0.071) (0.118) (0.040) (0.047) (0.075) (0.040) (0.047) (0.077) (0.047) (0.053) (0.094)

高専・短大(ref 高卒) 0.254*** 0.261*** 0.261*** 0.244*** 0.256*** 0.259*** (0.044) (0.044) (0.044) (0.044) (0.044) (0.044)

大学以上 0.204*** 0.144 0.276** 0.211*** 0.152 0.280** 0.208*** 0.151 0.271** 0.210*** 0.145 0.294** 0.197** 0.132 0.273** 0.203*** 0.148 0.263** (0.061) (0.078) (0.100) (0.061) (0.078) (0.100) (0.061) (0.078) (0.101) (0.061) (0.078) (0.099) (0.061) (0.078) (0.100) (0.061) (0.078) (0.101)

その他 0.282*** 0.233** 0.334** 0.295*** 0.249** 0.336** 0.295*** 0.252** 0.335** 0.296*** 0.243** 0.352*** 0.284*** 0.231** 0.332** 0.292*** 0.248** 0.328** (0.061) (0.077) (0.103) (0.061) (0.076) (0.103) (0.061) (0.077) (0.103) (0.060) (0.076) (0.102) (0.061) (0.076) (0.103) (0.061) (0.076) (0.103)

年齢 -0.099 -0.355 0.248 -0.086 -0.329 0.211 -0.103 -0.338 0.208 -0.144 -0.403 0.211 -0.087 -0.343 0.224 -0.115 -0.347 0.15(0.298) (0.364) (0.517) (0.299) (0.364) (0.519) (0.299) (0.365) (0.519) (0.297) (0.363) (0.513) (0.298) (0.363) (0.519) (0.299) (0.364) (0.519)

年齢自乗 -0.083 -0.021 -0.075 -0.075 -0.007 -0.102 -0.081 -0.011 -0.111 -0.078 -0.001 -0.129 -0.078 -0.009 -0.103 -0.082 -0.013 -0.103(0.110) (0.129) (0.212) (0.111) (0.129) (0.213) (0.111) (0.129) (0.213) (0.110) (0.128) (0.210) (0.110) (0.128) (0.212) (0.111) (0.129) (0.212)

勤続年数 0.002 0.001 0.001 0.001 0.000 0.002 0.001 0.000 0.002 0.001 0.000 0.002 0.001 0.000 0.002 0.001 0.001 0.002(0.002) (0.002) (0.003) (0.002) (0.002) (0.003) (0.002) (0.002) (0.003) (0.002) (0.002) (0.003) (0.002) (0.002) (0.003) (0.002) (0.002) (0.003)

勤続年数自乗 0.140*** 0.106*** 0.170*** 0.141*** 0.107*** 0.168*** 0.141*** 0.106*** 0.171*** 0.138*** 0.103*** 0.166*** 0.141*** 0.107*** 0.170*** 0.141*** 0.106*** 0.171***(0.014) (0.019) (0.023) (0.014) (0.019) (0.023) (0.014) (0.019) (0.023) (0.014) (0.019) (0.023) (0.014) (0.019) (0.023) (0.014) (0.019) (0.023)

100~300人未満 -0.005*** -0.004*** -0.006*** -0.005*** -0.004*** -0.006*** -0.005*** -0.004*** -0.006*** -0.005*** -0.004*** -0.006*** -0.005*** -0.004*** -0.006*** -0.005*** -0.004*** -0.006***   (ref 100人未満) (0.001) (0.001) (0.001) (0.001) (0.001) (0.001) (0.001) (0.001) (0.001) (0.001) (0.001) (0.001) (0.001) (0.001) (0.001) (0.001) (0.001) (0.001)300~500人未満 0.206** 0.232** 0.17 0.200** 0.226** 0.162 0.204** 0.234** 0.155 0.210** 0.236** 0.17 0.206** 0.233** 0.166 0.204** 0.230** 0.168

(0.064) (0.074) (0.120) (0.064) (0.075) (0.121) (0.064) (0.075) (0.122) (0.064) (0.074) (0.120) (0.064) (0.074) (0.121) (0.064) (0.075) (0.121)500~1000人未満 0.271*** 0.239** 0.337* 0.267*** 0.236** 0.328* 0.265*** 0.230* 0.330* 0.267*** 0.243** 0.304* 0.262*** 0.229* 0.330* 0.265*** 0.233* 0.330*

(0.078) (0.090) (0.150) (0.078) (0.090) (0.150) (0.079) (0.091) (0.150) (0.078) (0.090) (0.149) (0.078) (0.090) (0.150) (0.078) (0.090) (0.150)1000人以上 0.278*** 0.303** 0.249 0.289*** 0.310*** 0.273 0.296*** 0.314*** 0.282 0.272** 0.295** 0.258 0.295*** 0.317*** 0.279 0.292*** 0.314*** 0.247

(0.084) (0.093) (0.174) (0.084) (0.093) (0.176) (0.084) (0.093) (0.174) (0.083) (0.093) (0.173) (0.083) (0.093) (0.175) (0.084) (0.093) (0.176)官公庁 0.233*** 0.258*** 0.207* 0.230*** 0.252*** 0.214* 0.239*** 0.262*** 0.211* 0.225*** 0.258*** 0.179 0.234*** 0.255*** 0.218* 0.236*** 0.260*** 0.216*

(0.056) (0.067) (0.100) (0.056) (0.068) (0.101) (0.056) (0.067) (0.101) (0.056) (0.067) (0.100) (0.056) (0.067) (0.100) (0.056) (0.067) (0.100)わからない 0.174* 0.225** -0.07 0.171* 0.220** -0.045 0.173* 0.222** -0.051 0.178* 0.229** -0.045 0.174* 0.226** -0.059 0.166* 0.219** -0.069

(0.080) (0.083) (0.251) (0.080) (0.083) (0.253) (0.080) (0.083) (0.252) (0.079) (0.082) (0.249) (0.080) (0.083) (0.254) (0.080) (0.083) (0.252)学卒時の就業意欲 0.032 0.04 0.069 0.021 0.029 0.057 0.021 0.027 0.044 0.031 0.033 0.079 0.034 0.046 0.066 0.023 0.029 0.063

(0.119) (0.164) (0.181) (0.119) (0.164) (0.181) (0.119) (0.164) (0.182) (0.119) (0.163) (0.179) (0.119) (0.164) (0.182) (0.119) (0.164) (0.181)子どもの数 -0.038 -0.006 -0.095 -0.039 -0.007 -0.098 -0.04 -0.005 -0.096 -0.044 -0.016 -0.089 -0.038 -0.004 -0.099 -0.041 -0.008 -0.092

(0.040) (0.048) (0.071) (0.040) (0.048) (0.071) (0.040) (0.049) (0.071) (0.040) (0.048) (0.070) (0.040) (0.048) (0.071) (0.040) (0.049) (0.071)定数項 5.458** 4.762* 5.301 5.354** 4.547* 5.821 5.459** 4.602* 5.958 5.357** 4.422* 6.151 5.364** 4.524* 5.804 5.464** 4.648* 5.808

(1.824) (2.114) (3.527) (1.829) (2.117) (3.534) (1.830) (2.118) (3.533) (1.816) (2.108) (3.494) (1.825) (2.109) (3.532) (1.828) (2.117) (3.525)自由度調整済決定係数 0.30 0.17 0.33 0.30 0.17 0.33 0.30 0.17 0.33 0.31 0.18 0.34 0.30 0.18 0.33 0.30 0.17 0.33サンプルサイズ 1101 717 384 1101 717 384 1101 717 384 1101 717 384 1101 717 384 1101 717 384

経験(1) 経験(2) 経験(3) 経験(4) 経験(5) 経験(6)

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85

表8-3 調査時点対数年間賃金の OLS 推定(子どものいない有配偶女性)

注:10%で有意*、5%で有意**、1%で有意***

すべて 意欲あり 意欲なし すべて 意欲あり 意欲なし すべて 意欲あり 意欲なし すべて 意欲あり 意欲なし すべて 意欲あり 意欲なし すべて 意欲あり 意欲なし

OJTの経験あり 0.036 0.043 0.013 0.025 0.078 -0.054 0.007 -0.032 0.06 0.017 0.037 0.007 0.067* 0.113** 0.004 0.004 -0.054 0.079(0.036) (0.045) (0.059) (0.038) (0.046) (0.065) (0.048) (0.058) (0.081) (0.034) (0.044) (0.055) (0.034) (0.042) (0.055) (0.043) (0.053) (0.070)

高専・短大(ref 高卒) 0.117*** 0.118*** 0.118*** 0.117*** 0.115*** 0.118*** (0.034) (0.034) (0.034) (0.034) (0.034) (0.034)

大学以上 0.117* 0.115 0.119 0.120* 0.126 0.114 0.118* 0.116 0.119 0.117* 0.115 0.119 0.114* 0.112 0.119 0.118* 0.121 0.117(0.053) (0.075) (0.077) (0.053) (0.075) (0.077) (0.053) (0.075) (0.077) (0.053) (0.075) (0.077) (0.053) (0.074) (0.077) (0.053) (0.075) (0.077)

その他 0.326*** 0.332*** 0.335*** 0.332*** 0.338*** 0.334*** 0.332*** 0.344*** 0.337*** 0.330*** 0.335*** 0.336*** 0.325*** 0.328*** 0.336*** 0.332*** 0.346*** 0.335***(0.050) (0.068) (0.076) (0.050) (0.067) (0.075) (0.050) (0.067) (0.075) (0.050) (0.067) (0.075) (0.050) (0.067) (0.075) (0.050) (0.067) (0.075)

年齢 0.518 0.585 0.117 0.535 0.632* 0.1 0.527 0.598 0.122 0.526 0.595 0.117 0.522 0.576 0.115 0.527 0.597 0.124(0.279) (0.311) (0.588) (0.279) (0.310) (0.587) (0.279) (0.310) (0.587) (0.279) (0.310) (0.588) (0.279) (0.309) (0.588) (0.279) (0.310) (0.587)

年齢自乗 -0.075 -0.095 -0.016 -0.079 -0.097 -0.009 -0.078 -0.104 -0.018 -0.076 -0.097 -0.016 -0.075 -0.085 -0.016 -0.078 -0.109 -0.008(0.078) (0.105) (0.119) (0.078) (0.105) (0.119) (0.078) (0.105) (0.119) (0.078) (0.105) (0.119) (0.078) (0.105) (0.119) (0.078) (0.105) (0.119)

勤続年数 0.001 0.002 0.000 0.001 0.002 0.000 0.001 0.002 0.000 0.001 0.002 0.000 0.001 0.001 0.000 0.001 0.002 0.000(0.001) (0.002) (0.002) (0.001) (0.002) (0.002) (0.001) (0.002) (0.002) (0.001) (0.002) (0.002) (0.001) (0.002) (0.002) (0.001) (0.002) (0.002)

勤続年数自乗 0.088*** 0.065*** 0.115*** 0.088*** 0.064*** 0.114*** 0.088*** 0.064*** 0.114*** 0.088*** 0.064*** 0.114*** 0.089*** 0.065*** 0.114*** 0.088*** 0.064*** 0.114***(0.012) (0.016) (0.017) (0.012) (0.016) (0.017) (0.012) (0.016) (0.017) (0.012) (0.016) (0.017) (0.012) (0.016) (0.017) (0.012) (0.016) (0.017)

100~300人未満 -0.003*** -0.002* -0.004*** -0.003*** -0.002* -0.004*** -0.003*** -0.002* -0.004*** -0.003*** -0.002* -0.004*** -0.003*** -0.002* -0.004*** -0.003*** -0.002* -0.004***   (ref 100人未満) (0.001) (0.001) (0.001) (0.001) (0.001) (0.001) (0.001) (0.001) (0.001) (0.001) (0.001) (0.001) (0.001) (0.001) (0.001) (0.001) (0.001) (0.001)300~500人未満 0.129* 0.203** 0.044 0.128* 0.200** 0.051 0.130* 0.206** 0.043 0.129* 0.205** 0.043 0.126* 0.192** 0.044 0.129* 0.210** 0.042

(0.051) (0.066) (0.079) (0.051) (0.066) (0.079) (0.051) (0.066) (0.079) (0.051) (0.066) (0.079) (0.051) (0.066) (0.079) (0.051) (0.066) (0.079)500~1000人未満 0.260*** 0.324*** 0.187 0.256*** 0.319*** 0.197 0.259*** 0.328*** 0.182 0.258*** 0.327*** 0.185 0.257*** 0.320*** 0.186 0.259*** 0.331*** 0.195

(0.072) (0.088) (0.124) (0.073) (0.088) (0.125) (0.072) (0.088) (0.124) (0.072) (0.088) (0.125) (0.072) (0.088) (0.124) (0.072) (0.088) (0.124)1000人以上 0.230** 0.281*** 0.162 0.227** 0.281*** 0.177 0.230** 0.283*** 0.156 0.228** 0.282*** 0.159 0.226** 0.286*** 0.16 0.230** 0.287*** 0.162

(0.071) (0.084) (0.126) (0.071) (0.084) (0.127) (0.071) (0.084) (0.126) (0.071) (0.084) (0.127) (0.071) (0.084) (0.127) (0.071) (0.085) (0.126)官公庁 0.283*** 0.341*** 0.214** 0.281*** 0.329*** 0.227** 0.286*** 0.346*** 0.212** 0.285*** 0.343*** 0.215** 0.281*** 0.338*** 0.215** 0.286*** 0.346*** 0.210**

(0.045) (0.056) (0.078) (0.046) (0.056) (0.079) (0.046) (0.056) (0.078) (0.045) (0.056) (0.078) (0.045) (0.056) (0.078) (0.045) (0.056) (0.078)わからない 0.400*** 0.476*** 0.188 0.395*** 0.463*** 0.186 0.397*** 0.470*** 0.176 0.398*** 0.476*** 0.187 0.397*** 0.474*** 0.188 0.397*** 0.477*** 0.166

(0.084) (0.094) (0.179) (0.084) (0.094) (0.179) (0.084) (0.094) (0.180) (0.084) (0.094) (0.179) (0.084) (0.094) (0.179) (0.085) (0.094) (0.180)学卒時の就業意欲 -0.069 -0.068 -0.076 -0.071 -0.075 -0.08 -0.072 -0.07 -0.079 -0.068 -0.06 -0.075 -0.065 -0.048 -0.077 -0.072 -0.062 -0.074

(0.095) (0.139) (0.133) (0.095) (0.139) (0.133) (0.095) (0.140) (0.133) (0.095) (0.140) (0.133) (0.095) (0.139) (0.133) (0.095) (0.140) (0.133)定数項 6.046*** 6.519*** 5.056** 6.123*** 6.565*** 4.965** 6.115*** 6.697*** 5.089** 6.073*** 6.541*** 5.052** 6.025*** 6.315*** 5.065** 6.109*** 6.779*** 4.908*

1.259 1.701 1.911 1.258 1.693 1.913 1.258 1.696 1.91 1.261 1.701 1.914 1.257 1.691 1.911 1.261 1.698 1.914自由度調整済決定係数 0.237 0.207 0.206 0.237 0.21 0.207 0.237 0.206 0.206 0.237 0.207 0.206 0.239 0.215 0.205 0.237 0.207 0.208サンプルサイズ 1109 628 481 1109 628 481 1109 628 481 1109 628 481 1109 628 481 1109 628 481

経験(1) 経験(2) 経験(3) 経験(4) 経験(5) 経験(6)

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7 まとめと考察

本稿では、キャリア初期における人材育成と女性の正規就業との関係を検証した。具体

的には、入社初期の OJT をだれが受けているのか、そして OJT がその後の正規就業継続

と賃金に及ぼす影響について検証した。多くの日本企業は研修や OJT を通じて企業特殊的

技能を身につける機会を提供する。特に、キャリア初期における人的資源投資がその後の

キャリア形成に重要であることから(黒澤・原(2010)、玄田・堀田(2010))、キャリア初期

における訓練機会が十分でない場合、技能の習得が遅れ、その後の昇進や賃金に影響を及

ぼす可能性がある。具体的に注目する OJT の項目は、キャリア初期における仕事の割り振

りや経験であり、たとえばやってみたいポストへの異動、昇級、アイデアや企画を提案す

る機会があったかどうかである。ここで、OJT の効果を計測するにあたり、個々人の就業

意欲や能力は異なることが問題となる。もともと就業意欲や能力の高い者が高い投資を受

けていたり、就業しやすい職場を選択しているようであれば、バイアスが生じ OJT の効果

の過大評価をしてしまうことになる。本稿では、個人の就業意欲の代理変数として、学卒

時における就業継続意欲を用いた。分析から得られた知見は以下の通りである。 (1)企業はより人的資本からの収益率の高い者や、今後長く働くことが予測されるもの

(つまり、就業意欲が高い者)に対して、OJT の機会を提供している。 (2)入職時におけるOJT経験の正規就業確率を高める効果は確認されなかった。OJT経験の有無に関わらず、初職の職場環境で育児との両立が難しいことが、離職を招いた可能

性がある。女性の正規就業継続を促進するためには、仕事と家庭の両立を可能とする職場

環境や社会環境の整備が欠かせないことが示唆される57。また、学卒時の就業継続意欲が高

いほど、正就業継続していることから、女子学生に対して就業に対する意欲を高める教育

をすることで、就業継続が高まる可能性も示唆される。 (3)現在正規就業している者について、調査時点での対数年間賃金を検証した結果、末

子6歳未満の子どもを持ち、子ども数が2人以上の有配偶女性(つまり、労働市場へのア

タッチメントが高い女性)について、「仕事で自分のアイデアや企画を提案する機会」が学

卒時に就業意欲なしの者の賃金を高めている。また、「仕事で期待されたり、頼られていた

りすると感じるといった経験」は、学卒時の意欲の有無に関わらず賃金を高めている可能

性が示された。本稿の結果について、内生性を考慮した上で再検証の必要があるが、キャ

リア初期段階の人材配置が、その後の人材の成長に貢献する可能性を示唆しているといえ

よう。また、女性の就業継続を促進する施策の重要性が改めて示された。

57 出産後の就業継続の困難については Asai(2014)、朝井(2014a)でも指摘されている。

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