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3 - 1 3章 トルコの概況と開発動向 3-1 トルコの政治・経済・社会状況 3-1-1 政治・社会状況 1. 地理・民族・言語・宗教 トルコ共和国は、アジアとヨーロッパの接点に位置し、東はグルジア、アルメニア、 アゼルバイジャン、イラン、南はイラク、シリア、西はギリシャ、ブルガリアと国境を接し ている。また、南から西及び北の三方は、地中海、エーゲ海、黒海に囲まれている。 面積は日本の約2倍の780.576km 2 、人口は7,206万人(20057月の国家統計庁推 計)で、中東地域ではイラン、エジプトに並ぶ大国である。 民族構成は、トルコ人が大多数を占めるが、少数派として南東部を中心にクルド 人、その他アルメニア人、ギリシャ人、ユダヤ人などとなっている。公用語はトルコ語 である。 宗教については、イスラム教徒(多数派はスンニー派、少数派としてアレヴィー派) が人口の99%を占める。その他、ギリシャ正教徒、アルメニア正教徒、ユダヤ教徒等 が存在する。なお、1982年に定められた現行の憲法では、世俗主義(政教分離原 則)が標榜されている。 2. 政治体制 トルコの政体は共和制である。三権は分立しており、立法府として一院制のトルコ 国民議会(議員は550議席、任期は4年)が強い権限を有する。行政は議会によって 選出される元首の大統領(任期は5年)が務めるが、首相の権限が強い議院内閣制 に基づいている。トルコの地方行政制度は、オスマン帝国の州県制をベースとしてフ ランスに範を取り、81の県の下、市・郡が設けられている。 政治においては、1949年以来、多党政治を基本としている。20077月の総選挙 の結果、エルドアン首相が率いる与党・公正発展党( AKP Adalet ve Kalkinma Partisi)が2002年総選挙に引き続き大勝(得票率47%)、翌8月、第2次エルドアン内 閣が発足した。また同月、AKP出身のギュル前外相が大統領に就任した。 AKP政権は、欧州連合(EU)加盟に向けた国内改革、国際通貨基金(IMF)との協 調に基づく経済成長を推進している。単独政権の成立による政治の長期的安定が期 待される一方、世俗主義の国是を護持する軍部はAKPのイスラム色を強く警戒して おり、両者の緊張が政局の懸念材料となっている。 3-1-2 マクロ経済動向 トルコの一人当たり国民総所得(GNI)は5,408米ドル(2006年)に達しており、世 界銀行の分類では中進国に位置づけられる。 近年の2度にわたる金融危機(200011月及び20012月)後、IMF等の国際金 融機関の支援(1999年~2002年:純総額206億米ドルの財政支援を実施)を得つつ、

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3 - 1

第3章 トルコの概況と開発動向 3-1 トルコの政治・経済・社会状況 3-1-1 政治・社会状況 1. 地理・民族・言語・宗教 トルコ共和国は、アジアとヨーロッパの接点に位置し、東はグルジア、アルメニア、

アゼルバイジャン、イラン、南はイラク、シリア、西はギリシャ、ブルガリアと国境を接し

ている。また、南から西及び北の三方は、地中海、エーゲ海、黒海に囲まれている。

面積は日本の約2倍の780.576km2、人口は7,206万人(2005年7月の国家統計庁推計)で、中東地域ではイラン、エジプトに並ぶ大国である。 民族構成は、トルコ人が大多数を占めるが、少数派として南東部を中心にクルド

人、その他アルメニア人、ギリシャ人、ユダヤ人などとなっている。公用語はトルコ語

である。 宗教については、イスラム教徒(多数派はスンニー派、少数派としてアレヴィー派)

が人口の99%を占める。その他、ギリシャ正教徒、アルメニア正教徒、ユダヤ教徒等が存在する。なお、1982年に定められた現行の憲法では、世俗主義(政教分離原則)が標榜されている。

2. 政治体制 トルコの政体は共和制である。三権は分立しており、立法府として一院制のトルコ

国民議会(議員は550議席、任期は4年)が強い権限を有する。行政は議会によって選出される元首の大統領(任期は5年)が務めるが、首相の権限が強い議院内閣制に基づいている。トルコの地方行政制度は、オスマン帝国の州県制をベースとしてフ

ランスに範を取り、81の県の下、市・郡が設けられている。 政治においては、1949年以来、多党政治を基本としている。2007年7月の総選挙

の結果、エルドアン首相が率いる与党・公正発展党(AKP:Adalet ve Kalkinma Partisi)が2002年総選挙に引き続き大勝(得票率47%)、翌8月、第2次エルドアン内閣が発足した。また同月、AKP出身のギュル前外相が大統領に就任した。

AKP政権は、欧州連合(EU)加盟に向けた国内改革、国際通貨基金(IMF)との協調に基づく経済成長を推進している。単独政権の成立による政治の長期的安定が期

待される一方、世俗主義の国是を護持する軍部はAKPのイスラム色を強く警戒しており、両者の緊張が政局の懸念材料となっている。 3-1-2 マクロ経済動向 トルコの一人当たり国民総所得(GNI)は5,408米ドル(2006年)に達しており、世

界銀行の分類では中進国に位置づけられる。 近年の2度にわたる金融危機(2000年11月及び2001年2月)後、IMF等の国際金

融機関の支援(1999年~2002年:純総額206億米ドルの財政支援を実施)を得つつ、

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3 - 2

財政赤字削減(公共投資の削減や公務員給与の抑制など)、インフレ抑制、国営企

業の民営化、銀行改革(民間銀行の監査強化や銀行経理基準の国際化基準への移

行等)等の経済構造改革を推進中である。同プログラムはおおむね順調に推移して

おり、2002年~2006年の実質国内総生産(GDP)成長率は年平均7%を超えた。また、トルコ経済の慢性的な消費者物価のインフレ指数は、1998年の84.7%から2006年には9.6%にまで低下した。 また、トルコ政府は経済開発推進政策の一環として、2003年に新外国直接投資

法を施行し、利益・資本金の移転の自由化や外資出資比率の無制限、外国投資家

の不動産所得の自由化など、数々の投資インセンティブを高める措置を講じた。この

ような施策が功を奏し、外国直接投資額は順調に増加し、2004年の28億米ドルから2005年には98億米ドル、2006年には200億米ドルを記録した。 なお、トルコ政府は、経済安定を背景に、2005年1月、デノミネーション(通貨単位

の変更)を行い、従前の100万トルコ・リラを新1リラとしている。 しかし、マクロ経済の好調にもかかわらず、トルコの経済基調は先進国やEU諸国

と比べると依然として脆弱性を有している。原油価格の高騰などにより、経常収支赤

字は近年増大しており、2006年には322億米ドルと前年比42%拡大、対GDP比で6.1%を記録した。さらに、大幅な債務残高、大きな改善の見られない失業率(2006年9.9%)、地域間格差の拡大などの問題が存在しており、経済面で克服すべき課題は多い。 なお、2008年第2四半期の実質GDP成長率は1.9%と、市場予測の3.7%を大幅

に下回った。26四半期連続プラス成長ではあるが、2002年第1四半期の0.3%以降、最低の伸びとなっている。このため、上半期全体でも実質GDP成長率は4.2%に留まり、景気の減速が顕著となっている。2008年の米国金融市場不安に伴うトルコ経済への影響については、トルコ政府がこれまで実施した一連の構造改革の成果を受け

て、直接的な影響は少ないとの見方がなされている。しかし、直接投資など外国から

の資本の流入が停滞することは避けられず、主要輸出先であるEUの景気が冷え込むことで輸出主導の産業に悪影響が生じるとの懸念ももたれている。

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3 - 3

表3-1 主要経済指標(1998年~2007年) マクロ経済指標 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007

GDP(10億米ドル) 200.1  184.2  199.7  145.5  184.3 240.9  302.6  363.3 402.7  ..  GDP成長率(%) 3  -5  7  -7  8  6  9  7  6  ..  産業構造(対GDP比:%)   農業 18  16  15  13  12  12  12  11  10  ..     工業 24  24  24  27  26  26  26  27  27  ..     サービス業 58  60  61  61  62  62  62  63  63  ..  一人当たりのGNI(世銀アトラス:米ドル) 3,070  2,800  2,990  2,430  2,510  2,800  3,790  4,750  5,400  ..  経常収支(10億米ドル) 2.2 -1.3 -9.8 3.4 -1.5 -8.0 -15.6 -22.6 -32.2 -38.0経常収支(対GDP比:%) 0.8 -0.5 -3.7 1.8 -0.7 -2.6 -4 -4.7 -6.1 -5.7貿易収支(100万米ドル)* -15,495 -22.087 -34,373 -43,298 -54.041 ..  消費者物価上昇率(インフレ率:%) 84.7 64.9 55.0 54.2 45.1 25.3 8.6 8.2 9.6 8.8対外責務残高 (10億米ドル) 9.7  101.9 117.1 113.1 130.9 144.3  161.0 169.2 207.8 ..  外国直接投資流入額 (10億米ドル) 0.9 0.8 1.0 3.4 1.1 1.8 2.9 9.8 20.0 ..失業率(%)* 10.3 10.5 10.3 10.3 9.9出所:International Monetary Fund:World Economic Outlook Database ,World Bank:World Development Indicators Online*Turkish Statistical Institute:Economic Indicators 2007

3-1-3 産業構造 トルコは東欧と中東地域では、最大の農作物の生産・輸出国のひとつであり、同

国の食糧自給率は一部を除き、ほぼ100%に達している。農業部門は国家経済の発展に大きな貢献を果たしてきたが、産業とサービス部門の急成長に伴い、GDPに占める農業部門の割合は、1998年の18%から2006年には10%と低下している。経済活動に占める農業部門の比率は、1980年の50%から、2002年には33%まで低下している。これは、それまでの労働力の吸収先であった農村部から都市部への労働力

流出が大きな原因となっている。その影響もあり、都市部と農村部の人口比率は

1975年の42対58から、1990年には60対40へと逆転した1。 製造部門に関しては、経済危機により一時的にマイナス成長となったが、2002年

から回復基調にある。豊富な天然資源、ヨーロッパや中東、アジアなどの輸出市場に

近接する地理的優位性、通信をはじめとするインフラの整備、トルコ政府による自由

経済政策などが製造業部門成長の原動力となっていると考えられる。また、製造業

部門の総輸出に占める比率は、2003年93.9%、2004年94.3%、2005年93.7%2と高

水準で推移している。 3-1-4 社会開発の状況 トルコ政府は、2005年に、ミレニアム開発目標(MDGs)3達成に対する取組をまと

め発表した。同報告書によると、トルコのMDGs達成に向けた状況はおおむね良好である。しかし、地域による不均衡やジェンダー格差などが深刻な問題となっており、目

標達成に当たってはそれらの是正が不可欠である。 MDGsターゲット、指標及びトルコの達成状況を表3-2に示す。同報告書によれば、

1 JICA「トルコ共和国農業・農村開発指針」2005年 8月、p.2 2 中東協力センター「トルコの産業基盤」2006年、p.27 3 ミレニアム開発目標(Millennium Development Goals: MDGs)とは、2000年に採択された国連ミレニアム宣言と1990年代に開催された主要な国際会議やサミットで採択された国際開発目標を統合し、共通の枠組みとしてまとめたもの。2015年までに達成すべき 8つの主要な開発目標が掲げられている。

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3 - 4

トルコは、目標1「極度の貧困と飢餓の撲滅」、目標3「ジェンダーの平等推進と女性の地位向上」、目標4「乳幼児死亡率の削減」、目標5「妊産婦の健康の改善」において進捗が芳しくなく、目標の達成が危ぶまれている。

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表3-2 トルコMDGsの達成状況 ミレニアム開発目標 1990 1995 2000 2005 目標値*

目標1:極度の貧困と飢餓の撲滅 1日1米ドル未満で生活する人口の割合(購買力平価) ** 国家貧困ライン以下の人口の割合(全国)* -都市* -地方* 平均体重を下回る5歳未満の子供の割合

… … … … …

1.1

28.3 … …

10.3

0.20 27.0

22 34.5 8.3

0.01

… … …

3.9

0.1

4.2 目標2:初等教育の完全普及の達成 初等教育における純就学率 初等教育終了率 中等・教育における総就学率 15-24歳の識字率

89 90 48 93

… … … …

92 … 78 …

89 87 75 96

100 100 100 100

目標3:ジェンダー平等推進と女性の地位向上 初等・中等教育における男子生徒に対する女子生徒の比率 15-24歳の男性の識字率** 15-24歳の女性の識字率** 非農業部門における女性賃金労働者の割合 国会における女性議員の数** 国会における女性議員の割合**

81

96.6 88.4

15 6

1.8

17 …

2.4

85

19 23 4.2

89

98.4 94 20 24 4.4

100

35 94 17

目標4:乳幼児死亡率の削減 5歳未満の死亡率(1,000人当たり) 乳児死亡率(1,000人当たり) はしかの予防接種を受けた1歳児の割合

82 67 78

63 52 65

44 38 86

29 26 91

20.7 17.5 100

目標5:妊産婦の健康の改善 妊産婦死亡率(100,000人当たり) 医師・助産師の立会による出産の割合

… …

… 76

70 81

… 83

目標6:HIV/エイズ、マラリア、その他の疾病の蔓延の防止 15-49歳のHIV感染率 15-49歳の女性の避妊具普及率 結核の有病率(100,000人当たり) DOTS(短期科学療法を用いた直接監視下治療)の下で発見され、治療された結核患者の割合

… 63 49 … …

… … 40 …

… 64 31 …

0.2 71 29 3

目標7:環境の持続的確保 浄化された水源を利用できる人口の割合 衛生施設を利用できる人口の割合 森林面積の割合 生物多様性維持のための保護区域の面積の割合 一人当たりの二酸化炭素排出量 GDPあたりのエネルギー消費量(1kg石油換算、2000年購買力平価(米ドル)

85 85

12.6 …

2.6 5.8

89 86 … …

2.8 5.8

93 87

13.1 …

3.3 5.7

96 88

13.2 2.6 3.1 6.1

目標8:開発のためのグローバルなパートナーシップの推進 電話回線及び携帯電話加入者数(1,000人当たり) インターネット利用者数(1,000人当たり) パソコン使用率(1,000人当たり) 15-24歳の失業率

123

0 5

16.0

220

1 15

15.6

512 37 37

13.1

868 222 52

19.3

注:該当する年度のデータがない場合は、前後2年のデータを予測値として入れている 出所:世界銀行, Country Partnership Strategy with the Republic of Turkey 2008-2011 * UNDP, MDG Indicators Online Database.当該データについては、2002年のもの。 同じ数字が、世界銀行のCountry Partnership Strategy with the Republic of Turkey 2008-2011においては、1999-2005年のデータとして発表されている。 ** UNDP, Millennium Development Goals Report 2005.

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3 - 6

目標1「極度の貧困と飢餓の撲滅」 トルコの貧困の特色は、相対的貧困(relative poverty)が多数を占め、絶対的貧

困(absolute poverty)の割合が他の途上国と比較して少ないことである。絶対的貧困率を表す1日1米ドル未満の人口割合は、2005年には0.01%となり目標値の0.1以下を下回った。また、国家貧困ライン以下の人口についても、1990年の28%から2006年には18%となり、大幅に減少している4。 一方、地域間の経済格差は依然として大きいままである(詳細は3-13ページ参

照)。国家貧困ライン以下の人口割合を見ると、都市部の22%に対し、農村部は34.5%(2002年)と高くなっている5。この背景には、工業化が進んでいる北西部のマ

ルマラ海沿岸地域と、近代化から立ち遅れている東部の経済格差があると考えられ

る。また、ジェンダーによる経済格差も大きな問題となっている。

目標3「ジェンダーの平等推進と女性の地位向上」 トルコでは、初等教育レベルでの就学率において、ジェンダー格差はほとんど見ら

れない。しかし、中等教育レベルでは、女子の就学率が男子の就学率を大幅に下回

っている。識字率については近年大幅に改善されたものの、男性の98%に比べて女性は94%(2005年)と低くなっている。また、国会における女性議員の数については、1990年の6人から2005年には24人と増加したものの、550人の定員数に占める割合においては、目標値の17%に対して僅か4%(2005年)となっている(国際連合開発計画(UNDP))。ちなみに、UNDPの「人間開発報告書」(2007/2008年)によると、2005年のトルコの人間開発指数(HDI)は0.775で世界177カ国中84位であるが、政治・経済分野への女性の参画度と自立度を指標化したジェンダー・エンパワーメント

指数(GEM)は、世界93カ国中90位となっている。

目標4「乳幼児死亡率の削減」 トルコの乳幼児死亡率及び5歳未満児の死亡率は、大幅に改善されたものの、目

標値との比較において、依然として達成状況は低い。ワクチンで予防できる病気のう

ち、麻疹がこどもの死亡をもたらす要因の一つである。近年、麻疹の予防接種を推進

した結果、トルコにおける麻疹の予防接種を受けた1歳児の割合は、1990年の78%から2005年には91%に改善した。しかし、2015年までの目標値である100%の達成には、懸念が残る状況である。

目標5「妊産婦の健康の改善」 世界銀行の報告書によれば、トルコにおける全国の出生10万人当たりの妊産婦

4 World Bank, Country Partnership Strategy with the Republic of Turkey for 2008-2011, January 25, 2008, Page i. 5 UNDP, MDG Indicators Online Database.

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死亡率(2000年)は28.5人であるが、西部の7.4人から黒海地方及び北東部アナトリア地方の68.3人と、地域により大きな格差が存在している6。妊産婦死亡の半数は出

産時による死亡であり、4分の1が出産後の死亡である。高い出産率、不十分な妊婦管理、栄養不足、保健サービスの利用率の低さ、女性の地位の低さなどが、妊産婦

死亡の主要因として挙げられる。 3-1-5 外交関係 1. 外交基本方針 欧米との協調関係を基本とする。地政学的な要衝に位置し、ソ連崩壊後に誕生し

た中央アジア、コーカサスのトルコ系諸国との関係強化に努めているほか、近隣の中

東諸国とも経済関係を中心に関係強化を図るなど、多角的な平和外交を基調として

いる。北大西洋条約機構(NATO)、欧州安全保障・協力機構(OSCE)、経済協力開発機構(OECD)の加盟国である。なお、2008年5月には、トルコの仲介の下で、イスラエル及びシリア両国政府が間接的な和平交渉を開始。2008年12月には、パキスタンのザルダリ大統領とアフガニスタンのカルザイ大統領が、トルコ政府の仲介で同国

のイスタンブールで会談し、国際テロ組織アルカイダや、インドのムンバイで起きた同

時テロ事件などを念頭に、テロ対策で協力することで合意するなど、トルコの仲介役と

しての役割は高まっている。 最大の外交目標はEU加盟の実現であり、2005年10月には念願の加盟交渉が開

始された。しかし、EU内にはトルコ加盟に消極的な意見も多く、交渉の見通しは不透明である。未解決のキプロス問題も加盟交渉のネックとなっている(詳細は後述)。 国内に1,000万人以上とも言われるクルド系の国民が存在することから、北イラク

のクルド人勢力の独立の動きを強く警戒し、イラク領土の一体性の維持を主張する立

場を取っている。また、トルコからの分離独立を目指すクルド労働者党(PKK:Partiya Karkeren Kurdistan)のテロ攻撃への対応が国防上の最大の課題となっている。トルコ政府は、1980年代からPKKに対する軍事作戦を実施。特に2007年10月以降、北イラクに潜伏するPKKによるトルコ軍等への攻撃が激化し、トルコ・イラク国境間の緊張が高まっている。 2. EU加盟問題

1963年、トルコは欧州経済共同体(EEC)との連合協定(アンカラ協定)を締結し共同体に加盟する意思を表明し、1987年4月、欧州共同体(EC)への正式加盟申請を行った。1999年12月のヘルシンキ欧州理事会において、トルコは加盟候補国ステイタスを認められた。以後、必要な国内法改正を進めた結果、2005年10月にトルコの加盟交渉が開始された。

6 World Bank, Country Partnership Strategy with the Republic of Turkey for 2008-2011, January 25, 2008, Page 13.

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3 - 8

EU加盟交渉では、35の交渉分野で「スクリーニング」(EU法の導入・施行に備え、トルコの国内法との整合を調べる作業)が進められ、2006年6月には「科学・技術」分野でのスクリーニングが終了した。2006年末のEU外相理事会において、トルコがキプロスとの関税同盟を発行させない限り8分野の加盟交渉を凍結するとの厳しい決定が下されたが、2007年には、再び5分野における交渉が開始された。 一方、トルコの国民のほとんどがイスラム教徒であること、トルコが約7,200万人も

の巨大な人口を有すること、EU諸国に比べて国民所得水準が低いこと等から、EU内には国民世論がトルコの加盟に否定的な国も少なくなく(フランス、ドイツ、オーストリ

ア等)、他方でトルコ国民のEU加盟支持率も2007年6月の世論調査では40%まで低下している。2008年7月からフランスがEU議長国を務める予定となっており、サルコジ仏大統領はトルコのEU加盟に反対立場を示していることから、トルコにとって難しい交渉が続くと予想される。 3. キプロス問題 キプロスは1960年にイギリスより独立し共和国となった。現在、キプロス島には、

主として、ギリシャ系住民(全住民の70%を超える)とトルコ系住民が居住しているが、両者間の対立が続いている。

1974年には、ギリシャの軍事政権の関与の下、ギリシャ系愛国主義者がクーデターを起こし、キプロスをギリシャに併合しようとしたが、トルコはトルコ系住民の保護と

いう名目で軍隊を派遣し、キプロス島の北部(全土の約37%)を占領した。そして、1983年11月15日、トルコ系住民からなるキプロス・トルコ共和国を樹立させた。なお、国連安全保障理事会は、この新国家樹立宣言を無効とみなし、独立国家として承認

しないよう各国に要請している。そのため、キプロス・トルコ共和国を承認しているの

は、現在でもトルコのみである。他方、島の南部にはギリシャ系住民からなる、キプロ

ス共和国があり、南北両国が対峙する形となっている。 その後1990年7月に(ギリシャ系)キプロスはEU(当時はEC)に加盟を申請し、

2004年5月にEU加盟を果たした。国連の主導下でも、南北の平和的統合に向けた協議が行われたが、当事国間での交渉は決裂し、決断は両キプロスの国民に委ねられ

ることになった。国連和平案の是非を問う国民投票は2004年4月24日に実施され、トルコ系キプロスの住民は国連案を支持したが、ギリシャ系キプロスの住民によって否

決され、南北統一は未だ達成されていない。 4. 日本・トルコ関係 日本・トルコ関係は1890年のエルトゥールル号事件7以降、歴史的に友好関係に

7 小松宮彰仁親王同妃両殿下が欧州訪問の帰途にオスマン帝国を公式訪問したことに対する答礼として、アブデュル・ハミト 2世が特使としてオスマン提督を日本に派遣した際、軍艦エルトゥールル号が帰路、紀州・串本沖で沈没。乗組員 581名が死亡したが、日本側官民あげての救護により 69名が救助され、日本の軍艦によりトルコに帰国した事件。

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ある。 1985年、イラン・イラク戦争の中、テヘランで孤立した邦人を救出するために、トル

コ政府がトルコ航空特別機を派遣した出来事も、両国の友好関係の象徴的出来事と

なった。 両国間には大きな政治的懸念はなく、特に1980年代以降、二国関係は基本的に

良好であり、経済、観光、文化等の面で発展がみられる。2006年1月には、小泉内閣総理大臣(当時)が現職総理として2人目のトルコ訪問を行った。また、2008年6月には、トルコからギュル大統領が訪日(トルコの国家元首の訪日は、二国間公式訪問と

して初)。福田内閣総理大臣(当時)とギュル大統領との会談では、二国間関係強化

と国際場裡での協力を柱として、両国間では初めてとなる共同声明が発表された。 文化面では、トルコは一般的に非常に親日的であり、日本文化に対する関心も高

い。1998年には、トルコ側の主導で、両国官民の協力により、アンカラに「土日基金文化センター」が開館した。同センターは、日本・トルコ文化交流の拠点として、大使

館との共催による各種文化行事等をはじめ積極的な活動を行っている。しかしながら、

親日感情を抱くトルコ人の大半は、日本の高度経済成長を見てきた50代から60代の人々であり、若年層についてはEUを見ているため、将来的に親日感情が大きく変化する可能性もある点が指摘されている。 なお、2003年には「日本におけるトルコ年」が実施され、2010年には「トルコにお

ける日本年」が実施される予定である。「トルコにおける日本年」は、1890年のエルトゥール号事件から120年目の節目を記念して実施されるものであり、文化、経済、スポーツ、青少年等の幅広い分野での記念行事の実施が予定されている。

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3-2 トルコの開発計画 3-2-1 国家開発計画 1. 国家開発計画の概要 トルコにおける公共投資は、5カ年計画に基づいて実施されてきた。トルコでの本

格的な経済開発計画が導入されたのは、1963年からである。1960年代にトルコの長期の経済開発計画を策定する実施機関として国家計画庁(SPO)が創設され、1963年に同庁より経済全般をカバーする長期経済開発計画が策定された。 以下では、本評価調査期間(1998年~2007年)に対応する、第7次5カ年計画

(1996年~2000年)、第8次5カ年計画(2001年~2005年)及び現行の第9次開発計画(2007年~2013年)、さらに、より長期の開発計画である長期戦略(2001年~2023年)の概要について整理を行う。これら開発計画の骨子は、経済成長を通じた貧困削減と、地域格差(西部と東部)の是正であり、EU加盟へ向けた基本政策が開発戦略の根底にある。

表3-3 トルコの国家開発計画の概要

国家開発計画 開発目標/優先課題

第7次5カ年計画

7th Five Year Development Plan

(1996-2000)

1. 人的資源開発(教育、保健、雇用拡大)

2. 産業開発と国際化

3. 経済効率向上のための構造調整

4. 地域間格差の是正

5. 環境の回復と保全

第8次5カ年計画

8th Five Year Development Plan

(2001-2005)

1. 持続的な高経済成長率の達成

2. 世界市場と競争できるハイテク経済の育成

3. 人材開発及び雇用機会の増加

4. インフラ・サービスの改善及び環境保全

5. 地域格差の是正、農村開発の改善、貧困の削減、地域間収入の不公

平さによる社会的格差の是正

第9次開発計画

9th Development Plan

(2007-2013)

1. 競争力の向上

2. 雇用の増加

3. 人間開発と社会連帯の強化

4. 地域開発の確保

5. 公共サービスの質と効率性の向上

長期戦略

Long Term Strategy

(2001-2023)

1. より競争力のある生産体制

2. 収益の増加と公平な分配

3. 情報社会への移行の確定

4. 人権・法律の尊重、参加型民主主義、持続的な憲法及び宗教の自由

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2. 第7次及び第8次5カ年計画

1996年に実施された第7次5カ年計画(1996年~2000年)は、経済、政治、文化におけるグローバリゼーションの状況を踏まえて策定されたものである。人的資源開

発、産業開発と国際化、経済効率向上のための構造調整、地域間格差の是正、環境

の回復と保全の5つの構造改革分野が設定されており、中でも人的資源開発の一項目である教育が最も重要な分野とされている。

2001年12月に実施された第8次5カ年計画(2001年~2005年)は、長期戦略(2001年~2023年)の一期間と捉えられ、EU加盟のための課題克服のための期間と位置付けられた。具体的には、EU加盟実現のために、ほぼすべての現行制度を見直し、構造改革を推進し、加盟を実現可能にするために、持続的な高経済成長率の

達成、技術力の向上、人的資源開発及び雇用拡大、インフラ・サービスの改善及び

環境保全、地域格差の是正等が目標とされた。 しかし、2000年6月に国会において第8次5カ年計画が承認された直後の2000年

11月と2001年1月に、トルコは2度の金融危機を経験するに到り、トルコの経済情勢は激変した。2002年11月の総選挙の結果、AKPによる政権交代が行われ、EU加盟に向けた国内改革、IMF主導による経済改革プログラムが、第8次5カ年計画よりも優先して用いられることとなった。

3. 第9次開発計画

2006年6月に承認された現行の第9次開発計画(2007年~2013年)では、「トルコは、持続的発展、公平な資源の分配を図りながら、世界的な競争力を備えかつEU基準に準拠した情報社会国家を目指す」というビジョンの下、次の5つの経済・社会開発戦略目標を設定している。(1)競争力の向上、(2)雇用の増加、(3)人間開発と社会連帯の強化、(4)地域開発の確保、(5)公共サービスの質と効果の向上。なお、第9次開発計画は、1960年以来実施されてきた5カ年計画を、EUの中期予算に合わせ7カ年計画に移行し、EU基準との整合を優先課題として策定されている。 表3-4は、第9次開発計画における主要なマクロ経済指標を示したものである。同

計画期間においても引き続き構造改革及び金融財政の引き締め政策を推進しつつ、

年平均7%の経済成長率を目指している。

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表3-4 第9次開発計画における主要なマクロ経済指標 2006年 2013年 平均値

(2007-2013年) 経常価格(10億リラ) GDP比(%) GDP比(%) 実質成長率(%)

農業 54.8 9.9 7.8 3.6 工業 142.9 25.9 27.2 7.8 サービス 354.1 64.2 65.0 7.3 GDP 551.8 100.0 100.0 7.0 消費支出(合計) 449.0 81.4 76.1 6.8 政府 68.8 12.5 9.8 1.6 民間 380.2 68.9 66.3 7.2 固定資本投資 117.2 21.2 24.2 9.1 政府 31.0 5.6 6.0 8.1 民間 86.2 15.6 18.2 9.4 最終国内需要(合計) 566.2 102.6 100.0 7.5 国内需要合計 593.4 107.5 103.4 7.2 財・サービス輸出 161.5 29.3 32.4 11.2 財・サービス輸入 203.2 36.8 35.8 11.2 出所:Ninth Development Plan 2007-2013

表3-5(第9次開発計画の主要なセクター別の資金配分)の2006年と2013年を比

較すると、教育・保健セクター予算の全投資額に占める割合が増大している。また、

農業セクター予算の割合も増加しているが、これは大規模灌漑プロジェクトの実施の

ためである。一方、自由化政策の推進により、エネルギー・セクターの投資額の占め

る割合は徐々に減少している。なお、運輸・通信セクターの投資予算額は依然として

大きいものの、民間セクターの参入により、予算額に占める割合は減少傾向にある。

表3-5 セクター別の投資予算額(計画) 2006年

(経常価格) 2013年 (経常価格)

平均値(2007-2013年) (2006年価格)

100万リラ 割合(%) 100万リラ 割合(%) 100万リラ 割合(%) 農業 1,375 7.7 5,040 11.8 12,278 10.2 鉱業 640 3.6 1,141 2.7 5,514 3.3 工業 445 2.5 169 0.4 1,517 0.9 エネルギー 2,529 14.2 2,592 6.0 17,750 10.5 運輸・通信 5,674 31.8 10,984 25.6 44,023 26.0 観光 48 0.3 198 0.5 768 0.5 住宅 109 0.6 390 0.9 1,310 0.8 教育 2,494 14.0 9,399 21.9 32,405 19.1 保健 1,268 7.1 3,702 8.6 14,293 8.4 その他サービス 3,243 18.2 9,239 21.6 34,636 20.4 経済 1,728 9.7 4,195 9.8 15,624 9.2 社会 1,515 8.5 5,044 11.8 19,012 11.2 合計 17,824 100 42,855 100.0 169,495 100.0 人件費 2,463 3,885 19,180 地方行政 10,690 22,217 105,936 総計 30,978 68,957 294,611 出所:Ninth Development Plan 2007-2013

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3-2-2 総合地域開発計画 1. 総合地域開発計画の概要 トルコでは、上述した国家開発計画のほかに、具体的な地域を特定した総合地域

開発計画として、「東部黒海沿岸地域開発計画(DOKAP)」や「南アナトリア開発計画(GAP)」等がある。これらの開発計画は、西部地域に比べて相対的に開発が遅れ、貧困度が高く、人口流出が続く東部地域の経済開発を主目的としたものである。トル

コ統計機構(SIS)が2003年に実施した調査結果によれば、トルコ西部地域の人口は全人口の28.1%であるのに対して、所得では全国の39.7%を占めている。一方、トルコ南東部アナトリア地域の人口は全人口の23.5%であるのに対して、所得では全国の13.4%に過ぎない。また、地域内においても、西部地域では所得格差が大きく、東部アナトリアでは所得格差が小さいとされている8。 以下では、国家開発計画の主目的の一つである地域格差是正を目的として策定

された主な総合地域開発計画であるGAPとDOKAPの概要を示す。

2. GAP(南東アナトリア開発計画) 1989年に始まった南東アナトリア開発計画(GAP)は、総額320億米ドルの投資が

計画されている世界でも有数の一大総合開発プロジェクトであり、様々な援助機関、

NGO、研究機関、プライベート・セクターが参加している。トルコ全体の約10%の面積と人口を占めるこの地域は、土壌が肥沃で、豊富な水資源に恵まれているものの、そ

の経済は雨水を利用した農業部門に大きく依存している。そのため、同地域と国内の

既発展地域との間には、社会的・経済的に大きな格差が生じている。この格差の解

消がGAPの主目的であり、水資源の開発のみならず、農業、エネルギー、輸送、通信、保健、教育、都市・地方のインフラ整備、観光、工業など様々な分野を網羅した包

括的な開発プロジェクトが計画・実施されている。

表3-6 GAP部門別投資内訳(単位:100万米ドル) 農業 エネルギー 輸送・通信 その他 合計

投資総額 9,628 10,229 7,042 4,912 31,811

比率(%) 30.3 32.2 22.1 15.4 100.0

出所:中東協力センター「トルコ共和国の産業基盤」2006年版、p.29

現在約270にのぼるプロジェクトが実施されているが、2012年のGAP終了を見据

え、近年は本計画のモニタリング・評価及びコーディネーション、国内外からのGAP地域への投資の誘致、社会インフラの整備や女性、青少年、子供の参加促進をターゲ

ットとした社会開発活動にも力を入れている。

8 SPO and UNDP, Millennium Development Goals Report Turkey 2005, Page 13.

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3. DOKAP(東部黒海沿岸地域開発計画)

DOKAPは、黒海沿岸の7県を対象としてJICAが1999年から2000年の開発調査を通じて策定した総合計画であるが、現在はEUとトルコのファンドにより6県を対象として実施されている。DOKAPには総額2,400万ユーロの投資が計画されており、その目的は以下のとおりである。

(1) 経済構造の強化:雇用機会の増大、所得水準の向上、地域内の資本の蓄積 (2) 地域社会の統合及び住民参加の促進:地域内格差及び人口流出の抑制 (3) 社会経済活動の多様化:資源及び環境の回復と維持 これらの目的を達成するための基本的な考え方は、幹線道路・通信基盤の強化、

多目的水資源開発・管理、土地所有権の改善、地方行政組織の強化であり、制度的

問題からインフラ・資源開発に至るまで多様な課題の実現を目指している。また、

DOKAPの開発シナリオとしては、以下のように3つのフェーズに分けている。 フェーズ1(2001年~2005年):実施に向けた準備 フェーズ2(2006年~2010年):プログラムの本格実施 フェーズ3(2011年~):持続可能な開発の実現と質的向上

現在は実施中のプロジェクトのモニタリング・評価フェーズにあるが、DOKAPは

GAPをはじめとする他の地域開発計画同様、資金、コーディネーション及びキャパシティの不足により、フル活用されているとは言い難い状況にある。地域開発促進のた

め、テクニカル・コーディネーション・ユニット、資金及びオペレーション・プログラムの

確定が急がれている9。

9 SPO, 2008 Annual Programme, Page 231

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3-3 援助機関の援助動向 3-3-1 概要 トルコの主要援助機関は世界銀行、欧州委員会(EC)、フランス、スペインである。表 3-7 は世界銀行を除いた国際機関の ODA供与額を示しており、その 9 割以上をEC が占めていることに加え、モントリオール議定書、地球環境ファシリティ(GEF)、世界基金等の多国間基金が上位を占めているのが特徴的である。表 3-8 は諸外国の対トルコ経済協力実績を示しており、二国間援助の主要援助機関は、フランス、ス

ペインの順となっている。

表 3-7 国際機関の対トルコ経済協力実績10

暦年 その他 合計

1998 EC 81.92 MONTREALPROTOCOL

9.05 UNHCR 4.45 UNICEF 1.77 UNTA 1.28 -2.71 95.76

1999 EC 20.34 UNHCR 4.83 MONTREALPROTOCOL

2.42 UNTA 1.47 UNICEF 1.22 -3.6 27.14

2000 EC 186.68 UNHCR 3.93 UNDP 1.07 UNICEF 1.05 MONTREALPROTOCOL

0.91 -4.39 190.41

2001 EC 142.59 UNHCR 4.25 MONTREALPROTOCOL

1.11 UNICEF 0.91 UNTA 0.76 -4.17 142.64

2002 EC 150.78 UNHCR 5.12 GEF 1.94 UNTA 0.92 UNFPA 0.89 -3.74 161.11

2003 EC 140.37 UNHCR 4.39 MONTREALPROTOCOL

4 UNFPA 0.94 UNICEF 0.87 -3.49 145.9

2004 EC 303.05 UNHCR 5.88 MONTREALPROTOCOL

1.95 UNICEF 1.36 UNFPA 1.12 -4.56 308.33

2005 EC 391.98 MONTREALPROTOCOL

11.3 UNHCR 6.68 UNICEF 1.78 GEF 1.54 -3.1 410.17

2006 EC 383.34 UNHCR 5.57 GEF 2.98 GlobalFund

2.62 UNICEF 2 -1.95 401.4

出所:OECD/DAC

(暦年、DAC集計ベース、単位:百万米ドル、支出純額)

1位 2位 3位 4位 5位

表 3-8 諸外国の対トルコ経済協力実績

暦年 うち日本 合計

1998 フランス 28.61 オーストリア 12.57 オランダ 2.82 スイス 2.5 イギリス 1.27 -30.36 -74.54

1999 フランス 23.42 オーストリア 13.69 ドイツ 5.58 スイス 4.48 ノルウェイ 4.05 -45.59 -62.39

2000 日本 144.48 オーストリア 10.6 フランス 7.79 スイス 5.83 カナダ 5.13 99.73

2001 ドイツ 66.25 オーストリア 12.92 スペイン 8.56 フランス 3.07 スイス 3.06 ― -29.01

2002 アメリカ 144.53 スペイン 14.19 オーストリア 13.59 フランス 9.1 スイス 4.26 -15.91 98.95

2003 スペイン 41.44 オーストリア 18.09 フランス 8.19 ノルウェイ 7.34 オランダ 5.01 1 19.54

2004 スペイン 49.53 オーストリア 19.84 フランス 10.66 ギリシャ 6.28 ベルギー 3.49 -25.93 -16.52

2005 フランス 114.58 オーストリア 21.95 スペイン 12.4 ベルギー 6.15 ギリシャ 4.47 -62.26 51.13

2006 スペイン 91.52 日本 62.29 フランス 32.85 オーストリア 21.35 ベルギー 9.66 ― 147.15

出所:OECD/DAC

(暦年、DAC集計ベース、単位:百万米ドル、支出純額)

1位 2位 3位 4位 5位

返済額を含まない供与額において比較すると、世界銀行を除く対トルコ経済協力

の最大の援助機関は EC(33.5%)であり、続いて有償資金協力を数多く実施しているドイツ(18.59%)日本(17.36%)である。図 3-1 は、返済額を含まない主要援助機

10 世界銀行のデータはOECD/DACウェブサイトに記載がないため、この合計には含まれていない。

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関の対トルコ経済協力実績の推移(1998-2006 年)を示している。合計額に注目すると、対トルコの経済協力は、ECの支援額の増加に伴い 2003年以降は増加傾向にあり、トルコの震災と経済危機が発生した後に対トルコの支援額が大幅に増加してい

ることが読み取れる。

図 3-1 主要援助機関の対トルコ経済協力実績 (返済額を除いた供与額における比較)

0

200

400

600

800

1000

1200

1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006

EC(33.5%)

ドイツ(18.59%)

日本(17.36%)

フランス(6.00%)

アメリカ(4.12%)

スペイン(3.87%)

合計

*()は総額に占

める各機関・国の

割合を示している。

百万ドル

出所:OECD/DAC

表3-9は、1998-2006年のトルコにおける主要援助機関のセクター別資金配分を示している。社会インフラ・サービス・セクターにおいて最も供与額が大きいのはガバ

ナンスであり、続いて教育となっている。ECの支援はガバナンスに集中しており、ドイツ、EC、フランスが教育への支援を中心的に実施している。経済インフラ・セクターにおいては、日本とスペインの支援は運輸セクターに集中しており、セクター別支援額

でみると日本の同セクターへの供与額はその他の援助機関の供与額と比べると突出

して大きいことがわかる。

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表 3-9 トルコにおける主要援助機関のセクター別資金配分(1998~2006年) (単位:百万米ドル)

EC UNDP UNICEF ドイツ 日本 スペイン フランス

2223.2 0.5 8.4 2238.4 712.8 1414.6 443.4 327.6 3240.4263.9 0.0 1.7 265.6 288.4 19.3 1.7 129.9 592.4

17.3 0.0 1.1 18.4 0.0 0.5 0.0 0.4 16.950.7 0.0 0.5 57.4 1.3 0.1 0.0 0.0 3.490.4 0.0 0.0 90.4 162.9 0.1 4.8 10.0 178.5

934.5 0.3 0.0 934.8 9.1 3.2 0.1 8.6 94.2186.8 0.0 5.1 192.0 27.4 7.9 5.0 21.9 89.1

1.8 0.0 0.0 1.8 0.0 1364.6 408.3 1.4 1809.64.7 0.0 0.0 4.7 0.0 0.4 0.0 0.2 1.01.3 0.0 0.0 1.3 0.0 3.8 0.0 1.1 6.60.0 0.0 0.0 0.0 21.2 0.0 0.0 87.2 109.3

57.7 0.0 0.0 57.7 1.5 0.4 0.0 0.1 5.813.4 0.1 0.0 13.5 0.0 4.8 22.3 0.4 37.5

農業 11.3 0.0 0.0 11.3 0.0 0.9 22.3 0.4 30.0林業 2.1 0.1 0.0 2.2 0.0 1.6 0.0 0.0 1.6漁業 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 2.3 0.0 0.0 5.9

180.5 0.1 0.0 180.6 17.3 6.9 0.1 0.3 32.07.5 0.0 0.0 7.5 0.9 0.2 0.0 0.0 1.20.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.4 0.0 0.2 0.71.1 0.0 0.0 1.2 2.2 0.7 0.1 63.1 74.20.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0

411.5 0.0 0.0 411.5 180.7 1.3 1.0 2.7 188.246.4 0.1 0.0 46.5 18.9 211.3 3.1 60.0 350.0

0.0 0.0 0.0 0.0 66.8 0.0 0.1 60.0 156.1

国際機関合計

二国間合計

全セクター合計

社会インフラ&サービス

教育保健

人口計画水供給・衛生ガバナンスその他

経済インフラ

運輸通信

エネルギー金融その他

産業

農業

工業・建設業貿易・規制観光

マルチセクター環境保護女性と開発その他

緊急支援難民支援

出所:OEDC/DAC

3-3-2 国際機関 1.世界銀行 世界銀行が 1998年以降にトルコに供与してきた融資額(約束額ベース)は 15,031百万米ドル11であり、トルコにおける最大の援助機関であることがわかる。図 3-2 は、トルコにおける世界銀行のセクター別資金配分を示しており、最も大きい割合を占め

るのが行政・法律・司法(38%)であり、続いて産業と貿易、金融、エネルギーと鉱業となっている。

図 3-2 トルコにおける世界銀行のセクター別資金配分(1998~2008年)

38%

18%11%

11%

9%

5%4% 3% 1% 行政・法律・司法(5765.9)

産業と貿易(2820.2)

金融(1632.7)

エネルギー・鉱業(1618.4)

農業・漁業・林業(1379.6)

教育(704.0)

水と衛生(610.2)

社会サービス(500.0)

運輸(148.7)

*()は約束額。単位:百万ドル

総額に占める各セクターの割合

出所:世界銀行ウェブサイト(Projects and Operation)

11 世界銀行ウェブサイトより。

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3 - 18

1993 年以降、世界銀行はトルコに対して国別戦略文書(CAS)を策定しており、2007年までに 4つの CASが策定されてきた。世界銀行の最新の国別戦略である国別パートナーシップ戦略(CPS 2008-2011)は、トルコの第 9 次開発計画以降に策定されており、トルコの持続的な成長を達成するためのパートナーとして、トルコの開発

目標の達成を全面的に支援するとしている。CPSの優先課題は、(1)競争力強化と雇用機会の創出、(2)均衡のとれた人間開発と社会開発、(3)より質の高い公共サービスの効率的な提供であり、これらはトルコの第 9 次開発計画(2007-2013)の開発目標と合致している。CPSでは、2008年から 2011年の間に、62億米ドル相当の金融支援を実施するとしており、この額は 2008年以前の 4年間の支援額とほぼ同等である。 さらに、世界銀行のトルコに対する国別評価調査( the World Bank in

Turkey:1993-2004)におけるトルコと他の中進国のプロジェクト実施におけるリスク率を比較すると、トルコはプロジェクト一件あたりの供与額が最も大きく、プロジェクト

におけるリスク率も相対的に低い。これは近年のトルコ政治経済の堅調な成長を反

映したものと考えられる。

表 3-10 トルコと他の中進国のプロジェクト実施におけるリスク率 国 プロジェクト数 供与額(百万米ドル) リスク率(%) トルコ 19 5,929.9 5.3

アルジェリア 9 337.0 22.2 ルーマニア 19 1,395.9 0.0 ブラジル 49 4,948.4 18.4 コロンビア 18 1,151.4 11.1 タイ 1 84.3 0.0

出所:the World Bank in Turkey:1993-2004 –An IEG Country Assistance Evaluation

2.EC

1963年、トルコは EC との連合協定(アンカラ協定)を締結し、EU加盟の意思を表明した。それ以来、トルコの EU 加盟交渉プロセスの監視を目的に、EU 法適応の進捗状況に関する年次報告書の作成や、改革のための優先課題を定めたパートナー

シッププログラムを実施している。1995 年以降、Mediterranean(通称 MEDA ) Partnership12の加盟国であるトルコに対して、(1)安全保障、(2)社会経済開発、(3)教育と文化交流、(4)移住と社会統合の 4分野で技術協力や融資支援を展開している。2001 年以降はトルコの EU 加盟支援が本格化し、主要な資金協力枠組みであるIPA2007-2013 (Instrument for Pre-Accession Assistance)13 が策定された。IPA

12 トルコを含む地中海地域の 12カ国を対象にして 1995年に策定された政治的対話促進のための協力枠組み。 13EU 加盟候補国に適応される財政支援措置。加盟候補国は、国内の法制度等をEU の法体系 (アキ・コミュノテール: acquis communautaire) に適合する際に生じるコストを、加盟に向けての準備体制を整えることを目的にEU 側から供与される。

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の重点分野は(1)制度構築、(2)地域・国境開発、(3)地域開発、(4)人材開発、(5)農村開発の 5分野である。図 3-3に示すとおり、ECの対トルコ支援額は年々増加傾向にあり、その内訳をみると制度構築が総額の約 4割、地域開発が約 3割を占めている。

図 3-3 ECの対トルコ支援額の推移

2007 2008 2009 2010 2011

制度構築 256.7 250.2 233.2 211.3 230.6

地域・国境協力 2.1 8.8 9.4 9.6 9.8

地域開発 167.5 173.8 182.7 238.1 291.4

人材開発 50.2 52.9 55.6 63.4 77.6

農村開発 20.7 53 85.5 131.3 172.5

合計 497.2 538.7 566.4 653.7 781.9

497.2538.7 566.4

653.7

781.9

0

100

200

300

400

500

600

700

800

900

Million Euro

出所:EC提供資料より作成

なお、ECは、世界銀行グループを除くと、多国間・二国間援助の過去 10年間の総額においてトップ援助機関となっている。 3.その他の国際機関 トルコにおけるその他の国際機関としては、国連難民高等弁務官事務所

(UNHCR)、国連開発計画(UNDP)、国連児童基金(UNICEF)が支援を実施している(表 3-7:国際機関の対トルコ経済協力実績)。1998年、これら国連機関のより効果的な連携を目指し、主要な国際機関の代表者から成る国連カントリーチーム(UNCT)が結成された。そして、UNCT による共通国別評価(CCA)が実施され、トルコの経済社会状況、国際社会での役割、開発課題等に係る総合的な分析調査が行われた。こ

の評価結果を受けて 2000年以降、開発援助枠組み(UNDAF)が策定され、5年ごとに改定されている。最新の UNDAF(2006-2010 年 )は、トルコの長期戦略(2001-2023 年)や中期プログラム(2005-2007 年)等の国家開発計画に沿って、(1)民主的ガバナンス、(2)貧困削減、(3)女性・子供・青少年の人権保護・促進の 3 つの優先分野を設定している。この UNDAF に沿って各機関は重点分野や主要コンポーネントを定め、支援活動を行っている。

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UNHCR の支援の主要コンポーネントは、(1)難民支援の強化、(2)イラク難民支援であり、その下でカウンセリング、教育、保健・栄養、職業訓練等の活動を行っている。

1999年、トルコがEU加盟候補国と認められたのを受け、トルコ政府は難民支援をはじめとする、移住、国境管理、人権に係る EU 基準の適応を推進していることから、UNHCRの対トルコ支援も影響を受ける結果となった。2005年に承認されたトルコ国家移住・難民行動計画では、UNHCR からの支援のフェーズアウトを視野に入れ、難民問題の解決に向けたロードマップを策定し、難民支援機関や地域ネットワークの設

立を掲げている。このようにトルコは同問題に対して独自に取り組む姿勢を見せてい

る。 さらにUNDPは、トルコ政府の開発課題とUNDPの協力政策に基づいて支援重点分野を特定すると同時に、トルコの EU 加盟に向けた改革支援も行っている。UNDPのトルコにおける 2006年から 2010年にかけての活動戦略は、(1)民主的ガバナンス、(2)貧困削減、(3)環境と持続可能な開発、の 3 つの柱から成っている。これに加え、南南協力をトルコ国際協力機関(TIKA)と共に実施している。その他、司法制度改革、地方行政改革、ローカルアジェンダ 2114、ジェンダー分野にも力を入れている。 4.多国間基金による支援 表 3-7(国際機関の対トルコ経済協力実績)が示すとおり、国際機関の対トルコ経済協力実績において多国間基金が上位を占めている。ここではそれらの多国間基金

の目的とトルコにおける実績の概略を述べる。なお、これらの多国間基金に日本も出

資しており、この点については、3-4-2にて後述する。 モントリオール議定書の実施のための多国間基金(オゾン層保護基金)15は、同議

定書に基づく規制措置を自力で実施する十分な資金・技術を有していない開発途上

国を援助するために設立された基金であり、1993 年から開始されている。トルコに対しては、オゾン層保護を目的としたフロン類の削減、冷媒回収装置の設置、リサイク

ル活動等に関する法規制の整備支援等を行っている。 さらに、地球環境ファシリティ16(GEF)とは、途上国や市場経済移行国において、地球・国・地域レベルの地球環境問題の解決を目指したプロジェクトに対し、新たに必

14 持続可能な開発に向けた地方公共団体の行動計画 15 1987年 9月にオゾン層を破壊する恐れのある物質を特定し、当該物質の生産、消費及び貿易を規制して人の健康及び環境を保護するための「オゾン層を破壊する物質に関するモントリオール議定書」が採択された。

1990年の議定書第 2回締約国会合にて、開発途上国を援助するための「オゾン層保護基金」の設立が合意され、1992年の第 4回締約国会合にて資金供与の制度の正式な設立にて合意され、1993年より正式に発足した。事務局は国連環境計画(UNEP:United Nations Environment Programme)、実施機関は世界銀行、UNEP、UNDP、国連工業開発機関(UNIDO:United Nations Industrial Development Organization)である。 161989年のアルシュサミットにおいて、開発途上国に対する地球環境問題に取り組むための基金の設立が検討され、1991年に暫定的なGEFが発足、1994 年にジュネーブにてGEFの基本的枠組みが合意され、第一フェーズ(資金規模約 20.2億米ドル)が開始した。現在、第 4フェーズ(2007-2011、資金規模 31.3億米ドル)に移行し、加盟国は 176カ国、日本を含む 34カ国がそれぞれの負担金を信託基金に拠出している。実施機関は、世界銀行、国連開発計画(UNDP)、国連環境計画(UNEP)であり、世界銀行内にGEF信託基金が設置されている。

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要となる増加費用部分を多国間資金から無償で提供する国際的な資金メカニズムで

ある。トルコに対しては 1991年から GEF信託基金の供与が開始されており、国家レベルプロジェクトにおける累計額は 30.81 百万米ドル17、主な対象分野は、供与額が

多い順に、生物多様性、気候変動、国際水域の浄化と汚染防止等の分野である。さ

らに、地球・地域レベルのプロジェクト全 13件が 100万米ドル以上の大規模プロジェクトであり、そのうち 10件は国際水域分野に対して供与されており、主に地中海や黒海沿岸地域の環境システムの保全活動に充てられている。 最後に世界基金18は、開発途上国における感染症対策を支援し、感染症の予防、

治療、感染者支援のための資金を提供する基金である。トルコに対しては、2004年6月にエイズ分野に対して、3.7 百万米ドルが拠出され、HIV 感染者の偏見対策、高いリスクグループの感染予防、HIV感染検査に係る支援に充てられた19。

3-3-3 二国間機関 1. フランス トルコへの二国間協力は、1968 年に締結された「文化・科学技術・技術協力協定

(Agreement on cultural, scientific and technical cooperation)」に始まり、2000年に作成された行動計画(Action Plan ‘France-Turkey 2000’)を主な協力枠組みとしている。フランス外務省国際協力・開発総局によると、近年の二国間援助はトルコの EU加盟に向けた動きに大きく依拠しており、特にトルコが EU 加盟条件を適合するにあたり必要な法整備支援と国内問題の解決に向けた支援が主要なコンポーネントとな

っている。さらに、主要な実施機関であるフランス開発庁(AFD)は、主に(1)環境(再生エネルギー、温暖化対策等)、(2)地方開発(地方の中小企業支援を通じた地域格差是正等)、(3)企業の社会的責任(CSR)への支援や啓発活動等の分野で支援を実施している。 2. ドイツ ドイツの支援は、技術協力実施機関のドイツ技術協力公社 (GTZ)と開発金融機関のドイツ復興金融公庫(KfW)の 2機関により実施されている。トルコへの二国間協力は 1960年から開始されており、技術協力では 285.2百万ユーロ相当、混合借款20で

は 500 百万ユーロ相当を供与してきた21。トルコの EU加盟入りを目指した国家開発計画の策定を受け、二国間協力の優先分野は、環境保全と経済開発に絞られている。

17 金額は承認額であり、承認後に取り消しとなった案件金額も含まれる。GEFウェブサイトより。 18 世界基金設立の経緯の発端は 2000年のG8九州沖縄サミットにさかのぼる。日本はサミット議長国として途上国の深刻な阻害要因である感染症問題をサミットの主要テーマとして取り上げた。翌 2001年のナイジェリアで開催されたアフリカ・エイズ・サミットにて感染症対策基金の呼びかけがなされ、同年のジェノバ・サミットにて基金

設立が合意された。 19 世界基金ウェブサイトより。 20 贈与と借款を相互補完的に実施する支援形態。 21ドイツ外務省ウェブサイトより。

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前者では、特に開発が進んでいない地方都市において、排水処理や廃棄物管理に

係るインフラ整備プロジェクトに対する技術指導等の側面支援を行っている。後者に

ついては、中小企業支援と民間企業の金融環境整備に対する融資枠が設定されて

おり、国内経済の強化と安定化を支援している。一方で、トルコは経済危機後に堅調

な経済成長を遂げていること、また世界銀行や IMF等の国際基金から多額の支援を得ていることから、2001年以降の二国間協力の規模は縮小傾向にある。

3-3-4 援助協調の動向 トルコにおいて援助機関の援助協調のイニシアチブを取っているのは国家計画庁

であり、各援助機関の比較優位性を国家開発計画に照らし合わせ、援助の割り振り

を行っている。また、借款に関するコーディネーションは財務庁が行っている。トルコ

では、援助機関の数が限られていることもあり、援助機関が一同に会する公式な会

議という形での援助協調は実施されていない。一方で、援助機関同士の非公式な意

見交換が必要に応じて行われており、例えばJICAはUNDPと合意文書を結び、省エネルギー分野に関し、必要に応じて意見交換を行っているほか、世界銀行とも密に連

絡を取り合っている。UNDP は、失業問題や青少年など、テーマごとに関連援助機関のグループを作り、セミフォーマルなミーティングを行っている。

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3-4 日本の対トルコ援助実績 3-4-1 対トルコ援助の基本方針 外務省によると、対トルコ支援の意義は以下のとおりとなっている(外務省、国別

データブック、2007年)。 「トルコは、アジア、中東及びヨーロッパの結節点に位置し、その地政学的重要性

は高い。同国は、穏健かつ現実的な外交路線を基調とし、欧米諸国との協調及び

隣接する中東欧諸国、コーカサス・中央アジア、中東諸国との関係を重視し、地域

の安定化に貢献している。また、大きな人口を有し、市場経済・対外開放政策の

推進を通じて、経済的潜在性が高い。日本は、トルコとの良好な関係も踏まえ積

極的にODAを実施している。」 トルコは、一人当たりGNIが比較的高い水準にあることから、一般プロジェクト無

償資金協力の対象ではなく、有償資金協力及び技術協力を中心に援助している。 なお、1998年に実施した経協政策協議においては、以下の4分野を重点的に支

援していくことが確認された。 (1) 環境改善:環境負荷の軽減、都市環境改善、森林・土壌保全、海洋資源管理 (2) 経済社会開発のための人材育成:職業(技術)教育強化、交通網整備拡充、先端技術導入、社会的弱者への支援拡充

(3) 格差の是正のための農漁業及び保健医療等BHNの改善及びインフラ整備:農漁業分野の技術・普及、東部・南東部アナトリア及び黒海沿岸地域の開発、保

健医療サービスの質改善とアクセス向上 (4) 南南協力支援:主に中央アジア・中東・コーカサス・バルカン地域諸国との南南協力支援

また、1999年に発生し1万7千人以上の犠牲者を出したトルコ北西部地震による被害の復興支援を受けて、地震対策強化・防災ガバナンスの強化についても重点分

野として支援をしている。 3-4-2 援助実績 1. 概要 トルコへの2006年度までの経済協力累積額約5,900億円は、中東地域でエジプト

に次いで第2位であり、またトルコへの有償資金協力額は、域内最大規模である。1998年以降の日本の対トルコ支援実績は、表3-11、図3-4のとおりである。年度別・形態別援助実績額によると、1999年に、有償資金協力、無償資金協力、技術協力のすべての援助形態において援助実績額が最も大きくなっているが、これは同年に発

生したトルコ北西部地震による復興支援のためと思われる。なお、技術協力の援助

実績額については、2001年度(22億円)以降、2006年度まで年々減少傾向にある。また、有償資金協力については、2005年度以降、新規の供与は実施されていない

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(1998年度~2007年度に開始、継続または終了した案件の重点分野別の援助実施案件一覧については、表3-12を参照)。 なお、日本政府は、世界銀行に設立された日本基金への資金の拠出など、国際

機関を通じた支援を実施しており、各機関の活動を側面支援すると共に、日本の二

国間援助との連携強化を図っている。日本は、トルコに対しても、有償資金協力、無

償資金協力、技術協力による二国間援助に加え、国際機関を通じた支援を実施して

いる(詳細は4-2-7参照)。

表3-11 日本の対トルコODA実績(1998~2007年度) (有償資金協力・無償資金協力年度ENベース、技術協力年度経費ベース)

円借款 無償資金協力 技術協力

1998 ‐ 0.40 18.551999 654.31 4.82 26.992000 ‐ 0.45 18.092001 120.22 0.87 22.11(19.04)2002 - 0.37 20.63(16.62)2003 268.26 1.04 16.61(13.51)2004 987.32 0.55 15.19(12.05)2005 - 3.05 11.57(9.86)2006 - 0.16 7.572007 - 4.42 8.66累計 2030.11 16.13 131.9

注;1.年度の区分は、円借款及び無償資金協力は原則として交換公文ベース(但し無償資金協力については、2000年度は閣議決定ベース)、技術協力は予算年度による。2.「金額」は、円借款及び無償資金協力は交換公文ベース、技術協力はJICA経費実績及び各府省庁・各都道府県等の技術協力事業の実績ベースによる。3.円借款の累計は債務繰延・債務免除を除く。4.2002‐2005年度の技術協力においては、日本全体の技術協力事業の実績であり、()内はJICAが実施している技術協力事業の実績。累計についてはJICAが実施している技術協力事業の実績の累計となっている。

出所;ODAデータブック2002,2004-2007

(年度、単位:億円)

図3-4 日本の対トルコODA実績(1998年~2006年度)

(DAC集計ベース・支出総額)

全スキーム 無償資金協力と技術協力のみ

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表3-12 評価対象期間の重点分野別の実施案件一覧 (1998~2007年度に開始、継続または終了した案件)

重点分野 支援内容 案件名 援助スキーム 開始-終了年度金額*(億円)

発電所エネルギー効率改善プロジェクト 技術協力 2006.12-2008.11 2.39

省エネルギープロジェクト 技術協力 2000.8‐2005.7 8.6

イスタンブール市都市交通改善計画 開発調査 2005.9-2008.10 2.82

アダナ・メルシン地域廃棄物管理計画調査 開発調査 1998-1999 3.4

ボスポラス海峡横断地下鉄整備計画 円借款 1999-2010 1112

イスタンブール市上水道整備事業計画 円借款 1993-2013 948

森林土壌保全 チョルフ川参加型流域復旧管理計画 開発調査 2002.9-2004.1 2.2

小計 2077.21

自動制御技術教育普及計画強化プロジェクト 技術協力 2007.8‐2010.9 3.49

カレイ類養殖プロジェクト 技術協力 2007.7-2010.12 1.72黒海カレイ持続的種苗生産技術開発プロジェクト 技術協力 2004.11-2007.1 0.7

自動制御技術教育改善計画プロジェクト 技術協力 2001.4‐2006.4 12.5

海事教育向上プロジェクト 技術協力 2000.4-2005.3 9.9

先端技術導入 地質リモートセンシングプロジェクト 技術協力 2002.8-2007.7 5.03

ディアルバクル(バーラル)・困窮地域に居住する児童のための教育支援センター整備計画

草の根・人間の安全保障無償 2007.3 0.06

ディアルバクル(シルヴァン)・困窮地域に居住する女性のための自立支援センター整備計画

草の根・人間の安全保障無償 2007.3 0.05

ギョルバシュ成人知的障害者のための訓練・リハビリ施設整備計画

草の根・人間の安全保障無償 2005.10 0.08

アンカラ困窮地域に居住する母子のための訓練センター 草の根・人間の安全保障無償 2006.3 0.08

アンカラ視覚障害高校生用情報資源室整備計画 草の根・人間の安全保障無償 2004.3 0.08

小計 33.69

東部黒海地域営農改善計画プロジェクト 技術協力 2007.1-2010.3 3.31

東部黒海地域参加型開発人材開発プロジェクト 技術協力 2005.4-2009.3 0.83

東部黒海沿岸地域開発計画調査 開発調査 1999-2000 3.6

イスタンブール・社会的弱者のための診療所・家庭保健教育センター整備計画

草の根・人間の安全保障無償 2005.3 0.08

白血病児童への非経口栄養供与・教育支援計画 草の根・人間の安全保障無償 2004.3 0.03

ツズラ老人ホーム特別介護施設整備計画 草の根・人間の安全保障無償 2003.12 0.09

ギュチュ・バク・ヘルス・センター計画 草の根・人間の安全保障無償 2002.2 0.1

小計 8.04

地震被害抑制プロジェクト 技術協力 2005.8‐2008.3 0.77

災害・緊急時対策研修プロジェクト 技術協力 2003.7-2005.3 0.5

イスタンブール地震防災計画基本調査 開発調査 2001-2002 5.5

イスタンブール長大橋耐震強化計画 円借款 2002-2008 120.22

緊急震災復興対策 円借款 1999.8 236

緊急無償 地震災害 無償資金協力 2001 0.21

緊急無償地震被災民支援NGO支援 無償資金協力 1999.10 0.21

緊急無償地震災害 無償資金協力 1999 4.2

エルズィンジャン災害捜索災害救助チーム備品供与計画 草の根・人間の安全保障無償 2004.3 0.06

ヴァン災害捜索救助チーム備品供与計画 草の根・人間の安全保障無償 2004.3 0.06

地震被災者支援センター計画 草の根・人間の安全保障無償 2002.2 0.1

小計 367.83

地震対策強化・防災ガバナンス**

保健医療サービスの質的改善とアクセスの向上

格差の是正のための農林業及び保健医療等BHNの改善及びインフラ整備

東部・南東部アナトリア及び黒海沿岸地域の開

環境改善

環境負荷軽減

都市環境改善

経済社会開発のための人材育成

職業(技術)教育

社会的弱者への支援

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重点分野 支援内容 案件名 援助スキーム 開始-終了年度金額*(億円)

第三国研修「エネルギー効率・管理研修」 技術協力 2007-2009 0.18

第三国研修「パレスチナ向けリモートセンシング及びGISに関する人材育成」

技術協力 2006.12-2009.3 0.21

第三国研修「リモートセンシング及びGIS研修」 技術協力 2006.12-2008.5 0.23

第三国研修「エネルギー管理者研修プロジェクト」 技術協力 2004.6-2007.3 0.17

第三国研修「地震工学」 技術協力 2002-2004 0.18

第三国研修「母子保健における視聴覚教材によるコミュニケーション」

技術協力 1998-2002 0.28

小計 1.25

資源開発 ホパ地域資源開発調査 開発調査 2003 0.03

ボジュイクメケジェ道路改良計画 円借款 1999.9 293.67

港湾整備長期総合計画策定調査 開発調査 1999.7-2000.8 2.2

土日基金文化センター視聴覚及びLL機材 無償資金協力(文化無償) 1999 0.39エルジェス大学に対するLL機材 無償資金協力(文化無償) 1999.8 0.41土日基金文化センターに対する視聴覚機材 無償資金協力(文化無償)  2000.9 0.45チャナッカレ大学に対する日本語学習機材供与 無償資金協力(文化無償) 2002.2 0.45ボアジチ大学に対する日本語学習機材供与 無償資金協力(文化無償) 2003.12 0.37アナトリア文明博物館に対する研究及び視聴覚機材供与 無償資金協力(文化無償) 2003.12 0.33メルシン県国立オペラ・バレエ劇場に対する音響及びビデオ録画機材供与

無償資金協力(文化無償) 2003.2 0.37

ゾングルダック・カラエルマス大学に対する文化財修復機材供与 無償資金協力(文化無償) 2004.10 0.47カマン・カレホユック考古学博物館に対する建設に係る資金供与 無償資金協力(文化無償) 2007.9 4.36トルコ日本文化研究連帯協会剣道機材整備計画 草の根文化無償 2007.12 0.04

小計 303.54

合計 2791.56

その他***

インフラ整備

国際文化交流

南南協力支援

出所:「ODAデータブック2002、2004-2006」、JICAナレッジサイト、在トルコ日本大使館ホームページを基に

作成。

*金額は終了案件については実績を、実施中の案件については想定を記載。

**上記重点分野に分類できない案件については、「その他」とした。 2. 有償資金協力

1971年に初の対トルコ有償資金協力の供与が決定されて以来、2007年度末現在、承諾累計額は計26件、5,501億円(交換公文ベース)に達する。そのうち、1998年度から2007年度までに借款契約を締結したプロジェクトは5件であり、累計約2,030億円(交換公文ベース)の供与が決定されている。 過去30年間以上のトルコに対する有償資金協力案件の特徴としては、水力発電、

橋梁建設、上水道整備等のインフラ整備を中心とする大型の案件が多いことである。 1998年以降の有償資金協力案件の分野別の内訳は、環境改善(都市環境改善)

が2件、地震対策強化・防災ガバナンス分野が2件、その他(インフラ整備)が1件となっている。 なお、トルコは、2006年度に中進国入りしたため、有償資金協力の供与分野は、

環境、人材育成、格差是正、防災・災害対策に限定しているが、これはトルコの援助

重点分野にも合致している。 3. 無償資金協力 トルコに供与されている無償資金協力としては、緊急無償、草の根・人間の安全

保障無償、文化無償(草の根文化無償を含む)がある。なお、前述のとおり、トルコの

一人当たりGNIは既に高い水準にあることから、現在一般プロジェクト無償資金協力

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の対象国とはなっていない。 緊急無償については、1999年のトルコ北西部地震の被災直後に、緊急物資・無

償援助(合計約515万米ドル)の支援を行った実績がある。 文化無償資金協力については、1983年度からほぼ毎年実施されている。そのうち、

1998年度から2007年度においては、9件(約7億6千万円)が供与された。さらに、2006年度には、トルコにおける初の草の根文化無償資金協力として、剣道機材供与も実施されている。 草の根・人間の安全保障無償資金協力(旧草の根無償資金協力)については、

2002年度から開始され、2007年3月までに12件(約9,030万円)が実施されている。支援内容の内訳としては、経済社会開発のための人材育成分野への支援が5件、格差是正(保健医療サービスの質的改善とアクセスの向上)分野への支援が4件、地震対策強化・防災ガバナンス分野への支援が3件となっている。草の根・人間の安全保障無償資金協力に関しては、これまでトルコ国内の東西格差是正に配慮した案件発

掘をしてきたことが特徴として挙げられる。 4. 技術協力 トルコで実施されている技術協力については、援助5重点分野を中心に、専門家

派遣、研修員受入れ、機材供与、これらを総合的に組み合わせた技術協力プロジェ

クト、開発調査、シニアボランティア派遣(シニアボランティア派遣は2002年4月より開始)等、各種の形態で実施している。また、1996年度より、中央アジア・コーカサス、中東欧諸国等を対象とした第三国研修(南南協力)を実施している。

1998年度から2007年度までの技術協力の分野別の支援内容の内訳は、環境改善が5件、南南協力支援が6件、経済社会開発のための人材育成が5件、格差是正支援が4件、地震対策強化・防災ガバナンス分野支援が3件、その他2件(資源開発とインフラ整備)となっている。 表3-13は、年度別・分野別の派遣・研修員受入れ実績である。1998年度から

2007年度までの累計で、日本からの派遣は青年海外協力隊員が2名、シニアボランティアが41名、専門家が長期58名・短期436名、研修員受入れは1,988名に上っている。日本からの派遣・研修員受入れ共に実績が多いのは、運輸交通(専門家派遣

103名、研修員受入れ591名)であり、続いて、開発計画(専門家派遣5名、研修員受入れ371名)、社会福祉(専門家派遣120名、研修員受入れ238名)となっている。

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表3-13 年度別・分野別の派遣・研修員受入れ実績(1998~2007年度)

計画・行政 公益・公共事業 農林水産 鉱工業 エネ

ル ギー

商業・観光 人的資源 保健・

医療 社会

福祉 その

他 計 開発

計画 行政 公共

事業 運輸

交通 社会

基盤 通信・

放送 農業 畜産 林業 水産 鉱業 工業 商業・

貿易 観光 人的

資源 科学・

文化

1998年

専門家 長期 2 1 3

短期 2 18 3 4 4 2 11 44

研修員受入 3 20 8 12 7 5 6 2 4 8 15 14 4 1 3 3 8 1 124

1999年

専門家 長期 1 1

短期 38 4 8 1 5 5 110 36 207

研修員受入 4 25 5 12 9 1 3 1 1 6 5 13 13 2 6 1 12 119

2000年

専門家 長期 2 1 1 4 5 3 2 18

短期 2 3 2 1 3 7 5 23

研修員受入 3 19 4 11 10 2 7 2 1 4 4 5 16 2 5 3 10 2 110

2001年

専門家 長期 1 3 1 6 11

短期 1 7 3 7 5 11 34

研修員受入 1 17 3 18 10 5 4 2 2 5 3 5 11 5 8 2 10 111

2002年

JOCV 1 1

その他 ボランティア 1 3 4

専門家 長期 2 3 4 1 10

短期 2 2 7 3 4 5 2 3 28

研修員受入 2 22 1 18 9 2 4 1 1 2 5 2 6 4 15 1 9 104

2003年

JOCV 0

その他 ボランティア 1 1 1 2 1 6

専門家 長期 1 2 4 7

短期 1 7 1 2 6 6 4 3 30

研修員受入 15 20 10 1 4 1 3 1 6 4 8 6 8 1 6 4 1 99

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計画・行政 公益・公共事業 農林水産 鉱工業 エネ

ル ギー

商業・観光 人的資源

保健・

医療 社会

福祉 その

他 計 開発

計画 行政 公共

事業 運輸

交通 社会

基盤 通信・

放送 農業 畜産 林業 水産 鉱業 工業 商業・

貿易 観光 人的

資源 科学・

文化

2004年

JOCV 1 1

その他 ボランティア 4 2 1 7

専門家 長期 1 1 2

短期 1 8 3 4 6 5 27

研修員受入 2 15 10 8 1 2 3 4 4 2 5 4 1 40 4 4 229 338

2005年

JOCV 0

その他 ボランティア 2 1 2 4 3 12

専門家 長期 2 1 2 5

短期 2 2 1 1 4 7 17

研修員受入 121 16 143 2 2 4 3 1 1 2 2 4 32 2 2 2 339

2006年

JOCV 0

その他 ボランティア 2 1 1 1 1 2 3 1 12

専門家 長期 0

短期 1 2 6 4 8 1 2 24

研修員受入 235 6 347 1 5 2 2 1 4 1 27 4 7 2 644

JOCV 0 2 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 2

その他 ボランティア 4 2 0 0 3 1 1 0 0 0 0 1 2 3 1 12 9 1 1 0 41

専門家 長期 1 0 1 14 1 0 1 0 0 5 6 0 5 0 0 17 0 4 2 1 58

短期 4 4 4 89 3 0 9 1 0 23 36 0 34 0 1 33 0 37 118 40 436

研修員受入 371 155 21 591 66 19 39 15 11 29 38 52 78 27 2 144 21 68 238 3 1988