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104 2 地域学校協働活動の推進に資する高齢者の地域参加と課題 (1)社会に開かれた教育課程と学校を核とした地域づくり~地域学校協働に向けて~ 地域と学校が連携して子供の成長を支える「地域学校協働」の普及に向け、文部 科学省が新たな指針を作成した。中央教育審議会答申「新しい時代の教育や地方創 生の実現に向けた学校と地域の連携・協働の在り方と今後の推進方策について」(平 成27(2015)年)及び「次世代の学校・地域」創生プラン(平成28(2016)年) を踏まえ、各地域において「地域学校協働活動」やコミュニティ・スクール(学校 運営協議会制度)の取組が促進されている。 文部科学省のいう「地域学校協働活動」とは、地域と学校が連携・協働して、地 域の高齢者、成人、学生、保護者、PTA、NPO、民間企業、団体・機関等、幅広 い地域住民等の参画により、地域全体で未来を担う子供たちの成長を支え、地域を 創生する活動である。 しかし、学校の教育資源(教員、施設・設備)を地域へ開放する動きは、1960 年代から進められてきた。また、「開かれた学校」の推進によって、学校教育(小中 高・大学)に地域の人材を活用する動きも定着しつつある。つまり、地域と学校の 連携・協働は今日に始まったわけでなく、学社連携・融合事業を含めると既に多彩 な実践と研究が育まれている。こうした地域の歴史や文化の支え手として、高齢者 の存在は大きい。 本節では、地域学校協働の推進において、高齢者がどのような場面・方法で地域 に参加・参画を行っているのか、事例に基づき検証した上で、今後、高齢者が地域 学校協働活動していく可能性とその課題を明らかにしたい。 (2)事例からみた高齢者が地域学校協働活動に参加できる可能性 ア 高齢者が地域学校協働活動に参加した世代間交流事業 本報告書で取り上げた高齢者が地域学校協働活動に参加した事業は、次の3事例 である。 事例1 「りぷりんと・中央区」による読み聞かせボランティア活動 事例2 「熟年者マナビ塾」生による学校支援ボランティア活動 事例3 「インプロ(即興劇)」を用いた公民館における交流事業 これら詳細の概要(地域、取組名、対象、支援者・仲介者、事業概要<テーマ、 目的、時期、場所、内容、方法・形式、予算>、効果、高齢者の地域参画の体制、 課題)は、表4-2の通りである。 各事業に共通している事項は、次の点にある。 a 活動の主体:「子供(幼児・児童・生徒)」にあること。高齢者の健康や生 きがいの要素は副次的なものである。 b 活動の内容:子供(児童、幼児)と高齢者の交流・コミュニケーションを 図る活動が主となる。内容は、子供の学びや成長に結びつく活動(読み聞か せ、学習等)が導入しやすい。 活動の時間:学校の授業時間内であれば、時間は限定的である。限られた 時間で有効な効果をもたらすことが求められる。学校外(放課後・休暇日)

第4章 - NIER · 2018. 6. 18. · F¸GjGwG GTG1G0 Fþ _ º nF¸ Ê j4)FÛG Fþ ¤ e'¼F÷ G F ... 注2: ヒアリングは梨本、市川が担当。ヒアリング調査は、平成29(2017)年8月10

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Page 1: 第4章 - NIER · 2018. 6. 18. · F¸GjGwG GTG1G0 Fþ _ º nF¸ Ê j4)FÛG Fþ ¤ e'¼F÷ G F ... 注2: ヒアリングは梨本、市川が担当。ヒアリング調査は、平成29(2017)年8月10

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2 地域学校協働活動の推進に資する高齢者の地域参加と課題(1)社会に開かれた教育課程と学校を核とした地域づくり~地域学校協働に向けて~

地域と学校が連携して子供の成長を支える「地域学校協働」の普及に向け、文部科学省が新たな指針を作成した。中央教育審議会答申「新しい時代の教育や地方創生の実現に向けた学校と地域の連携・協働の在り方と今後の推進方策について」(平成27(2015)年)及び「次世代の学校・地域」創生プラン(平成28(2016)年)を踏まえ、各地域において「地域学校協働活動」やコミュニティ・スクール(学校運営協議会制度)の取組が促進されている。文部科学省のいう「地域学校協働活動」とは、地域と学校が連携・協働して、地域の高齢者、成人、学生、保護者、PTA、NPO、民間企業、団体・機関等、幅広い地域住民等の参画により、地域全体で未来を担う子供たちの成長を支え、地域を創生する活動である。しかし、学校の教育資源(教員、施設・設備)を地域へ開放する動きは、1960年代から進められてきた。また、「開かれた学校」の推進によって、学校教育(小中高・大学)に地域の人材を活用する動きも定着しつつある。つまり、地域と学校の連携・協働は今日に始まったわけでなく、学社連携・融合事業を含めると既に多彩な実践と研究が育まれている。こうした地域の歴史や文化の支え手として、高齢者の存在は大きい。本節では、地域学校協働の推進において、高齢者がどのような場面・方法で地域に参加・参画を行っているのか、事例に基づき検証した上で、今後、高齢者が地域学校協働活動していく可能性とその課題を明らかにしたい。

(2)事例からみた高齢者が地域学校協働活動に参加できる可能性ア 高齢者が地域学校協働活動に参加した世代間交流事業本報告書で取り上げた高齢者が地域学校協働活動に参加した事業は、次の3事例である。事例1 「りぷりんと・中央区」による読み聞かせボランティア活動事例2 「熟年者マナビ塾」生による学校支援ボランティア活動事例3 「インプロ(即興劇)」を用いた公民館における交流事業 これら詳細の概要(地域、取組名、対象、支援者・仲介者、事業概要<テーマ、目的、時期、場所、内容、方法・形式、予算>、効果、高齢者の地域参画の体制、課題)は、表4-2の通りである。 各事業に共通している事項は、次の点にある。

a� 活動の主体:「子供(幼児・児童・生徒)」にあること。高齢者の健康や生きがいの要素は副次的なものである。b� 活動の内容:子供(児童、幼児)と高齢者の交流・コミュニケーションを図る活動が主となる。内容は、子供の学びや成長に結びつく活動(読み聞かせ、学習等)が導入しやすい。c� 活動の時間:学校の授業時間内であれば、時間は限定的である。限られた時間で有効な効果をもたらすことが求められる。学校外(放課後・休暇日)

Page 2: 第4章 - NIER · 2018. 6. 18. · F¸GjGwG GTG1G0 Fþ _ º nF¸ Ê j4)FÛG Fþ ¤ e'¼F÷ G F ... 注2: ヒアリングは梨本、市川が担当。ヒアリング調査は、平成29(2017)年8月10

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第4章

高齢者の地域への参

画を促す地域の体制

づくりに向けて

であれば時間に余裕がある。d� 体制づくり:地域と学校を結びつける支援者・仲介者の存在が重要となっている。相互のニーズをマッチさせ、その約束事を守ることで、信頼感・活動の継続性を高められる。

表4-2 高齢者が地域学校協働活動に参加した事業

   注:前述の取組事例に基づき齊藤が作成。灰色部分は活動プログラムの概要。教員が調整

イ 「りぷりんと・中央区」の取組事例にみる高齢者の参加・参画地域学校協働活動の3事例のうち、事例1の「りぷりんと・中央区」の取組内容に

ついてはヒアリング調査を実施した。前述のように「りぷりんと・中央区」は2004年にモデル事業として活動を開始し、その後、試行錯誤の末、2007年に任意ボランティア団体「りぷりんと・中央区」として再結成した。10年以上を経た「りぷりんと活動」の学習・活動プロセス及び継続要因についてヒアリング調査を行った。このヒアリング調査に基づき、本研究テーマ「高齢者の地域への参画を促す地域の体制づくり」に接近する大項目として、次の4項目をあげた。図4-1は「りぷりんと・中央区」の取組例に基づく高齢者の社会・参画プロセスである。図のステップは、右から左へ「1�講座の参加」→「2�グループの立ち上げ」→「3�活動の場と役割」→「4�活動の継続」である。これは、社会教育関係者が、地域学校協働活動に高齢者を誘導する際の配慮すべき事項でもある。

Page 3: 第4章 - NIER · 2018. 6. 18. · F¸GjGwG GTG1G0 Fþ _ º nF¸ Ê j4)FÛG Fþ ¤ e'¼F÷ G F ... 注2: ヒアリングは梨本、市川が担当。ヒアリング調査は、平成29(2017)年8月10

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高齢者の参加 1 講座の参加 2 グループの立ち上げ 3 活動の場と役割 4 活動の継続

   注1:高齢者の読み聞かせグループ活動「りぷりんと活動」のヒアリングに基づき作成   注2:�ヒアリングは梨本、市川が担当。ヒアリング調査は、平成29(2017)年8月10日(木)

東京都健康長寿医療センター研究所(研究員:安永正史、村山陽)で実施。ヒアリング調査記録に基づき、齊藤が図を作成。

図4-1 「りぷりんと・中央区」の取組例に基づく高齢者の社会・参画プロセス

  (ア)�ステップ1:高齢者が参加する第一歩として、生涯学習「講座の受講」が挙げられる。

   a� 学習目的の明確化:高齢者にとっては、介護や認知症を予防する「健康」と「生きがい」の2つの目的がある。

   b� 学習期間の妥当性:「りぷりんと・中央区」の場合は12回の長期講座である。

   c� 継続辞退者の要因分析:高齢者の場合、多くは「体力的」「人間関係」が辞退要因となるが、個のニーズや生活状況等の背景も理解する必要がある。

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第4章

高齢者の地域への参

画を促す地域の体制

づくりに向けて

  (イ)ステップ2:講座終了後に、講座受講者で「グループの立ち上げ」がある。   a� 個のニーズ:グループでの活動が、高齢者自身の「自己充実」や「自

己発揮」につながるような配慮が必要である。   b� 中間的な存在:最も重要となるのは、彼らをサポートする中間的な存

在(コーディネーター)である。   c� 「草の根活動」へ:グループ活動は、行政主導型・行政依存型でなく、

受講者が主体となる活動へ誘導すべきである。その他、「リーダーの存在」、定期的に集まる「場の確保」、「ボランティアの体制」づくりなど、徐々にグループ活動・運営が成立していく。

  (ウ)ステップ3:高齢者が参加・参画できる「活動の場と役割」である。   a� 地域学校協働活動に高齢者を「つなぐ」:つなぐためには、働きかける

人・仲介する人の存在が重要となる。教育行政が仲介することによって、校長の理解や教員の意識改革、教育コーディネーターの配置が促される。

   b� 活動の場と時間の設定:活動の場として、学校内(小学校・幼稚園)と学校外(放課後の時間・保育園・児童館・高齢者施設等)の活動に分かれる。学校内の時間として、「総合的な学習時間」や「朝の活動」で読み聞かせ活動等が有効となる。

   c� 地域学校協働活動の効果性:まず、「子供(児童生徒)の成長」にどう影響したか、具体的な検証や説明があれば、地域学校協働活動の説得力も増す。例えば、「りぷりんと活動」の場合、学力や共生意識の向上に役立ったとの報告がある。こうした検証に、適宜、「研究者の支援」もしながら、「教員の情報共有」を心掛ける必要がある。

  (エ)ステップ4:高齢者の「活動の継続」である。   a� 学校ボランティアの育成:活動を継続するには、研修の機会を充実さ

せることによって活動者の士気を高めることができる。例えば、学校に入るマナーの再確認、スキルの質を保証する研修の機会等がある。

   b� 自主運営の継続:まず、高齢者の年齢や体力に応じた無理のない活動や健康づくりも大切である。次に、活動内における「役割の交代」もあり得る。「りぷりんと活動」の場合、読み手となったり、サポート役割になったり、多様に役割を交代できる。さらに、「新たな活動」の展開である。同じ活動ばかりではマンネリ化するため、自分たちのスタイルにあった活動の創造も楽しいだろう。

  � 以上の4つのステップは、「りぷりんと・中央区」(読み聞かせ活動)の例に過ぎないが、地域学校協働活動に高齢者が参加・参画する可能性は大いに期待できる。

  � 学生等の青年サークルは一過的で人の入れ替わりが激しいが、高齢者グループは安定的でかつ、継続性を特徴とする。たとえ早朝の活動であっても、高齢

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者は学校教育の要望に対応可能であろう。

(3)地域学校協働活動を推進する上での課題 「学校を核とした地域づくり」を目指して、地域と学校が相互にパートナーとして連携・協働活動が各地で展開している。しかし、実態は、協働活動に取り組む学校数は伸び悩みも聞かれる。では、地域と学校とを協働推進する上で、どのような課題が生じているのであろうか。筆者が、Y市内で教員側のヒアリング情報から得た課題の整理を行った。

ア 人的課題についてa� 校長:地域学校協働を積極的に推進するかどうかは、「校長の裁量」が大きい。子供の安全・情報漏洩など「リスクの防止」、教育効果性、教員自身の労務上の問題に対して慎重にならざるを得ない。b� 教員:平素から教員は、「子供(保護者も含む)の山積した課題」の対応に精いっぱいである。また、教員の世代交代で、若手教員が増員して余力がない。それに加え、教員自身の「地域への理解不足」(地域での経験不足、地域人との理解不足)が挙げられる。c� コーディネーター:学校と地域をつなぐ人材が必要である。社会教育主事は、地域学校協働活動の地域の全体像を描く役割が必要とされる。学校・地域双方の理解と情報整理が求められる。この現場を取り仕切るのは「地域学校協働推進委員」であるが、その予算配置や機能化はこれからの課題である。

イ 新たな協働活動の創造についてa� 目的の明確化:�地域学校協働の推進は「誰のため」に必要なのか、目的を明確にしておく必要がある。学校のため(子供・保護者他)なのか、地域人(高齢者等を含む)のためなのか、ということである。「地域人のため」の場合、学校側は「高齢者の生きがいの場ではない」、「地域人は教育のプロではない」との厳しい見方をするものも少なくない。b� 地域資源を教育活動に導く方法:新しい協働活動には創造性が重視されるが、そうした学習活動に導く内容・方法・教育効果を見い出せていない。つまり、協働活動を行うには、それを得意とするものからのサポートやアドバイスが必要となる。c� 地域との関係作り:�地域と学校が協働するには、信頼関係を築くことが重要である。地域との関係は、「PTA等で十分ではないか」、「学校に新規参入する団体は教育委員会等のお墨付きが欲しい」との本音も聞かれる。地域と学校との協働関係が一旦できると、地域からの期待や要望がより大きくなり、学校がそれに応えることができなくなる。つまり、地域と学校との関係作りの一歩として、双方の信頼関係が重要である。

Page 6: 第4章 - NIER · 2018. 6. 18. · F¸GjGwG GTG1G0 Fþ _ º nF¸ Ê j4)FÛG Fþ ¤ e'¼F÷ G F ... 注2: ヒアリングは梨本、市川が担当。ヒアリング調査は、平成29(2017)年8月10

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第4章

高齢者の地域への参

画を促す地域の体制

づくりに向けて

ウ 学校外の仕事の負担についてa� 時間の制約:授業内であれば「限られた授業時間に終える」ことが重要である。地域講師の依頼があった場合、限られた授業時間、決められた学習内容を超えて、地域に関与する時間を変更することは難しい。時間の調整とその理解は学校にとって不可欠となる。b� 学校外の負担:地域学校協働を学校外で実施する場合、教員の負担感が高まらない配慮も必要となる。

 以上から、地域と学校とが協働して活動していくには、まだ多くの課題が残されている。

(4)地域学校協働活動に高齢者が参加・参画するために 今後、地域学校協働活動に高齢者が参加・参画するために、次の点を再確認する必要があるだろう。ア 協働活動の主体の理解

地域学校協働活動の主体者を理解することが大切である。学校を拠点にするならば、まず「子供」が主体である。関係者は、子供と彼らを取り巻く環境や課題を十分理解し、双方に共有しておくとよい。

イ 学校(授業)内外の場と時間の設定場は、学校内(屋内・屋外)及び、学校外施設(屋内、屋外)の設定がある。また時間は、時期・期間、学校の授業内・授業外、放課後、休日なのかによって異なる。授業内であれば、他の教科や単元との調整、時間に限定がある。授業外であれば、既に行われている地域行事等をあらかじめ調べておくとよい。

ウ 社会に開かれた教育課程と効果的なプログラム主体が利益を得るためには、どのようなプログラムが必要か、より効果的な学習内容と方法とは何か、社会に開かれた教育課程とはなど、具体的に検討すべきで、専門的な見地が求められる。

エ 学校に高齢者が参加・参画するために豊富な知恵と経験をもつ高齢者は、子供たちにとって魅力的な存在である。しかし、高齢者の全てが子供に伝えるスキルを持っているとは限らない。そこで、学校に高齢者が参加・参画していくためには、高齢者自身も常に学び、成長し続けなければならない。また、高齢者が学校で役割をもてる環境を整備していくには、地域と学校とを結ぶコーディネーター的な存在(例「地域学校協働活動推進員」など)がより一層必要となるだろう。

Page 7: 第4章 - NIER · 2018. 6. 18. · F¸GjGwG GTG1G0 Fþ _ º nF¸ Ê j4)FÛG Fþ ¤ e'¼F÷ G F ... 注2: ヒアリングは梨本、市川が担当。ヒアリング調査は、平成29(2017)年8月10

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 以上、地域と学校との協働活動はまだ端緒に過ぎない。今後、地域と学校とが共にまちの未来を見据えながら協議を重ね、小さな実践活動を地道に積み上げることによって、学校教育で高齢者の役割がさらに発揮されると思われる。

� (齊藤 ゆか)