22
1 第5世代(5G)ミリ波通信用材料: インディアライト/コーディエライト結晶化ガラスセラミックス ミリ波誘電体の研究開発 名古屋産業科学研究所・オウル大学 大里 齊 1.まえがき 現代社会は,近年情報通信技術の爆発的な発展によって産業革命以来の変革 を遂げている.マイクロ波を利用した携帯電話は,大容量・高速データ通信の第 四世代(4G)に達し,ワイヤレス LAN2.4GHz/5GHz)も一般化し,超広帯域 UWB)近距離ワイヤレス通信(3.110.6GHz)へと情報の伝達は超高周波化・ 高速化・大容量化の 5G へ向かっている[1].ミリ波通信は,非圧縮画像転送(PAN, LAN)やプリクラッシュセーフティシステム等に於いて利用が始まっている.総 務省の「周波数再編アクションプラン」[2]によれば,30 GHz 超の周波数帯は未利 用周波数帯の利用でマイクロ波帯での周波 数切迫状況を解消し,広帯域,大容量,近距 離伝送に向いている(図 12).また,追突 防止用レーダ等には,降雨等による減衰が大 きいが,直進性が強いので利用されている. 本研究では,ミリ波材料用として低誘電 率,低誘電損失で且つ温度特性の優れたコー Fig. 1. Region of microwave and millimeter-wave. Fig. 2. Millimeter-wave layout of Ministry of Public Management, Home Affairs, Posts and Telecommunications in Japan [1].

第5世代(5G)ミリ波通信用材料: インディアライ …4 ルミナはAlO 6 八面体が面共有してc-軸方向に積み重なっている.Al イオンは八 面体の内2/3

  • Upload
    others

  • View
    0

  • Download
    0

Embed Size (px)

Citation preview

Page 1: 第5世代(5G)ミリ波通信用材料: インディアライ …4 ルミナはAlO 6 八面体が面共有してc-軸方向に積み重なっている.Al イオンは八 面体の内2/3

1

第5世代(5G)ミリ波通信用材料:

インディアライト/コーディエライト結晶化ガラスセラミックス

ミリ波誘電体の研究開発

名古屋産業科学研究所・オウル大学 大里 齊

1.まえがき

現代社会は,近年情報通信技術の爆発的な発展によって産業革命以来の変革

を遂げている.マイクロ波を利用した携帯電話は,大容量・高速データ通信の第

四世代(4G)に達し,ワイヤレス LAN(2.4GHz/5GHz)も一般化し,超広帯域

(UWB)近距離ワイヤレス通信(3.1~10.6GHz)へと情報の伝達は超高周波化・

高速化・大容量化の 5G へ向かっている[1].ミリ波通信は,非圧縮画像転送(PAN,

LAN)やプリクラッシュセーフティシステム等に於いて利用が始まっている.総

務省の「周波数再編アクションプラン」[2]によれば,30 GHz 超の周波数帯は未利

用周波数帯の利用でマイクロ波帯での周波

数切迫状況を解消し,広帯域,大容量,近距

離伝送に向いている(図 1,2).また,追突

防止用レーダ等には,降雨等による減衰が大

きいが,直進性が強いので利用されている.

本研究では,ミリ波材料用として低誘電

率,低誘電損失で且つ温度特性の優れたコー

Fig. 1. Region of microwave

and millimeter-wave.

Fig. 2. Millimeter-wave layout of Ministry of Public Management, Home

Affairs, Posts and Telecommunications in Japan [1].

Page 2: 第5世代(5G)ミリ波通信用材料: インディアライ …4 ルミナはAlO 6 八面体が面共有してc-軸方向に積み重なっている.Al イオンは八 面体の内2/3

2

ディエライトに注目して研究開発を進め,コーディエライトの多形(同質異像)

であるインディアライトの特性が非常に良いことを見いだしたので,その経過

を報告する.現在,研究開発を続けている LTCC(低温同時焼成)基板及びダイ

レクトキャスティングによる基板の研究開発についてその内容に簡単に触れる.

本報告の構成は,「1.まえがき」に続いて,「2.マイクロ波誘電体材料について」概

説し,「3.インディアライト/コーディエライト結晶化ガラスセラミックス」,「4.

実験方法」,「5.実験結果と考察」,最後に「6.まとめと今後の方針」とする.

2.マイクロ波/ミリ波誘電体材料について[3,4]

2.1.特性

(i) 共振 resonate しやすい材料(誘電損失/品質係数 Q)

誘電損失の少ない誘電体

は,図 3a に示すように電磁波

に曝されると分極が発生し,

電波の交番によって分極反転

が誘起し,一定の振動数で共

振を起こす.その反転の際に

誘電体損失(tan)が発生す

る.この誘電損失の少ない材

料が求められている.誘電損

失の逆数を品質係数Qと呼ん

で,次式で表される.

tan

1Q ・・・(1)

Q と周波数 f の積:Qf 一定則があるので品質

係数は Qf で評価されることが多い.

図 4 はフィルタで,In Put から入って来た

マイクロ波によって誘電体共振器が共振し,

近くに置かれた別の共振器が共鳴し,Out Put

に共振した周波数のマイクロ波が伝播してゆ

く.近年,注目を集めている電磁界共鳴によ

るエネルギー伝送は,この原理による[5].

誘電損失の少ない材料は,対称中心を持ち,対称性の高い均斉な構造を持つも

ので,常誘電体が主体である.エレクトロセラミックスの多くは強誘電体である

中で,常誘電体のマイクロ波誘電体はエレクトロセラミックスの世界では異端

児ではあるが,欠陥のない端正な材料である.不純物を嫌い,粒界も綺麗で,粒

Fig. 3. (a) When irradiated by electromagnetic

waves, the materials should resonate due to

changing dielectric polarization under alternating

electromagnetic fields. (b) Dielectric losses

increase with an increase in frequency. (c) εr causes

a shortening of wavelength λ in dielectrics.

Fig. 4. Dielectric resonator with

resonate coupling.

Page 3: 第5世代(5G)ミリ波通信用材料: インディアライ …4 ルミナはAlO 6 八面体が面共有してc-軸方向に積み重なっている.Al イオンは八 面体の内2/3

3

界の少ない粒径の大きい組織が良い特性をもたらす[6].

(ii)波長の短縮

高い比誘電率を持つマイクロ波誘電体が情報通信技術の歴史の中で最初に果

たした貢献は,自動車電話からショルダーホンを経て携帯電話へ急激な小型化

をもたらしたことである.誘電体中での波長は,次式に従って短くなる(図 3c).

r

0

・・・(2)

ここで,0 は真空中での波長である.すなわち,誘電体中での電磁波の波長

は,比誘電率の平方根の逆数に比例して短縮される.これは共振器のサイズを

1/√r に小型化できることを意味しており,小型化・軽量化には重要な特性であ

る.デシ波・センチ波帯(図 1)では,この波長短縮効果は大変有効であるので

比誘電率は大きい方がよい.100cm の波長は,比誘電率 100 の材料に入ると 10cm

に短縮され,更に 1/4 波長モードを使えば 2.5cm まで短縮される.

一方,ミリ波は 1cm より短く,更に短縮されると工作精度が落ちるので,比

誘電率は小さい方が良い.また,伝播の遅延時間 TPDは次式で示すように比誘電

率が小さい方が短くなるので良い.ミリ波領域では,この遅延時間が問題となる

ので比誘電率の小さい材料が求められている.

TPD=√r /c ・・・(3)

ここで,c は光速である.一般に比誘電率 5 以下が求められる.

比誘電率は,図 5 に示したように結晶構造に強く依存している[8].大きな比

誘電率をもつチタン酸塩のペロブスカイト型構造は,TiO6八面体で構成され,Ti

イオンは八面体の中で緩く結合している.その為,電波の交番によって Ti イオ

ンは大きく動く,これ

をラットリング効果と

呼ぶ.この効果の大き

いチタン酸塩は比誘電

率が大きい.一方,ケイ

酸塩は,SiO4 四面体で

構成され,Si イオンは

イオン結合と共有結合

が半々でラットリング

効果は小さい.それ故,

比誘電率は小さく 5 か

ら 7 である.また,ア

Fig. 5. Dielectric constants due to crystal structure: (a)

SiO4 tetrahedron, (b) Al2O3 and (c) TiO6 octahedron.

Page 4: 第5世代(5G)ミリ波通信用材料: インディアライ …4 ルミナはAlO 6 八面体が面共有してc-軸方向に積み重なっている.Al イオンは八 面体の内2/3

4

ルミナは AlO6八面体が面共有して c-軸方向に積み重なっている.Al イオンは八

面体の内 2/3 を占めている.連続した 2 つの八面体を Al イオンが占めその両サ

イドの八面体は空席となっているために,その 2 つの Al イオンはお互いの反発

力によって八面体の壁側に押しつけられてラットリング効果が抑えられ,チタ

ン酸塩とケイ酸塩の間の比誘電率 10 位をとる[9].

(iii)共振周波数の温度依存性 TCf(f)

共振周波数は,共振器のサイズと比誘電率によって決まる.例えば,TE01モ

ードの共振器の共振周波数 fr は,次式のように物質中での電磁波の速度 c/√r を

共振器の直径 D で除した値である.ここで,c は真空中の電磁波の速度である.

共振状態に於いて D は,共振波の波長に相当する.

r

r

c

Df ・・・(4)

共振周波数の温度係数 TCf (又はf)は,共振器のサイズの変化と比誘電率の変

化によっている.なお,サイズの変化は熱膨張により決まる.TCf と比誘電率

の温度係数 TCの間には次式の関係がある.

)2

(

TC

TCf ・・・(5)

TCf が大きいと共振周波数がズレるので受信ができなくなる.夏と冬の温度差,

赤道と北極の温度差,ラジエーターと外気の狭間の温度差に匹敵するマイナス

40 oC からプラス 80 oC の間で共振周波数の温度係数がゼロに近い材料が求めら

れている.マイクロ波誘電体の複合ペロブスカイト(Ba(Mg1/3Ta2/3)O3 (BMT)等)

[3],疑似タングステンブロンズ固溶体[10],ホモロガス化合物は,Qf 値が高く,

温度係数がゼロ ppm/oC に近く,優れた材料で実用に供されている[12].比誘電

率の低いケイ酸塩は,TCf = -60ppm/oC 近傍の値をとるので,プラスの TCf を持

つルチル(TiO2,+450 ppm/oC)等を添加してゼロ ppm/oC を達成している[13].

2.2.開発方向 [14]

マイクロ波誘電体の開発方向は次の 3 方向ある.

(i) 高誘電率方向:小型化

(ii) 高誘電率且つ高 Q:基地局の小型化

(iii) 低誘電率且つ高 Q:ミリ波材料

図 6 は,縦軸に Qf,横軸に比誘電率を取り,ペロブスカイト型材料と疑似タ

ングステンブロンズ固溶体をプロットしたものである[14].矢印で示した二次曲

Page 5: 第5世代(5G)ミリ波通信用材料: インディアライ …4 ルミナはAlO 6 八面体が面共有してc-軸方向に積み重なっている.Al イオンは八 面体の内2/3

5

線を越える材料を目

指すのが開発方向で

ある.(i)の方向は,疑

似タングステンブロ

ンズは比誘電率 80 前

後,100 を越えるもの

が求められている.(ii)

の方向は,携帯電話の

基地局材料開発のも

のである.基地局は,

パワーの強いものが

必要であるので,高 Q

材料が利用されてい

る.高 Q の材料は比誘

電率が低いのでサイ

ズが大きく,重量のあ

る共振器であった.携

帯電話が普及して多

くの基地局が建てら

れている.そのメンテナンスに於いて重量の大きい材料は取り付け等が大変で

あるので,軽量化・小型化が求められた.そのため,比誘電率の大きく,Q 値の

高い材料が求められた.私の研究室出身の Dr. Takashi Okawa は博士課程論文で

高誘電率,高 Q のホモロガス化合物(r = 44, Qf = 47,000 GHz, TCf = 1.3 ppm/oC)

を研究・開発した[11].その材料を基礎に大研化学工業(株)Q3GIFU で基地局

用マイクロ波誘電体の生産・販売を行っている.(iii)の方向は,ミリ波誘電体の

開発方向で,比誘電率が低く,Qf 値が高い材料が求められている.今後,高速

大容量による非圧縮伝送や車の追突防止等のレーダに期待されている[4].

2.3.マイクロ波/ミリ波誘電体材料

(i) マイクロ波誘電体材料は,Sebastian 等によってデータベースが作られ,4000

近くの誘電体が比誘電率の順でリストアップされている[14].また,それらの材

料の特性が Sebastian によって一冊の本にまとめられており,マイクロ波材料研

究者にとって必携の本となっている[16,3,4].併せて,著者等のマイクロ波誘電

体[3]とミリ波誘電体[4]の本も参照されたい.代表的な材料を比誘電率別に挙げ

てみたい:高誘電率材料(r > 10)には, ①複合ペロブスカイト[17],②疑似

タングステンブロンズ固溶体[18],③ ホモロガス材料[11]がある.比誘電率 10

Fig. 6. Three directions of R&D for microwave

dielectrics. The Q⋅f of microwave dielectrics is shown as

a function of εr.

Page 6: 第5世代(5G)ミリ波通信用材料: インディアライ …4 ルミナはAlO 6 八面体が面共有してc-軸方向に積み重なっている.Al イオンは八 面体の内2/3

6

前後の材料には,アルミナ[19],コランダム型化合物[20,21],スピネル[22,23]な

どがある.更に低い低誘電体材料の多くはケイ酸塩で,フォルステライト[24],

ウイルマイト[25],インディアライト[26]等がある.

(ii)インディアライト/コーディエライト

コーディエライトは MgO-Al2O3-SiO2 三成分系 [27]に存在する化学式

Mg2Al4Si5O18 で示されるケイ酸塩であり,1465oC でムライトと液相に分解溶融

する[28].この化合物には多形が存在し,四面体配位の Al と Si イオンがオーダ

したコーディエライト(直方晶系,空間群:Cccm (No.66))とディスオーダした

インディアライト(六方晶系,P6/mcc (No.192))がある[29].一般にコーディエ

ライトは低温型,インディアライトは高温型であり,オーダ/ディスオーダ転移

を持つ.結晶構造を図 7 に示す.オーダした Si6O18 六員環は低対称で 2 回対称

軸をもつが,ディスオーダした六員環は高対称で 6 回対称軸をもつ.別にコー

ディエライトと呼ばれる相が存在するが[30],これはコーディエライトの多形で

はない.その構造は石英型であるので,別名として石英固溶体と呼ばれてい

る.本稿では石英固溶体の名称を使う.

Fig. 7. Crystal structure of cordierite (a) and indialite (c), and ordering/disordering

of AlO4/SiO4 (b).

Fig. 8. Polymorphism of cordierite: indialite is high temperature / high symmetry

form and cordierite is low temperature / low symmetry form. Also, indialite is

intermediate phase during crystallization from glass to cordierite.

Page 7: 第5世代(5G)ミリ波通信用材料: インディアライ …4 ルミナはAlO 6 八面体が面共有してc-軸方向に積み重なっている.Al イオンは八 面体の内2/3

7

コーディエライトのオーダ/ディスオーダ転移温度は,分解溶融温度近傍に存

在すると考えられているので,高温型のインディアライトを固相反応法で合成

することは難しい.一方,インディアライトは図 8 に示すようにガラスからコ

ーディエライトへ結晶化する過程で析出する準安定相として知られている[31].

本稿でのインディアライトの合成は,コーディエライト組成のガラスを熱処理

による結晶化で行っている(3.着想に至った経緯参照).

3. 着想に至った経緯

コーディエライトは,図 9 及び表 1

に示すように比誘電率が低く,共振周

波数の温度依存性 TCf がマイナス 24

ppm/oC と小さいので着目した[32].車

載用のレーダは,ラジエーター前の外

気との温度差の激しいところに設置さ

れるので,温度依存性の小さい材料が

求められている.

このコーディエライトの Mg イオン

の一部を Ni で置換することによって,

図 10 に示すように品質係数 Qf が

40,000 から 100,000 GHz 近くに向上し

た[26].この理由を結晶構造の変化,及

び その原子間結合距離から計算した

共有結合性によって明らかにした

[33].結晶構造解析は,粉末 X 線解析

図形を用いたリートベルト法で行っ

た.データは,つくばの高エネルギー

加速器研究機構のフォトンファクトリ

ーBL-4B2 ステーションに設置されて

いる多連装粉末X線回折装置で収集し

[34],リートベルト解析は多目的パタ

ーンフイツテイングシステム RIEIAN-

2000z を用いた[35].図 11 に示すよう

に,この結晶の骨格を形成する SiO4四

面体の六員環が Ni 置換によって正六

員環に近づくことを見いだした[26].

コーディエライトの六員環は,AlO4四

Fig. 9. Cordierite with near zero ppm/oC

deviated from other compounds.

Table 1. Microwave dielectric

properties: cordierite has near zero

ppm/oC.

Fig. 10. Qf as a function of Ni-doped

cordierite.

Page 8: 第5世代(5G)ミリ波通信用材料: インディアライ …4 ルミナはAlO 6 八面体が面共有してc-軸方向に積み重なっている.Al イオンは八 面体の内2/3

8

面体と SiO4 四面体がオーダしているため 2 回軸をもった低対称であるが,イン

ディライトの六員環は,四面体がディスオーダしているため 6 回対称をもった

高対称を示す.結晶構造解析によって得られた六員環の変化は,コーディエライ

トからインディアライトへの変化を示すものである.図 12a は,SiO4と AlO4四

面体の体積の変化を組成 x でプロットしたものである[33].x = 0 の組成は,コー

ディエライトであるので両四面体の体積に違いが見られるが,Ni の置換に従っ

て,その値が近づく.このことは,Si/Al がディスオーダとなりインディアライ

トに近づくことを示している.更に,この構造の原子間結合距離から式 6(4.2

項)で求めた共有結合性を,四面体サイトを横軸にプロットしたものが図 12b で

ある.x = 0 の共有結合性は,サイトによって変化が激しいが,Ni を固溶すると

共有結合性は 50%辺りに平均化される.このことも四面体のディスオーダ化が

進み,インディアライトへ変化していることを示している.これらのことから,

Ni の置換による高 Qf 化は,コーディエライトからインディアライトへの構造の

変化に依るものであることが明らかとなった.

この研究から,インディアライトを合成すれば高 Q で且つ低誘電率の次世代

ミリ波用材料が開発できる

という着想に至った.インデ

ィアライトは,上述したよう

に固相反応法では合成が難

しく,ガラスからの結晶化の

途中で準安定相として析出

することが知られていたの

で,ガラスからの結晶化で合

成する方針を固めた.

4. 実験方法

4.1.結晶化ガラスセラミックスの作製:

Fig. 11. Crystal structure of Ni-doped cordierite (Mg1-xNix)2Al4Si5O18, x = 0 (a), 0.05

(b) and 0. 1 (c) by Rietveld method.

Fig. 12. (a) Volume of AlO4 and SiO4 as a

function of Ni-doped cordierite, and (b)

covalencies of Si-O and Al-O as a function of

composition x.

Page 9: 第5世代(5G)ミリ波通信用材料: インディアライ …4 ルミナはAlO 6 八面体が面共有してc-軸方向に積み重なっている.Al イオンは八 面体の内2/3

9

共振器用ペレットと LTCC 用インディアライト粉末の作製方法を図 13 に示し

た.純コーディエライト

Mg2Al4Si5O18 組成をもつ

ガラス原料には 99.9%以

上の高純度原料 MgO,

Al2O3,SiO2 を用い,化学

量論組成に 50g 調合した.

その調合粉をボールミル

混合・粉砕し,1000oC でカ

焼し,ガラス原料に供し

た.その原料を 40 CC の白

金ルツボを用いて 1550 oC

で溶融し,1600 oC で 1h 清

澄を行った[28].

この溶融したガラスから 2 種類の形態の異なるガラスを作製した.1つはガ

Fig. 13. Experimental procedure

Fig. 14. Procedure of glass pellet fabrication.

Fig. 15. Crystallization of glass pellet: deformation (f, g) and cracking (h,

i, j, k).

Page 10: 第5世代(5G)ミリ波通信用材料: インディアライ …4 ルミナはAlO 6 八面体が面共有してc-軸方向に積み重なっている.Al イオンは八 面体の内2/3

10

ラス粉,もう 1 つはガラスペレット(図 14).ガラス粉は,結晶化を検討するも

のと LTCC 用インディアライト結晶粉作製用である.ガラスペレットはマイク

ロ波共振器用である.ガラス粉は,砕き易いように溶融したガラスを水中に投入

してガラス片を得た(図 13).このガラス片は急冷により強化されているので 760

oC でアニールし,粉砕した.アニール温度は,後述する DTA で得たガラス転移

点(778 oC)より下の 760 oC とした.一方,ガラスペレットは,図 14 に示した

ように溶融したガラスを黒鉛型に流し込み径 10, 長さ 30mm のキャスティング・

ガラスロッドを得た.このガラスも大きな歪み(図 14c)をもつためガラス転移

点以下の温度 760 oC でアニールした.アニールしたガラスロッドを直径の半分

の高さのペレット(図 14e,高さ 5-6mm)を切り出し,結晶化に供した.

LTCC 用インディライト結晶(結晶化ガラスセラミックス)粉は次の様にして

得た(図 13).1600 oC で清澄した溶融ガラスを水中に投入し,アニール後,粗

粉砕したものを 1000 oC /1h 結晶化させ,遊星ボールミルで更に粉砕して,1m

サイズ程の結晶粉を得た.遊星ボールミルはフリッチ製の Pulverisette 6 を用い,

ジルコニア容器(250ml)・ボール(2,10mm)を用いた.

粒子径は,LS Particle Size Analyzer (Bechman Coulter LS 13320)を用いて測定し

た.測定は,Mie 方式で,粒子表面の屈折率に依存するので,コーディエライト

の屈折率 n = 1.55,及びジルコニアの屈折率 n = 1.90 を用いた.強力な遊星ボー

ルミル粉砕のため粒子表面がジルコニアでコーティングされたためかジルコニ

アの屈折率を用いた方が良い結果が得られた.

4.2.結晶構造および微細構造観察

析出相の同定は,粉末X線回折法(XRPD)で行った.装置は理学の RAD-C,

ゴニオは理学特別仕様の縦型を用いた.線源は Cu ターゲットの封入管を用い,

シリコンモノクロメータで単色化した.“3. 着想に至った経緯”で述べたリート

ベルト構造解析は,リーターン[35]を用いたが,本研究では Fullprof Software を

用いた[36].コーディエライトとインディエライトの量比を決めるために,両相

を独立した相として解析した.強度データは,ステップスキャンによる精度の良

いデータを用いた.

共有結合性:得られた原子座標から結合距離を求め,次の式から共有結合性 fc

(%)を算出した[37].

fc = asM ・・・ (6)

a と M は,定数で,内殻の電子数に基づくもので[38],インディアライト/コー

ディエライトの SiO4と AlO4四面体の場合は,a = 0.54 v.u. M = 1.64 である.S

は,結合力で次の式から得られる.

Page 11: 第5世代(5G)ミリ波通信用材料: インディアライ …4 ルミナはAlO 6 八面体が面共有してc-軸方向に積み重なっている.Al イオンは八 面体の内2/3

11

s = (R/R1)-N ・・・ (7)

ここで,R は結合距離で,Rl と N は陽イオン席と陽イオンと陰イオンのペア

に基づく経験値である.

微細構造観察:微細構造は走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope

(SEM))で観察した.歪みは,偏光板を直交ポーラーの状態に装着した低倍率の

実体顕微鏡を用いるか,偏光板のみを直交に重ねて観察した.

4.3.示差熱分析

示差熱分析(Differential Thermal Analysis (DTA))は,自作のマクロ DTA で行

った(図 16a).カンタルスーパー炉の中に径 6,高さ 10mm の底に熱電対を挿入

する窪みを付けた白金セルを 2 つセットし,一方に試料を詰め,他方に測定温

度範囲で相変化のない標準試料(アルミナ)を詰めた.それぞれに熱電対を挿入

し,ナノボルト計(アジレント製 34420A)を用いて温度を測定し,その温度差

をプロットして図形を得た.カンタルスーパー電気炉の到達温度(1600 oC +)

まで測定可能であることと,ヒーティングスペースが広い(10×10×10 cm3)ので

均一温度範囲が広く,基準線がフラットに得られる点が特質である.なお,昇温

速度を 10 oC /min を得るために,炉の熱容量を低く設計する必要がある.その点

アルミナ質セラミックスボードは非常に有効である.

4.4.特性

密度の測定:嵩密度或いは見掛け密度を用い,後者はアルキメデス法で測定

した.マイクロ波誘電体特性評価:作製した径 10mm,高さ 5mm のセラミック

ス共振器は,測定範囲 50MHz-20GHz のネットワークアナライザー(8720ES,

Agilent)及び平行導体板誘電体共振器を用いて,ハッキーコールマン法で測定し

た[JIS1627-1996] [39,40].測定モードは TE011 で行い,導体板の比導電率を決め

るマイクロ波帯における複素誘電率測定用標準物質(ER-ZST)は JFCC 製の

(Zn,Sn)TiO4 を用いた[41].平板試料は,空洞共振器用い,JISR1641 に基づき,

TE011モードにて評価した.[JIS R1641(2002)及び IEC 62562(2009)]

5. 結果と考察

5.1.コーディエライト組成ガラスの結晶化

先ず初めに,コーディエライト組成を持つガラスの結晶化を検討する.

(i) DTA 曲線

図 16 にコーディエライト組成ガラスの DTA 曲線を示す.図 16b は,熱電対

に B-タイプのものを使った 1500 oC までの DTA 曲線である.800 oC 辺りの吸熱

に続き 2 本の結晶化による発熱ピークが存在し,1400 oC 近傍から始まる大きな

Page 12: 第5世代(5G)ミリ波通信用材料: インディアライ …4 ルミナはAlO 6 八面体が面共有してc-軸方向に積み重なっている.Al イオンは八 面体の内2/3

12

吸熱が存在した.この吸熱は,ムライトと液相への分解溶融によるものである

[28].その吸熱辺りの曲線にふらつきが観察されるが,これはオーダ/ディスオー

ダ転移に依るものと考えられる.その相転移温度が,分解溶融温度近くにあるた

めに高温相のインディアライトを固相反応法で合成することは難しいと考えら

れる.

ガラス転移温度等を見るために,起電力の大きい K-タイプ熱電対を用いて

DTA 曲線を描かせた(図 16c).778 oC

に吸熱によるベースラインの移動が観

察された.これは,ガラス構造の変化

に伴う熱容量の差が現れたもので,こ

の温度をガラス転移温度(Tg)と呼ぶ.

それに引き続く 2 本の発熱ピーク 919

と 946 oC が観察された.この 2 本のピ

ークによる析出相を確認するために,

850,880,920,950 oC の各温度(図 16c

に記入)での析出相を調べた.白金泊

で包んだガラス粉を DTA セル近傍に

置き,DTA と同じ昇温速度(10 oC /min)

で温度を上げ,それらの温度から急冷して析出相を同定した.その粉末 X 線回

折図を図 17 に示した.850 oC では,ガラスハローのみで結晶化は認められない

が,880 oC で-石英固溶体の最強ピーク 1 本のみが観察された.920 oC では,-

石英固溶体が,950 oC ではインディアライトが析出した.この結果から,DTA 曲

Fig. 16. DTA patterns of glass powder with cordierite composition. (a) Macro DTA

cell. (b) High temperature DTA up to 1500 oC using B-type thermocouple (TC). (c)

Below 1000 oC using K-type TC.

Fig. 17. Precipitated phases at heating

temperature as shown in Fig. 16c.

Page 13: 第5世代(5G)ミリ波通信用材料: インディアライ …4 ルミナはAlO 6 八面体が面共有してc-軸方向に積み重なっている.Al イオンは八 面体の内2/3

13

線の 919 oC のピークは-石英固溶体の析出によるもので,946 oC のものは,イ

ンディアライトの析出によるものであることが明らかとなった.この 2 本のピ

ークの少し前に 870 oC から始まるなだらかな発熱が見られる.これは恐らく-

石英固溶体の核形成に依るものであろう[42,43].

(ii)析出相の同定

これまでは,昇温速度 10 oC /min での結晶化を見てきたが,焼成時間を 10h に

長くした時の析出相を同定した.図 18a に各温度で 10h 熱処理した粉末X線回

折図形を示す.850 oC で熱処理した試料では-石英固溶体が析出した.早い昇温

速度(10 oC /min)ではガラス相であった(図 17)が,919 oC の-石英固溶体の

析出前の核形成領域の広がりがこの温度までおよび,-石英固溶体が析出したの

であろう.920 oC では,早い昇温速度では-石英固溶体であったが,10h の熱処

理ではインディアライトへ変化した.その温度以上ではインディアライトから

コーディエライトへ相変化が考えられるが,両相の回折線の違いは僅かである

のでこの図からは判断が困難である.そこで,図 18b に 2θ = 29-30 oのピークを

(a) (b) (c)

Fig. 18. (a) XRPD patterns of crystallized glass powder at 850-1400 oC for 10 h. (b)

Magnified peaks around 2 = 29.5o, which are difference between indialite and

cordierite. (c) Difference of indialite and cordierite around 2 = 29.5o, by Miyashiro

[45]. The degree of distortion of the cordierite structure are shown by distortion index

(= 2D - (2A + 2B)/2). Samples: (1) Fe-cordierite, (2)Laramie Range cordierite,

(3)Haddam cordierite and (4) synthetic indialite.

Page 14: 第5世代(5G)ミリ波通信用材料: インディアライ …4 ルミナはAlO 6 八面体が面共有してc-軸方向に積み重なっている.Al イオンは八 面体の内2/3

14

拡大して示した.2θ = 29.5oのピークに焼成温度が高いところで広がりが観察さ

れる.図 18c に宮本等による合成インディアライトと天然コーディエライトの

ピークを同じ温度範囲で比較したものである[44,45].天然のコーディエライトで

は,2θ = 29.5oのピークに複数の分離が認められる.図 18b の 1200 oC 以上の試

料の 2θ = 29.5oのピークの広がりは,コーディエライトへのピーク分離に依るも

ので,1200 oC 以上の高温ではインディアライトとコーディエライトの共存が考

えられる.

5.2.コーディエライト組成ガラスの結晶化の問題点

実験方法で記したようにカーボン型にキャスティングしたガラスロッドは,

直交ポーラー下で観察すると図 14c に示すように大きな歪みを示す.次の項で

記すガラス転移点 Tg = 778 oC より低温の 760 oC でアニールして歪みを取り(図

14d),ガラスロッドの直径の半分の高さのガラスペレット(14e)を得た.得ら

れたガラスペレットを 1200~1470oC で結晶化させ共振器とした.

結晶化過程で 2 つの問題が発生した.1つは,図 15f に示したようなゆがみ,

他方はクラック(図 15h)の発生である[46].ゆがみは,結晶化途中に発生する

液相に依るものと考えられる.SEM 図 15g に示すように液相の存在が確認され

た.クラックの原因を調べるために結晶化したペレットの薄片を作製した.図

15i-j は,その薄片の偏光顕微鏡写真である.ガラス表面から針状に伸びた結晶

が見られる.いわゆる表面失透による結晶化である.これは,六方晶系のインデ

ィアライトが c-軸方向に成長したものである[46].

コーディエライトの熱膨張係数は,図 15k に示すように c-軸方向には負,a-軸

方向には正である[47,48].両方を併せると図 15k の中央に示した多結晶体の熱

膨張係数となる.コーディエライトは低熱膨張性で知られるが,その係数はほぼ

ゼロ近傍にあり,低熱膨張性の理由である.図 15j に示すように円柱状のペレッ

トの表面から結晶成長が進むと伸長結晶は別の面から成長した結晶と直角に交

わる.交わった両先端は,反対の熱膨張係数のため,クラックが発生する[46].

結晶化条件を検討してクラックの発生を減少させることは出来たが,無くすこ

とは不可能であった.

5.3.共振器のマイクロ波誘電体特性

(i) インディアライト/コーディアライト析出量比とマイクロ波誘電体特性

これまで述べてきたようにガラスペレットを結晶化して得た共振器は,ゆがみ

やクラックを伴うが,マイクロ波誘電体特性とインディアライト/コーディエラ

イト析出量比を求めた.図 19 は,1200 から 1440 oC で結晶化させた時のインデ

Page 15: 第5世代(5G)ミリ波通信用材料: インディアライ …4 ルミナはAlO 6 八面体が面共有してc-軸方向に積み重なっている.Al イオンは八 面体の内2/3

15

ィアライトの量(図 19a)と

焼結時間 10(図 19b)と 20

時間(図 19c)のマイクロ波

誘電体特性である[49,46].

インディアライトとコーデ

ィエライトの組成比の決定

は,リートベルト解析で行

った[36].図 20 に両相のモ

デルを入れて解析したX線

回折図形を示す[49].測定

強度はドットで示し,計算

強度は実線で示した.強度

ラインの下の縦棒は,イン

ディアライト(上)とコー

ディエライト(下)の析出

角度(2)である.更にそ

の下の線は,観察強度と計

算強度の差である.その差は小さく,構造解析がうまく行っていること示してい

る.図中に挿入した図は,インディアライトとコーディエライトの回折図形の違

いを見るためのものであり,詳しく知りたい方は,文献[49]を参照されたい.こ

うして図 19(a)を得た.縦軸にインディアライトの析出量,横軸に焼成温度をと

ったものである.1200 oC では,90%以上がインディアライトであり,熱処理の

温度が上がるとインディアライトは減少し,1400 oC では 20%程度に減少する.

その分コーディエライトへ変わるものである.焼成時間を 10 から 20 時間,50

時間と長くすることによってもインディアライトは減少し,コーディエライト

(a) (b) (c)

Fig. 19. (a) Amount of indialite, (a) and (b) microwave dielectric properties of

crystallized at 1200 to 1440 oC for 20 and 20 h, respectively.

Fig. 20. XRPD pattern of glass powder

crystallized at 1400 oC for 20 h, which is fitted

using two-phase indialite-cordierite model.

Inset figures are differences between indialite

and cordierite.

Page 16: 第5世代(5G)ミリ波通信用材料: インディアライ …4 ルミナはAlO 6 八面体が面共有してc-軸方向に積み重なっている.Al イオンは八 面体の内2/3

16

が増加する.インディアライトとコーディエライトは,前述したようにオーダ・

ディスオーダの関係にあり,インディアライトが高温相であるが,ガラスからの

析出過程では,ディスオーダのものが先に析出し,安定相であるオーダした相に

変化してゆく.この過程では,インディアライトを高温相と捉えるのでなく,ガ

ラスからコーディエライトへの中間準安定相と考えた方が理解しやすい.

図 19(b)と(c)にマイクロ波誘電体特性を示す.ここで注目して頂きたいのは,比

誘電率r が 4.7 と極めて低いことと,品質係数 Qf 値が極めて高い点である.先

に示したように(表 1)一般にケイ酸塩は,比誘電率が 5 から 7 と低いが,その

中でもインディアライト/コーディエライトガラスセラミックスは,4.7 とこれま

でに無い低い値を示した.品質係数 Qf 値は,焼結時間 20 時間で 200,000 GHz 以

上,10 時間で 150,000 GHz と極めて高い値を得た [49,46].ホルステライト

(Mg2SiO4)の 240,000 GHz [9],ウイルマイト(Zn2SiO4)[25]に匹敵する値であ

る.図 19(b),(c)の Qf 値のバラツキは,先に述べたペレットのゆがみとクラック

に依る.その回帰曲線は,温度の上昇に従って減少している.析出量(図 19a)

と Qf の減少のデータ(図 b-c)からインディアライトの方が品質係数 Qf が良い

ことが明らかとなった.共振周波数 TCf は,マイナス 26 ppm/oC とゼロに近い値

を示している.

Table 2. Coordinates of indialite (a) and cordierite (b) analyzed by Rietveld

method with two-phases model crystallized at 1200, 1300 and 1400 oC for

10 h.

Page 17: 第5世代(5G)ミリ波通信用材料: インディアライ …4 ルミナはAlO 6 八面体が面共有してc-軸方向に積み重なっている.Al イオンは八 面体の内2/3

17

(ii) 体積及び共有結合性から見た構造変化---インディアライトからコーディエ

ライトへの変化

これまで,インディアライトからコーディエライトへの結晶相の量比を X 線

回折図形のパターンフィッティングに基づくリートベルト解析でみてきた.こ

の変化を別の視点で示したものが図 21 である.インディアライトとコーディエ

ライトの結晶構造上の違いは,酸素四面体を占める Si と Al イオンがディスオー

ダしているかオーダしているかにある.この構造の違いを,酸素四面体の体積と

共有結合性に見ることができる.“3.着想に至った経緯”で述べた Ni 置換の場合

にも,この変化でインディアライトへの相変化を見た [33].この2つの変化を

見るために,図 19a に示した 1200,1300,1400 oC/10h で焼成した 3 種類の焼結

体のリートベルト構造解析結果を利用してそれらの体積と共有結合性[46]を求

めた.表 2 に得られた原子座標を示す.原子座標値は,析出量の多い相ほど標準

偏差が小さくなっている.インディアライトでは 1200 oC/10h,コーディエライ

トでは,1400 oC/10h のものである.インディアライトではディスオーダしてい

るので酸素四面体は,T(1)と T(2)の 2 席のみであるが,オーダしたコーディエラ

イトでは Al と Si イオンが 5 つの席に棲み分けている.この原子座標から酸素

四面体の体積を計算して図示したものが図 21a である.また,この座標値から実

験方法 4.2 項で示した(5.4)式で計算した共有結合性を図 21b に示した.いずれも

各席の値が 1200 oC では集まっているが,1400 oC では Al と Si に分離している.

もう少し詳しく見ると,図 21a の体積では,インディアライトは温度が上がると

T(1)席は体積が大きくなり,T(2)席は小さくなっている.これはイオン半径の違

い Al3+ = 0.39,Si4+ = 0.26 Å(いずれも 4 配位)による.コーディエライトでは,

(a) (b)

Fig. 21. Estimating the ordering ratios of Si and Al in tetrahedra by

volumes (a) and covalency (b) of Si/AlO4 tetrahedra.

Page 18: 第5世代(5G)ミリ波通信用材料: インディアライ …4 ルミナはAlO 6 八面体が面共有してc-軸方向に積み重なっている.Al イオンは八 面体の内2/3

18

Al 四面体席の体積は増加し,Si 席のものは減少している.同様に共有結合性の

場合も,インディアライトの T(1)の共有結合性は温度の増加と共に減少し,T(2)

は上昇している.共有結合性の高い Si イオンが T(2)を,低い Al イオンが T(1)を

占める割合が大きいためである.コーディエライトの Si 席の共有結合性は上昇

し,Al 席のそれが減少することも理にかなっている.この様に,オーダ・ディ

スオーダの構造変化を体積変化や共有結合性から知ることができる.なお,X 線

回折では,原子散乱因子が近い原子は見分けることが難しいが,別の視点で解析

が可能となる例である.

6.まとめと今後の方針

(i) まとめ

この研究は,現役時代,コーディエライトのマイクロ波誘電体特性の温度特性

がゼロに近いよい値を持つので研究を始めた.Mg の一部を Ni で置換すると品

質係数 Qf が 3 倍程改善された.その原因を探ると,コーディエライトの多形で

あるインディアライトに相変化したためであることが明らかとなった [26,32].

インディアライトは固相反応では得られず,ガラスからの結晶化の途中で析出

する準安定相であるため,結晶化ガラスセラミックスを作製すれば高品質のマ

イクロ波誘電体が出来るのではないかとの着想に至った.そこで,定年後,韓国

の湖西大学校に奉職したときこの研究を始めた.コーディエライト組成のガラ

ス棒をダイレクトキャスティング法で作製し,結晶化ガラスセラミックスの共

振器を作製した.その特性は,比誘電率が 4.7 とこれまでのケイ酸塩の中では最

も低い値であった.品質係数 Qf も 200,000 GHz 以上の超高特性のマイクロ波/ミ

リ波誘電体が得られた[49,46].ガラスペレットの結晶化において,変形とクラッ

クの発生が生じたので,その原因を探った.変形は結晶化途中にガラス相の生成

に依ること,クラックはガラスペレットの表面失透に依ることを明らかにした.

この経過を明らかにするためにガラス転移点,結晶化過程を検討し,インディア

ライトがコーディエライトに変わる経過をリートベルト構造解析で定量化する

と同時に,酸素四面体の体積,共有結合性の変化から相変化過程を探った[42].

(ii) 今後の方針

マイクロ波誘電特性が優れたインディアライト/コーディエライト結晶化ガラ

スセラミックスが得られたので,この特性を活かすべく結晶化ガラス基板及び

LTCC 基板を作製し,パッチアンテナ等のデバイス応用をめざす方針である.コ

ーディエライト組成を持つガラスペレットは,結晶化の過程で変形とクラック

を生じるので,核形成剤を用いてそれを克服し,ダイレクトキャスティング法で

結晶化基板を作製し,パッチアンテナ等のデバイス応用を目指す.一方,インデ

Page 19: 第5世代(5G)ミリ波通信用材料: インディアライ …4 ルミナはAlO 6 八面体が面共有してc-軸方向に積み重なっている.Al イオンは八 面体の内2/3

19

ィアライト結晶化ガラス粉を用いて LTCC 基板を作製し,デバイス応用を目指

す.これらの研究は,現在,科研費の支援の下,フィンランド・オウル大学でデ

バイスの開発を目指して進めている.これらの結果は,2 年後名古屋産業科学研

究所年報研究成果報告として投稿するつもりである.

謝辞

本研究は,科研費 JSPS KAKENHI Grant Number JP22560673 and JP25420721 の

援助の基で実施したものである.本研究実施に当たり次の方々にお礼を申し上

げる:研究内容をサポート頂いた韓国・湖西大学校 Kim Jeong-Seog 教授,Cheon

Chae-Il 教授,Kim A-Young 修士,名古屋工業大学 籠宮功教授,柿本健一教授,

寺田美織修士,名城大学 菅章紀教授,小川宏隆教授;特性評価頂いた MARUWA

李春廷博士,大研化学工業都竹浩一郎博士.

参考文献

1. 応用範囲が広がるミリ波最前線,日経BP社(2014), ISBN:978-4-8222-

7694-2

2. Ministry of Public Management, Home Affairs, Posts and Tele-

communications in Japan.

http://www.tele.soumu.go.jp/resource/search/myuse/use/ika.pdf,

http://www.tele.soumu.go.jp/e/index.htm

3. Ohsato, H. (2016) Microwave dielectrics with perovskite-type structure, in

Perovskite Materials (Eds L. Pan and G. Zhu), INTEC, 2016, Croatia, Chapter 9.

Open Access: http://cdn.intechopen.com/pdfs-wm/49723.pdf.

4. H. OHSATO, Millimeterwave materials, Microwave Materials and Applications,

Editors: M T Sebastian, Rick Ubic and H. Jantunen, John Wiley (2017).

5. 大里 齊,マイクロ波誘電体,セラミックス機能化ハンドブック,pp152-

166, 2011, 編集:福長脩,羽田肇,牧島亮男他,㈱エヌ・ティ・エス.

6. 大里 齊,CMCテクニカルライブラリー293,強誘電体材料の応用技術,塩

崎忠監修,135-147, シーエムシー出版,2008,(強誘電体材料の開発と応

用,2001出版の普及版).

7. セラミックスアーカイブス-マイクロ波用誘電体フィルタ(1979年~現在),

セラミックス 41 (2006) 632-633.

8. Ohsato H. (2005) Research and Development of Microwave Dielectric Ceramics for

Wireless Communications. Journal Ceramic Society of Japan, 113.703-711.

9. H. Ohsato, Microwave Materials with High Q and Low Dielectric Constant for

Wireless Communications, Mater. Res. Soc. Symp. Proc. 833 (2005) 55-62.

Page 20: 第5世代(5G)ミリ波通信用材料: インディアライ …4 ルミナはAlO 6 八面体が面共有してc-軸方向に積み重なっている.Al イオンは八 面体の内2/3

20

10. H. Ohsato, H. Kato, M. Mizuta, S. Nishigaki and T. Okuda, Microwave Dielectric

Properties of the Ba6-3x (Sm1-y, Ry)8+2xTi18O54 (R = Nd and La) Solid Solutions with

Zero Temperature Coefficient of the Resonant Frequency”, Jpn. J. Appl. Phys., 34,

9B, 5413-5417 (1995).

11. T. Okawa, K. Kiuchi, H. Okabe and H. Ohsato, “Microwave dielectric properties of

BanLa4Ti3+nO12+3n Homologous Series”, Jpn. J. Appl. Phys., 40, 5779-5782

(2001).

12. 大里 齊,高周波セラミックス誘電体,“希土類の材料技術ハンドブック―

基礎技術・合成・デバイス製作・評価から資源まで”,p 353 (pp.346-358),

監修:足立 吟也,NTS,2008.

13. Tsunooka, T., Sugiyama, H., Kakimoto, K., et al. (2004) Zero temperature

coefficient 𝜏f and sinterability of forsterite ceramics by rutile addition Journal

Ceramic Society of Japan, 112.

14. 大里 齊,ユビキタス社会に向けての高周波セラミックスとデバイス,セ

ラミックス,39 (2004) No.8. p578-583.

15. Sebastian, M.T., Ubic, R., and Jantunen, H. (2015) Low-loss dielectric ceramic

materials and their properties. International Materials Review, 60, 395–415.

16. Sebastian, M.T. (2008) Dielectric materials for wireless communication, Elsevier

Science Publishers, Amsterdam.

17. F. Galasso and J. Pyle, Ordering in compounds of the A(B'0.33Ta0.67)O3 type Inorg.

Chem., 1963;2:482-484.

18. H. Ohsato, Science of tungstenbronze-type like Ba6-3xR8+2xTi18O54 (R = rare earth)

microwave dielectric solid solutions, J. Euro. Ceram. Soc. 21, 2703-2711 (2001).

19. Ohsato, H., Tsunooka, T., Ohishi, Y., et al. (2003) Millimeter-wave dielectric

ceramics of alumina and forsterite with high quality factor and low dielectric

constant. Journal of Korean Ceramic Socierty, 40(4), 350-353.

20. Kan, A., Ogawa, H., and Ohsato, H. (2004) Relationship between bond strength and

microwave dielectric properties of corundum type (Mg4-xCox)Nb2O9

andMg4(Nb2-yTay)O9 solid solutions, Journal Ceramic Society of Japan, 112

(Suppl. 1), S1622–S1626.

21. Ogawa, H., Kan, A., Ishihara, S., and Higashida, Y. (2003) Crystal structure of

corundum type Mg4(Nb2-xTax)O9 microwave dielectric ceramics with low

dielectric loss. Journal of the European Ceramic Society, 23, 2485–2488.

22. Ogawa, H., Taketani, H., Kan, A., et al. (2005) Evaluation of electronic state of

Mg4(Nb2-xSbx)O9 microwave dielectric ceramics by first principal calculation

method. Journal of the European Ceramic Society, 25, 2859–2863.

Page 21: 第5世代(5G)ミリ波通信用材料: インディアライ …4 ルミナはAlO 6 八面体が面共有してc-軸方向に積み重なっている.Al イオンは八 面体の内2/3

21

23. Kan, A., Moriyama, T., Takahashi, S., andOgawa,H. (2013) Cation distributions and

microwave dielectric properties of spinel-structured MgGa2O4 ceramics. Japanese

Journal of Applied Physics, 52, 09KH01.

24. Tsutomu Tsunooka, Minato Ando, Sadahiko Suzuki, Yoshitoyo Yasufuku, and

Hitoshi Ohsato, Research & Developments for Millimeter-Wave Dielectric

Forsterite with Low Dielectric Constant, High Q, and Zero Temperature Coefficient

of Resonant Frequency, Jpn. J. Applied Physics, 52(9), (2013) 09KH02-1-4.

25. Guo, Y., Ohsato, H., and Kakimoto, K. (2006) Characterization and dielectric

behavior of willemite and TiO2-doped willemite ceramics at millimeter-wave

frequency. J. Euro. Ceram. Soc., 26, 1827–1830.

26. M. Terada, K. Kawamura, I. Kagomiya, K. Kakimoto and H. Ohsato, Effect of Ni

substitution on the microwave dielectric properties of cordierite, J. Eur. Ceram. Soc.

27 (2007) 3045-3148.

27. Osborn and A. Muan, Phase diagram No.712, System MgO-Al2O3-SiO2, American

Ceramics Society (1964).

28. W. Schreyer and J. F. Schairer, Phase diagram No. 2533, J. Pertol., 2, (1961) 324-

406.

29. G. V. Gibbs, The polymorphism of cordierite I: the crystal structure of low

cordierite, Am. Mineral. 51 (1966) 1068-1087.

30. M. D. Karkhanavala and F. A. Mummel, The polymorphism of cordierite, J. Am.

Ceram. Soc., 36 (1953) 389-392.

31. 杉村隆,大里齊,中井雄吉,ZnO-Al2O3-SiO2系ガラスから析出する準安定

Indialite,窯業協会誌,82(1), 40-54 (1974).

32. H. Ohsato, M. Terada, I. Kagomiya, K. kawamura, K. Kakimoto, and Eung Soo

Kim, Sintering Conditions of Cordierite for Microwave/Millimeterwave Dielectrics,

IEEE 55(5), 1082-1085 (2008).

33. H. Ohsato, I. Kagomiya, M. Terada, and K. Kakimoto, Origin of improvement of Q

based on high symmetry accompanying Si–Al disordering in cordierite millimeter-

wave ceramics, J. Eur. Ceram. Soc. 30 (2010) 315-318.

34. Toraya, H., Hibino, H., and Ohsumi, K. (1996) A new powder diffractometer for

synchrotron radiation with multiple-detector system. Journal of Synchrotron

Radiation, 3, 75–83.

35. Izumi, F. and Ikeda, T. (2000) A Rietveld-analysis program RIETAN-98 and its

applications to zeolites. Materials Science Forum, 321–324, 198–203.

36. Fullprof Software by Juan Rodriguez-Carvajal in France, <http://www-

llb.cea.fr/fullweb/powder.htm>.

Page 22: 第5世代(5G)ミリ波通信用材料: インディアライ …4 ルミナはAlO 6 八面体が面共有してc-軸方向に積み重なっている.Al イオンは八 面体の内2/3

22

37. Brown, I.D. and Shannon, R.D. (1973) Empirical bond-strength–bond-length curves

for oxides. Acta Crystallographica, A29, 266–282.

38. 55. Brown, I.D. and Wu, K-K. (1976) Empirical parameters for calculating cation–

oxygen bond valences. Acta Crystallographica, B32, 1957–1959.

39. B. W. Hakki, P. D. Coleman, A dielectric resonator method of measuring inductive

in the millimeter range, IRE Trans. Microwave Theory Tech., (MTT)-8 (1960) 402–

410.

40. Y. Kobayashi, M. Katoh, Microwave measurement of dielectric properties of low-

loss materials by the dielectric resonator method, IEEE Trans. MTT-33 (1985) 586–

592.

41. 標準物質/一般財団法人ファインセラミックスセンター.

http://www.jfcc.or.jp/05_material/er_zst.html

42. Hitoshi Ohsato, Jeong-Seog Kim, Chae-Il Cheon and Isao Kagomiya,

Crystallization of indialite/cordierite glass ceramics for millimeter-wave dielectrics,

Ceramics International, 41 (2015) S588-S595. doi:10.1016/j.ceramint.2015.03.140

43. M. A. Villegas, J. Alarcon, Mechanism of crystallization of Co-cordierites from

stoichiometric powdered glasses, J. Euro. Ceram. Soc., 22 (202) 487-494.

44. A. Miyashiro, T. Iiyama, M. Yamasaki and T. Miyashiro, The polymorphism of

cordierite and indialite, Am. J. Sci. 253 (1955) 185-208.

45. A. Miyashiro, Cordierite-indialite relations, Am. J. Sci. 255 (1957) 43-62.

46. H. Ohsato, J-S. Kim, C-I. Cheon, I. Kagomiya, Millimeter-wave dielectrics of

indialite/cordierite glass ceramics: Estimating Si/Al ordering by volume and

covalency of Si/Al octahedron, J. Ceram. Soc. Jpn., 121 (2013) 649-654.

47. 井川博行,小田切正,今井修,浦部和順,宇田川重和,高温型コーディエ

ライト固溶体の熱膨張,Yogyo-Kyokai-Shi, 94 (1986) 344-350, (Japanese).

48. I. Ogata, K. Mizutani, K. Makino and Y. Kobayashi, Analysis of the low thermal

expansion mechanism of preferably oriented, DENSO Tech. Rev. 13 (2008) 112-

118, (Japanese).

49. H. Ohsato, J-S. Kim, A-Y. Kim, C-I. Cheon, K-W. Chae, Millimeter-Wave Dielectric

Properties of Cordierite/Indialite Glass Ceramics, Jpn. J. Appl. Phys., 50 (2011)

09NF01-1-5.