Upload
others
View
0
Download
0
Embed Size (px)
Citation preview
第6章 民間航空機の運航条件 岩国空港を発着する民間航空機の飛行経路や計器飛行による進入方式・出発方式は、空域
を管理する米軍が設定すると思われ、これらに関しては、引き続き日米間での協議・調整に
委ねられている。
このため、ここでは民間航空機の就航に伴う運航条件について、計器飛行による進入方式・
出発方式の成立可能性と想定される最低気象条件を検討した。
1 民間航空機の運航に関係する基準
(1)運航基準
国内の民間空港においては、その付近の航行方法を航空法及び航空法施行規則により国
土交通大臣が定めることになっている。設定基準については航空局制定の「計器飛行によ
る進入方式・出発方式及び最低気象条件の設定基準(空航第 105 号)」が適用されており、
防衛省飛行場においては航空局基準、ICAO 基準又は米国基準が適用されている。
一方、国内における米軍飛行場の航行方法(計器進入・出発方式等)は公示されていな
い。航行方法の設定基準は民間航空機用及び軍用航空用を統一した米国連邦航空局(FAA)
の基準「United states standard for terminal instrument procedures/TERPS タープス」
(以下、「FAA TERPS」という。)が考えられるが、民間航空機の航行方法は、米軍、防衛
省、国土交通省等において調整される。
(2)管制方式
岩国飛行場においては、飛行場管制業務、進入管制業務、レーダー進入管制業務、着陸
誘導管制業務等をすべて米軍が実施している。したがって、岩国空港に離着陸する民間航
空機も現行航空保安業務の中で米軍の管制に従い飛行することとなる。
また、松山空港に離発着する民間航空機については、米軍が進入管制、レーダー進入管
制を行っている。
これらの管制方式は米国の管制方式基準が適用されている。
(3)運航手続き
岩国空港におけるフライトプラン等の運航手続きは、米軍岩国基地の飛行管理機関・管
制機関を通じて行われるものと考えられる。
気象情報については米軍の気象観測機関から提供されると考えられる。
2 我が国の基準による検討結果
(1)計器進入・出発方式の設定可能性
航空局が定めた我が国の飛行方式の基準である「計器飛行による進入方式・出発方式及
96
び最低気象条件の設定基準」(平成16年3月26日国空制第842号)により整理する。
結果は、表 6-1 のとおりである。
民間のジェット定期便が就航することから、原則として ILS 施設の設置が望ましいが、
ローカライザー・オンセットによる南側からの ILS 進入方式は設定できず、最終進入区域
の障害物を避けるため、3度のオフセットによる ILS 進入方式が設定可能である。
我が国の基準に照らした場合、民間ジェット機が就航する条件は概ね満足される。
表 6-1 我が国基準による計器進入・出発方式のまとめ
区 分 方 式 設定条件 備 考
計器進入方式
RWY02(南側から
進入)
ILS 進入方式
(LLZ 標準)
○ 最終進入区域下にある銭壺山(標高
540m)及び北側の尾根が入るが、
OCS(無障害物表面)以下となる
決心高度 208ft、飛行視程 800m
ILS 進入方式
(LLZ オフセット)
○ オフセット角5°以内で設定可能(基
地内の現場条件により範囲は狭まる)
決心高度 258ft, 飛行視程 1,200m
LLZ アンテナを着陸帯内設置する条
件となり、誘導路の運用に制限が発生
VOR/DME進入方式 ○ 現在のタカン(TACAN)進入方式に民航
機が利用可能な VOR を併設し同一条
件の進入方式を設定
最低降下高度 340ft, 飛行視程 1,200m
レーダー進入方
式
○ 現行の運用が引続き実施される場合、
航空保安無線施設を利用した進入方
式を補完
PAR 進入方式(精密進入)
決心高度 258ft, 飛行視程 1,200m
ASR 進入方式(非精密進入)の条件
最低降下高度 340ft, 飛行視程 1,200m
計器進入方式
RWY20(北側から
進入)
周回進入方式 ○ ILS 進入方式、VOR/DME 進入方式に引
き続く周回進入(滑走路の東側限定)
により RWY20 に着陸
最低降下高度 558ft(航空機区分 D)
計器出発方式
RWY02(北側への
離陸)
右旋回離陸方式
○ VOR の設置が必要
また、阿多田島が障害物となり、上昇
率の指定が必要
最低気象条件:雲高 200ft, 視程 800m
計器出発方式
RWY20(南側への
離陸)
左旋回離陸方式
○ VOR の設置が必要
障害物無し
最低気象条件:雲高 0ft、視程 600m
注)最低気象条件等における機材は航空機区分 D(B767 クラス以上)の場合とする。
PAR(精密進入用レーダー)、ASR(空港監視レーダー)
(2)運航に係る最低気象条件と予想就航率の検討
表 6-1 に示されるように、検討された各進入出発方式に対しては、当該方式により離陸
または着陸を敢行するための最低気象条件が算出(上記、航空局の「設定基準」による)
されている。原則として、計器飛行方式においては安全な飛行高度を維持できれば雲の中
97
の飛行も可能であるが、離陸または着陸時の最終段階においては滑走路が見渡せる程度の
視界が確保された状態を維持しなければならないとされている。
進入方式では、最低降下高度(または決心高度)に達し、飛行視程に相当する距離を見
通しても滑走路(または進入灯)が識別できなければ進入を続けられず着陸できないこと
になる。この判断は、飛行中のパイロットが行うことになるが、当該空港の気象観測値か
ら、最低降下高度以上の雲高で、かつ、地上視程が飛行視程の距離以上ならば着陸可能で
あると推定できる。また、出発方式では、雲高及び地上視程が条件として与えられており、
これは、空港の観測装置または気象機関が発表する数値で判断される。このように当該空
港の予想就航率は、気象観測値から離着陸の可能性を推定して算出されるものである。
また、「立地可能性調査(その2)報告書-航空気象編-」(平成 6年 3月)において予
想就航可能率が算出されており、下表に示す。
表 6-2 予想就航可能率の比較(全年)
進入方式の種類 視程(m) 雲高(ft) 就航率 ILS 直線進入 800 以上 200 以上 99.84 % 周回進入 3,200 以上 600 以上 95.95 %
許容横風値を 20kt(ジェット機)の場合
結果をまとめると、次のとおりとなる。
• ILS 進入 RWY02(カテゴリーⅠ運用)では年間を通すと 99 %以上の就航率が予想さ
れている。
• 周回進入の場合では年間で 95 %の就航率が予想されている。
• 岩国においては年間を通して気象条件にそれほど大きな差は無く、予想就航可能率も
季節毎の変化は少ないと推定される。
• 検討された進入出発方式の条件での運航は特に問題がないことが推察される。
3 米国基準(FAA TERPS:ターミナル空域計器飛行方式基準) による検討結果
(1)計器進入方式の検討
計器飛行方式による進入方式としては、航空保安無線施設(ILS,VOR/DME 等)を利用し
た計器進入方式と、空港監視レーダー(ASR)を利用したレーダー進入方式がある。国
内の民間空港では計器進入方式が一般的であり、第1種空港及び一部の第2種空港ではレ
ーダー進入方式を基本に計器進入方式を併用している。一方、三沢や那覇空港等の軍民共
用飛行場ではレーダー進入方式を基本に計器進入方式を併用している。
岩国飛行場ではレーダー進入方式を基本に計器進入方式が併用されると考えられるが、
98
レーダー進入方式に係る管制は米軍が実施し、運用条件等が公表されていないため、進入
経路等の詳細は今後の調整事項となる。
航空保安無線施設を利用した計器進入方式(ILS 進入方式、VOR/DME 進入方式)の設定
可能性について、FAA TERPS 基準に基づいて検討した結果を表 6-3 に示す。
計器進入方式の設定における前提として、出発、進入とも松山をゲートウェイ(進入口、
出発口)と仮定し、出発方式の上昇率及び進入方式の降下率は標準的な条件が設定可能と
した。
進入方式は、滑走路延長線を最終進入のコースにとる ILS 進入方式と、飛行経路・区域
を海上にとるため最終進入コースが東に振れているVOR/DME進入方式を着陸パターンとし
て想定し、それぞれの進入方式について南向き着陸(南風時)のための周回進入も着陸パ
ターンとして想定した。
表 6-3 計器進入方式設定可能性の検討結果
滑走路運用方向 方 式 設定可否 備 考
RWY02(南側から
着陸)
ILS 進入方式 ○ 飛行場の南側から進入する方式
障害物がなく、通常の条件で設定可
能(進入角 3度)
決心高度 208ft、飛行視程 800m
VOR/DME進入方式 ○ 飛行場の南側から進入する方式
障害物がなく、良好な降下率で設定
可能
最低降下高度 320ft 飛行視程 1600m
RWY20(北側から
着陸)
ILS進入方式の周
回進入
○ ILS 進入方式に引き続く周回進入飛
行(滑走路の東側に限定)により
RWY20 に着陸
最低降下高度 560ft 飛行視程 2800m
VOR/DME進入方式
の周回進入
○ VOR/DME 進入方式に引き続く周回進
入飛行(滑走路の東側に限定)によ
り RWY20 に着陸
最低降下高度 560ft 飛行視程 2800m
注)最低気象条件等における機材は航空機区分 D(B767 クラス以上)の場合とする。
滑走路は標高 10ft(3.0m)、水平と仮定している。
PARによるGCA(着陸誘導管制)も可能である。
(2)計器出発方式の検討
FAA TERPS 基準に基づいて検討した計器出発方式の設定可能性を表 6-4 に示す。
北向き離陸、南向き離陸ともに、離陸後、東向きに旋回するパターンをとり、直接松山
に向かうように飛行すると想定した。
99
表 6-4 計器出発方式設定可能性の検討結果
滑走路運用方向 方 式 設定可否 備 考
RWY02(北側への
離陸)
右旋回離陸方式
○ VOR の設置が必要
阿多田島の山(灯台)が障害物とな
り、上昇率の指定(1/20 以上の上昇)
が必要
最低気象条件:雲高 200ft, 視程 800m
RWY20(南側への
離陸)
左旋回離陸方式
○ VOR の設置が必要
障害物は無し
最低気象条件:雲高 0ft、視程 600m
注)最低気象条件等における機材は航空機区分 D(B767 クラス以上)の場合とする。
滑走路は標高 10ft(3.0m)、水平と仮定している。
15 度以内の旋回は直線離陸とみなしている。
(3)飛行経路
岩国飛行場を発着する民間航空機の飛行経路は、空域を管理する米軍が設定することと
なる。(1)(2)で検討した計器進入方式及び計器出発方式による飛行経路(案)を図 6-1 に
示す。
100
図 6-1 飛行経路図(案)
101