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- 1 - 第Ⅰ講 イントロダクション A.国際法の特徴 国際法の定義=国家によって定立され、国家を規律対象とする法 特徴=法を定立し執行する集権的機関(国内社会における政府)の不存在 国際社会はアナ-キー・分権的社会である ※国連安全保障理事会の経済制裁・軍事行動 権限が限定される ◎立法 =国家の同意による(国内法では議会が法を制定) 条約 (二国間条約・多数国間条約) 同意(批准)した国家のみを拘束する 慣習法 (一般国際法) (原則として)すべての国を拘束する ◎執行(行政) =原則として国家自身による(国内法では行政府) ◎司法(紛争解決) 裁判による解決(国家は裁判による解決に消極的である/国内法ではこれが原則) 司法裁判所(常設)と仲裁裁判所(事件毎に設置) ★ 国際司法裁判所(ICJ) 国連の主要な司法機関(国連憲章 92 )・前身は常設国際司法裁判所(PCIJ) 争訟手続と勧告的意見手続がある 裁判所への付託は紛争当事国の同意による (国内法では応訴義務がある) 判決の不履行には国連安保理が制裁(憲章 94 ②) 裁判所の機能分化 国際海洋法裁判所・WTO紛争解決機関・EC裁判所・欧 州人権裁判所・投資紛争解決センター(ICSID)・国際刑事裁判所・国連行 政裁判所など 政治的解決(交渉による)……見舞金(ex gracia compensation )支払、陳謝など 実力による解決(自力救済) 武力行使……戦争など(伝統的国際法) 現在は禁止

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第Ⅰ講 イントロダクション

A.国際法の特徴

国際法の定義=国家によって定立され、国家を規律対象とする法

特徴=法を定立し執行する集権的機関(国内社会における政府)の不存在

国際社会はアナ-キー・分権的社会である

※国連安全保障理事会の経済制裁・軍事行動→権限が限定される

◎立法=国家の同意による(国内法では議会が法を制定)

条約(二国間条約・多数国間条約)

同意(批准)した国家のみを拘束する

慣習法(一般国際法)

(原則として)すべての国を拘束する

◎執行(行政)=原則として国家自身による(国内法では行政府)

◎司法(紛争解決)

裁判による解決(国家は裁判による解決に消極的である/国内法ではこれが原則)

司法裁判所(常設)と仲裁裁判所(事件毎に設置)

★ 国際司法裁判所(ICJ)

国連の主要な司法機関(国連憲章92)・前身は常設国際司法裁判所(PCIJ)

争訟手続と勧告的意見手続がある

裁判所への付託は紛争当事国の同意による(国内法では応訴義務がある)

判決の不履行には国連安保理が制裁(憲章94②)

裁判所の機能分化→国際海洋法裁判所・WTO紛争解決機関・EC裁判所・欧

州人権裁判所・投資紛争解決センター(ICSID)・国際刑事裁判所・国連行

政裁判所など

政治的解決(交渉による)……見舞金(ex gracia compensation)支払、陳謝など

実力による解決(自力救済)

武力行使……戦争など(伝統的国際法)→現在は禁止

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2005(LS)国際人権法

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対抗措置(復仇)……相手国の違法行為に違法行為で対応

B.国際法の歴史

(1)「国際法」の成立

近代国際社会=ウェストファリア・システムと呼ばれる

三十年戦争(1618-48)後のウェストファリア会議(1648)で成立

対等かつ独立した主権国家のみが国際社会のアクター

グロティウス(1583-1645)――“国際法の父” 著書「戦争と平和の法」(1625)

正戦論……正当原因のある君主のみが戦争をすることができる

ローマ私法――law of nations(jus gentium,万民法)を君主間に類推適用

→国際法の始まり

ヴァッテル(1714-1767) 著書「諸国民の法」(1758)

国際社会を「自然状態」とみなした。国家は絶対的な自然権を持つ。

主権国家の概念(独立・主権平等・内政不干渉・自衛権)を提唱 正戦論を放棄

(2)古典的国際法の成立(19世紀)とその主な特徴

①ヨーロッパ社会の法

「文明国」(西洋諸国)と「非文明国」(アジアなど)のダブルスタンダード

保護・従属関係 不平等条約(領事裁判権)

その他の地域(アフリカなど)=無主地先占による植民地獲得・支配の対象

②正戦論から無差別戦争観へ

正当な戦争・不正な戦争を区別せず、宣戦布告などの手続さえ踏めば動機・目的の如

何を問わず戦争に訴えることができる

平時国際法と戦時国際法の区別 交戦者(国)の平等 第三国の中立義務

③条約締結と仲裁裁判の実行――ルール整備と裁判による解決が行われる

通商、領事、犯罪人引渡、郵便、電信電話、鉄道、知的所有権などの分野

ハーグ平和会議(1899,1907)――戦時法に関する条約が中心

英米ジェイ条約(1794)→常設仲裁裁判所設置(1907)

(3)現代国際法の主な特徴

①国際機構の発達(国際社会の組織化・集団化)

国際行政連合(19世紀)

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集団安全保障体制……国際連盟(1920)→国際連合(1945)

※国連(加盟 191か国、本部・ニューヨーク)の主要な機関

安全保障理事会……国際の平和と安全の維持に主要な責任を持つ。15 か国で構成。5大国は

常任理事国として拒否権を持つ(このため冷戦中はほとんど機能できず)。決議は全国連加

盟国を拘束する。平和の破壊や脅威となる事態には経済制裁・軍事行動を発動できる。

総会……全加盟国が各一票を持つ。国連の扱うすべての問題について審議できるが決議に拘

束力はない(国連の財政、安保理非常任理事国の選挙、国連加盟の承認などを除く)。

1960年代以降 アジア・アフリカ諸国の独立により発展途上国が多数派になり発言力を増

す。

事務総長……事務局の長。安保理または総会から委任された任務を実行するほか、自らのイ

ニシアチブで紛争の仲介を行う。

②戦争の違法化(無差別戦争観の否定)

国際連盟規約(1919)→不戦条約(1928)→国連憲章(2Ⅳ)

武力不行使原則……武力の行使及び武力による威嚇は原則として禁止

例外――自衛のための戦争と国連安保理(の許可)による武力行使

③人権の保護(国家の絶対的主権の制約)

憲章の人権規定(1③,55,56)→世界人権宣言(1948)→国際人権規約(1966)

④自決権(植民地支配の違法化)

第一次大戦後のウィルソン14原則→国連憲章1条2項→植民地独立付与宣言(1960)

※植民地以外への自決権の拡大

国際人権規約1①・友好関係原則宣言(1970)

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2005(LS)国際人権法

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第Ⅱ講 国際法の法源

国際法の法源(形式的法源)……ICJ規程38Ⅰ

(1)条約

名称……条約(treaty; convention) 協定・取極(agreement) 議定書(protocol)

規約(covenant) 交換公文(exchange of notes) 共同声明(joint comuniqué)

など

条約の締結手続

交渉 ※国家の代表者(条約法条約7)→署名・採択(条約法9・10)

→条約に拘束されることについての同意(批准/受諾・承認/加入)(条約法 10、

14-16)

※簡略形式の条約(条約法12)

国連への登録・秘密条約の禁止(国連憲章102)

条約の解釈(条約法31・32)

文脈、趣旨・目的、用語の通常の意味

当事国間で後になされた合意 後に生じた慣行 国際法の関連規則

解釈の補足的手段=条約の準備作業・締結の際の事情

留保(条約法19-23)と解釈宣言

条約の無効原因……国の代表者の錯誤(条約法 48)・詐欺(同 49)・買収(同 50)、国

の代表者に対する強制(同 51)、武力による強制(同 52)、一般国際法上の強行規範

の違反(同 53)など

条約の終了原因……他の当事国による重大な違反(条約法60)、後発的履行不能(同61)、

事情の根本的変化(同62)

(2)国際慣習法

慣習法の意義(条約と比較して)

①不文法 条約=成文法

②国家の黙示的同意 条約=明示的同意

③国際社会のすべての国を拘束する一般国際法(原則として) 条約=締約国のみを

拘束

※国際慣習法概念の変容・・・・・・国際社会の組織化・集団化

慣習法の要件(国内法の類推)

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①一般慣行……客観的・事実的要素 国家実行(法令・判決・行政府の決定、宣言・

外交覚書など)の集積

②法的信念(法的確信、opinio juris)……主観的・心理的要素

慣習法が問題になる局面

①国家実行の集積による慣習法の成立(伝統的な成立方法)

②多数国間条約の効力が非当事国に及ぶ場合(条約法条約38)

③国連総会決議が法的効力を持つ場合

世界人権宣言(1948) 友好関係原則宣言(1970) 宇宙活動原則宣言(1963)

深海底原則宣言(1970)

※国際人権法の分野では多くの決議が採択される

例・国連被拘禁者取扱規則(1957・経社理) 拷問禁止宣言(1975・国連総会)

発展の権利宣言(1986・国連総会) ウィーン宣言(1993・世界人権会議)

(3)法源間の優劣関係

一般原則による

・後法は前法を廃する(lex posterior derogat prioriti)

・特別法は一般法を破る(lex specialis derogat generali)

他の条約に優先することを定める条約(国連憲章103・万国著作権条約 19)

条約に優先する慣習法規範=ユス・コーゲンス(強行規範)(条約法 53)

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2005(LS)国際人権法

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第Ⅲ講 国際法の主体・国際法の実施

A.国際法の主体

(1)国際法の主体とは?

=①受動的主体(権利義務の保持)と②能動的主体(国際法の定立)

国家のみが国際法の主体(①+②)→個人や国際機構も国際法主体となる

(2)国家

国際法定立能力を持つとともに包括的な権利主体

国家の基本的権利義務……主権(独立権・領域主権)

友好関係原則宣言の掲げる国家の義務……①武力不行使義務・②紛争の平和的解決義

務・③国内問題不干渉義務(内政不干渉義務)・④相互協力義務・⑤人民の同権と自

決・⑥主権平等・⑦義務の誠実な履行

(3)国際機構(国際連合、ILO、ユネスコなど)

設立文書(=条約)により創設される。総会・理事会・事務局を持つのが一般的。

ICJ・国連賠償事件勧告的意見(1949)――国連が「国際法人格」を持つことを認めた。

受動的主体……使節権や特権免除など

能動的主体……国家と国際機構の間でまたは国際機構間で協定を締結

国家との違い――権能は設立文書(憲章)が明示または黙示に認める範囲に限られる。

(4)個人

古典的国際法=「諸国民の法」→近代国際法=「国家間の法」(国家のみが国際法主

体・個人の法主体性を否定)

伝統的通説=実体的に個人に権利・義務が与えられただけでは十分とはいえず、 それを

実施するための国際的手続が存在して始めて国際法上の権利・義務がある

通説による個人の国際法上の権利・義務

権利

①国際裁判所への出訴権……仲裁裁判所(ICSID仲裁裁判所やイラン・米国

請求権裁判所) 欧州人権裁判所 国連行政裁判所 EC裁判所

②国際機関への申立権……自由権規約委員会等での個人申立制度 ILO条約の

違反に対する使用者・労働者団体の申立(ILO憲章24)

③国際機関における代表権……ILOでの加盟国の使用者・労働者の代表権(I

LO3①)

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義務

国際裁判所での訴追……ニュルンベルク・極東軍事裁判・国際刑事裁判所への訴

追(ジェノサイド条約6・アパルトヘイト条約5・ICC規程5①)

※国内裁判所など国内法上の手続がある(国内裁判所での実施を義務づけられる)の

で十分という説もある。

少数説……国際法が個人に実体的権利・義務を付与するだけで十分である

国際人権や国際犯罪(戦争犯罪・人道に対する罪)

Cf. ダンチヒ裁判所の管轄権に関する PCIJ勧告的意見(1928) ラグラン事件 ICJ

判決

※外交的保護……伝統的国際法で認められた、在外自国民の生命・人身・財産の在留国

による侵害に対する本国の請求権

請求提起(及び賠償金の使途)は国家の裁量であって被害者個人の権利ではない。

国際人権法の影響

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2005(LS)国際人権法

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B.国際法の実施

(1)国家の国際責任(国家の国際法違反の結果)

(a)国家責任の要件

①行為の国家への帰属――国家機関・公務員の行為

私人の行為は原則として帰属しない

例外① 私人が国家の「事実上の機関」とみなされる場合

例外② 領域使用の管理責任――管轄・管理下の私人の行為を防止・処罰するた

めの相当の注意を払うことを怠った場合(過失責任)

②行為の国際義務違反――同意・不可抗力・遭難・緊急事態などの場合には違法性が

阻却される

(b)国家責任の追及

外交的保護(外国領域内で自国民が受けた被害の保護)の場合の特則

①国籍継続の原則

国籍は実効的なものではなくてはならない(ICJノッテボーム事件判決)

②国内的救済完了の原則

趣旨

・私人と国家の紛争を安易に国家間の紛争に転化させないため。

・国家に違法行為を是正する機会を与える。

・任意に滞在する外国人は領域国の法と裁判を尊重しなければならない。

例外――実効的救済が得られない場合・私人が受入国との任意の関係を欠く場合

(c)国家責任の救済手段

違法行為の中止

原状回復

金銭賠償

サティスファクション(精神的満足)……陳謝、行為者の処罰、裁判所による違法性

の宣言など

再発防止の確約

対抗措置(復仇 reprisal)……賠償を得るための被害国の違法行為による対応

※報復(retorsion)……相手国の違法行為に適法な行為で対応

(2)紛争の解決

紛争の平和的解決義務(国連憲章2Ⅲ・33)……解決手段の選択は紛争当事国の同意に

よる

(a)政治的解決

交渉 周旋・仲介(第三者が交渉に介在) 審査・調停(第三者機関による事実審査)

国連の機関(特に国連事務総長)が周旋・仲介を行うことも多い

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(b)司法的解決

司法裁判所(常設)と仲裁裁判所(事件毎に設置)

国際司法裁判所(ICJ)

国連の主要な司法機関・前身は常設国際司法裁判所(PCIJ)

争訟手続と勧告的意見手続がある

裁判所への付託は紛争当事国の同意が必要

※①合意付託――特別協定(事後の合意) 裁判条約・裁判条項(事前の合意)

②応訴管轄 ③強制管轄権受諾宣言(宣言をした国同士で)

(c)国際機関による遵守管理制度

国際機関による国際法遵守の行政的監督(原則として決定に拘束力はない)

人権の分野で始まり、特に国家報告制度は環境保護、軍縮、貿易などに関する条約

でも利用される

①国家報告制度……国家による遵守状況の報告・具体的改善策の誓約→国際機関に

よる審査と改善措置の勧告・公表

②国家通報制度……締約国が他の締約国の違反を通報→国際機関による検討と勧告

③個人通報制度……個人が締約国の違反を通報→国際機関による検討と勧告

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第Ⅳ講 国際法と国内法の関係

(1)国際法と国内法の関係に関する学説

一元論・・・・・・国際法と国内法は同じ法体系であるとする説

国内法優位の一元論――国際法は国家の自己拘束、対外的公法に過ぎない。

国際法優位の一元論――国内法の妥当範囲は国際法が決定する。

二元論・・・・・・国際法と国内法は別個の法体系であるとする説

①妥当根拠の違い(国家の単独意思/諸国の共同意思) ②規律対象の違い(個人相

互または個人と国家の関係/国家間の関係) ③適用形態の違い(国家による一方

的強制の有無)

※等位理論(調整理論)――両法体系は別個のものであるが、国家責任の追及などによ

り調整が図られる。

(2)国際法体系における国内法

国際法の見地からは国内法は事実に過ぎない。

国際法違反正当化のための国内法援用の禁止(判例・条約法条約27)

国内法体系の尊重

「結果の義務」(結果の達成のみを国家に義務づけ、実施の手段を国家の裁量に委ねる

国際義務)と「行為の義務」(実施の手段まで定める国際義務。きわめて稀)

国際法に反する国内法上の行為――無効ではなく「対抗力」の否定。

(3)国内法体系における国際法――国内法に委ねられる

国際法の国内的効力(国により異なる)

編入(受容)方式・・・・・・国際法がそのまま国内法としての効力を有する

変型方式・・・・・・国内的効力否定。国際法を実施するためには国内法の制定による変型

が必要

◎国際慣習法

英・米など――慣習法は国内法(コモンロー)の一部(判例)

独・伊・墺・西などは憲法の規定により、仏などは慣行により慣習法(国際法の一

般原則)を一般的に受容

◎条約

米・仏・蘭・墺など――憲法の規定により条約(正規に批准された条約または公布

された条約)を一般的に受容

英・加・豪・NZ・北欧諸国――批准した条約であっても国内的効力を認めず国内法

による変型が必要とする。

※日本――憲法 98②の解釈として、条約及び「確立されたた国際法規」(慣習法)を

一般的に受容(通説・政府見解)

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cf. オデコ事件判決(東京高判 s59.3.1訟月 30巻 8号 1427頁)

(4)国内裁判所における国際法の実施

自動執行力(self-executing, 直接適用可能性)……国内法による補完・具体化なしに国

際法規則を適用できる

国内的効力を認める国に限られ、国内的効力の存在を前提として、各規則毎に自動執

行力の有無を論じる(近時の多数説)

もとは米国法上の概念

cf. 米国・藤井対カリフォルニア州事件同州最高裁判決(1952)……国連憲章の人権規

定は将来の立法活動の指針を述べたもので自動執行力はなく個人の権利義務を創設しない。

自動執行力の基準(米国法の議論の移植)

①主観的基準……当事国の意思

※条約自身が国内での直接適用を意図する場合がある(直接適用可能性、通常はな

い) eg. ダンチヒ・ポーランド鉄道職員協定(ダンチヒ裁判所の管轄権 PCIJ

意見) EC条約及び(閣僚)理事会の規則など(EC条約 249条及び EC裁判

所の判例)

立法府・行政府の意図が問題

実施法令が存在する場合など→自動執行力はない。

②客観的要件……条約規定の詳細さや明確さ

抽象的・一般的な規則(いわゆるプログラム規定)や政治的宣言・原則(同盟、中

立、紛争の平和的処理など)→自動執行力はない。

個人の権利義務に関わる規定(工業所有権、著作権、外国人の権利、犯罪人引渡、

人権等)→自動執行力あり。

cf. シベリア抑留捕虜訴訟控訴審判決(東京高判 h5.3.5判時 1329号 36頁)

※その他の基準――憲法上法律の制定が要求される場合(罪刑法定主義や租税法律主

義)は自動執行力が否定される。

個人の権利性――概念的には自動執行力と区別されるが混同して用いられることも多

い。

cf. 西陣ネクタイ事件一審判決(京都地判 s59.6.29訟月 31巻2号207頁)……ガッ

ト規定は違反した締約国が関係国から協議の申し入れや対抗措置を受けることで違反の是

正をさせるものであってそれ以上の法的効力を有するものではない。

国内裁判所における国際法の適用方法

直接適用……国内法体系において国際法の国内的効力を認める国に限られる。

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2005(LS)国際人権法

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ただし自動執行力の問題がある

間接適用……国内法の解釈にあたって国際法を参照し国際法に適合するように解釈す

る(特に不法行為)。

(5)国内法体系における国際法と国内法の優劣関係

国際法と法律

◎国際慣習法

英米法系諸国――コモンローの一部である国際慣習法に制定法が優位する。

独・伊――憲法規定により国際慣習法が法律に優位。

◎条約

米国――条約は法律と同等。後法優位の原則により事後の法律が優先する。

仏など――憲法規定により条約が法律に優位する。

※日本――憲法98②の解釈として国際法は法律に優位(通説・政府見解)

国際法と憲法

米・仏・独など――憲法が優位(仏は事前審査と違憲の場合の憲法改正を義務づけ)。

蘭・墺――憲法と同等(ただし、条約批准に憲法改正と同等または準じた手続が必要)

※日本――学説では憲法優位説が多数説。

cf. 砂川事件最高裁判決(最判s34.12.16刑集 13巻 13号 3225頁)――日米安保条約

は高度の政治性を有するので、一見明白に違憲であると認められない限り司法審査の範囲

外である。

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第Ⅴ講 国際人権法の歴史

(1)国連の発足と人権保護(1950年代まで)

第二次大戦前

奴隷制や売春の禁止(1926年奴隷条約など)

第一次大戦後独立した東欧諸国に対して少数者保護を義務づけ

国際労働機関(ILO)による労働者の権利擁護・強制労働の規制

国連発足――基本的人権保護・差別禁止が国連の目的の一つになる(憲章1③) 国連

の活動と加盟国の協力(55・56)

◆人権と平和の相関関係

国連人権委員会の設置(1946)……憲章68に基づく経社理の下部機関(機能委員会)

世界人権宣言採択(1946, 国連総会決議217(III))

最初の人権章典

自由権でなく社会権も規定――どちらを重視するかで西側諸国・東側諸国が対立

世界人権宣言に基づく人権委員会の監督活動が期待されるも各国の消極的態度で後退

条約作りも社会権の扱いや実施措置で対立し難航。

地域的人権条約の作成――欧州人権条約(1950, 欧州審議会)、米州人権条約(1960,

米州機構)(アフリカ人権憲章は 81年採択)

(2)途上国グループの成立と国連人権保護活動の転換(1960年代)

南アのアパルトヘイトへの反発(52年から総会は毎年憲章違反であるとの非難決議を採

択)……国内事項であることの否定(国際関心事項)

→人種差別撤廃条約(1965)・アパルトヘイト条約(1973)の採択(国連総会)

国際人権規約採択(1966, 国連総会)……社会権規約・自由権規約・自由権規約選択議

定書(発効は1976年)

経社理決議1235(1967)――経社理、人権委員会(及びその下部機関である差別防止・

少数者保護小委員会〔現・人権促進保護小委員会〕)が加盟国によるアパルトヘイト

などの重大な人権侵害についての情報を公開の場で検討することを許可(1235手続)

経社理決議 1503(1970)――経社理、人権委員会・差別防止少数者保護小委員会が意

図的で大規模な人権侵害に関して個人(NGOを含む)から寄せられた通報を非公開

で審議し調査・検討することを許可(1503手続)

※人権委員会で南ア(1967-)・イスラエル(占領地域、1969-)・チリ(1975-)の人権

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2005(LS)国際人権法

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侵害が取り上げられ、監視の対象となる。

(3)国連人権保護活動の活性化(1970年代後半~80年代)

国際政治において人権問題が重要なテーマに――CSCE(全欧安保協力会議)ヘルシン

キ宣言(1975) 米国・カーター政権(1977~81)の「人権外交」

人権NGO(アムネスティ・インターナショナルや国際法律家協会)の活動

人権委員会、赤道ギニアの人権侵害を公開の 1235手続で取り上げ、本格的な監視活動

を開始(1979)。テーマ別手続として「強制的または非自発的失踪に関する作業部会」

を設置(1980, 最初はアルゼンチンが主たる対象)

国別審査(1235手続)――ボリビア、エルサルバドル(1981)、グアテマラ(82)、ポーランド

(82)、イラン、アフガニスタン、ルーマニア(89)、イラク(91)、旧ユーゴスラビア、ミャ

ンマー(92)、パレスチナ・イスラエル占領地域、カンボジア、ソマリア、スーダン(93)、

コンゴ民主共和国(94)、ハイチ、ブルンジ(95)など。

テーマ別審査(1235手続)――失踪(1980)、超法規的・略式・恣意的処刑(82)、拷問(85)、

宗教的不寛容(86)、傭兵の使用(87)、児童の売買(90)、恣意的拘禁(91)、人種差別、思

想・表現の自由(93)、裁判官・法律家の独立、女性に対する暴力(94)など。

積極的な人権基準の作成……女子差別撤廃条約(1979)・拷問禁止条約(1984)・児童の

権利条約(1989)・死刑廃止条約(自由権規約第二選択議定書)(1989)

(4)新たな展開(1990年代以降)

ウィーン会議(第2回世界人権会議)(1993)――ウィーン宣言と行動計画を採択

人権促進のために各国のいっそうの努力が必要であることをうたう。

人権の普遍性・不可分性・非選択性を承認。

アジア的人権論の主張や西側の自由権重視の議論を否定。

途上国の主張する構造的アプローチ(発展の権利など)も認める。

女性、子供、先住民、障害者の権利、武力紛争における人権などの強化を訴える。

国連の人権機構の強化の措置を国連がとるよう勧告

国連人権高等弁務官の設置(1994)……ウィーン宣言を受けて。人権保護の強化・人権

に関する諸機関の調整が目的。

女子差別撤廃条約選択議定書(1999) 児童の権利条約選択議定書(武力紛争における

児童の関与に関する議定書と児童売買等の禁止に関する議定書)(2000) 拷問禁止

条約選択議定書(2002)

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第Ⅵ講 国際法上の人権の概要(1)――自由権と社会権

(1)自由権……自由権規約(B規約、1966年 12月採択・76年3月発効、締約国数154、

日本批准 79年6月) (生命の自由、拷問・非人道的待遇・奴隷等の禁止、身体の自由、移動・居住の自由、公正な裁

判を受ける権利、私生活の保護、思想・良心・宗教の自由、表現・集会・結社の自由、家族の保

護、児童の権利、政治的権利、法の下の平等、少数者(マイノリティ)の権利など)

尊重し確保する義務(2条①)・積極的措置をとる義務(2条②)

効果的救済を付与する義務(2条③)

即時実施義務

消極的義務(尊重義務)……国家機関による侵害を差し控える義務

積極的義務(確保義務)

立法・司法・行政や教育のレベルで権利の享有・行使のため積極的措置をとる義務

(国内法の制定改廃を含む)

私人・私的団体の侵害から保護する義務(保護義務)……私人による侵害を防止・

処罰・捜査・除去するため適当な措置をとる(相当の注意を払う)義務

※1988年ヴェラスケス・ロドリゲス事件米州人権裁判所判決……申立人の家族が失踪し、加

害者が特定されない場合(私人による場合も)でも、国家は確保する義務の内容として防

止または捜査、処罰もしくは被害者への補償の確保のため相当の注意を払う義務を負う。

効果的救済付与義務……金銭賠償、原状回復、リハビリテーション、満足(謝罪、再

発防止の確約、法の改正など)、侵害行為の加害者の訴追を含む

条約の適用対象=「領域内にありかつ管轄の下にあるすべての個人(all individuals

within its territory and subject to its jurisdiction)」……領域内にあるすべての者(自

国民だけでなく、外国人、無国籍者、難民・難民申請者、移住労働者などを含む)だ

けでなく、領域外でも国家の権力または実効的支配下にある者にも及ぶ。

※引渡・送還先での侵害を受ける現実の危険があると信じられる実質的根拠がある場合

……引渡・送還は禁止(1989年欧州人権裁判所・ゾーリング事件判決。自由権規約委

員会も1993年キンドラー対カナダ事件でこの解釈を採用。Cf..拷問禁止条約3)

(2)緊急事態における人権(自由権規約4、cf.欧州人権条約15、米州人権条約27)

公の緊急事態……規約上の義務に反する措置をとることができる。

緊急事態の要件――国民の生存を脅かすものであること 緊急事態の存在を公式に宣

言すること

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2005(LS)国際人権法

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規約に逸脱する措置の制限――「事態の緊急性が真に必要とする限度において」=比

例性の原則 差別の禁止

他の国際法上の義務に違反することの禁止……国際人道法など

※ジュネーブ諸条約共通3条=「人道の基本的考慮」(ICJニカラグア事件)

武力紛争における人権保障の強調(ICJ核兵器使用意見など)

手続上の制約――国連事務総長を通じた他の締約国への通知(4条③)

※逸脱し得ない権利(4条②)……公の緊急事態においても逸脱できない権利。

生命権(6条)、拷問または非人道的な刑罰・待遇の禁止(7条)、奴隷・強制労働の禁止(8

条①②)、契約上の義務不履行による拘禁の禁止(11条)、刑罰法規の不遡及(15条)、人と

して認められる権利(16条)、思想・良心・宗教の自由(18条)。

逸脱し得ない権利の意義=重要性(強行規範性)・不必要性(無関係性)・特殊必要

性など諸説あり。

2001年の緊急事態に関する一般的意見29におけるその他の逸脱し得ない権利

・一般国際法上逸脱し得ない権利(人道に対する罪の絶対的禁止から導かれるもの)

――自由を奪われた者の人道的取扱い・固有の尊厳の尊重/人質行為・誘拐・恣

意的拘禁の禁止(10条)、少数者への差別の禁止(18条)、住民の追放・強制移

送の禁止(12条)

・規約全体の性質または内在するものとして逸脱し得ない権利――効果的救済を受

ける権利(2条③)・手続的保障・公正な裁判を受ける権利(14条)

(3)社会権……社会権規約(A規約、1966年 12月採択・76年1月発効、締約国数151、

日本批准 79年6月)

(労働者の権利、公正・良好な労働条件を享受する権利、労働基本権、社会保障・家族の保護・

健康に対する権利、生存権、教育を受ける権利、文化・科学・芸術の恩恵を受ける権利など)

利用可能な手段を最大限に用いて漸進的達成のため措置をとる義務(2条①)……促進

的義務とされてきた。

途上国への配慮(2条③) 法律による制限(4条)

平等権(自由権規約26)による保護

自由権規約委員会の 1987 年ブレークス対オランダ事件……失業手当給付にあたって婚

姻している女性についてのみ生計維持者であることを条件としているのは26条違反とした。

1989年ゲイエ対フランス事件……退役軍人の軍人年金の支給額について国籍によって差異

を設けるのは 26条に違反する。

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社会権規約委員会の締約国の義務の性質に関する一般的意見3(1990)

即時実施義務の存在……差別禁止条項(社会権規約2②)など

司法機関による即時的適用が可能……男女の同権(3条)、男女同一の労働条件(7

条(a)(i))、労働基本権(8条)、児童の保護(10条③)、初等教育の義務化・無償

(13条②(a))、父母・私立学校の教育の自由(13条③④)、科学研究・創作活動

の自由(15条③)

漸進的実現義務の意味――目標に向けての計画的・具体的行動を効力発生から合理的

短期間のうちにとる義務。後退的措置の禁止。

最低限の中核的義務……権利の最低限のレベルの充足を確保する義務。不可欠な食糧、

基礎医療、住居、基礎教育の確保など。

(3)死刑の規制――自由権規約第二選択議定書(死刑廃止条約)(1989年 12月採択・91年

7月発効、締約国数 55、日本未批准)

内容――死刑の原則的廃止(1条)。

例外(2項)――戦時に行われた軍事的性質の最も重大な犯罪の留保(批准・加入時に。

国連事務総長に関連国内法規定を通報する義務)

自由権規約委員会の権限の拡張(3-5条)

※欧州人権条約第6議定書(1983年、戦時下での行為についての例外)・第 13議定書

(2002年、全面廃止) 米州人権条約追加議定書(1990年)

自由権規約における死刑の規制(6条)

死刑の例外的扱い(6条②「死刑を廃止していない国においては」)――制限的使用・

廃止が望ましい(82年6条に関する一般的意見6)

①罪刑法定主義の要請と「最も重大な犯罪」への適用の限定(cf. 死刑者権利保護規

定(経社理決議1984/50)第1項)。②死刑を言い渡された者の特赦・減刑を求める権

利。③犯行時18歳未満の者への適用禁止。④妊娠中の女子への執行禁止。

※略式処刑・超法規的処刑の禁止(cf. 6条①第三文・②第二文)と14条(公正な裁判

を受ける権利)の適用――自由権規約委員会の 1983年ムベンゲ対ザイール事件(14

条の手続的保障に反して言い渡された死刑は6条2項に違反する)

※死刑と人道的待遇(7条)――執行時の精神的・肉体的な苦痛が最小限であることの

要請(1992年の7条に関する一般的意見7など) 死刑の順番待ち現象

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2005(LS)国際人権法

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第Ⅶ講 国際法上の人権の概要(2)――属性別の人権保護・新しい人権など

(1)人種差別撤廃条約(1965年採択・69年発効、締約国数 170、日本加入1995年)

人種差別の定義(1条)――適用除外……①国籍に基づく区別 ②国籍の付与 ③積極

的優遇措置

基本的義務(2条)――人種差別を撤廃する政策、人種間の理解を促進する政策の遅滞

なき遂行……人種差別の行為・慣行に従事しないこと、人種差別を発生させる効果の

ある法令の改廃、すべての適当な方法による私人による人種差別の禁止・終了など。

劣悪な環境にある人種集団・個人に対する積極的優遇措置

人種主義的思想の流布や人種差別の扇動を犯罪とし人種主義的団体・活動を禁止する義

務(4条)

→日本の留保=「日本国憲法の下における集会、結社及び表現の自由その他の権利の保障と抵触しない限度

において」4条(a)(b)の義務を履行する。

具体的な義務・平等確保義務(5条) 効果的救済措置を確保する義務(6条)

教育、情報等の分野で差別につながる偏見を除去し人種間の理解等を促進するため迅速

かつ効果的措置をとる義務(7条)

(2)女子差別撤廃条約(1979年採択・81年発効、締約国数 180、日本批准1985年)

女性に対する差別の定義(1条) 積極的優遇措置の除外(4条)

基本的義務(2条)――女性差別を撤廃する政策の遅滞なき追求……男女平等の立法・

実際的実現の確保、女性差別を禁止する立法その他の措置、女性の権利の効果的保護、

女性差別行為を差し控える義務、私人による女性差別撤廃のためのすべての適当な措

置、女性差別となる法律・慣習・慣行の廃止・修正のためのすべての適当な措置など

エンパワーメント(3条)

男女の定型化された役割分担観念の撤廃・子の養育における男女の共同責任(5条)

売買・売春による搾取を禁止するすべての適当な措置をとること(6条)

個別分野における差別の撤廃と女性の権利(第2部~第4部)

同一の雇用機会、職業選択・昇進・雇用の保障、同一の報酬・労働条件など(11条)

リプロダクティブ・ヘルス/ライツ(性と生殖に対する権利)(16条①(e))

※日本は批准時に、国籍法改正(父系血統主義→男女両系血統主義)、男女雇用機会均

等法制定、学習指導要領改定(家庭科を女子のみ必修→同一の教育課程)

※女性に対する暴力撤廃宣言(1993年国連総会決議 48/104)

※北京宣言・行動綱領(1995年第4回世界女性会議)

◆女子差別撤廃条約選択議定書(1999年採択・2000年発効、締約国数 72、日本未批准)

――個人通報制度と調査制度を導入

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(3)拷問禁止条約(1984年採択・87年発効、締約国数140、日本加入1999年)

拷問の定義(1条①)……広範な定義を採用(cf. 16条)。

国家の拷問防止義務(2条) 拷問を受けるおそれのある国への追放・送還・引渡の禁

止(3条)

拷問の国際犯罪化(4-9条)――普遍主義管轄権の設定と「引渡か訴追か」原則の適

法執行官への教育(10条) 尋問規則の制定・国内当局の調査義務と申立権の確保(11・

12条) 救済・賠償の付与(14条) 拷問により得られた供述の証拠能力の否定(15

条)

◆拷問禁止条約選択議定書(2002年採択・非発効、締約国数 13、日本未批准)――防

止小委員会の設置、及び独立の国内防止機構の設置並びに国内拘禁施設への訪問・被

拘禁者の取扱いの検討の権限の承認

(4)児童の権利条約(1989年採択・1990年発効、締約国数192、日本批准1994年)

児童の定義(1条)――18歳未満

一般的義務……差別の禁止(2条) 児童の最善の利益の考慮(3条) 立法上、行政

上その他の措置をとる義務(4条、社会権の例外あり) 父母・法定保護者などの児

童を指示・指導する責任・権利・義務の尊重(5条) 児童の生命・生存・発達の権

利(6条) 児童の意見表明権と児童の意見の尊重(12条)

自由権的権利……表現の自由(13条)、思想・良心の自由(14条)、集会・結社の自由

(15条)など

社会権的権利……健康・医療に対する権利(24条)、社会保障を受ける権利(26条)、

教育や文化に対する権利(28・31条)など

家庭環境の保護と代替的監護……家族から分離されない権利(9~11 条)、父母などの

養育の責任と締約国の援助(18条)、虐待からの保護(19条)、代替的監護の確保(20・

21条)など

特別な保護……難民(22条)、少数者・先住民(30条)、麻薬・性的搾取や誘拐・売買

からの保護(32~36条)、武力紛争(38条)、法を犯した児童(37、40条)など

条約規定を成人・児童に広報する義務(42条)

※日本は37条(c)を留保(国内法上 20歳未満の者と20歳以上の者を分離しているため)。9条①について解釈

宣言(退去強制の結果としての父母からの分離には適用されない)、10 条①について解釈宣言(出入国の申

請の結果には影響を与えない)。

◆児童の売買、児童買春及び児童ポルノに関する児童の権利に関する条約選択議定書(児

童売買等選択議定書)(2000年採択・2002年発効、締約国数 101、日本批准2004年)

――児童の売買、買売春、児童ポルノの作成などの処罰(国外犯含む)を義務づけ

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2005(LS)国際人権法

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◆武力紛争における児童の関与に関する児童の権利に関する条約選択議定書(武力紛争

選択議定書)(2000年採択・2002年発効、締約国数 102、日本批准2004年)――18

歳未満の敵対行為参加と強制的徴兵(自発的入隊は16歳から可)を禁止

(5)その他の属性別人権保護の動き(新しい人権)

障害者――1971年精神障害者権利宣言(国連総会決議 2856) 1975年障害者の権利宣

言(国連総会決議 3447) 1991年精神病者保護・精神保健改善原則(国連総会決議

46/119) 1993年障害者機会均等化基準原則(国連総会決議 48/96)

外国人――1985年外国人の権利宣言(国連総会決議 40/144) 移住労働者権利保護条

約(1990国連総会採択・2003年発効、締約国数 34、日本未批准)

先住民――先住民条約(ILO169号条約(1989年 ILO総会採択・1991年発効、締約国

数 17、日本未批准))

少数者――1992年少数者の権利宣言(国連総会決議 47/135)

(6)第三世代の人権

自決権――1960年植民地独立付与宣言・61年非植民地化委員会設置

発展の権利――1986年発展の権利宣言(国連総会決議41/128)

個人及び人民の権利(1条) 個人の権利と責任(2条) 国家の発展の権利実現義

務(3条①、8条) 国家の国際発展協力義務(3条③、4条)

権利主体・義務主体に関する議論

先住民の権利――1994年人権小委員会において先住民権利宣言案を採択(集団的権利の

承認、差別の禁止、自決権、独自の政治的・経済的・社会的・文化的特色の維持、土

地・資源に対する権利など)

ILO条約による保護

自由権規約27条(少数者の権利)による保護

自由権規約委員会の1981年ラブレイス対カナダ事件……先住民女性が非先住民との婚

姻により国内法上の先住民としての地位を喪失しそれにより居留地の居住権などの便益を

喪失したことは 27条に違反する。

90年オミナヤク対カナダ事件……先住民部族の居住地の資源開発や森林伐採について、

自決権侵害(規約1条違反)の問題は通報手続の対象外であるが、部族の伝統的な生活様

式や文化を脅かしていることは27条違反にあたる。

※二風谷事件(札幌地判h9.3.27判時 1598号 33頁)……アイヌ民族が少数者・先

住民であると認定。

その他……平和への権利、環境への権利、人類の共同遺産に対する権利など

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第Ⅷ講 国際人権法の国際的実施

(1)人権保護の機関

国連の内部機関……〔総会の補助機関〕国連人権高等弁務官 〔経社理の下部機関〕国

連人権委員会(Commission on Human Rights, CHR) 人権保護小委員会 社会権

規約委員会(CESCR) 婦人の地位委員会 犯罪防止刑事司法委員会

条約で設置された機関……自由権規約委員会(Human Rights Committee, HRC) 人

種差別撤廃委員会(CERD) 女子差別撤廃委員会(CEDAW) 拷問禁止委員会

(CAT) 児童の権利委員会(CRC)

国連人権委員会――経社理の機能委員会で、53か国(経社理で選出、任期3年)の政府

代表により構成。会期は6週間(冬、ジュネーブ)。1235手続(公開)・1503手続(非

公開)により、特定の国または特定の問題を取り上げて、人権問題について審議し、

勧告を採択する。主な人権条約・宣言の原案も作成。

人権保護小委員会(旧称:差別防止・少数者保護小委員会)――人権委員会の下部機関

で、個人資格の専門家 26 名(人権委員会で選出、任期4年)で構成。会期は3週間

(夏、ジュネーブ)。オブザーバーとして政府代表、NGOも参加できる。人権委員

会の任務(基準設定活動や 1235・1503手続)を援助。各種の作業部会(先住民、現

代奴隷制、少数者など)を設置している。

国連人権高等弁務官(UNHCHR)――93年のウィーン会議で設置が決まり、翌年の国

連総会で設置。事務総長が任命し総会が承認(任期4年・再任は1回まで。事務次長

級)。任務は、人権問題について国連を代表して加盟国との対話、助言サービスの提供、

人権に関する国連諸機関の活動の調整、人権機構の合理化・強化、国連人権センター

(在ジュネーブ。国連人権委員会や女性差別委を除く条約設置委員会の事務局として

機能。97年に高等弁務官事務所に統合)の監督など。

社会権規約委員会――規約上は経社理の任務である政府報告審査など条約の実施措置

(16条以下。実際は作業部会が遂行していた)を行わせるため経社理により1985年

設置。個人資格の専門家 18 名で構成(任期4年。締約国の指名したリストから経社

理が選出)。会期は年2回、各2週間(ジュネーブ)。

自由権規約委員会――個人資格の専門家 18 名(締約国の会合で選出、任期4年)で構

成。自由権規約を批准した国の規約の履行状況を監督する。会期は毎年3会期、春(ニ

ューヨーク)・夏・秋(ジュネーブ)各3週間。締約国の提出する報告書の検討と報告

の送付、適当と認める一般的意見の発表(40条④)、国家間通報の受理・検討、個人

通報の受理・検討を行う。

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2005(LS)国際人権法

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(2)国際人権保護の手続……非司法的(行政的)手続

①国家報告制度……締約国が人権条約の実施状況を定期的に実施機関に報告し、実施機関

は報告を審査し意見を表明する。委員会と締約国との「建設的対話」。

すべての条約で義務的な制度(自由権規約 40条、社会権規約 16条、人種差別9、女子

差別18条、拷問 19、児童 44)

自由権規約では当該締約国について発効してから1年以内、その後は委員会の要請=原

則として5年毎(社会権委・児童の権利委も5年毎、人種差別委・女性差別委・拷問

禁止委は4年毎)。手続は報告ガイドライン(82年採択。現行のは01年採択)による。

報告の内容(40条①②)――ガイドラインでは、規約条文と委員会の一般的意見の考慮、

留保・宣言を継続する理由の説明。初回報告では規約実施のための憲法・法律の枠組、

規約実施のためそられた措置、規約上の権利享受についての進歩など。2回目以降の

報告では、委員会の最終所見(特に懸念事項と勧告)・審議記録、及び規約上の権利

の享受についての進歩・現状から出発する(条文毎に記載)。

報告の審査――公開審議。政府代表の説明(提出後の状況を含む)と委員からの質問(回

答に対する補足質問も認められる)と政府代表の回答、委員の見解と政府代表の発言

(即座に回答できない質問のため2回会合が行われるのが通例)。

※会期前作業部会による質問表の作成(現在は前会期に委員会で採択)と締約国への

事前送付

※NGO による NGOレポート(カウンターレポート)や委員へのブリーフィングに

よる情報提供(93年から委員に正式配布。会期前作業部会においても可)

審査後の委員会の国別コメント(最終所見Concluding Observations)の採択(92年か

ら)――序論、肯定的側面、主要な懸念事項と勧告(拘束力はない)。

問題点――報告の遅延(93年から著しい遅延国を公表)

※緊急行動――大規模人権侵害に締約国に緊急の報告を求める(91年のイラクに始まり、

ペルー、旧ユーゴ諸国、ブルンジ、ハイチ、ルワンダ)。93年からは会期外でも議長

が要請できることとしたほか、人種差別委(早期警戒措置も認め予防的に行動)、女

性差別委、児童の権利委でも導入。

②国家通報(国家申立)制度……ある締約国が他の締約国の条約不履行の情報を実施機関

に通報し、審議を受ける。

自由権規約41・42条・拷問21条(宣言により受諾した締約国間で適用)・人種差別 11

~13条(義務的)。ILO憲章26条やユネスコ教育差別禁止条約議定書も。

当事国間の調整(6か月)→委員会への付託(国内的救済完了が条件)→委員会の友

好的解決のための斡旋・報告→特別調停委員会の設置(斡旋・報告)

実際に通報した例はない。

※人種差別(22条)、女子差別(29条)、拷問(30条)は裁判条項あり。

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③個人通報制度……締約国から人権侵害を受けた個人が実施機関に通報し審議を受ける。

自由権規約選択議定書(76年発効、締約国数105、日本未批准)・人種差別 14条(宣言

による受諾)・女子差別撤廃条約選択議定書・拷問 22(宣言による受諾)。1503手続

やILO憲章24条も。

個人通報の審査=非公開・書面による手続

(a)通報の許容性審査――通報特別報告者による予備審査(締約国の所見→通報者の見

解)→会期前通報作業部会(5名)による審査(全員一致で許容と判断すれば本案

に。疑義があれば委員会で許容性を決定)

許容性の要件(選択議定書3・5条。Cf. 手続規則 96条)

・匿名の通報ではないこと

・選択議定書の締約国の管轄下にある個人が「被害者」であると申し立てていること(本

人が通報を提出できない場合は近親者、弁護士、NGOなどが代理できる)。

・通報提出権の濫用でないこと(真摯な通報でないなど)

・通報の内容が規約の規定と両立するものであること(規約上の権利の侵害を十分に実

証的な方法で申し立てていること。規約上の権利侵害以外の主張は不可)

・同一の事案が他の国際的解決手続(欧州・米州人権条約など)で審理中でないこと

・国内的救済手段を尽くしていること(不当な遅延の場合を除く)

・時間的管轄……当事国について選択議定書が発効する前の事案は受理しない(規約発

効後であっても。議定書発効後も効果が継続しそれが規約に違反する場合は例外)

(b)本案審理……6か月以内の締約国の所見(選択議定書4条②)→通報者の見解

暫定措置――被害者に回復不可能な損害が及ぶ場合(手続規則92条、死刑や追放など)

立証責任の転換――規約違反の事実の一応の証拠が示されれば当事国は誠実に調査し

情報を提供する義務(4条②に内在する義務)。事実をそれ以上に明らかにする情報

が当事国の手にあるのに積極的に反論しない場合は、申立人の主張が事実と推定。

本案に対する委員会の見解(Views)――違反の有無と違反が認定された場合当事国が

とるべき効果的救済措置の内容(通報者と当事国に送付。国連総会への年次報告〔選

択議定書6条〕に掲載される)

フォローアップ手続――1990年決定。①見解の中で当事国に救済措置の内容を 180日

以内に通知するよう要請。②総会への年次報告の中にフォローアップ活動を記載(無

回答または措置をとらなかった国の名前を公表)。③政府報告審査の中で救済措置に

関する情報を求める。④委員会の任命した「フォローアップのための特別報告者」が

締約国・通報者と連絡をとり、とるべき行動について委員会に勧告。

④情報に対する自発的調査……拷問20条/女子差別撤廃条約選択議定書8・9条(宣言

による適用除外可)

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2005(LS)国際人権法

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締約国による組織的な侵害(拷問の組織的な実行、女子差別条約上の権利の重大なまた

は組織的な侵害)の信頼できる情報がある場合、締約国の見解を要請し、委員を指名

して調査。締約国の同意の上での訪問(拷問禁止条約選択議定書 11・13条では防止

小委員会による定期的訪問)。調査結果の送付。

(3)地域的人権保護条約の手続……司法的手続もある

①欧州人権条約(1950年欧州審議会で採択)

※1994年第 11議定書(98年発効)による改正前の旧規定

欧州人権委員会――個人通報制度(選択的) 国家通報制度(義務的)

欧州人権裁判所――管轄権受諾宣言した締約国について他の締約国・人権委員会の付

託による争訟手続。勧告的意見手続もある(第2議定書で創設)

国家通報・国家間争訟における訴えの利益……条約=ヨーロッパの公序・客観的義

務。

締約国が付した留保を無効と判断(1988年ベリロス事件)

「公正な満足」の付与(現41条)……金銭賠償の命令など

欧州審議会閣僚委員会(審議会加盟国外相で構成)――委員会が裁判所に付託しなか

った事件について決定。裁判所判決の履行も監視(現行制度でも)。

現行の制度

条約実施手続の裁判所への一本化。個人申立(争訟)が原則

3名の裁判官で構成される委員会が受理可能性を審査(不受理について全員一致)

小法廷(7名)・大法廷(17名)がある。

②米州人権条約(1969年米州機構〔OAS〕の外交会議で採択)

米州人権委員会の二重の役割――①OASの機関として米州人権宣言(48年採択)の実

施機関(1959年設置。個人通報、国別調査活動も)。②米州人権条約の実施機関(個

人通報は義務的。国家通報は選択的)

米州人権裁判所(79年設置)――争訟手続(国家・委員会による付託、選択的)と勧告

的意見手続あり(諮問権者はOAS諸機関と締約国)

③アフリカ人権憲章(1981年アフリカ統一機構〔OAU、現アフリカ連合〕国家元首・政

府首長会議で採択)

アフリカ人権委員会――国家報告・国家通報・個人通報

アフリカ人権裁判所――98年に採択された追加議定書(未発効)で設置を予定。

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第Ⅸ講 国際人権法の国内的実施

(1)日本における国際人権法の実施

国内的効力……自由権規約委員会の第4回日本政府報告審査の際の日本の報告書

直接適用

自由権――自動執行力ありとされる

外国人通訳費用負担事件(東京高判h5.2.3東京高裁(刑事)判決時報44巻 1~12号

11頁)……自由権規約の自動執行性を肯定した上で 14条③(f)の保障は無条件かつ

絶対的なものであり、裁判の結果に関係がないとした。

京都指紋押捺拒否逮捕事件(大阪高判h6.10.28判時 1513号 71頁)

徳島接見制限事件(徳島地判h8.3.15判時 1597号 115頁。Cf. 控訴審判決=高松高

判 h9.11.25判時 1653号 117頁)――結論は間接適用。

※日本政府の見解=条約規定の直接適用性については当該規定の目的・内容・文言を勘

案して具体的場合に応じて判断/自由権規約2条②による立法措置等をとるまでは

規約のみを根拠に不作為を問題にすることはできない。

社会権――自動執行力を否定

塩見訴訟最高裁判決(最(一小)判h元.3.2判時 1363号 68頁)

在日韓国人元軍属の障害年金請求事件大阪高判h11.10.15判時 1718号 30頁

※社会権規約委員会の第2回政府報告審査における最終見解(2001年)……権利の中

核的部分について直接適用することを要求

その他

日本政府は人種差別撤廃条約の自動執行力を否定(政府報告審査の際に表明した見解)

間接適用

二風谷事件

外国人入店拒否訴訟(静岡地(浜松支)判h11.10.12判時 1718号 92頁)……人種差別

撤廃条約の規定が不法行為の要件の解釈基準として作用するとした。

婚外子相続差別拒否訴訟(東京高決h5.6.23判時 1465号 55頁)……違憲判断にあたり

自由権規約 24①、児童の権利条約2②(当時未批准)の精神を考慮。

◆条約実施機関の見解(政府報告に対する最終所見、個人通報に対する見解、一般的意見)

の扱い――条約の適用につき後に生じた慣行(条約法条約 31条③(b))、解釈の補足的

手段(32条)、条約解釈の指針など諸説ある。

下級審判例には否定的見解も……“一般的意見や政府報告に対する最終見解は法的拘束

力はなく締約国の国内裁判所による解釈を拘束するものではない”(婚外子の出生後

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2005(LS)国際人権法

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認知による国籍取得に関する大阪高判 h10.9.25判タ 922号 103頁、不法滞在外国人

家族の退去強制に関する神戸地判h15.10.10など)。 “我が国はB規約41条に基づ

く宣言も選択議定書の批准もしていないことから委員会の見解は我が国を法的に拘

束しない”(恩給法の国籍条項に関する京都地判h10.3.27訟月45巻 7号 1259頁)

(2) 国際人権法の実施と国内人権機関

国内人権機関の必要性――国内における国際人権法の実効的実施、軍や警察による権力

の濫用・マイノリティへの社会的差別の温存、費用のかからない簡易で迅速な人権救

済手続の必要、私人間での人権侵害や社会権の侵害に対しての有効性など

国内(人権)機関に関する原則(パリ原則、92年人権委員会決議 1992/54・93年国連

総会決議 48/134)・95年国連人権センター『国内人権機関の設置と強化に関する手引

書』

国内人権機関の定義=①人権保障のため機能する既存の国家機関とは別個の公的機関、

②憲法または法律が設置根拠、③人権保障に関する法定された独自の権限をもつ、④

いかなる外部勢力からも干渉されない独立性をもつ

人権委員会型とオンブズパーソン型がある

国内人権機関の権限――①人権に関する政策提言・勧告(法制度の改善など)、②国際人

権法の履行の促進(批准の促進や政府報告書作成への協力を含む)、③人権に関する

教育の支援や宣伝、④人権侵害の救済(準司法的手続または当事者間の調停による)

具体的活動――①苦情申立の検討、②意見の聴取、情報・文書の取得、③意見や勧告の

公表、④人権の促進・保護に責任を有する司法機関などとの協議、⑤人権 NGOとの

連携。

国内人権機関の原則=構成と独立性

機関の構成について社会の多様性を反映させ、人権 NGO、労働組合、法律家やジャ

ーナリストの団体などの代表を参加させる。

政府からの独立性を確保するために予算の自律性の確保・任務の明確性

国際人権文書における国内人権機関

・ウィーン行動計画(93年)――国内人権機関の役割、特に政府への助言、人権侵害の

救済、人権情報の普及、人権教育といった役割を評価し、各国がそれぞれの状況に適

した枠組で設立・強化するよう奨励

・女子差別撤廃委員会(88年)・人種差別撤廃委員会(93年)・社会権規約委員会(98

年)の一般的意見で、条約実施のため国内機関設置を勧告(条約実施の促進や条約に

照らした国内法・政策の検証など)

外国の状況――約 60 か国以上で設置。アジア太平洋地域では、豪、NZ、フィリピン、

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インド、インドネシア、フィジー、ネパール、スリランカ、マレーシア、タイ、韓国

などで設置。豪州の人権及び機会均等委員会(86年設置)は自由権規約などの人権条

約・文書を活動(救済手続含む)の基礎に。NZの人権委員会(93年設置)は NGO

レポート作成に協力。

※日本と国内人権機関

政府報告書審査で自由権規約委員会が日本に設置を勧告(現行の人権擁護委員制度に

も言及)。児童の権利委員会も児童の権利オンブズパーソンの設置を勧告。

97人権擁護政策推進法→01年人権擁護推進審議会答申「人権救済制度の在り方につ

いて」→02年人権擁護法案国会上程(廃案)

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(3)米国における国際人権訴訟

※外国人不法行為請求法(ATCA, 1791年)……諸国民の法・条約に違反した不法行為

について外国人の民事訴訟に対する連邦裁判所の管轄権を規定。

1980 年フィラーティガ事件第二巡回区連邦控訴裁判決――拷問の禁止が国際慣習法と

認め、損害賠償を認めた。

95 年カラジッチ事件第二巡回区連邦控訴裁判決――私的資格で行われたジェノサイド

や戦争犯罪などについてATCAに基づく訴訟を認める。

※92 年拷問被害者保護法(TVPA)……外国の現実の権限または権限の外観の下で拷

問・超法規的処刑を実行した個人を被告とする裁判権を設定。

(4)国際人権訴訟と主権免除原則

※主権免除原則――国家は外国の裁判所における民事訴訟手続から免除されるという原

則。伝統的な絶対免除主義から制限免除主義(国家の行為を主権的行為と商業的行為

に区別し、商業的行為については免除を認めない)に移行。

→一部の学説において国際法違反(人権侵害)をした国家は主権免除を黙示に放棄した、

または免除を援用できないという主張あり。

◆米国での事例

80 年レテリエル事件コロンビア特別区連邦地裁判決――米国内で暗殺された駐米チリ

大使の遺族の訴えについて、外国主権免除法(FSIA)上の免除の例外(法廷地国内で

の不法行為)にあたるとしてチリへの裁判権を認め賠償請求を認容。

89年アメラーダ・ヘス海運会社事件連邦最高裁判決――フォークランド戦争中にアルゼ

ンチン軍に攻撃された船舶の傭船者(リベリア法人)による訴訟について、外国国家

に対する裁判権は FSIAが唯一の根拠であって、ATCAは単独では根拠とはならず、

FSIAの規定する免除の例外がみたされていないとして却下。

90年フォン・ダーデル事件コロンビア特別区連邦地裁判決――第二次大戦中にハンガリ

ーでソ連軍により抑留され死亡したとされるスウェーデン人外交官の家族が提訴。国

際法違反による免除の黙示的放棄、ATCAなどを根拠。判決はアメラーダ・ヘス会社

事件判決に依拠し、最初の欠席判決を取り消し訴えを却下。

94年プリンツ事件コロンビア特別区連邦控訴裁判決――ナチ・ドイツにより強制収容所

に送られたユダヤ系米国人の賠償請求。原審は主権免除法の適用を否定。判決はユ

ス・コーゲンス違反による免除の黙示的放棄の主張を認めず、訴訟を却下。

01年フアン・ジュー事件コロンビア特別区連邦地裁判決――日本により強制連行され従

軍慰安婦にさせられた原告の訴えについて、ポツダム宣言の受諾やユス・コーゲンス

違反は免除の放棄にあたらず、また慰安所経営は商業活動にあたらない。

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※96年主権免除法改正――国務省によりテロ支援国として指定された国家による拷問、

超法規的処刑、航空機妨害、人質による損害に関して米国市民が提起した賠償請求訴

訟を認める(指定されたリビア、イラン、イラクなどへの訴訟が提起される)。

◆米国以外の事例

00 年ディストモ村事件ギリシア最高裁判決――第二次大戦中ドイツ軍がギリシアで行

った虐殺に関する自治体・被害者の訴えについて、法廷地国内での不法行為であるが

武力紛争に関するものなので免除が認められるが、無辜の市民の殺害は国際法の強行

規範に反する行為にあたり、ドイツは黙示に免除を放棄した。

01年アル・アサドニ事件欧州人権裁判所判決――英国の裁判所において、クウェートで

拷問を受けたクウェート人のクウェートへの賠償請求が却下されたことが公正な裁

判を受ける権利の侵害であるとして、欧州人権裁判所に提訴。欧州人権条約の解釈に

あたって当事者間で適用される関連する国際法規則を考慮しなければならず、それに

は主権免除に関する規則が含まれる。拷問禁止規則は強行規範であるが、拷問実行国

に他国法廷での民事裁判の免除を与える国際法上の根拠は認められない。

04年ブーザリ事件カナダ・オンタリオ州控訴裁判決――イランで拷問を受けたイラン人

の訴えについて、拷問の禁止がユス・コーゲンスであってもイランへの免除の付与を

否定しなければならない義務はない。

04 年フェリーニ事件イタリア破棄院判決――大戦中ドイツに移送され強制労働に従事

させられたイタリア国民の賠償請求について、軍事行動は主権的行為であるが、住民

の移送・強制労働は戦争犯罪であり、人権を侵害する国際法の強行規範の違反は当該

国家に国際法の与えるあらゆる利益を否認することになる。

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2005(LS)国際人権法

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第Ⅹ講 刑事手続と国際人権法

刑事手続分野に関する国際人権文書=被拘禁者最低基準規則(1955年第1回国連犯罪防

止会議で採択) 法執行官行動綱領(79年国連総会決議 37/169) 被拘禁者保護原則

(88年総会決議43/173) 少年保護原則(90年総会決議 45/113) 弁護士の役割に関

する国連基本原則(90年第8回犯罪防止会議で採択)など

◎起訴前勾留制度

・代用監獄――監獄法に基づく警察留置場での勾留(最長 23日間)

→自由権規約9条③(裁判官などの管理下に速やかに身柄を移送する)。

日本政府の主張=迅速かつ適正な捜査を進める必要。被疑者と家族・弁護人との接見

の便。拘置所までの護送に必要な要員の確保や増設に必要な費用の不足、地域住民

の反対。捜査部門と留置部門の分離や勾留・勾留延長段階での裁判官のチェックの

存在など。

自由権規約委の日本政府報告に対する最終所見 para.23(独立の機関によるコントロ

ールと規約の要請への合致)

・保釈

→規約9条③(抑留を原則とすることの禁止)

※大阪高決h元.5.17判時 1333号 158頁(規約9条③は合理的な理由がある場合に

おいても例外を許さないものではない)

最終見解para.22(保釈の権利を認める必要)

・被疑者の接見交通権

捜査のため必要があるとき捜査官による接見の日時・場所・時間の指定(刑訴法 39

条③)

最(大)判h11.3.24民集 53巻3号514頁(刑訴法39条③の接見指定は憲法34条前

段に規定する弁護人依頼権を実質的に損なうものではない)

最終見解para.22(刑訴法 39条③により弁護士へのアクセスが制限されていることに

懸念)

・起訴前取調べと弁護人の立会い

→規約 14条③(b)(d)(g)との関係

84年自由権規約委の14条に関する一般的意見13(被疑者の弁護の準備のための十分

な時間と便宜の供与と自らが選ぶ弁護人と連絡する権利。弁護人の自由な活動の保

障)

被拘禁者最低基準規則 93条(未決被拘禁者の無償の弁護人の援助を求める権利)・被

拘禁者保護原則17・18(被拘禁者の無償の弁護人の援助を求める権利、弁護人と相

談する権利の制限は法律に基づき司法機関による)

自由権委のグリディン対ロシア事件(逮捕後5日間被疑者の要請にもかかわらず弁護

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士へのアクセスを認めないで尋問したことは 14条③(b)に違反)。 91年欧州人権

裁判所S対スイス事件(被疑者が第三者の聴取なく弁護人と相談する権利は公正な

裁判の基本的要請である)。

最終所見para.25(自白偏重への懸念、代用監獄における取調べの監視・記録の必要)・

para.22(取調べの時刻・時間を定める規則の不存在、被疑者段階での国選弁護制

度の不存在、弁護士の立会いがないことに懸念)

◎刑事裁判における証拠開示

弁護側の検察に対する一般的証拠開示請求権の不存在

→規約 14条③(b)との関係

一般的意見13(防御の準備のための十分な便益には被疑者が必要とする文書・証拠への

アクセスが含まれる)

最終所見 para.26(手続のいかなる段階においても検察側に証拠資料の開示を求める権

利が弁護側にないことは14条③に反する)

◎行刑制度

・受刑者の外部交通制限

最(一小)判 h12.9.7判時 1728号 17頁(徳島接見訴訟の上告審。刑務所長による接

見の制限は違法ではない)

92年自由権規約委の 10条に関する一般的意見 21(自由を奪われた者は自由の剥奪か

ら生じる制約を除いて、自由な者と同じ条件で尊厳を尊重されなければならない。物

的資源の制約に依存させてはならない)

・刑務所の規則の外部への非公開、戒具(革手錠・金属手錠)使用・保護房拘禁・(長期)

独居拘禁などの懲罰、公平な懲罰手続や実効的な救済手続の不存在

→規約7条、10条①、被拘禁者最低基準規則 27条・30条・33条、被拘禁者保護原則

30条、拷問禁止条約 13条(不服申立権)との関係

日本政府の主張――規則の非公開は警備上の理由から。規制は受刑者間でのいじめを防

ぐため。懲罰については合議制の審議会で本人の弁解も聞いて決定している。革手錠

や保護房は懲罰のために用いてはいない(監獄法19条①)。不服申立制度も存在(監

獄法4・7条)

※自由権規約違反を否定する下級審判例(革手錠使用について東京高判 h10.1.21.判時

1645号 67頁、長期独居拘禁について旭川地判h11.4.13判時 1729号 93頁)

92年自由権規約委の7条に関する一般的意見 20(7条で禁止された待遇はその性質・

目的・過酷さによるので明確な定義づけは行わない。身体的苦痛だけでなく精神的苦

痛も該当する。長期の独居での拘禁は7条で禁止された待遇に該当する)

最終所見 para.27(過酷な所内規則、独居拘禁、懲罰・不服申立手続の不存在などへの

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2005(LS)国際人権法

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懸念)

・第三者機関の必要性

最終所見 para.10(警察や入管職員による虐待の申立を扱う独立の機関の不存在に対す

る懸念)

◎死刑と死刑囚の待遇

最終所見para.20(死刑を適用される数の多さに対する懸念)

・死刑囚の待遇――外部交通の制限や家族への執行の事前告知の欠如

日本政府の主張=未決拘禁者に準じた処遇を保障している。死刑確定者の心情を害する

者との面会は認められない。事前告知は家族に精神的苦痛を与え受刑者の心情の平穏

を保てない。

※最(二小)判 h11.2.26判時 1682号 12頁(死刑確定者の信書発信の許否の判断は拘

置所長の裁量に委ねられている)

※東京高判h7.5.22判タ 903号 112頁(拘置所独居房における遮蔽版による日照・通風

等の制限は自由権規約7条や被拘禁者保護原則6に反しない)

最終所見para.21(外部交通の制限や執行の事前告知の欠如への懸念。自由権規約7条・

10条①と両立しない)

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第XI講 在日外国人と国際人権法

◎外国人登録

外国人登録法3条――日本に入国し3か月以上滞在する外国人は上陸から 90 日以内、

外国人として生まれた子供は 60日以内に居住する市区町村に登録する義務。5年毎

(永住者・特別永住者は7年毎)に切り替え登録(登録確認)する義務。

外国人登録の効果=国民健康保険や国民年金への加入、学齢児童への就学通知、児童

手当の交付など。

外国人登録証の常時携帯義務・警察官等への提示義務(13条)

登録懈怠、不提示には一年以下の懲役・禁錮または20万円以下の罰金(18条)。不携帯

は 20万円以下の罰金(99年改正で特別永住者は5万円以下の過料〔19条〕)。

日本人の場合(住民登録)と均衡を欠くとの指摘

◇指紋押捺制度(外登法旧 14条)――1年以上在留する者に指紋押捺を義務づけ

※最(三小)h7.12.15刑集 49巻 10号 842頁(私生活上の自由として指紋の押捺を

強制されない自由があるが、合理的な制限であり過度の苦痛を与えるものではない)

92年改正で永住者・特別永住者について免除(旧14条の2。写真・署名・家族関係

で自己同一性を担保)

99年改正で指紋押捺制度を全廃(写真などで代える)

日本政府の主張――入国・在留は許可を受ける必要があるもので、(許可の有無・内容を

確認する必要があり)在留外国人の公正な管理のため合理的な制度である。

※最(大)判s30.12.14刑集9巻13号 2756頁(登録義務は法の下の平等に反しない)、

最(大)判s30.12.16刑集 10巻 12号 1769頁・最(一小)判s.56.11.26刑集 35巻8

号 896頁(不法入国外国人に登録義務を課すことは憲法 38条①の「自己に不利益な

供述」を強いることにはならない)。

自由権規約委の最終見解 para.17(93年の最終見解 para.9 も。罰則を伴う常時携帯義

務は規約 26条に反する)

◎外国人と刑事手続

・領事面会権の保障(ウィーン領事条約36条)

・通訳費用の負担(刑訴法 181条①。刑事訴訟費用等に関する法律2条2号で訴訟費用

に含まれる)

→規約14条③(f)(外国人被疑者・被告人の通訳の権利)との関係が問題に

※東京高判 h5.2.3東京高裁(刑事)判決時報 44巻 1~12号 11頁(通訳費用を命じた

のは規約に反し認められない)。浦和地決 h6.9.1判タ 867号 298頁(規約 14③(f)は

刑事上の罪の決定に当たっての権利であって、決定確定後の段階における通訳費用の

負担の命令を禁ずるものではない)

自由権規約委の 14条に関する一般的意見13(無料の通訳の援助の権利は手続の結果と

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2005(LS)国際人権法

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無関係である)

第1回の最終見解――有罪判決を受けた後に通訳費用を請求するのは規約違反

・外国人に対するその理解する言語による取調べ・起訴状謄本送達

→規約 14条③(a)(f)との関係

※東京高判 h4.4.8判時 1434号 140頁(イラン人に対する取調べに英語の通訳を介し

たが、規約 14条③(f)は被告人の「理解する言語」で行われればよく母国語で行う必

要はない。公訴提起前の被疑者の取調べには適用されない) 東京高判h6.11.1判時

1546号 139頁(イロカノ語圏のフィリピン国民の取調べ・審理にタガログ語・英語

の通訳を介したことは不適切ではない)。

※東京高判 h3.9.18判タ 777号 264頁(規約 14条③(a)の「速やかに」は時間的に緩

やかな訓示的表現であるから、公判手続において起訴状朗読を通訳したことでみたさ

れる)

14条に関する一般的意見 13(「速やかに」は容疑が最初にかけられると直ちにこの権

利が発生することを意味し、捜査の過程で裁判所または訴追の機関が手続的措置をと

った時または公に容疑者として名指しする時に生じる)

・行刑上の問題――外国人被収容者の言語・習慣

欧州審議会・受刑者移送条約(日本は2003年加入。実施法として国際受刑者移送法)

◎外国人と社会保障

・国民健康保険――1986年国籍条項を廃止、外国人にも適用。

国民健保法5条「住所を有する者」(1992年厚生省保健局国民健康保険課長通知で在留

1年以上の外国人に被保険者資格を限定)

※最(一小)16.1.15民集 58巻1号 226頁(在留資格のない外国人であっても居住事

実や在留特別許可の申請、家族の事情、滞在期間などを考慮して、安定した生活を継

続する蓋然性が高ければ該当する)

04年6月国民健保法施行規則改正――在留資格のない外国人・外国人登録をしていな

い外国人を加入対象から除外。

・医療扶助

生活保護法の準用による対応→1990 年厚生省の指導(生活保護法の準用は一定の在

留資格=永住者・日本人の配偶者・定住者などに限定)

※最(三小)判 h13.9.25判時 1768号 47頁(超過滞在の外国人による請求。憲法 25

条は具体的措置を広範な立法裁量に委ねており生活保護法が不法残留外国人を対象

としないのは違憲ではない。社会権規約などに反しない〔合理的差別である〕とした

原審の判断は是認できる)

外国人による医療費未払いの増加→未払い医療費を補填する自治体(神奈川県・群

馬県など)・行旅病人及行旅死亡人取扱法を適用(東京都・千葉県など)による対応

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・年金――82年改正で国籍条項を廃止、外国人の年金加入を認める

国民年金――日本国内に住所を有するにいたったとき(=1年以上の滞在)

厚生年金――事業所との雇用関係が要件(3か月の滞在が条件)

86年年金法改正により加入期間が受給資格期間にみたない外国人に対する脱退一時金

支給制度を導入(厚生年金保険法附則 29条・国民年金法附則9条の3の2)

社会保障協定(年金・医療保険などの二重加入防止・年金加入期間通算)の締結――

独(98年)、英(00年発効)、韓・米(04年)、ベルギー・仏(05年、未発効)

日本政府の主張――不法就労外国人に医療保険や医療扶助を認めると不法滞在を助長す

る。

自由権規約委の一般的意見 15(外国人も規約上の権利を認められる。内国民との平等)・

一般的 18(26条の保護は規約上の権利にとどまるものではない) 第4回政府報告

における質問リスト3(b)

社会権規約委の最終見解para.61(情報提供の要請)

◎外国人児童の教育

日本の義務教育(初等教育)は日本国民を対象。民族学校は学校教育法上の学校(一条

校)として認可されていない。

公立学校における外国人教育・民族教育体制の不備

朝鮮学校(各種学校として認可)、ブラジル人学校など(各種学校としても認可されない。

04年6月の各種学校規程改正で校舎の自己所有の要件が緩和される)

公的助成の欠如による財政難や大学・大学院入学資格の制限(03年9月の学校教育法

施行規則改正により入学資格が大学の個別審査により認められる。インターナショ

ナルスクール卒業者は入学資格が認められる。04年1月にブラジル人学校卒業者も

補習を条件に認められる)

日本政府の見解――公立学校への入学も選択できるので差別ではない。

自由権規約委の最終見解 para.13、人種差別撤廃委の最終見解 para.15・16、社会権規

約委の最終見解para.32・60

◎外国人女性・児童の人身売買

自由権規約委の最終見解para.29、女性差別撤廃委の最終見解para.363-364.

国連組織犯罪防止条約人身取引議定書(2000年国連総会採択、03年 12月発効、締約国

数 95、日本は05年6月国会承認)――人身取引行為を犯罪とすること、被害者の保

護・送還措置など。

→04年 12月人身取引対策行動計画の策定のほか、05年6月刑法改正(人身売買罪新

設)など関連法令の改正が行われる

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2005(LS)国際人権法

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◎在日朝鮮・韓国人に対する差別

少数者としての地位――日本政府は否定

自由権規約委の最終見解para.13

朝鮮学校生徒への暴力(人種差別撤廃委の最終見解para.14)

帰化申請時の日本人的氏名への変更の強制(人種差別撤廃委の最終見解para.18)

◎国家賠償法の相互の保障

人種差別撤廃委の最終見解para.20(条約6条に反する)

◎援護法・恩給法の国籍条項(戦傷病者戦没者遺族等援護法附則二・恩給法9条①三)

→平等条項(自由権規約2条①・26条)との関係

※最(三小)判h4.4.28判時 1422号 91頁(台湾住民である軍人軍属が援護法・恩給法

適用から除外されたのは、請求権処理が外交交渉によって解決することが予定された

ためで区別には合理性がある)、最(一小)判 h13.4.5 民集 202巻1頁(在日韓国人

の請求について、台湾訴訟と同旨のほか、日韓請求権協定締結後も放置したことは立

法裁量の逸脱とはいえない)

87年台湾住民である戦没者の遺族等に関する弔慰金に関する法律(一律 200 万円の弔

慰金・見舞金支給)・2000年平和条約国籍離脱者等である戦没者遺族等への弔慰金等

支給法(弔慰金・見舞金を支給)

93 年の自由権規約委の最終見解 para.9――朝鮮半島・台湾出身で旧日本軍に従軍した

が現在日本国籍を有してない者への恩給等における差別に懸念。

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第XII講 出入国管理と国際人権法

外国人の出入国――領域主権に基づく受入国の主権的裁量事項

Cf. マクリーン事件最高裁判決・最(大)判s53.10.4民集32巻7号 1223頁

◎入国と在留――受入国は認める義務を負わない

※86年自由権規約委の一般的意見 15(外国人は入国・在留の権利を持たず、国家に決

定権があるが、関連する規約の規定の保護が及ぶ)

入国審査官による上陸審査(入管法6条②)

旅券・査証(免除される場合あり)の所持(入管法6条)

上陸拒否事由(入管法5条)

在留資格・在留期間(入管法2条の2)

→不法上陸罪・不法残留罪(入管法70条)

◎出国――原則として自由

※規約 12条②も外国人の出国の自由を認める(ただし 12条③の例外あり)

出国確認(入管法 25条。ただし一定の場合留保される〔25条の2〕)

再入国許可(入管法 26 条)――在留期間満了前に再入国の意思をもって出国する場合

(有効期間3年まで)

◎退去強制(国外追放)

国家の主権的裁量事項

※規約 13条の制約(手続的保障・恣意的追放の禁止) 集団的追放の禁止(慣習法)

退去強制事由(入管法24条)

退去強制の手続――入国警備官による違反調査(入管法 27条。収容令書による収容〔39

条〕)→入国審査官による審査(45 条。退去強制事由に該当するか否かの認定〔47

条〕)

→不服があれば特別審理官による審理(48条。認定に誤りがないor放免)

→異議の申出があれば法務大臣が裁決(49条。異議の申出に理由がある or放免)

→確定すれば退去強制令書発布(51条)→執行(送還、52・53条)

◆退去強制と適正手続(収容との関係は後述)

→規約 13条との関係

86年自由権規約委の一般的意見15(13条の文言上、違法入国・在留の外国人には適

用がないが、争われている場合の決定は13条に従ってなされるべき)

林桂珍(退去強制)事件・福岡地判h4.3.26判時 1436号 22頁(退去強制手続は行政

手続であり適正手続を保障した憲法 31 条は当然に適用されないが、その趣旨は尊

重すべき。違反調査など各手続において 31 条の趣旨が実質的に侵害されたとはい

えない)

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2005(LS)国際人権法

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退去強制に関する訴訟・執行停止――裁判を受ける権利との関係

03年自由権規約委のR・ジャッジ対カナダ事件(退去強制の執行に対して、異議申

立を求める救済措置が残されているのに執行したのは規約2条③違反)

最判 s52.3.10判時 852号 53頁(退去強制令書発布処分取消訴訟において一審判決

の言渡しがあるまでのみ執行を停止する決定が出たことについて、上訴して裁判を

受ける権利が否定されるわけではなく、執行により本人による訴訟追行が困難にな

っても代理人による追行は可能であるとした)

林桂珍(退去強制)事件上告審・最(二小)判 h8.7.12訟月 43巻 9号 2339頁(退

去強制処分取消訴訟継続中に送還され、送還時点から上陸拒否期間(当時1年)を

経過した場合訴えの利益は消滅する)

出国命令(04年改正で新設)――不法残留者(自ら出頭した者)に対して(55条の2)

在留特別許可(50条①1~3号)――付与は法務大臣の自由裁量(最判s34.11.10民集

13巻 12号 1493頁)。入管実務では国民・永住者の家族(配偶者や子など)の存在や

学齢児童を有する長期在留家族などに付与しているとされる(最近では、人身売買の

被害者)

◇退去強制令書発布処分取消等に関する行政訴訟……49 条③項に基づく法務大臣の裁

決に、在留特別許可を与えなかったことで裁量権の逸脱・濫用があったとして争うも

のが多い(裁決が違法な場合、後行の発布処分も違法)。

例・大阪地判 s59.7.19 判時 1135号 40頁(唯一の身寄りである母親〔永住者〕をた

よって密入国し9年間まじめに働いて病気の母を養っていた韓国人に特別在留許可

を付与しなかったことは正義に反する) 東京地判 s61.9.4判時 1202号 31頁(イ

ラン人原告が本国での迫害のおそれと日本人との婚姻を理由に在留特別許可の付与

を主張。難民該当性を認定) 東京地判 h13.3.15判時 1785号 67頁(中国から親

の偽計によりボリビア国籍を得て入国、不法残留のまま育った女性のボリビアへの

送還は、現地の言語も理解できず生計を立てていくのは困難なので、甚だ人道に反

し社会通念に反する)

◆退去強制と家族生活の権利

01年自由権規約委ウィナタ対オーストラリア事件――不法残留した外国人を親として

締約国内で出生した児童が 13歳となったという例外的状況において、両親を送還す

ることは移民法の単なる執行以上に送還を正当化する事由を立証しない限り、17条

①の家族への恣意的な干渉にあたる(17条①のほか、23条①、24条①に違反)。

欧州人権裁判所の 91年ムスタキム対ベルギー事件(2歳の時に移住し 20年ベルギー

に生活した者の追放は家族生活の権利を侵害する)。 96 年C対ベルギー事件(11

歳の時に移住し20数年生活したが本国とも関係があること、犯した犯罪の重大性を

考慮して家族生活・私生活の侵害はないとした)

東京地判 h11.11.12判時 1727号 94頁(不法残留中に日本人と同居し後に婚姻届を提

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出した外国人の退去強制について、夫婦関係の維持・継続の保護のため在留特別許可

を与えなかったことは条理や自由権規約23条に照らして好ましくない結果を招き社

会通念に照らして妥当性を欠く)。

東京地判h15.9.19判時 1836号 46頁(不法残留するイラン人家族を退去強制するのは、

長期間平穏かつ公然と善良な一市民として生活の基盤を築いている場合実務上在留

特別許可を与えている黙示的基準に反し、日本人に同化している児童を送還するのは

児童の権利条約3条の「児童の最善の利益」に鑑みて原告の生活に大きな変化を生じ

比例原則に反するとして処分取消し) 神戸地判 h15.10.10(判例集未搭載)(自由

権規約・児童の権利条約に反しない)

※退去強制と外国人の刑事手続……有罪判決確定を要する退去強制事由は少ない(24条

4号ホ~リ、4号の2など)。その他の事由(不法残留など)は刑事裁判の結果を待

つ必要はない。

刑事手続と退去強制手続との関係(入管法 63条)

63条②本文……入管実務では身柄の拘束に関する手続が終了すれば、保釈・執行猶

予・無罪判決の場合(控訴中でも)送還できる(仙台地決s49.10.9訟月 20巻 12

号 37頁。異なる判断として、東京地決s51.12.2判時 837号 112頁)

※東電 OL殺人事件(最(一小)決 h12.6.27判時 1718号 19頁)……不法残留の

外国人が強盗殺人事件で一審無罪判決後、入管当局が収容。控訴審裁判所が検察

官の請求により審理開始前に職権で勾留。

◎旧植民地出身者の取扱い

52年法務府民事局長通達による国籍の離脱(平和条約発効の日から。内地居住者を含む)

65年日韓法的地位協定……在日韓国人(二世まで)に申請に基づき永住許可(協定永住)

を与え、退去強制事由を制限

81年入管法改正により特例永住資格を創設(平和条約発効により日本国籍を離脱した者

〔朝鮮半島・台湾出身者〕とその子孫に申請により永住を許可)

91年入管特例法

平和条約発効による国籍離脱者とその子孫に特別永住者資格を付与

退去強制事由を制限(9条。内乱・外患に関する罪、国交に関する罪、無期または7

年を越える懲役・禁錮など)

再入国許可の有効期間の特例(10条。5年)

◆再入国不許可と自由権規約12条4項(自国〔his own country〕に戻る権利)

崔善愛(チェ・ソンエ)事件・最(二小)判h10.4.10判時 1638号 63頁(協定永住者

である在日韓国人に対して、指紋押捺を拒否したことを理由に再入国不許可処分が

なされ、不許可のまま出国したことで協定永住資格を失い、処分取消しや慰謝料支

払を求めた事例。判決は社会通念上著しく妥当性を欠くことが明らかでない限り再

入国の許否は法務大臣の裁量権の範囲内にあるとした)。

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2005(LS)国際人権法

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99年自由権規約委の一般的意見27(規約12条④の「自国」は国籍国よりも広く、あ

る国との関係により単なる外国人とはみなされない個人〔特に長期居住者〕を含む)

最終所見para.18(永住外国人を再入国許可制度にかからしめるのは規約 12条②④に

反する)

◎収容と人権

・収容と適正手続(全件収容主義と収容に対する司法的チェックの欠如)

収容令書は入国警備官の請求により所属官署の主任審査官が発布(入管法39条②)

東京高判 s47.4.15判時 675号 100頁(収容処分は行政処分であるから刑事手続ほどの

憲法の制約〔33条=令状主義〕は必要なく、収容令書の発布者が収容を行う者と別

の行政官であれば違憲ではない)

→規約9条①・④との関係

82年の一般的意見8・86年の一般的意見 15(規約9・10条は出入国管理における自

由の剥奪にも適用) 被拘禁者保護原則9・32

・無期限収容

収容令書に基づく収容は30日間以内(30日間までの延長可。入管法41条)だが、退

去強制令書執行に伴う収容は期間の定めがない(52条⑤)

※97年自由権規約委のA対オーストラリア事件(カンボジアからボートピープルとし

て不法入国し難民資格審査期間の間4年以上拘禁された事例で、適当な正当化事由な

しに拘禁し続けることは9条①にいう恣意的拘禁であり、裁判所が拘禁を審査し違法

な場合には釈放を命令できる権限が与えられることを要請する9条④にも違反する)

・入管収容施設における待遇の悪さ、収容施設内での事件など

入管収容施設=入国者収容所(茨城、大阪、長崎)、各地方入管の収容場(8か所)

被収容者処遇規則(法務省令)が適用される。戸外運動の機会がない、採光・換気の

不十分さ、暴行・セクハラ事件などの指摘あり。

空港(成田・関空)等の上陸防止施設――航空会社による上陸拒否外国人の留め置き(明

確な収容の根拠なく私人による拘禁)

→自由権規約7条や拷問禁止条約16条との関係

自由権規約委の最終見解 para.19・9(収容所の待遇についての懸念、調査のための独

立した機関の設置を勧告)

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第 XIII講 難民認定と国際人権法

(1)国際法における庇護――難民(政治難民、政治亡命者)に対して国家が与える保護

庇護の方法

領域的(内)庇護・・・・・・領域主権の効果

※1967年領域内庇護宣言(国連総会決議 2312)……他国は庇護を尊重する義務(1

条①)。庇護付与は非友好的行為とみなされない(前文)

外交的庇護・・・・・・大使館・領事館・軍艦などにおける保護。接受国の主権の侵害とさ

れ違法(施設の不可侵権の効果として事実上行われる)。 cf.庇護事件ICJ判決

庇護は国家の権利か個人の権利か?

世界人権宣言14①・・・・・・庇護を「求める」権利・すでに与えた庇護は奪ってはならな

いという意味

難民条約・・・・・・難民認定は国家の裁量であることを前提(起草過程)

国連領域内庇護宣言1条③……国家の庇護付与の裁量権

※ノン・ルフールマン原則(亡命者不送還原則)

迫害のおそれのある国家へ追放・送還することはできない(難民条約33①・国連領域

内庇護宣言3条①→個人の権利・慣習法化したという見解が多数説)

cf.. 入管法53条③

例外――難民条約33②・領域内庇護宣言3条②

(2)難民保護の歴史

国際連盟時代における難民の保護

1921年 国際連盟、難民救済高等弁務官事務所を設置

22年 ロシア人難民に対する身分証明書の発給に関する取極 24年にはアルメニア人

難民についても取極締結(1926年 22年協定及び 24年協定の補足協定締結)

28年 ロシア人難民及びアルメニア人難民の法的地位に関する協定など

33年 難民の国際的地位に関する条約

38年 ドイツからの難民の地位に関する条約(39年議定書でオーストリア難民にも拡

大)

国連における難民の保護

43年 連合国救済復興機関設立

46年 総会、国際難民機関(IRO)憲章を採択し IROを設立(52年解散)

49年 総会、国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)を設置。

50年 総会、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)を設立

51年 国連の外交会議で難民の地位に関する条約(難民条約)を採択(時間的限定と

地理的範囲の選択〔条約1条B〕)

→66年難民の地位に関する議定書(難民の範囲を拡大)

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2005(LS)国際人権法

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UNHCR の任務の拡大……貧困(経済難民)、武力紛争、災害や飢餓による難民(流

民)、国内避難民に拡大(種々の総会決議による。ただし、UNHCR 規程〔マンデ

ート難民、難民条約とほぼ同じ定義〕の枠外で処理した大量難民の事例も多い)。

(3)難民条約の概要

難民の定義(1条A(2))

①迫害を受けるという「十分に理由のある恐怖」を有すること

②その迫害が人種・宗教・国籍・特定の社会的集団の構成員・政治的意見のいずれか

を理由とすること

③国籍国(無国籍者については常居所国)の外にあること

④(迫害のゆえに)国籍国(無国籍者については常居所国)の保護を受けることがで

きないまたは望まないこと。

難民の地位の喪失(1条C) 難民の地位を付与できない者(1条F)

消極的保護

不法入国・滞在を理由とする処罰の禁止(31条) 追放の制限(32・33条)

積極的保護

身分証明書・国外旅行のための証明書の発給(27・28条) 移動の自由(26条)

定住に必要な一定の待遇(13-24)……〔内国民待遇〕裁判を受ける権利 配給制度

初等教育 公的扶助 労働法制と社会保障 〔最恵国待遇〕動産・不動産に関わる

諸権利や契約 雇用 住居 初等教育以外の教育

社会への適応及び帰化の促進(34条)

(4)日本における難民認定

77年政府閣議了解によりベトナム難民の一時上陸・在留、収容施設確保などを決定

78年に定住許可、79年許可対象をインドシナ難民に拡大(定住促進センターの建設

が行われる)

81年出入国管理令を出入国管理及び難民認定法に改正し(18条の2で一時庇護のため

の上陸許可制度創設)、難民条約・難民議定書に加入

◎難民認定手続

難民の認定=法務大臣による(入管法61条の2①) 覊束処分とされる

外国人の申請による(陳述その他提出した資料に基づく)

難民調査官による事実の調査(入管法61条の2の 14①) 必要があれば関係人を出

頭させての質問・文書の提示(同条②)

→法務大臣による認定(難民認定証明書の交付)または不認定の処分〔第一次処分〕

(理由を付した書面による通知)(入管法 61条の2②)

不認定処分に対する異議申立て(入管法 61条の2の9。04年改正前 61条の2の4

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では異議の申出)→法務大臣による難民認定または異議申立て棄却・却下の決定

〔第二次処分〕

◆難民認定手続と適正手続

不透明な認定手続(行政手続法3条①10号による同法の適用を除外)、専門家育成や

情報源確保の必要、不認定の理由の不明確さ、難民該当性を判断する第三者機関設

置の必要などの批判

※東京地判h16.5.14(判例集未搭載)(理由の不備を認め難民不認定処分を取消し)

難民認定手続に UNHCR代表の関与を認める国あり(加、蘭、伯など)

大阪高判h16.2.10・東京高判 h17.1.20(判例集未搭載)(UNHCRによるマンデー

ト難民の認定は難民条約締約国を拘束しない)

※04年入管法改正――異議申立て手続における難民審査参与員の設置と意見聴取(入

管法61条の2の 10、61条の2の9③~⑤)

◎難民の認定基準(難民の定義=入管法2条3号の2で条約・議定書を参照)

◇難民該当性の立証責任――申請者にある(入管法61条の2①の解釈)。本人の陳述・

資料提出に基づく

※難民の特別の事情――迫害から逃れてきたため陳述を証明する文書・証拠を所持し

ていない→本人の供述に基づいて判断(Cf. 名古屋地判 h15.9.25判タ 1148号 136

頁)

UNHCR難民認定基準ハンドブック(79年作成・92年再改訂)――挙証責任は申請

者にあるが、事実を確認し評価する義務は申請者と判定者が共有すべき。申請人の

説明に信憑性があれば“疑わしきは”の利益が与えられるべき(あらゆる入手可能

な証拠の検討及び申請者の一般的な信頼性の確認が前提。供述の一貫性と妥当性、

公知の事実への合致が条件)

東京地判h15.4.9判時 1819号 24頁(申請者に訴訟と同様の立証責任があるのではな

く法務大臣にも補充的な調査義務がある。申請者の供述を公正かつ慎重に評価する

必要性)

難民申請者の供述の信憑性の判断――東京地判 h16.2.5、h16.2.19、h16.2.26(判例

集未搭載)(客観的事実との符合の有無、内容の自然さ・合理性の有無、供述の一貫

性の有無の三点からの検討)

◇迫害を受けるという「十分に理由のある恐怖」

UNHCRハンドブック――主観的事情(申請者の人格の評価により主要な動機が恐怖

に基づいていること)が客観的事情(国籍国での滞在の継続が容認しえない状況。

申請者の陳述を背景にある事情に照らして評価して合理的な程度に証明されればよ

い)によって裏付けられること

※ウガンダ人難民認定事件・東京地判h元.7.5行裁集40巻 913頁(「迫害」の定義=

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2005(LS)国際人権法

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通常人において受忍し得ない苦痛をもたらす攻撃ないし圧迫であって、生命又は身

体の自由の侵害又は抑圧/ 「十分に理由のある恐怖」=当該人が迫害を受けるお

それがあるという恐怖を抱いているという主観的事情のほかに、通常人が当該人の

立場に置かれた場合にも迫害の恐怖を抱くような客観的事情が存在すること)

迫害概念の判断……生命または自由に加えて他の人権の重大な侵害

適法な処罰との区別 後発的難民 私人間の差別 ジェンダーに基づく迫害など

大阪地決 h5.4.1判タ 837号 242頁(不法出国が政治的意見の表明と見ることができ

るのは主たる動機が政治的意見を理由とする場合に限られる)

イラン人難民事件・東京地判h17.1.20訟月 51巻1号102頁(同性愛を理由とする難

民該当性を国民の価値観の違いによるとして認めず、退去強制取消の訴えを棄却)

◇60日ルール

旧61条の2②――「前項の申請〔難民認定の申請〕は、その者が本邦に上陸した日(本邦にある間に

難民となる事由が生じた者にあっては、その事実を知った日)から六十日以内に行わなければならない。

ただし、やむを得ない事情があるときは、この限りではない」

入管実務では、60日経過後の難民認定申請は原則として難民該当性の実質審査をしな

い(この場合の不認定処分の性格について、東京地判h15.5.16判タ1179号 205頁)。

趙南事件・東京地判 h7.2.28判時 1533号 43頁/東京高判 h8.9.26行裁集 47巻 9号

166頁(60日要件は、長期間経過しての申請を認めると事実関係の把握に困難を生

じるためで、国の立法裁量に属し難民条約の趣旨に反しない。「やむを得ない事情」

とは病気や交通の途絶など特段の事情があった場合)

エチオピア人難民不認定事件・東京地判h14.1.17判時 1789号 60頁(60日要件が難

民条約の趣旨に忠実であるかは疑問で、「やむを得ない事情」を緩やかに解釈するの

が条約の趣旨に合致) 控訴審・東京高判h15.2.18判時 1833号 41頁

※04年改正で廃止

◇除外事由(難民条約1条 C及び Fに掲げる事由。認定後に該当した場合は難民認定が

取り消される〔入管法61条の2の2〕)

新たな国籍の取得・新たな国籍国の保護(難民条約1条C(3))――東京高判 s57.12.6

判時1076号 150頁/東京地判s62.10.29判タ 680号 126頁(いわゆるインドシナ

難民について台湾国籍を保持し台湾の保護を受けていることから条約難民ではな

い)

入国前の重大な犯罪(条約1条F(b))――張振海事件・東京高決 h2.4.20判時 1344

号 35頁(ハイジャック行為)

◎難民と不法入国(直接入国要件)

難民条約31条①→入管法70条の2――迫害を受けた国から直接入国し、遅滞なく入

国審査官に申し出た難民の不法入国・不法上陸・不法残留罪の刑の免除

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※迫害の性質上正規の旅券や査証を持って適法に入国することはまれ

※EU の「安全な第三国」政策……「安全」で難民認定を申請する機会のあった第三

国から入国した場合、審査しないで当該第三国に送還

広島地判h14.6.20判時 1814号 167頁(不法入国したアフガン・ハザラ人を難民と認

め、経由国であるパキスタン・UAE は逮捕のおそれがあり、香港・韓国は短期間

の中継国の通過に過ぎないから「本邦に直接入った」といえる。被告人の立場や心

情に鑑みると申請が「遅滞なく」なされたといえるとして免除) 控訴審・広島高

判 h14.9.20判時 1814号 167頁(「遅滞なく」なされたとはいえないとして有罪)

◎難民の在留資格・退去強制との関係

入管実務――正規の在留資格保持者は第一次処分までは在留期間更新を認められる(資

格外活動許可も)。在留資格のない者はないまま(労働もできない)だが、第一次処

分までは収容されない。異議申出段階では退去強制手続が開始され収容される。

→難民条約31条②や86年 UNHCR執行委員会結論44との関係

収容された難民申請者の精神障害や自殺の報告あり

※人種差別撤廃委の最終所見 para.19(難民認定申請者の十分な生活水準や医療につ

いての権利の確保の勧告)

難民認定申請と退去強制手続の関係――別個の手続(申請中の送還もありうる)

林桂珍事件(難民認定)・最(二小)判h8.7.12判時 1584号 100頁(難民不認定取消

訴訟中に退去強制執行。本邦を出国した以上は不認定処分の取消しを求める訴えの

利益は失われる) 原審・東京高判h5.4.27判時 1473号 50頁(難民認定は本邦に

ある外国人に対して行われるものであり、そのことは入管法の規定からも明らか)

→ノンルフールマン原則や77年 UNHCR執行委員会結論8との関係

暫定的庇護(領域内庇護宣言3条③ cf. 難民条約32③)

執行停止の可否――難民の関係する訴訟では退去強制のうち送還部分については認めら

れやすいと言われる

東京地決 h13.11.6訟月 48巻 9号 2298頁(不法入国し難民申請したアフガン・ハザ

ラ人に対する収容令書発布処分取消訴訟の執行停止申立において、申立人の難民該

当の蓋然性、収容の難民条約 31 条②違反の可能性を認めて執行停止) 控訴審で

破棄、上告審(最(一小)決 h14.2.28判時 1781号 96頁)も上告棄却。

東京地決h14.3.1判時 1774号 25頁(同じ申請者による退去強制処分取消訴訟におけ

る執行申立を認容。収容部分は難民条約 31 条②第3文の認める第三国への入国許

可のための活動を阻害し違法であり、送還部分は本案訴訟の追行を不可能にし、ノ

ンルフールマン原則に反する)

※04年改正での仮滞在許可制度

難民認定申請をした在留資格未取得外国人に仮滞在を許可(61条の2の4)退去強制

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手続を停止(61条の2の6②)。仮滞在を許可されなかった場合でも送還は行わな

い(61条の2の6③)。

一定の除外事由(61条の2の4①1~9号。上陸から6か月経過後の難民申請の場合、

迫害国から直接入国していない場合など)

仮滞在の期間――第二次不認定処分まで(61条の2の4⑤)

仮滞在の条件(61条の2の4②③) 仮滞在の取消(61条の2の5)

◎難民認定の効果=難民認定証明書の交付

・難民の在留資格――04年改正前までは在留資格と自動的にリンクせず

※04改正法での難民の在留資格

難民認定された在留資格未取得外国人に対する定住者資格の付与(61条の2の2①)

停止されていた退去強制手続は再開しない(61条の2の6①)。他の在留資格取得

者も定住者資格に変更可(61条の2の3)

除外事由(61条の2の2①1~4号。特に、上陸から6か月経過後の難民申請の場合、

迫害国から直接入国していない場合)

除外事由に該当する場合や難民不認定とされた在留資格未取得外国人に対する在留特

別許可(61条の2の2②)

・認定後の保護措置……住居、語学・社会教育、職業訓練・紹介、医療などの整備の必要

いわゆるインドシナ難民については、各地の救援センター・定住促進センターが存在

(97年以降、若干の条約難民について入所が認められる)

※人種差別撤廃委の最終所見para.19(インドシナ難民と他の民族出身の難民との住居、

財政援助、日本語学習についての差別の是正を勧告)