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海洋科学技術 センター試 験研究報告 第31号 JAMSTECR, 31 (January 1995) 海洋における冷水渦についての研究 緑川 弘毅*1 黒山 順二*2 黒潮沖合に発生する低気圧性 の渦は冷水塊と呼ばれ,渦の機構や特性としての研究 よりも,気象や漁業に影響する水質や水塊の消長に重点が置かれていた。 本研究では低気圧性渦の一般的性質を概観することから考察を始め,渦の旋回速度 分布の定式化を行 った。式はいくつかの渦に適用し得るものであった。 また, これら の結果を進め, Reduced Gravity モデルから渦の内部の形を表した。また,モデル は観測資料 に適用 も行った。 キーワード:冷水 渦, 旋回速度, レデ ウスト・ グラビティ On the Cyclonic Eddy in the Ocean (I) Koki MIDORIKAWA*3 Junji KUROYAMA*4 The cyclonic eddy is called the cold water mass by Japanese oceanographers and the water mass has been studied on its growth and decrease, which are regarded as important on the account of the influence on weather and fishery, rather than its structure and characteristics. We set out in this paper with a review of general nature of the cyclonic eddy and perform numerical formulation for the distribution of whirl speed of the eddy. The formulation is applicable to some cases of swirl velocity of the cyclonic eddy. Additionally, we describe the interface depth profilesusing the reduced gravity model and apply the model to field data. Key words :Cyclonic eddy, Whirl speed, Reduced gravity はじめ に 水の渦は谷間の小さな流れにも,鳴門海峡のような強 尺な流 れによって も発生 し, そ の性質 は良 く似てい る。 また大洋における流れの周辺にもさまざま無数 の渦が生 じるが, これらの多くは地球自転 の影響を受ける規模を 持つ ものであ る。 海洋の渦は,大気の低気圧などに比べて大きさは10分 の1程度であるが,密度を考慮に入れるなら,そのエネ ルギーは同程度のものである。海の流れも大気に比べて 25分の1程度であるが,同様のことが言える1)。海の流 *1 海洋観測研究部 *2 情報室(兼)海洋観測研究部 *3 Ocean Research Department *4 Technical Information Services and Ocean Research Department 31

海洋における冷水渦についての研究 ① · 海洋科学技術センター試験研究報告 第31号 JAMSTECR, 31 (January 1995) 海洋における冷水渦についての研究

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Page 1: 海洋における冷水渦についての研究 ① · 海洋科学技術センター試験研究報告 第31号 JAMSTECR, 31 (January 1995) 海洋における冷水渦についての研究

海洋科学技術センター試験研究報告 第31号 JAMSTECR, 31 (January 1995)

海洋における冷水渦についての研究 ①

緑川 弘毅*1 黒山 順二*2

黒潮沖合に発生する低気圧性の渦は冷水塊と呼ばれ,渦の機構や特性としての研究

よりも,気象や漁業に影響する水質や水塊の消長に重点が置かれていた。

本研究では低気圧性渦の一般的性質を概観することから考察を始め,渦の旋回速度

分布の定式化を行った。式はいくつかの渦に適用し得るものであった。また,これら

の結果を進め, Reduced Gravity モデルから渦の内部の形を表した。また,モデル

は観測資料に適用も行った。

キーワード:冷水渦,旋回速度,レデウスト・グラビティ

On the Cyclonic Eddy in the Ocean (I)

Koki MIDORIKAWA*3 Junji KUROYAMA*4

The cyclonic eddy is called the cold water mass by Japanese oceanographers and the

water mass has been studied on its growth and decrease, which are regarded as important

on the account of the influence on weather and fishery, rather than its structure and

characteristics.

We set out in this paper with a review of general nature of the cyclonic eddy and perform

numerical formulation for the distribution of whirl speed of the eddy.

The formulation is applicable to some cases of swirl velocity of the cyclonic eddy.

Additionally, we describe the interface depth profiles using the reduced gravity model and

apply the model to field data.

Key words : Cyclonic eddy, Whirl speed, Reduced gravity

1 はじめに

水の渦は谷間の小さな流れにも,鳴門海峡のような強

尺な流れによっても発生し,その性質は良く似ている。

また大洋における流れの周辺にもさまざま無数の渦が生

じるが,これらの多くは地球自転の影響を受ける規模を

持つものである。

海洋の渦は,大気の低気圧などに比べて大きさは10分

の1程度であるが,密度を考慮に入れるなら,そのエネ

ルギーは同程度のものである。海の流れも大気に比べて

25分の1程度であるが,同様のことが言える1)。海の流

*1 海洋観測研究部

*2 情報室(兼)海洋観測研究部

*3 Ocean Research Department

*4 Technical Information Services and Ocean Research Department

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Page 2: 海洋における冷水渦についての研究 ① · 海洋科学技術センター試験研究報告 第31号 JAMSTECR, 31 (January 1995) 海洋における冷水渦についての研究

れと渦のエネルギーとの比較については,中規模渦の運

動エネルギーは,平均流のそれよりも1桁大きいと言わ

れている。

このように中規模の渦は海洋において重要な存在であ

るにもかかわらず,ポリゴン観測やモード観測以来二十

数年を経た今日,それらに匹敵するような大規模な観測

も行われていない。前述のように海洋の渦は大気現象に

比べて大きさで1桁小さく,運動速度は2~3桁小さい。

この空間的に密で時間的に粗であることが観測や解析計

算を困難にしている理由と考えられる。

本稿では,黒潮流域や湾流南東域に常に発生している

中規模の冷水渦の形に関する考察を,渦の一般的性質に

関する基礎知識の整理を行いながら進めていきたい。

2 渦の種類

2.1 渦の大きさ

海洋にはさまざまの大きさの渦が在る。局所的な流れ

の周辺や遮へい物の背後にできる渦は,その姿を目視で

きる。そのような比較的小さな渦は,海洋学では主とし

てレイノルズ数に関係する乱流として取り扱われてい

る。数十km 以上の大きさになると,流氷海などの特別

な場合を除いて我々は目視で確認することは不可能とな

り,観測データを組み込んだディスプレイ画面かグラフ

用紙にその形を認めるだけとなる。

大きさが数十km から数百km である中規模の渦のう

ち,冷水渦及び暖水渦は海流等の強い流れの海域には常

に発生していると考えられている。大洋には更に大規模

な渦も在って, その大きさは数子km に及ぶものがあ

る。これらはgyreと呼ばれているか,海洋表層の循環

はこれに相当する。

2.2 渦の性質

鳴門海峡には潮時により10knot 近い流れが生じ,渦

が発生することは知られている。鳴門の渦について中野

猿人の写真入りの文献から要約を行う3)4)。よく見られ

る渦は中心が窪んで漏斗の形をしている。渦の回転は時

計の針の進む向きと同じ右回りとその反対の左回りとが

あるが,渦の性質はあまり違わない。旋回の向きは流れ

の右側に発生するか,あるいは左側に発生するかによっ

てほぼ決まるものである。渦は直径が十数mの規模に対

して水平の傾斜が大きく,周縁と中心の水位差が1m以

上のものも少なくない。旋回速度が大きく遠心力が大き

いためである。鳴門の渦には漏斗状のものの他に,中心

が盛り上がって水が中央から周囲に流れ出す高圧性のも

のもある。

32

黒潮流域に生起する渦はもっと大きなものが多く,そ

れらは直径が数十km から数百km である。それらの渦

は同じ流域に発生したものでも,鳴門の渦とは異なり旋

回の向きによって渦の性質は全く異なる。これは,

旋回

流の規模が大きくて地球自転の偏向力の影響を受けるた

めである。本邦の南沖合に生起する渦は,黒潮の蛇行に

囲まれた水塊が旋回を生起するのであるが,流れのどち

ら側から包み込まれたかによって向きが決まるようであ

る。

黒潮が南に大きく突き出した際に,流れの左側に包み

こまれた水塊は反時計回りとなり,水塊の主成分は黒潮

北方の冷水を取り入れる。それは,主として黒潮の下層

から湧昇によって取り入れるものと考えられる。反対に

黒潮の右側から包み込まれた水塊の旋回は時計回りとな

り,収束運動により周囲の表層水を取り込み暖水塊と呼

ばれる渦ができる。このように我が国周辺に発生する主

なる渦は,冷水塊あるいは暖水塊という呼び方をされて

いたが,それは渦の機能や機構の研究よりも,気象や漁

業に関係の深い水塊の性質やその量の消長に重点が置か

れていたからである。前述のように,冷水渦は水塊の下

層で収束し上方に拡散することによって,また暖水渦は

表層で収束し下方へ沈降することによって生成される。

大洋における渦の多くは50~200km 程で,海洋のエ

ネルギーの最も多くは,この渦群に集積していると考え

られる。人気における風を起こすポテンシャルは高気圧

と低気圧であるが,海では渦がこれに相当すると考えら

れる。鳴門やその他の海峡に出来るもっと小型で強力な

渦は,地上における竜巻や鎌いたちに相当すると思われ

る。

2.3 冷水渦

前述のように,これまでの我が国における冷水渦の研

究は,その規模が特に重要視された冷水塊と呼ぶ対象で

あった。紀伊沖にしばしば出現する比較的大きな中規模

の冷水塊はよく知られており,その寿命も長く2年以上

もその性質を保持しているものがある。黒潮と紀伊一志

摩半島に囲まれた水域の水塊が黒潮の南東側に切離され

た冷水渦となることは良く知られており,渦の深さは数

百mで, その多くは移動する性質を持つと言われてい

る。また,まれにではあるがモード観測で発見された渦

と同様に,渦運動が海底に達することもあると言われて

いる。

大西洋サルガッソー海は北赤道海流と湾流とで囲ま

れ, 海域全体が時計回りのgyre となっている。 した

がって,表層の暖かい水はこのgyre の中に収束し,海

JAMSTECR, 31 (1995)

Page 3: 海洋における冷水渦についての研究 ① · 海洋科学技術センター試験研究報告 第31号 JAMSTECR, 31 (January 1995) 海洋における冷水渦についての研究

況が穏やかな高気圧性の海となっている。表層の収束性

は海の藻類を集積するため藻海とも呼ばれている。表層

で収束された水は暖水域の内部で沈降あるいは拡故し,

海面は穏やかな状態を維持するものと考えられ,帆船の

時代には恐れられていた海域でもあった。

当海域は湾流の南東に位置し,そこには冷水渦や暖水

渦が無数 に散 在している。 これらの渦の多くはGulf

Stream ring と呼ばれ,渦の深さは有限でありバロクリ

ュックである。冷水渦は,等密度線がリングの内部で盛

り上がって等圧線と交差する状態である。この数多くあ

る渦の中には渦運動が柱状に海底にまで及んでいて,リ

ングと呼ばれるものとは異なる渦も多数存在している。

これらの渦は,その旋回運動が表層から海底までほぼ一

様でバトロピックの性質を持つものと考えられている。

本研究の対象はバロクリニックなリングに相当する冷

水渦であるが,このような渦は前述のように個々の渦が

流れに包まれた後に,切離されて出来るものとは限らな

い。ミンダナオ渦のような北赤道海流とミンダナオ海流

そして北赤道反流によって‾二方を囲まれた水域の表屑水

が反時計回りに駆動される旋回が冷水渦となることもあ

る5:I。

3 渦の力学と冷水渦のモデル

3.1 渦の基礎式

以下,海洋における中規模の渦の機構を考える。簡単

化のために非粘性流体とし,渦を円形の軸対称定常流と

する。中規模では地球自転の影響が人きいため,地球自

転の角速度Ωで回転する円筒座標系(r,∂,z)を使っ

て記述すると便利である。ただし,rは渦中心からの半

径,θは方位角,zは鉛直上向き距離を表す。さらに,半

径方向及び鉛直方向の流速成分は小さいとして,方位角

方向の流速成分のみを考える。このとき,ず径方向の運

動方程式から,渦の基礎式が次式のとおり得られる‰

fV-Wr ―(1/ρ)∂p/∂r           川

ただし,V(r)は旋回速度,p(r,z)は圧力,ρは密

度である。f=2Ωsinφ(φは緯度)はCoriotisパラメー

タであるが,本研究では渦を円形の軸対称流と仮定した

ことに対応して, 渦の内部域においてCoriolisパラメー

タは一定とし渦中心の値fc で近似する。

(1)式における左辺第1項及び第2項はそれぞれ。 回

転座標系の使用により生じた見掛けの力であるCoriolis

/力及び遠心力に相当する。佃 式は, これらの力と右辺

の水平圧力勾配力との3力による半径方向の力の釣り合

いを表している。なお,地球自転の影響が無視できるよ

うな 小 規 模 な 渦 の場 合 に は,(l)式 にお い てCoriolis 力 が

消 え, 遠心 力 と圧 力 勾 配力 が 釣 り合 うこ と に な る。 し か

し, い ま 我 々 が 考 え て い る 中 規 模 の 渦 の 場 合 に は,

Coriolis 力 が 支 配 的 で あ り, か つCorio lis.力 に 対 す る 遠

心 力 の比 (後 に 説 明 す るRossby 数 ) が 無 視 で きな い こ

とが多 い。 北 半 球 にお い てCoriolis パ ラ メ ー タ は正 で あ

るた め, 反 時 計 回 り の渦 で はCoriolis.力 が半 径方 向 外 向

きに働 き, こ れ と遠 心力 の合 力 と 釣 り合 う よ う に, 水平

圧 力 勾 配 力 は 半 径 方 向 内 向 き に 作 用 し な け れ ば な ら な

い。 し た が って, 渦 中心 で圧 力 は 低 い は ず で あ り, 北 半

球 に お ける反 時 計 回 り の渦 (冷 水 渦) は, 低気 圧 性 と い

うこ と が分 か る。 同 様 に考 え る と, 時 計 回 り の 渦 で は半

径方 向 内 向 き に 働 くC-orioLis力 か ら遠 心 力 を差 し 引 い た

内向 き の合力 と釣 り合 う よ うに , 水 平jl万力 交 配 は 半 径方

向 外 向 きに作 用 しな け れば な らな い。 し たが って, 北 半

球 に お け る時 計 回 り の 渦 (暖 水 渦 ) は, 高気圧 性 と い う

こ と が 分 か る。

一 方, 鉛 直方 向 の 運動方 程式 は, 次 式 の静 水 圧 近 似 式

とな るc

∂p/∂z= -pg                  (2)

た だ し,gは重 力 加 速 度 で あ る。(2)式 に よ って, 密 度 が

・様 と す れ ば 圧 力 は 水 深 に 比 例 し て 増 加 す る こ と に な

る。

3.2 Reduced Gravity モ デ ル

本 研 究 で は, 海 洋 に お け る中 規 模 の 渦 の中 で も, 特 に

バ ロ ク リニ ック (傾圧 的) な 渦 を対 象 とす る几 こ の場

合 に ふ さ わ し い 簡 単 な モ デ ル と し て, Reduced Cravi-

tyモ デ ルを 考 え る。 こ れ は, 海 洋 を二 層 流 体 で 近 似 し,

下 屑 は静¦卜し て上 屑 の み運 動 す る と 仮 定 す る も の で あ

る。 た だ し, 上 層 の運 動 は鉛 直 方 向 に は一 様 と す る。

い ま, 上 層 及 び下 層 の 密 度 を そ れ ぞ れ ρ及 び ρljp

(密 度 差: ∠1ρ>0 ) と す る。 さ ら に, 海 面 の鉛 直 上 向 き

変 位をη,- 二,膕 の 境 界面 の鉛 直 ド向 き変 位をぎ, 渦 外部 域

に お け る上 層 の厚 み とH と表 す。 こ の と き,

ド屑 に お い

て静 止 の 仮定 よ り 水 平方 向 の圧 力 勾 配力 を 零 と置 く こ と

に よ って, 上 層 に お け る水 平 方 向 の川 力 勾 配力 の項 は次

式 で表 さ れ る。

(1/ρ)∂p/∂r-g' dh/dr            (3)

た だし,h (「」 は 渦 内 部」域に お け る上 層 の 厚 み, つ ま り

密 度 境 界面 の深 さ を 表 し, 渦 の 深 さ と 呼 ぶ こ と に す る。

ま た,g’≡gjp/ρはReduced Gravity (有 効 重 力 加 速

度 ) と呼 ば れ る も の で あ る。

次 に,(1)式 は(3)式 に よ っ て 次 式 に変 形 さ れ る。

fV + V7r = g' dh./dr                (4)

JAMSTECR. 31 (1995)

Page 4: 海洋における冷水渦についての研究 ① · 海洋科学技術センター試験研究報告 第31号 JAMSTECR, 31 (January 1995) 海洋における冷水渦についての研究

gη(r)=g' ~(r) (7)

h(山 c+子←トRoρベ咋←(←ト1什+2恥R恥O一÷七(1叩巾

ヤO州州山(ωω仙r/仇/μr叶 ω

ただし, Roは(8)で定義されるRossby数で、あるo

02)式において渦の外縁 (r=2rm)でh=Hとおけば次

式となり,冷水渦の水温躍層に相当する密度境界面が渦

中心において渦外縁からどの程度もり上がっているか,

その高さL1hを推定することができる。

4 f} L1h三 H-hc=--Ro(1+Ro)rJ U3

3 g'

また, ω式より,最大旋回速度の半径 (r=rm)にお

ける渦の深さhmは,次式で与えられる。

(4)式は渦の深さと旋回速度の関係を示すものであるo

なお, Reduced Gravityモデルでは,以下の関係式

も成り立つ。

h(r)=H+~(r)+η(r) (5)

η(r) =~ (r) L1ρ/ρ(6)

3.3 Rossby数と内部変形半径

渦を表現する際によく使用するパラメータとして,

Rossby数と内部変形半径について説明する。

まず, Rossby数R。は無次元量であり, Coriolis力に

対する慣性力(または遠心力)の比を表す。したがっ

て,渦の最大速度をVm,その半径をrm とすれば,次式

で定義される。

Rn -v_ m ~~ r m V m ---------V fc V m fcrm

(8) hm-hc+」よァRo(8+ llRo) rm2

1(1 ."'t,; 1乙gA山司・2aa

R一(g'H)山d=一一一-7 (9)

例えば北大西洋において,湾流の南側には冷水渦(低

気圧性渦),北側に暖水渦(高気圧性渦)が数多く存在

する。これらは中規模の渦で, 湾流リング (Gulf

Stream ring) と呼ばれている。Nof(1983)に引用され

た湾流冷水リングの観測例による各値は,以下のとおり

であるO

fc=O.8 X 10-4 (S-I), g' = 1.7 X 10-2 (m/s2)

Vm=1.5 (m/s), rm=60(km), Ro=O.3125 (15)

(1日式の値を用い, 01),ω式によって推定した渦の旋

回速度分布及び深さ分布が,図 l及び図 2であるO な

お, この場合 (13),(14)式より, .dh三 H-hc=74(m),

hm-hc=404 (m)であるO

(2) ダイナミックデプスから渦の深さ分布及び旋回

速度分布を推定する例

一方,内部変形半径Rdは長さの次元を持ち, Coriolis

力と効果の内部重力の効果が釣り合うような代表的空間

スケールを表し,次式で定義される。

4 モデルの適用例

(1) 渦の旋回速度分布から渦の深さ分布を推定する

音響ドップラ一流速計 (ADCP)等の観測機器を使っ

て渦の旋回速度分布V(r)が分かつている場合に,渦の

深さ分布h(r) を推定する方法を考えてみた。 (4)式に

既知の旋回速度分布を代入し半径に関して積分すれば,

次式によって渦の深さ分布を推定することができるo

h(r)=hc+訂;(fV+V2/r)dr

ただし, hcは中心における渦の深さであるO

たとえ,最大旋回速度Vm及びその半径 rm しか分から

ないような場合でも,以下のようにして渦の深さ分布の

概形を推定することはできるo まず,渦の旋回速度分布

V (r)を放物線型と仮定し半径 rの 2次関数で近似す

るO さらに,渦の外縁半径をrm の 2倍としたうえで,

渦の中心及び外縁において旋回速度が零とすれば,その

2次関数は次式のとおり一意に決定される。

Vm 1. r ¥ V (r) =2ニ旦 rl1一一一I OD

rm -¥"" 2rm}

そこで, (11)式を(4)式に代入し半径に関して積分すれば,

(10)

J. 6

V (m/ s)

1. 2

O. 8

O. 4

-120 間 80 -4 0

~ 0 8 0 120

問 O. 4 r (I<m)

-O. 8

-!. 2

-1. 6

冷水渦の深さ分布として次式を得るo図 1 湾流冷水リングの旋回速度分布

Fig. 1 Azimuthal velocity distribution of Gulf

Stream cold core ring.

34 JAMSTECR.31 (1995)

Page 5: 海洋における冷水渦についての研究 ① · 海洋科学技術センター試験研究報告 第31号 JAMSTECR, 31 (January 1995) 海洋における冷水渦についての研究

。r (k m)

-80 -4 0 。 4 0 8 0 1 2 0

200

400

6 0 0

h-h. (m)

8 0 0

図2 湾流冷水リングの深さ分布

Fig. 2 Distribution of the interface depth profiles of Gulf Stream cold core ring.

CTD観測等によってダイナミックデプスが分かつで

いる場合に,渦の深さ分布 h(r)及び旋回速度分布

V(r)を推定する方法を考えてみた。

ダイナミックデプスDは次式で定義される。

D-f: gaz=一 f:gaZ (16)

ただし, Zはジオイドからの上向き鉛直座標, z=ηは海

買のもり 上がりである。 (2)式と同じ形の静水圧近似式

を用いると, (16)式より半径方向の圧力勾配力は次式で

表される。

(1/,ρ)δp/δr=δD/ar (1司

よって, (1), (4)及び間式より,渦のReducedGravi-

tyモデルに対して以下の関係式が得られる O

g' dh/dr=θD/θr (18)

fV +V2/r=δD/δr (19)

さらに, (18), (19)式より,低気圧性渦の深さ分布及び

旋回速度分布を以下のとおり推定することができる。

h (r) -hc= (D (r) -Dc)/gハ 位。

vω =す[-Ir+{Clr)2+4raD/art2] (2n

ただし, (20)式中のconst.は積分定数である O この方法

は,湾流リング等の孤立した渦のみならず,黒潮蛇行時

の大冷水渦やミンダナオ渦のような海流に接し閉まれた

JAMSTECR. 31 (1995)

型の渦にも適用が可能であると思われる。これに関して

は,別の機械に詳述する予定であるO

5 まとめ

本研究では,海洋における渦を概観することから考察

を始め,中規模の冷水渦(バロクリニックな低気圧性

渦)のモデル化を行った。 ReducedGravityモデルを

用い,渦の旋回速度分布を放物線型で近似したうえで,

渦の深さ分布等の推定を行った。本モデ、ルは種々の渦に

適用し得るものであるが,特にパロクリニックな渦が多

いと言われている湾流冷水リングの観測資料に対して適

用した。

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(原稿受理 :1994年 8月3日〉

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