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31 第3章 経済的虐待 経済的虐待 経済的虐待 経済的虐待への への への への対応及 対応及 対応及 対応及び防止 防止 防止 防止への への への への取組事例 取組事例 取組事例 取組事例

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第3章 経済的虐待への対応及び防止への取組事例

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第第第第3333章章章章 経済的虐待経済的虐待経済的虐待経済的虐待へのへのへのへの対応及対応及対応及対応及びびびび防止防止防止防止へのへのへのへの取組事例取組事例取組事例取組事例

<概要> 経済的虐待に係る具体的な対応事例や経済的虐待を防止するための取組事例を題材に,経済的虐待が発生した場合の対応のあり方や経済的虐待を防止するための取組みを紹介します。 <第3章の構成> 1 経済的虐待に係る具体的な対応事例 各事例は『事例編』と『解説編』で構成しています。『事例編』では,被虐待者・虐待者・虐待者との関係,発見の経緯,支援の内容,支援後の経過など,事例を考えるにあたっての関連情報を示しています。また『解説編』では,『事例編』で示された内容について,考察と評価を行い,対応のヒントをまとめました。 (1)娘による虐待を他の親族との協力で解決した事例 (2)医療費の滞納から経済的虐待が発覚した事例 (3)関係者が協力し債務整理に関する支援を行った事例 (4)医療機関や警察との連携により対処した事例 (5)緊急一時保護による安全確保を行いながら解決した事例 (6)母親の財産を搾取する息子に虐待の認識がなかった事例 2 虐待防止のための取組実践事例の紹介 (1)消費生活センターと合同研修会の開催に取り組んでいる事例 (2)認知症サポーターを養成し,金融機関との連携に取り組んだ事例 3 やむを得ない事由による措置に関する説明 ※ 対応事例は,実際の事例を参考に加工したものです。そのため,事例中に登場するのは実在の人物・団体・虐待事案等ではありません。

★事例から学ぶ 実施方法やアイデア,ヒントが わかる

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第3章 経済的虐待への対応及び防止への取組事例

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【事例編】対応事例① <被虐待者(Aさん)の状況> ①年齢・性別:90代・女性 ②要介護度等:未申請 ③生 活 状 況:賃貸アパートの2階に単身で居住。歩行が困難なため,外出を嫌っていた。友人付き合いをしていた隣部屋の住人が長期入院してからは,話し相手もおらず,閉じこもり傾向にある。子供は2人おり,長男は市外,長女は市内に居住している。 <虐待者(長女)の状況> ①年齢・性別:40代・女性 ②職 業:パート ③生 活 状 況:同一市内に居住する単身世帯。近所のスーパーでパート就労している。以前,経営していた雑貨店倒産時の負債の返済に苦しんでいる。長女の娘(Aさんの孫)は,就職を期に同市内で一人暮らしを始め,介護職に従事している。 <虐待者との関係> 長女の雑貨店の開店資金の捻出のため,Aさんが持ち家を売却して融通した経緯があり,それ以降も,金銭面で長女がAさんを頼る傾向にあった。Aさんも,薬や食材等を届けてくれる長女を全面的に頼るなど,共依存状態であった。 ●発見の契機 孫から地域包括支援センターに対して,「自分の母親が祖母に経済的虐待を行っている。具体的には,母親が祖母の年金振込通帳を不当に管理し,祖母に生活費を渡さない状態が続いている。」と通報がなされた。 ●事実確認の方法及び結果 通報のあった翌日,孫に同席を求め,Aさん宅を訪問。Aさんから虐待の状況を確認後,金融機関へも同行し,次の事実が判明した。 ① 5年前より,長女に年金の管理を依頼。1年位前からは最低限の食材や日常生活雑貨を 買ってくるだけで,金銭は渡してくれなくなった。最近では,食材すら持参していない。そのため,孫が代わりに購入し週1回のペースで持参していたが,それも長女が持って帰るようになった。家賃の滞納,ガス代の滞納による停止,電話代の滞納などもあったが,孫がそれに気付くたびに,返済し,復旧手続きを行ってきた。 ② 2か月前に,長女がAさんの年金の一部を担保に金融機関から借入れを行っており,以降,Aさんの年金が減額されていた。

対対対対対対対対応応応応応応応応事事事事事事事事例例例例例例例例①①①①①①①① 娘娘娘娘娘娘娘娘にににににににによよよよよよよよるるるるるるるる虐虐虐虐虐虐虐虐待待待待待待待待をををををををを他他他他他他他他のののののののの親親親親親親親親族族族族族族族族ととととととととのののののののの協協協協協協協協力力力力力力力力でででででででで解解解解解解解解決決決決決決決決ししししししししたたたたたたたた事事事事事事事事例例例例例例例例 ★事例の概要 単身生活を送る母親の年金振込通帳を管理していた長女が,その年金を自分自身の借金返済や生活費に使い込んでおり,母親に必要な金銭が渡っていない状態であった。 孫の通報によりこの事実が判明し,長女から通帳を返還させ,孫が新たに通帳管理を行うことになったが,長女が孫に再三に亘って通帳の引き渡しを求めたため,他市に居住する長男を介入させ,事態の収拾を図った。

発見の経緯

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第3章 経済的虐待への対応及び防止への取組事例

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【事例編】対応事例① 長女が管理している年金振込通帳に関しては,Aさんや孫とともに金融機関を訪れ,通帳の紛失届に準じた再発行手続きを行う。その通帳は,当面,孫が管理することとした。 なお,年金は確保したものの,一部担保によって半分程度まで減額されており,Aさんの年金収入のみでは生活維持が困難と認められたため,地域包括支援センターが孫とともに福祉事務所へ生活保護申請に係る相談。しかし,3年前にも年金担保を理由とした生活保護申請がなされ,年金が満額支給されるまでの1年間,生活保護を受給していたことが判明した。 本来,過去に年金担保によって生活保護を受給していた者から再度の借入を理由とした保護申請がなされた場合,原則として生活保護は適用できないため,地域包括支援センターがAさんと長女の間に発生した経済的虐待の実態を説明。福祉事務所としても長女宅を地域包括支援センターと同行訪問し,調査した結果,真にやむを得ない状況であったと認め,Aさんの保護開始が決定した。なお,生活保護費は口座払いにしてもらい,年金振込通帳と同じ口座とした。 また,Aさんが希望する在宅生活を維持するうえで,孫の負担の軽減を図る必要があり,要介護認定の申請を助言。孫が行う手続きを地域包括支援センターが支援した。また,Aさんのかかりつけ医に地域包括支援センターが訪問し,Aさん宅への往診について調整を行った。 Aさんが要支援2となり,かかりつけ医の往診日に併せて,Aさん宅で地域包括支援センター・孫・主治医・民生委員・介護サービス事業所を構成メンバーにカンファレンスを実施。福祉用具貸与(福祉ベッド),訪問介護,訪問看護を利用することとなった。孫は,引き続きAさんの日常生活支援や通帳管理を行うことで調整された。 しばらくして,孫から地域包括支援センターに対し,「母親(長女)がAさんの年金振込通帳を渡すよう再三要求してくる。困っている。」と相談があり,孫も同席したケア会議を開催。他市に居住するAさんの長男に対しては,長女も強く言えない性格であることを踏まえ,長男に年金振込通帳の管理を依頼することとした。 長男へは地域包括支援センターから連絡し,カンファレンスへの参加を求めた。翌日,Aさん宅に地域包括支援センター,孫,長男,金融機関,福祉事務所ケースワーカーが集まり,対応を協議。次の方針を決定した。 ○ 年金振込通帳は長男が預かる。ただし,キャッシュカードは孫が引き続き所持し,Aさんの生活費として管理する。 ○ 長女からのアプローチに対しては,「金銭管理は長男が行っており,孫は関与していない」と回答することで関係者と意思統一した。 その後,Aさんは要介護5となり,平日は訪問介護と訪問看護を利用し,休日は長男夫婦と孫の訪問で生活維持することとなった。 Aさんは介護サービスと長男や孫の献身的な支援により在宅生活を維持していたが,肺炎が悪化し,入院。その後,特別養護老人ホームへ入所となった。 長女は,長男が介入したことで,Aさんや孫と接触することは無くなった。Aさんとの面会も,長男が同席する以外は禁止されている。地域包括支援センターから長女に対し,債務整理に関する関係機関等を紹介したが,長女にその意向はなく,その考え方を変えるまでの関わりには至らなかった。

支援の内容

支援後の経過

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第3章 経済的虐待への対応及び防止への取組事例

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【解説編】対応事例① 虐待事例①:解説と防止・対応のポイント 虐待事例①は,通帳管理者を長女から孫に変更しましたが,長女が自分の娘に対して,母親の通帳を引き渡すようしつこく要求しています。そのため,これまであまり関与がなかった市外に居住する長男に介入を求め,その結果,長女の不当な要求を退けることができました。又,介入以降は長男夫婦が定期的に母親宅を訪ねてくれるなどのきっかけにもつながっています。 ■虐待の背景として考えられる要因

� 他者とのかかわりの少ない閉じこもりの生活 � 長女の経済的な困窮 � 閉鎖的かつ依存的な長女との人間関係

■支援の効果について ○ 通報のあった翌日という早いタイミングで地域包括支援センターが訪問を行い,状況把握を行った効果は大きいといえます。通報受付後の初回訪問を早期に行うことは,被虐待者の安全や財産の確保のために重要な対応であり,また,通報者の不安の解消,通報者と支援者の関係づくりのための効果も高くなります。通報後の放置は,通報者に不安を与えると同時に,支援者に対する不信感を持たせることにつながります。 また,今回の事例のように,親族からの通報・相談の場合,高齢者や養護者とどのような関係にある親族なのかによって,支援の方向性が変わってくることがあります。事実の確認を基本として,プライバシーを守りつつ,できるだけ詳しい状況を把握するよう心掛けることが大切です。 ○ 本事例にあるように,介護保険,生活保護の利用調整,金融機関への通帳の再発行手続等の金銭管理の体制づくりは,被虐待者に対する具体的な支援として活用されることが多いですが,本人の意思確認は当然のこと,キーパーソン(この事例では孫)の意向を踏まえ,情報共有しながら,確実にこれらの支援を進めていくことが重要です。 ○ 家族や親族からの虐待通報は,通報者等の特定の人物に大きな負担がかかるケースも多いといえます。本事例では虐待者である長女から通報者である孫に対して,通帳の引き渡しを再三,要求する行為が見受けられました。 これに対して,「金銭管理は長男が行っており,孫は関与していない。」と回答するようカンファレンスを通じて,関係者で意思統一を図り,孫の負担を軽減したうえで,その立場も守っています。このような対応は非常に重要といえます。

虐待が起こった背景と支援の効果 対応事例対応事例対応事例対応事例①①①①にににに学学学学ぶぶぶぶ((((考察考察考察考察とととと評価評価評価評価))))

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第3章 経済的虐待への対応及び防止への取組事例

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【解説編】対応事例① ◆ 本人の意思やこれまでの人間関係等にもよりますが,本事例では,他市に居住していた長男の介入を調整し,最終的に家族,親族を中心とした支援体制を作り上げていったことに着目することができます。 金銭管理について,その対応策の一つとして「かけはし」等の社会資源を活用する方法も考えられますが,今後,生じる新たな課題への対応や,親族間の関係修復を考え,可能であれば今回のような家族・親族を中心とした支援体制を検討することも大切です。(状況によっては外部サービスを随時導入していくことも忘れてはいけません。) ただし,親族を中心とした金銭管理体制を支援する場合は,本事例にあるように,「①通帳の管理は長男,②キャッシュカードの管理は孫が担当」するといったように,役割を分けることや,担当を複数名にする等,「誤り」や「不正」を起こさないための,相互チェックの仕組みを作ることも検討する必要があります。また,役割を分散することで,キーパーソンなどの支援者の負担の軽減を図る効果も期待できます。 ◆ 地域包括支援センターは,長女に対して債務整理に関する関係機関を紹介している点も必要な支援にあたります。虐待の要因となっていた長女の経済的困窮や多額の負債などの様々な問題を一つずつ解決しながら,生活の安定化を図ることで,虐待によって双方とも傷ついた家族関係の回復を目指しています。 虐待者との信頼関係も含め,支援において深いかかわりが難しい場面も多いと考えられますが,他の関係機関等の協力も得ながら継続的にかかわりを続けていける関係性が求められます。

◆◆◆◆年金担保貸付年金担保貸付年金担保貸付年金担保貸付とととと生活保護制度生活保護制度生活保護制度生活保護制度 本来,「過去に年金担保貸付を利用するとともに生活保護を受給していたことがある者が再度借入をし,保護申請を行う場合には,資産活用の要件を満たさないものと解し,それを理由として,原則として,保護の実施機関は生活保護を適用しないこととする。」とありますが,今回の事例では,生活保護を受けることが出来ました。 生活保護の適用の判断は,福祉事務所が申請者個々の状況から「急迫状況にあるか」や「保護受給前に年金担保貸付を利用したことについて,社会通念上,真にやむを得ない状態にあったか」を勘案したうえで行うことになりますが,今回の事例は,Aさんの意思に反して行なわれた長女による経済的虐待(年金担保貸付)であった背景が考慮されています。 「生活保護行政を適正に運営するための手引について」 (平成 18 年 3 月 30 日付け社援保発第 0330001 号厚生労働省社会・援護局保護課長通知)

考察とまとめ

親族の協力を交えた支援体制の検討 親族の協力を交えたチームアプローチ, 年金担保と生活保護,地域包括支援センター

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第3章 経済的虐待への対応及び防止への取組事例

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【事例編】対応事例② <被虐待者(Bさん)の状況> ①年齢・性別:70代・男性 ②心身の状況:要介護4で認知症日常生活自立度はⅢ ③生 活 状 況:妻が死亡してからは単身世帯。脳梗塞によって1年前より医療機関に入院してい る。子供は2人であり,長男は県外,長女は市内に居住している。兄弟は6人い るが,いずれの兄弟とも音信不通であり,所在不明。 <虐待者(長女)の状況> ①年齢・性別:50代・女性 ②職 業:無職 ③生 活 状 況:同一市内に居住し単身世帯。Bさんが医療機関へ入院した頃からBさんの年金振 込通帳を管理するようになった。300万円近くの負債があり,毎月の返済に追 われている。長女の娘(Bさんの孫)が同市内に居住している。 <虐待者との関係> Bさんが在宅生活をしていた際も,特段の支援は行っていなかった。Bさんの入院を契機に年金振込通帳を管理することとなったが,入院医療費は最初の頃しかきちんと支払われていない。長女はほとんど病院のBさんを訪ねることはなく,孫が長女に代わって,毎週見舞いに医療機関を訪ねてくれていた。 ●発見の契機 ●発見の契機 Bさんの年金振込通帳を長女が管理していたが,ここ数ヶ月は医療機関の入院医療費が未納となっていた。病院として何度か長女に督促を行ってきたが,その都度,「すぐに支払う。」と返答はするものの支払いはなされていない。その後,しばらく音信不通の状態が続いていたが,やっと連絡がつき,説明を求めたところ,Bさんの年金を自己の借金返済等に充ててきたため,お金は残っておらず,支払いは難しいと告白した。 ●事実確認の方法及び結果 医療ソーシャルワーカーが長女を伴って地域包括支援センターを訪問。その際,長女自らが「父親の年金を自分の借金返済に使っていた。」と発言し,同席していた医療機関の職員の説明で,入院医療費が数十万円滞納になっていることが明らかとなった。

対対対対対対対対応応応応応応応応事事事事事事事事例例例例例例例例②②②②②②②② 医医医医医医医医療療療療療療療療費費費費費費費費のののののののの滞滞滞滞滞滞滞滞納納納納納納納納かかかかかかかからららららららら経経経経経経経経済済済済済済済済的的的的的的的的虐虐虐虐虐虐虐虐待待待待待待待待がががががががが発発発発発発発発覚覚覚覚覚覚覚覚ししししししししたたたたたたたた事事事事事事事事例例例例例例例例 ★事例の概要 医療機関の医療ソーシャルワーカーから「Bさんの入院医療費が未納になっている。Bさんの年金振込通帳は長女が管理しているが,支払ってくれない。」という相談が地域包括支援センターにあった。 相談を受けた地域包括支援センターが事実確認を行った結果,Bさんの年金振込通帳を預かっている長女が,Bさんの年金を自分の借金返済や生活費に宛てており,Bさんの入院医療費が10ヶ月近く支払われていない事実が明らかとなった。

発見の経緯

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第3章 経済的虐待への対応及び防止への取組事例

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【事例編】対応事例② 医療ソーシャルワーカーを介して,地域包括支援センターが孫へ連絡。地域包括支援センター,医療機関及び孫でケース会議を開催し,孫が通帳管理を引き継ぐことに同意してくれた。過去の滞納分や各種手続きについては,地域包括支援センターが孫を支援することを決定。 しかし,孫からの通帳の返還の求めに対して,長女は一切応じてくれないため,大喧嘩になったと連絡があった。そのため,地域包括支援センターが長女宅を訪問し,説得を行うとともに,年金振込口座の変更手続きの準備を水面下で始めた。翌日には,高齢者虐待所管課の職員も同席し,粘り強く説得した結果,Bさんの年金振込通帳が孫に一旦手渡されたが,孫はこれ以上の親子関係のもつれを懸念し,通帳管理を敬遠した。 今後の対応については,Bさんの入院する医療機関において,医療ソーシャルワーカーとBさん,孫,社会福祉協議会及び地域包括支援センターを構成メンバーに検討し,次の方針を決定した。 ○ 社会福祉協議会の日常生活自立支援事業かけはしを利用し,長女から返還された年金振込通帳や印鑑の管理,今後の入院医療費等の支払いを同事業で行う。 ○ 滞納となっている介護保険料や租税の滞納額を確認し,分割納付の調整を行う。 ○ 身体障害者手帳の申請手続きを行い,等級によっては,重度心身障害者医療費公費負担制度の活用による医療費負担の軽減を図る。 Bさん了解のもと日常生活自立支援事業かけはしの契約手続きを進めるとともに,身体障害者手帳申請を行った。介護保険料の滞納はおよそ半年分と判明し,分割納付していくことで調整。これらの実質的な手続きは孫が行い,地域包括支援センターがそれを支援した。 その頃,長女が入院中のBさんを見舞い,過去の経緯を謝罪した。長女に反省の色が強く,今までは借金取りに追われて身を隠していたが,今後は働いて,少しでも過去の入院医療費を返していくと話してくれた。 身体障害者手帳は2級となり,重度心身障害者医療費公費負担制度を利用することとなった。また,過去の租税等に係る滞納分は,日常生活自立支援事業かけはしによる生活費の管理を通して清算した。医療機関の入院費滞納分も,長女が半分程度返済したため,残額をBさんの生活費の遣り繰りで清算することができた。 その後,Bさんに入院加療の必要性が無くなったため,特別養護老人ホームに入所し,今後の通帳管理や利用料の支払いは施設が対応することになった。 長女は,Bさんに謝罪後は約束どおり就職し,当初は医療機関への過去の滞納分が支払われていたが,就労先を解雇され,支払いが中断。その後,長女を交えたケース会議を開催したが,長女自身の借金を返済する目処がつかないことや借金の取り立てに苦しんでいることを告白したため,市の無料法律相談の利用を紹介した。 現在は,自己破産に向けた手続きを行っている。

支援の内容

支援後の経過

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第3章 経済的虐待への対応及び防止への取組事例

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【解説編】対応事例② 虐待事例②:解説と防止・対応のポイント 虐待事例②は,父親の年金を管理していた長女が,自分の借金返済のために父親の入院医療費を滞納していました。そのため,医療ソーシャルワーカーを通して,長女による経済的虐待が発覚し,日常生活自立支援事業の活用や身体障害者手帳申請等の対応を行っています。 この事例のように,介護サービスや入院費の未納から経済的虐待が発覚するケースは非常に多いと言えます。 ■虐待の背景として考えられる要因

� 長女の経済的困窮 � 被虐待者の認知症など

■支援の効果 ○ 本事例は,医療費の滞納から経済的な虐待を発覚した事例であり,「虐待」に対する基本的理解が地域で幅広く求められることを再認識させられる事例といえます。 ○ 虐待者である長女をねばり強く説得し,長女から一定の理解を得た上で,Bさんの通帳を取り戻せたことは,今後の対応を円滑に行ううえで非常に有効だったといえます。 緊急措置として,長女への説明なしに,年金振込口座の変更や通帳口座の停止も対応方法として考えることができたと思われますが,通帳を管理している長女に説明も理解も一切ないままに,変更や停止等の手続きを行えば,さらに大きなトラブルを生じさせ,支援者との関係を完全に壊してしまう危険性もあります。 緊急性や虐待者の状況等を踏まえて,慎重な判断を行いながら,虐待者に対しても必要な説明がなされるような配慮が求められます。 ○ 関係者の会議では,「かけはし」の利用に加え,滞納となっている介護保険料や租税の分割納付の手続きや重度心身障害者医療費公費負担制度の活用について方針が決定されています。ケース援助に直接かかわる担当者が集まり,高齢者や家庭の状況を整理し,問題となっている事項を明確にしたうえで情報を共有し,かかわりの方向性を統一することは,支援方針の検討を行ううえで,非常に重要です。なお,支援方針の決定にあたっては,高齢者本人の意思を尊重することが求められます。 ○ 長女が父親を見舞い,反省と謝罪をしたうえで仕事に就き,半分ではありますが医療費の滞納分は返済されたのは,支援者の適切な援助の導きであり,虐待者と被虐待者の「隔離」や「分離」の対応だけでは難しい親子関係の改善のきっかけを作れたことの意義は大きいといえます。現在は解雇され,自己破産の手続き中であるという状況ではありますが,今後の親子関係の改善にも期待が持てます。

対応事例対応事例対応事例対応事例②②②②にににに学学学学ぶぶぶぶ((((考察考察考察考察とととと評価評価評価評価))))

虐待が起こった背景と支援の効果

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第3章 経済的虐待への対応及び防止への取組事例

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【解説編】対応事例② ◆ この事例では,単に被虐待者の金銭管理と滞納対策だけにとどまらず,虐待者に対して,法律相談等,再発防止に向けた虐待者の生活設計に踏み込んだきめ細かい支援が行なわれており,成功したケースといえます。 経済的虐待にかかる事案は,その背景に複雑な要因(借金,交遊,アルコール等)が交錯しており,単に金銭管理だけという表面的な対応では解決しないという特徴があります。 事例では,関係機関がキーパーソンとなる孫を支援することにより,被虐待者であるBさんへの当面の支援(介護保険料・租税の分割納付,重度心身障害者医療費公費負担制度の利用など)を行いました。 一方,虐待者である長女に対しては,借金が多く,また就労状況も不安定だったことから,就労などの支援が不可欠でした。長女はいったん就職するも解雇されたため,彼女を含む関係者によるケース会議を開催し,市の無料法律相談を活用し,自己破産に向けた手続きを行うことになっています。 こうしたことから,被虐待者・虐待者に対して,それぞれ固有の対応が必要なため,関係の専門機関が緊密に連携することの重要性を指摘することができます。 また,虐待相談を受ける担当者の専門性と的確な調整機能が問われることから,自治体における人材育成と,虐待防止ネットワークなどの組織の確立と機能強化が重要となってきます。高齢者虐待の防止や早期発見,高齢者や養護者への適切な支援を行うためには,関係機関や団体との連携協力体制の整備は必要不可欠な取組となります。 さらに,再発防止の取組みとして支援後のモニタリングと事例の検証が大切なポイントとなってきます。支援が開始された後も,地域包括支援センターが中心となり,関係機関や関係者から情報を集約し,事例の状態変動について確認(モニタリング)し,有効な支援のポイントやその後の支援方針の修正に生かします。また,モニタリングの過程で急激な状況の変化や当初の支援方針では改善が見られない等のことが明らかになってきた場合は,再アセスメントし,支援方針の修正が必要となります。

考察とまとめ

◆◆◆◆重度心身障害者医療費公費負担制度重度心身障害者医療費公費負担制度重度心身障害者医療費公費負担制度重度心身障害者医療費公費負担制度 重度心身障害者が,医療機関で医療を受けた場合の自己負担相当額(入院時の食事に係る標準負担相当額を除く。)を公費で負担する制度です。 《対象》 県内に居住し,身体障害者手帳 1,2,3級の交付を受けている方又は療育手帳○A,A,○Bの交付を受けている方 《費用負担等》 所得による支給制限があります。なお,一部負担金については,1 医療機関ごとに 1日 200 円(通院:月 4日まで,入院:月 14日まで) ※ 一部負担金及び後期高齢者医療制度非加入の公費負担については,市町によって異なる場合があります。

養護者(虐待者)の支援による関係改善を図る 医療費の滞納,日常生活自立支援事業(かけはし),虐待者の支援と関係改善,地域包括支援センター

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第3章 経済的虐待への対応及び防止への取組事例

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【事例編】対応事例③ <被虐待者(Cさん)の状況> ①年齢・性別:70代・男性 ②要介護度等:要支援2 ③生 活 状 況:息子と2人暮らし。収入は年金のみで月額22万円。糖尿病網膜症により視力障害1級の身体障害者手帳を所持している。また,糖尿病腎症により月2回医療機関へ受診中。子供は1人。兄弟は2人おり,姉が隣市,弟が県外に居住している。 <虐待者(息子)の状況> ①年齢・性別:40代・男性 ②職 業:無職 ③生 活 状 況:レストランで調理師として就職し一人暮らしをしてきたが,金銭トラブルにより 5年前に解雇。以降,Cさんと同居している。ギャンブル癖があり,数社の消費 者金融に多額の負債が残っている。健康状態は概ね良好であるが,求職活動は行 っていない。 <虐待者との関係> Cさんは,視力障害により通帳管理が出来ないため,息子に年金振込通帳の管理を任せていた。また,買物や調理,通院時の付き添いなど在宅生活の面で息子を頼りきっている。一方,息子も無収入のため,Cさんの年金を当てにするなど,いわゆる共依存状態であった。 ●発見の契機 隣市に居住するCさんの姉より,「Cさんの年金を甥(息子)がギャンブルに使い込んでおり,公共料金の支払いが滞っている。そのことが分かるたびに資金援助してきたが,もう限界になった。」と地域包括支援センターに相談があった。 ●事実確認の方法及び結果 相談のあった翌日,姉が同席のうえ,地域包括支援センターと民生委員がCさん宅を訪問。Cさんと息子からそれぞれ状況確認を行ったのち,息子が所持していたCさんの通帳残高を確認した。Cさんが息子から聞かされていた預金残高は百数十万円であったが,実際はマイナスになっており,家賃や公共料金は引き落とし不能による滞納状態。 また,ポストには,契約した覚えの無い借金の督促状が,Cさん名義で消費者金融から送られていた。この借り入れは,日々のギャンブル資金や自分の借金返済の一部に充てるために,Cさんに無断で行ったと息子が打ち明けた。

対対対対対対対対応応応応応応応応事事事事事事事事例例例例例例例例③③③③③③③③ 関関関関関関関関係係係係係係係係者者者者者者者者がががががががが協協協協協協協協力力力力力力力力しししししししし債債債債債債債債務務務務務務務務整整整整整整整整理理理理理理理理にににににににに関関関関関関関関すすすすすすすするるるるるるるる支支支支支支支支援援援援援援援援をををををををを行行行行行行行行っっっっっっっったたたたたたたた事事事事事事事事例例例例例例例例 ★事例の概要 「同居する息子が父親の年金をギャンブルに費消し,ライフラインに影響が生じている。」と隣市に居住する姉より地域包括支援センターに相談があった。 事実確認の結果,息子が父親の年金や預貯金をギャンブルで使い込んだため,家賃や公共料金が数ヶ月に渡って滞納になっていたうえ,父親に無断で消費者金融から父親名義の借り入れがあることが判明した。また,息子自身にも多重債務が認められている。

発見の経緯

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第3章 経済的虐待への対応及び防止への取組事例

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【事例編】対応事例③ 事実確認当日,息子にこれまでどおりCさんの通帳管理を任せるのは不可能と判断。姉と民生委員で今後の通帳管理について話し合いを行った。姉自身は市外に居住しているため,通帳を預かっても,定期的にCさん宅を訪れることは出来ないと説明。そのため,社会福祉福祉協議会の日常生活自立支援事業かけはしを利用する方針とした。当初,Cさんは息子を庇う素振りをみせ,「そこまでする必要があるのか。」といった発言もあったが,最終的に姉の説得により,かけはしを利用する決意をした。第三者の介入が方針として決まったためか,Cさんは「息子のギャンブルによる不明な支出があることに薄々気付いていたが,他に頼る者がいなかったため,それを注意することができなかった。」と本音を語った。 翌日,地域包括支援センターが社会福祉協議会の専門員とともに,Cさん宅を訪問。かけはしに関する説明と今後の手続き,必要な支援の調整を行った。 また,Cさん宅に宿泊していたため同席していた姉が,通帳マイナス部分と家賃・公共料金の滞納分並びに次回年金支給日までの生活費を援助すると申し出てくれた。 併せて,訪問介護を利用することも決定した。 社会福祉協議会の専門員の数回の訪問を経て,かけはしの利用契約を締結。通帳と印鑑を預けるとともに,生活費については社会福祉協議会の生活支援員が月2回訪問し,それぞれ2週間分の生活費を手渡すことになった。Cさんは,その生活費から必要に応じて,息子に渡し,食材購入等を依頼している。 Cさん名義の負債については,完済間際であったことがわかり,その対応をクレジット問題支援団体に相談。その際,借入期間や借入利率などから過払い金が発生している可能性があることを助言され,クレジット問題支援団体の協力弁護士による支援により,取引履歴の開示請求を消費者金融に行ったところ,過払い金の存在が判明。直ちに過払い金返還請求を行い,Cさんに過払い金が返還された。 また,息子の債務についても,同様の手続きを行った。これら一連の手続きには,姉が積極的に関与してくれている。 Cさん宅には週1回ホームヘルパーが訪問するうえ,民生委員も定期的に見守りを行っている。Cさんは,生活支援員から手渡される現金を,食材購入に必要な金額だけ息子に手渡しているため,息子がCさんの財産をギャンブル等に流用することはできなくなった。息子による調理や通院時の付き添い支援は続いている。 息子に返還された過払い金の大半はギャンブルによって費消されてしまったが,Cさんや姉の説得もあり,残額は就職活動のための交通費に使用することとなった。民生委員の斡旋もあって夜間営業のレストランに週3回アルバイトすることになったが,数日で離職。現在も就職には至っていない。

支援の内容

支援後の経過

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第3章 経済的虐待への対応及び防止への取組事例

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【解説編】対応事例③ 虐待事例③:解説と防止・対応のポイント 虐待事例③は,視力障害により通帳管理が困難であった父親に代わって金銭管理を担っていた息子が,父親の年金や預貯金を不当に費消した結果,当面の生活費やライフラインに影響が生じる状態にまで至ったケースです。この事例では,父親と息子を分離せず,介護サービスの利用や債務整理,養護者支援による対応を行いました。 ■虐待の背景として考えられる要因

� 本人の身体能力の低下(視力障害) � 長男の失業と経済力の低下 � 閉鎖的な人間関係

■支援の効果 ○ 子供からの虐待を受けるケースの場合,親である被虐待者が子供を庇い,事実の把握ができない場合や「かけはし」等のサービス利用を拒む例も考えられます。 このようなケースでは被虐待者に対して影響力の強い,親族や民生委員の協力を求め,必要なサービスを利用するよう説得に努めることも検討する必要があります。 総じて言えることでありますが,支援者側が解決策(外部サービス等)の導入を急ぎすぎると,虐待者,被虐待者等から,これを拒まれることも多くなります。時間を掛けて,地域の社会資源に関する情報を正しく伝えるとともに,支援者との関係づくりを丁寧に行うことが重要となってきます。 高齢者虐待の問題を根本的に解決するためには,支援する側が養護者を含む家族全体を支援するという視点に立ち,まず養護者との信頼関係を確立するように努める必要があります。 ○ 高齢者虐待への対応では,複雑な問題に直面することから,多面的に情報収集を行い,客観的に事実を把握したうえで,関係者で対応方針と役割分担について検討し,チームで支援を行うことになります。そのためには,ケースの情報や対応方針を共有し,協力して支援することが必要となります。また,その過程においては,各関係機関・関係者の専門性や役割を明確化し,できることとできないこと(活動の限界)を認識し,互いの役割をカバーし合うことでネットワークが有効に機能することになります。 今回,大きな役割を果たしたキーパーソンの姉が,できること(資金援助)とできないこと(金銭管理)を明確に意思表示した結果,他の関係機関がそれらをカバーする形で効果的な支援に繋げることができました。 ○ 本人と息子の過払い請求等の債務整理を姉の協力を得ながら進めたことにより,生活を再出発させる基盤となっています。多重債務のケースの場合,弁護士や司法書士,関係団体等の協力を得て,債務整理を積極的に進めることが望まれます。

対応事例対応事例対応事例対応事例③③③③にににに学学学学ぶぶぶぶ((((考察考察考察考察とととと評価評価評価評価))))

虐待が起こった背景と支援の効果

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第3章 経済的虐待への対応及び防止への取組事例

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【解説編】対応事例③ ◆ 最終的に訪問介護や民生委員の見守り,「かけはし」利用により暮らしを支え,現在も息子による調理や通院の付き添いも行われている点に注目することができます。今後,親子関係を良好なものにしていくためにも,息子による支援が継続できるよう十分に配慮しながら,適切な量の介護サービスを導入していくことが求められます。過剰な介護サービス(訪問介護等)の導入は,家族による支援体制や,結びつきの力を低下させることもあるので注意が必要と思われます。 高齢者虐待の場合,本人が虐待を受けていても,親族との関係を断ち切ってしまうことに躊躇を感じていることも少なくありませんし,長い間の家族関係の中で培われた特別な思いもあるので,単に関係を断ち切ることのみによってでは,問題は解決しません。 今回の事例のように同居する家族の結びつきを低下させることなく,在宅サービスの利用によって介護者の負担を軽減しながら,安定した在宅生活が継続できるよう支援していくことも大切です。 ◆ 仕事の継続には至りませんでしたが,民生委員による息子の就職の紹介等が行われている点は非常に重要といえます。 経済的虐待は虐待者の経済力の低下,金銭トラブルと関係する場合が多く,虐待者の経済的自立は重要な支援となります。 今回の事例では,息子の負債額や毎月の返済額,また借金を作った原因等の事情を考慮しながら,どのような手続きをとるべきか検討を重ねてきました。まず,負債を整理することで,多額の返済に悩まされることなく,生活の建て直しを図ることを目的としています。 また,今後の息子の自立支援のためには,父親の年金をあてにせず,最低限の収入をいかに確保するかという問題もありました。幸いにも,息子には稼働能力や就労意欲も見受けられたため,民生委員等が中心となった就職支援により,就労による自立を促していく方向で支援が続けられています。

考察とまとめ

◆◆◆◆取引履歴取引履歴取引履歴取引履歴のののの開示請求開示請求開示請求開示請求とととと過払過払過払過払いいいい請求請求請求請求 消費者金融によっては,利息制限法に定める上限利率を超えた金利で取引することがあり,これを利息制限法で定める利率に引き直し計算を行うことによって,不当に支払っていた利息分が元本へ充当され,返済額が減額されることがあります。さらに,取引内容や取引期間によっては,元本を既に支払い終わっており,『過払い』の状態であることがあります。この過払い部分の返還を求める手続きが過払い返還請求となります。 取引履歴の開示請求は,今までどのような利率で,これまでにどのくらい支払っているのかを照会する手続きであり,過払いが発生するかどうかは,消費者金融が開示した取引履歴をもとにして,利息制限法により引き直し計算を行うことによって判断することができます。

債務整理による生活再建の検討 家族の浪費,日常生活自立支援事業(かけはし),債務整理,民生委員,地域包括支援センター

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第3章 経済的虐待への対応及び防止への取組事例

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【事例編】対応事例④ <被虐待者(Dさん)の状況> ①年齢・性別:60代・女性 ②要介護度等:未申請 ③生 活 状 況:1年前に夫が死去してからは単身世帯。痩せており,体調は優れないものの医療機関への受診は無かった。子供が3人おり長男は市内,長女は隣市,次女は県外に居住している。普段は長男夫妻が経営する飲食店の仕込みを手伝って生活。 <虐待者(長男)の状況> ①年齢・性別:40代・男性 ②職 業:飲食店経営 ③生 活 状 況:妻との二人暮らしであり,Dさん宅から3km離れた場所で自宅兼店舗の飲食店 を経営している。Dさんの夫が死去し単身生活となった頃からDさんの年金振込 通帳を預かることとなった。 <虐待者との関係> 毎日,長男が自動車でDさんを迎えに行き,飲食店で仕込みの手伝いをしてもらった後,Dさんを自宅に送って行く生活を繰り返してきた。なお,Dさんの食事は長男が迎えに行った際に手渡されるパンと,仕込み中に出される賄い食の一日二食のみ。年金振込通帳は長男夫婦が管理していたため,Dさんが自由に使える金品は一切所持していなかった。 ●発見の契機 Dさんが民生委員宅に逃げ込んで助けを求めたため,民生委員がDさんを伴って市役所の出張所の相談窓口を訪問。その内容が高齢者虐待に該当すると判断した相談窓口の担当者が地域包括支援センターに連絡し,直ちに地域包括支援センターが出張所へ駆けつけている。 ●事実確認の方法及び結果 民生委員同席のもと,Dさんと面談。「飲食店の仕込みで失敗するとこれまでも長男に蹴られたりしていた。」と訴えるDさんには各種の暴力痕が認められた。また,年金振込通帳を長男夫婦が管理しているため,自由に使えるお金が無く,医療機関へも受診できていない。外見からも低栄養状態であることが確認でき,かなり痩せ細っていた。 長男の暴力行為については,「失敗した自分が悪い。」と発言していたが,現状に耐え切れず,長男夫婦から逃げる目的で民生委員宅に助けを求めている。

対対対対対対対対応応応応応応応応事事事事事事事事例例例例例例例例④④④④④④④④ 医医医医医医医医療療療療療療療療機機機機機機機機関関関関関関関関やややややややや警警警警警警警警察察察察察察察察ととととととととのののののののの連連連連連連連連携携携携携携携携にににににににによよよよよよよよりりりりりりりり対対対対対対対対処処処処処処処処ししししししししたたたたたたたた事事事事事事事事例例例例例例例例 ★事例の概要 長男からの身体的虐待によって,母親が民生委員宅へ逃げ込んだことを契機に,経済的虐待も発覚したケース。 母親に治療の必要性が認められため,直ちに医療機関への一時入院を行い,病状安定後は,やむを得ない事由による措置により,面会制限を付した特別養護老人ホームへの入所に繋げた。また,隣市に居住する長女を候補者として補助申立てを行い,選任された。

発見の経緯

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第3章 経済的虐待への対応及び防止への取組事例

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【事例編】対応事例④ 次の背景を踏まえ,高齢者虐待所管課と調整のうえ,相談のあった日の夕方には医療機関への一時入院とした。 ① Dさんは低栄養状態であったうえ,暴力痕もあり,治療の必要性が認められたこと。 ② 暴力痕の形跡から,身体的虐待が恒常化していると認められたこと。 ③ Dさん自身が,「家に帰りたくない。」と保護を求めていたこと。 また,長男に搾取されている年金を速やかに確保する必要があったため,翌日には,地域包括支援センターが一時外出した本人とともに社会保険事務所や金融機関を訪ね,年金振込口座の変更手続きを行った。なお,事前に各所へ電話連絡し事情を説明していたため,迅速かつ円滑な対応を求めることができている。 Dさんの病状が比較的安定したため,高齢者虐待所管課や地域包括支援センター,医療機関のソーシャルワーカー,民生委員及び警察で構成される地域ケア会議を開催し,Dさんの退院後の処遇を次のとおりとした。 ○やむを得ない事由による措置での特別養護老人ホームへの入所 医療機関での入院加療の必要性が低くなったが,自宅に戻ることはDさんの安全確保の面で重大な結果を招く恐れが予測されたこと,また,未申請のDさんの要介護認定を待つ時間的猶予がないこと等から,やむを得ない事由による措置での施設入所とした。 ○要介護認定の申請手続き 地域包括支援センターが手続きを支援し,Dさんの要介護認定を受けることとした。 ○長男に対する対応 当面は,長男に対する指導を警察が行うことで調整された。 Dさんが医療機関を退院し,やむを得ない措置により特別養護老人ホームに入所。長男夫婦については面会の制限を行った。この頃,Dさん宅へ送られる督促状などから,消費者金融に数百万円の負債があることが判明している。 地域包括支援センターとして,Dさんの家族の介入が不可欠と判断。地域ケア会議の開催を決定するとともに,高齢者虐待所管課を通じて,長男を含めたDさんの子供に対し,地域ケア会議への出席を求めた。 会議には市の求めに応じ,長女と次女が参加。長女は,兄(長男)の逆恨みを恐れ,当初は非協力的であったが,妹(次女)の説得もあり,Dさんの成年後見制度の申立てや破産申立てを実施することで了承。そのため,今後は関係者が長女の行う手続きをバックアップする方向で調整された。 成年後見制度の申立ては,長女が補助人として選任された。選任後,直ちに自己破産の申立てを行い,過去の負債も清算された。Dさんは現在,特別養護老人ホームで穏やかに生活を送っている。 長男については,「正式にDさんに対して謝罪があった。」と,長女から地域包括支援センターに対して,連絡が入っている。

支援の内容

支援後の経過

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第3章 経済的虐待への対応及び防止への取組事例

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【解説編】対応事例④ 虐待事例④:解説と防止・対応のポイント 虐待事例④は,長男による身体的虐待,経済的虐待及び介護・世話の放棄・放任が認められ,Dさんの心身状態からも,通報のあった当日に迅速な対応を必要とした事例です。また,対応事例③と同じように,本人の意に反した本人名義の負債が確認されており,この事例では,長女が補助人となり,自己破産による債務整理を行いました。 ■虐待の背景として考えられる要因

� 長男による親子の不仲と店の経営状態 ■支援の効果 ○ 相談を受付けてからの即時の対応と医療機関への一時入院は重要かつ必要な対応です。日頃からの行政を中心とした関係機関等の連携(力)が求められます。 緊急性の判断においては,まず高齢者が緊急な生命の危機状態にあるか否かを見極め,「緊急な生命の危機状態」にあれば,直ちに保護して身の安全を確保したり,警察,病院,行政等の然るべき機関に連絡し,支援を求める必要があります。 緊急性の判断等については,非常に難しい問題ですが,生命の危険性,医療の必要性,養護者との分離の必要性,高齢者虐待の程度と高齢者の健康状態,養護者の心身の状態等から総合的に判断します。

対応事例対応事例対応事例対応事例④④④④にににに学学学学ぶぶぶぶ((((考察考察考察考察とととと評価評価評価評価))))

虐待が起こった背景と支援の効果

【緊急性が高いと判断できる状況】 1111 生命生命生命生命がががが危危危危ぶまれるようなぶまれるようなぶまれるようなぶまれるような状況状況状況状況がががが確認確認確認確認されるされるされるされる,,,,もしくはもしくはもしくはもしくは予測予測予測予測されるされるされるされる ・骨折,頭蓋内出血,重症のやけどなどの深刻な身体的外傷 ・極端な栄養不良,脱水症状 ・「うめき声が聞こえる」などの深刻な状況が予測される情報 ・器物(刃物,食器など)を使った暴力の実施もしくは脅しがあり,エスカレートすると生命の危険性が予測される 2222 本人本人本人本人やややや家族家族家族家族のののの人格人格人格人格やややや精神状態精神状態精神状態精神状態にににに歪歪歪歪みをみをみをみを生生生生じさせているじさせているじさせているじさせている,,,,もしくはそのもしくはそのもしくはそのもしくはその恐恐恐恐れがあるれがあるれがあるれがある ・虐待を理由として,本人の人格や精神状態に著しい歪みが生じている ・家族の間で虐待の連鎖が起こり始めている 3333 虐待虐待虐待虐待がががが恒常化恒常化恒常化恒常化しておりしておりしておりしており,,,,改善改善改善改善のののの見込見込見込見込みがみがみがみが立立立立たないたないたないたない ・虐待が恒常的に行われているが,虐待者の自覚や改善意欲が見られない ・虐待者の人格・生活態度の偏りや社会不適応行動が強く,介入そのものが困難であったり改善が望めそうにない 4444 高齢者本人高齢者本人高齢者本人高齢者本人がががが保護保護保護保護をををを求求求求めているめているめているめている ・高齢者本人が明確に保護を求めている。 出典:「東京都高齢者虐待対応マニュアル」(東京都)

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第3章 経済的虐待への対応及び防止への取組事例

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【解説編】対応事例④ ◆ 虐待の発見から具体的な支援について迅速な対応がなされた事例です。その後のフォローも,関係機関を巻き込んだ取組といえます。 経済的虐待は,家族等からの通報(情報)による以外は,第三者がなんらかの形で関わっていく中で発見されることが多く,その発見(気づき)は難しいものがあります。 この事例では,本人の訴えにより身体的虐待を通じて明らかになったものではありますが,虐待の確認後,即日のやむを得ない事由による措置など,その対応の早さから本人の心身,特に心への負担軽減に大きくつながっています。 最初の面談で,担当した地域包括支援センターのケアマネジャーの眼の確かさと行政職員の連携・判断が,この事例のその後を物語っているとも言えるのではないでしょうか。 初期対応と,警察などの関係機関の協力を得たその後の対応・処理が,金銭虐待の回避,家族への理解促進,安住の地の確保(入所),成年後見制度の活用,自己破産の手続き等へと繋がりました。 なお,長男の暴力に対して「失敗した自分が悪い」とのDさん(被虐待者)の当初の発言には十分留意しなければなりません。 閉鎖的な環境で,継続的に暴力等の虐待を受けているケースでは,被虐待者の「暴力に対する抵抗,対抗する力」が失われしまう例があります。 具体的には,「自分が悪い」「虐待を受けるのは自分の責任」「暴力を受けるのは当然」といった感情に支配され,逃げ出したり,抵抗することをやめてしまうケース等です。このような感情に支配された心理状況では,外部からの支援を拒否することも多い傾向にあります。(高齢者虐待だけでなく,DV,児童虐待においても同様です。) 虐待を受ける本人が外部からの支援を拒むケースでは,より慎重な対応が求められます。 本事例では,何らかのきっかけにより,Dさんは民生委員宅へ助けを求めることができましたが,極めて追い詰められた心理状況であったことが想像されます。

考察とまとめ

◆◆◆◆年金振込口座年金振込口座年金振込口座年金振込口座のののの変更手続変更手続変更手続変更手続きききき ① 社会保険事務所又は市町役場年金窓口で「年金受給権者住所・支払機関変更届」を入手。 ② 年金証書から基礎年金番号,年金コードを転記し,新しい振込先の金融機関(又は郵便局)名・支店名,預金口座番号を記入。新しい振込先の金融機関(又は郵便局)窓口で,預貯金口座の確認を受け,証明印をもらう。 ③ 社会保険事務所に提出。 ※ 支払機関の変更は,次の年金の支払日の1か月以上前までに手続きが必要です。変更後の新しい支払機関へ始めての支払いを確認するまでは,念のために旧口座は残しておいてください。

緊急対応が可能な地域支援体制を構築する 身体的虐待と緊急一時入院,やむを得ない事由による措置,成年後見と自己破産の申立て,民生委員, 地域包括支援センター

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第3章 経済的虐待への対応及び防止への取組事例

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【事例編】対応事例⑤ <被虐待者(Eさん)の状況> ①年齢・性別:70代・女性 ②要介護度等:要介護2で認知症日常生活自立度はⅡ ③生 活 状 況:半年前に夫が死亡してからは単身世帯。脳梗塞後遺症による片麻痺症状があり,歩行時には杖を使用している。訪問介護や通所介護を利用しながら,在宅生活を維持してきた。子供はいない。 <虐待者(甥)の状況> ①年齢・性別:50代・男性 ②職 業:不動産業 ③生 活 状 況:県外に居住し,妻と子供の3人家族。不動産会社の経営がうまくいっていないに も関わらず,最近は,自動車を数台購入し,着ている服装も段々派手になるなど の変化が見られた。 <虐待者との関係> 遠隔地で生活をしており,日常的な世話を行うなどの関係性は無かったが,甥が唯一の身内ということもあり,Eさんは甥を非常にかわいがってきた。Eさんの夫が死亡直後,甥の求めに応じて,Eさんがキャッシュカードを渡している。 ●発見の契機 甥にキャッシュカードを預けていた銀行口座の通帳を記帳したところ,預貯金が一千万円近く引き出されていた。そのことをEさんが担当ヘルパーに相談し,担当ヘルパーが訪問介護事業所の責任者に報告。訪問介護事業所の責任者より高齢者虐待所管課に通報された。 ●事実確認の方法及び結果 甥が引き続きキャッシュカードを所持している状況にあり,被害が拡大する恐れがあったことから,直ちに訪問介護事業所の責任者を介して,当該口座の出金停止手続きを行う。 翌日,高齢者虐待所管課が民生委員や訪問介護事業所の責任者とともに,Eさん宅を訪問。新聞は郵便受けにそのままになっており,室内からは電話の呼び鈴が鳴り続けていた。 室内には電気がついていたが,声を掛けたりドアを叩くと電気が消え,いわゆる居留守状態。少し時間を空けると,また電気が点くの繰り返しであったが,顔見知りの民生委員の声で,Eさんが姿を現した。その後,Eさんが地域包括支援センターに対して,記帳した通帳を見せながらこれまでの経緯を説明した。

対対対対対対対対応応応応応応応応事事事事事事事事例例例例例例例例⑤⑤⑤⑤⑤⑤⑤⑤ 緊緊緊緊緊緊緊緊急急急急急急急急一一一一一一一一時時時時時時時時保保保保保保保保護護護護護護護護にににににににによよよよよよよよるるるるるるるる安安安安安安安安全全全全全全全全確確確確確確確確保保保保保保保保をををををををを行行行行行行行行いいいいいいいいななななななななががががががががらららららららら解解解解解解解解決決決決決決決決ししししししししたたたたたたたた事事事事事事事事例例例例例例例例 ★事例の概要 県外に居住する甥が,叔母のキャッシュカードから毎日数十万円ずつを引き出しており,甥に搾取された預貯金は一千万円近くに及んだ。 そのため,直ちに口座の出金停止手続きを行うとともに,成年後見制度の活用に結びつけ,残りの財産の確保を図っている。 しかし,甥に無断で出金停止措置を行ったため,怒った甥が叔母宅に乗り込んでくる危険性が高く,緊急一時保護などの安全確保も必要としたケースであった。

発見の経緯

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第3章 経済的虐待への対応及び防止への取組事例

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【事例編】対応事例⑤ 通帳の出金履歴では,甥がATMから数十万円を毎日引き出していたことが確認された。その口座を甥に無断で出金停止としたため,甥が怒ってEさん宅に乗り込んでくることを恐れ,Eさんは電話にも出ず,居留守をつかって自宅に閉じこもっていた。 Eさんは「ここに居たくない。」と泣いて訴えるが,すでに夜間でもあったため,警察署へ相談するとともに,一時保護所に緊急一時保護の調整を行った。当日,Eさんは一時保護所に一泊している。 翌日,担当のケアマネジャーと調整し,市外にショートステイの受け入れ先を確保。契約利用ではあったが,甥からの照会には応じないよう,面会制限に準じた対応を求めた。 また,弁護士や社会福祉士,医療機関及び地域包括支援センターなどで構成する処遇検討を目的としたネットワーク会議を開催し,次の方針を決定した。 ○保佐開始及び審判前保全処分の申立て 本人による保佐及び審判前保全処分の申立てを行うこととし,ネットワーク会議に参画する弁護士及び高齢者虐待所管課が申立てを支援することとした。又,当該弁護士が保佐人の候補者にもなってくれることとなった。 ○甥に対する窓口の一本化 居宅介護支援事業所や訪問介護事業所に対し,甥から問い合わせがあっても,「居場所は知らない。」と統一した回答をすることとし,窓口は高齢者虐待所管課に一本化した。 成年後見制度の保佐開始及び審判前保全処分の申立てを実施。なお,成年後見制度に関する診断書の作成をEさんのかかりつけ医に依頼したが断られたため,ネットワーク会議に参画していた精神科医に依頼した経緯がある。 その後,ショートステイ利用開始から3か月経過したことや,Eさん自身が在宅復帰を希望したことを考慮し,居宅介護支援事業所や訪問介護・訪問看護・通所介護等の居宅サービス事業者,医療機関などで構成する保健医療福祉サービス提供を目的としたネットワーク会議を開催。Eさんが在宅復帰後に利用する介護サービスの内容や民生委員による見守り協力要請等の方針を決定した。 Eさんがショートステイを退所後は,配食サービスに加え,介護保険の訪問介護,通所介護,訪問看護の利用を開始するとともに,地域包括支援センターや民生委員による定期的な見守りを始めた。また,高齢者虐待所管課が民生委員とともに近隣住民に対して,Eさん宅に非常事態があった場合の連絡とともに,警察への通報を依頼している。 Eさんは関係者の見守りのもと,自宅にて安定した生活を送っている。甥に搾取された一千万円近くの財産をなんとかして取り戻したいと考えており,保佐人である弁護士を通じて,甥に対する返還請求を行っている。 甥からは,高齢者虐待所管課に対してEさんの居場所を確認する問い合わせが一度あったが,「安全な場所に保護しており,教えられない。あなたが行ってきた行為は高齢者虐待である。」と伝えた。以降,甥が市内に立ち寄った形跡はない。

支援の内容

支援後の経過

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第3章 経済的虐待への対応及び防止への取組事例

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【解説編】対応事例⑤ 虐待事例⑤:解説と防止・対応のポイント 虐待事例⑤は,県外に居住する甥の預金引き出し行為に対して,早急の出金停止により被害の拡大を防ぐとともに,その対応による二次的被害防止のため,緊急一時保護を経てショートステイを利用し,本人を安全に保護した事例です。また,市が設置する高齢者虐待防止ネットワーク会議がうまく機能し,保佐申立てをスムーズに行うことができています。 ■虐待の背景として考えられる要因として 第一に,加齢に伴い金銭管理に不安が出てきた時に,どのようにしたらよいかという「知識がない」こと及び「認識が薄い」ことが考えられます。 つまり,「昔からお世話なっている」「子供のように信頼している」「やさしく声をかけてくれる」「こういう個人的な問題は,人様に言うことではない」などの理由で,今回のようなことが起きてしまっています。多くの人は,自己の金銭管理をどのようにするのがよいか,またそれをいつの時点から考え始めるのがよいのかということを知っていません。 次に,近所にざっくばらんに話ができる人間関係を持っていないということです。 普段の雑談の中から,現況を周囲の人が知ることになると,早期発見や解決の窓口につながりやすくなります。この事例の場合,本人は,近所づきあいがほとんどなく,近隣から孤立していたということも,虐待が起きた背景と考えられます。 ■支援の効果について 事例では,本人からの通報を受けた専門職(ヘルパー)が的確に担当窓口に伝えたことや担当者が対応への意識をしっかり持ち,優先順位に沿って対応していったため,被害の拡大を最小限にとどめることができました。さらに,今後の支援のアウトラインを描き,高齢者虐待防止ネットワーク会議をうまく機能させながら解決に結びつけていきました。 本人の虐待発覚以降の不安に対して的確に対応し,最終的には本人の不安を除去し,今までどおりの在宅生活を取り戻すことができたという点でも,とても学ぶことが多い事例です。 ●成年後見用診断書 申立ての段階で本人に何らかの精神上の障害がある場合は,申立ての必要性があることを確認するため,医師の診断書を作成して提出することが裁判所から求められます。 この診断書は,精神科の医師でなくても,主治医として普段から本人の様子をよく知っている医師であれば,作成することが可能です。しかし,内科医や整形外科医など精神科以外の医師に作成を依頼しても,敬遠されることがありますし,面倒なことに巻き込まれたくないと,診断書作成を拒まれることもあります。そのような場合は,最高裁判所が発行している「成年後見制度における診断書作成の手引」(【裁判所ホームページ>裁判手続の案内>裁判所が扱う事件>家事事件>成年後見制度における鑑定書・診断書作成の手引】からダウンロードできます。)を渡して依頼することを検討してください。 また,成年後見や保佐の審判申立てをした場合の多くは,後で精神鑑定が必要となるため,診断書作成時に医師に対して,鑑定もあわせて引き受けてもらえないか打診しておくことも大切です。 なお,この事例では,市が設置するネットワーク会議の構成メンバーに精神科の医師が参画していたため,診断書の作成や後の鑑定にも協力を得ることができました。

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虐待が起こった背景と支援の効果

ポイント

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第3章 経済的虐待への対応及び防止への取組事例

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【解説編】対応事例⑤ この事例の解決に向けた働きかけを通して次の3つのことを学びました。 ◆ 一つ目は「専門職としての虐待に対する意識」の大切さです。今回の担当者は相談内容の重要性・緊急性を理解しており,相談に対して「最優先」で取り組み,また自身をそのキーパーソンとして意識して行動したことです。そして他の機関との調整や本人への対応のほか,虐待者へも,他のスタッフとともに毅然とした対応をとっていました。 この事例は市役所の終業間際の通報にもかかわらず,緊急性の判断からその日の内に,警察署への連絡や,緊急一時保護など,必要な対応を責任持って行っています。また,本人から相談を受けたヘルパーが,本人の発した言葉をすぐに事業所の責任者に伝え,責任者も直ちに行政担当者に連絡したことが,被害の拡大を最小限にとどめられたポイントです。 ◆ 二つ目は,優先順位を明確にして,的確で素早く対応できたことです。 銀行口座の閉鎖や本人の安全確保に向けた対応を直ちに実施し,その後も高齢者虐待防止ネットワーク会議を開催して今後の方針を確認するなど,ゴールを見据え,計画的に行動しています。これは,今後,虐待防止の仕組みを整備していく機関が学ぶべき点だと思います。 ◆ 三つ目は,一人で抱え込まずに常に連携しながら行ったことです。 緊急事案が発生した際には,上司と相談し職場内の連携を図り,本人との接点を持つ時には地域の民生委員,さらに本人の安全な居場所を確保するためには警察,今後の支援を方向づけるためにはネットワーク会議,というようにそれぞれの場面で,常にチームで協力して解決に当たることができたことです。今回はこのチーム員の虐待に対する意識の高さと担当者のリーダーシップがポイントであったと考えます。 経験の浅い専門職は,的確にリーダーシップを発揮すことは困難かも知れませんが,「早急に解決しないといけない」という意識を持てば,それを誰かに伝え,先ず協力者を得ることが大切です。また,経済問題は家庭の中の話しだという意識が強く,実際に経済的な虐待があっても,それを認識できないことが多いので,地域の人に対する経済的な虐待の啓発が必要です。併せて,近隣同士が安心できる人間関係,気楽に話ができる人間関係を作るなど,地域で安心して生活でできる基盤を作っていくことも,虐待の対応と併せて大切なことです。

考察とまとめ

◆◆◆◆年金振込通帳年金振込通帳年金振込通帳年金振込通帳のののの出金停止措置出金停止措置出金停止措置出金停止措置 虐待者が年金振込通帳を所持している事案において,緊急避難的に行われる対応の一つです。電話等で金融機関に連絡し,「当該口座の出金をまず止める。」ことで,被害の拡大を防ぐことができます。また,通帳の所持者が不明であったり,虐待者が通帳返還を申し出ながら,なかなか履行しない場合にも,状況によっては効果的です。 営業時間中であれば金融機関へ,夜間休日等であれば,各金融機関のサービスセンターへお問い合わせください。なお,出金停止を解除する場合は,一般的に窓口で説明する必要があります。 ※ 全ての金融機関が出金停止として取り扱うわけではありませんので,事前に御確認ください。

緊急性の判断から初期対応を可能とするチームケア体制の構築を目指す ホームヘルパーからの通報,緊急一時保護, 成年後見制度と審判前保全処分,チームケア, 地域包括支援センター

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第3章 経済的虐待への対応及び防止への取組事例

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【事例編】対応事例⑥ <被虐待者(Fさん)の状況> ①年齢・性別:70代・女性 ②要介護度等:要介護4で認知症日常生活自立度はⅢ ③生 活 状 況:夫が死亡してからは単身世帯。加齢に伴い,在宅での生活維持が不安になったため,1年前から有料老人ホームに入居している。子供は1人。妹は2人いるが,いずれも県外に居住しており疎遠。 <虐待者(息子)の状況> ①年齢・性別:40代・男性 ②職 業:不明 ③生 活 状 況:県外に居住し単身世帯。以前は高収入の職業に就いていたが,リストラにより再 就職し,収入面で生活環境が一変した。 <虐待者との関係> 遠隔地で生活をしており,日常的な世話を行うなどの関係性は無い。有料老人ホームに入居してからも,息子が施設を訪れることは一度も無かった。 ●発見の契機 息子が突然,施設を訪れ,今後はFさんの財産管理は自分が行うと説明し,Fさんが施設に預けていたFさん名義の預貯金通帳や株式証券の返却を求めた。 翌日,息子が再び施設を訪れ,Fさんと一緒に外出したが,Fさんが施設に戻ってきた際,目の周りのアザがあることを有料老人ホームの職員が発見。「息子に殴られた。」や「銀行に行ってきた。」とのFさんの発言内容から虐待の疑いがあるものとして,施設長が地域包括支援センターに相談した。 ●事実確認の方法及び結果 地域包括支援センターが有料老人ホームを訪ね,Fさんと施設職員から状況を確認。当初,Fさんは「転んだ。」と説明し息子を庇う素振りを見せたが,最終的には「息子に殴られ,株を売却する手続きをした。A銀行では預金を全額下ろして息子が持って帰った。」と告白した。 直ちにFさんと一緒に銀行と証券会社を訪問し,A銀行の預金が全額払い出されていたこと,株の売却手続きがされ,数日後にはB銀行に振り込まれることを確認した。

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発見の経緯

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第3章 経済的虐待への対応及び防止への取組事例

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【事例編】対応事例⑥ 数日後には息子が持ち帰ったB銀行の口座に株式証券の売却益が入金されることから,FさんとともにB銀行を訪れ,通帳の紛失届に準じた再発行手続きを行う。 また,地域包括支援センターは以下のことを行った。 ・本人了解のもと,社会福祉協議会で日常生活自立支援事業かけはしの利用契約を締結し,再発行した通帳や印鑑の管理,諸経費の支払いを同事業で行うこととなった。 ・介護支援専門員や有料老人ホーム施設長,銀行などの関係者でケア会議を開催し,今後の息子からのアプローチに関しては,地域包括支援センターが行うことで調整し,窓口の一本化を行った。 息子は,地域包括支援センターがとった対応に不満であり,再三にわたって,有料老人ホームへ電話を掛けているが,その都度,地域包括支援センターが対応した。 Fさんは,この頃から不眠や徘徊,介護抵抗などの不穏状態が認められ,精神科へ受診。認知症の進行による判断能力の低下が顕著であったため,成年後見制度の活用を検討することとした。まず,地域包括支援センターから成年後見の申立てについてFさんの妹2人に連絡をとるも,財産問題に関わりたくないと断られたため,弁護士・司法書士・介護支援専門員・社会福祉士・社会福祉協議会を構成メンバーとした地域ケア会議を開催し,次の方針を決定した。 ○市長申立てによる成年後見人 申立人不在により市長申立てを行い,弁護士と社会福祉士による複数後見とする。 ○やむを得ない事由による措置での特別養護老人ホームへの入所 Fさんは,特別養護老人ホームと利用契約を結ぶ能力に欠けている状態であったこと。また,有料老人ホームの所在地が息子に把握されており,いつFさんの元へ乗り込んでくるかわからない状況であったことから,面会制限を付した入所措置とする。 成年後見及び審判前の保全処分の市長申立てを行うと同時にやむを得ない措置によりFさんが特別養護老人ホームに入所。なお,息子に対しては,「Fさんは安全な場所に保護している。今は居場所を教えることができない。」ことを説明した。 弁護士と社会福祉士が後見人に選任され,社会福祉協議会による日常生活自立支援事業かけはしの利用は終了した。また,本人を代理する後見人によって特別養護老人ホームの利用に関する契約が可能となったため,やむを得ない措置による入所措置を解除し,契約利用へ移行している。 Fさんは,特別養護老人ホームでの施設生活は順調に送っている。面会制限は特に行っていないが,これまでのところ息子の訪問はない。 息子は地域包括支援センターの対応に納得できておらず,「訴える」との発言もあったが,その後に目立った動きはない。地域包括支援センターとのやり取りで「母親の不適切な行為を止めるために叩いた。」など説明し,虐待に関する自覚もなく,後見人に対しては「母親の財産は,相続人である自分のもの」と発言している。

支援の内容

支援後の経過

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第3章 経済的虐待への対応及び防止への取組事例

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【解説編】対応事例⑥ 虐待事例⑥:解説と防止・対応のポイント 虐待事例⑥では,県外に居住する息子が有料老人ホームに入居する母親の預貯金を搾取する行為に対して,息子が所持する通帳機能の喪失を目的とした紛失手続きにより被害の拡大防止を図ったうえ,日常生活自立支援事業かけはしを利用しました。また,その後のFさんの判断能力低下に対応し,市長申立てによる複数後見へ繋げることができた事例です。 ■虐待の要因としては,①虐待者の要因,②被虐待者の要因,③人間関係等の要因,④社会環境(地域の人間関係等を含む)の要因に大別することができます。 本事例に置きかえると,次のようになります。 ①虐待者の要因・・・・・転職による経済力の変化と精神的負担,借金等の金銭トラブル ②被虐待者の要因・・・・認知症の進行に伴う判断能力の低下 ③人間関係等の要因・・・親子関係はよくない。親戚づきあいもほとんどない。 ④社会環境の要因・・・・被虐待者の孤立。(相談相手の不在等) ○ 本事例では,息子の転職による経済状況の変化が,虐待のきっかけになったと思われますが,息子は有料老人ホーム入所後に1度も母親に会いに来ることがなかった点から考えても,虐待が生じる以前からの親子関係(精神的,経済的な関係を含めて)に何らかの事情があるものと考えられます。 ○ 本事例では,やむを得ない事由による措置によって特別養護老人ホームに入所したFさん の居場所を,息子に対して教えていません。 措置した場所を養護者等に知らせる時期については,虐待を繰り返すことを避けるためにも,養護者のカウンセリングが効果をあげ,養護者が「本当に悪いことをした。」と心から反省し,行動が変容できているかを慎重に見極める必要があります。 ○ 今回の事例は地域ケア会議において,複数後見として「財産管理」を弁護士,「身上監護」を社会福祉士とに分け,それぞれの専門や得意分野における後見事務を担うことで,的確かつ迅速な対応が可能と判断しています。その結果,それぞれの後見人の事務負担を軽減することも期待できました。 ただし,複数後見では,「身上監護」に係る介護サービスの提供と,その支払いの必要性について「財産管理」の立場からの調整も必要であり,後見人同士の連携が十分に図られることが前提となります。

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虐待が起こった背景と支援の効果

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第3章 経済的虐待への対応及び防止への取組事例

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【解説編】対応事例⑥ ◆ Fさんの入居する有料老人ホームの適切な判断により,早期に地域包括支援センターへ相 談,通報がなされた点は重要です。時間が経過し,支援全体を振り返ってみれば,相談や通 報は当然のことのように思えますが,ケースの全体(問題の所在や人間関係等を含む)が見 えない状況の中で,虐待が疑われるケースを判断するのは容易なことではありません。適切 な判断により,早期に虐待への対応,支援が始まったことの大きな意義があります。 通報を受ける側としては,まず,「虐待の内容」として指摘された事項について,「通報内容が事実である。」という前提に立って,詳しく聞き取る必要があります。通報者が「聞き取る側に信用されていない。」と感じると,情報提供を控えてしまう可能性があります。「よく情報提供してくれた。」と感謝し,さらに聞き出すという前向きな対応が必要です。 日頃から地域包括支援センターと地域の介護サービス事業者との「相談しやすい関係」「支 え合う関係」が保たれていることが,虐待の発見,対応に求められます。日頃から良い関係づくりをお互いの努力で重ねていきましょう。 また,相談を受け付けた地域包括支援センターが行なった初期対応やケースの全体状況の把握を円滑かつ迅速に行ったことが,対応方針の決定や財産の保全に大きな効果をもたらしたと思われます。 金融機関や証券会社との交渉や実際の手続き,対応方針決定のための会議の開催,そして,成年後見の申し立て等,息子(虐待者)の「(裁判に)訴える」等の強硬な発言に対して臆することなく,行政担当者や弁護士,金融機関等の関係者に協力を得ながら,確実に手続き等を進めることができたことが対応の大きなポイントです。 虐待の発見と対応のために,地域包括支援センターを中心とした地域の関係機関の連携が いかに重要かを学ぶことができる事例です。

◆◆◆◆年金振込通帳年金振込通帳年金振込通帳年金振込通帳のののの再発行手続再発行手続再発行手続再発行手続きききき 虐待者が年金振込通帳を所持している事案において,緊急避難的に行われる対応の一つです。正確には紛失にはあたりませんが,これに準じた手続きを経て,「元の通帳を使えなくしたうえで,新たに通帳を再発行」します。この方法であれば,新たに支給される年金を確保できるだけではなく,現在の預貯金も相手は引き出すことができません。 まず,金融機関に電話で事情説明し,対応方法を調整してください。窓口に出向く際には,一般的に本人を確認できる証明書(できれば顔写真入り)や印鑑などが必要となります。 ※ 全ての金融機関が通帳の紛失として取り扱うわけではありませんので,事前に 御確認ください。

考察とまとめ

財産を守るために金融機関等との連携を図る 有料老人ホームからの通報,市長申立てによる成年後見制度,虐待意識の欠如,地域包括支援センター

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第3章 経済的虐待への対応及び防止への取組事例

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取組事例① 消費生活センターと合同研修会の開催に取り組んでいる事例

具体的具体的具体的具体的なななな取組内容取組内容取組内容取組内容 ・市の消費生活センターが開催する消費者問題に係る研修会の開催にあたって,高齢者虐待所管課や地域包括支援センターが募集や企画面で協力し,共同開催としている。 ・この研修会は,住民向け,民生委員向け,専門職(ケアマネ・ヘルパー)向けとがあり,高齢者虐待所管課や地域包括支援センターは,主に民生委員や専門職を対象とした研修会に関与している。 ・概ね年1回の開催で,前回は多重債務についての講演会を実施した。 ・開催に当たっては,その研修会のテーマに応じて,高齢者虐待所管課や地域包括支援センターが実際に直面した事例を提供している。 取組取組取組取組をををを行行行行ったったったった背景背景背景背景 これまでは,消費生活センターと高齢者虐待所管課(地域包括支援センター)が,それぞれ個別に民生委員や専門職を対象とした研修会を開催してきた。しかし,消費生活センターが開催する専門職向けの講座へは,周知不足もあって人集めに苦労し,参加者が思ったほど集まらないのが現状であった。 そのため,消費生活センターから高齢者虐待所管課に相談があり,ケアマネやホームヘルパーへの周知を高齢者虐待所管課や地域包括支援センターが支援するようになった。 以降,共同開催することになり,企画段階から高齢者虐待所管課や地域包括支援センターが関わるとともに,具体的な事例も提供するようになった。 取組後取組後取組後取組後のののの効果効果効果効果 一般的な制度説明に留まらず,実際に市内で発生した事例を提供している。そのため,身近な問題として民生委員等の受講者に「みえる形」でイメージしてもらえた。又,専門職については,実際の実務に携わる者として「もっと踏み込んだ」事例を検討する場を設けることができた。 取組経過取組経過取組経過取組経過 ・過去,成年後見制度や消費者問題(多重債務・悪徳行法・クーリングオフ)などをテーマに開催している。 ・高齢者虐待所管課や地域包括支援センターが,実際の現場の要望やニーズを主催の消費生活センターに伝え,講演会のテーマを提案。そのテーマに応じて,講師と内容について調整し,提供する事例を選定している。 ・高齢者虐待所管課(地域包括支援センター)の職員が寸劇を行ったこともある。 今後今後今後今後のののの具体的具体的具体的具体的なななな計画計画計画計画 ・基本的には消費生活センターとの共催のため,消費者問題が基本。そのなかで,高齢者の権利擁護に詳しい弁護士等を講師に招き,制度や事例,高齢者虐待防止などの周知に繋げていきたいと考えている。

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第3章 経済的虐待への対応及び防止への取組事例

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取組事例② 認知症サポーターを養成し,金融機関との連携に取り組んだ事例

具体的具体的具体的具体的なななな取組内容取組内容取組内容取組内容 ・市が実施する認知症サポーターの活動支援事業において,金融機関の窓口業務に従事する職員等への認知症サポーター登録勧奨を実施した。 ・具体的には地域包括支援センター単位で,管内の金融機関を対象に取り組んでいる。(ただし,現時点で市内全ての金融機関を対象とした働きかけとはなっていない。) 取組取組取組取組をををを行行行行ったったったった背景背景背景背景 ・金融機関等の窓口を担当する職員等に,認知症に対する理解を深めてもらい,ネットワークや通報先等を周知してもらうとともに,認知症による徘徊高齢者や所在不明高齢者の早期発見や安全確保を推進する必要があったため。 ・また,認知症高齢者への声掛けや支援により,認知症高齢者とその家族が安心して暮らせるまちづくりを実現し,経済的虐待の早期発見及び防止に役立てるため。 取組後取組後取組後取組後のののの効果効果効果効果 ・ある金融機関では,職員の全員が認知症サポーターとして登録された。また,他の金融機関においても,半数から3分の1程度までの登録があった。 ・これらの取り組みや高齢者虐待防止ネットワークへの参画等により,情報交換や情報収集が比較的スムーズになっている。(ただし,情報収集に関しては,金融機関や支店によって対応がバラバラであり,支店ごとに理解度や手続きが異なっている。) 取組経過取組経過取組経過取組経過 ・取り組みの導入部を高齢者虐待ではなく,身近な問題として「認知症」を前面においた。その後の研修等で経済的虐待の実情を説明し,理解を求めている。 ・金融機関によっては,理解が得られず,協力が一切得られなかったところもある。 今後今後今後今後のののの具体的具体的具体的具体的なななな計画計画計画計画 この取り組みを市内全域に広げていき,全ての金融機関に認知症サポーターがいる状態を目指したい。また,こういった取り組みから,経済的虐待の早期発見や防止に係る連携を強化していきたいと考えている。

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第3章 経済的虐待への対応及び防止への取組事例

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高齢者虐待防止法では,通報等の内容や事実確認によって高齢者の生命又は身体に重大な危険が生じているおそれがあると認められる場合には,高齢者に対する養護者による高齢者虐待の防止及び当該高齢者の保護が図られるよう,適切に老人福祉法第10条の4(居宅サービスの措置),第11条第1項(養護老人ホームへの措置,特別養護老人ホームへのやむを得ない事由による措置,養護委託)の措置を講じることが規定されています。(第9条) 1 「やむを得ない事由」に該当する場合 ① 65歳以上の者であって介護保険法の規定により当該措置に相当する居宅サービスに係る保険給付を受けることができる者が,やむを得ない事由(※)により介護保険の居宅サービスを利用することが著しく困難であると認められる場合 (※)政令に定める「やむを得ない事由」とは,事業者と「契約」をして介護サービスを利用することや, その前提となる市町村に対する要介護認定の「申請」を期待しがたいことを指します。 ② 65歳以上の者が養護者による高齢者虐待を受け,当該養護者による高齢者虐待から保護される必要があると認められる場合,又は65 歳以上の者の養護者がその心身の状態に照らし養護の負担の軽減を図るための支援を必要と認められる場合(「老人ホームへの入所措置等の指針について」平成18年3月31日付け老発第0331028号) 2 やむを得ない措置のポイント ① やむを得ない事由による措置の運用 「やむを得ない事由による措置」は,高齢者本人の福祉を図るために行われるべきものであり,高齢者本人が同意していれば,家族が反対している場合であっても,措置を行うことは可能である。 また,高齢者の年金を家族が本人に渡さないなどにより,高齢者本人が費用負担できない場合でも,「やむを得ない事由による措置」を行うべきときは,まず措置を行うことが必要である。 さらに,高齢者本人が指定医の受診を拒んでいるため要介護認定ができない場合でも,「やむを得ない事由による措置」を行うことが可能である。(「全国介護保険担当課長会議資料」平成15年9月8日) ② 高齢者虐待と定員超過の取扱い 指定介護老人福祉施設は,入所定員及び居室の定員を超えて入所させてはならない。ただし,災害,虐待その他やむを得ない事情がある場合は,この限りではない。(指定介護老人福祉施設の人員,設備及び運営に関する基準(平成11年厚生省令第39号)第25条) ※単なる特別養護老人ホームへの入所措置であれば,介護報酬上の減算の対象外となるのは,定員の5%(定員50人の特別養護老人ホームでは2人まで)ですが,虐待に関する場合であれば,措置による入所であるかどうかを問わず,かつ,定員を5%超過した場合であっても,介護報酬の減算対象とはなりません。(「指定居宅サービスに要する費用の額の算定に関する基準及び指定施設サービス等に要する費用の額の算定に関する基準の制定に伴う実施上の留意事項について」平成12年3月8日付け老企第40号) ③ 経費負担 やむを得ない事由による措置や介護保険を利用した場合等における経費負担については,次によります。 要介護認定が間に合わず介護保険を利用できない場合 市町が全額を措置費で支弁(介護保険に移行する間) 介護保険を利用した場合 介護保険 9割+市町 1割措置費で支弁(その後,利用者には負担能力に応じて徴収) 生活保護の場合 介護保険 9割+生活保護(介助扶助) 要介護認定を行ったところ介護保険の対象外 やむを得ない事由による措置に該当しないため市町が全額支弁(その後,利用者から負担分を徴収) ④ 面会の制限 高齢者虐待防止法では,老人福祉法に規定される「やむを得ない事由による措置」が採られた場合,市町村長や養介護施設の長は,虐待の防止や高齢者の保護の観点から,養護者と高齢者の面会を制限することができるとされています。(第13条) ア. 被虐待者をやむを得ない事由により特別養護老人ホームに入所措置した場合 イ. 養護受託者に対し,被虐待者の養護を委託した場合

やむを得ない事由による措置