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微生物の産業利用におけるリスク評価の 考え方と将来展望 製品評価技術基盤機構 バイオテクノロジーセンター(NBRC藤田信之 201361233回リスク評価研究会(FoRAM

微生物の産業利用におけるリスク評価の 考え方と …微生物の産業利用における安全性の確保 人(作業従者、公衆)に 対する病原性 人に対する有害物質の

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Page 1: 微生物の産業利用におけるリスク評価の 考え方と …微生物の産業利用における安全性の確保 人(作業従者、公衆)に 対する病原性 人に対する有害物質の

微生物の産業利用におけるリスク評価の

考え方と将来展望

製品評価技術基盤機構

バイオテクノロジーセンター(NBRC)

藤田信之

2013年6月12日 第33回リスク評価研究会(FoRAM)

Page 2: 微生物の産業利用におけるリスク評価の 考え方と …微生物の産業利用における安全性の確保 人(作業従者、公衆)に 対する病原性 人に対する有害物質の

• バイオエネルギー

• バイオリーチング

• 汚水処理・資源回収

• 医薬

• 化粧品

• 研究試薬

• 臨床検査薬

• 発酵食品

• 発酵飲料

• 機能性食品

• アミノ酸

• 食品添加物

• 農業

• バイオマス

• バイオレメディエーション

• 酵素

• バイオ変換

• バイオプラスチック

微生物の産業利用

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微生物の産業利用における安全性の確保

人(作業従事者、公衆)に対する病原性

人に対する有害物質の

産生性

微生物生態系への影響(多様性、生態機能)

遺伝子の伝達性

(組換え微生物の場合)

動植物(作物、家畜、野生動植物)に対する病原性

動植物に対する有害物質の産生性

微生物そのものの安全性 環境への影響

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バイオスティミュレーション 土着の分解菌を活性化し浄化する技術

栄養、空気等

バイオオーグメンテーション 外部で分離した分解菌を導入し浄化する技術

分解菌、栄養、空気等

汚染物質 汚染物質

汚染現場に強力な分解菌がいない場合

• 浄化に時間がかかる

• 有害な分解産物の蓄積

• 浄化が全く起こらない

改善策として、強力な分解菌の導入

(バイオオーグメンテーション)による浄化の効率化が期待されている

バイオレメディエーションとは

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微生物によるバイオレメディエーション

バイオスティミュレーション

(土着の分解菌を活性化し浄化する技術)

バイオオーグメンテーション

(外部で分離した分解菌を導入し浄化する技術) 適用範囲

参照範囲

バイオオーグメンテーションによる浄化の際の安全性の確保に関して、

「微生物によるバイオレメディエーション利用指針」によるガイドラインが示されている。

バイレメ指針の確認要件 導入菌株自身の病原性の確認と生態系への影響を確認しなければならない。

ヒトへの リスク

生態系への リスク

導入微生物の 安全性評価

環境利用における 生態系影響

バイオレメディエーションを巡る安全性問題

安全性についての社会的受容性が得にくい

浄化剤(微生物活性化剤)の投入

栄養塩を添加することで・有害な菌が増えないのか?・本当に微生物が分解しているのか?・何か悪いことは起きないのか?

汚染土壌・地下水

バイレメ過程における微生物叢

指針の適用範囲

バイオレメディエーション指針について

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<遺伝子組換えとは>

・異なる種のDNAを組み込むこと

・自然界では起こらない現象

ウイルス抵抗性を獲得 (ジーンサイレンシング)

CP

パパイヤのゲノムに

組み込む 【生物種の壁】

CP

パパイヤリングスポットウイルス

(PRSV)の外被タンパク質遺伝子

(CP)

遺伝子組換えとは(組換えパパイヤの例)

供与体

宿主

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酵素を作る遺伝子を切断し取り出す

ベクターを大腸菌に挿入(形質転換)

→組換え大腸菌が酵素を大量に生産

!生産効率UP!

有用な酵素を作る微生物

少量しか作れない

(産業化に不向き) ①

ベクター(運び屋) に組み込む

酵素を高発現するよう指令する配列を追加

③ ④

大腸菌

遺伝子組換え微生物の応用例(酵素の生産)

供与体

宿主

供与核酸

ベクター

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遺伝子組換え生物に関する規制

1973年 最初の組換えDNA実験

1975年 研究者による「アシロマ会議」

1976年 組換えDNA実験ガイドライン(NIHガイドライン)

1986年 OECD理事会勧告

1993年 生物の多様性に関する条約が発効

2003年 バイオセーフティーに関するカルタヘナ議定書が発効

2010年 責任および救済に関する名古屋・クアラルンプール補足議定書が採択

1979年 組換えDNA実験指針(文部省、科技庁)

1986年 組換えDNA技術工業化指針(通産省)

1986年 組換えDNA技術応用医薬品製造指針(厚生省)

1989年 農林水産分野等における組換え生物の利用のための指針(農水省)

1998年 改訂版「工業化指針」

2002年 統一版「実験指針」

2004年 遺伝子組換え生物等の使用等の規制による生物の多様性の確保に関する法律(カルタヘナ法)施行

国内 国外

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法施行以前 法施行後

運用

ガイドライン

・組換えDNA実験指針

・組換えDNA技術工業化指針 など

法律

規制 自主規制(大臣確認制度あり) 法規制(罰則を伴う)

目的 人の健康被害の防止 生物多様性への悪影響を防止

カルタヘナ法の施行前と施行後

人の健康に対するリスクも考慮

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【出展:カルタヘナ法の施行状況の検討について( 平成21年8月 中央環境審議会 野生生物部会 遺伝子組換え生物小委員会 )ほか】

第一種使用 第二種使用

カルタヘナ法による遺伝子組換え生物の規制

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1.病原性や生物学的封じ込めの程度により組換え生物をリスクグループに分類

・研究開発目的では、哺乳動物等(ヒト、哺乳類、鳥類)への病原性の程度によって、宿主および供与体をクラス1,クラス2、クラス3、クラス4に分類。供与核酸の性質や生物学的封じ込めの程度により必要な拡散防止措置を低減。

・産業利用目的では、組換え生物の病原性や生物学的封じ込めの程度により、GILSP、カテゴリー1、その他に分類。

2.リスクグループごとに取扱い施設等の基準を定める

⇒ 物理的封じ込め(拡散防止措置)による管理

病原体の取扱いにおけるバイオセーフティレベルと同様の考え方

第二種使用(閉鎖系使用)におけるリスク評価・管理の考え方

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参考: 国立感染症研究所「病原体等安全管理規定」におけるバイオセーフティーの基準

リスク群 リスクの程度 取扱い施設の要件 該当する微生物の例

1 疾病を起こす見込みがない

・特になし(標準的な微生物実験室)

2 疾病を起こし得るが、重大な健康被害を起こす見込みがない。有効な治療法・予防法がある。伝播のリスクが低い。

・バイオハザード標識の表示

・必要に応じて保護具、安全キャ

ビネットを使用

・区域内にオートクレーブを設置

黄色ブドウ球菌

レジオネラ菌

インフルエンザウイルス

3 重篤な疾病を起こすが、伝播の可能性が低い。有効な治療法・予防法がある。

上記に加え、

・内方向の気流、排気のろ過

・前室(二重ドア)

・安全キャビネット 等

結核菌

炭疽菌

黄熱病ウイルス

4 重篤な疾病を起こし、伝播が起こる。有効な治療法・予防法がない。

上記に加え、

・エアロック、シャワー

・両面オートクレーブ

・クラスIII安全キャビネット 他

エボラウイルス

ラッサ熱ウイルス

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施設等について、作業区域(遺伝子組換え微生物を使用等する区域であって、それ以外の区域と明確に区別できるもの。以下同じ。)が設けられていること。

作業区域内に、遺伝子組換え微生物を利用して製品を製造するための培養又は発酵の用に供する設備が設けられていること。

作業区域内に、製造又は試験検査に使用する器具、容器等を洗浄し、又はそれらに付着した遺伝子組換え微生物を不活化するための設備が設けられていること。

遺伝子組換え微生物の生物学的性状についての試験検査をするための設備が設けられていること。

遺伝子組換え微生物を他のものと区別して保管できる設備が設けられていること。

廃液又は廃棄物は、それに含まれる遺伝子組換え微生物の数を最小限にとどめる措置をとった後、廃棄すること。

生産工程中において遺伝子組換え微生物を施設等の外に持ち出すときは、遺伝子組換え微生物が漏出しない構造の容器に入れること。

GILSP遺伝子組換え微生物のための拡散防止措置

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1 宿主等関する情報 (1) 分類学上の位置付け、自然環境における分布状況

(2) 使用等の歴史及び現状

(3) 生理学的及び生態学的特性

イ 基本的特性

ロ 生息又は生育可能な環境の条件

ハ 捕食性又は寄生性

ニ 繁殖又は増殖の様式

ホ 病原性

ヘ 有害物質の産生性

ト その他の情報

2 調製方法等に関する情報 (1) 供与核酸に関する情報

イ 構成及び構成要素の由来

ロ 構成要素の機能

(2) ベクターに関する情報

イ 名称及び由来

ロ 特性

(3) 遺伝子組換え生物等の調製方法

イ 宿主内に移入された核酸全体の構成

ロ 宿主内に移入された核酸の移入方法

ハ 遺伝子組換え生物等の育成の経過

影響評価にあたって収集すべき情報(多様性影響評価実施要領(6省告示))

(4) 細胞内に移入した核酸の存在状態及び当該核酸による

形質発現の安定性

(5) 遺伝子組換え生物等の検出及び識別の方法並びにそ

れらの感度及び信頼性

(6) 宿主又は宿主の属する分類学上の種との相違

3 使用等に関する情報 (1) 使用等の内容

(2) 使用等の方法

(3) 承認を受けようとする者による第一種使用等の開始後

における情報収集の方法

(4) 生物多様性影響が生ずるおそれのある場合における生

物多様性影響を防止するための措置

(5) 実験室等での使用等又は第一種使用等が予定されて

いる環境と類似の環境での使用等(原則として遺伝子

組換え生物等の生活環又は世代時間に相応する適当

な期間行われるものをいう。)の結果

(6) 国外における使用等に関する情報

※必要がないと考える合理的な理由があるものは収

集しなくてもよい

第一種使用(開放系使用)におけるリスク評価の考え方 I

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1. 他の微生物を減少させる性質

2. 野生動植物に対する病原性

3. 野生動植物に対する有害物質の産生性

4. 移入された核酸を野生動植物又は他の微生物に伝達する性質

5. その他生物多様性影響の評価を行うことが適切であると考えられる性質

1.評価対象の特定または選定

影響を受ける可能性のある野生動植物

等※を種その他の属性により特定(種類が多い場合は選定することも可)

2.影響の具体的内容の評価

当該野生動植物等についての実験、情報収集等により評価

3.影響の生じやすさの評価

当該野生動植物等の生息・生育場所、時期等の情報を収集することにより評価

X

• 特定または選定された野生動植物等の種または個体群の維持に支障を及ぼすおそれがあるか否かを判断

※長期使用経験のある種を宿主に用いる場合は、その種と比較して影響の程度が高まっているか否かにより判断できる

※ 野生動植物等 = 野生動植物 + 微生物

第一種使用(開放系使用)におけるリスク評価の考え方 II

影響評価の項目および手順(多様性影響評価実施要領(6省告示))

影響評価項目(微生物の場合) 影響評価手順(左記の各項目について)

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必要な情報、評価項目、評価方法は組換え体一種使用の場合とほぼ同様

ただし

1.汚染物質(および中間生成物)についてのリスク評価が必要

2.栄養剤を用いる場合は化学物質としてのリスク評価が必要

3.野生動植物に対する病原性 → 主要な動植物および人に対する病原性

4.野生動植物に対する有害物質の産生性 → 主要な動植物および人に対する有害物質の産生性

5.生物多様性への影響 → 生態系(土壌としての機能)への影響

評価指標として、一般細菌、硝化菌、脱窒菌等の増減、微生物群集の構造変化、

土壌の呼吸活性等を例示

6.モニタリングの終了までを事業と位置付け

バイオレメディエーション指針(2省告示)におけるリスク評価

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・予防的な取り組みに従い、

・特に国境を越える移動に焦点を合わせて、

・生物多様性の保全と持続可能な利用に対して悪影響※を及ぼす可能性のある遺伝子組換え生物(LMO)の、

・安全な移送、取扱いおよび利用を図る

カルタヘナ議定書の目的

・LMOの国境を越える移動に先立って、

・潜在的な受容環境において、

・生物多様性の保全と持続可能な利用に対して及ぼす可能性のあるLMOの悪影響※を特定し、評価すること

カルタヘナ議定書におけるリスク評価の考え方 I

カルタヘナ議定書におけるリスク評価の目的

上記を実現するための立法的または行政的措置を締約国に義務づけ

※人の健康に対するリスクも考慮( taking also into account risks to human health)

事前の情報に基づいて輸入に係る決定(AIA)を行う際に、リスク評価を行うことを締約国に義務づけ

閉鎖系利用は除外

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1. 予防的な取り組み(precautionary approach)の原則

・悪影響の程度が科学的に十分確かでないことをもって、有効な対策を引き延ばす理由にしてはならない

(科学的な知見がないことは、リスクがあること、リスクがないこと、またはリスクが許容できることを示すものと解釈してはならない)

2. 科学的な情報に基づく評価と再検討

・リスク評価は、入手可能な情報に基づいて、科学的に適性な方法で実施する

・新たな科学的情報を踏まえて、いつでも決定を再検討し変更することができる

3. ケースバイケースの評価

・リスク評価は個々の事例に応じて実施しなければならない

・リスク評価に必要な情報は、遺伝子組換え生物の種類、用途、潜在的な受容環境に応じて異なりうる

4. 非改変生物との比較に基づく評価

・遺伝子組換え生物のリスクは、改変されていない宿主または親生物が(潜在的な受容環境において)及ぼすリスクとの関係において評価

カルタヘナ議定書におけるリスク評価の考え方 II

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・カルタヘナ議定書では「附属書III」でリスク評価の原則や方法を示しているが具体性に乏しい。

・LMOの輸入に際してリスク評価が適正に行われることを目的として、2008

年の第4回締約国会議で技術専門家会合(AHTEG)とオンラインフォーラムを設置し、ガイダンス文書の作成作業を開始。

・2010年の第5回締約国会議(名古屋)に初版のガイダンス文書※を提出。改訂作業を継続することとなった。

※①リスク評価のロードマップ、②非生物ストレス耐性、③遺伝子組換え蚊、④スタック作物

・2012年の第6回締約国会議(インド)に改訂版のガイダンス文書※※を提出。実地での検証をもとに必要な改訂を行うこととなった。

※※上記の改訂版に加え、⑤遺伝子組換え林木、⑥LMOのモニタリング

・今後「組換え微生物」や「組換え魚類」が議論の対象となる可能性あり。

カルタヘナ議定書締約国会議(COP-MOP)における

リスク評価ガイダンス制定の動き

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遺伝子組換え生物のリスク評価ロードマップ (COP-MOP6提出版)

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Step 1: Identification

悪影響を及ぼす可能性のある遺伝型および表現型を特定

Step 2: Evaluation of likelihood

悪影響が起こる可能性を評価(環境への暴露の程度と種類を考慮)

Step 3: Evaluation of consequences

悪影響が起こった場合の結果の重大性を評価

Step 4: Estimation of overall risk

悪影響が起こる可能性と重大性から全体的なリスクを評価

Step 5: Recommendation

リスクが受容可能か?管理可能か?(必要な場合管理戦略を含めて)

・最初に設定した目標と基準が満たされているか? YESなら意思決定へ

・結論に影響する新たな情報があるか? YESなら再度リスク評価へ

・リスクを低減できる新たな管理選択肢があるか? YESなら再度リスク評価へ

遺伝子組換え生物のリスク評価ロードマップ (COP-MOP6提出版)

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海外における遺伝子組換え微生物の規制

(米国の場合)

法規制 対象組換え微生物 規制官庁

食品・医薬品・化粧品法(FFDCA) 医薬品(ワクチン) FDA

植物病害虫法(FPPA) 植物病原菌 USDA/APHIS

殺虫剤・殺菌剤・殺鼠剤法(FIFRA) 微生物農薬 EPA

有害物質規制法(TSCA) その他の”新微生物” EPA

組換え体を特別扱いせず、用途・分野に応じて既存の法律の下で規制

新微生物とは=属の異なる微生物間で遺伝子を交換・組換えた微生物

商業目的で新微生物を製造・輸入する場合は、90日前までに書類(MCAN)を提出し、EPAのビューを受ける(閉鎖系利用、開放系利用とも)

様々な例外・軽減措置

a. 研究・開発用途での閉鎖系使用は除外(NIHのガイドライン等に従って実施) b. 研究・開発段階で開放系試験を行う場合は要求データ項目を軽減(TERA)

c. リスト化された特定の宿主(大腸菌、酵母等)および条件(機能、毒性、伝搬性等)を満たす挿入遺伝子を用いる商業利用は、封じ込めの程度により届出または承認。

d. 根粒菌を宿主とする一定の条件下での小規模野外試験は事前の届出のみ。

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海外における遺伝子組換え微生物の規制

(カナダの場合) 米国の場合と同様、用途・分野に応じて既存の法律の下で規制

法規制 対象組換え微生物 規制官庁

家畜衛生法(HAA) 動物医薬 CFIA/VBS

食品・医薬品法(FDA) 食品等に含まれる微生物 HC

環境保護法(CEPA1999) 微生物一般 EC

商業目的で新規微生物(DSLリストに非掲載のもの。遺伝子組換え体に限定せず)を製造・輸入する場合は、新規物質届出規制(NSNR)に従った申請が必要。

研究・開発目的の閉鎖系利用で一定規模以下のものは適用除外。

使用環境の違いにより以下の申請区分がある(要求データ項目や審査期間が異なる) Group 1 カナダのあらゆる場所(anywhere in Canada) Group 2 自生地以外の環境ゾーン(ecozone, not indigenous) Group 3 拡散制限措置の下での使用(with confinement procedure) Group 4 自生地を含む環境ゾーン(ecozone, indigenous) Group 5 閉鎖系施設での使用または輸出(in contained facility or export) Group 6 実験的野外試験(experimental field study) Group 7 分離場所への再導入(reintroduction at the same site)

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海外における遺伝子組換え微生物の規制

(ドイツの場合)

閉鎖系使用はリスククラスに応じた拡散防止措置を要求(州政府による認可。 ただしリスククラスの判定には連邦レベルの委員会が関与)

開放系使用は、野外試験と商業放出に分けて必要な手続や要求データ項目を規定(連邦政府による認可)

EUレベルでは、EU指令2001/18/EC(開放系使用)とEU指令2009/41/EC(閉鎖系使用)による規制。

商業放出についての最終決定権はECが持つ。加盟国間の意見が対立した場合等は、EUレベルの諮問委員会で審議。

商業放出については、予防原則に従い、上市後の広範なモニタリングと年次報告を事業者に義務づけ。商業放出の認可は10年間の期限付。

法規制 対象組換え微生物 規制官庁

遺伝子技術法(GenTG) 遺伝子組換え生物全般 BVL

(EU指令2001/18/EC 野外試験・商業放出 )

(EU指令2009/41/EC 閉鎖系使用 )

すべての組換え生物を単一の法律の下で規制。EUとのダブル規制。

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申請時の要求データ項目の比較(開放系)

主な項目 日本 米国 カナダ ドイツ

宿主に関する項目

分類情報 ○ ○ ○ ○

使用の歴史 ○

形態・生理学的特性 ○ ○ ○ ○

生育環境・分布 ○ ○ ○ ○

組換え体に関する項目

ベクターの性質 ○ ○

供与体の分類情報 △ ○ △ ○

導入遺伝子の構成・機能 ○ ○ ○ ○

導入された形質 ○ ○ ○ ○

導入形質の安定性 ○ ○ ○ ○

検出方法・検出限界 ○ ○ ○ ○

薬剤耐性 ○ ○ ○

健康・環境影響に関する項目

人への病原性・毒性 ○ ○ ○ ○

他の生物への病原性・毒性 ○ ○ ○ ○

遺伝子の伝搬性 ○ ○ ○ ○

物質循環への影響 △ ○ ○ ○

Page 26: 微生物の産業利用におけるリスク評価の 考え方と …微生物の産業利用における安全性の確保 人(作業従者、公衆)に 対する病原性 人に対する有害物質の

微生物の開放系利用におけるリスク評価の課題

・微生物を正しく分類することが病原性評価の基盤。利用する菌が病原菌や日和見感染菌と区別できない場合は、利用を断念せざるをえない。

分類をより精緻化することでリスクを回避できないか?

動物実験に頼らずに病原性の有無を判断できないか?

・病原菌もしくはその類縁菌が環境中には広く分布しており、微生物の導入に伴う環境条件(酸素濃度、水分、栄養条件等)の変化によって一時的に増加する可能性がある。

これをリスクと捉えるか?

(同様の変動は降雨、気温変化、農耕、掘削等でも容易に起こりうる)

病原菌の環境中での許容濃度を設定することが可能か?

(飲料水、下水、河川・湖沼等には環境基準があるが、大腸菌や一般細菌

を指標としており、病原菌を直接調べているわけではない)

病原性の評価に関する課題

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・環境中に導入もしくは漏出した微生物は最終的にどうなればよいのか。

他にリスクがない場合、環境中に残留しても構わないのか?

遺伝子組換え微生物について環境基準値を設けることは可能か?

そもそも微生物に対する暴露量をどう評価すればよいのか?

微生物の開放系利用におけるリスク評価の課題

・微生物叢は自然条件の変化や人間の活動によって絶えず変動しているため、特定の微生物種を評価指標に用いることは困難。

微生物叢の多様性を評価指標として使えないか?

微生物叢の健全性(物質循環機能)を評価指標として使えないか?

微生物生態への影響に関する課題

暴露量の評価に関する課題

Page 28: 微生物の産業利用におけるリスク評価の 考え方と …微生物の産業利用における安全性の確保 人(作業従者、公衆)に 対する病原性 人に対する有害物質の

微生物の開放系利用におけるリスク評価の課題

・低頻度の水平伝達は自然界では普遍的に起こっている。種の壁を越えて遺伝子が伝達されることも珍しくない。低頻度の水平伝達は起こりうるとの前提にたってリスクを評価することが必要。

挿入遺伝子に有害性がなければ(ハザードが想定できなければ)問題

ないとの判断は可能か?

挿入遺伝子と同等な遺伝子が環境中にすでに存在すれば問題ないと

の判断は可能か(生態系としての遺伝子プール)?

ハザードが否定できない場合でも、水平伝達の頻度がこれ以下であれ

ば許容できるとの判断が可能か?

遺伝子の水平伝達に関する課題

水平伝達とは:細胞分裂による伝達(垂直伝達)以外の方法で、ある細胞から別の細胞に遺伝子が受け渡されること。微生物間では、接合伝達(プラスミドを介した伝達)、形質導入(ファージを介した伝達)、自然形質転換(遊離のDNAの取り込み)などのメカニズムが知られている。

Page 29: 微生物の産業利用におけるリスク評価の 考え方と …微生物の産業利用における安全性の確保 人(作業従者、公衆)に 対する病原性 人に対する有害物質の

微生物の開放系利用におけるリスク評価の課題

ゲノム解析技術の進展は課題解決の救世主になるか?

Read Length Number of read Total Data Run Time

ABI 3730

800~1000 bp 96/run 76~96 kb/run 2 hr

454 FLX+

500~600 bp 0.8~10 M/run 500 Mbp/run 27 hr

HiSeq1000

100 bp※ 2600~3200

M/run※

260~320

Gbp/run※ 7-8 day※

MiSeq 150 bp※(シングル

時は最長300bp)

※秋以降に250bpへ

10~16

M/run※

※秋以降20~30M/run

1500~2400

Mbp/run※

※秋以降に5~7Gbp/runへ

29 hr※

※250bp読みの時は36時間程度

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微生物の産業利用における安全性の確保

人(作業従事者、公衆) に対する病原性

人に対する有害物質の

産生性

微生物生態系への影響(多様性、生態機能)

遺伝子の伝達性

(組換え微生物の場合)

他の動植物への影響

微生物そのものの安全性 環境への影響

・分類による評価

・有害因子の有無による評価

より精緻な分類手法の開発

ゲノム情報に基づく評価手法の検討

動物実験の代替

・微生物群集の構造と変化

・病原菌等のモニタリング

遺伝子組換え微生物の検出・同定手法の開発

メタゲノム的手法による微生物群集構造の精密解析

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ゲノム情報を活用した微生物分類の精緻化

有害菌

産業有用株

(有害・無害の判別が困難)

無害菌 無害菌

無害菌

・単一遺伝子による系統分類 (16S, gyrB, rpoB等)

・複数の遺伝子による系統分類 (ハウスキーピング遺伝子によるMLSA)

・全ゲノムの塩基配列の比較 (ANI, MUMi)

無害菌 無害菌

有害菌

産業有用株

(無害であると判断可能)

無害菌

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緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)の主な病原因子

外毒素

付着因子(標的細胞への付着・増殖)

侵入因子(組織や細胞内への侵入)

その他

線毛、鞭毛

Ⅲ型分泌機構(標的細胞にエフェクターを注入)

ExotoxinA(細胞毒)

シアン化水素

プロテアーゼ(組織破壊)

リパーゼ(細胞膜リン脂質分解等)

鉄取り込み

食細胞抵抗因子(バイオフィルム形成等)

クオラムセンシング、制御因子

増殖因子(組織や細胞内での増殖)

Am J Respir Crit Care Med (2005)

多くの病原菌のゲノム解析が行われ、病原因子について遺伝子レベルでの理解が進んでいる。

近縁菌であれば、ゲノム解析によって病原遺伝子の有無を判別することによってリスクの評価(評価項目の絞り込み)が可能な時代に。

(5)

(100)

(68)

(73)

(7)

括弧内:病原性に関係する遺伝子の数

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バイレメの開始

日数

メタゲノム手法による微生物叢の解析と

生態系影響評価への応用

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ご清聴ありがとうございました