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生産要素の地域間移動と集積の経済を考慮した 空間応用一般均衡モデルの開発 高山 雄貴 1 ・赤松 隆 2 ・石倉 智樹 3 1 正会員 金沢大学准教授 理工研究域(〒 920-1192 石川県金沢市角間町) E-mail: [email protected] 2 正会員 東北大学教授 大学院情報科学研究科(〒 980-8579 宮城県仙台市青葉区荒巻字青葉 6-6-06E-mail: [email protected] 3 正会員 首都大学東京准教授 都市環境学部(〒 192-0397 東京都八王子市南大沢 1-1E-mail: [email protected] 本研究では,労働・資本・中間財といった 生産要素の地域間移動経済活動の集積の経済の両方を考 慮した空間応用一般均衡 (SCGE) モデルを開発する.そのために,新経済地理学分野で個別に構築されてきた, 労働・資本・中間財の地域間移動を考慮した一般均衡モデルを統合し,生産要素の移動と経済活動の空間的集 積現象を表現可能な SCGE モデルを構築する.そして,現実データと整合的な基準均衡状態を得るためのパラ メータ推定・キャリブレーション方法と,政策パラメータの変化に伴い基準均衡状態から創発する安定均衡状 態を得るための数値解析手法を提示する.最後に,日本を対象とした数値計算を実施し,開発した枠組みの特 性,解析手法の有用性を明らかにする. Key Words : spatial computable general equilibrium model, new economic geography, factor mobility, stability 1. はじめに (1) 背景と目的 社会基盤整備に代表される公共事業を適切かつ効果 的に実施するためには,政策形成 (i.e., 企画立案・決定) 段階において,その長期的・広域的な影響を可能な限 り正確かつ客観的に把握する必要がある.そのために は,政策実施に伴い,長期間・広範囲に渡って発現する (直接的・間接的な) 効果を合理的な手法によって定量 化することが重要となる.そこで,今日まで,多様な 政策の影響を予測・評価するための定量的モデルに関 する研究が,膨大に蓄積されてきた.そして,それら の成果により,幾つかの定量的モデルが実際の政策評 価で用いられるまでになっている. その代表的なモデルに,空間応用一般均衡 (Spatial Computable General Equilibrium, SCGE) モデルがあ る.このモデルは,応用一般均衡モデルに空間構造を 導入したものである.それゆえ,次に示すような,実 務への応用上,望ましい性質を持つことが知られてい : 「経済理論と矛盾しない形で便益を評価できる 1 」, 「政策の効果が経済主体 (e.g., 企業・労働者) 間で波及 1 便益評価に用いられる定量的モデルとミクロ経済学との整合性 確保は,(ミクロ経済学に基づく) 費用便益分析を論理一貫した 形で実施するのに不可欠である.それゆえ,金本ら 1) は,定 量的モデルのミクロ経済学との 完璧な理論的整合性政策 評価の信頼性確保のために最も重要であると述べている. していくプロセスを表現することができる 2 」,「政策効 果の空間分布 (i.e., 国・地域・都市ごとの効果) を把握 することができる」.すなわち,SCGE モデルを用い れば,経済理論と整合した形で,政策の直接的・間接 的な効果が,国・地域・都市といった空間単位ごと,企 業や労働者といった経済主体ごとに計測される.これ らの性質から理解できるように,SCGE モデルは,非 常に強力かつ有用な政策評価ツールであると言える. さらに,近年, Krugman 2), 3) 以降の新貿易理論 (New Trade Theory, NTT), 新経済地理学 (New Economic Geography, NEG) の発展に伴い,集積の経済を含む SCGE モデルが開発されるようになっている.多様な 企業が空間的に集積することで得られる正の外部効果 (i.e., 集積の経済) は,既に数多くの実証研究により確 認されている 3 .さらに,集積の経済が存在することに より生じる政策の間接的な効果 (e.g., 産業集積による 雇用創出・所得の増加) は,無視できるほど小さいもの ではないことも指摘されている 7) .それゆえ,集積の 経済を含む SCGE モデルの開発の重要性が広く認識さ れ,最近になり,その研究が急速に発展し始めている. しかし,これまでに開発された,集積の経済を含む 2 例えば,SCGE モデルは,交通施設整備による交通費用の低下 という (直接的) 効果が,産業立地・労働者所得の増加に繋がる (i.e., 間接的な効果を生み出す) ことを表現することができる. 3 実証研究の成果は,例えば, Rosenthal and Strange 4) , Combes et al. 5) , Glaeser 6) 参照. 土木学会論文集D3(土木計画学), Vol. 72, No. 2, 211-230, 2016. 211

生産要素の地域間移動と集積の経済を考慮した 空間応用一般 ...akamatsu/Publications/PDF/...生産要素の地域間移動と集積の経済を考慮した 空間応用一般均衡モデルの開発

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生産要素の地域間移動と集積の経済を考慮した空間応用一般均衡モデルの開発

高山 雄貴 1・赤松 隆 2・石倉 智樹 3

1正会員 金沢大学准教授 理工研究域(〒 920-1192 石川県金沢市角間町)E-mail: [email protected]

2正会員 東北大学教授 大学院情報科学研究科(〒 980-8579 宮城県仙台市青葉区荒巻字青葉 6-6-06)E-mail: [email protected]

3正会員 首都大学東京准教授 都市環境学部(〒 192-0397 東京都八王子市南大沢 1-1)E-mail: [email protected]

本研究では,労働・資本・中間財といった “生産要素の地域間移動”と “経済活動の集積の経済”の両方を考慮した空間応用一般均衡 (SCGE) モデルを開発する.そのために,新経済地理学分野で個別に構築されてきた,労働・資本・中間財の地域間移動を考慮した一般均衡モデルを統合し,生産要素の移動と経済活動の空間的集積現象を表現可能な SCGE モデルを構築する.そして,現実データと整合的な基準均衡状態を得るためのパラメータ推定・キャリブレーション方法と,政策パラメータの変化に伴い基準均衡状態から創発する安定均衡状態を得るための数値解析手法を提示する.最後に,日本を対象とした数値計算を実施し,開発した枠組みの特性,解析手法の有用性を明らかにする.

Key Words : spatial computable general equilibrium model, new economic geography, factor mobility,stability

1. はじめに

(1) 背景と目的

社会基盤整備に代表される公共事業を適切かつ効果

的に実施するためには,政策形成 (i.e., 企画立案・決定)

段階において,その長期的・広域的な影響を可能な限

り正確かつ客観的に把握する必要がある.そのために

は,政策実施に伴い,長期間・広範囲に渡って発現する

(直接的・間接的な) 効果を合理的な手法によって定量

化することが重要となる.そこで,今日まで,多様な

政策の影響を予測・評価するための定量的モデルに関

する研究が,膨大に蓄積されてきた.そして,それら

の成果により,幾つかの定量的モデルが実際の政策評

価で用いられるまでになっている.

その代表的なモデルに,空間応用一般均衡 (Spatial

Computable General Equilibrium, SCGE) モデルがあ

る.このモデルは,応用一般均衡モデルに空間構造を

導入したものである.それゆえ,次に示すような,実

務への応用上,望ましい性質を持つことが知られてい

る: 「経済理論と矛盾しない形で便益を評価できる 1」,

「政策の効果が経済主体 (e.g., 企業・労働者) 間で波及

1 便益評価に用いられる定量的モデルとミクロ経済学との整合性確保は,(ミクロ経済学に基づく) 費用便益分析を論理一貫した形で実施するのに不可欠である.それゆえ,金本ら 1) は,定量的モデルのミクロ経済学との “完璧な理論的整合性” が “政策評価の信頼性確保のために最も重要” であると述べている.

していくプロセスを表現することができる 2」,「政策効

果の空間分布 (i.e., 国・地域・都市ごとの効果) を把握

することができる」.すなわち,SCGE モデルを用い

れば,経済理論と整合した形で,政策の直接的・間接

的な効果が,国・地域・都市といった空間単位ごと,企

業や労働者といった経済主体ごとに計測される.これ

らの性質から理解できるように,SCGE モデルは,非

常に強力かつ有用な政策評価ツールであると言える.

さらに,近年,Krugman2), 3)以降の新貿易理論 (New

Trade Theory, NTT), 新経済地理学 (New Economic

Geography, NEG) の発展に伴い,集積の経済を含む

SCGE モデルが開発されるようになっている.多様な

企業が空間的に集積することで得られる正の外部効果

(i.e., 集積の経済) は,既に数多くの実証研究により確

認されている 3.さらに,集積の経済が存在することに

より生じる政策の間接的な効果 (e.g., 産業集積による

雇用創出・所得の増加) は,無視できるほど小さいもの

ではないことも指摘されている7).それゆえ,集積の

経済を含む SCGE モデルの開発の重要性が広く認識さ

れ,最近になり,その研究が急速に発展し始めている.

しかし,これまでに開発された,集積の経済を含む

2 例えば,SCGE モデルは,交通施設整備による交通費用の低下という (直接的) 効果が,産業立地・労働者所得の増加に繋がる(i.e., 間接的な効果を生み出す) ことを表現することができる.

3 実証研究の成果は,例えば,Rosenthal and Strange 4), Combeset al. 5), Glaeser 6) 参照.

土木学会論文集D3(土木計画学), Vol. 72, No. 2, 211-230, 2016.

211

SCGE モデルには,幾つかの課題が残されており,そ

れが公共事業の長期的な影響評価への適用を妨げてい

る.なかでも最も重要な課題の一つが,均衡状態の一

意性・計算可能性の確保のために置かれた,“空間単位

(都市・地域) 間の人口移動がない” という仮定である.

空間経済学分野の研究で示されているように,集積の

経済は,長期的には「人口集積が企業集積を呼び込み,

この企業集積がさらなる人口集積を誘発する」という

循環的な相互作用 (positive feedback) により著しく増

幅される.それゆえ,政策の長期的な効果は,この相

互作用から決定的な影響を受ける.それにも関わらず,

人口移動を無視した SCGE モデルでは,この循環的な

相互作用を表現することができない.

この課題を解決するための足掛かりとなる研究は,

NTT, NEG 分野で膨大に蓄積されている 4.そして,

現在では,生産要素の地域間移動と集積の経済を含む

一般均衡モデルの特性が,理論的に明らかにされるま

でになっている.しかしながら,それらの研究で解析

されている枠組みは,殆ど全て,地域間移動が可能な

生産要素が一種類のみ (i.e., 労働,資本, 中間財のみ),

産業が単一種類のみ,といった限定的なものとなってい

る.それゆえ,現実的な政策評価に適用可能な SCGE

モデルを開発するには,既存の NTT, NEG モデルの

単純な応用のみでは対応できず,複数種類のモデルを

適切に統合・拡張していく必要がある.

そこで,本研究では,労働・資本・中間財といった

“生産要素の地域間移動” と “集積の経済” を考慮した

SCGE モデルの実用化を目指す第一歩として,既存の

NTT, NEG モデルを統合・拡張した SCGE モデルを

開発する.より具体的には,労働の地域間移動 (人口移

動) を表現する Core–Periphery モデル3), 資本の地域

間移動を表現する Footloose Capital モデル11), 産業連

関構造を表現する Vertical Linkage モデル12) を統合・

拡張した SCGE モデルを構築する.その際,SCGE モ

デルとして現実に利用可能になるよう,上記 3種類の

理論モデルで用いられている非現実的な仮定 (e.g., 農

業財の輸送費用がゼロ,固定的な投入のみで財が生産

される) の緩和も同時に行う.

本研究では,さらに,構築した SCGE モデルのパラ

メータ設定方法,均衡状態の導出方法を提示する.具

体的には,産業連関表などの現実データと整合的な基

準均衡状態を得るためのパラメータ推定・キャリブレー

ション方法と,政策パラメータの変化に伴い基準均衡

状態から創発する安定均衡状態を得るための数値解析

手法を示す.そして,人口移動・集積の経済を考慮した

SCGE モデルの特性と,その解析手法の有用性を示す

4 NTT, NEG 分野の知見については,例えば,Fujita et al. 8),Baldwin et al. 9), Combes et al. 5), 佐藤ら 10) 参照.

ために,理想的な設定 (Fujita et al. 13) などと同様の

競技場経済システム) や日本を対象とした適用計算を実

施する.そして,人口移動と集積の経済を同時に考慮

することが,政策評価結果に本質的な違いを生み出し

うることを明らかにする.

本稿の構成は,以下の通りである.本章 (2)節では,

関連研究の成果と課題を整理したのち,本研究の位置づ

けを述べる.第 2章では,NEG 理論に基づいた SCGE

モデルを構築する.次に,第 3章において,実データ

を適用することができる形で,SCGE モデルの均衡条

件を定式化する.そして,政策パラメータの変化に伴

い,基準均衡状態から創発する安定均衡状態を得るた

めの計算手法を第 4章,パラメータの推定・キャリブ

レーション方法を第 5章にて示す.第 6章では,NEG

理論との整合性を確認するために,単純な例での安定

均衡状態の特性を示し,第 7章にて,日本の産業連関

表・国勢調査データを利用した適用計算を実施する.最

後に,第 8章で本研究の成果をまとめた後,今後の課

題を述べる.

(2) 関連研究と本研究の位置づけ

SCGE モデルに関する研究は,長年に渡り,膨大に

蓄積されている.そして,その中で,既存研究の知見の

整理や汎用性の高い枠組みの構築といった努力が,継

続的に行われてきた.その結果,現在では,SCGE モ

デルの基本形がほぼ完成し,それを基礎とした政策評

価が数多く実施されるまでになっている 5.さらに,前

述した 2つの仮定「人口移動・集積の経済の無視」を

緩和するための研究も,着実に蓄積されている.

集積の経済を含む SCGE モデルは,Krugman2), 3)

以降の新貿易理論 (New Trade Theory, NTT), NEG

の発展に伴い,国内外で数多く構築されている: 例え

ば,Brocker 15), Venables and Gasiorek 16), Knaap and

Oosterhaven 17), Thissen et al. 18),国内の研究では,久

武・山崎 19), 佐藤ら 20), 石倉 21), 高山ら 22).しかし,

これらの研究では,労働の地域間移動を無視している.

さらに,集積の経済を含むモデルには,一般に複数の

均衡状態が存在するにもかかわらず,高山ら 22) を除

く研究 6 では,その安定性が確認されていない.すな

わち,これらの研究で得られた知見・結果は,(実際に

は創発し得ない) 不安定均衡状態を評価したものである

可能性があり,その信頼性・妥当性に疑問が残る.ま

た,NEG とは枠組みが異なるものの,集積の経済・労

5 SCGE モデルが政策評価ツールとして普及する一方で,その枠組みが一見複雑であることもあり,実務家の誤解や専門家とのコミュニケーション不足に起因した課題も出てきている.これらの詳細については,佐藤ら 14) 参照.

6 高山ら 22) は,進化ゲーム理論に基づく手法を用いることで,政策パラメータの変化に伴い基準均衡状態から創発する安定均衡状態を得ることに成功している.

土木学会論文集D3(土木計画学), Vol. 72, No. 2, 211-230, 2016.

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働の地域間移動を考慮した SCGE モデルも,Mun 23),

小池・川本 24) により構築されている.しかし,これ

らの枠組みは,財の生産要素が労働と資本のみである

などの単純化がなされており,既存の SCGE モデルと

は大きく異なったモデル構造となっている.

これらの研究と比較して,本研究は,集積の経済と

労働・資本・中間財といった生産要素の地域・産業間

移動を含む SCGE モデルを構築している点に特徴が

ある.このモデルは,NTT, NEG 分野の代表的なモ

デルであり,その理論的特性が既に良く知られている,

Core–Peripheryモデル3), Footloose Capitalモデル11),

Vertical Linkageモデル12) を基礎とした枠組みである.

それゆえ,本稿でも行われているように,モデルのバ

リデーションが容易であるという利点がある.さらに,

高山ら 22) と同様,進化ゲーム理論に基づく手法を利

用することで,政策パラメータの変化に伴い創発する

安定均衡状態が得られることも保証されている.

また,本研究で提案される枠組みには,集積の経済を

考慮した既存の SCGE モデルと比較して,その応用範

囲が広いという特徴もある.前述のとおり,本稿では,

3種類の生産要素の地域間移動を考慮した SCGE モデ

ルを開発するとともに,そのパラメータ設定・安定均

衡解導出のためのシステマティックかつ実行可能な方法

を提示している.それゆえ,政策評価時の必要に応じ

たモデルの改良が容易に実施できる.例えば,政策評

価の対象・内容によっては,より簡略化されたモデル

構造 (e.g., 資本市場の捨象,一部の市場の完全競争化)

の方が望ましいという状況が生じることが想定される.

この対応は,本稿で提示される枠組みの簡略化により,

極めて容易に実現できる.さらに,我々のモデルの基

本構造は,第 3章 図–1でも示しているとおり,極力,

単純なものとなるようにしている.この特徴から,多

様な政策評価への適用実績がある (集積の経済を考慮し

ていない) 従来型 SCGE モデルの基本構造を,本稿の

枠組みに置き換えることも容易である.したがって,本

研究を足掛かりにさらなる研究が蓄積されれば,これ

まで SCGE モデルを (直接的には) 用いることができ

なかった政策の影響 (e.g., 大規模交通施設整備の長期

的な影響) を予測・評価するための,新たな合理的手法

の構築・確立に繋がると期待できる 7.

2. 生産要素の地域間移動を考慮した空間応用一般均衡モデル

本章では,Core–Peripheryモデル, Footloose Capital

モデル, Vertical Linkage モデルに基づく,空間応用一7 本稿で提示した SCGE モデルの実用化のためには,数多くの課題解決が必須である.例えば,実現象とモデル挙動を整合化させるための鍵となる条件の解明は,最重要課題の一つであろう.

般均衡モデルを構築する.

(1) 地域・経済環境の設定

離散的なA箇所の地域が存在する経済システムを考え

る 8.この経済には,I種類の産業が存在する.各々の産

業は独占競争的であり,各産業の企業は,収穫逓増の技

術により,労働・資本・中間財を生産要素として,差別化さ

れた財を生産する.以降では,産業 i ∈ I ≡ {1, 2, · · · , I}の企業が生産する財を “財 i”と表す.本モデルでは,規

模の経済,消費者の多様性選好,ならびに供給できる

財の種類 (バラエティ)に制限がないことから,どの企

業も必ず他企業とは異なる種類の財を生産する.その

ため,地域 aで生産を行う企業の数は,供給される財 i

の種類数 niaに等しい.また,この財 iは,地域間輸送

ネットワークにより任意の地域に供給でき,その際の

輸送費用は氷塊費用の形をとる.

消費者は,地域全体に固定的に N 存在し,居住する

地域 a ∈ A ≡ {1, 2, · · · , A}を選択することができる.また,各消費者は,1単位の労働に加え,κa 単位の資

本を所有しており 9,それらを非弾力的に供給する.そ

れゆえ,所得は賃金所得と資本所得からなる.労働は

自地域のみにしか供給できない 10一方,資本は自地域

のみならず他地域へも (追加的な費用なしで) 自由に投

資することができると仮定する 11.

(2) 消費者行動

本稿では,産業 i ∈ I に従事し,資本を地域 aの産

業 iに供給する消費者を “消費者 {i, a, i}”と表す.ただし,以降では,x = {i, a, i} と定義し,表記の簡略化のため,誤解のない範囲で x を用いた表現をする.

すべての消費者は,財 j ∈ I に対して同一の選好を有すると仮定する.また,地域 a ∈ Aに居住する消費者 x ∈ X ≡ {x = {i, a, i} | a ∈ A, i, i ∈ I} の効用関数u({cja,x })は,次の準線形効用関数を用いる:

u({cja,x }) =∑j∈I

µj ln[cja,x

], (1)

ここで,µi ∈ (0, 1]は消費者の財 iへの支出割合を表す

定数であり,∑

i µi = 1が成立する.また,cja,x は差別

化された財 j の消費により得られる部分効用を表して

8 本稿で構築する SCGE モデルは,一国内に存在する複数の地域を対象としており,国外への輸出入は無視している.

9 消費者の資本の所有量が地域毎に異なるという仮定を導入したのは,地域全体の総資本量と人口が必ずしも比例しないためである.

10 この仮定を導入することから,実証分析では都市・地域を単純に行政圏で定義するのではなく,都市雇用圏25) を用いるべきであると考えられる.

11 この仮定は,本研究が資本として想定しているのが,工場設備等ではなく,金融資産などの地域間を自由に移動可能なものであることを意味している.

土木学会論文集D3(土木計画学), Vol. 72, No. 2, 211-230, 2016.

213

おり,次の CES 関数により定義する:

cja,x =

[∑b∈A

∫ njb

0

{qjba,x (ν)

}σj−1

σj

] σj

σj−1

. (2)

ここで,ν は財の種類 (バラエティ)を表すインデック

スであり,常にその種類が連続的かつ無限に存在する

と仮定するため,連続変数とする.また,qjba,x (ν)は,

地域 bで生産され,地域 aの消費者 x により消費され

る財 j のバラエティν の消費量,njb は地域 bで生産さ

れた財 jの種類 (バラエティ)数,σj > 1 は財 jの代替

の弾力性である.

消費者の予算制約式は以下の通りとなる:∑j∈I

∑b∈A

∫ njb

0

pjba(ν)qjba,x (ν) dν = ya,x . (3)

ここで,ya,x は消費者 x = {i, a, i}の所得,pjba(ν) は地域 bで生産され,地域 aの消費者 x により消費され

る財 jのバラエティνの価格である.なお,地域 aの消

費者 x = {i, a, i}の所得は賃金所得と資本所得の和で与えられるため,ya,x (= ya,{i,a,i})は地域 aの産業 iの

企業が支払う賃金 wiaと,地域 aの産業 iの企業が支払

う資本レント ria により表すことができる:

ya,{i,a,i} = wia + κar

ia. (4)

効用最大化問題は,選好が財 j ∈ I毎に分割可能であり,かつ財 j の部分効用関数 cja,x が qjba,x (ν)に関して

homothetic であるため,2段階の問題へと変換できる:

[下位問題]

min{qjba,x

(ν)}

∑b∈A

∫ njb

0

pjba(ν)qjba,x (ν) dν, s.t. (2), (5a)

[上位問題]

max{cja,x }

∑j∈I

µj ln[cja,x

], s.t.

∑j∈I

ρjacja,x = ya,x . (5b)

ここで,ρja は地域 aでの財 j の価格指数である:

ρja =

[∑b∈A

∫ njb

0

{pjba(ν)

}1−σj

] 1

1−σj

. (6)

この効用最大化問題 (5)を解くことにより,財 jの消費

量が価格 pjba(ν),所得 yx の関数として,次のように導

出される:

cja,x = µj ya,x

ρja, qjba,x (ν) =

[pjba(ν)/ρ

ja

]−σj

cja,x . (7)

(3) 企業行動

各地域・各産業の企業は,前述したように,Dixit and

Stiglitz 26)型の独占的競争を行う.すなわち,自由に参

入・撤退できると仮定した企業が,収穫逓増の技術によ

り差別化された財を生産する.具体的には,産業 i ∈ Iの企業 ν が財 iのバラエティν を生産するには,生産

要素 (労働・資本・中間財の合成財)を固定的に 1単位

と,生産量 sia(ν)に応じて βias

ia(ν)単位投入する必要

がある:{lia(ν)

}ηia{kia(ν)

}γia∏j∈I

{zjia (ν)}αjia = 1 + βi

asia(ν).

(8)

ここで,lia(ν), kia(ν) は地域 a の産業 i の企業 ν が投

入する労働量と資本量,zjia (ν) は財 j の中間投入量,

ηia, γia, α

jia ∈ [0, 1] は,各々,労働・資本・中間財 jの投

入割合を表すパラメータであり,ηia+γia+

∑j∈I α

jia = 1

を満たす.この中間投入量 zjia (ν)は,地域 bの企業 ν

が生産する財 j の中間投入量 zjiba(ν, ν)を代替の弾力性

σj を用いて集計した次の関数で定義する:

zjia (ν) =

[∑b∈A

∫ njb

0

{zjiba(ν, ν)

}σj−1

σj

] σj

σj−1

. (9)

財 iの輸送には,氷塊費用の形をとる費用がかかる 12.

すなわち,地域 aから bに 1単位の財 iを輸送すると,

最初の 1単位のうち 1/τ iab単位だけが実際に到着し,残

りは溶けてしまう (溶けた分が輸送費用) と考える.そ

のため,地域 aで生産された財 iの (労働者・企業の)

地域 bにおける需要量 xiab(ν)と供給量 sia(ν)との間に,

次の関係が成立する:

sia(ν) =∑b∈A

τ iabxiab(ν), (10a)

xiab(ν) =∑x∈X

qiab,x (ν)Nb,x +∑j∈I

∫ njb

0

zijab(ν, ν)dν.

(10b)

ここで,Nb,x は地域 bの消費者 x = {i, a, i} (i.e., 地域

bの産業 iの企業に労働,地域 aの産業 iの企業に資本

を供給する消費者) の人数である.

地域 aの各産業の企業は,独占的競争を仮定してい

るため,地域 b の消費者 x の需要関数 qjab,x (ν),他企

業 ν からの需要関数 zijab(ν, ν)を所与として,自ら生産

する財 iの価格 piab(ν)と労働・資本・中間財の投入量

lia(ν), kia(ν), {z

jiba(ν, ν)}を設定する 13.その利潤最大化

行動は,次のように定式化できる:

maxpiab(ν),l

ia(ν),k

ia(ν),{zji

ba(ν,ν)}πia(ν) s.t. (7), (8), (9), (10).

(11)

ここで,πia(ν)は利潤を表し,収入から労働・資本・中

12 本稿では,単純なモデル構造・NEG との整合性を確保するために,輸送部門を導入せず氷塊費用を採用した.しかし,宮城 27)

などで指摘されているように,この設定は,交通インフラ整備等の効果が輸送部門の投入・産出構造に与える変化を完全に無視していることになる.それゆえ,評価対象となる政策に応じて,本モデルに輸送部門を導入することが重要であろう.

13 Dixit and Stiglitz 26) 型の独占的競争であるため,1 企業の価格設定 piab(ν) が価格指数 ρia に与える影響は無視できる.

土木学会論文集D3(土木計画学), Vol. 72, No. 2, 211-230, 2016.

214

間財の費用を引いた,以下の形で与えられる:

πia(ν) =

∑b∈A

piab(ν)xiab(ν)− wi

alia(ν)− riak

ia(ν)

−∑j∈I

∑b∈A

∫ njb

0

pjba(ν) zjiba(ν, ν) dν. (12)

この利潤最大化問題 (11)も,効用最大化問題と同様の

理由で次の 2段階の問題へと変換できる:

[下位問題]

min{zji

ba(ν,ν)}

∑b∈A

∫ njb

0

pjba(ν) zjiba(ν, ν) dν s.t. (9), (13a)

[上位問題]

maxpiab(ν),l

ia(ν),{zji

a (ν)}

∑b∈A

piab(ν)xiab(ν)− wi

alia(ν)

− riakia(ν)−

∑j∈I

ρjazjia (ν)

s.t. (7), (8), (10), (14). (13b)

下位問題により,地域 bで生産される中間財の需要

zjiba(ν, ν)が与えられる:

zjiba(ν, ν) =[pjba(ν)/ρ

ja

]−σj

zjia (ν). (14)

この需要関数を与件として上位問題を解くと,財 iの

価格 piab(ν),中間要素の投入量 lia(ν), kia(ν), z

jia (ν)が次

のように得られる:

piab(ν) =βiaσ

i

σi − 1τ iabϕ

ia, (15a)

ϕia =

[wi

a

ηia

]ηia[riaγia

]γia ∏j∈I

[ρja

αjia

]αjia

, (15b)

lia(ν) =ηiawi

a

[1 + βi

a

∑b∈A

τ iabxiab

]ϕia, (15c)

kia(ν) =γiaria

[1 + βi

a

∑b∈A

τ iabxiab

]ϕia, (15d)

zjia (ν) =αjia

ρja

[1 + βi

a

∑b∈A

τ iabxiab

]ϕia. (15e)

ここで,ϕia は生産要素の価格指数を表す.

この結果から明らかなように,財 iの価格 piab(ν)は財

iの種類 νに依存しない.したがって,qjbx (ν), zijab(ν, ν),

zija (ν), sia(ν), lia(ν), k

ia(ν)も,同様に,種類 ν, νに依存

しない.そこで,以降では,ν, νを省略し,piab, qjbx , z

ijab,

zija , sia, lia, k

iaと表記する.この結果から,財 i の価格

指数 ρia は次のように与えられる:

ρia =

[∑b∈A

∫ nib

0

{piba

}1−σi

df

] 1

1−σi

=

[∑b∈A

nib

{βibσ

i

σi − 1τ ibaϕ

ib

}1−σi] 1

1−σi

. (16)

以上の結果から,産業 iの企業の利潤 πiaは,次のよ

うに表される:

πia =

βia

σi − 1ϕias

ia − ϕia. (17)

さらに,利潤ゼロ条件より,供給量 sia は,

sia =∑b∈A

τ iabxiab =

σi − 1

βia

(18)

となる.したがって,財 iを生産する企業による中間要

素投入量 1 + βias

ia は,次の通り得られる:

1 + βias

ia = σi. (19)

3. 均衡条件

SCGEモデルで用いる産業連関表等のデータは,“個

人や企業の財の取引量”ではなく,常に “地域内・地域

間の総取引額”で与えられる.したがって,SCGEモデ

ルにより決定される多くの変数も,地域内・地域間の

総取引額として表現する必要がある.具体的には,地

域 aでの財 iの生産・需要量,地域 a, b間の財の輸送量

は,全て “量”ではなく “金額”により表す必要がある.

そこで,本節では,まず最初に,前章で示した SCGE

モデルから得られた “個人・一企業の取引量”を表す変

数を,“地域内・地域間の総取引額”を表す変数に変換

する.その後,それらの変数を用いて,労働・資本・財

i ∈ I の需給均衡条件を示す.なお,本章で定義する取引額に関する変数やパラメー

タは,その種類が多いことから,付録 IIの一覧表 (表–3,

4) において整理されている.

(1) 数量から取引額への変換

a) 消費者行動により得られる変数の変換

最初に,消費者行動により得られる変数を考える.こ

こでは,個人の消費量を表す変数を,地域全体の消費

額を表す変数へと変換する.より具体的には,地域 a

の消費者 x = {i, a, i}の財 iの消費量を表す cja,x , qjba,x

を,地域 aの消費者 x 全体の財 j の消費額Dja,x , d

jba,x

に変換する.そのために,式 (7)が,次のように表現で

きることに注目しよう:

ρjacja,x = µjyx = µj

(wi

a + κaria

), (20a)

njbpjbaq

jba,x =

[pjba/ρ

ja

]1−σj

njbρjac

ja,x . (20b)

全ての関係式は単一の消費者に関するものであるため,

両辺をNa,x 倍することで地域全体の取引額を表すこと

ができる:

Dja,x = µjyxNa,x , (21a)

djba,x =[pjba/ρ

ja

]1−σj

njbDja,x . (21b)

土木学会論文集D3(土木計画学), Vol. 72, No. 2, 211-230, 2016.

215

b) 企業行動により得られる変数の変換

次に,産業 iの企業行動により得られる変数を考えよ

う.ここでは,地域 a・産業 iの各企業の供給量 sia,労

働・資本・財 j への投入量 lia, kia, z

jia , z

jibaを,総生産額

Sia,労働・資本・財 j への総投入額W i

a,Kia,M

jia ,m

jiba

により表現する.一企業当たりの生産額 (i.e., 収入額),

(14), (15), (19) は,∑b∈A

piabxiab =

βiaσ

i

σi − 1ϕias

ia, (22a)

(1 + βias

ia)ϕ

ia = σiϕia, (22b)

wial

ia = ηia(1 + βi

asia)ϕ

ia, (22c)

riakia = γia(1 + βi

asia)ϕ

ia, (22d)

ρjazjia = αji

a (1 + βias

ia)ϕ

ia, (22e)

njbpjbaz

jiba =

{pjba/ρ

ja

}1−σj

njbρjaz

jia , (22f)

と表される.したがって,両辺を nia倍することで,次

の関係式が得られる:

Sia = σiniaϕ

ia, W i

a = ηiaSia, (23a)

Kia = γiaS

ia, M ji

a = αjia S

ia, (23b)

mjiba =

[pjba/ρ

ja

]1−σj

njbMjia . (23c)

(2) 均衡条件

前節では,数量を表す変数を取引額に関する変数に

変換した.そこで,本節では,取引額を表す変数を利

用した形で,モデルの均衡条件を定式化する.

本稿では,NEG理論と同様,財・労働・資本市場は,

消費者が居住地や生産要素 (労働と資本) の供給先を変

更できないほど短期間で均衡し,長期的には消費者は

自らの得る効用を最大化するように居住地・生産要素

の供給先を選択すると仮定する 14.すなわち,均衡状

態を,Na,x を与件とした状況下で財・労働・資本市場

が均衡する “短期均衡状態”と,消費者の居住地・生産

要素供給先 (地域・産業) 選択均衡条件を満たす “長期

均衡状態”の 2段階に分ける.そこで,本節では短期均

衡条件・長期均衡条件を順に示す.

なお,本モデルの変数は,全体で 8AI+AI2+3A2I2+

A2I3 +A3I3存在する: 地域 aの産業 iに労働・地域 a

の産業 iに資本を供給する消費者 x = {i, a, i}の財 jの

最終需要額Dja,x (A2I3個),地域 aの消費者 x による地

域 bから輸送される財 j の最終需要額 djba,x (A3I3個),

財 iの総供給額 Sia (AI個),産業 iの企業の労働への総

需要額W ia (AI個),資本への総需要額Ki

a (AI個),産14 資本の供給先選択は,居住地や労働の供給先選択と比較すると,より短期的な選択行動であると考えられる.ただし,本稿では,複数種類存在する均衡状態の中から効率的に安定的なものを得るために,資本の供給先選択を長期均衡条件として定式化した.なお,本稿で提案した枠組みの他に,資本の供給先選択を短期・長期の間に位置する中期的な行動とすることも考えられる.

業 i の企業の財 j への中間需要額M jia (AI2 個),地域

bから aに輸送される財 j への中間需要額M jiba (A2I2

個),産業 iに従事する消費者の賃金 wia (AI 個),資本

レント ria (AI 個),消費者 x の所得 ya,x (A2I2個) 財 i

の価格指数 ρia (AI個),産業 iの企業が投入する生産要

素の価格指数 ϕia (AI 個),産業 iの企業数 nia (AI 個),

地域 aの消費者 x の人口 Na,x (A2I2 個).そこで,以

降では,未知変数分の短期・長期均衡条件を示す.

a) 短期均衡条件

まず,各財・労働市場の均衡条件を示す.財・労働

市場に関する変数間の関係式は,前節で得られた条件

(4), (15b), (16), (21), (23)から,5AI+AI2+2A2I2+

A2I3 +A3I3 だけ与えられる:

ϕia =

[wi

a

ηia

]ηia[riaγia

]γia ∏j∈I

[ρja

αjia

]αjia

, (24a)

ρia =

[∑b∈A

nib{ψibτ

ibaϕ

ib

}1−σi

]1/(1−σi)

, (24b)

Dja,x = µjya,xNa,x , (24c)

djba,x =[ψjbτ

jbaϕ

jb/ρ

ja

]1−σj

njbDja,x , (24d)

W ia = ηiaS

ia, (24e)

Kia = γiaS

ia (24f)

ya,{i,a,i} = wia + κar

ia, (24g)

M jia = αji

a Sia, (24h)

mjiba =

[ψjbτ

jbaϕ

jb/ρ

ja

]1−σj

njbMjia , (24i)

Sia = σiniaϕ

ia. (24j)

ここで,ψjb = βj

bσj/(σj−1)である.そこで,以降では,

条件 (24)に加えて短期均衡状態が満たす,(i.e., Na,x に

関する条件以外の) 3AI の条件を示す.

各地域での労働の需給均衡条件

最初に,各地域の労働の需給均衡条件を示す.地域

a・産業 iの労働需要額はW ia,供給額は,地域 a・産業

iの労働供給量が∑

a

∑iNa,{i,a,i} で与えられるため,

wia

∑a

∑iNa,{i,a,i} となる.したがって,この条件は

以下で表される:

W ia = wi

a

∑a∈A

∑i∈I

Na,{i,a,i}. (25)

各地域での資本の需給均衡条件

次に,各地域の資本の需給均衡条件を示す.地域 a・産

業 iの資本需要額はK ia,供給額は ria

∑a

∑i κaNa,{i,a,i}

で与えられるため,この条件は以下で表される:

K ia = ria

∑a∈A

∑i∈I

κaNa,{i,a,i}. (26)

各地域での財 iの需給均衡条件

土木学会論文集D3(土木計画学), Vol. 72, No. 2, 211-230, 2016.

216

図–1 主体間の労働・資本・財 i ∈ I の取引関係の模式図 (矢印は金銭の流れる方向を表す)

均衡状態では,地域 aで生産する財 iの総供給額は,

財 iの最終需要額・中間需要額の合計と一致する:

Sia =

∑b∈A

∑x∈X

diab,x +∑j∈I

mijab

. (27)

以上で示した短期均衡状態における主体間の労働・資

本・財 i ∈ I の取引関係は,図–1 に示すとおりである.

なお,図の実線の矢印は財,破線は労働,鎖線は資本

に関する金銭の移動を表す.

b) 長期均衡条件

次に,消費者の居住地域,労働・資本の供給先選択に関

する長期均衡条件を示す.地域 aの消費者 x = {i, a, i}は,より高い効用が得られる居住地 aと,労働・資本

の供給先を選択する.ただし,NEG モデルでは,全消

費者が均質,かつ地域間を自由に移動できる場合,(い

わゆる no black-hole 条件を満足することができないた

め) 常に消費者・産業が一地域に集中する状態のみが安

定均衡状態となる.さらに,Helpman 28) モデルの分析

をした Akamatsu et al. 29) で示されているように,通

勤コストや地代の導入のみでは,この問題は完全には

解消できない.

そこで,本研究では,構築したモデルが (現実的な)

複数の人口・産業集積地の創発を表現できるよう,消費

者の居住地選択と労働・資本の供給先選択行動に異質

性を導入するとともに,消費者の移住 (労働の地域間移

動) を一部制限する.具体的には,本稿では,全消費者

が居住する地域を自由に選択できるわけではなく,一

定割合 λの消費者しか地域間移動ができないと仮定す

る.さらに,消費者の異質性を導入し,消費者の居住

地,労働・資本の供給先に関する選択行動が nested logit

modelにより表現される状況を考える.その際,nested

logit model と経済理論とを整合化させるために,消費

者選択に関する階層構造は,事前に定義するのではな

く,(現実データを用いて推定された) 居住地・労働・資

本の供給先選択に関する分散パラメータ θA, θL, θC の

大きさに応じて定義する.具体的には,分散パラメータ

が最小となる選択を最上位,最大となる選択を最下位

と設定する.このとき,長期均衡状態Na,{i,a,i}は,次

の条件により与えられる:

Na,{i,a,i} = Na,{i,a,i} + Na,{i,a,i}, (28a)Na,{i,a,i} = Pa,{i,a,i}λN,

Pa,{i,a,i} = P1 · P2 · P3,(28b)

Na,{i,a,i} = Pa,{i,a,i}Na,

Pa,{i,a,i} = P1 · P2.(28c)

ここで,Na,{i,a,i}, Na,{i,a,i} は,地域間を移住可能・不

可能な地域 aの消費者 {i, a, i} の人数,Naは移住不可

能な消費者の地域 a人口であり,

Na =∑i∈I

∑a∈A

∑i∈I

Na,{i,a,i}, (28d)

(1− λ)N =∑a∈A

Na (28e)

を満足する.また,P1, P2, P3, P1, P2 は各階層の選択

確率を表しており,θA, θL, θC の大きさに応じた形で

与えられる.具体的には,θL < θC < θA となるケース

では,これらの確率は以下で表される (その他のケース

については付録 I参照):

P1 = PL(V (i) + ζi), (29a)

P2 = PC(V (a, i|i) + ζ ia), (29b)

P3 = PA(v(a|i, a, i) + ζa). (29c)

PL(V (i) + ζi), PC(V (a, i|i) + ζ ia), PA(v(a|i, a, i) + ζa)

は,各々,地域間移動が可能な労働者の労働供給先・資

本供給先・居住地の選択確率である:

PL(V (i) + ζi) =exp[θL(V (i) + ζi)]∑j exp[θ

L(V (j) + ζj)], (30a)

PC(V (a, i|i) + ζ ia) =exp[θC(V (a, i|i) + ζ ia)]∑

b

∑j exp[θ

C(V (b, j|i) + ζ jb)],

(30b)

土木学会論文集D3(土木計画学), Vol. 72, No. 2, 211-230, 2016.

217

PA(v(a|i, a, i) + ζa) =exp[θA(v(a|i, a, i) + ζa)]∑b exp[θ

A(v(b|i, a, i) + ζb)].

(30c)

また,V (i), V (a|i), V (a, i|i), v(b|i, a, i) は,各選択階層の期待最大効用であり,以下で与えられる:

V (i) =1

θCln

∑b∈A

∑j∈I

exp[θC

{V (b, j|i) + ζjb

}] ,(31a)

V (a, i|i) = 1

θAln

[∑b∈A

exp[θA

{vb,{i,a,i} + ζb

}]],

(31b)

v(b|i, a, i) = vb,{i,a,i}, (31c)

va,x =∑j∈I

µj{ln

[µj

]− ln

[ρja

]+ ln [ya,x ]

}. (31d)

P1, P2 は,各々,地域間移動ができない労働者の労働・

資本供給先の選択確率であり,下記で表される:

P1 = PL(V (i|a) + ζi), (32a)

P2 = PC(v(a, i|a, i) + ζ ia), (32b)

V (i|a) = 1

θCln

∑b∈A

∑j∈I

exp[θC

{va,{i,b,j} + ζjb

}] .(32c)

なお,ζa, ζi, ζ ia, ζi, ζ ia は,地域・産業固有の効用項で

あり,第 5章で示される手順により,実データが均衡

条件を満たすような値に設定される 15.

4. 均衡状態の解法手順

NEGモデルには,安定・不安定な複数の長期均衡状

態が存在することが知られている.そこで,本章では,

前節で得られた均衡条件を満たす,安定的な均衡状態

を求める方法を示す.

(1) 短期均衡状態の導出

まず,短期均衡状態は,次の非線形連立方程式の解

として得られる:

ϕiaψia

=

[Sia

NLa,i

]ηia[

Sia∑

a

∑i κaNa,{i,a,i}

]γia ∏j∈I

[ρja

αjia

]αjia

,

(33a){ρia

}1−σi

=∑b∈A

nib

{τ ibaϕ

ib

}1−σi

, (33b)

Sia = σinia

ϕiaψia

, (33c)

15 これらの項 ζa, ζi, ζ ia を考えることは,効用 va,{i,a,i} に確定

的効用項 ζa,{i,a,i} = ζa + ζi + ζ ia を導入することと一致する.

Sia =

∑b∈A

nia

{τ iabϕ

ia

}1−σi

{ρib}1−σi

µiYb +∑j∈I

αijb S

jb

.(33d)

ここで,ϕia = ψiϕia,NLa,iは,地域 a,産業 iに供給さ

れる労働者数を表しており,以下で与えられる.

NLa,i =

∑a∈A

∑i∈I

Na,{i,a,i}, (34)

また,Yb は地域 bの消費者の総所得である:

Yb =∑x∈X

yb,xNb,x

=∑i∈I

ηibSib +

∑a∈A

∑i∈I

κbγiaS

iaNb,{i,a,i}∑

a

∑i κaNa,{i,a,i}

. (35)

この非線形連立方程式の未知変数は ϕia, ρia, n

ia, S

ia

(4AI 個) のみである.前節で示した残りの未知変数は,

均衡条件 (24), (25), (26)に連立方程式の解を代入する

ことで容易に得られる.ただし,これらの条件式は,正

確には,ワルラス法則の存在により,4AI − 1 の独立

な方程式にしかならない.したがって,ある変数を基

準化し (ニューメレールとし),連立方程式を解かなけ

ればならないことに注意が必要である.

(2) 長期均衡状態の導出

長期均衡状態 Na,x は,短期均衡状態として得られる

ρia, wia, r

iaを利用し,条件 (28)を解くことで得られる.

ただし,NEG分野で良く知られているように,この長

期均衡状態Na,x は安定・不安定なものが複数存在する.

そこで,本稿では,次の調整ダイナミクスを利用して,

安定的な均衡状態 Na,x を導出する:

dNa,x

dt=dNa,x

dt+dNa,x

dt, (36a)

dNa,x

dt= Pa,xλN − Na,x , (36b)

dNa,x

dt= Pa,x Na − Na,x . (36c)

なお,この調整ダイナミクスは,進化ゲーム理論30), 31)

でその特性が良く知られている logit dynamicを nested

logit 型に拡張したものと対応している.この安定的な

長期均衡状態の導出過程は,図–2 で模式的に示すとお

りである.

この調整ダイナミクスを利用した安定的な均衡状態

を導出する手順は,次の通りとなる 16:

step 0: 消費者による居住地・生産要素供給先に関

する選択の初期状態N (0) = {N (0)a,x } を設定.

16 大規模な空間経済を考える場合は,Akamatsu et al. 32) により提案されている Fukushima 33) 型の merit 関数を用いたアプローチにより計算効率を向上させることができる.

土木学会論文集D3(土木計画学), Vol. 72, No. 2, 211-230, 2016.

218

Input: 間接効用関数

長期均衡条件 (調整ダイナミクス)

Output: 安定均衡状態

Input: 地域別の労働者 人口

短期均衡条件 (各市場の需給均衡条件)

Output: 労働・資本・財の価格(間接効用関数)

図–2 長期均衡状態の導出過程: 長期・短期均衡状態の関係

step 1: n−1回目の計算で得られた N (n−1) を利

用して短期均衡条件 (33) を解く.

step 2: 以下で示すように,調整ダイナミクス方向

に居住地・生産要素供給先N (n) を改訂する:

N (n)a,x = N (n−1)

a,x + ∆(n−1)a,x , (37a)

N (n)a,x = N (n−1)

a,x + ∆(n−1)a,x , (37b)

∆(n)a,x = δ

{Pa,x (N

(n))λN −N (n)a,x

}, (37c)

∆(n)a,x = δ

{Pa,x (N

(n))Na − N (n)a,x

}. (37d)

ここで,δは調整ダイナミクス方向への均衡解

の変化の度合を表すパラメータ,Pa,x (N(n)),

Pa,x (N(n))はN (n)の下で得られる Pa,x , Pa,x

である.

step 3: ∥N (n) −N (n−1)∥ ≤ ϵ であれば計算終了.

そうでなければ,n := n− 1として step 1に

戻る.

logit dynamic は,任意の状態から安定均衡状態へと収

束する解軌跡が唯一であることが知られている (e.g.,

Sandholm 31)).したがって,構築した SCGEモデルに

は複数の安定均衡状態が存在し得るものの,本研究で

提案する安定均衡状態の導出方法は,政策実施に伴い

基準均衡状態から創発する状態を正しく捉えることが

できると考えられる.

5. パラメータ設定方法

本モデルの基準均衡状態を実データと整合的にする

ためには,モデル・パラメータを推定・キャリブレー

トする必要がある.そこで本節では,データからその

数値が得られる W ia, K

ia, S

ia, M

ija , Ya が基準均衡状態

(i.e., 政策を実施していない状況下での均衡状態) とな

るような,短期・長期均衡条件に関係するパラメータ

の推定・キャリブレート方法を順に説明する.

(1) 短期均衡条件に関係するパラメータ

本節では,短期均衡条件に関係するパラメータ αija ,

ηia, γia, τ

iab, σ

i, µi, Na,x , Na,x , Na,x , κa, ψiaのキャリブ

レーション方法を示しておこう.以降で用いる基準均

衡データは,2005年の各地域の産業連関表から得られ

る,地域・産業別生産額 Sia,賃金 (家計外消費支出と

雇用者所得の和で与える) W ia,資本レント (営業余剰,

資本減耗引当,間接税,経常補助金の和で与える) Kia,

中間投入額M ija ,最終消費額 Ya である 17.

パラメータ αija , η

ia, γ

iaは,2005年の各地域の産業連

関表データから,その値を設定する.具体的には,αija ,

ηia, γiaは,各々,地域 a・産業 iの中間投入総額に占め

る財 jの中間投入額,労働,資本 (付加価値から家計外

消費支出・雇用者所得を除いたもの) の割合を用いる.

次に,輸送費用に関するパラメータ τ iab を考えよう.

このパラメータは,容易にデータを得ることができな

いことから,Head and Ries 34), Combes et al. 5) と同

様の方法で推定する.より具体的には,まず,通常の

NEGモデルと同様,同一地域への財の輸送には費用が

かからず (i.e., τ iaa = 1 ∀a ∈ A, i ∈ I),2地域間の輸送

費用は対称であると仮定する (i.e., τ iab = τ iba).このと

き,式 (24)を用いると,{τ iab}1−σi

が次のように与え

られることを利用する:

{τ iab

}1−σi

=

√√√√√(diab +

∑j m

ijab

)(diba +

∑j m

ijba

)(diaa +

∑j m

ijaa

)(dibb +

∑j m

ijbb

) .(38)

ここで,diab =∑

x diab,x である.この関係を利用すれば,

(通常の方法では得られない) 輸送費用 {τ iab}1−σi

に関

するデータが,地域間輸送額に関するデータから得ら

れる.そこで,{τ iab}1−σi

は,地域間の移動時間 t(a, b)

(単位は 100時間)18,パラメータ τ i, ϵi の関数

{τ iab}1−σi

= exp[(1− σi)τ it(a, b) + ϵi] (39)

で表されると仮定し,次の推定式により τ i, ϵi を得る:

ln[{τ iab}1−σi

] = (1− σi)τ it(a, b) + ϵi + ξiab. (40)

ここで,ξiabは誤差項である.なお,財 iの都道府県/都

市間交易額に関するデータを得るのは困難であるため,

本稿では,経済産業省で公開している 9地域間産業連

関表を用いて,(1 − σi)τ i, ϵi を推定する.なお,注意

が必要なのは,ここで示したパラメータ推定方法では,

輸送費用パラメータ τ i と 代替弾力性パラメータ σi を

17 ただし,総最終消費額∑

a Ya は,輸出入を正確に反映しない限り,データ上は必ずしも 総付加価値

∑a

∑i W

ia+Ki

a と一致しない.そこで,本稿では,基準均衡データとして与える地域別最終消費額を,データ上得られる地域ごとの最終消費額 Ya を用いて,次のように定義した: Ya = Ya{(

∑a

∑i W

ia+Ki

a)/(∑

a Ya)}.18 次章でも示されるように,各地域のセントロイドは域内の人口最大都市とし,地域間移動時間は自動車 (高速道路)を利用した場合の市役所間の移動時間とした.

土木学会論文集D3(土木計画学), Vol. 72, No. 2, 211-230, 2016.

219

分離できない点である.すなわち,推定により得られ

る結果は,あくまで (1 − σi)τ i であり,各々を別に推

定するわけではない.

産業 iの財の代替弾力性 σiは,短期均衡条件 (33) で

用いられていることから理解できるように,(1− σi)τ i

とは別に推定する必要がある.ただし,数多くの研究

で指摘されているように,代替弾力性 σi の適切な推定

には,現状では困難が伴う.そこで,本研究では,既存

研究で推定された σi の値を利用することとする.

µi は,システム全体の財 i ∈ I の最終需要・中間需要額が総供給量と等しくなるように設定する.より具

体的には,式 (8)を地域 aについて足し合わせた,次の

関係式を満たす値に設定する:∑a∈A

Sia =

∑a∈A

∑b∈A

∑x∈X

diab,x +∑j∈I

mijab

. (41)

したがって,µi は以下の通り与えられる:

µi =

∑a S

ia −

∑a

∑j M

ija∑

a Ya. (42)

地域 a の消費者 {i, a, i} の人口Na,{i,a,i} は,地域・

産業別労働者数 NLa,i と,資本供給数 NC

a,i に分けて設

定する:

NLa,i =

∑b∈A

∑j∈I

Na,{i,b,j}, (43a)

NCa,i =

∑b∈A

∑j∈I

Nb,{j,a,i}. (43b)

まず,NLa,iは,総務省統計局で公開されている,地域・

産業別の就業者数で与える.NCa,i は,資本の供給量に

関するデータを得ることが困難であることから,各地

域・産業の労働者数と資本量が比例していると仮定す

る.すなわち,NLa,i = NC

a,i となるように設定する.ま

た,資本はいずれの地域・産業へも自由に投資できる

ことから,本研究では,消費者の資本の投資先は,居

住する地域・労働を供給する産業に依存しないと仮定

する.この仮定の下では,Na,{i,a,i} は次のように表す

ことができる:

Na,{i,a,i} =NC

a,i

NNL

a,i. (44)

また,Na,x , Na,x は,基準均衡状態では移住可能・不可

能な消費者の割合が各地域で同一であると仮定し,以

下で与える:

Na,x = λNa,x , (45a)

Na,x = (1− λ)Na,x . (45b)

このとき,Na は,次の形で表すことができる:

Na = (1− λ)∑i∈I

NLa,i. (46)

κaは,各地域の総可処分所得 Yaと賃金所得, 資本所

得が整合するように設定する.すなわち,次の関係を

満足する値とする:

Ya =∑i∈I

W ia +

∑a∈I

∑i∈I

riaκaNa,{i,a,i}

. (47)

これを整理すると,κaは次の関係を満たす値として設

定される:

Ya −∑i∈I

W ia =

∑a∈A

∑i∈I

∑iNa,{i,a,i}κa∑

b

∑j Nb,{j,a,i}κb

K ia. (48)

残りのψiaは,均衡条件式 (33)を用いて設定する.均

衡条件を求める際に解くべき非線形連立方程式の変数

のうち,基準均衡状態のデータからW ia,K

ia, S

ia, Ya が

得られる.そこで,上述した方法で得られたパラメータ

σi, τ iab, αija , µ

i, CiadとW i

a,Kia, S

ia, Yaを用いて,式 (33)

より,ϕia, ρia, ψ

ia, n

ia を決定する.この具体的な手順は

次の通り:

step 1 条件 (33d) の非線形連立方程式から Φia =

nia(ϕia)

1−σi

を計算する:

Sia −

∑b

{τ iab}1−σi

Φia∑

k{τ ikb}1−σiΦik

µiYb +∑j

αijb S

jb

= 0.

(49)

step 2 条件 (33b)に Φia を代入して,ρ

ia を得る.

step 3 条件 (33a)にρiaを代入して,ϕia/ψ

iaを得る.

step 4 条件 (33c)に ϕia/ψia を代入して,n

ia を得

る.

step 5 Φia と nia より,ϕ

ia を計算する.

step 6 ϕia/ψia と ϕia から,ψ

ia を導出する.

(2) 長期均衡状態に関係するパラメータ

次に,長期均衡条件 (28) を満たすためのパラメータ

θA, θL, θC , ζa, ζi, ζ ia, ζ

i, ζ ia のキャリブレーション方法

を示す.これらのパラメータは,長期均衡条件 (28)が成

立する値に設定する.そのために,まず θA, θL, θC は,

ζa = ζi = ζ ia = ζi = ζ ia = 0 ∀a, a ∈ A, ∀i, i ∈ I とした時の nested logit model の対数尤度関数 Lを最大化する値とする:

L =∑a∈A

∑x∈X

[Na,x

λNln [Pa,x ] +

Na,x

Na

ln[Pa,x

]]. (50)

最後に,長期均衡条件を満たすように,各地域・産業

の ζa, ζi, ζ ia, ζ

i, ζ ia を設定する:

Na,x − Pa,xλN = 0, (51a)

Na,x − Pa,x Na = 0. (51b)

ただし,この方法では ζa, ζi, ζ ia, ζ

i, ζ iaの値は一意に決ま

らない.そこで,ここでは,ζ1 = ζ1 = ζ11 = ζ1 = ζ11 = 0

に基準化して,残りのパラメータ値を決めることとする.

土木学会論文集D3(土木計画学), Vol. 72, No. 2, 211-230, 2016.

220

6. 数値計算例: NEG モデルとの対応確認

本章では,構築した SCGE モデルと NEG 理論の

整合性を確認する.そのために,競技場経済システム

(i.e., 円周上に均等に地域を配置した空間経済システム)

を対象とした数値計算を実施し,NEG 分野の既存研究

の知見との対応を調べる.

なお,本稿で構築したモデルでは,地域間移動が可

能な消費者の割合 λ を設定することができる.それゆ

え,人口移動を考慮しない (i.e., λ = 0.0) モデルと考慮

する (i.e., λ > 0.0) モデルの特性を簡単に比較できる.

そこで,以降の数値計算では,全消費者の地域間移動

が不可能 (λ = 0.0),可能 (λ = 1.0) なケースと,一部

の消費者のみが地域間を移動できる (λ = 0.5) ケース

を考える.そして,その各々の結果とNEG 理論との整

合性を確認する.

(1) パラメータ設定

本節で示す数値計算例では,地域数を 4,産業数を 2

とし,以下のパラメータ値を用いた:

αija = circ[0.5, 0.2] ∀a ∈ A,

Di = circ[1, ri, r2i , ri] ∀i ∈ I,

ri = rσi−1 ∀i ∈ I,

σ1 = 2.5, σ2 = 5.0,

κa = 1 ∀a ∈ A,

N = AI = 8,

W ia = 0.1 ∀a ∈ A, ∀i ∈ I,

θA = θL = θC = 1.0,

δ = 0.001.

ζa, ζi, ζ ia, ζ

i, ζ ia は,r = 0 で 均等分布 (i.e., Ni,x =

N/(AI)2 = 1/AI ∀i ∈ I, x ∈ X ) が均衡状態となる

よう設定した.なお,circ[x] は第一行ベクトルが x で

与えられる巡回行列,r ∈ (0, 1]は地域間の輸送自由度

(輸送費用の逆数) を表すパラメータであり,産業の種

類に依らず一定値であると仮定する.

また,本節では,NEG 理論との対応を確認するため

に,初期状態を r = 0 かつ 均等分布とし,輸送費用の

減少 (rの増加) が安定均衡状態に与える影響を調べる.

安定均衡状態の性質は,地域・産業別の労働・資本供給量

により示す.なお,地域 a, 産業 iの労働供給量はNLa,i,

資本供給量は∑

b∈A∑

j∈I κbNb,{j,a,i} により与えらえ

る.ただし,(44)より,資本供給量は (∑

b∈I κb)×NCa,i

と表現できることから,以降では,資本供給量の指標

として NCa,i を用いる.

0.8

0.9

1.0

1.1

1.2

0 0.2 0.4 0.6 0.8 1

図–3 各地域・産業への労働供給量 NLa,i: λ = 0.0

地域 1

産業 1

地域 2

産業 2

地域 3

地域 4

図–4-a r = 0.0 図–4-b r = 0.15 図–4-c r = 0.25

図–4 地域・産業への労働供給パターン: λ = 0.0

0.6

0.8

1.0

1.2

1.4

1.6

1.8

0 0.2 0.4 0.6 0.8 1

図–5 各地域・産業への資本供給量 NCa,i: λ = 0.0

図–6-a r = 0.0 図–6-b r = 0.15 図–6-c r = 0.25

図–6 地域・産業への資本供給パターン: λ = 0.0

(2) 競技場経済システムへの適用計算結果

a) 全消費者の地域間移動が不可能な場合

最初に全消費者が地域間を移動できない (λ = 0.0)

場合を考える.このケースでは,図–3~6 に示す安定

均衡状態が得られる.そこで,各地域・産業への労働・

資本供給パターン NLa,i, N

Ca,i の特性を順に確認してい

こう.

まず NLa,i の挙動を示す 図–3に注目しよう.この結

果は,多段階の分岐により,図–4 に示す集積パターン

が順に創発することを示している.すなわち,輸送費

用の減少は,均等分布 (図–4-a) を不安定化させ,地域

2, 4 の産業 1,地域 1, 3 の産業 2 に労働供給が集中す

るパターン (図–4-b)が創発する.そして,さらなる輸

送費用の減少により,地域 1 に産業 1,地域 3 に産業

2が集積 (図–4-c)したのち,再度均等分布へと分散化

土木学会論文集D3(土木計画学), Vol. 72, No. 2, 211-230, 2016.

221

0.0

0.5

1.0

1.5

2.0

2.5

3.0

3.5

0 0.2 0.4 0.6 0.8 1

図–7 各地域・産業への労働供給量 NLa,i: λ = 1.0

図–8-a r = 0.0 図–8-b r = 0.15 図–8-c r = 0.40

図–8 地域・産業への労働供給パターン: λ = 1.0

0.6

0.8

1.0

1.2

1.4

1.6

1.8

2.0

0 0.2 0.4 0.6 0.8 1

図–9 各地域・産業への資本供給量 NCa,i: λ = 1.0

図–10-a r = 0.0 図–10-b r = 0.15 図–10-c r = 0.40

図–10 地域・産業への資本供給パターン: λ = 1.0

する.消費者の地域間移動が不可能であるため各地域

の労働者数は同一となるものの,このケースでは,輸

送費用の減少は,上記した各地域の労働供給が特定の

産業に集中する “特化現象” をもたらす.これらの結

果は,産業連関構造を考慮した Venables 12) や,高山

ら 22) により構築された,労働者の地域間移動を考慮

していない NEG ベースの SCGE モデルの解析結果と

整合的である.

次に,地域・産業別の資本供給量 NCa,i を確認しよう.

図–5 に示すとおり,全ての集積パターンにおいて,(代

替弾力性の低い)産業 1の労働者が多い地域への資本集

中が起きている.より具体的には,輸送費用の減少は,

均等分布 (図–6-a) からの多段階の分岐により,資本

供給が地域 2, 4 の産業 1, 2 に集中した二極集中パター

ン (図–6-b),地域 1の産業 1, 2に集中した一極集中パ

0.0

0.5

1.0

1.5

2.0

2.5

0 0.2 0.4 0.6 0.8 1

図–11 各地域・産業への労働供給量 NLa,i: λ = 0.5

図–12-a r = 0.0 図–12-b r = 0.15 図–12-c r = 0.35

図–12 労働者の地域・産業集積パターン: λ = 0.5

0.6

0.8

1.0

1.2

1.4

1.6

1.8

2.0

0 0.2 0.4 0.6 0.8 1

図–13 各地域・産業への資本供給量 NCa,i: λ = 0.5

図–14-a r = 0.0 図–14-b r = 0.15 図–14-c r = 0.35

図–14 資本の地域・産業集積パターン: λ = 0.5

ターン (図–6-c) を順に創発させる.また,さらなる輸

送費用の減少は,再度,均等分布を安定化させている.

以上の現象は,産業の種類に依らず,特定の地域のみ

に資本供給が集中することを示しており,各地域の労

働供給が特定の産業のみに集中していたのとは対照的

な結果である.これは,労働とは異なり,資本は自由に

地域間を移動可能であるためであると考えられる.以

上の結果は,Fujita et al. 13), Tabuchi and Thisse 35),

高山ら 36) と同様の階層的な産業構造が創発する (i.e.,

異なる種類の産業の共集積 (co-agglomeration) 現象と

周期倍分岐による集積進展を表現できる) 多都市・多産

業 NEG モデルで得られた結果と整合している.

b) 全消費者が地域間を移動できる場合

次に,全消費者が地域間を移動できる,λ = 1.0とし

た場合を考える.各地域・産業への労働供給量は,図–

土木学会論文集D3(土木計画学), Vol. 72, No. 2, 211-230, 2016.

222

7に示すとおり,λ = 0.0としたケース (図–3) とは大

きく異なった結果が得られる.すなわち,このケースで

は,各地域の労働供給が特定の産業に特化する現象は

見られず,産業の種類に依らず,労働供給が特定の地域

に集中する共集積現象が発生する.これは,労働が自

由に地域間を移動できるためであると考えられる.実

際,同様のモデル構造をした Fujita et al. 13), Tabuchi

and Thisse 35), 高山ら 36) でも,ここで得られた結果

と対応した結果が得られている.

一方,各地域・産業への資本供給パターンは,λ = 0.0

としたケースと定性的には同じ結果となっている.た

だし,消費者の自由な地域間移動が資本供給を特定の

地域に集中させる力 (集積力) を強めるため,λ = 0.0

のケースより,均等分布が安定化するパラメータ r の

範囲は大幅に狭まる.

c) 一部の消費者のみ地域間移動が不可能な場合

最後に,一定割合 λ = 0.5の消費者のみが自由に地域

間を移動できる状況を考える.この場合の結果は,図–

11~14 に示すとおりである.これらの結果から,一部

の消費者が地域間を自由に移動できるのであれば,モ

デルの挙動は,全消費者が地域間を自由に移動できる

場合 (λ = 1.0) とほぼ同一のものとなることがわかる.

すなわち,輸送費用の減少は,労働・資本供給を特定

の地域に集中させる (i.e., 図–12, 14 に示す異なる種類

の産業の共集積現象をもたらす) 効果を持つ.なお,こ

の傾向は,λ の値がより小さい場合でも確認できた.

(3) 数値計算結果に関する議論

以上の数値計算結果は,本稿で構築したモデルが次の

性質を持つことを示唆している: 消費者が地域間を移動

できる場合,Fujita et al. 13), Tabuchi and Thisse 35),

高山ら 36) と整合した,複数種類の産業の共集積現象が

発生する.消費者が地域間を移動できないの場合,各地

域の労働供給先は特定の産業に特化する一方で,資本

供給は,産業の種類に依らず,特定の地域に集中する.

ただし,これらの結果は,数値計算条件に依存して

いる点があることに注意が必要である.例えば,本数

値計算では,初期状態を r = 0 かつ均等分布としてい

るものの,その他の均衡状態が r = 0 において存在す

ることは否定していない.実際,今回のパラメータ設

定下では,r = 0 において,特定の地域・産業に労働・

資本が集中する安定均衡状態が複数存在することを確

認している.さらに,本稿で構築した SCGE モデルに

は,地域間を移動できる生産要素が 3種類 (移住可能な

消費者・資本・中間財) も導入されている一方,代表的

な NEG モデルにおいて仮定されている,地域間移動

が不可能な生産要素 (e.g., unskilled worker) は移住不

可能な消費者という形でしか考慮されていない.それ

図–15 適用計算での地域分割

ゆえ,企業間の空間競争 (各地域の需要獲得競争) によ

る集積の不経済の効果が,集積の経済の効果と比較し

て,弱くなってしまうケースが生じる.実際,消費者

の地域選択,労働・資本供給先選択に関する選好のば

らつきを小さくする (i.e., θA, θL, θC の値を増加させ

る) と,労働・資本の集積力が相対的に強まり,輸送費

用が無限大 (r = 0) となるケースであっても,均等分

布が不安定化してしまう.これらの事実は,本研究で

構築した SCGE モデルがもつ人口・産業集積パターン

の説明力が,実用化に耐え得る程,高くない可能性が

あることを示唆している.したがって,集積の経済・人

口移動を考慮した SCGE モデルの実用化には,これら

の課題・限界を解消するための,さらなるモデル改良・

研究蓄積が不可欠である.

7. 数値計算例: 日本を対象とした適用計算

本章では,構築した SCGE モデルにより,実データ

を利用したパラメータ設定が可能であること,消費者

の地域間移動の考慮の有無が政策評価結果に大きな影

響を与えうることを示す.そのために,日本の産業連関

表データを利用した適用計算を行う.そして,消費者

の地域間移動を考慮する (λ = 0.0) /しない (λ > 0.0)

ケースの各々について,地域間輸送費用の低下が各地

域・産業の労働・資本供給量に与える影響を確認する.

なお,ここでは,日本国内を図–15に示すように 8地

域に分割する 19.地域番号は,北海道・東北・関東・中

部・近畿・中国・四国・九州の順に,1~8までの値に

設定した.また,産業は,第一次産業・第二次産業・第

三次産業の 3種類とした 20.

(1) パラメータの推定・キャリブレーション結果

まず,輸送費用パラメータ (1−σi)τ i, ϵi を推定する.

地域間産業連関表に記載されている地域・産業別の最19 この分割は,地域間産業連関表と整合的になるようにした.ただし,沖縄県については,他都道府県と比較すると輸送費用が大幅に大きくなること,経済規模が小さいことから,本適用計算では考慮しないこととした.

20 第一次産業は,日本標準産業分類における大分類 A 農業・林業,大分類 B 漁業とした.また,第二次産業は,大分類 C 鉱業・採石業・砂利採取業,大分類 D 建設業,大分類 E 製造業とし,第三次産業はそれ以外を用いた.

土木学会論文集D3(土木計画学), Vol. 72, No. 2, 211-230, 2016.

223

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図–16-a 第一次産業

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図–16-b 第二次産業

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��

図–16-c 第三次産業図–16 地域間輸送額に関する標本値と推定値

表–1 輸送費用パラメータの推定結果

パラメータ 推定値 (t値)

(1− σ1)τ1 −4.36 (−4.70)

(1− σ2)τ2 −7.20 (−10.50)

(1− σ3)τ3 −7.86 (−9.12)

ϵ1 −2.88 (−21.87)

ϵ2 −2.38 (−24.53)

ϵ3 −3.23 (−26.44)

終・中間需要額 diab, mijab を利用すると,(38) より,輸

送費用 {τ iab}1−σi

に関するデータが得られる.さらに,

各地域のセントロイドを人口最大都市の市役所と設定

し,t(a, b) をセントロイド間の自動車での移動時間 (単

位は 100 時間) で定義する.すると,(40)の推定式よ

り,(1− σi)τ i, ϵi が表–1の通り得られる.なお,推定

式と実際の地域間輸送額の関係は図–16の通りである.

この推定結果から,第一次産業の (1−σ1)τ1は,その

他の産業より大きい (絶対値が小さい)ことがわかる.こ

れは,第一次産業の財は,Knaap and Oosterhaven 17)

による σi の推定結果から示唆されるように,一般に第

二・三次産業の財と比較して代替弾力性が小さく,遠方

の地域でも,ある程度の需要が見込まれることが理由

であると考えられる 21.また,ϵi の推定結果から,第

三次産業は地域間の移動時間に依らず,輸送費用が非

常に高いことがわかる.これは,第三次産業の財は,そ

もそも輸送することが困難であることを反映している.

同様の理由で,ϵ1, ϵ2の比較により,第一次産業の財は

第二次産業と比較して輸送しにくいことも確認できる.

各地域の αija , λa,W

ia は,2005 年の各地域の産業連

関表,N ia は総務省統計局で公表されている都道府県・

産業別の就業者数より得た.また,代替弾力性 σi は,

Knaap and Oosterhaven 17) で得られている産業分類21 第 4 章 (2) 節でも述べたとおり,本稿で用いた推定手法ではパラメータ (1 − σi)τ i, ϵi の推定の際,輸送費用と代替弾力性の影響を分離できない.その結果,第一次産業の財の輸送費用が低いという,一見,非現実的に見える結果が得られたと考えられる.

表–2 θA, θC , θL のキャリブレーション結果

λ θA θC θL

0 — 7.256 3.866

0.5 8.204 7.217 4.114

1 8.204 7.179 4.393

別の代替弾力性を推定した結果を用いた 22.より具体

的には,Knaap and Oosterhaven 17) で用いている産業

分類を 第一次・二次・三次産業に分類しなおした上で,

推定された代替弾力性の平均値である (σ1, σ2, σ3) =

(11.1, 14.9, 16.4) を各産業の σi として用いた.また,

µi は,(µ1, µ2, µ3) = (0.005, 0.300, 0.695) となり,各

地域の産業連関表から確認できる,産業 i への最終消

費シェアと大きな差がないことが確認できた.

最後に,長期均衡条件から得られたロジットパラメー

タ (θA, θC , θL) の推定結果を示そう.θC , θL は,λ の

値に応じて推定値が異なり得ることから,λ を 0, 0.5,

1としたケース各々について,(θA, θC , θL)を推定した.

その結果は,表–2 に示すとおりである.この結果から,

λの値に依らず,消費者選択の階層構造は,最上位から

順に,労働の供給先・資本の供給先・居住地選択となる

ことが確認できる.

(2) 適用計算結果

以上で得られたパラメータを用いて,地域間輸送費

用の減少が各地域・産業に与える影響を調べる.より

具体的には,(39) で定義した各産業 i ∈ I の輸送費用パラメータと移動時間の積 τ it(a, b) を一定割合減少さ

せ,その結果として創発する安定均衡状態の性質を示

す.なお,ここで示される結果は,例えば,全地域間の

単位距離当たりの輸送コスト低下や,地域間移動時間

の短縮の影響を調べていると解釈することができる.22 実際の政策評価をする場合,この設定は必ずしも妥当とは言えないと考えられる.したがって,何らかの方法で代替弾力性を推定することを検討する必要がある.ただし,本章の目的は 構築したモデルが現実のデータを用いても計算可能であることを示すことであるため,この設定を用いた.

土木学会論文集D3(土木計画学), Vol. 72, No. 2, 211-230, 2016.

224

-0.02

-0.015

-0.01

-0.005

0

0.005

0.01

0.015

0.02

0.025

0.03

北海道 東北 関東 中部 近畿 中国 四国 九州

第一次産業

第二次産業

第三次産業労働供給量の変化割合

図–17-a 輸送費用の削減割合: 0.25

-0.04

-0.03

-0.02

-0.01

0

0.01

0.02

0.03

0.04

0.05

0.06

北海道 東北 関東 中部 近畿 中国 四国 九州

第一次産業

第二次産業

第三次産業

労働供給量の変化割合

図–17-b 輸送費用の削減割合: 0.50

図–17 輸送費用削減による労働者の変化割合: λ = 0.0

-0.03

-0.02

-0.01

0

0.01

0.02

0.03

0.04

0.05

北海道 東北 関東 中部 近畿 中国 四国 九州

第一次産業

第二次産業

第三次産業

資本

供給

量の

変化

割合

図–18-a 輸送費用の削減割合: 0.25

-0.06

-0.04

-0.02

0

0.02

0.04

0.06

0.08

0.1

0.12

北海道 東北 関東 中部 近畿 中国 四国 九州

第一次産業

第二次産業

第三次産業

資本

供給

量の

変化

割合

図–18-b 輸送費用の削減割合: 0.50

図–18 輸送費用削減による資本の変化割合: λ = 0.0

0

0.1

0.2

0.3

0.4

0.5

0.6

0.7

北海道 東北 関東 中部 近畿 中国 四国 九州

第一次産業 第二次産業 第三次産業

各産

業の

生産

額割

図–19 各地域の産業別生産額シェア

本節では,地域間の人口移動の有無が政策評価に与

える影響を明確に示すために,消費者の地域間移動を

考慮しない (λ = 0.0) ケースと,考慮する (λ > 0.0)

ケースにおける各地域・産業の労働・資本供給量 NLa,i,

NCa,i の変化割合 (NXA

a,i −NXBa,i )/N

XBa,i (X = L,C)に注

目する.なお,(2) 節の結果を比較するために,λ は

0.0, 0.5, 1.0 に設定する.ここで,上付き添え字 B,A

は,各々,輸送費用低下前 (i.e., 基準均衡状態)・後の状

態を表す.また,輸送費用の削減割合は,最初から大き

な値に設定するのではなく,0.0 から 0.5 まで,0.001

刻みで徐々に増加させた.

a) 全消費者の地域間移動が不可能な場合

まず,全消費者が地域間を移動できない (λ = 0.0)

ケースを考える.このケースでは,各地域の労働・資本

供給量の変化割合が,図–17, 18 に示すとおりとなっ

た.この結果から,労働・資本の変化の傾向は,ほぼ一

致していることがわかる.さらに,各地域で労働・資本

供給量が増加する産業は,基準均衡状態の生産額シェア

(図–19) が他地域と比較して高い産業となる傾向があ

ることも確認できる.特に北海道への第一次産業,中

国・四国地方への第二次産業の集中が顕著となってい

る.これは,これらの地域の輸送費用減少効果が,そ

の地理的条件から,比較的大きいためであると考えら

れる.また,第三次産業は,他の産業と比較すると,特

定の地域への集積が進んでいない.これは,第 3次産

業では,固定的な輸送費用を表す ϵ3 が小さいため,財

を輸送しにくく,集積の経済が働きにくいためである

と考えられる.

b) 消費者が地域間を移動できる場合

次に,全消費者の地域間移動を考慮した (λ = 1.0)

ケースを考える.このケースの結果は,図–20, 21 に

示すとおりであり,明らかに消費者の地域間移動が不

可能なケース (λ = 0.0) とは異なる挙動を示している.

より具体的には,本ケースでは,労働・資本とも,地方

部に共集積していることが確認できる.また,この性

質は輸送費用の減少割合に依存しないこと,輸送費用

の減少により共集積がより顕著になることもわかる.

一部の消費者のみが地域間を移動できる (λ = 0.5)

ケースでも,これらとほぼ同様の結果が得られている

(図–22, 23).すなわち,図–20~23 は,一部の消費者

が地域間を移動するのであれば,労働・資本ともに,地

方部に共集積する傾向を示している.

なお,本節で得られた結果は,現実に観察されるよ

うな,“地方部人口の減少” “大都市圏人口の増加”とは

真逆のものとなっている.これは,本章の数値計算で

土木学会論文集D3(土木計画学), Vol. 72, No. 2, 211-230, 2016.

225

-0.04

-0.02

0

0.02

0.04

0.06

0.08

0.1

北海道 東北 関東 中部 近畿 中国 四国 九州

第一次産業

第二次産業

第三次産業労

働供

給量

の変

化割

図–20-a 輸送費用の削減割合: 0.25

-0.1

-0.05

0

0.05

0.1

0.15

0.2

北海道 東北 関東 中部 近畿 中国 四国 九州

第一次産業

第二次産業

第三次産業

労働

供給

量の

変化

割合

図–20-b 輸送費用の削減割合: 0.50

図–20 輸送費用削減による労働者の変化割合: λ = 1.0

-0.04

-0.02

0

0.02

0.04

0.06

0.08

北海道 東北 関東 中部 近畿 中国 四国 九州

第一次産業

第二次産業

第三次産業

資本

供給

量の

変化

割合

図–21-a 輸送費用の削減割合: 0.25

-0.1

-0.05

0

0.05

0.1

0.15

0.2

北海道 東北 関東 中部 近畿 中国 四国 九州

第一次産業

第二次産業

第三次産業

資本

供給

量の

変化

割合

図–21-b 輸送費用の削減割合: 0.50

図–21 輸送費用削減による資本の変化割合: λ = 1.0

-0.03

-0.02

-0.01

0

0.01

0.02

0.03

0.04

0.05

0.06

北海道 東北 関東 中部 近畿 中国 四国 九州

第一次産業

第二次産業

第三次産業

労働供給量の変化割合

図–22-a 輸送費用の削減割合: 0.25

-0.06

-0.04

-0.02

0

0.02

0.04

0.06

0.08

0.1

0.12

0.14

北海道 東北 関東 中部 近畿 中国 四国 九州

第一次産業

第二次産業

第三次産業

労働

供給

量の

変化

割合

図–22-b 輸送費用の削減割合: 0.50

図–22 輸送費用削減による労働者の変化割合: λ = 0.5

-0.03

-0.02

-0.01

0

0.01

0.02

0.03

0.04

0.05

0.06

0.07

北海道 東北 関東 中部 近畿 中国 四国 九州

第一次産業

第二次産業

第三次産業

資本

供給

量の

変化

割合

図–23-a 輸送費用の削減割合: 0.25

-0.1

-0.05

0

0.05

0.1

0.15

北海道 東北 関東 中部 近畿 中国 四国 九州

第一次産業

第二次産業

第三次産業

資本

供給

量の

変化

割合

図–23-b 輸送費用の削減割合: 0.50

図–23 輸送費用削減による資本の変化割合: λ = 0.5

は,モデル特性をより明快に理解することを意図して,

全地域間の輸送費用を同時かつ一律に減少させたため

であると考えられる.それゆえ,本節の結果が,直ち

に「構築した SCGEモデルが現実現象を説明できない」

ということを意味するわけではないことに注意が必要

である.なお,構築したモデルと現実現象の対応確認

は,当然,モデルの実用性を検証するために必要不可

欠である.ただし,本稿では,紙面の都合により,追加

的な数値計算を実施することができないことから,現

実現象とモデル挙動の対応を確認することは今後の課

題とする.

(3) 人口移動が安定均衡状態の性質に与える影響

人口異動の有無が安定均衡状態に与える影響を (2)節

の a), b) の比較により確認する.

人口移動を無視した a) では,各地域の労働・資本供

土木学会論文集D3(土木計画学), Vol. 72, No. 2, 211-230, 2016.

226

給が,共に特定の産業に集中するという “特化現象” が

見られた.この結果は,前章で実施した競技場経済シ

ステムにおける結果 (i.e., 労働は特化,資本は共集積)

と,完全には整合していない.これは,本モデルの資

本供給の集積力は,それ単独では弱く,(前章では考慮

されていなかった) 各地域の地理的条件 (e.g., 他地域と

の近接性)・産業特性 (e.g., 生産技術,輸送コスト) の

違いに勝るものではないためであると考えられる.以

上より,消費者の地域間移動を考慮しない SCGE モデ

ルでは,地域・産業の初期特性に強く依存した結果し

か得られない傾向にあることがわかる.

一方,人口移動を考慮した b) では,a) とは異なり,

労働と資本がともに特定の地域に共集積するという,前

章と整合した結果が得られた.これは,地域・産業の

初期特性より,集積の経済の方が,労働・資本供給の集

積パターンに大きな影響を与えることを意味している.

すなわち,本モデルで表現可能な「労働・資本の集中

に伴う企業集積が人口集積を呼び込み,この人口集積

がさらなる企業集積を誘発する」という循環的な相互

作用は,基準均衡状態から創発する集積パターンに本

質的な違いを生み出すことを示している.

また,人口移動を考慮した SCGE モデルのみで表現

された “共集積現象”は,産業立地パターンの階層構造

を生じさせる要因であることにも注目する必要がある.

産業立地パターンの階層構造は,様々な実証研究により

確認されてきた “定型化された事実” である.したがっ

て,この実現象と整合的な産業立地パターンを表現す

るには,人口移動を SCGE モデルに組み込むことが必

要となる.

以上の結果の比較は,公共事業などの政策の “長期的

な” 影響評価に,人口移動を無視した SCGE モデルを

用いると,その結果に重大なバイアスが生じることを

示唆している.それゆえ,政策の長期的効果を予測・評

価するには,人口移動・集積の経済の両方を含む SCGE

モデルの開発・発展が不可欠であると言える.

8. おわりに

本研究では,労働・資本といった生産要素の地域間移動

と集積の経済を考慮した SCGE モデルを開発した.よ

り具体的には,新経済地理学分野の Core–Peripheryモ

デル3), Footloose Capital モデル11), Vertical Linkage

モデル12) を統合・拡張することで,中間財・資本・労

働の地域・産業間移動を考慮した SCGE モデルを構築

した.そして,パラメータの推定,キャリブレーション

手法を示すと共に,政策パラメータの変化に伴い,基

準均衡状態から創発する安定均衡状態を導出するため

の数値計算手順を提示した.本研究で開発した SCGE

モデルは,産業連関表などの現実データを適用でき,か

つ NTT, NEG 理論と完全に整合的な形で集積の経済

と生産要素の地域・産業間移動を表現した最初の枠組

みである.その数理モデルとしての表現は,一見,複

雑であるものの,モデルの基本構造は,可能な限り単

純化している 23.その結果として,数値解析が比較的

容易であり,かつ,モデルの拡張性も高いという特徴

を有している.それゆえ,今後は,その特徴を活かし

た研究の蓄積・発展が期待される.

さらに,本研究では,構築した SCGE モデルの特性

を明らかにするために,4地域・2産業の競技場経済シ

ステムと,日本を対象とした適用計算を実施した.そ

して,消費者の地域間移動の可否は,モデルによって

表現される,各地域の産業構造に大きな違いを生み出

しうることを明らかにした.より具体的には,政策実

施に伴う消費者の地域間移動を無視した場合,各地域

に特定の産業が集中する “特化現象”が見られた一方,

消費者の地域間移動を考慮した場合には,全ての産業

が特定地域に同時に集中する “共集積現象” が発生する

ことが示された.この結果は,公共事業などの政策の

“長期的な”影響評価を行うには,人口移動の考慮が不

可欠であることを明確に示している.

以上で示した本研究の成果は,政策実施による長期

的影響を予測・評価する手法構築ための足掛かりとな

り得るものである.ただし,本稿で構築した SCGE モ

デルには,数多くの課題が残されている.これらの課

題の殆どは,本モデル特有のものではなく,人口移動

と集積の経済を考慮した SCGE モデルにおいて,不可

避的に発生するものである.さらに,その解決は,現

実的な政策評価への適用のために不可欠であると考え

られる.そこで,本稿の最後に,特に重要と考えられ

る 2つの課題を整理しておこう 24.

最初の課題は,“モデルの非凸性” に起因する課題で

ある.人口移動・集積の経済を考慮した SCGE モデル

は一般に非凸であるため,複数種類の安定均衡状態が

存在する.特に,本研究で構築した SCGEモデルには,

集積の不経済の効果が弱いという特徴があることから,

非常に多くの種類の安定均衡状態が存在すると考えら

れる.この事実は,(状況設定によっては) モデルがも

つ人口・産業集積パターンの説明力が低くなる可能性

があることを示唆している.したがって,存在し得る

安定均衡状態を限定するために,現実に観測されてい

る様々な集積の不経済 (e.g., 地代,企業間の空間競争)

23 数理モデルが一見複雑に見えるのは,(集積の経済を考慮するために必須となる) 独占的競争を導入しているためである.実際,モデルの基本的構造は,実用化されている多くの SCGE モデルより単純化されている.

24 これらの他にも,脚注 7や第 7章で述べたように,現実現象とモデル挙動の整合化は,SCGE モデルの実用化のために解決しなければならない重要課題である.

土木学会論文集D3(土木計画学), Vol. 72, No. 2, 211-230, 2016.

227

を適切に導入するなどのモデル改良を,今後,実施し

ていく必要がある 25.

複数の均衡状態が存在する SCGEモデルの “パラメー

タ設定方法” も極めて重要な課題である.通常,SCGE

モデルのパラメータ集合 P は,現実データと整合した状態 x が均衡条件を満たすように設定される.しかし,

本研究の SCGE モデルには複数の均衡状態が存在する

ため,x が均衡状態となるようなパラメータ集合 P は複数種類存在する.すなわち,集積の経済を考慮した

SCGE モデルでは,パラメータ集合を一意に決めるこ

とができない.近年,この課題を解決する足掛かりとな

り得る研究が蓄積され始めている (e.g., Aguirregabiria

and Mira 37), Shang and Lee 38))ものの,未だ確立し

た手法は存在しない.したがって,SCGE モデルに適

したパラメータ集合の設定方法の開発も,今後の重要

課題と言える.

謝辞: 本論文は,日本学術振興会科学研究費補助金基

盤研究 (B) (課題番号 24360202), 若手研究 (B) (課題

番号 25820245, 15K18136) の助成金を受けた研究の一

部である.ここに記し,感謝の意を表します.

付録 I. nested logit model の選択確率

[θA = min{θA, θL, θC} の場合]

P1 = PL(V (a) + ζa), (I.1a)

P2 =

PA(V (i|a) + ζi) if θL ≤ θC

PC(V (a, i|a) + ζ ia) if θC ≤ θL(I.1b)

P3 =

PC(v(a, i|a, i) + ζ ia) if θL ≤ θC

PA(v(i|a, a, i) + ζa) if θC ≤ θL(I.1c)

ここで,V (a), V (i|a), V (a, i|a)は各階層で与えられる期待最大効用であり,以下で表される:

V (a) =

1

θLln[∑

j exp[θLV (j|a)]

]if θL < θC ,

1

θCln[∑

b

∑j exp[θ

C V (b, j|a)]]if θC < θL,

(I.2a)

V (i|a) = 1

θCln

∑b

∑j

exp[θCva,{i,b,j}]

, (I.2b)

V (a, i|a) = 1

θLln

∑j

exp[θLva,{j,a,i}]

. (I.2c)

25 Akamatsu et al. 29) で示されているように,モデルに導入する集積の不経済の種類は,モデルで表現される集積パターンの特性に決定的な影響を与える.それゆえ,評価対象となる政策の特徴,表現すべき産業集積パターンに合わせたモデルの改良が必要となることに注意が必要である.

v(b, j|a, i), v(j|a, a, i) は以下で与える:

v(b, j|a, i) = va,{i,b,j}, (I.2d)

v(j|a, a, i) = va,{j,a,i}, (I.2e)

va,x =∑j

µj{ln

[µj

]− ln

[ρja

]+ ln [ya,x ]

}. (I.2f)

[θL = min{θA, θL, θC} の場合]

P1 = PL(V (i) + ζi), (I.3a)

P2 =

PA(V (a|i) + ζa) if θA ≤ θC

PC(V (a, i|i) + ζ ia) if θC ≤ θA(I.3b)

P3 =

PC(v(a, i|a, i) + ζ ia) if θC ≤ θC

PA(v(a|i, a, i) + ζa) if θC ≤ θC(I.3c)

ここで,V (i), V (a|i), V (a, i|i), v(b|i, a, i) は以下で与えられる:

V (i) =

1

θAln

[∑b exp[θ

AV (b|i)]]

if θA < θC ,

1

θCln

[∑b

∑j exp[θ

C V (b, j|i)]]if θC < θA,

(I.4a)

V (a|i) = 1

θCln

∑b

∑j

exp[θCva,{i,b,j}]

, (I.4b)

V (a, i|i) = 1

θAln

[∑b

exp[θAvb,{i,a,i}]

]. (I.4c)

v(b|i, a, i) = vb,{i,a,i}. (I.4d)

[θC = min{θA, θL, θC} の場合]

P1 = PC(V (a, i) + ζ ia), (I.5a)

P2 =

PA(V (a|a, i) + ζa) if θA ≤ θL

PL(V (i|a, i) + ζi) if θL ≤ θA(I.5b)

P3 =

PL(v(i|a, a, i) + ζi) if θA ≤ θL

PA(v(a|i, a, i) + ζa) if θL ≤ θA(I.5c)

ここで,V (a, i), V (a|a, i), V (i|a, i) は以下で与えられる:

V (a, i) =

1

θAln

[∑b exp[θ

AV (b|a, i)]]if θA < θC ,

1

θLln

[∑j exp[θ

LV (j|a, i)]]if θC < θA,

(I.6a)

V (a|a, i) = 1

θLln

∑j

exp[θLva,{j,a,i}]

, (I.6b)

V (i|a, i) = 1

θAln

[∑b

exp[θAvb,{i,a,i}]

]. (I.6c)

土木学会論文集D3(土木計画学), Vol. 72, No. 2, 211-230, 2016.

228

表–3 変数一覧表 (取引額に関する変数)

記号 定義 記号 定義

Na,x 地域 a の消費者 x 人口 nia 地域 a・産業 i の企業数

Na,x地域 a の地域間移動が可能な消費者 x 人口

(Na,x = λNa,x )Na,x

地域 a の地域間移動が不可能な消費者 x 人口

(Na,x = (1− λ)Na,x )

NLa,i

地域 a・産業 i への労働供給量

(NLa,i =

∑b

∑j Na,{i,b,j})

NCa,i

地域 a・産業 i に資本を供給する消費者数

(NCa,i =

∑b

∑j Nb,{j,a,i})

ρia 地域 a における財 i の価格指数 ϕia地域 a・産業 i の企業が投入する生産要素の価

格指数

Dia,x 地域 a の消費者 x の財 i への総最終需要額 diba,x

地域 a の消費者 x の地域 bで生産された財 i

への総最終需要額

Ya 地域 a の消費者の総所得 ya,x地域 a の消費者 x の所得

(ya,{i,a,i} = wia + κar

ia)

wia 地域 a・産業 i に勤める消費者の賃金 ria 地域 a・産業 i の企業の資本レント

W ia 地域 a・産業 i の企業の労働への総需要額 Ki

a 地域 a・産業 i の企業の資本への総需要額

M jia 地域 a・産業 i の企業の財 j への総中間需要額 mji

ba

地域 a・産業 i の企業の地域 bで生産された財

i への総中間需要額

Sia 地域 a で生産される財 i の総供給額

表–4 パラメータ一覧表

記号 定義 記号 定義

αjia 地域 a・産業 i の企業の中間財 j 投入割合 ηia 地域 a・産業 i の企業の労働投入割合

γia 地域 a・産業 i の企業の資本投入割合 σi 財 i の代替弾力性

µi 消費者の財 i への支出割合 κa 地域 aの消費者一人当たりの資本保有量

ψia βi

aσi/(σi − 1) βi

a

地域 a・産業 i の企業の生産量 1単位あたりの

(可変的) 生産要素投入量

τ i 輸送費用パラメータ (地域間移動時間に依存) ϵi 輸送費用パラメータ (移動時間に非依存)

θA 居住する地域選択に関する分散パラメータ θL労働の供給先 (産業)選択に関する分散パラメー

θC資本の供給先 (地域・産業) 選択に関する分散

パラメータζa 居住地選択に関する固定的効用項

ζi 労働の供給先選択に関する固定的効用項 ζia 資本の供給先選択に関する固定的効用項

付録 II. 変数・パラメータ一覧表

本稿で用いた変数の定義を 表–3,パラメータの定義

を 表–4 により整理する.

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2) Krugman, P. R.: Increasing returns, monopolisticcompetition, and international trade, Journal of In-ternational Economics, Vol. 9, No. 4, pp. 469–479,1979.

3) Krugman, P. R.: Increasing returns and economicgeography, The Journal of Political Economy, Vol.99, No. 3, pp. 483–499, 1991.

4) Rosenthal, S. S. and Strange, W. C.: Evidence on thenature and sources of agglomeration economies, in

Henderson, J. V. and Thisse, J.-F. eds. Handbook ofRegional and Urban Economics, Elsevier, pp. 2119–2171, 2004.

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26) Dixit, A. K. and Stiglitz, J. E.: Monopolistic com-petition and optimum product diversity, AmericanEconomic Review, Vol. 67, No. 3, pp. 297–308, 1977.

27) 宮城俊彦:独立した輸送部門をもつ SCGEモデルによる高速道路の経済評価,土木学会論文集 D3 (土木計画学), Vol. 68, No. 4, pp. 291–304,2012.

28) Helpman, E.: The size of regions, in Pines, D.,Sadka, E. and Zilcha, I. eds. Topics in Public Eco-nomics: Theoretical and Applied Analysis, Cam-bridge University Press, pp. 33–54, 1998.

29) Akamatsu, T., Mori, T. and Takayama, Y.: Krug-man (1991) versus Helpman (1998): Polycentric ver-sus monocentric agglomeration patterns in new eco-nomic geography models, mimeograph, 2015.

30) Fudenberg, D. and Levine, D. K.: The Theory ofLearning in Games, MIT Press, 1998.

31) Sandholm, W. H.: Population Games and Evolution-ary Dynamics, MIT Press, 2010.

32) Akamatsu, T., Mori, T. and Takayama, Y.: Spa-tial coordinations among industries and the commonpower law for city size distributions, mimeograph,2014.

33) Fukushima, M.: Equivalent differentiable optimiza-tion problems and descent methods for asymmetricvariational inequality problems, Mathematical Pro-gramming, Vol. 53, No. 1-3, pp. 99–110, 1992.

34) Head, K. and Ries, J.: Increasing returns versusnational product differentiation as an explanationfor the pattern of US-Canada trade, American Eco-nomic Review, Vol. 91, No. 4, pp. 858–876, 2001.

35) Tabuchi, T. and Thisse, J.-F.: A new economic ge-ography model of central places, Journal of UrbanEconomics, Vol. 69, No. 2, pp. 240–252, 2011.

36) 高山雄貴,赤松隆,福島晶子:一次元空間における都市階層構造の創発: relocation cost を考慮した多産業Core-Peripheryモデルの分岐解析,土木学会論文集D3(土木計画学), Vol. 69, No. 3, pp. 250–266,2013.

37) Aguirregabiria, V. and Mira, P.: Sequential estima-tion of dynamic discrete games, Econometrica, Vol.75, No. 1, pp. 1–53, 2007.

38) Shang, Q. and Lee, L.-f.: Two-step estimation of en-dogenous and exogenous group effects, EconometricReviews, Vol. 30, No. 2, pp. 173–207, 2011.

(2015. 7. 21 受付)

DEVELOPMENT OF A SPATIAL COMPUTABLE GENERAL EQUILIBRIUM

MODEL WITH FACTOR MOBILITY AND AGGLOMERATION ECONOMIES

Yuki TAKAYAMA, Takashi AKAMATSU and Tomoki ISHIKURA

This study develops a spatial computable general equilibrium model that considers agglomerationeconomies and mobility of production factors, including labor and capital. To this end, we extend thenew economic geography models of industrial location and agglomeration with factor mobility. We thenpresent parameter estimation and calibration procedures and an approach for obtaining the stable equilib-rium that emerges with changes in structural parameters. Applying these methods, this study quantifiesthe effects of the trade cost reductions in Japan to clearly describe characteristics of the developed model.

土木学会論文集D3(土木計画学), Vol. 72, No. 2, 211-230, 2016.

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