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材料力学の基礎と疲労強度設計手法 埼玉大学 大滝 英征

材料力学の基礎と疲労強度設計手法料力学...1 材料力学の基礎 1.1 検証対象面と断面力 1.1.1 検証対象とする断面の取り方 機械部品の強度を検証するには、まず以下に述べるような材料力学に関わる基礎的な知

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材料力学の基礎と疲労強度設計手法

埼玉大学 大滝 英征

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1 材料力学の基礎 1.1 検証対象面と断面力 1.1.1 検証対象とする断面の取り方 機械部品の強度を検証するには、まず以下に述べるような材料力学に関わる基礎的な知

識を必要とする。

① どのような物体でも,支点で支えられて安定を保っている.そこへ,外力が作用した

場合,作用~反作用の原理で,支点にも力が作用することは周知のことである.

上記の現象は,言い換えれば,外力が物体内を伝播してきて,支点まで達したのが支点反

力とみなされる.

② そこで、この伝播という現象をもう少し詳細に検討してみる。いま、外力の作用位置

に極めて近い位置で、図1のように切り込みを入れて,物体をA,B二つの部分に分けた

とする.切り込みを入れた箇所では、その表面全体に渡って力が作用していると考えられ

る。A部分に対しては、その力の総和は、当然外力と等しい。言葉を換えてみると、A部

分の切り込みを入れた箇所にまで外力が伝播してきていると言える。

③ B部分の切り口の形状は、A部分の切り口の形状と全く同じである。この切り口の面

の間で作用し合う力は、作用~反作用の原理から大きさが同じで、方向が逆となるだけで

ある。A部分の切込みを入れた箇所に作用している力の総和は外力と等しかったから、結

局切り口を通してB部分に作用する力は外力と等しいこととなる。

結局、B部分にも外力がそのまま伝わってきていることになる。

④ 新たな切り口を、先ほどの切り口の近傍に取れば、その切り口部分に対しても、外力

が伝播してきていることになる。すなわち、どのような位置にどのような形状の切り口を

取ろうとも、そこには外力が伝播してきている。この断面における力を断面力という。

⑤ 従って、物体をA、Bの2つに分けて、A部分を対象にして解析した結果とB部分を

対象にして解析した結果とは全く同じとなる。

このことを、理解した上で、断面力に関わる力学的な検討を加える必要がある。市販の

教科書によって、同じ形状の物体でありながら、A部分を対象にして解析しているものと

B部分を対象にして解析しているものとがある。教科書を参照しているうちに混乱しない

ようにして頂きたい。

ここでは、物体を仮想上2つに分離した場合、次節にも述べるような理由から、左側に来

る部分Bを対象にして検証する。

1.1.2 座標系の取り方の大切さ 1)座標軸の取り方

断面力は、大きさと方向のある量である。すなわち、ベクトル量である。このような量

を扱うには、座標系をしっかりと定めなくては、方向も大きさも決まらない.座標系の取

り方によって、断面力の正負の値が異なるし、意味も異なる。市販の教科書では、座標系

があいまいなままであったり、記述されていないものも多々ある。注意を要する。

一般に、人間の感性として、図2に示したように左側に原点があり、そこから右方向に

x軸が延びている座標系が馴染み易い。他の軸についてはy軸の取り方に応じてz軸の方

向が決まる(x軸をy軸の方向に向けて回転して行った場合、右ねじの進む方向にz軸が

存在する)

2)座標軸に合わせて断面力の記号が決まる

ちなみに、梁を対象にして、左端に座標系の原点を取り、x、y、z座標系を取る(この

場合、y軸を紙面に直角方向に取ると、紙面に向かって下方向がz軸の正方向となる). ここで、物体内に微少要素を考え,図3に示したように取ってみる.この微少要素に働

く力を解析するわけであるが,前節③で述べたように,この微少要素をA側として扱うか,

B側として扱うか明確にしなくてはならない.B側に取った場合は,生じた断面は常に右

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側に存在する.従って,微少要素の右側面(正の面)に作用する断面力を解析することに

なる.A側に取った場合は,生じた断面は左側になる.従って,左側の面(負の面)に作

用する断面力を解析することになる.

一般に、左側の面(負の面)に作用する断面力を解析するのは、前述したように馴染み

難い。ここでは,B側に取って解析する.従って,微少要素の正の面を常に念頭に置くこ

ととなる.

断面力は、図3中に示したように微小要素の正の面で座標軸の正方向に働く場合を正値

とする。すなわち、せん断力Fzは図示した矢印方向に働くのが正値となる。y軸周りに働くモーメントMyは、図示した矢印の方向(右ねじの進む方向(y軸方向))が正値である(負の面で,このMyと釣り合うモーメントは,あたかもy軸の負の方向に向けて働くことになる).

この座標系の取り方を決して誤らないようにして頂きたい。教科書によっては、紙面に

向かって下方向にy軸の正方向を取っているもの(従って、z軸は紙面前方より後方へ向かう)がある。そのような場合は、図と同じ向きにモーメントが示されていても、それは

z軸周りに働くモーメントMzであり、その値は負である。z軸を紙面に向かって下方向に取った場合のMyとは.正負の符号が異なる。たわみなどを求める際、混乱を引き起こすので注意して頂きたい。

1.1.3 せん断力図と曲げモーメント図の座標系 物体内の座標系は下向きにz軸を取った。しかし、せん断力や曲げモーメントといった

物理量は図4 に示したように、上方向きに正方向を取るのが理解し易い。

そこで、図5 に、梁に対して様々な方向に取った座標系と、それに応じた断面力の

記号及びその正負を示した。

この図にて、z軸を下方に向けて取った場合、外力Pが加わった場合、外力Pの向きと同じ方向にせん断力Fzの値が増加あるいは減少する。また、曲げモーメントMyはせん断力Fzの値が正であれば増加、負であれば減少する。従って、z軸を下方に向けて取るのが、人間の感性にあっている。

1.2 せん断力図、曲げモーメント図の求め方 図5 において、微少要素の左端(x断面)における断面力の値を

zyxzyx MMMFFF      ,,,,, とすると,

⎪⎪⎪

⎪⎪⎪

−=

−=

−=

dzdFp

dydF

p

dxdF

p

zz

yy

xx

 

 

 

(1)

⎪⎪⎪

⎪⎪⎪

−=

=

−=

dxdMF

dxdM

F

dxdM

t

zy

yz

xx

 

 

 

(2)

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ここで注目すべきことは、せん断力とモーメントの関係が求まったことである。

今、図6に示したような梁に、外力がz軸の正方向に働いているとする。この梁に対して、

ある箇所での断面力を解析したい場合には、前述したように、その箇所で梁を2つに分離

して考える。生じるせん断力はFz, 曲げモーメントはMyである。仮に図に示したように外力を含まない位置で,梁を2つに分けたとする。左側部分を対象に解析する。その際、前

述したように、解析対象とするのは、正面である。左側部分には外力が加わっていないの

で、作用~反作用の原理から、この正面に作用するせん断力Fzはゼロとなる。このことより、梁を2つに分けた場合、外力を含まない限り、せん断力は増減しない。

次に、外力の作用している箇所から微小距離先の断面(x断面)の断面力を知りたいとす

ると、そこで梁を2つに分ける。すると、2つに分けられた梁の左側部分に外力を含むこと

となる。解析対象とする面は左側部分の右側面(正の面)であるが、この側面には、外力と

釣り合うせん断力Fzが負方向に働くことになる。 さてここで、これらのFzをグラフ上(せん断力図)で表現する。一般に、このような物理量は、前述もしたように、横軸正方向にx軸を、縦軸正方向に物理量を取って表現する。

外力の作用位置までのせん断力Fzはゼロで、外力の作用位置を過ぎた断面でのせん断力Fzは負の値で、その大きさは外力と等しい。さて、ここで、図4と対応させて見てみると、せん断力図では外力の作用位置を過ぎるごとに、外力と同方向で外力と同じ大きさを持つ

ように描けばよいことが分かる。

従って、梁に図5中に示したような外力が作用した場合(支点反力も外力とみなされる)

のせん断力図は図のようになる。解析対象とする断面が外力を過ぎるごとに、外力と同じ

方向に外力と同じ大きさのせん断力が増減する。このようにして容易にせん断力図が求ま

る。

曲げモーメントMyは、式(2)により、そのせん断力を積分して求まる。

∫=x

zy dxFM0

(注意:梁において下向きにy軸を取った場合は、 となり、符合を負とし

て積分しなくてはならない)

∫−=x

yz dxFM0

また、図7にせん断力図、曲げモーメント図の描き方の例を示しておいた。

1.3 軸力,曲げモーメントによる変形 図8のように図心軸OOを取り、その長さをδxとする。今、このOOが、伸び歪 xε を受けて xx δε )1( + の長さになると同時に円弧OO"に曲げられたものとする。円弧の曲率半径をρ

とすると,軸方向の歪εxは断面の2主軸 y,z に関する座標で表示でき

zCyCxx )sin()cos( θθεε −−=

∴ zCyC yyxx +−= εε

C=1/ρ ここに,Cyは曲線OO"の xz 面内への射影曲線の曲率を意味する.Czはxy面内への射影曲線を意味する

)( zCyCEE

yzx

xx

+−==

εεσ

  

ここで、梁の断面に於ける垂直応力σxを,断面力と断面における応力の釣り合い条件式に代入すると、

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{ }{ }{ }∫∫∫

∫∫∫∫∫∫

−+−=

+−=

+−=

yzdACdAyCydAEM

dAzCyzdACxdAEM

xdACydACdAEF

yzxz

yzxy

yzxx

2

2

ε

ε

ε

(3)

が得られる。y,z軸を断面の主軸に選んでいるから

二次モーメント 軸に関する相乗断面            

ーメント軸に関する断面二次モ             

モーメント 軸に関する断面一次           

全断面積                

zyIIyzdA

zyIdAyIdAz

zyCydACzdA

AdA

CEIM

CEIMEAF

zyyz

zy

zy

zzz

yyy

xx

,:

,:

,:

:

22

∫∫ ∫∫ ∫∫

==

==

==

=

⎪⎩

⎪⎨

=

== ε

(4)

ここで、初めて、断面一次モーメント、断面二次モーメントが定義され、断面力を求め

る上で、どのような意味合いを持っているかが分かる。

多くの教科書では、誘導過程が欠落しているので、断面二次モーメントについての理解が

行き届いていない嫌いがある。

次にP点における撓み量′

PP は,撓み曲線ν=f(x)のP点におけるz座標と考えて差し支えない

vvuPP ≈+=′ 22

また,撓み角φは次のように近似される.

dxdv

dxdv

≈= −1tanφ (5)

曲率は,撓み角が小さい( 1/ <<≈ dxdvφ )とすれば

dsdφ

ρ=

1

2

2

2/32

2

2

1222

1

1

tan

1

1tan

dxvd

dxdvdx

vd

dxdv

dxd

dxdvdvdx

dxdvd

⎪⎭

⎪⎬⎫

⎪⎩

⎪⎨⎧

⎟⎠⎞

⎜⎝⎛+

=

⎟⎠⎞

⎜⎝⎛

⎟⎠⎞

⎜⎝⎛+

=+

⎟⎠⎞

⎜⎝⎛

= −

  

  

s: 撓み曲線に沿ってとった座標

従って、My は

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2

2

1

dxvdEI

EI

CEIM

y

y

yyy

−=

−=

=

  

  ρ (6)

従って、撓みは以下のようになる。

∫∫−= dxdxMEI

v yy

1 (7)

このことから、撓みは曲げモーメント図から求まる の符号を逆にして計算することにyMなる。図9は、種々の座標軸を取った場合の撓み及び応力の値の正負の違いを示したもの

である。

多くの教科書では、座標軸の取り方が不明であるのと、この誘導過程が明確でないため、

撓みを求める際、正負を逆にする必要性が明確に記載されていないので注意を要する。

1.4 ねじりモーメントによる応力及び変形 軸は一般に円形断面をしている。この軸の両端にねじりモーメントTxが作用すると、断

面力は全断面に一様なねじりモーメントMx=Tx を受ける。そして、断面は、変形後も歪むことなく、円形形状を維持する(円形以外の場合は、断面に歪みを生じる)。この際、

図10に示したように、中心よりrの距離に線状の部分を考えると、この部分は、単純せん断変形を受け、そのせん断歪は

dxdr φγ = (8)

で与えられる。

このせん断歪に応じて、断面上には、円周方向を向いたせん断応力

γτ G= (9)

を生じる。これを、断面力と断面上の応力との平衡条件式に代入すると、

∫= dArM x τ

が得られる。この式に前述の式を代入すると、

dxdGI

dxddArGM

x

x

φ

φ

=

⎟⎠⎞

⎜⎝⎛= ∫ 2

(10)

となる。Ix は断面2次モーメントといわれ、円形断面の場合、次式で与えられる。

32

4dIxπ

= (11)

ねじりモーメントにより生じる応力は、

rI

M

x

x=τ (12)

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⎟⎟⎟⎟⎟⎟⎟⎟

⎜⎜⎜⎜⎜⎜⎜⎜

=

=

=

2

2

1

dxwdEI

EI

CEIM

z

z

zzz

  

  

参考

zρ

1.5 検証面の方向による応力の値の違い 前述したように、想定する微少要素の面は 例えば 軸, 軸に平行に取る(この組み合x y

わせは 軸とz軸,x y軸とz軸のように任意の面を対象にしても良い).しかし,図1に示したように任意方向に選んでも構わない。そのような場合は,同一個所であっても,微

少要素の向きに従って,面に作用する断面力の大きさが異なることとなる.従って,面に

作用する応力(単位面積当たりの断面力)が,垂直応力のみで,せん断応力が作用しないよ

うな方向も存在する.このような場合の垂直応力を主応力と呼ぶ.また,微少要素の向き

を主方向と呼ぶ.

以下では,微少要素の 軸方向の正の面, 軸方向の正の面に作用する応力x y)(,,,, yxxyyxyxyx τττστσ = が判明しているものとする.そして, 軸に対して角度x θ だ

け傾いた断面を取った場合、その断面に沿う微少要素の各面に作用する応力

は )(,,,, ''''''yxxyyxyxyx τττστσ =

θτθοσοσσ 2sin2cos)(21)(

21'

xyyxyxx +−++=

θτθοσοσσ 2sin2cos)(21)(

21'

xyyxyxy −−−+= (13)

θτθσσττ 2cos2sin)(21'' xyyxyxxy +−−==

この関係は,図11のようなモールの応力円で示すと極めて分かりやすい.

すなわち,

① σ を横軸,τ を下向きに縦軸を取った直角座標を設ける. ② 座標 ),(),,( xyyxyx τστσ − を持つ2点P,Q をプロットすればPQを直径とする円で

応力円を決定できる.

③ 直径PQより,図に示した微少要素の回転方向と同方向へ角度2θ 回転した直径をとし,その両端の

''QP σ 軸上への射影点を とすると図上で上4述した式の関

係は,

'' , BA

''''''' ,, BAOBOA xyyx === τσσ

④ モールの応力円にて,σ軸の両端では,垂直応力のみで,せん断応力が無い. 従

って,この点の応力が主応力σ1、σ2となる.

22*

1 4)(21)(

21

xyyxyxOA τσσσσσ +−++==

22*

2 4)(21)(

21

xyyxyxOB τσσσσσ +−−+== (14)

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⑤ これらの主応力の方向は,最初に取られた )(,,,, yxxyyxyxyx τττστσ = の作用している

面から計って,どれだけ傾いた面となるか.

最初の面に対する値は,P,Q 点で示された.従って,P点から までの角度*A 12θ (あ

るいはQ 点から *B までの角度 12θ )の半分の角度 1θ を,P点から まで至るのと同方

向に取った面が該当する.従って,この場合,主方向は,

*A

⎟⎟⎠

⎞⎜⎜⎝

−=

∠=

+

yx

xy

PCA

σστ

θ

2tan

21

21

1

1

材料力学練習問題

【モールの応力円、歪円】

例題1

板材の中に図のような領域をとった場合、法線がx軸と平行な側面には130MPaの引き

張り応力のみが作用し、法線がy軸と平行な側面には25MPaの圧縮応力のみが作用してい

る。最大及び最小のせん断応力を、モールの応力円を用いて求めよ。応力円から、最大及

び最小のせん断応力の働く面の方向も求めよ。

例題2

内圧 250MPaを受ける薄肉円筒(肉厚:2mm)の両端から十分離れた円筒中央部の表面に置

いて、円筒の軸方向に対して30°方向の応力はいくらか。

例題3

図の単純せん断において、対角線mn及びkl方向の縦歪をモールの歪円を用いて求め

よ。

解法

1モールの応力円

222,1 4)()(

21

xyyxyx τσσσσσ +−±+=

yx

xy

σστ

ϕ−

=2

2tan

2モールの歪円

222,1 )()(

21

xyyxyx γεεεεε +−±+=

yx

xy

εεγ

ϕ−

=2tan

【圧力容器(薄肉)の応力】

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図のように,容器の壁上に2つの経線mn,sqと,この経線に垂直な2つの緯線ms,

nqによって囲まれる微少な要素mnqsをとる.この微少要素に働く応力の釣り合いを

考える.

21,σσ :緯線方向の引張応力,経線方向すなわち周方向に沿って働く引張応力,

:微少要素についての図示した寸法 21,dsds

21, rr :経線の曲率半径,緯線の曲率半径

h :容器の肉厚 とする.

対称であるという条件から微少要素の4辺には垂直応力のみが作用する.従って,要素

のms面及びnq面に作用する引張力は、 21dshσ 、mn面及びsq面に作用する引張力

は, 12dshσ であるから,

21dshσ は微少要素の面に対して垂直方向に

1

211121 r

dsdshddsh σθσ = (1)

の分力を有する.

同様に, 12dshσ は

2

212212 r

dsdshddsh σθσ = (2)

の分力を持つ.これらの垂直成分の和が微少要素に作用する垂直力と と釣り合う

ので 21dspds

1

211

rdsdshσ+

2

212

rdsdshσ= (3) 21dspds

従って,基礎式は,

hp

rr=+

2

2

1

1 σσ (4)

上記の式の誘導法を参考にしたり,式そのものの適用によって,多くの問題が解析できる.

例題1 内圧 pが作用する球形容器に生じる応力を求めよ。 この場合は, であるから, rrr == 21

hpr221 == σσ (5)

例題2 図に示した液体を満たした円錐形容器に生じる緯線方向の引張応力,経線方向(周

方向)に沿って働く引張応力を求めよ

図にて,経線方向の曲率半径は無限大である.従って, 011=r である.また,液面か

らd―yの距離の点m~nにおける内圧は )( ydp −= γ で,曲率半径は,

αα

costan

2yr =

であることから

ααγσ cos/tan)(2 yyd −= (6)

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を得る.この応力の最大値は,(d―y)yが最大となる点y=d/2に生じる. 一方,m―nにおける応力は,殻の経線方向引張力のy方向成分が容積t‐m‐o‐n‐sの液体の重量を支えているという条件から求められる.すなわち,

γαπασαπ )3/1(tancostan2 221 yydyhy +−=

αγασ cos2/)3/2(tan1 hydy −= (7)

例題3 図に示したような内圧 が作用する円筒に生じる軸方向応力および周方向応力を

求めよ

p

筒体の端部は鏡板で仕切られる.この鏡板に加わる力 Pは, である.従って,

筒壁の軸方向応力

prP 2π=

1σ は hprrhP 2/2/1 == πσ (8)

となる.

周方向応力 2σ は,式(4)に上式を代入し,更に,経線の曲率半径が となること

を考慮すると,

∞=1r

hpr /2 =σ (9)

以上は,筒体に作用する膜応力のみを解析したが,実際的には,鏡板との接合部は,鏡

板の半形方向変位と筒体の半径方向変位が異なるため,大きな付加応力が発生する.この

付加応力については,弾性学による弾性床上の梁の計算式を準用して求められる.

【梁の問題】

例題.1 片持ち梁 (集中荷重)

図に示したような長さlの片持ち梁の自由端に荷重W が作用した場合のせん断力図、曲げモーメント図を求めよ。また、梁の変形を求めよ。

WFz −=

∫ −==x

zy WxdxFM0

例題2 片持ち梁 (分布荷重)

長さlの片持ち梁の全長に渡って、単位長さ当りwの等分布荷重が作用した場合のせん断力図、曲げモーメント図を求めよ。また、梁の変形を求めよ。

wxFz −=

2

0 0 21)( wxdxwxdxFM

x xzy −=−== ∫ ∫

例題3 両端支持梁 (集中荷重)

図に示したような長さlの両端単純支持梁において、C点に荷重Wが作用した場合のせん断力図、曲げモーメント図を求めよ。また、梁の変形を求めよ。

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)())((

)(

0

1

11

10

1

00

1

1

0

1

axWxRaxWRaR

dxWRdxR

dxFdxFdxFM

WRFlxa

xRdxFM

RFax

x

a

a

x

a

z

a

z

x

zy

z

x

zy

z

−−=−−+=

−+=

+==

−=≤≤

==

=≤≤

∫∫

∫∫∫

ここで、境界条件を考えると

0)(

0

1 =−−∴

==

alWlR

Mlx

y

WlbW

lalR =

−=1

例題4 両端支持梁 (曲げモーメント)

図に示したような長さlの両端単純支持梁において、左端に曲げモーメントM1,右端に曲げモーメントM2が作用した場合のせん断力図、曲げモーメント図を求めよ。また、

梁の変形を求めよ。

せん断力図より

1

0RF

lx

z =≤≤

lx = では 2RFz =

であるから 21 RR =

曲げモーメント図より

∫ +=+=

≤≤x

zy xRMdxFMM

lx

0111

0

lx =

では

0211

=

−+= MlRMM y

であるから、

211 MlRM =+

lMMR 12

1−

=

例題5 片持ち梁(分布荷重)

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図に示したような長さlの片持ち梁において、自由端からl/2の位置まで等分布荷重wが作用した場合のせん断力図、曲げモーメント図を求めよ。また、梁の変形を求めよ。

2

10

1

1

21

0

xlWdxFM

xlWwxF

lx

x

zy

z

∫ −==

−=−=

≤≤

)(21

11

0 1

0 0

1

1

1

1

1

lxWWl

WdxxdxlW

dxFdxFdxFM

WFlxl

x

l

l

x x

l

z

l

zzy

z

−−−=

−+−=

+==

−=≤≤

∫∫

∫ ∫∫

lx = にては

0

)(21

211

=

−−−−= MllWWlM y

従って、

WlWlM −= 12 21

たわみの計算

2

10

1

21

0

xlWdxFM

lxx

zy ∫ −==

≤≤

)(21

11

1

lxWWlM

lxl

y −−−=

≤≤

従って、

214

1

13

1

2

12

21

241

61

211

0

CxCxlW

EIv

CxlW

EIdxdv

xlW

EIM

EIdxvd

lx

y

y

yy

y

++=

+=

=−=

≤≤

lxl ≤≤1

Page 13: 材料力学の基礎と疲労強度設計手法料力学...1 材料力学の基礎 1.1 検証対象面と断面力 1.1.1 検証対象とする断面の取り方 機械部品の強度を検証するには、まず以下に述べるような材料力学に関わる基礎的な知

4332

1

32

1

12

2

)61

41(1

)21

21(1

)21(1

CxCWxxWlEI

v

CWxxWlEIdx

dv

WxWlEIdx

vd

y

y

y

++−−=

+−−=

−−=

lx = において

0

0

=

=

vdxdv

であるから、

)21

21(1 3

13 WllWlEI

Cy

−=

lxCWllWlEI

Cy

332

14 )61

41(1

−−=

1lx = において、

21

21

dxdv

dxdv

vv

=

=

であるから、式()、()とより が決定できる。 21,CC

例題6 両端支持梁 (曲げモーメント)

図に示したような長さlの両端支持梁において、C点に曲げモーメントM0が作用した場合のせん断力図、曲げモーメント図を求めよ。また、梁の変形を求めよ。

せん断力図より、

xRdxFM

RFax

x

zy

z

1

0

1

0

==

=≤≤

1RFlxa

z =≤≤

lx = においては、

021

=+= RRFz

01

0

0

MxR

MdxFMx

zy

−=

−= ∫

lx = においては、

001

=

−= MlRM y

従って、l

MR 0

1 =

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例題7 両端固定梁 (集中荷重)

図に示したような長さlの両端固定梁において、C点に荷重Wが作用した場合のせん断力図、曲げモーメント図を求めよ。また、梁の変形を求めよ。

)())((

)(

0

11

111

1

0

11

0

1

0

1

1

11

0

1

1

axWxRMaxWRaRM

dxWRdxRM

dxFdxFMdxFMM

WRFlxa

xRMdxFMM

RFax

x

a

a

x

a

z

a

z

x

zy

z

x

zy

z

−−+−=−−++−=

−++−=

++−=+−=

−=≤≤

+−=+−=

=≤≤

∫∫

∫∫∫

ここで、 では lx =

0)(0

211

21=+−−+−=

=+−=MalWlRMM

RWRF

y

z

従って、

213

12

1

12

11

112

2

)61

21(1

)21(1

)(11

0

CxCxRxMEI

v

CxRxMEIdx

dv

xRMEI

MEIdx

vd

ax

y

y

yy

y

+++−−=

++−−=

+−−=−=

≤≤

lxa ≤≤

43233

12

1

322

11

112

2

))21

61(

61

21(1

))21(

21(1

))((1

CxCaxxWxRxMEI

v

CaxxWxRxMEIdx

dv

axWxRMEIdx

vd

y

y

y

++−−+−−=

+−−+−−=

−−+−−=

0=x において、 0,0 == vdxdv

であるから

0, 21 =CC

lx = において、 0,0 == vdx

dvであるから

0)21

61(

61

21(1

0))21(

21(1

43233

12

1

322

11

=++−−+−−

=+−−+−−

ClCallWlRlMEI

CallWlRlMEI

y

y

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ax = において

21

21

vvdxdv

dxdv

=

=

であるから、

43333

12

1213

12

1

3222

1112

11

))21

61(

61

21(1)

61

21(1

))21(

21(1)

21(1

CaCaaWaRaMEI

CaCaRaMEI

CaaWaRaMEI

CaRaMEI

yy

yy

++−−+−−=+++−−

+−−+−−=++−−

これより、 が決定できる。 4321 ,,, CCMM

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2 強度の評価【応力分布】

2.1 応力集中 2.1.1 応力集中という現象 物体内の応力状態を端的に把握する場合、図1に示したように、主応力線を流体の流線

に置き換えて考えると都合が良い。もちろん、流体力学の流線と弾性学の主応力線とは厳

密には相似ではないが、定性的に類似の傾向をもっている。特に、流線が迂回を余儀なく

されるような箇所では、圧力上昇が起こり、損壊の可能性が生じる。同様に、主応力線の

場合も、構造物の形状の一様性が失われる箇所(湾曲やノッチ(切欠き)のある箇所)では、

その周囲を迂回することを余儀無くされ、その箇所で、応力線の密集が生じ、損傷にいた

る。

言い換えれば、「一様幅の板の途中に、切欠きが形成されるような場合、主応力線の一

部は、周辺条件によって、元の位置を保つことが不可能となり、切欠き空間の周囲を迂回

することを余儀無くされる。その結果、主応力線の密集、すなわち応力の集中を来たすこ

とになる。これが、応力集中である。」(西田正孝;応力集中)

2.1.2 応力集中係数 切欠き部での応力集中の度合いは、その箇所での最大応力によって評価される。この度

合いは、応力集中係数と呼ばれ、以下の式で表される。

σα m= (1)

mσ :基準応力

0σ :最大応力

ここで、基準応力の取り方は、円孔、ノッチなどの応力集中の原因となる要素が、仮に存

在しないものとして、母体に生ずるべき応力をもってする。

① 幾つかの応力集中要素を設けるに際しては、個々の応力集中要素の影響が及ばない領

域に設けるのが原則。この場合は、Saint-Venant の原理を考慮して設ける。

Saint-Venant の原理は応力集中の要素の影響によって、応力分布の撹乱が起こるが、

その撹乱は、要素からの距離が増すとともに急速に減少し、結局撹乱は比較的狭い範

囲に限られるというものである。影響の及ばなくなる距離は、要素の曲率半径の 3倍

から 5倍程度が目安とされる。

② 応力集中要素の形状を工夫する

すみ肉部等の曲率半径は、他の寸法が許すなら、可能な範囲に大きく取るのが望まし

い。

しかし、曲率部で相手材と接触する(干渉しあう)ような場合、接触部の形状接触条件に

よっては、過大な曲率半径は強度上無意味であったり、使用上有害であったりする。その

ような場合は、最適な曲率半径が存在するので注意を要する。

応力集中の小さい曲率部形状は、前述した流線による考えを考慮して決定しても良い。図

2(a)のように容器から流れ出る流体の流線は、抵抗の最も小さい形状になっているの

で、これと同じ形状にすれば、応力集中を緩和できるものとするものである。

図2(b)は、上記とは、別の考えに従うもので、切欠き底の最大応力を避けるため、中央

部の曲率半径を最も大きく取り、その両側に移るにつれ、順次連続的に小さい曲率半径を

取り、そして連結させる。

図 3(a)は、周辺条件の不連続性を緩和することによって、応力集中を緩和するとい

うもの。同形状をした応力集中要素を並べて、周辺の不連続性を緩和することが出来る。

前述したように、要素周りを流体が流れるとした場合の流線と主応力線とが類似の傾向を

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示すことを考え、流線を描いてみると把握し易い。2個の円孔を、主応力方向に並べた場

合は、1個の楕円に近似され、一個の円孔の場合に比べ応力集中が緩和されることが分る。

また図3(b)のように、数個のノッチが存在する場合は、底の平らな一個の切欠きに近

似され、応力集中が緩和されることが分る。従ってねじのように同一形状の溝が並んだ場

合には、単一の溝が存在する場合に比べ応力集中は緩和されることとなる。

2.1.3 応力集中の相互干渉 図4に示したように、二つ以上の応力集中要素が互いに近接して存在すると、それぞれ

の応力集中が互いに干渉して、各応力集中が加重されたりあるいは緩和されたりする。相

互干渉がある場合の近似的な応力集中係数の求め方は、I、IIの応力集中要素のうち、一

方IIが他方Iに比べ寸法的に著しく小さい場合に限られるが、Iの同一応力状態の範囲内に

IIが存在すると考えてよい。そのような場合、 III ααα ×=

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3 疲れ強度設計手法 3.1 疲れ破壊の基礎(亀裂の進展) 金属表面をよく研磨した後、適切な腐食液で腐食して,顕微鏡で観察すると、図1に示

したような入り組んだ境界が見られる。この囲まれた、一つ一つの部分は一個の単結晶で

あり、結晶粒と呼ばれる。一個の結晶粒の内部では、原子は規則正しく並んでいるものの、

他の結晶粒では、その方向が異なるために、境界が見られるようになる。境界は、結晶粒

界と呼ばれる。加えて、一般的な金属は、多結晶体であるので、この境界も更に、複雑に

入り組んだ形となる。

図2は疲れ亀裂の進展状況をモデル化して示したものである。応力の繰り返しによって、

材料表面の結晶においてすべりを生じ、それが発達してすべり帯となる。このすべり帯は、

更に、突き出し、入り込みなどへと発展し、いわゆる、固執すべり帯を形成する。固執す

べり帯では、入り込みが成長すると、これがすべり帯に沿った微小亀裂へと繋がる。

すべり帯に沿った亀裂(すべり帯亀裂)は、すべり面に沿って成長していく。その際、亀

裂先端は璧開(璧開ファセット)も伴う混合領域である。この璧開ファセットとの混合領

域を過ぎると、ストライエーションが形成されるようになる。この時、塑性域が形成され、

多重すべりを生じるように至る。この状況を延性ストライエーションの状態と呼ばれる。

その後、更に亀裂が進展すると、脆性ストライエーション状態へと突入する。この脆性ス

トライエーション状態を経て、せん断破壊によって最終的な破断へと至る。

さて、固執すべり帯では、入り込みが成長したような微小亀裂が形成される。それが合

体、成長して大亀裂へと成長していく。これを結晶内部での転位組織からみてみると、応

力の繰り返しによって、転位が増殖し、転位密度が高くなると、副結晶組織が形成される

(これは、結晶内部に形成されるものであるが、結晶密度の高い部分がちょうど結晶粒界

のように見えるため、その一つ一つを副結晶粒と呼び、全体を副結晶組織と呼んでいる)。

この副結晶組織も発生初期には、すべり帯の中で、明確な矩形状(はしごの登り段のよう

に境界が見える)を形成している。それが、応力の繰り返し(ひいては、ひずみ振幅)に

よって崩れて、ひずみ振幅に応じた寸法となる(副結晶粒径はひずみ振幅に逆比例した寸

法となる)。副結晶組織が崩れた時点が、先の固執すべり帯の発生時期に対応する。

従って、微視亀裂は、矩形状組織、あるいは、副結晶組織に沿って発生するといわれて

いる。 さて、亀裂進展速度が、10-7~10-8mm/cycleのように遅い場合は、亀裂先端の塑性域寸法

が結晶粒径と同じ程度かそれ以下となるため、破面は結晶の方向の影響が顕著に現れる。

そのような場合は、粒界破面となる。

粒界での破壊を起こす確率と応力拡大係数の関係が、種々の形でもとめられている。

図3は、応力拡大数範囲ΔK ,最大応力拡大係数K maxに対して粒界で破壊を起こす確率を示したもので、異なる応力比での値が同時に記載されている。これより、異なる応力比R に対しても、同じΔKあるいは、Kmax を示している。このことは、破壊の支配因子が、亀裂先端の塑性域寸法であることを示唆している。そして、亀裂の進展速度の遅い範囲、すな

わち、ΔKが10~20MN/m3/2では、粒界で破壊を起こす確率が50~60%と極めて大きい。

3.2 疲れ強度設計の基礎 3.2.1 安全な機械を設計するための基礎(安全率) 機械装置は常に安全な状態にあり,しかも所期の機能を果たす必要がある.そのため,

機械を設計,製造する頭初から安全対策を図っていく必要がある.

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安全性は,一口に安全率と言う概念で括られる.これは,負荷条件等を考慮した上で,

従来の経験等に照らし合わせて決定されることになる.ちなみに,

① 部材に生じる応力分布を主体として検討する場合:設計対象の使用環境下での降

伏応力,あるいは引き張り強さなど静的な強さに対する安全率.クリープ強さ,疲

れ強さなどの動的な強さに対する安全率,等

② 破壊荷重を主体として検討する場合:座屈破壊などに対する安全率

③ 安全寿命を主体として検討する場合:亀裂の伝播条件あるいは亀裂の発生条件等か

ら総合的に検討した寿命に対する安全率

④ 変形を主体として検討する場合:軸設計などに際して,ねじれや曲げ変形量に対す

る安全率.特に,圧縮荷重を受ける柱や円筒は,初期変形量が座屈強度に大きな影響

を及ぼすので,変形量の許容値を規定しておく必要がある.

⑤ 腐れしろ、腐食による強度低下に対する安全率.

等が,該当する.

しかし,機械設計においては,応力を主体にして検討する場合が殆どで,①による方法

をまず修得しておく必要がある.

3.2.2 設計応力と許容応力 設計に関して使用される設計応力は

σd ≦ σal =σm/n (1) σd :設計応力(材料力学,弾性論などの知識を利用して導かれた応力) σal :許容応力(使用材料が破壊や不都合な変形を起こさない最大の応力) σm :基準応力(基準強さ) の関係により,制約される.

ここで,nは安全率と呼ばれるもので,設計応力の大きさを安全な値に抑える必要のため,負荷条件等に応じ,経験に照らし合わせて決められる値である.

ちなみに,表1に荷重条件と基準強さの取り方を示しておく.安全率の決定に際しては,

種々の要件を勘案する必要がある.要件を考慮した値の決定法については,後節で述べる

3.2.3 安全率の歴史的変遷 前節で述べたように,現在,安全率は,基準強さに応力を使用しているが,ここに到る

までには,紆余曲折があった.参考までに歴史的な変遷を述べておく.

安全率は,1982年,有名なW.Cawthone Unwin(英)が著書“The

Element of Machine Design Part I”にて荷重を基準

にして

statical breaking strength

factor of safety=―――――――――――――――

working load

として提案したのが最初といわれている.この式に従って,練鉄,木材,煉瓦について静

荷重,繰り返し荷重および衝撃荷重が加わった場合の安全率を導出し,一覧表として示し

ている.多くの書籍に紹介されているのでご存知のことと思う.注意すべきことは,この

安全率は,あくまでも,荷重を基準にしたものであり,応力を基準にしたものでない点で

ある.

その後,機械要素設計の体系を築いたといわれるF.Reuleaux(独)が1899

年に“Der Konstrukteur/Ein Handobuch Maschi

nen-entwerfen”の中で,降伏荷重と負荷荷重,破壊荷重と負荷荷重との比

に依る安全率を提唱した.これと同時期にC.Bach(独)が“Die Maschi

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nen Elemente”上で,安全率という言葉を用いず,初めて許容応力(zulassige

anstrengung)という概念を打ち出している.

これらの,概念を基に,1930年,Timoshenkoが著書“Strength

of Materials”の中で,

σw=σyp/n σw=σv/n1

σw :使用応力(working stress) σyp :降伏点(yield point) σv :極限強さ(ultimate strength ) n,n1:安全率 を提唱.「安全率を材料の適当な基準強さと使用応力の比」で表しうるとした.基準強さ

は,疲れ強さ,降伏点,クリープ強さ等種々に取ることが出来る.これにより,以後の設

計の大幅な進歩へと繋がった.提案された式は,前節の式(1)とも全く同じ表現形式を

取っている.

その後,安全率は,種々の影響変数の相乗積によって表せば,より厳密なものとなると

いう提案が,CardulloやS.C.Wattleworthらによってなされた.

この潮流は,日本機械学会の提唱している許容応力の取り方(昭和30年)の中に反映され,

現在も生き続けている.

3.3 許容応力及び安全率の決定法 3.3.1 許容応力 日本機械学会では,疲れ破壊に関する膨大なデータを整理し,許容応力を次式のように

取ることを提唱している.

wksm

a ffσ

βξξσ 211 ⋅

⋅= (2)

ここに,

aσ :許容応力

wσ :材料の疲れ限度(表面を研磨し,鏡面に磨いた標準試験片の疲れ試験によっ

て得る値を標準に取る).疲れ限度の正確な値がない場合には,同種材料の

同種類の条件における既知の資料から推定する.

kβ :切り欠き係数(切り欠き効果を表す係数).実験により確めることにこしたことはないが,かなり多数の種類の切り欠きについて,その形状,大きさ,材

料,応力の種類に対し既出の資料や実験式がある.

kβ の値は比較的1に近い範囲では形状係数αの値に近い. 1ξ :寸法効果による疲れ限度の低下率. 2ξ :表面状況,腐食作用などによる疲れ限度の低下率 :材料の疲れ限度に対する安全率.材料の欠陥,化学成分,熱処理,加工など

の不均一性,資料と実物との相違,標準試験資料のばらつき,及び切り欠き効

果,寸法効果,表面状況など材料の疲れ限度に影響を与える諸因子に対する推

定値の不確実さを補うための安全率

mf

:使用応力に対する安全率.部材にかかる荷重のばらつき,その見積もりの不 sf 確実性,製品寸法の不同や精度,応力計算の近似性などのために設計計算にお

いて求められる使用応力の不確実性を補うための安全率

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式(1)に対応させた場合、 wk

σβξξ 21 ⋅ が、切り欠き材の基準強さに、 が安全率に相

当する。

mf sf

3.3.2 材料の疲れ限度 wσ 疲労破壊を生じる応力S(応力振幅あるいは最大応力ともいう)と繰返し数Nの間には相関があり,応力の減少に伴い繰り返し数は増大する.両者の関係は,両対数あるいは片

対数(縦軸:応力振幅,横軸:繰り返し数(対数))で図示される.これは,S-N曲線と呼ばれるもので、図4(a)に一例を示した。

S―N曲線は,右下がりであるが,鉄鋼などでは,繰り返し数が ~ 回において,

曲線の傾きが急に緩くなり,横軸に水平となる傾向を示す.これ以下の応力は,無限回の

繰り返し数にも,とりあえず耐えると見なされる.そのため,一般に疲れ限度と呼ばれる.

(繰り返し数が ~ 回以下で破壊する場合の応力振幅は、時間疲れ強さといわれる)

610 710

610 710疲れ限度は平均応力の影響を強く受けるため,改めて図4(b)のように応力振幅を縦

軸に,平均応力を横軸にとって,疲れ限度が表示される.これを疲れ限度線図と呼ぶ.

上記のようにして求めた疲れ限度線図は,設計作業において欠かせないものである.

さて,疲れ限度線図は,実際的には,図4(b)のようになるが,設計ではより利用し

易い形で扱う.多くの疲れ限度線図を纏め検討した結果によれば,大まかに,疲れ限度線

図は両振りの疲れ限度と,引き張り強さ,降伏点,真破断応力といった材料の静的強度と

関連づけて表現できる.図5に種々の提唱されている線図を示した。

Gerber線図は両振りの疲れ限度 wσ と,引き張り強さ Bσ とを曲線で結んだ上に

疲れ限度が載るというもの.実際の疲れ限度線図に近いといわれる.

Soderberg線図は両振りの疲れ限度 wσ と降伏点 Yσ とを直線的に結んだ線上

に,ほぼ,疲れ限度が載ると見なしたもの.

Goodman線図は両振り疲れ限度 wσ と真破断応力 Tσ とを結んだ直線上に,ほぼ

疲れ限度が載るとするもの.

修正Goodman線図は両振り疲れ限度 wσ と引き張り強さ Bσ とを結んだ線上に疲

れ限度が載るものとするもの.

設計時に,常に安全側を指向するならば,Soderberg線図の利用を図れば良い.

が日本機械学会では,後述するようにGoodman線図を利用しての設計法を提案して

いる.

3.4 疲れ限度線図に基づく強度設計 3.4.1 回以上の繰り返しに耐える場合 710 実物により疲れ試験を行い設計に還元するのが理想的である.しかし,それは難かしい

ので,以下のような方法で設計対象と同様な切り欠きのある試験片の疲れ限度を推定,そ

の値を用いて,許容応力を求める.図6に手順を纏めてあるので、参照して頂きたい。

① まず,標準試験片についての疲れ限度線図を求める.ちなみに,図6のKL線が前節

で述べた標準試験片に基づいて求めた疲れ限度線(Goodmanによる簡略的な線

図)とする.

② KL線図を基にして切り欠き材の疲れ限度線図を求める.

まず,対象とする切り欠き材についてのβの値を既出の表や図から捜し求める.探しき

れなかった場合は,前節でも述べたようにαはβより常に大きいのでαで代用する.その

場合,設計ではより安全側の疲れ限度が求まることになる.

Page 22: 材料力学の基礎と疲労強度設計手法料力学...1 材料力学の基礎 1.1 検証対象面と断面力 1.1.1 検証対象とする断面の取り方 機械部品の強度を検証するには、まず以下に述べるような材料力学に関わる基礎的な知

次に,設計対象物と標準試験片(KL線の基となった)とでは寸法,表面状況などが異

なる.そこで,既出の試料から 21,ξξ を求める. 21,ξξ の値には,加工,熱処理,温度の

影響なども含める.図7に日本機械学会による 21,ξξ の例を示しておいた。

KL線図の両振り疲れ限度の値に上記で求めた βξξ /21 を掛けた値を縦軸上にとり,M点

とする.切り欠き材の真破断応力は,切り欠きの有無に関わらずほぼ一定であるので,L

点はそのままとする.

従って,ML線が設計対象としている寸法のもので,切り欠きを有し,しかも表面状況

も同一と見なせる材料の疲れ限度線図となる.

③ 安全率 を求める. f

sm fff ⋅= はいわゆる安全率である.設計者自身が有する経験や知識を利用して決定するも

ので、材料の欠陥,化学成分,加工,熱処理等の不均一性,部材にかかる荷重の均一性,

出来上がった製品の精度,設計時の応力見積もりの不確かさなどを補う係数である.

ここで,

mf :材料の疲れ限度,切り欠き係数,寸法効果,その他の影響を確実な試料から採用で

きる場合は, =1.1~ 1.2程度に取りうる.確実な資料が無く,類似資料

から値を推察するような場合は, =1.5以上に取る必要がある.

mf

mf

sf :荷重及び応力の推定が確実である場合や製品での発生応力が計算した使用応力値を

絶対に越えないことが保証される場合には, =1.1程度に取りうる.予測困難

な過荷重や衝撃荷重が加わる恐れのある場合は, =1.5~2.0程度の値を取

る必要がある.

sf

sf

④ 疲れ限度の許容線図を求める.

上記のようにして決定した安全率を,疲れ限度,静的強度の両者に対して共通に適用す

るものとする.図6にてMの値を安全率 )( sm fff = で除した値を縦軸上にとりN点とする.

同様,L点の値を )( sm fff = で除した値を横軸上にとりQ点とする.NQ線が疲れに対する

許容線図となる.

⑤ 降伏に対する許容限度を求める.

FG線は標準試験片に繰返し応力が作用した場合,繰返し応力の最大値,すなわち,応

力振幅と平均応力を加算した応力が,材料の降伏点を超えない限界(降伏限界)である.

このFG線は,設計対象とする寸法を持つ平滑材についても,当然,同じ線図となる.

設計対象とする切り欠き材については,他の個所に比べ,切り欠き底に高い応力が生じ

るとはいえ,その部分の降伏応力は,平滑材の場合と変わらない.従って,切り欠き材の

降伏限度も,FG線と一致する.

このFG線に対しても,上記と同じ安全率を適用すると,降伏に対する許容限度である

HI線図が得られる.

⑥ 圧縮に対する許容限度を求める

繰返し応力が加わる場合,最小応力(平均応力―応力振幅)が負となると,材料には圧

縮が加わることになる.図中に示したORがその限界である.

棒状部材のような場合には,この限界線の左側に入るような応力を受けると,座屈を起

こす恐れもある.座屈を避けるような場合は,ORの右側の領域に入るように応力値を決

定する必要がある.

⑦ 設計応力の決定

以上より,図に示したORDI線上が,安全率 )( sm fff = とした場合の許容応力である.

ORDIの内部は,より安全(安全率が より更に大きい)な領域となり、設計応力とし

て選べる範囲である。

f

いま、設計対象とする部材に平均応力 mσ が加わるとした場合の許容応力を検討してみ

る.横軸上に mσ なる値を取るA点を取る.(この場合,A点はI点の値より小さいため,

静的には設定された安全率 より,より安全側となる).次に,A点を通る垂直線とNQf

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線あるいはHI線との交点Bを求める.ABが許容応力である。設計応力は、式(1)に

照らし合わせると、ABより小さい値となる。 3.4.2 時間疲れ強さに基づく設計応力

前節では,材料が 回の繰返し応力に耐える場合についての設計応力について述べた.

これに対し,最近では,一定の使用期間後,装置を一斉に更改した方が時代の趨勢に合わ

せ易いとする考えもある.この考えに従うと,疲れ限度に立脚するのではなく,S-N曲線の傾斜部,すなわち時間疲れ強さを用いて許容応力を求めることになる.

710

例えば, 回の繰り返しに耐えるように設計応力を決定するには,使用材料について

のS-N曲線より, 回における疲れ限度

510510 wσ を求める.この wσ を前節での両振り疲

れ限度に交替して,後は,同様な手法で,許容応力を求めれば良い.ただし,S-N曲線については,既出の資料より捜し求める必要がある.

時間疲れ強さを簡易的に知るには,炭素鋼,合金鋼について従来のデータを纏めた図8

を利用しても良い.

3.5 切り欠き係数 3.5.1 切り欠き係数β 実際の部材が標準試験片と異なる点は,切り欠き(断面が変化する部分)を有している

ことである.ちなみに,切り欠きのある棒を引き張りした場合には,切り欠き付近の応力

分布は一様とはならず,変化に富むものとなる.切り欠き底には,切り欠きのない場合に

比較してはるかに大きい応力が発生する(応力集中).

前述した部材の疲労破壊は,ある点に小さな亀裂が発生し,それが応力の繰り返しによ

って拡大して起こる.この微少亀裂が発生する個所は,応力が集中している部分である.

従って,部材の疲れ強度は,その形状と合わせ考えて意味がある.形状を無視して疲れ強

さを云々できない.

今,切り欠きを持つ部材(切り欠き材)の疲れ限度 wσ と切り欠き材と全く同じ材料

で作り,表面を標準仕上げした平滑材(切り欠きの無い材料)の疲れ限度 0wσ との比

w

w

σσβ 0= (3)

0wσ :切り欠きが無い場合の疲れ限度

wσ :切り欠き材の疲れ限度(切り欠きの存在を無視して計算した場合の

応力(公称応力)で表示した疲れ限度)

を切り欠き係数と呼ぶ.

切り欠き材に繰返し応力が加われば,公称応力は小さくても,切り欠き底付近の応力は

公称応力より高い.そのため,切り欠き材の疲れ強さは,平滑材の疲れ限度よりかなり低

くなる.

3.5.2 切り欠き係数の実測値 切り欠き係数の実測値はそれほど多くない.図9は,丸型切り込みを有する丸棒の回転

曲げ,丸棒に直角に小孔を穿った場合の引き張り圧縮についてのβの値を示したものであ

る(疲れ強さの設計資料:日本機械学会).

また,図10は,α(形状係数)とβの関係を表す一例(疲れ強さの設計資料:日本機械

学会)を示したものである.これより

① βはαより常に小さい.

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② しかし,αが小さい切り欠き(切り欠き半径が大きいか,深さが浅い切り欠き)では,

αとβとはほぼ等しい.

③ αが比較的大きい切り欠き(切り欠き半径が小さいか,切り込み深さが深い)では,

βはαに比較してかなり小さくなる.

ことが分かる.この事は,他の切り欠き材についても同様である.設計の際に念頭に入れ

ておく必要がある.

3.5.3 切り欠き係数の推測値 1) 切り欠き底の応力分布より近似的に求める方法:

切り欠き係数の実測値は少ないので,α及び切り欠き底の応力分布より近似的に求める

方法が提案されている.

切り欠き底付近の応力分布は一様でないため,疲れ限度に及ぼす応力分布の影響は,

材質によって異なるから,βはα,切り欠き底の応力勾配,及び材質など種々な因子の影

響を受ける.

β=α(1-aε/ρ) a :-(∂σ/∂z)/σ| ε :切り欠き底から最大応力勾配の方向に計った距離.

上記の考えは,εの点での応力値が疲れ限度に達すると亀裂が発生し破壊に繋がるとする

ものである.鋳鉄のような場合は,εは黒鉛粒子0,1~0.2mmの2倍程度の値を取

る.

また,Mooreによれば,εなる範囲で応力が一様に分布するとしたNeuberの考え方に準

拠して,

α―1

β=1+――――

1+√ε/ρ

( )aB

s 635.0111.53

−⎟⎠⎞⎜

⎝⎛ −= σ

σε

Sσ :降伏点

Bσ :引き張り強さ

a:切り欠き底の半径 で求められるとしている.この式に従えば,2a=50mmまでの切り込みを有する丸棒のβは数%の誤差の範囲内で求められるようである.

2) 形状係数αより推察する方法:

前節で述べたように切り欠き係数は,形状係数αに比べ常に小さい.そこで,切り欠

き係数βを形状係数αと同値であると見なして疲れ限度を計算してみると,得られた値は,

本来の切り欠き係数から導出した値よりも常に小さい.従って,設計に当たっては,常に

安全側となる.

それゆえ,切り欠き係数が判明しない場合は,形状係数で代用しても構わない.形状係数

は,既に丸棒,板材等に関して多くの値が得られているので,それを参照すれば良い.新

たな形状のものについては,弾性論,有限要素法等を利用して理論的に求められる.

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4. 強度向上の方策 部材の疲労破壊の原因である微少亀裂の発生する個所は,応力が集中している個所であ

る.この応力集中個所の形状を変化させれて、応力集中の程度を緩和すれば、疲れ強度は,

向上する。 4.1 応力集中個所の端的な把握法: 物体内の応力状態を端的に把握する場合、図1に示したように、主応力線を流体の流線

に置き換えて考えると都合が良い。もちろん、流体力学の流線と弾性学の主応力線とは厳

密には相似ではないが、定性的に類似の傾向をもっている。特に、流体の流線が迂回を余

儀なくされるような箇所では、圧力上昇が起こり、損壊の可能性が生じる。同様に、主応

力線の場合も、構造物の形状の一様性が失われる箇所(彎曲やノッチ(切欠き)のある箇所)

では、その周囲を迂回することを余儀無くされ、その箇所で、応力線の密集が生じ、損傷

に到る。

言い換えれば、「一様幅の板の途中に、切欠きが形成されるような場合、主応力線の一

部は、周辺条件によって、元の位置を保つことが不可能となり、切欠き空間の周囲を迂回

することが余儀無くされる。その結果、主応力線の密集、すなわち応力の集中を来たすこ

とになる。これが、応力集中である。」

4.2 応力集中係数α(形状係数) 切欠き部での応力集中の度合いは、その箇所での最大応力 0σ によって評価される。こ

の度合いは、応力集中係数(あるいは形状係数)と呼ばれ、以下の式で表される。

σα 0= (1)

mσ :基準応力

0σ :最大応力

ここで、基準応力の取り方は、円孔、ノッチなどの応力集中の原因となる要素が、仮に存

在しないものとして、母体に生ずるべき応力をもってする場合が多い。

図2に、代表的な切欠きとその形状係数を示した。

① 無限体の中に円孔がある場合(円孔の直径の 5倍以上離れたところに境界が存在す

るような場合):弾性論的にもα は求められており 3=α (2)

である。

② ノッチのある場合:

dB

dB

e

ef

f

/90.0

)2(/90.0

1

1)(

)1)((1

π

θπ

θ

θ

αθα

−−

−=

−+=

ただし、 θα : 0=θ の時の形状係数

:ノッチの深さ dθ2 :ノッチの角度 B:板の幅

設計で採用される切り欠きは、円孔が多い。また、軸の段差部の丸み、油溝、キー溝など

も、曲率半径は比較的小さく、深さも浅いため、形状係数は3前後である。従って、円孔

の形状係数α=3は、他の切り欠きの形状係数を類推する場合の一つの目安となる。

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4.3 応力集中の緩和法 1)応力集中要素の形状を変化させて応力集中を緩和する

① 幾つかの応力集中要素を設けるに際しては、個々の応力集中要素の影響が及ばない

領域に設ける:この場合は、Saint-Venant の原理を考慮して設ける。Saint-Venant の原

理は応力集中の要素の影響によって、応力分布のかく乱が起こるが、そのかく乱は、要素

からの距離が増すとともに急速に減少し、結局かく乱は比較的狭い範囲に限られるという

ものである。影響の及ばなくなる距離は、要素の曲率半径の 3倍から 5倍程度が目安とさ

れる。

②応力集中要素の形状を工夫する:すみ肉部等の曲率半径は、他の寸法が許すなら、可能

な限り大きく取るのが望ましい。しかし、曲率部で相手材と接触する(干渉しあう)よう

な場合、接触条件によっては、過大な曲率半径は強度上無意味であったり、使用上有害で

あったりする。そのような場合は、最適な曲率半径が存在する(JISB0701,B702 等)ので

注意を要する。応力集中の小さい曲率部形状は、前述した流線による考えを考慮して決定

しても良い。図3のように容器から流れ出る流体の流線は、抵抗の最も小さい形状になっ

ているので、これと同じ形状にすれば、応力集中を緩和できるものと考えられる。ちなみ

に図例では曲率部は )2

(sin2 2 θcx = に従って変化するように採れば良いとするものである。

図4は、上記とは、別の考えに従うもので、切欠き底の最大応力を避けるため、中央部の

曲率半径を最も大きく取り、その両側に移るにつれ、順次連続的に小さい曲率半径を取り、

そして連結させる。

2)応力集中要素の周辺条件を変化して応力集中を緩和する

二つ以上の応力集中要素が互いに近接して存在すると、それぞれの応力集中が互いに干

渉して、各応力集中が緩和される場合がある。このことを端的に把握するには、図3で触

れたように、流線に見立てて主応力を簡便的に描いて推察する。

孔の隅を丸めた場合:

隅を丸めた孔について、主応力線の流れを記すと図5のようになり、密集箇所は4箇所

となる。主応力線の密集度合いは、1円孔の場合に比較して小さい。孔では、本来、応力

集中箇所は4個所存在するのであるが、円孔の場合は、この応力集中箇所が重なり、2箇

所になったものと考えて良い。従って、隅を丸めた孔の形状係数は、1円孔の場合α=3

より小さくなる。

円孔を羅列した場合:

リベット構造体で代表されるように、構造体では、図6に示したように円孔を縦列や横

列に並べる場合が多い。

①では、円孔と円孔に挟まれた箇所では、迂回を余儀無くされた主応力線が集まる。その

ため、1円孔の場合に比較して、極めて高い応力集中を生じる。

②では、円孔が斜めに並ぶため、円孔と円孔に挟まれた箇所での主応力線の流れ状態が、

①より緩和される。しかし、依然として、密集度合いは高く、1円孔の場合に比較して、

高い応力集中を示す。

③では、横列に並ぶ円孔のために、1円孔の場合には円孔に沿って回り込むように主応力

線が流れたのに対して、回り込みが少なくなる。そのため、円孔のA部の主応力線の密集

度合いが緩和される。従って、応力集中係数は、1円孔の場合より小さくなる。

3)段差部やはめあい部の応力集中緩和

段差部:

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段差を持つ軸は、段差だけでも大きな応力集中を生じる。それに加えて、油溝や工具の

逃げ溝を設けるため、更に大きな応力を生じることと成る。この応力を緩和させるために

は、段差部(形状については一部JISにも規定されている)の応力状態を、流線より推察

するのが有効である。

段差部には図7に示したような方策が採られることも多い。

① 丸み部の内側に円孔を設ける

② 丸み部の肩部、平行部の両者に渡る円弧状のアンダーカットを設ける

③ 丸み部の肩部にアンダーカットを設ける

何れも、流線の密度は小さくなり、応力集中は緩和することが分る。従って、段差部で

の油溝や工具逃げ溝形状は、図のようにすればよいことがわかるものの、その形状寸法と

応力集中との数量的関係については、未だ十分に把握されているわけではない。有限要素

法等によって、逐一確かめるのが良さそうである。

はめあい部:

軸と歯車のボスとの取り付け部や車輪と車軸の取り付け部では、図8に示したように、

ラジアル荷重による圧縮応力σが接触部中央で最大値を取り、両端では0となる。これに

対して、接線方向荷重によるせん断応力τは端部できわめて大きくなる。従って、 µστ ≤

(μ:摩擦係数)が満たされない部分では、すべりを発生することになる。このすべりを

生じた部分は化学的に活性であるから、酸素が働いて赤色状の錆びが発生する。この錆が

磨耗粉として脱落する。そして、この酸化磨耗粉が表面の凝着磨耗や研磨耗を促進させる。

この現象は、フレッチングコロージョン(微動磨耗)と呼ばれるものである。

フレッチングコロージョン(微動磨耗)を避けるために、はめあい部の形状を工夫し、

せん断応力を小さくする。図9はその例を示したもので、

① ボスの側面に環状の溝を設けたもの

② ウエブはボスの中央に設けたもの。

③ ウエブを両端に設けたもの接触部