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自己紹介
� ボルドー第三大学大学院哲学科修了。博士(哲学)� 専門:20世紀フランス思想史、哲学教育研究
� ボルドー第三大学外国語学部日本学科教員(2003-2011年)
� 京都大学高等教育研究開発推進センター教(2011-2013年)
� 京都薬科大学一般教育分野教員(2013年~)
最近の仕事
『バカロレア幸福論―フランスの高校生に学ぶ哲学的思考のレッスン』(星海社新書、2018年)
バカロレア哲学試験とフランスのリセ(高等学校)の哲学教育の内容を紹介
毎日新聞読書欄「2018この3冊」(選者:鹿島茂)に選ばれる
問いの背景
� 高等教育の目的の変容(20世紀末~) →専門知識を持った人材を育てるだけでなく、多様な社会的文脈の中で活躍できる能力を持った人材の育成
� ジェネリック・スキル(汎用的技能)、コア・コンピテンシー等の概念の登場 →1980年代のオーストラリアにおける論争:労働者の雇用可能性の基礎となる能力育成のために、高等教育の質保証はいかなるものであるべきか?(清水2012) ⇒知識基盤社会を生き抜くために「新しい能力」を育てるべきという教育観の拡散
問いの背景
� 日本型コンピテンシー・モデルの登場
� 就職基礎能力(厚生労働省、2004年)
� 社会人基礎力(経済産業省、2006年)
� 学士力(文部科学省、2008年)
� 人生100年時代の社会人基礎力(経済産業省、2018年)
� このような背景の中で、高等教育に求められる使命も変化した…
https://www.meti.go.jp/committee/kenkyukai/sansei/jinzairyoku/jinzaizou_wg/pdf/007_06_00.pdfより引用
大学教員は汎用的技能育成の専門家か?
� 汎用的技能育成と高等教育の関係 � 大学教員:専門的能力によって雇用
→汎用的技能育成の専門家ではない
� 汎用的技能の獲得
→正課外の諸活動においても行われるもの
→教員が正課内で育成することの限界・矛盾
何が問題なのか?
� そもそも、汎用的技能「のみ」を教えることは可能なのか?
→「専門家」である教員が「汎用的」な能力を育成することはなぜ可能なのか?
⇒「専門性」と「汎用性」の関係を考える必要
専門性と汎用性は対立するのか?
� 専門教育の目的:各分野の知識・方法の体系的に理解・習得した上で、その成果を固有の「文法」に従ってアウトプットできる人材の育成
� 高等教育で育成する汎用的技能
→汎用的技能の育成自体を目的とするのではなく、専門的知識・技能等の習得の過程において結果として身につくもの
ひとつの「文法」を身につけること
� 専門教育:自己、他者、世界を眺めるためのひとつの「視点」として機能
→専門性を出発点とした汎用性
� 汎用性の背後にひそむ「視点」の違い →視点の多様性と補完性(「汎用的」とは均質さや無個性を意味しない)
⇒「社会の中で市民として生きること」の基礎
哲学の場合
� 哲学:日常生活で役に立たない、現実離れした思考? →表層的な現実から離れて考えること:世界の事物の外面だけでなく、その構造や本質を見抜き、結果として現実をよりよく知ること
� フランスの哲学教育の目的:哲学という複雑な論理的思考の範型を使いながら、対立意見の主張の整合性を最大限に尊重しつつ、意見表明できる人間を育てる
→専門領域の知を基礎とした汎用的技能の育成
おわりに―汎用的な能力を問い直すために
� フランスの知人に、貴国ではなぜ高校で哲学教育を重視するのかと質問したら、「例えば公務員。誰もが幸福に暮らせる社会をめざす者が、幸福の何たるかを考えたことがなければどうなる」との当然すぎる返答。(2019年3月21日朝日新聞「折々のことば」)
� 汎用的技能の測定可能性ではなく、その習得の過程の多様性に目を向けること →高等教育の、そして教員の責務ではないか?
ご清聴ありがとうございました!
https://mechanewb.wordpress.com/author/mechanewb/
汎用型・量産型から 多様さを前提とした汎用性へ