9
岐臨技 精度管理事業部 平成 24 年度 総括集 - 1 - はじめに 平成 24 年度の微生物サーベイは、資料問題 2 問、 Photo Survey10 問を出題しました。資料問題は、CLSI の方法に準じて薬剤感受性試験を実施すると正しい 判定になる MRSA 株を用い、感受性結果の回収をしま した。Photo Survey 問題は、問題数が例年の倍の 10問となりましたので、一般細菌、嫌気性菌、真菌、 寄生虫と広範囲にわたって出題しました。中でも、 24 年度の夏期微生物研究班研修会にて、腸管感染症 を取り上げましたので、その中から感染症法 3 類・ 全数届出の菌種を含めた 3 問を出題しました。その 他の問題も鏡検と患者情報からポイントを絞って推 測できる菌種を中心に問題作成を行ないました。 実施項目 同定 感受性 菌種推定 試料問題 (資料 41) 試料問題 (資料 42) Photo Survey 問題 1~9 Photo Survey 問題 10 評価外 問題 ◎ :評価対象問題 参加施設数 試料問題 23 施設 Photo Survey 22 施設 試料の取り扱い 1.カルチャースワブにて送付いたしました。 2.試料到着後はできるだけ速やかに適切な培地に塗 り広げてください。 3.以下の患者データを参考に同定と設問に答えてく ださい。 *生菌ですので、感染には十分注意して下さい。 資料問題 試 料 41 女性が庭でケガをし、数日後に受傷部は化膿した。 感染部位に強い痛みを感じたことから受診した。 ①培養により、同定された微生物の菌種をコード より選択してください。 ②薬剤は ABPC、CEZ、VCM 3剤の薬剤感受性 試験を行い、S. I、Rで判定・回答してください。 同定検査評価 評 価 菌 名 件 数 比 率 MRSA 20 91% St.aureus Clostoridium 1 1 9% ①感受性試験結果 ABPC MIC 測定装置 MIC 値 判 定 回答数 RAISUS 4 5 マイクロスキャン 8 4 バイテック2 4 1 IS60 2 8 1 1 用手法 ≦8 4 ≧16 1 1 1 MIC:μg/ml ディスク拡散法 直 径 判 定 回答数 センシ ディスク 15 13 2 1 KB ディスク 15 11 1 1 SN ディスク 14 1 阻止円直径:mm CEZ MIC 測定装置 MIC 値 判 定 回答数 RAISUS ≦8 ≧8 4 1 マイクロスキャン ≦8 >8 2 1 微生物検査 浅野 裕子

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岐臨技 精度管理事業部 平成 24 年度 総括集 - 1 -

はじめに 平成 24年度の微生物サーベイは、資料問題 2 問、

Photo Survey10 問を出題しました。資料問題は、CLSI

の方法に準じて薬剤感受性試験を実施すると正しい

判定になる MRSA 株を用い、感受性結果の回収をしま

した。Photo Survey 問題は、問題数が例年の倍の

10問となりましたので、一般細菌、嫌気性菌、真菌、

寄生虫と広範囲にわたって出題しました。中でも、

24年度の夏期微生物研究班研修会にて、腸管感染症

を取り上げましたので、その中から感染症法 3類・

全数届出の菌種を含めた 3問を出題しました。その

他の問題も鏡検と患者情報からポイントを絞って推

測できる菌種を中心に問題作成を行ないました。

実施項目

同定 感受性 菌種推定

試料問題

(資料 41)

◎ ◎

試料問題

(資料 42)

Photo Survey

問題 1~9

Photo Survey

問題 10

評価外

問題

◎ :評価対象問題

参加施設数

試料問題 23 施設

Photo Survey 22 施設

試料の取り扱い

1.カルチャースワブにて送付いたしました。

2.試料到着後はできるだけ速やかに適切な培地に塗

り広げてください。

3.以下の患者データを参考に同定と設問に答えてく

ださい。

*生菌ですので、感染には十分注意して下さい。

資料問題

試 料 41

女性が庭でケガをし、数日後に受傷部は化膿した。

感染部位に強い痛みを感じたことから受診した。

①培養により、同定された微生物の菌種をコード

より選択してください。

②薬剤は ABPC、CEZ、VCM 3剤の薬剤感受性

試験を行い、S. I、Rで判定・回答してください。

同定検査評価

評 価 菌 名 件 数 比 率

A MRSA 20 91%

D St.aureus

Clostoridium

1

1 9%

①感受性試験結果

ABPC

MIC 測定装置 MIC 値 判 定 回答数

RAISUS 4 R 5

マイクロスキャン 8 R 4

バイテック2 4 R 1

IS60 2

8

1

1

用手法 ≦8

4

≧16

1

1

1

MIC:μg/ml

ディスク拡散法 直 径 判 定 回答数

センシ ディスク 15

13

2

1

KB ディスク 15

11

1

1

SN ディスク 14 R 1

阻止円直径:mm

CEZ

MIC 測定装置 MIC 値 判 定 回答数

RAISUS ≦8

≧8

4

1

マイクロスキャン ≦8

>8

2

1

微生物検査 浅野 裕子

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岐臨技 精度管理事業部 平成 24 年度 総括集 - 2 -

≦2 R 1

バイテック2 ≦4 R 3

IS60 ≦4

=2

1

1

用手法 ≦4

≦1

1

1

MIC:μg/ml

ディスク拡散法 直 径 判 定 回答数

センシ ディスク

23

22

1

1

KB ディスク 25 S 1

阻止円直径:mm

VCM

MIC 測定装置 MIC 値 判 定 回答数

RAISUS =1

≦1

2

3

マイクロスキャン ≦1

≦2

=1

バイテック2 ≦0.5 S 3

IS60 ≦1 S 2

用手法 ≦4

=1

1

MIC:μg/ml

ディスク拡散法 直 径 判 定 回答数

センシ ディスク 17

18

2

1

KB ディスク 12 S 1

阻止円直径:mm

②薬剤感受性検査

評 価 判 定 施設数 比 率

A ABPC R 23 100%

CEZ R

CEZ S

20

1

95%

A VCM S 21 100%

ブドウ球菌は、以下の方法で同定を進めます。

① マンニット食塩培地発育

②コアグラーゼ試験(ウサギプラズマ凝集)

③MRSA選択培地発育・卵黄反応確認

④薬剤感受性試験(微量液体希釈法)における MPIPC

と CFX の MIC 値

*MPIPC およびCFX のどちらか一方でも「R」と

判定された場合は MRSA と報告する

この資料問題の株は、培養時間が短い場合 MPIPC

の MIC値が低値となり、MSSAと判定される菌株です。

CLSI の基準に従って 24 時間で培養・判定した場合

は MPIPC の MIC 値は 4~8 µg/ml の「R」となり、

MRSA と判定されます。今回は、1施設で MSSA と判定

されていました。該当施設は培養時間に注意が必要

です。

さらに、mecA の低レベル発現や PBP の変異など

MRSA の判定を見落とさないために CLSI では、

M100-S20にて MPIPCおよびCFX試験に関するコメン

トが明確になりました。:CFX および MPIPC の両剤を

S.aureus もしくは、S.lugdunensis に対して試験し、

いずれかの結果が耐性の場合、その菌は MPIPC 耐性

として報告する。と記載されています。上記に CLSI

の判定基準を記載しましたので参考にしてください。

また、MIC 値の結果報告に際して、濃度以上の表記

は、「>」を使います。「≧」は使いません。記載ミ

スには、注意が必要です。

試 料 41

45 人が参加した昼食会で出されたケータリング

食により食中毒が発生した。食事をした 30%のヒト

が、食後 3 時間で吐き気をもよおし、嘔吐した。保

健所は、チキンライスから、この菌を分離し、原因

菌であると発表した。培養を行ない、食材の菌検索

し、原因と思われる菌種をコードより選択してくだ

さい。

同定検査評価

評 価 菌 名 件 数 比 率

A Bacillus cereus 23 100%

ポイント:「チキンライス」と「食後 3時間で吐き

気」から Bacillus cereus が疑われます。菌は太い

GPR で連鎖を成します。分枝はなく偏性好気性~通

MRSA の CLSI の判定基準 MPIPC : R ≧4 S ≦2

CFX : R ≧8 S ≦4

MPIPC : ≦10mm CFX : ≦21mm

・CLSI の MRSA 測定基準

接種菌量 McF No.0.5 を 10 倍希釈

培養温度 35℃

MPIPC の培養時間 24 時間

試料 41 の MRSA 株 ABPC の期待値 2 ~ 8 µg/ml

VCM の期待値 0.5 ~ 2 µg/ml MPIPC の期待値 4 ~ 8 µg/ml CFX の期待値 8 ~16 µg/ml

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岐臨技 精度管理事業部 平成 24 年度 総括集 - 3 -

性嫌気性です。カタラーゼ陽性、Metronidazole 耐

性で有芽胞の Closutoridium と区別がつきます。

Photo Survey

症例 1~9の患者背景、検査データを、Photo を添

えて出題します。推定される菌名を菌名マスターか

ら選んでください。

Photo Survey 設問 1

患者背景:70代男性。3 か月前から、右耳のべたつ

きを感じ、自分の声が聴きにくくなったことから耳

鼻科を受診された。右鼓膜に黄色膿瘍の付着があり、

発赤と軽度浮腫があった。

【細菌検査】提出された耳漏の培養から真菌が発育

した。サブロー寒天培地に巨大集落を形成させたと

ころ、 写真 1-1 のごとく発育した。

写真

1-1

巨大集落 サブロー寒天培地 35℃48 時間

写真1-2

1. 同定検査評価

ポイント:サブロー寒天培地 35℃、2 日目、黒

色の巨大集落が発育しました。

Aspergillus 属は、下記の図1に示すように、顕微

鏡による各微細構造の形状、大きさが種の同定のた

めの指標になっています。問題は、以下の鑑別点か

ら Aspergillus niger と推察されます。

図1.病原性を示す Aspergillus の模式図

病原真菌学(南山堂)より引用

Aspergillus nigerの形態的特徴は、頂嚢が大型で球形

あるいは、亜球形 45~75μmと大きいことから顕微鏡・×

100 で観察可能である。フィアライドとメツラは 2段で頂

嚢全体を覆っている。分生子は球形刺状突起を有し、直径

3.5~4.5μm。本菌種は、ブドウ、コーヒー豆などに危害

引き起こすことが問題になっている

Aspergillus flavus は、頂嚢はフラスコ型で直径 25

~45μm、コロニーは、最初黄色、のちに黄緑から青緑コ

ロニーです。頂嚢の 1/2 から1/3 にメツラ、フィアライ

ドを形成する。1)

ムコールの巨大集落 サブロー寒天培地

30℃、5日間養 7日間培養

接合菌 Mucor は寒天培地上、速やかに綿菓子用コ

ロニーを作るので、これだけでも他の糸状菌と鑑別

できる。その他に形態学的特徴は、幅の広い(6~15

評価 菌 名 件数 比 率

Aspergillus niger

Aspergillus sp.

18

2

91%

C Aspergillus flavus 1 5%

D Mucor sp 1 5%

Aspergillus flavus Aspergillus flavus

Aspergillus niger

ラクトフェノール・コットンブルー染色 ×100

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μ)無隔菌糸をつくる・有性胞子として接合胞子を

無性胞子として胞子嚢胞子を作る.

文 献

1)矢口貴志:Aspergillus 属:文化財の虫菌害:59号、2009

2)山口英世:病原真菌と真菌症 南山堂

Photo Survey 設問 2

患者背景:60代男性。1か月前から、抗癌剤治療に

より入院中。 CZOP 投与中であったが、悪寒と吐き

気、38.3℃の発熱があった。

検査値は、WBC 9160 、Hb 8.6g/d 、Pt 45.8 万、CRP

4.92mg/dl。

血液培養は、48時間後に陽性となった。グラム染色

と後日の培養コロニーは以下のごとくであった。

写真2-1

血液培養 35℃、48時間培養陽性、

グラム染色×1000

写真2-2

クロモアガーカンジダ培地、48時間培養

2.同定検査評価

ポイント:CHROMagar Candida 培地は、カンジダ

属の主要菌種を色別に分けられる培地です。

培地中のクロムペプトンをカンジダが分解し発色

する。CHROMagarTMは Dr A. Rambach が登録商標を持

っているもので、クロモアガーの BD製も関東化学製

も同じ色調変化を示し 37℃で 48 時間培養し、色調

で判定します。C,glabrata は、発芽管を形成しない

ので、血液培養の中では、伸びたものは見られない

ことなども鑑別ポイントです。

① Candida albicans

Green with paler edges(エメラルドグリーン)

② Candida glablata Dark pink(濃い八重桜

のような色)

Photo Survey 設問 3

患者背景:60歳代女性。咳と 38.7℃発熱があり、紹

介受診された。

検査値は、WBC 9920 /μl、Hb 7.6g/d 、Pt 29.5 万

/μl、CRP 9.64mg/dl。

右下肺野中心に肺炎像があり、喀痰のグラム染色が

至急で依頼された。喀痰グラム染色は写真のごとく

であった。

写真3-1

喀痰のグラム染色×100

写真3-2

喀痰のグラム染色×1000

3.同定検査評価

評価 菌 名 件数 比 率

A Candida glablata 19 86%

B Candida sp 2 9%

C Candida albicans 1 5%

Candida albicans Candida glablata

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岐臨技 精度管理事業部 平成 24 年度 総括集 - 5 -

ポイント:鏡検時に白血球は、淡紅色に染色されて

いるか?細菌の観察は、染色性、形態、配列、貪食像、

量を判定。炎症細胞浸潤と菌体の貧食像があれば、起

炎性は高いと考えられます。喀痰は、100 倍で鏡検、

Gecklerの分類はグレード5、次に1000倍で観察し、

グラム陽性双球菌、莢膜が抜けて染色されており、

肺炎球菌が推察できます。

Photo Survey 設問 4 患者背景:60代男性。海外出張から帰国後、発熱と

腹痛を発症。血液培養と便培養を実施したところ便

から写真 4-1.4-2 の菌が発育した。生化学的鑑別性

状は、写真 4-3 のごとくであった。

推定される菌名をコード表より選択してください。

写真4-1

DHL 寒天培地 35℃、24時間培養

写真4-2

SS 寒天培地 35℃、24時間培養

写真4-3

生化学的性状検査

4.同定検査評価

ポイント:海外出張から帰国後、発熱と腹痛

・SS寒天培地上、中心部が極わずかに黒色

・TSI 凝固水部分が僅かに黒色

・以下の生化学的性状により推察されます。

この設問に対して Vi抗原を確認してから判定、回答

することを考えると“Salmonella sp”も正解とし

ました。

【TSI】

斜面:乳糖および白糖非分解のため赤色

高層:ブドウ糖分解により黄色を示す。硫化水素

は産生されるが、高層上部または凝固水部分が僅

かに黒色となるのみである。境界線に硫化水素、

ガス非産生

【シモンズ・クエン酸】 培地の色調が変化しない。

(緑色)クエン酸塩を炭素源として利用しない

【LIM】リジン:陽性、(紫色)リジン脱炭酸反応

運動性:培地の混濁が認められる。運動性が弱い

場合や、認められない場合もある。

インドール:陰性。Kovacs 試薬を添加しても色の

変化はない。

確認検査

チフス菌:Vi血清、O 血清を用いてスライド凝

集反応を行なう。Vi血清にのみ凝集するかあるい

はVi血清に凝集し、しかもO因子血清(O9)にも

凝集するときは、被検菌はVi抗原を持つ菌である

と判定する。Vi抗原は易熱性抗原であるから、

121℃、20~30 分加熱後、加熱死菌がVi血清に凝

集しなくなることを確認する。加熱死菌はO9には凝

集する。稀にVi抗原を持たない株があることに注

意する。

届け出 腸チフス患者と診断した場合には、法第12条第1項

の規定による届出を直ちに行わなければなりません。

評価 菌 名 件数 比 率

A Streptococcus pneumoniae

22 100% 評価 菌 名 件数 比 率

A Salmonella Typhi 20 91%

(A) Salmonella sp. 1 5%

D Proteus sp. 1 5%

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岐臨技 精度管理事業部 平成 24 年度 総括集 - 6 -

Photo Survey 設問 5 患者背景:50 代女性。下痢を発症。便培養をしたと

ころ写真 5-1、5-2 のごとくコロニーが発育した。生

化学的鑑別性状検査は、写真 5-3 のごとくであった。

推定される菌名をコード表より選択してください。 写真5-1

DHL 寒天培地 35℃ 24 時間培養

写真5-2

SS 寒天培地 35℃、24時間培養写真6-1

写真5-3

生化学的鑑別性状検査 35℃、24時間培養

5.同定検査評価

ポイント:以下の生化学的性状により推察されます。

【TSI】:

斜面:乳糖および白糖非分解のため赤色

高層:ブドウ糖非分解により赤色を示す。硫化水

素は 産生される素、ガス非産生

【シモンズ・クエン酸】 培地の色調が変化しない。

(緑色)クエン酸塩を炭素源として利用しない

【LIM】リジン:陽性、(紫色)リジン脱炭酸反応

運動性:培地の混濁が認められる。運動性があり

試薬添加後、インドール陽性。運動性は陽性

SS 寒天培地上では、乳糖非分解で中心部が黒色で

Salmonella のコロニーと似ています。本菌は海水、

淡水いずれにも生息しているので、ヘビ、両生類な

どの消化管や魚類から分離されています。ヒトへは

下痢を主症状とする腸管感染症が 8割を占めるとさ

れており、検体は便、胆汁、創傷などから分離され

る。まれに壊死性菌膜炎の報告3)、4)もあります。

Photo Survey 設問 6 患者背景:40 代男性。東南アジア出張から帰国の 1週間後、38℃以上 の高熱が続いた。比較的徐脈

で、脾腫、便秘の症状を呈していた。 血液検査と便検査を実施したところ便から写真6-1、

6-2 の菌が発育した。生化学的鑑別性状試験は、写

真 6-3 のごとくであった。 写真6-1

DHL 寒天培地 35℃ 24 時間培養

写真6-1

SS 寒天培地 35℃、24時間培養

写真6-3

生化学的鑑別性状検査 35℃、24時間培養

評価 菌 名 件数 比 率

18 86% A

Edwardsiella tarda

Edwardsiella sp. 4 18%

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岐臨技 精度管理事業部 平成 24 年度 総括集 - 7 -

6.同定検査評価

ポイント:東南アジア出張から帰国

・SS寒天培地上、透明

・血清型別は、O群血清O2

・以下の生化学的性状により推察されます6)。

【TSI】

斜面:乳糖および白糖非分解のため赤色

高層:黒変なし。ガス産生。

【LIM】リジン: 陰性、黄色。運動性:培地

の混濁が認められる。

インドール:陰性。Kovacs 試薬を添加しても

色の変化はない。

【シモンズ・クエン酸】培地の色調が変化しない。

(緑色)

ヒトにチフス症を起こす菌は、チフス菌(S.

Typhi)とパラチフスA菌(S. ParatyphiA)があり、

3類感染症に分類される。チフス菌は食物、水など

とともに体内にとり込まれ、回腸下部に付着し、そ

こで感染、増殖するとともにリンパ管を介してリン

パ節に侵入し、ついで胸管を経て血流中に入り、脾

臓、肝臓、骨髄、腎臓など身体各部に伝播する。

―腸チフスの経過と菌の検出―

潜伏期:5~14 日。平均7~8 日。この期間は菌が腸

リンパ節で盛んに増殖しているが、そこか

ら糞便中に排出される。菌数は少ない。

初期(第1週):リンパ節からリンパ管、血流を介

して菌が各臓器に伝播されはじめる。体温

が徐々に上昇し4~5 日で40℃台に達する。

この期間は菌が血中に濃厚に存在する。(血

液培養)極期(第2週):発熱が続く。尿、

便中にはあまり菌は認められない。バラ疹

も著明となる。

緩解期(第3週):脾臓、肝臓、腎臓などの病巣の

菌が尿中に排出されるため尿の培養を行なう。

肝臓に侵入した菌はそこで増殖し、胆汁と

ともに腸管内に排出されるので、第2週の

終わり頃より菌は糞便からも検出されるよ

うになる。(血液、尿、便培養)徐々に回

復期に入る。尿中の菌が減少し、菌の排出

は糞便への経路が主体となる。(便培養)

病期によって検査対象となる検体が違ってきます。

文 献

3)原賢寿ら.E.tarda 敗血症による腓腹部に限局した

筋膜炎・・臨床神経学 2009:51.9

5)西山秀樹ら.壊死性筋膜炎を伴った E.tarda 感染症

の 1例.日本臨床微生物学会誌2007:17.130

6)国立感染症研究所 病原体検査マニュアル

Photo Survey 設問 7

患者背景:80代男性。海釣りが趣味でよく出かけて

いた。釣り針が手に 引っ掛かり負傷したが、そのま

ま放置していたところ、腫脹と疼痛の症状が現れ、

受診となった。細菌検査に出された膿瘍に抗酸菌が

認められた。推定される微生物名をコードより選択

してください。

写真7-1

膿瘍のチールネルゼン染色×1000

写真7-2

ポイント

・海釣り中での受傷部分の膿瘍

・小川培地では、27℃で発育、

35℃で初代発育しない

・光照射後に黄色

7.同定検査評価

M, kansasi も 、M, marinam と同じく光発色性の

菌ではあるが、M, marinamのコロニーはスムース型

M, kansasi ラフ型が多く、対象疾患は、呼吸器系感

染が多く、中でも肺上葉に好発し空洞を伴うことが

多い。

hoto Survey 設問 8

患者背景:山のサマーキャンプに参加した小学生が

帰宅後、1週間近く 胃腸の異常が続いた。症状とし

菌 名 件数 比 率

A Salmonella

Paratyhi A

22 100%

菌 名 件数 比 率

A Mycobacterium

marinam

20 91%

C Mycobacterium

kansasi

2 9%

3%小川培地

27℃ 10 日間培養

光照射前 光照射後

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岐臨技 精度管理事業部 平成 24 年度 総括集 - 8 -

ては、痛みを伴う膨満感と柔便であった。

便を直接、鏡検すると多数の虫体が見られた。推

定される微生物名を コードより選択してください。

(写真提供:岐阜市民病院、一柳先生)

8.同定検査評価

ポイント

・感染経路 : 汚染された湖や河川水中の嚢子を

摂取したことから、感染した と考えられる。

・血液液の混じらない水溶便

・栄養型は左右対称の洋ナシ型で、常時 2 核で、

4 対の鞭毛がある。

文 献

7)国立感染症研究所 感染症情報センター 感染症の話

Photo Survey 設問 9

患者背景:30代男性。1 週間ぐらい前から咽頭痛が

あり、次第に痛みが 増して食事ができなくなったこ

とから、耳鼻咽喉科を受診し、扁桃周囲膿瘍と診断

された症例。口蓋弓が発赤、腫脹、一部黄変して自

壊しそうな状態であったことから、穿刺、多量の膿

汁が吸引された。グラム染色は、写真 9-1 のごとく

針状の GNR が認められた。推定される微生物の菌名

をコードより選択してください。

写真9-1

写真9-2.3

ブルセラ HK-RS 寒天培地

HK 半流動生培地 35℃ 3 日間培養

9.同定検査評価

ポイント

・ 塗抹検査で針状の GNR

・ HK 半流動生培地で嫌気性菌を疑う

・ブルセラ HK-RS 寒天培地。直径1mmぐらい

の白いパンくず状コロニーが発育した。

・ 紫外線照射をすると黄色の蛍光色を発した。

(インドール 陽性)

Photo Survey 設問 10

評価対象外問題

患者背景: 70 代男性。腎盂腎炎の診 断にて入院。

前医にて LVFXが投与され、当院、救急外来にて CTRX

が使用され、入院となった。CTRX投与前の血液と尿

菌 名 件数 比 率

21 95% A

Giardia lamblia

Giardia sp. 1 5%

菌 名 件数 比 率

18 82% A

Fusobacterium

nucleatum

Fusobacterium sp. 3 14%

D Flavobacterium sp. 1 5%

写真8-1

グラム染色にて針状 GNR×1000

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岐臨技 精度管理事業部 平成 24 年度 総括集 - 9 -

の細菌検査からは、翌日、大腸菌が分離された。

写真10-1

表10-2.薬剤感受性試験結果(MIC:μg/ml)

【 設問 10】以上のデータを見て正しい項目を選択

してください。

a.感染対策として手洗いの遵守、処置時のガウン

使用など接触予防策を行った。

b.耐性遺伝子は、染色体上に存在しているため、

グラム陰性桿菌の間で伝搬する可能性がある。

染色体 プラスミド

ESBL の遺伝子は、多くはその由来がプラスミド媒

介性のペニシリナーゼであったため、接合伝達によ

って腸内細菌科の同一あるいは異なる菌種間で遺伝

子が伝達していくと考えられる。

c.「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に

関する法律」によって、症例の診断が確定した場

合、保険所に届ける必要がある。

必要ある 必要ない

d. 救急外来での CTRX 投与により、翌日には解熱

したため、今後もCTRX1日1回の投与を継続した。

CLSI の M100-S22 の基準 MIC のブレイ

クポイントを採用:CTRX1g/日投与なら

継続してよい

e. CFPM の MIC 値は 2μg/ml であった。判定は「R」

とした。

CLSI の M100-S22 の基準であれば R に

しなくて良い

CFPM は、1g×4日または、2g×3/日

CFPMは 1gを 12時間の標準量ではなく2g 8時間毎

の高用量なら効くとの報告もある8)。

文 献

8)Antimicrob Agents Chemother. 2003;47:3442–7

今回の 2010 年 CLSI ドキュメントでのブレイクポ

イントの変更は、抗菌薬について用法容量の制約も

あり、米国と日本でその基準が異なることや、ESBL

のスクリーニングテストを実施しなかった場合、報

告時に ESBL の記載がなくなる。院内感染対策面で

の問題もあり、今回の変更をすべて導入することは

難しい。基準の変更は重要な問題であり、検査部門

および臨床と話し合い、どこまで導入していくかを

決めていかなければいけないので、この問題は、評

価対処外とした。

ま と め

今年度のPhoto Surveyは、

正解率 92%以上、資料問

題 91%以上で良好な結果

でした。

今年度の夏期の微生物

班研修会は、腸管感染症を

取り上げました。よって腸

管感染症問題 3 問は、95%

から 100%と高い正解率で

した。来年度も研修会の内

容を網羅して、真菌、嫌気

性菌、寄生虫など、さらに

広い範囲から問題を出題

したいと考えています。

より、多くのご施設のご

参加をお願い致します。

ABPC >32 CPZ/SBT ≦1

CEZ >32 FMOX ≦1

CTM >32 MEPM ≦1

CTX >32 IPM ≦1

CAZ 2 LVFX >16

CFPM 2 AZT 4

正解率

設問 41 同定・感受性試験 91 %

設問 42 同定 100 %

Photo

設問 正解率

設問 1 91 %

設問 2 95%

設問 3 100 %

設問 4 95 %

設問 5 100 %

設問 6 100 %

設問 7 91%

設問 8 95 %

設問 9 95 %

CPDX(10μg/ml)、

CAZ(30μg/ml)、

CTX(30μg/ml)

の 単 剤 と

clavulanic acid

(CVA)を添加した

ディスク拡散法に

よる確認試験