Upload
others
View
0
Download
0
Embed Size (px)
Citation preview
意欲ある経営体を支援する農地土壌情報モニタリングキットの開発
研究成果報告書
研究開発課題名 意欲ある経営体を支援する農地土壌情報モニタリングキットの
開発-フィールド用無線LANインターフェイスアダプタの開発-
研究開発組合代表者名 株式会社イーラボ・エクスペリエンス
代表取締役社長 島村 博
1.研究目的
我が国において国際化の進展に耐えうる競争力の高い農業を実現するためには、安全・
安心・高品質の農産物を均一に生産するための農地管理が重要である。意欲と能力のある
若い農業経営者の中には、GAP(適正農業規範)認定やトレーサビリティシステムの導入
を視野に入れながら、きめ細かな水分管理や施肥管理を実践し、高品質の農産物を輸出す
る者もいる。しかし、排水不良であったり、肥料が抜け易かったり、均一にみえる農地も
部分的には不均一であり、そのことが小麦や大豆、イネなどの比較的密に生育する農産物
の品質を不揃いにする要因になっている。特に、作付け前の農地においては均一な土壌水
分と肥料の配分が重要であり、篤農家は勘や経験を頼りに土作りを実践している。しかし、
若い農家の担い手にとっては、こうした勘や経験に裏打ちされた土作り技術を身につける
のが容易なことでなく、より効率的に農地を管理する手法の開発が求められている。 一方、近年の土壌水分測定技術に関する進展は目覚しく、ハンディ(長さ 5-10cm)でか
つ廉価な土壌水分センサ等が土壌研究者の間で使われ始めている。また、最近ではこれら
の土壌センサとインターネット技術を用いて国内外の遠隔の農地からリアルタイムで土壌
情報をモニタリングする研究も行われている。しかしながら、コスト面を考慮すると一般
の農家レベルでこうした遠隔モニタリングシステムを導入するのはまだまだ難しい状況に
ある。 そこで、本研究開発事業では、既存の土壌センサに装着するだけで農地の土壌情報を容
易にモニタリングすることを可能にする「無線LANインターフェイスアダプタ」を開発し、
個人農家でも購入可能な価格で製品化するための基盤を構築する。 2.研究内容
図-1に本事業の研究内容を示す。本研究では、農地に面的に設置した複数の土壌水分
センサのデータを、センサネットワーク技術により、リアルタイムに遠隔監視するシステ
ムを構築する。 本システムは、センサ端末に接続するだけで、無線通信によるデータ収集が可能となる
「無線 LAN インターフェース アダプタ」(以下「無線アダプタ」;Wireless Adapter, WLA)
により実現される。 「無線アダプタ」以外のシステムは、市販のセンサ端末、および既存のインターネット
接続環境で構成される。無線アダプタを新規開発することで、導入コストを最小限に抑え、
個人農家でも購入可能な価格で製品化する。
図-1 農地土壌情報モニタリングキットの研究開発事業の概要
3.目標とする成果
3.1 目標とする成果
本事業で開発するキットは、低価格の小型 WiFi「アダプタ」である。 個人農家はセンサとアダプタを農地の任意の位置に設置するだけで、作付け前や作付け
途中の農地の土壌状態(土壌水分や肥料の分布)を面的に知ることができ、そのデータに
基づいた均一な土作りに役立てることができる。また、作付け後のデータをモニタリング
することにより、農作物の生育状態に応じたきめ細かな水分管理・施肥管理・防除計画等
に役立てることができる。このことは、農業の環境負荷を軽減し、地域の農地・水・環境
保全の向上につながる。また、GAP(適正農業規範)認定やトレーサビリティシステムを
導入し、国際競争力のある攻めの農業や精密農業を実践しようと考えている意欲と能力の
ある経営体の育成に資することが期待できる。 本キットは WiFi 通信機能を有しているため、既存のインターネット技術と組み合わせれ
ば遠隔農地の土壌情報をモニタリングも可能になる。これにより、土砂災害の危険がある
中山間地や耕作放置地における豪雨の土壌浸透速度をモニターし、警報を送る等のシステ
ム構築等、農業農村分野のさまざまな領域に応用が期待できる。
3.2 従来技術との比較
従来のセンサネットワークシステムはベンダの独自通信規格により構築されたシステム
がほとんどで、導入費用が高価な上に、設置・保守にも専門知識を要する。本研究開発で
は、一般家庭でも普及が進む IEEE802.11 無線 LAN 通信規格、およびインターネット通信
におけるデファクトスタンダードである TCP/IP プロトコルを基礎技術とし、これを採用す
ることにより、個人農家でも購入可能な価格、設置・メンテナンスの容易化を実現する。
4.研究成果
4.1 研究成果概要
(1) 基礎となる試験研究等の概要及び研究開発における技術的問題点と対応策 【基礎となる試験研究等の概要】 センサ端末に接続した「無線アダプタ」が水分値をセンサから定期的に取得し、インタ
ーネット上のデータサーバに送信する。LAN(Local Area Network)における通信技術とし
て IEEE802.11b/g 無線通信規格を採用する。これにより、WAN (Wide Area Network) へのアクセスには、市販のアクセスポイント機器、および既存のインターネット接続環境が
利用できる。 通信プロトコルは、インターネット通信におけるデファクトスタンダードである TCP/IP
とする。これにより、トラブルシューティング、改良、機能向上等が効率化される。 【主な開発項目】 ■「無線アダプタ」ソフトウェア開発
センサ端末から水分値データを取得し、インターネット上のサーバに送信するためのソ
フトウェアを開発する。実装すべきソフトウェア機能を以下にリストする。 ・ センサデータ入力 ・ センサデータ バックアップ ・ センサデータ解析(異常状態の検出) ・ HTTP プロトコルによるサーバへのデータ送信 ・ 無線 LAN 接続制御 ・ 設定ツール(データ送信の頻度、正常・異常値の範囲、サーバアドレス、電子メール
アドレス、WEP キーの設定および変更を可能にする) ■データ収集用サーバシステムの開発 「無線アダプタ」を介して送信されるセンサデータを受信・保存し、Web ブラウザによ
る閲覧を可能にするシステムを開発する。 ・HTTP プロトコルによるデータ受信・保存 ・閲覧用 HTML コンテンツ ■「無線アダプタ」 ハードウェア開発
アダプタの機能を実現するために必要なハードウェアを設計・開発する。このハードウェ
アは、以下のハードウェア部品により構成される。 ・ ソフトウェア実行用プロセッサ ・ アナログ デジタル変換装置 ・ タイマー装置 ・ IEEE802.11 b/g 準拠 MAC/Baseband および RF 処理装置 ・ 電源供給(乾電池)装置 ・ システム基板 ・ 無線通信用アンテナ ・ 農場設置用筐体および備品 *本研究開発のおいては、上記部品のうち、システム基板のみを新規に開発する。その他
の部品は、本研究開発の目的に最適な市販製品を調査・検討・調達するものとする。 【技術的問題点と対応策】 ■製品価格、および設置・保守費用の低減 現状、既存のセンサネットワーク システムは、製品価格が非常に高価なものが多い。ま
た、設置・保守にも専門知識を要するため、総体的な導入コストは一般個人農家には負担
が大きく、一部の試験農場でのみ導入されているという実態がある。 本研究開発では、成果物であるモニタリングキットを、個人農家でも購入可能な価格で
提供することを目標とする。目標実現のための手段として、まず「無線アダプタ」のソフ
トウェアおよびハードウェアの設計において、徹底的な効率化、最適化を図り、製造コス
トを低減する。また、ネットワークを構成するインフラについても、低価格で購入可能な
市販アクセスポイント機器および既存のインターネット接続環境を利用し、使用者自身が
設置・保守を行えることを前提とする。 ■消費電力の低減 センサ端末および「無線アダプタ」は、電源供給環境から離れた位置に設置されること
から、乾電池駆動を前提とする。しかしながら、ネットワーク通信は比較的高い電力を消
費し、一般的に乾電池駆動デバイスには不向きとされる。 電池交換頻度を下げるためには、消費電力を抑えた効率的なソフトウェア・ハードウェ
アの設計に加え、システムの駆動時間自体を短縮する仕組みを実装する必要がある。具体
的には、タイマー装置により、指定された時間間隔で起動し、通信を行っていない時間は
完全停止させることによって消費電力を大幅に抑える。当然ながら、起動時間間隔を広げ
るほど消費電力は下がるが、データの粒度およびリアルタイム性も下がる。本研究開発で
は、システムの起動時間間隔を可変にし、実証実験の過程で起動時間と消費電力の対比を
実践上のデータとして収集する。 ■無線通信の信頼性
電波を媒体とする無線通信技術は、通信ノード間をケーブルで接続する必要がないため
設置の自由度が高く、有線通信よりも農地での利用に向いていると言える。一方、通信の
安定性、信頼性という面においては、障害物による電波の反射や遮断、他の電波との混線
など、有線通信よりも環境の影響を受けやすい。 4.2 実験施設における概要、結果、課題等
【NOE(Network Offload Engine)】 通常、センサで測定される土壌水分データは、センサに付属のデータロガーやリーダー
によって PC に取り込まれる。これをリモートで行うためには、現地に PC を設置し、ネッ
トワーク内のホストシステムに別途その PC にアクセスするためのプログラムを書かねば
ならない。NOE は、センサに直結したアダプタ上に、ホストシステムに代わってネットワ
ーク処理を行う専用サブシステムである。高負荷なネットワーク用プロトコルをサブシス
テムに分担させる(=オフロードする)ことにより、ホストシステムの負荷を軽減し、高
速かつ安定した通信を実現できる。 【無線アダプタシステムの構成(図-2)】
WLA は、通信、センサ制御、WEB サーバ機能を内蔵した Air-NOE モジュールとセン
サ接続用 IF およびバッテリ(単3乾電池 6 本;太陽電池パネルの利用可)で構成される。
TCP/IP および IEEE802.11b/g 無線通信規格を採用したことにより、市販のアクセスポイ
ント機器、および既存のインターネット接続環境が利用できる。今回の試作品には、土壌
水分センサ(EC-5;5本)と Web カメラを標準装備した。
図-2 WLA システムの構成
【データの流れ(図-3)】
NOE では、ブラウザ上から容易にファームウェアを書き換えることができる。図-3は
今回試作したプログラムのフローチャートである。WLA は、タイマー初期化後、土壌水分
値と現地画像を取得し内部メモリに書込み、その後、一定時間(今回は1時間に設定)休
止状態になる。これを 24 回繰り返した後、インターネット上のデータサーバに FTP 送信
する。測定頻度とリアルタイム性は下がるが、これまでの経験上、長期モニタリングでは 1時間に1回の測定で十分であり、それ以上に WLA の消費電力を大幅に抑えることができる
メリットは大きい。
図-3 WLA のデータフローチャート 写真-1 無線アダプタ(WLA)
4.3 実証試験(現場適用)の概要、結果、課題等
(1)SRI 水田における実証試験(愛知県新城市)
【実験の目的】
SRI はイネの大幅な単収増加が期待される低投入持続的稲作技術 (System of Rice
Intensification)で、現在東南アジアを中心に普及し始めている技術である。この技術のポイン
トは、1本の乳苗を広い間隔で田植えし、間断灌漑を行うことにあり、そのための土壌水分
監視が重要とされる。将来的に土壌水分量を監視しながら灌漑タイミングを制御する新しい
ニーズ需要が期待できるので、この技術を日本で初めて導入した農家の協力を得て、WLA の
実証実験を行った。
【実験の方法】 2009 年 6 月 9 日に愛知県新城市の山間部にある SRI 水田に WLA システムを設置した。
この水田に 5 本の土壌水分センサ(EC-5)を地表から 5cm の深さに水平方向に埋設した。
現地の風景を写真-2および写真-3に示す。インターネット使える母屋から納屋の外
のルータまでを有線の LAN ケーブルでつなぎ、そのルータに向かって約 100m 離れた場所
にある WLA を介して土壌水分データが送信される。
写真-2 SRI 水田の実証試験サイト(2009 年 6 月 9 日)左から水田、納屋、母屋 写真-3 土壌水分センサの設置作業風景と設置直後の WLA
6
3 4
5
2
1
7
写真-4 現地に設置された機器の配置図
1: 農家の母屋(ケーブル TV インターネット),2: ルータ1(WiFi アクセスポイント1)
-母屋と LAN ケーブル接続,3: ルータ2(WiFi アクセスポイント2)-ルータ1と無線
LAN 接続,4: WLA(本開発機器)-WiFi でルータ1に無線 LAN 接続,5: 既存のデータ
ロガー(本開発機器の対象機器:性能比較用)-有線でルータ2に接続,6:気象計(現地の
気象条件観測用)-有線でルータ2に接続,7:太陽電池パネル(ルータ2用電源)
【実験の結果】 図-4は、WLA 経由で送信された土壌水分データが保存されているサーバの Web 画面
である。WLA の NOE 機能により、1 時間間隔で土壌水分データがサーバに送信される。
土壌水分データは CSV 形式で保存されているので、ダウンロードしてエクセル等の市販ソ
フトで簡単に好みのグラフを描くことができる。サーバには、土壌水分データの他に別の
システムにより取得された現地の画像データや気象データも保存されているので、この
Web 画面上からそれらのデータもダウンロードできる。 図-5は、こうして得られたデータを用いて作成したイネの分けつ期における SRI 水田
の土壌水分変化である。縦軸は土壌水分センサの出力値(mV)である。600mV が飽和土
壌水分量に相当する。この結果から、農家がほぼ 1 週間周期で間断灌漑を実践していたこ
とがわかる。7 月 8 日前後の土壌水分量の増加は降雨によるものである。 また、写真-5は、WLA のカメラ(図-4の Camera-1)がとらえたイネの様子である。
土壌水分量に対応して、乾燥期には土壌表面に亀裂が生じていること、逆に湛水期には土
壌表面に水が入っていることがわかる。
図-4 WLA からサーバに送信されたデータが保存されているサーバの Web 画面
【考察】 100m 程度の距離であれば、土壌水分と画像データが十分に届くことがわかった。しかし、
太陽電池未対応の WLA を用いたため、約1ヶ月でバッテリが低下し、データが届かなくな
った。これに対処するために、データが届かなくなった直後に農家に電話してバッテリを
交換してもらった。WLA の実際の利用に当たっては、観測期間を考慮して、太陽電池を補
助的に利用するなどの消費電力対策を講じる必要がある。
図-5 WLA を用いて観測された土壌水分の変化
写真-5 WLA のカメラによって得られた水田の様子
(2)キャベツ畑における実証試験(群馬県嬬恋村)
【実験の目的】 高品質の野菜を生産するためには、畑全体の適切な土壌水分管理、施肥管理、および防除
管理が重要である。畑全体の土壌水分状態を監視する目的で、高原キャベツの農家の協力を
得て WLA の実証実験を行った。
【実験の方法】
2009 年 7 月 9 日に群馬県嬬恋村のキャベツ畑の畝間に WLA システム2台を設置した。
各 WLA は約 50m 離れている。(図-6,写真-6)1 台の WLA に 2m 間隔で 5 本の土壌
水分センサ(EC-5)を1つの畝間に一直線上に、地表から 4-9 cm の深さに鉛直方向に挿入
した。
データは、土壌水分センサ WLA ルータ1 ルータ2 ISDN インターネット 研究
室サーバの順に転送される。ルータ1とルータ2は約 500m 離れており、アンテナを使っ
て WiFi 通信を行った。ルータ1には太陽電池によって電源が供給されている。また、ルー
タ1には気象計が接続されている。
図-6 キャベツ畑に設置された WLA システムの配置図
ルータ1
気象計
ルータ2 WLA-1
WLA-2
写真-6 キャベツ畑に設置された WLA システム(2009 年 7 月 9 日)
【実験の結果】
図-7は、WLA による土壌水分の出力値(mV)である。参考値として気象計によって観測
された時間降雨量を図中に示した。センサ間あるいは場所による絶対値のばらつきはある
が、降雨に対して良好に土壌水分が応答している。また、降雨がなかった8月中旬以降、
同じ畝間であっても 8m の距離間で土壌の乾燥の仕方が異なることがわかる。さらには、生
育に伴い WLA がキャベツに覆われていく様子もわかる。(写真-7)
図-7 WLA を用いて観測された土壌水分の変化
2009.7.9
写真-7 WLA のカメラから見たキャベツの成長の様子(2009 年 7 月 19 日)
写真-8 収穫後に現地に取り残された太陽電池パネル付の WLA(2009 年 9 月 26 日)
新城 SRI 水田の場合と同様に WLA の電池が約1ヶ月で消耗したため、8月上旬ではデー
タ欠損が見られた(図中ではこの間の土壌水分量を直線で結んである)。そこで、8月10
日に WLA に小型の太陽電池パネルを装着した。(写真-8)その結果、しばらくは WLA か
ら安定的にデータが届いていたが、キャベツに完全に WLA が覆われると再度データ通信が
途絶えた。
【考察】
無線アダプタは、通信ノード間をケーブルで接続する必要がないため設置の自由度が高く、
農地での利用に向いている。しかし、キャベツ畑では防除作業の関係で、地表面上 30cm よ
りも高い位置に WLA を設置することができない。そのため、キャベツが結球し WLA が完
全にキャベツに覆われてしまうと、作物(障害物)による電波の反射や遮断など、通信の安
定性や信頼性が低下する。設置も含めた利用法の検討が必要である。
(3)大豆畑における実証試験(三重県津市)
【実験の目的】
将来的な WLA の応用を想定して、既存の手法を用いて畑土壌水分の平面的な空間的変動
を長期モニタリングした。
【実験の方法】
2009 年 7 月 4 日に三重県津市にある三重大学農場の大豆畑(広さ:45.5m x 30.9m,播
種 5 日後)に土壌水分センサ 45 本とデータロガー(Em5b)9台を設置した。(写真-9) この畑には 70cm 間隔で高さ 11cm の畝が 44 本立てられている。畑の畝上と畝間で土壌
水分の変化パターンが異なることが予想されるので、畝間に設置したデータロガーから5
本の土壌水分センサ(EC-5)を図-8のように畝間・畝上・畝間・畝上・畝間の順に鉛直
方向(4-9cm 深さ)に挿入した。
土壌水分は1時間間隔でデータロガーに記録され、1週間ごとに手動回収された。
写真-9 データロガーの設置場所(2009 年 7 月 4 日)
西から 8-9 畝間に FG の#1, 21-22 畝間に A-E の#1, 34-35 畝間に HI の#1
図-8 データロガーと土壌水分センサの設置(2009 年 7 月 4 日)
写真-10 土壌水分センサとデータロガーの位置関係(2009 年 7 月 16 日) 【実験の結果】 写真-11は、大豆畑の全景と大豆の成長の経時変化である。1ヶ月ごとのデータを示し
た。8月21日と9月25日の畑の全景写真の色から、大豆の成長が場所によって異なるこ
とがわかる。
図-9は、畝間の土壌水分データ(27点)と畝上の土壌水分データ(18点)それぞれ
の平均値と標準偏差の変化である。この図から、畝間の方が畝上よりも土壌水分量が3%程
度高いことがわかる。また、全期間を通して畑全体の土壌水分量の標準偏差は5%程度でバ
ラツキが大きい。 図-10は、写真に対応した日の畑の土壌水分分布である販のコンタ作成ソフト(Surfer;
クリッギング法)を用いて、畝間の土壌水分データと畝上の土壌水分データに分けて作成し
た分布図である。厳密には、畝の上下で交互に土壌水分が変化している点に注意する必要が
ある。図の座標は、写真左下を原点とし、右方向に 30m,上方向に 45m として表示してあ
る。全体的に左下から右上に向かって土壌水分量が高くなっていることがわかる。
写真-11 大豆畑の全景と大豆の成長の様子
図-9 大豆畑全体の土壌水分量の平均値と標準偏差の経時変化
図-10 大豆畑の土壌水分分布(図中の数字は体積含水率を表す)
畝間の体積含水率(左)と畝上の体積含水率(右) 上から 2009 年 7 月 25 日,8 月 22 日,9 月 23 日
【考察】 この実験では 45本の土壌水分センサに対する1時間ごとのデータが9台のデータロガー
に記録され、そのデータを1週間に1回の頻度で手動回収された。現地に向かい PC を持ち
ながら1台ごとのデータロガーからデータを回収する労力には多大なものがある。こうし
た現状のデータ回収システムを今回開発した WLA に置き換えると、45 本の土壌水分セン
サから自動的にデータが送信されてくるので、データ回収にかかる労力を大幅に節減でき
ることになる。 その一方で、大量のデータ処理を効率的に行うことが必要になってくる。図-10には、
各月のある1日の特定の時刻の土壌水分分布のみを示したが、実際には観測期間にわたっ
て1時間ごとに変化する土壌水分分布が得られている。この中から本当に必要な情報は何
か。今後は WLA によるデータ回収と共に、大量のデータを処理し、必要な情報を瞬時に見
つけ出すシステムも同時に開発してゆくことが必要である。いずれにせよ、今後に向けて
いくつかの課題はあるものの、今回の実証実験で WLA の利用可能性を示すと共に畑全体で
土壌水分のバラツキを実証できたことの意義は大きい。
4.4 普及活動状況等
(1)論文等
・溝口勝・石渡一嘉・小野寺政勝・三石正一, NOE を用いた土壌水分モニタリングキッ
トの開発, 2009 年度土壌物理学会, pp.82-83 (2009) ・Virgilio Julius P. MANZANO, Jr, Masaru MIZOGUCHI, Shoichi MITSUISHI, Tetso
ITO: IT Field Monitoring in a Japanese System of Rice Intensification (J-SRI), PAWEES, Bogor(2009) (2)その他
・アグリビジネス創出フェア(2009 年 11 月 25-27 日,幕張メッセ,http://agribiz-fair.jp/)で成果の一部を紹介した。
5.今後の課題
今回開発した WLA は、小型で通信ノード間をケーブルで接続する必要がないため設置の
自由度が高く、農地での利用に向いているといえる。一方、通信の安定性、信頼性という
面においては、作物(障害物)による電波の反射や遮断など、環境の影響を受けやすいの
で、設置も含めた利用法の検討が必要である。また、インターネットを利用してデータを
送信しているので、その環境がないところでは利用できない。今後は、携帯電話のインタ
ーネットでも使えるようなシステム検討も必要である。 なお、今回の実証試験の結果を踏まえて、改良した WLA を 20 台生産したので、日本各
地の農業試験場や研究所、いくつかの農家に配布して試験評価をしてもらう予定である。
(2009 年 12 月現在)