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195 2015 AIRIES 生物がつなぐ海洋と大気間の物質循環と気候影響 Biogeochemical cycles between surface ocean and lower atmosphere and its impacts on climate 植松 光夫 1 ・武田 重信 2 ・野尻 幸宏 3 ・谷本 浩志 4 Mitsuo UEMATSU 1 , Shigenobu TAKEDA 2 , Yukihiro NOJIRI 3 and Hiroshi TANIMOTO 4 1 東京大学 大気海洋研究所 2 長崎大学大学院 水産・環境科学総合研究科 3 弘前大学大学院 理工学研究科 4 国立環境研究所 地球環境研究センター 1 Atmosphere and Ocean Research Institute, The University of Tokyo 2 Graduate School of Fisheries and Environmental Sciences, Nagasaki University 3 Graduate School of Science and Technology, Hirosaki University 4 Center for Global Environmental Research, National Institute for Environmental Studies 摘  要 SOLAS(海洋・大気間の物質相互作用研究計画)は,海洋と大気の境界を中心に 物理・化学・生物分野を統合した生物地球化学的物質循環の研究プロジェクトである。 我が国では,太平洋を中心とした大気と海洋の同時総合観測により,物理場の中で化 学物質がどう動き,いかに生物が反応するか,従来の大気圏,海洋圏でお互いに独立 した系では見えなかった相互作用(リンケージ)を明らかにすることに取り組んでき た。海洋生物による炭素の固定をはじめ,海洋大気中の海洋生物起源,人為起源,陸 起源の物質との相互作用が地球環境へ与える影響について定量的に評価可能となりつ つある。このような大気と海洋とのリンケージ過程が,地球環境将来予測モデルの 高度化に不可欠なものとなるであろう。温暖化抑制を目指すジオエンジニアリング (geoengineering)などの評価を含め,社会への影響を考慮した課題をもって新たに 立ち上がった Future Earth への移行を進めている。 キーワード:海洋生態系,海洋大気,気候,生物地球化学,大気海洋物質フラックス Key words:marine ecosystem, marine atmosphere, climate, biogeochemistry, air-sea material fluxes 1.はじめに 既に顕在化しつつある地球環境変化に対して,自 然がどのように応答し,新たなる変化を引き起こす のか。地球がもう後戻りもできない実験場のような 環境下で,人類がいかに持続的な発展をしていくべ きかということは,21 世紀の科学にとって最も重要 な課題である。地球環境問題には,陸圏,大気圏, 水圏にかかわる問題があり,それぞれ独立に研究が 進められてきた。しかし,各圏間には密接な相互作 用(リンケージ)が存在し,第 2 IGBP International Geosphere-Biosphere Programme:地球圏-生物圏 国際共同研究計画)では,各圏間の相互作用の解明 に重点が置かれた。水圏に属する海洋から見た場 合,陸圏とのつながりである沿岸域,海底との境界 面,そして大気圏との相互作用が研究対象となる。 本稿では,IGBP のコアプロジェクトである SOLAS Surface Ocean-Lower Atmosphere Study:海洋・大 気間の物質相互作用研究計画),すなわち,海洋-大 気間のリンケージと気候へのフィードバックにかか わる研究について,日本での研究成果を含めて述べ る。 2.SOLAS の流れ SOLAS は,海洋と大気の境界を中心に化学,物 理,生物分野の研究を展開する IGBP の新しいコア プロジェクトとして,2001 2 月,正式に認められ た。 SOLAS IGAC International Global Atmospheric Chemistry Project :地球大気化学国際協同研究計画) JGOFS Joint Global Ocean Flux Study:全地球海 洋フラックス合同研究計画)の境界をつなぐコアプロ ジェクトである。IGBP の立ち上り時に SOLAS の前 身である GOEZS Global Ocean Euphotic Zone Study 全地球海洋有光層研究計画)というモデル結果を元に した問題解決型が提案されたが,モデルが開発途上 受付;2015 9 7 日,受理:2015 10 5 277-8564 千葉県柏市柏の葉 5-1-5e-mail[email protected]

生物がつなぐ海洋と大気間の物質循環と気候影響...ンダ,英国,米国であり,SOLAS の科学計画と実施 戦略は2004年に刊行された1)。現在,国内委員会は,34

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    2015 AIRIES

    生物がつなぐ海洋と大気間の物質循環と気候影響Biogeochemical cycles between surface ocean and lower atmosphere and its impacts on climate

    植松 光夫 1 *・武田 重信 2・野尻 幸宏 3・谷本 浩志 4Mitsuo UEMATSU 1 * , Shigenobu TAKEDA 2, Yukihiro NOJIRI 3 and Hiroshi TANIMOTO 4

    1 東京大学 大気海洋研究所2 長崎大学大学院 水産・環境科学総合研究科

    3 弘前大学大学院 理工学研究科4 国立環境研究所 地球環境研究センター

    1 Atmosphere and Ocean Research Institute, The University of Tokyo2 Graduate School of Fisheries and Environmental Sciences, Nagasaki University

    3 Graduate School of Science and Technology, Hirosaki University4 Center for Global Environmental Research, National Institute for Environmental Studies

    摘  要 SOLAS(海洋・大気間の物質相互作用研究計画)は,海洋と大気の境界を中心に物理・化学・生物分野を統合した生物地球化学的物質循環の研究プロジェクトである。我が国では,太平洋を中心とした大気と海洋の同時総合観測により,物理場の中で化学物質がどう動き,いかに生物が反応するか,従来の大気圏,海洋圏でお互いに独立した系では見えなかった相互作用(リンケージ)を明らかにすることに取り組んできた。海洋生物による炭素の固定をはじめ,海洋大気中の海洋生物起源,人為起源,陸起源の物質との相互作用が地球環境へ与える影響について定量的に評価可能となりつつある。このような大気と海洋とのリンケージ過程が,地球環境将来予測モデルの 高度化に不可欠なものとなるであろう。温暖化抑制を目指すジオエンジニアリング(geoengineering)などの評価を含め,社会への影響を考慮した課題をもって新たに立ち上がった Future Earth への移行を進めている。

    キーワード:海洋生態系,海洋大気,気候,生物地球化学,大気海洋物質フラックスKey words:marine ecosystem, marine atmosphere, climate, biogeochemistry, air-sea material fluxes

    1.はじめに

     既に顕在化しつつある地球環境変化に対して,自然がどのように応答し,新たなる変化を引き起こすのか。地球がもう後戻りもできない実験場のような環境下で,人類がいかに持続的な発展をしていくべきかということは,21 世紀の科学にとって最も重要な課題である。地球環境問題には,陸圏,大気圏,水圏にかかわる問題があり,それぞれ独立に研究が進められてきた。しかし,各圏間には密接な相互作用(リンケージ)が存在し,第 2 期 IGBP(International Geosphere-Biosphere Programme:地球圏-生物圏国際共同研究計画)では,各圏間の相互作用の解明に重点が置かれた。水圏に属する海洋から見た場合,陸圏とのつながりである沿岸域,海底との境界面,そして大気圏との相互作用が研究対象となる。 本稿では,IGBP のコアプロジェクトである SOLAS

    (Surface Ocean-Lower Atmosphere Study:海洋・大

    気間の物質相互作用研究計画),すなわち,海洋-大気間のリンケージと気候へのフィードバックにかかわる研究について,日本での研究成果を含めて述べる。

    2.SOLAS の流れ

     SOLAS は,海洋と大気の境界を中心に化学,物理,生物分野の研究を展開する IGBP の新しいコアプロジェクトとして,2001 年 2 月,正式に認められた。SOLAS は IGAC(International Global Atmospheric Chemistry Project:地球大気化学国際協同研究計画)と JGOFS(Joint Global Ocean Flux Study:全地球海洋フラックス合同研究計画)の境界をつなぐコアプロジェクトである。IGBP の立ち上り時に SOLAS の前身である GOEZS(Global Ocean Euphotic Zone Study:全地球海洋有光層研究計画)というモデル結果を元にした問題解決型が提案されたが,モデルが開発途上

    受付;2015 年 9 月 7 日,受理:2015 年 10 月 5 日* 〒 277-8564 千葉県柏市柏の葉 5-1-5,e-mail:[email protected]

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    植松ほか:海洋と大気間の物質循環

    であったために時期尚早として認められなかった。1997 年に国際 SOLAS 立案委員会が発足し,1998 年に計画実施委員会が英国で開催され,SOLAS は仮説検証型の研究を中心に推し進める方向で検討された。2000 年 2 月,ドイツにおいて開催された Open Science Meeting を期に,我が国では 2001 年に日本学術会議において IGBP 国内委員会および関連小委員会の理解と協力を得て,SOLAS 小委員会の設置が承認された。当初から国内委員会が設立された国は,我が国をはじめ,オーストラリア,ニュージーランド,カナダ,フランス,ドイツ,インド,オランダ,英国,米国であり,SOLAS の科学計画と実施戦略は 2004 年に刊行された 1)。現在,国内委員会は,34 カ国に設置されており,75 カ国以上の 2,200 名を越える研究者が SOLAS に関係した研究に携わっている。 SOLAS は,海洋・大気間の生物地球化学的および物理的な相互作用とフィードバックに関する主要過程について定量的に把握するとともに,それらが1 つの連鎖系となって作用することで気候や環境変化とどのように関わっているのかを理解することを目的としている。そのためには,海洋科学と大気 科学のコミュニティの密な連携が不可欠であり,SCOR(Scientific Committee on Oceanic Research:海洋研究科学委員会),IGBP,iCACGP(International Commission on Atmospheric Chemistry and Global Pollution:大気化学と地球汚染に関する委員会),WCRP(World Climate Research Programme:世界気

    候研究計画)という多くの国際機関から支援を受けた学際的な領域でのコアプロジェクトとなった。このことは,他の IGBP コアプロジェクトでは見られない特徴であるといえよう。図 1 に SOLAS が対象とする自然界の過程を示すとともに実施戦略における研究課題を表 1 にまとめた。 海洋表層中の生物が,海洋大気の二酸化炭素を取り込み,有機炭素として固定していくのと同時に,微量気体を生成し大気中に放出する。微量気体には,それ自体が温室効果気体であるものや,粒子化してエアロゾルになるもの,ハロゲン類(Cl,Br,I)のように海塩粒子などと反応したり,オゾンを破壊

    1 海洋と大気の間での生物地球化学的相互作用とフィードバック

    1.1 海洋起源エアロソルの放出と変質1.2 微量気体の放出と光化学的フィードバック1.3 DMS と気候1.4 鉄と海洋生産力1.5 窒素の海洋大気循環2 大気 / 海洋境界面での交換過程と境界層での輸送と変質2.1 大気-海洋境界面を通した交換2.2 海洋境界層での過程2.3 大気境界層での過程3 二酸化炭素の大気海洋間のフラックスと

    長寿命の温室効果気体3.1 二酸化炭素の大気海洋間フラックスの地理的, 経年的変動3.2 海洋表層での炭素の変質:地球環境変化への寄与3.3 N2O と CH4 の大気・海洋間のフラックス

    表 1 SOLAS 実施戦略における研究課題.

    図 1 SOLAS の研究対象領域 1).SOLAS は水循環,海塩生成,気体やエアロゾルの海洋への沈着,海洋生物によって生産される気体成分の放出などを通して大気圏内で起きる過程と海洋内の過程が繋がっていることを明らかにすることを目的としている.

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    植松ほか:海洋と大気間の物質循環 地球環境 Vol.20 No.2 195-202(2015)

    したりするものもある。また揮発性有機化合物は,大気中の酸化剤である OH と反応し,大気中の酸化容量を減らす方向に働く。このように大気と海洋の境界面を通した生物活動にかかわった物質交換が,大気組成の変化や気候変化に大きく関与している。海洋生物生産を制限することが知られるようになった微量金属元素,特に鉄のエアロゾルとしての大気から海洋への供給とその影響を明らかにすることもSOLAS の大きな目的の 1 つとされ,海洋表層での生物活動が自然のサイクルの中での季節変動だけではなく,人為起源物質の増加,あるいは人為的に物質を添加した場合にどう応答するか,その生態系への影響をも含めて解明する必要があるとされた。これを課題 1 とした。 一方,海面を通した物質の交換量に着目するだけでなく,運動量やエネルギーなど物理量の交換の理解も不可欠である。課題 2 は,地域的,地球規模での,これらの物理的要因や生物地球化学的要因による境界面での交換過程を,水平,鉛直方向への輸送とその変質について解明し,気候変化を引き起こす機構,あるいは気候変化によって引き起こされる機構を予測することである。 二酸化炭素の大気・海洋間におけるフラックスの定量的な見積りや変化量は,生物による同化,呼吸,石灰質のプランクトンの消長や混合層の物理過程によって左右される。課題 3 として,これらの長期変化を観測し,海洋表層内での変質のモデル化を進め,21 世紀末までの将来予測を可能にすることや,N2O や CH4 などの温室効果気体の海洋からの発生を沿岸域も含めて明らかにすることが盛り込まれている。 その後,2008 年には,SOLAS SSC(Scientific Steer- ing Committee:科学運営委員会)で研究課題の見直しが行われ,Mid-Term Strategy として,湧昇海域とその亜表層に形成される酸素極少層,海氷,海洋エアロゾル,大気からの栄養塩供給,船舶による排気ガスの影響の 5 課題を地球の気候システムに関連する未解明の重要課題として抽出し,各課題の現状と課題を総説にまとめて公表した 2)。また,2014 年には SOLAS の立ち上りから今までの研究成果を統合したオープンアクセスの電子本が出版された 3)。 若手研究者育成のために,SOLAS 夏の学校が隔年で開催されていることは,他の IGBP コアプロジェクトと比較して SOLAS に特徴的な活動である。SOLAS 夏の学校は 2003 年から始まり,これまで合計で 6 回開催されており,参加者は延べ 420 名を越え,日本からも大学院生やポスドクが毎回参加している。大気または海洋に関する物理・化学・生物的側面のいずれかを専門とする科学者の卵が集って開放的な雰囲気の中で同じ講義を聴き,実習に取り組み,公私にわたって交流する 3 週間を過ごすことにより,SOLAS 研究の面白さに目覚めていく。この間

    に SOLAS の教科書(Geophysical Monograph Series)4)

    が編纂され,この新しい境界領域の研究分野への普及に貢献している。IGBP のコアプロジェクトの委員には,地域のバランスも考慮されるが,各研究分野の第一線の研究者が選出される。我が国から SOLAS SSC 委員は,植松光夫(2002~2007 年),武田重信

    (2004~2009 年),野尻幸宏(2010 年~現在)と,設立当初から途絶えることなく引き継がれている。

    3.我が国での SOLAS 研究活動

     2001 年に日本学術会議の SOLAS 小委員会が設置されたのち,関係する研究者間の連携は,東京大学海洋研究所共同利用シンポジウム,計 5 回,名古屋大学地球水循環センター共同利用研究集会,計 4 回など年 2 回の検討・発表の場を確保することによって緊密に保たれてきた。2004 年,科学研究費平成16 年度基盤研究(C)による「海洋・大気間の物質相互作用研究計画(IGBP/SOLAS)」の準備調査を基にした議論を経て,2 度目の申請で 2006 年から 5 年間の特定領域研究「海洋表層・大気下層間の物質循環リンケージ」(Western Pacific Air-Sea Interaction Study:W-PASS)が 29 研究機関,89 名の研究者によって進められた(図 2)。その成果は,2014 年にオープンアクセスの電子本として刊行された 5)。また,若手研究者育成として 31 名の修士,12 名の博士を輩出した。 SOLAS の正式な開始に先立って,日本では,SEEDS(Subarctic ocean Enrichment and Ecosystem Dynamics Study)航海が,2001 年夏,世界で 5 番目の鉄散布実験として北太平洋西部亜寒帯海域である北緯 48.5 度,東経 165 度において実施された。その結果,予想以上の植物プランクトンの大増殖と劇的な種組成の変化を観測し,海洋鉄散布が二酸化炭素を吸収する手段として,非現実的ではないことを示唆した。このプロジェクトは,地球環境研究総合推進費「海水中微量元素である鉄濃度調節による海洋二酸化炭素吸収機能の強化と海洋生態系への影響に関する研究」と水産庁および電力中央研究所の研究費によって遂行された 6)。さらに 2002 年には,カナダ SOLAS との日加共同研究として太平洋亜寒帯海域の東西の比較実験である SERIES(Subarctic Eco- system Response to Iron Enrichment Study)が行われた 7)。鉄散布実験 SERIES では,日本とカナダから3 隻の観測船が使われ,4 週間にわたって鉄散布域の追跡が行われた。SERIES 実験で得られた結果は,大規模な植物プランクトン増殖が認められたものの,生物粒子は多くの部分が表層で分解し炭素の中深層への輸送が小さいとされ,海洋鉄散布を二酸化炭素固定技術として評価することに大きく影響を与えた。2004 年には日米加共同研究により SEEDS IIとして,SEEDS と同じ海域で同じ時季に実験を行っ

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    植松ほか:海洋と大気間の物質循環

    たが,混合層が厚く,海洋プランクトン群集の違いを反映し,SEEDS 時のような大増殖は再現されなかったが,衛星画像でも認識できる植物プランクトン増殖を引き起こした 8)。これら 3 回の実験に関する計 56 編の論文が Progress in Oceanography ならびに Deep-Sea Research II の特集号として刊行されている 9)- 11)。また,SOLAS-Japan に関連した研究プロジェクトとして,国立極地研究所を中心に「南極海から見た地球環境」(JARE next STAGE: STudies on Antarctic ocean and Global Environment)が 2001 年から 5 年計画で行われ,硫化ジメチルの生成過程へ動物プランクトンの寄与についての知見などが得られている。 戦略的基礎研究「海洋大気エアロゾル組成の変 動と影響予測」(VMAP:Variability of Marine Aerosol Properties)では,無人海洋大気観測艇「かんちゃん」を,大気海洋間の物質循環過程の研究のプラットフォームとして測定機器も含め開発し,大気と海洋の同時自動観測を行い,三宅島の火山噴火による窒素化合物の沈着が海洋生物生産を加速することなどを見出した。また,太平洋上の島嶼長期観測をもとにした「化学天気予報システム」(CFORS:Chemical weather FORecast System)は,最新の知見にもとづく地域気象モデルと物質輸送モデルをオンライン結合した最新の統合モデルを構築し,気象の変化に伴う人為起源・自然起源の物質の輸送を高い精度で予測することが可能となった 11)。 W-PASS プロジェクトでは,(1)日本近海や南極海などの生物生産性の高い海域での海洋から大気への生物起源物質放出の観測,(2)アジア大陸から輸送される黄砂や人為起源窒素化合物の降下による海洋

    生物への影響の観測,(3)海洋生物による窒素固定や,炭酸塩の殻形成に伴う二酸化炭素の取込み評価の観測,(4)火山噴出物による大気と海洋環境への影響の観測などに取り組んだ。 太平洋を中心とした大気と海洋の同時総合観測

    (図 3)のため,船上における生物起源気体の高精度,高分解能測定を実現した。特に,質量分析計による大気中・海水中の微量成分の計測手法開発 12)は,海水中の硫化ジメチルや含酸素有機化合物の生成・消失過程や海洋から大気へのフラックス推定に大きな役割を果たした。さらにエアロゾルの化学組成分析を同時に行うことにより,海水から放出された気体が海洋大気中で粒子化され,エアロゾルが増加する現象を観測した。また,長期間の海洋から大気への主な生物起源気体の放出量は長期的に増加傾向を示しており,負の放射強制力が既に働いている可能性を示した。 アジア大陸で発生する黄砂は,北太平洋亜寒帯海域では珪藻などの大型植物プランクトン,亜熱帯海域では窒素固定生物の生物生産変動に大きく関与していることを明らかにした。北西太平洋の縁辺海では海面に沈着する人為起源窒素化合物の量が増加しつつあることや,人為起源物質が黄砂と反応することによって黄砂に含まれている鉄の生物利用能が大きく変わることを見出した。また,火山噴火がエアロゾルを増加させ,雲粒径の減少と雲被覆率を増加させて,表面海水温の低下を引き起こし,海洋生態系へ間接的な影響を与えることを観測とモデルによって示した。さらに,台風による湧昇が生物生産を高め,大型珪藻類が増加し,深海への炭素輸送の30%を台風が担っているという見積りを報告した。

    図 2 特定領域研究「大気海洋物質循環」(W-PASS)の対象となるキーワードと研究グループ.

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    植松ほか:海洋と大気間の物質循環 地球環境 Vol.20 No.2 195-202(2015)

    このような突発的な自然現象の影響を検出した一方,長期的な気候変動が海洋生態に与える影響も捉えた。北太平洋亜熱帯海域では地球温暖化により,海洋の表層水の鉛直的な成層が強化される。成層化は深層から表層への栄養塩供給を抑制し,表層の貧栄養化が進む。その結果,窒素固定を行うプランクトンの増加を引き起こすことになるが,そのプランクトン増加には窒素固定を担う細胞内酵素に必須である鉄などの大気からの供給が極めて重要となる。この仮説のもとで行われた国内の SOLAS の研究から,大気からの物質供給が海域におけるプランクトン消長の制御因子になり得ることを明らかにした。これらの知見は,人間活動による気候変化や突発的自然現象が海洋生態系に影響を与え,生物起源気体の放出を通して気候へフィードバックしている大気・海洋間のリンケージ過程を明確に描き出した。

    4.国際 SOLAS 研究活動への貢献

     2005 年 5~6 月に第 5 回 SOLAS SSC 会議を東京に招致した。その会議に引き続き第 1 回 Asian SOLAS会議を主催し,中国,台湾,インド,韓国の SOLAS関係者を招聘,各国の活動について情報交換を行った。その結果,2005 年 10 月に第 1 回 ADOES(Asian Dust and Ocean EcoSystem:黄砂と海洋生態系への影響)ワークショップを中国の Weihai(威海市)で開催し,アジア域での SOLAS の大きな研究課題である黄砂と海洋生態系への影響について日中韓を中心とした共同研究ネットワークを形成した。一時期,日中間の関係悪化のため,中止せざるを得ない状況

    もあったが,ワークショップは現在まで 7 回開催されている。また,2010~2013 年には,ADOES の成果として,戦略的国際科学技術協力推進事業日本- 中国研究交流で「北太平洋縁辺海から外洋における生態系システムの気候変化に対する応答」を申請し,採択された。これにより我が国の学術研究船を用いた西部北太平洋亜熱帯海域の航海や東シナ海の観測航海を日中韓の共同研究観測として行った。さらに2012~2015年まで,IOC-UNESCO(Intergovernmental Oceanographic Commission of the United Nations Educational, Scientific and Cultural Organization:国際連合教育科学文化機関 / 政府間海洋学委員会)のWESTPAC(Sub-Commission for the Western Pacific:西太平洋政府間地域小委員会)において,ADOES-WESTPAC ワーキンググループの活動を行った。今後,太平洋だけではなくインド洋での観測研究や,縁辺海での洋上の PM2.5 など大気汚染物質や森林火災によるススなどの海洋環境への影響評価など,WESTPAC メンバー国の高い関心をもつ課題に取り組む検討が進んでいる。その他にも,北太平洋海洋科学機構(PICES)と SOLAS の連携促進について,両組織に関係の深い我が国のメンバーが重要な働きを示した。相互のサマースクールや年次会合における学生派遣の支援や,海洋への鉄供給に対する海洋生態系応答に関するフィールド研究者と生態系モデル研究者の合同ワーキンググループなどの活動が進められた。 我が国が主導した北太平洋亜寒帯海域での実験を含むさまざまな海域での計 12 回に及ぶ鉄散布実験結果や,自然海域での鉄肥沃化に関する研究成果を

    120E 180 120w

    Eq.

    60N

    30N

    30S

    60S

    SPEEDS: Summer 2008Subarctic Pacific Experiment for Ecosystem Dynamics Study

    SPEEDS

    SNIFFSSNIFFS I & II:Summer 2006 & 2010Subtropical Nitrogen Fixation Flux Study

    BLOCKS:Spring 2007 & 2009Bloom Caused by KosaStudyBLOCKS

    SOLAS-Japan Major cruises

    EqPOS:Winter 2012Equatorial Pacific Ocean and Stratospheric/Tropospheric Atmosphere Study

    EqPOS

    NEOPS-SP

    NEOPS-SP & NP:Winter 2013 & Summer 2014South & North Pacific New Ocean Paradigm on its Biogeochemistry, Ecosystem

    NEOPS-NP

    図 3  SOLAS-Japan 研究航海と IMBER-Japan の NEOPS(New Ocean Paradigm on its Biogeochemistry, Ecosystem, and Sustainable Use:新学術領域研究「新海洋像:その機能と持続的利用」)との共同研究航海の対象海域.

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    植松ほか:海洋と大気間の物質循環

    取りまとめるワークショップが SOLAS の共催により 2005 年 11 月にニュージーランドで開かれた。海洋鉄散布実験は,地球温暖化の要因となっている大気中二酸化炭素の海洋への吸収促進方策の基となる鉄仮説の検証実験として注目を集めていたが,南極海・太平洋赤道域・北太平洋亜寒帯域における一次生産が鉄の供給量によってコントロールされていることが確認されたものの,生物活動による海洋表層から深層への炭素輸送に関しては予想されていたよりも効果が小さいことなどが統合的に理解された 13)。これらの研究成果は,「温暖化対策としての海洋鉄肥沃化に関する政策決定者への提言」として SOLASメンバーによりまとめられ,IOC/UNESCO から公開されるとともに 14),海洋への廃棄物投棄と海洋汚染防止を扱うロンドン条約及びロンドン条約 1996 年議定書における商業的な海洋鉄散布の規制につながった 15)。 二酸化炭素の大気海洋間のフラックスと長寿命の温室効果気体という課題 3 に関する最大の成果は,海洋表層二酸化炭素観測の統合された国際データベースである SOCAT(Surface Ocean Carbon Dioxide Atlas)の発足と運営である。2007 年にユネスコ(パリ)で開催された海洋表層二酸化炭素観測に関するワークショップで真剣な議論が行われ,統一的な様式の元に,品質管理された統合的データベースが必要であることが共通の認識となった。実際の発足に向け,SOLAS をはじめとする国際協同計画,国際機関,各国の海洋観測及び海洋データ機関の大規模な協力が進められた。2011 年 9 月にその第 1 版データベースが公開されるまでに,世界で 10 数回の研究者会合が行われたが,重要な 3 回の会合を国立環境研究所と海洋研究開発機構が中心となって開催した。SOCAT データベースの運営においては,我が国の観測データの提出を推進するとともに,国立環境研究所が北太平洋域のデータ品質管理の責任機関として,その運営に重要な位置を占めている 16)。図 4に,統合収録された全世界データのマップと我が国の機関の寄与を示した。航海数で計算すると世界の観測の 23%を占めており,その貢献度の大きさがわかる。 SOLAS の研究成果の 1 つとして,海洋・大気間相互作用に関わるさまざまなパラメーターのデータベースが構築された(http://www.bodc.ac.uk/solas_integration/implementation_products/)。短寿命の微量ガス成分である DMS(ジメチルサルファイド)やイソプレン,長寿命で気候に影響を及ぼす二酸化炭素やメタンなどの大気中濃度に加えて,エアロゾルや雨水の化学組成と沈着量などのデータが各海域について網羅的にまとめられている。そこには西部北太平洋を中心とする我が国の研究者の最新のデータが数多く掲載されており,全海洋のマッピングに大きく貢献している。特に,海洋の炭素循環と海洋酸

    性化に関わる研究は,IGBP のコアプロジェクトの1 つである海洋の生物地球化学・生態系の統合研 究(IMBER:Integrated Marine Biogeochemistry and Ecosystem Research)と SOLAS の合同ワーキンググループ(SIC:SOLAS/IMBER Carbon working group)が組織されて進められた。ワーキンググループ内には,海洋表層,海洋深層,海洋酸性化の 3 つのサブグループが設けられ(それぞれ日本人研究者が 1 名ずつ参加),国際海洋炭素データ統合プロジェクト

    (IOCCP:International Ocean Carbon Coordination Project)と連携しながら,炭素の収支・フラックス・移送過程の解明と,海洋環境変化が炭素循環に及ぼす影響の評価に取り組んだ。 2013 年 5 月に第 13 回 SOLAS SSC 会議がつくばで開催され,引き続いて我が国の若手研究者によるSOLAS シンポジウムが開催され,人材育成が順調に進んでいることが示された。

    5.Future Earth へ向けて

     Future Earth は,今までの科学的な研究取組に加えて,地球規模での喫緊の問題解決への取組や持続可能な地球社会を目指すプロジェクトとして 2012 年に立ち上げられ,IGBP のコアプロジェクトであるSOLAS は他の IGBP コアプロジェクトと共に移行する。 これからの SOLAS 研究は,将来の気候への人為的な活動の影響を評価し,大気-海洋相互作用に関連する方策を社会に伝えることである。これは,自然科学研究をさらに進展させること,政策の決定に必要な情報を研究成果から具体的に示すことが必要で,これら 2 つの段階を深化,発展させることによって達成することができる。大気-海洋相互作用の急速な変化は顕在化している。これらの変化を我々が観察し,理解し,最終的にそれらを軽減するため,もしくは人間社会がそれらを許容するための研究の継続とその効果の検証が不可欠である。 SOLAS は今後 10 年間の新たな課題分野として,1)温室効果気体と海洋,2)大気-海洋境界面での物質とエネルギーのフラックス,3)大気沈着や海洋生物地球化学,4)エアロゾル,雲,そして海洋生態系との相互作用,5)大気化学組成への海洋生物地球化学的過程の影響を掲げた(SOLAS の科学計画と組織2015-2025, http://www.solas-int.org/about/future_solas.html)。今後の取組は,広大な生物地理学的海域での従来の科学研究を統合された研究,地球システムモデルの改善,リモートセンシングを始め,機器や技術の開発,長期にわたる連続自動測定機能を備えたリモートプラットフォームの構築を目指すことになる。 我が国においても,SOLAS は,他のコアプロジェクトと連携を強化して,地球システムの変化の把

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    植松ほか:海洋と大気間の物質循環 地球環境 Vol.20 No.2 195-202(2015)

    握,将来予測,そして,持続可能な地球社会の構築に貢献していきたい。

    引 用 文 献

    1) SOLAS (2004) Science Plan and Implementation Strategy. IGBP Report No.50, IGBP Secretariat, Stockholm. 88 pp.

      〈http://www.igbp.net/download/18.1b8ae20512db692   f2a680006379/1376383119421/report_50-SOLAS.pdf〉

    2) Law, C. S., E. Brévière, G. De Leeuw, V. Garçon, C. Guieu, D. J. Kieber, S. Kontradowitz, A. Paulmier, P. K. Quinn, E. S. Saltzman, J. Stefels and R. Von Glasow

    (2013) Evolving research directions in Surface Ocean-Lower Atmosphere (SOLAS) science. Environmental Chemistry, 10, 1 -16.

      doi:10.1071/EN12159

    3) Liss, P. S. and M. T. Johnson (2014) Ocean-Atmosphere Interactions of Gases and Particles Springer, Heidelberg. (open access)

      〈http://link.springer.com/book/10.1007/978-3-642-   25643-1〉

    4) Le Quéré, C. and E. S. Saltzman (2009) Surface ocean- lower atmosphere processes. Geophysical Monograph Series, 187, 350 pp. ISBN 978-0-87590-477-1.

    5) Uematsu, M. (2014) Western pacific air-sea interaction study, In: M. Uematsu, Y. Yokouchi, Y. W. Watanabe, S. Takeda and Y. Yamanaka, eds., Terrapub, pp. 269, ISBN 978-4-88704-165-3. (open access)

      〈http://www.terrapub.co.jp/e-library/w-pass/〉6) Tsuda et al. (2003) A mesoscale iron enrichment in

    the western subarctic Pacific induces a large centric diatom bloom. Science, 300, 958-961.

    7) Boyd, P. W. et al. (2004) The decline and fate of an

    全世界の観測(2660航海)

    日本の機関による観測(623航海)

    全世界の観測(2660航海)

    日本の機関による観測(623航海)

    全世界の観測(2660航海)

    日本の機関による観測(623航海)

    全世界の観測(2660航海)

    日本の機関による観測(623航海)

    図 4 2013 年に公開された国際統合海洋表層二酸化炭素観測データベース SOCAT(Surface Ocean CO2 Atlas).第 2 版に収録された全航海(上)と我が国の観測の寄与分(下).1968 年から 2011 年の間に二酸化炭素分圧が測定された航海の2660 航海の中で約 1/4 の航海(623 航海)は日本が実施した.

  • 202

    植松ほか:海洋と大気間の物質循環

    iron-induced subarctic phytoplankton bloom. Nature, 428, 549-553.

    8) Tsuda, A. et al. (2009) Evidence for the grazing hypothesis: grazing reduces phytoplankton responses of the HNLC ecosystem to iron enrichment in the western subarctic Pacific (SEEDS II). Journal of Oceanography, 63, 983-994.

    9) Takeda, S. and A. Tsuda (2005) An in situ iron-enrichment experiment in the western subarctic Pacific (SEEDS): Introduction and summary. Progress in Oceanography, 64, 95-109.

    10) Harrison, P. J. (2006) SERIES (subarctic ecosystem response to iron enrichment study): A Canadian-Japanese contribution to our understanding of the iron-ocean-climate connection. Deep Sea Research Part II, 53, 2006-2011.

      doi: 10.1016/j.dsr2.2006.08.00111) Uematsu, M., M. L. Wells, A. Tsuda, H. Saito, H.

    (2009) Introduction to Subarctic iron Enrichment for Ecosystem Dynamics Study II (SEEDS II). Deep-Sea Research II, 56, 2731-2732.

    12) Kameyama, S., H. Tanimoto, S. Inomata, U. Tsunogai, A. Ooki, Y. Yokouchi, S. Takeda, H. Obata, and M. Uematsu (2009) Equilibrator inlet-proton transfer reaction-mass spectrometry (EI-PTR-MS) for sensitive, high-resolution measurement of dimethyl sulfide dissolved in seawater, Analytical Chemistry, 81, 9021-9026.

      doi: 10.1021/ac901630h.13) Boyd, P. W., T. Jickells, C. S. Law, S. Blain, E. A. Boyle,

    K. O. Buesseler, K. H. Coale, J. J. Cullen, H. J. W. de Baar, M. Follows, M. Harvey, C. Lancelot, M. Levasseur, R. Pollard, R. B. Rivkin, J. Sarmiento, V. Schoemann, V. Smetacek, S. Takeda, A. Tsuda, S. Turner, A. J. Watson (2007) A synthesis of mesoscale iron-enrichment experiments 1993-2005: key findings and implications for ocean biogeochemistry. Science, 315, 612-617.

    14) Wallace, D. W. R., C. S. Law, P. W. Boyd, Y. Collos, P. Croot, K. Denman, P. J. Lam, U. Riebesell, S. Takeda, P. Williamson (2010) Ocean Fertilization. A scientific summary for policy makers, Paris.

    15) LC/LP (2013) Regulation of ocean fertilization and other activities. Report of the Working Group on the Proposed Amendment to the London Protocol to Regulate Placement of Matter for Ocean Fertilization and Other Marine Geoengineering Activities. LC 35/WP.3.

    16) Bakker, D. C. E. et al. (2014) An update to the Surface Ocean CO2 Atlas (SOCAT version 2), Earth System Science Data, 6, 69-90.

      doi: 10.5194/essd-6-69-2014

    植松 光夫/Mitsuo UEMATSU 東京大学大気海洋研究所教授。1980 年北海道大学大学院水産学研究科博士課程修了。米国ロードアイランド大学海洋学大学院研究員,北海道東海大学工学部海洋開発工学科教授等を経る。大阪府出身。大気と海洋間の物質循環研究に目覚める。

    1987 年度日本海洋学会岡田賞,2004 年度日本地球化学会賞,2009 年度日本海洋学会賞等を受賞。日本海洋学会会長,日本ユネスコ国内委員会委員,同 IOC 分科会主査,日本学術会議特任連携会員,ICSU/IGBP 科学委員会委員等を歴任。著書として『大気水圏の科学-黄砂』(共著,古今書院),『海と地球環境 - 海洋学の最前線』(共著,東京大学出版会),『海洋地球化学』(共著,講談社)等。

    武田 重信/Shigenobu TAKEDA 海洋の一次生産に影響を及ぼす物理・化学・生物的要因の相互作用,特に鉄など微量金属による植物プランクトン増殖の制御機構や,沿岸域における栄養塩循環と人間活動の関わりに興味を持っている。財団法人電力中央研究所,東京大学

    農学部を経て,現在は長崎大学水産学部に在籍。西部北太平洋や東シナ海を中心に海洋観測と植物プランクトン培養実験に取り組んでいる。長崎は黄砂の飛来が多く,大気から海洋への栄養塩類の沈着に対する生物生産の応答は,重要な研究テーマの 1 つ。北太平洋で実施された 3 回の鉄散布実験にも主要メンバーとして参加。水産関連では,トラフグやクエの陸上養殖システムにおける水質浄化の研究にも従事。

    野尻 幸宏/Yukihiro NOJIRI 弘前大学大学院理工学研究科教授。1981 年から国立公害研究所計測技術部で微量金属元素の分析法と国内外の火山性湖沼や海底熱水系の化学を研究。1990 年の国立環境研究所への改組から温室効果ガス研究を中心とした。1995 年に太平洋

    の貨物船に CO2 観測機器を搭載するモニタリング観測を開始し継続中,CREST 課題では北太平洋定点観測を 1998 年からの 3 年間に集中実施,2001 年からの 3 回の海洋鉄散布実験に参加,これらのことで日本の海洋生物地球化学研究をリードしてきた。2013 年日本地球化学会賞受賞。現在は海洋 CO2 と栄養塩の解析研究と海洋酸性化の生物影響評価実験研究を行っている。国立環境研究所(兼務)では温室効果ガスインベントリ作成オフィスの運営を実施。

    谷本 浩志/Hiroshi TANIMOTO 国立環境研究所地球環境研究センター地球大気化学研究室・室長。1996 年東京大学理学部化学科卒業,2001 年同大学院理学系研究科化学専攻博士課程修了。同年より国立環境研究所大気圏環境研究領域大気反応研究室勤務。その後ハーバー

    ド大学客員研究員などを経て,11 年より現職。10 年に国連「大気汚染の半球規模輸送タスクフォース」評価報告書を共同執筆,12 年より国際地球大気化学プロジェクト・科学運営委員会メンバーを兼任。専門は大気化学,環境科学,生物地球化学で,対流圏オゾンを中心とした地球規模大気汚染研究,大気海洋間における揮発性有機化合物の交換に関する研究を展開している。