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7695調査報告 学生実習による喜多方市街地の地下水利用実態調査 福島大学共生システム理工学類   柴 崎 直 明  福島大学共生システム理工学類  柴崎研究室 年生   金 子 翔 平  年生   庄 司 美 由  47 はじめに 福島大学共生システム理工学類では,環境システム マネジメント専攻の専攻実践科目(選択科目)として 年生を対象に「地下水盆管理調査法」という野外実 習を毎年実施している。最初の地下水盆管理調査法は 2007月に喜多方市で実施した。この野外実習を喜 多方市で実施することにしたきっかけは,2006年度に 福島県委託事業で実施した「きたかた清水の再生によ るまちづくりに関する調査研究」(超学際的研究機構, 2007)の中で,喜多方市の地下水の現況を知るために は,地下水利用実態を把握することが不可欠であると 指摘したことによる(柴崎ほか,2010)。それ以降, この野外実習(地元では,福島大学地下水利用実態調 査とよばれている)を毎年月上旬に喜多方市で実施 している。 2013月には回目の実習を実施したが, これまでの実習参加学生の総数は,聴講生やティーチ ング・アシスタント(TA)を含めて63名に達した。 毎回の地下水盆管理調査法は日で行われる が,そのうち日目は「地下水利用実態調査」という ことで,終日,学生が班別に分かれて各戸訪問調査を 行っている。2007年から2013年までの回にわたる実 態調査で400世帯余りの井戸を所有する世帯や事業所 を訪れ,喜多方市街地のほぼ全域をカバーすることが できたので,これまでの調査結果をまとめて報告する。 .喜多方での地下水研究の概要 ラーメンやお酒で有名な喜多方市(人口約人)は福島県北西部に位置する。2006年に旧熱塩加納 村・塩川町・山都町・高郷村と合併したことにより, 現在の喜多方市域は会津盆地北部から北西の飯豊連 峰,北東部の飯森山をはじめ,西側の山地~丘陵地帯 や東側の猫魔火山山麓を含む面積約555㎢を占めてい る。このうち,喜多方市街地は会津盆地北部に位置し ており(図),かつては市街地の各所で清らかな地 下水が湧き出す清水(しみず)が数多くみられた。し かし,合併前の旧喜多方市内に約160箇所あった清水 は,早いところでは戦前から枯渇しはじめ,さらに昭 和の高度経済成長期から平成にかけて市街地にあった 清水のほとんどは枯渇してしまった。2006年時点で旧 喜多方市の範囲で湧いている清水は68箇所だけであっ た(超学際的研究機構,2007)。 喜多方は,飯豊山をはじめとする山々で囲まれ,も ともと水と緑の豊かな地域であるが,このように清水 が減少してしまった事態を重く受け止めた地元の会津 喜多方商工会議所や関係者が,2006年に「きたかた清 水再生プロジェクト」を立ち上げた。このプロジェク トには福島大学から柴崎研究室が参加して,清水枯渇 の原因や地下地質,地下水の実態を解明して,枯渇し た清水を再生させるための調査・研究を行ってきた。 2008年には地元の人々や喜多方市をはじめ関係機関 が中心となって,産学官民が一体となった「きたかた 清水ネットワーク」が設立された(喜多方市,2013)。

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学生実習による喜多方市街地の地下水利用実態調査 (7695)

調 査 報 告

学生実習による喜多方市街地の地下水利用実態調査

福島大学共生システム理工学類  柴 崎 直 明 福島大学共生システム理工学類  柴崎研究室     

4年生  金 子 翔 平 3年生  庄 司 美 由 

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は じ め に

 福島大学共生システム理工学類では,環境システムマネジメント専攻の専攻実践科目(選択科目)として3年生を対象に「地下水盆管理調査法」という野外実習を毎年実施している。最初の地下水盆管理調査法は2007年8月に喜多方市で実施した。この野外実習を喜多方市で実施することにしたきっかけは,2006年度に福島県委託事業で実施した「きたかた清水の再生によるまちづくりに関する調査研究」(超学際的研究機構,2007)の中で,喜多方市の地下水の現況を知るためには,地下水利用実態を把握することが不可欠であると指摘したことによる(柴崎ほか,2010)。それ以降,この野外実習(地元では,福島大学地下水利用実態調査とよばれている)を毎年8月上旬に喜多方市で実施している。2013年8月には7回目の実習を実施したが,これまでの実習参加学生の総数は,聴講生やティーチング・アシスタント(TA)を含めて63名に達した。 毎回の地下水盆管理調査法は3泊4日で行われるが,そのうち3日目は「地下水利用実態調査」ということで,終日,学生が班別に分かれて各戸訪問調査を行っている。2007年から2013年までの7回にわたる実態調査で400世帯余りの井戸を所有する世帯や事業所を訪れ,喜多方市街地のほぼ全域をカバーすることができたので,これまでの調査結果をまとめて報告する。

1.喜多方での地下水研究の概要

 ラーメンやお酒で有名な喜多方市(人口約5万4百人)は福島県北西部に位置する。2006年に旧熱塩加納村・塩川町・山都町・高郷村と合併したことにより,現在の喜多方市域は会津盆地北部から北西の飯豊連峰,北東部の飯森山をはじめ,西側の山地~丘陵地帯や東側の猫魔火山山麓を含む面積約555㎢を占めている。このうち,喜多方市街地は会津盆地北部に位置しており(図1),かつては市街地の各所で清らかな地下水が湧き出す清水(しみず)が数多くみられた。しかし,合併前の旧喜多方市内に約160箇所あった清水は,早いところでは戦前から枯渇しはじめ,さらに昭和の高度経済成長期から平成にかけて市街地にあった清水のほとんどは枯渇してしまった。2006年時点で旧喜多方市の範囲で湧いている清水は68箇所だけであった(超学際的研究機構,2007)。 喜多方は,飯豊山をはじめとする山々で囲まれ,もともと水と緑の豊かな地域であるが,このように清水が減少してしまった事態を重く受け止めた地元の会津喜多方商工会議所や関係者が,2006年に「きたかた清水再生プロジェクト」を立ち上げた。このプロジェクトには福島大学から柴崎研究室が参加して,清水枯渇の原因や地下地質,地下水の実態を解明して,枯渇した清水を再生させるための調査・研究を行ってきた。 2008年には地元の人々や喜多方市をはじめ関係機関が中心となって,産学官民が一体となった「きたかた清水ネットワーク」が設立された(喜多方市,2013)。

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福島大学地域創造 第25巻 第2号 2014.2(7696)

ネットワークは地下水保全ならびに湧水の保全と復活のための調査・検討・具体的実践を行い,「人と自然が共生し、水と緑に輝くまち」を創造することを目的に活動している。福島大学柴崎研究室は,「きたかた清水ネットワーク」にも「学」の立場で参加しており,地元・関係機関と協力して地下水の連続観測を継続して実施している。また,地下水位低下を引き起こしたと考えられる消雪用井戸や河川の付替え,圃場整備な

ど地下水を取り巻く環境の変化などについても調査・研究を進めている。さらに,清水を再生させるとともに,おいしい地下水を増やすための“冬水田んぼ”(地下水人工涵養)の取り組みや,浅層から深層に及ぶ地下水流動系解明のための研究,そして清水や地下水についての理解を深めるための“湧水ウォーク”プラン作成にも取り組んできた(柴崎ほか,2010)。

2.喜多方の地下水位変動の概況

 柴崎研究室では,2007年から図1に示す3地点で浅層地下水の水位と水温の測定を開始した。水位と水温は水圧式自記水位計を用いて,原則として30分間隔で自動計測している。図2から図4には,3地点の地下水観測結果を,気象庁のアメダス喜多方観測所の降水量・気温データとともに示す。3地点とも,毎年冬季に浅層地下水位が低下しており,しかも年々冬季の最低水位が低くなり,水位が低下している期間も長くなる傾向を示す。これは,冬季に道路等の消雪のために使用されている地下水揚水量が増加しているためと考えられる。 喜多方市街地のほぼ中央部に位置する御清水公園浅層観測孔(深度15m)の地下水位は,春から秋にかけては地面からの深度-2.0~-3.5mの範囲で変動しているが,冬季は-4.0m以下まで低下しており,2012

年2月には-4.96mまで低下した。2012年12月から2013年3月にかけての冬季では,最低水位は2013年2月25日に-4.75mを記録し,前年の最低水位を更新しなかった。しかし,地下水位が-4.0mを下回る日数は年々増える傾向にあり,2011~2012年の冬季は58日間だったのに対し,2012~2013年の冬季は62日間に及んだ。水圧式自記水位計を設置した深度約6mでの地下水温は8~18℃の間で変動しており,水温変動パターンは気温の変動パターンよりも約2ヶ月遅れている。 喜多方市街地の北東部に位置するカンプク清水観測孔(深度5m弱)の地下水位は,春から秋にかけては地面からの深度-1.0~-2.0mの範囲で変動しているが,冬季は-2.5m以下まで低下する。冬季の最低水位は2009年から2012年にかけて年々低下し,2012年2月4日に-3.15mを記録した。地下水位が-2.5mを下回る日数も年々増える傾向にあり,2011~2012年の冬季は63日間,2012~2013年の冬季は54日間に及んだ。水圧式自記水位計を設置した深度約4mでの地下水温は10.5~16.5℃の間で変動しており,水温変動パター

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図1 調査範囲図

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学生実習による喜多方市街地の地下水利用実態調査 (7697)

ンは気温の変動パターンよりも約3ヶ月遅れている。 喜多方市街地の南西部に位置する菅原町井戸(深度19.2m)の地下水位は,春から秋にかけては地面からの深度-4.0~-5.5mの範囲で変動しているが,冬季は-7.0m以下まで低下する。冬季の最低水位は2007

年から2012年にかけて年々低下する傾向が明瞭に認められ,2012年2月3日に-9.93mを記録した。地下水位が-7.0mを下回る日数も年々増える傾向にあり,2011~2012年の冬季は65日間,2012~2013年の冬季は58日間に及んだ。水圧式自記水位計を設置した深度約11mでの地下水温は10.0~16.0℃の間で変動しており,水温変動パターンは気温の変動パターンよりも約2ヶ月遅れている。

3.地下水利用実態調査の方法

 喜多方市街地の地下水利用実態を明らかにすることを目的に,福島大学学生による地下水利用実態調査を行った。具体的には,各家庭や事業所での井戸水と水道水の利用状況を把握するとともに,地下水の水位や基本的水質を明らかにするために現地調査を実施した。 現地調査は,2007年から2013年にかけて毎年8月上旬に実施した。福島大学共生システム理工学類環境システムマネジメント専攻の専攻実践科目である「地下水盆管理調査法」の受講生(3年生)を中心に,聴講生やTAが加わって1班あたり2~4人の調査班を毎年2~4班編成した。前年までの調査結果を踏まえて毎年班別調査地域を設定し,各班とも住宅地図をもとに徒歩で戸別訪問調査を行い,聞き取り調査と現場確認,地下水位・簡易水質測定,GPSでの位置確認を行った。 班別調査で使用した調査用具類を写真1に示す。班別調査では,㈱ゼンリンの電子住宅地図をプリントしたものとGPSにより位置を確認しながら担当した地域の一般家庭や事業所などを一軒ずつ訪問した。井戸を所有している世帯や事業所では,地下水や水道水の利用状況について聞き取りを行うとともに,井戸の状況を確認した。井戸所有者の了解を得て,地下水位が測定できる井戸については水位測定を行った。水質測定の了解を得たところではpH,電気伝導度(EC),酸化還元電位(ORP),水温をポータブル測定器で測るとともに,2008年からは㈱共立理化学研究所製のパックテストで鉄イオンと硝酸イオンの濃度を測定した(写真2)。

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図2 御清水公園における浅層地下水位と地下水温の時系列変化

図3 カンプク清水における浅層地下水位と地下水温の時系列変化

図4 菅原町井戸における浅層地下水位と地下水温の時系列変化

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福島大学地域創造 第25巻 第2号 2014.2(7698)

 班別調査の実施前には,柴崎研究室で回覧板によるお知らせの原稿(図5)を作成し,喜多方市役所建設部まちづくり課にお願いして調査対象地域に回覧していただいた。班別調査を行う学生には,事前に「地下水利用実態調査の手引き」を配布して,現地調査の手順や水位・水質調査の具体的方法,聞き取り調査時の注意点,「地下水利用実態調査表」(図6)への記入方法などを入念に説明した。 班別調査の結果は,現地で記入した住宅地図や調査表をもとに調査実施日の夜に整理した。そして班別にプレゼンテーションファイルを作成し,翌日に喜多方市内で開催する「福島大学 地下水利用実態調査 地元報告会」(例年,きたかた清水ネットワーク総会の前に実施される)で班別発表を行った。

4.地下水利用実態調査の結果

 2007年から2013年にかけての地下水利用実態調査では,井戸を所有している計415軒(内,一般世帯380軒,

事業所22軒,家庭用と事業所兼用が13軒)の調査を行った。調査年ごとの地下水利用実態調査地点を図7に示す。 地下水利用実態の班別調査では,担当した地域について戸別訪問調査を行い,留守宅を除いて,まず井戸の有無を尋ねた。訪問した世帯・事業所の総数が不明な2班分を除くと,井戸があるかどうか尋ねた569軒のうち,井戸があると答えた世帯・事業所数は379軒,井戸がないと答えたのは190軒で,井戸があると答えた割合は66.6%であった。

1)井戸の形状 井戸の形式については,ボーリング井戸がほとんどであり,人が中に入って掘削する手掘りの井戸はわずかしかなかった。ボーリング井戸には家庭用ポンプが直結されているものがほとんであるため,地下水位を測定できる井戸は数本しかない。

2)井戸の設置年 井戸の設置年については世帯や事業所の人から聞き取りを行い,144本の井戸について回答を得た(図8)。所有者の中には正確な設置年を記憶していない人もいたが,「今から約何年前」と答えていただき,それを西暦年に換算した。その結果,喜多方市街地の井戸は1980年代に設置されたものが40本(27.8%)と最も多く,次いで1990年代に設置されたものが25

本(17.4%),1970年代と2000年代に設置されたものがそれぞれ23本(16.0%)であった。古い井戸では,1950年以前に設置されたものが9本あり,そのうち3本は「明治時代に設置された」との回答であった。一方,最近になって設置された井戸もあり,2013年の調査では「今年になって掘削した」との回答もあった。

3)井 戸 深 度 井戸深度については実測することができなかったが,世帯や事業所の人から聞き取りを行い,219本の井戸について回答を得た(図9)。聞き取りした人の中には正確な深度を覚えていない人もいたが,その場合は概略の深度を答えてもらった。その結果,一般世帯の井戸を中心に深度10~20mを有する井戸が105本(47.9%)と最も多く,次いで深度10m未満の井戸が56本(25.6%),深度20~30mの井戸が38本(17.4%)であった。深度50m以上の井戸は,事業所が所有する井戸である。

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写真1 班別調査で使用した調査用具類

写真2 班別調査による地下水の水質測定

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学生実習による喜多方市街地の地下水利用実態調査 (7699)

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図5 喜多方市役所を通じて回覧した調査のお知らせ

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図6 地下水利用実態調査の調査表記入例

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図7 地下水利用実態調査実施地点の位置

図8 設置年代別の井戸本数 図9 深度別の井戸本数

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4)揚水ポンプおよび揚水量 揚水ポンプの種類や能力については,世帯や事業所の人がポンプの場所を知らなかったり,ポンプにラベルがついていなかったりなどのほか,班別調査の時間不足等の理由もあり,十分に把握できなかった。ポンプの能力が把握できた36本の井戸のうち,一般世帯で使用しているポンプは0.15~0.45kWの家庭用ポンプが多かった。また,事業所や消雪用で使用している井戸には,0.5~11.0kWのポンプがついているものが6本あった。ポンプの揚程は,7~25mであった。 井戸からの揚水量を把握する目的で,ポンプの稼働時間を尋ねたが,回答は30軒からしか得られなかった。稼働時間は1日あたり0.1~24時間とばらつきが大きく,単純平均は約6時間であるが,全回答の約2/3は3時間以内とのことであった。使用電力量や日揚水量,年揚水量についての回答数は少なく,とくに一般世帯からの回答数はわずかであった。

5)井戸水の水質⒜ pH

 地下水の基本的性質をあらわすpHは,測定した350本の井戸データによると,平均値が6.07,最大値が7.39,最小値が5.31であり,酸性を示す井戸水が多い。その頻度分布を図10に示すが,6.0以上6.5未満の井戸が最も多く154本(44.0%),次いで5.5以上6.0未満の井戸が153本(43.7%)であった。pHが7.0以上を示す井戸は8本(2.3%)だけである。pHの平面分布図(図11)をみると,pHが6.0未満の地域は喜多方市街地北部の東側および西側と,市街地中部を北北東-南南西方向に延びる帯状の地域に分布している。一方,pHが7.0以上の地域は,喜多方市街地の南東部に分布している。

⒝ 電気伝導度(EC) 電気伝導度(EC)は,地下水中の溶存イオンの総量と良い相関を示すことが知られており,一般にECが低いと水質が良いとされる。ECを測定した350本の井戸データによると,平均値が14.8mS/m,最大値が40.9mS/m,最小値が8.2mS/mであり,喜多方市街地の井戸水の水質は良好であることを示している。その頻度分布(図12)をみると,10~15mS/mの井戸が最も多く220本(62.9%),次いで15~20mS/mの井戸が

107本(30.6%)であった。ECが20mS/m以上を示す井戸は15本(4.3%)だけである。ECの平面分布図(図13)をみると,ECが15mS/m未満の地域は喜多方市街地北部から中央部を経て南部に拡がっている。一方,ECが15mS/m以上の地域は,喜多方市街地西部の旧押切川沿いの地域に所々分布しているほか,市街地東部にも分布している。このうち,東端部および南東部ではECが20mS/mを超え,とくに南東部では40mS/mに達する比較的高い値が認められた。

⒞ 酸化還元電位(ORP) 酸化還元電位(ORP)は,地下水の酸化還元状態を示す指標として使われており,本研究ではORP測定用電極の読み値をそのまま使用している。ORP値が負の場合は地下水が還元傾向にあり,正の場合は酸化傾向にあることを示す。ORPを測定した350本の井戸データによると,平均値が225mV,最大値が535mV,最小値が-320mVであり,喜多方市街地の井戸水は一部を除いて酸化傾向を示す。その頻度分布(図14)をみると,200~250mVの井戸が最も多く110本(31.4%),次いで150~200mVの井戸が96本(27.4%)であった。ORPが負の値を示す井戸は5本(1.4%)だけである。ORPの平面分布図(図15)をみると,喜多方市街地のほぼ全域でORPは150mV以上を示し,とくに市街地中央部では250mVを超える地域が拡がっている。しかし,市街地南東部ではORPが100mV以下となり,とくに市街地南東端の地域ではORPが負の値を示す井戸が集中している。

⒟ 鉄 イ オ ン 鉄イオンは,㈱共立理化学研究所製のパックテスト「鉄(低濃度)WAK-Fe(D)」で2008年度から測定した。このパックテストの測定範囲は0~2㎎/Lであるので,実際には2㎎/L以上の濃度であっても2㎎/Lと記録した。鉄イオンを測定した240本の井戸データの頻度分布(図16)をみると,0.05㎎/L未満の井戸が最も多く199本

(82.9%),次いで0.05~0.1㎎/Lの井戸が18本(7.5%)であった。一方,鉄イオン濃度が2㎎/Lを超える井戸は14本(5.8%)あった。鉄イオン濃度の平面分布図(図17)をみると,喜多方市街地南東部から東部にかけての地域で0.3㎎/L以上の鉄イオンが確認された。とくに,南東部では2㎎/L以上の鉄イオンが検出される井戸が集中し

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学生実習による喜多方市街地の地下水利用実態調査 (7703)

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図10 pH区分ごとの井戸本数

図11 pHの平面分布図

図12 電気伝導度(EC)区分ごとの井戸本数

図13 電気伝導度(EC)の平面分布図

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福島大学地域創造 第25巻 第2号 2014.2(7704)

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図14 酸化還元電位(ORP)区分ごとの井戸本数

図15 酸化還元電位(ORP)の平面分布図

図16 鉄イオン濃度区分ごとの井戸本数

図17 鉄イオン濃度の平面分布図

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学生実習による喜多方市街地の地下水利用実態調査 (7705)

ている。一方,喜多方市街地の南部や西部,中央部から北部にかけての地域では,局部的に0.3㎎/L未満の鉄イオンが検出されるだけで,ほとんどの井戸では鉄イオンが検出されなかった。

⒠ 硝酸イオン 硝酸イオンは,㈱共立理化学研究所製のパックテスト「硝酸WAK-NO3」で2008年度から測定した。このパックテストの測定範囲は0~45

㎎/Lである。硝酸イオンを測定した240本の井戸データによると,平均値が4.8㎎/L,最大値が20

㎎/L,最小値が0㎎/Lであった。その頻度分布(図18)をみると,5~10㎎/Lの井戸が最も多く91本(37.9%),次いで2~5㎎/Lの井戸が67本

(27.9%)であった。一方,硝酸イオン濃度が1㎎/L未満の井戸は26本(10.8%)あった。硝酸イオン濃度の平面分布図(図19)をみると,喜多方市街地北西部で10㎎/L以上の硝酸イオンが確認された。また,喜多方市街地中央部から西部にかけて5~10㎎/Lを示す井戸が多い。一方,喜多方市街地の北部から東部,南部にかけての地域では,硝酸イオン濃度が5㎎/L未満の井戸が多い。とくに,南東部では硝酸イオン濃度が1㎎/L未満と低くなっている。

6)井戸の涸渇 地下水利用実態調査では,世帯や事業所の方に,井戸が涸渇することがあるかどうかも尋ねた。その結果,調査した415本の井戸のうち,92本(22.2%)で井戸が涸渇することがあることが判明した。図20

には,涸渇することがある井戸の位置を示す。涸渇することがある井戸は喜多方市街地のほぼ全域に分布しているが,市街地の北西部や北部,西部,および喜多方駅付近で涸渇する井戸が集中しているところがある。

7)地下水利用状況 地下水利用実態調査では,井戸を所有している計415軒から地下水利用状況について聞き取りを行った。このうち,一般世帯で地下水を利用しているのが380軒,事業所で地下水を利用しているのが22軒,家庭用と事業所兼用で地下水を利用しているのが13

軒であった。 業務用として地下水を利用している事業所の主な業種は,酒造業(酒屋含む)6軒,自動車整備業(バイク・自転車含む)5軒,観賞用(農業)4軒,ラ

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図18 硝酸イオン濃度区分ごとの井戸本数

図19 硝酸イオン濃度の平面分布図

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福島大学地域創造 第25巻 第2号 2014.2(7706)

図22 風呂の井戸水と水道水の利用状況

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図20 涸渇することがある井戸の分布図

図21 飲用の井戸水と水道水の利用状況

表1 家庭用の地下水と水道水の用途別利用状況使用項目回答数

飲用 風呂 洗濯 水洗トイレ 消雪 散水 その他82 74 102 84 82 96 6

47.7% 44.0% 60.4% 50.3% 94.3% 97.0% 85.7%20 7 5 4 0 0 0

11.6% 4.2% 3.0% 2.4% 0.0% 0.0% 0.0%3 2 0 0 0 0 0

1.7% 1.2% 0.0% 0.0% 0.0% 0.0% 0.0%10 3 4 1 0 1 0

5.8% 1.8% 2.4% 0.6% 0.0% 1.0% 0.0%57 82 58 78 5 2 1

33.1% 48.8% 34.3% 46.7% 5.7% 2.0% 14.3%172 168 169 167 87 99 7

100.0% 100.0% 100.0% 100.0% 100.0% 100.0% 100.0%上段:回答数下段:比率

井戸水のみ使用

合計

水道水のみ使用

時々井戸水を使用

井戸水と水道水両方使用

主に井戸水を使用

ーメン屋2軒,ガソリンスタンド2軒,食堂・喫茶店2軒,建設業2軒,旅館・アパート2軒であった。 一般家庭用として地下水と水道水がどのように使用されているかを把握するために,用途別利用状況を表1にまとめた。また,図21から図26には,用途別の井戸水と水道水の利用状況を示す。喜多方では地下水は「おいしい水」と住民も認識しており,飲

用に井戸水のみを使用している世帯は47.7%,主に井戸水を使用している世帯は11.6%と,飲用に地下水を利用している世帯の割合が多い。また,洗濯に地下水を利用している世帯が63.4%,風呂と水洗トイレも約半数の世帯が地下水を利用している。さらに,消雪と散水にはほとんど地下水が利用されている。

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学生実習による喜多方市街地の地下水利用実態調査 (7707)

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5.家庭用地下水利用量の推定

 地下水利用実態調査により,喜多方市街地では地下水が多く利用されていることが明らかになったが,家庭用地下水利用量については具体的な回答がほとんど得られなかった。そこで,地下水利用実態調査により明らかになった地下水や水道水の利用状況と,各種統計資料等を用いて家庭用地下水利用量を推定する。既述したように,喜多方では冬季の地下水位の低下が年々進行している傾向にあり,今後の適切な地下水管理や地下水の有効活用のためにも,これまで明らかになっていなかった家庭用地下水利用量を推定することは大きな意義がある。

1)水道統計資料からの概算 福島県は毎年「福島県の水道」と題した水道統計資料を公表している(福島県,2005~2012)。最新の公表資料は「平成23年度 福島県の水道」(福島県,2012)であり,平成23年度の喜多方市の総人口は51,374人,給水人口は45,241人で,水道普及率は88.1%となっている。喜多方市の水道普及率は平成23年度の全国水道普及率97.6%や福島県全体の水道普及率95.2%と比較して少ない。 喜多方市の水道は,以前は地下水を水源としていたが,1992年に日中ダムを水源とする喜多方地方水道用水供給企業団からの受水に全面的に切り替えられた(喜多方市水道課,2013)。2006年1月4日の市町村合併に伴い,現在喜多方市では1つの上水道事業と2つの簡易水道事業等が給水を行っている。喜多方市街地では,水道水源が地下水からダム水に切り替えられて20年余りが経つが,水道普及率が低い原因は,現在でも地下水を利用している一般家庭が多いためと考えられる。 そこで,水道統計資料から喜多方での家庭用地下水利用量を概略計算してみる。福島県(2012)によれば,平成23年度の喜多方市の総人口は51,374人,給水人口は45,241人であるので,水道水を使用していない人口は6,133人となる。喜多方市の1人1日あたりの有収水量は平成23年度に267Lである(福島県,2012)ので,水道を使用せず地下水を利用している人が同じ水量を使用していると仮定すると,1日あたりの地下水利用量は1,638m3/dayと見積もられる。

図23 洗濯の井戸水と水道水の利用状況

図24 水洗トイレの井戸水と水道水の利用状況

図25 消雪の井戸水と水道水の利用状況

図26 散水の井戸水と水道水の利用状況

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福島大学地域創造 第25巻 第2号 2014.2(7708)

2)地下水利用実態調査をもとにした推定方法 前項で概略算出した地下水利用量は,水道を使用していない人が水道を利用している人と同じ水量を使うと単純に仮定した場合の水量である。しかし,地下水利用実態調査結果によると,水道を引いている家庭でも飲用や風呂,洗濯,水洗トイレなどの生活用水に地下水を利用しており,さらに消雪や散水にはほとんど地下水を利用していることが判明したため,こうした実態を踏まえた地下水利用量の推定を行う必要がある。 そこで,次のような方法で地下水利用実態調査結果を反映した一般家庭の地下水利用量の推定を行った。⒜ 生活用水量の推定方法

・人口は,喜多方市HPにある最新の「行政区別人口」(喜多方市,2013)をもとにする。

・行政区別に人数および世帯数が載っているので,行政区別に1世帯あたりの人数を算出する。

・福島県の水道統計(福島県,2005~2012)より,平成16~23年度の喜多方市上水道事業による1日1人あたりの月別有収水量の平均値を求める。

・月別有収水量を飲用,風呂,洗濯,水洗トイレの4項目に配分する。その配分方法は,「暴露係数ハンドブック」(化学物質リスク管理研究センター,2007)に掲載されている「生活用水使用量」の章にある「用途別水道使用割合」(出典は,東京都水道局「一般家庭水使用目的別実態調査」,平成9年度と14年度)の平均値を使用する。ただし,今回の地下水利用実態調査には,「洗面・その他」および「炊事」の項目がないため,「洗面・その他」と「炊事」の割合を,本調査の「飲用」に割り当てる(表2)。

表2 有収水量の用途別振り分け割合

・1日1人あたりの月別有収水量の平均値に表2の割合を掛け,さらに地下水と水道水の使用度に応じて設定した地下水利用換算率(表3)を掛けた。

有収水量を利用実態調査の項目に振り分けた時の割合

割合(%)飲用 30.5風呂 25.0洗濯 18.5トイレ 26.0

  表3 使用度による地下水利用換算率

・生活用水(飲用,風呂,洗濯,水洗トイレ)に関する揚水量を,次の式を用いて算出する。

 [各行政区における月別・用途別・使用度別揚水量]=[各行政区の世帯数]×[井戸を使用している世帯の割合(66.6%)]×[各行政区の1世帯あたりの人数]×[1日1人あたりの月別平均有収水量]×[有収水量の用途別振り分け割合

(表2の割合)]×[使用度による地下水利用換算率(表3の換算率)]

・喜多方市街地に位置する行政区の揚水量を合算して喜多方市街地の生活用揚水量とする。

⒝ 消雪用水量の推定方法 喜多方市街地の一般家庭では,冬季の消雪用水として地下水を多く利用しているため,一般家庭の消雪用地下水利用量を次のように仮定して推定する。・冬季(12月から翌年3月まで)を消雪期間と

して設定し,消雪必要時に6L/min(=360L/hour)の水量を使用すると仮定する。

・消雪している世帯の割合を算出する。使用度について回答した世帯数(172軒)のうち,消雪を行っていると回答した世帯(87軒)の割合を算出する(50.1%)。

・表1の消雪の場合の地下水と水道水の利用状況(地下水94.3%,水道水5.7%)を適用する。

・月別の消雪用の井戸稼働時間を推定する。気象庁アメダス喜多方観測所の1時間ごとの値について,気温が0℃以下,かつ,降水量が0㎜よりも大きいときの条件にあてはまる回数(=時間数)を数え,その時間に消雪していると仮定する。

・2008年度から2012年度までの冬季の月別稼働時間から月別平均稼働時間を算出し,月別消雪用水量を算出する。

・一般家庭の消雪用地下水揚水量を,次の式を用いて算出する。

 [各行政区における冬季月別の消雪用揚水量]=[各行政区の世帯数]×[井戸を使用している

使用度 地下水使用換算率(%)井戸水のみ使用 100主に井戸水を使用 75井戸と水道両方使用 50時々井戸水を使用 25水道水のみ使用 0

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学生実習による喜多方市街地の地下水利用実態調査 (7709)

世帯の割合(66.6%)]×[消雪を行っている世帯の割合(50.1%)]×[月別1世帯あたり・1日あたりの消雪用水量]×[井戸水のみ使用の割合(94.3%)]

・喜多方市街地に位置する行政区の揚水量を合算して喜多方市街地の消雪用揚水量とする。

⒞ 散水用水量の推定方法 喜多方市街地の一般家庭では,散水についても地下水を多く利用しているため,一般家庭の散水用地下水利用量を次のように仮定して推定する。・散水期間を4~9月と設定し,散水を12L/min

で1回あたり15分間使用し,毎日朝夕の2回行うと仮定する(1日あたり360Lの水を使用する)。

・散水量にも季節変化があると推測されるので,有収水量の月別変動と同様の変動があると仮定して,散水している世帯の散水用水量を算出する。

・散水している世帯の割合を算出する。使用度について回答した世帯数(172軒)のうち,散水を行っていると回答した世帯(99軒)の割合を算出する(57.6%)。

・表1の散水の場合の地下水と水道水の利用状況(井戸水のみ97.0%,時々井戸水を使用1.0%,水道水のみ2.0%)を適用する。また,「時々井戸水を使用」については,表3の地下水使用換算率(25%)を適用する。

・一般家庭用消雪用の地下水揚水量を,次の式を用いて算出する。

 [各行政区における月別・使用度別散水用揚水量]=[各行政区の世帯数]×[井戸を使用している世帯の割合(66.6%)]×[散水を行っている世帯の割合(57.6%)]×[月別の1世帯あたり1日の散水用水量]×[使用度による地下水利用換算率(表3の換算率)]

・喜多方市街地に位置する行政区の揚水量を合算して喜多方市街地の散水用揚水量とする。

3)地下水利用実態調査をもとにした推定結果 生活用地下水揚水量推定のベースとなる喜多方市上水道の1日1人あたりの月別有収水量(福島県,2005~2012)を表4に示す。これから得られた1日1人あたりの月平均有収水量に,表2に示した有収水量の用途別振り分け割合を掛けて算出した喜多方市街地の1日1人あたりの月別・用途別生活用水量

を表5に示す。 月別消雪用の井戸稼働時間の推定にあたっては,気象庁アメダス喜多方観測所の1時間ごとの値について,気温が0℃以下,かつ,降水量が0㎜よりも大きい条件にあてはまる時間数を調べた。2008年度から2012年度までの5年分の冬季の月別平均推定稼働時間は1月が最も長く99.2時間となり,次いで2月が66.0時間,12月が57.2時間,3月が20時間となった。この月別平均稼働時間に,既述のように仮定した地下水揚水量6L/min(=360L/hour)を掛けると,表7に示すように消雪に地下水を使う1世帯あたりの月別消雪用地下水利用量が求められる。 散水している世帯についての1世帯あたりの月別散水用水量は,散水期間や1日あたりの散水量を設定し,さらに有収水量の月別変動係数を掛けて表8のように算出した。 以上の設定・仮定条件をもとに推計した喜多方市街地の家庭用地下水揚水量を表9に示す。また,家庭用地下水揚水量の月別・用途別グラフを図27に示す。 推計された喜多方市街地の家庭用地下水揚水量は年平均で4,252.3m3/dayとなり,年間揚水量に換算すると155万2千m3になる。これは,水道統計資料から単純に見積もった地下水利用量1,638m3/dayよりも約2.6倍大きな量となる。年間を通じて最も揚水量の多い用途は消雪(20.7%)となり,次いで飲用(19.9%),散水(17.9%),水洗トイレ(15.1%),風呂(13.4%),洗濯(13.0%)の順となる。 月別合計揚水量は,冬季の1月が最も多く6,924.7m3/dayとなり,次いで2月,12月が多い。これは,冬季に一般世帯でも消雪用に地下水を利用しているためである。一方,冬季以外では4月から

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図27 喜多方市街地の月別・用途別家庭用地下水揚水量

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福島大学地域創造 第25巻 第2号 2014.2(7710)

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表4 福島県水道統計にもとづく喜多方市上水道の1日1人あたりの月別有収水量1日1人あたりの各月有収水量 単位:L/day

4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月 11月 12月 1月 2月 3月 年度平均平成16年度 220.3 221.9 229.9 237.1 248.2 237.2 216.1 217.2 212.6 228.3 245.7 222.5 228.1平成17年度 226.5 226.9 238.7 228.7 244.1 238.7 223.9 214.8 227.5 259.5 243.3 218.6 232.6平成18年度 241.4 246.2 257.7 253.8 272.8 255.8 252.6 247.9 248.8 257.0 253.7 248.1 253.0平成19年度 249.4 256.6 263.2 267.5 289.1 289.5 266.8 259.3 239.4 245.2 249.8 243.9 260.0平成20年度 228.7 232.2 241.2 245.5 248.9 250.7 239.7 237.0 240.3 246.0 241.9 232.8 240.4平成21年度 233.5 233.4 234.6 234.0 243.8 231.7 227.7 225.1 235.1 248.9 245.7 230.0 235.3平成22年度 228.0 235.7 243.0 246.7 264.1 245.4 229.9 224.4 227.0 254.2 249.4 236.3 240.3平成23年度 227.8 226.2 237.9 243.6 252.9 236.1 229.1 223.0 223.9 239.0 268.5 244.8 237.7各月平均 231.9 234.9 243.3 244.6 258.0 248.1 235.7 231.1 231.8 247.3 249.7 234.6 240.9年平均を基準とした割合 96% 98% 101% 102% 107% 103% 98% 96% 96% 103% 104% 97% 100%

(割合以外の単位:L/day/人)

表5 喜多方市街地の1日1人あたりの月別・用途別生活用水量各項目における1日1人当たりの水使用量(L)

4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月 11月 12月 1月 2月 3月飲用 70.7 71.6 74.2 74.6 78.7 75.7 71.9 70.5 70.7 75.4 76.2 71.6風呂 58.0 58.7 60.8 61.2 64.5 62.0 58.9 57.8 58.0 61.8 62.4 58.7洗濯 42.9 43.5 45.0 45.3 47.7 45.9 43.6 42.8 42.9 45.7 46.2 43.4トイレ 60.3 61.1 63.3 63.6 67.1 64.5 61.3 60.1 60.3 64.3 64.9 61.0合計 231.9 234.9 243.3 244.6 258.0 248.1 235.7 231.1 231.8 247.3 249.7 234.6

(単位:L/day/人)

表6 気象データをもとに推定した消雪用井戸稼働時間数月別の条件(気温=<0℃,降水量>0mm )に該当する数

2008年度 2009年度 2010年度 2011年度 2012年度 月別平均12月 37 56 64 63 66 57.21月 71 87 97 113 128 99.22月 31 86 36 74 103 66.03月 9 8 40 31 12 20.0

年度合計 148 237 237 281 309 242.4(単位:時間)

表7 消雪に地下水を使う1世帯あたりの消雪用地下水利用量

1世帯あたりの月ごとの1日あたりの消雪揚水量

12月 1月 2月 3月L/month 20133.3 34916.4 23230.7 7039.6日数 31 31 28 31L/day 649.5 1126.3 829.7 227.1

表8 1世帯あたりの月別散水用水量月別の係数を考慮した散水の1世帯あたりの1日あたり揚水量(L/day)

4月 5月 6月 7月 8月 9月1世帯あたりの散水用水量 346.6 351.0 363.5 365.5 385.5 370.8

(単位:L/day)

表9 喜多方市街地の家庭用地下水揚水量の推計結果揚水量集計結果

1月 2月 3月 4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月 11月 12月 年平均 割合(%)飲用 869.1 877.8 824.6 815.1 825.6 855.1 859.7 906.7 872.1 828.5 812.2 814.8 846.6 19.9風呂 584.9 590.7 555.0 548.6 555.6 575.5 578.6 610.2 586.9 557.6 546.6 548.4 569.8 13.4洗濯 567.1 572.7 538.0 531.9 538.7 557.9 560.9 591.6 569.0 540.6 529.9 531.6 552.4 13.0水洗トイレ 659.2 665.7 625.4 618.2 626.2 648.5 652.0 687.7 661.4 628.4 616.0 618.0 642.1 15.1消雪 4244.5 3126.5 855.7 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 2447.4 880.9 20.7散水 0.0 0.0 0.0 1444.8 1463.3 1515.6 1523.8 1607.1 1545.7 0.0 0.0 0.0 760.6 17.9合計 6924.7 5833.5 3398.7 3958.6 4009.5 4152.6 4175.0 4403.4 4235.2 2555.0 2504.8 4960.1 4252.3 100.0

(割合以外の単位:m3/day)

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学生実習による喜多方市街地の地下水利用実態調査 (7711)

9月にかけて散水用の地下水利用量があるため,8月に4,403.4m3/dayと大きな値となる。

6.まとめと今後の課題

 福島大学柴崎研究室では,喜多方市の地下水調査に2006年から取り組みはじめ,2007年からは学生実習「地下水盆管理調査法」で喜多方市街地の地下水利用実態調査を開始した。毎年8月上旬に学生が班別に分かれて戸別訪問調査を行い,2013年8月までに井戸を所有している計415軒(内,一般世帯380軒,事業所22軒,家庭用と事業所兼用が13軒)の調査を実施した。 喜多方市では柴崎研究室が2007年から浅層地下水の連続観測を行っている。それによると,毎年冬季に浅層地下水位が低下しており,しかも年々冬季の最低水位が低くなり,水位が低下している期間も長くなる傾向が認められる。これは,冬季に道路等の消雪のために使用されている地下水揚水量が増加しているためと考えられる。しかし,喜多方ではこれまで公共用・民間用の地下水利用実態が把握されていなかった。そのため,とくに一般家庭の地下水利用実態を把握した本調査は,今後の喜多方での地下水管理や有効活用を図るために貴重な情報を提供してきた。とくに,学生が一軒一軒民家や事業所を歩き訪ねて調査を行うことにより,これまで行政が把握できなかった一般家庭での地下水利用実態や一般市民の水利用についての意識なども把握することができた。そのため,毎年実習の最終日に開催された地元報告会には,きたかた清水ネットワークや地元の方々をはじめ,喜多方市や福島県など多くの関係者が参加した。 学生による地下水利用実態調査では,井戸の有無や地下水利用状況などの聞き取り調査と,pH,電気伝導度(EC),酸化還元電位(ORP),水温,鉄イオン,硝酸イオンを測定する水質調査を行った。その結果,喜多方市街地で井戸の有無を尋ねた569軒の世帯・事業所のうち,井戸があると答えた割合は66.6%であり,水道以外に地下水を利用している割合が多いことが明らかになった。井戸は1980年代に設置されたものが多いが,最近でも新たに井戸が設置されている。一般世帯の井戸深度は10~20mのものが多い。地下水の水質は全般に良好であるが,喜多方市街地南東部ではpHが7以上で電気伝導度(EC)も比較的高く,酸化還元電位(ORP)は還元傾向を示した。そのため,市街地南東部では鉄イオンが高く硝酸イオンが低い。井戸の涸渇状況を尋ねたところ,415本の井戸のうち,

92本(22.2%)で井戸が涸渇することが明らかになった。これは,冬季に地下水位が低下するためと推測される。地下水利用状況については,飲用に井戸水のみを使用している世帯は47.7%,主に井戸水を使用している世帯は11.6%と,水道を引いていても飲用に地下水を利用している世帯が多いことが明らかになった。また,洗濯に地下水を利用している世帯が63.4%,風呂と水洗トイレも約半数の世帯が地下水を利用しており,消雪と散水についてはほとんど地下水が利用されている。 地下水利用実態調査結果をもとに,福島県の水道統計資料をはじめ各種統計資料や気象データ等を使用して,喜多方市街地の家庭用地下水利用量を推定した。その結果,喜多方市街地の家庭用地下水揚水量は年平均で4,252.3m3/dayとなり,年間揚水量に換算すると155万2千m3となった。年間を通じて最も揚水量の多い用途は消雪(20.7%)であり,次いで飲用(19.9%),散水(17.9%),水洗トイレ(15.1%),風呂(13.4%),洗濯(13.0%)の順と推定された。月別合計揚水量は,冬季では1月に最も多く6,924.7m3/dayとなり,冬季以外では8月に多く4,403.4m3/dayとなることが推定された。 本報告は,学生実習として7年間にわたり取り組んだ地下水利用実態調査の結果をまとめたものであるが,まだ調査していない世帯や事業所も多い。そのため,今後も継続して地下水利用実態調査を実施する予定である。また,調査の精度を向上させ,時系列的にも変化する地下水利用実態を明らかにするために,以下の課題に取り組む予定である。・地下水利用実態をより定量的に把握するための調査

手法や調査表の改善・同一世帯・事業所での地下水利用実態モニタリング

の実施・喜多方市や福島県,地元NPOとの連携による地下

水利用実態調査の実施・地下水の大口ユーザーである公共用・事業用井戸の

地下水利用量の実態把握とモニタリング

謝   辞 福島大学の地下水盆管理調査法による喜多方学生実習を行うにあたり,地元への回覧板の配布など喜多方市役所建設部まちづくり課には大変お世話になりました。また,実習最終日の地元報告会の開催にあたり,きたかた清水ネットワークや関係機関,地元の皆様に多大なご協力をいただきました。現地調査や学生実習

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福島大学地域創造 第25巻 第2号 2014.2(7712)

の際に湧水や井戸を見学させていただいている喜多方市稲村の村岡 泉様と同市菅原町の遠藤光衛様には,毎回あたたかいご支援をいただきました。現地調査の際には,きたかた清水ネットワークや福島県土地・水調整課の方々に同行していただき,有益なアドバイスをいただきました。本報告は,これまでの実習に参加した計63名の学生のみなさんの調査成果を取りまとめたものです。以上の方々に深く感謝いたします。

文   献超学際的研究機構,2007,きたかた清水の再生による

まちづくりに関する調査研究報告書.平成18年度福島県委託事業,特定非営利活動法人超学際的研究機構,101p.

福島県,2005,平成16年度 福島県の水道(平成17年3月31日現在).福島県保健福祉部食品生活衛生課,http://www.pref.fukushima.jp/eisei/kanei/suidou/fukushimasuidou/ikkatu/ikkatu.pdf

福島県,2006,平成17年度 福島県の水道(平成18年3月31日現在).福島県保健福祉部食品生活衛生課,http://www.pref.fukushima.jp/eisei/kanei/suidou/fukushimasuidou/17ikkatu/17ikkatu.pdf

福島県,2007,平成18年度 福島県の水道(平成19年3月31日現在).福島県保健福祉部食品生活衛生課,http://www.pref.fukushima.jp/eisei/kanei/suidou/fukushimasuidou/18ikkatu/18ikkatu.pdf

福島県,2008,平成19年度 福島県の水道(平成20年3月31日現在).福島県保健福祉部食品生活衛生課,http://www.pref.fukushima.jp/eisei/kanei/suidou/fukushimasuidou/19ikkatu/19ikkatu.pdf

福島県,2009,平成20年度 福島県の水道(平成21年3月31日現在).福島県保健福祉部食品生活衛生課,http://www.pref.fukushima.jp/eisei/kanei/suidou/fukushimasuidou/20ikkatu/20ikkatu.pdf

福島県,2010,平成21年度 福島県の水道(平成22年3月31日現在).福島県保健福祉部食品生活衛生課,http://wwwcms.pref.fukushima.jp/download /1/21ikkatsu.pdf

福島県,2011,平成22年度 福島県の水道(平成23年3月31日現在).福島県保健福祉部食品生活衛生課,http://wwwcms.pref.fukushima.jp/download /1/22ikkatsu.pdf

福島県,2012,平成23年度 福島県の水道(平成24年3月31日現在).福島県保健福祉部食品生活衛生課,http://wwwcms.pref.fukushima.jp/download

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