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モノづくり シンポジム ◇モデレーター◇ 首都大学東京 大学教育センター教授 大森 不二雄 氏 ◇パネリスト◇ 日立製作所 日立研究所主管研究長 北野 誠 氏 豊田自動織機 常務執行役員 野崎 晃平 氏 同志社大学 経済学部教授 八木 匡 氏 慶応義塾大学 経済学部教授 戸瀬 信之 氏 摂南大学 理工学部教授 久保 司郎 氏 久保氏 戸瀬氏 大森氏 野崎氏 北野氏 八木氏 岡村日機連会長 講演する豊田自動 織機常務執行役員 野崎晃平氏 講演する神戸大学特 命教授育学 西村和雄氏 育にPDCAサイクル コミュニケーション 2014年 平成26年 3月5日 水曜日

理数系学力の強化とモノづくり人材日機連シンポジウム · 2015. 8. 17. · 「理数系学力の強化とモノづくり人材」 日本機械工業連合会は2月7日、東京・芝公園の機械振興会館でシンポジウム

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理数系学力の強化とモノづくり人材日機連シンポジウム◇モデレーター◇

首都大学東京大学教育センター教授

 大森 不二雄 氏

◇パネリスト◇日立製作所 日立研究所主管研究長

北野 誠 氏豊田自動織機 常務執行役員

野崎 晃平 氏同志社大学 経済学部教授

八木 匡 氏慶応義塾大学 経済学部教授

戸瀬 信之 氏摂南大学 理工学部教授

久保 司郎 氏

パネルディスカッション

製造業の技術者の質向上に向けて、理系学部進学者の学力向上策を検討する

久保氏

戸瀬氏

大森氏

野崎氏

北野氏

八木氏

 日本機械工業連合会は2月7日、東京・芝公園の機械振興会館でシンポジウム

「理数系学力の強化とモノづくり人材」

モノづくり日本会議共催

を開いた。日

機連は製造業の若手技術者・研究者の能力が低下しているのではないかとの懸念に

ついて、いわゆる「理数系離れ」が大きな要因と考え、この問題の深刻さを広くア

ピールしてきた。今回も日機連内に設けた「理数系グローバル人材育成・教育に関

する調査専門部会」

西村和雄部会長

神戸大学社会科学系教育研究府特命教授・

国際教育学会会長

がまとめた提言や、産学からの登壇者によるパネルディスカッ

ションなどを通じて、モノづくりの危機に対する打開策を考えた。

岡村日機連会長

講演する豊田自動織機常務執行役員野崎晃平氏  

講演する神戸大学特命教授(国際教育学会会長)西村和雄氏

技術系人材育成へ産学連携強化

「MISTEE」教育の推進を

 シンポジウムはまず岡村

正日本機械工業連合会会長

東芝相談役

があいさ

つ。「産業界の発展には常

にイノベーションが必要。

そのためには人材育成が常

に求められている。我々と

しては若手技術者の能力向

上を図っていかなければな

らない」とした。

 続く来賓あいさつではま

ず小川誠経済産業省大臣官

房審議官が「産業政策から

見た技術系人材に関する課

題について」と題して、日

本の産業競争力の源泉とな

っているのが

技術力である

が、一方では

その基礎とな

る技術系人材

の採用が難し

い状況である

ことなどにつ

いて言及。技術系人材の育

成を図るため経済産業省と

しては、個別企業、業界団

体と大学との産学連携推進

を今後も強化していくこと

を訴えた。

 また吉田大輔文部科学省

高等教育局長は、今回日機

連調査専門部会がまとめた

理数系グローバル人材の育

成・教育に関する提言をた

たき台に、高等学校などに

おける理数系教育の改善の

必要性について理解を示し

た。製造業から期待されて

いる大学の理工系教育のレ

ベルアップについても積極

的に考え、できるだけ早く

方向性を示す必要があると

した。

 二人が順次登壇した講演

はまず西村和雄神戸大学社

会科学系教育研究府特命教

授が「理数系学力を確かな

ものにするために」とし

て、自身が部会長を務める

理数系グローバル人材・育

成に関する調査専門部会が

まとめた提言について解説

した。優れたグローバル人

材を育成する前提として、

数学・情報・理科・技

術・工学・英語

のそれぞ

れの頭文字をとった

MI

STEE

教育の推進が必

要」であると主張。具体的

にはまず小中高における理

数教育の改善について、小

学1年生から理科を学習さ

せることや、高等学校にお

いて原則数学

、数学Bな

らびに理科2科目を必修と

すること、公立の小中学校

と高校に理数英才クラスを

導入することなどを提案し

た。

 また大学の理工系教育に

ついても製造業の求める人

材を育成するために、大学

入学者選抜にはいわゆるA

O入試や推薦であっても学

力試験を併用することや、

英語をはじめ多様な分野の

教育を充実させてコミュニ

ケーション能力や文章力を

養うことが不可欠とした。

さらに製造業側が取り組む

べき課題として、企業が自

らの求める人材の能力・学

力を明確にした上で、採用

時には面接だけでなく学力

試験を行うことが大切であ

るとした。加えて企業が奨

学金制度、寄付講座、イン

ターンシップなどを通じて

高校・高専・大学の人材育

成に積極的に協力しなけれ

ばならないと呼びかけた。

 続いての講演では野崎晃

平豊田自動織機常務執行役

員が、「若年技術者の昨今

?について」として、産業

界全般の若手技術者の動向

や、自社の人材育成の取り

組みなどについて紹介し

た。製造業全体で、理工系

大学を卒業した若手でも製

図などをはじめとする基礎

的な能力が不足しているこ

とを例示。同社では

年ほ

ど前から経営トップが若手

の能力低下を懸念して、新

人教育を徹底し

て行っていると

いう。これは入

社数年を経た若

手や課長クラス

も教育を担当す

るため、全体の

レベルアップに

つながる一石二

鳥の効果を上げ

ている。また

「技術教育だけ

でなく、道徳や

文化教育にも力

を入れている」

と強調した。

教育にもPDCAサイクル重要基礎力とコミュニケーション力必須

 大森 産業界にはどのよ

うなグローバル人材が求め

られているのでしょうか。

またそのための教育とは。

 北野 自分が取り組んで

いる事業や研究の内容を世

界規模の視点から理解して

いることが大切だ。語学

や、社交性も必要だろう。

単純な結論だが「世界レベ

ルで優秀な人材」というこ

と。海外に出たら一人で幅

広く業務をこ

なさなければ

ならないこと

も多い。技術

の深さだけで

なく「広が

り」を身につ

けてほしい。

そのための理

系教育として

はまず自然現

象を理解させ

るよう導き、

結果としてモ

ノづくりに興

味を持っても

らう。日本の

製造業がもう一度世界に冠

たるものになることが理科

離れを食い止めるには一番

効果があるはずだ。

 野崎 製造業の現場で技

術者が通用するにはもちろ

ん英語も大切だが、まず日

本語ができなくてどうす

る、とも思う。何を言いた

いか論理的に伝えられるよ

う新入社員には毎日リポー

トを書かせる。グローバル

人材は日本において仕事で

信用されることが前提。そ

れが世界で通用することに

つながる。

 八木 数年前から文部科

学省のプロジェクトとして

留学生受け入れを増やして

いる。同志社でいうなら、

英語授業の導入など、結局

日本人学生のレベルアップ

につなげることが目的でも

ある。次のステージは日本

の学生をどんどん海外に留

学させること。英語で専門

的議論をするくらいになっ

たもらいたい。

 戸瀬 たしかに日本から

かなりの学生が留学してい

るが、語学能力は上がって

も本当に学力はついている

だろうか。演習、リポート

の量をはじめ、日本の大学

教育の質が欧米に比べ薄い

のではないかと危機感を覚

えている。

 久保 長年つとめる大阪

大学では大学院改革として

「複合システムデザインの

ためのX型人材育成」プロ

グラムに取り組んできた。

「X」とは二つの専門分野

が交差すること。もちろん

複合的な応用力のためには

基礎力を身につけることが

大切だ。

 大森 大学入試のあり方

についても考える必要があ

るのでは。

 野崎 やはり受験などあ

る程度のハードルがない

と、学生のやる気にも影響

があるのではないか。この

ままでは自分の専門につい

てのアイデンティティーが

ない学生が増えてしまうか

もしれない。また企業側と

しては学生の実力を把握し

たいという考えがある。

 戸瀬 入試に数学を課さ

ない大学が増えていること

もあり、学生の数学力は長

期にわたって低下してい

る。

 久保 大学院に進む段階

で勉強し直して、専門分野

の全体像がわかるというこ

とも多い。これはこれで体

系的に学ぶ機会となり大切

だ。

 大森 日機連の専門部会

が「大学入試で数学を選択

した学生は卒業後の所得が

一定程度高い」といった追

跡調査をしたことがあっ

た。所得は大きな要素だ

が、一方で「理系はしんど

い」と学生がつらいことを

避ける傾向もあるように思

う。

 野崎 採用は成績を重視

する。面接でかつてはバイ

タリティーを重視していた

が、現在は技術系の役員が

深掘りした質問をしてい

る。

 北野 入社

後教育すれば

よいから学力

を重視しなく

ても良いので

は、という人

もいる。しか

しそんなにのんびりとして

いられないのが実情だ。ま

た採用から配属に至って、

希望がかなわないことも多

い。十数年前から技術者が

面接する社内のジョブマッ

チングも進めている。

 八木 今回調査専門部会

がまとめた提言は、理系教

育の問題点を指摘したも

の。グローバル人材を育成

するために具体的に何をす

べきかを考えなければなら

ない。産業競争力の源泉は

創造性の向上にある。それ

をどう教育で育んでいく

か、まだ議論が不十分だ。

大学にも、企業にもやらな

ければならないことがあ

る。

 北野 技術者にとっては

技能の伝承も大切だが、常

に新しいこと、正しいこと

に取り組む使命がある。

 大森 常に何かを学び続

ける姿勢は大切だ。基礎力

とともにコミュニケーショ

ン力も身につけてもらいた

い。

 久保 学際融合教育に取

り組んでいるが、教育にも

PDCAのサイクルを取り

入れていくことが重要だと

考えている。

 戸瀬 科学技術は進歩し

ていても日本の大学の学部

のレベルは上がっていな

い。学力はいらないと言っ

ていては、国際的な舞台で

の知的な会話についていけ

ず、日本からそうした場面

に人材を送り込めなくなっ

てしまうおそれがある。

敬称略

( )    2014年 平成26年 3月5日 水曜日