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2 Guideline November 2009 高等学校  新学習指導要領の ポイント 2008年3月に小学校・中学校の新しい学習指導 要領、続いて2009年3月に高等学校の新しい学習 指導要領が告示された。7月には先行実施される数 学、理科等の高等学校学習指導要領の解説が公開さ れ、新しい学習指導要領の詳しい内容が明らかとな った。 本誌では、2008年9月号「中学校学習指導要領 改訂のポイント」、2009年4・5月号「2009年度セ ンター試験英語と『言語活動』との関連を分析」を 既に掲載している。 今回は、新しい学習指導要領の主な改善事項の1 つである「理数教育」に注目し、数学と理科(物理、 化学、生物)について、新学習指導要領、同解説を もとに、分析を行ったものである。 各教科・科目とも、変更点の概略、科目ごとの変 更点、高校での指導への影響、大学入試への影響と いう4つの観点から分析し、その内容をまとめた。 なお、河合塾ホームページには、地学も含めてさ らに詳しい分析内容を掲載している。ぜひご活用い ただきたい。 河合塾高等学校学習指導要領分析: http://www.kawai-juku.ac.jp/kawaijuku/analysis/ 周知・徹底 周知・徹底 周知・徹底 周知・徹底 平成20年度 (2008年) 平成21年度 (2009年) 平成22年度 (2010年) 平成23年度 (2011年) 平成24年度 (2012年) 平成25年度 (2013年) 新学習指導要領 実施スケジュール(概要) 幼稚園 小学校 中学校 高等学校 全面実施 総則等 算数、理科 先行実施 先行実施 先行実施 総則等 先行実施 (年次進行) 数学、理科 総則等 数学、理科 全面実施 年次進行 で実施 全面実施 【特集】 CONTENTS 数学 理科 物理 化学 生物 ……………… 4p ……………… 9p ……………… 10p ……………… 14p ……………… 17p

【特集】 高等学校 新学習指導要領の ポイント...2 Guideline November 2009高等学校 新学習指導要領の ポイント 2008年3月に小学校・中学校の新しい学習指導

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Page 1: 【特集】 高等学校 新学習指導要領の ポイント...2 Guideline November 2009高等学校 新学習指導要領の ポイント 2008年3月に小学校・中学校の新しい学習指導

2 Guideline November 2009

高等学校 新学習指導要領のポイント2008年3月に小学校・中学校の新しい学習指導

要領、続いて2009年3月に高等学校の新しい学習

指導要領が告示された。7月には先行実施される数

学、理科等の高等学校学習指導要領の解説が公開さ

れ、新しい学習指導要領の詳しい内容が明らかとな

った。

本誌では、2008年9月号「中学校学習指導要領

改訂のポイント」、2009年4・5月号「2009年度セ

ンター試験英語と『言語活動』との関連を分析」を

既に掲載している。

今回は、新しい学習指導要領の主な改善事項の1

つである「理数教育」に注目し、数学と理科(物理、

化学、生物)について、新学習指導要領、同解説を

もとに、分析を行ったものである。

各教科・科目とも、変更点の概略、科目ごとの変

更点、高校での指導への影響、大学入試への影響と

いう4つの観点から分析し、その内容をまとめた。

なお、河合塾ホームページには、地学も含めてさ

らに詳しい分析内容を掲載している。ぜひご活用い

ただきたい。

河合塾高等学校学習指導要領分析:

http://www.kawai-juku.ac.jp/kawaijuku/analysis/

周知・徹底

周知・徹底

周知・徹底

周知・徹底

平成20年度 (2008年)

平成21年度 (2009年)

平成22年度 (2010年)

平成23年度 (2011年)

平成24年度 (2012年)

平成25年度 (2013年)

新学習指導要領 実施スケジュール(概要)

幼稚園

小学校

中学校

高等学校

全面実施

総則等

算数、理科 先行実施

先行実施

先行実施 総則等

先行実施 (年次進行) 数学、理科

総則等

数学、理科

全面実施

年次進行 で実施

全面実施

【特集】

CONTENTS

◆数学

◆理科

◆物理

◆化学

◆生物

……………… 4p

……………… 9p

………………10p

………………14p

………………17p

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Guideline November 2009 3

高等学校学習指導要領の主な改善事項と今後のスケジュール

今回の改訂における教育内容の主な改善事項は、以下の

8つである。

1. 言語活動の充実

国語をはじめ、各教科等で批評、論述、討論などの学

習を充実

2. 理数教育の充実

・新しい科学的知見に対する観

点から指導内容を刷新

・統計に関する内容を必修化

(数学「数学Ⅰ」)

・知識・技能を活用する学習や

探究する学習を重視([課題

学習](数学)の導入、「数学

活用」「理科課題研究」の新

設等)

・指導内容と日常生活や社会と

の関連を重視(「科学と人間

生活」の新設)

3.伝統や文化に関する教育の充

4. 道徳教育の充実

5. 体験活動の重視

6. 外国語教育の充実

7. 職業に関する教科・科目の改善

8. 重要事項

「はどめ規定」を原則削除、など

また、卒業単位数、必履修科目

等については、

・卒業までの修得単位数は、現行

の学習指導要領(以下、現行課

程)と同じ74単位

・国語、数学、外国語に共通必履

修科目を設定、理科の科目履修

の柔軟性を向上

・週当たりの授業時数(全日制)

は標準である30単位時間を超え

て授業を行うことができること

を明確化

となった。

高等学校 新学習指導要領のポイント特集

【図表】高等学校の各学科に共通する教科・科目等及び標準単位数

〔改 訂 後〕

教科 科 目 標準 単位数

必履修科目

国語総合 国語表現 現代文A 現代文B 古典A 古典B 世界史A 世界史B 日本史A 日本史B 地理A 地理B 現代社会 倫理 政治・経済 数学Ⅰ 数学Ⅱ 数学Ⅲ 数学A 数学B 数学活用 科学と人間生活 物理基礎 物理 化学基礎 化学 生物基礎 生物 地学基礎 地学 理科課題研究 体育 保健 音楽Ⅰ 音楽Ⅱ 音楽Ⅲ 美術Ⅰ 美術Ⅱ 美術Ⅲ 工芸Ⅰ 工芸Ⅱ 工芸Ⅲ 書道Ⅰ 書道Ⅱ 書道Ⅲ コミュニケーション英語基礎 コミュニケーション英語Ⅰ コミュニケーション英語Ⅱ コミュニケーション英語Ⅲ 英語表現Ⅰ 英語表現Ⅱ 英語会話 家庭基礎 家庭総合 生活デザイン 社会と情報 情報の科学

4 3 2 4 2 4 2 4 2 4 2 4 2 2 2 3 4 5 2 2 2 2 2 4 2 4 2 4 2 4 1

7~8 2 2 2 2 2 2 2 2 2 2 2 2 2 2 3 4 4 2 4 2 2 4 4 2 2

○2単位まで減可     ○     ○ 「現代社会」又は 「倫理」・ 「政治・経済」 ○2単位まで減可

○ ○     ○ ○2単位まで減可     ○     ○

国語

地理 歴史

公民

数学

理科

保健 体育

芸術

外国語

家庭

情報

「科学と人間生活」を含む2科目 又は

基礎を付した科目を3科目

2科目 (「理科基礎」「理科総合A」又は「理科総合B」を少なくとも1科目含む。)

○2単位まで減可 総合的な学習の時間 3~6

〔現 行〕

教科 科 目 標準 単位数

必履修科目

国語表現Ⅰ 国語表現Ⅱ 国語総合 現代文 古典 古典講読 世界史A 世界史B 日本史A 日本史B 地理A 地理B 現代社会 倫理 政治・経済 数学基礎 数学Ⅰ 数学Ⅱ 数学Ⅲ 数学A 数学B 数学C 理科基礎 理科総合A 理科総合B 物理Ⅰ 物理Ⅱ 化学Ⅰ 化学Ⅱ 生物Ⅰ 生物Ⅱ 地学Ⅰ 地学Ⅱ 体育 保健 音楽Ⅰ 音楽Ⅱ 音楽Ⅲ 美術Ⅰ 美術Ⅱ 美術Ⅲ 工芸Ⅰ 工芸Ⅱ 工芸Ⅲ 書道Ⅰ 書道Ⅱ 書道Ⅲ オーラル・コミュニケーションⅠ オーラル・コミュニケーションⅡ 英語Ⅰ 英語Ⅱ リーディング ライティング 家庭基礎 家庭総合 生活技術 情報A 情報B 情報C

2 2 4 4 4 2 2 4 2 4 2 4 2 2 2 2 3 4 3 2 2 2 2 2 2 3 3 3 3 3 3 3 3 7~8 2 2 2 2 2 2 2 2 2 2 2 2 2 2 4 3 4 4 4 2 4 4 2 2 2

    ○     ○     ○

    ○

○ ○     ○     ○     ○     ○

国語 地理 歴史 公民 数学 理科 保健 体育

芸術

外国語 家庭 情報

「現代社会」又は 「倫理」・ 「政治・経済」

○ 総合的な学習の時間 3~6

必履修科目を変更した教科   科目構成を変更した箇所  ○必履修教科・科目

この結果、新課程の必履修科目、標準単位数は【図表】

のように変更された。

なお、新課程への移行スケジュールについては2ページ

をご覧いただきたい。高校については来年には数学・理科

の教科書検定がスタートし、2012年(平成24年)には、

数学・理科において新課程が先行実施される予定である。

では、次ページから数学、理科(物理、化学、生物)の

順に詳しい分析内容を見てみよう。

Page 3: 【特集】 高等学校 新学習指導要領の ポイント...2 Guideline November 2009高等学校 新学習指導要領の ポイント 2008年3月に小学校・中学校の新しい学習指導

4 Guideline November 2009

『数学Ⅰ』

「データの分析」をどのように教えるかが課題

中学校と高校の接続を意識して、中学校の4領域(数と

式、図形、関数、資料の活用)に対応した4つの単元(数

と式、図形と計量、二次関数、データの分析)で構成され

る。新学習指導要領における単元の掲載順序も、中学校の

領域の掲載順序に準じている。『数学Ⅰ』に「中学4年」

的な位置づけを与えたものとも言える。

注目されるのは「データの分析」である。現行課程の

『数学B』「統計とコンピュータ」の内容がほぼ移行された。

新課程では、小学6年から、順次、統計的な内容を扱うこ

とになっており、生徒の負担はそれほど重くないだろう。

しかし、『数学Ⅰ』でΣ記号を用いず分散や相関係数を指

導することは困難も予想されるため、可能であれば「数列」

の学習の後にこの分野を復習できると、分散や相関係数の

イメージがわきやすくなるだろう。

『数学Ⅱ』

微積分の次数制限のはどめ規定を緩和

「いろいろな式」「図形と方程式」「指数関数・対数関数」

「三角関数」「微分・積分の考え」で構成される。現行課程

と大きな変化はないが、『数学Ⅰ』から「三次の乗法公式

変更点の概略

『数学C』の一部が『数学B』と『数学Ⅲ』へ移行され『数学C』は廃止に

新課程での数学の科目およびこれまでの学習指導要領の

変更に伴う科目の変更は【図表1】の通りである。

今回の改訂の最大のポイントは、『数学C』の廃止によ

り、科目の内容が組み替えられ、『数学C』で扱っていた

内容の一部が『数学B』『数学Ⅲ』などに移行されたこと

である。現行課程の大学入試では、『数学Ⅲ』のみで受験

できる大学もあり、『数学C』については受験対策をしな

い生徒もいた。新課程では現行課程『数学C』の分野を含

む『数学Ⅲ』に一本化されるため、実質的に学ぶべき分野

が増える。その分、『数学Ⅲ』は5単位に増加しており、

理系受験生の入試対策の負担が増大する。

また、『数学基礎』に代わる科目として『数学活用』が

新設された。

さらに、現行課程への改訂時に中学校から高校へ移行さ

れた内容の多くが中学校に

戻されたことも注目される

【図表2】。しかし、すべて

戻されたのではなく、一部

は高校の内容として残され

た【図表3】。特に影響が

大きいのが、『数学Ⅰ』の

一次不等式である。生徒は

一次不等式を学んだ1・2

カ月後に二次不等式の学習

に入ることになる。反復練

習が不可欠な一次不等式を

十分に習熟しないまま、二

次不等式に入るため、指導

上難しい面が出てくると考

えられる。

2009(平成21年)告示 →2012年(平成24年)数学・理科先行実施

数学活用 数学Ⅰ 数学Ⅱ 数学Ⅲ 数学A 数学B

科目 必履修科目

2 3 4 5 2 2

○2単位まで減可

標準 単位数

1989(平成元年)告示→1994年(平成6年)実施

数学Ⅰ 数学Ⅱ 数学Ⅲ 数学A 数学B 数学C

科目 必履修科目

4 3 3 2 2 2

標準 単位数

1999(平成11年)告示→2003年(平成15年)実施

数学基礎 数学Ⅰ 数学Ⅱ 数学Ⅲ 数学A 数学B 数学C

科目 必履修科目

2 3 4 3 2 2 2

標準 単位数

1978(昭和53年)告示→1982年(昭和57年)実施

数学Ⅰ 数学Ⅱ 代数・幾何 基礎解析 微分・積分 確率・統計

科目 必履修科目

4 3 3 3 3 3

標準 単位数

数学

【図表1】数学の学習指導要領変更に伴う科目構成の変遷

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Guideline November 2009 5

および因数分解」、『数学A』から「二項定理」などが移行

されている。

また、「はどめ規定」の原則削除に伴う影響も考慮して

おく必要がある。微分・積分において、現行課程では「微

分法については三次まで、積分法については二次までの関

数を扱う」とされていたが、その制限が緩和された。『数

学A』の二項定理が『数学Ⅱ』に移行されたこともあって、

「四次以上の関数の微分の公式」が提示しやすくなってい

ることを考え合わせると、教科書によって扱いがかなり異

なる可能性もあり得る。大学入試では、旧課程や現行課程

においても、次数制限を無視した問題も数多く出題されて

いたが、今後出題頻度が高まることが予想される。

『数学Ⅲ』

「複素数平面」が復活「行列」削除は大学での学びに影響!?

新課程で最も多くの内容が追加されたのが『数学Ⅲ』だ。

内容の増加に伴い、標準単位数も5単位となった。

「平面上の曲線と複素数平面」「極限」「微分法」「積分法」

で構成されている。現行課程の『数学Ⅲ』の内容がほとん

どそのまま残された上に、『数学C』「式と曲線」、および

旧課程の「複素数平面」「曲線の長さ」などが追加されて

いる。

「複素数平面」は「ド・モアブルの定理」程度までを扱

うことになっており、旧課程とほぼ同じ内容が復活すると

予想される。新学習指導要領の解説では「平面図形への応

用を扱うことも考えられる」とされているので、多くの教

科書で扱われるはずだ。なお、新学習指導要領の解説には

「二次曲線を回転させて考察することは含まれない」と記

載されている。だが、現行課程においても、行列の一次変

換で「点の移動のみを扱う」とされているにもかかわらず、

実際の入試問題では曲線の回転を問う問題が出題されてい

た。それを考えると、新課程の大学入試でも曲線の回転が

出題されることは大いにあり得るので注意しておきたい。

さらに、現行課程『数学C』の行列が、『数学Ⅲ』に移

行しなかったことも注目される。『数学活用』「社会生活に

おける数理的考察」の中で行列を取り上げることになって

はいるが、現行課程における非可換な代数構造に着目させ

たり、一次変換に応用したりといった扱いとは、かなり異

なることになる。「行列」を扱わなくなることは、大学と

の接続の意味では大きな影響があるだろう。理工系学部、

経済系学部などで「行列」を用いることが多いからだ。特

高等学校 新学習指導要領のポイント特集

【図表2】中学校に移行された内容

【図表3】中学校に移行されなかった内容

数の集合と四則演算の可能性

大小関係を不等式で表すこと

有理数と無理数

二次方程式の解の公式

いろいろな事象と関数

球の表面積と体積

相似比と面積比・体積比

円周角の定理の逆

資料のちらばりと代表値

標本調査

数学Ⅰ

数学Ⅰ

数学Ⅰ

数学Ⅰ

数学Ⅰ

数学Ⅰ

数学Ⅰ

数学A

数学B・数学基礎

数学C・数学基礎

中1 中2 中3 科目

新課程 内 容

現行課程

● (一部小6)

数学Ⅰ→数学Ⅰ

数学A→数学A<選択>

数学基礎→数学A<選択>

数学B<選択>→数学Ⅰ

一次不等式

内接四角形の定理、いわゆる接弦定理

三角形の内心・外心・重心

2円の位置関係

n進法

相関

内 容 現行課程→新課程

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6 Guideline November 2009

【図表4】数学の学習内容移行表

数学 Ⅰ (3単位)

数学A (2単位)

数学基礎 (2単位)

数学Ⅲ (3単位)

数学Ⅱ (4単位)

数学Ⅲ (5単位)

数学A (3単位分の内容から2単位選択)

数学B (3単位分の内容から2単位選択)

数学Ⅱ (4単位)

数学活用 (2単位)

数学 Ⅰ (3単位)

数学B (4単位分の内容から2単位選択)

数学C (4単位分の内容から2単位選択)

方程式と不等式

二次関数

図形と計量

場合の数と確率

集合と論理

平面図形

数学と人間の活動

社会生活における数理的な考察

身近な統計

極限

微分法

積分法

式と証明・高次方程式

図形と方程式

いろいろな関数

微分・積分の考え

場合の数と確率

☆整数の性質

図形の性質

平面上の曲線と複素数平面

極限

微分法

積分法

数列

ベクトル

確率分布と統計的推測

いろいろな式

図形と方程式

指数関数・対数関数

三角関数

微分・積分の考え

数学と人間の活動

社会生活における数理的な考察

数と式

二次関数

図形と計量

データの分析

数列

ベクトル

統計とコンピュータ

数値計算とコンピュータ

行列とその応用

式と曲線

確率分布

統計処理

数と式/一次不等式/二次方程式

二次関数とそのグラフ/二次関数の値の変化

三角比/三角比と図形

順列・組合せ/確率とその基本的な法則/ 独立な試行と確率

集合と要素の個数/命題と証明

三角形の性質/円の性質

数と人間/図形と人間

社会生活と数学/身近な事象の数理的な考察

資料の整理/資料の傾向の把握

数列の極限/関数とその極限

導関数/導関数の応用

不定積分と定積分/積分の応用

式と証明/高次方程式

点と直線/円

三角関数/指数関数と対数関数

微分の考え/積分の考え

場合の数/確率

約数と倍数/ユークリッドの互除法/整数の性質 の応用 (☆剰余類、☆不定方程式、n進法)

平面図形/☆空間図形 (☆作図、☆多面体、 ☆空間における直線や平面の位置関係、なす角)

平面上の曲線/☆複素数平面

数列とその極限/関数とその極限

導関数/導関数の応用

不定積分と定積分/積分の応用  (☆曲線の長さ)

数列とその和/漸化式と数学的帰納法

平面上のベクトル/空間座標とベクトル

確率分布/正規分布/統計的な推測

式と証明/高次方程式

直線と円/軌跡と領域

指数関数/対数関数

角の拡張/三角関数/三角関数の加法定理

微分の考え/積分の考え

数や図形と人間の活動/☆遊びの中の数学

社会生活と数学/数学的な表現の工夫/ データの分析 

数と集合/式

二次関数とそのグラフ/二次関数の値の変化

三角比/図形の計量

データの散らばり/データの相関

数列とその和/漸化式と数学的帰納法

平面上のベクトル/空間座標とベクトル

資料の整理/資料の分析

簡単なプログラム/いろいろなアルゴリズム

行列/行列の応用

二次曲線/媒介変数表示と極座標

確率の計算/確率分布

正規分布/統計的な推測

現行課程(平成15年度実施) 新課程(平成24年度先行実施)

1 (中1)数の集合と四則計算の可能性/大小関係を不等式を用いて表す

2 (中3)有理数と無理数(用語)/二次方程式の解の公式

3(中3)いろいろな事象と関数

4 (中1)球の表面積と体積

5 (中3)相似な図形の面積比と体積比

6(中3)円周角の 定理の逆

集合の要素の個数

条件付き確率

ユークリッドの互除法

n進法

行列

3次式の展開、 因数分解

二項定理

期待値

7 (中1)資料の散ら ばりと代表値

8 (中3)標本調査

9(中1)資料の 散らばりと 代表値

10(中3)標本調査

1 各単元の名称・内容は、学習指導要領の単元名・小単元名を用いた。2 科目の配置順および科目内の単元の配置順は学習指導要領には依っていない。3 二重線は、その単元の大部分が改訂後の課程の内容として移行されることを表す。4 二重線から分岐している内容は、改訂後の課程の複数の単元にまたがって移行されることを表す。5 破線は、その単元の一部分が改訂後の課程のある単元に移行されることを表す。この場合、移行される内容を破線の上または下または線上に示している。6 過去の課程から新課程に移行する際、新たに学習することになった内容、および扱えることになった内容は、移行後の課程の該当項目に☆を付して示してある。7 太い一点鎖線で囲まれた1,2,…は、中学校へ移行される主な内容を示す。

[凡例]

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に非可換な代数構造を理解していることが重要であり、そ

れを大学入学後に学ぶのは、かなり苦労することになると

危惧される。

『数学A』

選択分野をどれにするかが悩ましい

「場合の数と確率」「整数の性質」「図形の性質」から2

つを選択して学習する。ただし、大学進学者が多くを占め

る高校でどの分野を選択すべきか悩ましい面がある。この

問題については「高校での指導への影響」の項で触れる。

「場合の数と確率」では、『数学C』「条件付き確率」が

追加されている。大学入試では「原因の確率」のような難

しい問題が出題される可能性があるので、余裕のある生徒

には学習させておきたい。

「整数の性質」は、1977年(昭和52年)学習指導要領に

おいて中学1年で扱っていた「約数・倍数」、現行課程

『数学B』「ユークリッドの互除法」、および不定方程式、

位取り記数法(一部は旧課程の中学2年で学んでいた分野)

なども入り、豊富な内容で構成されている。

「図形の性質」は、現行課程「平面図形」の中から、「円

周角の定理の逆」のみを中学3年に移行。作図(旧課程の

『数学A』)や空間図形なども扱うことになっている。

『数学B』

選択分野は「数列」と「ベクトル」か?

『数学C』で学んでいた確率分布が加わり、「確率分布

と統計的な推測」「数列」「ベクトル」で構成される。

現行課程と同様に、いくつかの分野を選択して学習する

が、おそらく大学進学者が多くを占める高校のほとんどで

「数列」「ベクトル」を選択すると予想される。『数学Ⅲ』

をスムーズに学習するためには、この2分野を学んでおく

ことが必要だからだ。

一方で、少数ではあるが、現行課程で『数学C』「確率

分布」を出題範囲にしていた大学もあったが、その場合で

も「確率の計算」のみに限定する場合が目立った。新課程

では「確率の計算」は『数学A』に移行されており、『数

学B』「確率分布と統計的な推測」を出題範囲に指定する

大学は多くないだろう。

高校での指導への影響

『数学A』は全分野を学ぶのが現実的な対応!?

高校での指導で最も悩ましいのが、『数学A』の扱いだ。

「場合の数と確率」「整数の性質」「図形の性質」から選択

して学習することになっており、単位数(2単位)を考え

ると、2分野を選択するのが標準的だろう。

だが、どの分野を選べばいいのかが難しい。「場合の数

と確率」は必ず指導することになると予想されるが、もう

1分野をどうするか。おそらく多くの高校で、『数学A』

は1年次に配当することになると予想されるが、大学の新

課程への対応を待ってからカリキュラムを組んでいたので

は、指導の開始に間に合わない。また、「図形の性質」を

選択しなかった場合、旧課程で扱っていた内接四角形の定

理や2円の位置関係などが一部欠落する。これらは平面幾

何の基礎とも言える部分である。

そのため、現実的な対応としては、以下の2つが想定さ

れる。

① 「場合の数と確率」「整数の性質」「図形の性質」をす

べて教える。

ただし、それでは生徒の負担が重くなるので、これま

での入試問題を分析して、重要な内容のみをピックア

ップして取り上げる。

② 入試で出題されやすいと考えられる「場合の数と確率」

「整数の性質」を選択する。

その上で、「図形の性質」に関しては、必要なものを

必要な時期に、補習などの別扱いで取り上げる。その

場合は、いわゆる「現地調達方式」(*)の弊害を招く

ことがないよう、注意が必要である。

ある程度の前倒し学習を進めつつも抽象的思考が求められる分野は配慮が必要

『数学Ⅲ』に5単位が配当されたことによって、この科

目を3年次だけで学ぶのは難しくなる。後半に問題演習の

時間を十分に確保するためには、ある程度、前倒しで学習

する必要があるだろう。

しかし、1~2年次で学ぶ『数学Ⅰ』『数学Ⅱ』『数学A』

『数学B』も少しずつ履修内容が増加しているので、極端

な前倒しは、生徒が消化不良になる危険性もある。特に、

抽象的思考が求められる分野を極端に前倒しすると、発達

段階に合わない場合も生じると思われ、配慮が必要になる。

Guideline November 2009 7

高等学校 新学習指導要領のポイント特集

*指導時に未習事項があれば必要に応じてその場で導入・指導すること。

Page 7: 【特集】 高等学校 新学習指導要領の ポイント...2 Guideline November 2009高等学校 新学習指導要領の ポイント 2008年3月に小学校・中学校の新しい学習指導

同様の意味で、各科目の中で、教える順序を柔軟に入れ

換えることも考えてよいのではないか。例えば、『数学Ⅰ』

の教科書では、前半部分に「集合と論理」が掲載される可

能性が高い。しかし、その中で「必要条件・十分条件」な

ど、条件の強さに関する内容は抽象度が高く、高校入学直

後の生徒にはわかりづらい。この部分は抽象的思考に慣れ

る1年次秋以降に扱う方がいいと考えられる。ただし、背

理法などの証明方法は、例えば√2が無理数であることの

証明などに利用できるので、論理的考察の道具として、早

い段階で指導する方がいいかもしれない。

いずれにしても、各高校において、生徒の実情に合わせ

て科目内で指導順序を変える工夫が求められるだろう。

大学入試への影響

センター試験『数学Ⅰ・数学A』では「三角比」と「平面図形」の融合問題が出題できないなどの影響あり

センター試験の科目構成、試験時間が現行と同じである

と仮定して、『数学Ⅰ・数学A』と『数学Ⅱ・数学B』に

ついて出題内容への影響を考えてみよう。

『数学Ⅰ・数学A』は、『数学A』が分野選択になったこ

とによって、旧課程のセンター試験のように選択問題が出

題されると予想される。

また、「平面図形」が選択分野になったため、現行課程

のような「三角比」と「平面図形」の融合問題は出題でき

なくなるだろう。「場合の数と確率」では、「期待値」が

「数学Ⅱ」に移行されたため、出題されなくなる。

新しい内容である「データの分析」は、過去に出題例が

ないため、試行問題が提供されるのかどうかも注目される。

ただし、出題はされるだろうが、それほど配点は高くなら

ないと予想される。『数学Ⅰ』が60点、『数学A』が40点

と仮定して、『数学Ⅰ』の4分野を均等配点にすると、各

分野15点ということになるが、「二次関数」や「三角比」

で15点の問題となると、内容が薄くならざるを得ない。

「データの分析」の配点を低くして調整する、あるいは出

題されないことが予想される。

『数学Ⅱ・数学B』については、分野数の減少に伴って、

選択問題が4題から3題に減るほかは、ほぼ現行通りの出

題になる可能性が高いだろう。

国公立大二次試験・私立大入試出題範囲の指定の際に、大学の配慮が望まれる

今回の改訂で、理系大学・学部の出題範囲に関しては、

行列が削除され、複素数平面が加わったが、それ以外の変

更点に関しては、大学入試への影響はほとんどないと考え

られる。

『数学Ⅰ』に新設された「データの分析」は、国公立大

の教員養成系学部では出題されるだろうが、他分野との融

合問題が作りにくいこともあって、それ以外では出題され

る可能性は極めて少ない。

また、『数学A』が「場合の数と確率」「整数の性質」

「図形の性質」の中から適宜選択となったが、いずれも大

学入試では重要な分野であり、各大学が出題範囲としてど

の分野を指定してくるか、注意を要する。というのも、こ

れまでの学習指導要領では、「整数」を扱う単元がなかっ

たが、入試では数多く出題されていた。不定方程式の整数

解や剰余類の性質は、高校数学で扱われるべき内容という

「暗黙の了解」があったからだ。けれども、新課程では

「整数の性質」という単元が選択分野として明示された。

そのため、「整数の性質」を出題範囲に指定しなかった場

合には、これまでのような「暗黙の了解」は認められなく

なる。『数学A』で扱う「図形の性質」を使う図形問題を

出題する場合も同様だ。

大学側には生徒に混乱を生じさせないように、この点を

十分に認識して範囲指定を行い、きちんと情報発信する姿

勢が望まれる。高校も、その点を大学側に求めていくこと

が必要になるだろう。

*    *    *

なお、河合塾のホームページにおいて、さらに詳しい分

析を公開している。サンプル問題も付しているので、ぜひ

ご参照いただきたい。

高等学校学習指導要領分析ページhttp://www.kawai-juku.ac.jp/kawaijuku/analysis/

8 Guideline November 2009

Page 8: 【特集】 高等学校 新学習指導要領の ポイント...2 Guideline November 2009高等学校 新学習指導要領の ポイント 2008年3月に小学校・中学校の新しい学習指導

理科の新学習指導要領では、科学的な概念の理解など基

礎的・基本的な知識・技能の確実な定着を図る観点から、

物理領域では「エネルギー」、化学領域では「粒子」、生物

領域では「生命」、地学領域では「地球」などの科学の基

本的な見方や概念を柱として、小・中・高等学校を通じた

内容の構造化を図る方向で改善されている。

今回の改訂では「理数教育」の充実が改訂の柱の1つと

なっており、【図表】のように、指導内容と日常生活や社

会との関連を重視した『科学と人間生活』および知識・技

能を活用する学習や探究する学習を重視した『理科課題研

究』が新設された。

なお、必履修は、「理科のうち『科学と人間生活』、『物

理基礎』、『化学基礎』、『生物基礎』及び『地学基礎』のう

ちから2科目(うち1科目は『科学と人間生活』とする。)

又は『物理基礎』、『化学基礎』、『生物基礎』及び『地学基

礎』のうちから3科目」となっている。

物理・化学・生物・地学の4領域の標準単位数の合計

は、旧課程、現行課程、新課程とも6単位と変更はない。

しかし、現行課程の『物理Ⅰ』『化学Ⅰ』『生物Ⅰ』『地

学Ⅰ』はそれぞれ『物理基礎』『化学基礎』『生物基礎』

『地学基礎』となり、標準単位数が3単位から2単位へと

1単位減少している。一方、現行課程の『物理Ⅱ』『化学

Ⅱ』『生物Ⅱ』『地学Ⅱ』はそれぞれ『物理』『化学』『生物』

『地学』となり、現行課程の選択分野については必修化さ

れ、標準単位数が3単位から4単位に1単位増加している。

また今回の改訂では、旧課程から現行課程への改訂で中

学校から高校へ移行した項目の多くを中学校へ戻し、義務

教育段階の学習を確実に定着させて接続を図る形となって

いる。

大学入試センター試験(以下、センター試験)では、

『基礎を付した科目』からの出題が予想されるが、単位数

が現行の3単位から2単位になったこと、中学校への学習

項目の移行などを踏まえると、センター試験で扱われる内

容は減少したり、変化したりすることが予想される。

*    *    *

河合塾のホームページでは、地学も含めて、さらに詳し

い分析を公開している。詳細な分析とともに大学入試問題

のサンプル問題も付しているのでぜひご参照頂きたい。

以下、物理、化学、生物の順に、改訂のポイント、高校

での指導への影響、大学入試への影響などについて、見て

みよう。

高等学校学習指導要領分析ページhttp://www.kawai-juku.ac.jp/kawaijuku/analysis/

Guideline November 2009 9

高等学校 新学習指導要領のポイント特集

理科

【図表】理科の学習指導要領変更に伴う科目構成の変遷

現行課程 1999年(平成11)告示 →2003年(平成15)実施

科目 必履修科目 必履修科目

理科基礎 理科総合A 理科総合B 物理Ⅰ 物理Ⅱ 化学Ⅰ 化学Ⅱ 生物Ⅰ 生物Ⅱ 地学Ⅰ 地学Ⅱ

総合理科 物理ⅠA 物理ⅠB 物理Ⅱ 化学ⅠA 化学ⅠB 化学Ⅱ 生物ⅠA 生物ⅠB 生物Ⅱ 地学ⅠA 地学ⅠB 地学Ⅱ

理科Ⅰ 理科Ⅱ 物理 化学 生物 地学

2 2 2 3 3 3 3 3 3 3 3

2科目 (理科基礎・理科総合A または  理科総合Bを少なくとも1科目含む)

旧課程 1989年(平成元)告示 →1994年(平成6)実施

旧・旧課程 1978年(昭和53)告示 →1982年(昭和57)実施

科目 科目 標準 単位数 必履修科目 必履修科目

4 2 4 2 2 4 2 2 4 2 2 4 2

4 2 4 4 4 4

○ 総合理科・ 物理・化学・ 生物・地学の 5区分から 2区分にわたり 2科目必修

標準 単位数

標準 単位数

標準 単位数

新課程 2009年(平成21)告示 →2012年(平成24)   数学・理科先行実施

科目

科学と人間生活 物理基礎 物理 化学基礎 化学 生物基礎 生物 地学基礎 地学 理科課題研究

2 2 4 2 4 2 4 2 4 1

科学と人間生活を含む2科目  または基礎を付した科目を3科目

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『物理基礎』

力学からスタートし、教えやすい学習順序に

『物理基礎』【図表2】は、「第1編 物体の運動とエネ

ルギー」と「第2編 様々な物理現象とエネルギーの利用」

からなる。第1編は『物理Ⅰ』の力学の分野から「剛体の

つり合い」が抜けた程度の変更にとどまった。

第2編は、「物理現象とエネルギー」を中心に据えて、

その観点から力学以外の物理学のさまざまな分野、すなわ

ち「熱」「波動」「電気」「原子」を概観する構成になって

いる。内容は、「波動」に関しては、『物理Ⅰ』の中から応

用的なほぼ半分の項目が『物理』に移行した。従って、

『物理基礎』は『物理Ⅰ』と比べて、数式によって定量的

に扱う項目が大幅に減少することになる。

さらに第2編で注目されるのは、「熱」「電気」「原子」

に呼応して「熱の利用」「電気の利用」「エネルギーとその

利用」という項目があり、物理現象が社会の中でどのよう

に応用されているかを概観する内容が含まれている点であ

る。現行課程における『物理Ⅰ』の「生活と電気」で、電気

の活用として具体的に取り上げられた例やその記述の深さ

が、教科書によってまちまちであったことを考えると、こ

の部分でも教科書による記載内容のばらつきが懸念される。

『物理』

『物理Ⅰ』からの移行項目や「波の式」「位相変化」が加わり、学習内容が増加

『物理』【図表3】は、標準単位数が3から4単位となり、

10 Guideline November 2009

変更点の概略

現行課程の『物理Ⅰ』(3単位)と『物理Ⅱ』(3単位)

は、新課程では『物理基礎』(2単位)と『物理』(4単位)

の構成へと変わる。それに伴い、『物理Ⅰ』の内容のかな

りの部分が『物理』へ移行する。

教科書に記載される内容は、『物理基礎』と『物理』を

合わせた総枠で見れば、現行課程からの削除や追加はほと

んどない。しかし、『物理Ⅱ』で導入された「物質と原子」

と「原子と原子核」を選択分野とする構成は廃止され、新

課程では両分野がともに必修となったことは大きな変更点

である。

また、教科書の学習順序は『物理基礎』『物理』ともに、

旧課程のときのように「力学」「熱」「波動」「電磁気」「原

子」の順になった【図表1】。現行課程が始まったときに

は、『物理Ⅰ』の冒頭に「生活と電気」があり、それに

「波動」が続いたため、「力学を基礎として積み上げられた

物理学の体系を教えにくい」と不評であった。2007年度の

教科書改訂の際には力学から始まる教科書が複数現れた

が、その声が反映されたものである。

今回の課程変更は学習順序の変更を始め、おおむね歓迎

すべきものであるが、課題もある。それは、旧・旧課程

(1978年告示、1982年実施)のような『物理』という1冊

の教科書ではなく、やはり『物理基礎』と『物理』に分け

られている点である。新

学習指導要領の順に学ぶ

場合、『物理基礎』で各分

野の一部を学び、『物理』

で残りを学ぶことになる

ため、学習内容が分断さ

れる分野が現行課程に比

べて増えてしまう。その

ため、『物理基礎』を終え

『物理』に入ったときの生

徒の定着度合いが懸念さ

れる。

物理

電気

電気

電気

磁気

磁気

原子

原子

熱 原子 固体

物理Ⅰ

物理Ⅱ 物

物理基礎

※1

波 ※2

波 ※2 力学

力学

※3

力学 ※3

力学

電気 ※4

※5

※6

現行課程 新課程 現行課程 新課程

※1 電流と磁界…削除 ※2 波の反射(2次元)・屈折・干渉・ドップラー効果…移動 ※3 剛体のつり合い…移動 ※4 ボイルの法則・シャルルの法則、熱力学第1法則…削除 ※5 ※6削除

【図表1】『物理基礎』『物理』の編成順序

※1~6の詳細については河合塾ホームページに掲載している「物理」分析記事の資料①②をご覧ください。

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学習内容が増加した。『物理Ⅱ』の選択分野が廃止され共

に必修となったこと、『物理Ⅰ』からの移行項目や「発展」

から本文中への記載変更などがその要因である。

『物理Ⅰ』からの移行項目は、力学では「剛体のつり合

い・重心」、熱では「ボイルの法則・シャルルの法則」「熱

力学第一法則と気体の状態変化」、波動では「2次元の反

射と屈折」「干渉と回折」「ドップラー効果」「光波」など

である。

旧課程から現行課程に移

行する際に削除された項目

や「発展」扱いとなった項

目が本文中の記載として復

活するものとしては、「波

の式」「光の反射における

位相変化」「交流合成回路

におけるインピーダンス」

などがある。

中学校および数学との関係

中学校の改訂の影響は小さい

今回の改訂では、中学校

理科との間での移行項目は

ほとんどない。中学校の改

訂では授業時間数が大幅に

増えるが、その増加の大部

分は化学や生物の分野に充

てられ、物理分野への影響

は小さい。「力とバネの伸

び」「重さと質量の関係」

「水圧」などのいくつかの

項目が中学の教科書に追加

されるが、それらは「発展」

扱いとして現行の教科書に

記載されているものがほと

んどである。

数学では、「二次方程式

の解の公式」「球の表面積

と体積」が高校から中学校

へ戻った。高校で物理を履修する際には履修済みではある

ものの、初めて使用する際は確認することが望ましい。

「ベクトル・三角比・三角関数」は、生徒の履修時期が現

在から変わる可能性がある。数学の教科書の記載順序や生

徒の履修時期に注意しながら、物理の授業を進める必要が

あるだろう。

Guideline November 2009 11

高等学校 新学習指導要領のポイント

項   目 備  考 学 習 指 導 要 領 に よ る 規 定

(1)物体の運動とエネルギー

(2)様々な物理現象とエネルギーの利用

ア (ア) (イ) (ウ) イ   (ア) (イ) (ウ)

(エ)

ウ  (ア) (イ) エ  ア   (ア) (イ) イ   (ア) (イ) ウ (ア) (イ) エ   (ア) オ  (ア) カ

運動の表し方

物理量の測定と扱い方

運動の表し方 直線運動の加速度

様々な力とその働き 様々な力

力のつり合い 運動の法則

物体の落下運動

力学的エネルギー 運動エネルギーと位置 エネルギー

力学的エネルギーの保存

探究活動

熱  

熱と温度

熱の利用

波 波の性質 音と振動

電気

物質と電気抵抗

電気の利用

エネルギーとその利用

エネルギーとその利用

物理学が拓く世界 物理が拓く世界

探究活動

新規 物質の三態は 物理Ⅱより移行 電磁誘導は物理Ⅱ において扱う

新規 新規

物理量の測定と表し方、誤差と精度、有効数字 「物理基礎」の学習全体に通じる手法 直線運動を中心に変位や速度の表し方 合成速度 ・ 相対速度 加速度を理解 摩擦力、 弾性力、 浮力(関連して圧力)を扱う 垂直抗力、 糸の張力も可 静電気力などの遠隔力についても定性的に 平面内で働く力のつり合い 力の合成 ・ 分解をベクトルで扱う 運動の三法則を、直線運動を中心に扱う 自由落下、 鉛直投射を扱う 水平投射、 斜方投射、 空気抵抗は定性的に 仕事と関連付けて重力の位置エネルギー、 弾性エネルギーを扱う 仕事と関連付けて力学的エネルギー保存則を扱う 力学的エネルギー保存則が成り立つ場合を中心に 熱 ・ 温度を分子運動の観点から定性的に 内部エネルギー、 物質の三態にも触れる 熱の移動 ・ 熱と仕事の変換、 熱現象の不可逆性 熱量保存、 熱容量、 比熱容量(比熱)、 潜熱、 熱膨張 直線状に伝わる波の波長 ・ 振動数 ・ 速さ 重ね合わせ、 定在波(定常波)は作図中心に 横波と縦波の違い 気柱の共鳴、 弦の共振、 反射 ・ うなりも扱う 抵抗率が物質固有の値であること 電流は自由電子の流れ、 半導体 ・ 絶縁体の存在 交流の発生 ・ 直流への変換、 送電の仕組み 電磁波の利用 水力・化石燃料 ・ 原子力 ・ 太陽光などの電気エネルギーへの変換とその特性 α線、 β線、 γ線、 中性子線の特性と利用、 線量の単位、 原子力 ・ 放射線の安全性 社会で利用されている科学技術の具体的事例

【図表2】『物理基礎』新課程項目詳細

特集

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12 Guideline November 2009

【図表3】『物理』新課程項目詳細項   目 備  考 学 習 指 導 要 領 に よ る 規 定

(1)様々な運動

(2)波

(3)電気と磁気

(4)原子

ア 平面内の運動と剛体のつり合い (ア) 曲線運動の速度と加速度 (イ) 斜方投射 (ウ) 剛体のつり合い イ 運動量 (ア) 運動量と力積 (イ) 運動量の保存 (ウ) はね返り係数 ウ 円運動と単振動 (ア) 円運動 (イ) 単振動 エ 万有引力 (ア) 惑星の運動 (イ) 万有引力 オ 気体分子の運動

(ア) 気体分子の運動と圧力 (イ) 気体の内部エネルギー (ウ) 気体の状態変化 カ 探究活動 ア 波の伝わり方 (ア) 波の伝わり方とその表し方 (イ) 波の干渉と回折 イ 音 (ア) 音の干渉と回折

(イ) 音のドップラー効果 ウ  光

(ア) 光の伝わり方

(イ) 光の回折と干渉 エ 探究活動 ア 電気と電流

(ア) 電荷と電界

(イ) 電界と電位

(ウ) コンデンサー

(エ) 電気回路 イ 電流と磁界 

(ア) 電流による磁界

(イ) 電流が磁界から受ける力

(ウ) 電磁誘導

(エ) 電磁波の性質とその利用

ウ 探究活動 ア 電子と光 (ア) 電子 (イ) 粒子性と波動性 イ 原子と原子核 (ア) 原子とスペクトル

(イ) 原子核

(ウ) 素粒子 ウ 物理学が築く未来 (ア) 物理学が築く未来 エ 探究活動

物理Ⅰより移行 ボイルの法則 ・ シャルルの 法則は物理Ⅰより移行 物理Ⅰより移行 物理Ⅰより移行 物理Ⅰより移行

物理Ⅰより移行

物理Ⅰより移行

物理Ⅰより移行 物理Ⅰより移行

変位 ・ 速度 ・ 加速度のベクトル表現、 合成速度 ・ 相対速度 水平投射 ・ 斜方投射、 空気抵抗のある場合の落下にも触れる モーメントのつり合い、 重心にも触れる 運動量の変化が力積に等しい 衝突や分裂における運動量の保存 衝突の際の力学的エネルギーの減少も扱う 遠心力にも触れる ばね振り子 ・ 単振り子を扱う ケプラーの法則を扱う 万有引力の位置エネルギーも扱う ボイル ・ シャルルの法則、 状態方程式、 分子の速さ ・ 運動エネルギーを扱う 分子運動と関連付けて理想気体を扱う  熱力学第一法則を扱う、 熱効率、 熱力学第二法則にも触れる ホイヘンスの原理、 水面波の反射 ・ 屈折、 波の式 水面波を扱うこと 音の干渉(クインケ管など) ・ 回折 ・ 屈折 音源 ・ 観測者が一直線上を運動する場合 音源が音速を超える場合に触れることも可 光速 ・ 波長、 反射 ・ 屈折 ・ 分散 ・ 偏光など 鏡 ・ レンズの性質は基本的な扱い、 光のスペクトル ヤングの実験、 回折格子、 薄膜の干渉 光路長、 反射による位相変化 くさび形空気層やニュートンリングも可 クーロン力、 電気量保存、 電気力線、 静電誘導 摩擦電気、 箔検電器なども可 電界と電位の関係、 電荷の移動と仕事にも触れる 平行板コンデンサーの電気容量、 充電と放電 合成容量、 誘電体の挿入も可 キルヒホッフの法則、 抵抗率の温度変化、 電池の起電力と内部抵抗、 ホイートストンブリッジ、 電球の電流特性などを扱う 半導体のpn接合にも触れる 直線電流 ・ 円形電流 ・ ソレノイドがつくる磁界 磁性体、 地磁気も可 電流が磁界から受ける力、 ローレンツ力、 荷電粒子の運動 電磁誘導、 自己誘導 ・ 相互誘導、 交流発電機など。 うず電流も可 交流、 リアクタンス、 直列回路のインピーダンス 電磁波の基本的性質、 電気振動、 電磁波の発生など ヘルツの実験、 物体の熱放射も可 真空放電や陰極線、 電子の比電荷、 電気素量の測定 光電効果、 物質波と電子線回折、 X線の性質や利用 α粒子の散乱実験、 水素原子の線スペクトルとボーアの原子モデル 原子核の構成、 質量とエネルギーの等価性 原子核の崩壊、 半減期、 核分裂、 核融合、 核反応 クォークとレプトン、 基本的な力 物理学の発展と科学技術の進展に対する興味を喚起

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高校での指導への影響

『物理』をいつから教えるか

理科では、必履修科目は「基礎を付した科目のうちから

3科目」または「科学と人間生活と、基礎を付した科目の

うちから1科目の2科目」となっており、どの科目を選択

するかが課題となる。現行課程の物理では、文系の選択者

が極めて少ないこと、理系の選択者は『物理Ⅰ』に加え

『物理Ⅱ』も履修していることが特徴であり、これらの傾

向は新課程でも同様であろう。しかし「基礎を付した科目

を3科目」履修する場合、文系の選択者が増加する可能性

もある。このように文系の生徒にも『物理基礎』を履修する

機会を与えるようなカリキュラムを用意する場合、クラス

編成やその設置時期にかなりの工夫が要求されそうである。

前述のように、新課程の問題点は、物理の内容が現行課

程以上に分断される点である。『物理基礎』と『物理』の

両方を履修する大部分の理系生にとっては、非効率的とな

るのは否めない。現行課程でも『物理Ⅰ』と『物理Ⅱ』の

内容を再編した独自のカリキュラムで授業を実施している

高校もある。『物理基礎』は2単位となり、現行課程『物

理Ⅰ』から減る1単位以上に二次試験に直結した内容が乏

しくなったことを考えると、新課程ではそういった高校が

さらに増える可能性があるだろう。

一方、『物理』は現行課程『物理Ⅱ』から1単位増え4

単位になったが、『物理Ⅱ』に比べて内容が大幅に増加す

るため、3年次からの履修とした場合、演習によって内容

を咀嚼する時間がとりづらく、大学受験に備えた学習が難

しくなる。2年次3学期から取り組むなど、カリキュラム

や授業の進度に工夫が必要となるだろう。

また、教科書選定にあたっては、『物理基礎』から『物

理』へとスムーズに学習できるような工夫がされているか

などに注目したい。

大学入試への影響

センター試験『物理基礎』からの出題であれば取り組みやすくなる?!

新課程のセンター試験は、『物理基礎』からの出題とな

ると予想されるが、とすれば、それに伴い出題内容も変わ

ってくる。例えば、

「波動」は新課程で

の学習内容が半減し

ているため、出題が

「波の性質」「気柱の

共鳴・弦の共振」に

限定され取り組みや

すくなる。他の分野でも数式で扱う定量的な項目が大幅に

減少している。知識問題や文章選択問題などの定性的な問

題としてはバラエティーが増えそうであるが、逆に言えば、

そういった出題を増やさざるを得ない状況になるというこ

とである。定性的な問題については、教科書間での記載内

容のばらつきが予想されるため、各教科書を比較しながら

の指導が必要となるだろう。

センター試験利用入試を実施している私立大や、出題範

囲が『物理Ⅰ』である大学・学部では、『物理Ⅰ』が『物

理基礎』に置き換えられた場合、学習内容が少なくなった

『物理基礎』による入試の妥当性が問われることになるだ

ろう。

国公立大二次試験・私立大入試「波」の分野では問題が難化

『物理Ⅱ』では、大部分の大学が「第3編 物質と原子」

の「第1章 原子、分子の運動」までを出題範囲としてお

り、高校では「物質と原子」を選択せざるを得ない状況に

なっている。新課程では両分野必修となるが、「原子と原

子核」は内容が高度で理解が難しい上に入試の直前に学ぶ

ことになるため、現状のまま出題範囲に入れない大学が出

るかもしれない。新課程施行に向けて今後の各大学の出題

内容に注目をしていきたい。

現行課程の教科書では「発展」項目であるが、新課程と

なって本文中の記載となる項目の中では、「波動」の分野、

特に「波の式」が注目される。新学習指導要領の解説では

「波の式」を入れることが明記されているが、生徒が習得

に苦労する項目の1つである。同様に、「光の反射による

位相変化」とそれが関与する光の干渉問題が本文中の記載

となるため、出題のバラエティーが増加する。それに伴い、

難度の高い発展問題・応用問題が作りやすくなる。現在、

国公立大の二次試験では、力学、電磁気が1題ずつ出題さ

れ、3題目として波動か熱(気体)が出題されるパターン

が多い。新課程では波動からの出題比率がいくぶん高まる

ことが予想される。

Guideline November 2009 13

高等学校 新学習指導要領のポイント特集

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ことになった影響が大きい。中学校では今年度から移行措

置に入っているが、その補助教材を見ると、現行課程の

『化学Ⅰ』でのイオンの導入部分が中学校に移行された形

になっている。具体的には、水溶液の電気伝導性からイオ

ン、電解質・非電解質の概念が導入され、原子の構造とイ

オン、イオン式、電池とイオンの関係などを学ぶ。また、

周期表も原子・分子の項で復活している。化学の入り口で

ある原子とイオン、周期表などを中学校で履修することに

よって、高校での導入教育はスムーズになると考えられる。

なお、移行措置に伴い来年度の高1生は中学校で「イオン」

を履修済みである。

『化学基礎』

化学結合を重視、全体としては軽減化

『化学基礎』は「化学と人間生活」「物質の構成」「物質

の変化」の3分野で構成されている。「物質の構成」では、

化学結合に関する内容が『化学Ⅱ』から大幅に移行されて

おり、中学校理科の「粒子」の内容をさらに進化させる構

成になっている。

なお、『化学Ⅰ』の履修項目の中で、「物質の変化」の中

の熱化学、電池・電気分解、「無機物質」、「有機化合物」

が削除され、『化学』に移行した。全体として、化学結合

を重視して化学の基礎的な考え方、知識を学ぶ構成になっ

ている。分量も大幅に軽減化されている。

『化学』

『化学Ⅱ』よりボリューム増大、選択履修はなくなる

「物質の状態と平衡」「物質の変化と平衡」「無機物質の

性質と利用」「有機化合物の性質と利用」「高分子化合物の

性質と利用」の5分野で構成される。『化学Ⅰ』から、熱

化学、電池・電気分解などが移行されたことにより、「平

衡」「化学変化とエネルギー」の観点からの項目の体系化

が図られている。

『化学』では、『化学Ⅱ』の「生活と物質」「生命と物質」

の選択履修が廃止され、必修化された。具体的には、合成

高分子や糖類、アミノ酸・タンパク質、核酸などが必修項

目になり、「生命と物質」の生命を維持する反応に関する

項目は削除され、一部『化学Ⅱ』より負担が減少した。

14 Guideline November 2009

変更点の概略

現行課程の『化学Ⅰ』(3単位)、『化学Ⅱ』(3単位)か

ら、新課程では『化学基礎』(2単位)と『化学』(4単位)

へと移行する。

また、今回の改訂では中学校と高校の連携が意識されて

おり、中学校での改訂にも注目しておく必要がある。中学

校の理科の時間が大幅に増加し、旧課程で削除された「イ

オン」などの項目が復活している。今までの生徒は、「電

荷を持った粒子」の存在を知らないまま高校に進学してき

ており、高校での化学の導入部の指導において大きな難点

になっていたが、それも解消されるだろう。中・高の化学

の学習内容がつながったと言える。

『化学基礎』と『化学』を合わせた学習内容は現行課程

と大きな変化はないが、『化学基礎』では化学結合を中心

に、『化学』の理論分野は平衡の考え方を中心にまとめら

れ、体系化された内容となっている。『化学基礎』では、

化学結合について『化学Ⅱ』から大部分を移行して扱うこ

ととなるが、単位数の減少に伴い、『化学Ⅰ』から理論分

野の一部、無機物質、有機化合物が削除され、『化学』に

移行した。

『化学』では、『化学Ⅱ』にあった「生活と物質」「生命

と物質」の選択分野が必修化される影響も大きい。現行課

程の大学入試では、選択問題として対応している大学は少

なく、また各教科書での選択分野の扱いにばらつきもあっ

た。両分野とも必修分野として一本化されることは、化学

全体としてはよかったと言えるだろう。

中学校理科 化学領域の変化

『化学Ⅰ』のイオンの導入部分が中学校へ移行

中学校の理科の授業時間数は、現行の290時間(1単位

時間は50分)から385時間と1.3倍に増加し、扱う内容も大

幅に増えている。今回の改訂で「イオン」を中学校で扱う

化学

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Guideline November 2009 15

高等学校 新学習指導要領のポイント

化学ⅠB (4単位) (1) 物質の構造と状態  ア 物質の構成  イ 原子の構成  ウ 化学結合  エ 純物質と混合物  オ 物質の構造と状態に関する探究活動 (2) 物質の性質  ア 無機物質  イ 有機化合物  ウ 物質の性質に関する探究活動 (3) 物質の変化  ア 酸と塩基の反応  イ 酸化還元反応  ウ 化学反応と熱  エ 物質の変化に関する探究活動

化学Ⅱ (2単位) (1) 反応の速さと平衡  ア 反応の速さ  イ 化学平衡 (2) 高分子化合物  ア 天然高分子化合物  イ 合成高分子化合物 (3) 課題研究  ア 特定の化学的事象に関する探究活動  イ 化学の歴史的実験例の研究

注)探究活動については省略 下線を引いたものは削除された項目 2分野以上に分かれた項目は点線で表記

化学Ⅱ(3単位) (1) 物質の構造と化学平衡  ア 物質の構造   (ア) 化学結合   (イ) 気体の法則   (ウ) 液体と固体  イ 化学平衡   (ア) 反応速度   (イ) 化学平衡 (2) 生活と物質  ア 食品と衣料の化学   (ア) 食品   (イ) 衣料  イ 材料の化学   (ア) プラスチック   (イ) 金属、セラミックス (3) 生命と物質  ア 生命の化学   (ア) 生命体を構成する物質   (イ) 生命を維持する化学反応  イ 薬品の化学   (ア) 医薬品   (イ) 肥料 (4) 課題研究  ア 特定の化学的事象に関する研究  イ 化学を発展させた実験に関する研究

化学(4単位) (1) 物質の状態と平衡  ア 物質の状態とその変化   (ア) 状態変化   (イ) 気体の性質   (ウ) 固体の構造  イ 溶液と平衡   (ア) 溶解平衡   (イ) 溶液とその性質  ウ 物質の状態と平衡に関する探究活動 (2) 物質の変化と平衡  ア 化学反応とエネルギー   (ア) 化学反応と熱・光   (イ) 電気分解   (ウ) 電池  イ 化学反応と化学平衡   (ア) 反応速度   (イ) 化学平衡とその移動   (ウ) 電離平衡  ウ 物質の変化と平衡に関する探究活動 (3) 無機物質の性質と利用  ア 無機物質   (ア) 典型元素   (イ) 遷移元素  イ 無機物質と人間生活   (ア) 無機物質と人間生活  ウ 無機物質の性質と利用に関する探究活動 (4) 有機化合物の性質と利用  ア 有機化合物   (ア) 炭化水素   (イ) 官能基をもつ化合物   (ウ) 芳香族化合物  イ 有機化合物と人間生活   (ア) 有機化合物と人間生活  ウ 有機化合物の性質と利用に関する探究活動 (5) 高分子化合物の性質と利用  ア 高分子化合物   (ア) 合成高分子化合物   (イ) 天然高分子化合物  イ 高分子化合物と人間生活   (ア) 高分子化合物と人間生活  ウ 高分子化合物の性質と利用に関する探究活動

【旧課程】 化学Ⅰ(3単位) (1) 物質の構成  ア 物質と人間生活   (ア) 化学とその役割   (イ) 物質の探究  イ 物質の構成粒子   (ア) 原子、分子、イオン   (イ) 物質量  ウ 物質の構成に関する探究活動 (2) 物質の種類と性質  ア 無機物質   (ア) 単体   (イ) 化合物  イ 有機化合物   (ア) 炭化水素   (イ) 官能基を含む化合物  ウ 物質の種類と性質に関する探究活動 (3) 物質の変化  ア 化学反応   (ア) 反応熱   (イ) 酸・塩基、中和   (ウ) 酸化と還元  イ 物質の変化に関する探究活動

【現行課程】 化学基礎(2単位) (1) 化学と人間生活  ア 化学と人間生活とのかかわり   (ア) 人間生活の中の化学   (イ) 化学とその役割  イ 物質の探究   (ア) 単体・化合物・混合物   (イ) 熱運動と物質の三態  ウ 化学と人間生活に関する探究活動 (2) 物質の構成  ア 物質の構成粒子   (ア) 原子の構造   (イ) 電子配置と周期表  イ 物質と化学結合   (ア) イオンとイオン結合   (イ) 金属と金属結合   (ウ) 分子と共有結合  ウ 物質の構成に関する探究活動 (3) 物質の変化  ア 物質量と化学反応式   (ア) 物質量   (イ) 化学反応式  イ 化学反応   (ア) 酸・塩基と中和   (イ) 酸化と還元  ウ 物質の変化に関する探究活動

【新課程】

【図表】旧課程・現行課程・新課程の移行表(化学ⅠB・化学Ⅱ→化学Ⅰ・化学Ⅱ→化学基礎・化学)

特集

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高校では、選択履修に対応するため2種類の化学の授業

を用意するなど負担が大きかった。また、大学入試では選

択履修に十分に配慮した問題を出題する大学が少なく、選

択分野への対応を明確にしない大学も存在した。さらに、

選択項目は教科書によって扱い方がかなり異なり、入試で

不公平感が生じる場合もあった。新課程では、選択項目が

整理、必修化されたことによって、こうした混乱は解消さ

れると考えられる。

高校での指導への影響

「代表的な物質」をどのように扱うのかが課題に

『化学基礎』では、導入部で中学校理科の「粒子」との

連携も意識され、化学結合を重視した指導しやすい構成に

なっている。しかし、問題点もある。一つは、分子間の結

合に踏み込んでいない点である。従って、分子から構成さ

れる物質の性質を理論的に解説することができず、例えば、

最も身近な物質の一つである水の特性にも言及できない。

また、無機物質、有機化合物は『化学基礎』から削除さ

れたが、代表的な物質については、化学結合とその性質、

用途の観点から扱うとなっている。扱う物質は、意外に多

く、塩化ナトリウム、塩化カルシウム、炭酸カルシウム、

鉄、アルミニウム、銅、水銀、水素、酸素、窒素、塩化水

素、水、アンモニア、二酸化炭素、メタン、エチレン、エ

タノール、酢酸、ベンゼン、黒鉛、ダイヤモンド、ケイ素、

二酸化ケイ素、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタラー

トなどが挙げられている。これらの物質について、融点・

沸点や溶解性の違いなどの比較に止めるのか、反応にまで

踏み込むのかが課題になる。反応にまで踏み込まないと、

身近な生活でどのように活用されているのかわかりにくい

面があり、単なる暗記に終わってしまう可能性がある。特

に、文系生に対しては、時間数が限られていることもあり、

無機物質や有機化合物における代表的な物質をどの程度ま

で教えるのかが、課題となるだろう。

また、『化学』に移行した電池・電気分解の扱いも課題

になる。理論的な内容としては本文では扱わないが、「探

究」「発展」の項目で取り上げられる可能性は高い。これ

をどう教えるのか。センター試験で出題されないのなら、

あまり重視しないという方法もあるかもしれないが、日常

生活において電池が重要な位置を占めていることは明らか

で、難しい問題だ。

これらの項目については、教科書の記載内容にも注目し、

高校内で十分な議論を重ねる必要があるだろう。

『化学』は、指導上、あまり大きな問題点はないが、単

糖類、二糖類、アミノ酸は「有機化合物の性質と利用」、

デンプン、セルロース、タンパク質は「高分子化合物の性

質と利用」で扱うことになっている点に注意したい。物質

の体系的理解という観点からは、項目を分断するこの措置

は、問題が多い措置である。高校の授業では、「糖類」「ア

ミノ酸・タンパク質」をそれぞれまとめて教えるなどの工

夫が要求されるだろう。

さらに、「はどめ規定」(学習指導要領の「内容の取扱い」

の中で、学習範囲の上限を規定したもの)が削除されたこ

とも要注意だ。これに伴って、希薄溶液の性質に関する定

量的な取扱いなどが復活すると予想される。あわせて「発

展」の内容が高度化する可能性が高い。本来、トピックス

であるはずの「発展」を、高校でどこまで教えるべきなの

か、検討する必要があるだろう。

大学入試への影響

センター試験受験生の負担は軽減、知識の羅列になる危険性も

センター試験は『化学基礎』からの出題になると予想さ

れる。『化学Ⅰ』で正答率が低かった電池・電気分解、無

機物質、有機化合物が範囲外になることで、受験生の負担

は軽くなるはずだ。その分、現行のセンター試験の第1問、

物質の構成や化学量計算からの出題が増加することは、ほ

ぼ確実である。

ただし、問題もある。「化学と人間生活」からどのよう

な出題がなされるのかという点や、「物質の構成」で代表

的な無機物質、有機化合物、プラスチックを化学結合の観

点から扱うなどの項目については、現在のセンター試験の

「身の回りの物質」の問題と同じように、知識の羅列にな

る危険性もある点だ。そうなると生徒は暗記型の学習に走

ってしまい、本来の新課程の理念とは逆行してしまう可能

性もあると言えよう。

国公立大二次試験・私立大入試改訂後も大きく変化はしない

『化学基礎』『化学』の全体を見渡すと、『化学Ⅰ』『化学

Ⅱ』と大きな変化はない。合成高分子化合物が必修となっ

16 Guideline November 2009

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生物

たことから、大筋で旧課程(『化学ⅠB』『化学Ⅱ』)に戻

り、それに核酸が加わった内容になった。多くの大学が試

験範囲を『化学基礎』と『化学』とすると見られることか

ら、入試問題の大きな変化はないと予想される。また、選

択分野に伴う混乱は解消される。

気になることは、「はどめ規定」の削除に伴って、「発展」

の内容が高度化するのではないかということだ。すでに、

教科書で「発展」が導入されて以降の2年間で、状態図、

アルケンのオゾン酸化、活性化エネルギーとアレニウスの

式など、「発展」で記載された内容の大学入試での出題が

続出している。難化している大学入試問題に、教科書が対

変更点の概略

現行課程の『生物Ⅰ』(3単位)と『生物Ⅱ』(3単位)か

ら、新課程では『生物基礎』(2単位)と『生物』(4単位)

へと移行する。『生物基礎』で扱われる内容は『生物Ⅰ』

の内容と大きく変化した。構成としては、「細胞」「個体」

「生態」という大きく3つの枠組みからなり、「細胞」の一

部の内容と「生態」は『生物Ⅱ』から移行した。また、

『生物』は『生物Ⅰ』『生物Ⅱ』のうち『生物基礎』で扱わ

れていない内容をすべて含む。このため、生物全体の大枠

に大きな変更はない。ただし、遺伝の一部(分離の法則)、

進化・系統分類の一部は中学校へ移行する。これらの内容

は旧課程から現行課程への改訂時に中学校から高校へ移行

した内容であり、今回の改訂で中学校に戻ることになる。

これにより、中学校で「遺伝」や「生物の変遷と進化」

「花の咲かない植物」「無脊椎動物」を学習することになり、

応して「発展」で扱うようになってきたという側面もある。

新課程で「発展」の内容が高度化すると、それを受けて一

部の大学でさらに入試問題が難化するという負のスパイラ

ルも考えられる。今回の指導要領改訂は「理数教育の充実」

が大きな柱の一つであり、その中で「はどめ規定」の削除

も位置づけられるはずである。本来の「発展」とは、本文

の枠外のトピックとして扱われる内容ではなく、諸外国の

化学教育の実情なども見つつ、高校化学をどのように指導

するかという観点から体系的に考えられるべきである。

さらに、DNAについても扱われるようになるため、高校

での生物の導入がスムーズになり、生徒の理解度も向上す

ることが期待される。

このように生物全体としては大きな変更はないが、新課

程では現行課程のいわゆる「はどめ規定」が削除され、各

分野の内容が現行課程より深く扱われるようになると思わ

れる。さらに、選択分野であった「生物の分類と進化」

「生物の集団」が必修となる。このため、指導内容が増加

し、『生物』では4単位で十分な指導時間が確保できない

可能性がある。

『生物基礎』

遺伝子と代謝の「概要」がどの程度まで扱われるか

『生物基礎』は、第1編「生物と遺伝子」、第2編「生物

の体内環境の維持」、第3編「生物の多様性と生態系」で、

「細胞・分子」「個体・器官」「生態系・群集」の3つの階

層を取り上げる。第1編では、遺伝子と代謝を扱い「概要

を理解する」ことになっているが、『生物Ⅰ』の教科書の

中には、「発展」として呼吸の経路や遺伝情報の発現のし

くみが掲載されているものもあり、概要とはいえある程度

高度な内容が扱われると予想される。また、第3編では、

植物群落の遷移と分布、生態系における物質循環とエネル

ギーの移動を扱うが、生物の多様性の保全をこれらの内容

を通して認識させようとするのは無理があろう。

Guideline November 2009 17

高等学校 新学習指導要領のポイント特集

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『生物』

はどめ規定の削除により、各分野を深く扱うことに

『生物Ⅱ』では選択分野であった「生物の分類と進化」

「生物の集団」が、『生物』では両分野とも必修となった。

また、遺伝などが中学校へ移行したことにより、高校での

授業がしやすくなると予想される。

現行の学習指導要領の「○○を平易に扱う」という「は

どめ規定」が姿を消し、「○○を扱うこと」や「○○に触

れること」のように扱うべき内容が羅列されるようになっ

た。これにより、各分野の内容がより深く扱われるように

なると思われる。なお、現行課程の「生命現象と物質」

「生殖と発生」では、既にPCR法やES細胞など高度な

内容が「発展」として教科書に掲載されている。今後も生

命科学の進歩を受けて、教科書に掲載される内容がさらに

高度化することが危惧される。

高校での指導への影響

高度な内容をどの程度まで扱うか

『生物基礎』は2単位となったため、各項目の記載内容

を少なくせざるを得ないが、教科書がどの程度の内容を記

載するかが注目される。第1編「生物と遺伝子」では、冒

頭で「生物の共通性と多様性」を扱うが、導入としての扱

いとなるか、詳しい内容まで扱われるようになるかは、学

習指導要領からは判断し難い。第3編「生物の多様性と生

態系」も『生物基礎』に移行したことで、これまでより簡

潔になるのか、あるいはこれまで通りの内容を扱うのかは

不明である。また、「遺伝子と代謝」については、扱われ

るのは概要とはいえ、もともとが高度な内容であるので、

教科書の記載内容が少なくてもそれをきちんと教えるには

授業時間が多く必要となる。従って、『生物基礎』は2単

位での指導が困難となる可能性が考えられる。このため、

18 Guideline November 2009

項目 備考 学習指導要領による規定

(1) 生物と遺伝子

ア 生物の特徴

(ア) 生物の共通性と多様性

(イ) 細胞とエネルギー

イ 遺伝子とその働き

(ア) 遺伝情報とDNA

(イ) 遺伝情報の分配

(ウ) 遺伝情報とタンパク質の合成

ウ 探究活動

(2) 生物の体内環境の維持

ア 生物の体内環境

(ア) 体内環境

(イ) 体内環境の維持の仕組み

(ウ) 免疫

イ 探究活動

(3) 生物の多様性と生態系

ア 植生の多様性と分布

(ア) 植生と遷移

(イ) 気候とバイオーム

イ 生態系とその保全

(ア) 生態系と物質循環

(イ) 生態系のバランスと保全

ウ 探究活動

生物Ⅰより移行

生物Ⅰ、生物Ⅱより移行

生物Ⅰ、生物Ⅱより移行

生物Ⅰ、生物Ⅱより移行

生物Ⅱより移行

生物Ⅰより移行

生物Ⅰより移行

生物Ⅰ、生物Ⅱより移行

生物Ⅱより移行

生物Ⅱより移行

生物Ⅱより移行

生物Ⅱより移行

原核生物と真核生物の比較

呼吸と光合成の概要、ATPの役割、酵素の作用、共生説

DNAの構造(リン酸、糖、塩基)、塩基の相補性、遺伝子と

ゲノムとの関係

細胞周期

転写・翻訳の概要、タンパク質の重要性、個体の部位に応じ

ての遺伝子発現

植物体の顕微鏡観察

体液の成分とその濃度調節、腎臓・肝臓の働き、血液凝固

ホルモンと自律神経、血糖量調節、糖尿病

免疫にかかわる細胞の働き、抗原抗体反応、拒絶反応、予防

接種や血清療法、花粉症、エイズ

溶血現象の観察

植生の成り立ち、遷移

気温と降水量に対する適応

物質循環(窒素の循環も扱う)とエネルギーの移動

外来生物の移入、森林の乱伐による影響

外来魚の生態、移入前後の在来魚の調査

【図表1】『生物基礎』新課程項目詳細

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高等学校 新学習指導要領のポイント特集

項目 備考 学習指導要領による規定

(1) 生命現象と物質 ア 細胞と分子 (ア) 生体物質と細胞

(イ) 生命現象とタンパク質 イ 代謝 (ア) 呼吸 (イ) 光合成 (ウ) 窒素同化 ウ 遺伝情報の発現 (ア) 遺伝情報とその発現 (イ) 遺伝子の発現調節 (ウ) バイオテクノロジー エ 探究活動 (2) 生殖と発生 ア 有性生殖 (ア) 減数分裂と受精 (イ) 遺伝子と染色体 イ 動物の発生 (ア)配偶子形成と受精 (イ)初期発生の過程 (ウ)細胞の分化と形態形成 ウ 植物の発生 (ア) 配偶子形成と受精、胚発生 (イ) 植物の器官の分化 エ 探究活動 (3) 生物の環境応答 ア 動物の反応と行動

(ア) 刺激の受容と反応

(イ) 動物の行動

イ 植物の環境応答 (ア) 植物の環境応答 ウ 探究活動 (4) 生態と環境 ア 個体群と生物群集 (ア) 個体群 (イ) 生物群集 イ 生態系 (ア) 生態系の物質生産 (イ) 生態系と生物多様性 ウ 探究活動 (5) 生物の進化と系統 ア 生物の進化の仕組み 

(ア) 生命の起源と生物の変遷

(イ) 進化の仕組み

イ 生物の系統 (ア) 生物の系統 ウ 探究活動

生物Ⅰ、生物Ⅱより移行

生物Ⅱより移行

生物Ⅱより移行 生物Ⅱより移行 生物Ⅱより移行 生物Ⅱより移行 生物Ⅱより移行 生物Ⅱより移行 生物Ⅰより移行 生物Ⅰより移行 生物Ⅰより移行 生物Ⅰ、生物Ⅱより移行 生物Ⅰ、生物Ⅱより移行 生物Ⅰより移行 生物Ⅱより移行

生物Ⅰより移行

生物Ⅰより移行

生物Ⅰより移行 生物Ⅱより移行 生物Ⅱより移行 生物Ⅱより移行 生物Ⅱより移行

生物Ⅱより移行

生物Ⅱより移行

生物Ⅱより移行

細胞の内部構造(細胞骨格にも触れる)、生体膜 タンパク質の立体構造、物質輸送、情報伝達などに関わるタンパク質、酵素の働き 呼吸の仕組み、発酵、解糖 光合成の仕組み、細菌の光合成、化学合成 窒素同化の概要 DNAの複製、転写、スプライシング、翻訳 転写レベルの調節、細胞の分化 PCR法、制限酵素、ベクター 酵素の性質、競争的阻害 減数分裂の意義、独立の法則、性染色体 連鎖と組換え 配偶子形成と受精 卵割から神経胚までの過程、胚の前後軸の決定 誘導現象、誘導の連鎖、ホメオティック遺伝子 被子植物を中心に扱う ABCモデル 花粉管の伸長の仕組み 眼・耳の刺激の受容の仕組み、筋肉の収縮の仕組み、神経に興奮が発生して伝えられる仕組み 夜行性動物の音を手掛かりにした移動、天体の位置関係や地磁気を手掛かりにした鳥や昆虫の移動、学習に基づく鳥のさえずり 植物ホルモン、光受容体(フィトクロム) カイコガの性フェロモン 個体群内、個体群間の相互作用、つがい関係、血縁関係 生態的地位、多様な種が共存する仕組み 物質生産、エネルギー効率 生物多様性に影響を与える要因(生態系の攪乱、外来生物の移入) 播種密度と総重量 生命の誕生、海の形成・大気組成の変化・生物の陸上進出・大量絶滅、ヒトの進化 突然変異・自然選択・遺伝的浮動、適応と分子進化、適応放散、染色体の倍数化・異数化 ドメイン、高次の分類群 光合成色素の種類を基にした植物の系統関係

【図表2】『生物』新課程項目詳細

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カリキュラムの工夫が必要となる高校が増えることが予想

される。特に『生物基礎』のみの履修者に対しては、授業

でどの程度の内容まで扱うかは、センター試験の出題内容

によって決まるといえる。センター試験の動向に注目する

必要があろう。

『生物Ⅱ』においては、大学入試に追随し内容が高度化

している教科書の記載がどのように変化するかが注目され

る。例えば、「PCR法」「花の形態形成(ABCモデル)」

「ドメイン」などは現行の教科書では発展扱いになってい

るが、新課程の学習指導要領ではこれらの内容を扱うこと

が明示されているので、本文で扱われることになる。「選

択的スプライシング」「GFP遺伝子の組換え実験」「化学

浸透圧説」「C4植物・CAM植物」などは、新課程におい

ても引き続き発展扱いになるだろう。

発展とはいえ、これらの高度な内容が教科書に掲載され

るようになれば、難関大学だけでなく中堅大学でも入試に

出題される可能性がある。しかし、高度な内容を高校の授

業でどこまで扱うのか判断が難しい。高度な内容のすべて

を指導する時間的余裕はないと思われるので、生徒が受験

する大学の出題傾向などを踏まえて、どの程度の内容まで

指導するかを検討する必要があるだろう。

大学入試への影響

センター試験現行の『生物Ⅰ』とは出題分野が異なる

センター試験は、『生物基礎』からの出題となることが

予想される。従って、上述したように現行の『生物Ⅰ』と

は扱われる分野が大幅に異なる。

「生物の体内環境の維持」は現行の『生物Ⅰ』の出題内

容と大きな変化はないと予想されるが、「生物と遺伝子」

は呼吸や遺伝子の概要が教科書でどの程度扱われるかによ

り出題内容が変わりうる。「生物の多様性と生態系」は旧

課程の『生物ⅠB』の出題内容が参考になるが、『生物基

礎』では「生物の集団」の一部のみを扱う形になるため、

出題範囲が限られる。

『生物基礎』は2単位の標準単位数なので、3単位であ

る現行の『生物Ⅰ』に比べて教科書に掲載される分量は減

少することが予想される。しかし、センター試験はこれま

でのように平均点が維持されると思われるので、2単位に

減少しても難易度は変化しないことが予想される。

センター試験は、教科書がどこまで詳しい内容を掲載す

るかによって出題内容が変わりうるので、まだまだ不確定

の要素が多い。大学側が課す理科の科目数なども含めて、

今後の動向に注目していく必要があるだろう。

国公立大二次試験・私立大入試改訂の影響は少ない見込み

結論から述べると、『生物基礎』のみを出題範囲とする

大学を除けば、国公立大二次試験・私立大入試については、

今回の改訂の影響は少ないと予想される。

今回の改訂で選択分野がなくなり、両分野とも必須とな

るが、現行でも「選択」にとらわれず両分野から出題して

いる大学がある。そのような入試の現状に合わせて、高校

では両分野ともに教えている現状がある。したがって、選

択分野がなくなることに対して、入試問題でも高校の教育

現場でもそれほど大きな影響はないと考えられる。

しかし、注意しておかなければいけないのは、新課程で

はこれまで「発展」扱いであった高度な内容の一部が教科

書の本文に掲載されるようになることである。かねてから

一部の難関大学では、近年の生物学の研究成果を反映した

高度な内容を、実験考察問題として入試に出題していた。

このような高度な内容が教科書の本文に掲載されるように

なれば、中堅大学でも出題がみられるようになるであろう。

しかし、高度な内容を本格的に扱うと問題が難しくなりす

ぎるため、内容の一部(用語など)を知識問題として出題

する形式になるかもしれない。また、今後の入試での高度

な内容の出題に応じて、教科書での記載がさらに詳しくな

り、それに応じて入試問題がさらに高度化するといった状

況が予想される。高度な内容が教科書でどの程度まで扱わ

れるか、入試でどの程度まで問われるかを今後も注目して

いく必要がある。

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