48
生活製品における IoT 等のデジタルツールの活用による 生活の質の向上に関する研究会 報告書 平成30年3月

生活製品における IoT 等のデジタルツールの活用に …...生活製品とは、広義には人々が生活に使用する製品一般を指すが、本研究会で

  • Upload
    others

  • View
    1

  • Download
    0

Embed Size (px)

Citation preview

Page 1: 生活製品における IoT 等のデジタルツールの活用に …...生活製品とは、広義には人々が生活に使用する製品一般を指すが、本研究会で

生活製品における IoT 等のデジタルツールの活用による

生活の質の向上に関する研究会

報告書

平成30年3月

Page 2: 生活製品における IoT 等のデジタルツールの活用に …...生活製品とは、広義には人々が生活に使用する製品一般を指すが、本研究会で

1

目次

1.はじめに .......................................................................................................................... 3 2.研究会の検討対象 ........................................................................................................... 5 3.ファッションテック ........................................................................................................ 8 (1)ファッションテックの現状 ...................................................................................... 8 ① マスカスタマイゼーション ....................................................................................... 8 ② 提案型サービス ......................................................................................................... 11 ③ 情報収集・センシング ............................................................................................. 12

(2)ファッションテックにおける課題 ......................................................................... 14 ① ソリューション志向 ................................................................................................ 15 ② 異分野連携の促進 .................................................................................................... 15 ③ データの利活用 ........................................................................................................ 16 ④ 人材の育成・確保 .................................................................................................... 16

(3)ファッションテックにおける将来像 ..................................................................... 17 4.スマートテキスタイル .................................................................................................. 20 (1)スマートテキスタイルの現状 ................................................................................ 21 ① スマートテキスタイルを用いたサービス提供までの流れ ...................................... 21 ② 日本におけるスマートテキスタイルの開発状況 ..................................................... 21 ③ 海外におけるスマートテキスタイルの開発状況 ..................................................... 27 ④ 日本と海外との比較 ................................................................................................ 30 ⑤ ウェアラブル端末におけるスマートテキスタイルの優位性 .................................. 31

(2)スマートテキスタイルにおける課題 ..................................................................... 32 ① 要素技術の開発 ........................................................................................................ 32 ② ソリューションの創出とビジネスモデルの構築 ..................................................... 34 ③ 異分野連携の促進 .................................................................................................... 35 ④ 協調領域と競争領域の設定 ..................................................................................... 35 ⑤ 国際標準化の推進 .................................................................................................... 36 ⑥ 日仏共同プロジェクトの推進 .................................................................................. 36

(3)スマートテキスタイルにおける将来像 ................................................................. 37

Page 3: 生活製品における IoT 等のデジタルツールの活用に …...生活製品とは、広義には人々が生活に使用する製品一般を指すが、本研究会で

2

5.生活製品における IoT 等の活用に共通する課題.......................................................... 39 (1)データ利活用の環境整備 ....................................................................................... 39 ① データの利用権限 .................................................................................................... 39 ② データポータビリティ等に関する動向 ................................................................... 40 ③ データ共有事業に対する支援 .................................................................................. 41 ④ データの不正取得等に対する保護........................................................................... 41

(2)スタートアップ企業に対する支援 ......................................................................... 42 6.終わりに ........................................................................................................................ 44 生活製品における IoT 等のデジタルツールの活用による 生活の質の向上に関する研究会

委員名簿 ............................................................................................................................... 46 開催実績 ............................................................................................................................... 47

Page 4: 生活製品における IoT 等のデジタルツールの活用に …...生活製品とは、広義には人々が生活に使用する製品一般を指すが、本研究会で

3

1.はじめに

消費者の価値観やライフスタイルは常に変化している。かつての大量消費時

代におけるモノの消費から、近年では、単に商品を購入・所有するのみならず、

ユーザーエクスペリエンス等を重視するコト消費に関心が高まってきている。 また、少子高齢化等によって国内市場が成熟していく中、価格競争の厳しい分

野においては、生産拠点の国内から海外への移転が進展したことにより、低価格

帯の生活製品については、アジア諸国等の海外製品が市場の中心となっている。

他方、高価格帯の市場においては、ブランド価値において、欧米等の高級ブラン

ドが国内企業に勝っている場合が多い。 こうした中、我が国の生活製品産業においては、単なる汎用品の提供や価格競

争ではなく、課題解決や体験価値等により、人々の生活をより一層豊かにし、生

活の質の向上に寄与するような付加価値の高い商品・サービスを開発・提供して

いくことが重要である。実際に、機能性、感性やサステナビリティを追及したり、

地域資源を有効に活用したり、単なるモノ売りではなくサービスやソリューシ

ョンを併せて提供することによって、製品の差別化、高付加価値化を進め、国内

外の市場の開拓や拡大に成功している企業も数多く存在する。 また、第四次産業革命が進展する中、IoT、AI 等のデジタルツールの活用によ

って、様々なもののつながりから膨大なデータを収集・分析することが可能とな

っている。これは、生産・流通過程等を効率化するのみならず、消費者に新たな

製品やサービスを提供することによって、人々の生活の質の向上をもたらすこ

とが期待できる。生活製品の分野においても、こうした新たなデジタル技術を活

用した製品・サービスを開発することで、これまでのモノとは異なる価値を市場

に提供し、新たな市場を開拓しようとする動きが始まっている。 例えば、住宅設備や家電製品等を IoT 等でつなげることによって、居住空間

の快適性・利便性やエネルギー効率等を向上させる「スマートホーム」の開発・

提供が進められている。また、リストバンド、メガネ、ベルト等をウェアラブル

端末として活用し、生体データ等を取得することにより、新たなサービスを開

発・提供する試みも進んでいる。 このように、生活製品には、IoT 等のデジタルツールと結びつき、データを収

集・分析し、新たな付加価値を提供することによって、私たちの将来の生活の質

の向上に貢献できる大きな可能性があると考えられ、生活製品産業における積

極的な取組が期待されるところである 経済産業省においては、第四次産業革命による技術の進展を Society 5.0(超

Page 5: 生活製品における IoT 等のデジタルツールの活用に …...生活製品とは、広義には人々が生活に使用する製品一般を指すが、本研究会で

4

スマート社会)の実現につなげるために、我が国が目指すべき産業の在り方とし

て、「Connected Industries」の実現に取り組んでいくこととしている 1。 Connected Industries とは、IoT 等によって様々な業種、企業、人、機械、デ

ータ等がつながり、AI 等によって新たな付加価値や製品・サービスを創出し、

生産性を向上させ、高齢化、人手不足、環境・エネルギー制約等の社会的課題を

ソリューション志向で解決しようとするものであり、これらを通じて、日本の産

業競争力の強化、更に国民生活の向上や国民経済の健全な発展を図るものであ

る。様々なつながりによって新たな付加価値を創出すること、従来、独立・対立

関係にあったものが融合し、変化することにより、新たなビジネスモデルが誕生

することが期待されている。 生活製品産業の今後の発展にとっても、ソリューション志向で IoT 等のデジ

タルツールを積極的に活用し、様々なつながりを通じて、社会的課題の解決を図

ることにより、Connected Industries や Society 5.0 の実現に取り組むことが重

要である。 このように、IoT、ビッグデータ、AI 等の新たなデジタル技術を活用した製

品・サービスの登場により、産業、社会、生活が今まさに大きく変化しようとし

ている。 本研究会においては、経済産業省生活製品課及びみずほ情報総研株式会社を

事務局として、こうした「生活の質の向上」や「Connected Industries」等の観

点から、私たちの身の回りの生活製品において IoT 等のデジタルツールをどの

ように活用することができるかについて、主にファッションテックやスマート

テキスタイルに焦点を当て、現状を把握した上で、今後の課題や必要な取組等を

検討し、将来的な可能性や方向性等について議論してきた。本報告書は、こうし

た議論等の結果をとりまとめたものである。

1 2017 年 3 月、ドイツのハノーバーで開催された情報通信見本市(CeBIT) に日本がパ

ートナー国として参加し(日本からは過去最大規模の 118 社が参加)、安倍首相や世耕経

済産業相等が出席した際、安倍首相から、我が国が目指す産業の在り方として、こうした

「Connected Industries」のコンセプトを表明した。また、世耕経済産業相、高市総務相

及びツィプリス独経済エネルギー相の間で署名・発表された第四次産業革命に関する日独

共同声明「ハノーバー宣言」においても、Connected Industries を進めていくこととして

いる。

Page 6: 生活製品における IoT 等のデジタルツールの活用に …...生活製品とは、広義には人々が生活に使用する製品一般を指すが、本研究会で

5

2.研究会の検討対象

生活製品とは、広義には人々が生活に使用する製品一般を指すが、本研究会で

は、繊維、服飾品、生活雑貨等、生活製品課が所掌する製品群を取り扱うことと

した。 こうした生活製品について、バリューチェーンの観点から見ると、商品企画、

製造、流通・販売、消費(商品使用)のそれぞれの段階において IoT 等のデジタ

ルツールの活用の可能性があり、実際に活用され始めている。 このうち、本研究会では、私たちが日常的に使用する生活製品においても、IoT

等を活用した製品・サービスを提供することによって、消費者等の目に見える形

で生活の質の向上をもたらす大きな可能性があることを展望する観点から、特

に B to C または B to B to C での展開に着目することとし、主に繊維・ファッ

ション関係 2を中心に取り上げることとした。 こうした観点から、生活製品における IoT 等のデジタルツールの活用事例を

見ると、まだ消費者の目に見える事例は必ずしも数多くないものの、例えば、生

体データ等を取得・分析することにより新たなサービスの提供を可能とするウ

ェアラブル端末、個々人のファッションの好み等に応じて国内外のブランドの

商品を提案してくれるアプリ、AR 技術等を活用した店舗でのバーチャル試着、

個々人の好みや体型等に対応したデザイン・サイズ等で服を注文できるサービ

ス等、多様な製品・サービスの開発が進められている。 これらは、消費者等の身体の状況を可視化する「情報収集・センシング」、消

費者に対するレコメンドを行う「提案型サービス」、消費者個々の好み等に個別

に対応しつつ大量生産を実現する「マスカスタマイゼーション」等に大別される。 このようにファッション分野にデジタル技術等を積極的に導入することによ

り、製品・サービスの高付加価値化を図る取組は、「ファッションテック」と総

称されている。また、生体データ等の収集・分析を可能とする衣服は「スマート

テキスタイル」とも呼ばれている。本研究会では、こうしたファッションテック

やスマートテキスタイル 3に主に焦点を当てて取り上げることとした。 なお、スマートホームについては、平成 28 年度、生活製品課を事務局として、

「住宅における IoT/ビッグデータ利活用促進に関する検討会」を開催し、ケー

2 この他にも、例えば、リストバンド、メガネ、ベルト、家具、ドア、窓、トイレ、ごみ

箱、けん玉、フォーク、歯ブラシ、ファスナー等、私たちの身の回りの様々な生活製品で

IoT 等の活用の試みが進められている。 3 スマートテキスタイルも、広義にはファッションテックの一部である。

Page 7: 生活製品における IoT 等のデジタルツールの活用に …...生活製品とは、広義には人々が生活に使用する製品一般を指すが、本研究会で

6

ススタディ等によりサービスの実現に向けた課題の整理等を行った。平成 29 年

度は、積水ハウス株式会社及び大和ハウス工業株式会社が提供するモニター住

居において、家庭内機器のネットワーク化や、それによる新たなビジネスモデル

創出に必要となる事業環境整備を目的とした実証事業等 4が行われていること

から、本研究会では取り上げないこととした。 また、本研究会では取り上げなかったが、とかく労働集約的または感覚的とな

りがちな生活製品の製造・流通プロセスにおける IoT 等のデジタルツールの活

用による最適化・効率化も重要な課題である。 この点については、別途、経済産業省においても、例えば、スマート工場や電

子タグ等の実証事業を行うほか、スマートものづくり応援隊等の支援施策 5を講

じてきたところであり、企業においても様々な取組が進められている。 例えば、シタテル株式会社は各地の縫製工場とデータ連携し、繁閑等の生産管

理データを活用することにより、余剰能力に応じてデザイナー等の発注者とマ

ッチングするプラットフォームを提供しており、経済産業省のスマート工場実

証事業にも採択された。 JUKI 株式会社は縫製工場向けの「IoT ミシン」を提供し、これまでは技術者

が手動で調整する必要があった機構をデジタル制御し、素材に合わせた再現性

のある最適制御を可能とした。また、縫製データを世界中の工場と共有し、サン

プルデータを量産データに再現するなど、IoT 等の活用による効率化等を可能と

している。 電子タグについては、生産・在庫管理等を効率化したり、サプライチェーン間

の情報共有やトレーサビリティを容易にすることはもちろん、無人レジによる

省人化、レジ待ちストレスの低減等も可能となり、アパレル企業等で導入に向け

た動きが進んでいる。電子タグで取得された販売・在庫等のデータを的確に商品

企画や発注等に活用していくことも重要である。 株式会社 TSI ホールディングスは、慶應義塾大学発 AI ベンチャーの SENSY

と業務提携し、需要の読みにくいアパレル製品の需要予測に SENSY の「パー

ソナル AI 技術」を応用し、MD の最適化の共同開発を進めており、不良在庫の

削減、機会損失の低減等を目指している。

4 経済産業省 HP において、スマートライフ政策について、とりまとめ・公表している。 http://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/connected_industries/smart_life/pdf/smart_life_policy.pdf 5 経済産業省 HP において、「第四次産業革命に挑戦する中堅・中小製造業向けの支援施

策」を紹介している。

http://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/mono/smart_mono/daiyozi_tyuukentyuusyou20180314.pdf

Page 8: 生活製品における IoT 等のデジタルツールの活用に …...生活製品とは、広義には人々が生活に使用する製品一般を指すが、本研究会で

7

こうした IoT 等を活用した生産・流通過程等の最適化・効率化についても、今

後、各社において一層取り組んでいくことが求められる。

Page 9: 生活製品における IoT 等のデジタルツールの活用に …...生活製品とは、広義には人々が生活に使用する製品一般を指すが、本研究会で

8

3.ファッションテック

「ファッションテック」とは、Fashion と Technology を組み合わせた造語で

あり、上述のように、ファッション分野に新たなデジタル技術を積極的に導入す

ることにより、生産・流通・販売過程における生産性の向上や製品・サービスの

高付加価値化を図る取組全般を指すものとして、例えば、EC プラットフォーム

によるレンタルやリユース等のサービス、クラウドファンディングといったも

のから、工場のスマート化、受発注者のマッチング・プラットフォーム、顧客デ

ータと AI 等を活用した商品開発、需要予測、生産・流通管理、店舗レイアウト

等の構築、商品・コーディネート提案、3D 技術等を活用したデザイン、採寸、

バーチャル試着等、更には、センシングやマスカスタマイゼーションに至るまで、

様々な場面でこの言葉が用いられている。 これらにより、新たな付加価値の提供、販路の拡大、生産性の向上、在庫ロス

や機会ロスの低減、新たなサプライチェーンの構築等が期待されている。 本研究会では、このうち、B to C で消費者の目に見える分野として、「マスカ

スタマイゼーション」、「提案型サービス」、「情報収集・センシング」について取

り上げた。 なお、「情報収集・センシング」のうち、スマートテキスタイルについては、

次の4.で取り上げる。

(1)ファッションテックの現状 ① マスカスタマイゼーション

「マスカスタマイゼーション」とは、従来のように、一定の規格品を大量に

生産・販売する、あるいは、オーダーメイドの商品を一点ずつ生産・販売する

のとは異なり、IoT 等のデジタルツールを活用することで、オーダーメイドと

大量生産を両立させようとする試みである。 すなわち、個々の消費者の好みや体型等のデータに応じた個別の受注と生産

システムをデジタルツールで連携させることで、従来の大量生産と同様の効率

性で、オーダーメイドの一点物を生産・販売するものである。 例えば、以下のような取組事例が挙げられる。

■セーレン株式会社 「Viscotecs」

セーレン株式会社 6は、下請け・賃加工といった従来型の繊維産業からの脱

却を進めるための方策として、IoT を活用し、消費と製造現場をつなぐ新たな

6 2017 年の CeBIT(注 1 参照)には、繊維産業から唯一セーレンが出展し、ビスコテッ

クスを展示した。

Page 10: 生活製品における IoT 等のデジタルツールの活用に …...生活製品とは、広義には人々が生活に使用する製品一般を指すが、本研究会で

9

ビジネスモデルの構築を目指し、店舗でのバーチャル試着と工場の生産プロセ

スをつないで作るセミオーダーの洋服を提案する「Viscotecs」(ビスコテック

ス)を開発している。店舗に設置するデバイス上で商品を発注すると、その情

報が工場に即時に転送され生産が開始されるものであり、これにより、店舗が

在庫を持つことなく、顧客が「欲しいものを、欲しい時に、欲しいだけ」生産

するマスカスタマイゼーションのシステムを実現している。 ■株式会社フクル 「フクル SCM システム」

株式会社フクルは、IoT を活用し、複数の企業の生地や副資材などの在庫デ

ータ、デザインパターン、縫製工場等をデータベース化し、個別の顧客向けに

衣服を生産する「超多品種一点個別生産=オーダーメイド型マスカスタマイズ

生産」を実現するシステムを開発しており、大量生産によるロスをなくすこと

で、高品質な衣料を適正な価格で提供することを目指している。 ■株式会社アシックス 「ASICS Custom Apparel Service」

株式会社アシックスは、3D スキャナーで体型を計測した結果をもとに、ス

ポーツアパレルのカスタムオーダーができる「ASICS Custom Apparel Service」を開始している。

■株式会社スタートトゥデイ 「ZOZOSUIT」

EC サイト「ZOZOTOWN」を運営する株式会社スタートトゥデイは、身体

のサイズを計測する伸縮センサー内蔵の採寸ボディースーツ「ZOZOSUIT」7

を発表した。これも、得られた体型データを活用したマスカスタマイゼーショ

ンを実現し、既製品のような手ごろな価格で、個々人にあったサイズ・仕様で

の製品販売を目指している。

■株式会社島精機製作所 「APEX-3 及びホールガーメント」 株式会社島精機製作所は、コンピューターグラフィックス技術を用いたバー

チャルニットデザインシステム(APEX-3)と、ニット製品を一着まるごと編

み上げることができる無縫製編み機(ホールガーメント)を連携し、客先にお

けるデザイン提案、バーチャルサンプリング、編みパターンの作成から一点ご

との製品の生産までをシームレスにつなぎ、無駄を省いたマスカスタマイゼー

ション生産を目指している。 7 「ZOZOSUIT」のスマートテキスタイルとしての技術等については、4.(1)の② ii)及び③ ii)参照。

Page 11: 生活製品における IoT 等のデジタルツールの活用に …...生活製品とは、広義には人々が生活に使用する製品一般を指すが、本研究会で

10

■株式会社ミリメーター 「Eoluna」 株式会社ミリメーターは、自社で開発した 3D スキャナーで足の形状を計測

した上で、3D プリンターで足型を作ることで、従来の足型製造の工程を大幅

に効率化するとともに、購入者自身がデザイナーとなり、革の材質、色、ヒー

ル高、つま先の形状等を自由に選択することができる完全フルオーダーの靴を、

従来のオーダー靴に比して価格を抑えて製造・販売している。

フクル「フクル SCM システム」 株式会社フクルでは、消費者が選択したデザインや素材・材料をもとに、連携先の工場

や企業の在庫から必要な生地や資材を調達し、連携先の縫製工場において一点生産を行

うシステム「フクル SCM システム」を開発・提供している。このシステムにより、生地

や裏地などの標準材料、ボタン・ファスナー等の共通材料と、デザインやパターンの組み

合わせによって多様なデザインの衣服を作ることが可能となる。 同システムの開発背景には、アパレル企業が抱える大量生産による製品同質化や在庫

過多の課題やアパレル産業の国際競争力の低下があり、サプライチェーンの IT 化や繊維

縫製工場における遊休資産の有効活用を通じて、管理経費を抑えつつマスカスタマイズ

生産を実現し、これらの課題解決につなげることを目指している。 現在は、カスタムオーダーの供給が少ない女性をターゲットとしてマスカスタマイゼ

ーションのサービスを百貨店や自社サイトを通じて B to C 向けに展開している。今後、

百貨店等のアパレル製品販売事業者との連携や、AR・VR や IC タグ等の先進技術の活用

セーレン「Viscotecs」

セーレン株式会社は繊維加工技術に IT を融合したデジタルプロダクションシステム

「Viscotecs」を開発・展開している。Viscotecs は、等身大のモニターとタブレット端末

を用いて、3DCG でバーチャルに試着しながら洋服のシルエット(型)、柄、色を個人の

好みに合わせ、47 万通りに及ぶ組み合わせの中から自分に合った一枚を発注することが

できるマスカスタマイゼーションの仕組みである。その特徴は、注文から生地、プリン

ト、裁断、縫製、製品の配送まで一貫してサービスを提供できることにあり、更に、ウー

ル、シルク、綿などの天然繊維、ポリエステル、ナイロン等の合成繊維をはじめ多様な素

材への対応が同システムの強みとなっている。 店舗のタブレット端末から生産工場に直結したシステムによりその場ですぐに発注で

き、3 週間ほどで自宅へ届くため、店舗は在庫を持つ必要がなく、顧客は「欲しいものを・

欲しいときに・欲しいだけ」注文できる。現在、百貨店等の5店舗で展開している。

Page 12: 生活製品における IoT 等のデジタルツールの活用に …...生活製品とは、広義には人々が生活に使用する製品一般を指すが、本研究会で

11

を進めるほか、フクル SCM システム上で発生するデータ(ユーザーの体型等の採寸デー

タ、フィッティング中のユーザーの反応データ、製造工程上の生産データ等)の蓄積と、

新商品開発への活用等にも取り組む予定としている。

② 提案型サービス

「提案型サービス」では、消費者の利用データ、体型データ、位置データ、

天候データ等、消費者の生活や活動等に関連するデータを AI 等により分析し、

消費者個人のニーズや嗜好に応じた商品をレコメンドする取組が進められて

いる。 例えば、以下のような取組事例が挙げられる。

■株式会社ルグラン 「TNQL」

デジタルマーケティング等のコンサルを行っている株式会社ルグランは、気

象データと連動したコーディネートのレコメンドや個々人が所有する衣服の

登録や日々のコーディネートの記録を提供するサービスも行っており、位置情

報を元にした気象データと連動した、AI によるコーディネート分析を通じて、

利用するほどに当該個人に適した提案が行われるようなアプリ開発が進めら

れている。 ■サイジニア株式会社 「PASHALY」

画像解析技術を活用し、画像から類似商品をネット検索するアプリ開発を行

うサイジニア株式会社は、「欲しい」「かわいい」と思ったファッション写真を

アップロードするだけで、人工知能が画像解析により写真上のアイテムを分類

し、購入可能な類似製品をレコメンドするスマートフォンアプリ「PASHALY」

を開発している。利用者個人の行動履歴等に基づくレコメンドだけでなく、利

用者と類似の趣味・嗜好を持つコミュニティを導き出すことで、潜在的なニー

ズにマッチしたレコメンドも行っている。

■SENSY 株式会社 「SENSY CLOSET」 SENSY 株式会社は、スマートフォンアプリの「SENSY CLOSET」を開発

し、消費者が所有する衣服を登録することができるデジタル・クローゼットに

よる管理サービスとともに、過去のコーディネートの登録に加え、AI による

新しい衣服やコーディネート提案を行うことを目指している。 ■株式会社スタートトゥデイ 「おまかせ定期便・自分サイズ検索」

上述の「ZOZOTOWN」では、「ZOZOSUIT」で計測した体型データを活用

Page 13: 生活製品における IoT 等のデジタルツールの活用に …...生活製品とは、広義には人々が生活に使用する製品一般を指すが、本研究会で

12

し、個々人に合ったサイズの商品を検索できるサービスや、体型データと好み

を分析してコーディネート提案を行うサービスを開始している。

また、靴においても、3D スキャナーでの足の形状の計測結果をもとに、既

製靴やセミオーダー靴の中から最適なものを提案するサービスが展開され始

めており(株式会社アシックス、株式会社キビラ、株式会社フリックフィット

等)、将来的にはマスカスタマイゼーションに発展していくことが期待される。

ルグラン「TNQL」 デジタルマーケティングに関するコンサルティング等に取り組む株式会社ルグラン

は、気象に関するデータ分析をもとに消費者の志向にあったコーディネートを提案する

ファッションテックサービス「TNQL(テンキュール)」を提供している。 TNQL は、気象データを分析・活用し、天気や気温の変化に合わせてその日のコーデ

ィネートをレコメンドするウェブサービスである。TNQL は、ユーザーの好みをAIが

学習する機能を備えており、800 パターンのイラストからその日の最適なコーディネー

トをレコメンドすることができる。消費者が TNQL の利用を重ねることで、更にAIが

学習し、レコメンドの精度が高まる仕組みとなっている。また、自分がいつ、どのような

天気の時に何を着たのかをログとして保存できる機能も持つ。

③ 情報収集・センシング

「情報収集・センシング」では、製品を単にモノとして提供するのではなく、

消費者の製品の使用状況や動き等のデータを取得し、新しいサービスを提供で

きる製品が開発されている。 例えば、以下のような取組事例が挙げられる。

■株式会社 no new folk studio 「Orphe」 株式会社 no new folk studio は、足の動きを感知する 9 軸センサー等をソ

ール部分に埋め込み、足の動きに応じて LED が光ったり、音が出るスマート

フットウェア「Orphe」を開発している。スマートフォンアプリで光の色やデ

ザインを編集したり、楽器として音楽演奏が可能であり、スポーツ、エンター

テイメント等の幅広い用途への展開を進めている。当該製品の活用を一層広げ

られるよう、他の事業者でも自由にアプリを開発できるソフトウェア開発キッ

トを公開している。

Page 14: 生活製品における IoT 等のデジタルツールの活用に …...生活製品とは、広義には人々が生活に使用する製品一般を指すが、本研究会で

13

■富士通株式会社 「interactive shoes hub」 富士通株式会社は、人と機械のインターフェースとして脚に着目し、立つ、

座る、移動するなどの行為を、センサーで把握、可視化、解析を進めるための

共創プロジェクトとして「interactive shoes hub」を開始している。プロジェ

クトの中心となるセンサーシューズ「interactive shoes」を活用し、足の動き

を音や照明に変換できるシステムの開発等、産学連携による様々な展開を目指

している。

■綜合警備保障株式会社 「みまもりタグ」 綜合警備保障株式会社(ALSOK)では、認知症患者の行方不明対策の取組

として、位置履歴データを把握することができる「みまもりタグ」を開発し、

介護靴メーカーの徳武産業株式会社と連携して「みまもりタグ」を収納した「み

まもりタグ専用靴」を用い、地域の見守りネットワークの構築支援に取り組ん

でいる。 ■エース株式会社 「マックスパス スマート」

エース株式会社は、IoT スマートラゲージ「マックスパス スマート」を販

売している。これはスマートフォンと連動し、Bluetooth を利用して置き忘れ

等で距離が離れるとアラームが鳴ることにより、製品の紛失を防ぐ機能等を備

えたものとなっている。

アシックス「先進的なファッションテクノロジーへの取り組み」

株式会社アシックスは、産官学連携によりファッションテック向けの技術開発を推進

している。例えば、3D プリンターを用いたテーラーメイドラバー製品の設計・生産に関

する研究開発プロジェクトを、神戸大学、バンドー化学、住友ゴム工業等と連携して進め

ている。生活での利用シーンの多いランニングシューズを当面の出口として想定し、将来

的にはスポーツ用品、介護用品、工具等への展開も構想している。 また、バッテリーレスのスマートシューズを開発するプロジェクトも産学官共同で進

めている。一般的に靴にバッテリーを搭載すると重量や発火リスク等が懸念されるため、

着地のエネルギーを活用することで、バッテリーレスで足裏センサーのデータを出力・伝

送し、姿勢認識等に取り組む研究開発プロジェクトである。

このようにファッションテックの取組が進む一方で、デジタルツールの活用

を推進する人材が不足しているとの声も聞かれる。 株式会社 TFL が運営する「東京ファッションテクノロジーラボ」では、フ

Page 15: 生活製品における IoT 等のデジタルツールの活用に …...生活製品とは、広義には人々が生活に使用する製品一般を指すが、本研究会で

14

ァッションとテクノロジーの知識を備えた人材の育成に取り組んでいる。社会

人や専門学校生等を対象とし、製造・流通プロセスにおいてテクノロジーを活

用できるビジネス創造・企画立案力等といったスキル習得に向けた教育を行っ

ており、ファッション産業に人材面から革命を起こすべく取組を進めている。 また、IT 業界からも入学者が多数いるなど、様々な分野の人材がファッシ

ョンテックに関心を持っていることがうかがえる。 更に、国内外のデジタルベンチャー企業等との産学共同プロジェクトを通じ

て、先端技術を活用したファッションビジネスの創出に取り組んでおり、今後、

ファッション市場の将来を見据えたテクノロジー人材の育成が期待される。

TFL「東京ファッションテクノロジーラボ」 株式会社 TFL は、2017 年 4 月より東京ファッションテクノロジーラボを開講し、大

学生、社会人等を対象としたファッション×テクノロジーの最先端を学べるコースを提

供している。 ファッション業界を目指す人材が減少しているほか、給与水準等のミスマッチングに

より異業界からの転職も少ない現状であり、少子化が進む中、ファッション業界を人材面

から改革すること(ファッション教育革命)を目指している。開講 2 年目となる 2018 年

は、社会人向けファッションテック教育に加えて、アパレル企業向けのファッションテッ

ク教育の提供を行うなど、教育対象や教育内容の更なる拡充を進めている。

(2)ファッションテックにおける課題

以上で B to C に関連するファッションテックの先行的な事例を概観してき

たが、生活製品産業においては、今後もこうした IoT 等のデジタルツールの活

用を一層進めていく必要があると考えられる。その際、業務の効率化や生産・

流通プロセスの最適化といった観点だけではなく、IoT 等を活用することによ

り、顧客に新たにどのようなソリューションを提供できるか、そして、そのソ

リューションをどのようにビジネスモデルとして構築していけるかが重要で

ある。そのためには、以下に述べるように、ソリューション志向を一層推進す

る必要があるとともに、異分野連携の促進、データの利活用、人材育成等が重

要な課題となる。 同時に、ファッションテックにおいては、先端のデジタル技術等を活用する

だけでなく、デザイナー等と連携し、製品・サービスにおけるデザイン性やフ

ァッション性が確保されることが不可欠であるほか、消費者の目に見える取組

が行われることも重要である。

Page 16: 生活製品における IoT 等のデジタルツールの活用に …...生活製品とは、広義には人々が生活に使用する製品一般を指すが、本研究会で

15

① ソリューション志向 消費者のニーズや嗜好が多様化する中、消費者向けの製品・サービスに IoT

等を組み込むことで、消費者や社会が抱える課題を解決したり、ユーザーエク

スペリエンスをもたらしたりといった、新たなソリューションを消費者本位で

提供することにより、消費者等の生活の質の向上をもたらすことが可能となる。

生活製品産業においても、IoT 等のデジタルツールは、消費者本位のソリュー

ションを提供するために非常に有効な手段であることを認識する必要がある。 他方、IoT 等はあくまでもツールであり、これを活用したとしても、消費者

に新たな価値を提供するものでなければ、それは単なる「事業者本位」であり、

消費者に受け入れられるものではないことは言うまでもない。 IoT 等の発展は、今後とも産業や社会に大きな変革をもたらす。また、IT 業

種等の異分野からの参入を容易にする。こうした構造変化の中、従来のビジネ

スモデルの持続可能性を見極め、必要に応じ再定義し、IoT 等を活用して新た

にいかなるソリューションを提供することができるか、不断に追及することが

不可欠である。 ② 異分野連携の促進

IoT 等を活用して多様化する消費者ニーズに対応したソリューションを生

み出すためには、製品・サービスの企画、設計、調達、生産といった従来型の

ものづくりの知見のみならず、通信、データ分析(アルゴリズム開発)、シス

テム開発等のデジタルの知見、更には、消費者が抱える課題等を潜在的なもの

をも含めて的確に掘り起こし、ビジネスモデルとして構築できる知見等を効果

的に組み合わせることが重要となる。 そのためには、自前主義に拘泥するのではなく、積極的に異分野連携を進め、

それぞれの知見を融合し、新たな付加価値を模索していくことが不可欠である。 その際、例えば、従来型の繊維・アパレル産業が有するトレンド分析や消費

者の好み等のデータ、マーケティングのノウハウ、また、服作りに関する技術

的な知見等は重要な資源と考えられる。こうした既存の資源に加えて、IoT、AI 等のデジタル技術を活用することで更に価値を向上させることが可能であ

り、IT 分野等から参入する新たな事業者と既存の事業者が連携し、それぞれ

の知見・技術を融合することが重要である。 また、どのようなソリューションを生み出すことが消費者にとって重要かと

いう、消費者本位での新たな価値の提供を目指すとともに、単なる技術開発に

終始せず、最終的な製品・サービスを実用化するためのビジネスモデルを構築

する観点から、連携を進めることが重要である。

Page 17: 生活製品における IoT 等のデジタルツールの活用に …...生活製品とは、広義には人々が生活に使用する製品一般を指すが、本研究会で

16

③ データの利活用 デジタルツールの活用により、これまでは容易に取得できなかった膨大な消

費者データを収集できるようになる。 例えば、消費者の製品の購入・利用に関するデータを収集することで新たな

ニーズの発見が可能となり、また、収集したデータを消費者にとって価値ある

ソリューションに変換してフィードバックすることで、新たなビジネスにつな

がる可能性を有している。 現在でも、店舗等において、顧客情報として住所、性別、購入履歴等の情報

を各企業が得ているが、販売促進や PR 等に活用するにとどまらず、これらの

データを AI 等によって分析し、より価値のあるデータとして活用する取組は

必ずしも十分に行われていない。 AI やビッグデータを活用することで、リアルタイムで消費者の好み、ニー

ズ、トレンド等の情報を分析し、需要予測等を進めることで、迅速に商品企画・

生産プロセスにフィードバックしたり、個々の消費者の好み等に合った的確な

商品を提案したりするとともに、将来的な商品企画や提案等にも活用するとい

った、新たなビジネスモデルの構築が期待される。 ④ 人材の育成・確保

IoT 等の活用を推進するためには、デジタルツールを使いこなすことができ

る人材の育成・確保が不可欠である。 しかしながら、例えば、従来型の繊維・アパレル産業においては、デジタル

ツールの活用を念頭においた人材育成について、必ずしも十分には取り組まれ

ていない。他方で、IT 等の異分野において、ファッションに興味関心を持っ

て、起業や転職を目指す人材がおり、また、このような人材を積極的に求めて

いるアパレル企業もある。ファッションテックに取り組んでいる企業は IT 業

界からの参入が多くみられるが、業種間の慣習やカルチャー等のギャップが異

分野連携を遅らせているとの声も聞こえる。このような異分野からの人材を柔

軟に受け入れられるような企業風土の構築も重要である。 ファッションテックにおいては、ファッションとしてのクリエイティビティ

等の能力も不可欠であり、高いデジタル技術があったとしても、デザイン性等

において消費者に価値を提供できているかといったアプローチが必要である。

ファッションとデジタルの双方の人材・能力の掛け合わせ、多様な視点での議

論や交流を通じた、人材の育成・確保が重要である。 そのような観点から、ファッション業界において IoT や AI 等のデジタル技

術を活用できる人材の育成を進めることが重要であり、上述の「東京ファッシ

ョンテクノロジーラボ」のような取組が各所で進んでいくことが期待される。

Page 18: 生活製品における IoT 等のデジタルツールの活用に …...生活製品とは、広義には人々が生活に使用する製品一般を指すが、本研究会で

17

また、これらの人材の育成・確保に際しては、繊維・アパレル産業が一から

取り組むことは必ずしも容易ではないことから、IT 企業等との M&A 等によ

り人材の確保を図ることも有効な手法である。その際には、IT 企業等の人材

と社内のエンジニアやデザイナー等の人材が双方の知見を活かし、オープンイ

ノベーションを目指すことで、新たなソリューションを生み出すよう取り組む

必要がある。

(3)ファッションテックにおける将来像 ファッションテックは、今後、繊維・ファッション産業を抜本的に変革する

可能性を秘めている。 IoT の活用により、店舗、EC サイト、更には家庭等で消費者等に関するビ

ッグデータを収集し、これを AI によって分析することで、商品企画、生産プ

ロセス、販売手法の効率化等に活用することはもちろん、消費者の潜在的なニ

ーズを特定し、これまでになかった付加価値の高い新たなソリューションの提

供が可能となる。 例えば、消費者の行動データや商品データを組み合わせ、AI が自動的にレ

コメンドを行う「提案型サービス」が登場している。 今後、個人の行動履歴等に基づく嗜好やトレンド等を AI が複合的に解析す

ることにより、従来のように感覚的な商品企画のみに頼るのではなく、より合

理的な需要予測に基づく製品・サービスの開発を進めること、また、クラウド

ファンディング等の ICT を基盤とするプラットフォームを介し、作り手側か

らの提案に対して消費者が応答することによって価値を共創していくことが

可能となることも考えられる。 特に、こうした提案型サービスや需要予測は、IoT 等を通じた多品種小ロッ

ト化の一層の推進、最終的にはマスカスタマイゼーションとあいまって、従来

のアパレル産業等のビジネスモデルを抜本的に変革していく可能性がある。 従来のアパレルのビジネスモデルは、一部のオートクチュールやオーダーメ

イド商品等を除けば、一定の規格品を大量生産・見込み生産するものであるが、

見込み外れ等から過剰供給や不良在庫等の問題を常に抱えており、「繊維業界

では 6 割売れれば大成功」8とも言われる。不良在庫の値引き販売は、企業の

利益を圧迫するほか、消費者からの価格の信頼性を損ないかねない 9。値引き

8 セーレンの川田会長兼 CEO は、「繊維業界として、作った製品が 60%売れれば大成功、

40%はロス。多品種、小ロット、短納期、カスタマイズ、在庫レス、こういう要素をすべ

て解決しようと、ビスコテックスを開発した」と発言している。 9 繊維の業界団体である日本繊維産業連盟等が策定した「繊維産業の適正取引の推進と生

産性・付加価値向上に向けた自主行動計画」においては、会員企業は「消費者に対する正

Page 19: 生活製品における IoT 等のデジタルツールの活用に …...生活製品とは、広義には人々が生活に使用する製品一般を指すが、本研究会で

18

しても売れないものは廃棄され、環境負荷を一層高める 10。こうした値引き販

売と廃棄を前提とするビジネスモデルの持続可能性については、疑問視する向

きもある。 これに対し、マスカスタマイゼーションは、IoT 等を活用し、個々人の体型

や好み等に個別にきめ細かく対応した製品、究極的には一点物が大量生産の既

製品と同様の価格で入手できるというソリューションを提供することを可能

とするのみならず、受注生産により不良在庫に伴う値引きや廃棄を最小化する

ことで、価格の合理化(コストパフォーマンスの向上)や信頼性の確保、サス

テナビリティにも資するものである。 また、こうしたマスカスタマイゼーションは、上述の AI による需要予測や

提案型サービス等と結びつけば、更に高付加価値のソリューションを提供でき

る可能性がある。 このように、マスカスタマイゼーションは、未来の服作り等を根本的に変革

する大きな可能性を秘めている。上記で取り上げたセーレン、フクル、アシッ

クス、スタートトゥデイ、島精機、ミリメーター等の取組が今後も進展してい

くことが期待される 11。 また、マスカスタマイゼーションにより、生産性の向上、価格の合理化、環

境負荷の低減等を図るサステナブルなサプライチェーンの実現について、効果

検証を進め、本格的な社会実装を図ることが必要である。 更に、オートクチュールの側からもマスカスタマイゼーションの提案がな

されている。例えば、ファッションデザイナーの中里唯馬氏は、「オートクチ

ュールの民主化」とも言える発想で、各ユニットを組み合わせることで、一人

ひとりの身体に最適にフィットする「一点物」の服作りを試みており、「やが

て衣服は一点ものしか存在しなくなるでしょう」と述べている。 作り手と使い手の双方向のやりとりによる価値創造を含め、マスカスタマ

イゼーションの今後の発展が注目される。 価(プロパー価格等)の信頼性の維持・向上に努める」としている。 10 2015 年に国連サミットで採択された「持続可能な開発目標」(SDGs)、特に目標 12「持続可能な生産消費形態を確保する」に留意する必要がある。 11 スタートトゥデイの前澤社長は、ZOZOSUIT の発表に際し、「人が服に合わせる時代か

ら、服が人に合わせる時代へ」とのコンセプトを提示しており、また、「ZOZOSUIT は、

街頭やコラボ企業経由等、圧倒的速度で世界中に無料で配りまくり、体重計や体温計のよ

うに一家に一台の存在にします。そして、世界中のお客様の体型を最も知り尽くした企業

となり、そのデータを元に一人一人にピッタリの服を提供する、世界でも類を見ないファ

ッション企業を目指します」と述べている。

Page 20: 生活製品における IoT 等のデジタルツールの活用に …...生活製品とは、広義には人々が生活に使用する製品一般を指すが、本研究会で

19

オートクチュールからマスカスタマイゼーションへ 衣服は元来、着る人それぞれのために1着1着仕立てられていたが、20 世紀の大量生

産・工業化の時代の幕開けとともに、画一的で決められたサイズ・デザインの衣服を大量

に製造する既製服産業が確立していった。そのような中で一点生産高級品はオートクチ

ュール(高級仕立服)と呼ばれ、ごく限られた購買層向けの衣服となっていった。 伝統あるパリ・オートクチュールコレクションで活躍するファッションデザイナーの

中里唯馬氏は、自身のブランドである「YUIMA NAKAZATO」において、「オートクチュ

ールの民主化」を掲げている。従来の服作りにおける工程を、3D スキャナー、オートパ

ターンメイキング、デジタルファブリックカッター等の新しい技術で再構築し、新しい一

点生産システムを独自開発している。様々な素材をレーザーカッターで細断し、「ユニッ

ト」とよばれるパーツに成形して組み合わせることで、一人ひとりの身体に最適なシルエ

ットを造作するとともに、破損やスタイルチェンジに容易に対応することのできるサス

テナブルなオートクチュールプロダクトを発表した。 最新技術と融合したマスカスタマイゼーションの実現により、オートクチュールを再

定義することで、着る人だけのために仕立てられた究極の一点ものの服を世界の人にあ

まねく届けるという、衣服のひとつの未来を提示している。 なお、2018 年 2 月には、こうした取組の一環として、東レ株式会社の主催によるエキ

シビションが開催され、同年 1 月にパリ・オートクチュール・ファッションウィークで

発表された YUIMA NAKAZATO の最新コレクションと、YUIMA NAKAZATO が独自

に開発した革新的な衣服の生産システム、東レの環境配慮型人工皮革ウルトラスエード

PX を使用した新プロダクトが紹介された。

Page 21: 生活製品における IoT 等のデジタルツールの活用に …...生活製品とは、広義には人々が生活に使用する製品一般を指すが、本研究会で

20

4.スマートテキスタイル

IoT 社会においては、IT やセンサー技術の進化等を背景に、モノとモノがイン

ターネットを介してつながるのみならず、モノとヒトがつながることによる、新

たな付加価値の創出やソリューションの提供が期待される。こうした観点から、

モノとヒトをつなげる端末として、ウェアラブル端末が注目されており、実際、

ウェアラブル端末を用いて、ヒトの生体データ(バイタルデータ)やモーション

データ(身体の動き)をセンシングし、新たな付加価値のある製品やサービスの

創出を図る事例が生まれてきている。こうした中、生体データやモーションデー

タを取得する端末として、衣料等を用いたスマートテキスタイルの開発が各社

において進められている。 なお、スマートテキスタイルは、インテリジェントテキスタイル、e-テキスタ

イル、スマート衣料等とも呼ばれ、また、その対象とする範囲についても、ウェ

アラブル端末の一形態として電気・電子的な特性を有するテキスタイルのみを

対象とする捉え方もあれば、発熱等の機能を有する機能性テキスタイルまで広

く含めるものまで様々である 12。 本研究会では、生活製品における IoT 等のデジタルツールの活用という観点

から、電気を通す繊維(導電性繊維)等の素材を用い、着るだけで心拍・心電、

筋電、呼吸数等の生体データの取得や、繊維等の素材の伸縮を利用したモーショ

ンデータの測定ができるスマートテキスタイルを中心に検討を行った。

図 1 本研究会で対象としたスマートテキスタイルの領域

12 欧州標準化委員会(CEN)は、2011年に発行したテクニカルレポート(TR)(CEN/TR 16298:2011)に

おいて、スマートテキスタイルを「環境に相互作用する、すなわち環境に反応する、または、環境に適応

する機能性テキスタイル」と定義している。

Page 22: 生活製品における IoT 等のデジタルツールの活用に …...生活製品とは、広義には人々が生活に使用する製品一般を指すが、本研究会で

21

(1)スマートテキスタイルの現状 ① スマートテキスタイルを用いたサービス提供までの流れ

図2に、現在、開発が進められているスマートテキスタイルを用いたサービ

ス提供までの典型的な流れを示した。 初めに、衣類等に編み込まれた導電性繊維からなる電極や、衣類等に熱圧着

された導電性フィルム等の非繊維電極、あるいは衣類等の上に直接導電性イン

クを用いて印刷した電子回路の伸縮等により、心拍・心電等の生体データ 13や

体の部位のモーションデータ 14が取得される(センシング)(図2①②)。 次に、取得されたデータはトランスミッターを介し、外部サーバーに転送・

蓄積される(図2③)。トランスミッターに加速度センサーを内蔵することで、

姿勢や歩行等に関するデータも取得できる。 蓄積されたデータは特定のアルゴリズムにより解析され、専用のアプリケー

ションを通じてクラウドに共有され(図2④)、見守りや健康管理等のサービ

ス提供に利用される(図2⑤)。

図 2 スマートテキスタイルを用いたサービス提供までの典型的な流れ

② 日本におけるスマートテキスタイルの開発状況

国内においては、繊維・素材メーカー、スポーツアパレル、スタートアップ

企業や大学発ベンチャー等により、スマートテキスタイルの製品開発が進めら

れている。 各社のビジネスモデルとしては、スマートテキスタイルによる生体データの

13 心拍・心電データの取得の場合、まず、心臓の活動に伴う心起電力によって生じる電位分布の 2点を電

極で測定し、その電位差の時間経過から心電波形を計測する。次に、心電波形を分析することにより、心

拍数、呼吸等の二次情報が得られる。 14 モーションデータの取得の場合、体の動きに伴う衣服の伸び・縮みを電気抵抗や静電容量の値の変化量

として測定する。この変化量の大小を分析することで、どの程度体が動いたかの情報が得られる。

Page 23: 生活製品における IoT 等のデジタルツールの活用に …...生活製品とは、広義には人々が生活に使用する製品一般を指すが、本研究会で

22

センシングからサービス提供までを全て自社で内製化し、ワンストップでのサ

ービス提供を行う場合と、自社は電極等の素材の提供に専念し、トランスミッ

ターの開発、アルゴリズム解析、アプリケーションの開発、クラウド及びサー

ビスの提供は外部資源に委ね、他の事業者や大学等との連携により、製品化を

目指す場合がある。 前者のワンストップのビジネスモデルは、主にスタートアップ企業に見られ

るのに対し、後者の他の事業者との連携によるサービス提供は、主に繊維・素

材メーカーに見られる。 サービス提供の分野としては、建設作業員、ドライバー、高齢者等の見守り、

アスリートの体調管理や運動中の筋肉疲労度の把握、睡眠状態の可視化、姿勢

のチェック、ゲームのモーションコントローラー等の用途が検討されている。

一部の企業においては、サービスの本格提供を視野に入れた積極的な実証事業

や一般消費者への展開に向けた取組が見られている。 以下に日本における各社の取組事例を挙げる。

i)生体データの取得 導電性繊維からなる電極等をセンサーとして、生体データ(心拍・心電、筋

電、呼吸数等)を取得し、建設作業員やドライバー等の見守りや、アスリート

の体調管理や運動負荷量のモニタリングへの用途開発が進められている。 ■エーアイシルク株式会社 「フレキシブルシルク電極」 東北大学発ベンチャーとして 2015 年に創業した。染色の技術を応用して導

電性高分子を絹糸に付着させた、導電性の絹糸及び生地センサーである「フレ

キシブルシルク電極」を製造している。絹を用いているため、肌触りや吸水性

に優れることが特徴となっている。 国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が実施す

る研究開発型ベンチャー支援事業のうち、「シード期の研究開発型ベンチャー

(STS)に対する事業化支援」(平成 27 年度)、「企業間連携スタートアップ

(SCA)に対する事業化支援」(平成 28 年度)に採択された。 2018 年 1 月には、アシックスの投資子会社であるアシックス・ベンチャー

ズ株式会社より出資を受けることを発表し、両社の技術を融合し、生体データ

等を取得できるスポーツアパレルの開発を目指している。 ■倉敷紡績株式会社 「Smartfit」「熱中症リスク管理システム」 導電性繊維等を電極に用い、加速度計や温度計等を内蔵したトランスミッタ

ーを装備したスマート衣料「Smartfit」により、着用者の心拍数、衣服内の温度、

Page 24: 生活製品における IoT 等のデジタルツールの活用に …...生活製品とは、広義には人々が生活に使用する製品一般を指すが、本研究会で

23

加速度等の生体データを測定及び解析・評価するシステムで、作業現場のリス

ク管理をサポートするサービスの提供を目指している。大阪大学、信州大学、

(一財)日本気象協会、ユニオンツール株式会社、KDDI 株式会社、株式会社

セックと共同研究・開発推進体制を構築し、倉敷紡績が全体を統括している。 共同研究・開発推進体制において提供を目指すサービスは、着用者の生体デ

ータと作業現場地域の気象データとを独自のアルゴリズムにより解析し、着用

者の熱中症リスクや体調変化等を評価するものである。既に鹿島建設株式会社

や株式会社竹中工務店等の大手建設会社の協力の下、現場作業員のモニター調

査実施により、延べ約 7,000 名分の生体データ等を収集してアルゴリズムを構

築済みであり、2018 年 4 月頃にサービスの提供を開始する予定である。 併せて、全員が「Smartfit」を着用していなくても、そのエリア(集団)の熱

中症リスクを推定できるシステムも開発中である。将来的にはオリンピックや

パラリンピック、野球・サッカー等の野外大規模イベントでの活用や、高齢者

等の日常生活における熱中症リスク管理等も視野に入れながら、開発を進めて

いる。 ■グンゼ株式会社 「筋電 WEAR」「美姿勢チェック」 同社が有する編み技術(ニット技術)や着用安全性、快適性の評価技術に加

え、プラスチックフィルムやタッチパネルの製造で培った電子回路形成や表面

加工技術を融合した「ニット電極」及び「ニットセンサー」を開発している。

着るだけで姿勢や生体データ等を計測できるウェアの開発に取り組んでいる。 「筋電 WEAR」は、導電性繊維をニット生地にした「ニット電極」により、

全身の筋電を計測することができる。測定した筋電情報は、トランスミッター

を介してスマートフォンに転送されることにより、トレーニング中等の筋肉の

動きを可視化することができる。 「美姿勢チェック」は、ニットセンサーの伸縮による抵抗値変化を検知し、

着用者の姿勢を計測するウェアと、クラウドサービス(日本電気株式会社(NEC)と技術協力)を組み合わせたシステムであり、姿勢改善や腰痛・肩こり予防等、

ユーザーのニーズに応じたプログラムを提案する。 姿勢や心拍・心電、筋電等、様々な生体データを取得できるツールを持つと

いう強みを生かし、更なる用途開拓や実証、サービス構築を進めている。 ■帝人株式会社・関西大学 「圧電組紐」 帝人と関西大学が共同開発した圧電組紐は、ポリ乳酸繊維を使用した圧電体

を組紐状にしたウェアラブルセンサーである。日本の伝統技術である組紐の技

術を応用することで、「ねじり」や「まげ」といった従来のセンサーでは取得

Page 25: 生活製品における IoT 等のデジタルツールの活用に …...生活製品とは、広義には人々が生活に使用する製品一般を指すが、本研究会で

24

しにくい情報をスムーズに取得できることが特徴となっている。また、飾り結

びにすることにより、ファッション性が高まるとともに、センシングの感度が

向上する。 用途例として、飾り結びにした圧電組紐を首にチョーカー状に巻きつけるこ

とにより嚥下(のどの動き)や脈拍を検知することができるといった介護・医

療分野での見守り用途に加え、スポーツ分野では圧電組紐を使用したゴルフウ

ェアと、同じく帝人と関西大学が共同開発したロール状の圧電体「圧電ロール」

を用いた体重移動計測マットを組み合わせることにより、ゴルフのスイングコ

ーチングを行うことも可能である。また、2018 年 1 月には本技術を応用した

「圧電刺繍」も開発している。

■東洋紡株式会社 「COCOMI」 導電性シートを絶縁シートで挟んだ電極「COCOMI」は厚さ 0.3mm と非常

に薄いこと、柔軟性や伸縮性に優れること、自由な形にデザインできるととも

に圧着で貼り付けられること等が特徴となっている。 COCOMI 及びトランスミッターを搭載したウェア「スマートセンシングウ

ェア」では、心拍、心電、筋電の計測に加え、センサーの伸長を計測すること

で呼吸状態等を把握することができる。ウェア部分には吸汗速乾繊維や吸湿保

温繊維を用いるなど、着用者の「快適性」にも着目した製品開発を行っている。

なお、トランスミッター等はユニオンツールが開発を担っている。 中日臨海バス株式会社と連携したバス運転手向けの眠気検知システムや、カ

ーレーサーがトレーニングや練習時に着用することによる体調管理・運動負荷

量のモニタリング、東北大学と連携し、新たに開発した妊婦用スマートテキス

タイルを用いた産後うつの研究等の実証実験を行うとともに、競走馬の心拍数

測定用腹帯カバーにも採用されている。 ■東レ株式会社・NTT 株式会社 「hitoe」 「hitoe」は、東レと NTT 物性科学基礎研究所が共同開発した、直径 700 nmのナノファイバーニットに導電性高分子 PEDOT-PSS を含浸させた繊維製の

電極である。ナノファイバーで構成されていることから柔軟性に優れ、身体

への密着性が高いことに加え、導電性高分子がナノファイバーの隙間に入り

込んで固着することから、長期間の着用や洗濯耐久性に優れること等が特徴

となっている。 hitoe を用いたスマートテキスタイル「hitoe ウェア」では、着用者の心拍・

心電の計測とともに、トランスミッターに内蔵された加速度センサーにより

体の傾き(転倒)の計測も可能である。2014 年に株式会社ゴールドウィンか

Page 26: 生活製品における IoT 等のデジタルツールの活用に …...生活製品とは、広義には人々が生活に使用する製品一般を指すが、本研究会で

25

らスポーツウェア「C3fit IN-pulse」として発売されたことに加え、2015 年か

ら hitoe ウェアを用いて、大林組と連携した建設現場作業員の熱中症対策シス

テムの実証実験を開始した。また、2016 年には、京都大学や熊本大学と連携

したドライバー向け眠気探知システムの実証を開始した他、同年にドイツの

SAP 社と連携し、運転手の運転挙動データと「hitoe ウェア」を用いた運転手

の生体情報データを総合的に分析し、安全運転を支援するシステムを開発し

た。これらの他にも、全日本空輸株式会社(ANA)との連携による飛行機内

での赤ちゃんモニタリングシステム等、様々な用途及び連携先との実証実験

に取り組んでいる。

2016 年 8 月には hitoe ウェアを用いた、企業・団体向け安全管理システム

「hitoe 作業者見守りサービス」を開始している。 ■ミツフジ株式会社 「hamon」 繊維を銀めっきした導電性繊維「AGposs」の開発、製造、加工から、トラン

スミッターの製造やアプリケーションの開発といった、「糸からクラウドまで」

を 1 社で提供している。また、同社製の銀めっき繊維は国内外の各社のスマー

トテキスタイル製品にも広く採用されている。 同社のスマートテキスタイル製品「hamon」は、銀めっき繊維を電極として

使用した着衣型ウェアラブルデバイスである。胸部に編み込まれた銀めっき繊

維の電極から、心拍・心電、呼吸数等を計測することができる。ウェアの製造

には、島精機の無縫製のニットウェアシステム(ホールガーメント)技術を採

用している。これまで実施した実証事業の例(実施中含む)として、建設現場

作業員の健康管理、ボクシングやバスケットボール等のプロスポーツ選手の体

調管理、介護施設の入居者の見守り等が挙げられる。 また、フランスのスタートアップ企業の BioSerenity 社とも連携し、「てんか

ん発作を予測するシャツ」を共同開発し、脳波を計測する帽子とともに欧州で

医療機器認証を取得済みであり、フランス、ドイツ、ベルギー等の約 30 の医

療機関で利用が開始されている。 同社の導電性繊維の内製化や米国市場調査等について、経済産業省の「もの

づくりサプライチェーン再構築支援事業」(平成 27 年度)に採択された他、上

記のてんかん発作の予測技術については、更に、日本医療研究開発機構(AMED)

の「先端計測分析技術・機器開発プログラム」(平成 29 年度)に採択されてい

る。 2018 年 3 月には、「hamon」を一般消費者向けに展開することを発表した。

2018 年 5 月を目途に、「hamon」(ウェア及びトランスミッター)自体は無料で

提供した上で、データ確認用のスマートフォンアプリを月額利用料制とするこ

Page 27: 生活製品における IoT 等のデジタルツールの活用に …...生活製品とは、広義には人々が生活に使用する製品一般を指すが、本研究会で

26

ととしている。

ii)モーションデータの取得 導電性繊維からなる電極等の伸縮を利用して、モーションデータを取得し、

スポーツ分野におけるアスリートの体の動きの分析や、ゲーム等のモーション

コントローラー等への用途開発が進められている。また、今後は、導電性繊維

等を通じて、力や振動、電気信号等の外部刺激を体に与えることによる、リハ

ビリテーションや、疑似的に皮膚感覚を作る触覚技術(haptics)への応用も期

待される。 ■H2L 株式会社・NTT 株式会社 「触感型インターフェース」 H2L 社のモーションキャプチャー及び電気的筋肉刺激(Electrical Muscle Stimulation, EMS)コントロール技術と、東レ・NTT が開発した hitoe の評価技

術を活用し、hitoe を介して腕に電気刺激を与えることにより、VR ゲーム等で

の触感型デバイスとしての用途を提案している。 ■StretchSense・株式会社スタートトゥデイ 「ZOZOSUIT」 上述の「ZOZOSUIT」は、ニュージーランドのスタートアップ企業

StretchSense 社の技術である伸縮型シリコンセンサーを用い、体型を計測する

ウェアである。ウェアに内蔵されたセンサーの伸縮に伴う静電容量の変化から、

着用者の体のサイズを計測することができる。計測されたデータは、胸部に取

り付けられたデバイスにスマートフォンをかざすことで、専用アプリを通じて

確認することができる。 ■株式会社 Xenoma 「e-skin」

Xenoma は、東京大学の染谷隆夫研究室と科学技術振興機構の戦略的創造研

究推進事業(JST ERATO)の「染谷生体調和エレクトロニクスプロジェクト」

からのスピンオフベンチャーとして、2015 年に創業した。ウェアの上に形成

した伸縮性回路により、着るだけで体の情報をセンシングする機能を備えたス

マートアパレル「e-skin」を開発し、事業化している。高い伸縮性、引張耐久

性、洗濯耐久性を持つことが特徴となっている。 NEDO が実施する「シード期の研究開発型ベンチャー(STS)に対する事業

化支援事業」(平成 27 年度)の採択を受け、「e-skin Developer’s Kit」を上市し

た。スポーツ分野を中心に国内外で既に 100 着程度を販売しているとともに、

2018 年 1 月に米国(ラスベガス)で開催された世界最大級の家電見本市 CES (Consumer Electronics Show) 2018 では、ドイツのファッションブランド「HUGO

Page 28: 生活製品における IoT 等のデジタルツールの活用に …...生活製品とは、広義には人々が生活に使用する製品一般を指すが、本研究会で

27

BOSS」と連携し、ゴルフ用 e-skin のプロトタイプを発表した。 また、ゲームやスポーツ用途のみならず、ドイツのエッセン大学に「e-skin

pajama」を提供し、パーキンソン病や認知症患者の歩き方を捉える実証実験に

も活用される予定であるとともに、赤ちゃんや高齢者の見守りや、工場での安

全管理の実証、予防医療等への応用も目指している。 ■ヤマハ株式会社・カジナイロン株式会社 「データグローブ」 グローブに伸縮性センサーを組み込むことで、手の動きを解析できるグロー

ブを開発している。センサーには、ヤマハが開発したカーボンナノチューブを

用いた伸縮性センサーを使用しており、センサーの間をつなぐ伸縮性配線には

カジナイロンのストレッチャブルケーブルを使用している。ピアノ演奏者の演

奏解析・評価ツールへの応用や、VR・モーションキャプチャー用グローブと

しての展開が想定されている。 ③ 海外におけるスマートテキスタイルの開発状況

海外においても、様々なスマートテキスタイルの開発が進められている。衣

類等を用いたスマートテキスタイルによる生体データ等の取得から、トランス

ミッターを介したデータ転送、アルゴリズムの解析、専用アプリケーションの

開発によるサービス提供までの一連の流れは日本と同様であるが、海外におい

ては、欧米はもとより、香港や台湾においても、具体的な用途開発やサービス

展開が進んでいる。 例えば、米国では、スポーツ分野において、アスリートの体調管理・運動負

荷量のモニタリングや、一般ユーザーを対象とした、効果的なエクササイズや

ランニング等のコーチング、運動中の事故防止等を目的とした製品開発事例が

多く、既に商品化され、オンライン等で一般向けに販売されているものがある。

更に、その商品分野も衣類のみならず、靴のインソール、靴下、スポーツブラ

等、多様である。 フランスにおいては、医療分野において、パリ市内の総合病院に拠点を置く

スタートアップ企業(後述の BioSerenity 社)が、病院との協働により、てん

かん発作をリアルタイムでモニタリングできるシステムを開発し、実際の医療

現場を活用した大規模実証が行われている例がある。 ニュージーランドのスタートアップ企業である StretchSense 社においては、

伸縮型センサーの電気的な変化(静電容量の変化)により人体サイズを計測す

るスーツを開発・製品化し、前述のスタートトゥデイ社にも当該技術を提供し

ている。 以下に海外における各社の取組事例を挙げる。

Page 29: 生活製品における IoT 等のデジタルツールの活用に …...生活製品とは、広義には人々が生活に使用する製品一般を指すが、本研究会で

28

i)生体データの取得 ■Adidas(ドイツ) 「MiCoach Heart rate monitor」 胸部に付けるベルト部分に導電性繊維を使用したランニング・フィットネス

向けウェアラブルデバイスを、米国の Textronics 社の技術を用いて開発した。

胸部に巻き付けることでトレーニング中の心拍数を計測する。なお、2018 年

末を以てサービスを終了すると発表している。

■Advanpro(香港) 「Softceptor」 歪みを計測するテキスタイルセンサーを開発している。伸縮性があり、洗濯

も可能である。靴のインソール、衣服、マットレス等に製品を展開している。

■AIQ(台湾) 「BioMan」 導電性繊維としてステンレススチール繊維を用いた衣料型デバイスを開発

している。心拍・心電、呼吸数、体温等の測定が可能である。ランニング、マ

ラソン、サイクリング等のフィットネス用途向けに商品化している。 ■BioSerenity(フランス) 「Neuronaute」

導電性繊維を用いた帽子とシャツにより、着用者の心拍数、脳波、筋電等の

生体データを計測し、てんかんの発作を予測する。欧州の複数の病院で導入さ

れており、導電性繊維にはミツフジ社の銀めっき繊維を使用している。 ■Dupont(アメリカ) 「Intexar」

伸縮性導電性インク及びフィルムを用いたフレキシブルセンサーを開発し

ている。導電性インクを用いて自由に配線パターンを設計することが可能で

ある。衣料に貼り付けることで、心拍・心電、呼吸数、筋電、動き等を測定す

ることが可能である。ランニング、フィットネス、ヘルスケア用途での展開を

想定している。 ⅱ)モーションデータの取得 ■Bebop Sensors(アメリカ) 「Smart fabric」

圧電材を含んだ導電性インクを生地に含浸した圧電テキスタイルを開発し

ている。圧力、曲げ、伸縮、捻り等の動きを検知できることから、モーション

キャプチャー用グローブ、カーシートセンサー等への展開を想定している。

■EHO textiles(フィンランド) 「Smart Socks, Horse monitoring system 他」 ニットマシンを用いて、導電パターンを編み込み、圧力や伸長を検知できる

Page 30: 生活製品における IoT 等のデジタルツールの活用に …...生活製品とは、広義には人々が生活に使用する製品一般を指すが、本研究会で

29

導電性ニットを開発している。様々なサイズや形態のセンサーを作成するこ

とができる。ランニング、フィットネス、モーションキャプチャー、エクササ

イズ用途での展開を想定している。 ■Google、Levis(アメリカ) 「Commuter Trucker Jacket」

Google「Project Jacquard」の一環として開発している。導電性繊維を袖口に

織り込むことにより、袖をタッチ・スワイプすることでスマートフォンを操作

できるデニムジャケットであり、開発には有限会社澤井織物工場(八王子市)

等、国内企業も複数参画している。350 米ドルで販売中である。 ■Sensoria(アメリカ) 「Smart Socks」 導電性繊維を使用した靴下を開発・商品化している。ランニングやフィット

ネス用途に一般向けに販売している。足首に装着するアンクレット型のトラン

スミッターを介して、走るリズムや着地の仕方等の運動量のデータをスマート

フォンに転送することが可能である。 ■StretchSense(ニュージーランド) 「Stretch sensor」

伸縮型シリコンセンサーの静電容量の変化により、動き、圧力、伸縮、曲げ、

サイズ等を検知できる。スタートトゥデイ社の「ZOZOSUIT」に採用されてい

る。この他、ヘルスケア、ランニング、フィットネス、VR 等の用途が想定さ

れている。

CES2018 におけるスマートテキスタイルの出展

2018 年 1 月に米国(ラスベガス)で開催された世界最大級の家電見本市である CES( Consumer Electronics Show)2018 にスマートテキスタイルの製品・サービスが出展

され、注目を集めた(世界中から約 4,500 の企業が出展した中で、スマートテキスタイル

を含むウェアラブル端末を出展した企業は 584 に上る)。 スマートテキスタイルは、ウェアラブル端末や Fitness & Technology 等が出展される

エリア「Sands Expo」、スタートアップ企業が集結する「Eureka Park」等で様々な製品・

サービスが展示された。 日本企業では、ミツフジと Xenoma が出展し、国内外の関係者や報道機関等からの注

目を集めた。Xenoma が出展した「e-skin」は、海外大手アパレルメーカー「HUGO BOSS」との共同開発の発表等により大きな注目を集めたほか、米国のテクノロジー情報メディ

ア「Engadget」の選ぶ Best of CES 2018 に選出された。

Page 31: 生活製品における IoT 等のデジタルツールの活用に …...生活製品とは、広義には人々が生活に使用する製品一般を指すが、本研究会で

30

④ 日本と海外との比較 前述のとおり、スマートテキスタイルの開発は海外でも積極的に進められて

いるが、海外の事例との比較における日本の強みとしては、繊維・素材メーカ

ーが有する高度な染色・精練加工技術、ナノファイバー技術、無縫製技術等を

用いて身体密着性を高めたり、吸汗速乾繊維や吸湿発熱繊維を用いて快適性を

追求するなど、様々な工夫が凝らされていることが挙げられる。すなわち、生

体データのセンシングにおいて重要な技術要素となる電極としての性能を保

ちつつ、衣類としての着心地や快適さも同時に追求した製品開発は、他国にお

いて例はなく、日本がリードしている。また、トランスミッター部分のデバイ

スとしての性能の高さにも強みを有している。 他方、海外においては、電極の性能やウェアとしての着心地や快適さよりも、

具体的な用途開発、迅速な製品化、短い製品サイクルでの市場への投入等、出

口を明確に意識して開発が進められている。また、フランスにおいては、デザ

イン性を考慮したスマートテキスタイルの製品開発が進んでいる。 これに対し、日本においては、生体データ等を計測できる高機能なスマート

テキスタイル素材やシステムを開発したものの、ニーズが吸い上げられず、具

体的な用途やユーザーの開拓に事業者が苦慮し、いまだ製品化に至らない事例

が見られる。 IDC ジャパン株式会社が、2017 年 9 月に公表したウェラブル端末について

の市場予測によれば、「靴・衣類型端末」の世界出荷台数が、2017 年の 280 万

台から 2021 年には 1,160 万台へと拡大し、ウェアラブル端末に占める「靴・

衣類型端末」の市場シェアについても、2017 年の 2.3%から 2021 年には 5.1%へと拡大する見込みとなっている。 これに対し、日本の国内市場では、「靴・衣類型端末」の出荷台数は、2017

年の 800 台から 2021 年には 5,600 台に、ウェアラブル端末に占める「靴・衣

類型端末」の市場シェアについても、2017 年の 0.1%から 2021 年には 0.4%に

拡大する見込みであるが、世界市場全体の規模や拡大の程度に比して、極めて

低い現状及び予測となっている。 このことは、海外に比して、日本のスマートテキスタイルの実用化が遅れて

いることを示している。

Page 32: 生活製品における IoT 等のデジタルツールの活用に …...生活製品とは、広義には人々が生活に使用する製品一般を指すが、本研究会で

31

表 1 ウェアラブル端末の市場予測(IDCJapan)

⑤ ウェアラブル端末におけるスマートテキスタイルの優位性

身体に装着して使用する小型の電子機器は、1970 年代末頃から製品化され

始めたが、その機能は現在のウェアラブル端末と大きな隔たりがあった。イン

ターネット接続機能や高度な無線通信機能を装備した現代型のウェアラブル

端末が技術的に実現可能となったのは、インターネットが広く普及して以降

2000 年に入ってからとされており、その関連技術は PC やスマートフォン、

タブレット PC 等に応用されて普及が進んだ。その結果、リストバンド型、メ

ガネ型、ベルト型等、様々なタイプのウェアラブル端末が製品化されている。 他のウェラブル端末と比較して、スマートテキスタイルのウェアラブル端末

としての優位性としては、ウェアラブル端末が小型化、軽量化、フレキシブル

化(折り曲げや伸縮性)の要求に対応しながら進化を続けている中において、

スマートテキスタイルは、軽量化やフレキシブル化が容易であり、身体の動き

Page 33: 生活製品における IoT 等のデジタルツールの活用に …...生活製品とは、広義には人々が生活に使用する製品一般を指すが、本研究会で

32

への追従性に優れる伸縮性、通気性及び洗濯耐久性も付与できる点が挙げられ

る。 また、スマートテキスタイルは電極(センサー)を体表面(特に心臓部)に

密着させることで生体データ等を取得することにより、他のウェアラブル端末

に比べて取得データの精度が高いことに加え、体を覆うことができるため、複

数個所での計測や全身の動きの測定が可能である。更に、「服を着る」という

日常的な行動の中で着用ストレスが少なく生体データを取得することができ、

長時間の測定に適するという優位性がある。 スマートテキスタイルの開発においては、こうした優位性を活用して、実際

にどのようなソリューションを提供できるかが重要である。 (2)スマートテキスタイルにおける課題

ここまで、スマートテキスタイルの国内外の取組事例について概観してきた

が、現状では開発・実証段階のものが多く、今後、実用化や製品・サービスの

普及を図っていく必要がある。その際、単に技術を高め、製品を完成させるだ

けではなく、製品を介したサービス・ソリューションの提供や、新たなビジネ

スモデルの構築、異分野との連携等に取り組むことが求められる。 以上を踏まえ、今後、スマートテキスタイルの市場の確立、普及・促進、裾

野の拡大等を図るべく、以下で今後の課題や必要な取組を整理する。 ① 要素技術の開発 スマートテキスタイルに係る今後の技術的な課題として、スマートテキスタ

イルを構成する要素技術の開発がある。スマートテキスタイルの「高い精度で

心電波形を測定できる生体センサー」という強みを活かし、センサーとしての

機能の更なる向上を図りながら、装着感を最小化していくような取組が各社の

開発テーマの一つになることが考えられる。 具体的には、革新的な電極素材の開発、導電性素材の配線材料の高性能化、

電子回路材料をテキスタイルに実装するための実装・接合技術、装着感を限り

なく減らすための配線技術の開発、回路の接続信頼性の確保、洗濯耐久性の向

上等、要素技術の開発が必要である。 併せて、スマートテキスタイルを社会に広く普及させていくためには、自立

型電源の開発、通信・ネットワーク技術、各産業・用途別のアルゴリズムの解

析とアプリケーションの開発等、周辺技術の開発も行われる必要がある。 最近では、テキスタイルへの接合・接着技術として、低温・低荷重でセンサ

ーを基布に接合する技術や、導電性物質を配合した接着剤を活用し基布に直接

回路を形成する技術等の開発が進んでいる。また、自立型電源として、金属線

Page 34: 生活製品における IoT 等のデジタルツールの活用に …...生活製品とは、広義には人々が生活に使用する製品一般を指すが、本研究会で

33

に薄層をコーティングし、陰極と陽極を作製した布帛型の有機薄膜電池、球体

の太陽光発電素子と導電糸を編み込んだ太陽光発電テキスタイル、伸縮性・耐

水性を持つ超薄型有機太陽電池等、ウェアラブル端末用電源の開発にも進展が

見られる。 今後、こうした技術の取り込みがスマートテキスタイルの普及を促すために

も必要である。

スマートテキスタイル関連技術 <太陽光発電繊維・テキスタイルの開発> 〇「超薄型有機太陽電池」(理化学研究所、東京大学) 厚さ 3μm の超薄型有機太陽電池であり、十分なエネルギー変換効率に加え、洗濯可能

な伸縮性・耐水性を有する。衣服に貼り付けるなどにより、ウェアラブル端末用電源等の

用途が想定されている。JST 戦略的創造研究推進事業個人型研究(さきがけ)「素材・デ

バイス・システム融合による革新的ナノエレクトロニクスの創成」(平成 26 年度)の成

果を活用している。

〇「布帛型太陽電池」(住江織物株式会社、東京工業大学、信州大学) 金属線へ薄層をコーティングした繊維状の有機薄膜電池であり、室内光での発電や曲

面への設置が可能である。ウェアラブル端末の電源としての活用や、カーテン等に用いる

ことによって光量を検知するセンサーとして活用すること等が想定されている。NEDOが実施する研究開発プログラム「グリーンセンサ・ネットワークシステム技術開発プロジ

ェクト」(平成 23~24 年度)での成果を活用している。

〇「太陽光発電テキスタイル」(松文産業株式会社、スフェラーパワー株式会社、ウラセ

株式会社、福井大学、福井県工業技術センター) 直径 1.2 ㎜の球体である太陽光発電素子を織り込んだ織物であり、防水加工されてい

るため、屋外での使用も可能である。防災用太陽光発電テントとして、北海道上砂川町で

使用されている。中小企業庁戦略的基盤技術高度化支援事業(平成 24~26 年度)での成

果を活用している。

<テキスタイル等への接合・接着技術> 〇「MonsterPAC」(コネクテックジャパン株式会社) 低温・低荷重で、センサー(半導体チップ)を基盤に接合する技術により、テキスタイ

ルやセラミック等、従来の高温・高荷重では接合ができなかった基盤材料にセンサー等を

装着することが可能である。独立行政法人中小企業基盤整備機構主催の「Japan Venture Awards 2018」で中小企業庁長官賞を受賞している。

Page 35: 生活製品における IoT 等のデジタルツールの活用に …...生活製品とは、広義には人々が生活に使用する製品一般を指すが、本研究会で

34

〇「導電性接着剤」(セメダイン株式会社) 接着剤に導電性物質を配合することにより、導電性とともに、低温硬化性、柔軟性を有

する。接着用途の他、衣類やフィルム上へ直接回路を形成すること等が可能である。

② ソリューションの創出とビジネスモデルの構築

スマートテキスタイルの普及に向けては、消費者の生活の質の向上や社会的

課題の解決に資するソリューション志向の製品・サービスの開発が求められて

いる。実際に、サプライチェーンの上流に位置する繊維・素材メーカーには、

川下のデバイスの開発や製品化を行う際、今後の需要拡大が期待される市場の

顧客ニーズや課題の吸い上げが必ずしも十分に出来ておらず、具体的な用途開

発に苦慮しているものも見受けられる。 このため、開発した技術ありきで用途探索を行うのではなく、自前主義から

脱却も念頭におき、社会的課題やニーズを把握した上で、製品化に向けた出口

イメージ(ターゲット)を明確にし、それに応じたビジネスモデルを構築する

ことが求められる。 新たなニーズ開拓を目的に、介護・建設現場等でのスマートテキスタイルを

用いた実験や実証事業に積極的に取り組み、具体的なニーズの吸い上げと概念

検証(Proof of Concept)を繰り返しながら、実用化に結び付けていく事例も増

えつつある。今後とも、こうした取組が一層活発になることが期待される。 また、ビジネスコンテスト等で多くのアイデアを集め、その中から新たなニ

ーズを見つけていくというアプローチも有効と考えられる。 特に、繊維・素材メーカーによる「サービス化」への取組も一層促される必

要がある。IoT、AI 等のデジタルツールの発展や、新興国メーカーの台頭等に

伴い、技術の寿命は短くなり、短期間でコモディティ化する中、スマートテキ

スタイル分野についても他のものづくり分野と同様に、モノを通じたサービ

ス・ソリューション提供が求められている。積極的な異分野連携やニーズの吸

い上げを通じて、意識的にサービス化やソリューションの展開に取り組むこと

が必要である。 ミツフジは、自社のスマートテキスタイルウェアを無償で提供し、自社開発

のアプリケーションの月額利用料金により利益を得るビジネスモデルを開始

しており、モノを通じたサービス・ソリューションの提供という観点において、

非常に注目される。 スマートテキスタイルの普及に向けたビジネスモデルとしては、消費者をタ

ーゲットとする B to C ビジネスよりも、便益と費用のバランスが見合う分野

(例えば、建設事業者や介護事業者を対象とした B to B to C ビジネス)を念頭

に置いた実証事業が多く行われている。こうした B to B to C ビジネスでの実

Page 36: 生活製品における IoT 等のデジタルツールの活用に …...生活製品とは、広義には人々が生活に使用する製品一般を指すが、本研究会で

35

績を積み重ねることで、将来的には用途に応じて、B to C ビジネスを展開し、

スマートテキスタイルの裾野が広がっていくことが期待される。 ③ 異分野連携の促進 これまで日本におけるスマートテキスタイルの開発は、主に繊維・素材メー

カーが主体となって進められてきたが、最近では、プリンテッドエレクトロニ

クスや微細回路の作製技術等を活用した電気・電子機器業界からの参入も見ら

れている。スマートテキスタイルを普及していくためには、繊維・素材と電気・

電子機器の両業界の技術の融合は必須であり、更にはセンサー技術やネットワ

ーク技術、アルゴリズム解析、アプリケーション開発、セキュリティ対策等、

幅広い技術を組み合わせることが必要となってくる。このため、これらの業界

間での異分野連携を進めていくことが重要である。 特に、スマートテキスタイルの参入企業の多くが市場の本格的な立ち上がり

のために必須であると考えていることは、スマートテキスタイルで取得したデ

ータの活用・提供方法の確立である。取得した生体データが心電波形としてア

ウトプットされるだけでは、ユーザーにとっての価値は低く、データをどのよ

うに解析し、どのような方法でユーザーに提供するのか、すなわち、アルゴリ

ズム解析とアプリケーション開発の重要性が増している。このような幅広い技

術を自社のリソースのみで対応することは難しく、また、新たな事業アイデア・

提供サービスの開発等にも取り組む必要がある。これらは、既存の業種の枠組

みの中では生まれにくいことから、業種の枠を超えて、ユーザーとも連携しな

がら、潜在的なリソースを探索することができるオープンイノベーションの場

づくりが必要である。 ④ 協調領域と競争領域の設定

スマートテキスタイルの実用化に当たっては、前述のとおり、素材開発のみ

ならず、データのアルゴリズムの解析、専用アプリケーションの開発、クラウ

ドの提供、クラウド内での課金システムといった費用回収のためのビジネスモ

デル等の検討が必要となるが、同業者間で共通する事項については、共有化で

きる仕組みが必要との声もある。 例えば、生体データ等の取得に際してのデータ標準化等、スマートテキスタ

イルの市場開拓を目指す同業者間で連携し取り組むことは、各社による取組の

重複や負担を軽減し、各社の製品開発の効率性を向上させることにつながる。 こうした同業者間の協働を促していくためには、各社が協調領域と競争領域

を区分し、可能な部分は他社と連携していくことが必要である。協調領域と競

争領域の設定に当たっては、スマートテキスタイルの関係事業者をメンバーと

Page 37: 生活製品における IoT 等のデジタルツールの活用に …...生活製品とは、広義には人々が生活に使用する製品一般を指すが、本研究会で

36

したワークショップやフォーラム(スマートテキスタイル推進会議(仮称))

の開催等により、共通知の括りだしと各社が担う領域に係る情報交換を行う場

を作ることも有効である。 ⑤ 国際標準化の推進

スマートテキスタイルの実用化を促し、ユーザーによるスマートテキスタイ

ル製品の利用を拡大していくためには、用語、性能、性能を評価するための試

験方法等の標準化が必要である。 電気関係の国際標準規格を策定する会議体である IEC(国際電気標準会議)

においては、2017 年秋に、「ウェアラブルデバイス及びテクノロジー」の一形

態として、スマートテキスタイルの標準化の議論(TC124)が開始された。2018年 5 月には、第2回の総会がイギリスで開催される予定であり、国内では、電

子情報技術産業協会(JEITA)に設置した「ウェアラブルエレクトロニクス標

準化専門委員会」において、日本からの具体的な提案を検討しているところで

ある。 今後、スマートテキスタイル分野における競争領域と協調領域を見極め、日

本が強みを持つ領域を生かしつつ、標準化を通じて、市場を創出・拡大するこ

とが重要である。このため、事業者による標準化に向けた取組に対する経済産

業省の支援の活用等が期待される。 ⑥ 日仏共同プロジェクトの推進

経済産業省は、2014 年にフランス経済財務産業省との間において、両国の

学会、産業界の参加を得つつ、日本の先端繊維素材とフランスの製品加工技術

のマッチングによるグローバル市場の共同開拓の可能性の追求を目指し、繊維

分野における日仏協力に関する協力文書を締結している。 2017 年 5 月に当該協力文書の改訂期限を迎えるに当たり、日仏協力の柱の

一つとして、スマートテキスタイルを戦略的な分野として明記し、今後、日仏

両国においてスマートテキスタイルに係る共同開発プロジェクトを組成して

いくこととなっている。 当該共同プロジェクトの実施に当たっては、NEDO が実施する国際的なコフ

ァンド事業(日仏研究開発協力事業)等の活用も視野に入れられており、日仏

両国の産業界等には、スマートテキスタイル分野のフラッグシップとなるよう

な両国の優れた技術を用いたイノベーティブな開発テーマの提案が期待され

る。

Page 38: 生活製品における IoT 等のデジタルツールの活用に …...生活製品とは、広義には人々が生活に使用する製品一般を指すが、本研究会で

37

(3)スマートテキスタイルにおける将来像 衣服の歴史を遡れば、太古に防御・防寒といった身体の保護機能から始まり、

その後、文明・文化の発展に伴い、地位や権威の象徴、あるいはファッション

等の自己表現といった社会的記号として進化し、近年では、快適さ等の機能性

の追求が進んでいるが、スマートテキスタイルは、こうした衣服にセンサーと

いう全く新たな機能を付与するという意味で、衣服の歴史に新たなページを開

くものである。 また、計測用センサーについて見ても、従来、「固い」機器であることが常

識であったが、近年では、導電性素材の製造技術やフレキシブルエレクロトニ

クス等の発展により、柔軟性や伸縮性を持つ「柔らかい」センサーが普及し始

めており、センサーと人との距離は物理的にも心理的にも大きく近づいている。 スマートフォンの普及等もあり、一人当たりが使用するセンサーの数も年々

増えている中 15、リストバンド型、メガネ型、ベルト型等に次いで、衣服がセ

ンサーとなることは自然な流れであるとも言え、最終的には、端末として機能

しつつ、端末として認識されない衣服になることが期待される。 このように、衣服がセンサーとなるスマートテキスタイルは、将来的に私た

ちの衣服に対する認識を根本的に変えていく可能性を有している。 こうしたスマートテキスタイルにより、生体データやモーションデータの精

密な常時計測が日常生活の中で可能になることで、現在開発中の見守りサービ

スや体調管理等に加え、将来的には、例えば、以下のような可能性が考えられ

る。 今まで以上に自らの体を知り、向き合うことで、未来のための選択や行

動が出来るようになる。例えば、毎日の体調管理により、体調不良の予

測が可能になる。また、睡眠時に着用してデータを蓄積することで、睡

眠の質の向上につなげることが出来る。 高齢者の健康状態を遠隔に住む家族が知ることができるとともに、かか

りつけ医による健康状態の遠隔管理が可能となり、長期間のモニタリン

グを通じた病気の予防や未病の検知といった医療サービスの登場も期

待できる。 スポーツ分野においては、プロスポーツ選手のトレーニング強化や体調

管理に加え、プロの理想のフォームを定量的に分析することで、一般の

15 産学連携の国際フォーラムである「Trillion Sensors Summit」では、毎年 1 兆個のセンサ

ーが使用される「Trillion Sensors Universe」を 2023 年までに目指すという目標を掲げてい

る。世界の人口が 76 億人(2017 年時点、国連推計に基づく)として、一人当たり約 130 個の

センサーに相当する。

Page 39: 生活製品における IoT 等のデジタルツールの活用に …...生活製品とは、広義には人々が生活に使用する製品一般を指すが、本研究会で

38

ユーザーでも同様の動きを再現したトレーニングを受けることが可能

になる。 建築現場や工場等の過酷な労働環境下にある作業員が着用することで、

作業現場における体調管理を可能にするとともに、一般の職場でもスト

レス状況や疲労度の計測等を通じた職場環境の改善に貢献する可能性

がある。 ゲームのコントローラーとして着用者の動きをリアルタイムにゲーム

画面に反映したり、触れるだけで衣服が光や音を発するファッション

やコミュニケーション用途としての活用も考えられる。 生体データやモーションデータを取得するだけではなく、電極から微

弱電流を流し、体に電気刺激を与え、あたかも物に触れているような

感覚を与えることで、ゲームにリアル感を持たせたり、人工筋肉等の

アクチュエーターとしてリハビリテーション等に活用することも考え

られる。 スマートテキスタイルによって精密に常時計測された生体データに関

するビッグデータの蓄積・活用は、医学等の発展や様々なソリューシ

ョンの開発にも寄与することが期待される。例えば、実際に長時間の

生体計測データから、今まで全く気付かなかった予兆や傾向、メカニ

ズムが明らかになるかもしれない。

このように、スマートテキスタイルの未来は、まだ事業者も消費者も気づい

ていない、私たちの生活をより一層豊かにする、あるいは一変させる新しい「価

値」を提供できる無限の可能性を秘めている。

Page 40: 生活製品における IoT 等のデジタルツールの活用に …...生活製品とは、広義には人々が生活に使用する製品一般を指すが、本研究会で

39

5.生活製品における IoT 等の活用に共通する課題

ここまでファッションテックやスマートテキスタイルを中心に、それぞれの

現状、課題、将来像等について整理してきたが、IoT 等の活用に関し、両分野を

含め生活製品全般に共通する課題として、データ利活用の環境整備及びスター

トアップ企業に対する支援が挙げられる。 (1)データ利活用の環境整備 第四次産業革命の下、企業の付加価値や競争力の源泉は、データやその分析

方法、これらを活用した製品やビジネスモデルに移り変わりつつある。 ファッションテックやスマートテキスタイル等においても、IoT や AI 等に

よって収集・分析された購入データや生体データ等を活用して、新たなソリュ

ーションの開発・提供が進められているが、取得されたデータや当該データか

ら解析した二次加工データを利用する場合に、そのデータの権利や事業者間で

の契約関係等、従来のビジネスモデルでは考慮する必要のなかった課題が生じ

る可能性があることに留意する必要がある。 ① データの利用権限

IoT や AI 等の活用によって収集されたデータの利活用を進めるに際し、事

業者間でデータ連携を行い、新たな付加価値を創出するようなビジネスモデ

ルが想定されるが、データの利用権限やデータの取扱いについて事業者間の

契約において定めていないと、データの利活用が進まない、または、事業実施

後のトラブルとなる事態が考えられる。 経済産業省等では、データ利活用におけるこれらの課題を解決すべく、「デ

ータの利用権限に関する契約ガイドライン」16を策定している。このガイドラ

インでは、あらゆる事業者の契約において、契約に基づく取引に関連して創出

されるデータに関する権限を定める際の考え方が整理されている。また、本ガ

イドラインは、事業者の活用状況等を踏まえ、継続的な改訂が予定されている。 IoT や AI 等を活用し、収集されたデータや、データを活用した分析等を通

じて新たなビジネスモデルを構築する際には、こうしたデータの利用権限につ

いて本ガイドラインを活用しながら、データ利活用が進むことが期待される。

16 2017 年 5 月、経済産業省及び IoT 推進コンソーシアムは、事業者間の取引に関連して

創出、取得又は取集されるデータの利用権限を契約で適正かつ公平に定めるための手法や

考え方を整理した「データの利用権限に関する契約ガイドライン ver1.0」を公表してい

る。

Page 41: 生活製品における IoT 等のデジタルツールの活用に …...生活製品とは、広義には人々が生活に使用する製品一般を指すが、本研究会で

40

② データポータビリティ等に関する動向 EU では、GDPR(General Data Privacy Regulation:一般データ保護規

則)の施行が 2018 年 5 月に予定されており、企業が有する個人データの権利

の保護や、個人による事業者間でのデータの移転の権利(データポータビリテ

ィ)等が生じることとなる。 こうした中では、単なる個人データの囲い込みによるビジネスモデルは成立

しなくなる可能性があり、取得されたデータをどのように活用するか、どこで

他社と差別化するかといった、二次的なデータ利用を念頭に置いたビジネスモ

デルの構築が、国内ビジネスのみならず海外展開を視野に入れた場合には不可

欠となる。 各事業者においては、こうした GDPR による情報保護等に関する欧州の動

向 17を把握しながら、事業展開を進めていく必要がある 18。

データ利活用の環境整備に関する取組み

<データの利用権限に関する契約ガイドライン> 本契約ガイドラインでは、事業者間の契約におけるデータの利用権限を公平に取り決

めるための考え方を示すことを目的とし、以下の合意形成プロセスを提示している。 1、申入れ・事前確認 … 取引に関連してデータの創出が見込まれる場合、契約前段

階においてデータの利用権限を契約に定めることを相互に確認する。 2、データの選定 … 各当事者が利用権限を求めるデータを選定し、データカタロ

グ等を作成の上で協議・調整し、対象データを分類する。その際、当事者間で意

見の相違があるデータを明らかにすることが重要である。 3、利用権限の決定 … 分類した対象データに対する各当事者の寄与度等を考慮

し、利用権限について公平に検討の上、当事者間の合意によって決定する。その

際、考慮要素に基づき総合的に判断し、共同保有も念頭においた検討が必要であ

る。 4、条項の作成 … ガイドラインを参考にして条項を作成する。なお、当該条項は取

引契約に組み込まれるもので、必ずしも別途の契約とするわけではない。 なお、対象データとしてはパーソナルデータを含まないいわゆる産業データ(特に生デ

17 経済産業省では、「平成 29 年度 EU との規制協力を推進するための調査(情報の自由な

流通及びサイバー空間の公平と平等の確保に向けた調査)」において、GDPR ガイドライ

ンの概要について調査を行っており、今後公表される予定である。 18 なお、企業等が有する個人データの日 EU 間での越境移転について、我が国の個人情報

保護委員会では、日 EU 間において、相互に円滑な個人データ移転を行う環境を確保する

ことを目指し、2018 年春の最終合意を目指した議論が行われている。

https://www.ppc.go.jp/enforcement/cooperation/cooperation/GDPR/

Page 42: 生活製品における IoT 等のデジタルツールの活用に …...生活製品とは、広義には人々が生活に使用する製品一般を指すが、本研究会で

41

ータ)を想定しているが、パーソナルデータ等も排除していない。

<EU における GDPR(General Data Privacy Regulation:一般データ保護規則)> EU では 2018 年 5 月に、これまで制定されていた EU データ保護指令に代わり、EU

加盟諸国に対して直接効力が発生する規則(法規制)として、GDPR を制定・施行する。

本規則は、EEA(欧州経済領域)の域内で取得した個人データに関して適用されるもので

あり、EEA 域外への個人データ移転は原則として禁止される。 日本企業でも、例えば、EU に子会社を有する企業、EU に商品やサービスを提供して

EU 域内の個人データの取得や処理を行う企業等が影響を受けると想定される。本規則へ

の違反等により、制裁金(最大 2000 万ユーロまたは全世界の売上 4%)等の罰則を受け

るおそれがある。 GDPR の趣旨は、個人の権利の明確化を中心としており、その一環として、各事業者

へのデータ保護責任者の設置、データポータビリティの権利の設定、データ保護影響評価

の実施義務等を規定している。 なお、GDPR の運用を補足するため、ガイドライン及び作業文書が別途策定されてお

り、GDPR の具体的な解釈および運用等に際しては、これらも参照する必要がある。

③ データ共有事業に対する支援

協調領域におけるデータの収集・活用等を行う事業者(データ共有事業者等)

の取組を促進するため、平成 30 年通常国会に提出した「生産性向上特別措置

法案」19においては、データ共有事業者等の取組を、セキュリティ確保等を要

件として国(経産・総務・事業所管大臣)が認定し、支援を行う仕組みを構築

することとしている。 具体的には、データ共有事業者がデータ共有に際して行う IoT 等の設備投

資に対する減税措置等を講じるとともに、データ共有事業者について、国や独

立行政法人が有するデータの提供を要請できるスキームを創設することとし

ている。 ④ データの不正取得等に対する保護

データ利活用に際しては、そのデータの不正取得や、不正取得されたデータ

が流通することの抑止と被害低減が不可欠であり、安心してデータをやり取り

でき、データ創出・収集・分析・管理等に対する投資に見合った適正な対価を

得ることができる環境整備が必要である。

19 http://www.meti.go.jp/press/2017/02/20180209001/20180209001.html

Page 43: 生活製品における IoT 等のデジタルツールの活用に …...生活製品とは、広義には人々が生活に使用する製品一般を指すが、本研究会で

42

こうした観点から、平成 30 年通常国会に提出した「不正競争防止法等の一

部を改正する法律案」20において、ID・パスワード等により管理しつつ相手方

を限定して提供するデータを不正に取得、使用または提供する行為を、新たに

「不正競争行為」に位置づけ、これに対する差止請求権や損害賠償の特則等の

民事上の救済措置を講じることとしている。 (2)スタートアップ企業に対する支援 スマートテキスタイルの製造・販売を行うミツフジが当初は西陣織を製造・

加工する企業であったように、従来の事業から派生して取り組む中小企業、

Xenoma やエーアイシルクのように大学の研究成果を活用するベンチャー企

業、ルグランのようにビッグデータ等を活用した IT 企業等、異分野からの参

入は、既存の産業を刺激し、新たな市場を創出するために重要である。新規参

入事業者の増加による産業の新陳代謝を進めるためには、これらの事業者が有

する新技術や新たなビジネスモデルを実証できる環境づくりが重要である。 新規参入事業者として期待されるスタートアップ企業は、最終的な製品・サ

ービスを見据えたインフラの全てが整っていることは少なく、また、インフラ

投資にも限界がある中、個社単独で大きなビジネスモデルを構築することは困

難である場合が多い。 スタートアップ企業が、大企業との対等な連携を通じて事業展開を行い、概

念検証や試行錯誤を繰り返すことで、新規事業者が発展し、産業の新陳代謝が

進むと考えられ、これを支える環境づくりも重要である。 スタートアップ企業による新技術の実証等に対しては、例えば、研究開発型

ベンチャーの実用化開発の費用等を支援する「研究開発型スタートアップ支

援事業」(NEDO)、グローバルな事業展開を志向するスタートアップ企業等を

選定し、海外(シリコンバレー、イスラエル、シンガポール等)に派遣する「飛

躍 Next Enterprise」(JETRO)、中小企業が行う研究開発、試作品開発及び販路

開拓等の取組を一定の条件の下で支援する「戦略的基盤技術高度化・連携支援

事業(サポイン)」(中小企業庁)、AI ベンチャーと大手・中堅企業との共同開

発を支援する「AI システム共同開発支援事業」(NEDO)等の支援があり、こ

れらを活用した技術開発や実証等により実用化が進み、新たな市場が創出さ

れることが期待される。 大企業とスタートアップ企業との連携については、スマートテキスタイル

分野において、例えば、2018 年 1 月、アシックスの投資子会社であるアシッ

クス・ベンチャーズがエーアイシルクに対して出資し、スポーツアパレルの開

発を共同で行う計画が発表された。こうした新技術を有するスタートアップ

20 http://www.meti.go.jp/press/2017/02/20180227001/20180227001.html

Page 44: 生活製品における IoT 等のデジタルツールの活用に …...生活製品とは、広義には人々が生活に使用する製品一般を指すが、本研究会で

43

企業に対する大企業の出資等を通じ、新市場に参入する事業者が増加し、市場

の活性化が進むことが期待される。

Page 45: 生活製品における IoT 等のデジタルツールの活用に …...生活製品とは、広義には人々が生活に使用する製品一般を指すが、本研究会で

44

6.終わりに

経済のグローバル化や新興国の台頭等は、単なるものづくりを容易にコモデ

ィティ化し、低価格競争に陥れてきた。高機能・高性能の製品も短期間のうちに

コモディティ化する。第四次産業革命における IoT 等のデジタルツールの発展

はこうした厳しい競争を更に加速させていく。特に従来型の生活製品産業にお

いては、こうした傾向は歴史的にも必然であり、顕著である。 同時に、IoT や AI 等の発展は、これまで不可能だった膨大なデータの収集・

分析及び利活用等を可能にすることにより、新たな付加価値やソリューション

を創出・提供するための有効な手段であり、競争力の源泉となるものである。グ

ローバルを視野に、スピード感を持って、単なる従来の延長上ではない取組が求

められる。 生活製品産業においても、消費者のニーズや嗜好が単にモノ自体の所有では

なく、課題解決や体験価値等に多様化するとともに、IoT 等のテクノロジーが急

速に発展していくなど、事業環境が構造的に大きく変化する中、B to C であれ、

B to B であれ、これまでのビジネスモデルが今後も持続可能かをよく見極め、

単なるモノの製造・販売、要素技術や品質の追求のみではなく、IoT 等の活用に

より「サービス化」を図り、消費者の生活の質の向上に寄与するソリューション

志向の新たなビジネスモデル(ソリューション・ビジネス)を構築していくこと

が重要である。 我が国の製造業は国際的にも最高水準の技術シーズを多く有している。しか

しながら、サービス化が遅れると、こうした技術シーズを活かせなくなることを

認識すべきである。そのためには、出口となる付加価値やソリューションを明確

に意識することが不可欠であり、その際、各事業者が異分野連携等により垣根を

超えてネットワーク化すること、サービス化の中で更に新たな技術が生まれる

という好循環を生み出すことが重要である。 これにより、things の強み(モノの強み)を IoT の強みに活かし、企業間・

産業間のつながりを Connected Industries の実現に結びつけていくことが重要

である。 本研究会では、身近な生活製品においても、IoT 等のデジタルツールを活用す

ることにより、私たちの目に見える形で生活の質の向上をもたらすことができ

るという問題意識から、主にファッションテックやスマートテキスタイル等に

ついて議論してきた。いずれも、現時点では緒についたところであるが、将来的

には、衣服というモノの概念を根本的に変革し、これまでは到底不可能だった

Page 46: 生活製品における IoT 等のデジタルツールの活用に …...生活製品とは、広義には人々が生活に使用する製品一般を指すが、本研究会で

45

様々なサービスやソリューションを提供できる無限の可能性を秘めている。本

研究会においては、本報告書をスタートラインとして、今後も継続的に関係者の

取組をフォローしていきたい。 我が国の生活製品産業が、こうした IoT 等のテクノロジーの進展がもたらす

チャンスをものにして、私たちの生活の質の向上をもたらすソリューション・ビ

ジネスを展開して更に発展できるか、このチャンスを逃して何もせず取り残さ

れるか、それは今まさに目前に迫られている選択である。

Page 47: 生活製品における IoT 等のデジタルツールの活用に …...生活製品とは、広義には人々が生活に使用する製品一般を指すが、本研究会で

46

生活製品における IoT 等のデジタルツールの活用による

生活の質の向上に関する研究会 委員名簿 <委員> 座長 野城 智也 東京大学生産技術研究所 教授

委員 石田 智行 ソフトバンク株式会社 IoT 事業推進本部 事業企画統括部 事業開発部

小笠原 治 株式会社 ABBA Lab 代表取締役

蔭山 広明 株式会社アシックス 経営企画室 副室長

酒井 崇匡 株式会社博報堂 生活総合研究所 上席研究員

笹本 純也 ヤフー株式会社 ID サービス統括本部スマートデバイス本部 IoT 推進部

辻本 和久 セーレン株式会社 研究開発センター

平井 利博 信州大学 特任教授、名誉教授

水谷 博明 株式会社 スパイスボックス / DiFa ゼネラルマネージャー

三寺 歩 ミツフジ株式会社 代表取締役

(敬称略、50音順)

<事務局> 杉山 真 経済産業省 製造産業局 生活製品課長

杉浦 宏美 同 企画官(技術・国際担当)

矢野 剛史 同 企画官(繊維・皮革担当)

内野 宏人 同 課長補佐(総括)

田村 富昭 同 課長補佐(企画担当)

武井 康浩 みずほ情報総研株式会社 経営・IT コンサルティング部 マネジャー

豊田 健志 同 コンサルタント

Page 48: 生活製品における IoT 等のデジタルツールの活用に …...生活製品とは、広義には人々が生活に使用する製品一般を指すが、本研究会で

47

開催実績 第1回(平成29年11月30日) ○ 生活製品における IoT 等の活用に向けた検討の方向性と論点について

第2回(平成30年2月7日) ○ ファッションテックに係る事例整理を踏まえた今後の方向性について ○ 委員及び招聘委員からのプレゼンテーション ・ 泉 浩人 招聘委員(株式会社ルグラン) 「ファッションテックサービス『TNQL』について」 ・ 木島 広 招聘委員(株式会社フクル) 「アパレル版マスカスタマイゼーション -フクル SCM システムの構築-」 ・ 蔭山 広明 委員(株式会社アシックス) 「アシックスの取組み御紹介」 ・ 市川 雄司 招聘委員(株式会社 TFL) 「Tokyo Fashion Technology Lab」

第3回(平成30年2月26日) ○ スマートテキスタイルに係る事例整理を踏まえた今後の方向性について ○ 委員及び招聘委員からのプレゼンテーション ・ 辻本 和久 委員(セーレン株式会社) 「セーレンにおけるデジタルツールの活用事例 新しいパーソナルオーダーへの挑戦」 ・ 三寺 歩 委員(ミツフジ株式会社) 「MITSUFUJI ご紹介資料」 ・ 藤尾 宜範 招聘委員(倉敷紡績株式会社) 「Smartfit」 ・ 佐藤 彰洋 招聘委員(グンゼ株式会社) 「グンゼの取り組む衣料型ウェアラブル」 ・ 網盛 一郎 委員(株式会社 Xenoma) 「スマートアパレル=Internet of Human による予防医療と健康長寿社会の実現」 ・ 蔭山 広明 委員(株式会社アシックス) 「エーアイシルク株式会社との協業」 ・ 平井 利博 委員(信州大学) 「Smart Textile 調査から」

第4回(平成30年3月22日) ○ 報告書(案)について