8
[まちなみ点点] 1建ち並ぶ家々がつくむあげる空闘のデザイン 現代計画研究所のまちなみつくケ 注1:広島市営庚腰綱住宅 注2:御坊市島団地の再生 「制服を着て並んだような団地 とは正反対の、カジュアルな まちなみが実現した。日々の くらしの中で、その中を通り ながらみんなが楽しむ、表情 のあるまちなみ景観である。 どこをとっても同じ眺めがな い。新しい考えが実現した」 (「和歌山県ふるさと建築景観 賞2001年講評」より) 煙. 注3:芦屋市若宮地区の再生 60 現代計画研究所・大阪 江川直樹 〈集まって住む形・環境〉のデザイン われわれの設計・計画活動における中心は、 常に〈集まって住む形・環境のデザイン〉で あるといっても過言ではない。個人住宅の設 計から、集合住宅、土木的な環境デザイン、 都市施設に至るまで、常に、まちづくりの視 点が根底にある。 戸建て住宅地の環境デザインの仕事も、積 層集合住宅団地といったような建築群の設計 と同時進行的に行われることが常である。た とえば、後述の三田市ウッディタウンのまち びらきゾーンの場合は、広島市営庚午南住宅 (注1)という、当時としてはまだ珍しかった公 営住宅団地の建替えの仕事が同時進行であっ た。いずれも、集まって住む形・環境のデザ イン、そしてまちなみづくりの骨格をどのよ うにつくりあげるか、という視点は同じであ った。 最近では、集合住宅団地の建替えはもちろ ん、既成市街地の再生や、ニュータウンでの 新しいまちづくりの展開を考えるものまで、 まちなみづくりのあり方もようやく持続更新 の視点に議論が向けられるようになってきた ように思う。阪神・淡路大震災の経験も大き い。 そういったなかで、御坊市営島団地の再生 (注2)は、疲弊しスラム化した、言い換えると 良好なまちなみが形成されなかった中層箱形 住棟による生活環境を、低層の独立住宅を立 体的につくりあげることにより集落として再 生しようとした例である。できあがったまち なみは、住民や地域の活き活きとした生活景 観が表現できている。 芦屋市若宮地区震災復興住環境整備(注3、 後述)は、戸建て住宅地の中に分散配置された 小さな集合住宅が混在することによって、震 災前の愛着感のある既成市街地の良さを引き 家とまちなみ46 2002.9 継ぎながら、良好な住環境に再生しようとし た例である。いずれも、建ち並ぶ家々が共有 する生活環境、つまり、まちなみをつくって いくという視点は共通である。 ここでは、まちなみづくりの展開を深める 議論のきっかけになればという思いから、わ れわれの手がけた特徴的ないくつかの事例で、 その切り口を紹介させていただくことにした い。取り上げた事例はすべて、経年後の現在 の状況を確認した上で、本稿をまとめている。 環境構造としての空地空間とそのつながり、、 「人々が暮らす都市景観は、生活空間の総体 の表現として考えるべきであり、人と自然、 人と人との関わり、生活のダイナミズムやプ ロセスに注目する必要がある」というのが、 われわれの、まちなみを考える基本スタンス である。さまざまな矛盾の背後に存在する市 民の活き活きとした姿、単なる見えがかりの 表現ではなく、それぞれの環境構造の中で展 開される固有の風景、コミュニティの風景こ そが豊かな景観だと考える。その景観を実現 する主体は、最終的には生活者であり、それ をとりまく環境である。共通の環境構造のな かで展開される生活そのものの質が、コミュ ニティの〈統一感〉やく落ち着き〉を生み出 し、豊かな都市景観を形成する。 建ち並ぶ家々によって認識化される環境構 造的な空間が、活き活きとした生活の舞台、 気持ちのよい住環境が自然に育まれていく舞 台になる。道路空間ひとつをとってみても、 家がどのように建ち並び、その結果どのよう な空間がつくられ、その先には何がどのよう に見え、どのように変化していくのか、そう いった空間の総体のあり様を考えるところに、 まちなみのデザインはあると考えている。 LrJ

現代計画研究所のまちなみつくケ...[まちなみ点点] 1建ち並ぶ家々がつくむあげる空闘のデザイン 現代計画研究所のまちなみつくケ 注1:広島市営庚腰綱住宅

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[まちなみ点点]

1建ち並ぶ家々がつくむあげる空闘のデザイン

現代計画研究所のまちなみつくケ

注1:広島市営庚腰綱住宅

注2:御坊市島団地の再生

「制服を着て並んだような団地

とは正反対の、カジュアルな

まちなみが実現した。日々の

くらしの中で、その中を通り

ながらみんなが楽しむ、表情

のあるまちなみ景観である。

どこをとっても同じ眺めがな

い。新しい考えが実現した」

(「和歌山県ふるさと建築景観

賞2001年講評」より)

煙.

注3:芦屋市若宮地区の再生

60

現代計画研究所・大阪

江川直樹

〈集まって住む形・環境〉のデザイン

 われわれの設計・計画活動における中心は、

常に〈集まって住む形・環境のデザイン〉で

あるといっても過言ではない。個人住宅の設

計から、集合住宅、土木的な環境デザイン、

都市施設に至るまで、常に、まちづくりの視

点が根底にある。

 戸建て住宅地の環境デザインの仕事も、積

層集合住宅団地といったような建築群の設計

と同時進行的に行われることが常である。た

とえば、後述の三田市ウッディタウンのまち

びらきゾーンの場合は、広島市営庚午南住宅

(注1)という、当時としてはまだ珍しかった公

営住宅団地の建替えの仕事が同時進行であっ

た。いずれも、集まって住む形・環境のデザ

イン、そしてまちなみづくりの骨格をどのよ

うにつくりあげるか、という視点は同じであ

った。

 最近では、集合住宅団地の建替えはもちろ

ん、既成市街地の再生や、ニュータウンでの

新しいまちづくりの展開を考えるものまで、

まちなみづくりのあり方もようやく持続更新

の視点に議論が向けられるようになってきた

ように思う。阪神・淡路大震災の経験も大き

い。

 そういったなかで、御坊市営島団地の再生

(注2)は、疲弊しスラム化した、言い換えると

良好なまちなみが形成されなかった中層箱形

住棟による生活環境を、低層の独立住宅を立

体的につくりあげることにより集落として再

生しようとした例である。できあがったまち

なみは、住民や地域の活き活きとした生活景

観が表現できている。

 芦屋市若宮地区震災復興住環境整備(注3、

後述)は、戸建て住宅地の中に分散配置された

小さな集合住宅が混在することによって、震

災前の愛着感のある既成市街地の良さを引き

家とまちなみ46  2002.9

継ぎながら、良好な住環境に再生しようとし

た例である。いずれも、建ち並ぶ家々が共有

する生活環境、つまり、まちなみをつくって

いくという視点は共通である。

 ここでは、まちなみづくりの展開を深める

議論のきっかけになればという思いから、わ

れわれの手がけた特徴的ないくつかの事例で、

その切り口を紹介させていただくことにした

い。取り上げた事例はすべて、経年後の現在

の状況を確認した上で、本稿をまとめている。

環境構造としての空地空間とそのつながり、、

 「人々が暮らす都市景観は、生活空間の総体

の表現として考えるべきであり、人と自然、

人と人との関わり、生活のダイナミズムやプ

ロセスに注目する必要がある」というのが、

われわれの、まちなみを考える基本スタンス

である。さまざまな矛盾の背後に存在する市

民の活き活きとした姿、単なる見えがかりの

表現ではなく、それぞれの環境構造の中で展

開される固有の風景、コミュニティの風景こ

そが豊かな景観だと考える。その景観を実現

する主体は、最終的には生活者であり、それ

をとりまく環境である。共通の環境構造のな

かで展開される生活そのものの質が、コミュ

ニティの〈統一感〉やく落ち着き〉を生み出

し、豊かな都市景観を形成する。

 建ち並ぶ家々によって認識化される環境構

造的な空間が、活き活きとした生活の舞台、

気持ちのよい住環境が自然に育まれていく舞

台になる。道路空間ひとつをとってみても、

家がどのように建ち並び、その結果どのよう

な空間がつくられ、その先には何がどのよう

に見え、どのように変化していくのか、そう

いった空間の総体のあり様を考えるところに、

まちなみのデザインはあると考えている。

LrJ

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o

、4

声蒼なみの骨格をつ、≦るマ1

  居住環境街区

 茨城県水戸市の六番池団地(注4)と会神原

団地(注5)は、接地性や風土性の実現として

注目を浴びた低層集合住宅団地であるが、生

活を支える空地空間を構造化することが狙い

でもあり、地域レベルでの環境骨格をつくる

視点、さらには、敷地の内だけの計画にとど

まらず、構造化された空間の仕組みをアーバ

ンユニット(街区)として連続させ、まちづ

くりを考えていこうという視点が内包されて

いた。

 岐阜県・滝呂地区と愛知県・寺本地区の居

住環境街区による住宅地形成の例(共に住

宅・都市整備公団)は、戸建て住宅地におい

て、空地空間の構造化を狙った試みであり、

一般的な背割りグリッド型の住宅地形成シス

テムに対し、新しい形態の住宅地形成システ

ムの〈かた〉を提案したものである。

 滝呂地区の居住環境街区システム(図1、図

2)は、コミュニティの領域性を明確にしつ

つ、人と車がヒューマンなスケールで共存し、

豊かでメリハリのある住宅地景観を実現して

いる。個々の環境街区が、連続して街をつく

っていくというものである。単位となる附

図1滝呂型居住環境街区(TAKIRO ENVIRONMENTALSYSTEM=TES)

100m四方の正方形街区は4.5mの幅員による

2本のL字型の居住区域道路(注6)、中央部の

ポケットパーク、道路広場からなる空地空間

を具備している。L字型の道路パターンは、

車の速度を低減させ、アイストップ景観をつ

くりだし、特色あるシークエンスをもたらす。

総延長の短さが、道路内供給処理施設の占用

を可能にし(建網は宅地内)、屋外道路空間を

ヒューマンな生活空間に取り戻すことに寄与

し、コミュニティの空間的なまとまりも実現

できる。一般的な6mグリッド道路システム

と同程度の宅地率で、道路広場やポケットパ

ークといった空間をつくり出すことができる。

居住区域道路も含めた空地空間が環境構造で

あり、建ち並ぶ家々によって視覚化、認識化

され、コミュニティの〈協空間〉とでもいう

べき空間になる。

 滝呂の例は、正方形街区による居住環境街

区の〈かた〉としての基本形でもあるが、以

下に述べる寺本地区やウッディタウンすずか

け台では、異なる場所特性や条件に従って、

異なる形状での展開が図られている。

 寺本地区の居住環境街区(図3)は、約

70m x lOOmの南北に縦長のもので、ここで

は4.5m幅員の道路が、街区中央の8m幅員

の道路広場をはさんでクランク状に連続して

いる。この居住環境街区が、東西にズレなが

ら連続し、道路から南北に延びている2m幅

員の路地と芋粥って、歩行者系のネットワー

クを形成している(図4)。街区内で、異なる

幅員の空間が連続しており、変化ある空地空

間が形成されている。ちなみに、2m幅員の

路地は、交差点部でズレながら連続する当て

曲げの手法(注7)によって隣接する街区と連

続している。

注4=茨城県営六番池団地の空

間構成

注5:茨城県営会神原団地の空

間構成

注6:居住区域道路とは、通過

交通を排除し、進入は住民の

車、サービス車、緊急車に限

定されるような性格の歩行者

主体の道路であり、構造的な

ボンエルフ道路である

注7:[当て曲げ]富田林等の

占い集落に見られる興味ある

街路構成手法で、防御のため

の迷路1生という鰐釈が本来で

あろうが、アイストップ景観

と変化するシークエンス、閉

じつつ開く構造をつくり出し、

また、正十字の交差点とは異

なって、段階性のはっきりし

た安全性も高い道路交差を実

現できる。ウッディタウンす

ずかけ台でも採用している

包圖:膠

   f璽縣翫

         一一 路地

図2転出型居住環境街区システムによる、明確な 図3寺本型居住環境街区(TERAMOTO ENVIRONMEN一 図4寺本型居住環境システムによる明確な領域性領域性と歩行者ネットワーク          NTAL SYSTEM=TES II)              と歩行者系ネットワーク

家とまちなみ46 2002.9 61

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江川直樹(えがわ・なおき)

 1951年生まれ。三重県

出身。早稲田大学大学院修

士課程終了。1977年現代

計画研究所入社、現在代表

取締役大阪事務所長。三重

大学、大阪市立大学、立命

館大学、京都造形芸術大学、

非常勤講師。2001年度日

本都市計画学会賞

62

図5 ウッディタウンすずかけ台のまちびらきゾーン、街区

構成と歩行者系ネットワーク

 居住環境ブロックの考え方を、周辺敷地状

況に対応させて、より変化のある形で展開す

ることができたのが、兵庫県三田市・ウッデ

ィタウンすずかけ台まちびらきゾーン(住

宅・都市整備公団+財団住宅祭ほか)である

(図5)。

 道路広場を持つ30~40戸単位の居住環境

街区が、ここでは行政協議によって最終的に

4.8m幅員となった歩車共存型の居住区域道

路(図6)、街区によって異なる形状としつら

えの道路広場(図7、図8)、4m幅員の路地

で結ばれ、歩行者中心の空間によって街の骨

格づくりがなされている。すずかけ台で構造

化された空地空間は、シンボルツリーの植え

られた道路広場や公園的に緑化された広場を

含めてすべてが、公共移管された道路として

扱われている。後述のようにまちなみ素材の

開発や個々に形状の異なる外構への使用など、

付け加えるいくつかの要素はあるものの、こ

の空間構造が、共有する環境を認識化させ、

図9 アルカディア21の街区構成街区内道路は公共移管、中央のナチュラルコモンは街区内住

民の共有であるが、一般に開放されている

家とまちなみ46  2002.9

図64.8m幅員の居住区域道路

図7ペイブメント主体の道路広場

図8緑化公園化された道路広場

鮪,薦塚田・・

経年の熟成効果を高めている。

 パブリックな道路であるけれども、いつ行

ってもゴミひとつ落ちていないし、道路から

しか見えないようなところにまで花が咲き乱

れている。入居者が変わり、住宅の形が変わ

っても、まちの環境の骨格は変わらないし、

育まれてきた街の雰囲気も変わらない。この

住宅地が入居後10年を経て兵庫県のさわやか

まちづくり賞を受賞したというのも、そうい

った構造的な空間の効果も大きいのではない

だろうか。うれしいことに今では、たとえば

地図で見れば一目で違いが分かるほどの特徴

的な空間構成であるにもかかわらず、街区内

を歩いてみれば、熟成された、違和感のない、

なつかしくホッとする風景が展開されている

のである。

 1司じく神戸三田〉国際公園都市のフラワー

図10街区中央のナチュラルコモン(芝生広場)

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図116,0m幅員の居住区域道路

図1240m幅員の歩行者専用道路

図1320m幅員の路地

慧一階

タウン(兵庫県住宅供給公社+財団住宅祭)

では、まさに、環境構造としての空地を中央

に持つアルカディア21住宅街区が実現した

(図9)。ここでは、周辺をも含めたまちづく

りに寄与するため、街区の中央に築山樹林に

囲まれたナチュラルコモン(芝生広場)を設

け、街区内の住民がこれを共有し、維持管理

している(図10)。各々の住宅とこの芝生広

場の問の道路は、6mの幅員で、道路内には

高木が植えられているが、公共移管されてお

り(図11)、公道をはさんで共有のスペースが

あるという、きわめて珍しい形となっている。

その他、同じく道路内に植栽の植えられた幅

員4mの歩行者専用道路(図12)、幅員2mの

路地(図13)もすべて、公共移管されている。

街区中央の芝生広場は、住民の共有地ではあ

るが、一般の人々に開放され、遊びに来る子

供たちは芝生の上を転げ回っている(図14)。

 周辺の住宅街区は、標準的で画一的だが、

このようなまとまったオープンスペースを持

つ街区が存在することによって、地域レベル

での環境とアイデンティティは確実に良いも

のとなっている。通学の子供たちは、気持ち

の良いこの街区の中の道路を、わざわざ通り

抜けていく。ここで特筆すべきことは、こう

した社会貢献性が認められ、固定資産税が減

免されていることである。住民にとってはお

図14子供たちが遊ぶナチュラルコモン

荷物にもなりかねないこの共有の公園が、地

域にとっての愛着ある場となり、したがって

住民にとっても誇りうる場となっていくこと

のサポートとなっており、公共移管か否かと

いった二者選択を越えた、新しい可能性が示

されている。

まちなみの骨格をつくる一2、環境基盤

 それぞれの特性に応じた環境構造の中で展

開される、コミュニティの風景が重要だと述

べてきたが、すでにある環境構造を生かしな

がら、豊かな集住空間街区をつくっていくこ

とも重要である。

 奈良市・青山の自然住宅地(住宅・都市整

備公団+共同分譲)は、そのような例である。

ここでの環境構造は、少しスケールが大きい。

奈良青山ニュータウンの中央部北側、かなり

急勾配の北斜面地に位置し、北面一体に控え

る25haもの保存緑地のパノラマを見下ろす

場所で、多くの樹木が残されていた(図15)。

マスタープランでは、ニュータウン内の一般

独立住宅地と北面の保存緑地をつなぎ、ニュ

ータウン内に緑を引き込む自然住宅地と位置

づけられていたが、風致地区の指定を受け、

建物は樹林の中に目立たぬように隠れるべき

であるという方針だったので、長年、手つか

ずの状況におかれていた。この環境条件を活

図15奈良青山自然住宅地

家とまちなみ46  2002.9 63

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注8:青山の自然住宅地は、齋

藤広子氏によって調査が行わ

れ、「住み手による住宅地の評

価」としてまとめられており、

入居者による高い満足度が報

告されている(『家とまちなみ』

別冊VoL17 1998.II住宅生

産振興財団

注9:中間領域〈公〉空間と

〈私〉空間の中間の領域、まち

なみ領域

64

図16奈良青山自然住宅地のイメージ

図17奈良青山自然住宅地の環境宅盤と住宅

かし良好な住宅地とするためには、斜面の樹

木の中に住宅が浮いているように点在する形

が望ましいと考えた(図16)。

 道路からのアクセスは、斜面の上部からと

し、したがって南の道路側には陽の当たる土

庭も残せるような形で、自然樹林で囲まれる

空中に浮いた人工宅盤を環境基盤としてつく

り、その上に自由に住宅を設置するという提

案を行った(図17)。

 空中の宅盤が樹林に接するためには、宅盤

のための基礎の根切り範囲が人工宅盤の投影

面積内に収まっていることが必要で、そのた

めに、基礎としての箱形擁壁に張出してPC

梁を架け、さらにその上にPCスラブを架け

ることとした。クレーンによるPC部材の施

工は、斜面上部の道路から行うことが出来る。

陽のあたる北側の保存緑地は、住宅内からの

素晴らしい眺望となり、樹林を吹き抜けて来

る風は気持ち良い。目覚めの鳥の声は素敵だ

し、管理の大変そうな緑も、手入れが良く施

されている。斜面下の道路から見ると、ほと

んど緑の中に隠れてしまっているが、アプロ

ーチ道路側からの景観は、既存樹木を間には

さんだ家なみ、緑と共生しているライフスタ

イルがよく分かるまちなみとなっている(注8)。

審ちなみの骨格を?くる「3、

 中間領域の構造化

 都市景観が、生活のダイナミズムやプロセ

家とまちなみ46  2002.9

スを表現するものであるとすれば、環境構造

としてのく協空間〉を補完する形で重要なの

が、〈中間領域〉(注9)であり、その構造化が

意味を持つ。〈私〉空間が私的利用の最大化を

求めると、過剰に「閉じた空間」になり、集

住環境の質を感じることができなくなる。〈私〉

空間が適度にまちに開かれていれば、集まっ

て住む環境を感じることができる。まちに開

く形はさまざまであり、必ずしも物理的に開

いていなけれぼならないと言うものでもない

が、意識や空間によって、家々と道路のよう

なパブリックな空間が連続し、そのことによ

って〈あいだ〉に存在する空間性、共有する

空間環境、が感じられたとき、まちなみとし

ての意識が感じられる。まちなみの骨格とし

て、中間領域が適切に構造化されたとき、生

活空間の総体がそれを媒介として表現され、

まちなみ形成に寄与することとなる。時間の

経過の中で熟成し、周囲にとけ込んだかのよ

うな環境をつくりだす骨格となるようなもの、

それを〈中間領域の構造化〉と言いたい。計

画的につくりながら、熟成化の課程で計画性

を感じさせなくさせるようなもの、それが中

間領域の構造化ということである。

 神戸市北区・藤原台のまちびらきゾーン

(住宅・都市整備公団+共同分譲ほか)は、こ

のような観点から中間領域の構造化を行った

例である。まちの骨格を形成する歩行者専用

道路沿いの宅地部分の外構を、家の建ち並び

方を誘導しつつ、言い換えると、空地空間の

構造化を図るために外構整備を行い、さまざ

まに展開する家々によって共通の空間性を感

じるまちなみをつくりだそうといううもので

ある(図18)。

 このプロジェクトの環境上の特徴は、アプ

ローチ道路と宅盤の問に3~4mの大きなレ

ベル差があることであった。そこで、道路レ

ベルに駐車スペースと一体となったアプロー

チの前庭を設けることとし、それにとりつく

アプローチ廻りは各戸の自由な表現の場とし

た。まちなみを形成する道路沿いの領域は、

歩行者専用道路の階段なども含めてすべて、

まずは道路につきあったレベルで植栽部分を

設け、その背後に直接、あるいは駐車スペー

スを介して、レベル差処理のための擁壁を設

けることにした(図19)。こうすることによ

って、擁壁は道路境界からかなり後退し、道

路空間にかなりの私的領域を供出したかのよ

うな印象を与えると共に、景観に微妙な変化

と空間の連続性をもたらすことになる(図

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o

、ψ

図18 歩行者専用道路沿いに展開する、藤原台のまちびらきゾーン

図19藤原台のまちびらきゾーンのまちづくりイメージ

図20藤原台、中間領域の構造化

20)。歩行者専用道路側も同じようにレベル

差があり、道に対して閉じていた当初計画を

変更していただき、微妙に変化ある風景、ひ

とけのある安全な歩行者専用道路となるよう、

同じ構造で各宅地に勝手口を設けた。

 藤原台は、地区内に地権者の土地が数多く

存在する区画整理事業によるまちであり、こ

のようにリニアーな骨格を具体のイメージを

持ちながら整備したことの意味は大きく、そ

の後のまちの早期熟成に寄与している。隣接

する民有換地エリアでも、セットバックした

擁壁や道路沿いの植栽部分が見倣われて、私

的部分の中間領域の構造化が地域の人々にも

受け入れられている。道路沿いのセットバッ

クされた擁壁と変化のある階段部分が、土木

RCのある種の緊張感を保ちながら集住環境と

して馴染み、とけ込むように、擁壁の仕上げ

はグレーグリーンのカラークリアー塗装とし

た。

 さらに住宅のスケールとの連続性をつくり

出すために、自然の青石を種石としたスプリ

図22緑と一体に熟成した藤原台のまちなみ

図23 ウッディタウンすずかけ台の外構住民の手で植えら

れた美しい花が咲き乱れている

ットンブロックをまちなみ素材として併用し、

植裁の緑と一体となった大地のような環境の

実現を目指した(図21)。

 スプリットンは、その平野が均質にならな

いという、工業製品としては珍しい特質をも

ち、積み継がれる目地部分の影を深くするデ

ィテールの工夫、150×500というスケール

の採用とも相侯って、連続して用いられて効

果を発揮する材料として商品化され、地区内

のさまざまなところで使用されている。藤原

台も、今では、大きな擁壁をツタが覆い、成

長した緑がこのグレーグリーンの基盤と一体

になって風景にとけ込み、丘のような空間の

連続するまちなみになっている(図22)。

 先に述べたウッディタウンすずかけ台でも、

シャモット(注10)を骨材に用いて同様のブロ

ック、舗装材を開発し、居住環境街区の道路

沿いの中間領域部分に、それぞれの住宅や地

形につきあう形で多用し、中間領域の構造化

を図った。住宅や地形につきあったそれぞれ

に異なる100戸を超える外構の設計や工事の

監理は大変ではあったが、画一的な整備の行

われる一般の例と比べると、変化に富み場所

性の豊かなまちなみ空間の創出に寄与し、生

活感のにじみ出しを支援することとなってい

る(図23)。それぞれの住宅やライフスタイ

ルによってこの部分の利用や手入れの仕方は

必ずしも一様ではないが、そのことが多様な

人々が集まり住む集住環境の、自然で落ち着

          家とまちなみ46  2002.9

勇 麓㌧

図21 藤原台の青石スプリットンブロック

注10;シャモットとは、石炭

を採った残材で、炭素分の少

ない炭質項岩であり、ピンク

色で水に濡れると赤みを帯び

         65

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図24 コケの生えてきたピン

コロ石の擁壁

図25開閉出来る木遣 図26好みの色に塗り直され、味わい深い塀なみ

66

いた無理のない協調感のある景観を表現して

いると言える。

 先述のフラワータウンのアルカディア21で

は、公共移管された道路と民地の擁壁、アル

コーブ状にまちに開いたアプローチの前庭、

共有の公園の低い擁壁、広場を、すべて一体

となった環境とするべく》同じ素材を連続し

て用いた。敷地の勾配になじみ緩やかな勾配

をもつ擁壁と、道路を曲面で連続させ、柔ら

かい空間として連続させて、いわゆる中間領

域だけでなく、公共部分も含めて一体的な環

境の構造化を図った。桜御影の自然石を、曲

面部分にはピンコロ状に、道路平面では平板

として、それぞれ90~100の厚みで用いてい

る(前出、図ll、12、13参照)。

 緩やかな勾配の擁壁の目地部分にはコケが

生え、堅い石と柔らかいコケが共存するテク

スチュアを実現されており(図24)、築山芝

生に植えられた樹木も豊かに生育し、気持ち

を和らげさせる空間を内包した住宅地になっ

ている。

 夏には大きく枝をはり、気持ちの良い影を

つくるカツラの木が多く植えられたこの住宅

街区は、春夏の豊かな緑、秋の紅葉、冬の木

漏れ陽と、見事に四季の変化を内包する環境

街区でもある。この街区も、かなり特殊に整

備された街区と言えるわけだが、独自に閉じ

たり周辺の環境から浮いてしまうのではなく、

むしろ、周辺をも巻き込んだ公園街区として、

馴染んでホッとする環境をつくり出している。

 中間領域の環境構造化は、最終的に建ち並

ぶ家々によってつくり出される〈あいだ〉の

空間が重要であると述べてきたが、奈良県生

駒市・北大和(生駒北大和土地区画整理組

合+財団住宅祭)の例は、家、庭、塀が一体

となって建ち並ぶことによってできる空間を

意識したものである。

 敷地が小規模で小さな庭しか確保できそう

もなかったので、コートハウスが連続するよ

家とまちなみ46  2002.9

うな住宅街を提案した。道路際に木製の塀を

設け、庭側には雨の落ちる程度のすき間のあ

るベンチを宅盤から浮かせて配し、住宅の内

部から敷地境界まで連続する空間として意識

できるようにして、ベンチ下の道路レベルに

連続する緑を確保した。木塀は、敷地境界に

設けた鉄骨フレームに吊されており、ガレー

ジの透けた格子扉共々開閉できる。ガレージ

扉の開けしろ部分はまちに開いた玄関位置と

して、思い思いの表情が顔を出す。平日の木

塀は閉じられていることが多いのだが、休日

にもなれば、空中に浮いて開け放たれたベン

チに親子が並び、ひなたぼっこや会話を楽し

んでいる光景や、自慢の盆栽が行き交う人の

目を楽しませたりする光景が出現する(図

25)。

 10年以上経過した現在のまちなみが、なか

なかに興味深い。鉄骨のフレーム、木製の塀

であるから、メンテナンスは必要である。そ

のメンテナンスの仕方や利用の仕方が実にさ

まざまで、結果としてある種同質の空間を維

持しつつも、多様な個性の表出と連なりが味

わい深いまちなみに熟成している。塀越しに

道に飛び出す程に成長した庭の高木、塀に絡

んで繁った緑、まれにはフレームだけが残り

塀は撤去されて植えられた緑の生け垣、そう

いった豊かな緑と、微妙に異なる色で塗装し

直された鉄骨のフレーム、木部も住宅やライ

フスタイルに似合った思い思いの色や仕上げ

で手入れされ、渾然一体となって味わい深い

景観となっている(図26)。

 計画的統一性というのではない、生活の豊

かな風景が形成されている(図27)。なかに

は、あまり手入れされずにややみすぼらしげ

な塀や、少し協調性に欠ける改変をした庭先

などもあるが、それがかえって輻醒した時間

性や生活の多様性、ある範囲でそれを許して

いるコミュニティのやさしさ、共同性、共生

性、そういった人間である限り当たり前とも

Page 8: 現代計画研究所のまちなみつくケ...[まちなみ点点] 1建ち並ぶ家々がつくむあげる空闘のデザイン 現代計画研究所のまちなみつくケ 注1:広島市営庚腰綱住宅

o

曳4

図27適度な変化を伴い、緑と一体となった塀なみ

言える集住の様が、一定の同質性のなかで協

調感のあるまちなみを形成しているのである。

 これからは、集合住宅団地の建替えの時代

となる。一部を戸建て住宅用地に用途転換し、

既存の環境とも連続させながら、総体として

気持ちの良い住環境に再生するようなプロジ

ェクトや、既存密集市街地の再生のプロジェ

クトも増えてくるだろう。既成市街地では、

敷地規模も小さく、戸建て住宅だけを考えて

いてもなかなか良好な生活空間、まちなみは

っくれない。地域全体にわたる環境構造のよ

うな概念が必要だし、そういった環境を意識

して設計された住宅が建ち並び、まちなみを

形成していくことになる。

 冒頭でも触れた兵庫県・芦屋市若宮地区震

災復興住環境整備(芦屋市)(前出注3参照)

の例は、そういったまちなみづくりへの新し

い試みである。阪神・淡路大震災により全面

的な打撃を受けた地区が、オール積層の集合

住宅による建替え案や、街区ごとに積層、タ

ウンハウス、戸建てと区分けされた再生案で

はなく、一戸建ての住宅を残しながら、従前

アパートに住んでいた人たち、自主再建の困

難な人たちのための公営住宅を混在させ、共

存して街を再建していこうという、きわめて

新しい方法が住民とコンサルタントの協同で

作成され、採用された。

 混在する公営住宅としては、立体的にも平

面的にも小スケールに分節され、路地階段な

どですき間を多く確保した公営住宅の分散配

置を提案した。すき間の空間は、山風海風の

通り道、六甲山への視線の確保はもちろん、

通り抜け路地や広場にして、街のみんなの空

間にしていこうという提案である(図28)。

92戸の公営住宅が、6ヶ所に分散して順次建

図28戸建て住宅と公営住宅が混在するまち

図29路地から垣間見える公営住宅

てられ、戸建て住宅の復興もこれを追いかけ

るように進められた。興味深いのは、地区内

で自主再建された住宅である。敷地が狭小な

ものも多く、その狭小さに対応した独自の設

計になっており、それらが、再整備された道

や広場、通り抜け路地を持つ小規模な公営住

宅といった環境の構造的要素につきあいなが

ら建ち並び、協調感のあるまちなみを形成し

ている。新しいが懐かしい感じのするまちな

みだ(図29)。

 ここでは個別の戸建て住宅の敷地を活かし

ながら、道の通し方や公営住宅という環境の

骨格づくりを住民と協同で行った結果、集合

住宅と戸建て住宅が混在して建ち並ぶ環境が、

共有する環境として、気持ちの良いまちなみ

をつくりだした。戸建て住宅に関しても、特

別のルールなど何にもないが、環境の構造や

特性に素直に応答した設計であることが、建

物の優劣によらず、気持ちの良いまちなみを

つくっていくことになるのである。

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