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1 卒業論文 熱電変換材料における累積熱伝導率の普遍性 平成 26 1 31 日提出 指導教員 塩見淳一郎 准教授 03120159 明戸 大介

熱電変換材料における累積熱伝導率の普遍性 - …4 1.1 熱電変換 現在,使用可能エネルギーをより効率よく利用する必要に我々は迫られているが,この

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    卒業論文

    熱電変換材料における累積熱伝導率の普遍性

    平成 26 年 1 月 31 日提出

    指導教員 塩見淳一郎 准教授

    03120159 明戸 大介

  • 2

    目次

    第 1 章 序論 ........................................................................................................................................ 3 1.1 熱電変換 ................................................................................................................................... 4 1.2 熱電変換材料の効率 ............................................................................................................... 5 1.3 ナノ構造化による格子熱伝導率低減 ................................................................................... 6 1.4 第一原理熱伝導率解析法 ....................................................................................................... 8 1.5 研究の目的 ............................................................................................................................... 8

    第 2 章 計算手法 ................................................................................................................................ 9 2.1 格子動力学法 ......................................................................................................................... 10

    2.1.1 熱容量 .............................................................................................................................. 11 2.1.2 状態密度 .......................................................................................................................... 12 2.1.3 群速度 .............................................................................................................................. 13

    2.2 緩和時間 ................................................................................................................................. 13 2.3 モデル ..................................................................................................................................... 14

    2.3.1 Debye モデル .................................................................................................................... 14 2.3.2 Klemens の緩和時間モデル ............................................................................................ 14 2.3.3 Slack の熱伝導率モデル ................................................................................................. 15

    第 3 章 結果と考察 .......................................................................................................................... 16 3.1 格子動力学法による計算 ..................................................................................................... 17

    3.1.1 指針 .................................................................................................................................. 17 3.1.2 フォノン分散関係とその線形性 .................................................................................. 17

    3.2 長 MFP 領域の普遍化 ........................................................................................................... 19 3.2.1 減法による累積熱伝導率 .............................................................................................. 20 3.2.2 非調和格子動力学法の結果による評価....................................................................... 21 3.2.3 熱伝導率による合わせ込み .......................................................................................... 24 3.2.4 Slack の熱伝導率モデルの適用 ..................................................................................... 25

    3.3 短 MFP 領域の普遍化 ........................................................................................................... 26 3.3.1 短 MFP 領域のフォノンの分類 .................................................................................... 26 3.3.2 デバイ速度によるモデル化 .......................................................................................... 27

    3.4 指標による普遍化評価 ......................................................................................................... 29 第 4 章 結論 ...................................................................................................................................... 32

    4.1 結論 ......................................................................................................................................... 33 4.2 今後の課題 ............................................................................................................................. 33

    参考文献 ............................................................................................................................................ 34 謝辞 .................................................................................................................................................... 37

  • 3

    第 1 章 序論

  • 4

    1.1 熱電変換

    現在,使用可能エネルギーをより効率よく利用する必要に我々は迫られているが,この

    問題を解決する手段の一つとして注目されているのが熱電変換を用いた発電(以下,熱電発

    電)である.熱電発電はゼーベック効果を利用し,温度差から電圧差を得る方法である.た

    とえば,n 型と(または p 型)半導体熱電材料の両端に高温熱源と低温熱電を接触させた場合,

    印加された温度差によって,多数キャリアである電子(正孔)の拡散が促され,低温側が高電

    圧(低電圧)になる.したがって Fig. 1-1 に示すように,n 型と p 型熱電半導体を組み合わせ

    た熱電素子からなるモジュールを用いて,電流を取り出すことが可能である.

    熱電変換素子は駆動部が存在しないことより,耐久性や静音性,信頼性に優れ,スケー

    ルアップやスケールダウンが可能など様々な面でメリットが多く,また,現在他の発電方

    法では技術上利用の難しい 200 ℃以下の排熱エネルギーを再利用することが可能である点

    でもエネルギーの有効活用に繋がる[1].実際に,東京 23 区における人工排熱総量は 2106

    TJ/day にも及び[2],これを利用可能なエネルギー形態に変換する恩恵は極めて大きい.

    しかしその変換効率は現在約 10 %程度と現行の発電方法に劣るため,宇宙空間等特殊用

    途で用いられているのみである.より一般に普及するためには更なる効率向上が必要であ

    る[3].

    Fig. 1-1 熱電変換素子模式図.

  • 5

    1.2 熱電変換材料の効率

    熱電変換の最大効率は高温部の絶対温度 THと低温部の絶対温度 TLを用いて

    HLH

    LH

    TTZTZT

    TTT

    /111

    max

    (1.1)

    と表される[4].ここで ZT は無次元性能指数と呼ばれる量であり,Fig. 1-2 に示す通り,熱

    電変換効率は ZT の値に極めて敏感である.ZT は材料の電気および熱物性の両方に依存し,

    ゼーベック係数 S,電気伝導率 σ,熱伝導率 κ,絶対温度 T を用いて次で定義される.

    TSZT

    2

    (1.2)

    なお熱伝導率 κは電子熱伝導率 κeと格子熱伝導率 κlを足し合わせたものである.

    式(1.2)から熱電変換効率を向上させるためには電気伝導特性の改善と熱伝導率の低下が

    必要であることが分かる.キャリア濃度の最適化によるゼーベック係数や電気伝導率の上

    昇,合金化による熱伝導率の低減などが ZT向上に向けた従来のアプローチであるが,近年,

    それらに加えてナノスケール構造体を積極的に利用することで,ゼーベック係数や電気伝

    導率等の電気的特性を大きく犠牲にせずに格子熱伝導率のみを大幅に低減することが可能

    となり,それに伴って大幅な ZT の改善が報告された[5-8].

    0 1 2 3 40

    10

    20

    30

    ZT

    max

    (%)

    TL/TH=0.4 0.5 0.6

    Fig. 1-2 熱電変換の最大効率maxの ZT 依存性.

  • 6

    1.3 ナノ構造化による格子熱伝導率低減

    格子熱伝導とは,結晶中の原子の振動(格子振動)の振動エネルギーの伝搬である.角振

    動数 ω(エネルギーε=ħω)の格子振動の量子をフォノンと呼ぶ.ここで,ħはプランク定数で

    ある.フォノンの概念を導入すると,熱伝導はフォノンの拡散現象で表現される.格子熱

    をフォノンから構成される気体として扱えば,熱伝導率は気体分子運動論と同様に式(1.3)

    で表される(フォノン気体モデル)[4].

    dvCD gb )()()()(31

    0

    (1.3)

    ここで κbはバルクの熱伝導率,Ω0は単位格子の体積,D は状態密度,C は熱容量,vgは群

    速度,Λは平均自由行程(mean free path, MFP)である.MFP とは,粒子が散乱するまでの移

    動距離を平均化したものであり,散乱するまでの平均時間,即ち散乱頻度の逆数である緩

    和時間 τと群速度 vgを掛け合わせたものである.

    フォノン同士の衝突による散乱に加えて,Fig. 1-3 のような構造制御を施すことで,結晶

    粒同士の間においてフォノンの界面に衝突することによる界面散乱を発生させることがで

    きる.界面散乱は Fig. 1-4 の模式図に示す通り結晶のスケール L より平均自由行程 Λの長い

    フォノンの移動が制限されるために発生し,バルク単結晶より散乱が増えた結果として熱

    伝導率が低下するため,熱電変換性能の向上が可能である.一例として鉛テルルの ZT を Fig.

    1-5 に示す.775 ℃において ZT~1.1 を示すナトリウムを添加した鉛テルル(p 型)をナノ構造

    化によって 800 ℃で ZT~1.7 を示すよう性能向上することに成功している[9]. 熱伝導率がナノ構造化によって低減することを理論的に理解するために,累積熱伝導率

    という概念を導入する.累積熱伝導率とは MFP が Λ=0 から Λ=Λ0までのフォノンの熱伝導

    率への寄与を累積したものとして定義され,以下の式で表される[10].

    dDCvgc0

    00

    0 31)( (1.4)

    Λ=Λ0をナノスケール構造化された材料の結晶粒のサイズ L に対応させ,また結晶粒界面は

    L 以上の MFP を有するフォノンを透過しない,と仮定することで累積熱伝導率はナノ構造

    化材料の熱伝導率を示すことと等価になる.

    ある熱電材料の累積熱伝導率が Fig. 1-6 で表されるものとする.例えば,ナノ構造体の

    スケールを 100 nm とすれば 30 %の熱伝導率の低減が見込めることが分かる.このように,

    累積熱伝導率を利用することで最適なナノ構造体のスケールを決定することが可能である.

    しかしながら,Fig. 1-6 の通り,様々なスケールの MFP を有するフォノンが熱伝導に寄与し

    ている.そのため,熱伝導率の低減が見込める最適なナノ構造体のスケールを見積もるた

  • 7

    めには,累積熱伝導が MFP に対して大きく変化する MFP 領域を表す長さスケールを知る

    ことが有用である.そこで,累積熱伝導率 κcが 10 %および 90%となる MFP である ΛSと ΛL

    を用いて,累積熱伝導率の傾向を定性的に理解できる二つの長さスケールを導入する[式

    (1.5),(1.6)].

    2

    logloglog LS

    (1.5)

    SL logloglog (1.6)

    一般的に累積熱伝導率は片対数で描写されることを考慮して,ΛSと ΛLの対数の平均を取っ

    たものが式(1.5)である.これは累積熱伝導率が変化している MFP 領域の長さスケールを示

    す.次に,ΛSと ΛLの対数の差を取ったものが式(1.6)である.これは累積熱伝導率が変化す

    るときの勾配を表す.差が小さいほど勾配が急であることから,単一スケールのナノ構造

    化による熱伝導率低減のしやすさの度合いを示す長さスケールである.

    これら二つの長さスケールを用いることで,熱伝導率低減において最適なナノ構造体の

    スケールが分かる.逆説的に言えば,実験的に加工および合成が可能なナノ構造体によっ

    て,熱伝導率が大幅に低減可能な熱電材料のスクリーニングに繋がる.

    Fig. 1-3 構造制御による結晶粒[11].

    Fig. 1-4 結晶粒界面によるフォノン輸送の阻害模式図.

    L はナノ粒子のサイズ,はフォノンの平均自由行程.

  • 8

    1 1000

    50

    100

    c (%

    )

    MFP (nm)

    10

    90

    S L

    Fig. 1-5 鉛テルルの ZT 温度依存性[12]. Fig. 1-6 累積熱伝導率の模式図.

    1.4 第一原理熱伝導率解析法

    ナノ構造化による熱伝導の低減を制御するためには,熱伝導率を微視的に理解する必要

    がある.近年,非経験的な力場を用いた非調和格子動力学(anharmonic lattice dynamics,

    ALD)[13,14]や分子動力学(molecular dynamics,MD)[14, 15]計算が単結晶や合金化熱電材料に

    適用され,正確かつ微視的な熱伝導解析が報告された[14-20].得られた解析結果から累積

    熱伝導率を求めることで,ナノ構造化による熱伝導低減率を見積もることが可能であるが,

    これらの手法は第一原理に基づいているために計算コストが比較的高く,新規熱電材料の

    探索においては限定的である.

    1.5 研究の目的

    ナノ構造化に適した熱電材料スクリーニングにおいては,累積熱伝導率が有効な手段で

    あるが,熱電材料候補全てに対して第一原理熱伝導解析を行い,累積熱伝導率を求めるの

    は実用的でない.そこで本研究では,ナノ構造体の長さスケールの見積りに必要な ΛSと ΛL

    を計算するため,短 MFP および長 MFP のそれぞれの極限において普遍的な累積熱伝導率

    をフォノン輸送理論に基づいてモデル化することを目的とする.

  • 9

    第 2 章 計算手法

  • 10

    2.1 格子動力学法

    格子動力学法(Lattice Dynamics, LD)とは,原子間の力を調和的なポテンシャル関数で近似

    し,それを用いた線形の運動方程式を解くことで格子振動解析を行う手法である[21].具体

    的には以下の方法で計算される. 結晶中の n 番目の基本単位胞中の原子 b を考える.この原子のニュートン方程式は式(2.1)

    で与えられる.

    bnbnb r

    Urm

    (2.1)

    ここで,mbは原子の質量,r は原子の平衡点からの距離,U はポテンシャルエネルギー,添

    字 αと βは方向(x,y,z)を表す. 格子動力学においては,調和近似のもとでポテンシャルを変位の二次の項までテイラー

    展開する.

    ''

    '', ,

    ,'',0 !2

    1nbbn

    nbbnnbbn rrUU (2.2)

    ここで,b’,n’はそれぞれ相互作用する原子の番号及び基本単位胞の番号である.

    格子振動を考えているため,原子変位を以下で表される平面波解で仮定する.

    )](exp[1 tiem

    u nbb

    bn Rk (2.3)

    ここで,k は波数ベクトル,R は基本単位胞の座標ベクトル,t は時間である.式(2.2)と式

    (2.3)を式(2.1)に代入して式を整理する.

    bnn

    nb bb

    nbbnb eimm

    e )](exp[ ',',' '

    ,'',2 RRk

    (2.4)

    e が成分の列ベクトル e を考えると,式(2.4)は以下の行列式で表すことが出来る.

    ekDe )(2 (2.5) これはダイナミカルマトリクス D の固有値問題である.なおダイナミカルマトリクス D(k)

    の(b,α)行(b’,β’)列は式(2.6)である.

    )](exp[)( '' '

    ,'',,

    ', nnn bb

    nbbnbb imm

    D RRkk

    (2.6)

    式(2.5)を解くことでフォノン分散関係,つまり ωと k の関係を得ることができる. 0)(2 kDI (2.7)

    また,周波数の k に関する微分から群速度を求めることが可能である.

    三次元空間で解析を行うため,原子 1 つにつき自由度を 3 つ持ち, 1 つの k に対して基

    本単位胞内の原子数の 3 倍の分枝 s が存在する.このとき,k→0 の時 ω→0 となる 3 つの分

  • 11

    枝のフォノンを音響フォノン(Acoustic phonon),残りの分枝のフォノンを光学フォノン

    (Optical phonon)と呼ぶ.また,k に対して振動の方向が垂直のフォノンを横波(Transverse

    phonon),平行,即ち疎密波となるフォノンを縦波(Longitudinal phonon)と呼ぶ.

    2.1.1 熱容量

    熱容量 C とは物質を 1 K 上昇させるために必要な熱エネルギーを表す[22].ある周波数 ω

    を持つフォノンの内部エネルギーumodeは式(2.8)で定義される.

    )()(mode BEfu (2.8)ここで,fBEはボース=アインシュタイン分布関数であり,式(2.9)で定義される.

    1)/exp(

    1)(

    Tk

    fB

    BE

    (2.9)

    式(2.8)を温度 T に関して微分することで,フォノンのモードの熱容量 Cmodeを得る.

    1)()()/( 2mode BEBEBB ffTkkdTduC (2.10)

    高温極限における熱容量はモードに依らず,ボルツマン定数 kBに等しくなる. Cmode kB (2.11)

    0 5 100

    0.5

    1

    Frequency (THz)

    Cm

    ode/k

    B

    T=1000 K 300 K 100 K

    Fig. 2-1 温度毎の熱容量と周波数の関係.

  • 12

    2.1.2 状態密度

    状態密度とは対応する周波数範囲において存在している状態の数であり,以下の式で表

    される[23].

    NdD )( (2.12)

    ここで,δN は微小格子内のモードの増加数である.周期境界条件のもとで,一辺 L の立方

    体が N3個の基本単位格子を含むとき,取り得る k の値は式(2.13)である.

    2/;2,2,2 NnLn

    Ln

    Ln

    k (2.13)

    即ち,L を単位体積の辺と置き換えることで,各分枝に単位体積あたりの存在する状態の数

    は式(2.14)で表される.

    30

    3

    82

    L (2.14)

    半径 k の球を想定することで,その体積と式(2.14)より式(2.15)となる.

    34

    2

    33 kLN

    (2.15)

    これは波数 k 以下のモードの総数である.波数ベクトル k と分枝 s による表記を考えると,

    積分系では式(2.16)と表すことが出来る.

    s

    dN k330

    )2(3

    (2.16)

    式(2.16)を周波数空間に置き換えると式(2.17)となる.

    0

    )(3 dDN (2.17)

    ここで,D(ω)は式(2.18)で定義される.

    )()2(

    )()( 330 sdsD

    sskkk

    k

    (2.18)

    実際に式(2.18)によってシリコンの状態速度を計算した結果を Fig. 2-2 に示す.

  • 13

    0 5 10 15

    0 1 2 3

    Frequency (THz)

    DO

    S

    Frequency (THz)

    D0

    Fig. 2-2 シリコンの状態密度.

    2.1.3 群速度

    群速度とは,空間に局在する様々な波数の波の重ね合わせである波束の中心速度である

    [23].フォノン分散関係の微分で定義される.

    k

    v

    g (2.19)

    後述の Debye モデルにおいては,モードに依らず群速度は一定となる.

    0vvg (2.20)

    v0を音速と呼ぶ.

    2.2 緩和時間

    f(x,v,t)を分布関数としたときのフォノンのボルツマン輸送方程式は式(2.21)となる[24].

    coltfftf )/(grad/ xv (2.21) ここで,式(2.21)右辺(衝突項)に対して,式(2.22)と近似する.

    ),(/)()/( 0 vrfftf col (2.22)

    ここで f0は熱平衡時の分布関数である.緩和時間 τは,このように定義される.フォノンの

    気体分子運動論においては,フォノンが再衝突するまでの平均時間間隔を表す.

  • 14

    2.3 モデル

    2.3.1 Debye モデル

    Debye は結晶内の原子を弾性体と近似し,フォノンの分散関係が全波数領域において線形

    であると仮定した[25].

    kv0 (2.23)ここで,v0は音速である.式(2.15)にこれを代入して微分すると式(2.24)を得る.

    202

    30

    20

    2

    20

    22)(

    D

    vdd

    ddND

    kk (2.24)

    この式が状態密度関数の Debye モデルである.これを式(2.17)に代入すると,右辺は無限大

    に発散してしまうため,カットオフ周波数となるデバイ周波数 ωD を設定する必要がある.

    Nv

    dD DD 3

    63

    30

    20

    0

    20

    (2.25)

    また,デバイ温度 ΘDは式(2.26)で定義されている.

    DBD k (2.26)デバイ温度は材料固有であり,実験によって計測することが可能である.

    2.3.2 Klemens の緩和時間モデル

    フォノン同士の衝突の内,2 つのフォノンが衝突して 1 つのフォノンとなるとき

    (One-phonon emission/absorption)の緩和時間は式(2.27)で表される[24,26].

    2,1

    211221

    231

    BEBE ffc

    (2.27)

    ここで,c3はFourier変換された三次の非調和バネ定数である.ここでKlemensは c3を式(2.28)

    と近似した.

    2132

    3

    gvM

    Gic (2.28)

    ここで,G は格子点の数,M は単位胞内の原子質量,γはモードの周波数の体積微分で定義

    される Grüneisen 定数である.これに加えて fBE の高温極限をとることで式(2.27)は式(2.29)

    となる.

    T

    ATk

    Mv

    B

    g20

    22max

    2

    2

    (2.29)

    ここで,ωmaxは最大周波数である.

  • 15

    2.3.3 Slack の熱伝導率モデル

    Slack は熱伝導率を,式(2.30)でモデル化した[27].

    2

    33/1

    slack

    TMB D (2.30)

    ここで,B は材料によらない定数である.このモデルは比較的高温のときに成立する.

  • 16

    第 3 章 結果と考察

  • 17

    3.1 格子動力学法による計算

    3.1.1 指針

    本研究では,半導体として幅広く用いられているシリコン(Si),環境調和性に優れたマ

    グネシウムシリサイド(Mg2Si)[28],先天的な熱伝導率の低さから幅広く用いられている鉛テ

    ルル(PbTe)[29],高温領域熱電材料として応用が期待されているハーフホイスラー化合物

    (ZrCoSb)[30]の四つの材料を対象とし,第一原理的に得られた調和原子間力定数[14,15,19]

    を用いて LD 計算を行った.なお,LD 計算で用いた波数空間メッシュ及び絶対温度は記述

    がない限り 50×50×50,300 K で統一した.

    3.1.2 フォノン分散関係とその線形性

    LD 計算によって得られた各材料のフォノン分散関係およびフォノン状態密度を Fig. 3-1

    に示す.図中の赤丸は中性子散乱実験結果[31-33]であり,特に音響フォノンが実験結果と

    よく一致していることが分かる.

    0

    10

    20

    Freq

    uenc

    y (T

    Hz)

    DOS Kpoints X L W

    This workExperiment

    (a) Si

    0

    10

    Freq

    uenc

    y (T

    Hz)

    Kpoints X L

    This workExperiment

    (b) Mg2Si

    DOS

    0

    2

    4

    Freq

    uenc

    y (T

    Hz)

    DOS Kpoints LX X

    This workExperiment

    (c) PbTe

    0

    10

    Freq

    uenc

    y (T

    Hz)

    DOS Kpoints X L X W

    This work(d) ZrCoSb

    Fig. 3-1 LD 計算によって得られた各材料のフォノン分散関係と状態密度.

    (a)Si (b)Mg2Si (c)PbTe (d)ZrCoSb 図中の赤丸は中性子散乱実験結果[31-33].

  • 18

    フォノン分散関係において線形性がある周波数帯においては,Debye モデルに基づいた解析

    が可能となる.そのために線形領域を見積もる.式(2.23)が成立するとき,フォノン分散関

    係は線形となる.そこで,式(3.1)で定義される Δ を縦軸に取り横軸を周波数としたグラフ

    を Fig. 3-2 に示す.

    k gv2

    (3.1)

    いずれの材料においても,十分に低周波数であれば Δ が 0 に近い値となり Debye モデルと

    等しくなる共通の性質があることが分かる.Δの微分値が連続して上昇(下落)傾向を見せな

    い各材料の領域を Tab. 3-1 に示すように定義した.以降この領域を線形領域と呼称する.な

    お,これらの低周波数となるフォノンの分岐は全て音響モードである.

    1 10

    −1

    0

    1

    [10+13]

    Frequency (THz)

    Debye modelThis work

    (a) Si

    linear area

    1 10

    0

    1

    [10+13]

    Frequency (THz)

    Debye modelThis work

    (b) Mg2Si

    linear area

    0.1 1

    −2

    0

    2

    [10+12]

    Frequency (THz)

    Debye modelThis work

    (c) PbTe

    linear area

    1

    0

    5

    [10+12]

    Frequency (THz)

    Debye modelThis work

    (d) ZrCoSb

    linear area

    Fig. 3-2 低周波数におけるフォノン分散関係の線形性.

    (a)Si (b)Mg2Si (c)PbTe (d)ZrCoSb

  • 19

    Tab. 3-1 線形領域の最大周波数 (THz).

    Si Mg2Si PbTe ZrCoSb

    2.30 1.74 0.24 1.30

    3.2 長 MFP 領域の普遍化

    平均自由行程(mean free path, MFP)は以下の式で定義される.

    gv (3.2)

    Λが大きくなるためには群速度もしくは緩和時間が大きい値をとる必要がある.

    LD から得られたフォノン分散関係から式(2.19)を用いて群速度を計算し,その周波数依

    存性を Fig. 3-3 に示す.これより,低周波数において群速度が最大となることが分かる.

    1 100

    5000

    10000

    Frequency (THz)

    v g (m

    /s)

    (a) Si

    TALA

    1 100

    5000

    10000

    Frequency (THz)

    v g (m

    /s)

    (b) Mg2Si

    TALA

    0.1 10

    2000

    4000

    Frequency (THz)

    v g (m

    /s)

    (c) PbTe

    TALA

    0.1 1 100

    2000

    4000

    6000

    Frequency (THz)

    v g (m

    /s)

    (d) ZrCoSb

    TALA

    Fig. 3-3 群速度の周波数依存性.LA は音響縦波(Longitudinal Acoustic),TA は音響横波

    (Transverse Acoustic)をそれぞれ示す.

  • 20

    緩和時間の Klemens モデル(2.3.2)を考える.このとき,緩和時間は周波数のマイナス 2 乗

    に比例していることより低周波数において大きくなる.

    以上 2 点を考慮することにより低周波数において Λ は大きい値をとると推測される.よっ

    て,長 MFP 領域が線形領域に等価であると仮定する.

    3.2.1 減法による累積熱伝導率

    長 MFP 領域に着目するために全てのフォノンモードの熱伝導率の合計から,累積熱伝導

    率を用いてΛ=Λ0以上のMFPを有するフォノンの熱伝導率への寄与を評価する.このとき,

    式(1.4)は,式(3.3)へと変形が可能である[15].

    dDCvgbc

    0031 (3.3)

    長 MFP 領域となる Λ=Λ0におけるフォノンは全て低周波数のフォノンであると仮定して

    いるため,式(3.3)の右辺第二項の状態密度,熱容量,群速度および緩和時間はそれぞれ式

    (2.24),式(2.11),式(2.20),式(2.29)のモデルを適用することが可能である.

    dTAvkD Bbc12

    02

    02

    00

    0

    31 (3.4)

    これを周波数と MFP の関係に注意して整理すると,以下が得られる.

    2/12/12/30

    2/30

    2/500

    3

    c

    TAvDk

    bB

    bc (3.5)

    この c は材料固有の定数である.ここで,Λ’を式(3.6)と定義する.

    2

    'b

    c

    (3.6)

    式(3.6)を式(3.5)に代入することで,累積熱伝導率は材料に依らず式(3.7)と変形することがで

    きる.

    2/1'1/ bc (3.7) この理論の正当性を 3.2.2 で確かめる.

  • 21

    3.2.2 非調和格子動力学法の結果による評価

    ここでは,先行研究[14,15,19]の 非調和格子動力学(ALD)法によって得られた計算結果を

    用いて,3.2.1 の理論の妥当性を示す.ALD は調和的なポテンシャルに加えて,非調和的な

    ポテンシャルを使用する手法であり,非調和性に由来したフォノン緩和時間を計算するこ

    とが可能な方法である.

    Klemens モデルによれば,低周波数領域における緩和時間は材料に依らず ω-2の周波数依

    存性を示すが,ALD 法を用いて計算された緩和時間は Klemens モデルとは異なる周波数依

    存性を示す.例として ZrCoSb の緩和時間の周波数依存性を Fig. 3-4 に示す.Fig. 3-4 中の実

    線は Klemens モデルであり,破線は線形領域中の緩和時間を ω-αでフィッティングした結果

    である.α=1.82 と,緩和時間は ω-2の周波数依存性は示さないが,本研究ではこの点を考慮

    せず,線形領域において緩和時間は Klemens モデルに従うものとして累積熱伝導率の普遍

    化を行った.

    1 101

    10

    100

    1000

    −2 (Klemens)

    fit)

    Frequency (THz)

    Rel

    axat

    ion

    time

    (ps) cutoff

    Fig. 3-4 ZrCoSb の緩和時間の周波数依存性[reference].

    実線は冪数-2 (Klemens モデル).破線は冪数フィッテング.

    長 MFP 領域における累積熱伝導率の普遍化において重要なパラメータは,D0,v0およ

    び A0に依存した定数 c である.Figs. 3-1, 3-3, 3-4 から分かる通り,D0,v0,A0それぞれは線

    形領域内であっても周波数に依存するため,c も同様に周波数に依存する.したがって,線

    形領域内にカットオフ周波数を設定し,それ以下の周波数帯における計算結果から求めた

    D0,v0と A0,及び c それぞれの周波数依存性を Fig. 3-5 に示す.

  • 22

    Fig. 3-5 中の赤線は 3.1.2 において定義した線形領域である.線形領域では D0,v0,A0は

    ほぼ一定の値を取り,周波数に強く依存しないことが分かる.しかしながら,分散の線形

    性が最も強く見られる周波数は 0 近辺では,D0,v0,A0,c のいずれも周波数に強く依存し,

    値が変動していることが見られた.これは LD 計算におけるメッシュの粗さに起因するもの

    である.例として Mg2Si の v0に関して,より粗いメッシュサイズ 30×30×30,40×40×40

    を用いた場合の LD 結果との比較図 Fig. 3-6 を示す.メッシュが細かいほど,v0が急激に下

    落する周波数が低くなることが分かる.これより,メッシュサイズが無限大であれば,周

    波数 0 から線形領域最大までの全ての線形領域で急激な変動が起きないと推定することが

    できる.そこで,今回はこの 0 近辺の値が急激に変動する周波数帯を無視した.

    0.1 1 10

    1017

    1018

    1019

    A 0 (K

    /s)

    Frequency (THz)

    SiMg2Si

    PbTeZrCoSb

    ※ linear area

    0.1 1 101e−41

    1e−40

    1e−39

    D0 (

    m3 /s

    3 )

    Frequency (THz)

    SiMg2Si

    PbTeZrCoSb

    ※ linear area

    0.1 1 10

    1000

    10000

    v 0 (m

    /s)

    Frequency (THz)

    SiMg2Si

    PbTeZrCoSb

    ※ linear area

    0.1 1 10

    0.0001

    0.01

    c (W

    /m1/

    2 −K

    )

    Frequency (THz)

    SiMg2Si

    PbTeZrCoSb

    ※ linear area

    Fig. 3-5 D0,v0,A0および c の周波数依存性.

  • 23

    1

    4000

    5000

    v 0 (m

    /s)

    Frequency (THz)

    50×50×5040×40×4030×30×30

    Fig. 3-6 各メッシュサイズにおける Mg2Si の平均化群速度の周波数依存性.

    ALD 計算で得られた累積熱伝導率に式(3.6)を適用した結果を Fig. 3-7 に示す.理想的には図

    中の赤実線は式(3.7)に一致するはずであるが,四つの材料は概ね一つの曲線にのっているこ

    とが分かる.理想的な累積熱伝導率からのズレを議論するために,Λ’=100 のとき 1-κc/κb=0.1

    となることに着目し,誤差を式(3.8)中の c’を用いて評価する.

    2/1''1/ cbc (3.8)

    得られた誤差は log c’=±0.09 程度であった.この誤差は前述の緩和時間モデルの実際との冪

    数の差によって生じていると推測される.よって,ALD が厳密な計算であることより,こ

    の精度が式(3.6)による長 MFP 領域の普遍化の限界である,と考えることが出来る.

    1 10 100 1000

    0.1

    1

    1− c

    /b

    '

    SiMg2Si

    PbTeZrCoSb

    '−1/2

    log c =±0.09

    Fig. 3-7 式(3.6)による普遍化結果と理想的な式(3.7)との比較.

  • 24

    これまでに得られた結果より,次の 2 点を述べることが出来る.

    累積熱伝導率の長 MFP 領域を線形領域と仮定し,Debye および Klemens モデルを用いて

    普遍化することは妥当である.

    その精度の限界はおよそ Fig. 3-7 の赤破線である.逆に言えば,この程度の精度が要求さ

    れている,と考えることが出来る.

    3.2.3 熱伝導率による合わせ込み

    3.2.2 より,長 MFP 領域における累積熱伝導率を普遍化するためには D0,v0 および A0

    の値が必要である.しかし,LD 法ではフォノン状態密度と群速度から v0 と D0を求めるこ

    とが可能であるが,モードごとの緩和時間及び熱伝導率は計算できないため,3.2.2 と同様

    の手法で A0 を得ることは出来ない.そこで,調和量と実験的に得られる材料の物性値から

    導くことが可能な A0のモデルが必要である. 緩和時間を式(2.29)として導出した熱伝導率と実験値による熱伝導率を比較することでA0

    を求める.

    122

    0

    0

    31 TDCv

    Ag

    b

    (3.9)

    この式により得られた A0を Fig. 3-8 に示す.

    0.1 1 10

    1017

    1018

    1019

    A 0 (K

    /s)

    Frequency (THz)

    SiMg2Si

    PbTeZrCoSb

    ※ linear area※ A0 (fit )

    Fig. 3-8 ALD で得られた A0と式(3.9)による A0の比較.

  • 25

    A0 を材料の熱伝導率から求める手法では,線形領域以外の周波数帯の影響も含んでいる.

    実際に ALD の A0と比較すると最大値と最小値の間になることからも,そのことが分かる.

    Fig. 3-7 程度の精度で累積熱伝導率を普遍化するためには,線形領域の性質のみ反映されな

    ければならないが,線形領域の熱伝導率を LD 法では計算できなため,低周波数の性質を反

    映したモデルが必要である.

    3.2.4 Slack の熱伝導率モデルの適用

    Slack の熱伝導モデル及び Debye モデルを考える.ここで,線形領域のフォノンは音響フ

    ォノンであることと,式(2.25)より音速とデバイ温度が比例関係にあることに注意して Slack

    の式を変形し,Klemens の緩和時間のモデルに代入することで,式(3.10)を得る.

    3/10

    maxacoslack0 '

    vT

    BA

    (3.10)

    ここで,ωaco-max は音響フォノンの最大周波数である.式(3.10)中のSlackの熱伝導率に実験値

    を代入することで計算した A0の周波数依存性を Fig. 3-9 に,また得られた c を用いて規格化

    した累積熱伝導率を Fig. 3-10 にそれぞれ示す.

    0.1 1 10

    1017

    1018

    1019

    A 0 (K

    /s)

    Frequency (THz)

    SiMg2Si

    PbTeZrCoSb

    ※ linear area※ model A0

    1 10 100 1000

    0.1

    1

    1− c

    /b

    '

    SiMg2Si

    PbTeZrCoSb

    '−1/2

    log c =±0.09

    Fig. 3-9 ALD と式(3.10)による A0の比較 Fig. 3-10 モデルによる普遍化結果と

    理想的な式(3.7)の比較.

    ZrCoSb の A0は ALD 結果のフィッティングより得られた A0(Fig. 3-7)と比較して約 2 倍の値

    となるために大きく外れるが,ZrCoSb を除いた全ての材料が赤破線に挟まれた領域内に存

    在していることから,調和量と実験値のみを用いたモデル化が部分的に成功していると言

  • 26

    える.

    ここで,ZrCoSb がモデルから外れる理由を考察する.本モデルでは 3.2.3 で得られた結果

    を受けて,線形領域の性質を特徴付ける量として ωaco-max と v0を導入し,Slackのうち線形領

    域における熱伝導率の計算を試みた.しかしながら,実際に ALD 計算結果から得られた

    ZrCoSb と Mg2Si の熱伝導率全体に対する線形領域の熱伝導率の占める割合はおよそ 1:2 と

    なり,この影響を ωaco-maxと v0のみでは打消し切れないことが外れる要因と考えられる.

    これまでに得られた結果より,以下の 2 点を述べることができる.

    Klemens の緩和時間モデルの係数決定のために熱伝導率に合わせこむ方法は十分に線形

    領域のみに着目することが出来ないため不適である.

    Slackの熱伝導式を用いてKlemensの式を補うことで一部の材料を除いてA0のモデル化が

    可能であり普遍化することが出来る.

    3.3 短 MFP 領域の普遍化

    式(1.3)と式(3.2)より,同じ MFP を持つフォノン同士のときは,群速度の大きい方が熱伝

    導率は大きくなり,このフォノンが累積熱伝導率に与える影響は大きいと考えることがで

    きる.よって,群速度に主眼を置くことで短 MFP における累積熱伝導率の普遍化を行う.

    3.3.1 短 MFP 領域のフォノンの分類

    検証のためにALD結果[14,15,19]を用いて計算した音響モードと光学モードそれぞれの累

    積熱伝導率を Fig. 3-11 に示す.

    これより,長 MFP 領域と異なり,短 MFP は両方のモードが熱伝導を担っていることが分

    かる.そのため,普遍化においてこの点を考慮して行わなければならない.

  • 27

    1 100 100000

    100

    MFP (nm)

    c (W

    /m−K

    )(a) Si

    OpticalAcoustic

    All

    1 10 100 10000

    10

    MFP (nm)

    c (W

    /m−K

    )

    (b) Mg2Si

    OpticalAcoustic

    All

    1 1000

    1

    2

    MFP (nm)

    c (W

    /m−K

    )

    (c) PbTe

    OpticalAcoustic

    All

    1 10 100 10000

    10

    20

    MFP (nm)

    c (W

    /m−K

    )

    (d) ZrCoSb

    OpticalAcoustic

    All

    Fig. 3-11 音響モードと光学モードの累積熱伝導率.

    (a)Si (b)Mg2Si (c)PbTe (d)ZrCoSb

    3.3.2 デバイ速度によるモデル化

    式(2.25)と式(2.26)より,デバイ温度から速度が一意に定まる.これをデバイ速度と呼称す

    る.デバイ温度はモードに依存しない量であるため,デバイ速度もモードに依存しない.

    これによって普遍化を目指す.各材料のデバイ温度[34-37]及び計算して求めたデバイ速度

    を Tab. 3.2 に示す.

    Tab. 3-2 デバイ温度(D)[34-37]とデバイ速度(vD).

    Si Mg2Si PbTe ZrCoSb

    D (K) 650 420 150 400

    vD (m/s) 4085 2710 1143 2482

  • 28

    群速度が支配的であるため,その影響を打ち消すことで普遍化が可能であると仮定する

    と式(3.10)によって MFP のモデル化が可能と考えられる.

    )//('' Db v (3.11)

    この式を実際に適応した結果を Fig. 3-12 に示す.

    1e−07 1e−06 1e−05 0.00010

    1

    1e−07 1e−060

    0.1

    0.2

    c/

    b

    ''

    SiMg2Si

    PbTeZrCoSb

    c/

    b

    ''

    Fig. 3-12 累積熱伝導率の低 MFP 領域に対する普遍化.

    これで,式(3.10)によって累積熱伝導率にして 0~20 %程度までの短 MFP 領域の普遍化が可

    能であることを示した.

  • 29

    3.4 指標による普遍化評価

    式(1.5),(1.6)で定義した log を横軸に, log を縦軸に取った模式図を Fig. 3-13 に示す.ここで,析出体とは結晶内に析出体を出現させる数 nm オーダーのナノ構造化,焼結体

    は数百 nm オーダーのナノ構造化である. log の値はナノ構造体のおおよその長さスケールを示すため,そのスケールに適したナノ構造化手法を選択する際の指標となっている.

    log と log の間には何らかの基準線が引け,この線を境界として熱電材料としての可能性の有無を判断することが可能になると推定した.

    Fig. 3-13 熱電材料の判断基準の模式図.

    3.2,3.3 の理論に基づいて LD の計算結果と実験値から ΛSと ΛLを求める.

    ここで,ΛLは定義上累積熱伝導率が 90 %となる MFP であることから,式(3.5)より式(3.12)

    と表すことが出来る.

    2

    10

    bL

    c

    (3.12)

    一方,ΛSは Fig. 3-12 より直接読み取ることで式(3.13)を立てた.

    D

    bS v

    c

    ' (3.13)

    ここで,c’は材料によらない定数である(本研究では c’=1.26410-6とした).

    LD 計算結果と実験値から求めた ΛS と ΛL を Tab. 3-3 に示す.比較のため,ALD 計算

    [14,15,19]で得られた ΛSと ΛLも同様 Tab. 3-3 に示す.

  • 30

    Tab. 3-3 ALD 計算および本研究で求めた材料毎の ΛSと ΛL

    Si Mg2Si

    This work ALD This work ALD

    S (nm) 42.60 39.96 5.036 5.107

    L (nm) 12100 14040 427.7 283.5

    log 2.856 2.874 1.667 1.580 log 2.453 2.546 1.929 1.744

    PbTe ZrCoSb

    This work ALD This work ALD

    S (nm) 2.409 2.232 12.02 6.689

    L (nm) 126.5 127.6 1307 249.1

    log 1.205 1.227 2.098 1.611 log 1.720 1.757 2.036 1.571

    短MFP領域のモデルは全材料に対して極めてよく一致しているように見受けられたが,Tab.

    3-3 より ZrCoSb は大きく外れていることが判明した.

    ZrCoSb を除けば,計算した logと log の ALD との差はそれぞれ最大で 5 %,10 %程度であり,本研究でモデル化した累積熱伝導率は概ね ALD の計算結果と一致することが分

    かった.得られた log と log を,Fig 3-13 と同様に表した結果を Fig. 3-14 に示す.

    0 1 2 30

    1

    2

    3

    SiMg2SiPbTeZrCoSb

    This workALD

    log

    lo

    g

    Fig. 3-14 指標の仮想図.

  • 31

    ここで橙破線は仮に設定した基準線である.このとき, Fig. 3-14 から次のことを読み取る

    ことができる.

    Mg2Si と PbTe を比較すると, Mg2Si はナノ粒子焼結体化,PbTe はナノ粒子析出体が有効

    である.

    ALD の結果とモデルが乖離している ZrCoSb はこの線で分断されてしまっている.即ち,

    このモデルだけでは本来と異なる性質を示してしまう危険性がある.

  • 32

    第 4 章 結論

  • 33

    4.1 結論

    計算コストの比較的軽い解析である格子動力学法を用いて,実験結果によく沿うフォノ

    ン分散関係を導出した.また,これの低周波数における線形性を確認した.

    本研究ではこの結果と実験値によって長 M 平均自由行程領域及び短平均自由行程領域に

    おける累積熱伝導率を普遍化し,それを指標に適応することで性能表示を目指した.

    まず長平均自由行程領域を線形領域と仮定することによって成立する普遍化の妥当性を

    厳密な計算(非調和格子動力学法)による結果を用いることで確認した.その結果,Klemens

    モデルの冪数と実際とのズレが原因の誤差は生じるがある程度の精度で普遍化が可能であ

    ることが判明した.そして,格子動力学法では計算できない緩和時間のモデル化を行った.

    従来の Klemens の方法では線形領域のみに着目してモデル化することが出来なかったため,

    Slack の熱伝導率の式と合わせることで線形領域の要素をより含んだモデルを作成した.そ

    の結果,このモデルを使用することで,一部の材料を除いて普遍化することが可能となっ

    た.

    次に,短平均自由行程領域は音響フォノンと光学フォノン両方,すなわち全フォノンの

    性質を含んだ速度成分が必要であることが判明した.そこでデバイ温度から求まるデバイ

    音速を使用することで短平均自由行程の普遍化を行った.

    最後に,指標の可能性を示し,これにモデルによる値と非調和格子動力学法の結果によ

    る値を代入して比較した.その結果,一部の材料を除いて理論通り,正確に長平均自由行

    程領域と短平均自由行程に関してモデル化されていることが判明した.

    4.2 今後の課題

    本研究において,線形性を保つ領域の大きさは一定ではなく材料固有であること,そし

    て材料の線形領域における正確な情報から長 MFP 領域の普遍化が可能であることを確認し

    た.しかしながら,LD 計算による情報のみでは一部の材料に於いて現時点のモデル化だけ

    では不十分であり,ALD 等の計算コストがかかる手法の必要性が確認できた.

    今後はフォノンの部分的な熱伝導をより精度よくモデル化すること及び今回仮に用いた指

    標をより厳密に意味解釈することを目標とする.

  • 34

    参考文献

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  • 37

    謝辞

    担当教員の塩見先生には大変お世話になりました.来年も引き続き的確な指導をお願い

    します.丸山先生には直接お話を伺う機会は少なかったのですが,それでも CNT 的な意味

    で印象的でした.千足先生からは社会の厳しさをその忙しそうな姿から学ぶことが出来ま

    した.渡辺さんには研究室のあれこれを教わりました.ポットのお湯の交換タイミングに

    は気をつけようと思います.石田さんには事務手続きを色々と行っていただきました.

    志賀さんには研究のけの字からうの字まで教わりました.おそらく来年も無知ゆえの愚

    かな言葉をエンチャントし続けると思いますが,勘弁してください.James さん,おめでと

    うございます.堀さんには研究会で色々指摘を受けました.まともに受け答えできるよう

    にがんばります.村上さん,卒論には反映できませんでしたが IFC を無駄にはしません.

    前野さんには忙しい中,卒論の校正を手伝っていただきました.ちゃんと参考にしました.

    厳君は席が隣ということもあり多種多様の迷惑をかけました.この場を借りてお詫びし

    ます.その他名前を挙げなかった皆さんも一年間ありがとうございました&色々ごめんな

    さいでした.

  • 38

    以上

    卒業論文

    平成 26 年 1 月 31 日提出

    指導教員 塩見淳一郎准教授

    03120159 明戸 大介