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日皮会誌:95 (2), 145―155, 1985 (昭60)
絶賛状表皮発育異常症に発生したエクリン
汗器官癌由来培養細胞株の性状
本 田 まりこ 新 村 具 人
要 旨
比贅状表皮発育異常症患者に発生したエクリン汗器
官癌由来の培養細胞株を樹立し,その性状について検
索した.細胞は37歳男子の腹腔内転移巣より得られ,
37℃,5%C02下で20%FBS添加Eagle's MEM を培
地として静置培養された.培養細胞は多角形で敷石状
に増殖し,重積傾向およびドーム形成がみられた.電
顕的に徴絨毛を有し,細胞質内および細胞間に管腔を
形成する傾向がみられた.小型のデスモソームと少数
のトノフィラーxソトが認められたが,ウイルス粒子は
みられなかった.染色体数は86にモードを有する低4
倍体で,狭い範囲に分布し, t(4p-;9p゛?)が認めら
れた.BALB/cマウス皮下での初代生着率は5/5であ
り,腹腔内移植では5/5に癌性腹膜炎による血性腹水を
みた.電顕像や酵素組織化学により培養細胞はエクリ
ン汗器官癌由来の腫瘍が示唆された.免疫組織学的検
索ではDAKO社の乳頭腫ウイルス粒子に対する抗血
清では培養細胞および腹腔内転移巣細胞は陰性であっ
たが,患者より分離したウイルスで免疫した家兎抗血
清ではヒト乳頭腫ウイルス関連抗原が核および細胞質
内に認められた. Southern法によるウイルスゲノムの
検索で腹腔内転移巣および継代11代までの培養細胞中
にウイルスDNAが検出されたが,継代17代の細胞中
にはウイルスゲノムは認められなかった.
緒 言
把贅状表皮発育異常症(epidermodysplasia ver-
ruciformis, EV)は疲風様皮疹が幼児期より全身に多
発し,30歳を過ぎると種々の皮膚悪性腫瘍が多発する.
東京慈恵会医科大学皮膚科
Mariko Honda and Michihito Niimura : Character-
ization of eccrine carcinoma established in tissue
culture from a patient with epidermodysplasia
verruciformis
昭和59年6月26日受付,昭和59年10月3日掲載決定
別刷請求先:(〒105)東京都港区西新橋3 -19-18
東京慈恵会医科大学皮膚科 本田まりこ
本症の疲風様皮疹の角層および穎粒層の核内には多数
のtこト乳頭腫ウイルス(human papillomavirus.
HPV)が認められ,このウイルスが悪性腫瘍の発生に
何らかの役割をはたしているものと考えられ,現在
様々な検索が進められており,EV患者の皮膚悪性腫
瘍細胞中およびリンパ節転移巣の細胞中にウイルス粒
子としてではなく,HPV-DNAがプラスミドDNAと
してextrachromosomalに存在しているということ
が明らかにされている1)~3).
今回,我々はEV患者の腹部皮膚に発生したエクリ
ン汗器官癌腹腔内転移巣由来細胞を培養し,約2年間
の継代培養を重ね,なお旺盛に増殖しているので,そ
の培養経過および性状について述べるとともに培養細
胞とHPVとの関連について興味ある結果を得たので
報告する.
方 法
培養材料:37歳,EV患者男性.腹部皮膚に発生した
皮膚悪性腫瘍腹腔内転移巣のうち1個を選び,培養材
料とした.転移巣は胡桃大で,淡紅色充実性の腫瘍.
外部は白色の結合織で被われている.中心部をさけ,
培養に供した.
培養方法:材料を1mm大に細切し,プラスティク
シャーレに各々5個入れ,37℃,5%C02下で静置培養
した.培養液は20%fetal bovine serum (FIow社)加
Eagle's MEM (GIBCO)で,培養液の交換は3~4日
ごとに行った.
培養経過:培養第1日目に組織片の周囲に小円形細
胞が多数認められた.第3日目より線維芽細胞様細胞
と突起をださない上皮様細胞の2種類のoutgrowth
がみられた.第4日目より敷石状に配列する細胞がか
なり増殖し, outhgrowthがこの細胞だけからなるも
りと線維芽細胞様細胞との混在がみられるものとが認
められた.線維芽細胞様細胞は可及的にガラス棒でか
きとった.上皮様細胞は,大小不同はあまりみられず
若干の異型性を示す程度で重積傾向は認められない.
培養1ヵ月後より上皮様細胞の増殖は遅くなった.培
養2ヵ月目で濾紙法によりクローニング施行,培養液
146 本田まりこ 新村 真人
をHAM Flo, 10%fetal calf serum, 2.5% donner
horse serum, 2 % non-essencial amino acid (Flow
社)に変更.培養3ヵ月目より上皮様細胞が除々に増
殖しはじめ,継代2代目より安定した増殖がみられる
ようになった.
抗HPV-EV抗体作製:患者角質より分離精製4)し
たウイルスをFreund complete adjuvant (DIFCO)
とともに家兎の足底に注射し, Ouchterlony法にて抗
体の産生を確認してから脱血し,血清を分離した.正
常人角質および皮膚にて吸収を行った.
蛍光抗体間接法:既に我々が報告した方法5)で行っ
た.一次抗体として抗papillomavirus抗体(DAKO
社),抗HPV-EV抗体を使用し,60倍にPBSで希釈し
た.なお,プロテアーゼ処理は行わなかった.
DNA抽出:精製ウイルスと培養細胞はそのまま
を,癩風様良性皮疹と腹腔内転移巣の組織は凍結粉砕
してからSDS, Proteinase K (Merck社)処理した後,
フェノールにて抽出した.
DNAの電気泳動:制限酵素のBam HI, Eco RI,
Hind III(宝酒造)で切断したHPVヽDNAと細胞より
抽出したDNAを1%アガロースゲル上で電気泳動し
た後,エチジウムブロマイドで染色し,UVランプ下で
観察した.
32Pによる標識:HPV-DNAをニックトラソス
レーションにより32Pで標識(Amersham社)した.
Blotting hybridization : アガロースゲル中の
DNAをアルカリ変性した後, Southern法6)によりニ
トロセルロースフィルター上に移す32p標識HPV・
DNAとの問にhybridizationを行い,各組織の細胞に
HPV。DNAフラグメソトの有無の検索をした.
結 果
腹腔内転移巣の組織学的所見
1) HE染色所見
腹腔内転移巣の一部では,クロマチソに富む
basaloidの細胞が索状あるいは島嶼状の細胞塊を形
成(図1).他の部位では細胞質と核の明るい細胞が巣
状に増殖し,管腔形成傾向がみられる.核は大小不同
がみられ,時に分裂像が散見される(図2).ごく一部
であるが,角化傾向もみられる.腫瘍巣は結合線維束
に被われる.
2)電顕所見
細胞内に多数のグド=・-ゲソ穎粒を有し,小型のデ
スモソームや少数のトノフィラメソトがみられる.ま
た,管腔形成傾向がみられ,短い微絨毛を有している.
一部,細胞内管腔も認められる,なおウイルス粒子は
見られない(図3).
3)PAS染色
ほとんどの細胞はジアスターゼ消イヒ性PAS陽性の
グリコーゲン穎粒を有するが,管腔壁を構成する細胞
や管腔内容物はジアスターゼ抵抗性である.
4) Succinic dehydrogenase
腫瘍細胞はsuccinic dehydrogenase陽性である.
5) Carcinoembryonic antigen (CEA)
酵素抗体法5)によりCEAの局在を調べたところ,管
腔壁を構成する細胞と管腔内容物のみ陽性所見を得
た.なお,患者血清中のCEA値は4. 5ng/mlと上昇が
みられた.
培養細胞の性状(継代11~13代)
1)形態
継代3日目:大小不同の1核~多核の細胞で敷石状
に配列する.細胞は突起を有することもあり,また数
個の細胞が集まって,環状を示すところもみられる.
浮遊細胞もみられ互いに集まって細胞集団をなす(図
4).
継代1ヵ月目:重積傾向がみられ,一部球状のドー
ムを形成(図5).また,各所に細胞内空胞がみられ,
空胞のために印環細胞様となっている.
電顕所見:ドームは1層の細胞よりなり,重積傾向
の認められたところも細胞間小運河が多数みられる
(図6).個々の細胞は徴絨毛を有し,細胞間に小型の
デスモゾームが認められる.細胞質に多数のグリコー
ゲン穎粒がみられ,また少数のトノフィラメソトも散
見される(図7).
2)増殖動態
植込み数1×10=cells/dishでは,6日目まで指数的
に増殖し,倍加時間は31.7時間,細胞密度は2.7×lov
cm2であり,コロニー形成率は43.0%である(図8).
3)染色体数
染色体数は86にモードを有する低4倍体で,狭い範
囲に分布(図9).核型分析の結果,t(4p- ; 9p+?)
が認められた(図10).
4)ヌードマウス生着率
BALB/C(nu/十)マウス皮下での初代生着率は,培
養細胞1×107個で5/5であり,移植後1ヵ月で造腫瘍
が認められた(図11).培養細胞1×107個の腹腔内移植
では移植後2ヵ月で5/5に癌性腹膜炎による血性腹水
をみた.
5)PAS染色
把贅状表皮発育異常症の培養癌細胞
図1 腹腔内転移巣組織所見.クロマチンに富むbasaloidの細胞が索状あるいは島嶼
状の細胞塊を形成.×200
回孤延臭果芦夢ごFT-塑S阿:
=
14=:\↓……日=ペ:
……゜7
=
゜:………゛:ノl……=万……::ダ……i
=:1………:17ノ:gjユ,万,:
I
J羅誦i頑IS漣屈指eg犀頴
図2 腹腔内転移巣組織所見.細肌質と核の明るい細胞の腫瘍巣,管腔形成傾向がみ
られる.×200
培養細胞はジアスターゼ消化性PAS陽性のグリ
コーゲンを有するが,ドームを構成する細胞はジアス
ターゼ抵抗性である.
6) Succinic dehydrogenase
147
培養細胞も腹腔内転移巣細胞と同様にsuccinic de-
hydrogenase陽性である.
7)CEA
一部の細胞にCEAの局在が認められたが,培養1
148 本田まりこ 新村 貝人
図3 転移巣腫瘍細胞の電顕所見.微絨毛(V)や細胞内管腔(L)がみられ,エク
リソ汗器官由来細胞の所見を示す.×200
皿兪船積箭,絲心≪!. ・-Jt-%.聯昌いに皿
図4 継代3日目の培養細胞,大小不同の1核~多核の細胞で敷石状に配列する.
週後の培養上清中のCEA値(SRL)は0.7ng/mlとご
く微量にすぎなかった.
以上の所見より腹腔内転移巣および培養細胞はエク
リン汗器官癌が示唆された.
8)その他ウイルス学的検索
i)抗papillomavirus抗体
培養細胞は電顕的にウイルス粒子は認められず,抗
papillomavirus抗体(DAKO社)での免疫組織学的検
索でも陰性を示した.しかし‥脆者ウイルスより作製
した抗HPV-EV抗体を使用し,HFV-EV粒子だけで
紀贅状表皮発育異常症の培養癌細胞
図5 継代1ヵ月目の培養細胞,球状のdomeを各所に形成する.
図6 domeの電顕所見,1層の細胞より形成されている.×2,000
149
150
細胞数
1×107
1×106
1×105
本田まりこ 新村 偉人
・
●●=-
F.ご参
図7 培養細胞電顕所見,細胞間に不完全なデスモソームがみられ,微絨毛,多数の
グリコーゲン穎粒を認める.×5,000
1
2 3 4
日
5 6 7 8
数
図8 培養細胞のgrowth curve
なくHPV-EV関連抗原の検索を施行した結果,一部
の細胞の核および細胞質に陽性所見を得た(図12).ま
た,この所見は腹腔内転移巣細胞でも同様であった.
なお,この抗HPV-EV抗体はEVの良性皮疹のウイ
ルス粒子の存在する核だけでなく病変部の基底細胞を
除くすべての細胞質を染色させ,正常部位と明らかに
細胞数
20
10
81 82 83 84 85 86 87 88 89 90
染色体数
図9 培養細胞の染色体分布
区別ができる屯のである(図13).
iD患者HPV-DNAの電気泳動パターソ
λファージDNAを制限酵孝Hind Ill で切断し,モ
の電気泳動パターンをマーカーとしてHPV-DNAフ
ラダyソトの塩基対数を計算するとHind IIIでは7.5
Kb, 6.9Kb, 5.2Kb, 4.4Kb, 2.8Kb, 2.0Kb, 0.55Kb,
Eco RIでは7.5Kb, 5.5Kb, 1.85Kb, Bam HIでは7.5
川|に‖。| |4似付|‖|縦
付川川川川|‖
痢贅状表皮発育異常症の培養癌細胞
10
図10 染色体核型分析. t (4p- ; 9p+り)が認められた.
図11 7-ドマウス;培養細胞1×107個移植後3ヵ月
目の皮下腫瘍
Kb, 3.78Kb, 2.1Kb,1.4Kbのフラダj‘ソトが得られ
た.HPV-DNAの塩基対数は約8Kbであるので,この
方法では7.5Kbとやや低めに算出された. HPV-DNA
の制限酵素切断パターソより,この患者はHPV-5以外
に少なくとも3種類のHPV感染が考えられた.すな
わち,HPV-5DNAはHini Illで5.2Kbと2.0Kb, Eco
RIでは5.5Kbと1.85Kb, Bam HIでは7.5Kbのフラ
ダメソトに相当するが, Hind Ill ではその他に5本の
バンドが認められる.塩基対数の総和を計算すると7.5
Kb, 6.9Kb十〇.55Kb, 4.4Kb+ 2.8Kbの3つの組合せ
が考えられ,HPV-5以外に3種のウイルスが混在する
ことが推定される(図14九
iii) HPV-5 DNA をprobeとしたSouthern法
151
ミネソタ大学分子生物学教室に依頼し, Southern法
によるウイルスゲノムの検索でHPV-5DNAが,培養
細胞の継代4代も11代の細胞中に認められたが,患者
正常皮膚と継代17代の細胞中には検出されなかった
(図15).
iv)患者�V-DNAをprobeとしたSouthern法
患者は少なくとも4種類のHPV感染が考えられた
ので,このすべてのHPV-DNAを32Pでラベルし,こ
れをprobeとして検索したところ,患者癩風様皮疹と
腹腔内転移巣細胞中にHPV-DNAが検出された八
患者リンパ球や継代17代の培養細胞中には認められな
かった.また,疲風様良性皮疹と腹腔内転移巣細胞中
のHPV-DNAのバンドの位置が異なっていた(図
16).
考 按
乳頭腫ウイルス(papillomavirus)は本来皮膚や粘膜
に良性腫瘍である虎贅を発生させるDNAウイルスの
1つであり,ヒト,ウシ,ウサギ,ウマ,イヌ,シカ
などそれぞれの動物に個有の乳頭腫ウイルスが存在す
る7).乳頭腫ウイルスはpolynucleotide sequenceの
50%以上の相違を示す時,1つの型(タイプ)とし,
現在HPVは26型8)に分類されている.この中で発癌と
関係があると考えられているものは, 3,5,8型など
のEV患者から分離されるウイルスタイプ9)と6, 11,
16,18型の泌尿生殖器系のウイルスタイプ1o)である.こ
れらのウイルスと発癌との関係はいろいろな角度から
調べられている昿未だ確証は得られていない.EV患
152 本田まりこ 新村 箕人
図12 HPV-EV関連抗原陽性所見(蛍光抗体間接法).一部の培養細胞に認められ
る.×400
図13 巌風様良性皮疹のHPV-EV関連抗原陽性所見(PAP法).ウイルス粒子の存在
する核だけでなく病変部の基底細胞を除くすべての細胞質に認められる.×200
23.1Kb一一
9.4 。
6.6一一・
4.4一一
2.3一一一一
2.0-/I
λ
洗贅状表皮発育異常症の培養癌細胞
Hind 111 EcoRI Bam HI Uncut
図14 患者ウイルスDNAの制限酵素切断パターソ,
数種のウイルスタイプの感染が考えられる.
23,1
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図16 アガロース電気泳動(上段)と患者HPV-DNA
をprobeとしたSouthern法(下段)
巌風様良性皮疹と腹腔内転移巣中にHPV-DNAが
検出される.
レ
ー皿皿臨「………………」」
』 {・゛
}{}
」……゛
」゜ ……゛ 」゛・
{~三灘
図15 HPV-5 DNA をprobeとしたSouthern法
者に発生した皮膚悪性腫瘍中にウイルスゲノムの検出
の報告はあるが,これらは良性皮疹からのウイルス混
入を否定はできない.しかし,我々はウイルスの混入
が考えにくい転移巣細胞内にもウイルスゲノムの存在
することを既に発表した1).この現象を更に証明する
ために転移巣由来細胞株が必要と考え,今回,EV患者
に発生したエクリン汗器官癌腹腔内転移巣由来細胞株
樹立に成功したので,その培養経過およびその性状に
ついて述べ,また,HPVとの関係についても触れた.
HPV-5DNAの検索で,培養細胞の継代初期すなわ
ち継代4代と11代にウイルスゲノムが検出されたが,
継代17代では検出されなかった.樹立株の得られた患
者は,そのウイルスの制限酵素切断パターソから5型
以外に数種類のタイプのHPV感染が考えられた.
従って,得られた数種類のHPVを含有DNAをすべ
てニックトラソスレーショソ法により32Pでラベル
し,これをprobeとしてSouthern法を行った.その結
果,知風様良性皮疹と腹腔内転移巣内にはHPV-DNA
がみられたが,継代17代ではHPV-5DNAと同様に検
出されなかった. Leventon-Kissら12)もjuvenile lar-
yngeal papillomatosisからの細胞株においてHPV
関連抗原が同様に継代初期の細胞だけに認めている.
この患者は,日光裸露部以外にもエクリン汗器官腫
154 本田まりこ 新村 真人
瘍が体の各所に発生し,これらの発生にウイルスが明
らかに何らかの役割をはたしているものと考えられる
が,ウイルス自体にoncogeneを持っているものとは
考えにくい. HPV-5はbovine papillomavirus 1型13)
と同様にウイルス自体にoncogeneを持つという報
告11)もあるが,仮にoncogeneを持っているとしたら
他の腫瘍ウイルスと同様に100%感染細胞を悪性化さ
せるはずである.しかし,EV患者の1/3のみに悪性腫
瘍が発生し,しかも疲風様良性皮疹のすべてが癌化す
るわけでない.従って,HPV-DNAだけではなく他の
要因も加わって始めてcellular oncogeneが活性化し
癌化するものと考える.
しかし,ひとたびHPV-DNAがcellular oncogene
を活性化させると子宮頚癌における単純ヘルペスウイ
ルスと同様に,細胞の維持増殖には不必要となり切り
出されるのかもしれない.この考えはhit-and-run
mechaniSml5)といわれ,単純ヘルペスウイルスDNA
はげっ歯動物の細胞を癌化させる八癌化した細胞中
にはすでに単純ヘルペスウイルスDNAは含まれてい
ないということに基づく.転移巣細胞および継代初期
の培養細胞中にHPV-DNAは検出されたが, HPV-
EV関連抗原は癌細胞のすべての細胞中に存在せず,
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5)本田まりこ,村上京子,仲田佳子,大関武,新村真
一部の細胞のみであった.これは単に細胞周期の違い
やHPV geneの表現の差異によるものだけでなく,
HPV-DNA自体の存在の有無を示していると思われ,
HPV-DNAが細胞の維持増殖に必要とされていない
ことを物語っていると考えられる.0rthら16)もin situ
hybridization法で調べるとすべての癌細胞中に
HPV-DNAは保持されておらず,約1/10,000個の割合
であるとしている.しかし, HPV-DNAのごく一部の
DNAが存在している場合,検出されない可能性があ
るので,更に検討を加えていく必要があると思われる.
また,叛風様良性皮疹から検出されるHPV-DNAの
電気泳動パターンが転移巣細胞中とは異なっていたこ
とは何を意味するか今後検索する必要があろう.
本論文の要旨の一部は第47回日本皮膚科学会東日本学術
大会,第45回The societyforinvestigativedermatology,
第83回日本皮膚科学会学術大会にて発表した.稿を終える
にあたり,御指導,御助言を賜った東京慈恵会医科大学第1
細菌学教室大野典也教授,吉本真先生,同大学第2解剖学教
室石川 博助教授に厚く御礼申し上げます.
なお,本研究の一部は武田科学振興財団および日本リ
ディアオリリー協会の研究助成金によった.附記して謝意
を表する.
文 献
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