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外国籍船に自国国旗を掲揚させる制度に 関する実態調査報告書 平成 18 6 財団法人 日本海運振興会

外国籍船に自国国旗を掲揚させる制度に 関する実態 …外国籍船に自国国旗を掲揚させる制度に 関する実態調査報告書 平成18 年6 月 財団法人

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外国籍船に自国国旗を掲揚させる制度に

関する実態調査報告書

平成 18 年 6 月

財団法人 日本海運振興会

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はじめに

我が国の外航海運は、そのほとんどを FOC(便宜置籍船)によっています

が、タジマ号事件に見られるように、犯罪行為等に対して我が国の法制度が及

ばないため、我が国が直接その保護を行えない状況にあります。 一方、1986 年の「船舶登録要件に関する国連条約」(未発効)では、外国か

ら用船した船舶に自国国旗を掲げることを許し、自国の管轄権を及ぼすことが

容認されており、この規定を国内法に取り込んで実際に運用している国があり

ます。このような運用は、我が国の生命線ともいえる外航海運を犯罪や海賊行

為から保護し、又は速やかな対応を可能とする方法の一つとなり得ると考えら

れます。 このため、このような外国から用船した船舶に自国国旗を掲揚するという運

用を実際に行っている国について、現地調査を行い、その運用実態を調査しま

した。調査の実施にあたっては、既存の統計・資料の収集に加えて、早稲田大

学法学学術院の河野真理子教授に依頼してドイツ、オランダ、フランスの海事

当局、外航海運会社、船主協会等に対するヒアリングを行いました。 今般、上記海外調査の結果もふまえて、『外国籍船に自国国旗を掲揚させる

制度に関する実態調査』として、調査結果を報告書として取りまとめた次第です。

本報告書が今後の我が国外航海運政策を検討する際の参考になれば幸甚です。 末筆ながら、本報告書の作成にあたり、河野教授に多大なご尽力を賜りまし

たことを特記して謝意を表します。また、本調査に関してご指導、ご協力をい

ただいた国土交通省海事局、社団法人日本船主協会、在外公館及び調査対象各

国の海事当局、海運会社、船主協会等、関係各位に厚く感謝申し上げます。

平成 18 年 6 月

財団法人 日本海運振興会 会長 松尾 道彦

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目 次

調査の概要

1.調査の目的 ---------------------------------------------------- i

2.調査の内容及び調査方法 ---------------------------------------- i

3.調査対象国 -------------------------------------------------- ⅱ

4.海外ヒアリング調査の概要

1)調査メンバー ----------------------------------------------- ⅱ

2)調査期間 -------------------------------------------------- ⅱ

3)調査対象(ヒアリング訪問先) ---------------------------------- ⅱ

4)調査日程表 --------------------------------------------- ⅲ

5)アンケート 政府機関用 ----------------------------------------- ⅳ 海運会社用 ----------------------------------------- ⅹ

本 編

第一部 チャーター・インとチャーター・アウトの意義

1.はじめに ………………………………………………… 1

2.チャーター・インとチャーター・アウトの導入の経緯 …………………… 2

3.チャーター・イン、またはチャーター・アウトする船舶に対する法の適用 5

4.チャーター・インとチャーター・アウトの問題点 …………………… 6

第二部 主要各国の制度

1. ドイツ

(1) 根拠となる法律 ………………………………………………… 8

(2) 船舶の登録手続 ………………………………………………… 9

(3) ドイツの利用状況 ………………………………………………… 10

(4) ドイツの海運政策におけるドイツ国旗を掲揚する

船舶の増加のための努力 …… 11

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2. オランダ

(1) 根拠となる法律 ………………………………………………… 12

(2) オランダの登録制度………………………………………………… 13

(3) オランダの利用状況………………………………………………… 14

(4) オランダの海運政策………………………………………………… 14

3. フランス

(1) 根拠となる法律 ………………………………………………… 15

(2) 登録手続 ………………………………………………… 16

(3) フランスの利用状況 ………………………………………………… 17

(4) フランスの海運政策 ………………………………………………… 17

4. イギリス

(1) 根拠となる法律 ………………………………………………… 18

(2) イギリスの利用状況 ………………………………………………… 19

5. パナマ

(1) 根拠となる法律 ………………………………………………… 20

(2) パナマの利用状況 ………………………………………………… 21

参考資料編

資料 1-1 海洋法に関する国際連合条約 (一部) --------------------------------- 資 1

資料 1-2 公海に関する条約 (一部) ------------------------------------------------- 資 11

資料 1-3 船舶登録要件に関する国際連合条約(仮訳) ---------------------------- 資 15

資料 1-4 海上先取特権・抵当権条約 (一部) -------------------------------------- 資 25

資料 2-1 ドイツ:外航船舶の国旗権及び内陸水運船舶の

国旗掲揚に関する法律 (一部) ------------------ 資 29

資料 2-2 ドイツ:ドイツ国籍;船舶所有者は約束を守った(ドイツ船主協会資料) -- 資 31

資料 2-3 ドイツ:ドイツにおける船舶航行の発展 ----------------------------------- 資 32

資料 2-4 ドイツ:ドイツ船主協会の資料 ---------------------------------------- 資 36

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資料 3-1 オランダ:船籍証明書法 (一部) ------------------------------------------ 資 39

資料 3-2 オランダ:裸用船の船籍法 -------------------------------------------------- 資 42

資料 3-3 オランダ:商業登記簿法 (一部) ------------------------------------------ 資 49

資料 4-1 フランス:船舶及びその他の海洋建造物の規則に関する法律(1967 年)

--------------------------------------- 資 51

資料 4-2 フランス:船舶及びその他の海洋建造物の規則に関する法律(1975 年)

一部改正 ------------------------ 資 68

資料 4-3 フランス:船舶及びその他の海洋建造物の規則に関する法律(1975 年)

第 3-1 条(修正済) ----------- 資 70

資料 4-4 フランス:船舶及びその他の海洋建造物の規則に関する法律(1996 年)

一部改正 ------------------------- 資 71

資料 4-5 フランス:船舶及びその他の海洋建造物の規則に関する法律(2001 年)

一部改正 ------------------------- 資 72

資料 4-6 フランス:フランス国際船舶登録簿創設に関する法律(2005 年) -- 資 75

資料 4-7 フランス:フランス国際船舶登録簿創設に関する法律(2005 年)に

定められている一元窓口に関する 2006 年 2 月 10 日付政令 資 89

資料 4-8 フランス:関税法典-フランス船籍登録に必要な条件 ----------------- 資 91

資料 4-9 フランス:RIF(フランス国際船舶登録制度);法律の適用を前に

(フランス船主協会 Annual Report 2006) -------------- 資 94

資料 4-10 フランス:Register a Ship under RIF(フランス船主協会) ------------ 資 97

資料 5-1 パナマ:官報第 04562 号;1925 年法令第 8 号 --------------------- 資 99

資料 5-2 パナマ:官報第 15611 号;1966 年省令 147 号 --------------------- 資 105

資料 5-3 パナマ:官報第 17279 号;1973 年法令第 11 号 -------------------- 資 107

資料 5-4 パナマ:官報第 17445 号;1973 年法令第 11 号 -------------------- 資 110

資料 5-5 パナマ:官報第 17800 号;1975 年法令第 5 号 --------------------- 資 112

資料 5-6 パナマ:官報第 18111 号;1976 年法令第 31 号 -------------------- 資 115

資料 5-7 パナマ:官報第 18236 号;1976 年法令第 64 号 -------------------- 資 117

資料 5-8 パナマ:官報第 19008 号;1980 年法令第 2 号 --------------------- 資 119

資料 5-9 パナマ:官報第 19162 号;1980 年法令第 30 号 -------------------- 資 127

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調査の概要

1.調査の目的

本調査は、我が国商船隊船舶の便宜置籍船化が進み、日本籍船の減少傾向に

歯止めがかからない一方で、便宜置籍船がパナマ籍等に集中し、危機管理上の

問題や海賊対策等における旗国の責任の遂行上の問題が懸念されているとこ

ろ、例えばドイツにおいては外国籍船にドイツ国旗の掲揚を認め、ドイツ国内

法を適用し、当該船舶を管理するレジストリー制度があることから、ドイツに

おけるこのような制度及び運用実態を調査することにより、今後の便宜置籍船

対策の検討における資料に供することを目的とする。ドイツ以外の欧州の主要

海運国で同様な運用を行っているオランダ、フランスについても調査対象国に

加えて調査を行った。 2.調査の内容及び調査方法

(1) 既存資料の収集・整理

国内外の関連文献のほか、各国政府の公式文書、船主協会の文書(白書、

年次報告書、政策レポートなど)を収集し、調査内容該当部分を抽出する。

また、海外文献のうち、重要なものについては日本語翻訳を行い、参考資

料として添付する。 (2) 事前質問状の作成・送付

外国から用船した船舶に自国国旗を掲げることを許し、自国の管轄権を及ぼ

す運用を行っていることが確認されている国(ドイツ)及び運用を行っている可

能性がある国(オランダ、フランス等)(以下「調査対象国」という。)に対し、どの

ような法制度を有し、どのように運用しているかについて、事前質問状を作成し、

調査対象国の海事担当官署、外航海運会社及び船主協会に送付する。 (3) 海外ヒアリング調査の実施

調査対象国の海事担当官署の担当官にアポイントをとり、現地でヒアリング調

査を実施する。また、要すれば、現地の海運会社を訪問し、実際の運用につい

ての問題点、外航海運会社の考え方等について聴取する。

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3.調査対象国 ドイツ、オランダ、フランス、イギリス、パナマの計 5 ヵ国を調査 対象国とした。

4.海外ヒアリング調査の概要 1) 調査メンバー

河野 真理子 早稲田大学法学学術院教授 奈良 孝 財団法人日本海運振興会 調査部課長

2) 調査期間

平成 18 年 3 月 26 日(土)~4 月 5 日(水)

3) 調査対象(ヒアリング訪問先)

国 名 各国政府等調査対象機関

往訪者 (面会者)

ドイツ連邦共和国・交通・建設・都市事業省 (ドイツ海事当局)

Ms. B. Beckmann, Mr. V. Schellhammer(連邦海運庁) Ms. H.Kammerer

ドイツ船主協会 (Verband Deutscher Reeder)

Mr. H. ‐H. Nöll Mr. J. ‐T. Heitmann Mr. L. D. Hosseus

ドイツ

ドイツ海運会社 (Hamburg Süd)

Mr. A. Vespermann Ms. C. Wegner

オランダ運輸公共事業省 (オランダ海事当局)

Mr. R. J. de Bruijn Ms. G. J. Hooplot

オランダ

オランダ船主協会及びオランダ海運会社 (Royal Association of Netherlands Shipowners)

Mr. T. P. Blankestijn (P&O Nedlloyd) Mr. W. W. Timmers

フランス船主協会

Mr. G. Sulpice フランス

フランス設備運輸住宅省 (フランス海事当局)

Mr. Y. Becouarn Mr. G. Branellec Ms. L. Siohan

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4) 調査日程表

月 日 都市名 日程・訪問国及機関等 宿泊地

3月26日(日) 成 田

フランクフルト

13:00 JL407

18:00 フランクフルト着

フランクフルト泊

3月27日(月) フランクフルト

ボ ン

フランクフルト~ボンへの移動

ボ ン泊

3月28日(火) ボ ン

ハンブルグ

午前 ドイツ連邦共和国・交通・建設・

都市事業省(ドイツ海事当局)

16:45 ケルン・ボン発 LH105

17:45 ハンブルグ着

ハンブルグ泊

3月29日(水) ハンブルグ

アムステルダム

ハーグ

午前 ドイツ船主協会

午後 Hamburg Süd(ドイツ海運会社)

18:10 ハンブルグ発 KLM1784

19:20 アムステルダム着

ハーグ泊

3月30日(木) ハーグ 午前 オランダ運輸公共事業省 (オランダ海事当局)

午後 資料整理

ハーグ泊

3月31日(金) ハーグ 午前 資料整理

午後 オランダ船主協会

ハーグ泊

4月 1日(土) ハーグ

パ リ

ハーグ~パリへ移動

パ リ泊

4月 2日(日) パ リ 資料整理

パ リ泊

4月 3日(月) パ リ 午後 フランス船主協会

パ リ泊

4月 4日(火) パ リ 午後 フランス設備運輸住宅省 (フランス海事当局)

19:05 パリ発 JL406

4月 5日(水) 成 田 13:55 成田着

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5) アンケート

政府機関用:用船船舶に係る特別登録及び船舶登録について

(調査の目的)

イギリス等一部の国においては、外国籍船を自国船社が一定の期間にわたって裸用船し

た場合において、当該船舶を用船期間中自国において特別登録(※)を行い、当該船舶に

対して旗国管轄権を及ぼす制度があると理解しています。

我が国にはこのような制度は現在ありませんが、このような外国籍船舶に係る特別登録

に係る制度の概要を通常の登録制度を併せて調査することにより、我が国の船舶登録制度

のあり方を検討するに当たっての参考としたいと考えています。

※ 自国に裸用船された船舶について自国の国旗掲揚を認め、当該船舶に管轄権を及ぶ

すために船舶を管理する制度は、一般的には裸用船登録(bareboat charter

registration)と呼ばれていますが、ドイツにおいては、このような船舶については

単に船舶台帳に記載するだけであり、ドイツ船舶登録規則に基づいて当該船舶を登録

する制度にはなっていないことから、ドイツには裸用船登録(bareboat charter

registration)はないと理解しています。

(質問)

1 貴国海運事業者が用船した外国籍船の貴国政府への登録について

① 貴国海運事業者が用船した外国籍船(外国登録船舶)について、所有者と用船者

が連名で貴国政府にその登録を申請した場合、当該船舶は外国における船舶登記の

効果(所有権の公証)を喪失することなく、貴国において特別に船舶登録(以下、

1において「特別登録」という。)をすることができる制度がありますか。

② この制度はいつどのような理由で導入されたのかお示し下さい。また、制度導入

に当たって整備された法令の写しをいただきたいと思います。

③ この制度に関して貴国政府と外国政府との間で二国間の取決め等を締結していま

すか。また、外国籍船を特別登録するに当たっては、当該外国がこの制度に関して

貴国と同様の制度を設けていること(相互主義)が必要となりますか。

④ 所有者と用船者が連名で特別登録を申請する際に、必要となる書類についてお示

し下さい。用船契約の写し、船舶所有者の同意書、船舶登記書(登記簿の写し)及

び船舶登録書(登録簿の写し)や、特別登録を認める当該船舶のそもそもの登録国

の許可書等は必要になりますか。

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⑤ 特別登録を認めるに当たっては、当該船舶がもともと登録されていた国において

当該船舶の検査・測度が実施されていたとしても、貴国政府又は貴国政府が指定す

る船級協会が検査・測度を実施することになりますか。

⑥ 所有者と用船者が必要となる書類を添えて申請したにもかかわらず、特別登録を

認めない場合がありますか。登録が認められるためには、所有者や用船者、用船契

約、用船船舶等がどのような条件を満たす必要がありますか。また、条件を満たし

たとしても、貴国政府の裁量により、登録を認めない場合がありますか。その場合

はどういう理由で登録を認めないことになりますか。

⑦ 特別登録された船舶と、貴国の法人が所有し、貴国に登録された船舶との間で、

貴国の国内法令(船舶の安全や環境対策に関する法令、船員の労働条件や船員の船

舶への乗り組み等に関する法令等)の適用において異なる点はありますか。異なる

点があればお示しください。また、貴国内の海上輸送に関して貴籍船と同様に自由

に行うことができるのか、それとも国内海上輸送に関しては特許を取る必要がある

のでしょうか。

⑧ 特別登録された船舶に係る税金や費用についてお示し下さい。特別登録に係る費

用だけでなく、通常の登録船舶に毎年課される費用については、特別登録された船

舶も支払う必要がありますか。

⑨ 特別登録された船舶について、貴国政府が船舶国籍証書、SOLAS条約、MA

RPOL条約、STCW条約に基づく証書を発行することになりますか。それとも、

これらの証書は発行されず、当該船舶が貴国国旗を掲揚して航行できるように、特

別に航行することを許可する証書(特別航行許可証)が発行されるのですか。発行

される場合、その証書の有効期限及び様式をお示し下さい。

また、船舶国籍証書、条約に基づく証書及び特別航行許可証における国籍は、

貴国が国籍国として記載されるのですか(この場合における船籍港は、貴国国内

の都市か否か)、あるいは、当該船舶がもともと登録されていた外国が国籍国と

して記載されるのですか(この場合における船籍港は、当該外国内の都市か否か)。

⑩ 特別登録された船舶は、貴国政府又は貴国政府が指定する船級協会によって、貴

国における特別登録が行われている期間において船舶検査や測度が必要に応じて

実施されることになりますか。

⑪ 特別登録された船舶の所有権や抵当権は、貴国の登記簿に所有権や抵当権を新た

に登記することとしていますか。それとも、当該船舶がもともと登録されていた国

における登記簿により、引き続き所有権や抵当権が公示されることになりますか。

⑫ この制度は、どの程度利用されていますか。外国籍船の属する国別に隻数をお示

し下さい。

v

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2 外国海運事業者が用船した貴国籍船の外国政府への登録について

① 外国海運事業者が用船した貴国籍船(貴国登録船舶)について、所有者と用船者

が連名で当該外国海運事業者が所在する外国政府(以下「外国政府」という。)に

その登録を申請した場合、当該船舶は貴国における船舶登記の効果(所有権の公証)

を喪失することなく、外国政府において特別に船舶登録(以下、2において「外国

政府への特別登録」という。)することを貴国政府が認める制度がありますか。

② この制度はいつどのような理由で導入されたのかお示し下さい。また、制度導入

に当たって整備された法令の写しをいただきたいと思います。

③ この制度に関して貴国政府と外国政府との間で二国間の取決め等を締結していま

すか。また、貴国籍船を用船した外国海運事業者の外国政府への特別登録を貴国政

府が認めるに当たっては、当該外国がこの制度に関して貴国と同様の制度を設けて

いること(相互主義)が必要となりますか。

④ 貴国籍船を用船した外国海運事業者が外国政府への特別登録をするに当たっては、

当該船舶の所有者又は用船者である外国海運事業者は、事前に貴国政府の許可等を

得る必要がありますか。その場合、許可等を得るに当たって必要となる書類につい

てお示し下さい。用船契約の写し、船舶所有者の同意書等は必要になりますか。ま

た、どのような要件を満たせば、貴国政府は許可等を行いますか。

⑤ 貴国政府が貴国籍船に外国政府への特別登録の許可を与える場合、許可の期間や

許可の際の要件はどうなっていますか。また、許可の要件を満たしたとしても、貴

国政府の裁量により、外国政府への特別登録を認めない場合がありますか。その場

合はどういう理由で外国政府への特別登録を認めないことになりますか。

⑥ 貴国政府が貴国籍船に外国政府への特別登録の許可を与える場合、どのような手

続を取りますか。貴国における船舶登記に関する手続や船舶について既に発行して

いる各種証書(船舶国籍証書、SOLAS条約、MARPOL条約、STCW条約

に基づく証書等)に関する手続(証書の記載事項の変更、証書の政府への寄託の要

否等)をお示し下さい。また、許可を与えた場合、貴国政府はどのような書類を許

可申請者に対して交付しますか。

⑦ 貴国籍船が外国政府への特別登録をされた後、当該船舶は当該外国国旗を掲揚し

て航行することができるようになりますが、その際、当該外国政府が船舶国籍証

書、SOLAS条約、MARPOL条約、STCW条約に基づく証書を発行する

ことになりますか。それとも、これらの証書は発行されず、当該船舶が当該外国

国旗を掲揚して航行できるよう特別に航行することを許可する証書(特別航行許

可証)が発行されるのですか。発行される場合、その証書の有効期限及び様式を

お示し下さい。

vi

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また、船舶国籍証書、条約に基づく証書及び特別航行許可証における国籍は、当

該外国が国籍国として記載されるのですか(この場合における船籍港は、当該外

国国内の都市か否か)。あるいは、貴国が国籍国として記載されるのですか(こ

の場合における船籍港は、貴国国内の都市か否か。)。

⑧ 貴国籍船と、外国海運事業者に用船され、外国政府への特別登録された貴国籍船と

の間で、貴国の国内法令の適用において異なる点はありますか。異なる点があれば

お示しください。

⑨ 貴国政府が貴国籍船について外国政府への特別登録を認める許可書を発行した後

は、当該船舶に対して貴国はその管轄権の行使を中止し、船舶の検査や測度は実施

しないことになりますか。

⑩ 貴国籍船が外国政府への特別登録された場合、船舶に係る税金や費用はどうなりま

すか。貴国において通常の登録船舶に毎年課される費用については、外国政府の特

別登録簿にも登録されることとなった貴国籍船も支払う必要がありますか。

⑪ 貴国籍船が外国政府への特別登録された場合、当該船舶の所有権や抵当権は、外国

政府の登記簿に所有権や抵当権を新たに登記することとしていますか。それとも、

当該船舶がもともと登録されていた貴国における登記簿により、引き続き所有権や

抵当権が公示されることになりますか。また、登記簿の管理を行う機関についても

お示し下さい。

⑫ この制度は、どの程度利用されていますか。貴国籍船が特別登録されている外国政

府の国別に隻数をお示し下さい。

3 上記1の制度(チャーター・イン)と上記2の制度(チャーターアウト)が双方導入

されている場合、貴国においては上記1と2のどちらの制度がより多く活用されること

を期待していますか。

4 自国籍船舶の登録について

① 自国籍船舶の船舶登録の手続の流れはどのようになっているか、関係する法令・

通達の規定とともにお示し下さい。特に、船舶登録を取り扱う機関の名称をお示

し下さい。もし、複数の機関で船舶登録を取り扱う場合には、それらの取扱業務

の差異についてもお示し下さい。

(参考:総トン数20トン以上の日本における取扱い)

日本では、船舶所有者は、日本国内に船籍港を定め、国土交通省の地方機関(地

方運輸局、運輸支局等)において船舶の総トン数の測度を行った後、船舶の所有権

を公証する機関である法務省の地方機関(法務局)にまず登記を行い、その後で船

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舶の国籍を公証する機関である国土交通省の地方機関に登録を行い、国籍証書を取

得することになっています。

② 貴国の船舶登録制度は、国籍の公証(旗国管轄権を及ぼす船舶の特定)のみを目

的としたものですか、所有権の公証等他の目的をも併せ有するものですか。

(参考)

わが国の船舶登録制度は、船舶の国籍の公証(旗国管轄権を及ぼす船舶の特定)

のほか、船舶登記と相まって所有権の公証を目的としたものです。

③ 貴国において、船舶登録が法令上義務付けられている船舶はどのような船舶です

か。

(参考)

1.日本においては、日本人又は日本法人が船舶を取得した場合、当該船舶は「日

本船舶」(官公庁船、日本人又は日本法人が所有する船舶等。船舶所有者の国籍に

着目。)となります。

総トン数20トン以上の日本船舶については、「船舶法」に基づき、総トン数の

測度、船舶登記、船舶登録をなし、船舶国籍証書の交付を受けなれば、当該船舶

を航行の用に供することができませんし、日本国旗を掲げることもできません。

また、総トン数20トン未満の日本船舶及び日本の各港間、湖、河川のみを航

行する日本船舶以外の船舶については、「小型船舶の登録等に関する法律」に基づ

き、総トン数の測度、登録を受けなければ、当該船舶を航行の用に供することは

できません。

なお、上記の登録等の手続きは、船舶所有者に課せられています。

2.下記に掲げる船舶は、船舶登録が法令上免除されています。

●海上自衛隊の使用する船舶

●端舟、櫓櫂のみ又は主として櫓櫂により運転する舟等推進機関を有しない船舶

●総トン数20トン未満の小型船舶の場合、端舟、櫓櫂のみ又は主として櫓櫂に

より運転する舟等推進機関を有しない船舶や長さ3m未満かつ20馬力未満

の船舶

3.日本においては、上記の船舶登録のほかに、漁船登録があります。

総トン数20トン以上の漁船は、船舶登録と併せ、漁船登録を受けなければな

りませんが、総トン数20トン未満の漁船は、漁船登録だけ受ければよいことと

なっています。

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④ 貴国においては、船舶登録後、国籍を証する証書を発給しますか。

証書を発給する場合、それはどのような証書ですか。また、その証書には、どの

ような事項が記載されていますか(できれば、証書のサンプルをいただきたい。)。

(参考)

日本の場合、船舶番号、船舶所有者、船名、総トン数、進水年月等が記載された

船舶国籍証書を発給します。

ただし、総トン数20トン未満の船舶については、国際航海に従事する場合にの

み「国籍証明書」の受有が必要とされています。

⑤ 貴国における船舶の登録制度が国籍の公証のみを目的とする場合、船舶の所有権

(所有権の保存登記)の公証はどこの機関で実施していますか。また、国籍を証す

る証書の他に、別途所有権を公証するための証書が発給される場合には、どのよう

な証書が発給されるのでしょうか。

(参考)

日本においては、船舶の所有権(所有権の保存登記)は、法務省に属する法務局

が行っています。

船舶の所有権の移転については、船舶登記だけでなく、船舶国籍証書の書換え(国

土交通省の地方機関での事務)が必要であり、船舶国籍証書が所有権を公証する証書

となっています。

以上の質問に対する回答については、許可、登録等を行う貴国の政府機関を具

体的にお示しいただいた上、関係する法令や通達等の写しを添付していただける

と幸いです。

ix

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海運会社用:用船船舶に係る特別登録制度について

(調査の目的)

ドイツ等一部の国においては、外国籍船を自国船社が一定の期間にわたって裸用船した

場合において、当該船舶を用船期間中自国において特別登録(※)を行い、当該船舶に対

して旗国管轄権を及ぼす制度があると理解しています。

我が国にはこのような制度は現在ありませんが、このような外国籍船舶に係る特別登録

に係る制度の利用状況について調査することにより、我が国の船舶登録制度のあり方を検

討するに当たっての参考としたいと考えています。

※ 自国に裸用船された船舶について自国の国旗掲揚を認め、当該船舶に管轄権を及ぶ

すために船舶を管理する制度は、一般的には裸用船登録(bareboat charter

registration)と呼ばれていますが、ドイツにおいては、このような船舶については

単に船舶台帳に記載するだけであり、ドイツ船舶登録規則に基づいて当該船舶を登録

する制度にはなっていないため、ドイツには裸用船登録(bareboat charter

registration)はないと理解しています。

(質問)

1 貴国海運事業者が用船した外国籍船の貴国政府への登録について

① 貴国海運事業者が用船した外国籍船(外国登録船舶)について、所有者と用船者

が連名で特別登録を申請する際に必要となる書類についてお示し下さい。必要書類

について見直すべき点があると考えていますか。

② 特別登録を認めてもらうために、貴国海運事業者においてあらかじめ取る措置はあ

りますか。例えば、貴国政府又は貴国政府が指定する船級協会による検査・測度を

受検する必要はありますか。

③ 貴国海運事業者が外国籍船を用船したにもかかわらず、当該船舶について特別登

録が認められない場合がありますか。また、法律上の要件に照らし特別登録が認め

られると考えて申請したにもかかわらず、特別登録を認めてもらえなかった事例が

ありますか。登録が認められなかった事例があれば、差し支えない範囲で、その理

由をお示しください。

④ 特別登録された船舶には船舶が特別登録された貴国の国内法令が適用されるもの

と考えていますが、船員の雇用契約については、船舶が特別登録された貴国の関係

法令が適用されることになるのか、船舶がもともと登録されている国の関係法令が

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適用されるのかどちらになりますか。また、どちらの国の関係法令が適用されるの

かをめぐって法律紛争(訴訟)が生じた事例について御存知であればお示しくださ

い。

⑤ 特別登録された船舶に係る税金や費用についてお示し下さい。特別登録に係る費

用だけでなく、通常の登録船舶に毎年課される費用については、特別登録された船

舶も船舶が特別登録された貴国において支払う必要がありますか。

⑥ 特別登録された船舶は、貴国政府又は貴国政府が指定する船級協会によって、貴

国における特別登録が行われている期間において船舶検査や測度が必要に応じて

実施されることになりますか。

⑦ 特別登録された船舶の所有権や抵当権は、当該船舶がもともと登録されていた国

における登記簿により、引き続き公示されるものと考えていますが、特別登録され

る貴国の登記制度で船舶に係る権利が公証されないことは問題であると考えてい

ますか。例えば、特別登録された船舶の抵当権について法律紛争(訴訟)が生じた

事例について御存知であればお示しください。

⑧ この制度は、貴国の船会社にとって、どのような点においてメリットがあるとお考

えですか。また、実際にどの程度利用されていますか。外国籍船の属する国別に隻

数をお示し下さい。

2 外国海運事業者が用船した貴国籍船の外国政府への登録について

① 貴国籍船を用船した外国海運事業者が外国政府への特別登録をするに当たって、

事前に貴国政府の許可等を得るための申請において必要となる書類についてお示

し下さい。必要書類について見直すべき点があると考えていますか。

② 外国政府への特別登録を認めてもらうための許可については、その期間や要件は

どうなっていますか。貴国籍船が外国海運事業者に用船され、貴国政府の許可等を

求めたにもかかわらず、当該船舶について外国政府への特別登録を認めてもらえな

い場合がありますか。また、法律上の要件に照らし外国政府への特別登録を認めて

もらえると考えて申請したにもかかわらず、外国政府への特別登録を認めてもらえ

なかった事例がありますか。認められなかった事例があれば、差し支えない範囲で、

その理由をお示しください。

③ 外国政府に特別登録された貴国籍船には船舶が特別登録された外国政府の国内法

令が適用されるものと考えていますが、船員の雇用契約については、船舶が特別

登録された外国政府の関係法令が適用されることになるのか、船舶がもともと登

録されていた貴国の関係法令が適用されるのかどちらになりますか。また、どち

らの国の関係法令が適用されるのかをめぐって法律紛争(訴訟)が生じた事例に

ついて御存知であればお示しください。

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④ 貴国籍船が外国政府に特別登録された場合、船舶に係る税金や費用はどうなりま

すか。貴国において通常の登録船舶に毎年課される費用については、外国政府の

特別登録簿にも登録されることとなった貴国籍船も支払う必要がありますか。

⑤ 貴国籍船が外国政府に特別登録された場合、当該船舶の所有権や抵当権は、もと

もと登録されていた貴国における登記簿により、引き続き公示されるものと考え

ていますが、特別登録された国の登記制度で権利が公証されないことは問題であ

ると考えていますか。例えば、外国政府に特別登録された船舶の抵当権について

法律紛争(訴訟)が生じた事例について御存知であればお示し下さい。

⑥ この制度は、貴国の船会社にとって、どのような点においてメリットがあるとお

考えですか。また、実際にどの程度利用されていますか。貴国籍船が特別登録さ

れている外国政府の国別に隻数をお示し下さい。

3 上記1の制度(チャーター・イン)と上記2の制度(チャーターアウト)が双方導入

されている場合、貴国の船会社においては上記1と2のどちらの制度をより多く利用し

ようとしていますか。

4 上記1及び上記2の制度については、定期用船については認められていないようです

が、定期用船についても上記1及び上記2と同様な制度が設けることが望ましいでしょ

うか。その際、裸用船の制度とは異なるようにすべき点はあるでしょうか。以上の点に

ついてその理由も含めてお考えをお聞かせ下さい。

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外国籍船に自国国旗を掲揚させる制度に

関する実態調査報告書

本 編

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第一部 チャーター・インとチャーター・アウトの意義 1.はじめに

2004 年度の統計によれば、日本の船社が運航する 2,000 隻以上におよぶ外航

船舶のうち、日本の国旗を掲げている船舶は 100 隻に満たなくなっている。日本

の船社が船舶を購入する多くの場合、パナマで子会社を設立し、当該パナマ法人

が所有する船舶をパナマで登録し、その国旗を掲揚させているのが現状である。 ところが、タジマ号事件にみられるように、通常便宜置籍国は船舶やその乗員

の保護に大きな関心を示さない傾向にある。特に日本の船社が実質的に所有して

いる外航船の場合、マラッカ・シンガポール海峡など、海賊やテロが頻発する海

域を航海する可能性が高く、その標的になることも多い。通常、船舶の保護につ

いては、旗国が権限を持つため、パナマを旗国とする船舶については、実質的に

日本と関係があっても、日本が保護の権利を行使することができない。このため、

日本の船社が実質的に所有する外航船舶を実効的に保護するために、日本を旗国

とする船舶を増やすための方策が求められるようになっているといえる。 日本の国旗を掲揚する船舶が減少している主な原因として指摘されているの

は、日本船籍船の場合、船舶の運航にかかわるコストが高いことと、船舶の運航

業務を円建てではなくドル建てで行い、為替リスクを避けることが望ましいこと

の 2 点である。 後者の為替リスクの問題は、日本に特殊に生じている問題だが、前者の船舶の

運航コストの問題は、海運産業が重要な意味を持つ先進国に共通する問題である。

公海条約(1958 年)第 5 条や国連海洋法条約(1982 年)第 91 条で、船舶とそ

の旗国の間に真正な関係がなければならないと規定されているにもかかわらず、

現実には、ここでいう「真正な関係」が存在しない船舶の方が多い。各国はこの

問題に対応するために船舶にかかる税金の制度の見直し、配乗要件の緩和、また

は撤廃、船員に対する課税の優遇措置など、さまざまな施策を行っている。トン

税の導入や船員に対する課税の免除、国際船舶制度の改正はこのような目的で行

われているといえる。また、自国の国旗を掲揚する船舶の増加をもたらす直接的

な方策として、チャーター・インの制度を持つ国が見られるようになっている。

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この報告書は、調査結果を中心に主要国のチャーター・インの制度の概要の説明

を目的とする。 2.チャーター・インとチャーター・アウトの導入の経緯 現在、チャーター・インの制度を持つ国では、外国で登録された船舶を自国民

等が裸用船する場合、一定の条件を付して、自国の国旗の掲揚を認めている。ま

た、これと逆に、自国で登録された船舶が外国人に裸用船された場合に、裸用船

者の本国、すなわち外国の国旗の掲揚を認めるチャーター・アウトの制度を導入

している国も見られる。チャーター・インは、自国民による船舶の購入という財

政的な負担なく、自国の国旗を掲揚する船舶の数を増加させることを目的とする。

また、チャーター・アウトは、自国民の所有の船舶について運航コストの安い国

家の国旗を掲揚することで、自国民の所有する船舶の国際競争力を高めることを

目的とする。チャーター・インとチャーター・アウトは、一見呼応する制度に見

える。しかし、これらは別の目的を持つものであり、両方の制度を備える必要は

ない。たとえば、イギリスではチャーター・インの制度はあるが、チャーター・

アウトは禁止されている。また、ドイツは両方の制度を持っているが、それぞれ

の導入の時期や事情は大きく異なっている。ドイツは第二次世界大戦後、自国で

登録された船舶の数が激減したため、自国の国旗を掲げる船舶を増やすための政

策として、まず 1951 年にチャーター・インの制度が導入された。その後、1970年代に、海運業の分野での競争力を強化するために、チャーター・アウトが認め

られるようになった。

1980 年代以降にチャーター・インやチャーター・アウトの制度が各国で導入

されるようになったのは、船舶の所有関係における経済的利害の偏在化を受けて

のことである。すなわち、先進国の船社にとって、船舶の運航コストを下げるた

め、船員の配乗要件や船員の賃金の低廉な国にチャーター・アウトすることに利

益があり、逆に発展途上国にとって、外国人が所有する船舶のチャーター・イン

を認めることにより、自国民の資金を費やすことなく、自国を旗国とする船舶を

増加させることができるという利益があり、この 2 つの利益が合致することを背

景にこの制度が歓迎されたといえる。したがって発展途上国が比較的早い時期に

チャーター・インの制度を導入した。

2

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未発効の条約とはいえ、国際条約で船舶の登録が 2 種類に区別されることを容

認する規定を置くものが見られることは注目されなければならない。国連船舶登

録要件条約(1986 年)第 11 条、第 12 条では、裸用船された船舶について用船

者の国の国旗の掲揚を認める規定が置かれている。また、船舶の抵当権と先取特

権に関する国連条約(1993 年)第 16 条で、船舶の旗国が暫定的に変更されうる

ことを前提にした規定が置かれた背景にも、チャーター・インやチャーター・ア

ウトの制度が国際的に多く見られるようになり始めた実態があると考えられる。 国際経済関係は、第二次大戦後から 1980 年代の終わりくらいまで発展途上国

と先進国の対立の図式で考えられることが多かった。しかし、1990 年代以降は、

むしろ先進国間の競争と協調が重要視されるようになっている。こうした一般的

な国際経済関係は船舶の運航に関する先進国間の競争の激化にも現れている。

1992 年のオランダの法律、1995 年のイギリスの法律によるチャーター・インの

制度の導入も、国際経済関係の変化に呼応したものである。このようなことを考

えると、チャーター・インやチャーター・アウトの導入の背景には、この制度が

もはや先進国の船社と発展途上国の間の利害の一致に基づくものだけではなく、

別の存在意義を持つようになったといえる。イギリスやオランダのような先進国

にとっても、外国人が所有する船舶のチャーター・インを認めることにより、自

国に伝統的に立地を持つ海運業務の振興に有利であるとの判断があると考えら

れる。また、オランダでのヒアリングの結果から得た情報として、キプロスやマ

ルタ、さらにオランダの議会で現在審議中の、裸用船された船舶に限定せず、船

舶の運航等の管理の所在を接点として国旗の掲揚を認めようとする新しい制度

の導入は、この制度の今後の方向性を示すものである。 裸用船契約に限定してチャーター・インの制度が導入されたのは、裸用船契約

の場合、用船者が船舶の所有者と同程度、あるいはそれ以上に船舶の運航に大き

な影響力を持つためであろう。そのような裸用船者と も実質的に関係がある国

家の国旗を揚げることを認める制度が経済的な実利とも結びついて、受け入れら

れたと考えられる。しかし、今日の海運業の実態を考えると、チャーター・イン

の制度を裸用船だけに限定する必然性は薄れていると考えられる。オランダやフ

ランスの海事当局者が、チャーター・インを裸用船に限定する必要はないだろう

との見解を示したことは注目に値する。国連海洋法条約にいわれる船舶とその旗

国の真正な連関の確保のためにどのような制度が必要なのかを検討することが

3

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必要になっているとも考えられる。

ただし、チャーター・インがまず裸用船の船舶を対象とする制度として定着し

てきたことを軽視すべきではない。パナマの海事当局者のように、チャーター・

インとチャーター・アウトの制度をあくまでも裸用船された船舶のみを対象とす

るものとの見解を示す例があることが忘れられてはならない。国際性を持つ海洋

関連の法制度の導入については、導入自体は各国の国内法によって行うことがで

きるものの、それが国際的に受け入れられるかどうかは、関係諸国の対応にかか

っている点を付言しておかなければならない。多くの海洋法の新しい規則が、

初にいずれかの主要な海洋国の国内法によって導入され、それが他の諸国による

追随を受けることによって国家実行が蓄積され、法としての認識が各国に定着し

たときに慣習国際法としての地位を認められるようになってきたことを想起す

べきである。 なお、R. M. F. Coles (Ed.), Ship Registration (2002) によれば、裸用船につ

いて、チャーター・イン、チャーター・アウトを認めているのは以下の諸国であ

る。これらの国のリストは、先に触れた船舶の抵当権と先取特権に関する国連条

約の起草過程で 1988 年 5 月 25 日に出された、UNCTAD と IMO の共同の報告

書(TD/B/C.4/AC.8/12)に基づいたものである。 アンティグア=バーブーダ オーストラリア バハマ キプロス フランス ドイツ イタリア リベリア メキシコ パナマ フィリピン ポーランド スペイン スリランカ バヌアツ セント・ヴィンセント・アンド・グレナディン これらの諸国の制度は多様で、一致した慣行は見られないし、また、どちらか一

方の制度のみの導入となっている国も見られることは重要な意味を持つ。なお、今

回の調査の結果として、キプロスとマルタはチャーター・インの制度を有している

との指摘をオランダ海事局から受けた。

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3.チャーター・イン、またはチャーター・アウトする船舶に対する法の適用 チャーター・インとチャーター・アウトの制度は、船舶についての私法上の権利

にかかわる登録と国旗の掲揚とそれに伴う旗国の公法の適用対象となるための登

録を分離することを前提とし、これらの 2 種類の登録が別の国家で行われることを

容認する。これによって原則として私法上の権利・義務と公法上の権利・義務につ

いて適用される法が分割されることになる。このような区分を行うことにより、法

律問題の性質によってどの国の法律が適用されるかが違ってくることになる。 まず、所有権、抵当権、先取特権などの私法上の法律は、私法上の権利関係の登

録国の法律が適用される。ドイツではトン税の適用など、課税対象についても私法

上の登録国の法が適用される。なお、通常、国旗の掲揚のための登録の際には、私

法上の権利関係の登録国の国名が明記されることが通常だが、抵当権などについて

の記述を求めない手続制度が一般的である。このため、抵当権などについては、こ

れについて利害を持つ者が当該船舶の私法上の権利関係の登録国の登録簿を調べ

る必要がある。また、公法と私法の区別のあり方も国の制度によって異なっており、

チャーター・インやチャーター・アウトの制度の利用においては、関連する諸国の

国内法上の扱いに留意する必要がある。 国旗を掲揚するための登録は、国家に伝統的な意味での旗国としての役割を担う

権利と義務をもたらす。旗国による船舶への管轄権利は海洋秩序の維持に関して重

要な意味を持っている。特に、いずれの国の領域的管轄権も及ばない公海上では、

原則として、船舶への旗国の管轄権の行使によって、その秩序が確保されてきた。

国連海洋法条約第 94 条第1項は、「いずれの国も、自国を旗国とする船舶に対し、

行政上、技術上、及び社会上の事項について有効に管轄権を行使し及び有効に規制

を行う」と規定している。また、第 97 条は公海上の衝突事故などについての旗国の

管轄権の行使、第 98 条は船舶への援助について規定している。これらの原則の下

で、各国は自国の国旗を掲揚する船舶に対して自国の公法を適用する船舶の安全航

行、環境保全、労働関係、刑事法関係などがその主たる適用分野であり、これらの

事項に関して国家が拘束されている国際条約等(たとえば、SOLAS 条約、ISPSコード、MARPOL 条約、STCW 条約)も旗国が当事国となっているものが適用さ

れる。 ただし、すべての国が自国の法制度の適用範囲をこのように区別している制度を

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持っているとは限らない。パナマのように、チャーター・インとチャーター・アウ

トのいずれについても、自国での登録を有効とみなし、チャーター・アウトした船

舶についても、国際条約を含む自国の法的義務や課税義務を課す国も存在している。 4.チャーター・インとチャーター・アウトの問題点 チャーター・インとチャーター・アウトの制度の導入によって生ずる問題点とし

て、指摘されるのは、第一に、二重登録の可能性、あるいは並行的登録による船舶

の国籍の決定にかかわる問題、第二に、相互主義に関する問題、第三に、船舶に対

する抵当権などの設定に関する問題である。

二重登録の問題は、公海条約第 6 条や国連海洋法条約第 92 条に、船舶は公海上

において、単一の国旗を掲げるとされており、1 隻の船舶の船籍国が 2 ヵ国にわた

ることは認められていないことから生ずる。この原則は、複数の国家が同じ船舶に

旗国としての権限の行使を主張することによって、船舶の円滑な運航が妨げられる

ことを防止するために形成されてきた。 フランスのヒアリングの際に、説明があったように、フランスではチャーター・

インやチャーター・アウトによって国旗の掲揚の権利が獲得されると、私法上の登

録を行った国家の船籍は、凍結されることになると解されている。船籍国について

このように理解すれば、チャーター・インする船舶の国籍について、自然人のよう

な重国籍の問題は生じないことになる。ドイツのヒアリングでも、チャーター・ア

ウトした船舶についてドイツ政府が保護をする場合、船舶の保護権が第一義的には

旗国にあることを尊重しつつ、当該旗国と協力する形で、自国民が所有し、自国に

私法に関する権利が登録された船舶に対する保護を実現しているとのことであっ

た。このような立場をとれば、チャーター・アウトした船舶について、私法上の登

録国と旗国の間で管轄権の行使の競合が生じないと考えられる。ただし、海上先取

特権・抵当権条約第 16 条に見られるように、抵当権などの問題についても旗国の

法の適用関係と考える条約が存在することを考えると、チャーター・インやチャー

ター・アウトの制度で私法上の権利関係の登録国と旗国の機能を明確に区別するこ

とによって、重国籍に類する問題が生じないという見解が完全に一般化しているか

否かについて、注意が必要である。パナマのチャーター・アウトの制度のように、

たとえチャーター・アウトした船舶であったとしても自国の船籍の維持を明文で規

6

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定している場合もあるからである。 第二の問題は、チャーター・インやチャーター・アウトが認められるための要件

として、新たな登録先の国が元の登録国と同じ制度を持っていることという相互主

義を要求する国があるということから生ずる。ドイツ、オランダ、フランス、イギ

リスの制度では相互主義は要件とされていない。しかし、パナマ、リベリア、キプ

ロス、マルタなどの諸国では、相互主義が要件とされている。チャーター・インの

制度の導入の主要な目的が自国の国旗を掲げる船舶の数を増加させることである

としても、相互主義が要件とされる国との関係では、相手国へのチャーター・アウ

トも認めざるを得なくなる。その結果、本来の立法の目的である、チャーター・イ

ンではなく、チャーター・アウトが多用され、むしろ、自国の国旗を掲げる船舶の

数の減少につながる危険性があることには注意が必要である。

第三の問題点については、抵当権などの問題はあくまで、私法上の権利の登録国

の制度によるということが、今回、調査を行った国のいずれでも示された。また、

私法上の問題については、当事者に委ねることとし、国家が制度的に対応すること

はないとのことであり、あくまで船舶に関する訴訟を起こす当事者が情報を得る努 力をすべきであると解される。 このような見解は、今回調査した国がすべて大陸法系の諸国であったために、明

確な回答が可能だったことに留意しておかなければならない。英米法系の国では大

陸法系の国ほど、私法と公法の区別が明確ではないので、船舶の私法上の権利関係

の登録国と旗国の間で、適用法の抵触が問題になる可能性は皆無とはいえないだろ

う。

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第二部 主要各国の制度 1.ドイツ

(1)根拠となる法律

ドイツでは、ドイツ人が所有する船舶にはドイツ国旗を掲揚する義務がある

(外航船舶の国旗権などに関する法律(以下、国旗法)第 1 条)。また、EU の

国籍 を有する者が所有する船舶は、ドイツ国旗を掲揚する権利を有する(同第

2 条)。 ドイツではこの国旗法第 11 条にチャーター・イン、同第 7 条にチャーター・

アウトの規定が置かれている。先に述べたように、第 11 条は 1951 年、第 7 条

は 1970 年代に別々に導入された規定である。 第 11 条は、配乗権者が第 1 条、第 2 条、第 10 条によって、ドイツ国旗を掲

揚する権限が付与されない外航船舶について、ドイツ国旗の掲揚の権利を認めて

いる。この規定のもとで国旗掲揚の権限が付与されるのは、国際協定がある場合

と、国際協定がない場合で一定の要件が満たされる場合の 2 つである。実際には

チャーター・インについての国際協定の締結の例はなく、第二の場合に関する規

定が使われてきた。この場合に満たされるべき条件は、第一に、配乗権者が第 1条第 1 項に規定され、第 2 条第 1 項 a にも関連した、人的なグループに属するこ

と、第二に、当該者が少なくとも 1 年間自らの名において当該外航船舶の保有を

委託されていること、第三に当該外航船舶の配乗が連邦法令に基づいて行われて

いること、第四に、旗国の変更について船主の同意があること、第五に連邦旗の

掲揚がもとの登録国の法令違反にならないことという 5 つである。第 11 条によ

ってチャーター・インした船舶にはカボタージュが認められる。 第 7 条では、第 1 条に規定される者にあたらない配乗権者、すなわちドイツ人

以外の配乗権者が 低 1 年間、当該者自らの名前の下での船舶運航が委託された

場合、この条に規定される一定の要件を満たせば、ドイツ国旗以外の国旗を掲揚

することが、認められている。このような国旗の掲揚は 長で 2 年間認められ、

それ以上の場合は再度、外国国旗を掲揚することについての許可が必要である。

8

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(2)船舶の登録手続 ドイツでは船舶の登録について 2 種類の登録がある。一つは州の裁判所で行わ

れる私法上の権利関係についての登録、もう一つは連邦海運水路庁で行われる、

国旗の掲揚の権利を獲得するための登録である。この 2 種類の登録は独立した別

の手続きとして行われる。

ドイツ人が船舶を取得した場合、州裁判所で船舶登録を行う。この登録手続き

を行うと、ドイツで私法上の権利関係を登録した船舶のリストに搭載される。な

お、ドイツの法制度では、この私法上の権利関係についての登録が行われた船舶

が、トン税の課税対象となる。

船舶についての私法上の登録の後に、当該船舶にいずれの国の国旗を掲揚させ

るかを船主が決定する。船主がドイツ国旗を選択する場合、ハンブルクの海運水

路庁に国旗掲揚のための条件を満たしていることを示して登録を行う。この登録

により、ドイツ国旗の掲揚の権利が認められ、船舶の旗国がドイツとなる。ドイ

ツ国籍の者が所有し、ドイツで私法上の登録がなされた船舶で、国旗掲揚の条件

を満たしている船舶については、船舶証明書(Schiff Zertifikat)が発行され、

この証明書を有する船舶のリストに搭載される。船舶証明書はドイツでの船舶の

国籍証書である。また、ドイツの国際船籍制度を利用している船舶は、この制度

を利用する船舶のリストに搭載される。なお、ドイツでは、船舶の登録について

登録税は課されない。手数料は必要だが、高価ではない。 国旗法第 7 条の制度を利用して、チャーター・アウトする船舶については、船

舶証明書が発行されず、船舶証明書を有する船舶のリストにも搭載されない。あ

くまで、州裁判所での私法上の権利を登録した船舶のリストに搭載されているだ

けである。 国旗法第 11 条によって、チャーター・インする場合、前節で述べた条件が満

たされていることが証明されなければならない。特に第五の条件である、船舶の

もとの登録国の法令違反にならないことの証明は、用船者に当該国の同意を得た

ことを示す書類の提出を求めることで行われる。この規定によってドイツ国旗を 掲げる場合、当該船舶に対して船舶証明書とは異なる、国旗証明書

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(Flaggenschein)が発行され、この制度を利用する船舶のリストに搭載される。

(3)ドイツの利用状況

ドイツの場合は、1951 年に導入された第 11 条に基づいてチャーター・インす

る船舶は、現在では外航船舶には見られない。すでに述べたように、ドイツのチ

ャーター・インの制度は第二次大戦後に激減したドイツ船籍船を増やすための施

策として導入されたもので、1970 年代にはその役割を終えたとされている。し

かし、ドイツ政府としては、船社に対する選択枝の一つとして、この制度を廃止

せずに残しているとのことである。 ドイツでは第 7 条のチャーター・アウトの制度が多用されている。ドイツでは

通常の船籍船よりも運航コストを削減できる国際船舶制度が設けられている。し

かし、この制度を利用したとしても、依然としてドイツ船籍船の運航コストは高

価であるとのことである。したがって、ドイツで私法上の権利関係を登録して外

国の国旗を掲揚させる第 7 条の制度の方が、運航コストの面でより有利となる。

ドイツで私法上の権利関係を登録する限り、掲揚する国旗にかかわりなく、トン

税の適用を受けることができるので、国旗の選択については、運航コストが重視

されるのである。 以上のような事情から、現在ドイツ人が所有する船舶 2,500 隻のうち、400 隻

はドイツで私法上の登録、かつ、ドイツ船籍(国際船舶)で、1,700 隻は第 7 条

によって、ドイツで私法上の登録の後、外国の国旗を掲揚する権利を取得してい

る。特にドイツではリベリア、アンティグア・バーブーダの国旗を掲揚する場合

がもっとも多い。また、ドイツの船主は、船舶の規模や目的に応じて、いずれの

国の国旗を掲揚させるかを決定している。

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(4)ドイツの海運政策におけるドイツ国旗を掲揚する船舶の増加のための努力 ドイツでは、2003 年に海運政策についての国内の会議が開催され、政府、船

社、船員組合のすべての合意としてドイツの海事産業の振興のために協力して政

策を推進することが決定された。また特に政府と船社の間で合意が結ばれ、トン

税など、船社に有利な制度の導入の代わりに、ドイツの船社は自社が所有する船

舶について、一定の割合で、ドイツ国旗を掲揚させることを約束した。実際にこ

の会議までは、国旗法第 7 条の制度のもとでの外国国旗の掲揚が選択される場合

がほとんどであったが、これ以降、ドイツ国旗を掲げる船舶が増加している。し たがって、この約束は守られているといえる。

ドイツ船籍船の増加には、トン税の導入と海運会議でのこの政府と船社の間の

合意の履行が大きな役割を果たしている。ただし、それでもドイツの場合は、チ

ャーター・アウトの方がより運航コストが低いので、何らの施策もとらなければ、

ドイツ国旗を掲揚する船舶は減少の一途をたどるであろうとのことである。ドイ

ツでは、上記の政策の施行と併せ、社会保険率と船員の所得税率も引き下げられ

た。ドイツの判断としては、これにより、自国民の船舶への投資が促進されるこ

と、陸上での船舶の運航に関連する事業なども含む海運業の振興により、雇用の

拡大や社会保障制度への貢献などが見込まれるので、長期的な視点から有利であ

ると判断しているとのことである。実際に 1999 年のトン税の導入以降、海運関

連の雇用が 3,000 人程度増加したとのことである。ドイツの新しい海運政策は、

単にドイツ国旗を掲揚する船舶を増加させるだけでなく、陸上も含め、海事産業

の立地を包括的に振興することを目的としているとの説明であった。 以上のようなドイツ政府の政策の社会的背景として、ドイツ特有の船舶の所有

形態があることに言及しておかなければならない。ドイツでは、KG コンストラ

クション(合資会社)に、海運業とは無関係の多くの個人投資家が有限社員とし

て出資し、この会社がドイツの商船の 8 割、さらには世界のコンテナ船の 8~9割を所有するにいたっているという事情がある。ドイツにとって、こうした個人

投資家の投資の促進と保護が不可欠であり、そのための政策が実施されているの

である。

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2.オランダ

(1)根拠となる法律 オランダでは、チャーター・インの制度が 1992 年に導入された。裸用船契約

船の船籍法(1992 年)第 3 条 1 項は、オランダ以外で登録された船舶がオラン

ダの国旗を掲揚する権利を得るための要件を規定している。第 1 条bによれば、

ここでいう「裸用船契約」とは、一方の当事者、すなわち船の貸主が他方の当事

者に対して、一定期間、乗員なしで船の使用を認める契約をいうとされており、

裸用船契約を意味する文言である。 オランダのチャーター・インの制度では外国との相互主義を要件としておらず、

また外国との協定も締結していない。 オランダでは、チャーター・アウトの制度はない。オランダでは船舶への投資

に強い発言力を持つ銀行(たとえば、ABN Amro)がオランダの法的保護を望む

ため、オランダ人が所有する船舶について外国の国旗の掲揚を可能にする制度は

必要がない。オランダの見解としては、これらチャーター・インとチャーター・

アウトはまったく別の制度なので、両方を備えた制度を作る必要もない。ただし、

現状では、チャーター・アウトを禁止する明文の法律がないので、限定的な数な

がら、チャーター・アウトする船舶も実際には存在する。 オランダでは現在、1992 年法に加えて、Ship Management がオランダで行わ

れている船舶を対象に、オランダ国旗の掲揚を認める制度が議会で審議中である。

この新しい法案が提案される背景には、EU の加盟国が増加したこと、キプロ

ス、マルタが船舶のコントロールを中心にした新しい制度を導入したこと、ドイ

ツの KG コンストラクションの所有船舶の増加により、海運業界が大きく変化し

たことがある。この新しい制度により、オランダを拠点として運航がコントロー

ルされる船舶に、通常のオランダ船籍船と平等な待遇でオランダ国旗を掲揚する

ことを認められるようになる予定である。ただし、Management、あるいはコン

トロールという文言の内容については、法案の成立までは明らかにできない。

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(2)オランダの登録制度 オランダでは、船舶を購入した場合、通常 2 つの登録手続が必要である。一つ

は、住宅省(Ministry of House)に所有権や抵当権などの私法上の権利関係に

ついて登録すること、もう一つは、国旗の掲揚のための登録を交通省で行うこと

である。後者の交通省への登録によって、海運文書(Sea Letter)が与えられる。

これがオランダの船舶の国籍証明書(Certificate of Nationality)である。この

登録により、船舶はオランダの国旗を掲揚することができる。オランダでは船舶

の登録に税金は課されない。

1992 年法によりチャーター・インする船舶についても、オランダで私法上の

関係についての登録が行われ、その後オランダ国旗を掲揚するための登録を行っ

た船舶とまったく同じ海運文書を与えられる。オランダではオランダの国旗を掲

揚する船舶についてその扱いに何らの区別もない。

なお、オランダで 1992 年法の適用を受けて、国旗掲揚のための登録を行うと

きに必要な書類は以下の 6 点である。第一に、所有権の公示の正式書類、第二に、

用船する法人の社名、第三に用船する法人の定款、第四に裸用船契約の必要な部

分、第五に国旗の変更についての船主の書面による合意、第六に登録国のチャー

ター・アウトについての許可。 第二の書類では、用船する法人は、オランダ法人である必要はなく、少なくと

もオランダ国内に支店があることが示されればよい。また、この場合の法人とは

EEC 条約第 48 条の EU における法人の要件を満たす団体である。第三の書類で

は、用船する法人の社長のパスポートの写し、株主の国籍などを含む当該法人の

定款が提出されなければならない。ただし、欧州委員会の決定(2004 年 10 月

14 日)で、この国籍の要件は不当と判断されたので、今後これを撤廃する予定

である。第四の書類については、船舶所有者、裸用船者、所有権と抵当権の所在

地、契約期間などの部分が提出されればよい。これらの書類の提出は、当該船舶

の裸用船契約が実質的にオランダで運営されていることを証明するために必要

な書類である。これらの書類は、裸用船される船舶とオランダとの関係の実質的

関係を確保するためのものである。

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以上の書類が形式上遺漏なく提出された場合、オランダ政府にはチャーター・

インの申請を却下する権限はない。申請の却下の場合には、差別的待遇を理由と

する訴訟の提起が可能であり、この訴訟では相当程度に正当な理由がなければ政

府の側に勝訴の可能性はない。 (3)オランダの利用状況

オランダでは、政府、船社ともに、1992 年法によるチャーター・インの制度

を利用して、オランダ国旗を掲揚させることを積極的に評価している。現在オラ

ンダ人が船主となっている船舶のうち、オランダで私法上の関係について登録し、

オランダ国旗を掲揚している船舶が 900 隻で、1992 年法の制度のもとで、外国

で私法上の関係について登録し、オランダの国旗を掲揚している船舶は 90 隻で

ある。船社でのヒアリングによれば、過去 3 年間で、ドイツから裸用船した船舶

14 隻のうち、7 隻にオランダ国旗、7 隻にイギリス国旗の掲揚を選択したとのこ

とである。 オランダ海運業界の特徴は、船舶の所有者が少ない中で、船舶の運航管理など、

陸上での業務を保護、振興するための施策を実施しているといえよう。 (4)オランダの海運政策

オランダでは、海運業について、陸上での運航管理などの事業展開を重視し、

これを保護、支援する政策を採っている。オランダはすでに配乗要件について、

船員の国籍要件を撤廃している。これは、船員の雇用を、船社の自由な選択に委

ねているからである。ただし、船社がオランダ人の船員を雇用する場合には税制

上の優遇措置が適用され、船員のコストを実質的に削減できるとのことである。 また、オランダの海運政策には船社が積極的に関与している。1992 年法や議

会で現在審議中の法律は船社が法案の作成にあたったものである。

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3.フランス (1)根拠となる法律

フランスでは、1975 年に 1967 年商法が改正された際に、チャーター・インの

制度が導入された。同法第 3-1 条 2 項によれば、フランス人の船主が裸用船し、

船舶の管理、艤装、海上の営業と経営を確保し、かつ当該船舶の登録国の法律で

国旗掲揚の権利の放棄が認められている場合に、フランス船籍を取得し、フラン

ス国旗を掲揚することが認められる。その後、1996 年 2 月 27 日付で 1975 年改

正法は廃止されたが、同日付の税関法の改正により、フランス船籍を獲得するた

めの条件に関する規定である第 219条の第 3項 B に 1975 年改正法と同じチャー

ター・インの制度が設けられた。また、明文の法的根拠がないものの、行政手続

として、チャーター・アウトも事実上認められてきている。 フランスの船舶の国旗掲揚制度については、2005 年の国際登録制度(RIF)

が導入されたことも注目されなければならない。新しい RIF の制度はこれまで

多様だった外航船舶の登録制度を一つに統一するために設けられた。フランスで

は、ケルゲルン島での登録制度などによる便宜置籍問題への対応の法的根拠が脆

弱であることに批判があり、また、2003 年に提出されたリシュモン報告書でフ

ランス船籍船の国際競争力の強化政策が提言されたことを受けて、長年場当たり

的な対応が目立ってきた外航船舶への国籍の付与や登録制度を統一することに

なった。RIF は、トン税の導入と並んで、フランス船籍船を増やすための方策と

して期待されているとのことである。RIF は配乗要件について、リシュモン報告

書が提案したほどの緩和はできなかったものの、船員についてフランス領域内で

の居住の有無を基準に税金の免除を認めることで、運航コストの問題に対応して

いる。また、RIF の制度で登録すると、カボタージュができることも従来のケル

ゲルン島の制度で登録された船舶と異なる。 チャーター・アウトについては、フランスとしては、フランス国籍に興味を示

さない船舶について興味がないため、統計などはないとのことである。フランス

にとって、船舶の船籍は、当該船舶をフランスの領土とみなすものではないとの

説明もなされた。

また、フランス人船主は、船舶の種類に応じて船舶の登録国を選択しており、

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パリ・メモランダムでホワイト・リストに搭載されている国家が選択の対象とな

っている。 (2)登録手続

フランスでは船舶を購入すると、まず、登記港(port d’attache)を選択し、

その税関で所有権の登記を行う。抵当権などの私法上の権利関係についても、税

関の管轄で登録される。その後、運輸省海事局で船籍登録(immatriculation)を行う。この際に、船主や船社が、船籍登録港(port d’immatriculation)を選

択する。この船籍登録港は、所有権の登録を行った港と一致する必要がない。船

籍登録が行われると国籍証明書(certificat de francisation)が発行され、フラ

ンスの国旗を掲揚する権利が生ずる。現在、EU 国民が所有する船舶はフランス

の国籍証明書を申請することができる。 フランスで、フランス国旗の掲揚を認める際に も重視されているのは、船主

が実質的にその船舶を支配していること(établissemsent stable)を証明させる

ことである。このために、法人の定款を提出させるとのことである。 フランスでは船舶の登録手続に税金などはかからない。船主は測度の際の実費

を負担するのみである。 1975 年法によるチャーター・インの制度でフランス船籍を取得する船舶につ

いては、船主が実質的にその船舶を支配していることの証明書の提出が求められ、

運輸省が当該用船契約を登録し、運輸省からパリの税関に手続き書類を送付する。

これらの一連の手続は税関法に従って運用しており、この目的で税関と運輸省の

間に合意が結ばれている。

チャーター・インの制度によるフランス国旗の掲揚の権利は、一時的なフラン

ス船籍の取得(francisation provisoire)と考えられている。この制度を利用す

る船舶は、一時的フランス船籍取得証明書(acte provisoire de francisation)を

搭載しており、場合によっては、書類一枚の場合もあるが、通常のフランス船籍

を有する船舶と同じ青い手帳であったりもする。

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(3)フランスの利用状況 フランスでは従来から、チャーター・インの制度が広範に利用されてきた。特に

200 総トン以上の船舶について、4 年以上の長期にわたるチャーター・インが多

く見られる。フランスの船主は、積荷の種類によって船籍を変更するので、そう

した需要に細かく的確に対応できることが、チャーター・インの制度の利点であ

る。フランス国旗を掲揚している商船の 3 分の 1 は、チャーター・インによって

フランス国籍をとってきた。

フランスでチャーター・インが好まれてきた理由としては、同国の船舶の用船

契約では裸用船契約が大勢を占め、また契約期間に対応して、船籍を変更できる

ので、用船契約の用途に応じて適切な船籍を選択できることが魅力であることが

指摘されている。なお、フランスでどの国の国旗を掲揚するかの選択において、

重要な意味を持つのは船主の意思である。

(4)フランスの海運政策

フランスは自らを海運国家ではないとしつつ、自国内で伝統的に受け入れられ

てきた海事関係の技術の継承を重視している。また、フランス国内では、船員組

合を含め、労働組合の力が強いため、船員の配乗要件を緩和することは困難であ

る。しかし、フランス船籍船が減少していることを問題視していることは事実で

ある。2003 年のリシュモン報告書はこのような事情を受けて、フランス船籍船

の国際競争力を強化するために作成された。この報告書では、トン税の導入、船

舶投資の援助、新たな国際船舶制度の導入を柱とする政策が提言された。

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4.イギリス (1)根拠となる法律

イギリスでは、1993 年の商船登録法の第 7 条によって初めて、裸用船された

船舶がイギリス国旗を掲揚することを認めた。その後、1995 年の商業船舶法第

第 17 条によって、チャーター・インの制度が導入された。この法律では、外国

で登録された船舶について、イギリスで船舶を所有することが認められている者

と同じ要件を満たす者が裸用船を行い、かつ第 9 条第 2 項(b)の登録要件を満

たす場合には、イギリスで登録することが認められている。(第 17 条第 1 項、第

3 項)第 9 条第 5 項は、通常の手続きによってイギリスの国旗を掲揚する船舶が

他国の船籍を持つことを認めていない。しかし、チャーター・インの制度を利用

する場合は、第 9 条第 5 項が適用されない。その代わりに元の登録国の政府機関

にイギリスでの登録と第 17 条第 4 項によるか、登録規則による登録の終了につ

いて通告がなされなければならない。 第 17 条第 1 項の条件を満たした船舶が第 3 項にしたがってイギリスで登録さ

れると、当該船舶はイギリス国旗を掲揚する権利を有し、イギリスを旗国とする

他の船舶と同様にイギリス法によって規律される(同条第 6 項)。ただし、適用

されるイギリス法については同条第 7 項と第 8 項に規定される法は例外となる。

第 7 項によって適用除外となるのは、1995 年法のスケジュール1が設けている

船舶やその持分の譲渡、売買や抵当権に関する私法関係の規定のみであり、この

点については本来の登録国の方理知によって規律されることになる。したがって、

チャーター・インの制度を利用する船舶は公法とスケジュール1に規定されるも

の以外の私法についてイギリス法の適用を受けることになる。第 8 項は枢密院令

に関する適用除外の規定で、チャーター・インの制度に関係のない国内関係の法

律の適用を枢密院令によって除外するための規定である。ここで想定される国内

関係の法律の例として、税金、国内的な社会保険料や賃金など、さらに、政策的

にみて通常の方法で船舶をイギリスに登録する所有者に対して課すことが趣旨

であると考えられるような罰金などに関するものがあげられうる。 この規定によってイギリスの国旗を掲揚する権利を得るためには、船舶の裸用

船者がイギリス法によって船舶を所有する資格を得ていることと、船舶がイギリ

スと十分な関連性を持っていなければならない。第 9 条に規定されるイギリスで

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船舶を所有することが認められる者の要件と、船舶と所有者の間の十分な関係が、

裸用船の場合にも適用されるのである。(第 17 条第 3 項)。 第 17 条第 4 項は、裸用船契約の終了とともに、イギリス国旗の掲揚の権利も

終了するかどうかについてあいまいな規定振りとなっている。したがって、この

点については議論があり、裸用船契約の終了後も、用船者がイギリス国旗を掲げ

させている場合、訴訟が起こる可能性がある。

なお、この 1995 年法では、チャーター・アウトについての明文の規定は置か

れていない。しかし、イギリスの法律に従って登録された船舶については、イギ

リス国旗の掲揚を義務付けており、外国の国旗を掲揚した場合には、罰金が課さ

れる旨が規定されている(第 9 条第 5 項、第 7 項)ことから、チャーター・アウ

トは実質的に禁止されていると解釈される。 (2)イギリスの利用状況

現状では、チャーター・インの制度を利用しているのは、イギリスの統計とし

ては 71 隻である。ただし、ドイツ、オランダでのヒアリングの際、イギリスへ

のチャーター・インが魅力的な選択肢となっている旨の発言があった。これは、

イギリスがすでに船舶の配乗要件について、自国籍の船員の配乗を求めない制度

を採用していることから、イギリス船籍船の運航コストが安いことと、イギリス

国旗の掲揚によって、EU 域内でのカボタージュが認められることの 2 つの理由

によるものである。オランダの船社では、今後、新たに船舶登録を行う場合、オ

ランダ船籍と同様にイギリス船籍も可能性の高い選択肢となっているとのこと

であった。

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5.パナマ (1)根拠となる法律

パナマでは 1925 年法令第 8 号で同国の船籍の取得の要件が定められている。

1973 年にこの法令を改正する形で、チャーター・インとチャーター・アウトの制

度が導入された。1973 年の法令第 11 号で、チャーター・イン、法令第 83 号でチ

ャーター・アウトの制度が設けられた。 チャーター・インについては、2 年以下の期限で用船する海外登録船舶で、当該

登録国政府が認める場合に、海外での登録を放棄することなくパナマ登録を行うこ

とができるとされている。この場合、当事者は、所有者の同意を含む、用船契約の

真正な写し、外国登録証明書、登録先刻の承認証明書をパナマの財務省領事船舶局

に提出して、登録手続をとることが求められる。 チャーター・アウトについては、更新可能な 2 年の期限による用船契約対象のパ

ナマ登録船について、当該登録対象国の政府がパナマと同様にチャーター・アウト

の制度を有し、かつ財務省領事船舶局が実行機関の事前承認を得て、当該特別登録

の許可または承認を行う場合に限り、チャーター・アウトが認められる。 パナマのチャーター・インとチャーター・アウトの制度は、明文で規定されてい

ないものの、裸用船を対象とするものである。 パナマの制度は、チャーター・インとチャーター・アウトのいずれの場合におい

ても、パナマ登録を維持したまま、さらに別の国の船籍を獲得することが明文で規

定されている点が他の国と大きく異なっている。この制度のもとでは、チャータ

ー・インやチャーター・アウトによって他の国で登録されても、パナマの国籍証書

の効力が停止されない。したがって、チャーター・アウトした船舶についても、パ

ナマでの登録を有効とし、当該船舶はパナマの法的義務と租税義務の対象となり、

また、その所有者はパナマ以外の登録に当該船舶に係る所有者肩書きと抵当留置権

を登録することができない。なお、ここでいわれるパナマの法的義務には、SOLAS条約他の船舶の安全、環境に関する国際条約に関するものも含まれ、これらの条約

に基づいて発行される条約証書の効力も停止されないことにも注意が必要である。

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なお、パナマのチャーター・アウトの制度が相互主義を要件としていることも注

目しておかなければならない。パナマで登録された船舶をチャーター・インさせる

制度を作る場合、少なくともパナマへのチャーター・アウトを容認することが必要

となる。 (2)パナマの利用状況

パナマでは、2006 年 3 月時点でチャーター・インとチャーター・アウト、ともに

400 隻程度の利用がある。チャーター・アウトする先としては、ロシア、フィリピ

ン、マルタなどが主要な国となっている。また、チャーター・インをする国として

はニカラグアなどの中南米諸国が多い。

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