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Applying IFRS 小売業及び消費財産業 新たな収益認識基準 小売業及び消費財産業 2015 5

新たな収益認識基準 小売業及び消費財産業 - EY Japan...弊法人のコメント IFRS第15号は、さまざまな業界に属するすべての企業に適用される収益認識に

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Applying IFRS 小売業及び消費財産業

新たな収益認識基準 — 小売業及び消費財産業

2015 年 5 月

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1 2015 年 5 月 新たな収益認識基準–小売業及び消費財産業  

目次

概要 ...........................................................................................3

1. IFRS 第 15 号の要約 ............................................................... 4

2. 適用範囲、経過措置及び発効日 ................................................. 4

3. 顧客との契約の識別 ................................................................. 5

4. 契約における履行義務の識別 .................................................... 7

4.1 財又はサービスに関する顧客の選択権 .................................. 8

4.2 カスタマー・ロイヤルティ・プログラム ..................................... 10

4.3 本人か代理人かの検討 ..................................................... 11

5. 取引価格の算定 .................................................................... 13

5.1 変動対価 ........................................................................ 13

5.2 返品権 ........................................................................... 15

5.3 価格譲歩と延払条件 ......................................................... 16

5.4 顧客に支払った又は支払うことになる対価 ............................. 17

6. 取引価格の各履行義務への配分 ............................................... 19

7. 履行義務の充足 .................................................................... 20

7.1 再販売業者又は代理店との契約 ............................................ 20

7.2 ギフトカードの権利不行使 .................................................. 22

7.3 オムニチャネル(多角的な販売チャネル)に関する検討事項 ....... 24

8. 測定及び認識に関するその他の論点 ......................................... 25

8.1 メーカーのクーポンに関し売手から受領した対価 ..................... 25

8.2 ライセンス契約 ................................................................. 25

8.3 フランチャイズ契約の前払報酬 ........................................... 27

8.4 製品保証 ........................................................................ 29

9. 開示 .................................................................................... 32

10. 次のステップ ......................................................................... 32

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弊法人のコメント IFRS第15号は、さまざまな業界に属するすべての企業に適用される収益認識に

関する単一の基準書である。新たな収益認識基準書は、現行のIFRSから大幅に

変更されている。

新たな収益認識基準書は、顧客との契約から生じる収益に適用され、これによりIAS第11号「工事契約」、IAS第18号「収益」及び関連する解釈指針書を含む、IFRSの収益認識に関する基準書及び解釈指針書のすべてに置き換わる。

さらに IFRS第15号は、たとえば、契約の獲得及び履行に関連する一定のコスト

並びに特定の非金融資産の売却など、収益ではない一定の項目に関する会計

処理も定めている。新たな収益認識基準書が適用されると、小売企業及び消費

財企業は、従来よりも多くの判断が求められることになる。

IFRS第15号により新たな開示が要求されることになるが、企業は事前にそれに

向けた準備をしておく必要がある。企業は、必要な情報を収集し、開示を行う上

で、適切なシステム、プロセス、内部統制、方針及び手続が整備されているかど

うかを確認する必要がある。

IFRS 第 15 号 は 、 2018 年 1 月 1 日 ( 3 月 決 算 の 場 合 、 2018 年 4 月 1 日 ) 以後開始する事業年度から適用され、早期適用も認められる。*1

*1 IFRS第15号は、当初2017年1月1日以後開始する事業年度から適用されることとされて いたが、その後IFRS第15号の発効日を1年延期する改訂が行われている。

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3 2015 年 5 月 新たな収益認識基準–小売業及び消費財産業  

概要

新たな収益認識基準書の適用により、小売企業及び消費財企業は、収益認識に関

する会計処理や実務の変更が求められる可能性がある。国際会計基準審議会

(IASB)が公表したIFRS第15号「顧客との契約から生じる収益」は、米国財務会計基

準審議会(FASB)(以下、IASBと総称して「両審議会」という)との共同プロジェクトに

よるものである。両審議会の新たな収益認識基準書の内容はほぼ一致しており、実

質的にすべてのIFRS及び米国の一般に公正妥当と認められる会計原則(US GAAP)

における収益認識基準書が置き換えられることになる。

IFRS第15号は、顧客との契約から生じるすべての収益に関する会計処理を定めて

いる。 同基準書は、IAS第17号「リース」など他のIFRSの適用範囲に含まれる契約を

除き、顧客に財又はサービスを提供する契約を締結するすべての企業に適用される。

また、IFRS第15号は不動産や設備、無形資産など、一定の非金融資産の売却から

生じる利得及び損失の認識及び測定モデルについて定めている。

新たな収益認識基準書により小売企業及び消費財企業が認識する収益の金額及び

時期が大幅に変わることはないと考えられるが、それでも新たな収益認識基準書の

影響を算定するためにすべての契約を慎重に評価し、収益の会計処理について、現

在よりも多くの判断を行う必要がある。たとえばこれらの企業は、顧客に支払った又は

支払うことになる対価(棚代など)、再販業者との契約、及びライセンス及びフランチャ

イズ契約の会計処理に関してはより多くの判断が求められる。さらに、小売企業及び

消費財企業では、IFRS第15号の、顧客に付与された重要な権利、企業が取引にお

いて本人又は代理人のいずれとして行動しているかを評価する際に適用される支配

の原則、及び返金負債とは区別して総額で計上される返品資産の会計処理を定める

規定により、実務が変更されることが考えられる。

本冊子では、IFRS第15号の収益認識モデルの概要を説明するとともに、小売企業及

び消費財企業が特に留意すべき論点についても解説する。本冊子は、小売業及び消

費財産業製品に関する弊法人の刊行物「IFRS Developments 「新たな収益認識基

準-小売業及び消費財産業」」(2014年9月)を詳述するものである。また、本冊子は、

弊法人の刊行物「Applying IFRS IFRS第15号 「顧客との契約から生じる収益」」

(2015年4月)1(公表物)の内容を補足するものであるため、当該刊行物と併せてお

読みいただきたい。 また小売企業及び消費財企業は、収益認識新基準に関する合同移行リソースグル

ープ(TRG)2の議論の動向を注視することが望ましい。

利害関係者による新基準の適用に資するように、両審議会はTRGを創設した。そこで

の議論を参考に両審議会は、利害関係者から提起された本基準適用上の論点やそ

の他の事項に関して、追加の解釈指針、適用指針や教育の必要性について判断す

る。TRGが両審議会に対して正式な提言を行ったり、適用ガイダンスを公表したりす

ることはない。なお、TRGが議論した内容に強制力はない。

本冊子における弊法人の見解は、暫定的なものである点に留意されたい。この新た

な収益認識基準書をさらに分析・評価し、また企業が同基準書の適用を開始するに

つれて、新たな論点が特定され、そうしたプロセスを通じて我々の見解が変更される

可能性もある。

1 www.shinnihon.or.jp/services/ifrsで入手可能である。 2 「TRGにおける議論について解説しているIFRS Developments」及び「Applying IFRS」 は、

www.ey.com/ ifrsで閲覧できる。

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企業は、黙示的な契約条件

を含め、契約条件を検討す

る必要があるが、それには

判断が必要となる。

1. IFRS第15号の要約

IFRS第15号は、収益及び関連するキャッシュ・フローを認識及び測定するために企

業が適用すべき規定を定めている。その基本原則は、顧客への財又はサービスの

移転と交換に、企業が権利を得ると見込む対価を反映した金額で、収益を認識する

というものである。

IFRS第15号に定められる原則は、以下の5つのステップを用いて適用される。

1. 顧客との契約を特定する

2. 契約における履行義務を識別する

3. 取引価格を算定する

4. 取引価格の各履行義務に配分する

5. 各履行義務が充足された時点で(又は充足されるにつれて)収益を認識する

企業は、黙示的な契約条件を含む契約条件及びすべての事実と状況を検討するに

際し、判断が必要となる。さらに、企業はIFRS第15号の規定を、類似の特徴を有し、

かつ類似の状況における契約に対して首尾一貫して適用しなければならない。期中

及び年度の両方において、企業は、一般的に現行のIFRSより多くの情報の開示が

求められる。年次の開示には、企業の顧客との契約、重要な判断(及びその判断の

変更)及び契約の獲得コスト又は履行コストに関して認識した資産に関する定性的

及び定量的情報が含まれる。

2. 適用範囲、経過措置及び発効日

IFRS第15号は、適用範囲から明確に除外されている以下の契約を除く、通常の事

業の過程で財又はサービスを提供するために締結されるすべての顧客との契約に

適用される。

• IAS第17号「リース」の適用範囲内のリース契約

• IFRS第4号「保険契約」の適用範囲内の保険契約

• IFRS第9号「金融商品」(又はIAS第39号「金融商品 : 認識及び測定」)、IFRS

第10号「連結財務諸表」、IFRS第11号「共同契約(ジョイント・アレンジメント)」、

IAS第27号「個別財務諸表」及びIAS第28号「関連会社及びジョイント・ベンチャ

ーに対する投資」の適用範囲内の金融商品及びその他の契約上の権利又は

義務

• 同業他社との非貨幣性の交換取引で、顧客又は潜在的顧客への販売を容易

にするためのもの

2014年4月に公表されたIFRS第15号は、当初2017年1月1日以後開始する事業

年度から適用されることとされていたが、その後IFRS第15号の発効日を1年延期す

る改訂が行われている。IFRSに準拠して報告している企業及びIFRS初度適用企業

には早期適用が容認されている。3

3 IFRS Developments 第107号「IASBが、新たな収益認識基準の発効日を1年延期することを提案する公

開草案を公表」及びIFRS Development第110号

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5 2015 年 5 月 新たな収益認識基準–小売業及び消費財産業  

すべての企業は、完全遡及適用アプローチ又は修正遡及適用アプローチのいずれ

かを用いて、IFRS第15号を遡及適用しなければならない。両審議会は、企業が完

全遡及適用アプローチを容易に使用できるように一定の実務上の便宜を定めている。

修正遡及適用アプローチでは、財務諸表は、適用開始年度からIFRS第15号を用い

て作成されることになり、過年度については調整しない。つまり企業は、企業による

履行が引き続き要求される契約(すなわち完了していない契約)に関しては、累積的

なキャッチアップ調整を、適用開始日を含む事業年度の利益剰余金期首残高(又は

適切な場合には、資本の他の内訳項目)の修正として認識しなければならない。さら

に企業は、適用開始年度において、現行のIFRS(すなわちIAS第18号、IAS第11号

及び関連する解釈指針書)に従って作成した場合の財務諸表上のすべての表示科

目を開示する必要がある。

発効日及び経過措置についての詳細は、IFRS Developments第110号「IASBが新

たな収益認識基準の適用を1年延期することを決定」などのEYの刊行物を参照され

たい。

3. 顧客との契約の識別

IFRS第15号のモデルは、それぞれの顧客との契約に適用される。契約は文書によ

る場合もあれば、口頭や企業の取引慣行により含意される場合もあるが、法的に強

制力を有し、特定の要件を満たすものでなければならない。また企業は、一定の要

件を満たす場合には、同一の顧客と同時又はほぼ同時に締結した複数の契約を結

合して、単一の契約として会計処理することが求められる。

回収可能性の評価も、顧客との契約の有無を判断する要件の1つに含められる。す

なわち、企業は、権利を得ると見込む対価を回収できる可能性が高いと結論づける

必要がある。 企業が権利を得ると見込む対価の金額(すなわち取引価格)は、契約に定められた

価格と異なることがある(たとえば、企業が価格譲歩を申し出て、契約金額より低い

金額を受け入れる場合など)。回収可能性について評価する際に、企業は、顧客が

期限到来時に企業が権利を得ると見込む対価を支払う能力と意図だけを考慮する。

IFRS第15号の設例2は、契約開始時点における回収可能性の評価について説明

している。

IFRS第15号からの抜粋

設例2 — 対価が記載された価格でない場合-黙示的な価格譲歩(IFRS第15号

IE7項-IE9項)

企業が処方薬1,000単位を約定対価CU1百万で顧客に販売する。これは、深刻な

経済不況に直面している新しい地域における、企業の顧客への初めての販売であ

る。したがって、企業は、約定対価の全額は顧客から回収することはできないと予

想している。全額は回収できない可能性はあるものの、企業は、当該地域の経済

は2年から3年かけて回復すると予想し、当該顧客との関係が当該地域での他の

潜在的顧客との関係を構築するのに役立つ可能性があると判断する。

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IFRS第15号からの抜粋(続き)

IFRS第15号第9項(e)の要件に該当するかどうかを評価する際に、企業は、IFRS第15号第47項及び第52項(b)も考慮する。事実及び状況の評価に基づいて、企

業は、価格を譲歩して顧客からより低い金額の対価を受け入れることになるだろう

と判断する。したがって、企業は、取引価格はCU1百万ではなく、約定対価は変動

すると結論づける。企業は変動対価を見積り、CU400,000に対する権利を得ると

見込むと決定する。 企業は顧客が対価を支払う能力及び意図を考慮し、当該地域は経済不況を経験し

ているが、顧客からCU400,000を回収する可能性は高いと判断する。したがって、

企業は、IFRS第15号第9項(e)の要件が、変動対価の見積りCU400,000に基づ

いて満たされると判断する。さらに、契約条件並びに他の事実及び状況の評価に

基づいて、企業はIFRS第15号第9項における他の要件も満たされると判断する。

したがって、企業は顧客との契約をIFRS第15号の要求事項に従って会計処理す

る。

設例2に示されたような状況にある企業は、顧客と有効な契約を締結しているのか否

かについても判断する必要がある。契約の開始時点で、顧客から見積り取引価格

(明示されている契約価格よりも低い場合がある)を回収できる可能性が高くないと判

断する場合、企業は契約が有効であると結論づけることはできず、したがってIFRS第

15号に示されるモデルを適用することはできない。

モデルのこのステップは、契約の変更に関する規定も含んでいる。 契約の変更とは、契約の範囲又は価格(あるいはその両方)の変更をいう。企業は、

当該変更を別個の契約として会計処理する必要があるのか、それとも既存の契約の

一部として会計処理すべきなのかを判断しなければならない。契約の変更を別個の

契約として会計処理するためには、以下の2つの要件を満たすことが求められる。

• 追加の財又はサービスは、当初契約における財又はサービスと区別できるもの

であること

• 追加の財又はサービスに関する予想対価は、当該財又はサービスの独立販売

価格を反映していること

別個の契約として会計処理するための要件を満たさない契約の変更は、既存の契

約の変更とみなされる。 その場合、当初契約の終了と新たな契約の創出として取り

扱うか、あるいは当初契約が継続しているものとして取り扱うことになるが、そのいず

れによるべきかは、契約変更後に提供される残りの財又はサービスが区別できるか

どうかにより決定される。

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7 2015 年 5 月 新たな収益認識基準–小売業及び消費財産業  

弊法人のコメント IFRS第15号に従って顧客との契約の識別が必要になったとしても、小売企業及び

消費財企業にとって現行の実務が変わることはないであろう。しかし、企業はすべ

ての契約の法的強制力及びその回収可能性を評価しなければならなくなる。契約

は、販売時点、すなわち財又はサービスが引き渡される、又は売買契約が履行さ

れたことになる時点で一般的に存在している。しかしながら消費財企業によっては、

契約の開始時点で、黙示的な価格譲歩なのか、又は顧客の信用リスクなのかを区

別することが困難となる場合もあろう。特に、部分的な支払いが、(a)黙示的な価

格譲歩を伴う契約なのか、(b)減損損失なのか、あるいは(c)IFRS第15号の収益

認識モデルが適用される契約とみなされるのに十分な実質を伴っていない取決め

なのかを判断することが難しい場合もある。

企業は、契約の開始時点で利用可能であったすべての事実及び状況と、その後の

顧客の支払能力に影響を及ぼす事象を慎重に評価する必要がある。この決定を

行うにあたり、相当な判断が求められる。企業は、こうした評価に関して明確な方

針及び手続きを定め、すべての取引に対して首尾一貫して適用しなければなら

ない。

さらにフランチャイズやライセンス契約など、他の契約を締結する小売企業及び消費財企業は、IFRS第15号の要件が満たされているのか、仮に満たされている場合にはいつの時点で満たされるのか、各契約条件を評価する必要がある。

4. 契約における履行義務の識別

企業は、顧客との契約を識別した時点で、契約において約定したすべての財又はサ

ービスを識別し、約定した財又はサービス(もしくは約定した財又はサービスの組合

せ)のうちどの部分を独立した履行義務として取り扱うかを判断するため、契約条件

や商慣行を評価する。

約定した財及びサービスは、以下のいずれかに該当する場合、独立した履行義務で

ある。

• (当該財及びサービス単独で、もしくは財及びサービスの組合せの一部として)

区別できる

• 実質的に同一で、顧客への移転パターンが同じである、一連の区別できる財又

はサービスの一部を構成する

顧客が財又はサービス(又は財及びサービスの組合せ)から生じる便益を、それ単

独で、又は顧客にとって容易に利用可能な他の資源と一緒にして得ることができ

(すなわち、当該財又はサービスを区別され得る)、かつ、財又はサービスが、契約

に含まれる他の約定から区別して識別できる(すなわち、財又はサービスが契約の

観点から区別できる)場合、財又はサービス(又は財及びサービスの組合せ)は区

別できることになる。多くの場合、小売企業及び消費財企業の契約における履行義

務は、売買取引時点又は製品の販売時点などの時点で容易に識別できるが、その

識別が 複雑になる場合も存在する。たとえば、契約に追加の財又はサービスに関

するオプション(例:契約の更新)や知的財産のライセンス(例:商標権)が含まれるこ

とがある。再販業者が関与する場合、企業は、再販業者が取引において本人として

行動しているのか、それとも代理人として行動しているのかを検討する必要がある。 これら複雑となる取引については、以下で詳しく説明している。

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状況によっては、顧客に

重要な権利を与えている

か否かの評価には、相

当な判断が必要となる。

IFRS第15号を開発する過程で両審議会は、企業が重要性がない、又は形式だけで

あると考える履行義務(例:フランチャイズ契約における初期費用)に関する会計処理

に実務上の便宜を設けることを検討していた。しかし、契約の結果、顧客に約定され

たすべての財又はサービスは履行義務を生じさせることから、これらの約定は、企業

と顧客との交渉取引の過程で生じるものであり、この種の実務上の便宜は提供すべ

きではないと両審議会は判断した。利害関係者がこの論点を提起し、TRGは2015年

1月の会議で議論した。その後両審議会が2015年2月の合同会議でこの論点を取り

上げ審議した。IASBは、IFRS第15号の規定が十分に明確であると考え、IFRS第15号の規定を修正しないこととした。一方、FASBは規定による一定の明確化は必要で

あるとし、契約上重要であるとはみなされない約定については、企業が考慮しなくても

済むよう、改訂案の策定をスタッフに指示した。4

4.1 財又はサービスに関する顧客の選択権 小売企業及び消費財企業は、追加の財又はサービスを購入できる選択権を顧客に与

えることが多い。これらの選択権は多くの形態で提供される。たとえば、販売インセン

ティブ(例:限定された顧客へのクーポン、一定の顧客に関し同業他社の価格と同じか

それ以下とするプログラム、販売促進のために小売業者が発行したギフトカード)、顧

客特典クレジット(例:ロイヤルティ・プログラム)、契約更新選択権(例:特定の費用の

免除、将来の値引価格)や将来の財又はサービスに関するその他の割引などが考え

られる。

IFRS第15号は、追加の財又はサービスを取得できる選択権を企業が提供する場合、

契約を締結しなければ顧客が受けとれない重要な権利を顧客に提供するときのみ、

当該選択権は独立した履行義務になると定めている。5たとえば、ある地域や市場の

一定の種類の顧客に典型的に提供される範囲の値引きを上回る値引きを企業が提

供する場合などが考えられる。両審議会は、何が「重要な権利」なのかについて明確

な定義を定めてはいないが、IFRS第15号の結論の根拠で、当該規定の目的は、顧

客が実質的に取引の一部として(しばしば黙示的に)支払いを行っている選択権を識

別し、会計処理することにある、と述べている。6選択権による値引価格が既存の関係

や契約とは関係のない独立販売価格を反映する場合、企業は重要な権利を付与して

いるのではなく、販売提案を行っているとみなされる。IFRS第15号は、仮に選択権が、

顧客が当初の取引を締結した場合にのみ行使可能であるとしても、これは当てはま

ると述べている。重要な権利については、いくつかの論点がTRGに提起され議論され

ているため、それらの議論の動向も注視されたい。7

状況によっては、顧客に重要な権利を与えているか否かの評価には、相当な判断が

必要となる。小売企業及び消費財企業は、一定金額以上の購入を行っている顧客に

対して、ロイヤルティ・プログラム又は割引券を利用した将来の購入に係る値引きを

頻繁に提案する。たとえば、企業が特定期間にCU100以上の購入を行う顧客に対し

て、将来の購入に係るCU15の値引きを提供し、当該値引きは、販売日から2週間利

用できるクーポン/チケット、又はギフトカードの形で提供されるとする。企業はこれが

重要な権利を表すかどうかを判断し、仮にそうであるとしたら、取引価格の一部を、相

対的な独立販売価格に基づき選択権に配分することになる。

4 詳細についてはIFRS Developments 第102号「新たな収益認識基準の改訂案に関し、IASBと

FASBが異なる決定」を参照されたい。 5 IFRS第15号B40項 6 IFRS第15号BC386項 7 TRGにおける議論について解説している「IFRS Developments」及び 「Applying IFRS」は、

www.ey.com/ ifrsで閲覧できる。

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9 2015 年 5 月 新たな収益認識基準–小売業及び消費財産業  

クーポン/チケット、又はギフトカードの独立販売価格を算定する際、ギフトカードの販

売価格をこうした取引の独立販売価格として用いることができるかどうかは、明確では

ない。すなわち、企業は、ギフトカードに関しては観察可能な独立販売価格を有してい

る可能性が高いが、たとえば、ギフトカードの見積りには権利不行使部分が含まれる

ことから、同等の価値を有するクーポンやチケットの独立販売価格の見積りとは異な

る可能性がある。

IFRS第15号は以下のような設例で、選択権が重要な権利を表すかどうかを小売企

業及び消費財企業がどのように判断すべきかを説明している

IFRS第15号からの抜粋

設例49 — 重要な権利を顧客に与える選択権(値引券)(IFRS第15号IE250項-IE253項) ある企業が、製品AをCU100で販売する契約を結ぶ。契約の一部として、企業は

顧客に、今後30日間のCU100までの購入について40%の値引券を与える。企業

は、季節的な販売促進の一環として、今後30日間のすべての販売について10%の

値引きを提供するつもりである。10%の値引きを40%の値引券に加えて使用するこ

とはできない。

すべての顧客は、今後の30日間の購入について10%の値引きを受けることになる

ので、顧客に重要な権利を与えている唯一の値引きは、その10%に対して増分とな

る値引きである(すなわち、追加的な30%の値引き)。企業は、増分となる値引きを

提供する約定を、製品Aの販売に関する契約における履行義務として会計処理す

ることとなる。

IFRS第15号B42項に従って値引券の独立販売価格を見積もるため、企業は、顧

客がバウチャーを交換する可能性は80%で、顧客は平均して追加の製品CU50を

購入すると見積もる。したがって、値引券の見積り独立販売価格はCU12(追加の

製品購入価格の平均CU50×増分値引き30%×選択権行使の可能性80%)である。

製品Aと値引券の独立販売価格及び取引価格CU100のそれらによる配分は次の

通りである。

履行義務

独立販売価格 CU

製品A 100 値引券 12 合計 112

配分した取引価格

製品A 89 (CU100÷CU112×CU100) 値引券 11 (CU12÷CU112×CU100) 合計 100

企業は、製品AにCU89を配分し、支配の移転時に製品Aについての収益を認識す

る。企業は、値引券にCU11を配分し、顧客がバウチャーを財又はサービスと交換

するとき又はバウチャーの期限満了時に、バウチャーについての収益を認識する。

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弊法人のコメント IFRS第15号に定められる会計処理は、追加の財又はサービスを購入できる選択

権を顧客に提供する小売企業及び消費財企業にとってはより複雑となる可能性が

ある。企業は、いずれの選択権が顧客に重要な権利を提供するかを決定する際に、

相当な判断が必要になる。重要な権利を顧客に提供する企業は、独立販売価格

を見積もり、それを基に取引価格を現在及び将来の購入に配分するためのプロセ

ス及びシステムを構築することが必要となるだろう。

4.2 カスタマー・ロイヤルティ・プログラム 小売企業又は消費財企業が、ロイヤルティ・プログラム又はポイント制度により(重

要な権利を顧客に提供するため)履行義務が生じると判断する場合、企業は取引価

格の一部をロイヤルティ・プログラムに配分する。履行義務が充足された時点で(た

とえば、ロイヤルティ・プログラム・ポイントが使用される、又は失効する場合には、下

記セクション7.2で解説している権利不行使の概念を適用して)、企業は収益を認識

する。

IFRS第15号設例52では、小売又は消費財の取決めにおけるカスタマー・ロイヤル

ティ・プログラムの会計処理が説明されている。

IFRS第15号からの抜粋

設例52 — カスタマー・ロイヤルティ・プログラム(IFRS第15号IE267項-IE270項)

ある企業がカスタマー・ロイヤルティ・プログラムを運営しており、顧客はCU10の購

入ごとに1カスタマー・ロイヤルティ・ポイントを付与される。各ポイントは、企業の製

品の将来の購入時にCU1の値引きと交換できる。報告期間中に、顧客は製品を

CU100,000で購入し、将来の購入に利用できる10,000ポイントを獲得する。対価

は固定されており、購入された製品の独立販売価格はCU100,000である。企業は

9,500ポイントが交換されると見込んでいる。企業は、IFRS第15号のB42項に従

い、交換の可能性に基づいて1ポイント当たりの独立販売価格をCU0.95(合計

CU9,500)と見積もる。

このポイントは、顧客が契約を締結しないと受け取れない重要な権利を顧客に与え

ている。したがって、企業は、顧客にポイントを提供する約定は履行義務であると結

論を下す。企業は、取引価格(CU100,000)を製品とポイントに独立販売価格の比

率で次のように配分する。

CU

製品 91,324 [CU100,000×(独立販売価格

CU100,000÷CU109,500)] ポイント 8,676 [CU100,000×(独立販売価格

CU9,500÷CU109,500)]

第1報告期間の末日現在で、4,500ポイントが交換され、企業は引き続き全部で

9,500ポイントが交換されると見込んでいる。企業は、第1報告期間の末日に、ロイ

ヤルティ・ポイントに係る収益CU4,110 [(4,500ポイント÷9,500ポイント)

×CU8,676]を認識し、未交換のポイントについて契約負債CU4,566 (CU8,676-CU4,110)を認識する。

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11 2015 年 5 月 新たな収益認識基準–小売業及び消費財産業  

IFRS第15号からの抜粋(続き)

第2報告期間の末日現在で、累計で8,500ポイントが交換されている。企業は交換

されるポイントの見積りを更新し、現在では9,700ポイントが交換されると見込んで

いる。企業は、ロイヤルティ・ポイントに係る収益CU3,493 { [(交換されたポイント

合計8,500÷交換されると見込んでいるポイント合計9,700)×当初の配分額

CU8,676]-第1報告期間に認識したCU4,110}を認識する。契約負債残高は、

CU1,073(当初の配分額CU8,676-認識した収益の累計額CU7,603)である。

弊法人のコメント IFRS第15号に定められるカスタマー・ロイヤルティ・プログラムの会計処理は、

IFRIC第13号「カスタマー・ロイヤルティ・プログラム」で求められている現行の規定

とおおむね整合する。しかし、IFRS第15号では、企業は、IFRIC第13号で認めら

れている配分方法ではなく、相対的な独立販売価格に基づき、取引価格を付与さ

れるポイントに配分しなければならない。これにより、企業の会計方針、会計システ

ム及び(又は)内部統制の変更が必要となる可能性が高い。

4.3 本人か代理人かの検討 小売業者は通常、その販売チャネルを通じて顧客に販売される財又はサービスを提

供する契約を第三者と締結する。IFRS第15号によれば、他の当事者が企業の顧客

への財又はサービスの提供に関与している場合、企業は、その履行義務は財又は

サービスを提供することなのか(すなわち、企業は本人)、又は他の企業による財又

はサービスの提供を手配することなのか(すなわち、企業は代理人)を判断しなけれ

ばならない。企業が本人又は代理人のいずれとして行動しているかに関する判断は、

企業が認識する収益の額に影響を及ぼす。企業が契約において本人である場合、

収益は総額(すなわち企業が本人として権利を得ると見込む金額)で認識される。 一方、企業が代理人である場合は、収益は純額(すなわち企業が代理人としてのサー

ビスと引き換えに権利を得る金額)で認識される。企業の報酬又は手数料は、他の

当事者により提供される財又はサービスと交換に受領した対価を当該他の当事者

に支払った後に、企業が留保する対価の純額となる。

契約における本人の履行義務は代理人の履行義務とは異なる。たとえば、他の企

業の財及びサービスを顧客に移転する前に、当該財又はサービスの支配を獲得す

る場合、企業の履行義務は財又はサービスそのものを提供することである。したが

って、企業は本人として行動している可能性が高く、その場合、受領する権利を有す

る総額で収益を認識する。企業が、顧客への法的所有権の移転前に、一瞬だけ商

品の法的所有権を取得する場合、必ずしも本人として行動しているとは言えない。

対照的に、代理人が報酬又は手数料と交換に顧客への財又はサービスの販売を促

進し、一瞬たりとも財又はサービスを支配することがなければ、代理人の履行義務

は、他の当事者が顧客に財又はサービスを提供できるよう手配することである。

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契約における本人を識別することが困難である場合もあるため、IFRS第15号は、企

業がこうした識別を行う際に役立つ指標を定めている。これらの指標は現行のIFRSに含まれている指標を基礎としているが、履行義務の識別及び財又はサービスの支

配の移転という概念に基づいていることから、その目的は異なる。契約における企業

の履行義務を適切に識別することは、企業が代理人又は本人のいずれとして行動し

ているかを判断する際の基礎となる。以下の抜粋では、IFRS第15号で説明される

指標について触れている。

IFRS第15号からの抜粋

B37. 企業が代理人である(したがって、財又はサービスを顧客を提供する前に財

又はサービスを支配していない)という指標には、次のようなものがある。

(a) 他の当事者が、契約履行の主たる責任を有している。

(b) 顧客が財を注文した前後において、出荷中にも返品時にも、企業が在庫リスク

を有していない。

(c) 当該他の当事者の財又はサービスの価格の設定において企業に裁量権がな

く、そのため、企業が当該財又はサービスから受け取ることのできる便益が限

定されている。

(d) 企業の対価が手数料の形式によるものである。

(e) 当該他の当事者の財又はサービスと交換に顧客から受け取る金額について、

企業が信用リスクにさらされていない。

本人は財又はサービスを提供する義務を他の企業に移転することもできるが、両審議会はそ

うした移転は必ずしも履行義務を充足するものではないと定めている。 その代わりに企業は、

当該義務を引き受ける企業のために顧客を獲得するという新たな履行義務が創出された(す

なわち、企業が代理人として行動している)かどうかを評価する。設例45から48は、本人か代

理人かに関する適用指針を説明している (IFRS第15号IE230項-IE248項)。8

弊法人のコメント 現行実務と同様に、企業は、収益を総額又は純額のいずれで表示することが適切

なのかを慎重に評価する必要がある。IFRS第15号には、企業が取決めにおいて

本人又は代理人のいずれとして行動しているのかを判断する際の適用ガイダンス

が定められているが、これらは現行のIFRSにおけるガイダンスと整合するものであ

る。したがって企業の評価結果は、当該論点に関して、現行のIFRSと同様の結論

に至る可能性が高い。しかしIFRS第15号には、これらの指標に加え、当該評価に

おいて企業が財又はサービスの支配を有しているか否かを検討することを求める

優先的な原則が追加されている。これは、企業が取決めにおける本人であるか、そ

れとも代理人であるのかの評価に影響を及ぼす場合がある。 小売業者は、 終顧客に販売する前に財を一瞬だけ支配する(すなわち「一瞬、

所有権を有する」)場合、それが本人か代理人かの分析にどのような影響を及ぼ

すか慎重に検討しなければならない。たとえば、小売業者がある店舗内で自社の

店舗を運営する、又は 終販売時点までの製品の在庫管理、入替えやその他の

製品管理(たとえばグリーティング・カードの手配)責任を売手が負う契約を締結す

る場合などが考えられる。

8 IASBは、本人か代理人かの検討に関するガイダンスの改訂を提案している。弊法人のIFRS Developments 第108号「本人か代理人か : IASBがIFRS第15号の改訂を提案することを決定」

及びIFRS Development第111号を参照されたい。

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13 2015 年 5 月 新たな収益認識基準–小売業及び消費財産業  

2014年7月に開催された 初の会議において、TRGは本人か代理人かに関する数

多くの論点について議論した。無形の財又はサービスの販売(例:イベントや旅行の招

待券、電子ギフトカード)に指標をどのように適用するのか、顧客に請求される一定の

項目(例:送料や事務手続費用、支払経費の補填、税金及びその他の課税)は、収益

として表示すべきか、又は費用の減額として表示すべきかなどの論点が議論された。

両審議会は、一定の無形の財又はサービスが係る取決めにおいて、自らが本人か代

理人かを判断する際の適用ガイダンスを改善することができるかどうか、具体的に調

査するようにスタッフに指示した。

5. 取引価格の算定

取引価格は、顧客への財又はサービスの移転と交換に企業が権利を得ると見込む対

価の金額であり、第三者のために回収する金額(たとえば、一部の売上税)は除か

れる。

新たな収益認識基準書では、企業は、税金が企業に課されているのか、それとも顧客

の代わりに(すなわち、政府機関又はその他の税務当局の代理人として)税金を回収

しているのかを判断しなければならず、そのため営業活動を行うすべての国や地域で

回収されるすべての税金を継続して評価する必要がある。売上税は、小売企業や消

費財企業が第三者のために回収することになる典型的な対価であるが、企業は、適

切な会計処理を決めるために回収されうる他の金額(例:販売業者に課せられる、財

が国境を超えて移動する場合の一定の関税)も慎重に検討する必要がある。

取引価格を算定する際に、企業は次のすべての影響を考慮しなければならない。 (1)変動対価 (2)重要な金融要素(すなわち、貨幣の時間的価値) (3)現金以外の対価 (4)顧客に支払われる対価

小売企業及び消費財企業が顧客に販売する財の価格は通常、設定されているか、表

示されている(例:メーカーの希望小売価格、定価)。しかし、小売企業及び消費財企業

が返品権や価格譲歩を定めるのは慣習となっており、IFRS第15号に従ってその対価

は変動対価となる。また、顧客に対価が支払われることも一般的である。これらの各項

目により、取引価格の算定がより困難になる場合がある。

5.1 変動対価 対価の金額は、値引き、リベート、返金、特典クレジット、価格譲歩、インセンティブ、パ

フォーマンス・ボーナス、ペナルティ、その他の類似項目によって変動する場合がある。

将来の事象の発生(例 : 返品権、マイルストーンの達成)を条件としている場合にも対

価は変動する。

IFRS第15号では、企業は、「期待値」法又は「 頻値」法のうち、企業が受領する権利

を得る対価の金額をより適切に予測する方法を用いて、変動対価を見積もらなければ

ならない。企業は、契約全体を通じて、また類似した種類の契約には、選択した方法を

首尾一貫して適用しなければならない。

IFRS第15号は、企業が取引対価に含めることのできる変動対価を、変動性に関す

る不確実性が解消される時点で、大幅な収益の戻入れが生じない可能性が非常に

高い金額に制限している。すなわち、新しい収益認識基準書の下では、認識される

変動対価に関して制限が課される。この際、企業は収益の戻入れの確率と規模の両

方を考慮する。また、各報告期間の末日に、制限が課せられる金額を含む変動対価

の見積りを見直さなければならない。

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IFRS第15号は以下のような設例を設け、数量値引きにより生じる変動対価について小売企業

及び消費財企業がどのように会計処理するかを説明している。

IFRS第15号からの抜粋

設例24 — 数量値引きインセンティブ(IFRS第15号 IE124項-IE128項)

ある企業が、製品Aを1単位当たりCU100で販売する契約を20X8年1月1日に顧

客と結ぶ。顧客が暦年の間に製品Aを1,000単位よりも多く購入する場合に、契

約は、1単位当たりの価格を遡及的に1単位当たりCU90に減額すると定めてい

る。したがって、この契約における対価は変動性がある。

20X8年3月31日に終了する第1四半期に、企業は75単位の製品Aを顧客に販

売する。企業は、顧客の購入高は、当暦年における数量値引きに必要となる

1,000単位の閾値を超えないであろうと見積もる。

企業は、変動対価の見積りの制限に関するIFRS第15号第56項から第58項の要

求事項(IFRS第15号の第57項における諸要因を含む)を考慮する。企業は、この

製品及び企業の購入パターンについて豊富な経験があると判断する。したがって、

企業は、認識した収益の累計額(すなわち、1単位当たりCU100)の重大な戻入

れが不確実性の解消時(すなわち、購入の合計金額が判明したとき)に生じない

可能性が非常に高いと判断する。その結果、企業は20X8年3月31日に終了する

四半期について、CU7,500(75単位×1単位当たりCU100)の収益を認識する。

2008年5月に、企業の顧客が別の会社を買収し、20X8年6月30日に終了する

第2四半期に、企業は追加的な500単位の製品Aを顧客に販売する。新たな事

実を考慮して、企業は、顧客の購入高は当暦年についての1,000単位の閾値を

超えるであろうと見積り、したがって、単位当たりの価格をCU90に遡及的に減額

することが必要になると見積もる。

したがって、企業は20X8年6月30日に終了する四半期についてCU44,250の収益を認識する。この金額は、500単位の販売についてのCU45,000(500単位×単位当たりCU90)から、20X8年3月31日に終了した四半期に販売した単位に関しての収益の減額についての取引価格の変動CU750(75単位×CU10の価格譲歩)を控除して計算される(IFRS第15号第87項及び第88項を参照)。

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15 2015 年 5 月 新たな収益認識基準–小売業及び消費財産業  

弊法人のコメント 変動対価に係る制限の適用は、特にどのような場合に「大幅な収益の戻入れが発

生しない可能性が非常に高い」と判断すべきなのかという点において、企業にとっ

て困難が生じる場合が見込まれる。 小売企業及び消費財企業は、IFRS第15号

のこの規定を適用する際、十分に検討した上で、具体的な事実及び状況を評価し

なければならないが、その際、慎重な判断が必要とされる。時間の経過と共にベ

ストプラクティスが形成されていくと予想され、また企業が当該制限を適用する際

の一助となる適用ガイダンスが必要となりそうな分野である。

5.2 返品権 小売業及び消費財産業では、企業は一般的に顧客に返品権を付与する。返品権は

契約上の権利である場合もあれば、企業の商慣行による黙示的な権利の場合もあり、

さらに両方の組合せ(たとえば、企業は返品期間を明確に定めているが、実際にはそ

れよりも長い期間にわたり返品を受け入れている)の場合もある。両審議会は、返品

を受け入れるために待機することは、契約における履行義務を表すものではないと判

断した。その代わり企業は、潜在的な返品は変動対価に該当するため、取引価格を

見積もる際に、顧客による返品の可能性を考慮する。

現行のIFRSと同様に、両審議会は、ある製品を同じ種類、品質、状態及び価格の(た

とえば色や大きさが異なる)別の製品と交換することは、IFRS第15号の適用上、返品

とはみなされないと決定した。

IFRS第15号の下では、企業は取引価格を見積もった上で、当該見積り取引価格に制

限に関する規定を適用する。その際、企業が権利を得ると見込む金額(予想される返

品を除く)を算定するために、予想される返品を考慮する。小売企業及び消費財企業

にとって、新たな収益認識基準書の下での返品の見積り額は、現行のIFRSでの見積

り額に概ね整合する場合もあるが、その場合でも、企業は、新たな規定を適切に適用

するため、そうしたプロセスの変更、又は文書化の見直しが必要な場合もあろう(たと

えば、過去の返品率を基に金額を計算するのではなく、「期待値」法あるいは「 頻値」

法を使用するために予想返品率の計算を調整する必要性が生じる可能性がある)。

企業は顧客に対価を返金する義務を表す返金負債を予想返品額で認識する。また、

企業は顧客から返品される財を回収する権利について返品資産を認識する(併せて

売上原価を調整する)。企業は、棚卸資産の従前の帳簿価額から当該製品を回収す

るための予想コストを控除した金額で返品資産を当初測定する。企業は各報告期間

の末日時点で、返金負債を再測定し、返品の予想水準の修正及び返品された製品の

価値の下落の可能性について返品資産の測定値を見直すことになる。すなわち、返品

された製品は、当初の原価から資産の回収コストを控除した金額と、回収時点の当該

資産の公正価値のいずれか低い金額で認識されることになる。

現行のIFRSでは、返品権付きの販売取引に関して、売手が将来の返品を信頼性をも

って見積もることができる場合、収益は販売時に認識される。加えて、売手は返品見

込額に関する負債を認識しなければならない。

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しかし、IAS第18号は返金負債及びそれに対応する借方科目の表示について定めていないことから、一定の違いが生じる可能性がある。新たな基準は、より透明性のある情報を提供するため、返品資産は、棚卸資産とは区別して計上しなければならない、と定めている。また、同基準書では、返品資産(すなわち、返品が見込まれる製品)の帳簿価額は、手許棚卸資産とは区別して、個別に減損テストの対象となることが明記されている。

さらに、IFRS第15号は返金負債を対応する資産とは区別して(純額ではなく総額で)

表示することを求めている。返品資産と返金負債には、追加の開示規定が適用される。

IFRS第15号の設例22(IFRS第15号IE110項-IE115項)は、返品権の会計処理方

法を説明している。

IFRS第15号22の設例22(IFRS 15IFRS第15号.IE110項-IE115項)は、返品権の

会計処理方法を説明している。

弊法人のコメント 企業は、取引価格を見積もる上で要求される方法(すなわち、期待値法又は 頻

値法)、及び変動対価に課せられる制限に関する規定を考慮し、現在の返品の見

積り方法が適切であるか否かを評価しなければならない。企業によっては予想さ

れる返品の見積り方法が変更されることもありうるが、その場合でも結果は変わら

ない可能性もある。

延払条件の場合、取引価

格に変動が生じることにな

らないか、及び重要な金融

要素が存在しないか否かを

検討しなければならない。

5.3 価格譲歩と延払条件 消費財企業はしばしば顧客に価格譲歩を行う。現行のIFRSでは、企業は一般的に、過

去の実績に基づき提供する価格譲歩の金額を見積り、それを収益の減額として処理し

ている。新たな収益認識基準書では、契約の開始時点で存在する企業の価格譲歩の

意図又は意思は、一種の変動対価であるため、取引価格を見積もる際に考慮しなけれ

ばならない。

以前から価格譲歩を行う慣行のある企業もあれば、契約書上の金額より低い金額しか

回収できないかもしれないという見込みの下で契約を締結する企業もある。その場合、

そうした行為は、貸倒費用ではなく、取引価格に反映すべき明示的・黙示的な値引きを

表すことになる。IFRS第15号設例23(IFRS第15号IE116項-IE123項)に価格譲歩の

会計処理が説明されている。

また、消費財企業は、顧客に延払条件を認めることもある。企業が支払期間にわたり価

格譲歩を行うことを意図している、もしくは、そのような妥当な期待を惹起しているかどう

かを判断するため、当該企業は延払条件を定める契約を慎重に評価する必要がある。

IFRS第15号では、契約に延払条件が定められている場合、企業はそれにより取引価

格に変動が生じることになるのか、及び重要な金融要素が存在するのか否かを検討す

る必要がある。9たとえば、企業は顧客と契約の延長について交渉するために、延払条

件を含む契約に関し価格譲歩を提供する商慣行を有している場合がある。このような価

格譲歩は変動対価の一種であるため、契約開始時点で見積り、取引価格から減額する

必要がある。 9 TRGは、無利子の金融取引に重要な金融要素が存在するのか否かを議論した。 顧客にそうした支払

条件を提示する小売企業及び消費財企業は、TRGでの議論についても考慮すべきである

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17 2015 年 5 月 新たな収益認識基準–小売業及び消費財産業  

5.4 顧客に支払った又は支払うことになる対価 多くの消費材企業は顧客に対して支払いを行っている。顧客に支払われる対価の一

般的な例として、以下の項目が挙げられる。

• 棚代

• 共同で広告宣伝を行う契約

• 頭金又は価格保護

• クーポン及びリベート

• 契約締結に向けた前払い(Pay-to-play)契約

• 財又はサービスの購入

また、企業から直接購入する再販売業者又は代理店の顧客に対して支払いを行う企

業もある。たとえば、朝食用のシリアルの製造業者が、直接の顧客は消費者に販売す

る食料品店であるにもかかわらず、消費者にクーポンを提供する。さらに、対価を支払

う約定が、商慣行による黙示的な場合もある。

適切な会計処理を決定するために、企業はまず、顧客に支払った又は支払うことにな

る対価が区別できる財又はサービスに対する支払いなのか、取引価格の減額なのか、

又はその両方なのかを判断しなければならない。企業による顧客への支払いが、取引

価格の減額以外のものとして取り扱われるためには、顧客が提供する財又はサービ

スが区別できることが求められる。

顧客に支払った又は支払うことになる対価が、顧客に提供した財もしくはサービスに係

る値引き又は返金である場合、当該取引価格(よって 終的には収益)の減額は、企

業の商慣行(すなわち約定が黙示的であるか)を考慮した上で、企業が約定した財又

はサービスを顧客に移転した時点、又は企業が顧客に当該対価の支払いを約定した

時点のいずれか遅い時点で認識する。これは、支払いが将来の事象を条件としている

場合であっても同じである。

たとえば、クーポンによる値引きの対象となる財がすでに小売業者に引き渡されてい

る場合、値引きはクーポンの発行時に認識される。一方、小売業者にいまだ販売され

ていない新製品に使えるクーポンを発行した場合、値引きは当該製品を小売業者に

販売した時点で認識される。

顧客に支払った又は支払うことになる対価に、提供した財又はサービスに係る値引き

又は返金の形での変動対価が含まれる場合、企業は変動対価に関する規定を適用

することになる。すなわち、企業は期待値法又は 頻値法のいずれかを用いて、企業

が権利を得ると見込む金額を見積もるとともに、その見積りに対して制限に係る規定

を適用して値引き又は返金の見積り額を決定する。企業は、権利を得ると見込む収益

を も適切に予測できると企業が考える見積りアプローチを選択しなければならない。

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IFRS第15号には、顧客に支払われる対価に関して、下記の設例が設けられている。

IFRS第15号からの抜粋

設例32 — 顧客に支払われる対価(IFRS第15号IE160項-IE162項)

消費者向け商品を製造している企業が、大手の国際的な小売チェーンである顧客に

商品を販売する1年契約を結ぶ。顧客は、1年間に少なくともCU15百万の製品を購

入することを約定する。契約では、企業が契約開始時に顧客にCU1.5百万の返金不

能な支払いを行うことが要求されている。このCU1.5百万の支払いは、顧客が企業

の製品を陳列するために行う必要のある棚の変更について顧客に補填するものであ

る。

企業は、IFRS第15号第70項から第72項の規定を考慮して、顧客への支払いは、企

業に移転される別個の財又はサービスと交換に行われるものではないと結論づける。

これは、企業は顧客の棚に関する何らかの権利に対する支配を獲得していないから

である。したがって、企業は、CU1.5百万の支払いは取引価格の減額であると判断

する。

企業は、IFRS第15号第72項の規定を適用して、支払われる対価は、企業がその財

の移転について収益を認識するときに、取引価格の減額として会計処理すると結論

を下す。そのため、企業が財を顧客に移転するにつれて、企業はそれぞれの財につ

いての取引価格を10%(CU1.5百万÷CU15百万)減額する。したがって、企業が財を

顧客に移転する 初の月において、企業はCU1.8百万(請求金額CU2.0百万から

顧客に支払われる対価CU0.2百万を控除)の収益を認識する。

顧客に支払われる対価の認識に関する規定は、黙示的な価格譲歩を変動対価と

考える規定と整合していないように思われる。TRGは2015年1月と3月に開催され

た会議でこの論点について議論し、TRGメンバーは基準に矛盾が存在することに留

意した。すなわち、IFRS第15号はRS第15号第70項に従って、このCU1.5百万、企

業が変動対価に該当しうるすべての対価を見積り、契約の開始時点並びに企業の

履行に応じて取引価格に反映させることを求めている。一方、顧客に支払われる対

価に関する規定は、関連する売上が認識される、又は企業は当該対価を提供する

ことを約定した時点のうちいずれか遅い時点で、その金額を収益の減額として認識

しなければならないと定めている。TRGメンバーは、IFRS第15号が明確化されない

限り、一定のインセンティブ(たとえば、財又はサービスが顧客に移転された後に提

供される新たなインセンティブ・プログラム)の認識時期に関し、企業によって異なる

結論に至ることになるであろうと考えている。10

10 TRGにおける議論について解説している「IFRS Developments」及び 「Applying IFRS」 は、 www.ey.com/ ifr sで閲覧できる。

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19 2015 年 5 月 新たな収益認識基準–小売業及び消費財産業  

弊法人のコメント 顧客に支払われる対価はさまざまな形態を取り得ることから、企業は各取引又は

その各種類を慎重に検討して適切な会計処理を決定しなければならない。また、

顧客に支払った(もしくはこれから支払う)対価を取引価格に織り込まなければなら

ないのは、契約の開始時点なのか、又はその後の時点なのかについて企業は判

断することが必要である。

IFRS第15号に定められる顧客に支払われる対価に関するIFRS第15号の規定は、

現行のIFRSと概ね整合している。しかし、顧客に支払われる対価を収益の減額以

外のものとして取り扱うために、財又はサービスが「区別できる」か否かの判断を

求める規定は、新たに導入されたものである。こうした取扱いはIAS第18号の設例

の多くで示唆されているものの、現行のIFRSでは明示的には定められていない。

そのため、企業によっては、顧客に支払った又は支払う対価の現行の会計処理を

見直す必要があるかもしれない。

6. 取引価格の各履行義務への配分

履行義務が識別され取引価格が算定されたら、次のステップとして、企業は通常、取

引価格を、独立販売価格に比例して(すなわち相対的な独立販売価格に基づき)履行

義務に配分する。ただし、2つの例外規定が存在する。1つ目の例外規定では、一定

の状況においては、企業は変動対価を、すべての履行義務ではなく、契約に含まれる

1つ又は複数の特定の履行義務にのみ配分する。2つ目の例外規定では、一定の要

件を満たした場合、企業は契約に含まれる値引きを、すべての履行義務ではなく、1つ

又は複数の履行義務にのみ配分する。なお、契約開始後は独立販売価格の変動に

関して、取引価格の配分は見直さない。

独立販売価格を算定する場合、企業は可能な限り客観的な情報を使用しなければな

らない。直接的に入手可能な独立販売価格が存在しない場合、企業は合理的に入手

可能な情報を考慮して独立販売価格を見積もる必要がある。考えられる見積り方法

としては、調整後市場評価アプローチ、予想コストにマージンを加算するアプローチ、

残余アプローチが挙げられる。企業は、類似した状況において、首尾一貫した見積り

方法を適用しなければならない。

弊法人のコメント 財の多くが経常的に単独で販売されていることから、小売企業及び消費財企業

が販売する財は多くの場合、客観的な独立販売価格を有している。

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新たな収益認識基準書に

より、流通業者や再販業

者を通じて製品を販売す

る企業の実務が変更され

る可能性がある。

7. 履行義務の充足

企業は、約定した財又はサービスの支配を顧客に移転することにより、履行義務を充

足した時点でのみ、収益を認識する。支配は一定期間にわたり移転されることもあれ

ば、ある一時点で移転される場合もある。履行義務が一定期間にわたり充足されない

場合、当該履行義務はある一時点で充足されるものとして取り扱われる。以下の要件

のうちいずれかが満たされる場合、履行義務は一定期間にわたり充足される。

• 企業が履行するにつれ、顧客が企業の履行による便益を受け取ると同時に消費

する

• 企業の履行により、資産が創出されるか又は増価し、資産の創出又は増価につ

れて、顧客が当該資産を支配する

• 企業の履行により企業にとって代替的な用途がある資産が創出されず、かつ企業

が現在までに完了した履行に対して支払いを受ける法的に強制可能な権利を有している

履行義務が一定期間にわたり充足される場合、IFRS第15号は、各履行義務の進捗

度を測定するため、財又はサービスを移転する際の企業の履行パターンを も忠実

に表すようにインプット法又はアウトプット法のいずれかを選択することを企業に求め

ている。

大半の小売企業及び消費財企業は、一般的に製品が引き渡された時点(すなわち支

配が顧客に移転された時点)で収益を認識する。これらの企業はサービスを提供する

こともあり、その場合、収益はサービスが履行された時点で(または又は履行されるに

従い)認識されることになる。

7.1 再販売業者又は代理店との契約 新たな収益認識基準書により、代理店や再販売業者(以下、総称して「再販業者」とい

う)を通じて製品を販売する企業の実務が変わる可能性がある。相互に利益をもたら

す関係を維持し、再販業者を通じて将来の売上の 大化を図るため、小売企業及び

消費財企業は、 終消費者より再販業者により多くの権利を与えることが一般的によ

くある。たとえば、企業は再販業者に価格保護やより長い期間にわたる返品権を提供

する場合がある。

企業は、製品の支配がいつ 終消費者に移転するのかを評価する必要がある。その

際に、まず企業は再販業者との契約が委託販売契約に該当するのか否かを検討しな

ければならない。小売企業及び消費財企業はしばしば、棚卸資産を委託品として他の

当事者(たとえば、再販業者や小売業者)に引き渡す。委託販売では、製品を 終消

費者により近いところに移動させることにより、委託者は製品の販売を促進することが

できる。しかし、委託者は中間業者(受託者)に製品を販売することはない。

小売業界では委託販売契約は、通常「SBT」(scan-based trading)と呼ばれる。売手

の財は小売企業の売り場に並べられる又はウェブサイトに表示されるが、製品が 終

消費者に販売される(販売時点)まで売手がその権利を保持する。販売時点で、小売

企業は販売された財に関して売手への支払義務が生じ、売手は収益を認識する。

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21 2015 年 5 月 新たな収益認識基準–小売業及び消費財産業  

委託販売契約を締結する企業は、履行義務の内容(すなわち、履行義務は受託者

に棚卸資産を移転することなのか、それとも 終消費者に棚卸資産を移転すること

なのか)を決定しなければならない。IFRS第15号の下では、この決定は、棚卸資産

の支配が引渡時点で受託者に移転するのかどうかに基づき行われる。通常、委託

者は、棚卸資産が 終消費者に販売されるまで、又は場合によっては特定の期間

が終了するまで、委託した棚卸資産の支配を放棄することはない。 終消費者に製

品を販売した時点で販売価格のうち合意された一定割合を委託者に支払う以外に、

一般的に受託者には棚卸資産に関する支払義務はない。

その結果、支配は移転していないことから、一般的に製品が受託者に引き渡された

時点で委託販売取引に関する収益が認識されることはない。言い換えると、 終消

費者に製品を引き渡す履行義務はいまだ充足されていない。企業は、再販業者が

製品を 終消費者に販売した時点を製品に対する支配が移転された時点と判断し、

その時点まで収益を認識しないと考えられる。この結果は、所有に伴う重要なリスク

及び経済価値が 終消費者に移転された時点でのみ収益を認識することを求める

IAS第18号第14項を適用した場合と同じようになるであろう。

企業が、再販業者との契約が委託販売契約ではないと結論付けた場合、再販業者

が企業の顧客であるとみなされる可能性が高い。企業は約定された財に対する支配

が移転された時点で、企業が権利を得ると見込む金額で収益を認識しなければなら

ない。現行のIFRSでは、製品が再販業者に引き渡された時点では収益認識に関す

るIAS第18号のすべての要件が満たされていないため、実際に製品が 終消費者

に販売されるまで収益認識を繰り延べている企業も存在する。たとえば仮に企業が、

再販業者に提供される価格保護により生じる将来の価格変動を信頼性をもって測定

できないのであれば、収益額を信頼性をもって測定することはできない。したがって、

再販業者が製品を 終消費者に販売するまで収益を認識することはできない。

企業は、権利を得ると見込む金額を算定する際、取引価格の変動につながる明示

的又は黙示的な譲歩(例:価格保護やより長い期間にわたる返品権、在庫回転に関

する権利)を再販業者に提供するか否かを検討しなければならない。このような譲歩

を伴う場合、企業は取引価格を見積もる必要がある。当該見積りに際しては、変動

対価に係る制限を考慮の上、収益の大幅な戻入れが生じない可能性が非常に高い

と判断する金額のみを含めなければならない。企業は、再販業者が顧客に提供する

譲歩から生じる変動対価を、取引価格に含めることができるかどうか、慎重に検討す

る必要がある。IFRS第15号では、同様の状況における類似した契約について、さま

ざまな価格譲歩や支払条件の変更を行ってきた慣行がある場合は、収益の戻入れ

の可能性(又は規模)が増大することが示されている。IFRS第15号により会計処理

が変更になるかどうかを判断するため、企業は契約の事実及び状況を慎重に評価

する必要がある。

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下記の例では、代理店ネットワークに販売された製品に関する消費財企業の会計

処理を説明している。

設例7.1 — 代理店への製品の販売

BCB Liquors(BCB)は、製品を 終消費者へ販売するため流通ネットワークを利

用する。代理店は製品を受領した時点で当該製品に対する法的所有権を獲得し、

製品代金をBCBに支払わなければならない。BCBとの契約では、代理店は90日以

内であれば売れ残りの製品をBCBに返品することができる。代理店が製品を 終

消費者に販売した時点で、BCBの製品に関する一切の義務がなくなり、代理店の

返品権も消滅する。

この例では、BCBは代理店との関係は委託販売契約には該当しないと判断してい

る。これは、代理店が何らの制限を受けることなく製品の法的所有権を有するととも

に、製品を受領した時点で代金を支払う義務を負っており、さらに、BCBは代理店に

製品を返品させることができないからである。これらの点からBCBは、製品が納入さ

れた時点で支配は代理店に移転すると判断する。さらに、BCBは代理店に返品権

を与えていることから、BCBは(想定される返品を考慮して)取引価格を見積り、90日の返品期間に想定される返品に対する負債を計上しなければならない。

あるいは製品が 終消費者に販売されるまで受領した製品に関する代金を支払う

義務が代理店には生じず、代理店は売れ残った製品を返品することができる場合、

製品に対する支配は 終消費者に販売されるまでは移転しないと結論付けること

になる。その場合、代理店との契約は委託販売契約になる。

予想される権利不行使部

分は顧客による権利行使

のパターンに応じて収益と

して認識する。

7.2 ギフトカードの権利不行使

小売企業は頻繁にギフトカードを販売するが、その一部又は全部が引き換えられない

場合があり、未使用金額(顧客の、将来の財又はサービスに関する権利不行使に起

因する金額)は権利不行使と呼ばれることが多い。両審議会は、企業が権利不行使部

分の金額に対する権利を得ると見込む場合、企業は顧客による権利行使のパターン

に応じて当該予想される権利不行使部分を収益として認識すると結論付けた。権利不

行使に係る金額は一種の変動対価を表すことから、企業は権利不行使部分の金額を

見積もる場合、変動対価に係る制限を考慮する。すなわち、大幅な収益の戻入れが発

生しない可能性が非常に高くなるまで、企業は権利不行使部分の見積り金額を認識し

てはならない。

権利不行使が発生するか否かを判断できない場合、顧客が権利を行使する可能性が

ほとんどなくなった時点で、当該金額を権利不行使として認識する。これは、たとえば

企業がギフトカードを販売し始めたばかりで、権利不行使のパターンに関する実績を

有していない場合などが考えられる。

さらに、仮に小売企業が権利不行使を、信頼性をもって見積もる能力を有していること

を立証できるとしても、ギフトカードの未使用残高が各国の関係当局又は法域の未請

求資産に係る法律の対象になる場合には、当該金額を見積り収益として認識すること

はできない。

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23 2015 年 5 月 新たな収益認識基準–小売業及び消費財産業  

下記の例は、単一の履行義務(すなわち、ギフトカードの顧客への販売)を伴う契約について説明している。

設例7.2 — ギフトカード

おもちゃ専門店であるGood Toys Ltd.(GTL)は、CU75のギフトカードを顧客に販売

している。GTLのギフトカードは手数料が発生することもなく、有効期限も定められて

いない。この例では、国や地域の未請求資産に係る法律は適用されないと仮定す

る。

GTLは、何年にもわたりギフトカードを販売しており、権利不行使に関しても信頼のお

ける過去の実績を有している。期待値法を用いて、ギフトカードの発行残高の4%は

顧客により使用されないと見積もる。GTLは変動対価に係る制限を評価し、4%の権

利不行使部分の見積り額に関して、大幅な収益の戻入れが発生しない可能性は非

常に高いと判断する。

顧客へのギフトカードの販売時点で、GTLはCU75の契約負債を計上する。1週間後

に顧客は店舗でギフトカードを利用してCU48の商品を購入する。GTLはその時点で

CU48の収益を認識し、その分だけ契約負債を減額する。さらにGTLは、ギフトカード

の使用時に以下のように計算されるCU2の権利不行使部分の見積り金額に関する

収益を、契約負債と相殺する形で認識した。

(4%×CU75)=CU3 (認識すべき権利不行使部分の見積り金額総額)

[CU48÷(CU75-CU3)]=67%(現在までの利用見込)

(CU3×67%)=CU2(利用時に認識すべき権利不行使)

GTLは、残りのギフトカードの残高が顧客により使用される時点で同じように権利不

行使部分の金額に関する収益を認識する。GTLが、ギフトカードの残りの残高につい

て顧客が利用する可能性が非常に低くなったと判断する時点で、収益を認識し残り

の金額に係る契約負債を取り崩す。

しかし、前払要素(たとえば、ギフトカードの販売やロイヤルティ・ポイント)が複数要素

契約の一部である場合、権利不行使に関する適用ガイダンスが独立販売価格の算定

に関する規定とどのように相互関連するのかは明確ではない。すなわち、権利不行使

に関する適用ガイダンスによれば、企業は前払金額について全額負債を計上し、認識

される収益に応じて当該負債に係る権利不行使部分を認識することになる。単一の要

素(たとえば、小売業者がギフトカードを顧客に販売すること)しか存在しない契約につ

いては、この点は容易である。 複数要素契約では、企業は前払要素を含む各履行義務の独立販売価格を算定しな

ければならない。 前払部分の客観的な独立販売価格が存在しない場合(たとえばロイヤルティ・ポイント

の価格)、IFRS第15号はそれを見積もることを要求している。IFRS第15号設例52(上

記セクション4.2)に示されるように、この見積りを行うにあたり、企業は、顧客がすでに

支払いを行っているサービスを 終的に要求しない可能性及び権利不行使の可能性

を考慮することになる。独立販売価格を見積もる際に使用されない可能性を考慮する

ことにより、前払部分に配分される収益の金額は小さくなる。

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弊法人のコメント 小売企業及び消費財企業は現在、権利不行使部分から生じる収益の認識を、ギ

フトカードの有効期限が切れるまで繰り延べているか、又は未使用残高が将来の

購入に使用される可能性が少ないと結論づけるのに十分な経験を有している場合

には、権利不行使部分の見積りを収益として計上している。

(不行使部分に対する権利を有している場合)企業はIFRS第15号に従って権利

不行使部分を見積り、(必要があれば変動対価に係る制限について金額を調整し

た後)当該金額を取引価格に反映しなければならない。権利不行使部分について

現在見積りを行っている企業は、新たな収益認識基準書の下でも現在と同様の結

論に至る可能性がある。権利不行使部分を現在見積もっていない企業は、新たな

収益認識基準書の適用に際し、現行実務の変更に直面することになるであろう。

7.3 オムニチャネル(多角的な販売チャネル)に関する検討事項 小売企業は、販売チャネルの多角化を図って、従来型のレンガやモルタルの物理的

な店舗とオンラインやモバイル端末による売上・在庫チャネルを組み合わせ、自社の

サプライチェーンを強化しており(たとえば、実際の店舗だけでなく小売企業のウェブ

サイトや端末からも直接購入できるようにする)、製品の支配がいつの時点で顧客に

移転するのか(すなわち当該販売に関していつの時点で収益を認識すべきか)を判

断しなければならない。また、小売企業は、顧客との契約に複数の履行義務が含ま

れているか否かを判断する必要がある。

下記の例は、複数の販売チャネルを伴う製品の販売を説明している。

設例7.3 — オムニチャネル(多角的な販売チャネル)に関する検討事項

ディスカウント小売店企業XYZ Retailer社(XYZ)は、新作映画のDVDについて一

般販売より前にCU40でDVDを購入できる顧客向けプロモーションを展開している。

このプロモーションでは、当該映画の公開後に顧客はDVDの現物を店舗で受け取

ることができ、また、1度に限りオンディマンド・ダウンロードにより、DVDを店舗で入

手する前に(ダウンロード後24時間以内)当該映画を観ることができる。

XYZは、顧客との契約には2つの履行義務(DVD及びダウンロード)が存在すると

判断し、(制限を適用した上で)取引価格をCU40と見積もると仮定する。XYZは

日々新作DVDを顧客に販売していることから、DVDの独立販売価格(すなわち客

観的な価格)はCU30であると判断する。さらに、XYZはオンライン・テレビ及び有料

映画放送事業で日々、新作映画のダウンロードを販売しており、1度限りのダウン

ロードの独立販売価格はCU10であると判断する。この例では、契約に割引は存在

しないため、XYZは、各履行義務に関しその契約金額に基づき収益を認識する。

顧客の購入時点では、いずれの履行義務も充足していないことから、XYZが収益

を認識することはない。映画のダウンロードに関するCU10を収益として認識できる

かどうかは、後述する区別できる知的財産のライセンスに関する適用ガイダンスに

従うことになる。さらに、XYZはDVDに係るCU30に関して、顧客が店舗でDVDの現

物を入手し、その支配を獲得した時点で収益を認識する。

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25 2015 年 5 月 新たな収益認識基準–小売業及び消費財産業  

弊法人のコメント 複数の販売チャネルを通じて財又はサービスを提供する小売企業及び消費財企

業は、複数の履行義務が存在するかどうかを判断するために約定された財又は

サービスを検討する必要がある。複数の履行義務が存在する場合、企業は履行

義務の数及び各履行義務が充足される時点(すなわち、収益を認識すべき時点)

を判断する必要がある。

企業は、区別できるIPライセンスが一時点で

顧客に移転するのか、

それとも一定期間にわ

たり移転するのかを判

断しなければならない。

8. 測定及び認識に関するその他の論点

8.1 メーカーのクーポンに関し売手から受領した対価 メーカーは、小売企業(すなわち再販業者)を通じて販売される製品について、 終

消費者に値引き及びインセンティブを提供することが多い。たとえば、製品の需要を

喚起するため、メーカーは 終消費者にリベートを提案する、又はクーポンを提供す

る。小売企業は、メーカーのインセンティブにより、 終消費者が支払う価格が本来

より少ないものになると考え、その分についてメーカーに補填を求める場合がある。

IFRS第15号の下では、 終消費者に提供されたインセンティブに関して、小売企業

がその全額についてメーカーから補填を受ける場合、小売企業は製品の販売価格

全額(総額)について売上を計上する。

小売企業がメーカーから全額補填されることがない場合(たとえば、他のインセンティ

ブ契約と共にメーカーと交渉されることから補填金額が変動する、又は不明である場

合)、製品販売の取引価格には変動対価が含まれる可能性がある。こうした状況で

は小売企業は、メーカーと取り決める補填の変動性を、 終消費者に販売される製

品の取引価格の見積りに織り込む必要がある。

8.2 ライセンス契約 多くの小売企業及び消費財企業が知的財産(IP)のライセンスを付与している。この

ような取決めは通常、ロイヤルティ・ベースの契約となる。この場合、企業は、小売店

舗の運営、又は指定製品の製造及び販売に関連して一定のIP(例 : 商標、商品名

や著作権)を使用できるライセンスを第三者に提供する。こうした契約には、契約で

保証される 低限のロイヤルティの水準が含まれる、又は、ロイヤルティの支払い

は実際の販売額の一定割合とすることが定められている。現行のIFRSでは、企業

は一般的に基本契約の条件に従って、ロイヤルティの支払時期が到来した時点でラ

イセンス契約から生じる収益を認識する。

8.2.1 売上高及び使用量に基づくロイヤルティ IFRS第15号は、IPのライセンスから生じる売上高及び使用量に基づくロイヤルティの認

識に関する明確な適用ガイダンスを提供している。特に同基準書は、IPのライセンスか

ら生じる売上高及び使用量に基づくロイヤルティを伴う取引について、変動対価の見積

りを求める一般規定に対する例外規定を定めている。その結果、実際に売上又は使用

が生じた時点、あるいは(売上高もしくは使用量に基づくロイヤルティの一部又は全部が

配分された)履行義務が充足された(あるいは部分的に充足された)時点のいずれか遅

い時点で、ロイヤルティに関する金額は認識されることになる。この例外規定により、現

行の実務と同様の会計処理が行われることになる。

しかし、知的財産のライセンスが複数含まれるような契約に、この例外規定がどのように

適用されるのかは明確ではない。

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たとえば、ロイヤルティがライセンスされたIPと同契約内の他の財又はサービスに関

連する場合、この例外規定がそうしたロイヤルティに適用されるのかどうかは明確で

はない(たとえば、一定期間にわたり提供され、ロイヤルティの発生額に影響を及ぼ

すことになる、区別できるフランチャイズ・ライセンスとコンサルティング又はトレーニ

ング・サービスなど2つの履行義務が存在する契約)。TRGは、例外規定が、独立し

た履行義務となるライセンスのみに適用されるのか等、様々な見解について議論し

た。また、ロイヤルティはライセンスが付与されていない財又はサービスにも関連す

るか、あるいは契約で約定される別の財又はサービスと結合されるライセンスが付

与されたIPに関連するかにかかわらず例外規定は適用されるのかについても議論し

た。11

2015年2月の合同会議で両審議会は、ライセンス以外の約定を含む取決めにおけ

るロイヤルティにこの例外規定が適用されるのはどのような場合であるかを明確にす

るため、それぞれの収益認識基準書を改訂するということで合意した。両審議会は、

取決めにおける主たる項目がIPのライセンスとなる場合には、売上高に基づくロイヤ

ルティに関する例外規定は、ロイヤルティの創出過程全体に適用されるということに

合意した。両審議会はまた、このような取決めにおける売上高に基づくロイヤルティ

は、一部が例外規定の適用範囲内となり、一部が適用範囲外となることはない、とい

うことを明確にするために収益認識基準書を改訂することに合意した。12

8.2.2 その他のライセンス契約

その他の形態の対価を含むライセンス契約(たとえば、固定金額又は売上高に基づく

ロイヤルティに係る取決めにおける 低限の保証が定められるライセンス契約)につ

いては、IFRS第15号において区別できるIPライセンスに関する具体的な適用ガイダ

ンスが定められていることから、企業はIPライセンスが区別できるかどうかをまず検

討しなければならない。区別できないライセンスに関しては、企業はIFRS第15号の

一般的な規定に従って、(ライセンスとその他に 低でも1つの財又はサービスを含

む)結合された履行義務を会計処理する。

区別できるIPライセンスに関しては、企業は顧客との約定の内容を検討し、ライセン

スが一時点で顧客に移転するのか、それとも一定期間にわたり移転するのかを判断

しなければならない。IFRS第15号では、企業は、以下のいずれかを顧客に提供する

と述べられている。

• 知的財産への変更を含め、ライセンス期間にわたり存在する企業の知的財産に

アクセスする権利。この場合、一定期間にわたり収益が認識される

• ライセンスが付与された時点で存在する企業の知的財産を使用する権利。この

場合、一時点で収益が認識される

次の要件のすべてが満たされる場合、ライセンスは「アクセス権」を提供する約定で

ある。

• 顧客が権利を有する知的財産に重要な影響を及ぼす活動を企業が行うことを、

契約が要求しているか又は顧客が合理的に期待している

• ライセンスによって付与された権利により、企業の活動により生じる正又は負の

影響に顧客が直接さらされる

• 当該活動により、それが実施されるに応じて顧客に財又はサービスが移転され

ることはない(すなわち、独立した履行義務に当たらない)

11 TRGにおける議論について解説している「IFRS Developments」及び 「Applying IFRS 」は、 www.ey.com/ ifrsで閲覧できる。

12 「IFRS Development s」第 102号「新たな収益認識基準の改訂案に関し、IASBとFASBが異なる決 定」

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27 2015 年 5 月 新たな収益認識基準–小売業及び消費財産業  

両審議会は、結論の根拠において、当事者間で経済的利益を共有する仕組みが存

在する場合(たとえば、売上高又は使用量に基づくロイヤルティ)も、企業がそうした

活動を行うことを顧客が合理的に期待していることを示唆している可能性があると述

べている。13

ライセンスが3要件のすべてを満たさない場合には、ライセンス契約はライセンスを

「使用する権利」を提供し、企業はライセンスに対する支配が顧客に移転する時点で

収益を認識する。

下記の例は、売上高に基づくロイヤルティについて定めたライセンス契約の会計処

理について説明している。  

設例8-1 — ライセンス契約(売上高に基づくロイヤルティ)

ソフト・ドリンク・メーカーであるSSR社(SSR)は、アパレル企業であるFabrics Worldwide社(FWI)とライセンス契約を締結する。ライセンス契約によりFWIは、

新たに売り出すFWIのTシャツ、帽子、ショーツその他のアパレル商品にSSRの商

標登録されたロゴやタグラインを3年間使用できる。対価としてFWIはライセンス

期間の開始時点でCU1百万を一時金として支払い、SSRのロゴのついたアパレ

ル商品の四半期売上高総額の11%をロイヤルティとして支払う。

SSRが契約でFWIに付与した権利と条件は、他のアパレル企業とのライセンス契

約でSSRが付与した権利と条件と同様である。FWIは四半期ごとに 新の売上デ

ータを提供する。

SSRは、ライセンスは区別できる履行義務であると判断している。この例では、

SSRは以下を考慮した上で、ライセンスにより(一定期間にわたり)IPにアクセス

できる権利がFWIに提供されると判断していると仮定する。

• SSRは、FWIが権利を有するIPに影響を及ぼす活動を行う

• ライセンスの下で付与された権利により、FWIは、IPに関する活動内容に変

更が生じれば、それがIPにプラスにもマイナスにも影響するというリスクに直

接さらされる

• FWIがそうした活動から便益を得るとしても、SSRの活動は、それが行われる

時点でFWIに区別できる財又はサービスを移転することはない

CU1百万の前払金は、3年間の契約期間にわたり、履行義務(すなわちライセン

ス)が充足される時点で認識される。売上高に基づくロイヤルティ(変動対価)は、

その基礎になる売上が発生するまでは取引価格に含められることはなく、発生し

た時点で売上高に基づくロイヤルティからの収益が認識される。  

 

8.3 フランチャイズ契約の前払報酬 小売企業及び消費財企業は、レストランを開店するときやフランチャイズに係る新

たな条件を認めるときの報酬と併せて、売上の一定割合の賃料及びロイヤルティを

受領することになるフランチャイズ契約を締結することがある。現行のIFRS14に従

えば、企業は一般的に賃料や売上高に基づくロイヤルティからの収益を、それらが

稼得された期間において(すなわち、売上が発生したとき)認識する。フランチャイズ

契約に返還不能な前払報酬が定められている場合、企業は、(1)要求される初期

サービスのすべてについて企業が履行した時点で返還不能な前払報酬からの収益

を計上する(前払報酬が、契約開始時点で充足される、契約における区別できる要

素に関係する場合)、あるいは(2)前払報酬を資産化し、契約期間にわたり、あるい

は契約の他の識別された要素が充足される時点で収益を認識する。  

13 IFRS第15号 BC413項 14 第18号IE18項

 

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IFRS第15号では、企業は、前払報酬が約定した財又はサービスの移転に関連し

ているか否かを判断しなければならない。関連する場合には、当該前払報酬は将

来の財又はサービスに対する前払である。返還不能な前払報酬が契約開始時に

充足される初期サービス(すなわち、履行義務)に関連するものであると結論づけ

る企業もあるかもしれないが、その場合には当該サービスに収益を配分し認識し

なければならない。受領した前払報酬は初期サービスに関連するものではなく、フ

ランチャイズ契約期間全体を通じて充足される履行義務に関連すると結論づける

企業も存在するであろう。

また、企業は顧客への財又はサービスの移転という形ではない、契約を履行する

ために実施しなければならない活動(たとえば、管理活動や設定作業)に対する報

酬として前払報酬を請求することもある。たとえば、小売企業や消費財企業は、マ

ーケティング・キャンペーンなど、フランチャイズ契約の初期段階において様々な管

理作業を行う必要があるが、そうした作業では通常、その実行に応じて顧客への

サービスが移転されることはない。企業は、履行義務の完了に向けた進捗度を測

定する際にそうした活動を考慮しない。

IFRS第15号は、前払報酬を評価し、契約における履行義務に配分しなければな

らないと定めている。すなわち、返還不能な前払報酬の処理は、契約により企業が

受領する他の対価の処理と何ら変わりはない。下記の例は、返還不能な前払報酬

について定めたフランチャイズ契約の会計処理を説明している。

設例8-2 — 返還不能な前払報酬について定めたフランチャイズ契約

Foodieは全世界でレストランの運営及びフランチャイズ事業を展開している。フラン

チャイズ契約の一環として、Foodieはフランチャイジーに対して、レストラン開業時点

で返還不能なフランチャイズ前払報酬のCU95,000及び売上の一定割合とするロイ

ヤルティの定期的な支払を要求している。フランチャイズ契約に従って、Foodieは調

理器具やレジの提供及び設置を含め、開業に必要となるサービスをCU30,000(す

なわち、開業準備サービスの独立販売価格)で提供する。さらにフランチャイズ契約

には、フランチャイジーに対するIP(すなわち、Foodieの商標及び商品名)のライセン

スについても定められている。Foodieは、ライセンスが(一定期間にわたる)IPへの

アクセス権を提供していると判断していると仮定する。Foodieはライセンスの独立販

売価格をCU70,000であると判断した。フランチャイズ契約の期間は15年である。

Foodieは契約を評価し、顧客との契約として会計処理するための要件は満たされて

いると判断している。Foodieは、開業準備サービスとIPライセンスはそれぞれに区別

できるものであり、したがってそれぞれを独立した履行義務として会計処理する必要

があると判断する。Foodieは、調理器具やレジの提供及び設置という履行義務が充

足された時点でCU28,500 [(CU30,000 / CU100,000) × CU95,000] を収益とし

て認識する。Foodieは、ライセンスが契約期間にわたりIPにアクセスする権利を与え

ていると判断しており、CU66,500 [(CU70,000 / CU100,000) × CU95,000]をラ

イセンスされたIPに係る収益として15年のライセンス期間(すなわちフランチャイジー

がFoodieのIPにアクセスする権利を有する期間)にわたり比例的に認識する。

企業は、前払報酬が約

定した財又はサービス

の移転に関連している

か否かを判断しなけれ

ばならない。

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29 2015 年 5 月 新たな収益認識基準–小売業及び消費財産業  

8.4 製品保証 小売企業及び消費財企業は、契約書において明示的に、又は商慣行により黙示的に

製品保証のついた製品をしばしば販売する。IFRS第15号では、以下の2種類の製品

保証が取り扱われている。

• 引き渡される製品が契約に定められる通りの製品であるという保証に加えて、顧客

にサービスを提供する保証(すなわち「サービス型の製品保証」)

• 引き渡される製品が契約で定められる通りの製品であるという保証(すなわち「品質

保証型の製品保証」)

8.4.1 サービス型の製品保証

顧客が製品保証を別個に購入するオプションを有している場合、又は製品保証が販

売時に存在していた欠陥を修理する以上のサービスを提供する場合、企業はサービ

ス型の製品保証を提供している。両審議会は、この種類の製品保証は、区別できるサ

ービスを表すものであり、独立した履行義務であると決定した。したがって企業は、見

積り独立販売価格に基づき、取引価格の一部を製品保証に配分する。企業は製品保

証サービスが提供される期間にわたり、製品保証に配分された金額について収益を

認識する。企業が、サービス型の製品保証に関して、適切な収益認識パターンを決定

するには判断が必要となる。

8.4.2 品質保証型の製品保証

両審議会は、品質保証型の製品保証は顧客に追加の財又はサービスを提供するも

のではない(すなわち、独立した履行義務ではない)と結論付けた。こうした製品保証

を提供することにより、売手企業は実質的に製品の品質を保証しているのである。

IFRS第15号に基づくと、この種類の製品保証は保証債務として会計処理され、当該

債務の充足に要する見積りコストがIAS第37号「引当金、偶発負債及び偶発資産」の

規定に従い引当計上される。売手の環境や義務の変化が確実に製品保証に係る負

債に反映されるように、当該負債は、計上後は継続的に評価される。当該負債は見積

りの変更が生じた時点で調整される(これに対応して売上原価も調整される)。

8.4.3 品質保証型とサービス型の製品保証の両方を含む契約

小売企業と消費財企業は、品質保証型とサービス型の両方の製品保証を含む契約を

締結することがある。企業が1つの契約で両方の種類の製品保証を提供する場合、品

質保証型の製品保証に関連して生じる見積りコストを引当計上し、サービス型の製品

保証に係る収益は繰り延べる。

品質保証型とサービス型の製品保証を合理的に区分して会計処理することができな

い場合、これらの製品保証は単一の履行義務として会計処理される(すなわち、収益

は一体としての製品保証に配分され、製品保証サービスが提供される期間にわたり認

識される)。

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下記の例は、サービス型と品質保証型の製品保証を含む契約の会計処理について

説明している。

設例8-3 — サービス型と品質保証型の製品保証 - 消費財企業

工具メーカーであるToolco社(TUL)は、単価CU50で100台のコードレス電動ドリル

をHWS Hardware Store社(HWS)に販売する。TULの各ドリルの原価はCU35であ

る。TULは、各ドリルについて販売時点で製品保証を付けており、顧客の購入時点か

ら2年以内にドリルに不具合が生じた場合にはドリルは交換される。TULは、顧客の

購入日から90日以内に発生するドリルの不具合は、合意された仕様の不履行にあ

たる(すなわち、販売時点ですでに不具合が生じていた)と考えている。TULは、90日

目以降に提供される製品保証は区別できるサービスに該当すると考えている。

この例では、TULは、品質保証型の製品保証(販売から90日間の不具合を対象とす

る製品保証)とサービス型の製品保証(それ以降の2年間に生じる不具合を対象とす

る製品保証)の両方を提供している。

ドリルの販売及びサービス型の製品保証に係る取引価格の総額はCU50である。

TULはそれぞれの独立販売価格をCU40とCU10であると見積もる。過去の経験から、

TULは、 初の90日以内に、販売された全電動ドリルのうち2%が合意された仕様を

満たしていないことが判明するだろうと見積り、その場合TULは電動ドリルを交換す

る必要がある(ドリル1台あたりのコストはCU35)。

TULは、HWSへの100台のドリルの売上及び関連する製品保証に係る負債を計上

するため、次のような仕訳を行う。

借方 : 現金/売上債権

CU5,000

借方 : 製品保証に係るコスト

貸方 : 収益

CU70

CU4,000

貸方 : 製品保証に係る負債(品質保証型の製品保証) CU70

貸方 : 契約負債(サービス型の製品保証) CU1,000

TULは、棚卸資産の認識を中止し、売上原価を計上するため、次のような仕訳を行

う。

借方 : 売上原価 CU3,500

貸方 : 棚卸資産 CU3,500

TULは、当初の90日間の品質保証期間に(欠陥ドリルを交換する)製品保証に係る

コストが実際に発生するに従い、品質保証型の製品保証に係る負債を取り崩す。サ

ービス型の製品保証に関しては、TULは当初の90日間の品質保証期間が終了した

後の製品保証期間21ヵ月にわたり契約負債の認識を中止し、収益を認識する(特に

異なるパターンが見込まれない限り、おそらく定額法で認識する)。サービス型の製

品保証の提供に関連して生じるコストは発生した時点で費用化する。

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31 2015 年 5 月 新たな収益認識基準–小売業及び消費財産業  

8.4.4 法定の製品保証及び製造物責任法

国や地域によっては、企業は消費者の利益保護のために製品の販売とともに製品保

証を提供することを現地の法律により求められている。そうした法律は、販売時から一

定期間内に不具合が生じた製品を修理又は交換することを小売企業やメーカーに求め

ている。これらの法律上の製品保証は、販売時点では存在しておらず、購入した後に

発生する不具合を対象とすることからサービス型の製品保証のように見える。両審議

会は、その結論の根拠で、当該法律は品質保証型の製品保証を運用させるためのも

のと見るべきであり、欠陥製品を購入するリスクから顧客を保護するものであることを

明確にした。15

また、両審議会は、製品の1つにより危害又は損害が生じた場合に企業が補償を支払

うことを要求する製造物責任法では履行義務が生じることはないと述べている。顧客と

の取引における企業の履行義務は、製品を顧客に移転することである。製品が生じさせ

た損害や危害から生じる義務は、IAS第37号における偶発債務の規定に従って会計処

理されることになる。16

弊法人のコメント 小売業及び消費財産業は、製品保証が品質保証型又はサービス型のいずれで

あるかを決定するにあたり、相当な判断を求められるであろう。この評価は、業界

における一般的な製品保証実務など、様々な要因の影響を受けると考えられる。

たとえば、あるテレビ製造メーカーが、高性能3D HDテレビに関しては3年の製品

保証、低性能プラズマ・テレビに関しては1年の製品保証を提供しているとする。

高性能テレビの製品保証期間が長いのは、高性能テレビに使われている原材料

の品質が高く、潜在的な欠陥の発生までにより長い期間がかかるためであり、当

該製造メーカーは追加のサービスではないと結論づけるかもしれない。反対に、

競合他社が提供している製品保証と比較し、3年の保証期間又はその一部が、

サービス型の製品保証として会計処理すべき追加のサービスであると判断する

こともあるだろう。

小売企業及び消費財企業は、サービス型製品保証が別個に販売されていない

場合、その独立販売価格を見積もることは困難であると考える場合もあろう。

15 IFRS第15号 BC377項 16 IFRS第15号 BC378項

 

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9. 開示

現行のIFRSとUS GAAPによる収益認識に関する開示は不十分であるとの批判に対

処するため、両審議会は、包括的かつ一貫した開示規定を策定することとした。その

結果、また 近公表された他の基準書との整合性を確保するため、IFRS第15号には

開示に関して次のような全般的な目的が含まれている。

IFRS第15号からの抜粋

110. 開示規定の目的は、顧客との契約から生じる収益及びキャッシュ・フローの

性質、金額、時期及び不確実性について財務諸表の利用者が理解できるように、

企業が十分な情報を開示することである。この目的を達成するために、企業は、次

のすべてに関する定量的及び定性的情報を開示しなければならない。

a. 顧客との契約(第113項から第122項を参照)

b. それらの契約に本基準書を適用する際に行った重要な判断及び当該判断の変

更(第123項から第126項を参照)

c. 第91項又は第95項に従って、顧客との契約を獲得又は履行するためのコスト

に関して認識された資産(第127項及び第128項を参照)

IFRS第15号の開発過程で、多くの作成者が、潜在的な便益を上回るコストをかけて

膨大な量の開示を行わなければならなくなるのではないかとの懸念を表明していた。

両審議会は、IFRS第15号において、開示目的を明確に定めるとともに、同基準書に

規定される開示は 低限要求される開示項目を示すチェックリストではないと述べて

いる。すなわち、企業にとって関連性のない又は重要性のない開示を行う必要は

ない。 年次及び期中の開示規定については、新たな基準書の適用時点で要求される開示に

関する検討事項とともに、弊法人の刊行物「Applying IFRS IFRS第15号「顧客との

契約から生じる収益」」のセクション9で詳しく解説しているので、そちらを参照され

たい。

10. 次のステップ

小売企業及び消費財企業は、IFRS第15号の規定を理解し、各企業の収益認識に関

する会計方針や実務にどのような影響が生じ得るのかを評価することが奨励される。 企業は、速やかに本基準が及ぼし得る影響を暫定的に評価し、新たな基準書の適用

に関しどのように準備を進めたら 善となるかを判断する必要があろう。 各企業への影響は異なるものの、企業によっては収益認識が大幅に変わることも考え

られる。すべての企業は、会計処理の結果に重要な変更がない場合であっても、IFRS第15号の規定を検討し、その適用に向けて必要な情報を収集するプロセス、システム

及び統制が整備されているかを確認しておくことが強く望まれる。

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また、企業は、一般的な取引への新基準書の適用について議論している、両審議会

及びTRGの動向にも注視されたい。 米国公認会計士協会(AICPA)は、収益認識に関する新たな会計ガイダンスの策定を

支援し、各業界におけるIFRS第15号に相当する米国基準の適用に資するよう、16業

種を対象にタスクフォースを設置した。企業は、議論の動向を注視することが望ましい。

なお、AICPAが作成したガイダンスに強制力はない。小売企業や消費財企業に関する

業種別タスクフォースは存在しないが、他の業種のタスクフォースでの議論が小売企

業及び消費財企業に関連する場合がある。17

また、企業は、投資家やその他の関係者へのコミュニケーションプランについても検討

する必要がある。これには、IAS第8号「会計方針、会計上の見積りの変更及び誤謬」

で求められる、IFRS第15号による影響に関する開示についての立案も含まれる。より

多くの情報が入手可能となるため、報告期間を重ねるごとに、より詳細な開示が求め

られる。 2014年11月18日、EYは小売業及び消費財産業向けに、新たな収益認識に係る業

種特有の論点を解説するウェブキャストを配信した。以下のウェブサイトで視聴できる。

http : //www.ey.com/GL/en/Issues/Thought-center-webcasts

17 詳細は

http://www.aicpa.org/interestareas/frc/accountingfinancialreporting/revenuerecognition/pages/revenuerecognition.aspx を参照されたい。

 

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