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Ver. 1.0 2014 年 2 月 独立行政法人 農業環境技術研究所 化学物質環境動態・影響評価 リサーチプロジェクト 河川付着藻類を用いた 農薬の毒性試験マニュアル

河川付着藻類を用いた 農薬の毒性試験マニュアル0. はじめに 河川付着藻類を用いた農薬の毒性試験マニュアル 1 はじめに 農薬は安定した食物生産に有効な資材であるが、農耕地系外に流出した場合には非標的生

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  • Ver. 1.0

    2014 年 2 月

    独立行政法人

    農業環境技術研究所 化学物質環境動態・影響評価 リサーチプロジェクト

    河川付着藻類を用いた 農薬の毒性試験マニュアル

  • 0. はじめに

    河川付着藻類を用いた農薬の毒性試験マニュアル 1

    はじめに 農薬は安定した食物生産に有効な資材であるが、農耕地系外に流出した場合には非標的生

    物へ悪影響を与える懸念がある。特に日本の農業は水田を中心としており、そこで使用さ

    れた農薬は灌漑水を通じて河川に流出しやすいという特徴を持っている。また除草剤は水

    生生物の中でも特に藻類などの一次生産者に対して毒性が強いため、流出した除草剤の河

    川生態系に対するリスクを評価する必要がある。

    このマニュアルは、河川における一次生産者として重要な生態系機能を果たす付着藻類

    に対する、農薬のリスクを評価するための毒性試験方法を記したものである。より多数の

    藻類種の毒性データをより少ない労力で得られるように試験をデザインした。また、単な

    る毒性試験のマニュアルには留まらず、種の感受性分布の活用に至る流れを包括的に記載

    することに留意した。付着藻類の試験を行う予定の無い方であっても、農薬の生態影響評

    価に関わる方にはぜひ目を通していただきたい。本マニュアルがより高度な農薬の生態リ

    スク評価の発展の一助となれば幸いである。

    本マニュアルの元となる文献は以下の通りである。

    Nagai T, Taya K, Annoh H, Ishihara S (2013) Application of a fluorometric microplate

    algal toxicity assays for riverine periphytic algal species. Ecotoxicology and

    Environmental Safety, 94, 37-44

    【表紙画像解説】

    (左)試験管内で培養中の藻類:左から緑藻、珪藻、シアノバクテリア

    (中央)珪藻 Achnanthidium minutissimum の走査型電子顕微鏡画像

    (右)75 種の珪藻を並べたプレパラート画像(画像提供:ミクロワールドサービス)

  • 0. 目次

    2 河川付着藻類を用いた農薬の毒性試験マニュアル

    目次 はじめに .................................................................................................................................................... 1

    目次 ............................................................................................................................................................ 2

    1. 背景 .................................................................................................................................................... 4

    1.1. 水稲用除草剤と河川付着藻類 .............................................................................................. 4

    1.2. 農薬の生態リスク評価と種の感受性分布 ......................................................................... 5

    1.3. 藻類を用いた毒性試験の現状 .............................................................................................. 7

    2. 河川付着藻類について ................................................................................................................... 9

    2.1. 藻類の多様性 ........................................................................................................................... 9

    2.2. 試験生物種の選定 ................................................................................................................. 10

    3. 藻類の入手と維持管理方法 ........................................................................................................ 13

    3.1. 藻類の入手 ............................................................................................................................. 13

    3.2. 培地の作成 ............................................................................................................................. 14

    3.3. 藻類株の維持・管理 ............................................................................................................. 16

    4. 毒性試験方法 ................................................................................................................................. 19

    4.1. 試験設計 ................................................................................................................................. 19

    4.2. 試験に必要な器具 ................................................................................................................. 21

    4.3. 前培養 ...................................................................................................................................... 24

    4.4. 試験液の作成 ......................................................................................................................... 24

    4.5. 培養試験 ................................................................................................................................. 27

    4.6. 農薬濃度の分析方法 ............................................................................................................. 29

    5. データ整理と統計解析 ................................................................................................................. 32

    5.1. データ整理 ............................................................................................................................. 32

    5.2. 濃度反応関係の解析 ............................................................................................................. 33

    5.3. SSD の解析 ............................................................................................................................ 38

    5.4. レポーティング ..................................................................................................................... 39

    6. 参考文献 .......................................................................................................................................... 41

    7. 付録 .................................................................................................................................................. 44

  • 0. 目次

    河川付着藻類を用いた農薬の毒性試験マニュアル 3

    7.1. 用語の定義 ............................................................................................................................. 44

    7.2. 藻類の維持管理例 ................................................................................................................. 45

    7.3. 各種データ ............................................................................................................................. 47

    7.4. 標準有機化学物質(DCP)を用いた毒性試験結果 ...................................................... 50

  • 1. 背景

    4 河川付着藻類を用いた農薬の毒性試験マニュアル

    1. 背景

    1.1. 水稲用除草剤と河川付着藻類

    水田は日本の農耕地の半分以上を占め、水稲の栽培では様々な農薬が使用されている。

    PRTR 制度において、水田で使用された農薬の量が推定されて公表されている。これによる

    と、PRTR の指定物質だけに限っても、平成 22 年度に日本国内の水田で使用された農薬は

    2000 トン以上であった(環境省 PRTR インフォメーション広場)。農薬の種類や使用方

    法によって大きく異なるが、使用された農薬のうち最大で 50%の農薬が農地系外に流出す

    る(Watanabe et al. 2008)。河川は水田から灌漑用水を通じて直接農薬が流入する場で

    ある。その結果として、水稲作付期間において様々な農薬、特に除草剤が河川水中から比

    較的高濃度、高頻度で検出される(図 1;Iwafune et al. 2010)。除草剤は植物に対して

    毒性が強いため、河川に生息する生物の中では藻類が、一般的に除草剤に対して最も感受

    性の高いグループである(van den Brink et al. 2006)。そして、河川付着藻類の種組成

    などが除草剤によって影響を受けている事例がこれまで示されている(Sabater et al.

    2007)。よって、適切な管理対策をとるために、除草剤が河川付着藻類に与える生態リス

    クを評価することが重要な課題となっている。

    図 1. 2007 年度の茨城県桜川における水稲用除草剤の河川水中濃度の推移

    0

    2

    4

    6

    4月 5月 6月 7月 8月 9月

    濃度(µg/L)

    ダイムロン ベンタゾン

    ブロモブチド

    イマゾスルフロン

    ベンフレセート

    シメトリン

    農薬取締法に基づく「水産動植物の被害防止に係る農薬登録保留基準」の制度により、

    農薬の水生生物に対するリスク評価に基づいた基準値の設定が順次進められている。一

    方で、種の感受性分布を用いたより高度な除草剤の生態リスク評価法の活用に向け、よ

    り多くの藻類種の毒性データが必要となっている。

  • 1. 背景

    河川付着藻類を用いた農薬の毒性試験マニュアル 5

    1.2. 農薬の生態リスク評価と種の感受性分布

    農薬取締法に基づく「水産動植物の被害防止に係る農薬登録保留基準(以下、登録保留基

    準)」の適用の下、平成 15 年に登録保留基準の制度改正が行われ、平成 17 年より新たな

    農薬の水生生物に対するリスク評価に基づいた基準値の設定が順次進められている。現行

    の登録保留基準において、毒性の基準値(急性影響濃度又は Acute Effect Concentration,

    以下 AEC)は、魚類(メダカ又はコイ)、ミジンコ(オオミジンコ)、藻類(緑藻

    Pseudokirchneriella subcapitata)のいわゆる「3 点セット」の急性毒性試験結果による

    LC50(半数致死濃度)値もしくは EC50(半数影響濃度)値を、それぞれの種間の感受性

    差に関する不確実係数(魚類と甲殻類は 10、藻類は 1)で除したものの最小値と設定され

    る。また、河川水の環境中予測濃度(Predicted Environmental Concentration, 以下 PEC)

    は、その算定のためのモデル流域における標準シナリオに基づいて、農薬使用時のピーク

    濃度として計算される。最終的に、PEC

  • 1. 背景

    6 河川付着藻類を用いた農薬の毒性試験マニュアル

    図 2. 種の感受性分布の概念図。6 生物種の毒性値のバラツキを対数正規分布(図

    中の曲線)に適合させている。

    SSD 解析の活用により、簡便に定量的なリスクの比較が可能となる。これにより、「農

    薬の使用量を減らす」、「より低毒性の農薬に切り替える」、「農薬の流出防止対策をと

    る」などの管理対策を行った場合のリスク低減効果を事前に定量的に評価して、効率的な

    管理対策を選択できるようになる。例えば現在の環境保全型農業においては、農薬使用量

    (農薬成分使用回数)の低減が優先的に行われているが、使用する農薬の種類毎にそれぞ

    れリスクの大きさは異なり、また同じ農薬であっても使用方法や流出防止対策などにより

    リスクは変化する。よって、農薬の使用回数を減らす努力がそのままリスクの低減に貢献

    するとは限らない。「減らすべきは農薬ではなく農薬使用に伴うリスクである」という原

    則に立ち、農薬を削減する前後のリスクの大きさを定量的に比較することでリスクの低減

    効果が明確になり、環境保全効果をよりアピールしやすくなる。また、やみくもに農薬を

    減らして生産効率を下げるよりも、低リスクの農薬に切り替えて流出防止対策を徹底する

    ことでリスクを下げることができ、農業生産の安定化と環境保全対策とが両立する方向を

    探ることができる。

    SSD を農薬に適用する場合には、除草剤では藻類やウキクサ等水生植物に対する毒性が

    特徴的に高いため、一次生産者とそれ以外で分布が分かれ、殺虫剤は節足動物に対する毒

    性が特徴的に高いため、節足動物とそれ以外で分布が分かれることが知られている (図 3;

    Maltby et al. 2005; van den Brink et al. 2006)。SSD 解析に必要なデータ数 (種数) は各

    国のガイドライン等によって若干異なるが、OECD (1995) においては「5 種以上必要」と

    されている。農薬の場合は前述のように、感受性の高い分類群のデータで解析する必要が

    ある。すなわち、除草剤の場合は藻類で 5 種以上、殺虫剤の場合は節足動物で 5 種以上の

    毒性データが必要となる。

  • 1. 背景

    河川付着藻類を用いた農薬の毒性試験マニュアル 7

    図 3. 除草剤シメトリンと殺虫剤イミダクロプリドの種の感受性分布の解析例

    1.3. 藻類を用いた毒性試験の現状

    これまでの生態影響評価においては、藻類に対する影響はほとんどの場合、単一の標準試

    験生物種(緑藻の Pseudokirchneriella subcapitata、旧名 Selenastrum capricornutum)

    を用いて行われてきた。この藻類は、ノルウェー原産の浮遊性のプランクトン種であり、

    培養が容易で増殖が速く、化学物質に対する感受性も高いため、世界中で標準試験種とし

    て毒性試験に使用されてきた。データが蓄積されるに伴い、比較に便利という理由でます

    ます使用されるようになった。このため、河川付着藻類についての毒性データはあまり蓄

    積が無い。ところがこの種はそもそも日本には生息せず、浮遊性の種であるため河川にも

    生息しない。また、原産地の湖沼においても優占種になることは稀のようである。よって、

    試験の容易さのみならず、生態学的な重要性も考慮して試験生物種を選定する必要がある。

    さらに、藻類種間での除草剤の感受性差は非常に大きく、特に酸アミド系やスルホニルウ

    レア系の除草剤で EC50 値が 1000 倍以上離れている例が報告されている(石原 2008)。

    このため、単一の種に藻類群集を代表させることは、生態学的にも毒性学的にも困難であ

    ることは明白である。複数の種を組み合わることで群集としての代表性がより高まること

    が考えられる。そして複数種の毒性データは、SSD 解析を通してリスク評価に活用される。

    以上のように、生態学的に重要な種を複数選び、それらの種の毒性データを効率的に取

    得することが求められている。しかしながら、藻類の毒性試験法自体にも問題が残されて

    いる。藻類の毒性試験は、通常 OECD テストガイドライン 201 藻類生長阻害試験(OECD

    2006)に従って行われる。この方法はガラス製の三角フラスコを用いて藻類の培養を行い、

    適時サンプルを採取して藻類の測定を行い、増殖速度を求める試験となっている(図 4)。

    この方法はガラス壁面への付着が起こる付着藻類への適用が困難である。さらに、試験に

    かかる労力が大きいため、多種類の藻類の試験を効率的に行うことにも適していない。

    0

    0.2

    0.4

    0.6

    0.8

    1

    1E-01 1E+00 1E+01 1E+02 1E+03 1E+04 1E+05 1E+06

    藻類

    藻類以外

    除草剤 シメトリン影響を受ける種の割合

    濃 度 (μg/L)

    0

    0.2

    0.4

    0.6

    0.8

    1

    1E-01 1E+00 1E+01 1E+02 1E+03 1E+04 1E+05 1E+06 1E+07

    節足動物

    それ以外

    殺虫剤 イミダクロプリド

    濃 度 (μg/L)

    藻類が重要! 節足動物

    が重要!

  • 1. 背景

    8 河川付着藻類を用いた農薬の毒性試験マニュアル

    図 4. 緑藻 Pseudokirchneriella subcapitata(左)と、三角フラスコを用いた培養試験(右)

    このようなフラスコを用いた試験法の代わりに、マイクロプレートの底に藻類を付着さ

    せて培養を行い、測定も付着させたままで行う方法が適していることが示された(図 5;

    石原 2006)。マイクロプレートを用いた毒性試験は、ハイスループットの試験法としてこ

    れまで幅広く活用されており(Blaise and Vasseur 2005)、カナダにおける藻類の公式試

    験法にも採用されている (Environment Canada, 2007)。マイクロプレートを用いた試

    験法は以下のように多数のメリットがある:(1)試験水の容量が少ない;(2)小型の経済的な

    インキュベーターが使用できる;(3)器具は殆どがディスポーザブルなものを使用するため

    作業効率が高い;(4)測定が自動化できるため多数の試験を同時に実施可能である。藻類の

    測定には、バイオマスを濁度として測定する吸光プレートリーダーや、クロロフィル a 等

    の光合成色素の自家蛍光を測定する蛍光プレートリーダーが使用できる。蛍光の測定の方

    が 感 度 や 安 定 性 が 非 常 に 高 い た め 、 蛍 光 プ レ ー ト リ ー ダ ー の 使 用 が 適 し て い る

    (Eisentraeger et al. 2003)。

    図 5. 珪藻 Navicula pelliculosa(左)と、マイクロプレートを用いた培養試験(右)

    本マニュアルは、日本の河川生態系で優占する付着藻類を 5 種類選定し、その 5 種類の

    藻類について同時に毒性試験を行うための蛍光マイクロプレートアッセイの方法について

    記載するものである。

  • 2. 河川付着藻類について

    河川付着藻類を用いた農薬の毒性試験マニュアル 9

    2. 河川付着藻類について

    2.1. 藻類の多様性

    真核生物の系統分類は、近年の分子生物学的手法の発達によってめまぐるしく変化してい

    るが、最近では 7 つの主要な大系統群に分けるという考え方が示されている(Adl et al.

    2012, 図 6)。藻類の系統的な位置づけは大変複雑となっており、アーケプラスチダの中

    に緑藻や紅藻、ストラメノパイルの中に珪藻や褐藻、アルベオラータの中に渦鞭毛藻、リ

    ザリアの中にクロララクニオン藻、エクスカバータの中にユーグレナ藻が含まれている。

    さらには、原核生物の中に藍藻(シアノバクテリア)が含まれ、ハプト藻やクリプト藻は

    未だに系統的位置づけがはっきりとわかっていない。また、葉緑体の獲得による「藻類化」

    は進化の歴史上何度も起こっている(図 6)。従って、「藻類」は単一の分類群の生物を

    意味するものでは無い。むしろ藻類は幅広い分類群に位置していることから、生物多様性

    の要となる生物であることがうかがえる。

    河川付着藻類は、河川生態系における一次生産者として、また各種水生無脊椎動物や魚

    類等の餌として重要な機能を有している。特に、珪藻は種数やバイオマスの観点から河川

    で最も優占する藻類のグループである。珪藻は藻類の中で最大の多様化と繁栄を果たした

    仲間と言われており、10 万を超える種が地球上の至る所に存在している(井上 2007)。

    珪藻は河川の水質指標としても使用され(渡辺 2005)、例えば Achnanthidium

    minutissimum は清浄な河川を好んで優占し、Nitzschia palea は好汚濁性の種として知ら

    れている。また、Navicula sp.のように幅広い水質に適応した種も存在する。河川付着藻類

    として、珪藻以外にも緑藻や原核藻類のシアノバクテリアも普通に存在する。例えば、緑

    藻の Desmodesmus (旧属名 Scenedesmus) sp.やシアノバクテリアの Pseudanabaena

    (旧属名 Phormidium) sp.などは普遍的に存在している。

    珪藻を主とする河川付着藻類は、河川生態系における一次生産者として、また各種水生

    無脊椎動物や魚類等の餌として重要な機能を有している。河川付着藻類を代表させるた

    めに生態学的重要性や試験への適合性等を考慮し、緑藻 1 種、シアノバクテリア 1 種、

    珪藻 3 種の合計 5 種を選定した。

  • 2. 河川付着藻類について

    10 河川付着藻類を用いた農薬の毒性試験マニュアル

    図 6. 真核生物の大系統樹(早川 2012;原図提供:早川昌志(神戸大学大学院 理学研究科))。

    図中の矢印は葉緑体獲得の経路を示す。

    2.2. 試験生物種の選定

    河川付着藻類の試験生物種について、試験の容易さのみならず生態学的重要性を考慮して、

    5 種類を選定した。生態学的重要性については、(1)日本の河川生態系に幅広く分布しよく

    観察されるもの;(2)幅広い分類群(珪藻、緑藻、シアノバクテリアなど)をカバーし、現

    実的な種構成(珪藻が優占)を反映すること;(3)好清水性種や好汚濁性種など、様々な環

    境条件をそれぞれ好む種を含むこと、を考慮した。日本における珪藻の調査結果(渡辺 2005)

    や、我々の行った付着藻類調査の結果(表 1)などから、緑藻 1 種(Desmodesmus sp.)、

    珪藻3種(Achnanthidium sp.、Nitzschia sp.、Navicula sp.)、シアノバクテリア 1 種

    (Pseudanabaena sp.)を、河川付着藻類の代表として選定した。長野県広井川の調査結

    果では、この 5 属で全藻類個体密度の 6割以上をカバーできることが示されている(表 1)。

  • 2. 河川付着藻類について

    河川付着藻類を用いた農薬の毒性試験マニュアル 11

    表 1. 2012 年 7 月に調査した長野県広井川における付着藻類調査結果

    試験に使用する藻類株については、分類学的な代表性、入手の容易さ、人工培地での培

    養の容易さ、増殖の早さと安定性、カウントの容易さ、化学物質に対する感受性、などを

    考慮する必要がある(Freemark et al. 1990)。

    緑藻 Desmodesmus については、すでに OECD テストガイドライン 201(OECD 2006)

    の推奨種として D. subspicatus が挙げられている。よって、データの比較の容易さを考慮

    してもこの種の利用が好ましい。(独)国立環境研究所の微生物系統保存施設(以下、

    NIES-MCC)では、数株の D. subspicatus が保存されているが、この中で除草剤(シメト

    リン)感受性株である NIES-797 株がマイクロプレートによる試験法にも適しており、適

    切な株であると判断した。

    珪藻 Achnanthidium のなかでも A. minutissimum は好清水性の種として知られている

    (渡辺 2005;Biggs and Kilroy 2000)。NIES-MCC では、数株の A. minutissimum が

    保存されているが、この中で重金属汚染河川から単離された NIES-71 株と、非汚染地域か

    ら単離された NIES-414 株について検討を行った。両者ともにマイクロプレート試験法に

    適していた。金属類の EC50 値については、NIES-71 株の方が NIES-414 株よりも 10 倍

    以上高かったが(Takamura et al. 1989)、感受性検定のための標準有機化学物質である

    3,5-ジクロロフェノール(以下 DCP)では、逆に NIES-71 株の方が低い EC50 値が得られ

    た(付録 7.4.参照)。よって、除草剤のような有機化学物質の試験においては NIES-71 株

    の方が適していると考えられた。

    珪藻 Navicula pelliculosa と Mayamaea atomus の2種については、以前は同じ

    Navicula 属に属し(Lange-Bertalot 1997)、ともに河川で幅広く分布している(渡辺

    2006;石原 2006)。両種ともにマイクロプレート試験法に適しているが、OECD テスト

    ガイドライン 201(OECD 2006)の推奨種として N. pelliculosa が挙げられていることか

    ら、データの比較の目的においてはこの種の利用が望ましい。OECD(2006)では N.

    分類群 属名 密度 (cells/cm2) 分類群 属名 密度 (cells/cm2)

    珪藻 Achnanthidium 459 緑藻 Ankistrodesmus 279Amphora 172 Coleochaete 470Coccoreis 339 Desmodesmus 836Cymbella 620 Stigeoclonium 295Cosmarium 77 シアノバクテリア Lyngbya 221Diatoma 317 Homoeothrix 38Frustulia 164 Pseudanabaena 1572Gomphonema 1312 全合計 17223

    Navicula 4748 標準5種合計 10551

    Nitzschia 2936 % 標準5種 61%Melosira 470Meridion 90Surirella 372Synedra 604Pinnularia 312Rhoicosphenia 519

  • 2. 河川付着藻類について

    12 河川付着藻類を用いた農薬の毒性試験マニュアル

    pelliculosa の UTEX-664 株が推奨されているが、この株は保存機関のテキサス大学にお

    いて保存に失敗して死滅してしまっている。その代替として数種類の株を検討したところ、

    土壌抽出物などの組成不明の成分を添加せずとも良好に増殖できる UTEX-B673 株が試験

    に適していた。

    Nitzschia palea は代表的な好汚濁性種である(渡辺 2005;Biggs and Kilroy 2000)。

    NIES-487 株(重金属汚染河川由来)、NIES-2728 株(旧 NIAES PD3 株;水田由来)、

    NIES-2729 株(旧 NIAES U3-3 株;非汚染河川由来)の 3 株について検討を行ったところ、

    単離された場所が異なるにも関わらず DCP に対する感受性は 3 株ともほぼ同様であった

    (付録 7.4.参照)。ただし、NIES-2728 株と NIES-2729 株は、液体培地での培養が安定

    せず、維持から前培養までを寒天培地で行う必要があり、複数種の同時試験には操作が複

    雑となるため適していないと判断した。NIES-487 株はマイクロプレート試験法にも適して

    おり、この株の使用が望ましいと判断された。

    Pseudanabaena と Anabaena は富栄養化した湖沼によく出現するが、河川付着藻類と

    してもよく見られるシアノバクテリアである(Biggs and Kilroy 2000)。A. flos-aquae は

    OECD(2006)でも推奨種となっており、データ比較の面からはこの種の利用が好ましい

    が、マイクロプレート中では増殖が非常に遅く不安定で(96 時間で最大 4-5 倍)、本試験

    法に適していないと判断された。一方、Pseudanabaena については、P. galeata の

    NIES-512 株を使用して良好な増殖が得られた。さらに、DCP に対する感受性を比較した

    ところ、NIES-512 の方が感受性は高く(付録 7.4.参照)、本試験法に適していると考えら

    れた。

    まとめると、選定した 5 つの試験生物種:緑藻 D. subspicatus NIES-797 株(図 7a, 写

    真は同種の NIES-798 株)、シアノバクテリア P. galeata NIES-512 株(図 7b)、珪藻

    A. minutissimum NIES-71 株(図 7c)、珪藻 N. pelliculosa UTEX-B673 株(図 7d)、

    珪藻 N. palea NIES-487 株(図 7e)は、生態学的重要性の面と試験への適合性の両方の

    観点から、適切な選択であると考えられた。

    図 7. 各種藻類試験生物種の顕微鏡写真(写真 a と b の出典:国立環境研究所)

  • 3. 藻類の入手と維持管理方法

    河川付着藻類を用いた農薬の毒性試験マニュアル 13

    3. 藻類の入手と維持管理方法

    3.1. 藻類の入手

    試験のための各種藻類は以下の系統保存施設より容易に入手可能である。

    Desmodesmus subspicatus NIES-797 株

    Pseudanabaena galeata NIES-512 株

    Achnanthidium minutissimum NIES-71 株

    Nitzschia palea NIES-487 株

    については、

    独立行政法人国立環境研究所微生物系統保存施設

    http://mcc.nies.go.jp/

    Navicula pelliculosa UTEX-B673 株については、

    テキサス大学 UTEX The Culture Collection of Algae

    http://web.biosci.utexas.edu/utex/

    株の到着時にすぐに培養を始められるように、注文時に培地の準備をしておく必要があ

    る。また、到着したものをすぐに試験に使用することは避けた方が良い。増殖を安定させ

    るために、数世代の継代培養を行ってから試験に使用するべきである。

    毒性試験に用いる各種藻類株は系統保存施設より容易に入手可能である。藻類共通の培

    地として CSi 培地を使用する。寒天培地と液体培地の両方での継代培養に加えて系統管

    理を行うことで、常に状態の良い株を試験に供試できるように維持する。

  • 3. 藻類の入手と維持管理方法

    14 河川付着藻類を用いた農薬の毒性試験マニュアル

    3.2. 培地の作成

    藻類の培地としてすべて CSi 培地を使用する。珪藻の培養用にケイ素が入った培地であ

    るが、緑藻やシアノバクテリアの培養にも使用できる。

    培地の組成

    Ca(NO3)2•4H2O:150 mg/L

    KNO3:100 mg/L

    MgSO4•7H2O:40 mg/L

    β-Na2•glycerophosphate•5H2O:50 mg/L

    Na2SiO3・9H2O:100 mg/L

    HEPES:500 mg/L(pH:7.0)

    PIV メタル:3 mL/L

    PIV メタルの組成

    Na2EDTA•2H2O:1000 mg/L

    FeCl3•6H2O:196 mg/L

    MnCl2•4H2O:36 mg/L

    ZnCl2:10.4 mg/L

    CoCl2•6H2O:4.0 mg/L

    Na2MoO4•2H2O:2.5 mg/L

    ストック溶液の調製

    硝酸塩ストック溶液:15 g の Ca(NO3)2•4H2O と、10 g の KNO3 をメスフラスコに入れ、

    超純水で 100 mL にメスアップする。最終濃度の 1000 倍溶液となる。

    マグネシウムストック溶液:4 g の MgSO4•7H2O をメスフラスコに入れ、超純水で 100 mL

    にメスアップする。最終濃度の 1000 倍溶液となる。

    注意:通常の CSi 培地の組成として、ビタミン類(V.B12、ビオチン、塩酸チアミン)

    が添加されるが、本試験ではこれらの添加は不要である。

    解説:OECD 等のガイドラインでは、CSi 培地よりも低栄養の OECD 培地が推奨され

    ているが、これまでの除草剤の試験の報告では、OECD 培地と C 系統(CSi 培地

    を含む)の培地間の EC50 値の差はごくわずかである。ただし、金属の試験を行

    う場合には、pH や有機物との錯形成の影響で、培地により結果は大きく変化す

    るので注意が必要である。

  • 3. 藻類の入手と維持管理方法

    河川付着藻類を用いた農薬の毒性試験マニュアル 15

    リン酸ストック溶液:5 g のβ-Na2•glycerophosphate•5H2O をメスフラスコに入れ、超純

    水で 100 mL にメスアップする。最終濃度の 1000 倍溶液となる。

    HEPES 緩衝液:500 mL ビーカー内で、25 g の HEPES を約 400 mL の超純水に溶かす。

    2 N NaOH を加えて pH を 7.0 に調整し、500 mL メスフラスコに移す。超純水で 500 mL

    にメスアップする。最終濃度の 100 倍溶液となる。

    Fe ストック溶液:100 mL のメスフラスコに、80 mL の超純水と 5 mL の 2N HCl を加え

    て酸性にし、そこに 1.96 g の FeCl3・6H2O を加えて溶かし、超純水で 100 mL にメスア

    ップする。HCl として 0.1 N となる。

    Mn ストック溶液:100 mL のメスフラスコに、80 mL の超純水と 0.3 mL の 2N HCl を加

    えて酸性にし、そこに 360 mg の MnCl2•4H2O を加えて溶かし、超純水で 100 mL にメス

    アップする。

    Zn, Co, Mo ストック溶液:100 mL のメスフラスコに、80 mL の超純水と 0.3 mL の 2N HCl

    を加えて酸性にし、そこに 1.04 g の ZnCl2、0.4 g の CoCl2•6H2O、0.25 g の Na2MoO4•2H2O

    を加えて溶かし、超純水で 100 mL にメスアップする。

    上記のストック溶液は全て冷蔵庫(4℃)で保存する。

    PIV メタル(500mL)

    ↓488 mL の超純水を 500 mL ガラス瓶に入れる

    ↓500 mg の Na2EDTA• 2H2O をガラス瓶に加えて溶かす

    ↓5 mL の Fe ストック溶液をガラス瓶に加える

    ↓pH を中和するために、0.6 mL の 2N NaOH を加える

    ↓5 mL の Mn ストック溶液をガラス瓶に加える

    ↓0.5 mL の Zn, Co, Mo ストック溶液をガラス瓶に加える

    ↓使用時まで冷蔵庫(4℃)で保存する

    チェックリストを用いて、培地調整作業の間違いや漏れを防ぐ。チェックリストの印刷

    物(ラベル)を培地の瓶に張り付ける。本操作マニュアルを参照しながら操作し、各工程

    の作業進行終了ごとに、ラベルにチェックマークを入れる。

    CSi 培地の作成(1 L)

    ↓984 mL の超純水を 1 L の耐熱ガラス瓶に入れる

    ↓スターラーで撹拌しつつ、10 mL の HEPES 溶液を加える

    ↓3 mL の PIV メタル溶液を撹拌しながら加える

    ↓1 mL の硝酸塩のストック溶液を撹拌しながら加える

    ↓1 mL の硫酸マグネシウムのストック溶液を撹拌しながら加える

    ↓1 mL のリン酸のストック溶液を撹拌しながら加える

    ↓100 mg の Na2SiO3・9H2O をガラス瓶に加える

  • 3. 藻類の入手と維持管理方法

    16 河川付着藻類を用いた農薬の毒性試験マニュアル

    ↓超音波をかけてケイ酸塩を溶かす

    ↓121℃ 15 分間オートクレーブで滅菌する。放冷後、冷蔵庫(4℃)で保存する。

    培地の pH は最終的に 7.3 となる。チェックリストを用いて、培地調整作業の間違いや漏

    れを防ぐ。チェックリストの印刷物(ラベル)を培地の瓶に張り付ける。本操作マニュア

    ルを参照しながら操作し、各工程の作業進行終了ごとに、ラベルにチェックマークを入れ

    る。

    3.3. 藻類株の維持・管理

    藻類の継代培養は、雑菌の混入を防ぐため、クリーンベンチを用いた無菌操作が必要とな

    る。なお、無菌操作についての解説は本マニュアルでは取り上げない。細胞培養入門ノー

    ト(井出, 田原 2010)等、他の書籍を参考のこと。

    維持用培地の準備

    液体培地の場合は、耐熱性ガラス製ねじ付き大型試験管(直径 25 mm×高さ 150 mm、丸

    底、シリコセン C30 を装着)に、CSi 培地を 15 mL ずつ分注する。121℃ 15 分間オート

    クレーブで滅菌する。作成した培地は室温で保管する。

    寒天培地の場合は、同じガラス試験管に CSi 培地を 10 mL ずつ分注し、そこに寒天を

    150 mg ずつ加えて、121℃ 15 分間オートクレーブで滅菌する。熱いうちに取り出し、傾

    けて温度を冷まし寒天を固める。作成した培地は室温で保管する。

    株の保存

    藻類株は、寒天培地と液体培地の両方で継代培養を行うことで維持管理する。試験に使用

    するのは液体培地で維持している方であり、寒天培地はその予備的なものとして扱う。保

    存時の温度は全ての株で 22℃とする。光は白色蛍光灯を使用して、明暗をつけずに連続照

    射を行う。

    寒天培地での継代培養は、クリーンベンチ内で白金耳(プラスチック製のディスポーザ

    ブルのものが望ましい)で藻類をかき取って、新しい寒天培地に塗布することで行う。十

    分に寒天上に藻類が生えるまでは(約 1 週間)2000 lux 程度の光を照射し、その後は 200

    解説:緑藻やシアノバクテリアの培養には青白い昼光色の蛍光灯を使用することが多い

    が、珪藻を培養する場合は白色蛍光灯の方が適している。増殖が最も遅い珪藻の

    至適条件に合わせることがポイントである。

  • 3. 藻類の入手と維持管理方法

    河川付着藻類を用いた農薬の毒性試験マニュアル 17

    ~300 lux 程度の薄暗い場所にて保存を行う。植え継ぎ期間は表 2 の通りである。P. galeata

    NIES-512 については寒天では保存できないので液体のみで継代培養する。

    液体培地での継代培養は、クリーンベンチ内で保存用培養液を新しい培地に植え継いで

    行う。培養は静置で行う。できれば毎日観察を行い、その際に一日一回手で攪拌する。植

    え継ぐ量と期間、光強度は表 2 の通りである。それぞれの株で好む光強度や増殖速度は異

    なる。一つのインキュベーター内でも、置き場所の変更や影を作るなどで光強度の異なる

    条件を作ると、5株を同時に維持できる。

    表 2. 各種藻類の維持管理条件

    系統管理

    液体培地の継代培養では2系統作成し、植え継ぎ期間の半分ずつをずらしながら植え継ぎ

    を行う。片方の増殖が不安定になったり、色が変色したり塊が見られるなど雑菌のコンタ

    ミが疑われる際にはその系統は捨て、もう一方の系統から分けてまた2系統作り、改めて

    期間をずらしながら植え継いでいく。

    液体培養では、操作上異物混入の機会が多いため、一系統での維持体制では不具合発生

    時に試験を大幅に延期せざるを得なくなる。このため、日常の観察による不具合の早期感

    知が必要な一方で、複数の維持系統を持つことにより、不具合発生時のバックアップを用

    意する必要がある。例として、植え継期間が 14 日間隔の株の場合、

    A 系統:1 日→14 日→28 日→42 日→

    B 系統:7 日→21 日→35 日→49 日→

    といった日程で植え継ぎを行う。例えば 50 日目に A 系統に不具合が起こった場合には、そ

    の系統は破棄し、56 日目に B 系統から新たに A 系統を派生させ、2 系統を維持する。また、

    28日目の植え継ぎが終わった後は、2つ前の培養液である1日目の培養液は破棄して良い。

    つまり、1 株につき常に4本の液体培養が維持されていることになる(図 8)。

    種名 株名寒天培地

    での保存

    寒天保存時

    の植継期間

    液体保存時

    の植継期間

    液体

    植継量光強度

    月 日 mL/15mL luxD. subspicatus NIES-797 ○ 3 28 0.2 1000

    N. palea NIES-487 ○ 1 28 1 1000

    A. minutissimum NIES-71 ○ 1 28 1 1000

    N. pelliculosa UTEX-B673 ○ 1 14 1 2000P. galeata NIES-512 × × 14 1 500

  • 3. 藻類の入手と維持管理方法

    18 河川付着藻類を用いた農薬の毒性試験マニュアル

    図 8.(左)液体培地による継代培養。試験管立ての左側 2 本が A 系統で右側 2 本が B 系

    統。手前側が古い培養液で奥側が新しい培養液。(右)寒天培地による継代培養

    解説:操作性を重視して、25 mm 径のガラス試験管を用いている。液体培養では通気

    性の良いタイプのシリコセン、寒天培地での培養ではより長期間保存するため、

    蒸発の少ないタイプのシリコセンを使用している。

  • 4. 毒性試験方法

    河川付着藻類を用いた農薬の毒性試験マニュアル 19

    4. 毒性試験方法

    4.1. 試験設計

    試験の目的

    付着藻類の増殖に対する除草剤の影響を調べることを目的とする。除草剤の濃度を多段階

    に設定した条件下で 96 時間の藻類の培養を行い、増殖速度が除草剤を添加しないコントロ

    ール区に対して 10%阻害される濃度(EC10)と 50%阻害される濃度(EC50)を求める。

    96 時間で試験対象藻類は 16 倍以上に増殖し、数世代以上にわたる影響を調べていること

    になる。

    試験の概要

    OECD テストガイドライン 201(藻類生長阻害試験)を、付着藻類に適するように改変し

    た試験法である。培養チャンバーとして 96 穴マイクロプレートを用い、藻類バイオマスの

    指標として in vivo クロロフィル蛍光を用いることが特徴である。エンドポイントとして、

    試験期間中の増殖速度を用いる。藻類の培養条件は、培養期間:96 時間、培地:CSi 培地、

    光強度:3000 lux、培養温度:22℃とする。試験のフローを図 9 に示す。

    解説:定義上、藻類のバイオマスは乾燥重量(mg/L)であるが、これを測定するのは

    大変労力がかかるため、通常は細胞密度(cells/mL)が用いられる。OECD ガイ

    ドラインでは、このほかに吸光度や蛍光を指標にすることも可能とされている。

    蛍光強度と細胞密度の関係は付録 7.3.を参照のこと。

    OECD テストガイドライン 201(藻類生長阻害試験)を、付着藻類に適するように改変

    した試験法である。培養チャンバーとして 96 穴透明マイクロプレートを用い、藻類バイ

    オマスの指標として、蛍光プレートリーダーを用いて測定可能な in vivo クロロフィル蛍

    光を用いることが特徴である。

  • 4. 毒性試験方法

    20 河川付着藻類を用いた農薬の毒性試験マニュアル

    図 9. 藻類の毒性試験のフローチャート

    被験物質

    試験設計においては、被験物質の水溶解度や分解性、オクタノール・水分配係数などの物

    理化学性に関する情報が必要となる。水溶解度は試験濃度の上限設定のための参考とする。

    濃度反応関係の解析は、水溶解度以下の範囲のデータのみを使用する。ただし、試験期間

    中には、加水分解や光分解、マイクロプレートへの吸着などで濃度が減少する。水溶解度

    やオクタノール・水分配係数は吸着性の指標となる。分解や吸着が進むものは、物理化学

    性からその量を見越して、水溶解度よりも高い濃度まで設定する場合がある。

    参照物質

    感受性検定のための標準有機化学物質として、3,5-ジクロロフェノール(DCP)を使用する。

    水溶解度が高く、分解性や吸着性も少ないため試験の実施が容易で再現性の高い物質であ

    る。また、その性状から国際的なリングテストにも使用されている物質である。初めて本

    マニュアルに従って試験を行う場合には、DCP を被験物質とした試験を最初に行い、付録

    7.4.に示されている結果と比較し、試験の妥当性を検証することを推奨する。

    濃度設定

    通常の毒性試験におけるデフォルトの濃度設定は、公比 3.2 の 9 段階(1, 3.2, 10, 32, 100,

    320, 1000, 3200, 10000 g/L)とする。除草剤の EC50 は多くがこの範囲内にあり、さ

    らに水溶解度もこの範囲を大幅に超えるものは少ないからである。試験に使用する 96 穴マ

    イクロプレートは、8 行(A-H)×12 列(1-12)の well があり、図 10 のように試験区を

    藻類株の維持培養

    藻類の前培養

    被験物質の性質から濃度設定の決定

    標準液の作成

    試験液の作成

    試験開始

    24時間毎に測定

    96時間後に試験終了

    濃度分析

  • 4. 毒性試験方法

    河川付着藻類を用いた農薬の毒性試験マニュアル 21

    配置する。外側の well には培地のみを添加し、試験区とはしない。これは、外側の well

    では培地の蒸発が起こるためである。ただし、1 列目の B-G 行の 6well は蛍光測定時のブ

    ランクとして使用する。2 列目はコントロール区とし、3-11 列に 9 段階の濃度区を設定す

    る。試験区は全て 6 連(B-G 行)で設定する。

    被験物質の水溶解度が 100 g/L 程度の場合、分解性にもよるが 1000 g/L まで試験を

    すれば十分と考えられ、この場合は 10, 11 列は培地のみの添加でよい。また、EC50 が 1

    g/L 以下となる場合や、水溶解度と EC50 が共に 10000 g/L 以上となる場合にも、濃度

    域を変更した試験が必要となる。ただし、リスク評価の目的上、EC50 > 10000 g/L とい

    う結果で十分な場合も多い。この点は目的等の観点から総合的な判断が必要となる。

    図 10. マイクロプレートの濃度設定

    4.2. 試験に必要な器具

    使用機器

    ・オートクレーブ

    ・クリーンベンチ

    ・インキュベーター 生田産業 クールインキュベーターA4201+光照射ユニット、白色

    蛍光灯 FL8W(図 11a)

    ・蛍光プレートリーダー モレキュラーデバイス Gemini EM(図 11b)

    ・マイクロプレート分注器 Thermo Multidrop 384(図 11c)

    ・ボルテックスミキサー

    ・マイクロプレート攪拌機

    1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12

    A 培地のみを添加

    B Blank Control 1 3.2 10 32 100 320 1000 3200 10000

    C Blank Control 1 3.2 10 32 100 320 1000 3200 10000

    D Blank Control 1 3.2 10 32 100 320 1000 3200 10000

    E Blank Control 1 3.2 10 32 100 320 1000 3200 10000

    F Blank Control 1 3.2 10 32 100 320 1000 3200 10000

    G Blank Control 1 3.2 10 32 100 320 1000 3200 10000

    H 培地のみを添加

    解説:OECD ガイドラインでは、濃度区の公比を最大 3.2 としている。公比 3.2 を使用

    して 1-10000 g/L の試験を一度に行うことにより、予備試験無しでガイドライ

    ンを満たす条件での EC50 等の決定が可能である。予備試験をなくすことで労力

    を大幅に削減可能である。

  • 4. 毒性試験方法

    22 河川付着藻類を用いた農薬の毒性試験マニュアル

    ・分注器 Eppendorf マルチペットプラス 4981

    ・ペン型 pH メーター HORIBA Twin pH

    ・照度計

    ・12 連ピペット ~200 L

    図 11. 藻類毒性試験の使用機器

    消耗品

    ・滅菌済みポリスチレン製 96 穴マイクロプレート(BD-Falcon 35-1172)

    ・50 mL 滅菌済みマルチペットプラス用コンビチップ

    解説:参考のため当研究所で使用している製品名を記載したが、当然ながら同様の機能

    を持つ他の製品でもかまわない。

  • 4. 毒性試験方法

    河川付着藻類を用いた農薬の毒性試験マニュアル 23

    ・100 mL 滅菌済みピペッティングリザーバー

    ・25 mL 滅菌済みピペッティングリザーバー

    ・15 mL 滅菌済みクライオバイアル

    ・10 mL ガラスバイアル

    ・2 mL ガラススクリュー管瓶

    ・2 mL LC-MS 用ガラスバイアル瓶

    試験の事前準備

    ・インキュベーターの温度、照度の設定をする。照度については 3000 lux となるように、

    蛍光灯下に白いネットを置くなどして調製する。

    ・CSi 培地を 15mL ずつ植物培養用試験管(直径 25mm 高さ 120mm)+キャップ 5 本

    に入れ、オートクレーブ(前培養用)

    ・CSi 培地 100 mL を 100 mL 耐熱ガラス瓶に入れたものを 2 本作成し、オートクレー

    ブ(本試験用)

    ・超純水 100 mL を 100 mL 耐熱ガラス瓶に入れ、オートクレーブ(分注機洗浄用)

    ・70%エタノール 100 mL を 100 mL 耐熱ガラス瓶に入れる(分注機洗浄用)

    消耗品の準備:

    ・96 穴マイクロプレート 7 枚

    ・50 mL マルチペットプラス用コンビチップ 1 つ

    ・100 mL ピペッティングリザーバー 1 枚

    ・25 mL ピペッティングリザーバー 9 枚

    ・15mL クライオバイアル 5 本

    ・10 mL ガラスバイアル 1 本

    ・2 mL ガラススクリュー管瓶 9 本

    ・2 mL LC-MS 用ガラスバイアル瓶 13 本

    解説:マイクロプレートは他の製品でもよいが、蓋付き、透明、ポリスチレン製、平底、

    表面処理無し、一枚ごとに滅菌済み、という条件を満たす必要がある。

  • 4. 毒性試験方法

    24 河川付着藻類を用いた農薬の毒性試験マニュアル

    4.3. 前培養

    前培養用の CSi 培地を入れた植物培養用試験管で培養する(図 12)。3.3 で示した藻類株

    の維持管理用液体培養液(14 日間経過したもの)から、1 mL/15 mL(緑藻 D. subspicatus

    のみ 0.2 mL/15 mL)で希釈して始める。試験開始の 5 日前に始める。培養条件は試験時

    と同じ 22℃、3000 lux とする。

    図 12. 前培養の様子

    4.4. 試験液の作成

    標準液の作成

    農薬標準品として、市販の農薬分析用の標準物質を用いる。溶媒としてジメチルスルホキ

    シド(DMSO)を用いる。メスフラスコを用いて 10 g/L (= 100 mg/10 mL in DMSO)

    の濃度の標準液を作成し、10 mL ガラスバイアルに移す。保存は冷凍保存とする(−20℃)。

    ただし、溶解性の低い剤については 1 g/L で作る事もある。

    この標準液を表 3 に従って DMSO で希釈し、2 mL ガラススクリュー管瓶内で 9 段階の

    濃度の標準液(試験液濃度の各 1000 倍の濃度)を作成する。作成した 9 段階の標準液は

    試験液調製時まで冷蔵保存する(4℃)。

    解説:コンタミリスク管理よりも操作性を重視して、維持管理用の培養とは異なる植物

    培養用試験管とキャップを使用している

  • 4. 毒性試験方法

    河川付着藻類を用いた農薬の毒性試験マニュアル 25

    表 3. 標準液の作成

    試験液の調整

    試験液は必ず試験開始直前に作成する

    ↓農薬標準液を冷蔵庫から出して室温で自然解凍する

    以下、クリーンベンチ内の作業となる(図 13)

    ↓100 mL と 25 mL のピペッティングリザーバーとマイクロプレートをクリーンベンチ

    に入れ、容器から出してラベルを書く。UV ランプを 10 分間程度当てて殺菌する。

    ↓100mL リザーバーに CSi 培地を入れる

    ↓マルチペットプラス+50 mL コンビチップ(分注量は 7.5 mL に合わせる)を用いて、

    9 枚の 25 mL リザーバーに CSi 培地を 15 mL ずつ分注する

    ↓9 枚の 25 mL リザーバーに 9 段階の農薬標準液をそれぞれ 15 L ずつ加える(1000

    倍希釈)。加えた後すぐに、ピペットの先端を 10 往復程度ゆっくりと動かして混合さ

    せる。

    ↓上記の試験液を、12 連ピペットを用いてマイクロプレートに 190 L ずつ分注する。

    このとき最初にピペットで吸う前に、リザーバー内の試験液を 5 回程度ピペッティン

    グを行ってよく混合させる。マイクロプレートの配列は図 10 を参照のこと。1, 2, 12

    列目は CSi 培地を分注する。

    ↓上記のマイクロプレートを同様に計 6 枚作成する

    ↓リザーバーをクリーンベンチから出し、リザーバーに残った試験液からピペットを使

    って濃度毎に 0.5 mL 採取して、それぞれ LC-MS 用ガラスバイアルに移し替える。ラ

    ベルには「農薬名, 1 g/L, 0h」のように記入する。この分析用試料は、用いる分析方

    法に適した保存方法で保存する(4.6. 分析方法を参照)。

    ↓リザーバー内に残った CSi 培地(コントロール区のみ)の pH を測定する

    濃度 元液濃度 元液添加量 DMSO添加量 Totalg/L in DMSO g/L mL mL mL

    10 10 1.00 0.00 1.03.2 10 0.32 0.68 1.0

    1 10 0.10 0.90 1.00.32 1 0.32 0.68 1.00.1 1 0.10 0.90 1.0

    0.032 0.1 0.32 0.68 1.00.01 0.1 0.10 0.90 1.0

    0.0032 0.01 0.32 0.68 1.00.001 0.01 0.10 0.90 1.0

  • 4. 毒性試験方法

    26 河川付着藻類を用いた農薬の毒性試験マニュアル

    図 13. クリーンベンチ内での試験液調製の様子。(a)CSi 培地の入った 100 mL リザー

    バーからマルチペットプラスを用いて 25 mL リザーバーに分注し、ガラスバイアル

    に入った標準液をそれぞれ添加する。(b) 12 連ピペットを用いてリザーバー内の試

    験液をマイクロプレートに分注する。

    解説:助剤である DMSO 濃度は最終的に試験液中で 0.1%となる。この濃度での DMSO

    は 5 種の藻類の増殖に影響を与えない(付録 7.3.参照)。

    解説:試験液の調製は、クリーンベンチ外にてメスフラスコを用いて調製し、その後ク

    リーンベンチ内で濾過滅菌を行う方がより正確な濃度調整が行える。しかし、本

    マニュアルでは作業効率を重視してリザーバー内で試験液の調製を行う。DMSO

    内で調製した標準液中では雑菌は死滅するものと考え、オートクレーブした CSi

    培地に直接添加することで濾過滅菌の作業を省くことができる。また、濾過滅菌

    フィルター由来の有機物のコンタミも防ぐことができる。農薬の試験において

    は、試験中に吸着や分解によって濃度が変化することを前提とし、基本的に設定

    濃度ではなく分析濃度により濃度反応関係の解析を行う。

  • 4. 毒性試験方法

    河川付着藻類を用いた農薬の毒性試験マニュアル 27

    4.5. 培養試験

    藻類培養液の調製と接種

    ↓マイクロプレートリーダーを立ち上げ、標準蛍光ビーズを測定して感度をチェックす

    以下、クリーンベンチ内の作業となる

    ↓前培養液における藻類の増殖を測定する。事前に、緑藻とシアノバクテリアは手でよ

    く混ぜ、珪藻はボルテックスミキサーで10秒程度撹拌して懸濁させる(目視で確認し、

    ガラス試験管壁面への付着がまだ見られればさらに 10 秒ずつ攪拌する)。前培養液を

    200 L 採取し、マイクロプレートに 1 well ずつ入れる。マイクロプレートリーダーで

    蛍光強度を測定する。緑藻と珪藻はクロロフィル a 蛍光(励起 435/蛍光 685nm)、

    シアノバクテリアの場合はフィコシアニン蛍光(励起 600/蛍光 650nm)を測定する。

    ↓1 wellのサンプル培養液量が200 Lであるのに対して、10 Lの培養液を分注して(20

    倍に希釈)培養を開始し、培養開始時の初期蛍光強度は 5 とする。よって、蛍光強度

    が 100(20 倍希釈で 5 になる)になるような希釈率を決定する。例えば前培養液の蛍

    光強度が 250 だった場合、蛍光強度を 100 にするには 2.5 倍の希釈が必要となる。

    ↓15 mL クライオバイアル内で前培養液を CSi 培地で希釈し、蛍光強度が 100 になる希

    釈液を 10 mL 作成する。上記の例では、前培溶液 4.0 mL に CSi 培地 6.0 mL を加え

    て希釈液を 10 mL 作成する(2.5 倍希釈)。

    ↓4.4 で調製した試験液が入っている 5 枚のマイクロプレートに、マイクロプレート分注

    器を用いて、それぞれの株の前培養希釈液を外端の列を除いて 10 L ずつ分注する。

    残りの 1 枚は濃度分析用サンプルとして、CSi 培地を 10 L 分注する。

    ↓クリーンベンチからマイクロプレートを出し、マイクロプレート攪拌機で 20 秒間撹拌

    する

    解説:試験の初期蛍光強度は 5 となっているが、これは細胞密度では 0.6~2.9×104

    cells/mL に相当する(付録 7.3.参照)。この関係は測定装置に依存するため、各

    試験機関において事前にこの関係を築いておく必要がある。

    解説:蛍光の測定は、Well Scan モードを使用するのが望ましい。付着藻類はマイクロ

    プレートの各 well 内に付着する際に局所的な偏りが見られる。Well Scan をおこ

    なうことで、付着の偏りを補正することができる。当研究所で使用しているモレ

    キュラーデバイス Gemini EM では、1well につき 9 箇所の測定(9 回のスキャ

    ン)を行うことができる。

    解説:標準蛍光ビーズの測定波長は蛍光ビーズの種類によって異なる。当研究所ではフ

    ローサイトメーター用のものを用いている(励起 400/蛍光 520nm)。

  • 4. 毒性試験方法

    28 河川付着藻類を用いた農薬の毒性試験マニュアル

    96 時間の培養試験

    ↓インキュベーター内にて 3000lux, 22℃の条件で 96 時間培養する。培養時にポリプロ

    ピレン容器に入れる(図 14)。

    ↓各マイクロプレート上の照度をそれぞれ測定する

    ↓培養開始から 0, 24, 48, 72, 96 時間後に、マイクロプレート攪拌機で 10 秒間撹拌した

    後、マイクロプレートリーダーで蛍光を測定する。緑藻と珪藻はクロロフィル a 蛍光

    (励起 435/蛍光 685nm)、シアノバクテリアの場合はフィコシアニン蛍光(励起 600/

    蛍光 650nm)を測定する。

    ↓96 時間後の測定終了後に、藻類細胞を接種しない濃度分析用マイクロプレートから、

    各濃度毎に 3well 分のサンプル 0.5 mL(0.166 mL×3)を採取して、LC-MS 用ガラス

    バイアルに移し替える。ラベルには「農薬名, 1 g/L, 96h」のように記入する。この

    分析用試料は、用いる分析方法に適した保存方法で保存する(4.6. 分析方法を参照)。

    分解しやすい農薬の場合は、48 時間経過した時点で半分の 3well 分のサンプル(0.5 mL)

    を採取して濃度分析に回し、試験終了時に残りの 3well 分のサンプル(0.5 mL)を採

    取する。

    ↓各プレート上の照度をもう一度測定する

    ↓それぞれの株のコントロール区の 3well 分のサンプルを採取して、pH を測定する

    図 14. ポリプロピレン容器内のマイクロプレート

    解説:インキュベーター内は風の当たり具合などによって、局所的に温度が変化する。

    特に緑藻の増殖は温度の変化に影響を受けやすく、マイクロプレートの well 間

    での増殖速度に差が出てしまう。マイクロプレートの周囲にポリプロピレン容器

    で囲いを作ることでこれを防止することができる。図 14 では、ハイパック S-20

    (167×117×28)を使用している(フタはしない)。

  • 4. 毒性試験方法

    河川付着藻類を用いた農薬の毒性試験マニュアル 29

    4.6. 農薬濃度の分析方法

    概要

    OECD ガイドラインにおいては、濃度分析を行い設定濃度に対して 80-120%の範囲にある

    かどうかを確認し、その範囲にある場合には設定濃度での濃度反応解析を行うことができ

    ると記載されている。本マニュアルでは、農薬の濃度は試験期間中に吸着や分解によって

    変化するということを前提とし、基本的に全て分析濃度での濃度反応解析を行う。

    4.4 で調製した藻類を接種しない分析用マイクロプレートから、濃度分析用サンプルを採

    取して分析を行う。マイクロプレートを用いた試験では試験液量が非常に少ないため、濃

    度分析用のサンプルについて遠心操作や濃縮操作、溶媒で置換するなどの作業を行うこと

    は困難である。そのため、感度の高い液体クロマトグラフ・タンデム型質量分析計

    LC-MS/MS などを用いて、サンプルを直接分析にかける必要がある。具体的な分析方法は

    使用する機器に大きく依存するため試験機関毎に検討が必要となるが、参考として当研究

    所で行っている方法について簡単に記載する。

    曝露濃度の定義

    曝露濃度とは何か?ということを定義するのは意外と難しい。OECD ガイドラインにおい

    ても、曝露濃度を正式に定義することは難しいと記載されている。通常は、試験液中に溶

    けている物質の濃度を分析対象とし、多くの試験ガイドラインでは遠心分離を行って藻体

    を取り除いた試験液を濃度分析用サンプルとしている。ところが、藻体に取り込まれた、

    あるいは藻体の表面に吸着した農薬は影響に寄与しないのだろうか?本質的には、藻類の

    体内に取り込まれた農薬こそが毒性に寄与するはずであり、突き詰めれば、体内のターゲ

    ットサイトにおける濃度が毒性と直接関係すると考えられる。ただし、定常状態を仮定す

    るならば、試験液中の濃度と体内のターゲットサイトにおける濃度は比例関係になるはず

    であり、この仮定の下に限って試験液中濃度での解析が正当化される。また、体内濃度や

    藻体表面への吸着を分けて測定することは非常に困難であるため、本マニュアルにおいて

    は定常状態を仮定して試験液中濃度を曝露濃度とみなして解析に用いる。ただし、試験液

    中で分解や試験容器(マイクロプレート)への吸着によって試験系から取り除かれた分以

    外は全て毒性に寄与すると考え、藻類を接種しない試験系での濃度推移を測り、これを曝

    露濃度と定義する。

    解説:3000lux, 22℃という培養条件は、すべての藻類株にとって最適な培養条件では

    ないが、増殖が最も遅い珪藻の至適条件に合わせて設定した(付録 7.3.参照)。

  • 4. 毒性試験方法

    30 河川付着藻類を用いた農薬の毒性試験マニュアル

    検量線用標準液、分析用サンプルの調製

    ・標準品 20 mg をメスフラスコに入れ、50 mL アセトニトリル(LC-MS 用)でメスア

    ップし、400 mg/L の検量線用標準液を調製する(−20℃で保存)。

    ・上記の標準液を 25%アセトニトリル水溶液で希釈し、濃度 0.5 g/L~100 g/L の検

    量線用試料を調製する。

    ・4.4 および 4.5 で採取した濃度分析用サンプルは、2 mL LC-MS 用ガラスバイアル内に

    0.5 mL 入れ、水:アセトニトリル = 1:1 溶液を 0.5 mL 加えて、合計 1 mL として冷凍

    保存(−20℃)する(アセトニトリルが 25%入っているため凍結はしない)。

    ・ブランク試料として、CSi 培地にアセトニトリルを同様に添加して分析用サンプルを調

    製する。

    ・回収率を求めるためのサンプルとして、CSi 培地に 100 g/L の被験物質を添加したも

    のを調製し、アセトニトリルを同様に添加して分析用サンプルとする。また、培地成

    分が分析を阻害することがあるため、超純水を用いて同様に回収率用サンプルを調製

    する。

    分析条件

    当研究所で分析を行った際の、LC-MS/MS の条件を参考までに表 4 に示す。移動相の条件

    は、検出・定量限界や検量線の直線性等から判断する。

    解説:より高度には、定常状態を仮定せずに、農薬濃度や体内濃度、藻類の増殖と毒性

    影響の時系列変化をモデリングする解析法があるが(Nagai 2014)、本マニュア

    ルでは定常状態を仮定した解析方法のみを記載するにとどめる。

    解説:リスク評価においては、河川水を濾過した濾液中の農薬濃度を分析してこれと毒

    性を比較するのであるから、毒性試験においても藻体を除去した後の試験液の濃

    度を測るのが良いとの意見もあるが、これは適切ではない。室内毒性試験におい

    ては、実際の環境中で見られる藻類密度よりも遙かに高い密度で試験を行う。ま

    た、実際の環境は連続的に農薬が流れてくる流水系であるが、藻類の試験はほと

    んどが止水系のバッチ培養である。つまり、室内毒性試験では、試験系の農薬の

    藻体への取り込み量や吸着量が実環境と比べて大きいため、同様に扱うことはで

    不適切である。

  • 4. 毒性試験方法

    河川付着藻類を用いた農薬の毒性試験マニュアル 31

    表 4. LC-MS/MS 測定条件

    LC Acquity UPLC (Waters)

    カラム Acquity UPLC HSS T3 (Waters) 2.1×30 mm,

    粒径 1.8 m

    ガードカラム HSS

    移動相流量 0.35 mL/min

    カラム温度 40℃

    注入量 10 L

    移動相 条件 A A 液:アセトニトリル B 液:5mM 酢酸アンモニウム水溶液

    グラジエント条件

    Time (分) 0→1.5→4.75→6.5→9

    A 液 (%) 25→25→95→25→25

    B 液 (%) 75→75→5→75→75 条件 B A 液:アセトニトリル B 液:10mM ギ酸アンモニウム水溶液 条件 C A 液:アセトニトリル B 液:0.1%ギ酸水溶液

    MS/MS Quattro Micro API (Waters)

    イオン化 ESI+

    イオン源温度 120℃

    脱溶媒温度 350℃

    脱溶媒ガス流量 600 L/h

    キャピラリー電圧 3.6 kV, 2.8 kV

    定量方法

    検量線用標準液の測定値のピーク面積と濃度を両対数グラフにプロットし、検量線が直線

    的になっていることを確認する。累乗近似(濃度 = a×面積 b)を行い、検量線を導く。こ

    の検量線からサンプルの濃度を計算する。CSi 培地に 100 g/L の被験物質を添加したサン

    プルの結果から回収率を求める。ブランク(CSi 培地)の繰り返し測定の結果から、標準偏

    差の 3 倍値を検出限界、10 倍値を定量限界とする。

    試験開始時濃度と終了時濃度の幾何平均値を計算して、濃度反応解析用濃度とする。回

    収率が 8 割未満である場合には回収率で補正をかけることもある。この最終的な幾何平均

    値または補正値を解析濃度とし、これが水溶解度を超えているものについては、その後の

    解析には使用しない。

  • 5. データ整理と統計解析

    32 河川付着藻類を用いた農薬の毒性試験マニュアル

    5. データ整理と統計解析

    5.1. データ整理

    増殖速度

    藻類の蛍光強度の測定値から、ブランク値を引く。ブランク値は各測定プレートの 1 列目

    B-G 行の 6 つの測定値の平均値とする(図 10)。直線的に増殖している期間(t’日から t

    日にかけて)の増殖速度(/day)を以下の式で計算する:

    増殖速度 = ln(xt) − ln(xt')

    t − t'・・・(1)

    ここで、x は t 日における蛍光強度を示す。増殖速度の基本的な計算期間は、D. subspicatus

    と N. palea は 0-3 日、その他 3 株は 1-4 日とする(増殖の直線性によって変更する場合も

    ある)。コントロール区における増殖の直線性については付録 7.3.を参照。D. subspicatus

    と N. palea については 3-4 日目は増殖が寝てくる傾向があり、その他 3 株については最初

    の 1 日の増殖の立ち上がりが弱いためである。

    妥当性基準

    試験の妥当性基準を計算する。結果次第で増殖速度の計算期間を変更する場合もある。

    OECD ガイドラインにおいては、コントロール試験における 3 つの妥当性基準が示されて

    いる:(1)試験期間の増殖率が 16 倍以上;(2)増殖の直線性、すなわち試験期間中の 1 日毎

    の増殖速度の変動が 35%以下(連毎に計算して、最後に平均値をとる);(3)繰り返しの精

    度、すなわち増殖速度の繰り返しにおける変動が 7%以下。ただし、この基準となる値は種

    によって変化し、上記の値は標準の試験生物種である緑藻 P. subcapitata についてのもの

    である。本マニュアルでは、これら 3 つの基準に加えて、(4)上記で計算した増殖速度の繰

    り返し平均値が 0.7 以上(1 日で倍以上に増える)、という基準を設ける。この基準が増殖

    の特性を最も端的に良く表しており、試験毎のばらつきも最も少ない数字である。付着藻

    類 5 種におけるコントロール試験の増殖については付録 7.3.を参照のこと。このデータを

    用いて、増殖速度の計算期間中の妥当性基準を計算すると表 5 のようになる。P. galeata

    試験期間中に直線的に増殖している期間の増殖速度を計算し、濃度反応関係の解析

    を行う。非線形最小二乗法を用いて対数ロジット式に回帰を行い、EC50, EC10 と

    それぞれの信頼区間を計算する。Excel のアドインソフト RExcel を用いる計算方

    法を記載する。

  • 5. データ整理と統計解析

    河川付着藻類を用いた農薬の毒性試験マニュアル 33

    については基準(2)が、N. pelliculosa については基準(1)が満たせない場合が見られる。今

    後、種毎の適切な基準値の設定が必要となる。

    表 5. 各藻類種の妥当性基準の例(赤文字は基準を満たしていない)

    5.2. 濃度反応関係の解析

    概要

    試験の最大濃度区でも 1 割以上の増殖阻害が認められない場合には濃度反応関係の解析は

    せず、EC50, EC10 共に解析濃度の最大値以上とする。

    濃度反応関係の解析においては、非線形最小二乗法を用いてロジット式に回帰を行い、

    EC50, EC10 とそれぞれの信頼区間を計算する。計算は基本的に統計ソフト R を使用する

    が、統計の初心者でもなじみやすいように、Microsoft Excel のフリーアドインソフトであ

    る RExcel を用いて、Excel 上で R 言語による計算を行う手法を記載する。コマンドライン

    によるプログラミング操作に不慣れな人にとっても、使い慣れたソフトによって高度な統

    計計算が可能となる。試験データの入力、計算プログラム、解析結果の出力を一つのシー

    トにまとめた Excel ファイルを作成したので、これをダウンロードして使用する。

    基準 基準値 D. subspicatus P. galeata A. minutissimum N. palea N. pelliculosa

    (1) 16 31.2 26.7 23.0 36.0 18.0(2) 35 16.8 35.7 15.6 29.7 8.8(3) 7 1.5 6.0 1.7 6.9 1.1(4) 0.7 1.15 0.89 0.81 1.21 0.82

    解説:OECD ガイドラインでは、濃度反応関係の解析の際に、従来行われてきたプロ

    ビット変換による線形回帰よりも、ロジットなどの S 字曲線モデルへの非線形

    回帰分析が望ましいとされている。これは、プロビット変換の際に増殖阻害率

    がマイナスや 100%超のデータが除外されてしまうこと、変換の際に分布のすそ

    野(阻害率が 0 や 100 に近い点)の誤差が増幅されてしまう問題があるためで

    ある。さらに同ガイドラインでは、従来計算されてきた無影響濃度(NOEC)

    よりも、回帰分析をベースとした ECX(EC10 もしくは EC20)を計算するこ

    とが望ましいとされている。この理由は、NOEC の値は試験設計に大きく影響

    を受けてしまうこと、影響の大きさが明示できないこと(「NOEC = 無影響」

    ではない)、信頼区間の評価が不可能で信頼性の担保が困難なためである。詳

    細は岩崎ほか(2013)を参照のこと。しかしながら、より高度な統計知識とソ

    フトが必要となるため日本国内では適用例が少ない。

  • 5. データ整理と統計解析

    34 河川付着藻類を用いた農薬の毒性試験マニュアル

    計算理論

    試験結果を一般的な(最もシンプルな)2 パラメータの対数ロジットモデルに最小二乗法を

    用いて非線形回帰させる。2 パラメータの対数ロジットモデルは、以下の式で表現される:

    比増殖速度 = 1

    1 + exp(fa + fb×logConc)・・・(2)

    ここで、比増殖速度は、増殖速度をコントロール試験の増殖速度の平均値で割ったもので

    あり、Conc は物質の濃度、fa, fb はロジットモデルの係数である。Conc を x 軸に、比増殖

    速度を y 軸にプロットすると、S 字型の曲線が得られる。(2)式に試験結果を当てはめ、最

    小二乗法を用いて fa と fb のパラメータを決定する。EC50 とは、比増殖速度が 0.5 のとき

    の Conc であるので、(2)式より、

    0.5 = 1/(1 + exp(fa + fb×logEC50))

    これを変形すると

    EC50 = exp(−fa / fb)・・・(3)

    となる。また、EC10 とは、比増殖速度が 0.9 のときの Conc であるので、(2)式より、

    0.9 = 1/(1 + exp(fa + fb×logEC10))

    これを変形すると

    EC10 = exp((log(0.1/0.9) − fa)/ fb = exp(−(2.197 + fa)/ fb)・・・(4)

    となり、fa と fb の値がわかれば EC50 と EC10 は計算できる。

    (3)式を fa について整理すると、

    fa = − fb×logEC50・・・(5)

    となり、また(5)式を(4)式に代入して、fb について整理すると、

    fb = −2.197/(logEC10 − logEC50)・・・(6)

    (5), (6)式を(2)式に代入すると、

    比増殖速度 = 1

    1 + exp( −2.197×logConc − logEC50

    logEC10 − logEC50 )

    ・・・(7)

    と、logEC50 と logEC10 を変数とした式に変形できる。(7)式に最小二乗法を用いてデー

    タを当てはめれば、logEC50 と logEC10 が推定でき、同時にそれぞれの標準誤差(SE)も計

    算される。logEC50 と logEC10 の信頼区間は、logEC50 ± t×SE、logEC10 ± t×SE、

    でそれぞれ計算される。95%信頼区間を計算するときの t 値(p=0.975)は、データの n

    数が大きくなるほど 1.96 に近づく。

  • 5. データ整理と統計解析

    河川付着藻類を用いた農薬の毒性試験マニュアル 35

    これらは OECD ガイドライン 2006 年改訂版に準拠した方法である。他にも同様の手法

    を解説した論文としては、Nyholm et al.(1992)、Bruce and Versteeg(1992)などが

    ある。

    RExcel のインストール(Excel インストール済みの Windows パソコンを対象)

    1.R をダウンロード・インストールする

    http://cran.ism.ac.jp/bin/windows/から、インストーラーをダウンロードして実行す

    る。

    解説:永井(2013)にて、6 つの藻類毒性試験結果について、上記の非線形回帰分析

    結果と従来のプロビット解析と NOEC の解析を比較したところ、EC50 同士は

    良く一致しており、両者は同等の互換性があった。EC10 と NOEC も良く一致

    していたが、濃度設定に依存しにくく、さらに信頼区間が定量化できる点におい

    て、EC10 が NOEC の代替指標として優れていると考えられた。また、NOEC

    に相当する影響レベルは 0.3~17.3%と計算され、NOEC は無影響を意味せず、

    ある一定の影響レベルを意味するものでもないことが示された。

    解説:ロジットモデルは比増殖速度がマイナスにならないモデルであるが、実際の試験

    ではマイナスの増殖速度になることがある。これは、藻類のバイオマスが同じで

    あっても in vivo 蛍光の強度は細胞の生理状態によって変化するためである。プ

    ロビット法と違って、増殖速度がマイナスであってもそのまま濃度反応関係の解

    析に用いることができるが、増殖速度が繰り返しの全てで−0.2 以下になってい

    るような濃度区のデータは使わない方が良好な結果が得られることが多い。

  • 5. データ整理と統計解析

    36 河川付着藻類を用いた農薬の毒性試験マニュアル

    2.Rexcel と StatconnDCOM のインストーラーのダウンロード

    http://rcom.univie.ac.at/download.html から、インストーラーをダウンロードする。

    3.StatconnDCOM のインストーラーを実行する

    4.R を起動させる

    5.R で rscproxy パッケージのインストール

    パッケージ→パッケージのインストール→Japan(Tsukuba)→rscproxy を選択する

    6.5.と同じ方法で、drc パッケージをインストールする

    7.RExcel のインストーラーを実行する

    RExcel 全般についての解説書はハイバーガー、ノイヴィルト(2012)がある。drc パッ

    ケージについては「http://www.bioassay.dk/」で各種説明や参考文献が読める。

  • 5. データ整理と統計解析

    河川付着藻類を用いた農薬の毒性試験マニュアル 37

    RExcel シートの使用方法

    濃度反応関係の計算用 Excel ファイル「drc.xlsx」を、(独)農業環境技術研究所の Web

    サ イ ト か ら ダ ウ ン ロ ー ド し て 実 行 す る

    (http://www.niaes.affrc.go.jp/techdoc/algae/index.html)。「RExcel」のシートには

    サンプルデータが記入されているので、そのまま赤文字の指示通りに解析を進めれば

    「RExcel 結果」のシート通りの結果になる(図 15)。黄色く塗りつぶした箇所以外は基

    本的に変更しない。誤った操作を行ってしまった場合には、保存せずに一旦エクセルを終

    了させて、最初から(エクセルの起動から)操作をやり直すことを推奨する。

    自身の実験データの解析をする場合には、「RExcel」のシートをコピーして適当なシー

    ト名を付け、解析濃度や増殖速度を入力して計算を行う。予め指定してある印刷範囲で印

    刷すると、そのままレポートとして活用できるようになっている。計算例では濃度 9 段階、

    繰り返し 6 回の試験系になっているが、濃度区の数や繰り返し数は変更できる。詳細はダ

    ウンロードできる Excel ファイル内の指示に従うこと。

    図 15. RExcel を用いた濃度反応関係の解析例

  • 5. データ整理と統計解析

    38 河川付着藻類を用いた農薬の毒性試験マニュアル

    5.3. SSD の解析

    毒性試験で得られた 5 種藻類の EC50 値を、SSD として対数正規分布に適合させる。毒性

    データは Naito et al.(2006)に従い属毎に全て区間データとしてまとめ、対数正規分布の

    パラメータ(対数平均、対数標準偏差)を最尤法にて推定する。EC50 とその信頼区間が定

    量できている場合には、その信頼区間の下限と上限を区間データとして入力する。水溶解

    度の範囲内で阻害が得られず、EC50 が「>○○」などとなっている場合には、その>を取

    った最小値とその 10 倍の値を最大値として区間データとする。このような操作により、「>

    ○○」というデータが多い少ないなどの、剤毎の毒性データの質の違いを補完できる。EC50

    は決定できたが信頼区間は計算できなかった場合は、例えばその EC50 が 15 であれば、有

    効数字を考慮し 14.5~15.5 という区間データとして扱う。

    ソフトウェア Microsoft Excel を用いて SSD の計算ができるファイルを作成した。SSD

    計算用の Excel ファイル「ssd.xlsx」を、(独)農業環境技術研究所の Web サイトからダ

    ウンロードして実行する(http://www.niaes.affrc.go.jp/techdoc/algae/index.html)。計

    算方法は Excel ファイル内に記載されているので、それに従ってデータを入力して SSD パ

    ラメータを求めることができる。ここでは例として、付録 7.4.に掲載した DCP の試験結果

    を用いて SSD を解析する。各種の EC50 の信頼区間から、下限値と上限値の幾何平均値を

    計算し、その順序から累積確率を計算すると表 6 のようになる。このときの累積確率は

    (No. − 0.5)/種数 5 で計算し、幾何平均値を横軸に、累積確率を縦軸にプロットすると感受

    性分布を表現できる(図 16)。最尤法にて推定された SSD パラメータの対数平均は 6.85、

    対数標準偏差 0.651 となり、ここから HC5 は中央値で 295 g/L、90%信頼区間は 61.0

    ~552 g/L と計算された。SSD の信頼区間は Aldenberg and Jaworska(2000)の方法

    で計算するが、Excel ファイルでは自動的に計算されるようになっている。

    表 6. DCP の毒性値と累積確率

    No. 藻類種EC50 区間下限値

    (µg/L)EC50 区間上限値

    (µg/L)幾何平均値

    (µg/L)累積確率

    1 A. minutissima 320 440 375 0.12 P. galeata 520 690 599 0.33 N. pelliculosa 1010 1060 1035 0.54 N. palea 1110 1280 1192 0.75 D. subspicatus 2370 2870 2608 0.9

  • 5. データ整理と統計解析

    河川付着藻類を用いた農薬の毒性試験マニュアル 39

    図 16. DCP の試験データを用いた種の感受性分布(実線は中央値、点線は 90%信頼区間

    を示す)

    5.4. レポーティング

    試験報告書には次の項目について記載する。

    1)試験機関:名称、所在地

    2)試験責任者と試験担当者:氏名、所属および連絡先

    3)被験物質:化学物質の名称(一般名、商品名等も併記)、構造式(示性式、分子式及

    び分子量も併記)、入手先、製造年月日及びロット番号、純度、水溶解度等の物性に

    関する情報

    4)試験生物:種名(学名)および株名、入手先、維持管理方法(培地、光、温度など)、

    参照物質(DCP など)に対する感受性

    5)試験条件と方法:試験開始日および試験期間、試験容器(製品名、材質、形状)、試

    験液容量、初期蛍光強度、試験温度、培地、照度(光源の種類と光周期の情報を含む)、

    試験濃度(公比を含む)と連数、試験液の調整方�