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論文〕 弘前大学経済研究 23 December2000 移転価格課税における独立企業原則の 成立過程に関する 一考察 I アメリカにおける移転価格税制の成 立過程 1 連結納税制度の導入 アメ リカ における移転価格税制の沿革は, 1917 年に遡る。 1917 年に第一次世界大戦の戦費 調達のために, 20%から 60% という高率の超過 利潤税(excessprofittax )が導入された ことに ともない,こ のよ うな高率の累進課税を回避す るために,子会社を 作 って所得を分割したり, 親子会社間で正常な市場価格によらないで税負 担の低い会社に多くの利潤が生ずるように内部 取引価格を操作するといった傾向が生まれた。 このような租税回避行為を防止するために, 1917 年歳入法規則41 号の78 条に次のような規定 を定め, 連結納税制度を強制する権限を内国歳 入庁長官に付与したのである。 I) 「投下資本及び課税所得をより公正に決定 するために必要とする場合にはいつでも,内 国歳入庁長官は,77 条の関連者(affiliated )に 該当する法人に対して,純所得及び投下資本 の連結 申告書を提出することを要求すること ができる。 j この連結納税制度 は, 法律でなく規則の形で 導入されたため違憲訴訟もあり, 1918 年には歳 入法に組み込まれ,その際に超過利潤税だけで はなく,法人所得全体について一般的に適用さ れることとなったのである。2) l ) Regulation41, Article78, WaJ. Revenue Actof 1917, ch. 63, 40Stat.300(1917). 井上久瀬『企業集団税制の研究』 中央経済社,平成 8 年,p. 36 日ヨ この連結納税制度の導入にあたっては,①法 的には別個の存在であるが,経済的には一体を なす親子会社の全体の損益を連結し,実質的租 税負担を可能にする連結納税制度の方法と,② 個々の親子会社聞の取引を正常市場の取引基準 (commercialbasis )によって,その妥当性を個 別に検討する方法,とが検討された。 3 )この 2の方法は,今で言う移転価格課税の方法で ある 。 アメリカ会計士協会(Am ricanInstituteof Accountants )は, 1917 ll 月に財務省内国歳 入局戦時利潤税委員会に対して『超過利潤課税 に対する提言』を提出して連結納税制度の導入 を強く要望した。その要旨は次のとおりであ る。 4) 超過利潤税の下では,今までにないような 租税回避への強し、誘因が存在する 。従って, 仮に,子会社を通じて広範に活動する会社の 納税額が,正常な市場の基準によらないで租 税負担軽減だけの目的のために,親会社が恋 意的に操作する ことができる内部取引によっ て決定されるとすると,租税負担は,利益操 作に対する自重の度合いやその操作の巧拙に 依存することとなる。その結果,良心的な者 に対し重い税負担が課せられることになる。 このような租税回避行為を防止するための方 2 )RevenueActof1918,ch. 18,Sec.240. 井上 ・前掲書 l ) ' pp. 3839. 3) W. SandersDavies(A. I. A.,President ),”Suggestions forAssessmentofExcessProfits The journal of Accountancy, Vol .25,No. 1,1918,pp. 6. 中田信正『アメ リカ税務会計論』中央経済社,平成元年, pp.185-186 4 ) Davies,supra3) ,pp. I 6. - 79 -

移転価格課税における独立企業原則の 成立過程に関する一考察human.cc.hirosaki-u.ac.jp/economics/pdf/treatise/23/... · 2015. 10. 16. · 移転価格課税における独立企業原則の成立過程に関する一考察

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〔論文〕 弘前大学経済研究 第23号 December 2000

移転価格課税における独立企業原則の

成立過程に関する一考察

I アメリカにおける移転価格税制の成

立過程

1 連結納税制度の導入

アメ リカにおける移転価格税制の沿革は,

1917年に遡る。 1917年に第一次世界大戦の戦費

調達のために, 20%から60%という高率の超過

利潤税(excessprofit tax)が導入されたことに

ともない,このような高率の累進課税を回避す

るために,子会社を作って所得を分割したり,

親子会社間で正常な市場価格によらないで税負

担の低い会社に多くの利潤が生ずるように内部

取引価格を操作するといった傾向が生まれた。

このような租税回避行為を防止するために,

1917年歳入法規則41号の78条に次のような規定

を定め, 連結納税制度を強制する権限を内国歳

入庁長官に付与したのである。I)

「投下資本及び課税所得をより公正に決定

するために必要とする場合にはいつでも,内

国歳入庁長官は,77条の関連者(affiliated)に

該当する法人に対して,純所得及び投下資本

の連結申告書を提出することを要求すること

ができる。j

この連結納税制度は, 法律でなく規則の形で

導入されたため違憲訴訟もあり, 1918年には歳

入法に組み込まれ,その際に超過利潤税だけで

はなく,法人所得全体について一般的に適用さ

れることとなったのである。2)

l ) Regulation 41, Article 78, WaJ. Revenue Act of 1917, ch.

63, 40 Stat. 300 (1917). 井上久瀬『企業集団税制の研究』

中央経済社,平成8年,p.36

官日ヨ 久

この連結納税制度の導入にあたっては,①法

的には別個の存在であるが,経済的には一体を

なす親子会社の全体の損益を連結し,実質的租

税負担を可能にする連結納税制度の方法と,②

個々の親子会社聞の取引を正常市場の取引基準

(commercial basis)によって,その妥当性を個

別に検討する方法,とが検討された。3)この

第2の方法は,今で言う移転価格課税の方法で

ある。

アメリカ会計士協会(Am巴ricanInstitute of

Accountants)は, 1917年ll月に財務省内国歳

入局戦時利潤税委員会に対して『超過利潤課税

に対する提言』を提出して連結納税制度の導入

を強く要望した。その要旨は次のとおりであ

る。 4)

超過利潤税の下では,今までにないような

租税回避への強し、誘因が存在する。従って,

仮に,子会社を通じて広範に活動する会社の

納税額が,正常な市場の基準によらないで租

税負担軽減だけの目的のために,親会社が恋

意的に操作する ことができる内部取引によっ

て決定されるとすると,租税負担は,利益操

作に対する自重の度合いやその操作の巧拙に

依存することとなる。その結果,良心的な者

に対し重い税負担が課せられることになる。

このような租税回避行為を防止するための方

2 ) Revenue Act of 1918,ch. 18, Sec. 240. 井上 ・前掲書

l ) ' pp. 38 39. 3) W. Sanders Davies (A. I. A., President),”Suggestions

for Assessment of Excess Profits,” The journal of

Accountancy, Vol. 25, No. 1, 1918, pp.ト6. 中田信正『アメ

リカ税務会計論』中央経済社,平成元年, pp.185-186 4 ) Davies, supra 3), pp. I 6.

- 79 -

法としては,全ての取引を純粋な市場の取引

基準に引き直して課税する方法と,親子会社

の事業を一体のものと見なして,親子会社双

方の投資資本からの連結所得に基づいて課税

する方法とが考えられる。 しかしながら,前

者の方法は,他に有益な目的を達成せず,税

務当局,納税者の双方に際限のない事務的負

担を負わせることになろう。後者の方法は,

会社そのものによって実務上採られている方

法であり,会計士,銀行及びエコノミストに

よって真実の状況を表示するために必要と認

識されているものであるから,追加的な負担

を負わすことはない。また,この方法は,納

税者の協力を確実にするものであり,租税回

避行為を思いとどまらせ,税務当局の実務的

業務を軽減するであろう。しかも,この方法

の最大の利点は,税負担が,内部取引関係に

よって左右されない本質的な事実に基づいて

決定されることにある。従って,税負担が真

実の状況に基づく税額よりも過大とならない

ように,再調整する必要はないと言うことで

ある。

また, 1918年歳入法に組み込み,法人税につ

いても連結納税を強制適用することにするにあ

たって,上院財政委員会報告はその論拠を次の

ように述べている。 5)

「その直接的な効果に関する限りでは,連

結は税額を増加させる場合もあれば減少させ

る場合もあるが,その一般的で恒久的な効果

は,他の方法ではうまく防ぐことができない

脱税を防止することにある。 ーさらに,税

法が連結を要件とする規定を有していない

と,通常は一つの企業の支店として経営され

る活動を分割し又は独立の法人組織とするこ

とにほとんどあがらうことのできない有利さ

をもたらす。これらの方法又は組み合わされ

た方法により脱税する可能性が,納税者の聞

に広がってきていると言うことを示す証拠が

増加してきている。…一・当委員会は,連結申

5 ) Sen. Rep. No. 617, 65th Cong., 3rd Sess., 9 (1918)

告は歳入を減少させるのではなく歳入を保全

するのに役立つと信ずるが,連結申告の採用

を勧告する理由は,基本的にはそれが脱税を

防止するために働くこと又は歳入効果に基づ

くものではなく,実態として一つの事業単位

であるものを一つの事業単位として課税する

原理が,健全であり,公平であり,かつ,納

税者と政府の双方にとって便宜であることに

基づくものである。J

以上から見ると,上記第 2の移転価格課税の

方法は,税務当局,納税者の双方に際限のない

手続き上の負担を負わせるものであるとして見

送られ,第 lの連結納税制度の方法の方が税務

当局,納税者の双方にとって実践的,便利かっ

公正であるとして採用されたと言って良いであ

ろう。しかし,ここで注目したいのは,上院財

政委員会報告において,実態として一つの事業

単位であるものを一つの事業単位として課税す

ることが,健全であり,公平であると指摘され

ていることである。そして,連結納税制度の方

法を採用することによって,上記『超過利潤課

税に対する提言』において指摘されているよう

に3 真実の状況を反映し,従って真実の所得を

把握することを可能にし,関連会社全体として

みると過大な所得の算定(所得の創造)がなさ

れ,経済的な二重課税が招来されるとしづ移転

価格課税が有する本来的な欠陥を排除すること

が可能であることが認識されていたと言うこと

である。

その後,超過利潤税の廃止にともなって,連

結納税制度もその性格を変え,租税回避防止目

的から,親子会社の所得が分割されることによ

って未実現利益に課税するのは不合理であるた

め,これを防止するとの発想に転換し,納税者

の利益のため連結納税制度が存続され, 1921年

に,納税者の選択により適用されることになっ

た。しかし,超過利潤税が廃止されても外国貿

易子会社を通じての子会社利潤の恋意的な移転

を防止することは依然として重要な課題として

残っていた。そのため, 1921年歳入法は,一方

において連結納税申告の選択について内国歳入

80一

移転価格課税における独立企業原則の成立過程に関する一考察

庁長官の許可と継続適用と言う要件を設けると

ともに(歳入法第240条(a)),他方において次

のような規定(歳入法第240条(d))をおいて,

内国歳入庁長官に,利得,所得,控除又は資本

の正確な配分ないし割当を行うために関連企業

の会計を連結する権限を与えた。つまり,この

時期の連結納税制度には,納税者の利益のため

の来実現利益課税の排除と国の財政収入確保の

ための恋意的利益操作の規制という全く性格の

異なる機能を果たすという二重の性格が与えら

れていたのである。 6)

「本条の適用上,第262条(属領の源泉から

の所得に関する法人の規定)の思典を受ける

権利を有する法人は外国法人として扱われな

ければならない。法人格を有するか,米国に

おいて設立されたかどうかを問わず,同一の

利害関係者により直接又は間接に所有され又

は支配されている 2以上の関連する営業又は

事業のいずれに対しても,内国歳入庁長官は,

それらの関連する営業又は事業聞において,

利得,利益,所得,所得控除あるいは資本の適

正な分配又は配分を行うために,適切ないず

れ場合にもそれらの関連する営業又は事業の

勘定を連結することができる。J

2.移転価格税制の成立

外国子会社を設立することによる所得の怒意

的な移転等を防止することを目的として, 1928

年には,連結納税制度の条項から独立して,現

在の内国歳入法第482条の前身とも言うべき歳

入法第45条を新設し,内国歳入庁長官に関連会

社聞の所得と控除の配分に関する広範な権限を

付与した。歳入法第45条の規定は次のとおりで

ある。 7)

「2以上の組織,営業若しくは事業(法人

格を有するか,合衆国において設立されたも

6 ) Revenue Act of 1921, ch. 136, Sec. 240. Sen. Rep. No.

275, 67出 Cong.,lstSess., 19-20 (1921). 井上 ・前渇書 l) '

p. 40. 矢内一好『移転価格税制の理論』中央経済社,平成lI

年, pp.22-23.

7 ) Revenue Act of 1928, ch. 852, Sec. 45

のであるか否か,及び連結申告をする要件を

満たしているか否かを問わない。)が,同一

の利害関係者によって直接又は間接に所有又

は支配されている場合には,内国歳入庁長官

は,脱税を防止するため,又は当該営業若し

くは事業の所得を正確に算定するために必要

と認められるときは,当該営業若しくは事業

の聞において,総所得又は所得控除を配分し,

割当て又は振り替えることができる。」

この規定は,政府に脱税への適切な防御を与

えるために,従来の規定を大きく拡張したもの

であり,脱税(利益の移転,仮装売上,搾取

(milking)のために利用されるその他の方法に

よる)を防止し,関連者の真の租税債務を正確

に算定するするために必要な調整権限を内国歳

入庁長官に与えたものであると説明されてい

る。 8)その趣旨は,外国子会社を設立するこ

とによる所得の恋意的な移転等を防止すること

であった。すなわち,米国と課税管轄権の異な

る外国に所在する子会社は連結の対象にならず

他の内国法人に比較して有利になることから,

当該規定は,内国歳入庁長官に広範な権限を与

えることでこの種の租税回避を防止することを

企図したのである。 9)

しかし,この歳入法第45条は所得配分等の方

法について何ら規定していなかった。 1934年,

財務省は歳入法第45条に関する規則を定め,所

得配分のための基本原則として「独立企業基準

(紅m’slength stand紅d)Jを採用し,次のよう

に規定している。 10)

「全ての場合に適用される基準は,他の非

関連の納税者と独立に取り引きする非関連の

納税者のそれである(Thestandard to be ap-

plied in every case is that of an uncontrolled

taxpayer dealing at紅 m’slength with another

uncontrolled taxpayer.)。J

これは,後述する 国際連盟の『1933年事業

8 ) H. R. Rep. No. 2, 70th Cong., 1st Sess., 16 -17 (1928).

Sen. Rep. No. 960, 70出 Cong.,1st Sess., 24 25 (1928).

9)矢内・前掲書6)' pp. 22 23

10) Treasury Regulation 86, Art. 45-l(b), 1935

,i

oo

所得の配分に関する条約案』に基づくものであ

る。従って,アメリカにおいても移転価格税制

は,いち早く導入されたものの,所得配分の基

準である独立企業原則の誕生は,国際連盟にお

ける検討を待たねばならなかったのである。

なお, 1954年の内国歳入法の大改正の際に,

第45条は,第482条に改組された。

以上のような歴史的経緯を振り返ってみる

と移転価格税制は,連結納税制度とコインの

表と裏のような密接な関係にあり,連結納税制

度が適用できないような場合に移転価格税制を

発動しようしたことが窺える。しかも,連結納

税制度の場合,真実の状況を反映し,従って真実

の所得を把握することを可能にし,関連会社全

体としてみると過大な所得の算定(所得の創造)

がなされ,経済的な二重課税が招来されると言

う移転価格課税が有する本来的な欠陥を排除す

ることが可能であるということが制度的にも認

識されていたことは注目すべきであろう。

II 二重課税防止のための検討 (経済的

利害説)

第一世界大戦以前は,所得税が導入されてい

ても税率が低く,移転価格による租税回避や二

重課税の問題は大きな問題とはならなかった。

しかし,第一次世界大戦にともない,戦争国が

新しく所得税を課したり,今までの税率を引き

上げたことから,二重課税問題は国際通商面に

も影響を及ぼすようになり,国際的な問題とし

て取り上げられるようになった。このようなな

かで, InternationalChamber of Commerceに

よる国際的二重課税を排除するための方策を講

ずるべしとの提案(1920年)を受け,国際連盟

は, 1921年に 4人のエコノ ミス トである専門家

に,二重課税問題及び防止方法の理論的基礎研

究を依頼した。この研究成果をまとめたのが,

『二重課税に関する専門家報告』である。 11)

II) Bruins, Finaudi, Seligman, and Stamp,“Report on Double Taxation submitted to Financial Committee,” Economic Financial Commission, League of Nations, E. F. S. 73F. 19, 1923.

この報告の基本的立場は,租税の負担は,応

能負担の原則によって決められ, 一度だけ課税

されるべきであって,その負担の総額を納税者

が課税管轄権に対して有する利害(interests)に

応じて配分するべきであるとする,いわゆる

経済的利害説( thedoctrine of economic alle-

gianc巴)に立つものである。以下,本報告の経

済理論的側面を中心に紹介する。

1. 応能負担の原則と経済的利害

租税の根拠に関する理論としては,古くから

社会契約説に基づく交換説があり,これには費

用説と利益説の二つの形態がある。費用説は,

政府が行うサービスの費用に対して租税は支払

われるものであるとするものであり ,利益説は,

個人に付与される利益に応じて租税は負担され

るべきものであるとするものである。しかし,

このような単純な交換説では,財産がある国に

あり,その財産の所有者が他の国にいる場合に

は,費用にしろ利益にしろ,これらの国の間で

配分する適切な方法がなく,二重課税の問題は

解決できない。従って,交換説の概念をも包含

するより包括的な理論である応能負担の原則に

基づいて考えるべきであるとするのである。応

能負担の原則は,財産等の物に対する課税には

なじまないとする批判もあるが,租税の最終的

な負担者は人であるということからすれば,適

用可能であるとする。

応能負担の原則に基づいて決められた租税負

担額を,納税者が国に対して有する利害に応じ

て,それぞれの国に対し配分することになるの

であるが,その利害の根拠として従来より揚げ

られてきたものには次のようなものがある。

① 政治的義務(politicalallegiance)

国民(市民)としての権利 ・義務関係に

基づく利害関係である。しかし,現代社会

では,人の国際的な移動及び資本の国際的

移動を考えると適切なものとは言えなくな

ってきている。

②居所(residenc巴)

一時的滞在をもって判断する考えである

- 82 -

移転価格課税における独立企業原則の成立過程に関する一考察

が,たまたまある国を旅行していたと言う

だけで,全ての所得に対してその国により

課税されると言うのは,不合理であり,この

基準は不適切であると言わざるを得ない。

③ 住所地(domicile)

住所地のある国に利害が存するという考

えである。確かに住所地を有するものは,

その国に対しその費用をまかなうため租税

を負担しなければならないことは,疑いの

余地のないところである。しかし,外国に

住所地を有する者がある国において財産を

有する場合や事業を行う場合には,その国

は,財産や事業の保護 ・支援のための費用

をまかなうための歳入を確保できないこと

となり ,完全な判断基準とは言えない。

④ 富の所在地(locationof wealth)

この判断基準は,ある程度正当なもので

ある。財産を所有する者は,財産の所在地

国に対しその国を支援する義務を負う。富

の所在地国の基準は財産に関しては適切で、

あるが,所得に関しては不十分であり,源

泉地と読み替える必要がある。しかし,源

泉地と富の所在地は,必ずしも一致するも

のではなく ,A国に所在する財産から所得

が生じ,その財産の証券は B国にあると

いう場合もある。さらに,その財産につい

ての管理 ・指示は C国において行われ,

財産の所有者は D国に居住している場合

もある。

以上の考察から明らかなように, 上記④の富

の所在地が唯一の判断基準ではなく,選択肢は

上記③の住所地と④の富の所在地の間にある。

全体として考えたときに,課税当局が③の住所

地と④の富の所在地との間で迷う理由は,双方

ともより広い判断基準の概念である経済的利害

又は経済的義務(economicinterest or economic

allegiance)の一部分であるからである。

2 .経済的利害説(thedoctrine of economic

allegiance)

経済的利害説は,租税は総額において個人の

有する総資源(能力)に応じて累進的に課税さ

れ,その個人が経済的利害を有する国々の政府

に,経済的利害の程度に応じて分割して支払わ

れるべきとするものである。経済的利害の真の

意味を知るためには,次の4つ段階を考慮する

必要がある。

① 富の生成又は取得 (productionor acqm・

sition of w巴alth)

富の生成とは,富が実現するまでのあら

ゆる段階を意味する。すなわち,物理的な

生産物が,完全な経済的目的物に達成し,

富と して取得されるまでのあらゆる段階を

指す。例えば,カリフオノレニアのオレンジ

は,摘果され,包装され,輸送され,市場

に出されて,消費者の手に渡って初めて富

を実現したことになる。従って, これらの

段階毎に,異なる国が関わってくる可能性

があるのである。

② 富の所在地(locationof wealth)

③ 富の処分権限(enforceabilityof仕ierights

to wealth)

富の処分権限とは,富に対する所有権限

を設定し,それを保有する権限が付与され

る段階を指す。これらは,法的安定性を付

与するものであり,富の保有者はその国に

対し経済的利害を有する。処分権限のない

富は,経済的意味をほとんど有しない。

④富の処分又は消費(dispositionor con-

sumption of wealth)

富の処分又は消費とは,富がその富の処

分権限を有する最終所有者に達する段階を

指す。富の最終所有者は,富を消費,再投

資又は浪費することができ,これらの意思

の行使権限は最終所有者にあるから,租税

の負担能力があることは明らかである。

上記4つの段階はそれぞれ,その課税の場所

(国)の重要性を判断する要素となる。すなわ

ち,①の富の生成又は取得は,富の源泉地に対

応し,②の富の所在地は,富の物理的な所在地

(situs)に対応し,③の富の処分権限は,富に対

する権限の行使の場所に対応し,④の富の処分

- 83 -

又は消費は,富の所有者の居住地又は住所地に

対応する。

これらの要素のなかで,重要なのは,①の富

の生成又は取得,すなわち富の源泉地と,②の

富の処分又は消費,すなわち富の所有者の居住

地又は住所地であり,他の要素はこれら二つの

要素を補完するものとされた。

3.富の種類と課税

富(又は財産)の種類毎にそれから発生する

所得について,上記の経済的利害の判断基準に

基づいて,①富の生成又は取得,すなわち,富

の源泉地に関連を有するか(源泉地国),②の

富の処分又は消費,すなわち,富の所有者の居

住地又は住所地に関連を有するか(居住地国)

によって,所得の分類毎に,源泉地国,居住地

国のいずれが課税権を持つことが望ましいかを

判断することとなる。例えば,会社株式からの

配当所得については,会社の活動が行われる国

も確かに重要であるが,会社の役員や支配人を

選ぶのは株主であり,ここで問題とされている

のは法人の課税ではなく,株主の課税なのであ

るから株主の居住地が決定的に重要である。も

し,源泉地のみで課税されるとなると,人々は

その全財産を外国への投資に向けてしまうであ

ろう。その結果,居住地国には税収が入らない

こととなる。さらに,現代では,居住地を移動

させる人は,証券投資を増加させる傾向にある。

以上のような理由から,会社株式からの配当所

得については,居住地によって判断するのが適

切であるということになる。

4 総合所得と経済的利害

総合所得(事業所得)課税において,所得に

対して課税する場合,全体の利益を確定して,

それを経済的利害の程度に応じて,それぞれの

国に配分することになる。しかし,極端な場合,

生産,加工等販売の段階までは非常にうまくい

っていたのにもかかわらず,販売の段階で失敗

し,利益がなくなってしまうといった事態も考

えられる。このような場合,生産段階の国に対

しても,利益の配分が全くなされないことにな

る。

しかもz 生産,輸送,販売,管理,法的機構

などそれぞれが別々の国でなされるような複雑

な取引の場合,それぞれの固に配分すべき利益

を正確に決めるのは,不可能であろう。従って,

総合所得(事業所得)については,各国の経済

的利害に応じてその利益をそれぞれの国に量的

に配分することは,現段階においては困難であ

る。このような配分を行うためには,さらにそ

れぞれの構成要素について検討する必要があ

る。

なお,報告の補遺においてであるが,経済的

活動の諸段階が複数の国において行われる場

合,事業の性質によって異なるが,次のような

基準要素を配分基準の要素として考えることが

できるとしている。

① 売上高 ② 資本 ③ 在庫

④ 資産,不動産(物理的な面積等で表示)

⑤ 人件費,施設費 @ 債権,債務

このような,基準要素を検討するにあたって

は,利益を生み出す事業がそれぞれの国に対し

有する経済的義務(economicobligation)の観点

から判断しうるとしている。しかしながら,経

済的義務の例示として,製造,販売の両方を行

う場合には,販売のみを行う場合よりも大であ

ると言った例を揚げているが,明示的な定義は

していない。

5. 二重課税防止のための具体的方法

二重課税救済のための具体的方法としては,

次の4つの方法が考えられる。

① 外国税額控除方式

国外所得に対して課税された税額を,居

住者の居住地国に対する租税債務から控除

する方式である。この方式によれば,債権

国の国庫が債務国に納付される租税を自国

の税収を犠牲にして負担することになり,

債務国は非居住者による投資を免税にする

と言った措置を執らなくなる。従って,債

権国がこのような条約に合意するか疑問で

- 84 -

移転価格課税における独立企業原則の成立過程に関する一考察

ある。

② 源泉地国免税方式

源泉地国が非居住者の国内源泉所得を免

税とする方式である。源泉地国にとって,

資本流入を促進する効果がある。

③租税を分割する方式

源泉地固と居住地固との問で,条約によ

り特定の税について分割する方式である。

④ 所得の種類により源泉地課税を認める方

所得の種類毎に,源泉地国において源泉

地課税を行うか,免税とするかを条約によ

り決め,居住地国では当該所得に対する源

泉地での課税額を控除する方式である。こ

の場合,既に述べた経済利害説に基づいて

所得を分類し,上記「 3.富の種類と課税J

において述べたごとく,源泉地課税とする

か,居住地課税とするかを決めることが望

ましい。

理論的には,第4の方法(@所得の種類によ

り源泉地課税を認める方式)が,最も望ましい

と考えられる。しかし,総合所得(事業所得)

に関しては,前述のように事業ーっとっても複

雑すぎて,第4の方法を正確に適用することは

不可能である。第 3の方法(@租税を分割する

方式)を組み合わせて,配分を行う方法も魅力

的であるが,どのような配分比率を使用するか

を経済理論的に示すことはできない。その上,

税制の相違,政治的利害の相違などを考えると,

イギリスの自治領のような特殊なケースを除

き,実際的ではないと考えられる。

他方,第2の方法 (②源泉地国免税方式)は,

両国が経済的に同じような地位にあるときに

は,両国の国庫にとってそう大きな差違はなく,

二重課税防止の最も即効的な方法であろう。ま

た,第 2の方法は,債務国にとって資本の流入

を促進するという効果を持ち,経済的にも支援

されるであろう。さらには,理論的な正確さか

らくる煩雑さを,免れることができる。第 lの

方法(①外国税額控除方式)については,債権

国と債務国の問で合意に達し得ないであろう。

85

結論としては,非居住者の所得を相互免税と

する第 2の方法が,二重課税を排除する方法と

して最も実際的な方法であろう。 しかし,あく

まで源泉地課税の原則を放棄することができな

い国については,第4の方法に第 3の方法を加

味した方法を採ることになるであろうが,その

ときでも第2の方法に似た執行制度を採ること

が望ましい。

6.報告の評価

以上のように,『二重課税に関する専門家報

告』は,経済的利害説に基づく所得の国家間で

の配分を提案しながら,結論においては具体的

な二重課税防止の方式として源泉地国免税方式

が実務上最も望ましいと主張するという,理論

的一貫性を欠く報告となってしまった。しかし3

経済的利害と言う概念に基づいて,分割すべき

との理論的方向性を打ち出した点は,評価すべ

きであろう。また,その補遣においてではある

が,事業所得の定式利益配分法の原型とも言う

べき方法に言及していることは,注目すべきで

あろう。

国際連盟では,この報告を受け主要国の租税

専門家から構成される専門家会議を開催して,

具体的なモデ、ル租税条約の検討作業に入り,

1928年に『1928年国際連盟モデノレ租税条約』を

作成した。このモデル条約においては,企業が

両国に恒久的施設を有する場合には,各締約国

は,その領土内において生じた所得部分につい

て課税するものとし,配分の基準について各締

約国は取り決めをするものとした。そして,そ

のコメンタリーにおいて,配分の基準として,

事業の性質により,資本の額,労働者の数,支

払った賃金,売上額等が考慮されるだろうと述

べている。 12)

なお,その後,国際連盟においては,多国間

条約の締結を勧告しようとしたが, 1928年10月

総会で,多国間条約が締結されることが望まし

12) League of Nations,“Double Taxation and Tax Evasion”,

Doc. C. 562. M. 178. 1928.日

いが,現在の各国租税制度の多様性を勘案する

と全員が承認できる条約の勧告は不可能である

とされた。 13)

III. 独立企業原則の誕生

事業所得の配分方法については,未解決のま

ま引き続き検討されることとなり, 1930年,国

際連盟の小委員会は,アメリカ財務省のキヤロ

ルにこの研究を依頼した。キャロルは各国(ア

メリカの 3州を含む)の配分方法を調査し, 1933

年に報告書(以下,『キヤロノレ報告書』という)

を出した。 14)

本報告書は,各国のそれぞれの経済状況に応

じて各国の租税制度が異なり,統一的な事業所

得配分の原則は不可能であると言う主張は,根

拠のないものであるとし,基本的な法的配分の

原則は,適用の方法は異なるものの大部分の国

において同じであるとし,むしろ世界的に統一

化の方向にあるとしている。そして, 個々の(恒

久的)施設又は企業は,独立の会計(sep紅 ate

accounting)を基礎として,可能な限り独立の企

業として取り扱われ,独立企業が同僚の状況で

類似の活動に従事したとしたならばその国にお

いて取得したであろう事業所得を配分するべき

であるとする,独立企業原則を打ち出したので

ある。

以下,『キャロル報告書』の独立企業原貝ljに

かかる理論的部分について,その概要を紹介す

る。

1 課税管轄権の原則(principlesof fiscal juris-

diction)

この原則は,課税上の居住地(fiscaldomicile)

の概念と源泉(source)の概念以外の租税債務の

13)徳永匡子「移転価格税制の成立と限界」『税務大学校

論叢』, 26号,税務大学校, 1996.pp. 386 387

14) Mitchell B. Carroll,“Taxation of Foreign and National Enterprises (Volume N) Methods of Allocating Taxable

Income.'’ League of Nations, Doc. C. 425(b). M. 217(b) 1933.

Il. A. pp.169-213.

86

原因となる概念を排除し,課税上の居住地及び

源泉の概念、について統一的に定義し,所得の源

泉を国の課税管轄権内に厳格に制限することを

要請するものである。このようにすることによ

って,外国法人の利益に課税するために源泉の

概念を伸縮自在に拡大すること,とるに足らな

い何らかの経済的関連性があることのみによっ

て外国源泉の所得に課税すること,外国にある

施設の如何にかかわらず全ての所得を圏内源泉

所得として課税すること,などが防止される。

換言すれば,国は,外国法人についてその国の

課税管轄権内の源泉から生ずる所得のみについ

て課税権を有し,課税管轄権を越えて課税すべ

きでないという ことである。

特定の所得が,ある特定の源泉に帰属される

とするならば,源泉が所在する固と納税者の居

住地国の2カ国のみが課税権を主張することが

できる。特定の所得について源泉を確定するこ

とにより ,源泉地が錯綜することによる二重課

税を防止することができる。居住地国が,源泉

地国が課税した所得を含め全世界所得に諜税す

ることによって生ずる二重課税は,両国の課税

を調整することによって排除することができる

のである。従って3 まず必要なのは特定の源泉

に帰属できる所得項目と異なる課税管轄権内に

ある複数の源泉から生ずる所得とを区分し,ど

の所得について配分することが必要なのかにつ

いて合意し,それを適切な方法によって配分す

ることである。

この課税管轄権の問題及び二重課税救済の方

法については,二国間条約や『1928年国際連盟

モデル租税条約』に解決策を見いだすことがで

きる。

一般に,産業上,商業上及び自由職業上の業

務を行うことによる所得の源泉は,当該所得が

生じた施設にある。複数の施設の共同によって

所得が生ずる場合には,所得の発生に寄与した

施設を特定し,それにどれだけの所得を帰属せ

しめるかを決定しなければならない。

1928年の国際連盟モデノレ条約で、は,事業所得

については恒久的施設が所在する国において課

移転価格課税における独立企業原則の成立過程に関する一考察

税され,企業が両国に恒久的施設を有する場合

には,各締約国は,その領土内において生じた

所得部分について課税するものと し, 配分の基

準について各締約国は取り決めをするものとし

た。15)

2 子会社の取り扱い

『1928年国際連盟モデ‘/レ租税条約』(No.I a)

の第5条における企業(恒久的施設)には,法

人の子会社は含まれないことは明らかであ

る。16)

支店に商品を販売するときには利益が計上さ

れないが,子会社の場合,法的には別組織であ

るから,子会社に対し販売されるときには利益

が計上される。確かにグループ全体としてみれ

ば,第三者に対し販売されるまで利益がでたの

か損失がでたのか解らない。また,親会社にと

って,子会社と支店は,その役割は何ら変わら

ないことも事実である。

しかしながら,子会社又は関連会社は,十分

な資本を有し,他の企業とも独立に取引を行う

ことによってその利益を決定するのであるか

ら,企業の恒久的施設と見なすべきでなく,そ

の国の法人企業と同様に,法的に独立の企業

(independent legal entity)として取り扱うべき

である。関連会社聞の取引について,独立企業

聞の取引を基礎と して取り扱うことは,全ての

配分の問題を除去してくれる。

もし,子会社又は関連会社の利益が査められ

るような方法で,関連会社聞の取引が行われた

ときには,関連会社間取引を調査し,その条件

及び結果について,健全な法的,経済的原則に

照らして,又は,同様の状況において類似の活

動に従事している独立企業と比較することによ

り,歪められた利益を取り戻せば良いのである。

すなわち,独立企業が同様の状況で類似の活動

に従事したとしたならばその国において取得し

たであろう(whatwould be earned within出e

15) League of Nations, supra 12), p. 8 and p. 12.

16) League of Nations, supra 12), p. 8 and p. 12.

coun仕yby an indep巴ndententerprises engaged

in similar activities under similar conditions )事

業所得を基礎として(すなわち,独立企業原則

に基づいて),子会社又は関連会社に歪められ

た所得を配分するべきであるとするのである。

もちろん,既に他の国によって課税された利益

が,歪められた所得として取り戻されるならば3

対応的調整が行われないと二重課税が生じるこ

とになる。

3. 事業所得配分の原則

外国企業の(恒久的)施設に課税する方法と

して,次の二つの基本的方法がある。

①独立の会計を基礎として,可能な限り独

立企業として取り扱って課税する方法ー

独立会計方式(separateaccounting me出od)

と呼ぶ。

@企業は有機的統一体であり 3 企業全体の

総純所得の当該施設の相対的重要性に対応

する部分ついて課税する方法ー 割合配分

方式(fractionalappo出onmentme出od)と

呼ぶ。

割合配分方式の支持者は,統一企業体では,

商品が第三者に売却されるまで利義が確定せ

ず,各々の機能及び各施設に帰属される所得を

正確に決めることは不可能であるから,利益を

一定の経験的基礎一例えば任意の配分公式ーに

基づいて配分すべきであると主張するのであ

る。さらに,この方法が応能負担の原則に基づ

いて企業に課税する唯一の方法であると言う。

しかしながら,この方法については次のような

問題がある。

イ.居住地国のみが,全世界所得に対して課税

することができるという一般に認められた原

則からすると,支店施設の所在地国に対し,

当該支店施設に帰属する所得を決定するため

に企業の全世界所得に対する課税管轄権を認

めることは,論理的に矛盾すること。

87ー

ロ.全世界所得を支店施設所在地国がその国の

法律に従って正確に決定することは,減価償

却費ーっとっても情報入手の面からいって非

常に困難であること。正確な所得を把握する

ための努力(例えば,税務当局者の派遣)は,

企業,税務当局双方にとって負担を軽減する

よりも,増大するであろう。

ハ.ある国の支店施設は利益を計上し,他の国

の施設は赤字を計上することは間々あること

であり,これらは,それぞれの国の経済状況

を反映した結果でもある。全世界所得を配分

するということは,その利益も損失もともに

プールするとし、うことであり,それを実際の

所得の源泉ではなく,任意の要素によって,

均等に配分するということである。発生した

所得が明らかに大きな国は,これに対する課

税権を放棄することに同意するであろうか。

ニー割合配分方式を採用するにあたっての最も

実際的な困難は,全世界所得の確定方法とそ

れを配分する基礎について,各国が合意に達

することができるかどうかである。このよう

な一般的合意は,ほとんど不可能であろう。

他方,各国における会計勘定を維持すること

を要求する商法の規定,会計方法,言語及び通

貨の相違,税関の要請など全て独立会計方式を

支持する。経済的諸条件の相違は,利益獲得能

力の相違につながり,そしてそれは支店施設所

在地国の独立企業と同じ基礎の下に維持されて

いる支店施設の独立会計に反映される。

以上のことから,二重課税防止のための制度

は,課税権が外国企業の恒久的施設に帰属する

所得部分のみに限定されるという原則から黍離

すべきでなく,恒久的施設に帰属する所得は独

立会計(sep訂 ateaccounting)を基礎として決定

されるべきである。

独立会計の目的は,大きく 言って次のとおり

である。

① 恒久的施設の課税所得及び経費を反映す

る会計を維持し,分離できない所得,経費

についてのデータを提供すること。

② 未実現の利益に課税することをできうる

限りなくすこと。

③ 企業全体のデータを使用することを最小

限に押さえ,検証可能な恒久的施設に直接

かかわるデータを利用することによってこ

れらの目的を達成すること。

本店は,支店施設の会計の検討のために,各

支店の取引から生ずる利益,損失が判別される

ような会計帳簿を整備すべきである。

納税者が課税目的上充分な独立会計を維持し

ていない場合には,経験的方法や推計的方法に

よらざるを得ない。この場合において,脱税が

関わるようなときには,二重課税は自ら招いた

罰とせざるを得ないであろう。経験的方法とし

て,売上所得率が最もよく使用されているが,

これを唯一の方法とするのは,賢明ではない。

そのような方法を用いる場合においても,税務

当局は,同様の状況で類似の活動に従事したと

したならば取得したであろう所得に限定して課

税すべきである。

前述のとおり,独立会計が原則として採用さ

れるべきであって,独立会計が不可能な場合や

実際的でない場合に限って,例外的に割合配分

方式は採用されるべきである。

4 事業所得の配分基準

配分方法として,最も公正で,実際的な基準

は,独立企業が同様の状況で類似の活動に従事

したとしたならばその固において取得したであ

ろう(whatwould be earned within the coun仕y

by an independent enterprises engaged in

similar activities under similar conditions)事業

所得を基礎とする配分基準(独立企業原則)で

ある。この方法が,適切に適用されるならば事

業所得を重複して課税することなく,その支店

施設聞に自動的に配分することができ,割合配

分方式に依存する必要もほとんどなくなるであ

ろう。支店施設が他の支店施設と共同して複数

の異なる業務を行っている場合,それぞれの事

業毎に事業所得を配分する必要がでてくる。

事業所得の具体的な配分基準は,次の二つに

大きく分類される。

① 企業に提供された役務に対する報酬を基

礎とする方法…ー役務報酬基準(remu-

neration for services criterion)

- 88ー

移転価格課税における独立企業原則の成立過程に関する一考察

②独立に(at紅 m’slength)取り引きする独

立企業の問でみられる価格での取引を基礎

とする方法一一独立企業問販売基準(sale

between independents criterion)

上記①の役務報酬基準では,経営の実質的中

心(realcen仕Eof management)が主たる生産的

な施設であり,他の施設は例え製造,加工,販

売など、を行っていたとしても第二次的な施設と

見なし,独立企業がそのような業務を役務とし

て提供することによって得る報酬(又は手数料)

に相当する報酬を受け取って,当該業務を行う

ものと見なされる。従って,各支店施設に配分

された報酬相当部分を除いた残りの利益(文は

損失)は,経営管理を行い,リスクを負担する

経営の実質的中心である施設に帰属するものと

される。

上記②の独立企業問販売基準では,製造,加

工,販売等を行う各施設を独立企業と見なし,

各々の施設は,適切な利益を付加して次の施設

に販売し,購入した施設は適切な利益を付加し

てさらに次の施設へと販売し,最後に販売施設

が独立の販売業者と同様に公衆に対し販売する

との仮定に基礎を置く。従って,この方法によ

れば,原則として外部の第三者に販売されるま

で利益は生じないことになる。この例外として

は,原材料がある国で製造され, 他の国の施設

に移される場合である,この場合には,原材料

の船積みの時点の世界市場価格により, 販売さ

れたものとして取り扱うべきである。その理由

は,これらの原材料の最終販売まで追跡するこ

とは,その加工過程において,個別に識別する

ことができなくなり ,実行不可能であるからで

ある。

租税は,純所得に対して課税されうるから,

粗所得又は利益から関連経費や損失を控除しな

ければならない。上記①の役務報酬基準による

ときには,役務報酬又は手数料の総額から,そ

の施設の実際の経費を控除すれば良い。一方,

上記②の独立企業問販売基準では,各施設の課

税所得である純利益を求めるには,総利益から

間接経費,それもその支店施設の実際経費のみ

ならず,本店経費,その支店施設の運営のため

に借り入れられた資金に対する利子,損失負担

部分などを控除しなければならず,独立的でな

い支店施設に適用するのには,適当でない。従

って,支店施設の事業所得の配分には3 簡明さ

と実際性からいって,可能な限り役務報酬基準

の方が推奨される。

5 報告書の評価

以上のように,『キャロノレ報告書』において,

二重課税防止のための事業所得配分の原則とし

て,独立企業原則が初めて打ち出され,ここに

独立企業原則が誕生したのである。しかも,そ

の対比の方式として割合配分方式が念頭に置

かれていたことは注目すべきであろう。

割合配分方式は,現在の独立企業問価格算定

方法の分類のなかで考えると「利益配分法」の

うちの「定式利益配分法」にあたる。 17)これ

は,『OECDガイドライン』で言うところの「全

世界定式配分法(globalformularly appo出onment

method)」いわゆるユニタリー ・タックスの方

法に相当し,『OECDガイドライン』は,この

方法について,独立企業原則から事離するもの

として明確に拒否している。 『OECDガイド

ライン』がその理由として揚げているのは,次

のような点である。18)

① 世界各国が,この方式を採用することに

ついて合意し,使用される定式,全世界ベー

スの課税標準の計算方法,共通の会計基準

の使用,配分に使用する要素及びウエイト

17)「利益配分法」は,「当該取引にかかる両当事者の結合

利益を確定し,その結合利益を何らかの算定方法に基づき両

当事者に分割することにより,その分割後利益と整合性が採

れた形で適正な移転価格を決定する方法」と定義できる。す

ると,どのような分割基準を拠り所とするかという観点から,

業種,業態毎の機能分析は行わず,一定の外形基準による算

式を使用して分割する f定式利益配分法Jと関連企業グノレー

プ内取引を個々の取引毎に機能・貢献度を分析し,それによ

って個別的にえられた数値を使用して配分する「取引単位利

益配分法」に分類することが可能となる。

18) OECD,“Transfer Pricing Guidelines For Multinational

Enterprises and Tax Adminis回 tions,'’ Reportof the Commit/,印刷 FiscalAルirs,July 1995. (以下『OECDガイドライン』

と言う) para 3.61 -3.74

89 -

など‘について合意しなければ,二重課税が

発生すること。そしてこのような合意はほ

とんど不可能であること。

② 生産要素の低税率国への回避,意図的な

操作による租税回避が生じること。

③ 定式が悪意的にならぎるを得ないことか

ら,市場の状況,個別企業に特有の状況及

び経営に特有の資源配分を無視することか

ら,取引とかけ離れた利益配分を作り出す。

その結果,独立企業であれば損失が発生す

るような企業に, 利益を割り当てる可能性

があること。

④ 為替レートが強くなるほど課税ベースが

大きくなること。

⑤ 資料提出及び遵守のためのコス トは独立

企業原則のアプローチよりも一般に大きく

なること。

⑥ 非居住者の源泉課税を行うことの妥当性

に関し疑問を提起することになるなど,現

行の二国間条約に盛り込まれている多くの

規則の否定につながること。

⑦ 一つの多国籍企業グ‘ループのなかに,全

世界定式配分法を適用する夕、/レープと適用

しないグループとが存在するとき,それら

の聞の取引を評価することができないこ

と。

以上のような理由は,新たな問題として揚げ

られているものがいくつかあるものの,本報告

書において割合配分方式の問題点として揚げら

れている点と共通するものが多く,むしろ論理

的矛盾を指摘してる点は注目に値しよう。

しかしながら,本報告書においては,恒久的

施設の事業所得の配分に重点、が置かれたため,

簡便性と実施可能性の観点から独立企業問販売

基準よりも,役務報酬基準が推奨され,関連会

社聞の独立企業間価格の具体的算定方法はあま

り検討されなかった。そのため,独立企業間価

格の具体的算定方法の開発は, 19印年代後半の

アメリカにおける検討を待たざるを得なかった

のである。

N. その後の進展

上記 『キャロル報告書』による事業所得の配

分に関する提案は,『1933年事業所得の配分に

関する条約案』に結実した。 19)条約案第 3条

では,恒久的施設に帰属する所得について,次

のように規定している。

「一方の締約国に居住地を有する企業が他

方の締約国に恒久的施設を有する場合,独立

企業(independententerprise)が同一又は類

似の条件のもとで,同一又は類似の活動に従

事しているとしたならば,取得したとみられ

る純所得が各恒久的施設に帰属する。当該純

所得は,原則として当該恒久的施設にかかる

独立会計(separateaccounts)に基づいて決定

される。

締約国の税務当局は,前項の適用にあたり,

必要なときは,特に誤謬,脱漏を修正するた

めに,又は,帳簿に記載された価格若しくは

報酬を独立に取り引きする独立企業者間にお

いて一般的な価値(thevalue which would

prevail betw巴enindependent persons dealing

at紅m’slength)に再構築するために,作成さ

れた会計を修正できる。j

また同条において恒久的施設が帳簿を有しな

い場合等においては,売上金額の一定割合を適

用して決定することができるとし,さらに,上

記の独立企業原則等が適用できない場合には,

企業の総所得に基づいて決定されうるとしてい

る。その場合,総収入,資産,労働時間数,そ

の他適切な要素に基づく割合を,それらの要素

が独立会計の方法によって得られる結果にでき

うる限り近い結果が得られるように選択するこ

とを条件として,総所得に適用することによっ

て決定することができるとした。

関連会社に関しては,同第5条で,次のよう

に規定している。

19) Leaague of Nations,“Report to the Council on the Fourth Session of the Fiscal Committee,'’ Doc. C. 399. M. 204. 1933. II. A.

90 -

移転価格課税における独立企業原則の成立過程に関する一考察

「一方の締約国の企業が他の締約国の企業

の経営及び資本に支配的に参加している場合

又は両企業が同ーの支配下にある場合に,そ

の結果として,独立の企業聞に設けられるで

あろう商業上又は資金上の関係と異なる条件

が存在する場合,通常一方の企業の勘定に計

上されるべき,利得又は損失で,他の企業に

移転されている利得又は損失は, 一一方の

企業の勘定に記入される。j

1933年事業所得の配分に関する条約案は,国

際連盟において正式に採択されることはなかっ

たが,『1943年メキシコモデ‘/レ租税条約』,『1946

年ロンド・ンモデ、ル租税条約』を経て, 1963年の

OECDの『二重課税回避に関する理事会勧告』

に添付された『所得及び資本に対する二重課税

回避のための条約草案』第7条及び第9条に引

き継がれ,その基本的な考え方は,今日に至る

も変わっていなし、。20)

『キャロル報告書』においては,前述のよう

に,関連会社聞の独立企業問価格の具体的算定

方法はあまり検討されなかった。従って,独立

企業間価格の具体的な算定方式の開発は, 1960

年代に入り,アメリカにおいて多国籍企業の所

得移転に対して,内国歳入法第482条が適用さ

れるようになり ,租税回避又は脱税防止の観点

から規則の改正が検討されるまで,待たねばな

らなかった。

1962年,アメリカ議会はアメリカの会社がそ

の外国子会社へ利益を移転するのを如何にして

防止すべきかという検討を始めた。下院歳入委

員会は内国法人とその子会社の聞に何千もの多

種多様な取引がなされている場合において,公

正な価格を決定する困難さを最ノト化するため,

法律改正を行うべきとの提案を行った。これを

受けて,内国歳入法第482条に,有形資産の販

売に関して,納税者が独立価格批准法による独

20) OECD,“Draft Double Taxation Convention on Income

and Capital”, Report of the Fiscal Committee, 1963. OECD,

"Model Double Taxation Convention on Income and Capital,”

Report of the OCD Co,みimitteeon Fiscalベ!Jai月, 1977.OECD,

supra 18)

立企業間価格を提示できない場合には,その相

対的経済活動に基づく一定の公式により,関連

者間に課税所得が配分されるとの新条項を追加

することを提案した。この条項は,上院案の1962

年歳入法案では,削除されたが,その理由につ

いて,両院協議会は,下院改正案の目的は現行

の内国歳入法第482条の規則改正により達成す

ることができ,内国歳入法第482条は既に十分

に広範な所得及び控除の配分権限を財務長官又

はその代理人に付与しているから,財務省、は,

この権限の下に,外国所得を含む場合の所得及

び控除の配分のための追加的な指針及び公式を

提供する規則を開発し,公布すべきである,と

説明している。21)規則の改正は,ようやく 1968,

69年に実現したが,この規則の改正の検討にあ

たっても,企業の経済的相対的重要性を基礎と

する定式に基づいて配分する方式ー定式利益配

分法ーが対案として出されていたことは注目す

べきであろう。

1970年代に入り,多国籍企業の活動は,国際

的にも問題となるようになり,国連や OECD

の場においても論議され,OECDにおいては,

1976年に『国際投資及び多国籍企業に関する宣

言』がなされ,『多国籍企業の行動指針』が定

められた。 22) 課税の分野では,このような

流れを受け, OECD租税委員会は1979年に『移

転価格と多国籍企業』の報告書をまとめ,移転

価格決定のためのガイドラインを策定し

た。23)

このガイドラインの策定にあたっては,独立

企業原則に基づく独立企業間価格の決定を基本

原則とし,後述の基本 3法やその他の方法など

21) Treasury Department and Internal Revenue Service,“A

Study of lntercompany P口口ng(Discussion Draft),” October

1988 (以下 『移転価格白書』と言う), pp. 8-9.

22) OECD,“Declaration on International Investment and

Multinational Enterprises,” June 21, 1976. OECD,“Guidelines

for Multinational Enterprises,'’ annex to the Declaration of

21st June, 1976 by Governments of OECD Member Countries

on International Investment and Multinational Enterprises,

1976.

23)0ECD,“Transfer Pricing and Multinational Enterprises,"

Report of the Committee 011 Fiscal Affairs, 1979.

- 91 -

について規定しているが,基本3法の適用順位

に柔軟性が持たされたり,その他の方法がやや

詳細に規定されたものの,その理論,実務経験

ともに多くをアメリカに依拠したため,基本的

にはアメリカの内圏内国歳入法第第482条の規

則の延長線上のものにならざるを得なかった。

しかし,国際的な場において,移転価格の具体

的な計算方法についてガイドラインが示された

意義は大きいと言えよう。なお,このガイドラ

インにおいても,全世界的な定式配分法につい

ては, OECDモデ、ノレ条約に反するものとして,

その採用について明確に反対している。 24)

このような考え方は,前述のように1995年の

『OECDガイドライン』にも引き継がれている。

V.独立企業原則とプロフィットスプリ

ット法

移転価格課税における独立企業原則は,これ

まで見てきたように,二重課税の排除と脱税の

防止という二つの異なる目的を持って生成,発

展してきた。 この独立企業原則について,

『OECDガイドライン』は,次のように述べ,

多国籍企業グ、ループを構成する個々の企業を独

立した別個の企業体又は独立会計としてとらえ

るものであるという『キヤロル報告書』以来の

考え方を踏襲している。

「独立企業原則は,比較可能な状況下での

比較可能な取引において,独立企業間であれ

ば得られたであろう条件を参考として利益を

調整しようというものであることから,多国

籍企業グ、/レープの構成企業を一つの統合され

た事業体の切り離せない一部分としてではな

く,別個に事業を営む企業体として扱うとい

うアプローチに従うものである。この別個の

企業体アプローチは,多国籍企業グループの

構成企業を別個の独立した企業体として扱う

ため,焦点、はこれらの構成企業聞の取引の性

質に置かれることとなる。J

しかし,常にこの独立した別個の企業体とし

24)防1d.,par百 14.

てとらえるアプローチ (以下,「独立企業体ア

プローチJという)の対極と して,連結納税制

度の考え方又は企業グ、/レープを全体と してとら

え,その企業グ、ノレープの総所得を一定の外形基

準に基づく算式により分割する方式(割合配分

方式,全世界定式配分法又はユニタリ ー・ タッ

クスの方法,以下「定式利益配分法」という)

とが考えられてきた。

この理由としては,次のような理由が揚げら

れよう。

① まず第 lに,関連者全体を統一し,全体

としての意志決定をする者(例えば,親会

社)があり,関連企業は全体として単一の

事業体として行動すると言う見方が根底に

あることである。それが故に,関連企業聞

の悉意的な移転価格操作も可能なわけであ

り,これを修正する必要がでてくることに

なる。

② 第2に,移転価格課税が元来経済的二重

課税防止を一つの目的として考えられたも

のであると言うことである。独立企業体ア

プローチに基づいて考えると,原理的には

関連企業全体としては所得がないにもかか

わらず,所得を認定して課税する場合が生

じうる(し、わゆる「所得の創造」 25>)。こ

れは,関連企業全体として考えれば,経済

的二重課税が生じたことと同じである。従

ってこのような二重課税を回避するために

は,どうしても関連企業全体の所得を基礎

として課税せざるを得なくなるからであ

る。しかも,必ずしも対応的調整が行われ

る保証はない。26)

③ 第3に,規模の経済等の統合の利益の問

題があるからである。多国籍企業又はグ

ノレープ企業がそもそも存在する理由は,独

立企業と取り引きするよりも関連企業との

25) 所得の創造については,辻富久 「移転価格課税にお

ける限界費用に基づくプロフィットスプリット法」『人文社

会論叢(社会科学編)』第4{手,弘前大学人文学部, 2000,pp. 80

-82

26)対応的調整の問題については,辻 ・同上書,pp.8ト82.

92 -

移転価格課税における独立企業原則の成立過程に関する一考察

取引の方が経済的に有利であり,メリッ ト

があるからである。そしてこのような利益

を統合の利益と呼ぶ。27) 純粋な独立企業

原則では,その性質上このような統合の利

益を考慮できない。

アメリカでは,上記の統合の利益の問題を解

決するための手法と して, 1988年の『移転価格

白書』 28)において,生産要素収益率に着目し

た利益配分法とでも言うべき, fBALRM(basic

訂 m’sJengせireturn method) Jを提案したが,

企業の内部データに依存することが信頼性を低

下させるとの懸念から,最終的には「利益批准

法(comparableprofit method) Jを採用し,利益

配分の考えが明示的な形で残されたのは,無形

資産がある場合の評価方法である「プロフィッ

トスプリット法を併用したBALRM(profit split

addition to the basic訂 m’slength return me白ー

od)Jが「残余利益分割法Jとして採用された

のみとなった。この利益批准法は,類似の企業

は同じような利益を上げるという考え方に基づ

いて,類似の環境にあって類似の事業を行う非

関連者の利益水準指標(営業利益が営業資産に

占める割合の使用資本利益率,売上高営業利益

率,営業費用総利益率など)により利益を推定

するものであり,独立企業体アプローチに属す

る。従って,『移転価格白書』の利益配分法的

な考え方から,独立企業体アプローチの考え方

に転換されてしまったと言っても良いであろ

フ。

定式利益配分法は,納税者の便宜と執行上の

困難性の解消に重点が置かれたために,一定の

公式によって利益を分割する方式として,従来

から提示されてきた。そのために,取引毎の個

別性がないことから,『OECDガイドライン』

においては,独立企業原則に反するものとして

拒否された。このような両方式の中間に位置す

るものとして,「取引単位利益配分法」が考え

27)統合の利益については,辻・前掲書25).pp. 63 65 28) Treasury Department and Internal Revenue Service,

supra 21).

93

られる。取引単位利益配分法は,関連企業グルー

プ内取引を個々の取引毎に機能 ・貢献度を分析

し,それによって個別的にえられた数値を使用

して関連企業グループ内取引から生ずる連結利

益を配分する方法であり,連結納税制度の延長

線上にあるものと言え,一般的には「プロフィ

ットスプリッ ト法(利益分割法)」がこれにあ

たる。

取引単位利益配分法と定式利益配分法の共通

点、は,ともに取引当事者の利益を合算又は連結

した利益を基礎とすることにある。しかしなが

ら,次の 2点において異なる。

イー取引単位利益配分法が特定の取引から生じ

る利益に限定し,問題とされている取引と直

接の関連性を有しているのに対し,定式利益

配分法では,企業全体の所得が対象となる場

合が多く ,特定の製品やサービスと関連させ

ることはない。

ロ.取引単位利益配分法においては,問題とな

っている取引毎に,その取引に対する当事者

の機能 ・貢献度を分析することによって配分

比率が決められるが,定式利益配分法では一

定の算式に基づいて配分がなされ,各取引の

独自性は考慮されない。

『OECDガイドライン』は,「利益に基づく

方法は,特に比較可能性の点において, OECD

モデル条約第9条に適合している限りにおいて

のみ受け入れられうる。 このことは,独立企業

聞の価格算定に近似化するようにこの方法を適

用することで達成される。それは,当該特定の

関連取号|から生ずる利益が独立企業聞の比較可

能な取引から生ずる利益と比較されることを要

求する。」とし29),プロフィットスプリット法

については,「利益分割法は,関連者間取引に

おいて独立企業が実現を期待したであろう利益

を分割することにより,その関連者間取引にお

いて設定又は課された特別の条件が利益に与え

る影響を排除 しようとするものである。」と

29) OECD, supra 18), para 3. 3. 30) OECD, supra 18), p訂a3. 5.

し30),独立企業原則に合致する場合のみ適用

可能である としているが,一つの算定方法とし

て認めている。

我が国においては,基本3法に加え,その他

の方法としてプロフィ ットスプリット法が規定

(租税特別措置法施行令第四条の12第8項)さ

れているが,実際の執行にあたっては重要視さ

れる方向にある。 31)

取引単位利益配分法又はプロフィットスプ

リット法では,上に述べたような独立企業体ア

プローチ固有の問題は解決されるが,個別取引

単位毎に何を基準に配分すれば,独立企業原則

31)山川博樹 『我が国における移転価格税制の執行一理論

と実務』税務研究会出版局, 1996,pp. 87.なお,注書きにお

いてであるが次のようなコメントがなされている。 同上書,

p. 117。「移転価格税制の本質的命題は適正な利益分割の議論にあ

ります。我が国税務当局は,移転価格課税処理の方針として,

①所得移転の蓋然性を把握しそれが確認できる部分のみを更

正することに努めること,②課税処理した結果相手国の国外

関連者側の利益状況がどうなるのかを視野に入れて対応する

こと,を重要視しております。これは,理屈の問題というよ

りむしろ価値の問題というべきかもしれませんが,基本三法

処理を行う場合であっても,独立企業原則を柱とするノレーノレ

を機械的に運用すべきではなく,利益分害ljを適正化するとい

う見地からのチェックを捨て去るべきではないというスタン

スが反映されたものです。こうした意味で,我が国税務当局

においては,プロフィットスプリ ッ卜アプローチの進展は,

基本三法を用いることができない場合の対応手段を進展させ

るという趣旨以上の意義があります。」

94

に反しないのかという基本的な問題を解決する

必要が残る。

VI.むすびにかえて

上記の問題を解決する一試案として,プロフ

ィットスプリット法において具体的な配分基準

として限界費用を使用することを弘前大学『人

文社会論叢』の最近号に掲載の拙論において提

示した。 32) 本論はこの拙論の基礎と なる歴

史的パックボーンについて考察したものである

ことを記して結びに代えたい。

32) j土・前掲書25)