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美学芸術学特殊講義2018 分析美学の諸問題 全体の構成 http://green.ap.teacup.com/miurat/html/haruhid.pdf 序章 驚愕(前) 第1章 憂鬱 第2章 溜息 第3章 退屈 第4章 消失 第5章 暴走 第6章 動揺 第7章 陰謀 第8章 憤慨 第9章 分裂 第10章 驚愕(後)

美学芸術学特殊講義2018 分析美学の諸問題分析哲学は高度に抽象的な理論化を旨とするので、個別事例の研究には不き と思われが ちである。本当にそうだろうか。分析哲学に特有の手法を駆使することで、特定の芸術事例が

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美学芸術学特殊講義2018 分析美学の諸問題

全体の構成 http://green.ap.teacup.com/miurat/html/haruhid.pdf

序章 驚愕(前) 第1章 憂鬱 第2章 溜息 第3章 退屈 第4章 消失 第5章 暴走 第6章 動揺 第7章 陰謀 第8章 憤慨 第9章 分裂

第10章 驚愕(後)

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『エンドレスエイトの驚愕:ハルヒ@人間原理を考える』

序章 驚愕(前)

第1章 憂鬱

第2章 溜息

第3章 退屈

第4章 消失

第5章 暴走

第6章 動揺

第7章 陰謀

第8章 憤慨

第9章 分裂

第10章 驚愕(後)

歴史的概観

どうして 失敗したのか

本当に 失敗だったのか

失敗のありかたがまさに人間原理

起死回生の 挽回策を! その策に乗るまい

長門とともに物語へ回帰 いろんなループ、始動 8種のループ解釈

芸術ジャンル分裂 人間原理的芸術学へ

古泉&ハルヒの人間原理

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分析哲学は高度に抽象的な理論化を旨とするので、個別事例の研究には不向きと思われがちである。本当にそうだろうか。分析哲学に特有の手法を駆使することで、特定の芸術事例がいかに面白い様相をあらわにするか、いくつかの実演を試みる。 2018年1月15日と2月22日に、Twitterのトレンド・急上昇ワードランキングで、「エンドレスエイト」が1位になった。放送から9年も経ってなぜそうなったかというと、1月に放送開始したアニメ『ポプテピピック』が「エンドレスエイト」のパロディと受け取られたのが原因であった。この現象は、過去の作品の「伝説化」の好例であり、もっと一般的には、芸術形式(ジャンル、カテゴリ)の母集団の拡大と相対的に既成作品の解釈・評価が変化してゆく力学の一事例と言える。 しかし、ポプテピピックが露骨にエンドレスエイトを模倣し始めた2月はともかく、1月の時点ですでに広くエンドレスエイトが連想されたのはなぜだろうか。その2つのアニメは本当に類似していたのだろうか。芸術という複雑な文化現象を理解するにあたって、「説明を要する現象」は格好の素材になる。「なぜこういうことが起きたのか」という疑問を誘発する諸事例をいくつか取り上げながら、個別事例の研究に対して分析哲学の道具立てがどの程度、そしてどのように通用するのかを検証してゆく。 驚愕 驚き(パラドクス)の発見、構成 なぜこのような作品が許されたのか? 憂鬱 論点の列挙 側面の析出 問題視される要因 作業仮説と検証 溜息 方法的な自覚 フィードバック・ループ 社会批評への牽制 人間原理 退屈 科学理論の適用 美学理論の適用 消失 抽象化(枝葉の消去) 本質主義 「正しい解釈・正しい演出」への固執 暴走 論理分析と想像力 思考実験 動揺 隠れた構造の発見 確率的論証 陰謀 高階論理・対象化(メタ化) 再解釈の必要条件から十分条件へ 憤慨 バックラッシュ 芸術のポストモダン定義から進化論的定義(美的定義)へ 分裂 作品解釈と心の哲学 自我体験、表象説 構造的類似性 驚愕 反証主義 対立仮説の提示 自己反駁による改善

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エンドレスエイト

このライトノベルがすごい!

コンセプトの実験

(類例なし)

「枠を埋める」内発的動機

物語の中の時間ループ

番号のない同一タイトル

各回描きおろし・声優統一

1週間サイクル

内輪ネタなし

「消失」はどうなる?

サプライズ・サスペンス・カタルシス

メタフィクション装置としての「超監督」

メインキャラ+サブキャラ

BLが後景に

ポプテピピック

とびっきりのクソ4コマ!!

表現の実験

『文体練習』『3番テーブルの客』『エレファント』

「枠を埋める」外発的動機

スタイルとしてのバリエーション

「再放送」キャプション付き

各回使いまわし・声優交代

11分50秒サイクル

内輪ネタあり

ハルヒ声優来るか?

バラエティ・サイケデリック・シュール

「クソアニメ」という安全弁

メインキャラ+モブ

百合が前景に

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エンドレスエイト

自己言及的ループ

萌え

ハルヒ・長門の覇権移行

世界観(セカイ系感)の束縛

主題への 表現の従属、演出の自律進化

(自己複製的パロディ)

涼宮ハルヒちゃんの憂鬱

コメディ → ギャグ

スピンオフの一事例

シミュレーション

メインキャラのネガ+サブキャラ

トップダウンの物語(法則)

ボトムアップの表現(現象・暗示)

ポプテピピック

常同運動的ループ

箱推し

ポプ子・ピピ美の露出漸減

世界観(世界感)の不在

主題不在ゆえの 表現の自律、演出との融合

(自己内在的パロディ)

ボブネミミッミ

ナンセンス → デフォルメ

ブリコラージュの一成分

フィクション

メインキャラのデフォルメ+モブ

ボトムアップの物語(法則)

トップダウンの表現(現象・暗示)

エントロピー小 エントロピー大

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分析哲学と大陸哲学

科学・数学の進歩と歩調を合わせ、論理学を研究しながら自然界と人間精神の知的探求に徹する

アングロサクソン系の哲学

• 分析哲学

• 概念分析と論証的議論

• プラグマティズム

(社会的実践への開放)

政治的理念に導かれて、宗教・倫理・文学など人間の情念と意志に基づく文化からの実践を目指す

ヨーロッパ大陸系の哲学

• ポストモダニズム

• 概念創造と修辞的実演

• 現象学

(厳密な内省的分析)

自然科学と政治思想の急展開を受けて・・・・・・

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諸要因への分析

知覚性・物理性の層と概念性の層

作品の層(内在性)と社会・企画の層(外在性)

形式の層と内容の層

意味情報の層と美的情報の層

再現・物語の層 ・・・・・・・・・ 娯楽性??形式)

表現の層 ・・・・・・・・・ アート性美的内容)

(不完全な表現 → 空間性・劇場性)

プロジェクトの層 ・・・・・・・・・ 商業性ジ 意味内容)

コンセプトの層 ・・・・・・・・・ 哲学性タイル 美的形式)

論理構造の層(コンセプト→物語→コンセプト→・・・)

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論理学・数学・自然科学の方法を適用 イデオロギー(トップダウン原則)でなく知的好奇心(ボトムアップの探究)

パズルの発見、piecemealの解決 (方法上のトップダウン原則はあり)

概念の定義 ex. Pを意図する = df. Pの実現を欲し、実現可能性を信じる

本質と非本質的要因の弁別 かつ 本質主義の自己点検

直観・直感と、言語の表層構造とをともに疑う

日常言語命題の人工言語化 (記号論理、主観確率)

「である」と「べし」の峻別 事実と規範 記述・解釈・評価

思考実験と作業仮説を多用する

前提の定式化 事前確率と条件付確率の区別

対立仮説の明示 自説にとって不利なデータを尊重

論証の明示 (推論規則の明示的適用)

科学的概念の構造的適用 ↔ 連想的・イメージ的適用 完璧主義の放棄 還元主義の原則順守

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物語以外の側面

・ 天ぷら仮説

・ グルジエフ原理

・ モラトリアム文化のジレンマ

・ 複合型∞ループ

・ 芸術の無関心性

・4P理論、4C理論

・ 死の受容モデル

・エントロピー

・機会コスト

物語的側面

• 人間原理 宇宙定数

• ファインチューニング

• マルチバース

• 多世界解釈

• カオス理論

• 自我体験

• 世界五分前誕生仮説

• グノーシス主義

『エンドレスエイトの驚愕』で用いた科学概念

・ 観測選択効果

・ バタフライ効果

・ 哲学的ゾンビ

・ 高階思考理論

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物語以外の側面

・ 天ぷら仮説

・ グルジエフ原理

・ モラトリアム文化のジレンマ

・ 複合型∞ループ

・ サティ症候群

・ 天ぷら仮説

・ グルジエフ原理

・ モラトリアム文化のジレンマ

・ 複合型∞ループ

物語的側面

• 長門壊れた説

• 長門目覚めた説

• 長門務めた説

• 長門戻った説

・・・・・・→ ベタループ説 → モノループ説 → テラループ説 → オムニループ説 → パラループ説 → エゴループ説 → エアループ説 → ネガループ説 → メタループ説 → ベタループ説 → ・・・・・・

『エンドレスエイトの驚愕』で設けた作業仮説

・・・・・・→ 長門被災説 → 長門介入説 → 長門限界説 → 長門凡人説 → 長門濡衣説 → 長門錯覚説 → 長門虚言説 → 長門犯人説 → メタループ説 → 長門被災説 → 長門介入説 → 長門限界説 ・・・・・・

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ただちに思いつかれるパズルの例 • なぜあんな企画が通ったのか? • 超監督涼宮ハルヒはあのような演出を許しただろうか? • なぜ15498回 → 15532回なのか? • シークエンス回数に理由を求めるべきか?(何らかの回数は必要なのだから) • キョンはなぜ1シークエンス14日で計算したのか? • 長門はアルバイトの数え間違いをしたのか? だとすればなぜか? • なぜバタフライ効果が起こらなかったのか? • キョンが8種類も水着を持っているのはなぜか? • 長門はなぜ毎回ウルトラマンのお面を買ったのか? • ハルヒはなぜセミの天ぷらの話をしたのか? 食べる気はあっただろうか? • 「エンドレスエイト」と『消失』の因果関係は? 長門にとって感情はバグなのか? • 「情報フレア」「時間震動」「世界の創造(改変)」・・・どの解釈が正しいのか? • 「エンドレスエイト」の表現を楽しめないのは鑑賞側の責任か? • 「エンドレスエイト」よりも『溜息』がハルヒ凋落の原因か? • 『溜息』のみ時系列どおりでない放送がされたのはなぜか? • 夢オチがNGでエンドロールナレーションがOKなのはなぜか? • 『消失』で古泉が提示した対立仮説の、どちらが正しいのか? • キョンが緊急脱出プログラムを適用しなかったら、次の瞬間何が起きたか? • 古泉の人間原理の解説は、なぜあのようなものになったのか? • 「異世界人」は誰なのか?

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観測データA・・・・・・ 15日×[15498(原作)+17+17(アニメ)+17]=639年=ジョン・ケージ「Organ²/ASLSP」@ブキャルディ教会

仮説K・・・・・・ EEは「Organ²/ASLSP」を意識して作られた ↓ 仮説K: Aの原因は制作者が「Organ²/ASLSP」に合わせたからである

P(K|A)=P(K&A)/P(A) P(~K|A)=P(~K&A)/P(A)

= ÷

= × >

∵ P(A|K)~1 P(A|~K)~0

P(K|A)

P(~K|A)

P(A|K)P(K) P(A)

P(A|~K)P(~K) P(A)

P(A|K) P(A|~K)

P(K) P(~K)

P(K) P(~K)

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観測データA・・・・・・ 私は、致死的病気 Q の有無についての信頼度99%の検査を受け、陽性になった(単純化のため偽陽性率と偽陰性率は同じ(1%)とする)

仮説K・・・・・・ 私はQである ↓ 仮説K: 私が陽性になったのは私がQだからである

P(K|A)=P(K&A)/P(A) P(~K|A)=P(~K&A)/P(A)

= ÷

= × >

∵ P(A|K)=99/100 P(A|~K) =1/100

P(K|A)

P(~K|A)

P(A|K)P(K) P(A)

P(A|~K)P(~K) P(A)

P(A|K) P(A|~K)

P(K) P(~K)

P(K) P(~K)

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批判1

前頁の計算は、Kの事後確率が事前確率から激増した(AによりKが確証された)ことを示すが、Kの事後確率そのものを示しはしない。

P(K)がきわめて小さければ、P(K|A)は依然として小さいかもしれない。

批判2

17回(255日)の食い違いがある。その程度の幅を許容するなら、P(A|~K)はそれほど小さくないのでは。

批判3

制作者が「Organ²/ASLSP」を意識していたという直接の証拠を求めるべきだ。

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批判1の詳細 P(K|A)=P(K&A)/P(A)

病気Qである確率はもともと低いので、「証拠」があってもまだ低い。

ex. テレパシー、心霊、 アポロ11号月着陸捏造、各種陰謀説・・・・・

P(K&A)

P(A)

P(K&A)

P(K&A)+P(~K&A)

P(A|K)P(K)

P(A|K)P(K)+P(A|~K)P(~K)

P(A|K)P(K)

P(A|K)P(K)+P(A|~K)(1-P(K)) 99/100 1/1万 1/100 9999/1万

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100人中99人

999900人中

9999人

100人中1人

999900人中

989901人

陽性

陰性

病気Qである 百万人中100人

病気Qでない 百万人中999900人

99

99+9999 < 1%

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批判1への応答 P(K|A)=P(K&A)/P(A)

制作委員会が「Organ²/ASLSP」を意識した確率は低くない。

P(K&A)

P(A)

P(K&A)

P(K&A)+P(~K&A)

P(A|K)P(K)

P(A|K)P(K)+P(A|~K)P(~K)

P(A|K)P(K)

P(A|K)P(K)+P(A|~K)(1-P(K))

≒1 1/2 P(A|~K)~0 ∵ P(A)≪1

1/2

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P(K)≒P(~K)≒1/2 ↑↑なぜこんなことが断定できるのか?

仮説K・・・・・・EEは「Organ²/ASLSP」を意識して作られた EEは何らかの現代アート作品を意識して作られた

K1 「Organ²/ASLSP」なる作品に注目しよう。さて、それはEEに用いられただろうか? ・・・・・・注目作品と質問は独立。 K2 現代アートに注目しよう。さて質問。その中のどの作品であれEEに用いられただろうか? ・・・・・・作品選択が質問に従属。

K3 EEのシークエンス回数に注目しよう。さて質問。なんであれ現代アート作品が用いられただろうか? ・・・・・・注目点と質問が独立。 K4 EEに注目しよう。さて質問。EEのどこかに現代アート作品が用いられただろうか? ・・・・・・注目点と質問が連動。

注目点、注目作品、質問が相互に事後的に決定しあうシステム

P(K1)~0 ∴ P(K|A)~0 Kはおそらく偽 P(K2)~1 ∴ P(K|A)~1 Kはおそらく真 P(K3)≧1/2 ∴ P(K|A)~1 Kはおそらく真 P(K4) ≈ 1 ∴ P(K|A) ≈ 1 Kはほぼ間違いなく真

制作委員会が「Organ²/ASLSP」を意識した確率は低くない。

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P(K)≒P(~K)≒1/2 ↑↑なぜこんなことが断定できるのか?

改めて仮説K・・・・・・EEは「Organ²/ASLSP」を意識して作られた

◆傍証として、観測データBを追加できる。

観測データB・・・・・・ 『涼宮ハルヒの消失』のサウンドトラックには、 エリック・サティのピアノ曲が多数用いられている。

背景事実C・・・・・・ ジョン・ケージのピアノ作品の大半は、サティに倣って おり、「Organ²/ASLSP」もピアノで演奏されることが多い。 1963年ジョン・ケージによってサティ「Vexations」が初演され、 「Organ²/ASLSP」のコンセプトはその系譜にある。

強化されたデータによって、仮説の事後確率がいっそう修正される。 以下のKは、Aによって改訂された仮説K すでに P(K) ≈ 1

P(K|B&C) > P(K) Kはますます真である

P(K|B)/P(~K|B) =(P(B|K)/P(B|~K))×(P(K)/P(~K))

サティの曲はもともと使われやすいであろう がゆえに ↑証拠能力はさほど高くない とはいえ、

制作委員会が「Organ²/ASLSP」を意識した確率は低くない。

P(B|K)>P(B|~K)

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A・・・・・・ 15日×[15498(原作)+17+17(アニメ)+17]=639年 =「Organ²/ASLSP」@ブキャルディ教会

➀ 15日×[15498+x]=15日×15532 15日×[15532+y]=639年 のとき、x=2yが成り立つ事前確率は低い。(条件Kが必要である)

➁ y=17 =[ループ開始日(8月17日)]=[第12話~第28話の話数] =[エンドレスエイトⅤで長門が犯す数え間違いに該当する回数差] =[「Organ²/ASLSP」の最初の音が鳴るまでの月換算(17ヶ月)] =[デュシャン『泉』のレプリカの個数]∈素数(「あてずっぽナンバーズ」)

任意の数で、これだけの符合が得られる事前確率は低い。

③ ちなみに、原作の段階で「Organ²/ASLSP」が意図されていたか?

木星の衛星 4×13=52>51=17×3

批判2への応答 P(A|~K)~0

素数ゼミ(17年ゼミ) → 天ぷら仮説

? ? ? トランプ

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➂つづき 原作の段階で「Organ²/ASLSP」が意図されていたか?

谷川流が 「51」 または 「17×3」 という数を意識した、ということはありうるか?

大いにありうる。その根拠・・・・・・

「エンドレスエイト」のプロットが、 『新スター・トレック』(Star Trek: The Next Generation)の第118話「恐怖の宇宙時間連続体」“Cause and Effect”に酷似しているという指摘が多くなされてきた。そのエピソードでは、「3」という数字が時間ループ脱出の鍵となり、結局エンタープライズは「17日間(17.4日間)」ループに閉じ込められていたのだった。

谷川流、「恐怖の宇宙時間連続体」 をヒントに 「エンドレスエイト」 を着想

時間ループのイメージとしてエリック・サティ “Vexations”(840回反復)を想起

しかしサティはポピュラーすぎてすぐバレるかも → “Vexations”全長を初演し〇 たジョン・ケージの 「Organ²/ASLSP」 が639年がかりで演奏中ではないか!

ケージならサティより芸術度で格上、人気(知名度?)は格下。 ラッキー、 639年間〇 ループにしよう! ピッタリ一致はなお危険なので、 「恐怖の宇宙時間連続体」の〇 (17×3)×15日=765日の差を付けよう。

[ (639×365(閏年も一律365換算))]-765=232470 232470÷15=15498

「・・・すぐに見透かされないよう、念のためキョンに 2週間=14日で計算させて、 〇 読者をミスリードしておこう。ほんとは15日間だけどね♪

アニメでも 「隠蔽工作用14日換算 」を踏襲。 合計日数は(17×2) 回分だけ〇 増やして(639年-シークエンス17回)=15532回とし、完全一致を依然回避。

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批判2への応答 P(A|~K)~0

A・・・・・・ 15日×[15498(原作)+17+17(アニメ)+17]=639年 =るるるる@ブキャルディ教会

④ 「17」「 51 」に固定的意義があることは認められるとしても、 無数の芸術作品が存在するのだから、 ぴったりの数値(17にせよ51にせよ)を含む作品が見つかるのは 当たり前(確率ほぼ1)なのでは? 解釈的意義があるのか? (批判➀の反転――批判①への応答の逆用) ↓ ●有名作品から選ぶ場合、「無数の芸術作品」という懸念には及ばない。 ● 「Organ²/ASLSP」に特別な(数的一致とは独立の)解釈的意義がある こと が示されればよい。

→批判3への応答⑤

⑤ 数秘術は、人間原理の源流だった。 → 意味論から語用論への転回 ポール・ディラック「大数仮説」 Ultra fine tuningの不成立(中途半端な微調整)

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批判3への応答

EEが「Organ²/ASLSP」を意識して作られた(指示を意図された)かどうかは、推測すべきではなく、実証すべきである?

➀ 「意識して」の意味 (現実意図主義? 仮想意図主義? → ➃)

➁ 誰に訊けばよいのか? 15498回、15532回という提案はどこから来る可能性があったのか? 関係者の記憶は確かか?

「証言は信用できる」ということ自体が推測の問題となる

③ 制作者の意図は、解釈の基準ではなく、解釈の結果得られるもの

➃ 意図=欲求×信念

解釈で得られない内容を意図する(まともな)作者はいない

↔ まともに意図されたことは解釈で発見できる

⑤ 制作者に意図を帰する解釈的意義があるか?

「Organ²/ASLSP」は生身の個人が聴き通せない音楽。「EEは全部観通す必要はありませんよ」というメッセージに符合する!

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「知識」と「真理」の関係

伝統的な「知識」の定義

正当化された 真なる 信念

justified true belief 心の主観的状態

beliefが 事実と一致するか?

他の諸信念と辻褄が合うか? 生活において有用か?

true belief を いかにして得たか

いかにして確かめうるか

内在主義

外在主義

① 心理学的成分

③ 論理的成分

② 意味論的成分

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長門はアルバイトの数え間違いをしたのか? だとすればなぜか?

シークエンス(回目) アルバイトを行なった(回)

原作 15498 9025

Ⅰ 発言ナシ 発言ナシ

Ⅱ 15498 9025

Ⅲ 15499 9026

Ⅳ 15513 9031

Ⅴ 15521 9048

Ⅵ 15524 発言ナシ

Ⅶ 15527 9052

Ⅷ 15532 9056

・・・・・・では、なぜそのような数え間違いが起きたのか?

長門が壊れる前兆である → 『消失』

ナンパされて動揺しただけ → 『消失』

人間原理的解釈 → 『消失』

「複数回アルバイトをしたシークエンスがある」 という意味?

長門の発言を吟味すると、「回」はシークエンスに限定して使われている。1シークエンスあたり複数のアルバイトをした場合は「*種類」という

言い方をしている。

数字の不整合が長門のミスであることは確かである

➀ ➁ ③

美的に 最も優れた

解釈は どれか?

8回増 17回増

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エンドレスエイト効果 ◎ 対象レベルの効果・・・・・・ 商業的失敗、コンテンツそのものへの悪感情醸成

◎ メタレベルの効果 歴史的伝説化・・・ポプテピピックのような reminderを同化吸収

◎ メタ・メタレベルの効果 ギリシャ壺効果 「現物はすごいのかもしれない」 「ちゃんと観ればすごいのかもしれない?」

◎ メタ・メタ・メタレベルの効果 二封筒問題効果 反事実的妄想 (無限大の期待値)

◎ メタ4レベルの効果 グルジエフ時間化 「私は、ここにいる」

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エンドレスエイト効果 ◎メタ5レベルの効果 メタ4レベル効果への憤慨 → 脱・情報統合思念体

人間原理的テラループ説、オムニループ説

長門壊れた説 → 長門戻った説 (自作自演解釈への反発)

複合的ダミーとしての朝比奈みくる 〈萌え〉用にハルヒが導入したキャラ

キョン&オタクに対する試金石

深夜の電話etc ・・・・・・ハルヒのダミー (恋愛部門)

「溜息」での災難 ・・・・・・長門のダミー (SF部門)

「笹の葉ラプソディ」での長門との対話 (アート部門)

〈萌え〉の身体性、伝統的アニメの知覚性

〈大〉=メタ(主体) 〈小〉=対象(客体) (考察部門?)

3 ●

● ●

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エンドレスエイト効果 ◎メタ5レベルの効果 メタ4レベル効果への憤慨 → 脱・情報統合思念体

人間原理的テラループ説、オムニループ説

長門壊れた説 → 長門戻った説 (自作自演解釈への反発)

複合的ダミーとしての朝比奈みくる 〈萌え〉用にハルヒが導入したキャラ

キョン&オタクに対する試金石

深夜の電話etc ・・・・・・ハルヒのダミー (恋愛部門)

「溜息」での災難 ・・・・・・長門のダミー (SF部門)

「笹の葉ラプソディ」での長門との対話 (アート部門)

〈萌え〉の身体性、伝統的アニメの知覚性

〈大〉=メタ(主体) 〈小〉=対象(客体) (考察部門?)

3 ●

● ●

オタク水準をレベル[みくる]からレベル[長門]へ引き上げる装置 ハルヒは「俺の嫁」の媒介項・・・ しかし・・・・・・

[ハルヒ – キョン] 関係 のマスキング装置

[ハルヒ – 長門] 関係 のマスキング装置

[作品 – 視聴者] 関係 のマスキング装置

本当に ヒドイ目に遭っている/遭わせて

いる/ のは

誰なのか?

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キョンの数的錯誤と長門の数的錯誤の収斂

キョンの錯誤 → コンセプチュアルアート視の誘発 エンドレスエイト : 消失 = Vexations : Gymnopédies = Cage : Satie 自己への覚醒 観測選択効果 自律進化 視聴者・長門の同期

長門の錯誤 → デジャブの共有 長門凡人説 長門の人間化(人間回帰) 脱・情報統合思念体 → 朝比奈みくる方式へ 概念芸術(メタ) → 物語芸術(ベタ) の回帰 マルチバースとテラループ もう一つの課題である「溜息」 の 意義上昇 邪神ハルヒ → 佐々木の未アニメ化の逆説的意義浮上 テーマ〈キョン;二重の自己欺瞞〉が浮上

『消失』に 名のみ登場

溜息の源泉「Rainy Day」

物語的表現的

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キョン;二重の自己欺瞞 ◆ キョンが長々吐露する〈自己欺瞞の自覚的内省〉は、表層レベル〇〇のアリバイである ➀ 感情=バグ 負担をかけた罪悪感 ? ➁ 覚醒の必然性抑圧 情報統合思念体への義憤 ?

本当は・・・・・・時空の改変を了承するか修復するか ではなく 時空の復元を追認するか妨害するか の問題 ➀ 感情 ≠ バグ 罪悪感の内容が取り違えられている・・・・・・ ➁ 義憤の正当な対象が取り違えられている・・・・・・ 喫茶店&喫茶店、病室のツンデレで カモフラージュ 小刻みな超常現象・ループ・閉鎖空間騒動で カモフラージュ

◆ 長門の最後の 「ありがとう・・・・・・」 に痛切な悲哀が、 キョンの最後の 「やれやれ・・・・・・」 に悲劇的アイロニーが宿る ◆ 『消失』は、長門によるヒロインの座簒奪 の物語 にみせかけた キョンによる邪神ハルヒの意識部門就任 の物語 である

◆ 『消失』で、「団長(超監督)涼宮ハルヒ」のクレジットが消失

学園ラブコメディ で シリアスSF を ライトファンタジー で ハードSF を

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徹底した個別解釈の、一般理論的メタ解釈 個別記述 Fa 一般化その1 全称汎化 ∀x Fx 必然性 一般化その2 存在汎化 ∃x Fx 可能性

どの1年においても戦争がある。 ∀t Ft 1939年に戦争がある。 Fa どの1年にも、1939年に戦争がある。 ∀t Fa (空虚な量化) どの可能世界においても、世界@で戦争がある。 ∀w F@ (宿命論) ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

◆ 涼宮ハルヒの 潜在意識 願望 ↔ 信念

◆ 長門有希の 覚醒 鬱気味の自我 → 無機的観測 → 恋愛感情の記憶 → 感情の覚醒 → 世界の復元 → 鬱気味の自我 → 無機的観測者スタンスの超克頓挫 → 同期切断、小反抗

◆ キョンの 自己欺瞞 自覚 → 非日常志向・ハルヒへの執着 → 朝比奈みくるのダミー性の意識化 = 〈萌え↔アート〉へのアンビバレンツ(借用の隠蔽) → 長門覚醒の妨害への罪悪感抑圧 → 邪神への執着( ↔ 佐々木の恒久的影響下・疑似覚醒状態) → 半意識的モラトリアム

自己対象化(グルジエフ時間化)の多層構造 『涼宮ハルヒの憂鬱』は、とてつもなく理不尽な物語である

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徹底した個別解釈の、一般理論的メタ解釈 個別記述 Fa 一般化その1 全称汎化 ∀x Fx 必然性 一般化その2 存在汎化 ∃x Fx 可能性

どの惑星においても生命が進化する。 ∀t Ft 地球に生命が進化した。 Fa どの惑星にも、地球に生命が進化した。 ∀t Fa (空虚な量化) どの宇宙においても、地球に生命が進化した。 ∀w F@ (決定論) ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

Fという特徴づけが詳しくなればなるほど、 x の母集団について多くの情報が得られ、一般化の度合が増す。個性的詳述が一般的詳述となる

人間原理 人間(知的生命)という特殊存在(偶然的揺らぎ)の誕生を許す環境条件を詳述すればするほど( 生命科学、人文科学、社会科学が詳細に展開されればされるほど ) そして当該環境条件が特殊であればあるほど(fine-tuningが判明すればするほど)、物理環境の一般的法則が明らかになってゆく

fine-tuning がそれほど fine でないことがわかるやいなや、 物理法則に対するメタ認識(マルチバース説)が呼び起こされる

自己対象化(グルジエフ時間化)の多層構造

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平叙文 → 条件文 → 永久文、演繹定理

1939年に戦争がある。 Fa 任意の年につき、もしそれが1939年であるならば、戦争がある。 ∀t(t=a → Ft) どの年についても、「もしこれが1939年ならば戦争がある」 が成り立つ。 どの年についても、「1939年に戦争がある」 が成り立つ。 ∀t Fa t どの年においても、1939年に戦争がある。 ∀t Fa

モナド的全体論(いかなる部分も全体を反映する)

1939年に戦争がある。 Fa この世界は、「1939年に戦争がある」 という性質を持つ。 Fa@ 2018年は、 「1939年に戦争がある世界」 に属する。 Fa@ & b⊆@ 2018年は、「1939年に戦争がある」 形で世界に属する。 Fa[b⊆@] 2018年は、「1939年に戦争がある」 形で存在する。 [Fab]⊆@ 2018年は、 「1939年に戦争がある」 という性質を持つ。 Fab どの年も、 「1939年に戦争がある」 という性質を持つ。 ∀t Fa t どの年においても、1939年に戦争がある。 ∀t Fa

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平叙文 → 条件文 → 永久文、演繹定理

対応性質以外の性質(トリビアルでない性質)の認識をもたらす性質とは?

認識の認識(メタ認識)をもたらす性質こそが、それに該当する。

➀ 観測選択効果 認識を実現する物理的基盤は、複雑であり、それ自体の実現確率が低いため、環境に強い制約をかける。

➁ 高階思考理論 認識の認識が主観的意識 ( 機能的意識 )の必要条件である。

モナド的全体論(いかなる部分も全体を反映する)

全体のいかなる性質であれ、すべての部分のある性質に対応する

どの部分のいかなる性質であれ、全体のある性質に対応する

上記2命題のループにより、 どの部分のいかなる性質であれ、他のすべての部分において各々対応する性質を持つ(万物照応)

どの部分のいかなる性質の認識であれ、全体(あるいはすべての部分)の対応性質の認識をもたらす。ただし、対応性質以外の性質の認識をもたらすとは限らない。

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認識の認識が主観的意識 の必要条件 「私は、ここにいる」

① 認識の認識を 主題的に描く 性質

ハルヒの逆・自我体験 古泉の人間原理

キョンのモノローグ

② 認識の認識を 論理的に含意する 性質

〈涼宮ハルヒ超監督〉設定のメタフィクション性

③ 認識の認識を 因果的にもたらす 性質

「エンドレスエイト」のコンセプチュアルアート性

④ 認識の認識を 具体化している 性質

メディアミックス、プロジェクトアートによる

「祭り」「考察」の包含 ⇒ ① へ戻る ~ 高次のループ

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「エンドレスエイト」は 『ハルヒ』全体の〈脱臭作用〉

を暴く鍵である ・・・・・・

● 退屈な暴走 → 暴走を窮められぬ動揺 → 人間原理 ● モダニズムアート? ↔ ポストモダニズムアート? ● 長門の数え間違いをめぐる 壊れた説 → 目覚めた説 → 戻った説 ● 15日×15532回は驚愕に値する数なのか? → 10500 レベルの宇宙論的文脈の想起 → テラループ説 ・ オムニループ説

● ● ● 物語構造全体の再解釈が要請される

〈脱臭作用〉(『賭博破戒録カイジ』)

表層の説明を与えることによる深層の隠蔽(ミスリード) ex. パーキー効果、車線問題、2人の子ども問題

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『溜息』の重要性 ハルヒはテーブル上に置いてあった俺のコーヒーを一息で飲み干し、p.10-11 🔃 アニメⅡ期で唯一の時系列逆転

「あたしの飲みかけでよければ・・・・・・」・・・・・・俺が遠慮なく受け取ろうとしたとき、邪悪な悪魔の手が天使の腕を払いのけた。朝比奈さんからウーロン茶をひったくったハルヒが、 p.103

▲ ハルヒ – キョン関係のマスキング装置 EEとのツンデレ対応構造

「朝比奈さんはお前のオモチャじゃねえぞ」「あたしが決めたの。みくるちゃんはあたしのオモチャなのよ!」 p.196

▲ ハルヒ – 長門関係、キョン – 長門関係 のマスキング装置

「ここでとあるジャンルに登場願えればいいのです。そのジャンルは、すべての謎や超常現象を解体し、合理的なオチをつけることによって、歪みかけた世界を元通りの世界に引き戻す性質を持っています。物語のスタート時にあった世界が結末時において復活し、謎のような現象はすべて合理的に解消する働きを持つ唯一のジャンルがあるのですよ」 pp.237-8

▲ コンセプチュアルアート視の教唆 EEという超常現象 → 古泉の物語内処置(夢オチ) → キョンの物語外処置(ナレーション) → 物語性回復 → 文字通りの夢オチ(エゴループ説・エアループ説) → 極端なコンセプチュアルアート → ・・・・・・ Q型ループ成立

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『溜息』の重要性 「わたしの言葉が真実であるという保証も、どこにもないから」 p.251

▲ エアループ説の直接示唆

SOS団内の解釈の対立が表面化

◆朝比奈みくる説

(世界持続説・ハルヒは超常現象を発見するだけ説)・・・・・・芸術は予在するイデアの発見である説、「エンドレスエイト」のあの演出は予在していたのだから実行も正当化できる説、退屈な演出は長門の苦難を象徴する説 長門壊れた説

◆古泉一樹説

(世界改変(創造)説・ハルヒは超常現象を生み出している説)・・・・・・芸術は無からの創造である説、「エンドレスエイト」のあの演出は無から捻出されたのだからもっと楽しい多彩演出にすべきだった説、長門の実際の経験はポジティブだった説 長門目覚めた説・戻った説

◆長門有希説

「私の役目は観測」 → 長門務めた説? 自律進化 → 長門目覚めた説?

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長門壊れた説 vs. 長門目覚めた説

• 「長門壊れた説」はアニメ制作陣の退屈演出によるマッチポンプであり、 「許しがたい」。

• 「憂鬱Ⅰ」冒頭が改変後世界であるというラディカルな構造の方が「面白い」。

• 「人外が自我を持つ(人間化する)」はピノキオ、妖怪人間ベム、ジャイアントロボ、2001年宇宙の旅・・・・・・等々、陳腐なモチーフであり、避けるべし。「自我を取り戻す」の方が 「洗練されている」。

• 『ハルヒ』をキョンの多重自己欺瞞と長門・朝倉の悲劇として読む方が 「泣ける」。

• 『消失』の世界改変と三年前の出来事との対称性を想定することは 「美しい」。

• 「溜息」での諸超常現象は、朝比奈説より古泉説を 「確証する」。

• 「射手座の日」「サムデイ イン ザ レイン」での長門の表情、振舞はポジティブであり、バグより回復と見なすのが 「自然である」 。

• ミスリードをマスキングする二重三重の欺瞞という読み方は作品全体に 「ふさわしい」 。

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●受容的動機

本来のジャンルの一事例として見たときに感じられる不満・不審には、もっともな理由があるか? (鹿目、三浦, 2017)

●発生的正当化

作者の範疇的意図は、 いかなるカテゴリ変換を許容するか?

●帰結条件

コンセプチュアルアート視によって、芸術的価値が増すか?

●外在的理由

解釈的理由が、関係的性質として(たとえば間テクスト的に)発見できるか?

●内在的理由 解釈的理由が、顕示的性質として発見できるか?

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『エンドレスエイト』という恐るべき超常現象・・・

• 前提として、物語的意義、表現的意義、プロジェクト的意義を(少なくとも表面上)堂々と主張しうる。 →深層の意義の隠蔽

• コンセプチュアルアートとして扱うべき理由をコンテンツ&コンテクストが豊富に供給している。

• 「ループ」という概念が、物語内容からコンセプチュアル自己言及まで通底している。

• 人間原理/宇宙定数 Λ を具体化し、人間原理的「意識高い系」視聴を要求している。科学概念を構造的に体現したSFはきわめて少ない。

• 単独のアーチストの産物でないコンセプチュアルアートはきわめて珍しい。

• 逆コンセプチュアルアートとしての特殊性を持つ(「観ること」「観通したこと」それ自体に逆説的価値が付与される)。

• コンテンツ&プロジェクトの経済的リスクを賭した多層の実験だった。

• ハイアートでのCAではなく、アニメとしてのCAですらなく、なんと「娯楽アニメ」「萌えアニメ」という没入型ジャンルでCAをやってのけた。ジャンル概念の攪乱だけでなく、ポピュラー芸術の概念、さらには端的に芸術概念を根底から攪乱している。

• メタ的考察を内容に含むアニメはありふれているが(「魔法少女とは何か」←『まどか☆マギカ』、「セカイ系とは何か」←『ハルヒ』 など)、アニメを楽しむとは何かそれ自体をあれほど暴力的に前景化したアニメは前代未聞である。

• 『ポプテピピック』について観察されたように、「実験アニメ」の代名詞として定着するかもしれない。(が、それはたいていEEへの過小評価を伴う → 第1項目へ)

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『エンドレスエイト』という露骨な芸術実験から

『溜息』という密かな実験芸術へ

• 原作275ページを5等分、各々55ページ分で1話 • 各話が唐突に終わり、唐突に始まる • 媒体固有性Medium Specificityの否定 偶然性の芸術? • 媒体の否定 → コンセプチュアルアート性の確認 • Ⅰ, Ⅱ, Ⅲ, Ⅳ と Ⅴ との間に密度差が発生 • 全体 : EE の 不均質構造を フラクタル的に反復 • EEの娯楽的挽回を放棄 • コンテンツ凋落の真の戦犯? → 実は解釈的核心 • 対立の顕在化 古泉 vs. みくる(→キョン)、長門 vs. みくる(→視聴者)

• 時系列順方針に唯一違反 → オムニループの暗示

• 廃物利用 を示唆 ← 「朝比奈ミクルの冒険 Episode00」

ファウンドアート ジャンクアート

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異世界人とは?

「・・・・・・この中に宇宙人、未来人、異世界人、超能力者がいたら、あたしのところに来なさい。・・・」

すべて身近にいた(あるいはすぐに現われた)が・・・・・・

可能な6種類の答え

キョンである (たしかに、『消失』では唯一の異世界人だったとも言える。ただしパラレルワールド説は否定されていた)

ハルヒ自身である (たしかに、「超監督涼宮ハルヒ」は作品世界の外部にいる。しかし原作の段階では「超監督」はいない)

読者・視聴者である ( ② の一般化)

神人である ( ② の特殊化)

まだ登場していない (「未完」という現状に依拠)

全員である (3年前にハルヒが世界を改変したがゆえに)

③ ④

⑤ ⑥

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参考文献(適宜追加)

• 三浦俊彦 2018a 『エンドレスエイトの驚愕:ハルヒ@人間原理を考える』 春秋社

参考文献表 http://green.ap.teacup.com/miurat/html/bunken.pdf • 三浦俊彦 2018b 「『エンドレスエイトの驚愕』 著者インタビュー」(1)(2)(3)(『知的好奇心の

扉 トカナ』4月16日、17日、18日) http://tocana.jp/2018/04/post_16508_entry.html http://tocana.jp/2018/04/post_16522_entry.html http://tocana.jp/2018/04/post_16547_entry.html • 坂上秋成×三浦俊彦×村上裕一「『エンドレスエイトの驚愕』の驚愕」ゲンロンカフェ 2018. 05/29

https://togetter.com/li/1232585 動画公開(6/5まで) http://live.nicovideo.jp/watch/lv313204484

• 鹿目凛、三浦俊彦 2017 「「ループする時間」とアニメ作品の悲哀」『サイゾー』10月号pp.120-7

http://green.ap.teacup.com/miurat/html/cyzoloop.pdf

http://www.premiumcyzo.com/modules/member/2017/09/post_7862/ • 『月刊MdN』 2018年5月号「特集:ポプテピピックの表現学」

• 三浦俊彦 2017a 「神視界の人間的彩色 ベイズの定理」『現代思想2017年3月臨時増刊号 総特集=知のトップランナー50人の美しいセオリー』pp.196-9

• 三浦俊彦 2017b 「エレベーターの男女」『論理バラドクス・勝ち残り編 議論力を鍛える88問』(二見書房)pp.31-4

• サイモン・クリッチリー 2001 『ヨーロッパ大陸の哲学』(岩波書店, 2004) • アラン・ソーカル、ジャン・ブリクモン 1997-8『「知」の欺瞞』(岩波書店, 2000) • ジャック・ブーヴレス 1999 『アナロジーの罠』(新書館, 2003) • ニコラス・ウェイド『人類のやっかいな遺産』(晶文社, 2016) • リチャード・E・ニスベット 2003 『木を見る西洋人 森を見る東洋人』(ダイヤモンド社, 2004)

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期末レポート

送り先 miurat jcom.home.ne.jp

締切 7月28日午前零時

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