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海外直接投資における出資形態と経営資源 【目 次】 1 はじめに 2 海外子会社における出資形態 3 多国籍企業の出資行動の諸理論―経営資源の観点から― 4 バンドリング・モデル 5 おわりに 1 はじめに 多国籍企業の海外直接投資にかんする参入形態、とくに海外子会社における出資形態は、国 際ビジネス分野における重要な理論的および実践的な問題として論じられてきた。とくに Hennart 2009 )が提示したバンドリング・モデルは、海外事業に投入される経営資源の組み 合わせの観点から海外子会社への出資形態の選択を分析する枠組みとして注目される。本稿で はバンドリング・モデルにもとづく実証分析の準備作業として、多国籍企業がどのように海外 子会社における出資形態を選択するかという問題を論じてきた既存研究について検討する。海 外子会社への出資形態の決定要因については 1970 年代から盛んに論じられており、その研究 蓄積は豊富である。本稿ではとくに取引コスト理論、ウプサラ・モデルおよび折衷理論、そし てこれらの研究を踏まえて提示されたバンドリング・モデルを概観する 1 バンドリング・モデルの鍵概念は、多国籍企業の海外事業で必要な現地の販売網や、顧客、 取引ネットワークにかんする情報等を含む現地補完資源(complementarylocalassets )であ る。この現地補完資源と、多国籍企業が有する独自資源との組み合わせによって海外子会社の 出資形態が決定されるという指摘が、このモデルの新たな視点である。国際ビジネス研究の分 野でも、海外事業に投入される経営資源が多国籍企業の海外直接投資行動を分析する重要な概 念として長年論じられてきた。たとえば、JohansonandVahlne 1977,1990 )のウプサラ・ モデルでは、海外市場における多国籍企業の経営資源(市場知識)の蓄積とその成長との関連 性について論じられている。Dunnning 1979,1988a,1988b )の折衷理論では、海外直接投資 において、多国籍企業の経営資源(所有優位性)と現地補完資源(立地優位性)との組み合わ 69 キーワード: バンドリング・モデル、出資形態、経営資源、多国籍企業、合弁

海外直接投資における出資形態と経営資源 - Osaka City …...まな観点から理論的な解明がなされてきた。3多国籍企業の出資行動の諸理論―経営資源の観点から―

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  • 海外直接投資における出資形態と経営資源

    江 � �

    【目 次】

    1 はじめに

    2 海外子会社における出資形態

    3 多国籍企業の出資行動の諸理論―経営資源の観点から―

    4 バンドリング・モデル

    5 おわりに

    1 はじめに

    多国籍企業の海外直接投資にかんする参入形態、とくに海外子会社における出資形態は、国

    際ビジネス分野における重要な理論的および実践的な問題として論じられてきた。とくに

    Hennart(2009)が提示したバンドリング・モデルは、海外事業に投入される経営資源の組み

    合わせの観点から海外子会社への出資形態の選択を分析する枠組みとして注目される。本稿で

    はバンドリング・モデルにもとづく実証分析の準備作業として、多国籍企業がどのように海外

    子会社における出資形態を選択するかという問題を論じてきた既存研究について検討する。海

    外子会社への出資形態の決定要因については1970年代から盛んに論じられており、その研究

    蓄積は豊富である。本稿ではとくに取引コスト理論、ウプサラ・モデルおよび折衷理論、そし

    てこれらの研究を踏まえて提示されたバンドリング・モデルを概観する1)。

    バンドリング・モデルの鍵概念は、多国籍企業の海外事業で必要な現地の販売網や、顧客、

    取引ネットワークにかんする情報等を含む現地補完資源(complementarylocalassets)であ

    る。この現地補完資源と、多国籍企業が有する独自資源との組み合わせによって海外子会社の

    出資形態が決定されるという指摘が、このモデルの新たな視点である。国際ビジネス研究の分

    野でも、海外事業に投入される経営資源が多国籍企業の海外直接投資行動を分析する重要な概

    念として長年論じられてきた。たとえば、JohansonandVahlne(1977,1990)のウプサラ・

    モデルでは、海外市場における多国籍企業の経営資源(市場知識)の蓄積とその成長との関連

    性について論じられている。Dunnning(1979,1988a,1988b)の折衷理論では、海外直接投資

    において、多国籍企業の経営資源(所有優位性)と現地補完資源(立地優位性)との組み合わ

    69

    キーワード:バンドリング・モデル、出資形態、経営資源、多国籍企業、合弁

  • せが提示されている。また、RugmanandVerbeke(1990)、Rugmanetal.(2011)は現地補

    完資源(国特殊的優位性)と企業経営資源(企業特殊的優位性)が多国籍企業のグローバル戦

    略とその海外事業の存続性に影響を与えると指摘している。本稿の一つの目的は、これらの先

    行研究が、海外直接投資における出資形態を経営資源とのかかわりでどのように捉えてきたの

    かを整理することである。また、バンドリング・モデルを一連の国際ビジネス研究における位

    置づけを明らかにし、同モデルによる理論的貢献と今後展開されうる研究の方向性を検討する

    ことも本稿の目的である。

    本稿の構成は以下のとおりである。第2節では、多国籍企業の海外直接投資における出資形

    態の分類(完全子会社と合弁)について検討する。第3節では、海外直接投資における出資形

    態の決定要因にかんして、とくに経営資源とのかかわりに焦点をあてて、国際ビジネス分野の

    先行研究における議論を整理する。第4節では、バンドリング・モデルの概要とその限界につ

    いて検討する。最後に本稿のまとめと今後の研究の方向性について述べる。

    2 海外子会社における出資形態

    初期の国際ビジネス研究で、海外子会社の出資形態にかんする問題を指摘したのはStopford

    andWells(1972)である。彼らによると、海外直接投資をおこなう多国籍企業は、海外子会

    社の出資形態について他社(合弁パートナー)を参加させるべきかどうかという問題に直面す

    る。彼らは海外子会社にかんする出資形態を合弁(jointventure)と完全子会社(wholly-

    ownedsubsidiary)に区分している。ここでいう合弁とは、2社ないしは2社以上の企業の間

    で株式を子会社に共同出資することである2)。

    海外子会社の出資形態の違いは、多国籍企業の海外子会社に対する支配力(Stopfordand

    Wells,1972)や、海外子会社の成果(AndersonandGatignon,1986;Brouthers,2002;Makino

    andDelios,1996)に影響するといわれてきた。たとえば、完全子会社を選択する場合、親会

    社は子会社への高い支配力を有するとともに、海外直接投資のコストやリスクを自社単独で負

    うことにもなる。合弁の場合は、自社だけでなくパートナーの経営資源を利用することや事業

    のコスト・リスクをパートナーとの間で分散することが期待できる。ただし、合弁では運営面

    においてパートナーとの合意形成が必要となり、自社の戦略や意向を常に反映できるとは限ら

    ない。つまり、合弁は完全子会社と比較して、事業運営における制約を受ける可能性が高いと

    いえる。多国籍企業はこれらの海外子会社の出資形態にかんする便益とコストを総合的に評価

    し、どの出資形態をとるかを選択する。また、多国籍企業が海外子会社における出資形態を変

    更する際は、これが合弁の場合はパートナー間の交渉等を伴うため、完全子会社の場合と比べ

    て容易ではない(BrouthersandHennart,2007;Pedersenetal.,2002)。それゆえ、多国籍

    企業には海外子会社を設立する際に、その出資形態を慎重に決定することが求められる。この

    ような海外子会社への出資形態にかんする決定要因については、次節でみていくようにさまざ

    経営研究 第67巻 第3号70

  • まな観点から理論的な解明がなされてきた。

    3 多国籍企業の出資行動の諸理論―経営資源の観点から―

    本稿の冒頭でも述べたように、海外事業に投入される経営資源は多国籍企業の海外直接投資

    を捉える重要な概念として、Hennart(2009)を含む国際ビジネスの先行研究で論じられてき

    た。本節では多国籍企業の海外直接投資における出資形態の決定要因にかんする主要な研究を

    概観するとともに、それぞれの研究における経営資源の位置付けについても整理する。以下で

    は、Andersen(1997)や、BrouthersandHennart(2007)等の議論を参考に、取引コスト理

    論、ウプサラ・モデル、折衷理論にかんする諸研究を検討する。

    3.1 取引コスト理論

    3.1.1 取引コスト理論

    国際ビジネスの研究分野において、多くの先行研究が多国籍企業の海外直接投資行動の分析

    に適用してきたのが取引コスト理論である(Chungetal.,2015;DeVillaetal.,2015;Dikova

    andVanWitteloostuijn,2007;Hennart,2010;LaufsandSchwens,2014;Zhaoetal.,2004)。

    取引コスト理論はCoase(1937)によって提起され、Williamson(1975,1985)によって体系化

    された。通常は市場の価格メカニズムによって行われるはずの取引(市場取引)が、なぜ企業

    内部の権限にもとづく調整メカニズムによって取引(企業内取引)が行われるのかという問題

    について論じたのが取引コスト理論である。取引コスト理論では、外部の経済主体の取引(市

    場取引)では、取引相手の探索や、取引相手との交渉・契約、その行動の監視・管理に伴う取

    引コストと、材の購入価格を合計したものが財を入手する総費用として捉えている。これが材

    を社内で生産する場合の総費用を上回る場合に企業内取引が選ばれると理解されている。

    Williamson(1975)は、取引コストの大きさを決める要因として、限定された合理性

    (boundedrationality)と機会主義的行動(opportunisticbehavior)を含む主体的要因と、

    複雑性(complexity)と不確実性(uncertainty)、少数性(smallnumbers)を含む環境要

    因をあげている。人間が情報を収集、処理および伝達する能力には限界(限定された合理性)

    がある。この限定的合理性を有する主体が、複雑性や不確実性が高い取引環境のもとで、取引

    相手を決定する、または取引相手との交渉や契約をするための費用を負担せねばならない。ま

    た、人間は自己の利益最大化を追求するため、能動的あるいは受動的に、不完全な情報、歪曲

    的な情報を取引相手に提供するような利己的行動(機会主義的行動)も取引に伴う費用を高め

    る。とくに自社と取引できる相手が少ない(少数性)状況では、取引相手からの機会主義的行

    動を回避するための交渉や調整のコストが必要となる。

    また、Williamson(1979,1985)は、取引の形態について、市場と企業の間に中間組織の

    概念を新たに位置づけた。中間組織とは、特定の取引相手との間で継続的におこなわれる取

    海外直接投資における出資形態と経営資源(江) 71

  • 引を指す。彼はこの中間組織を導入した際に、資産特殊性(assetspecificity)、不確実性

    (uncertainty)と取引頻度(frequency)という取引の特性を表す三つの次元を提示した。と

    くに、資産特殊性は中間組織を説明するうえで重要な概念と思われる。たとえば、企業は他の

    企業との取引を成立させるために、特定相手に製品を提供するためにサプライヤーがおこなっ

    た専用工場や人材育成等への特別な投資をおこなうことがある。このように特定の取引のため

    におこなわれた投資は、他の取引(たとえば他の取引相手との取引)においてはその価値が著

    しく低下することがある。このような状況で取引における資産の特殊性が生まれる。Williamson

    によると、企業はこの特殊資産を保護しようとする場合に、取引主体間の双務的統治(bilateral

    governance)に基づく継続的取引か、統合された統治(unifiedgovernance)に基づく企業

    内取引をおこなう3)。逆に、資産特殊性が低い取引においては、とくに組織(企業内)や中間

    組織を通じた取引にこだわる必要がないため、市場取引がおこなわれるようになる。

    3.1.2 企業特殊資産の効率的な利用と出資形態

    このような取引コスト理論を分析枠組みとして、海外子会社における出資形態を分析した研

    究は、主に海外市場における多国籍企業の経営資源の効率的な利用に着目している。その代表

    はAndersonandGatignon(1986)である。彼らは取引コスト理論にもとづいて、海外子会

    社における多国籍企業の出資形態の選択にかんする仮説を提出した。彼らは多国籍企業が海外

    子会社に対して行使できる支配力の程度に応じて、海外子会社への出資形態を完全所有、過半

    所有、対等所有、少数所有に大別した。また、多国籍企業による海外子会社への最適な支配力

    の程度、すなわち最適な出資形態の選択は取引における資産特殊性の程度によって決定される

    とも述べている。たとえば、資産特殊性が高い経営資源が投入される海外事業では、多国籍企

    業はこのような資源を効率的に利用するために完全子会社等の高い支配力を実現できる出資形

    態を選ぶことになる。一方、資産特殊性が中程度あるいは低程度の経営資源が投入される海外

    事業では、多国籍企業は完全子会社にこだわる必要がない。このため、多国籍企業は合弁やラ

    イセンシング等の形態を選択することになるという。また、彼らは企業の資産特殊性を捉える

    指標として研究開発集約度(R&Dintensity)4)を提示した。彼らによると研究開発集約度が

    高い企業は、そこから生まれた多くの取引特殊的な知識や技術を持っている。このような経営

    資源はライセンス契約や合弁パートナーを通じて外部に流出する可能性があるため、研究開発

    集約度が高い多国籍企業は完全子会社を選ぶことになると彼らは指摘した。ただし、研究開発

    集約度で企業の資産特殊性をどこまで測定できるかという問題については、後述するように議

    論の余地も残ると考えられる。

    このAndersonandGatignon(1986)の研究は、取引コスト理論の視点から多国籍企業の

    海外事業における出資形態について本格的に論じた初期の研究であり、後の研究にも大きなイ

    ンパクトを与えた。その一つが、1960年から1975年の米国多国籍企業180社の海外生産子会

    経営研究 第67巻 第3号72

  • 社1267社における出資形態を分析したGatignonandAnderson(1988)である。この分析か

    ら、資産特殊性(現地国における特定産業の研究開発集約度)が高い場合、多国籍企業は完全

    子会社を選択する傾向があることが明らかにされた。また、MakinoandNeupert(2000)や

    BrouthersandBrouthers(2003)でも資産特殊性(親会社の研究開発集約度)が高い多国籍

    企業は合弁より完全子会社を選択する傾向があることが実証された。ただし、この資産特殊性

    と出資形態の関係について、異なった結果が得られた研究もある。たとえば、Hennartand

    Larimo(1998)やDeliosandBeamish(1999)では、資産特殊性(親会社の研究開発集約度)

    が高い多国籍企業は合弁を多く選択したと指摘されている。また、Hennart(1991)では親会

    社の研究開発集約度は出資形態の選択には影響を与えないことを明らかにした。これらの結果

    は、多国籍企業の海外直接投資の形態選択において、産業や親会社レベルでの研究開発集約度

    が影響を及ぼす程度、またはこれを多国籍企業の資産特殊性として捉えることは、さらに検証

    が必要であることを示唆している。

    3.1.3 取引コスト理論による研究の限界

    以上みてきたように、多国籍企業の海外子会社における出資形態を分析した先行研究では、

    資産特殊性の概念を導入し、出資形態の選択を取引コストの最小化と関連づけて捉えた。ただ

    し、これらの研究にはいくつかの限界がある。

    まず、取引コスト理論では取引に伴う(財の購入に要する)総費用の最小化が取引形態を

    決定する鍵となるが、先行研究が導入した変数ではそのような側面を十分に把握できないお

    それがある。たとえば、Zhaoetal.(2004)によれば、産業レベルまたは親会社レベルの研

    究開発集約度で資産特殊性を分析した既存研究では、出資形態にかんする分析の対象となる

    子会社レベルでの資産特殊性が分析されていない。しかし、資産特殊性は親会社が海外子会

    社に投入した経営資源と深くかかわっており、本来はこの経営資源にかんする資産特殊性が測

    定される必要がある(Zhaoetal.,2004)。また、先述したように、研究開発集約度という変

    数が、経営資源にかんする資産特殊性としてどれだけ妥当性があるかという問題もある。たと

    えば、研究開発集約度という変数は、資源ベース理論が提示したような、企業に競争優位をも

    たらす経営資源の保有レベルにかんするものだと言うこともできる。少なくとも、今後は経営

    資源の資産特殊性についていくつか代替的な次元から慎重に捉えていくことも必要だと思われ

    る。

    また、Madhok(1997)や長谷川(1998)によると、特定の取引に焦点をあてた取引コスト

    理論では、全社的な経営資源開発・蓄積のような個別取引を越えた意思決定の側面が十分考慮

    されないおそれもある。彼らによると、海外市場において多国籍企業が競争優位を維持するに

    は、既存の経営資源の効率的な利用だけでなく、自社の経営資源を開発・発展させる面も考慮

    する必要がある。たとえば、海外直接投資において合弁形態を採用した場合は経営資源の利用

    海外直接投資における出資形態と経営資源(江) 73

  • という面では非効率となるおそれがある。しかしながら、それ以上に多国籍企業が他社の保有

    する経営資源を利用・獲得できるという点では、合弁を選択して、自社の経営資源の発展につ

    なげていくというシナリオは十分考えられる。最後に、Hennart(2009)は、Andersonand

    Gatignon(1986)を含む取引コスト理論の研究では、多国籍企業のみの視点に立って海外直接

    投資における出資形態を論じることの限界を指摘した。多国籍企業の海外事業の形態は、多国

    籍企業の経営資源だけでなく、これと現地企業の経営資源との組み合わせによって決まる面も

    ある。すなわち、取引コスト理論にもとづく海外子会社の出資形態にかんする既存研究では、

    現地企業の役割が十分に考慮されていない。このように多国籍企業の海外事業で活用される経

    営資源の特性が十分分析されていないため、先述したような同じ研究開発集約度の変数を適用

    して異なる分析結果がもたされた可能性がある(Hennart,2009)。

    3.2 ウプサラ・モデル

    3.2.1 ウプサラ・モデル

    ウプサラ・モデル(JohansonandVahlne,1977,1990,2009)は多国籍企業の国際化プロ

    セスにかんするモデルである。このモデルを理解する中核的な概念は知識である。

    まず、JohansonandVahlne(1977)はPenrose(1959)の議論をベースに、知識を客観的知

    識(objectiveknowledge)と経験的知識(experientialknowledge)に分けている。Penrose

    (1959)によれば、客観的知識は市場から購入することが可能であり、個人や企業の間でも簡

    単に移転できる。それに対して、経験的知識は容易に移転できないもので、事業活動の経験か

    らしか得られないものである。このような経験的知識の一例が、現地顧客のニーズや購買行動

    等にかんする市場知識(marketknowledge)である。そして、JohansonandVahlne(1977,

    1990)のモデルでは、新規市場に進出した多国籍企業にとって、このような現地市場にかんす

    る知識を持たないことが一つの障害になりうると捉えている。市場知識を獲得した多国籍企業

    は現地市場にかんする機会やリスクを認知することができ、そのことを通じて国際事業活動を

    促進することもできる5)。このような市場知識にかんする見方をもとに、彼らは多国籍企業が

    特定市場での事業経験を通じて当該市場にかんする知識を蓄積できれば、現地市場により多く

    の資源投入するようになると述べている。このような前提をもとに、彼らは後述するような多

    国籍企業の国際化プロセスにかんする事業連鎖(establishmentchain)のパターンを提示し

    た。そこでは海外事業が不定期的な海外輸出から、定期的な海外輸出、販売子会社、生産子会

    社へと順序的に展開することが示されている。これはたとえば、海外子会社の出資形態が合弁

    から完全子会社へと変化することだと考えられる。

    また、彼らは、心理的距離(psychicdistance)という観点からも多国籍企業の国際化のプ

    ロセスを論じている。JohansonandVahlne(1990)は多国籍企業の本社のある本国と、海外

    事業を展開する現地国との間の心理的距離を、言語、文化、政治的システム等の相違の点から

    経営研究 第67巻 第3号74

  • 捉えている。このような心理的な距離は海外子会社と現地市場の間の情報の流れを阻害する。

    このため、多国籍企業の国際化は常に心理的距離が近い国から始まると彼らは述べている。

    さらに、JohansonandVahlne(2009)は、ビジネスネットワークという概念を導入する形

    でウプサラ・モデルを発展させた。彼らによると、多国籍企業にとって問題となるのは、新た

    に進出した国では、サプライヤーや顧客、ライバル等(彼らは現地アクターと呼ぶ)が構成す

    るビジネスネットワークの外にあることである。このような問題を克服するうえでは、ネット

    ワークの中に位置する現地アクターとの関係を構築することが必要になる。そこで多国籍企業

    は資源や時間等を投入することによって現地アクターとの信頼関係を構築し、現地のビジネス

    ネットワークにおける位置づけをよそ者(outsider)から身内(insider)へと変化させてい

    き、現地アクターから現地市場にかんする知識を学習することもできるようになる6)。このこ

    とは現地市場における多国籍企業のさらなる事業展開につながることを彼らは指摘した。

    3.2.2 国際経験と出資形態

    多国籍企業の海外市場にかんする知識の発展と現地市場への投入資源との関係にかんするウ

    プサラ・モデルの考え方は、海外直接投資にかんする多くの研究で適用されている(Clarke

    etal.,2013;DeVillaetal.,2015;Swobodaetal.,2015)。そしていくつかの研究は多国籍企

    業の海外市場にかんする知識を国際経験の観点から検討し、国際経験を蓄積した多国籍企業

    ほど海外直接投資で完全子会社を選ぶ傾向を明らかにした。その一つが、1996年から2006年

    まで台湾のコンピューター及びエレクトロニクス企業による1550件の対中直接投資を分析

    したKuoetal.(2012)である。彼らによると、海外直接投資の実施年数が長いまたは海外

    進出国の数が多い台湾企業ほど、対中投資において完全子会社を選択する傾向が見られた。ま

    た、DeliosandBeamish(1999)は、国際経験を一般的な経験(generalinternationalexperi-

    ence:海外直接投資の実施年数)と現地国経験(現地国での海外直接投資の件数)に区別し、

    東南アジアにおける1000社の日系生産子会社を分析した。その結果、一般的な経験が高い、

    あるいは現地国経験が高い日本企業は現地で完全子会社を選択する傾向があることを明らかに

    した。

    ただし、国際経験を多く有する多国籍企業が、海外直接投資で完全子会社を選択するとは限

    らないことを示した研究もある。たとえば、1980年から2003年の台湾エレクトロニクス企業

    467社による海外直接投資1506件を分析したLiandMeyer(2009)の実証結果は興味深い。

    彼らによると、EUやアジアの先進国(たとえば日本、韓国)への投資では海外直接投資の実

    施年数が長い台湾企業は完全子会社を選択する傾向が見られた。しかしその一方で、それ以外

    の地域(たとえばインドネシアやタイ等の新興国)では同様の傾向は必ずしも見られなかった。

    また、国際経験の蓄積が豊富な多国籍企業は、海外子会社の出資形態として合弁を選ぶ傾向を

    明らかにしたJungetal.(2010)の研究もある。彼らは1994~2002年の日本企業の海外直接

    海外直接投資における出資形態と経営資源(江) 75

  • 投資5507件を分析し、各海外子会社の操業年数の合計が多い日本企業ほど合弁形態を選択す

    る傾向があることを示した。彼らはこのような傾向がみられた理由について、多国籍企業が国

    際経験を蓄積することで、合弁パートナーとコミュニケーションをおこなう能力を高めるから

    ではないかと述べている。これらの分析結果は、多国籍企業の海外直接投資の形態選択が国際

    経験以外の複合的な要因に影響されること、そしてウプサラ・モデルが示したような国際化プ

    ロセスが常に成立するとはいえない面があることを示唆しているといえよう。

    3.2.3 ウプサラ・モデルによる研究の限界

    以上みてきたように、ウプサラ・モデルは、多国籍企業の海外市場における出資行動を当該

    市場にかんする知識の蓄積とのかかわりで分析した。このモデルをもとに多国籍企業の海外子

    会社における出資形態を分析した研究は、市場知識の蓄積を国際経験という概念からとらえ、

    多国籍企業の海外事業の変化を動的に捉える視点を導入した。しかしながら、このウプサラ・

    モデルについても、取引コスト理論と同じように多国籍企業の視点を議論の中心に置いている

    (Hennart,2009;Hennartetal.,2015)、という批判がなされている。このような限界は、ウ

    プサラ・モデルにもとづく多国籍企業の海外出資行動の実証研究が、同じ国際経験の変数を用

    いた場合でも異なる分析結果が得られたことに結びついた可能性(Hennart,2009;Hennart

    etal.,2015)も指摘されている。また、ウプサラ・モデルでは、海外市場にかんする知識が

    蓄積するほど多国籍企業は現地への資源投入が高くなることが指摘されているが、合弁等の投

    資形態がどのように選択されるかについては十分議論されていない(Andersen,1997)とい

    う批判もある。ウプサラ・モデルでは多国籍企業の国際化は事業連鎖にしたがって展開されて

    いくと捉えている。しかしながら、多国籍企業は海外事業において必ずしもそのような展開を

    経ていくとは限らない。たとえば、住友ゴム工業は1986年に米国のダンロップ社を完全買収

    して米国市場に進出したが、1999年になると米国のグッドイヤー社との間に事業提携を結び、

    ダンロップ社は住友ゴム工業とグッドイヤー社との共同出資による合弁会社となった例がある。

    これは住友ゴム工業が米国市場の経験を蓄積する中で、現地における同社の資源投入が低下し

    た合弁形態に変化したものであるが、この事例はウプサラ・モデルでは十分説明できない。現

    地の事業経験を蓄積するに従い、海外直接投資が合弁から完全子会社に発展することをウプサ

    ラ・モデルは前提としているからである。最後に、ウプサラ・モデルは個別の概念に頼りすぎ

    ているというAndersen(1997)の批判もある。たとえば、Brouthersetal.(2008)やDelios

    andHenisz(2000)、LiandMeyer(2009)等が指摘したように、市場知識等の経営資源の蓄

    積と使用は現地国の制度的環境からの影響も受けている。このように複合的な要因に影響され

    る多国籍企業の海外直接投資の問題を、市場知識という単一の概念で説明しようとするウプサ

    ラ・モデルには限界があることが指摘されている。

    経営研究 第67巻 第3号76

  • 3.3 折衷理論

    3.3.1 折衷理論

    続いて、Dunning(1979,1988a,1988b,1993)が提唱した折衷理論(またはOLIパラダイ

    ム)をみていこう。

    Dunningによると、次の3つの条件がそろうと、多国籍企業は海外直接投資をおこなうこ

    とになる。一つ目の条件は、多国籍企業が特定の市場において他の国籍の企業と比べて、より

    高い利益を生むような所有優位性(ownershipadvantages)を持つことである。ここでいう

    所有優位性とは、主に技術やノウハウ等のような無形資産を所有することから生じる優位性で

    ある。この考え方は、多国籍企業がなぜ海外事業を行い、またそれを直接的に支配するかとい

    う問題に答えようとした、Hymer(1960)の国際事業活動の理論にもとづいている。彼による

    と、多国籍企業が海外事業をおこなうのは次のような条件の場合である。それは、海外市場

    において多国籍企業はコストやマーケティング等の面で現地企業と比べて独占的な優位性

    (monopolisticadvantages)を保有し、またそのことが多国籍企業が現地企業ではないこと

    による不利な条件の克服につながる場合である7)。そして、輸出やライセンシング等では優位

    性を確保できず、またそれらのもたらす利潤が十分でないならば8)、多国籍企業は海外事業を

    現地生産のような直接的に支配できる方式に転換していくと彼は指摘した。

    所有優位性を持つ企業が海外直接投資を展開する場合は、内部化優位性(internalization

    advantages)という第二の条件を満たすことが必要となる。内部化優位性とは、企業の所有

    優位性を他の企業に売却・リースすることよりも、自社内部で利用するほうが有利である状態

    を指している(Dunning,1979,275頁;Dunning,1988a,45頁)。このような考え方はBuckley

    andCasson(1976)に代表される内部化理論が適用されている。内部化理論では、市場の不完

    全性と市場の失敗を前提とした場合に、多国籍企業の有する優位性はどのような海外事業の形

    態が有効であるのかを分析した。まず、専門知識や管理スキル等は多国籍企業に優位性をもた

    らし、また市場取引をおこなうのが容易ではないものが多い。このように市場取引が難しい資

    産を海外市場に移転する際に、これを他社に販売する場合よりも、自社内部で利用する場合の

    方が、取引費用が安くなることが考えられる。すなわち、国内で蓄積した技術等の資産を海外

    市場に移転する場合に、ライセンシングではなく自社の海外子会社で利用したほうが取引費用

    の面で有利であれば、この内部化優位性が成り立つことになる。

    また、Dunningは企業が特定の国において海外直接投資を実施するには立地優位性(location

    advantages)という第三の条件を満たす必要があると指摘している。立地優位性とは、多国

    籍企業が本国で生産するより、自社の所有優位性と海外の要素投入とを組み合わせて現地生産

    をおこなうほうが有利である状態を指している(Dunning,1979,275頁;Dunning,1988a,46

    頁)。また、現地の要素投入は現地におけるすべての企業に提供されるものであり(Dunning,

    1988b)、原材料や、天然資源、低コストの労働力、そして優遇制度等がその例である。この

    海外直接投資における出資形態と経営資源(江) 77

  • 立地優位性には、Vernon(1966)のプロダクトサイクル論が提示したような、立地の視点が

    取り入れられている。彼によると、本国で新製品を開発した米国企業は、製品のライフサイク

    ルの各段階(導入期、成熟期、標準化期)を経ていく過程で、生産拠点を国内から海外の先進

    国、さらに発展途上国へと展開していく。製品の導入期では、製品の仕様、製品生産に必要な

    投入、製品の市場規模が決定されていない。この時期において企業は目標市場における様々な

    アクター(たとえば、サプライヤー、顧客、ライバル)とのコミュニケーションが必要になる

    ため、新製品の主要市場である米国が生産拠点として選ばれる。また、成熟期では、製品の仕

    様や生産プロセス等にかんする標準化がある程度進むために製品の大量生産が比較的容易にな

    り、米国から他の先進国市場へ製品を輸出することも可能となる。そして、多国籍企業は、現

    地国による輸入規制の回避や、現地市場の確保を図るため、他の先進国への輸出に続いて生産

    拠点を置くようになる。標準化期では、製品の仕様や生産プロセスが完全に標準化されるため、

    製品価格が他社と競争するうえで重要な点になる。したがって、この段階では、低賃金の労働

    力を提供できるような発展途上国での生産が行なわれる。このように、製品のライフサイクル

    の段階に応じて、生産拠点の立地および所有形態にかかわる優位性は異なる。

    以上、Dunningは既存理論の分析視点を複合的に組み合わせて、海外直接投資を説明する

    ための一般化理論として折衷理論を提示した。

    3.3.2 三つの優位性と出資形態

    これらの折衷理論で論じられた諸側面については、多国籍企業の海外直接投資における出資

    形態にかんする研究(AgarwalandRamaswami,1992;Brouthersetal.,1996,1999;Lee

    andHuang,2009;PadmanabhanandCho,1996;TalayandCavusgil,2009;Tatogluand

    Glaister,1998)で実証されている。たとえば、TatogluandGlaister(1998)は、トルコの欧

    米系子会社98社の出資形態について所有優位性、内部化優位性、立地優位性の観点から分析

    した。彼らは、国際経験や商標、人的資源といった競争優位性をもたらす資源を有する多国籍

    企業は、これらを海外事業で効率的に利用するために完全子会社を選ぶ傾向があることを示し

    た。また、彼らはこれらの経営資源を保有する多国籍企業は、海外事業を自力で展開する能力

    が高いことも指摘している。そして、内部化優位性にかんしては、彼らは品質管理(quality

    control)の側面からとらえ、その十分な水準を維持している多国籍企業は海外において完全

    子会社を選ぶことも明らかにした。彼らによると、企業の品質管理にかんする能力は、その企

    業が独自開発技術やノウハウなどの市場取引が困難な企業特殊資産を持つこととかかわってい

    る。彼らはこの結果は、多国籍企業にとってライセンシングなどを通じてこれらの企業特殊資

    産を他社に販売するよりは、完全子会社を通じて利用する方が、これを効率的に利用できるた

    めだと推測している。最後に、彼らは市場潜在性、政策、インフラ設備、投資リスク等の点か

    ら立地優位性をとらえ、とくに投資リスクが高い国で多国籍企業はリスク回避のために合弁を

    経営研究 第67巻 第3号78

  • 選ぶ傾向を示した。

    3.3.3 折衷理論による研究の限界

    複数の既存理論を踏まえつつ、それらを融合する形で提示された折衷理論は、多国籍企業の

    海外直接投資を包括的に分析する枠組みとして位置付けられてきた。折衷理論では、所有優位

    性、内部化優位性、立地優位性という三つの条件が満たされることが、多国籍企業が海外直接

    投資をおこなう前提として考えている。また、多くの研究はこのような三つの優位性にかんす

    る議論を、多国籍企業の海外子会社における出資形態の分析に応用した。しかし、この折衷理

    論にもとづいた出資形態の研究にも限界がある。前述したように、折衷理論によると所有優位

    性をもつ多国籍企業は、その優位性を外部化より内部化し、またその優位性を国内より海外の

    要素投入とともに使用することで有利である場合、海外生産がおこなわれるのである。当該理

    論では海外生産をおこなううえで多国籍企業がもつ優位性と現地の補完的な要素投入との組み

    合わせが提示されている。この点では、多国籍企業の海外事業における現地補完資源を考慮し

    た折衷理論は、海外市場における自社資源の利用・蓄積のみに注目した取引コスト理論とウプ

    サラ・モデルよりも広い視角を有するといえよう。ただし、折衷理論では、企業の所有優位性

    については不完全市場で販売されうることは論じているが、立地優位性は特定国に立地するす

    べての企業に提供されるものとして捉えられている(Hennart,2012,168頁)。換言すれば、折

    衷理論では、多国籍企業の海外事業における自社経営資源と現地補完資源との組み合わせを前

    提としているが、いかなる条件の下で企業が現地補完資源にアクセスできるのかという点につ

    いては十分論じていない。たとえば、LeeandHuang(2009)やTatogluandGlaister(1998)

    等の折衷理論に基づく海外子会社における出資形態の実証研究では、立地優位性が高い場合は

    多国籍企業が現地の良質な要素投入を利用できるため合弁を選ぶ必要性が低下することが指摘

    されている。しかし、これらの分析では多国籍企業の自社資源が、現地補完資源といかに結び

    つくのかというメカニズムについては十分明らかにされていない。この点については、次節で

    詳しく論じることにしよう。

    4 バンドリング・モデル

    4.1 バンドリング・モデルの概要

    以上みてきた既存研究を踏まえ、多国籍企業の海外子会社における出資形態が、海外事業に

    おける経営資源の組み合わせによって決まると指摘したのはHennart(2009)である。まず、

    彼は取引コスト理論やウプサラ・モデルにもとづく研究は、多国籍企業のみの視点にたって海

    外直接投資における出資形態を論じていると批判している。そのうえで、彼は多国籍企業の海

    外事業では、自社の保有する経営資源(FSAs:FirmSpecificAdvantages)と、自社が保有

    しない現地補完資源(CLAs:ComplementaryLocalAssets)9)が組み合わされることを強調

    海外直接投資における出資形態と経営資源(江) 79

  • した。ここでいうFSAsとは、アイディアや、各種類の情報、そして新たな製品・生産プロ

    セス、管理技術といった企業に競争優位をもたらすような、幅広い意味での知識資源である。

    一方、CLAsとは、土地や、労働力、流通網、現地市場にかんする情報等を指している。これ

    らのFSAsとCLAsの結びつきによって多国籍企業が海外事業を実現することが、バンドリ

    ング・モデルの前提になっている。したがって、このモデルの出発点は所有優位性と立地優位

    性との組み合わせを提示したDunningの折衷理論に近いともいえる。

    しかしながら、先述したように、折衷理論では立地優位性はその市場におけるすべての企業

    に提供されている(Dunning,1988b)ことが前提となっている。一方、Hennart(2009,2012)

    やHennartetal.(2015)によると、CLAsにはこれを保有する主体が存在し、またその保有

    者は現地企業となる場合が多い。また、彼らはCLAsが常に完全競争市場(perfectlycom-

    petitivemarket)で販売されるとは限らないことも指摘している。例えば、一部の国(特に、

    新興国)では、法的に流通網を設立する権利を有することができる企業は、現地企業に限られ

    ている。そのような市場において多国籍企業が自社製品を販売するには、流通網を持つ現地企

    業との契約によってこの流通網を利用せねばならない。ただし、現地企業にとっても、多国籍

    企業に流通網を提供する場合には、そのために膨大な投資を伴うこともある10)。それらの投資

    が他の取引に利用できない資産特殊性が高い場合には、現地企業はその投資を拒否するか、長

    期的な契約を通じて投資を回収しようとする(Hennart,2012)。そのため、多国籍企業にとっ

    て市場取引を通じて現地流通網を利用する場合は、持ち主との交渉や、またそれとの契約や関

    係維持のためのコストが高くなる。このようにCLAsを市場で取引するコストが高い場合、

    企業はCLAsを市場から購入する必要のある完全子会社よりも、現地企業のCLAsを利用で

    きる合弁を選ぶ。したがって、多国籍企業の海外子会社における出資形態を分析するにあたっ

    て、CLAsの持ち主である現地企業の視点が不可欠となる(Hennart,2009)。バンドリング・

    モデルにおいて多国籍企業と現地企業の双方が提供する経営資源の視点が取り入れられている

    のはこのためである。

    Hennart(2009)はバンドリング・モデルを提示した際に、Hennart(1988)の視点も援用し

    ている。というのは、Hennart(1988)の研究は、合弁相手の補完資源の特性にも着目してい

    るからである。この点で当該研究は、AndersonandGatignon(1986)等の海外子会社の出資

    形態にかんする先行研究と異なっている。とくに、Hennart(1988)は合弁会社が成立する条

    件として、合弁パートナーが相互に必要とする補完資源を持ち、それらの資源を市場で取引す

    るコストがともに高いことを強調されている。Hennart(2009)のバンドリング・モデルは同

    様の観点からCLAsにかんするより詳細な検討をおこなった11)。

    また、Hennart(2009)では、多国籍企業はいくつかの市場を通じてCLAsにアクセスでき

    ることも指摘した。例えば、工場がCLAsである場合、多国籍企業は土地等を購入して一か

    ら工場を建てることも、市場から工場を購入することも(彼らは工場の市場と呼ぶ)、あるい

    経営研究 第67巻 第3号80

  • は他社の工場をリースすることもできる(彼はレンタル市場と呼ぶ)。また、多国籍企業はそ

    れを有する現地企業を買収することを通じて工場を獲得することもできる(彼は企業の市場と

    呼ぶ)。

    これらの多国籍企業と現地企業が投入する経営資源の組み合わせによって、海外事業におけ

    る多国籍企業の出資形態を分析する枠組みとして提示されたのが図1のバンドリング・モデル

    である。

    図1の縦軸は、現地企業の有するCLAsの特性を示している。図1の上側は市場取引が容

    易に行われる、下側は市場取引が行われにくいCLAsをそれぞれ示している。図1の横軸は、

    多国籍企業の有するFSAsの特性を示している。図1の左側は市場取引が容易なFSAs、右側

    は市場取引が困難なFSAsである。経営資源の市場取引が容易というのは、例えばライセン

    シング等で資源を獲得する際にコストが低いこと、あるいはその資源が代替されやすい状況を

    指している。それに対して、市場取引が困難であることは先述した流通網のように、市場方式

    での利用コストが高い状況を指している。

    このように分類されるFSAsとCLAsの組み合わせを通じた多国籍企業の海外事業の位置

    づけについて、図1の各セルでみていこう。セル2は多国籍企業のFSAsは現地企業に販売、

    リースされにくく、かつ多国籍企業はCLAsを購入またはリースすることが比較的容易なケー

    スである。この場合は多国籍企業が市場取引によってCLAsを購入して完全子会社を設立す

    ることになる。セル4は多国籍企業のFSAsと海外事業を行うためのCLAsの両方が市場取

    引を行うのが難しいケースである。この場合は多国籍企業と現地企業の間で合弁会社を設立し

    て、そこにパートナー間の経営資源が投入される。セル3は多国籍企業の有するFSAsの市

    海外直接投資における出資形態と経営資源(江) 81

    図1 バンドリング・モデルによる多国籍企業の海外市場における出資形態とその変化

    注)MNEs=MultinationalEnterprises出所)Hennart(2009)をもとに筆者作成。

  • 場取引が比較的容易であり、CLAsは市場取引が困難なケースである。この場合は現地企業が

    多国籍企業との間でライセンシングを行って、現地企業が完全子会社または社内組織によって

    事業を実施する。セル1は多国籍企業のFSAsと海外事業を行うためのCLAsの両方が市場

    取引を行うのが比較的容易なケースである。これについてHennart(2009)はほとんど言及し

    ていないが、他の三つのセルで多国籍企業が選択する完全子会社、合弁、ライセンスを含む多

    様な形態が選ばれ得る。これは、特定の形態が選ばれない状況だといえる

    また、これらの多国籍企業の海外事業にかんする諸形態は経時的に変化することもHennart

    (2009)は指摘した。特定の国における多国籍企業の出資形態の変化も、多国籍企業と現地企

    業が持つ経営資源の特性の変化に影響される。たとえば、多国籍企業が補完資源を市場から購

    入できるようになる場合は、合弁(セル4)から完全子会社(セル2)に移行する可能性が高

    いと考えられる。逆に多国籍企業の有す経営資源の優位性が低下する場合や、現地補完資源の

    市場取引が困難な場合は、多国籍企業は完全子会社(セル2)よりも合弁(セル4)を選ぶ可

    能性が高まることも考えられる。

    さらに、バンドリング・モデルについては、すでにHennartetal.(2015)による米国企業

    のブラジルにおける297件の直接投資にかんする実証研究もおこなわれている。とくに彼らは、

    多国籍企業からのCLAsに対するアクセス困難性について、CLAsにかかわる市場の不完全性

    の程度(thedegreeofimperfection)から捉えた分析をおこなっている。そして、CLAs市

    場の不完全性を産業の集中度や現地市場における補完資源の供給者数で測定し、前者が高い場

    合と後者が少ない場合に、多国籍企業は合弁を選ぶ傾向があることを示した。

    4.2 バンドリング・モデルの限界

    既存の国際ビジネス研究の限界を克服すべく提示されたバンドリング・モデルであるが、こ

    のモデルにもいくつかの限界がある。まず、個別の海外直接投資に着目したバンドリング・モ

    デルでは、個別の海外直接投資を超えた企業・産業レベルの海外子会社にかんする出資形態へ

    の影響因を分析することは難しい。例えば、日本のタイヤメーカーは近年の世界的な合従連衡

    の流れの中で親会社レベルでの合併・買収 12)が進み、その過程で海外子会社の完全子会社化

    もおこなわれた。このような企業再編に伴っておこなわれた海外子会社の完全子会社化を、海

    外事業におけるFSAsとCLAsの組み合わせという観点だけで十分説明することは難しいで

    あろう。

    また、海外事業における経営資源の組み合わせに着目したバンドリング・モデルでは、多国

    籍企業が経営資源を開発・蓄積する側面が十分に考慮されないおそれもある。バンドリング・

    モデルは海外子会社の出資形態を動的にも捉えているが、出資形態の変化は海外事業における

    FSAsとCLAsの組み合わせで決まることを前提としている。しかしながら、海外市場、特に

    それが先進国における事業活動では、多国籍企業は現地の事業経験を通じて市場取引が困難な

    経営研究 第67巻 第3号82

  • CLAsを自社で蓄積し、現地パートナーを代替できるようになる可能性もある。Badaracco

    (1991)やHamel(1991)、ReichandMankin(1986)等も指摘するように、国際合弁をおこなっ

    た多国籍企業はパートナー企業から知識を学び、それを自社能力の一部とする可能性も十分に

    ある。この点では、バンドリング・モデルをベースにした出資形態の分析でも、多国籍企業の

    現地市場における事業経験を考慮することが重要であると考えられる。

    最後に、バンドリング・モデルそのものを検証することの難しさもある13)。たとえばこのモ

    デルの中心的な概念であるFSAsやCLAsあるいはそれらの特性(アクセスの困難性等)の

    測定や、データ間でこれらの条件を同一に設定することは容易ではない。このような限界を踏

    まえた実証研究の方向性としては、特定の産業あるいは市場(海外子会社の立地市場等)に絞

    ることや、これらの条件を十分に考慮した形での事例分析等が考えられる。

    5 おわりに

    本稿では、海外子会社における多国籍企業の出資形態にかんする分析枠組みのバンドリング・

    モデルと、これが提示される契機となった国際ビジネス分野の先行研究を検討した。国際ビジ

    ネス分野の先行研究については、多国籍企業の海外直接投資とのかかわりで経営資源について

    検討された内容や位置づけを明らかにした。とくに、取引コスト理論を適用した実証研究では

    多国籍企業が有する企業特殊的な資源の効率的な利用、ウプサラ・モデルとこれらを適用した

    実証研究は多国籍企業の海外市場にかんする知識の蓄積が、多国籍企業の海外事業における出

    資形態を分析する鍵となっていた。ただし、これらの研究では多国籍企業の有するFSAsが

    強調され、海外事業に必要となるCLAsについてはほとんど議論されていない。折衷理論お

    よびそれに基づく実証研究では、海外事業におけるFSAsとCLAsの組み合わせという観点

    が論じられている。しかしながら、折衷理論では、CLAsがその国に立地するすべての企業に

    提供されるものとして捉えられている。換言すれば、CLAsにはこれを移転・取引する難しさ

    もある点では、CLAsの特性やそれによる多国籍企業のCLAsへのアクセス可能性が折衷理論

    で十分考慮されているとは言い難い。

    Hennart(2009)やHennaretal.(2015)で提示されたバンドリング・モデルはこれらの先

    行研究の限界を克服したものとなっている。同モデルはとくに折衷理論の海外事業における経

    営資源の組み合わせという視点を起点とし、海外子会社における出資形態の選択をFSAsと

    CLAsの双方の特性の観点から論じている。とくにバンドリング・モデルは、FSAsの所有者

    としての多国籍企業が、海外子会社の出資形態を選ぶ際に、CLAsを有する現地企業がどのよ

    うな役割を果たすかという観点に着目した。多国籍企業の海外子会社における出資形態の問題

    を、海外事業を取り巻く経営資源をこれまでにない幅広い観点から捉える視点をバンドリング・

    モデルは提示した。同モデルは、国際ビジネス研究において今後有力な理論枠組みの一つとな

    ると期待される。ただし、このモデルにも多国籍企業の海外直接投資の出資形態にかんする選

    海外直接投資における出資形態と経営資源(江) 83

  • 択を分析する枠組みとしていくつかの限界はある。それらの限界にも配慮しつつ、実証研究を

    蓄積していくことが、このモデルを理論的に発展させていく一つの鍵だといえよう。この点は

    本稿でも一部指摘したが、今後もさらに検討すべき課題といえよう。また、紙幅の関係で本稿

    では十分触れていないが、バンドリング・モデルでは、海外子会社における設立形態(買収や

    新規設立)についても多国籍企業からCLAsへのアクセスという観点から捉える視点を提示

    している。このような観点から同モデルを理論的に検討することも今後の課題である。

    1)Chungetal.(2015)やDeVillaetal.(2015)は、Hennart(2009)の研究を折衷理論の延長線上にあ

    るものとして位置づけている。しかしながら、これらを含む既存研究では、バンドリング・モデルにか

    んする理論面、あるいはその限界や意義等について十分論じられていない。ただし、Rugmanetal.

    (2011)も指摘したように、現地企業の提供する補完資源の特性を国際経営の研究に取り入れたバンドリ

    ング・モデルの評価が高まりつつある。

    2)合弁(jointventure)については、Hennart(1988)が equityjointventureと nonequityjoint

    ventureを区分する考えを示している。前者は2社ないしは2社以上の企業がともに出資して一つの独

    立法人を設立する場合、あるいは企業が外部の既存会社に部分的に出資する場合を指している。後者は

    合弁のようなパートナー間の共同出資の子会社設立を伴わない、ライセンシングや技術提携といったパー

    トナー間の契約上の合意を指している。これらの違いを踏まえたうえで、彼は合弁を前者のequityjoint

    ventureという意味で用いている。

    3)前者の場合では取引における各取引主体の自主性が維持されているが、後者の場合では取引が完全に

    企業内部に統合されている。

    4)大阪市立大学経済研究所の『経済学辞典(第3版)』によると、研究開発は「技術的新知識の生産」

    を図る活動である。また、研究開発集約度は、研究開発費が総売上高に占める割合で表され、企業の技

    術上の優位性を測る指標の一つである。

    5)JohansonandVahlne(1977,1990)は、市場知識が多国籍企業の当該市場にかんする機会やリスク

    を識別する能力を向上させるため、これが企業に持続的競争優位をもたらす経営資源となると指摘して

    いる。このような考え方はBarney(1991)等の資源ベース理論で示された、企業は「価値」や「希少性」、

    「模倣困難性」及び「非代替性」をみたすような資源を確保することで持続的な競争優位を確保すると

    いう考えと一致している。したがって、ウプサラ・モデルでは明確に言及されていないものの、資源ベー

    ス理論を理論的な基盤としている面があると考えられる(Andersen,1997)。

    6)このJohansonandVahlne(2009)で導入された新たな視点については、山本(2013)も同様に指摘

    している。

    7)たとえば、現地政府の規制や現地市場にかんする知識の欠如等のよう劣位が考えられる。

    8)たとえば、多国籍企業は技術の使用権を現地企業に販売すれば、その技術が買手にまねされ、その優

    位性がなくなった場合がある。

    9)Dunningの折衷理論では、前者を所有優位性、後者を立地優位性と呼んでいる。

    10)例えば、販売網の持ち主が顧客にアフター・サービスや、多国籍企業に現地顧客や市場からのフィー

    ドバック情報を提供することが求められる場合がある。このような場合には、販売網の持ち主である現

    地企業は設備や人材育成等への特別な投資をおこなうことが必要になる。

    11)また、Hennart(2009)は最適な出資形態の選択という観点にも着目しているが、この点については

    経営研究 第67巻 第3号84

  • Eswaran and Kotwal(1985)の所有権理論を参考にしている。彼らは農業経済における契約形態の選

    択にかんするモデルを提唱した。彼らによると、地主は人を雇用して自ら土地を耕作できるが、その場

    合は地主が耕作の生み出す最終利益の獲得者になる。また、地主は小作に土地を貸すこともできる。た

    だし、その場合は、地主は契約に基づいて土地の使用料を小作から事前に支払われるが、耕作事業の最

    終利益の獲得者は小作になる。さらに、地主と小作はそれぞれが各々の優れた資源を供出し、耕作を共

    同運営することもできる。その場合は地主と小作が事業のリスクと利益を分担し、両者に耕作事業の創

    出する最終利益が事後的に分配される。これは両方のパートナーのモラルハザート行為を抑制できるた

    め、お互いに監視しあうコストの最小化につながる。Hennart(2009)は合弁に出資するパートナーの

    関係をうえで述べた地主と小作との関係で説明している。具体的には、各合弁パートナーは自社の出資

    に応じて合弁事業の生み出す最終利益を事後的に分配する。このことは、各パートナーによる機会主義

    的行動の抑制や、各パートナーが合弁事業に提供する資源の最適化につながる(Hennart, 1988; 石井,

    2009)。すなわち、相互に必要とする補完資源を持つ各パートナーに子会社の所有権(エクイティ)を

    与えることでお互いに監視しあうコストを節約できるということである。

    12)例えば、1988年にブリヂストンは米国大手タイヤメーカーのファイアストンを完全買収した。

    13)筆者が知る限りでは、バンドリング・モデルを検証した研究は前述の Hennart et al.(2015)だけで

    ある。

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    経営研究 第67巻 第 3号88

  • 海外直接投資における出資形態と経営資源(江) 89

    Ownership mode and firm resources of

    foreign direct investment

    Tingting Jiang

    Summary

    Multinational enterprises(MNEs)have two options for foreign direct invest-

    ment, which are also called ownership mode choices: forming a wholly owned

    subsidiary alone or forming a joint venture with partners. Many studies in inter-

    national business investigate this topic. In addition, in recent years, Hennart

    (2009)proposed the bundling model of MNEs in which the foreign affiliate

    ownership mode of MNEs has been discussed in relation to their accessibility to

    complementary local assets. This paper reviews the theoretical framework of

    MNEs’ ownership mode choices, such as the transaction cost theory, Uppsala

    model, and eclectic paradigm, from the perspective of firm resources and discusses

    their limitations. We also have a comparative discussion of Hennart’s bundling

    model and the extant theoretical framework on ownership mode choice. Based on

    a review of the extant literature, we show that literature on ownership modes

    based on the transaction cost theory and Uppsala model only focused on the effi-

    cient exploitation and accumulation of MNEs’ firm resources. The electric para-

    digm and literature on this theory has argued the importance of the combination

    of firm resources owned by MNEs and local firms in foreign direct investment,

    but it observed that complementary local resources could always be freely accessed

    by MNEs. Hennart’s bundling model, which is based on the electric paradigm,

    argued that complementary local resources could be sold in an inefficient market

    and the ownership mode choices of MNEs should be discussed from the viewpoint

    of both MNEs and owners of complementary local resources.