3
立退料の鑑定評価

立退料の鑑定評価 - DAIWAKANTEIdaiwakantei.co.jp/wp/wp-content/uploads/2017/07/20170726.pdf · 料ですと,これは逆に言うと,属人性が必ずくっつ いてくる。裁判のケースですと,正当事由を補完す

  • Upload
    others

  • View
    0

  • Download
    0

Embed Size (px)

Citation preview

鳥飼総合法律事務所

丸山

 純平氏

鳥飼総合法律事務所

丸山

 純平氏

谷澤総合鑑定所

金藤

 匠哉氏

谷澤総合鑑定所

金藤

 匠哉氏

大和不動産鑑定

牧野

 義弘氏

大和不動産鑑定

牧野

 義弘氏

三和不動産鑑定事務所

稲野邉

 俊氏

司会

三和不動産鑑定事務所

稲野邉

 俊氏

司会

立退料の鑑定評価

Appraisal & Finance 2017. 812

も,古くからそこに安い賃料で住んでいらっしゃる方がいるので,その際の立退評価等のご相談なんかもあります。立退きの評価に関しては,クライアントの幅も多様化しており,そのアセットタイプも様々で,依頼内容も鑑定評価依頼プラスアルファの相談が増えているなという印象があります。 実務的な対応としては,二本立てで対応させていただくことが多いです。一つは,鑑定評価基準でいう借家権価格に対する評価。これはいわゆる権利補償や通常生じる損失の補償のうち借家人に対する補償(家賃差額補償等)部分を評価させていただいております。そもそも借家権という権利に対価性があるのかどうかというのは今日の議論にもなると思いますが。権利の対価に対する補償と借家人に対する補償,簡単にいえば,新しいところに移転したら家賃が高くなるので,その差額分を補てんしましょうという,この 2つの部分が鑑定評価基準でいう,いわゆる借家権の価格に該当するのかなと思っています。 二つ目は,公共用地の損失補償基準に準拠して査定したものです。項目としては借家人に対する補償(家賃差額補償等),工作物補償(テナントが行った内装・設備等に係る補償),動産の移転の補償(引越料),移転雑費(仲介手数料や移転通知費用等),あとは店舗等に関しては営業補償等があります。そういったものを積み上げていって,損失補償基準に基づいた補償額でいうとこのぐらいになりますよというのを調査報告書で出させていただいております。○稲野邉 金藤先生は,どんな感じでしょうか。

公共事業の場合は損失補償基準ベース

○金藤 私の会社は,

法定の再開発事業という公共事業の錦の御旗を持っていて借家人に対応するケースと,あと民間での等価交換ですとか,建替えでの本来の借地借家法の正当事由補完の金銭という立退料と2ケースが当然あるわけでして,どちらに焦点を当てるかで基本が全然違う。公共事業ですとか,法定再開発事業というのは,基本的には補償基準という補償の考え方をベースにする。都市再開発法という法律の中にも,借家権に価格が認められる場合には,財産価値としての借家権価格を補償していいですよという考え方がございます。ただ,それは施行者が出すのではなくて,事実上オーナーさんの財産から切り取るという考え方をしておりますので,その場合には,オーナーさんと店子さんの関係で,まずどういう過去の経緯がありましたかとか,あとはオーナーさんがどれだけ負担できますかという話をする。 もう一つが,本来の民間での借地借家法での立退料ですと,これは逆に言うと,属人性が必ずくっついてくる。裁判のケースですと,正当事由を補完する金銭で,どちらが必要性が高いですかという,テナントさんと大家さんでどちらが金持ちですかという観点が必ず入ってきますが,本来的に属人性は評価には反映しないというところがあります。 あとは,具体的にそういうものを交渉材料としてやるために算定してくださいという依頼は当然来ています。やはりベースはまず補償基準で積み上げてみましょうと,あとオーナーさんがどこまで頑張れますか,交渉してくださいと。ですから,いきなり借家権価格,あなたとあなたとの間はこれですよという決め打ちはできないです。○牧野 損失補償基準のほうがより現実の価格というか,立ち退かされた場合にこれだけの費用がかかるのだから,これだけ払ってくださいという具体的な費用面を反映しやすいのかなという要素はありま

牧野 義弘(まきの よしひろ)大和不動産鑑定株式会社 オフィスチームリーダー不動産鑑定士,不動産証券化協会認定マスター明治大学卒業後,富士銀行(現みずほ銀行)入行。企業向けファイナンス・不良債権処理業務を経て,その後,不動産鑑定事務所兼法律事務所にて,約 5年間,立退評価はじめ訴訟関連の不動産鑑定評価業務に従事。2006年日本土地建物(株)入社。CREソリューション部門にて約10年間にわたり,CREコンサルティング業務,利活用コンサルティング業務,法人仲介コンサルティング業務等数多くの案件を担当。現在は上場リートの鑑定評価業務,不動産コンサルティング業務の他,オフィスチームリーダーとして,東京都心部の床単価を査定した「大和オフィスプライス・インデックス」の作成・発表等にも携わっている。

P RO F I L E

Appraisal & Finance 2017. 8 19

鑑定セミナー立退料の鑑定評価

の手続,それからもう一つ,借地借家法に基づく民間としてのやり方,それにおいては違いがあるのだというご指摘をいただきました。実際,これは鑑定評価の現場の,むしろ裁判所等で出された現場でどういうふうに考えるのかという話になってくると思います。実際,提出された鑑定書を見ますと,片や損失補償の通損に基づく考え方,それだけで数字をお出しになられている鑑定書もあれば,そうではなくて,特にテナントさんのほうは違う立場でしょうから,いわゆる借家権等の価格プラス損失の移転補償を合わせたような形で出している。基本的な考えとしてどちらもあっていいのかもしれないし,この場合はこうだ,この場合はこうだということがはっきりしていたほうがいいのでしょうけれども,鑑定評価書としてそういった違いがあって,基本的な考え方の違いで数字がこんなに違ってしまっているのかなと。あるいは鑑定書としてはあるべきものはこういったものだということを,次の基準委員会での検討等でも反映しなければいけないのか,そういった議論が当然出てくると思うのですけれども,その辺のところについては,何かお考えはございますか。

“のれん”をどう評価するのか

○金藤 結局,のれんを評価しますかと,突き詰めていくとそこにいってしまうのではないのかなと。先ほどの「ここの景色がいいから」というのは主観的な理由であって,理由にならないと思いますが。○稲野邉 それはそうですね。○金藤 ただ,それに対応する手段がないだけであって,のれんだとか,そういったものは目には見えない無体財産だけれども,確かにあることはある。そののれんをどうやって評価しますかということになるので,そうすると,厳密にはやはり不動産の範疇を超えている。不動産という,物,権利じゃないですよね。事業体,ゴーイングコンサーンの評価になって踏み込まなくてはいけない。われわれ不動産鑑定士は不動産にこだわってしまうのですけれども,もうちょっと概念を広げないといけない。○稲野邉 対応できないということですね。○牧野 弊社では昨今企業価値評価業務にも積極的に対応していこうとしています。M&A等で,会社ごと買いたいので,その会社の評価をして欲しいといった依頼も増えつつあります。損失補償基準の得

意先の喪失とか,のれんの評価などもそうなのですけれども,テナント等の立ち退かされる側からのご依頼ですと,財務諸表等いろいろな資料をもらえるので,それはある程度テナント側の実態に合った評価がしやすいのですけれども,立ち退かせる側はTKCとかの経営指標等,一般の経営指標をもってやることが多く,一般の経営指標はあくまでも一般的なものなので,個別具体的な事業収支がどうなのかいうところまでは見えてこないので,それはやはりテナント側に立ったほうがより実態に即した評価がしやすくなります。 ただし,財務諸表等では簡単には見えてこない,のれんのようなものをどう数字に変えていくのかというのは,とても難しいテーマかもしれません。2008年に鑑定協会が「企業価値評価に関する実証的研究」を発表されたことがありましたけれども,あのような試みは個人的にはすごくよいと思うので,本日の議論とはやや外れてしまいますけれども,鑑定業界はこれからどうやって幅を広げていくのかという議論の中で,そこに一つの解決方法があるのかもしれません。そうすると金藤先生がおっしゃったような,事業体の評価についても,もっと踏み込んだ提案というのができるのかなとも思っているのですが。○稲野邉 丸山先生,法律の立場からすると,どうですか。

いかに訴訟にしないかが弁護士の腕の見せどころ

○丸山 やっぱり納得感のところに収れんされるわけですけれども,われわれ弁護士は,訴訟前の相談は,解約申し入れを検討し始めたときに来るパターンと,もめてからのパターンがあるのだけれども,オーナーさんにしてみれば,必ずしも訴訟にしたいのかというと,そうではないわけなのですね。別に判例をつくりたいというわけでもありませんから。弁護士