27
短距離走の バイオメカニクス的思考

短距離走の バイオメカニクス的思考 - BIGLOBEseitarou/biomechanics.sprint.pdf速く走るために地面に働く2 つの力 自動車は速く進むことができますが、鉛直方向の力必要ありません。

  • Upload
    others

  • View
    5

  • Download
    0

Embed Size (px)

Citation preview

Page 1: 短距離走の バイオメカニクス的思考 - BIGLOBEseitarou/biomechanics.sprint.pdf速く走るために地面に働く2 つの力 自動車は速く進むことができますが、鉛直方向の力必要ありません。

短距離走の

バイオメカニクス的思考

Page 2: 短距離走の バイオメカニクス的思考 - BIGLOBEseitarou/biomechanics.sprint.pdf速く走るために地面に働く2 つの力 自動車は速く進むことができますが、鉛直方向の力必要ありません。

速く走るために必要なこと

トラック競技は、自分という物体をいかに早くゴールに送り届けることができるかを競う

競技だと言えます。そのためには自分を加速させて、いかに高い速度を持たせられるかが重

要となります。

次のような物理法則があります。→「ニュートンの第二法則」

F(力)=ma (質量×加速度)

レース中に自分の体重は変わりません。

よって、自分が加速を続けて、いかに高いトップスピードを出すことができるかは、この「力」に

かかっています。

速く走るために重要なのはこのような「力」です。

「走る」とは地面を押すことによって発生する地面反力を使って、自分に加速度をつけ、速度

を高めて前へ進むことだと言えます。

Page 3: 短距離走の バイオメカニクス的思考 - BIGLOBEseitarou/biomechanics.sprint.pdf速く走るために地面に働く2 つの力 自動車は速く進むことができますが、鉛直方向の力必要ありません。

速く走るために地面に働く 2つの力

自動車は速く進むことができますが、鉛直方向の力必要ありません。

なぜなら、タイヤは地面から離れる必要がないからです。

よって、自動車は水平方向に力を発揮し続けるだけでどんどん加速し、高いスピードを得るこ

とができます。

しかし、人間が走る場合はそうはいきません。

人が走る時には片足ずつしか地面に接地できません。全力疾走時は空中移動時間があり、

足が地面についている時間は非常に短くなります。

速く走るためには非常に短い接地時間で、「自分の体重を支える+前へ進む」

をという2つの働きがあります。

Page 4: 短距離走の バイオメカニクス的思考 - BIGLOBEseitarou/biomechanics.sprint.pdf速く走るために地面に働く2 つの力 自動車は速く進むことができますが、鉛直方向の力必要ありません。

一瞬のタイミングで身体を浮かせられるくらい大きな力を出さなければなりません。

一瞬で体重を支え、身体を浮かせることができなければ、

・接地時間を間延びさせながら力を加えて自分の身体を浮かせるか、もしくは

・接地の後半で、膝の伸ばす、足首を伸ばすなどの動きを大きくし、自分の身体を浮かせる

しかなくなります。この結果、脚は後方に流れてしまい、

推進力を地面に加える余裕がないまま足が地面から離れてしまうことになります。

以上のことから、速く走るためには

・できるだけ短い時間で体重を支えられる能力

・できるだけ短い時間で前への推進力を発揮する能力

が、バランスよく発揮されなければなりません。

Page 5: 短距離走の バイオメカニクス的思考 - BIGLOBEseitarou/biomechanics.sprint.pdf速く走るために地面に働く2 つの力 自動車は速く進むことができますが、鉛直方向の力必要ありません。

スプリント中の動きの局面分類

① フットディセント(足の振り下し) 足を引き戻しながら地面に接地するまで

② フットストライク 初めて足が地面についた瞬間

③ ミッドサポート 接地初期から踵が地面から離れるように動き始めるまで

④ テイクオフ つま先が地面から離れるまで

⑤ フォロースルー 後方へのスイング動作から前方へのスイング動作へと切り替わるまで

⑥ フォワードスイング 下肢が後方から前方へ移動する期間

これを一連の流れの中で、ハイスピードに繰り返すことが、短距離走です。

Page 6: 短距離走の バイオメカニクス的思考 - BIGLOBEseitarou/biomechanics.sprint.pdf速く走るために地面に働く2 つの力 自動車は速く進むことができますが、鉛直方向の力必要ありません。

☆足を速くするための、最終的な動作の目的地

より高い速度を獲得するためには、接地中の脚全体の後方スイング速度

(②から④を高くすることです。脚で地面を後方(推進力を生むための方向)に押し出

す速度が自分の重心が移動する速度となるからです。

実際に脚全体の後方スイング速度と疾走速度は強い相関関係にあります。

大腿部だけの速さではなく、下腿だけの速さではなく、接地中の身体の重心に対して、足先

部(脚全体)が速く動くことが重要です。

しかし、接地中の脚全体のスイング速度が大事だからと言って、「接地中に後ろに蹴ることを

意識することが大事」ということにはなりません。

これは、あくまで「結果」であって、意識すべきポイントではありません。

この目的地へたどり着くために、数多くのアプローチが存在します。

それが筋力 UPであったり、意識の改善であったり、身体の機能改善であったりするので

す。 速く走るという本質を理解したうえで、本当にやるべきことが考えられるようになれば、選

手として1段階レベルアップできます。

Page 7: 短距離走の バイオメカニクス的思考 - BIGLOBEseitarou/biomechanics.sprint.pdf速く走るために地面に働く2 つの力 自動車は速く進むことができますが、鉛直方向の力必要ありません。

①フットディセント 接地前の足を振り戻す(振り下ろす)局面

接地直前のスイング速度が疾走速度と密接に関係します。

速いものが地面に叩きつけられるのと、そうでないものでは、鉛直方向の力の大きさや、

より速いミッドサポート期への移行(素早い乗り込み動作)が可能になります。

②フットストライク 接地の瞬間

自分の重心のやや前方に接地しなければなりません。

「重心の真下に接地しなさい」と言うことがありますが、最大スピードでの疾走中に、実際にそ

うすると転倒してしまいます。理由は以下の図の通りで、考えてみると当たり前です。

しかし、「重心の真下に接地するような感覚」は非常に有用である場合もあり得ます。

疾走中に人が感じる重心の真下は「本当に真下」ではなく、「重心のやや前方」である場合も

考えられるからです。

事実と感覚は完全に一致しないことは、スポーツにおいて、多くみられます。

このフットストライク期は重心のやや前方に接地するので、実際は減速期とはなってしまいま

すが、鉛直方向の力発揮する非常に重要な局面となります。

Page 8: 短距離走の バイオメカニクス的思考 - BIGLOBEseitarou/biomechanics.sprint.pdf速く走るために地面に働く2 つの力 自動車は速く進むことができますが、鉛直方向の力必要ありません。

③ミッドサポート~④テイクオフで効率的に推進力を生む動き

ここが「前に進むための水平方向の力」を加えていく局面です。

水平方向に力を効率的に加えることができる動きとできない動きを以下に示します。

Page 9: 短距離走の バイオメカニクス的思考 - BIGLOBEseitarou/biomechanics.sprint.pdf速く走るために地面に働く2 つの力 自動車は速く進むことができますが、鉛直方向の力必要ありません。

水平方向に効率的に力を加えて、脚全体のスイング速度向上につなげるためには、支持期

後半の「膝関節、足関節が伸展しすぎないこと」がキーポイントとなります。

接地初期であるフットディセント期で十分に鉛直方向の反力が得られなければ、この接地中

期から後期で鉛直方向の反力を補おうと、ここで膝や足首を伸ばそうとします。

「足首を使って走らない」「地面をキックしすぎるな」といった表現が良くなされます。

しかし、足首も膝も固定されているように見えるだけで、使っていないわけではありません。

固定されている=使っていない ではなく、

(接地期前半で)力を発揮した結果=固定されているように見える

ということですので、勘違いの無いようにしましょう。

・接地の瞬間に、足、膝、股関節の力で地面をしっかりとらえること。

・蹴り出しにかけては、積極的に足首や膝を伸ばすように使わないこと。

これらが、脚全体のスイング速度を高めるために重要だと言えます。

⑤フォロースルー~⑥フォアードスイング期での効率的な動作(ターンオーバー)

離地後は、高い後方スイングスピードの影響により下肢が後方へ振り出されます。

ここから、脚をより早いタイミングで前方スイングに切り替えられなければ、俗に言われる「脚

が流れる」というような現象が起きます。

Page 10: 短距離走の バイオメカニクス的思考 - BIGLOBEseitarou/biomechanics.sprint.pdf速く走るために地面に働く2 つの力 自動車は速く進むことができますが、鉛直方向の力必要ありません。

「脚が流れる」ことによって走りにどのような影響を及ぼすのでしょうか。

☆前方スイングの遅さとタイミングの遅れが及ぼす影響

・前方スイング脚とは逆の支持足が重心に対して過度な前方接地になり、余分なブレーキを

生んでしまいます。

・十分に脚が引き出せず、フットディセントの距離(振り下ろし距離)が極端に短くなることで、

脚の振り戻しスピードが遅れ、後方スイング速度が低くなってしまいます。

Page 11: 短距離走の バイオメカニクス的思考 - BIGLOBEseitarou/biomechanics.sprint.pdf速く走るために地面に働く2 つの力 自動車は速く進むことができますが、鉛直方向の力必要ありません。

スプリントの指導上よく使われる言葉に「素早い挟み込み(シザース)」といった表現がありま

す。フォロースルーからフォワードスイングでは、より早いタイミングで後方スイングから前方

スイングに切り替えられるような動きが重要となります。

しかし、「足が流れているように見える」としても、フットストライク(接地の瞬間)やミッドサポー

ト(乗り切り)のポジションで、前方スイング脚が遅れていなければ(支持脚の膝と並ぶか追い

越しているくらい)そこまで気にする必要はないでしょう。「足が流れていないか」よりも「前方

スイングが遅れていないか」が重要です。

スプリント中の下肢関節に働く力

動作をコントロールするのは筋肉です。

また、筋肉をコントロールするのは脳などの中枢神経です。

スプリント中の下肢に、どのタイミングで、どの関節に、どのような力が働いているかを

理解することが大切です。

脚の関節は、「股関節」「膝関節」「足関節」の 3つです。

これらを伸ばしたり、曲げたりすること(伸展・屈曲)によって、スプリント動作が生まれます。

そして、これらがいつ、どのタイミングでどのような力が必要かを知ることは、「動作の見た

目」だけで動作意識を行わないためにも非常に重要になります。

Page 12: 短距離走の バイオメカニクス的思考 - BIGLOBEseitarou/biomechanics.sprint.pdf速く走るために地面に働く2 つの力 自動車は速く進むことができますが、鉛直方向の力必要ありません。

☆スプリント中の下肢関節にはたらく力

※関節トルクというのは各関節を中心にはたらく回転力のことです。すなわち、大腿、下腿、

足部を伸ばしたり、曲げたりする力です。

この図からわかること。

・股関節は、後方スイング中ずっと、伸展させ続けるような力を発揮していない。

・股関節は、前方スイング中ずっと、屈曲させ続けるような力を発揮していない。

・踵の引き付け時、膝関節を曲げるような力はほとんど発揮されていない。

Page 13: 短距離走の バイオメカニクス的思考 - BIGLOBEseitarou/biomechanics.sprint.pdf速く走るために地面に働く2 つの力 自動車は速く進むことができますが、鉛直方向の力必要ありません。

股関節は、後方スイング中ずっと、伸展させ続けるような力を発揮していない。

接地の後半部分、いわゆる地面から足が離れる少し前くらいには、すでに「ひざを前に引き

出す力」を働かせています。

ひざを前に引き出す力を発揮させるタイミングが遅れると、走っているときに、脚全体が極端

に後ろに残った上体になってしまいます。

より早く、後方スイングに移るためには、「ひざを曲げる、股関節を伸ばす強い力」が必要とな

ります。この時に深くかかわる筋肉が「ハムストリングス」という筋肉です。

ハムストリングスは「股関節を伸ばす+ひざを曲げる」2つの役割を担っているため、この瞬

間の肉離れを多く起こしてしまいやすいのです。

股関節は、前方スイング中ずっと、屈曲させ続けるような力を発揮していない。

後方スイングの逆バージョンです。

腿を前に引き出しているとき、股関節は、支持脚の横を通過したくらいのタイミングで、すでに

「腿を後ろにスイングする力」を働かせています。

ひざが身体の前にきて、ひざを上げた状態になったときには、すでに股関節を曲げるような筋

力発揮はほとんどしておらず、「ひざ上げ」状態になったときには股関節を伸ばす、腿を降ろ

す筋力発揮に移っています。

ひざを上げる筋肉として「腸腰筋」という筋肉が大切ですが、正しくは「ひざを引き出す筋肉」と

した方がよいでしょう。

Page 14: 短距離走の バイオメカニクス的思考 - BIGLOBEseitarou/biomechanics.sprint.pdf速く走るために地面に働く2 つの力 自動車は速く進むことができますが、鉛直方向の力必要ありません。

これらの現象を無視して、「しっかり最後まで後方スイング、腿の引き出し」を行えば、

それは間延びした、ピッチの上がらない走りとなってしまいます。

踵の引き付け時、膝関節を曲げるような力はほとんど発揮されていない。

「かかとの引きつけ」は意図的に膝を曲げるようにして起こすことではなく、ひざが高い速度で

前へ引き出された結果、実際には自然と引き付けられます。

ひざを素早く前へ引き出すことが、踵の引き付け動作につながっているのです。

Page 15: 短距離走の バイオメカニクス的思考 - BIGLOBEseitarou/biomechanics.sprint.pdf速く走るために地面に働く2 つの力 自動車は速く進むことができますが、鉛直方向の力必要ありません。

☆走動作への意識付け

リズムよく、安定して前へ進んでいくために、よく用いられている意識付けの例として、次のよ

うなことばがあります。

「キャッチしたらすぐにかかとを引き付ける」

「身体の真下を押す」「からだの真下でキャッチする」

「ひざを素早く引き出す」

「素早い大腿部の挟み込み」

「キャッチした足に乗り込む」

「素早く4の字を作る」

「腰が遅れない」「素早く乗り込む」

重要なことは、効率的な走りをするために目的に合致したイメージを創造することです。

客観的な事実をもとに、選手自身の感覚を大切にし、より効果的な走動作をするための意識

(イメージ)を日々探求していくことが大切です。

Page 16: 短距離走の バイオメカニクス的思考 - BIGLOBEseitarou/biomechanics.sprint.pdf速く走るために地面に働く2 つの力 自動車は速く進むことができますが、鉛直方向の力必要ありません。

スプリント中の骨盤の動き

「骨盤を使う」 実際どう動いているのでしょうか。

☆全力スプリント時の腰の動き

全力スプリント時、離地直前から右足が前に出るとき、右側の腰はすでに後方回旋、左側は

前方回旋を始めています。

歩行時と比べると少し早く、脚の動く方向とは反対方向へ腰が動き始めています。いわゆる

腰が先取り動作をしています。

Page 17: 短距離走の バイオメカニクス的思考 - BIGLOBEseitarou/biomechanics.sprint.pdf速く走るために地面に働く2 つの力 自動車は速く進むことができますが、鉛直方向の力必要ありません。

歩行時とスプリント時で、骨盤の動きは違います。

理由は両脚の前方スイング、後方スイングの速さの違いがあるからです。

物理学における、「角運動量保存の法則」によります。簡単に言うと

物体にどこからも力が作用しない場合、物体の一部が回転運動をすると、それとは反対方向

に同じ力の分だけ回転して、全体の力の変化を抑えるという法則です。

Page 18: 短距離走の バイオメカニクス的思考 - BIGLOBEseitarou/biomechanics.sprint.pdf速く走るために地面に働く2 つの力 自動車は速く進むことができますが、鉛直方向の力必要ありません。

歩行時は、下半身の回転力を腕や肩の回転力で補います。

全力スプリント時は下半身が素早く大きく前後に動きますので、下半身(脚部分)の回転力が

かなり大きくなり、腕や肩の回転力だけでは足りず、腰部分まで逆方向に回転させなければ

ならなくなります。

このような理由で、歩行時とスプリント時では骨盤の動き方が異なります。

例えば UFOは、骨盤、股関節等の可動性を良くするドリルです。

肩と腰を大きくひねって、大股で疾走することは、結果的にピッチもストライドも伸びない走り

になってしまいかねません。しかし、骨盤が立体的に大きく動くことで地面に大きな力を与え、

疾走スピードを上げることができるということがわかっています。

(骨盤の動きは疾走スピードに大きな影響を与える)

Page 19: 短距離走の バイオメカニクス的思考 - BIGLOBEseitarou/biomechanics.sprint.pdf速く走るために地面に働く2 つの力 自動車は速く進むことができますが、鉛直方向の力必要ありません。

100m走でなぜ後半速度が低下するのか

スタートして最大スピードに達した後、人間はいつまでも最大スピードで走り続けることはでき

ません。 必ず減速します。世界の一流スプリンターであっても、3-7%の速度低下がみられま

す。「スタートの飛び出しが良くても後半置いていかれてしまう…。」

これは、たいていの場合、これらの選手たちは最大スピードがそこまで高くないことに起因し

ています。100m走の記録を向上させるための基本はトップスピードです。

確かに、世界の一流スプリンターほど後半の速度低下が少なくなっているという報告はありま

す。100m走タイムが良いほど速度低下率が小さいという報告も幾つか存在しますが、

トップスピードが高い選手はトップスピードに到達する距離が長い傾向がある

・トップスピードに達するまでの時間はレベルによってあまり差がない

→トップスピードが高い選手は速度維持低下区間が短くなる

→100m走だけでみるとトップスピードが高いほど後半の速度維持能力が高いようなデータに

なる

以上のことから、速度維持能力が高いから記録が良いということにはなりません。

やはり、いかにトップスピードを高めるかが重要となります。

しかし、いくらトップスピードが大事だと言っても、後半の速度維持を軽視していいということに

はなりません。

Page 20: 短距離走の バイオメカニクス的思考 - BIGLOBEseitarou/biomechanics.sprint.pdf速く走るために地面に働く2 つの力 自動車は速く進むことができますが、鉛直方向の力必要ありません。

後半減速の原因

☆ストライド・ピッチの変化

減速局面では、最高速度局面と比較して、一般的にストライドはやや広くなり、ピッチが低下

します。これは、支持時間と滞空時間の両方がやや増加することによって起きるものだと言わ

れています。つまり後半の速度低下は主にピッチの低下が関係してくるものと考えられま

す。

☆接地・離地距離、地面反力の変化

接地位置はより前方に、離地位置はより身体の近くになる傾向があります。

☆各関節角度・トルクの変化

股間節

股関節を屈曲させる力の低下による、ひざを引き出すタイミングの遅れといえます。

膝関節

最高スピード局面と比べて、やや膝が伸びた状態で接地します。

回復期前半の角度が大きくなります。股関節を引き戻すタイミングと速さの低下によって、自

然と踵が引きつけられる力が弱くなったことに起因していると思われます。

足関節

足関節や膝関節を伸ばす筋力が疲労してくることによって、より大きな関節角度(足首や膝が

より伸びた状態)でしかうまく力が発揮できなくなる。その結果

→接地前の膝関節、足関節が伸びて、下腿がより後傾する。

→身体が浮いたような走りになる。

Page 21: 短距離走の バイオメカニクス的思考 - BIGLOBEseitarou/biomechanics.sprint.pdf速く走るために地面に働く2 つの力 自動車は速く進むことができますが、鉛直方向の力必要ありません。

100m走後半の速度低下のまとめ

・足関節を底屈させる(地面を押す)力、パワーの減少

・股関節を屈曲させる(ひざを前に引き出す)力、パワーの減少?

・接地直前に足、膝がより伸びた状態になる

・下腿の倒れ込み角度減少(ブレーキのかかる接地)

・ピッチの低下

・接地中のブレーキが大きくなり、加速が減少

改善するには股関節を短縮性、伸張性の屈曲で発揮パワーや持久性を向上させる。足関節

底屈運動(足首のみを使って連続ジャンプ等)で足関節底屈パワーの持続性を高めることが

大切です。

Page 22: 短距離走の バイオメカニクス的思考 - BIGLOBEseitarou/biomechanics.sprint.pdf速く走るために地面に働く2 つの力 自動車は速く進むことができますが、鉛直方向の力必要ありません。

腕ふりについて

腕を振らなかった場合に起きる現象

腕を振らずに走ると、上体が不安定になり、脚に力が入りづらくなる。

・疾走速度が低下する

→ピッチとストライドが低下する

・接地に向かう時、膝下が伸びるようになる

・接地距離が長くなり、離地距離が短くなる

人は、速く走れば走るほど、長くて重たい脚を前後に素早く振り回すことになります。

ここで腕を脚とは逆方向に振らなかったら、上半身は脚の動きにつられて大きくブレてしまい

ます。つまり、速く、力強く脚全体をスイングして、地面をキックし、かつ上体を前方向に保つ

には、上体をうまく使って、それと同じくらいの力を逆方向に生み出さないといけないわけで

す。そのため、腕振りをしなければ、地面に強い力を伝えにくくなります。

Page 23: 短距離走の バイオメカニクス的思考 - BIGLOBEseitarou/biomechanics.sprint.pdf速く走るために地面に働く2 つの力 自動車は速く進むことができますが、鉛直方向の力必要ありません。

腕ふりのポイント

・力強く、素早い下肢の動きを妨げないことが大切

・地面反力を大きくできる

意識的に力を入れるのは、体幹部に引き付ける時の動きのみにした方が好ましい。

Page 24: 短距離走の バイオメカニクス的思考 - BIGLOBEseitarou/biomechanics.sprint.pdf速く走るために地面に働く2 つの力 自動車は速く進むことができますが、鉛直方向の力必要ありません。

「後ろから前へがしっくりくる!」という選手や、「前から後ろへの意識がタイミングが合いやす

い!」という選手など、様々存在します。縦方向の動きの意識も加わるとなおさらです。

一概に「〇〇のように腕を振れ!」と示すことはできません。

ピッチ型の選手、ストライド型の選手、大柄な選手、小柄な選手…など、選手、走りのタイプは

様々で、そのタイプを活かした腕振りの意識を模索することが重要です。

・ピッチ型の選手は、腕を後ろから前へ持ってくることを意識すると、鉛直方向の力は大きくな

るものの、腕振りのタイミングが遅れ、自身が持つピッチに腕振りが追いつかなくなるかもし

れません。

・大柄で腕脚が長く、まだ筋力に乏しい選手であれば、コンパクトに腕を素早く引くだけの意識

がスピードを引き出してくれるかもしれません。

・筋量が多く、少し長めの接地時間での力発揮に優れている選手であれば、後ろから前への

意識の方が、持ち味のストライドを活かした走りになるかもしれません。

「腕振りの意識」

万人共通の有益な感覚的表現というものは限られ、自身や選手の特徴と腕振りの目的を整

理して、自分にとって優位性のある意識を考えていく必要があります。

日々、自身の動きや感覚に応じて腕振りの試行錯誤を繰り返すことが大切です。

Page 25: 短距離走の バイオメカニクス的思考 - BIGLOBEseitarou/biomechanics.sprint.pdf速く走るために地面に働く2 つの力 自動車は速く進むことができますが、鉛直方向の力必要ありません。

100mのレースパターン

100m静止状態から一気に加速していき、最大スピードに達したのち、速度が徐々に低下し

てゴールするというレース構造になります。

☆100m走の局面分け

・第一次加速局面…スタート後の急激な加速。

・第二次加速局面…緩やかでやや長い加速。これを経て最大スピードへ達する。

・最大疾走局面…最大スピードが出る局面。

・速度維持、低減局面…疲労により速度が徐々に低下する局面。

男子では 50mから 60m付近、女子では 40mから 50m付近で最大スピードの出現頻度が高

いと言われています。

これは、最大スピードが高いほど、そこに達するまでの距離が長くなる傾向があるということ

です。

Page 26: 短距離走の バイオメカニクス的思考 - BIGLOBEseitarou/biomechanics.sprint.pdf速く走るために地面に働く2 つの力 自動車は速く進むことができますが、鉛直方向の力必要ありません。

☆100m走の記録を伸ばすために重要なこと

100m走において、最大スピードの高さは 100mの記録と深く関係します。

100mでは、いかに 2次加速局面で最大スピードを上げることができるかどうかが重要なポイ

ントとなるわけです。

100mのタイムが良いほど、最大スピード地点はスタートから遠くになるが、100m走のタイム

が良いほど、最大スピードに達するまでの時間も長くなるわけではありません。

どのレベルであっても、スタート後は約 6から 7秒程度で最大スピードに達することが多く、

加速しきるのに要する時間はどの選手でも一定で限られている可能性が高いのです。

その時間内にどれだけ高いスピードを出せるかどうかが勝負の決め手になりやすく、最高速

度到達距離が長くなるのはその結果だと考えられます。

Page 27: 短距離走の バイオメカニクス的思考 - BIGLOBEseitarou/biomechanics.sprint.pdf速く走るために地面に働く2 つの力 自動車は速く進むことができますが、鉛直方向の力必要ありません。

これらを踏まえると、ペース配分などを考える前に、100mのタイムと関係の強い、最大スピー

ド、「6-7秒間でどれだけ高いスピードを出せるか」に焦点を絞って考えていく必要がありま

す。

100m選手の練習として、「200mや 300m を遅いペースで繰り返す走り込み」がメインとなっ

てしまうのは大変おかしな事だと考えられます。