42
法律論叢 第六十九巻 契約解除と損害賠 売買契約をめぐる各論的考察を 一はじめに ω 解除による契約の消滅と損害賠償義務 ω 契約と損害賠償責任についての私見との関係 立法過程についての一 瞥 1 旧民法の規定とその趣旨 2 現行民法の起草過程 契約解除による損害賠償義務説 1 履行利益の賠償を認める学説 ω 履行期持説(石坂説) 法定債権説 2 信頼利益(賠償)説 5 3 原状回復義務説( 履行利益の賠償は認めない説) 1 4 双務契約違反による差額賠償説

契約解除と損害賠償義務(一) - 明治大学 · 法律論第叢六十九巻第三・四・五合併号(一九九七・二) 契約解除と損害賠償義務(一) 売買契約をめぐる各論的考察をかねて

  • Upload
    others

  • View
    2

  • Download
    0

Embed Size (px)

Citation preview

Page 1: 契約解除と損害賠償義務(一) - 明治大学 · 法律論第叢六十九巻第三・四・五合併号(一九九七・二) 契約解除と損害賠償義務(一) 売買契約をめぐる各論的考察をかねて

法律論叢

第六十九巻

第三

・四

・五合併号

(一九九七

・二)

契約解除

と損害賠償義務

(一)

売買契約をめぐる各論的考察を

かねて

はじめに

ω

解除

による契約

の消滅と損害賠償義務

ω

契約

と損害賠償責任に

ついての私見との関係

立法過程に

ついて

一瞥

1

旧民法の規定とその趣旨

2

現行民法

の起草過程

契約解除によ

る損害賠償義務説

1

履行利益

の賠償を認める学説

ω

履行期持説

(石坂説)

法定債権説

2

信頼利益

(賠償)説

5

3

原状回復義務説

(履行利益の賠償

は認めない説)

 1

4

双務契約違反による差額賠償説

Page 2: 契約解除と損害賠償義務(一) - 明治大学 · 法律論第叢六十九巻第三・四・五合併号(一九九七・二) 契約解除と損害賠償義務(一) 売買契約をめぐる各論的考察をかねて

債務不履行

による損害賠償義務説

 19

1

履行利益説と他

の説と

の差異及び履行利益説

の条文上

の根拠づけ

2

法定効果説-

遡及効制限説1

3

原状回復義務説

(債務不履行責任

の効果

とする説)

4

事実とし

ての損害説

5

直接効果説以外

の学説

6

解除の趣旨からの根拠づけ

ω

解除11債務者

の責任追求と

いう

ことを根拠とする説

債権者保護など

7

一性理論

の否定

による説

債務不履行

による損害賠償と契約解除による損害賠償

とを含むという学説

1

併存説

2

選択説

(以上本号)

律一 法

じめに

解除による契約の消滅と損害賠償義務

約解

一性理

〔1〕

が国

では

債務

「債

の効

規定

(四

一五条

(

「債権

の効力」

の節

の中に規定されて

いる)、ま

た、

務不

によ

る損

請求

は、

の債権

の変

(填補賠償)

Page 3: 契約解除と損害賠償義務(一) - 明治大学 · 法律論第叢六十九巻第三・四・五合併号(一九九七・二) 契約解除と損害賠償義務(一) 売買契約をめぐる各論的考察をかねて

(1

)

たは拡大

(遅延賠償)といわれている

(同一性理論)。ぞうすると、債務不履行による損害賠償責任は、債権があり債権

の効力を論じることができる場面でなければ問題とはできないことになり、このような問題が契約

の解除について生

じることは周知のようである。即ち、契約の解除については、解除により契約そして債権が遡及的に消滅するという

(2)

ことになると

(直接効果説)、①債権がなか

ったことになれば、債権

の効力として損害賠償義務を位置

づける限り損害

賠償義務も生じえないし、また、②同

一性理論を認めると、本来の契約上の債権がなかったことになる以上、その変

形または拡大であ・損害賠償霧

もあ・えを

な・のでは三

のか・三

・たこ・が疑問・な・わけ

であ奄

8

ドイツ民法灘

影響が多大であ

・た明治時代においては・この考

な藷

が盛んになされまた直接効果説の論理を

貫-学説もあ

・たが、少な一とも現在では直接効果説か否かを問わず

(直接効果説以外の学説が有力にな・三

・)、債務

.

(4)

不履行を理由とする履行利益の賠償を認めることにつき学説上ほぼ固まりつつある状況に至

っている。即ち、後述す

害損

るように、直接効果説でも、特に五四五条三項が債務不履行責任を特に認めたものと考えたり、間接効果説など契約

と騰

が解除後も存続することを認めて、債務不履行責任が解除にも拘らず認められることを肯定しようとしている。

しかし・双務契約における解除の場A。には・解除を掌

に掌

債務不履行空尉房

に対して、履行に向かう関係

における損害賠償責任とは異なり・繋

関係雰

賠償責任であることからやはり特殊性があることは否定で

きな

いところである。直接効果説であろうと契約の存続を認める学説であろうと、契約が解除されな

い場合の損害賠

償責任とは同列には扱えないのではなかろうか。近時でもそのために三宅教授は本来

の給付義務違反ではなく、双務

契約における交換を挫折してはならない義務の違反により損害賠償責任を根拠づけようとしている

(後述

〔16〕)。

7

解除の場合に問題となる損害の特殊性

〔2〕そのため、解除の場合における損害賠償責任

につき問題とな

Q4

(

1

る損害については再考の余地があり、詳しくは後述するが、次のような損害の賠償が認められるかと

いう問題を考え

Page 4: 契約解除と損害賠償義務(一) - 明治大学 · 法律論第叢六十九巻第三・四・五合併号(一九九七・二) 契約解除と損害賠償義務(一) 売買契約をめぐる各論的考察をかねて

こと

る。

981

に積

現実

に生

(転売先

に違約金を支払

ったなど)

の賠

が解

存続

かと

いう

、②

に、契

の履

があ

ば得

られ

であ

ろう

いわ

る得

べか

し利

の賠

請求

かと

いう

。更

に、③

に解

除故

に生

た損

(解除後

に目的物を回収す

るための費用など)

の賠償

が問

なり

た、④

のた

の準

た履

行費

用な

ど、

の履

に向

かう

が解

され

ば、

まま

の債

の債

の負

た費

つい

ても、

に無

った費

損失

とな

の賠償

る。

これ

の学

は、

務不

が存

の賠

は四

一六条

によ

って決

れ、

果関

があ

ばよ

いと

のみ単

に考

えら

いたと

大雑

には

ってよ

(後述のよう

に、債務不履行責任説では、説明としては解除までの権利

が解

除後も存続す

るとか、填補賠償

が認められるのだとか説明がされるが、結局は四

一六条

によ

った賠償範囲が決せられると

いうだけ

で、

その内容

については特

に深くは議論がされていな

い)。

のよ

に、

不履

行責

れ、

ってあ

は四

一六

いう

こと

に疑

が挟

った

ため

(これに疑問を挟んだ

のが通説に対す

る反討説)、

の損

「債

法一

務不履行による損害・とい、つ・とで、解除後の債務不履行暮

としてその賠償も認められてきた.

しかし、債務不履

行責任を認めるというだけで、右の全ての損害が賠償されるということを直ちに正当化できるかと

いうと、債務不履

行責任を債権の効力とみたり契約上の債務との同

一性を認めることを前提とする限り、本当に可能

なのかは疑問が残

されるところである。現在ではこのような問題につき議論がされることが少なくなったが、敢えて本稿はこのような

問題を再考してみようとするものである。

注(1)

これに

ついては、拙稿

「契

約と損害賠償責任ω」法律論叢六九巻二号

(平八)三

一頁以下参照。

Page 5: 契約解除と損害賠償義務(一) - 明治大学 · 法律論第叢六十九巻第三・四・五合併号(一九九七・二) 契約解除と損害賠償義務(一) 売買契約をめぐる各論的考察をかねて

(2)

フラ

ンス民法

のよう

に解除を黙示の解除条件とすると、契約

の遡及的消滅と解することになる。

ところが、本来

の解除条

件ならば、

たとえ債務不履行

があ

っても解除条件

が成就すれば債務不履行責任は生じな

いのに対し、黙示

の解除条件

とされ

る解除

の場合

については、明文で損害賠償責任が肯定されるている

(〔3〕参照)。旧民法でも、明示

の解除条件と黙示

の解

除条件即ち解除と

の差

異とし

てこのことは承認され

ている

(井上操

『民法詳解

人権之部』

(明二四)四五五頁)。

(3V

ドイ

ツ民法

の制定過程から現在

に至るま

での状況

については、松坂佐

「解除と損害賠償」

〔法政論集

一巻

三号

(昭

二七)〕

『債権者取消権

の研究』二五七頁以下、鶴藤倫道

「契

約の解除と損害賠償①の

・完」民商

一一〇巻三号四二九頁、四

・五号

八五九頁

(いずれも平六)

に詳し

い。

 

(4)

学説

・判例

の状況に

ついては、北村実

「解除」『民法講座4債権総論』(昭六〇)

一=二頁以下、『新版注釈民法13』(平八)

=二頁以下

(山下)参照。

謝儀賠

と損

賠償責

つい

ての私

の関

(

韻鰍

?

〕と・ろで、筆者は債務不履行責任を債権の効力と位置づけて不法行為責任と断絶する・とには反対しており、そ

(-)

の事例においてその当事者間にいかなる利益保障が認められるかを考えればよいと主張している。従

って、私見では

不法行為責任、債務不履行責任といった区別に特別な意味を認めること、また、債務不履行責任において特別に賠償

されるかのような履行利益、填補賠償といった概念を認めることについては消極的な評価をしており

(従って、履行利

益という概念を認め、債権の効力と結び付けることも否定)、直裁にその事例において、問題とな

っている当事者間にいかな

る義務が認められ、その義務があるがためにいかなる範囲の利益が保護範囲に含まれる、換言すればいかなる範囲の

99

損害が賠償される・のかの評価さえ行えばよいと考えている。

1

しかし、

この立場でも契約そして債権があるからこそ、

一般的利益保障とは異なる利益保障がその当事者に限って

Page 6: 契約解除と損害賠償義務(一) - 明治大学 · 法律論第叢六十九巻第三・四・五合併号(一九九七・二) 契約解除と損害賠償義務(一) 売買契約をめぐる各論的考察をかねて

めら

こと

にな

で、契

そし

て債

くな

の利

が消

まう

では

いか

いう

ooリニ

はやはり免れない。そのために、私見の下でも先の解除による契約そして債権の消滅という問題は避けては通れない

のである。

ところが、私見ではその事例において、いかなる義務を当事者が負

い、その義務により

いかなる法益保障が当事者

でなされているかを直裁に考えるため、解除がなされた場合にはそのような解除を導

いて相手方に損害を与えない

よう

にする義務

(後述

〔16〕の三宅教授の双務契約上の義務というのに匹敵するものであろうか)が、解除という制度があるた

めに問題とすることができる考

になる・そ

っすると・その吉

な解除という制度に乗

・た特殊な義務による法益保

いか

る範

に及

いう

の問

とな

つ.てく

る。

そし

て、

のと

ころ

で履

や填

った

が使

(填補賠償構成↓

〔48〕参照)、

それ

が必ず

明確

な概

では

いこと

〔2〕

に述

べた

よう

に因

果関

係構

いう

に疑

が残

であ

る。

のよ

に、

稿

は私

の立場

から

と損

償責

問題

検討

こう

とす

るも

のであ

る。な

お、

この議

は別

の議

の整

る必

があ

ので、

の点

配慮

しな

がら

らな

が、

の点

(2)

は省略せざるをえない。以下では、解除と損害賠償責任をめぐる総論的な議論を学説そして判例に

ついて眺め、その

に各論的な考察を具体的に行う

ことにするが、各論的考察は売買契約に限定しておきたい。売買以外の契約またい

わゆる継続的契約関係における解除

(告知)については、いずれ別稿で扱うことにしたい。また、本号は鍛冶良堅先生

退職記念号であるが、このような連載を掲載することについては、鍛冶先生のご寛容をお願

いする次第である。

注(1)

この点に

ついては、拙稿

「契約と損害賠償責任ω一未完」法律論叢六九巻二号以下

(平入~)

に述べる。

Page 7: 契約解除と損害賠償義務(一) - 明治大学 · 法律論第叢六十九巻第三・四・五合併号(一九九七・二) 契約解除と損害賠償義務(一) 売買契約をめぐる各論的考察をかねて

(2)

一つは

告知と

の関係

であり、契約

が遡及的

に消滅しな

いことが明らかな継続的契約関係

に於ける解除

(告知V

の場A口

に、解除まで

の損害賠償請求権

が消滅しな

いのはよ

いとして

(例えば、賃貸人の修繕義

務不履行により賃借人

が目的物を使

用できず損害を被

った場合、告知により既に生じた損害賠償請求権は消滅しな

いことになる)、将来

に向か

って契約が消滅し

たのに、将来最初の契約通りの期間履行

があ

ったならば得られたであろう利益

の賠償を請求できる

のか、と

いう問題があ

る。

②他は、取消

しと

の関係であり、今度

は逆

に契約

が遡及的に消滅する

ことが民法上明記

され

ている

(一二

一条)取消しの場

合に、取消前

に相手方に債務不履行があ

ったならば、取消後でも債務不履行によ

る損害賠償を請求できるのか、であ

る。取

消しも、解除同様

に契約

の拘束力

から

の解放

が目的であり取消権者

に別

の規定

により与えられ

る権利まで剥奪する必要

はな

いとすれば、解除

と同じ議論

が出

てくることになる。

↓謝臓

立法迅程に

ついての

一瞥

舗顕除辮

-

旧民法の規定とその趣旨

契一

:

:

〔4〕旧民法はフランス民法に倣い、解除については解除条件という形で規定し

(財産編四二一条以下)、解除

の場合の

損害賠償責任については、「裁判上にて解除を請求し又は援用する当事者は其受けたる損害の賠償を求むることを得」

(1

)

と規

(財産編四二四条)。

フラ

ス民

一一八

が解

に損

でき

規定

とを

のであ

る。

かし

こで

賠償

され

べき

損害

つい

ては

ソナ

は特

に制

であ

った

ことに注目がされるべきである・ボアソナー

は・理由書において次のように述べてい殖

Page 8: 契約解除と損害賠償義務(一) - 明治大学 · 法律論第叢六十九巻第三・四・五合併号(一九九七・二) 契約解除と損害賠償義務(一) 売買契約をめぐる各論的考察をかねて

「然

錐も

法律

は解

たる

一方

の者

『取

り損

いた

る利潤

の償

』を

許与

せず

。是

法律

『萎

022

り損

たる

利潤

を包

『ド

マー

ュ、

エンテ

レi』

(損

の義

)な

る寛

の語

る所

(第

五条

)」。

「実

得を

る所

の者

に於

て其

の免

と其

たり

潤益

とを

せ得

が若

とあ

ば則

正義

に惇

戻す

るも

と謂

らず

潤益

る更

に第

の人

と新

て得

べき

のな

れば

の如

をも

二重

獲得

せし

む可

らず

」。「日本

は此趣

言し

、以

て通

の文

に従

『ド

マー

ュ、

ンテ

レー

る所

の両

法典

に於

は重

る疑

ぜし

とあ

る可

を断

たり

」。

のよう

に、

ソナ

r

の説

で注

のば、

①解

があ

っても

買主

ら返

還を

る買

の責

に帰

べき

り価

た場

では損

とし

て念

いて

いる

こと

(現在では価格

によ

る原状回復義務

として論じられることが多

い)、

、②

ここ

の損

害賠

「被

った

損害

の賠

であ

「得

べか

りし

(碗㊤一昌oQ日露口ρ二①ロo)」

の賠

は含

れな

いと

いる

であ

後者

いては

に引

用し

た通

であ

る。

のよう

に、

は、

損害

こと

いては

で規

が、

こで

の損

いて

は、

いわ

る履

の賠

は認

趣旨

はな

った

と解

る余

があ

こと

が知

と思

.

(3)

れる。旧民法についての教科書にお

いては、①この問題点を意識した説明をするものもあるが、②

このような問題が

(4)

れず

いか

損害

が賠

のか

つい

の議

をし

いも

のもあ

る。

!

(1)

ボアソナード氏起

稿

『再開民法草案財産篇人権之部第二六冊』四八頁

によると、ボアソナードの原案

の翻訳は、四四四条

「法廷に解除を訴求し若く

は当然行われたる解除を申立

つる所

の者は之を外にして尚お其被むりたる損害の補償を獲得するを

〔フラ

ンス民法第

一一八四条

が掲げられる〕とな

って

いる。そこに掲げられている旧草案四四四条は、「裁判所に於

て解除

を訴求し又は当然成りたる解

除を主張す

る所

の結約者

は受けたる損害

の補償を其他

に求ることを得」というも

のであ

る。

Page 9: 契約解除と損害賠償義務(一) - 明治大学 · 法律論第叢六十九巻第三・四・五合併号(一九九七・二) 契約解除と損害賠償義務(一) 売買契約をめぐる各論的考察をかねて

(2)

ソナ

氏起

稿

『再

民法

産篇

人権

部第

二六

三五

一七

頁。

ソナ

ド氏

稿

『再閲

民法

人権

甲』

六七

頁、

ソナ

ド氏

起稿

『再

正民

草案

第武

人権

の部

二六

一頁

も同

。な

フラ

ス語

は、

ロU9。。。。8

ρ

℃門o」oけ畠①Ooユ①Ω

く=

℃oロ=

.四日

℃マ①匹`

』騨℃oP

目Q。曽

e.目一〇心旨

.で

る。

の得

かり

利益

の賠

償を

いため

に、

フラ

ス語

の条

(ud9。。ω8

Φ…o℃。。罫もω①ω)、αo日§㊤σq①高富臨齢冨

いう

フラ

ス民

二項

の表

現を

使

せず

鳳℃鴛鉾

δロ

匹口肩

22`象8

門o口舐

〔被

った損

の賠償

いう

が使

いる

ので

る。

の点

は、

に平

一雄

「解

の効

つい

の覚

法学

9号

(昭

五三

)

一一

二頁

に指摘

され

いる。

(3)

『民法

権之

(明

四)

は、

「解

除な

るも

のは、

双方

の者

て嘗

て合

意を

以前

の地

.

て合意を為さざる以前

の地位

・復したりと云、・を得ず.然れども夫

の失

いたる利益を覆

せしめんとす

る如きは是決して双

方をし

て合意

を為

さざる以前

の地位

に復

せしめんとす

るも

のにあらずして寧ろ其合意を履行したる地位

に在らんとす

るも

せしむ・も

のな

・を以て、芒

位得よ・加えた、損害あ

、、き空

の者

は之れが賠償を受け

た、にあ、ざれば決し

なり.故

・此

の場A・に於・失

・た・利益

の賠償を求むるを得ざ・は実

・解除の効力よ呂

・生ず・所

の結果・云わざ・可

らず。是本条

に其受けたる損害の賠償を求

むるを得と記したる所以なりLと、ボアソード

の見解

に忠実な解釈を行う。ま

た、

長谷川喬

.岸歪

・民法嚢

債権編巻之二・=一』(明==

・・頁によれば・熊醤

士著

・民法正義

(巻数不明ご

が次

よう

に引用されており、ボア・ナードと同じ説明を採用す

るよう

であるが確認して

いな

い.「此賠償

は普通法と異

にして菱

けたる損失

のみに限り其失

いたる利得を包

含せざるを注目

せん理由書

に曰く、契約を解除せしむる者が同時

に契約

の解脱と

其期望せし利得・を得

・は条理及び公正・反す

べし此利得

・第三者

・為す新な客

・於・受-

べきものにし

・之を二重

取得することを得ず

と是れ特に

一条を設けたる所以なり、故

に原案には深く注意して損害と謂わずして単に損失

の賠償と謂

へり、損害

は損失

の償金

と利得

の填補とを包

含す

ることは財産篇第三八五条

の文面に因

て明らかなり然るに法

文には損害

語を用

いたれば其意義をも変更したるも

のと想像するを得ず」、と。

(4)

例えば、富井政章講述

『民法論綱人権之部』

(明二三)

=二四頁は、「我民法は反対説を採用し義務

の不履

行よりして損失

を生じたる時

は之を償わざるべからずと定

めたり」と

いう

のみであり、小川鉄吉他

『日本

民法註繹財産法之部」

(明二三)二

〇六頁も損害の内容

について何も問題にす

ることなく、例とし

て上が

っている

のも、買主

が支払

った代金

の返還と、そ

の代

の利息を損害賠償とし

て請求でき

ると

いうものである。江木衷講述

『日本民法財産編人権之部』(明二四)も、不履行によ

る解除

のために生じ

た損害の賠償を求めることができるという

のみであ

る。

Page 10: 契約解除と損害賠償義務(一) - 明治大学 · 法律論第叢六十九巻第三・四・五合併号(一九九七・二) 契約解除と損害賠償義務(一) 売買契約をめぐる各論的考察をかねて

042

2

現行

の起

草過

〔5〕現行民法の草案が法典調査会で審議された際の草案では、五四三条三項が現行五四五条三項の前身であり、現行

法と全く同じ規定である。

この規定につき、説明をした穂積陳重によれば、解除をすると債務不履行もなくなり損害

賠償請求権もな一な

・てしまうという疑義があるため、敢えて本規定を設けたのであると説明するだけであ殖

この

と、

ソナ

のよ

に、

ここ

の損

の内容

つき

に制

限す

る趣

であ

った

いう

とは

.叢

い。

そし

て、

こで

の損

いて

は議

た様

はな

い。

こと

は、

一人

であ

った梅

が、

の教

科書

で債

があ

一五

によ

受け

た損

の賠

を請

でき

これ

ても

・とはないと、全-問題を提起する・とな説

明していることからも窺えるところであ殖

民法修正案理由書.の中での説明でも

(この段階では五四四条)、「解除権の行使は損害賠償の請求を妨げざること殆ん

法一

ど疑なしといえども、多数の立法例に依れば篠

権と暗幕

求権とに付き其

一を選択芒

むるものなれば或は解除権

の行使は損害賠償

の請求権を除去するものなりとの疑を生せしむるに因り特に本条第三項の明文を掲げたり」と説明

れてい苑

但し・篠

をしても何ら墾

ロ賠償が請求できなくなるのではなく・墾

。賠償は請求できるのは当然だと

ても、いかなる内容の損害賠償が請求できるのかについては、全く問題意識がみられな

い。そのためか、民法制定

初期の解説書には、旧民法ではその理由書の説明から、得べかりし利益の喪失については解除の場合には賠償されな

いものと解されるべきところ、現行法では

「何等の制限なく則ち第四

一六条以下に於ける

一般の規定

に従うものとす」

(4)

いう

がな

いる。

Page 11: 契約解除と損害賠償義務(一) - 明治大学 · 法律論第叢六十九巻第三・四・五合併号(一九九七・二) 契約解除と損害賠償義務(一) 売買契約をめぐる各論的考察をかねて

(1)

法典調査会議事速記録入二二~三頁。

(2)

梅謙次郎

『民法要義巻之三債権編』

(明三〇、但し大正元年

版の復刻版によ

る)四五四

一六頁。

(3)

広中俊雄編著

『民法修正案

(前三編)

の理由書』五二二頁によ

る。

(4)

長谷川喬

・岸本辰雄

『民法講義債権編巻之二、三』(明三

一)

一〇

一頁。厳谷孫三他講述

『民法講義

下巻』(明三九)三四四

は、「1

解除権

の行使

は契約のあらざる以前

の状態

と同様

の状態に復するものなれば、従て損害賠償請求権存在す

るの理由な

し等

の謬説を生じたれば疑義を生ず

るの余

地なからしむる為め

の明定なり」と述

べる。但し、初期

の解

釈書

では、損害の内

容に

ついての問題意識が見られな

いも

のがある

(小澤政許

『日本契

約法原論』(明三〇)三

一四頁、丸尾昌雄

『民法債権編繹

義・(明三三二

七四頁).套

、出版年は不明であるが、原嘉道講述

.債権法

(第二部

甲)完・は、損害賠償だけでは債馨

の被る

一切の損害を償う

ことができな

いので解除を認めたのであると述

べ、得

べかりし利益、不履行または履行不能

のため

・被

・た損失

の賠償

ができるも

の・し、呈

の不履行

的物の価格が下が

・た場合

の差額を得

べかりし利益

の覆

例・してあげ

てい三

四二

~三頁).

囎蹴辮

契約解除による損害賠償義務説

契一

用す

の論

理的

て、

の効力

であ

る債

不履

は認

いこ

にな

であ

(ボアソナードが解除

の場合

につき、履行利益の賠償を認

めな

い趣旨

であ

ったことは既述

の通りであ

る)。

のよ

問通

り損

債権

の存

の内

であ

る履

の賠償

理論

には

否定

る学

があ

る。

の中

にも

論的

は履

の賠

がら

同様

の損

の賠

を認

こと

にな

る学

つに分

こと

でき

る。

に学

いく

(なお、

〔16〕

の三宅説は直接効果説

ではない)。

Page 12: 契約解除と損害賠償義務(一) - 明治大学 · 法律論第叢六十九巻第三・四・五合併号(一九九七・二) 契約解除と損害賠償義務(一) 売買契約をめぐる各論的考察をかねて

062

1

利益

の賠償

認め

る学

ω

履行期持説

(石坂説)

 侮

履行期待説の主張

〔6〕石坂教授

(明治時代の伝説的学者については博士というのが通常だが、本稿ではすべて

教授で称する)は、先ず、理論的には外国の立法を比較してドイツ民法が正当だとする。そして、「債務不履行に因る損

害賠償を請求するが為めには債務が存在し従て契約が効力を失わざることを前提とす。従て契約を解除するときは契

約は除去せられ債務は既往に遡りて消滅するが故に

〔債務不履行責任に基づく〕損害賠償を請求することを得ざるは

論理上明らか」であるが、「債権者は債務者より完全なる履行を得んが為めに契約を締結するものなるが故に、債務不

履行の場合に単に当初より契約を締結せざりし状態を回復するに過ぎざるものとなすときは、債権者は契約を締結せ

る目的を達することを得ざるに至るべし故に実際上の理由より云はば契約解除と共に損害賠償を請求することを得る

(lV

のとなすを適当とす・とい、先

・のさ

つに、債務不履行責任はもはや解除後は論じえ守

なるが、しかし債磐

して契約をした目的を達すると同じ損害賠償を得させるのが結果として妥当であるとして、ドイツ民法と異なりフラ

ンス民法同様に解除は損害賠償請求を妨げないという五四五条三項の規定があるため、五股五条三項σ解釈論どレで

は次のように述べる。

五四五条三項の

「損害賠償は契約解除に因りて生ぜる損害賠償を云うも

のとす即、債権者が契約

が解除せらるるこ

となく完全に履行せらるることを期待せるが為めに受けたる損害賠償なりとす。故に債務不履行に因りて生ぜる損害

賠償と異なるのみならず又消極的契約上の損害賠償と異なる。消極的契約上の損害賠償は単に契約

が無効なる場合に

Page 13: 契約解除と損害賠償義務(一) - 明治大学 · 法律論第叢六十九巻第三・四・五合併号(一九九七・二) 契約解除と損害賠償義務(一) 売買契約をめぐる各論的考察をかねて

有効に成立せるものと信ぜるが為めに生ぜる損害を賠償するに止まると錐も、此に云う契約解除に因りて生ぜる損害

賠償は契約の効力が存続し完全に履行せらるることを期待せるが為めに生ぜる損害を賠償することを要すLるもので

(2)

る。

この説によると、賠償されるべき損害としては、解除権者が自分の債務の履行の準備のために支出した費用、既に

履行後に解除した場合には履行のために支出した費用、相手方からの履行があるものと信じて他より購買する機会を

.たために生じた堤

、注文された仕事を完成するために供給すべき材料を準備するために支出した費用の爬

務者の負担する給付の価格から解除権者の負担する反対給付の価格を控除した差額も、債務の履行あることを期待し

(3

)

たが為に被りたる損害といいうるとしてその賠償を認めている.そして、信頼利益説に対して、それでは

.単に契約

の成立を信じたるが為めに受けたる墾

ロを賠償せしむる・とを得るに過ぎざるが故に法律上の解除

に在りては債権者

を保護するに充分なりとLいえな

い・・棒

上の解除に在りては霧

者の責に帰すべき事由に因・て債権者をして契約

と除

を解除するの已を得ざるに至らしめたる場合であるから、尚お

一歩を進めて債権者が完全な履行を期待したるに因り

(4)

て受けたる損害賠償を請求する・とを得るものとなす・とを要するのである・とい、先

結局は、直接効果説を貫き債

務不履行の効果を論じえな

いが、債権者保護のために履行利益の賠償に匹敵する保護を五四五条三項によって認めよ

うとするものであり、その実質は次述の法定債権説と等しいものともいえる。

注(1)

石坂音四郎

『日本民法債権総論下巻」

(大四)二三

二入一九頁。

(2)

石坂

・前掲書二三三〇頁。なお、

ここでの損害賠償責任

は債務不履行責任としながらも、債務不履

行責任

と同様に債務者

に帰貴事由を必要とす

(この点に

ついては、論旨が

一貫しな

いものと批判されて

いる

〔鳩山秀夫

「増訂日本債権法各論

(上

巻)』〔大

=二〕二四三頁注12〕)。

Page 14: 契約解除と損害賠償義務(一) - 明治大学 · 法律論第叢六十九巻第三・四・五合併号(一九九七・二) 契約解除と損害賠償義務(一) 売買契約をめぐる各論的考察をかねて

(3)

石坂

・前掲書二三四二頁。信頼利益との差異に

つき、「消極的契約上

の損害賠償は単

に契約が無効なる場合

に有

効に成立せ

 20

るも

のと信

ぜるが為めに生ぜる損害を賠償するに止まるけれども此に云う契約解除に因

って生じたる損害賠償は契約

の効力

が存続し完全に履

行せらるることを期待せるが為

めに生じたる損害を賠償する

ことを要する

のであ

る」と

いう

(同

「契約解

除と損害賠償⑭」新聞

一〇三四号

(大五)六頁)。

(4)

石坂

・前掲論文

(新聞

一〇三四号)七頁。

 缶

契約期待説に対する批判

〔7〕この見解に対しては、石坂

「博士は近来稀に見る篤学の士其明晰なる頭脳

(1∀

と無限の精力とは我輩

の常に深く敬服する所なるが」と仙削置きしながらも、直ちに批判する見解が現れ、その後も石

坂説を支持する見解は現れていない。この説

への批判としては、種々の主張がされているが、①ドイツ民法の観念に

偏したものであり、政策的に立法により例外を認めることはでき、五四五条三項の文言またその沿革から素直に解す

.れば債務不履行による損害の賠償と考えるべきことになること、また、②

「解除に依りて発生する損害賠償請求権を

規定

したるものなりとせば・此契約解除以凸剛に発生したる損害例えば霧

者の履行遅滞に因りて発生したる損害の如

きは少なくとも之を契約解除に依る損害なりと云うことは能わざる」ため、解除したる債権者の保護として充分では

(2

いこと、が指摘される。但し、五四五条三項の損害賠償の内容については、債務不履行による損害賠償というのみ

で深くその内容を研究していな

いのに対して、契約の効力が存続し履行があることを期待するがために受けた損害と

(3

V

してして、詳細に損害賠償

の内容を検討している点については高

い評価がなされている。

注(1)

「民法第五四五条第三項

に規定

せられたる損害賠償請求権

の本質

に関す

る石坂博士

の所説

についてω」新聞

一一六七号

(大

五)

一〇頁。

(2)

高木藏吉

「前注論文㈲」新聞

=

六九号

(大五)

六頁。

Page 15: 契約解除と損害賠償義務(一) - 明治大学 · 法律論第叢六十九巻第三・四・五合併号(一九九七・二) 契約解除と損害賠償義務(一) 売買契約をめぐる各論的考察をかねて

(3)

弘厳太郎

「債務不履

行による契約解除と損害賠償」『民法雑記帳

(下)』

(昭二八)二七頁。

ω

法定債権説

〔8〕結局は石坂説も法定債権説であり、その内容を詳細に分析しただけのものといってよいかもしれないが、直接効

果説の論理を貫き債務不履行責任は認められなくなるが、それと同じ内容の損害賠償責任を特に法

(五四五条三項)が

+

.饗

調損害賠鰹

具体的公平の原則に基づく賠償請求権なる嚢

範囲は債務不履

(若くは不能)或はその他の事由に因り契約解除を為すに従い夫々各契約解除原因に基づく損害賠償を為すべきも

のと解するLと主張するものがあ蒐

購書

なお、柚木教授は、直接効果説を採用し、解除の遡及効と債務不履行の効果の存続とは両立しえな

いとするが、「し

損蹴

かし、法律は著しく背理でない限度において理論上の要請をためて実際上の需要に応ずる政策的態度を示すことがあ

る.第三説はこ・に所謂損害賠償をかさ

・に撮

するものであ・て、こ・に所謂損害賠償は馨

利益の賠償には相違

いが、それは債務不履行の効果の存続ではなくして、法律が債権者保護という政策的見地より解

除と併行的に認め

た法定の請求権であるとするものである。かような見解は理論上

の立場からは賛すべき理由はないが、その前提する

実際的需要が真実存在するのであれば1

理論的にも背理と戦う程のものでもないから1

理論的要請はこれを後退

(2)

せしむべきものであろう」と述べている。しかし、結局は信頼利益の賠償に制限することは後述のようである。

このような法定債権説は、理論的にどのように可能かを詮索するまでもなく、民法に規定があるのだから、理論的

 20

に不可能なのを民法が政策的に特に可能としたのであり、法定の効果として考えれば済むというも

のであり、

一七七

Page 16: 契約解除と損害賠償義務(一) - 明治大学 · 法律論第叢六十九巻第三・四・五合併号(一九九七・二) 契約解除と損害賠償義務(一) 売買契約をめぐる各論的考察をかねて

210

にお

二重

いて

の議

にお

る法

に近

いも

のであ

って

い。

注(1)

永井壽吉

「契約解

除の効

果たる損害賠償

の性質を論ず」法曹界雑誌三巻四号

(大

一四)三三頁。

(2)

柚木馨

『債権各

(契約総論)』

(昭三

一)三

一五~六頁。

2

信頼利益

(賠償)説

一叢

,

石田説

〔9〕石田文次郎教授は、先ず、基本的には石坂説を支持し、直接効果説により解除と契約から生

 

じる請求権とはお互

いに相いれないものとし

(契約上の債権と霧

不履行による損害賠償曲粟

権との里

論を承認する)・

「民法第五四五条第三項に規定するところの損害賠償は、確かに石坂博士の言わるるが如く完全に履行せらるることを

期待したが為めに受けた損害の賠償であ

って、契約の不履行から生ずる損害の賠償ではない。故にこの損害賠償請求

の発生原因は契約の解除を原因・す・ものであり・葎

の直接規定に基ぞ

ものζ言・わねばなら

ぬ」とい覚

しか

し、石坂説とは異な

って、五四五条三項により賠償されるべき損害の内容については、次のように信頼利益の賠償と

解するべきであるという。

「信頼利益は法律関係不実現に付き存する利益であり、其賠償は無効の法律関係を有効に成立し又は維持せらるべ

しと信じたるがために被

った損害の賠償である」。従

って、信頼利益の賠償は法律関係の無効を前提としているが、無

の原因を問うものではない。「又信頼利益の賠償には履行利益の賠償と同じ、当然失いたる利益即ち他の有利な機会

(2)

を失

いた

に被

った

を含

む」。

のよ

に他

の説

は異

べか

し利

の賠

こと

によ

Page 17: 契約解除と損害賠償義務(一) - 明治大学 · 法律論第叢六十九巻第三・四・五合併号(一九九七・二) 契約解除と損害賠償義務(一) 売買契約をめぐる各論的考察をかねて

後述の履行利益の賠償を認める四

一五条の債務不履行責任が解除後も存続するという学説と、損害賠償の内容につい

ては差異はなくなってしまう。

注(1)

石田文次郎

『民法に於ける動的理論』四三五頁。同

『債権各論』

(昭二二)五二頁も同様

である。従

って、債務不履

行によ

る損害賠償を請求し

たいのなら、契約を解除しな

いでそ

の損害賠償を請求すればよ

いという。

(2)

石田

・前掲書四三六頁。

谷。説

〔01〕谷。教授は・次の吉

に述べ克

・解除制度が消極的救済手段なることを考えるならば・此等利益の賠償を得んとすれば・契約を解除茎

まで

償舗

履行を要求し、従

.て履行利益の賠償を求むればよいのであって、解除して且

つ此の賠償を得せしむるのは、解除の清

神に合わぬ様な気がする。債権者が単に債権のみを有し、自己の債務を有せぬ場A口即ち片務契約の場合は、契約を解除

して履行の利益を請求し得るのだとすれば解除せずして、始めから、履行の利益を請求する・とも出来る訳であ・て、

約契

実質的に同じことになろう。契約解除を選ぶならばやはり、消極的利益、即ち契約の費用とか他より贈与を受くる機

会を逸したことによる損害等の賠償を請求出来るに過ぎぬと解する方がよ

い様に思わ隻

要するに私は・解除を為

す場合に請求出来る損害賠償はスイス債務法と同じく、いわゆる信頼利益消極利益

の賠償だと解したいのである」。

(1)

谷口知平

「双務契約に於ける解除

と損害賠償」同

『民法論第二巻』

(初出

・昭四)五五

一頁。但し、そ

の後、谷

口知平

・本

1

城武雄

「判批」民商三〇巻

四号

(昭二九)九五頁以下では、履行利益

の賠償に特に反対を表

明し

ていな

い。

21

Page 18: 契約解除と損害賠償義務(一) - 明治大学 · 法律論第叢六十九巻第三・四・五合併号(一九九七・二) 契約解除と損害賠償義務(一) 売買契約をめぐる各論的考察をかねて

d.

〔11〕柚

は、

の論

から

いえ

ば債

の存

は認

いこと

そし

て、

2

(

 2

債権者に解除をしないで填補賠償の請求をすることを認めるため別に不都合はないことから、解除した場合には信頼

利益の賠償に限定されるという。即ち、そのように解することが、「解除の遡及効と理論的にマッチする唯

一の途であ

る…に止まらず、契約を存続せしめて損害賠償を請求する場合との間に実際上最もよく調和と権衡とを保たしめうる

(1)

解釈であると信ずる」という。

しかし、賠償の範囲については、かなりの部分は履行利益の賠償を認める学説の主張と等しいも

のである。①売主

の不履行解除では、解除が解除後に高騰した価格で他から購入した場合に、その差額の賠償を請求

できるといい、「け

だし、他から高価で買入れざるべかりし事実は、債務者が履行したならば生じなかったことであると同時に、買主が

始から契約の無効をしっていたならば他から安価で買入れることによ

ってさけえたるべき事実であるからである」と

(2)

説明する。・しかし、解除前に買主が転売契約をしていた場合の転売差益の獲得については、信頼利益では賠償されえ

ず、契約を存続させて填補賠償を請求することにより、賠償されればよいという。②買主

の不履行解除では、「解除に

って自己の債務を免れた売主は、その目的物を値下がりした価格で他に売却すると共にその価格

の差額を信頼利益

として請求することができるのである」、ここでは買主

の場合のように転売利益という問題はなく、

「特に履行利益の

(3

)

めず

とも

の保

かけ

ると

ころ

はな

い」

と述

べる。

注(1)

木馨

『債

権各

(契

論)』

(昭

一)三

二〇

一頁。

(2)

・前

一頁

(3)

・前

二頁

Page 19: 契約解除と損害賠償義務(一) - 明治大学 · 法律論第叢六十九巻第三・四・五合併号(一九九七・二) 契約解除と損害賠償義務(一) 売買契約をめぐる各論的考察をかねて

 ω

松坂説

〔12〕松坂教授は、信頼関係としての債務関係というものを認める独自の構成から、賠償されるべ

(1)

き損害を以下のように限定する。

「直接効果説をとるときは、契約に基づく給付義務の関係はすべて遡及的に消滅する。したがって、債権者は爾後

・契約から生ずる債務の履行を目的とする権利

(…)を行使することをえない。また、その不履行を理由として損害賠

償を請求することもできない。

この意味では解除は

『損害賠償を排除する』。しかし、契約が存在した事実、すなわ

ち、当事者が相互的な信頼関係にはいった事実は、解除によって抹消することをえない。…解除は給付関係を消滅せ

めるが、信頼関係としての債務関係を消滅せしめるものではな

い。信頼関係としての債務関係は、解除後の返還関

が消滅するまで存続する.したがって、解除によって給付霧

は消滅するも、信頼関係としての霧

不馨

責任無

関係から信義則に基づいて生じた保嚢

すなわち相互に相手方の人格及び饗

を害しない吉

に配慮すべき義務

書損

は消滅しない。故に、債務不履行という事実によって保護義務に違反したために生じた損害の賠償義務もまた、解除

と除

によ

って排斥されることがない。…この損害賠償は、保護義務

の違反によって生じた損害の除去、すなわち、信頼関

解勤

としての債務関係なかりせば存続すべかりし状態の回復、したがって、信頼利益の賠償である。これに反し、解除

は契約上の霧

を消滅せしめるから、その存在を前提・す・履行利益の賠償は・れを請求する・とができない∴2)

注(1)

松坂佐

「民法提要債権各論

〔第

5版〕』

(平五)七

一頁。同

・前掲論文

(〔1〕注⑧)二七六頁以下も同旨。木村常信

「双

務契約における不履行

による損害賠償」産大法学九巻三号

(昭五〇)

=

一頁以下も、松

坂説に従うようである。なお、鶴藤

前掲論文

〔民商

}一〇巻四

・五号〕人入○頁以下は、自説

の立場決定はしていな

いが、ドイツにお

いて解除の場合には非遡及

13

的構成

が通説

とな

った後も履行利益

の賠償を認めな

いことに注目している。

2

(2)

その他、詳細は不

明であるが、履行

に代わる損害賠償を認めない学説として、末弘厳太郎

・戒能通孝改訂

『民法講話上巻』

Page 20: 契約解除と損害賠償義務(一) - 明治大学 · 法律論第叢六十九巻第三・四・五合併号(一九九七・二) 契約解除と損害賠償義務(一) 売買契約をめぐる各論的考察をかねて

(昭二九)

二〇五頁、神

田博司

『債権法』

(昭五入)

二七九頁があ

る。また、曄道唱道

『最近大審院民法判例批評』(大

一〇)

 21

一二五頁も

「契約

の解

除ありたる後

に於ては債権者

は契約上の債務

の履行を求

むる

ことを得ず、従て履行に代る賠償を請求

し得る

の理なければ」、五四五条

三項

の損害賠償は

「契約上の債務

の履行に代

る賠償を指すも

のにあらざ

ることは疑

いなし」

というが、信頼利益

の賠償を

いう

のかそれとも石坂説を支持する

のかは不明である。

3

原状回復義務説

(履行利益の賠償は認めない説)

五四五条三項を原状回復に関係するものと理解する学説があるが

(後述

〔20〕のように原状回復といいながらも、履行に

代わる賠償を認めるものもある)、その中にも、その理解の仕方により更に学説を分けることができる。

勝本説

〔已

先ず

信頼利益の賠償につき、.契約を解除するものは自ら契約の効力を消滅せしめたので

あるから、信頼利益の賠償を得べき理由はないLとして、これを否定し、更に、四

一五条の債務不履行責任だとする

えについて娃

「解除の効果は債務不履行の基礎たる債権関係を遡汲的に消滅せしめ・ものであるか5

債務不履行

の効果も亦消滅する訳であるからである」と述べ、これも否定する。その上で、「第三項をもって第

一項にいう所の原

状回復義務の方法又はその補充として損害賠償の手段によるも可なることを定めたものにすぎない」、「即ち、原状回

の不可能なる場合、又は可能なる場合においても債権者に便宜なる場合には、これに代わるべき損害賠償を請求す

(1)

ることを得せしめたのである」、と述べている。

要するに、直接効果説の論理を貫徹して、解除の効果として原状回復しか認めず、五四五条三項はこの原状回復に

ついての規定と理解し、しかも、原状回復ができない場合にそれを損害賠償

の名の下に金銭で実現することを請求で

Page 21: 契約解除と損害賠償義務(一) - 明治大学 · 法律論第叢六十九巻第三・四・五合併号(一九九七・二) 契約解除と損害賠償義務(一) 売買契約をめぐる各論的考察をかねて

るようにしただけの規定ということになる。そのため、勝本教授自身はいかなる損害が原状回復

の代わりに請求で

(2V

かは

にし

いな

いが、

の保

は通

とな

るも

のと

評価

いる

注(1)

勝本

正晃

『債権法総論概説』(昭二四)八四~五頁、同

「不完全履行論」同

『民法研究ω』二七五

一六頁も同旨。村上恭

『債権各論』

(大

一〇)

一七六頁、佐藤隆夫

『債権法各論概説』

(昭四

一)九六頁も同旨か。

(2)

和田子

『判例契約解除法

下巻』

(昭

一二)九四〇頁。.

西村説

〔14〕・「解除は契約の効力を遡及的に消滅せしめるものであるから、契約が解除されたときは、契

紅が当初から締結されなか・た状態が回復されなければならない・」原状回復とは、・契約が当初から締結されなか・

 賭

たとしたら、『現在』(即ち解除の時)こうなっていたであろうと推測される状態をつくり出すべきも

のLである。「こ

書損

のように考えて来ると、第五四五条第三項の損害賠償義務は、債務不履行に因る損害賠償義務が解除後に残存するも

と騰

のと見るのは正当でないと言わざるを婁

い.・の霧

は解除に因

・て新たに発生した義務であり、しかも、それは

独立の賠償霧

ではな文

一項所定の原状回復霧

の特殊的能様

にすぎないのである」・

先ず

この考

に述べた上で・塁

が買った物がその縫

除までに価格が高騰した事例を挙げ三

の不履行によ

る買主からの解除)、買主は代金と高騰した価格との差額を損害賠償請求できるが、「これは売主の不履行による損害賠

償義務ではない」。「買主は若しこの契約を締結しなかったとしたら、多分当時の価格

(一〇万円)

で別の契約によ

て買入れていたであうし、したがって、その後解除の時までに転売を約する等の特殊事情がないかぎり、解除の時期

5

には時価

一五万円の物を保有したであろうと推測されるからである。すなわち、右の差額五万円を賠償して初めて原

ユ2

(1)

状回復の目的を達し得るのである」と続けている。

Page 22: 契約解除と損害賠償義務(一) - 明治大学 · 法律論第叢六十九巻第三・四・五合併号(一九九七・二) 契約解除と損害賠償義務(一) 売買契約をめぐる各論的考察をかねて

 21

(1)

西村信雄

「判批」民商三〇巻二号

(昭二九)五三

一四頁。また、このように、五四五条三項

の損害賠償義務を、「解除によ

て始めて発生するところ

の原状回復義務

の特殊態様

にほかならな

いとみるときは、

そのいわゆる損害額

の算定

には特別

の事

(例えばそれ以前

に既

に転売

を約して

いたと

いうごとき)

のな

いかぎり解除当時

における目的物

の価格

を標準

とす

べきで

あるという結論に達する」と

いう。

ω

川添説

〔15〕川添教授は、五四五条三項を

 項、二項同様に原状回復のための規定と理解し、原状回復の

た曽

は必ずしも一護

絆二項では+分ではないので、原状回復省

的護

のために損害賠償窺

定したものと理解

し、以下のように述べる。

「契約解除を契約成立前の原状に権利蘭係を回復する制度とし、解除権行使後の損害賠償は解除と両立し得るもの

に限定しなければならないとするときは、

ここに所謂損害賠償は履行利益に代る損害や遅滞による損害ではなしに、

原状回復の

ための損害の賠償の意に解するのが正しいと思う」として、五四五条を原状回復のため

の制度として三項

もその中に位置づける。そして、「第五四五条第三項の損害賠償の債務は、第四

一五条に所謂債務不履行によるそれで

はないけれども、債務者に課せられた責任であることに相違ない。この点において第

一項の原状回復

の債務とその性

(2)

質を異にする」とはいう。また、損害賠償の内容については、「消極的利・益又は信頼利益の損害賠償

は、原状回復に必

要な範囲においては、第三項の損害賠償に含まれる。この種の損害は契約が相手方の不履行によって解除せられるこ

のないことを信頼し、若しその解除の止むなきに立ち到ることを予期したならば、当初から契約を締結しなかった

であろうという立場においての損害であって、無効契約を有効であると信じて契約を締結した場合

におけるそれと同

(3V

一のも

であ

る」

と述

る。

具体

は、

買主

の不

によ

る解

つき

の下落

によ

た価

Page 23: 契約解除と損害賠償義務(一) - 明治大学 · 法律論第叢六十九巻第三・四・五合併号(一九九七・二) 契約解除と損害賠償義務(一) 売買契約をめぐる各論的考察をかねて

できる・とを規定したものと解し三

る.

格で売却した場合の差額、売主が目的物を引き渡すために支出した費用などの賠償が考えられている。

なお、五四五条三項が

「妨げず」という規定の仕方をしていることから、解除により発生する特別

の権利ではなく、

の原因で発生しているところの

(即ち債務不履行責任説からの批判であるから、債務不履行責任により発生している損害賠償

請求権)

の行使を解除後もさまたげられないと理解するほうが素直だという批判については、もし五四五条三項

の規

定がなくても、原状回復の権利義務の

一内容に含まれるものであり、五四五条三項は従

って注意的

に損害賠償請求も

(4)

↓(

(↓

川添清吉

「契約解除と馨

賠償・.青山学院大学創立九・周年襲

法学論文集二

昭三九)五頁以下.契約締結前

の状態

の復帰が目的

であり、契約履行

の状態を作ることではな

いため、買主が解除前

に転売

していて、その後

に売主

の不履行によ

り解除がされても・塁

は転売差益

の賠償は認められな

いという

(一吾

)・

この論文

の辿剛に・川添清吉

・民法嚢

〔債権分

則ご

(昭

一一)

一一五頁以下にも、五四五条三項は二項と共に原状回復

の範囲を規定

したも

のであり、

.消極

的契約利益

のみ

と除

が賠償されるべき

ことが主張されて

いる。

-

(・)

川添

・前掲論

文六耳

・の・め・債務不履行責任ではな

・が・霧

不履行者

・課せられ・責任であ

から・例を

主が不履行により解除されても、売主は調達

のために要した費用や、解

除時

に目的物

が値下がりしていてもその賠償を、解

除した買主

に請求することはできな

いと

いう

(川添

・前掲論文六頁)。単純な原状回復であれば、相互的であ

り、解除を受け

た老も請求できま

た同時履

行の抗弁権も認

められるのであるが、債務不履行責任

の成立を要件とす

(しかし直接効果説を

採用しそ

の効力とはしな

い)特殊な原状回復義務と

いうわけであ

る。しかし、損害賠償責任と

いいな

がら原状回復義務と位

置づけ

たり

(目的物の返還不能

の場合の価格による返還義務とは異なる)、債務不履行責任の成立を要件としな

がら、解除に

よりそれを消滅させて債務不履行責任の効果とはしな

いなど、やはりぎくし

ゃくしたも

のが残

されて

いる。

(3)

川添

・前掲論文七頁。信頼利益説

については、解除と両立す

る損害賠償と

いう点は正しいが、原状回復

のための損害賠償

17

いう

のが正し

いと考えて

いるが、具体的

には損害賠償

の内容

に差異が生じるのかは述

べられ

ていな

(川添

・前掲論文

2

三頁)。

Page 24: 契約解除と損害賠償義務(一) - 明治大学 · 法律論第叢六十九巻第三・四・五合併号(一九九七・二) 契約解除と損害賠償義務(一) 売買契約をめぐる各論的考察をかねて

(4)

・前

=

一頁。

218

4

双務契約違反による差額賠償説

〔16〕三宅教授は、先ず、直接効果説は解除を取消しと同様に契約の全効果の遡及的消滅と解する理論であるのである

から・・解除にもかかわらず不履行による損害賠償を請求できると説いてきたのは・理論の放棄に近

い」と批判す延

.

そして、例えば売主の不履行

の場合、「解除により交換に見切りを

つけて、未履行債務を消滅させ既履行債務につき原

状回復するのだが、契約を結ば噸かった状態に戻るのではなく、交換を挫折させたという双務契約上の義務違反によ

る損害は賠償させるのである」、「双務契約の不履行解除は、双務契約の特殊性に応じた、不履行に対する当然の救済

であり、その効果としての原状回復と損害賠償は、前者すなわち交換が消滅し直接的な物引渡および金銭支払義務が

蒲轡難語轍翻磐鴇%馨簿離隔描線矯結綴魏繋鱗藻糠

例えば売買でいえば、単に物引渡債務、金銭債務ととらえるのではなく、「一方の債務の中身に他方

の債務が浸透する

こと、代金と引換に物を引き渡すのが売主の義務であること、を認める立場に移行しなくてはならない」、「この移行

により、直接的な二つの債務を介しその背後にある間接的義務として、交換を挫折させてはいけな

いという双務契約

の義務を認めることができる。この間接的義務は実際には、不履行解除

つまり交換が消滅し直接的な二つの債務が

(2

)

に初

て、

務契

約違

によ

賠償

とし

て現

」、

いう

このよ

に、

「民

は、

Page 25: 契約解除と損害賠償義務(一) - 明治大学 · 法律論第叢六十九巻第三・四・五合併号(一九九七・二) 契約解除と損害賠償義務(一) 売買契約をめぐる各論的考察をかねて

行解除に基づく損害賠償であることを重視し、不履行となった債務の変形でなく、双務契約違反の損害賠償とするの

(3)

が正当であるLとして、債務不履行による損害の賠償と構成する通説

・判例と

一線を画することになる。

注(1)

三宅正男

『契約法

(総論)』

(昭五三)二二、六一七頁。

(2)

三宅

・前掲書

二二六~七頁。

(3)

三宅

・前掲書

二五

一頁。

このよう

な構成をとることが、損害賠償額算定

の標準など実際問題

の解決に影響すると

いう。

↓翻

債務不履行による損害賠償義務説

陥囎と騰

-

履行利益説と他の説との糞

及び履行利益説の条文上の振逃つけ

婦「

E

以上の学説に対して・現在では・直接効果説でも

五四五条三項の

・損害覆

」は・債務不履行

による損害賠償

が契約解除後も認められるべきものであると解するのが、直接効果説か否かを問わず

一般的理解とな

っている。その

条文上の説明としては、損害賠償の請求を

「妨げず」と規定しており、解除により新たに生じる損害賠償請求権を認

めたものではなく、別の原因

(債務不履行)により解除前に既に生じている損害賠償請求権が解除後も消滅しないこと

(1V

9

を規定したと理解するのが素直な解釈であることにある。

21

ところで、三にみたように、信頼利益、契約期待利益という学説も殆ど履行利益に対応するよう

な損害賠償を認め

Page 26: 契約解除と損害賠償義務(一) - 明治大学 · 法律論第叢六十九巻第三・四・五合併号(一九九七・二) 契約解除と損害賠償義務(一) 売買契約をめぐる各論的考察をかねて

0

ているのであり、これらの説も履行利益の賠償を認める説も

「結果に於ては結局、諸説皆同

一に帰着する。即ち、之

22

を解除に因る特殊の損害賠償と解するも、又之を債務不履行に因る損害賠償と解するも、其の損害

の結果、範囲に関

しては、実際上大体に於ては差異なきが如き見ゆる。唯、従来の債務の担保が損害賠償債務をも担保するや否やに付

(2)

いて結論を異にするに過ぎない」、と評されている。実質的に履行利益説と信頼利益説とがどれだけ異なるかは疑問で

あり

(ボアソナード、柚木説にみられるように、転売差益が否定されるか否かの差がある位である)、「契約が実は無効であるの

に有効と信じた場合には、その履行まで信頼するのが普通であり、したがって履行利益の喪失は通常の損害と考えら

(3)

'

れる」ともいわれている。

しかし、契約期待説はそのような損害賠償責任を五四五条三項が法定しているというのであるからよいが、信頼利

益説では、履行利益は債権がなければ論じえないために信頼利益といいながら、契約が有効だと信頼したがために受

けられなかった利益の損失も信頼利益だという

のは論弁に等しいものであり、それならば信頼利益

などといわずに債

ても

.履

益L

の覆

が認

と直

い、つべき

はな

ろ、つか.

て、

頼利

い・つ以

は履

行利

の賠

では

い趣

であ

り、

信頼

に限定

る説

と履

利益

の賠

が全

内容

にな

いう

こと

でき

いと思

る。

で、

より

る種

の損

つい

ては

、債

が解

除後

も存

いう

(これを本稿

では解除前権利存続構成と称す

る)

で本

に説

され

るも

のな

か、後

のよう

に疑

があ

(そ

の意味

で、三宅説が

一番妥当な説明ではな

いかと

いう

ことを、中間的評価とし

て確認し

ておく)。

注(1)

神戸寅次郎

『神戸寅次郎著作集

(上)』

(昭四四

〔初出は大九〕)四三

一頁。

(2)

和田子

『判例契約解除法下巻』

(昭

一二)九

四二頁。

Page 27: 契約解除と損害賠償義務(一) - 明治大学 · 法律論第叢六十九巻第三・四・五合併号(一九九七・二) 契約解除と損害賠償義務(一) 売買契約をめぐる各論的考察をかねて

,

(3)

『新版注釈民法13』七三五頁

(山下末人)。加藤

正男

『債権法各論

(契約総論ご

(昭四七)

=二九~

一四〇頁も同様。

2

法定効果説-

遡及効制限説-

+錘

蠣娩犠鏡鉄鞭舞馨鍵縫鎗賑纏

のよ

立場

のも

みら

れ、

これ

が現

も通

理解

っても

いであ

ろう

これも

の範

いも

・れ

限す

るも

のと

で、

の二

つを

紹介

い・

賠償の範囲を制限しない説

〔芭

横田判事は・直接効果説を採用し理論的には債務不履行による損害

(

賠償が認められないことを認めるが、「然れども我民法は債権者を保護する

一種の政策として契約解除の場合に於ても

お債権者をして其契約に因りで享有し得べかり三

切の利益を取得しむるを必要なりとし第五四五条第三項に於て

契約の解除は損害の賠償の請求を妨げずと規定し以て第

一項に対する例外を設けたり故に我が民法

の規定に依れば損

(1)

害賠償に関しては契約は解除権者

の利益に於て尚存続するものと謂うべし」、と述べている。

池田教授も同様であり、「民法に於ては解除の効力は既応に遡りて契約の効力を害するものに非ざること前述の如く

なるを以て、其の有効なる契約上の債務に付き不履行なる事実ありたる以上は、既に損害賠償の責任は弦に発生し

旦発生したる此の責任は理論上解除に因りて毫も影響を受くべきものに非ざるが故に、解除権の行使あるも尚賠償の

(2)

22

責任は依然として存続するものと云はざるべからず」という。そして、その内容については四

一六条

により定まるもの

Page 28: 契約解除と損害賠償義務(一) - 明治大学 · 法律論第叢六十九巻第三・四・五合併号(一九九七・二) 契約解除と損害賠償義務(一) 売買契約をめぐる各論的考察をかねて

(3

V

(4)

2

いう。このように、五四五条三項の法定の効果として説明する学説は少なくない。なお、同

一性理論また債務不履

22

行責任を債権の効力として根拠づけることとの関連については、「法律によ

って与えられた損害賠償請求権の存続が認

められる範囲内に於ては、原債権は依然として其の効力を維持するものと考えるを至当とすべく、言い換えれば、該

(5)

害賠償請求権は原債権の効力の延長となすことができるのである」と説明されている。

注(1)

田秀

『債

(明

四五

)

〇四

~五

頁。

(2)

池田夏

・債馨

論上巻』

(昭九二

六七式

頁・

(3

)

・前

掲書

一七

頁。

(4)転

鹸旗鐘

雛欝描鰍瀦

簾鞍難鰍

麓毅

毅舞

(醸

三頁、鳩

山秀夫

『日本債権法各論上巻』

(大

=二)二四

一頁以下、磯谷幸次郎

『債権法論

(各論ご

(大

一五)二九五頁、三猪

信三

『契約法講義

要領』

(昭七)

一〇七頁、同

『契約法

(新法律学全集第

=二巻)』(昭

一五)

一〇

一頁、近藤

英吉他

『註繹

本民法

〔債権編契約総則〕』

(昭

一二)

四九五頁以下、特

に四九九頁、小池隆

『債権法各論新講上巻』

(昭

一四)二八

四頁、

我妻栄

『債権各論上巻』

(昭二九)二〇〇頁、岡村玄治

『改訂債権各論』

(昭三四)六

一頁

(不遡及回復説

と名づけ

ている

〔五

七頁〕)、山主政幸

『債権法各論』

(昭三四)入八頁、永田菊四郎

『新民法要義第三巻下債権各論』

(昭三四)九二頁、大坪稔

『契約法論ω』(昭五三)

一五五頁、石田穰

『民法V

(契約法)

(昭五七)

一〇〇頁など。なお、高森八四郎

「契約

の解除と第

三者ω」関法二六巻

二号七七頁以下は、自説

の相対的遡

及効消滅説により根拠

づけて

いる。

(5)

平野義太郎

「判批」志林二六巻三号

(大

=二)七

}頁。

損害賠償の範囲を制限す・説

〔91〕裡 教授は先ず以下の考

に論じて竜

契約の遡及的消滅

・を無制

に発生せしめるときは種々の甚大なる弊害を生ずるも

のとすL。それ故に、五四五条

一号但書は

「第三者に対する遡

Page 29: 契約解除と損害賠償義務(一) - 明治大学 · 法律論第叢六十九巻第三・四・五合併号(一九九七・二) 契約解除と損害賠償義務(一) 売買契約をめぐる各論的考察をかねて

及効の制限を目的とし第三項は当事者間の遡及効の制限を目的とするものなり」。それゆえ、五四五条三項は実質的に

は但書規定であり、「但此解除権の行使は解除前既に発生せる損害の賠償請求権の存在及び行使を妨げず」と読むべき

である。

そしで、五四五条三項により遡及効が制限される損害賠償請求権については、

一切の損害賠償請求権ではなく、①

「給付に代るべき損害賠償請求権」と②

「其他の損害賠償請求権」に分け、遡及効が制限されるのは後者についてのみ

であるとい、兀

即ち、前者の

.損害賠償漿

権は変形せる本来の霧

に外ならざるが故に解除に因り当然消滅するも

」,

のと解

べき

は勿

が故

いう

て、履

の場

にも

求権

の二

つに

ができる・い砲

・の考

にみ・・、神戸説はむしろ前述の履行利益の賠償を靭・・めない学説

の中で説明す・のが蕩

ろう

が、

便

・で述

にす

い.

害預

り ノ

(1)

神戸

・前掲

〔16〕ω四三

一一二頁。

(・)

神戸

・前掲

〔芭

ω四・=一画

3

原状

回復

義務

(債

不履

責任

の効

とす

る説)

〔20〕更

は、

務不

によ

る損

求権

を現

後嚢

σ

{嚇

とし

て肯

〔13〕

〔15〕

の学

3

は異

り、

の賠

で認

る学

(但し、原状回復としてこのような主張が可能かは疑問

であることは予

22

め述

べておく)。

Page 30: 契約解除と損害賠償義務(一) - 明治大学 · 法律論第叢六十九巻第三・四・五合併号(一九九七・二) 契約解除と損害賠償義務(一) 売買契約をめぐる各論的考察をかねて

4

先ず、岩田教授がこのような考えを主張しており、債務の本旨に従いたる履行をなさないがために生じた損害は、

 2

「契約

を為したるに因

って生じた損害であるから、現状に回復せしむる為には、必然之れを賠償しなければならぬ。而

て解除は物権的遡及効を有するものでないからして、従来の不履行の賠償請求権が其の侭に存続し、現状回復義務

(1V

一内

とし

て請

に至

であ

る」、

と述

る。

た、

川教

、「契

が有

であ

った

に債

に基

て生

た損

た除

ば本

に契

の回復

があ

いえな

い筈

であ

る」、

「五

いわ

賠償

は債

不履

って生

の賠

であ

って、

それ

賠償

せし

める

は、契

の存

続中

に生

た損

でな

れば

(…)、契

が当

から

され

った

のと

じ状

への復

があ

とは

いえ

いと

いう

存す

る、

みる

ば、

こに

いう

賠償も広い意味においての原状回復

のためであるといわねばならない

」とい抱

そして二

子三

では・契約締結前

への

状態

への復帰を期するために、すでに発生している損害の除去が問題とされるのだから、契約の解除によって初めて

問題となるような損害はここにいう損害ではあり得ない。しかもかかる解除を理由とする損害の賠償のごときは、法

の規定がなければ

一般には認めることのできない性質のもの

(………)であるから、別段規定のないわが民法の上

ではこれを認めるわけには行かない。すなわち、ここで問題となる損害は、債権関係が有効に成立していた間におい

て賠償されるべき筈であ

った損害が解除後においても残存するというもので、その賠償が問題となるのだから、結局、

(3)

それは債務の不履行に基づく損害であるとみなければならないLと、対象となる損害について述べている。

注(1)

田新

『債

法新

講』

(昭

)三

二四

頁。・

(2)

川博

『契

(総

)』

(昭

)

一七五

一七

一四

Page 31: 契約解除と損害賠償義務(一) - 明治大学 · 法律論第叢六十九巻第三・四・五合併号(一九九七・二) 契約解除と損害賠償義務(一) 売買契約をめぐる各論的考察をかねて

(3)

末川

.前掲書

一七四頁。林信雄

『判例を中心

としたる債権法各

論』

(昭

一〇)

一〇入貢も、「契約が有.効

に成立し

ていた間

に生

じた損害を除

去する

のでなければ、所謂原状回復

は無意味なものとなるからであ

る」と

いい、山下末

「契約解除にお

ける原状回復義務と不当利得」『谷口知平教授還暦記念

不当利得

・事務管理

の研究②』

(昭四六)

一三〇頁も、「解除ととも

に認

められる損害賠償も解除が目的とす

る原状回復

一環をなすものととらえることもできると思われる」と述

べる。また、

相原東孝

「判批」名城四巻二号

(昭二九)二〇頁も、「利得がなされな

いがために生じた損害を除去しなければ原状回復の目

的は達

せられな

い」として、五四五条三項

の損害賠償は

「債務不履行による損害賠償

たる性質をも

つ」と

いう。

4

事業としての損害説

翻償舗

〔包

教授は、.解除は債権債務を初めよ晟

立せざりしものとする効果を有するが、成立した霧

の不履行又は債

務者の責に帰すべき事由による履行不能によ

・て債馨

に生じた事実を抹殺するも

のではない故、債権者が契約を解

除してもなお被

・た損害の賠償を請求し得る・と密丁ろ当然であるLとい覚

また・林信義

授は・・契約の解除によ

約契

て債権関係は遡及的に消滅するとしても、債権関係が有効に成立していた間において履行がなされなかったがために

損害を生じたという妻

は消滅するものではな」

いとい抱

更に・星野贅

は・債務不履行によ星

じた損害につい

の四

一五条

の責

を五

三項

は認

るも

のと解

に賛

成し

の理

て、

「解

の遡及

ると

かわ

て債

の不履

があ

った

のであ

これ

って損

が生

いて、

だけ

では

を填

でき

い場

は、

の賠

のが妥

から

であ

る」

と述

べ、

のよう

に解

の遡

の問

25

では

いため

、五

項を

不履

によ

る損

と解

る点

を不

の根

(な

いし利点)

あげ

2

(3)

こと

は疑

であ

ると

・いう

Page 32: 契約解除と損害賠償義務(一) - 明治大学 · 法律論第叢六十九巻第三・四・五合併号(一九九七・二) 契約解除と損害賠償義務(一) 売買契約をめぐる各論的考察をかねて

 22

(1)

穂積重遠

『債権各論

及び担保物権講義案』(昭三)三〇頁。織田嘉

『契約法論』

(昭

一七)

一二入頁も同旨か。

(2)

・前掲書

(〔20〕注⑧)

一〇入頁。

(3)

星野英

『民法概論W』

(昭五〇)九三頁。なお、

いかなる法的構成を

とるかは不明

であるが、団野新

『改訂改

版損害賠

償論』

(初版は明四二、大二版による)二九八頁も、将来

の得

べかりし利益の喪失は既に損害として実現していると

いう

こと

を理由として

いる。

5

直接効果説以外の学説

以上までの説明は、直接効果説をとり契約が遡及的に消滅するとしながら、債務不履行責任が解除後も存続すると

いうことを説明するためのものであ

ったが、そもそも直接効果説以外の学説では、解除により契約

が消滅しないので

特に説明に苦労はないものと自説の有利を主張している。

竹田説

〔22〕竹田教授は、「吾民法の解釈としては解除は契約の滅棄を目的とするものに非ず。唯契約本

(

の債権関係が其内容を変じて原状回復の債権関係及損害賠償の請求権を発生するに過ぎざるものにして、換言すれ

ば契約に基づく債権関係が解除に依り原状回復の態様を包有する特別なる損害賠償の債権関係に変

じたるものに過ぎ

ずと為すを正当と為す

べし。従

って解除権の行使あるも之と共に債権関係が当然に消滅するに非らず、原状回復の債

務及損害賠償義務が履行さるるまで尚其効力を有し従

って凡ての保証担保も共に其効力を保続するものと謂わざるべ

(1)

から

ず」

いう

Page 33: 契約解除と損害賠償義務(一) - 明治大学 · 法律論第叢六十九巻第三・四・五合併号(一九九七・二) 契約解除と損害賠償義務(一) 売買契約をめぐる各論的考察をかねて

注(1)

田省

「契約解除

ノ性質

二就キテ」京法三巻

二号

(明四

】)八九頁以下。消極的利益とはならな

いこと

の根拠として、解除

が片務契約に

ついても認められる

ことを挙げて

いる。

 ①

折衷説

〔23〕

「契約の解除によって契約関係は遡及的に消滅すると解すべきではなく、清算関係に入る

と解すべきであるから、解除後は既に発生している債務不履行責任を含めて契約関係全体が清算されるべきである。

そのさいに・の墾

.を契約の解除によ・て新たに発生する原状回復義務には含めないで損害賠償責任以外賠償請求権

のまま

で処

理す

こと

によ

って清

よう

とす

が民

の態

であ

と解

べき

(五

五条

)。

て、・の場倉

は債務不履行の

一般原則に従

・て履行利益の賠償が認められ亀

・未履行債務はそ

〔解除の〕時点

で損害賠箋

務を発生させて消滅Lす・・いわれ蒐

なお・・の学説では・履行利益が問題・な

・てい・が・債務不

(3∀

履行による損害賠償には履行利益のみならず信頼利益の賠償も含まれるといわれている

(但し、信頼利益説のように、

と除

信頼利益を広くは捉えないようである)。

解約契

(-)

田山輝明

・契約法第三版』

(平五天

人九

水本浩

・契約法』

(平七)

=

}真

川葉

・民法講器

総論』(平

五)

一七六頁など。そ

の他直接効果説以外の学説

(非遡

及効説)で、五四五条三頁にお

いて債務不履行による履行利益

の賠償

を認めるも

のに、半田正夫

「解除

の効果」『不動産法大系第

1巻売買』

(昭四五)四六〇頁、川村泰啓

『商品交換法

の体系1』

(昭四七)二九

一頁、広中俊雄

『債権各論講義

〔第六版〕』

(平

六)三五

一頁以下がある。

(2)

水本

・前掲書

(注ω)

=

○頁。

(3)

水本

・前掲書

(注ω)

一一一頁。

ω

容変

〔24〕更

、内

容変

形説

では

、次

のよう

に説

明さ

(時期がかなり異なるが、先

の竹田説も

ここ

Page 34: 契約解除と損害賠償義務(一) - 明治大学 · 法律論第叢六十九巻第三・四・五合併号(一九九七・二) 契約解除と損害賠償義務(一) 売買契約をめぐる各論的考察をかねて

に含めることも

できよう)。

282

は、

「契

締結

の状

の回復

いう

こと

は、

つは、契

の給付

対給

ついて

はじ

った

く履

がさ

った

と同

態を

いう

(…

)

のであ

って、

を締

った

こと

にす

はな

いか

債務

の場合

は、

て履

求す

いう

こと

矛盾

せず

むし

の方

が合

(1)

であ

」、

る。

た、

教授

は次

のよ

る。

・交換型契約

(その典型である売買を考えよ)は・近代資奎

義社会にあ

・ては、単なる給付の取得のみを目的と

して結ばれるものではなく、その給付をもとにしてえられるであろう種々の利益

(履行利益)をめざして締結される。

ところが、解除による

『原状回復』は単なる本来給付のまきもどしにすぎず、履行利益をカバーするものではない。し

たがって、解除者

の保護を万全のものとするには、履行利益の賠償を認めなければならない」、「要す

るに、解除者は、

自己の給付した物を

『原状回復請求権』によ

って回復しうるほか、それによってカバーされな

い債務不履行による損

について、賠償請求することができなければならないわけである。民法五四五条三項はかような趣旨と考えられる

のである」。「民法五四五条三項が解除権の行使は損害賠償の請求を妨げな

いと規定し、その損害賠償には履行利益の

賠償も含まれるのだとすれば、解除の効果に関して遡及的構成を採ることは不適当ではないか、という疑いが生ずる

(2)

のは当然である」が、「これに対し、非遡及的構成には、損害賠償に関するかぎり、以上のような問題は生じない」。

辰巳教授も、「既に履行された給付の巻き戻しとしての原状回復義務も損害賠償義務も同様に、契約解除により従来

の債務が消滅して変更された契約関係の内容と解する」、「契約解除により、契約は遡及的に消滅せずに、当初の債権

関係も依然存続したまま、既履行債務については、未履行債務との牽連関係において、それが履行されなかったとす

Page 35: 契約解除と損害賠償義務(一) - 明治大学 · 法律論第叢六十九巻第三・四・五合併号(一九九七・二) 契約解除と損害賠償義務(一) 売買契約をめぐる各論的考察をかねて

れば未履行債務と運命を共にして消滅すべきであ

ったように、それが履行されなかったのと同じ状態

に巻き戻す原状

回復義務が、また、債務不履行につき債務者に帰責事由があり、債権者に損害が発生しているときには、その損害を

反対債務との差額において填補する損害賠償義務とが、それぞれ関係当事者

の義務として、共に債権関係の内容とし

て取り込まれ、債権関係はかくして内容を変容し

つつも、包括した清算関係に転じて存続し続けるも

のと考えるLと

(3)

べて

いる。

これ

の三

には従

いも

のよう

であ

賠償

の内

ついて

は特

に一一一一口及

はな

い。

(1)

山中康雄

『総合判例研究叢書

民法鋤』、(昭三三)

一五五頁。

(2)

四宮和夫

『請求権競合論』

(昭五三)二〇五頁、二〇七頁。

(3)

辰巳直彦

・契約解除

と帰責事由L

・谷

・知平先生追悼論文集

2契約法』

(平

五と

一}五七頁・三五五頁薩

購書韻騰

解除の趣旨からの根拠づけ

勲一

ω

解除=債務者の責任渠

とい三

とを根拠とする説⊥

効果脱1

〔25〕直接効果説に立ち契約の遡及的消滅を認めるが、契約解除を債務不履行に対する債務者の責任追求のための制度

と位置づけて、責任追求

の一貫として解除をしたのに、債務者に対して履行利益の賠償が請求できなくなるのは不可

なものと考えるものである。

29

例えば、「契約の解除は此場合損害の救済策として為さるるものなるが故に其損害をも填補せしめざるぺからざるな

2

(1)

り」とか、「解除の制度は、…履行強制の原則

(…)がもたらす実際上の不便を緩和する手段として、相手方の責めに

Page 36: 契約解除と損害賠償義務(一) - 明治大学 · 法律論第叢六十九巻第三・四・五合併号(一九九七・二) 契約解除と損害賠償義務(一) 売買契約をめぐる各論的考察をかねて

帰す

べき

によ

って契

の債

の満

こと

でき

い当事

に認

めら

であ

302

るL。

「し

って

、解

は、

に債務

の履

強制

るよ

一層有

除権

に約

いるも

(2∀

のと

てよ

のであ

る。

こと

を前

て、

は、解

損害

の関係

けれ

ばな

い」、ま

た、

「本

債務

理由

とす

る法

は、

の制

の趣旨

から

て、

債務

の責

つく

であ

(3)

実質

に考

り損

の請求

とめ

べき

であ

いわ

いる。

(1)

大谷美隆

『債権各論講義

(大

=二)三七頁。

(2)

末川博

『契約法上巻』

(昭三三)

一七

一~二頁。

(3)

高島平蔵

『債権各論』(昭六三)入七頁。なお、富井政章

『債権各論完』(信山社による復刻版による)

=二二頁も、「解除

は広義

の損害賠償

一方法なり

として五四五条三項を根拠づけて

いる。そ

の他、内

田勝

『債権各論講義

ノート』

(平六)

二四七頁が、「法定解除

は債務不履行

の効果

であるから、損害賠償請求は本来

の内容とし

て含まれ、さらに相手方との契約的

拘束力

から離脱するところに嚢

があると説明すれば足呈

つ」と述

べるのも・同様の主張か・また・山下末人

・契約解除に

おける原状回復義務と不当利得L『谷口知平教授還暦記念

不当利得

.事務管理

の研究②』

(昭四六)

一三〇頁も、「近時

の間

[

接効果説に近

い諸説が、原状回復

『義務』ととも

に損害賠償を認めよう

とする

のは、解除が原契約

の単なる否定

ではなくそ

のまきもどしを目指

し、か

つ債務不履行責任

として

のサ

ンクシ

ョンである

ことを示すも

のであろう」

と評して

いる。

ω

債権者保護など1

効果論の議論をしない学説

〔26〕また、解除の効果論を論じな

いまたはその議論の実益を否定して実質的に考え、解除の制度趣旨から履行利益の

賠償を排除しないことを導く学説もある。例えば、以下のようにいわれる。

「契約解除も債務不履行を理由とする法的救済制度

一つと端的に押えれば、損害賠償制度の併置も形式論的に

(1)

とと

い」、

Page 37: 契約解除と損害賠償義務(一) - 明治大学 · 法律論第叢六十九巻第三・四・五合併号(一九九七・二) 契約解除と損害賠償義務(一) 売買契約をめぐる各論的考察をかねて

②当事者間に

「一旦有効な売買契約が締結したことは厳たる事実であり、解除の

一事によって、

この事実を空に帰

せしめることは、擬制にすぎる、というべきである。解除権者には、あくまで売買完結の方向に進

むか、それはあき

らめて、契約が履行されたのと価値的に等しい状況をえて他の善後策をとるか、の選択権が与えられており、解除は、

後者

の途をとるための法技術的手段である。

つまり、解除は、契約当事者間を白紙状態に還元するものではなく、契

の成立および甲

〔=買主〕の債務不履行の事実を前提として、乙

〔一一売主〕の利益保護のために

一定の効果が生ぜ

(2)

}

しめる制度なのであ」る、

「一旦有効に成立した契約そのもの、したがってまたその契約によって保障されている債権者

の利益

(損害賠償

についての契約利益説)そのものまでは否定しよ、・とするものでは守

、ただ契約に基づ-個別的な債務だけを消滅

させ、従

・てそれが既履行であれば返還させるだけであ・て、それでもさらに償われず残る・とのあ?

・る債権者の

害損

契約によって本来保障されていた利益については、契約ないし債務の不履行を理由とする損害賠償請求の可能性をな

(3)

お残している」、

解婦

.解除は、笑

な契約違反によって拘束力を維持する・とについての利益が脱落する・とを理由として解除権者

に契約からの離脱を認めるものであLり、「本来的給付

へと向かう契約関係

への拘束を解消し、清算

へと向かわせる技

術的手段であるが、それを超えて、契約によって保障されている利益を損害賠償

(履行利益賠償)

の形で債権者

(解

(4)

除権

)

が保

こと

でを

るも

では

い」、

ど。

1

(1)

『民法講義

4契約法』

(昭五三)九三頁

(山下末人)。『新版注釈民法13」

(平八)七三六頁

(山下末人)も参照。

2

(2)

鈴木禄弥

『債権法講義改訂版』

(平六二)五〇五頁。

Page 38: 契約解除と損害賠償義務(一) - 明治大学 · 法律論第叢六十九巻第三・四・五合併号(一九九七・二) 契約解除と損害賠償義務(一) 売買契約をめぐる各論的考察をかねて

(3)

好美清光

「契約

の解除

の効力」

『現代損害賠償法大系第2巻』

(昭五九)

一九〇頁。

『逐条民法特別法講座6契約1』

(昭六

 23

一)

一〇八頁

(小野秀誠)

はこの好美論文を引用し、「損害賠償

は解除

の効果ではなく、債務不履行

の効果とみるべきである

から」「賠償の範囲も履行利益とみるべき

である」と

いう。

(4)

潮見佳男

『債権総論』

(平六)二七三頁。そ

の他、長島毅

「契約の解除と契約なかりし場合

に得べかりし利益

の償還」新報

二九巻九号

(大入)

一〇三頁も、原状回復

とは別に損害賠償を認

めた

のは、債権者保護のために契約

が完全

に履行された

と同じ状態を発生さ

せることを目的とし

ていると

いい、青野博

「解除

の法的構成1

し『現代契約と現代債権

の展望5』

(平

二)

一四七頁も、「債務不履行

における債権者保護と

いう立法政策

から損害

賠償請求権はもちろん債務不履行を根拠とす

る、

とし

てよ

いと考える」と

いう。

叢論

7

[性

理論

否定

る説

〔27〕更

には

、同

一性

論を

こと

によ

、そ

接効

の下

の疑

自体

があ

る。

"

ようであ殖

「多数の説は損害賠償の義務は本来債務の拡張又は変形たるものであるから、本来債務より生ず

るものであると言

のである。本来債務がなければ不履行の問題を生ずることのないのは言うを要せぬことであるけれども、不履行は

契約違背の行為であり統治関係上許されぬ行為であるから違法行為である。其違法行為は契約より生じたるものでは

なく契約に違背して乗じたるものであるから、本来債務

の拡張でもなく又変形でもない。斯の如く不履行は契約に違

して生じたものであるから、損害賠の義務は違法行為たる不履行の制裁として法律上賦課したる義務である。斯の

如く損害賠償の義務は違法行為たる不履行の制裁たる法課義務でありて、契約に因り生じたるものでないから、契約

Page 39: 契約解除と損害賠償義務(一) - 明治大学 · 法律論第叢六十九巻第三・四・五合併号(一九九七・二) 契約解除と損害賠償義務(一) 売買契約をめぐる各論的考察をかねて

を解除するも其損害賠償の義務は決して消滅するも

のではない。然るに契約の解除に因りて損害賠償の義務は消滅す

るものであるから、民法第五四五条第三項に於て契約を解除するも損害賠償の義務は消滅せずして存続するものであ

ることを規定したのであると言うものがある。余の見るところにては全然反対である。損害賠償の義務は契約に因り

て生じたるものでないから契約の解除に因りて消滅するものではないけれども、論者

の如き誤解を為す者がありては

ならぬから、該条項の規定を設けて誤解を防ぎたるものである」。

一 契約解除 と損害賠償義務(一)一

1

併存説 五

債務不履行による

損害賠償と一契約解除による

損害賠償とを含むとい

う学説

↑ 注

松本重敏

奏約法論

世』

〔28〕

契約解除による損害というと、解除までの債務不履行責任を否定して、解除による損害の名

の下に損害賠償を

めることになり、その賠償の範囲は通説に近いとしても完全に

一致するものではない。他方で、解除前の契約上の

債務不履行責任を解除後も認めるのだとすると、解除後に解除ゆえに生じる損害については、当然に賠償されること

ヨ23

が説明できるというも

のではない。そのため、両説のよいとこどりをして、山本教授は次のように述べており、注目

Page 40: 契約解除と損害賠償義務(一) - 明治大学 · 法律論第叢六十九巻第三・四・五合併号(一九九七・二) 契約解除と損害賠償義務(一) 売買契約をめぐる各論的考察をかねて

(1)

4

される。

23

「私は、この損害賠償は、解除前に生じた不履行を理由とする損害賠償の請求と、解除を原因とす

る新たな損害賠償

の請求のいずれをも含むものと考える」。「五四五条三項は、契約の解除原因の発生ならびに解除による契約関係の解

消をめぐって生じた

一切の損害賠償請求権を

一括して、便宜的に認めたものというべきである。

ここにいう損害賠償

が、以上のような性質を有するものだとすれば、これらの損害賠償請求権の範囲は、それぞれの賠償

の性質に応じて、

のように理解することができると思う」。①

「先ず、債務不履行にもとつく損害賠償の範囲については、四

一六条の

によ

るL。②

「解

除を

の原

とす

の範

いて

は、

直接

これ

た規

いが、

除権

は、契

約関

によ

って

消滅

せざ

った

こと

って生

因果

の全

の賠

しう

る」。

・れによると・五四五条三項は・解除の遡及効を債務不馨

責任との関係で制限すると共に・解除によ

・て生じた

損害についての賠償を特に法定した規定ということになる。後述のように、解除された契約

の債務

の不履行による損

害賠償責任が存続するとすると、解除後の損害はあ謝れてしまい、また、債務不履行責任が存続するのだから、債務

不履行と因果関係

(相当因果関係)さえあれば解除後の損害でもよいというのは、何かいまいち納得

がいかないもので

るが、この説はこの点をうまく説明できることになる。以下では、この説を併存説と称することにする。

注(1)

山本進

一『債権各論』(昭五四)入○頁以下。同

『債権各論

(講義案)』(昭四八)六八頁以下で既に述

べて

いたところ

であ

る。

Page 41: 契約解除と損害賠償義務(一) - 明治大学 · 法律論第叢六十九巻第三・四・五合併号(一九九七・二) 契約解除と損害賠償義務(一) 売買契約をめぐる各論的考察をかねて

2

選択説

〔29〕末弘教授は、直接効果説において、債務不履行に対する制裁として解除を許すと同時に損害賠償を許してもなん

ら差し支えないといい、また、スイス債務法の

「契約の解消より生じたる損害の賠償」という消極的契約利益の賠償

[

「債務不履行の結果、契約を際

せざるをえな養

ったために芒

た墾

.を賠償せしめるものであるから、債務不

履行に対する制裁であり債務不履行それ自体を原因とするものにほかならない」といい、両損害の賠償の関係につき、

次のよ、つに述べる.

.・れを要するに、解除と債務不履行による損害賠償とを理論上両立せずとする直接効果説的の考え方は決して絶

対的なものでない・篠

と同時に不履行による損害賠償を認めても理論上なんら不都A。はない・た積

書の計算方法

と除

ついて上記のごとく二つの違

った考え方がありうるだけのことであるL、と。

解離

その上で、履行不能による解除と履行遅滞による解除とに分けて、以下のよ・つに主張している。

①履行不能

の場合には、解除しないで相殺する方法ができるので、解除をする場合にはその損害賠償は消極的利益

の賠償であり、債権者は自分の有利な方を選択できる。場合によ

っては、消極的契約利益の方が、積極的契約利益よ

りも大きいこともあるので、このような余地を認めておく必要がある。

②履行遅滞による解除の場合には、「この場合請求しうべき損害賠償も、考え方によ

って、あるいは相手方の履行あ

りせば得べかりし利益全部すなわち積極的契約利益と債権者自身の反対債務額との差額なりと考える

こともできれば、

352

またあるいは消極的契約利益であると考えることもできる。通説はこの場A口むしろ前者の結果を択

ぼうとしているよ

Page 42: 契約解除と損害賠償義務(一) - 明治大学 · 法律論第叢六十九巻第三・四・五合併号(一九九七・二) 契約解除と損害賠償義務(一) 売買契約をめぐる各論的考察をかねて

であるが、現在私の考えるところでは、この場合にも債権者は自己の見込み次第で履行に代わる

べき損害賠償を請

362

求してもよしまた消極的契約利益を請求してもいいものと解するのが最も事物の性質に適した解決

であるように考え

(1)

られ

るL。

の考

のよう

に、

(これを履行利益や填補賠償

とイ

コー

ルと理解し

てま

いかはおく)

と消

的契

いず

の賠

ても

いと

いう

わけ

であ

るが

両損

の内

いて

明ら

では

い。

が重

いと考

の損

の内

は非

に狭

いも

のにな

で、

よう

には

いな

いの

であ

。そ

と、

両損

は重複

とし

ら、差

異を

のと

いう

こと

にな

いか

る差

があ

か、

の点

具体

明ら

いな

い。

.

(1)

末弘厳太郎

「債務不履行

による契約解除と損害賠償」

『民法雑記帳下』λ昭二八)二四頁以下。