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精子運動解析装置を用いた豚精液検査方法の確立 誌名 誌名 群馬県畜産試験場研究報告 = Bulletin of the Gunma Animal Husbandry Experiment Station ISSN ISSN 13409514 巻/号 巻/号 17 掲載ページ 掲載ページ p. 75-78 発行年月 発行年月 2010年12月 農林水産省 農林水産技術会議事務局筑波産学連携支援センター Tsukuba Business-Academia Cooperation Support Center, Agriculture, Forestry and Fisheries Research Council Secretariat

精子運動解析装置を用いた豚精液検査方法の確立 · 専用スライドグラス(スライドガラスとカ バーガラス間に20μmの間隙を設けている

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精子運動解析装置を用いた豚精液検査方法の確立

誌名誌名群馬県畜産試験場研究報告 = Bulletin of the Gunma Animal HusbandryExperiment Station

ISSNISSN 13409514

巻/号巻/号 17

掲載ページ掲載ページ p. 75-78

発行年月発行年月 2010年12月

農林水産省 農林水産技術会議事務局筑波産学連携支援センターTsukuba Business-Academia Cooperation Support Center, Agriculture, Forestry and Fisheries Research CouncilSecretariat

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群馬畜試研報 第 17号 (2010)

群馬畜試研報第 17号 (2010)・75-78

キーワード JI家精液・精子運動解析装置・精液性状

精子運動解析装置を用いた豚精液検査方法の確立

山田 真・小材幸雄ネ

Sperm Motility Analysis System Use for Boar Semen

Makoto YAMADA and Yukio OZAl

要 ヒコ日

有現吾妻農業事務所家畜保健衛生課

豚精液の客観的な検査方法の確立を目的として、ヒトの精液検査で広く用いられ

ている精子運動解析装置(以下、 SMAS) を用い、自動出l球計算機(以下、血算機)

による精子数測定および従来の顕微鏡検査(以下、鏡検)による活力検査との比較

試験を行い、以下の結果を得た。

1 SMASにおいて、精子数 l倍、個以上/mlの規定濃度の精液では、担IJ定に時間

を要す上、精子数測定精度が低下し、測定に不向きであった。

2 規定濃度の精液を 5倍および 10倍に希釈し、検査に供することにより、測定

時間が短縮され、精子数測定精度も改善された。

3 鏡検で、の活力検査との相闘が認められ、 SMASを用し、た客観的な検査方法が

可能であることが示唆された。

緒 三三r仁コ

豚精i1!,tの活力検査は、顕微鏡を用いた検

査が一般的である。しかし、検査には習熟

を要し、測定者間での差も多く、安定した

検査を行うことは困難である。 そのため、

検査機器を)'1打、た客観的な検査方法の確立

が求められている。

一方、ヒトの泌尿器科領域では、コンピ

ュータの画像分析を応用した精子 自動分析

装置による精液検査法が普及しつつある。け

そこで今凶、国産品で使用方法が簡便な

SMAS (ディテクト社製 写真1)を用い、

従来の精液検査方法との比較を行った。

75

材料および方法

1 供試豚および供試精液

当場人工授精所繋養の種雄豚ランドレー

ス種 3頭、大ヨークシャ一種 4頭、デュロ

ック種 3頭の計 10頭から採精し、液状保存

した精液を供した。

2 試験期間

平成 21年 7月から平成 22年 3月までに

実施した。

3 SMASについて

本機は、精子観察用の顕微鏡と画像解析

用コン ピュータおよびモニターから構成さ

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群馬畜試研報第 17号 (2010)

れている。検査には、チャンパータイ プの

専用スライドグラス(スライドガラスとカ

バーガラス間に 20μmの間隙を設けている

写真 2) を用いた。

検査の仕組みは、スライドグラスのチャ

ンバー内に被検精液を注入し、精子ーが観察

しやすい任意の視野(1/16万 ml相 当 写真

3) を選び、その視野内の各精子を画像解析

システムにより追尾および解析(写真 4)

し、精子数および精子運動率などを自動的

に測定するものである。

写真 1 精子運動解析装置全体

!廃- 苅l3¥-に|圏:Jト ヘ ' 句 a 5ぺ唯 g ・r cpl・ A ・ , 、・~.

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い々と.、 ーヘ-・ -・Ih~ ーベ、L骨 J ノ 、品、-写真 3 精子検査画面

写真 4 精子追尾および解析画面

4 試験方法

1 )採精、精液調整および保存

擬牝台を使い、用手法により精液を採取

後、モデナ液にて精子数が l億個以上/ml

の規定濃度になるように調整した。

調整した精液の温度をインキュベーター

内にて 15ocまで漸次低下させ、 15ocにて

液状保存した。

2 )精液検査方法および調査区

保存精液を小試験管に約 2ml分注し、 37

ocの恒温水槽にて 15分間加温後、検査を行

写真 2 チャンパータイプの専用スライ iご った。

ガラス また、保存精液の希釈率により、無希釈

区、5倍希釈区、10倍希釈区を設けた。

5 調査項目

1) SMASでの測定時間

被検精i夜を SMAS用顕微鏡にセットし、

Fhu

J

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群馬畜試研報 第 17号 (2010)

精子の追尾および解析が終了するまでの時

間を計測した。

2 )総精子数

対照として、 mL算機(エノレマ社製 PA2000)

を用い、比較を行った。

3 )精子活力および運動率

SMASにおいては、精子運動率(以下、

運動率)を活力の目安として用いた。対照

として、家畜人工授精講習会テキスト 2)に

準拠し、顕微鏡による目視検査法を用い、

活力+++ (運動が激烈で活発な前進運動す

るもの)および++ (活発な前進運動するも

の)の合計値 (%)との比較を行っ た。

結果

1 SMASでの測定時間

l検体当たり平均担IJ定時間は無希釈区 3

分 23秒、 5倍希釈区 l分 15秒、 10倍希釈

区 l分 12秒であった(表 1)。

表 1 SMASによる 1検体当たり測定時間

区分

無希釈区

5倍希釈IR

10倍希釈区

3 総精子数

(n=15)

平均測定時間

3分 23秒

1分 15秒

l分 12秒

SMAS と血算機での精子数測定に関し、

し、ずれの区においても正の相関が認められ

た(無希釈区 r=0.835、5倍希釈区 r=0.969、10

倍希釈区 r=0.948、図 1~ 3)。しかしなが

ら、無希釈区においては他の区に比べ、相

関が低く、測定精度の低下がみられた。

2. 0

S 1. 5 乱f

A 1. 0 S

O. 5

0.0

二 O.ffix + 0.5

r = O.邸5

0.0 0.5 1.0 1.5 2.0

血期幾

図1 無希釈区の精子数(n二26)

2.0

al 5 A 1. 0 S

0.5

0.0 r = O. ffi9

O. 0 O. 5 1. 0 1. 5 2. 0

血算機

殴 5倍稀厄の精強(IF26)

2.0

S 1.5 おf

A 1.0

S 0.5

0.0

0.0

単位:儲固/ml

y=1.侃x+ O. 0

r = 0.948

0.5 1.0 1.5 2.0

血期幾

図3 10倍希釈区広精子数仇=26)

3 精子活力および運動率

SMASによる運動率と鏡検による活力判

定ではいずれの区において正の相関が認め

られた(無希釈区 r=0.959、 5倍希釈区

r=0.913、 10倍希釈区 r=0.933、図 4~ 6)。

また、各区間における相関関係に差は認め

られなかった。

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群馬畜試研報 第 Inき (2010)

S 100 |哨立:%

M 75 A

S 50 運

y三=1. 2Dx -26. 9 動 25率

r =0.96。。。 25 50 75 100

錨剣舌力

図4 無希釈区の活力(IF26)

S 1∞ ~ __ I哨立:%

A 75

S 運 日

動- Y 率 25

o. 9Sx + 3.8

r = 0.912 。。25 50 75 100

鏡樹舌力図5 5倍希釈区の活力Cn=~)

S 100

M 75 I噌立:%

A

S 50

‘ y 0.9lx十 80

r二 O.933

O

。25 日 75 1∞ 鋪貸肋

鴎 1C膳稀枢d舌力佐窃)

考察

当初、精子数 i億個以上/mlに調整した

保存精液を無希釈で供試したが、ヒトの平

均的な精子数 0.2億個/mlよりも高濃度な

ため、 SMASでの精子の追尾、測定に時間

がかかる上、精子同士の凝集などにより精

子数測定精度が低下し、正しい測定が困難

であった。

そのため、保存精液をさらに希釈し、検

査に供すことが必要であると考えられ、規

定濃度の精液を 5倍希釈、 10倍希釈したも

のを用いたところ、検査時間が短縮された。

これは、希釈後の精液の解析精子数が SMAS

の適正な解析範囲内にあったためと考えら

れ、希釈濃度の違いによる測定時間に差が

みられなかった要因とも言える。また、同

様に、精子数測定では血算機とも高い相関

が得られた。精子活力に関しでも鏡検での

惰力判定との相関が認められ、迅速かつ客

観的な検査が可能である。一方、精子数、

精子活力し吋えれにおいても、 5倍希釈区、 10

倍希釈区間に大きな差は認められなかった。

現状では、装置一式が高価な上、消耗l!日l

である SMAS専用のスライドグラスも i枚

約 700円と同様に高価であるため、 一般の

農家での利用は難しいと考えられる。しか

し、大規模養豚経営における G Pセンター

や精液販売を行う人工授精所では、一回の

検査で精子数、活力(運動率)が同時に測

定でき、検査作業の効率化と製品としての

豚精液の品質安定性の確保に十分寄与でき

る。

引用文献

1 )精液検査標準化ガイド‘ライン作成ワーキ

ンググループ編.精液検査標準化ガイド

ライン

2)日本家畜人工授精白Ii協会発行.家畜人工

授精講習会テキスト

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