15
25 土木学会論文報告集 第 212 1973 年 4月 の打 ち上 げ空 波形 と越 の相 性 * WAVE OVERTOPPING QUANTITY CORRELATED TO THE SPATIAL PROFILE OF RUN-UP WAVES 彰 ** By Akira Thkada 1.ま えが (1 ) 越波量算定方式の比較 直壁 お よび 斜 面堤 に お け る越 波 量 が, 波 の打 ち上 げ 時間波形 および 空間波形 と密接な関連のあることはす でに 明 らか にされてお り, 現 在 ではそれぞれ 越波量 と の定量的な応答関数を見出すことに努力 が 払われてい る3)~8)。 いずれの方法であっても,適合性がよく,使い やすい応答関数 を見 出す とが で きれ ば, 実 用 的 に意 義 のあることと考 え られ る。 前 回 の 論文8) で は, 鉛 直 壁 にお け る越 波 を越 流堰 とみ な し て, 壁 面 に お け る波 の打 ち上 げ 時 間 波 形 を用 い て越 波量を解析 したが,越波時の打ち上げ時間波形をどのよ うに決めるかが問題である。鉛直壁が重複波水深領域の 合は, 有 限振 幅重 複 波 理 論 の 時 間 波 形 を基 礎 に導 く こ とが で きる が,越 流 堰 の計 算 に お け る 積分 が 困難 で あ る ので,前報では台形波形で近似させる方法を採用 した。 しか し, この手 法 を砕 波 領 域 の 鉛 直壁 お よび天 端 の低 い 鉛直壁に適用す るに は, 飛沫 お よび接 近 流 速 を無 視 で き ない こ となどの理由で,検討すべき問題が残されてい る。 ま た, 斜 面 堤 の越 波 の場 合 は天 端 高 が変 化 す る と天 端の位置が斜面上を移動するので,天端上の打ち上げ時 間 波形 を どの よ うに決 めるかが問題 に な る。 さ らに, 斜 面堤 の天 端 付近 の接近流速 を無 視 で き ない の で, そ れ どの よ うな 関数 で表 わす かが 未 解 決 で あ る 。 以 上 の 理 由 に よ り,今 回 の論 文 は 砕 波領 域 お よび 天端 の低 い鉛 直 壁 や斜 面 堤 に も適 用 で きる 手 法 と して, 非 越 波時 の打 ち上 げ空 間波 形 の仮 想 天 端 上 の 容積 が越 波量 に 比 例 す る と して 実用 的 な解 析 を試 み た もの で あ る。 波 の打 ち上 げ空 間波 形 の 容積 で越 波 量 を評 価 す る手 法 は,非越波時の打ち上げ空間波形が的確に推 定 で きれ ば, 越 波 量 と比較的容易に関連づけることができる。 ( 2) 研 究方法 斜面堤 よび 直壁 の堤脚水深 h が入射波の砕波水 深 (hb) pよ り深 い領 域 は,壁面 に お い て surging waves (あるいは 全 反 射) を 生 じる場 合 と breaking waves 生 じる 場 合 とに 大 別 され る9)。 その限界を表わす条件は 相 当 深 水 波 形 勾 配 との り勾 配 と の関 係 に よ っ て近 似 的 に り, そ の条 件 式 は 次 の Miche の式 に よ って ほ ぼ 判 別 で きる10)。 ( 1) に, (H0'/L0) crit : 角 θ に おいて全反 射 (ある は surging waves) を生じる相当深水波形勾 配の最大値を示す。 ち, H0'/L0 <(H0'/L0) crit は surging wa- ves, H0'/L0 ≧ (H0'/L0) crit は breaking waves に分 * 13th International Conference on Coastal Engineering (Vancouver, Canada, July 10-14, 1972)1) および土木学 第 27 会 (Oct. 20-22, 1972)9) にお い て 一部 発表 してい る。 ** 正会員 工修 中部工業大学助教授 土木工学教室 図 - 1 surging wavesと breaking wavesの 境 界

波の打ち上げ空間波形と越波量の相関特性...決まり, その条件式は次の Miche の式によってほぼ判 別できる10)。( 1 ) ここに, (H0'/L0) crit :

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25

土 木 学 会 論 文 報 告 集

第 212 号 ・ 1973 年 4 月

波の打 ち上げ空間波形 と越波量の相関特性 *

WAVE OVERTOPPING QUANTITY CORRELATED TO

THE SPATIAL PROFILE OF RUN-UP WAVES

高 田 彰 **

By Akira Thkada

1. ま え が き

( 1 ) 越波量算定方式の比較

鉛 直壁お よび斜面堤 における越波量が, 波 の打 ち上 げ

時間波形 お よび 空間波形 と密接 な関連 のあるこ とはす

でに 明らか にされてお り, 現在 ではそれ ぞれ 越波量 と

の 定量的な応答関数 を見出す ことに 努力 が 払われて い

る3)~8)。 いずれの方 法であっても, 適合性が よ く, 使い

やすい応答関数 を見出す こ とができれば, 実用的 に意義

のあることと考 え られ る。

前回の論文8) では, 鉛直壁 における越 波 を越 流堰 とみ

なして, 壁面における波 の打 ち上げ時間波形 を用 いて越

波量 を解析 したが, 越波時の打ち上げ時間波形 を どの よ

うに決めるかが問題 である。 鉛直壁が重複波水深領域 の

場 合は, 有限振 幅重複波理論の時間波形 を基礎 に導 くこ

とがで きるが,越 流堰 の計算における積分 が困難 である

ので, 前報では台形波形で近似 させる方 法を採用 した。

しか し, この手 法を砕波領域の鉛直壁 お よび天端 の低 い

鉛直壁に適用す るには, 飛沫 お よび接近流速 を無 視でき

な い こ と などの理 由で, 検 討すべき問題が残 され てい

る。 また, 斜面堤の越 波の場 合は天端高 が変化す ると天

端の位置が斜面上 を移動す るので, 天端上の打 ち上 げ時

間波形 をどの ように決 めるかが問題 になる。 さらに, 斜

面堤 の天端付近 の接近流速 を無視 できないので, それ を

どのよ うな関数 で表 わす かが未解決である。

以上の理由に より, 今回 の論文は砕波領 域お よび天端

の低 い鉛直壁や斜面堤 にも適用で きる手法 として, 非越

波時 の打 ち上げ空 間波形 の仮想天端上の容積 が越 波量 に

比例す る として実用的 な解析 を試みた もので ある。

波 の打 ち上 げ空 間波形 の容積 で越 波量 を評価す る手法

は, 非越波時 の打 ち上 げ空 間波形が的確に推 定 で き れ

ば, 越波量 と比較的容 易に関連 づける ことがで きる。

( 2 ) 研 究 方 法

斜面堤 お よび 鉛 直壁 の堤脚水深 h が入射波の砕波水

深 (hb) p よ り深 い領域 は, 壁面 において surging waves

(あるいは 全反射) を生 じる場合 と breaking waves を

生 じる場合 とに大別 され る9)。 その限界 を表わす条件 は

相 当深水波形勾配 との り勾配 との関係 によって近似 的に

決 ま り, その条 件式は次の Miche の式 に よってほぼ判

別で きる10)。

( 1 )

こ こ に, (H0'/L0) crit : 任 意 の傾 斜 角 θ に お い て全 反

射 (あ る い は surging waves) を生 じ る相 当 深 水 波 形 勾

配 の 最 大 値 を示 す 。

す な わ ち, H0'/L0 <(H0'/L0) crit で は surging wa-

ves, H0'/L0 ≧ (H0'/L0) crit で は breaking waves に 分

* 13th International Conference on Coastal Engineering

(Vancouver, Canada, July 10-14, 1972)1) お よ び 土 木 学

会 第 27 回 年 次 学 術 講 演 会 (Oct. 20-22, 1972)9) にお い て

一部発表 してい る。** 正会員 工修 中部工業大学助教授 土木工学教室 図 - 1 surging waves と breaking waves の 境 界

Page 2: 波の打ち上げ空間波形と越波量の相関特性...決まり, その条件式は次の Miche の式によってほぼ判 別できる10)。( 1 ) ここに, (H0'/L0) crit :

26 筒田 :

類 で きる。 なお, 波の打 ち上 げ高お よび越波量が最大 に

なるの り勾配 と波形勾配の関係 は近似的 に式 (1) で示 さ

れ, 計算 の結 果が 図- 1 に示 され る。 この図 は, H0' お

よび L0 を堤脚水深 h の地点 にお ける H および L で

書 き換 えて表示 した ものであ る (後述の式 (4) 参照)。

一 方, 鉛直壁における波の打ち上げ高および越波量を最

大 にす る堤脚水深 は一般 に進行波の砕波点 よ りやや浅い

地点で生 じるこ とが明 らかに されているが11), その条件

式は, 図- 2 に示 され るよ うに, Miche12) ある い は 浜

田13) お よび首藤14) が提案 した進行波 の砕波 限界付近 [h=

(hb) p】 にあ るので, 実用性 を考慮 して Miche あ る い

は浜 田が提 案 した条件式 よ り深い水深 の領域 の斜面堤 お

よび鉛直壁 を本研 究の対 象 とする。 そ こで, 本研 究はさ

らに 図- 3 に示 され る ように, 堤脚水深 を 「重複波水深

領 域」 [h ≧ (hb)c], 「重複波型砕波水深領域 」 [h=(hb) p

~(hb)c] お よび 「進行波 型砕波 水深領 域」 [h ≦ (hb) p]

の 3 つに大別 し, 重複波 の砕波限界 [h=(hb)c] を岸15)

の砕波条件 式 (2) で表わ され るもの と考 える。

( 2 )

こ こ に, (hb)c : 重 複 波 の 砕 波水 深, (Hb)c お よび

(Lb)c : (hb)c にお け る 入射 波 高 お よび 入射 波 長, (kb)c

=2π/ (Lb)c, (Hb/Lb)c : (hb)c にお け る入 射 波 の波 形 勾

配, である。

重複波型砕波水深領域 と進行波型砕波水深領域 の境 界

[h=(hb)p] を Miche12) あるいは浜 田13)の進行波の砕波

条件 式 (3) で表わ され る もの と考 える。

(3)

こ こ に, (hb)p : 進 行 波 の 砕 波 水 深, (Hb)p お よび

(Lb)p : (hb)p に お け る入 射 波 の 波高 お よび 波 長, (kb)p

=2π/ (Lb)P, (Hb/Lb)p : (hb)p にお け る入 射 波 の 波形

勾配, で ある。

さて, この研究では, 不透過で平 滑な斜面堤 と鉛 直壁

に分けて, 波の打 ち上げ空間波形 と越波量 との相関特性

を調 べ, 天端高, の り勾配, 波形勾配お よび堤脚水深 の

影響 を明 らかに しよ うとす るものである。 ただ し, 今回

の報告 は無風時 の場合で ある。

2. 実 験 方 法

(1) 斜面堤 の実験

実験水路 は幅 0.3m, 高 さ 0.52m, 長 さ 21.4m, 両側

ガラス張 りの可傾式造 波水路 であ り, 下端 をヒンジにし

たフラ ップ式造波板 で規則波 を起 こした。 実験 は 図- 4

に示 され るよ うに一様水深 から 直接斜面 の 始 まる場合

と, 海底勾配 tanα=1/10 の上 に斜面堤 を設置 して堤脚

水深 を変化 させ る場合について調べた。 堤脚水深 h は,

一様水 深 の 場 合 は h=21cm お よび 32cm, tanα=1/10

で は, h=21, 17, 14, 11 お よび 8cm で あ り, の り勾 配

は cotθ=0.25~5, 天 端 高 (静 水 位 上) は Hc=1~19cm

ま で 数 種 類 変 化 させ た 。 実験 波 は 相 当深 水 波 高 H0'=

5.1~10.4cm, 周 期 T=0.8, 1.0, 1.2 お よび 1.6sec

と した が, これ らの 実 験 条 件 の 諸 元 は 表- 1 に示 され

る 。 な お, 一 様 水 深 に お け る入 射 波 の波 高 H は 造 波板

よ り 6m 離 れ た とこ ろ で, 電 気 抵 抗 線 式 波高 計 の ピ ッ

クア ップ を水 位 計 増 幅 器 に接 続 し, 電 磁 オ ッ シ ログ ラ フ

に記 録 して測 定 した。 また, 相 当深 水 波 高 H0' は微 小

振 幅 波 理 論 よ り次 の 式 (4) で 計 算 した16)。

( 4 )

図- 2 最大打ち上げ高を生ずる堤脚水深と波形勾配の関係

図- 3 波の形態によ る分類 図- 4 実 験 断 面

Page 3: 波の打ち上げ空間波形と越波量の相関特性...決まり, その条件式は次の Miche の式によってほぼ判 別できる10)。( 1 ) ここに, (H0'/L0) crit :

打ち上げ空間波形と越波量の相関 27

ここに, k=2π/L,L : 水深 h における入 射波の波長,

H : h における波高, である。

なお, tanα=1/10 の場合 の堤脚水深 h における入 射

波の波高 H は 先 に計算 で求 めた H0' を用い て 式 (4)

より求 めた。 h における波長 L および深水波長 L0 は

造 波板 の往復運動の周期 T を測定 して, それ を微 小振

幅波理論 の式 L= (gT2/2π) tanhkh お よび L0= gT2/2π

に代入 して求 めた17)。

波 の打 ち上げ空間波形の測定は第 6 波 を対象 に して,

1cm 格子 目盛 を 付 けた ガ ラス側面 より写真撮影 (シ

ヤ ッター速度 1/250sec) によって 求 めた。 静水面上 の

打 ち上 げ高 R の 測定 は, 波 が 斜 面 を最高 に上昇 した瞬

間を目測に よって捕 え, 第 6~10 波 につ いて各波 ご とに

マークし, それ らを静 水位上 の垂直高 さに換算 した。 1

周期 当た りの越 波量 Q は幅 25cm, 高 さ 15cm, 長 さ

60cm の越波受箱 に第 6~10 波 の 5 波 を集水 し, その累

積越 波量 か ら求めた。

( 2 ) 鉛直壁 の実験

斜面堤 にお ける実験 方法 と同様であ るが, 上述 の実験

水槽 のほかに幅 0.8m, 高 さ 2.0m, 長 さ 30m の片面

ガ ラス張 り水槽 と幅 0.8m, 高 さ 1.2m, 長 さ 27.9m

の風 洞付水槽 を用 いて追加実験 を行 な った。 また, 越波

量 について は著者 の実験以外 に既往 の成 果 も用い るこ と

に して, 重複波水深領域で は, 岩垣 ・三井 ら (tanα=

1/10)11) お よび合 田ら (tanα=1/20)18) の実験成果 を, 重

複 波型砕波水 深領 域で は, 岩垣 ・三井 ら11) (tanα=1/10)

お よび白石 ・沼田 ら19) (tanα=1/10) の実験成果 を用い

た。 したがって, 鉛直壁 の実験条件 は 表- 2 に示す範 囲

である。

表- 1 斜 面 堤 の 実 験 条 件

表- 2 鉛 直 壁 の 実 験 条 件

Page 4: 波の打ち上げ空間波形と越波量の相関特性...決まり, その条件式は次の Miche の式によってほぼ判 別できる10)。( 1 ) ここに, (H0'/L0) crit :

28 高 田 :

3. 波 の 打 ち上 げ 空 間 波 形 に つ い て

(1) 斜面堤 の場合

a) 波 の打 ち上 げ空 間波形 の形 状 とその先端角度

これ までに, Freeman-LeMehaute を始 め, 多 くの研

究者は非線形浅水理論 を特性 曲線 法に よって傾斜 海浜に

おける波の打 ち上 げ高 および打 ち上 げ空間波形 を理 論的

に求める手法 を提案 している20)。 しか し, この方 法は入

射波 が spilling breaker として砕け, bore となって斜

面 を進行 す る場合 にのみ計算が可能 であ り, 計算 の複雑

さ, 精度 な ど多 くの問題が残 され ている。 したが って,

砕波直前 の波 を単純 な波形で与 えて も, 計算が複雑 で,

実用で きない ように考 えられ る。 一 方, Brantzaeg ら

は, 捨石斜面堤 の安 定性 を調べる 日的で, 波の打 ち上 げ

空間波形 を実験的 に検討 している21)~23)。 それ らに よれ

ば, 波の打 ち上 げ空 間波形 の形状 はほぼ直線 とみなせ る

こと, お よび, 打 ち上 げ空 間波形 の先端 角度が波形勾 配

の大きいほ ど小 さ くなることを明 らかに している。 しか

し, 定量 的には十分 に検討が なされ ていない ようである。

そこで, 著者 は写真測定 による広範 囲の実験 より波の

打 ち上 げ空間波形 を調べ, その先端角度 が波形勾配, の

り勾配 お よび堤脚水深 によって どのよ うに変化 するかを

(a) cotθ=1

(b) cotθ=2

定量的に明 らかに したい。

図- 5 は tan α = 1/10 に 設置 され た cot θ = 1 お よび

2 の斜面堤 (不透 過な平滑面) につい て, 堤脚水深 を 3

種類 に 変化 させた場 合 の 打 ち上 げ空間波形 を示 してい

る。 これ らより, 打 ち上 げ空間波形の先端付近はほぼ直

線的 な形状 と見 なす ことが できること, お よび, H0'/L0

=const. の場合に堤脚水深が小さいほど先端角度が小さ

くな ること, また, の り勾配が小 さいほ ど先端 角度は小

さくな ることがわか る。 そ こで, 打ち上げ空間波形 の形

状 を 図- 6 の よ うに台形 と仮定 し, その先端角度 γ が

H/L お よび cot θ に よって どの ように変化す るか を調べ

ると次の よ うで ある。

( a ) tan α=0

( b ) tan α=1/10

図- 5 波の打ち上げ空間波形

図- 6 波の打ち上げ空間波形, その容積および越波量

図- 7 cot γ とcot θ の 関 係

Page 5: 波の打ち上げ空間波形と越波量の相関特性...決まり, その条件式は次の Miche の式によってほぼ判 別できる10)。( 1 ) ここに, (H0'/L0) crit :

打ち上げ空間波形と越波量の相関 29

cot θ ≧ 1 の場合 は, cot θ と cot γ との関係が 図- 7

に示 され るよ うに両対数 紙上 ほぼ直線 で表 わされ, 近似

的に次 の関数で示 される。

(5)

ここに, ζ は H/L, h/L お よび tan α などに関係す

る実験定数である。 図- 8 は ζ と H/L の 関係 を示 し

た ものであ り, ζ は近似 的に式 (6) で表わ され る。

(6)

0≦= cot θ < 1 の

場合 は, γ の 値 が

式 (5) の関 係 よ り

や や は ず れ る の

で, sin θ と sin γ

との関 係 で 書 き換

え る と, 図- 9 の

よ うに 0≦ cot θ <

1 で は両 対 数紙 上

ほ ぼ直 線 で 示 され

る こ とが わ か り,

また, 実験 式は次 のよ うに示 され る。

( 7 )

こ こ に, n は H/L, h/L お よび tan α な どに よ って

変 化 す る実 験 定 数 (>0) で ある 。

式 (7) を cot γ と cot θ の関 係 に書 き換 え る と 近 似

的 に次 の よ うに示 され る。

( 8 )

い ま, cot θ = 1 にお い て, 式 (5) と式 (8) とを等 置

( a )

( b )

して n を求める と式 (9) の よ うになる。

(9 )

図- 10 は cot γ の計算値 (cot γ) ca1 と同一条件 の実

験値 (cot γ) exp とを比較 した もので ある。 これ よ り, 算

定 式 (5), (8) の適合性はかな りよい よ うである。

b) 波 の打ち上 げ高 さ

著者 は, すでに, 進行 波の砕波水深 よ り深い領域 の斜

面 堤 (不透 過な平滑面) における波の打 ち上げ高の算定

式 を次の ように提案 している24)~26)。

i)

(10)

あ る い は,

(11)

ここに,H/H0':浅 水係数 で,式(4)で 示 される。

また,δ:有 限振幅重複 波理 論 の 非線形効果 を表 わす項

[(ηmax-H)/H]で,既 往 の理論式 は次 の ように示 され

る8)。

SainHouの 式24):

(12)

第 2 次 近 似 式27)~30):

(13)

第 3 次 近 似 式(Tadjbakhsh & Kellerの 式)27):

(14)

ここに,勉 は 第3次 近似解 の 定数(≦1)で あ り,

文献8)に 示 されてい る。

第4次 近 似式(合 田の式)31):

(15)

こ こに,602,b22,b42,b04,624お よびb44は 第4次 近 似

解 の定 数 を表 わ す が,文 献8)に 示 され て い る 。

ii)

(16)

図 一 8 ζ と H/L の関係

図 一 9 sinγ と 8inθ の関 係

図 一 10 γ の算定式の適合性

Page 6: 波の打ち上げ空間波形と越波量の相関特性...決まり, その条件式は次の Miche の式によってほぼ判 別できる10)。( 1 ) ここに, (H0'/L0) crit :

30 高 田 :

( a ) cot θ = 1 ( b ) cot θ = 2

( c ) cot θ = 3 ( d ) cot θ = 4

あ る い は,

(17)

こ こ に, θc は 任意 の 相 当 深 水 波 形 勾 配 にお い て surg-

ing waves を生 じ る 最 緩 傾 斜 角 あ るい は breaking wa-

ves を生 じる最 急 傾 斜 角 で あ って, 式 (1) よ り, 次 の 式

(18) あ るい は (19) で求 め る 。

(18)

あ るい は,

(19)

なお, 式(19) の計算結果 は 図- 1 に示 され ている。

図- 11 は, R/H0' と h/L との関係 を計算値 と実験値

について示 し, 算定式の適合性 を比較 したものである。

これ らより, δIII を用 いた RIII/H0' お よび δIV を用 いた

RIV/H0' の適合性 が一般 に よいが, 砕波点付近で はやや

過小 な値 を示 している。 また, δII を用い た RII/H0' は

一般 にやや過大な値を与え, 砕波点付近での適合性がよ

いが, δs を用 いた Rs/H0' は 全体 にやや 過小 な値 を示

す。 以上 の結果 は, 重複波 の δ に関す る実験結果 (鉛

直壁 のR/H0') の 傾 向 とかな りよく合 ってい るとい え

る8)。 そ こで, この研 究では, 実用性 を考慮 して式 (13)

を用いた RII/H0' あるいは RII/H を採用す ることに し

た。

図- 2 は, RII の適合性 を調べるために Rexp/RII の

値 の分散程度 を示 している。 これ よ り, RII の計算値 は

Rexp の傾向 をかな り的確に説明 していると思われる。

c) 波の打ち上 げ空間波形 の容積

著者は波の打ち上げ空間波形 を 図- 6 に示す ような台

形波 形で近似 させ たが, 前述 のよ うに波の打ち上 げ高 R

図 - 11 R/H0' と h/L の関係

図 - 12 RII の算定式の適合性

Page 7: 波の打ち上げ空間波形と越波量の相関特性...決まり, その条件式は次の Miche の式によってほぼ判 別できる10)。( 1 ) ここに, (H0'/L0) crit :

打ち上げ空間波形と越波量の相関 31

お よび打ち上 げ室間波形 の先端角度 γ の算定式が得 られ

たので, 仮想天端上 の打 ち上げ空間波形の容積 Ycal は

次 の式 (20) で示 され る。

(20)

こ こに, B : 仮想越波部分の天端の延長, Hc : 静水 位

上 の仮想天端高, である。

図- 3 は写真測定 による実験値 Vexp と RII を用い

た計算値 VII お よび RIII を用 いた VIII とを比較 した も

のであるが, VII お よび VIII は Vexp をかな りよく説

明していること がわか る。

図- 4 は VII の適合性 を調べるために, Vexp/VII の

分散程度を示 した もので ある。 これ より, かな りのば ら

つ きがあるの で, 必ず しも精度が良い とはいえないが,

一 般 に cot θ > 2 で は 平 均 値 が ほ ぼ (Vexp/VII) = 1,

cot θ ≦ 2 では平均値 が 1 よりやや小 さ くなる傾向 にあ

る とい える。 以上 よ り, さらに詳細 に検討 を行 ない, よ

り一層 精度 を高め る必要が あるが, 現段階 において実用

性 を考慮 して式 (20) の R に RII を用 いた計 算値 VII

を採用する ことに した。

(2) 鉛直壁の場合

有限振幅重複波理論の水面波形 はこれ までに多 くの研

究者に より発表 されてい るが, 実用す る場合 にその適合

性 と適用範囲が問題 にされ る。 土屋 ・山口32)~34) はせ つ

動 解に よる有限振幅重複波理論 の適合性 とそ の適用 限界

を理論的 ・実験 的 に検討 してい るが, それ によれ ば, 1)

級 数解 で表示 した有限振幅重複波理論 には適用 限界 が存

在 する として,各 近似解 ごとの適用限界 を図示 している。

2) 有限振 幅重複 波理論の波頂高お よび波圧 は高次解 ほ ど

実験結果 を よく説 明するが, h/H の値 が 小 さい場合 には

実験値 が理 論曲線 よ りもかな り小 さ く, 実験値 と理論 曲

線 が離れ る限界 の h/H の値 は T√g/h の値が大 き くな

るほ ど一般 に大 きい こと, な どを結 論づ けてい る。 しか

し, 土屋 ・山 口 の 研 究は壁 面での 時間波形 を対 象 にし

て, 海底勾配 tan α = 1/400 の比較的緩勾配 で, h/H>

2.5 (あるいは 6 ≦ T√g/h ≦ 18) の条件で あるの で,

上記 の結果 を, tan α = 1/40~1/10 の 比較的急勾配の砕

波 点付近 [本研 究では h= (hb)p~(hb)c の 領域] に 適

用す ことはできない と考え られ る8)。 この ことは, せつ動

解 に よる有 限振 幅重複 波理論 の適用限界の基準 は相対的

な ものであるので, その適用 限界 を見出すた めには種 々

の条件(と くに, 海底勾配 お よび堤脚水深の影響) を詳細

に実験的 に検討 しなければな らない ことを示 してい る。

本研究 は 進行波の砕波水深 よ り深い領域 [h ≧ (hb)p]

の tan α = 1/10 の場合 を対象 としてい るので, 著者 は実

用的 な観点 か ら比較的急勾配 (tan α = 1/40~1/10) の海

底勾配 の砕波点付近 に も適用 できる重複波 の空間波形の

算定式 を選 び出す ために, 既往 の理論式 の中で第 2 次近

似式27)~30), Miche の式12), 第 3 次近似式 (Tadjbakhsh

& Keller の式)27) お よび第 4 次近 似式 (合田の式)31) に

つ いて適合性 を比較検討 した。

a) 壁面 に波 の峯が ある ときの空 間波形 と波頂高

静水面 を x 軸, 鉛直壁面上 向きを正 とし, 堤脚水深 h

における入射波 につ いて, 鉛直壁面 の水位変動 の 1/2 を

理論波形 の入射波高 H と定義すれば8), 上記 の諸理論

式 は次 のよ うに示 され る。

第 2 次近似式27)~30) :

(21)

(22)

図 - 13 Vexp お よ び Vcal と cot θ の 関係

図 - 14 VII の算 定式 の適合性

Page 8: 波の打ち上げ空間波形と越波量の相関特性...決まり, その条件式は次の Miche の式によってほぼ判 別できる10)。( 1 ) ここに, (H0'/L0) crit :

32 高 田:

(a) h/L0 = 0.18 (重複 水深領域)

(b) h/L0 = 0.13 (重複波型砕波水深領域)

(c) h/L0 = 0.12 (進行波砕波水深, h≒(hb)P]

Miche の 式12) :

(23)

第 3 次近 似 式 (Tadjbakhsh & Ke11er の式)27) :

(24)

(25)

こ こ に, εA, b11, b13, b31 お よび b33 は 第 3 次近 似 解 の

定 数 で あ り, 文 献8) に示 され てい る。

第 4 次 近 似 式 (合 田 の式)31) :

(26)

(27)

b) 実験値 と理論値 との比較

図- 15 は空間波形 の実験値 と上記 の諸理論式の計算

値 との 比較 を示 し, 図- 16 は波頂高の 比較 を示 してい

る。 これ らより, 重複波領域 では第 3 次近似式 あるいは

第 4 次近似式 の適合性が非常 によく, 第 2 次近似式 はや

や過大 な値 を与 える。 一方, 重複波型砕波領域 では第 2

次近似式 の適合性が波の峯付近でかな りよく, 第 3 次近

似式 あるいは第 4 次近似式 の値はやや過小に見積 ること

がわかる。 したが って, この研究では, 実用性 を考慮 し

て第 2 次近似式 (21), (22) を採用する ことに した。

4. 波 の 打 ち上 げ 空 間 波形 と越 波 量 の 相 関

( 1 ) 斜面堤 の場合

波 の打 ち上 げ高 が斜面堤 の天端 よ り高い場合 の越波に

( a ) H/L = 0.04 ( b ) H/L = 0.06 ( c ) H/L = 0.09

図- 15 理論 波形と実験 波形の比較 (H0'/L0=0.06)

図- 16 静 水 位 上 の 波 頂 高

Page 9: 波の打ち上げ空間波形と越波量の相関特性...決まり, その条件式は次の Miche の式によってほぼ判 別できる10)。( 1 ) ここに, (H0'/L0) crit :

打ち上げ空間波形と越波量の相関 33

ついて考える と, 図- 6 に示す ように, 非越波 時の打 ち

上 げ空間波形 の仮想天端上の容積 V と 1 周期 当た りの

越波量 Q とを式 (28) で関連 させる ことができる24)。

(28)

ここに, a は 1 周期 当 りの越波量係数 である。

いま, 波 の 打 ち上げ高の算定式 に RII を採用 して式

(20) を計算 し, それ を 式 (28) に 代入すれば 次 の 式

(29) で示 され る。

(29)

そ こで, 著者 は, 実験越 波量 Qexp と越 波量 係数 aII

との相関関係 を調べ, aII にお よぼす天端高, の り勾配,

( a ) H0'/L0 = 0.0346, h/L0 = 0.0756

( b ) H0'/L0 = 0.0641, h/L0 = 0.205 の波

波形勾配 お よび堤脚水深 の影響 を定量 的に明 らかに した

い。

a) 天端高 の影響

aII にお よぼす天端高 の影響 は, 重複波水深領域 {h ≧

(hb)c} では 図- 17 の よ うに示 され, 重複波型砕波水深

領域 {h = (hb)p~(hb)c} では図- 18 の よ うに示 され る。

これ らより, h ≧ (hb)c では, Hc/H が大 き くなる と aII

はやや減少の傾向が一般 的で あるが, その変化の程度 は

あま り大き くない (こ こでは, 実用性 を考慮 して この領

域 での天端 高の影響 を無視 して考 える)。

一 方, h = (hb)p~(hb)c で は, h/L0 が 小 さ くな る と

Hc/H の影響 が しだい に大 き くな り, aII は Hc/H の大

きいほ ど小 さいが, 近似的 に次の式 (30) で示 され る。

(30)

b ) の り勾配の影響

図- 19 は aII と cot θ の 関係 を示 した ものであ り,

これ らより, aII は cot θ が大 き くなると増大 し, 両対

数紙上 ほぼ直線 的に変化 する ことがわか る。 今回 の実験

の範 囲では, 近似 的に次の式 (31) の よ うに示 され る。

(31)

c ) 波 形 勾 配 の影 響

図- 20 は aII にお よ ぼす H0'/L0 の影 響 を cot θ = 0

~4 について 調 べ た 結果 であるが, これ らよ り aII は

H0'/L0 が 大 き くなる と両対数紙上直線的 に増加す る傾

向にあるこ とがわかる。 今 回の実 験の範囲で は, 近似的

に次の式 (32) で示 される。

(32)

d ) 堤 脚 水 深 の影 響

図- 21 は aII にお よ ぼす h/L0 の 影 響 を cot θ = 0.5

~4 に つ い て調 べ た結 果 で あ る 。 これ ら よ り, aII は h

≧ (hb)c に お い て h/L0 に 無関係にほ ぼ一定 の値 を与

えるが, h = (hb)p~(hb)c では, h/L0 が小 さ くなる と

両対数紙上直線 的に減少 してお り, 近似的 に次の式 (33)

( a ) cot θ = 1.5, H0'/L0 = 0.0346 ( b ) cot θ = 2, H0'/L0 = 0.0346 ( c ) cot θ = 3, H0'/L0 = 0.0346

図- 17 aII と Hc/H の関係

図- 18 aII と Hc/H の 関 係

Page 10: 波の打ち上げ空間波形と越波量の相関特性...決まり, その条件式は次の Miche の式によってほぼ判 別できる10)。( 1 ) ここに, (H0'/L0) crit :

34 高田 :

( a ) H0'/L0 = 0.0138 ( b ) H0'/L0 = 0.0346

( c ) H0'/L0 = 0.0641 ( d ) Hc/H = 0.68

( a ) cot θ = 1.5 ( b ) cot θ = 3 ( c ) cot θ = 4

の ように示 され る。

(33)

e ) aII の算 定 式

以 上 よ り, aII に お よぼ す Hc/H, cot θ, H0'/L0 お よ

び h/L0 の 影 響 が わ か っ た の で, 今 回 の実 験 値 を整 理 し

た結 果, aII の 算 定 式 は近 似 的 に次 の よ うに示 され る 。

た だ し, 適 用範 囲 は cot θ ≧ 0.25 とす る。

i) 重 複 波水 深領 域 {h ≧ (hb)c}

(34)

ii) 重 複 波 型砕 波 水 深 領 域 {h = (hb)p~(hb)c}

( 35 )

( 2 ) 鉛直壁 の場合

壁面 における波 頂高 が天端高 よ り高い場合の越 波を対

象 にすれば,図 - 22 に示す よ うに 非越波時の波の峯 が

図 - 19 αII と cotθ の 関 係

図 - 20 αII と H0'/L0 の 関 係

Page 11: 波の打ち上げ空間波形と越波量の相関特性...決まり, その条件式は次の Miche の式によってほぼ判 別できる10)。( 1 ) ここに, (H0'/L0) crit :

打ち上げ空間波形と越波量の相関35

( a ) cot θ = 0.5, H0'/L0 = 0.0346 ( b ) cot θ = 1, H0'/L0 = 0.0346 ( c ) cot θ = 1.5, H0'/L0 = 0.0346

( d ) cot θ = 2, H0'/L0 = 0.0346 ( e ) cot θ = 3, .H0,/L0 = 0.0346 ( f ) cot θ = 4, H0'/L0 = 0.0346

壁面にある ときの仮想天端上の 空間波形 の容積 V と 1

周期当た りの越 波量 Q は, 斜面堤 の場合 と同様 に, 式

(28) で関連づ けることがで きる。

いま, 有 限振幅重複波理論 の 第 2 次近似式 を 用 いれ

ば,式 (21) と式 (28) よ り次の式 (36) で示 される。

(36)

こ こ で, aII は 1 周 期 当 りの越 波 量係 数, そ して, xc

は 図- 22 に示 され るが, 式 (21) よ り ηII(xc) = Hc と

お い て次 の式 で 計 算 で き る 。

(37)

そこで, 著者 は aII にお よぼす鉛直壁 の天端高, 波形

勾配お よび堤脚水深の影響 を検 討 したい。

a) 天端高の影響

図- 23 は aII と (RII-Hc)/H の関係 を示す が, こ

れ らより aII は (RII-Hc)/H が大 きくなる と両対数紙

上ほぼ直線的 に増加す ることがわかる。 すなわち次の よ

うに表わ され る。

(38)

ここに, m1 は実験定数 である。 これ までの実験の範

囲 では, 平均値 が近似的 に m1 = 1/2 で ある。

b) 波形勾配 の影響

aII にお よぼす H0'/L0 の 影響 は 図- 24 に示 され る

( a ) h ≧ (hb)c, tan α = 0 お よ び 1/10

( b ) h ≧ (hb)c, tan α = 0

図- 21 aII と h/L0 の 関 係

図- 22 重複波の空間波形と越波量の相関

図- 23 aII と (RII-Hc)/H の 関係

Page 12: 波の打ち上げ空間波形と越波量の相関特性...決まり, その条件式は次の Miche の式によってほぼ判 別できる10)。( 1 ) ここに, (H0'/L0) crit :

36 高 田 :

が, これ らよ り, aII は H0'/L0 が大 き くなると増加す

る ことがわかる。 すなわ ち次の よ うに表わ され る。

(39)

こ こに, m2 は実験定数 であるが, 今回 の実験の範囲

では, 平均値 は近 似的に m2 = 1 である。

( a ) Hc/H = 1.0~1.1, h ≧ (hb)c

( b ) Hc/H = 1.0~1.1, h = (hb)p~(hb)c

( a ) H0'/L0 = 0.03 ( b ) H0'/L0 = 0.04

( c ) H0'/L0 = 0.05 ( d ) H0'/L0 = 0.07

c) 堤 脚 水 深 の影 響

aII に お よぼす h/L0 の 影 響 は 図- 25 に 示 され るが,

これ ら よ り, aII は h ≧ (hb)c で は h/L0 に 無 関係 に ほ

ぼ 一 定 の 値 を与 える が, h = (hb)P~(hb)c で は h/L0 が

小 さ くな る と aII は 減 少 す る こ とが わか る。 す な わ ち,

次 の よ うに示 され る 。

(40)

ここに, m3 は実験定数 である。 今回の実験の範 囲では,

平均値 は近似 的に m3 = 2/3 である。

d) aII の算定式

以上 よ り, aII にお よぼす (RII-Hc)/H, H0'/L0 お

よび h/L0 の影響 が関数 で表わす ことができたので, 今

回の実験値 を aII について整 理 した結果, aII の算定式

は近 似的に次 の ように示 され る。

i) h ≧ (hb)c :

(41)

ii) (hb)p~(hb)c, tan α = 1/10:

(42)

5. 越 波 量 算 定 式 の 適 合性

斜面堤 の越波量係数 aII は式 (34), (35) で, 鉛直壁

の aII は式 (41), (42) で表わ され るので, 越波量算定

式 は斜面堤 では式 (29), 鉛直壁 では式 (36) のよ うに提

案 され る。 そこで, それ ら算定式 の 精度 を実験越波量

Qexp と比較 して検討する。

Qexp は 同一条件 の実験 を 3~5 回繰 り返 し行 ない,

そ の平均値 を採用 したので, 実験上の

ば らつ きと算定式の計算値 のばらつ き

を分離 して検討すべきであるが, ここ

で は, 平均の実験値 が算定式 の計算値

の まわ りにどの程度ば らつきが あるか

を調べ ることに よって算定式 の実験値

に対す る適合性 を検 討す る。

a) 斜面堤の場合

(1) h ≧ (hb)c の 領域 : 式 (29) に

式 (34) を代 入 して Qcal を求め, そ

の ときの Qexp が Qcal の まわ りに ど

の 程度 ば らつ くか を Qexp/Qcal とし

て 表 わ した 結果 が 図- 26 の ように

示 される。 これ らより, 今回 の 実験

の範囲 にお いては Qexp/Qcal の 平均

値 は 近 似的 に 1.00 とな り, 平均値

Qexp/Qcal = 1.00 を代 表 値 に と る と き

の そ れ ぞ れ の Qexp/Qcal の 資料 の 分

図- 24 aII と H0'/L0 の 関 係

図- 25 aII と h/L0 の 関 係

Page 13: 波の打ち上げ空間波形と越波量の相関特性...決まり, その条件式は次の Miche の式によってほぼ判 別できる10)。( 1 ) ここに, (H0'/L0) crit :

打ち上げ空間波形と越波量の相関 37

( a ) Qexp/Qcal と H0'/L0 の 関 係 ( b ) Qexp/Qcal と Hc/H の 関 係 ( c) Qexp/Qcal と cot θ の関 係

散程度 を標準偏差 σ で示せば次の式 で示 され る。

(43)

これ は, 算定式の計算値に対応す る実験値 のば らつ き

を表 わす量 であるので実験値 が正 しい値 と仮定すれ ば,

算定式 の精度 を式 (43) で推定 できる。

(2) h = (hp)p~(hb)c の領域 : 式 (29) に式 (35) を

代入 して Qcal を 求 め, そ れ に 対 応 す る Qexp を

Qexp/Qcal で表 わした結果が, 図- 27 のよ うに示 さ れ

る。 これ らより Qexp/Qcal の平均値 は 近似 的 に 1.00

とな り, 平 均値 Qexp/Qcal = 1.00 を 代 表 値 に と る と き

の今 回 の 実験 範 囲 にお け る Qexp/Qcal の 資 料 の 標 準 偏

差 σ は 次 の式 (44) の よ うに示 され る 。

(44)

以上 より, 斜面堤 の越波量算定式の精度は必 ず しも高

い とはいえないが, 実用的には一応 満足すべき結果 と考

え られる。 しか し, さらに精 度 を高 めるために cot γ お

よび aII に関す る広範囲の実験的考察が今後 の研究課題

となるであろ う。

b) 鉛直壁の場合

(1) h ≧ (hb)c の領域 : 式 (36) に 式 (41) を代入 し

て Qcal を求 め, 斜面堤の場合 と同様に, Qexp/Qcal の

値 は 図- 28 に示 される。 これ より, 今回 の実験 の範囲

では, Qexp/Qcal の平 均値 は近似的 に 1.00 であ り, 平

均 値 Qexp/Qcal = 1.00 を 代 表 値 に とる とき のそ れ ぞ れ

の Qexp/Qcal の資 料 の標 準偏 差 σ は次 の式 (45) の よ

うに示 され る。

(45)

(2) h = (hb)p~(hb)c の領 域 : 式 (36) に式 (42) を

代 入 し て Qcal を 求 め, そ れ に 対 応 す るQexp を

(a) Qexp/Qcal と cot θ の関 係

(b) Qexp/Qcal と Hc/H の関 係

Qexp/Qcal で 表 わ した 結 果 が 図- 29 の よ うに示 され る 。

これ よ り Qexp/Qcal の平 均 値 は近 似 的 に 1.00 とな り, 平

均 値 Qexp/Qcal = 1.00 を代表 値 に とる と きの Qexp/Qcal

の 資 料 の 標 準 偏 差 σ は 次 の 式 (46) の よ う に 示 され

る 。

(46)

図- 26 重複波水深領域の越波量算定式の適合性

図- 27 重複波型砕波水深領域の越波量算定式の適合性

Page 14: 波の打ち上げ空間波形と越波量の相関特性...決まり, その条件式は次の Miche の式によってほぼ判 別できる10)。( 1 ) ここに, (H0'/L0) crit :

38 高田 :

以上 の結果, 鉛直壁 の越 波量 算定式の精度は必ず しも

高い とはい えないが, 実 用的 には一応 満足 され よ う。 しか

し, 算定式 の精度 をより一 層高め るた めに, aII に関す る

広範囲の実験的考察 が今後 の課題 として残 されてい る。

6. 結 論

進行波 の砕 波水深 よ り深い領域の不透過 な平滑斜面堤

お よび鉛 直壁 を対 象に して, 非越波時 の打 ち上 げ空 間波

形 と越 波量 を関連 させて, 無風時 にお ける越波量算定式

を提案す るこ とができた。 算定式の精度は実用的 には一

応満足す べき結果 であるが, より一 層精度 を高 めること

が今後 の課題 である。"

お もな成果 を要約す れば次の とお りであ る。

(1) 斜面堤 の場合

1) h ≧ (hb)p の波 の打 ち上 げ高 R の算定式 は, H0'/L0

≦ (2θ/π)1/2(sin2θ/π) では, 式 (10) あるいは式 (11),

H0'/L0 > (2θ/π)1/2 (sin2θ/π) で は 式 (16) あ る い は 式

(17) で示 され る。 これ ら算定式 の中の δ は, h ≧ (hb)c

では第 3 次近 似式 (14) お よび第 4 次近似式 (15) の適

合性 が よいが, h = (hb)p~(hb)c で は, 第 2 次近似式

(13) の適合性 が よい。

2) 非越波時の打ち上げ空間波形 の先端付近の形状 は

ほぼ直線 をな し, 図- 6 に示す打 ち上 げ空間波形 の先端

角 γ は cot θ ≧ 1 では式 (5) で, cot θ = 0~1 で は 式

(8) の よ うに示 される。 また, 仮想天端上の打ち上 げ空

間波形の容積 V は式 (20) の ように示 され る。

3) 1 周 期当 りの越波量 Q は式 (29) の ように示 され,

1 周期 当 りの越 波量係 数 aII は h ≧ (hb)c では式 (34)

で, h = (hb)p~(hb)c では式 (35) の ように示 され る。

4) 越波量算定式 の精度 を計算値のまわ りの実験値の

ば らつ き程度 で表わせば, 今回 の実験 の範囲では h ≧

(hb)c において式 (43) で, h = (hb)p~(hb)c において

式 (44) のよ うに示 され る。 しか し, さ らに一層精度を

高 めることが今後の課題 とな ろう。

(2) 鉛直壁の場合

1) 重複波の空間波形 η (x) は h ≧ (hb)c では諸理論

式の中で, 第 3 次近 似式 (24) および第 4 次近似式 (26)

の適合性 が よく, h = (hb)p~(hb)c では波頂付近 におい

て第 2 次近 似式 (21) の適合性 が一般 によい。

2) Q の算定式は式 (36) の ように示 され, aII は h

≧ (hb)c では式 (41) で, h = (hb)p~(hb)c では式 (42)

の ように示 され る。

3) Q の 算定式 の 精度 を計算値の まわ りの実験値の

ば らつき程度 で表 わせ ば, 今回の実験の範囲では, h ≧

(hb)c に おいて 式 (45) で, h = (hb)p~(hb)c で は 式

(46) のよ うに示 され る。 しか し, よ り一 層精度 を高め

るこ とが今後 の課題 となろ う。

付記 : この研究 を進 めるにあた り, 中部 工業大学の結

城朝恭学監 ・教授お よび名古屋大学の成 岡昌夫教授, 足

立昭平教授 よ り励 ましのお言葉 を賜 った。 また, 文部省

科学研究費の特別研究 (代表者 名古屋大学理学部の飯

田汲事名誉教授) の御援助 を受けた。 ここに記 して深 く

謝 意 を表 します。

参 考 文 献

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and overtopping of waves, 13th International Con-

ference on Coastal Engineering, 1972 Conference

Abstracts, July, 1972, pp. 157•`160 (Final Print, in

Printing) .

2) 高 田 彰 : 越波量 の近似計算法, 土木学会第 27 回年次学

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3) Shi-igai, H. and T. Kono : Analytical approach on

wave overtopping on levees, Proc. 12th Coastal Engineering Conference, Vol. 1, Sept., 1970, pp. 563 ~573.

4 ) 富永正照 ・佐久間 嚢:海 岸堤防 の 越波量について,第

17回 海岸工学講i演会論 文集,Nov.,1970,PP.133~140.

5 ) 土木学会論文報告集討議,討 議者 椎貝博美,回 答者 高

田 彰:波 の遡上,越 波 および 反射の関連性 について,

への 討議,土 木学会論文報告集, No. 194 ( 1971 - 10),

pp. 173 ~ 176.

6 ) 近藤淑郎 : 異型 ブロック消波工に関する 二,三 の考察,

第 18 回海岸工学講演 会論文集, Oct.,1971,pp. 197~

図 - 28 越 波量算 定式 の適合性{h≧(kb),}

図 - 29 越波量算定式の適合性{h〓(hb)p~(hb)c}

Page 15: 波の打ち上げ空間波形と越波量の相関特性...決まり, その条件式は次の Miche の式によってほぼ判 別できる10)。( 1 ) ここに, (H0'/L0) crit :

打ち上げ空間波形と越波量の相関 39

202.

7) 高 田 彰 : 波の遡上, 越波 お よび 反射の関連性 について

(第 3 報) - 水面波形 と越波量の相 関 特 性―, Oct.,

1971, pp. 248~258.

8) 高 田 彰 : 有限振 幅重複波の 時間波 形 と越波 量の相 関特

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1966, pp. 977•`989.

23) Brandtzaeg, A., A. TOrum and O.R. Ostby :

Velocities in downrush on rubble mound break-

waters, Proc. 11th Conf. on Coastal Engg., Vol. II ,

Sept., 1968, pp. 815•`832.

24) 高 田 彰 : 波 の遡 上, 越波お よび反射 の関連性について,

土木 学会論 文報告集, No. 182 (1970-10), PP. 19~30.

25) 高 田 彰 : 波 の打ち上 げ 高 の算定 式における 非線形特 性

の考 察, 土木学会 中部支 部研究 発表会講演 概要集, Feb.,

1971, pp. 127~130.

26) 高 田 彰 : 砕波以深 領域 におけ る波 の 打ち上 げ高, 土木

学会 中部支 部研究 発表会講演 概要集, Nov., 1971, PP.

75~78.

27) Tadjbakhsh, I. and J.B. Keller : Standing surface

waves of finite amplitude, J. Fluid Mech., Vol. 8,

1960, pp. 442•`451.

28) Verma, G.R. and J.B. Keller : Three dimensional

standing surface waves of finite amplitude, Phys.

Fluid, 5, 1962, pp. 52-56.

29) 浜 田徳一 : 表面波 の 2 次干渉, 第 11 回海岸工学講演会講

演集, Nov., 1964, pp. 1~6.

30) Hamada, T. : The secondary interaction of surface

waves, Report of Port & Harbour Res. Inst., No.

10, 1965, pp. 10•`28.

31) 合 田良実 ・柿崎秀作 : 有限振幅重 複波 ならび に その 波圧

に 関す る研究, 港 湾技術研究所報告, Vol. 5, No. 10,

June, 1966, pp. 1~57.

32) 土屋義人 ・山 口正隆 : 有限振幅重複波 に 関する基 礎的研

究 (1) - せつ動解 の 境 界条件 の適合性 について -,

京都大学防災研究所年報, No. 12B, March, 1969, pp.

585~605.

33) 土屋義人 ・山 口正隆 : 有限振幅重複波 に 関する 基礎的研

究 (2) - せつ動解 の 適合 性に関す る実験 -, 京都大

学防災研究所年報, No. 12B, March, 1969, pp. 607~

631.

34) 土屋義人 ・山 口正隆 : せつ 動解 に よる 有限振幅重複 波理

論の適用限界 につい て, 第 16 回海岸工学講演 会講演 集,

Dec., 1969, pp. 7~13.

1972. 8. 22 ・ 受 付

1972. 12. 1 ・ 再 受 付