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特許権と商標権の証券化対象資産としての適合性 はじめに―証券化の沿⾰ 無形資産,知的資産,知的資本等の属性と証券化資産の適合性 1.1 証券化対象資産としての知的資産等の適合性の判断基準 1.2 無形資産,知的資産,知的資本等の概念と属性 知的財産権,知的資産,知的資本等の属性と証券化対象資産と しての適合性判断基準との関係 2.1 「分離可能性・移転性」との関係 2.2 公式性・形式性 2.3 評価可能性 FASB 概念ステートメント6号および5号と証券化対象資産 としての特許権等との関係 3.1 FASB 概念ステートメント6号の資産定義 3.2 FASB 概念ステートメント5号の資産の認識要件 証券化対象資産としての特許権等の法的適合性 4.1 特許権関係の証券化の適合性 4.2 商標権関係の証券化の適合性 まとめ はじめに―証券化の沿⾰ 証券化は,1970 年代,アメリカで開発され発 展した新しい⾦融技術であり (1) 1980 年代後半, その波が⽇本にも及び,今⽇では,グローバル 的な⾦融システムとなりつつある。 この証券化は,広義には間接⾦融から直接⾦ 融への変更を意味するが,本稿では,企業が保 有する特定の資産を他の資産と区別し,その資 産⾃体の価値を裏付けに証券を発⾏して資⾦を 調達する資産⾦融(asset finance)という意味 で使⽤する(狭義の証券化) (2) 証券化の主たる⽬的は,資⾦の早期回収によ る流動性と資⾦効率の向上化,資⾦調達の多様 化,資産の保有に伴うリスクの転嫁,オフ・バ ランス効果による財務体質の強化・健全化等で あるといわれている。 アメリカのプロパテン政策(pro-patent policy)に遅れること 20 余年後 (3) ,我国におけ る「知的財産戦略⼤綱」等の⼀連の報告・提⾔ の⽬的は,知的財産⽴国を⽬指して知的財産の 創造(creation),保護(protection),活⽤(use) を積極的に図ることにあり (4) ,その知的財産の 利⽤・活⽤⽅法は,従来,特許発明を利⽤して ⾼品質の商品(製品)を製作し,また,登録商 標を使⽤して「消費者(商品)市場」において 製品を⼤量かつ⾼額で継続的な販売を可能にす ることにより事業利益の確保を⽬指すもので あった。 近年,注⽬されている証券化は,知的財産権 がもたらす「商品市場」での競争優位性を裏付 けとして発⾏される証券を「⾦融市場」で投資 173 名城論叢 2006 年 11 ⽉

特許権と商標権の証券化対象資産としての適合性 - 名城大学 · 2007-06-28 · 特許権と商標権の証券化対象資産としての適合性 岡本庄平

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特許権と商標権の証券化対象資産としての適合性

岡 本 庄 平

はじめに―証券化の沿⾰

1 無形資産,知的資産,知的資本等の属性と証券化資産の適合性

1.1 証券化対象資産としての知的資産等の適合性の判断基準

1.2 無形資産,知的資産,知的資本等の概念と属性

2 知的財産権,知的資産,知的資本等の属性と証券化対象資産と

しての適合性判断基準との関係

2.1 「分離可能性・移転性」との関係

2.2 公式性・形式性

2.3 評価可能性

3 FASB 概念ステートメント6号および5号と証券化対象資産

としての特許権等との関係

3.1 FASB 概念ステートメント6号の資産定義

3.2 FASB 概念ステートメント5号の資産の認識要件

4 証券化対象資産としての特許権等の法的適合性

4.1 特許権関係の証券化の適合性

4.2 商標権関係の証券化の適合性

まとめ

はじめに―証券化の沿⾰

証券化は,1970 年代,アメリカで開発され発

展した新しい⾦融技術であり(1),1980 年代後半,

その波が⽇本にも及び,今⽇では,グローバル

的な⾦融システムとなりつつある。

この証券化は,広義には間接⾦融から直接⾦

融への変更を意味するが,本稿では,企業が保

有する特定の資産を他の資産と区別し,その資

産⾃体の価値を裏付けに証券を発⾏して資⾦を

調達する資産⾦融(asset finance)という意味

で使⽤する(狭義の証券化)(2)。

証券化の主たる⽬的は,資⾦の早期回収によ

る流動性と資⾦効率の向上化,資⾦調達の多様

化,資産の保有に伴うリスクの転嫁,オフ・バ

ランス効果による財務体質の強化・健全化等で

あるといわれている。

アメリカのプロパテン政策(pro-patent

policy)に遅れること 20 余年後(3),我国におけ

る「知的財産戦略⼤綱」等の⼀連の報告・提⾔

の⽬的は,知的財産⽴国を⽬指して知的財産の

創造(creation),保護(protection),活⽤(use)

を積極的に図ることにあり(4),その知的財産の

利⽤・活⽤⽅法は,従来,特許発明を利⽤して

⾼品質の商品(製品)を製作し,また,登録商

標を使⽤して「消費者(商品)市場」において

製品を⼤量かつ⾼額で継続的な販売を可能にす

ることにより事業利益の確保を⽬指すもので

あった。

近年,注⽬されている証券化は,知的財産権

がもたらす「商品市場」での競争優位性を裏付

けとして発⾏される証券を「⾦融市場」で投資

173名城論叢 2006年 11⽉

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家に広く販売し,「開発・公告宣伝」費の回収と

次の開発費等の資⾦調達の⼿段となり得る。

⼟地等の担保資産を持たず,また,企業価値

も低いベンチャー企業,技術開発にのみ特化し

た特殊で⾼度の専⾨的技術を持つ中⼩企業等に

とっては,その保有する唯⼀とも⾔える知的財

産権を裏付けとした証券化は,最終的にして有

⼒な資⾦調達⽅法である。政府も知的財産の活

⽤の⼀環として知的財産の信託化・担保化を促

進している(5)。

ところで,証券化対象資産の範囲・内容等の

解明は,証券化上重要な検討課題である。国内

法上,資産流動化法は証券化対象資産としての

特定資産を⼀般的・抽象的に規定しているが,

その範囲・内容等を個別的・具体的には定めて

おらず,その解釈が必要となる。証券化制度の

本質を考えると,この対象資産が,経済的・実

質的価値を有し,投資家に元利⾦を⽀払うのに

必要なキャッシュ・フローを⽣む資産であれば,

その種類・内容を特に明⺬的に問う必要はない

と思われる。

証券化の沿⾰をアメリカにみてみよう。当

初,証券化は住宅ローン債権を対象としていた

が,その後,リース債権,クレジットカード債

権,企業の売掛債権,消費者ローン,医療費請

求権,更に不動産等,多種多様な資産にその対

象を拡⼤してきた。この経緯からも理解できる

ように,証券化対象資産の拡⼤は,キャッシュ・

フローを⽣む資産であれば,基本的には「如何

なる資産をも証券化し得る可能性を有する」こ

とを⺬唆している。

特許権と商標権は,知的財産権の⼀つで,代

表的な財産権である。「如何なる資産をも証券

化し得る」とはいえ,特許権等(以下,特許権

と商標権の双⽅の権利の略称として使⽤する)

は,譲渡,質権・譲渡担保の設定,実施・使⽤

契約等,証券化以外の⼿法で経営資⾦を獲得す

る換⾦性を有する。従って,特許権等が,証券

化対象資産となり得ることには異論はないであ

ろう。

我国が「プロダクト型経済」から脱却し,「ナ

レッジ型経済」への移⾏期にある昨今,証券化

に関する⽂献・資料において,「将来,知的財産

の証券化が注⽬される」旨の⽂⾔が,度々,散

⾒される(6)。しかし,特許権等には,不動産,⾦

融資産と対⽐した場合,明らかにそれらとは異

質な点がある。すなわち,それは客体の無体

性・⾮占有性,権利侵害の容易性とその⽴証・

救済の困難性,権利の存続期間の限定性,権利

の不安定・不明確性,更に,取引市場と確定的

な価値評価基準の⽋如といった特徴である。

特許権等の証券化は,「特許権等の証券化が,

注⽬される」との⽂献上の指摘の域にとどまり,

また,実務上の実践例は皆無に等しい上(7),更

に,その証券化の核⼼となる資産としての特許

権等の適合性・可能性に関する理論的解明は,

ほとんどなされていないのが現況である。

そこで,本稿は特許権等の特性・属性並びに

会計的・法的側⾯の双⽅の観点から,特許権等

以外の他の⾦融資産等と⽐較しつつ,特許権等

の証券化の難易やその対象資産としての適合性

の検討を試みるものである。

1.無形資産,知的資産,知的資本等の属

性と証券化資産の適合性

1.1 証券化対象資産としての知的資産等の適

合性の判断基準

特許権等が証券化対象資産となり得るか否か

の適合性を判断する場合,何をもって適合性の

基準とするかが問題となる。現在,実務上また

理論上その判断基準として信頼できる確定的な

ものは存在しない。そこで筆者は,証券化の定

義と⽬的等を総合的に勘案して,その判断基準

を決定することにする。

証券化は,企業が経営資⾦を調達することを

第7巻 第3号174

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⽬的とする⾦融技術であり,そのスキームは,

次のように4つに分説できる。すなわち,

第1に,企業がその保有する特定の資産を他

の資産と区別し,それを SPV(special purpose

vehicle:特別⽬的媒体)に譲渡することである。

そのためには,資産に譲渡性がなければなら

ない。すなわち,譲渡禁⽌の資産は,証券化で

きない。

譲渡性が容認されるためには,資産の範囲お

よび内容等が分離,確認,確定できることが前

提条件となる。無体物を客体とする特許権等の

証券化においては,特許権等の異質性から,分

離,確認,確定に加えて権利の安定性,特定性,

存続性等が特に問題となる。

当事者は,契約の⾃由の原則から譲渡を有償

にするか無償にするかは⾃由であるが,証券化

における譲渡は有償に限られる(売買)。けだ

し,原資産保有者(オリジネーター:originator)

は,無償譲渡では経営資⾦を獲得できないから

である(資産の有償譲渡性)。

第2に,SPVは有償で譲り受けた資産⾃体の

経済的価値を裏付けに証券を発⾏することであ

る。その譲り受けた資産の価値内容は,主観的

なものではなく,換⾦性のある客観的な経済的

価値でなければならない。

当該資産の経済的価値を売買等により換⾦化

することが,原資産保有者である企業の資⾦調

達に結びつき,また,当該価値が SPVの発⾏す

る証券の担保・裏付けとなる。換⾔すれば,譲

渡性があっても売買等が禁⽌されている資産

は,証券化できないことになる(資産の経済的

価値の保有性とその換⾦性)。

第3に,SPVが発⾏した証券を投資家に販売

し,投資家は SPVに証券の購⼊代⾦を⽀払う

と同時に SPVから⼀定の元利⾦を受領するこ

と等を内容とするものである。

譲り受けた資産が投資家に対する元利⾦の⽀

払に必要なキャッシュ・フローを創出する⼒が

あることが必要である。

住宅ローン債権等の証券化の場合は,既に,

キャッシュ・フローを創出する⼒が存在するが,

特許権等⾃体の証券化では,かかる⼒を創出す

るスキームを構築することが別に問題となる。

キャッシュ・フローを創出するスキームを構築

できなければ,構造上その資産の証券化は不可

能である(キャッシュ・フローの創出性)。

第4に,SPVが資産を譲り受けるにしても,

また証券を発⾏するに際しても,資産の価値評

価が問題となる。

現在,特許権等の知的資産には,取引市場が

なく特許権等の価値評価モデルの構築が,会計

制度および証券化の双⽅における解決すべき最

⼤の問題点である。

現⾏の「プロダクト型経済」での会計モデル

は,「有形財―過去指向的フロー計算―取得原

価基準―財務的・定量的情報指向」である。⼀

⽅,「ナレッジ型経済」下での会計モデルは,「無

形財―将来指向的ストック計算―公正価値(現

在価値)基準―⾮財務的・定性的情報指向」で

ある(8)。両モデルは,会計認識対象―会計の処

理・計算ルール(システム)―開⺬の範囲等に

おいて対照的である。

有形財を前提とする「プロダクト型経済」で

の会計モデルを無体物の特許権等の資産の認

識・測定に適⽤すること⾃体,⽅法論的に無理

であり妥当な認識,測定は不可能である。しか

し,本稿における価値評価の⽬的は,⾦融取引

としての証券化であることから,財務会計にお

ける資産の価値評価に拘泥する必要はないが,

特許権等の証券化にあっても,その価値評価の

可能性は存在しなければならない(資産の価値

評価可能性)。

以上,資産の「有償譲渡性」,「経済価値の保

有性と換⾦性」,「キャッシュ・フローの創出性」,

「価値評価可能性」等を証券化対象資産の適合

性の判断基準として議論を展開する。

特許権と商標権の証券化対象資産としての適合性(岡本) 175

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1.2 無形資産,知的資産,知的資本等の概念と

属性

まず,特許権等の概念および属性⾃体を明確

にするために,特許権等と係わりのある類似あ

るいは周辺の資産概念を整理する必要がある。

特に法学,会計学,経営学等において無形資

産,知的資産,無形財,知的財産権,知的資本

等の⽤語が使⽤されているが,各学問分野に共

通した統⼀的な定義や概念規定は確⽴されてい

ない(9)。

1.2.1 無形資産,知的資産,無形財

「無形資産とは,物質的実体のない識別可能

な⾮貨幣性資産(nonmonetary assets)で商品

またはサービスの⽣産または供給に使⽤するた

め,⾃⼰以外に賃貸するため,あるいは管理⽬

的のために所有するものである」とされてい

る(10)。この定義規定は,無形資産の⾮貨幣性と

いう形態的特徴の説明とはなるが,その中⾝に

ついて実質的内容を⺬すものではない。

これに対して,アメリカ財務会計基準審議会

(FASB:Financial Accounting Standards

Board)が,公表したステートメント第 141 号

「企業結合」(business combination)の規定は,

無形資産の種類を知的資産,顧客資産(顧客リ

スト等),ブランド等を例⺬的に列挙してい

る(11)。

知的資産と無形財(インタンジブルズ:in-

tangibles)とは,⼀般的に明確に区別されてい

ない。Baruch Lev(2001)によれば,「無形財

(intangibles)は会計上の⽂献で,知的資産

(knowledge assets)はエコノミストにより,

また知的資本(intellectual capital)は経営や法

律の⽂献で,それぞれ使⽤されているが,それ

らは実質的に同⼀のもの,すなわち,将来のベ

ネフィットに対する形のない請求権(nonph-

ysical claim)を指すものである。特許権,商標

権,または著作権のケースのように,このよう

な請求権が法的に保証(保護)されている場合,

その資産は,⼀般に知的財産とよばれる。」とし

ている(12)。

無形資産は有形か無形かという資産の形態

を,また知的資産はナレッジの性質および属性

をそれぞれ分類基準とするもので,両資産はそ

れぞれ次元を異にする。

本来的に,ナレッジを属性とする知的資産は,

無形的,すなわち無形資産そのものである。こ

れに対して,無形資産は,ナレッジを属性とし

ないリース契約,顧客リストやそのルート等も

含まれることから,知的資産より広い概念であ

る。

ナレッジ性を有する特許権等は,無形資産,

知的資産であると同時に法的に保護されている

ことから,知的財産(知的財産権)である。

1.2.2 知的財産権,知的資産,知的資本

知的資産に類似した資産概念として知的財産

権と知的資本がある。これらの概念を Con -

tractor(2001)は,次のように分類し,それぞ

れの属性を述べている(13)。

ⅰ)知的財産権(intellectual property right)

は,特許権や商標権のように法的に登録された

知的資産である……情報 /データ。

ⅱ)知的資産(intellectual assets)は,上記の知

的財産権のほか,成⽂化(⽂書化)されている

が,未登録の企業知識(製図,ソフトウェア,

データベース,公式,マニュアル,⻘写真,取

引上の機密事項等)をいい,知的財産権を包括

する概念である……知識。

ⅲ)知的資本(intellectual capital)は,成⽂化

されていない⼈的・組織的資本(集合的企業知

識,従業員の技術・知識・技能,ノウハウ,組

織⽂化,顧客満⾜等)を意味する……知恵 /戦

略。

この知的資本は,「⼈的・組織的資本(hu-

man and organizational capital)」からなるもの

第7巻 第3号176

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として,知的財産権や知的資産をも包含するか

否かは定かではない。

Contractor(2001)は,第1に,ⅰ)∼ⅲ)の

属性として,ⅰ)ⅱ)ⅲ)へ移⾏するとともに,

⼈的・組織的資本への組み込みは増⼤するが,

⼀⽅,分離可能性(separability),公式性・形式

性(formalizaition),移転または伝授可能性

(teachability),および評価可能性(valuation)

は,反対に,逓減する性格をもつとしている(14)。

第2に,ⅰ)からⅲ)への移⾏は,情報ない

しデータから知識へ,知識から知恵ないし戦略

へと⼈的・組織的資本への組み込みの段階的移

⾏として把握できると述べている。この結果,

ⅰ)の知的財産権には,⾼レベルの成⽂化(⽂

書化),分離・評価等の可能性はあるが,ⅱ)の

知的資産,ⅲ)の知的資本では,次第に,成⽂

化(⽂書化),分離・評価等が困難化すると,そ

れぞれ資産としての属性が微妙に異なることを

指摘している。

以上のことから,知的財産権,知的資産,知

的資本は,それぞれ属性が異なる。そして知的

資産は知的財産権を含むより広い概念である

が,知的資産と知的資本との関係は,必ずしも

明確ではない(15),(16)

知的資産等の研究に多⼤な貢献をした

Baruch Lev(2001)は,知的資産と知的資本を,

実質上同⼀なものとし,これらの⽤語が使⽤さ

れる「場」の違いであると指摘している。他⽅,

Contractor(2001)は,資産の属性の違いを基

準にその分類を主張している。両者の分類上の

基準の相違は,知的資産の本質を多⾯的に考察

するのに資するといえる。

2.知的財産権,知的資産,知的資本等の

属性と証券化対象資産としての適合

性判断基準との関係

Contractor(2001)が指摘する「分離可能性・

移転性」等の属性と特許権等の証券化対象資産

として適合性判断基準との相互関係を考察し,

その判断基準の妥当性を検討する。

2.1 「分離可能性(separability)・移転性」との

関係

会計学上の資産の認識,測定に関係する「分

離可能性」の概念に関し,イギリス会社法(1985

年)は(17),「事業体の事業を処分せずに資産また

は負債を分離し,処分または解除することがで

きること」としている(18)。

この「分離可能性」は,何から分離すること

が可能なのか,その内容が不明瞭である。すな

わち,①財産・権利等資産が,その帰属・権利

主体(企業・⾃然⼈等)からの分離可能性なの

か,②他の資産からの分離可能性なのか,ある

いは③帰属主体および他の資産双⽅からの分離

の可能性であるとするのか定かではない。

分離可能性には,2つの側⾯があるとされて

いる。1つは,測定の分離可能性(measure-

ment separability)であり,それは,資産の測

定とその信頼性が会計⽅針の選択の中⼼となる

ように,資産の把握・認識過程を資産の測定に

包摂するものをいう。もう1つは,物的およ

び・または法的な分離可能性(physical and/or

legal separability)であり,それは,法的権利そ

の他分離可能な性質そのものに基づき,⾃動的

に「他の資産からの識別可能性」をいうとして

いる(19)。

しかし,筆者としては,特許権等の属性を論

ずるのであるから,分離可能性は,③の帰属主

体および他の資産双⽅を含めて解釈すべきであ

ると思われる。

特許権と商標権の証券化対象資産としての適合性(岡本) 177

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第1に,⼀般に,法律上の「処分」は,「管理

⾏為」に対する概念で,これには事実的処分⾏

為と法律的処分⾏為とがある。イギリス会社法

(1985年)は,法律であり,その法律上の「処

分」は,「分離可能性」を他の資産からの識別性

と帰属主体そのものからの分離をも含むと解釈

しなければ,イギリス会社法の「分離可能性」

に整合しなくなる。

第2に,無形資産の認識と「分離可能性」に

ついて,SFAS No. 141 は,「企業結合で取得し

た無形資産は,契約その他の法的権利があるか,

または被取得企業が保有する他の資産から分離

可能な場合には,SFAC 5号の認識基準を満た

し,取得時に認識可能な無形資産となる。ここ

に分離可能とは,被取得企業が保有する他の資

産から分離することが可能であるとともに売

却,譲渡,ライセンス化,賃貸または交換が可

能なことを意味する(20)。」と規定している

(21)。

規定が例⺬している売却・交換等の法律⾏為か

ら,分離可能性は権利主体からの分離とその変

更を意味すると解釈できる。これら2つを論拠

として,「分離可能性」は,他の資産および帰属

主体,双⽅からの分離可能,すなわち移転性を

包括していると理解すべきである。このように

会計学上の資産の認識,測定に関係する分離可

能性の概念を分析することは,証券化対象資産

の譲渡性の議論に関連し意義がある。

2.1.1 特許権と分離可能性・移転性との関係

まず,特許権における分離可能性の有無につ

いて考察する。

特許権とは発明を所定の様式の出願書類に具

体的・客観的に⽂字・図表等で記載して成⽂化

し,それを特許庁へ提出した後,審査・登録等

の⼀連の⾏政⼿続を介して発⽣する権利であ

る。

第1に,発明等を出願することができること

⾃体が,既に抽象的で無体物たる発明等をその

権利主体である発明者のみならず他の知的資産

等からも客観的に分離・独⽴して把握し,記述

できる状態を意味している。

第2に,特許登録は法的・社会的開⺬(公⺬)

を意味し,また当該特許発明に登録番号・特許

表⺬等が付されるのは,法的な分離・独⽴化が

なされたことを⺬している。

発明と著作物は,共に⼈間の精神的創作の所

産であるが,著作権は,著作物の成⽴(創作)

と同時に発⽣し,いかなる⽅式の履⾏も必要と

しない(22)。すなわち,出願・審査・登録等,権

利の形成に⾏政処分の介⼊がない点において特

許権等とは異なる。

著作権では,その客体たる著作物の成⽴(創

作)時点において,当該著作物が著作者から,

また著作者の他の知的資産からも客観的に分

離・把握できる分離可能な状態になったものと

認められる。

以上のことから,⾏政の介⼊の有無は別とし

ても,創作性を本質とする特許権と著作権は,

いずれも⾼度の分離可能性を有しているといえ

る。

次に,特許権が⾼い分離可能性を有するとの

前提の下に,その分離可能性が特許権等の証券

化にどのように関連・影響しているかを考察し

てみる。

証券化は,まず企業が保有する特定の資産を

SPVに譲渡することから始まる。このことは,

当該譲渡資産の所有者である企業,および,そ

の他の資産から分離することが可能であること

を意味する。要するに,分離可能性は譲渡性(移

転性)の前提であり,また譲渡性と⼀体不可分

の関係にあると考える。譲渡する特許権等に分

離・譲渡双⽅の可能性がなければ,論理上,証

券化対象資産となり得ない。しかし,分離可能

性と譲渡性の間には密接な関係があるとして

も,法が政策上譲渡を禁⽌することもあり,必

ずしも,両概念は同⼀であるとはいえない(23)。

第7巻 第3号178

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我国は,特許権,著作権等の譲渡性を明規し

ているが(24),これらの規定は,譲渡を容認する

旨の規定にすぎず,法的に分離可能性と譲渡性

との関係を定めたものでもない。

この譲渡性の容認は,特許権等の財産性・資

産性の法的論拠になることのほか,抽象的な無

体物である特許権等を特定化・客観化する等の

意義があると解せられる。けだし,特許権等の

内容・範囲等が,その譲渡以前に予め確定・明

確でなければ,事実上譲渡そのものができない

からである。要するに,分離可能性という属性

は,法律上の譲渡性と同じ内容である。従って,

⾼度の分離可能性が認められる特許権,著作権

は,譲渡に関する規定を待つまでもなく,その

属性から⾼度の譲渡性が認められ証券化対象資

産としての適合性が肯定される。

なお,証券化における特許権等の SPVへの

譲渡は,その内容の同⼀性を維持しつつ,特許

権等の主体が企業等から SPVへと変更(権利

主体を変更)することであり,その点では証券

化以外の資産の譲渡と何ら変わることはない。

以上述べたことは,登録された特許発明を客

体とする特許権に関するものであったが,次に,

未登録,すなわち特許されていない発明である

「知的資産」の分離可能性・譲渡性の議論に移

る。

Contractor(2001)は,知的財産権とは,登録

されているもの(特許権,商標権,著作権等)

とし,成⽂化されているが未登録の発明は,知

的財産権ではなく知的資産の範疇に帰属すると

区別し,分離がより困難であるとしている。分

離可能性が困難であれば,証券化の対象とはな

り得ない。

成⽂化がされている未登録の発明について

は,次の3点が問題となる。

①には,創作⾏為の結果,発明⾃体は成⽂化

でき,客観的に存在する。

しかし,経営戦略上,重要かつ基本的な独⾃

の発明の場合には,昨今,企業は,その発明を

敢えて出願せず企業内で秘密裏に管理・利⽤す

る形態をとる場合が多くなってきた。

以前は,保有する特許数の多いことがその企

業の誇りであり,技術⽔準の⾼さの指標と考え

られ,積極的に出願・特許化していた。しかし,

近年,特許庁の出願に係わる発明の IT化等に

より,中国・韓国等の企業が,容易に公開され

た出願資料にアクセスし,そして技術的着想・

ヒントを取得し,最終的には類似技術の開発に

及んでいる。この繰り返しは,結果的に国内技

術の海外流失につながる弊害となる。

政府・特許庁は,こうした出願に伴う弊害除

去の観点から出願の抑制と技術公開を図るため

出願の促進という⼆律背反に苦慮している(25)。

企業が発明を秘密裏(⾮公開的)に管理・利⽤

するということは,当該企業内から絶対に分離

させない発明にすることを⽬的とし,企業外へ

の譲渡はあり得ないことになる。このような態

様の扱いとなった発明は,当然,公開・譲渡を

前提とする証券化対象資産とはなり得ない。こ

うした発明は⾃社実施を唯⼀の⽬的としている

ことから,⾦融的活⽤の対象とはならない。

②には,発明完成後,①とは異なり,特許出

願の予定ではあるが出願前の発明である。この

状況下にある発明は,特許要件である新規性・

進歩性・先願性等(26)を確保する必要上,基本的

には,企業内で秘密扱いとする発明と同じで,

分離可能性・移転性・公開性が制限されている。

この場合の発明も,この段階では証券化対象資

産とすることは難しい。

③には,出願後,特許登録以前の出願に係わ

る発明の態様の場合である。

特許出願(patent application)は,特許を受

ける権利の⾏使態様の⼀つであり,発明を書⾯

に記載し,国家に特許の付与を請求する⾏為で

ある。特許制度は,国家(特許庁)が出願に係

わる発明を審査・開⺬し,その開⺬の代償とし

特許権と商標権の証券化対象資産としての適合性(岡本) 179

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て出願⼈に独占排他的な特許権を付与するもの

で,究極的には産業の発展を図ることを⽬的と

している。出願後,登録前の発明は,当該発明

の帰属主体,および他の資産からの分離可能性

についていえば,特許権と同程度に⾼いが,時

系列的には,特許以前の審査段階であるが故に

拒絶査定される可能性があり,財産権としての

確実性・安定性に⽋け,その譲渡性において劣

る。

従って,これらの未登録発明は,特許権(特

許発明)と⽐較して証券化対象資産となる可能

性が低いといわざるを得ない。

2.1.2 商標権と分離可能性・移転性との関係

特許権と商標権は同じ産業財産権であること

から,商標法は特許権と同様に,商標権の譲渡

性を認める法的扱いをしている。しかし,商標

は創作性と無関係であること,また商標が産業

の発展や企業の競争優位性の獲得への寄与・貢

献のあり⽅が,発明とは異質であること等を考

え合わすと,商標権を特許権と同次元・同視点

で法的に分離可能性・譲渡性を論ずることはで

きないと思われる。

社会通念上商標とは,事業者が商品取引社会

において⾃⼰の取扱う商品を他⼈の商品と識別

し,かつその同⼀性を表⺬するために商品との

関係において使⽤する標識であるとされてい

る(27)。商標の本質については,これを営業標識

であるとする説,商品に関する営業の得意の標

識であるとする説(折衷説)のほか,商品標識

説もある(28)。商標として使⽤する標識の範囲

は,それぞれ国や時代における経済社会の事情

と⽴法政策とにより,必ずしも同⼀ではないが,

我国では,現在,商品標識説が通説とされてい

る。

商標は,⾃他商品識別⼒(distinctiveness)を

基本的機能とするが,商号,社標( house

mark)(29),営業標識

(30)等が商品に使⽤され,そ

の結果,商標として機能することもある(商号

商標)。旧商標法(⼤正 10 年法)においては,

商品について使⽤される標識であって,営利を

⽬的とする営業に使⽤する「商標登録」と⾮営

利を⽬的とする業務に使⽤する「標章登録」と

の併⽤,特定の営業と切り離した商標権の⾃由

譲渡の禁⽌,使⽤許諾制度の不存在,営業の廃

⽌による商標権の消滅事由等に関する諸規定・

制度が存在し,商標を営業標識であるとする⾊

彩が濃厚であった。換⾔すれば,法が営業・業

務と商標権の分離可能性・譲渡性に対して否定

的であった(商標と営業との牽連性:connec-

tion between the mark and the business)とも

解し得る。これらは,商標の本質は営業標識で

あるとする説の法的論拠となると同時に商標が

営業標識的機能をも併有する証左ともなる。旧

商標法上,譲渡性が否認されていたことから商

標権は証券化資産の対象外扱いとされ,また使

⽤許諾制度の不存在は,キャッシュ・フローの

創出性を⽋いていたことになる。結局,旧商標

法下では,商標の本質のほか,法的な制度から

証券化は不可能であったと断定せざるを得な

い。

これに対して現⾏法は,経済界の要望もあっ

て,旧法とは異なり商標権の譲渡性等を肯定し,

商標権の財産権としての側⾯を強化し,その反

⾯,商標の営業標識的機能を希薄化した。この

結果,法的には,商標権が特許権と同様に証券

化対象資産となり得る。

しかし,現⾏法上においても,商標の譲渡ま

たは商標許諾から⽣ずる出所混同等の制度的弊

害を除去するべく各種の制限規定が散在してい

る(31)。このような規定の存在は,商標権が特許

権と⽐較し,証券化しにくい性質を⺬すもので

ある。商標権者の私益のほか流通秩序維持とい

う公益保護の観点からも,証券化には慎重な配

慮が求められることになる。

以上は,商標権の客体である登録商標(reg-

第7巻 第3号180

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istered trademark)に関することであるが,商

品流通市場には,未登録商標(unregistered

trademark)も存在する。我国は登録主義を採

⽤していることから,未登録商標が,既に財産

性・資 産 性 を 保 有 す る 周 知・著 名 商 標

(well‐known trademark)となっていたとし

ても(32),商標権の客体にはならず商標法の保護

外とされ,主に不正競争防⽌法で保護されるこ

とになる。現実に使⽤されている未登録商標は

経済的価値を有するが,その帰属主体からの分

離可能性および独⽴・個別化した資産として,

その譲渡性は,事実上認め難い。従って,未登

録商標は証券化の適合性がない。

2.1.3 実施権及び使⽤権と分離可能性・移転

性との関係

特許権には実施権を,また商標権には使⽤権

をそれぞれ許諾することにより,実施料を徴収

するという⽅法に基づき経営資⾦を調達するこ

とができる。知的財産権としての実施権の分離

可能性は,特許権や商標権におけるそれと⽐較

し,より明確かつ確定的であると思われる。け

だし,許諾,裁定,法定等,実施権等を発⽣せ

しめる原因は,⼀様ではないが,実施権等は実

施料が既に確定しているほか,特許権等とは分

離・独⽴した1つの財産権として譲渡性が認め

られ,登録を移転の効⼒発⽣または第三者対抗

要件としているからである(33)。

既に,実施料というキャッシュ・フローの創

出性を有する実施権等は,特許権等以上に証券

化対象資産としての適合性に優れているといえ

る。但し,商標は商品標識のほか営業標識的機

能も併有することから,商標権の使⽤許諾制度

が,出所混同・商標権者の信⽤喪失等を招来す

ることもある。これらの弊害を防ぐため商標法

上の使⽤権には,諸制限が課せられている。

従って,使⽤権は,特許権の実施権と同じレベ

ルで証券化の適合性があるとはいえない。

2.1.4 発明者名誉権及び著作⼈格権の分離可

能性と移転性との関係

特許権の客体は,技術的思想の創作である発

明であり,⼀⽅,著作権の対象は,⽂芸・学術

等の範囲内での思想または感情を創作的に表現

した著作物である。いずれも⼈間の精神的創作

活動の所産である点では共通しているが,発明

者には発明者名誉権が(34),また著作者には著作

⼈格権が(35),(36)

,それぞれ広義の知的財産権と

して認められている。広義の知的財産権は,財

産性のほか,このような名誉・⼈格性権という

⼆⾯の異質な性質が併存する権利であることに

注意する必要がある。

では,この発明者名誉権や著作⼈格権等は,

知的財産権として独⾃に証券化対象資産となり

得るであろうか。

これらの権利等は,発明者等から分離すれば,

その者の名誉・⼈格に資することにはならず,

発明者等の⼀⾝専属権(37)であると解すべきで

ある。発明者名誉権等は,発明者等から分離不

可能であり,その譲渡性も経済的価値も否認さ

れる。従って,知的財産権ではあるが,証券化

対象資産とはなり得ないと考えるべきである。

著作権法が,著作⼈格権の譲渡の禁⽌を規定

していることは,⾸肯できる(38)。これに対し発

明者名誉権に関して,特許法上,譲渡禁⽌する

旨の規定は存在しないが,この権利の性質上,

譲渡性はないと解すべきである。

名誉権・⼈格権は創作性に起因するものであ

るが,同じ知的財産権である商標権には,その

客体である商標が創作ではなく採択・選択⾏為

であることから,名誉的・⼈格的な知的財産権

の存在を考慮する余地は存在しない。

2.1.5 個々の従業員の技術・知識・技能(スキ

ル・技量),ノウハウ等と分離可能性・

移転性との関係

分離可能性を帰属主体(企業等の法⼈・⾃然

特許権と商標権の証券化対象資産としての適合性(岡本) 181

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⼈)および他の資産から分離でき独⽴して把握

あるいは記述し得るか否かの属性と理解した場

合,知的資本の範疇とされる従業員の技能等は,

分離可能性に程度の差はあるが,極めて低いも

のである。⼀般に,これらの知的資本は暗黙知

(tacit knowledge)であるが,昨今,熟練⼯の

優れた知識・技能等を伝承するため,暗黙知の

形式知(explicit Knowledge)への転換あるい

は IT化が盛んに⾏われている。形式知化・IT

化されない従業員の知識・技能は,分離・移転

可能性がない。

こうした技術・技能・ノウハウ等の知的資本

は,個別的資産として,証券化対象資産とする

ことはできないが,他の多くの知的財産権,知

的資産,知的資本とを組み合わせ,事業全体を

証券化の対象とすることも検討に値する

(whole business securitization)。

近年,⽇本において企業の事業を有機的⼀体

なものとして,事業収益全体をより簡易に包括

的な担保にとる必要性が認識されている(39)。

⼀⽅,イギリスでは,パブチェーン,病院事

業,テーマパーク,空港事業等の事業が,多彩

に証券化されている(40)。イギリスのこうした事

業展開は,我国においても新しいビジネスとし

て,注⽬に値する。

2.2 公式性・形式性

Contractor(2001)によれば,公式性・形式性

(formalization)とは,技術または知識の成⽂

化(codification:⽂章化)の程度とのことであ

る。

特許発明を客体とする特許権等の知的財産権

は,出願・登録⼿続きによって,既に明確に成

⽂化・登録されている。

これに対して企業内で秘密裏に管理・利⽤す

る発明または特許登録以前の出願に係わる発明

等の知的資産は,成⽂化されてはいるが,未登

録であるため社会に公⺬(開⺬)されていない。

この知的資産の成⽂化・公開性の程度は,知的

財産権のそれより低く,そして従業員の知識・

技能等の知的資本は,公開性・成⽂化が低いか,

または,されていない状況にある。すなわち,

知的資本の公式性の程度が最も低く,外部者へ

移転,伝授等をすることは,困難・不可能に近

い。

分離可能性があれば,成⽂化の可能性もある。

両者は,相互に密接な関係を有する属性と理解

でき,前者が⾼ければ,後者も⾼く,反対に,

前者が低ければ,後者も低いということになる。

従って,成⽂化しない,または,できない発明・

技術等は,第三者が認識できるように,その内

容・範囲を明確にすることが困難である。この

ような発明等は,証券化したとしても,SPVに

譲渡できる可能性もなく,また投資家も投資の

是⾮を判断することができない。換⾔すれば,

公式性が不⼗分であったり,また,これを⽋く

発明等は,証券化対象資産を構成しないといえ

る。要するに,公式性は,証券化対象資産の適

合性を判断する重要な属性の⼀つといえる。

2.3 評価可能性

2.3.1 知的財産権等の価値評価をするに際し

て,それを定量要因たる貨幣額で評価するか,

あるいは貨幣額とそれ以外の定性要因(イメー

ジ,安定性,認知度,地域性等)を指数化し,

これを加味しながら評価するのか2つの⽅法が

考えられる(41)。

後者のマーケティング評価モデルは,マーケ

ティング・データ等⾮財務の定性要因を貨幣額

に換算するための変換式を要し,その変換に恣

意性が介⼊する危険があり,また,その客観性

も担保できない。貨幣額で測定可能な経済事象

のみを対象とする財務会計からすれば,マーケ

ティングアプローチで知的財産権等を評価する

ことは,測定の信頼性を損なうことになる。

従って,企業会計上の資産としてオン・バラ

第7巻 第3号182

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ンスの⽬的から価値評価を⾏う場合には,定量

的な貨幣額を基準とした絶対値による評価が原

則とならざるを得ない(42)。けだし,この評価⽅

法は,誰が計算しても同⼀の結果が得られ,ま

た検証可能で,しかも客観的であり,究極的に

は測定の信頼性を確保することができるからで

ある。

この伝統的会計は,「ものづくり」の経済,す

なわち,物的財・有形財の産出が,経済価値や

富の主たる源泉となる経済社会(プロダクト型

経済)を背景としている。この背景の下におけ

る会計は,有形財の商取引を前提として,「取引

アプローチ(取引ベースの会計)―測定の信頼

性」を重視する。

知的財産権・知的資産等の無形価値を基礎と

するナレッジ型経済にあって,特許権等の資産

評価,測定を⾏うに際し,伝統的な会計評価・

測定⽅法を適⽤すること⾃体,⽅法論として無

理であると思われる。

Contractor(2001)によれば,特許権は,評価

可能性の属性が,知的資産・知的資本と⽐較し

て最も⾼いが(43),Contractor の指摘する評価可

能性は,単に属性として評価が可能であれば⾜

り,財務会計上の価値評価モデルによる評価可

能性に限定する意味ではないと考える。Con-

tractor は,伝統的会計による知的財産・資産の

測定が困難なことを承知した上での評価可能性

の指摘と考えられるからである。

いずれにせよ,伝統的会計測定によれば,他

⼈との取引済みの購⼊特許権等や許諾実施権は

評価可能性がありオン・バランスとされるが(44),

⼀⽅,⾃家創設特許権等は取引がなく測定でき

ないことを理由にオフ・バランスとなる。取引

が特許権等のオン・バランス化の決定的要因で

ある以上,取引市場を⽋くが故に,伝統的会計

上の定量的評価モデルによる特許権等の評価

は,実際上困難である。しかし,近年,国の政

策として知的財産市場の整備が図られつつあ

り(45),また知的財産の私設市場や流通仲介業者

等が増加している(46)。こうしたことから,すべ

ての特許権がオン・バランス化される時代が,

早晩,来る可能性もある。

2.3.2 会計上の資産評価・測定は,⾦融取引と

しての証券化と如何なる関係にあるで

あろうか。

証券化対象資産には,有償譲渡性,経済価値

性とその換⾦性,キャッシュ・フローの創出性,

評価可能性の存在が不可⽋な要素である。購⼊

または⾃家創設いずれの特許権等もこれらの諸

要素を有すれば,証券化対象資産としての適合

性を備えているといえる。特許権等は財務会計

上のオン・バランス資産であることを証券化対

象資産の条件とすべきではない。特許権等の評

価(valuation)⽬的は,多様(例,M & A:

merger and acquisition,オン・バランス,証券

化,信託化,担保化,侵害訴訟における損害賠

償額,実施許諾におけるライセンス料等)であ

る。その評価は,どのような評価⽬的を想定す

るかによって,⽅法も⼀様である必要はない。

特許権等と⽐較し,既に,キャッシュ・フロー

の創出⼒を備え,実施許諾という取引が完了し

ている実施権は,評価可能性が⾼く確実である。

しかし,未登録の発明,従業員の知識・技術,

ノウハウ等の知的資産および知的資本の評価可

能性は低い。これら知的資産等は,分離可能性,

公式性が低く,未登録(⾮公開)であることか

ら,独⽴した具体的・個別的な資産として認識

することも困難である。このように認識できな

い資産をいかなる⽅法を⽤いたとしても,独⽴

に評価・測定できない。従って,評価可能性の

属性を⽋く未登録発明等は,証券化対象資産と

しての適合性を⽋くことになる。

なお,知的資産等はM&Aに際して,投資差

額として暖簾としての評価は可能である。

以上,Contractor(2001)が,企業知識の体系

特許権と商標権の証券化対象資産としての適合性(岡本) 183

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として⺬した知的財産権,知的資産,知的資本

の属性と⽐較しながら特許権等を考察してきた

が,結論として次のようにまとめることができ

る。

すなわち,

第1に,分離可能性・移転性,公式性・形式

性(成⽂化・⽂章化),評価可能性等の諸属性は,

相互に分離独⽴した無関係なものではなく,密

接不可分の関係にある属性である。これら相互

に関係する属性の中にあって,特に,公式性・

形式性(成⽂化・⽂章化)は,有形資産では問

題とされないが,抽象的な無体物たる知的資産

等を客観的に認識するのに必要かつ重要な属性

としての位置を占めている。

第2に,これらすべての属性の程度が⾼く確

実であることが,会計上資産の認識および測定

に必要であると同時に,特許権等の証券化対象

資産の適合性を⾼めることになる。

3.FASB 概念ステートメント6号およ

び5号と証券化対象資産としての特

許権等との関係(47)

特許権等が資産として貸借対照表に計上され

るには,資産の定義を充⾜しなければならない。

問題は,特許権等を貸借対照表に資産として計

上できるか否かということである。無原則に資

産計上することは,財務諸表の適正性を損ない,

逆に資産計上を⼀切認めず,全額費⽤計上する

ことは,費⽤収益対応の原則(principle of

matching costs with revenue)に反する。会計

的処理上,資産の定義と資産計上の認識基準が

明確であることが重要となる。

しかし,我国には,確たる資産概念も認識基

準もない。そこで FASB の概念ステートメン

トを援⽤し,会計上の資産性と認識基準の観点

から特許権等の資産性を解明しつつ,その証券

化対象資産性との関係を⽐較検討する。

3.1 FASB 概念ステートメント6号の資産定

財務諸表の構成要素(elements of financial

statements)の定義によれば,「資産は過去の取

引または事象の結果として,ある特定の実体に

より取得または⽀配されている発⽣可能性の⾼

い将来の経済的便益である」とされている(48)。

この定義より,ある項⽬が資産となるためには,

次の3つの本質的特質が求められる。すなわ

ち,

① 経済的便益の要件

これは,単独でまたは他の資産と結びつくこ

とによって,直接的または間接的に将来のネッ

トキャッシュインフロー(net cash inflow)に

貢献する能⼒を有する将来の経済的便益であ

る。

「経済的便益」とは,経済的資源に共通した特

徴であり,市場価格の存否,有形か無形か,交

換可能であるか否かは資産性の有無とは関係が

なく,営利企業において最終的にキャッシュ・

フローをもたらすものであるとされている(49)。

知的財産権(法的に登録され保護される特許

権・商標権・著作権等)はもとより,知的資産

(データベース,得意先リスト,継続中の

R&D:research and development,⾮公開の発

明等)は,譲渡または⾃社内利⽤することによっ

て将来キャッシュ・フローを創出することがで

きる。⼈的・構造資産(従業員の知識・技術,

ノウハウ等)もその利⽤により経済的価値の潜

在的源泉となり得る。換⾔すれば,何らかの価

値をもつ知的資産,⼈的・構造資産は,譲渡,

利⽤によって将来的価値の源泉となるという点

では,資産性をもつといえる(50)。

この経済的便益は,将来キャッシュ・フロー

を創出する潜在的源泉であれば,発明または商

標が登録済みであるか否か,換⾔すれば,特許

権等であるか否かは問題とならないことにな

る。

第7巻 第3号184

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しかし,証券化は,⼀定期⽇に投資家に元利

⾦を⽀払うことを前提に証券を販売する⾦融取

引である。この⽀払いのため,証券化対象資産

は,将来ではなく,現実にキャッシュ・フロー

を創出する資産に限定されるべきである。従っ

て,実施契約を締結しライセンス料を⽣じる特

許権等(特許発明)または実施権たるライセン

ス料債権のみが証券化適合性を有する。これに

対して,実施権の許諾を⾏うことができない未

登録発明・⾮公開発明は,実施料収⼊が発⽣せ

ず証券化対象資産にはなれない。

要するに,証券化対象資産の範囲の⽅が,こ

の経済的便益の要件の資産より狭いことにな

る。

② 特定の実体による⽀配可能性の要件

この要件は,特定の実体がその経済的便益を

取得し,第三者が当該便益にアクセスしないよ

うに⽀配することである。つまり,排他的資源

利⽤権のことで(51),経済的便益が特定の実体に

帰属していることである。経済的便益の帰属

は,「しばしば法的権利を基盤にしているが」(52),

たとえば,製法または⼯程を秘密にするなど別

の⽅法で便益を獲得し,⽀配する能⼒を有する

こともあるので,法的権利の有無は企業が「資

産を所有するための不可⽋な前提条件ではな

い」といえる(53)。

Baruch Lev(2001)は,「有形財の便益は,そ

の所有者に有効的に確保されるが,無形財の投

資では,⾮所有者が当該投資の便益の⼀部を受

け取ることができないように完全に排除するこ

とは殆んど不可能である」と指摘している(54)。

秘密裏にまたは特許権化による法的保護のいず

れにしても,Baruch Levが指摘するように,発

明の完全な保護・規制は,その特性から難しい。

近年,重要かつ基本発明は出願・公開せずに,

未登録の状態で発明を秘密裏に企業内で管理・

⽀配し利⽤する傾向がある。発明等を秘密裏に

管理・⽀配するか,あるいは出願し特許権化し

て法的に保護・⽀配するかの選択は,企業の経

営戦略の問題に帰着する。

⼀⽅,創作性が不問とされる商標の存在意義

は,公開の商品市場で使⽤され,その経済的価

値(顧客吸引⼒・業務上の信⽤:good will)を蓄

積し商品の販売上の優位性を獲得することにあ

る。このため,商標は,発明と異なり,秘密裏

に管理・⽀配することはあり得ず,専ら,法的

権利に基づく⽀配ということになる。

未登録状態での発明を秘密裏に管理・利⽤す

ることは,「特定の実体による⽀配可能性の要

件」における資産には該当するが,証券化対象

資産とはならない。けだし,当該発明は,SPV

への譲渡,実施契約の許諾,投資家への説明等

の⼀連の⾏為により,公開され,未登録・秘密

裏的管理・利⽤を損なうことになるからである。

⽀配可能性の要件を満たす発明の範囲は,証

券化が可能な発明のそれより広く,両者の範囲

は同じでない。

③ 過去の取引・事象の発⽣の要件

これは,将来の便益に対する実体の権利また

は⽀配をもたらす取引その他の事象が,既に発

⽣していることである(以下,「過去の取引の要

件」と略称する)。

この要件は,「ある実体の現在の資産が持つ

将来の経済的便益と将来の資産が持つ将来の経

済的便益とを区別」するための要件であり(55),

「将来にある実体の資産になるかも知れない

が,いまだその実体の資産になっていない項⽬

を資産から除外」するための要件とされてい

る(56)。要するに,交換取引等の外部的取引を通

じて将来の価値源泉が獲得されることを意味す

る(57)。売買等,外部的取引によらない⾃家創設

(内部創設)特許権等は,資産性を⽋くが,購

⼊特許権等は資産性を有するといわれるゆえん

は,この理由に基づく。

過去の取引要件は,外部取引の有無を基準に

特許権等の資産性の成否を決める。⼀⽅,証券

特許権と商標権の証券化対象資産としての適合性(岡本) 185

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化対象資産の適否は,取引の有無ではなく,有

償譲渡性・キャッシュ・フローの創出性等を基

準に左右され,こうした基準を充⾜すれば⾃家

創設特許権等も証券化が可能となる。要する

に,証券化対象資産の適合性基準での資産範囲

は,過去の取引要件上のそれより広いことにな

る。

FASB概念ステートメントの⽂⾔は,財務会

計上の資産性を確定する⽬的で定義化されてい

るのに対し,証券化対象資産の適合性の判断基

準は,リーガル・エンジニアリング(legal en-

gineering)を加味し,⾦融取引としての証券化

の⽬的とその定義から決められているため,双

⽅の資産範囲が⼀致しない部分が存在すること

は理論上不⾃然なことではない。FASB の資

産定義規定を証券化対象資産と対⽐し考察する

ことは,会計上の資産のみならず証券化対象資

産の概念・範囲を⼀層明確にすることに役⽴つ

点において意義がある。

3.2 FASB 概念ステートメント5号の資産の

認識要件

FASB は,SFAC No. 5において資産計上の

認識基準として次の4つを規定している(58)。

① 財務諸表の構成要素の「定義」を満⾜す

ること。

② ⼗分に信頼を得る貨幣単位でもって数量

化され得るものでなければならないとする趣旨

の「測定可能性」を満⾜すること。

③ フィードバック価値または予測価値のい

ずれか,または両者の情報特性を持つとともに

適時性のある情報特性を持つものでなければな

らないとする趣旨の「⽬的適合性」を満⾜する

こと。

④ 指⺬対象である経済活動および経済事象

が,情報に忠実に表現されており,また,いか

なる測定⽅法が⽤いられていようとも,測定者

の偏向がないとする趣旨の「信頼性」を満⾜す

ることである。

⼀⽅,IASB( International Accounting

Standards Board)の国際会計基準は,「将来の

経済的便益の⾼い発⽣可能性」と「信頼性ある

測定可能性」の2つを認識要件としている(59)。

FASB と IASBの認識基準の表現には,若⼲

の差異も⾒られるが,双⽅とも「信頼性ある測

定可能性」とする点に関しては同じである。こ

の「信頼性ある測定可能性」が,特許権等にあっ

て最も問題となる認識基準である。以下,この

部分の基準に焦点をあてて議論を展開する。

上記②の「測定可能性」とは,「⼗分な信頼性

をもって測定でき,かつ⽬的に適合する属性を

有すること」をいい(60),その情報が財務諸表に

おいて認識されるためには,⼗分に信頼性のあ

る貨幣単位でもって数量化され得るものでなけ

ればならないという趣旨である。従って,貨幣

単位でもって測定不可能な情報は財務諸表にお

いて認識されないことを意味している。

マーケティングのブランド評価モデルにおい

て,イメージ,安定性,認知度,地域性等の定

性要因が指数化されても知的財産権であるブラ

ンドが,制度上オン・バランスされてこなかっ

たのは,この「測定可能性」の基準を満たし得

なかったからである(61)。上記のブランド評価モ

デルに限らず,特許権,商標権,著作権等を含

むすべての知的財産権は,定性的ではなく,定

量的な貨幣額による絶対値により評価されない

限り,同様に財務会計上オフ・バランスとされ

る。けだし,定量的評価は,誰が計算しても同

⼀の結果が得られ,検証が可能であり,客観的

で信頼性ある測定といえるが,定性的測定には,

このような信頼性が期待できないからである。

「プロダクト型経済」では,企業の価値の⼤部

分が,取引によって実現されるとの考えの下で,

原価・実現の過去指向的フロー計算が⽀配し,

定量的評価こそが,信頼性ある測定可能性を実

現するものと考えている。こうした「プロダク

第7巻 第3号186

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ト型経済」での会計観からの当然の帰結として,

⾃家創設特許権等は,資産と認識されずオフ・

バランスとされる。

証券化は,オフ・バランス効果があると主張

される。すなわち,会計上,証券化対象資産を

貸借対照表から分離するというオフ・バランス

効果が発⽣し,バランスシートのスリム化,

ROA(return on asset:総資産利益率)・⾃⼰資

本⽐率の向上等の財務体質の強化・健全化が図

られるとされている。この証券化の効果は,購

⼊特許権等については実現されるが,⼀⽅,⾃

家創設特許権等にはありえない。換⾔すれば,

会計上の資産認識基準を原因として,同じ特許

権等であるにも拘らずオフ・バランス効果の発

⽣に違いが⽣まれてしまう。

資産の評価⽬的は多様(例,M&A,オン・バ

ランス,証券化等)で,その評価は,どのよう

な⽬的を想定するかによって異なるべきであ

る。企業の資⾦調達⼿段としての証券化におけ

る評価モデルが,財務諸表の計上を⽬的とする

資産認識基準としての定量的評価モデルに従う

必要性はない。

従って,会計上の資産認識基準を充⾜する購

⼊特許権等や実施権のほか,当該基準を⽋く⾃

家創設特許権等も証券化対象資産となり,その

範囲は,会計上の資産認識基準の資産より広い

ことになる。

4.証券化対象資産としての特許権等の

法的適合性

証券化は,クレジット・エンジニアリング

(credit engineering)のほか,リーガル・エン

ジニアリング(legal engineering)を駆使する

⾦融技術・取引であり「法律の束」であるとも

いわれる。我国では,その「法律の束」の中に,

資産流動化法,債権譲渡特例法,サービサー法,

破産法,信託法,⺠法等各種の法律が組み込ま

れている。

特許権または商標権であれば,それらすべて

が,等しく⼀律に証券化の対象となり得るのか,

特許(登録)の前後により証券化対象資産の適

合性の判断に差異があるのか,本質上,特許権

と商標権は同⼀次元・視点で証券化の適合性を

論じうるのか,あるいは特許権等から派⽣する

実施権は特許権等と⽐較し,どちらが証券化に

適した権利であるのか否か等は,証券化上重要

な検討課題である。

ここでは,先に述べた知的資産の属性や会計

的側⾯からではなく,特許法と商標法を中⼼と

した法的側⾯から,これらの諸問題を考察する。

4.1 特許権関係の証券化の適合性

4.1.1 特許前の発明(未登録発明)の証券化の

適合性

特許を受ける権利は,発明について国に特許

権付与を請求し得る公法的地位と発明の財産的

価値を⽀配する私法的地位とを保護し,発明の

完成と同時に原始的に取得するという意味にお

いて,著作権とも類似している。

特許を受ける権利は,出願前後に関係なく移

転でき,その移転に関して,出願前は出願を第

三者対抗要件とし,出願後は届出を効⼒発⽣要

件としている(62)。従って,この権利は,譲渡性

を有し証券化の可能性も考えられる。以下,個

別的・具体的ケースに即して当該権利(特許前

の発明)の証券化の適否を述べる。

① 出願せず,企業内で秘密裏に管理・利⽤

する発明(特許を受ける権利)

近年,企業は,重要かつ基本的発明を出願せ

ずに,専ら,企業内で秘密裏に管理・⽀配・利

⽤しようとする場合がある。企業は,このケー

スの発明を証券化することはあり得ない。その

理由は,証券化すれば,SPVへの発明の譲渡や

投資家への証券販売等を通して,発明の秘密性

が解除され,公開されてしまうことになるから

特許権と商標権の証券化対象資産としての適合性(岡本) 187

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である。

② 出願する意図はあるが,その準備段階で

出願前の発明(特許を受ける権利)

この発明は,上記の①と同様に,証券化を⾏

うことは考えられない。但し,その理由は,①

と異なり発明の新規性(novelty)の喪失による

不特許処分(拒絶査定)を回避するためであ

る(63)。

③ 出願後,出願公開前の発明(特許を受け

る権利)

この発明は,特許庁に係属し出願に係わる発

明で社会には未公開の段階にある。

出願公開は,出願後⼀定期間を経過したとき

に,審査の進捗に関係なく,特許前に出願内容

を早期に公開する制度である(64)。その制度⽬的

は,出願内容の早期公開により,重複的な研究・

投資・出願等を防ぐことにある。かかる段階で

の発明は,技術的・経済的価値があったとして

も,証券化はほぼ不可能である。というのは,

発明が⼀般に開⺬されておらず,外部者が出願

に係わる発明の実体・内容・範囲等を正確に把

握・確認することができないためである。

④ 出願公開後特許前の発明(特許を受ける

権利)

この発明は,出願公開を通して既に開⺬(公

開)され,①∼③の未公開の発明とは決定的に

異なる。しかし,この段階での発明の証券化は

難しい。それは,公開後,審査で拒絶査定され

る恐れがあること,権利範囲が補正⼿続きによ

り縮減される可能性があること,すなわち,権

利として安定性・確定性に⽋ける状況にあるか

らである。

出願公開は,出願に係わる発明の早期公開に

は資するが,⼀⽅,第三者に当該発明を実施す

る機会を付与することとなる。そこで,出願⼈

が第三者による公開された発明の実施から受け

る不利益を調整・是正するために,実施料相当

額を内容とする補償⾦請求権制度が創設されて

いる。この請求権は,不安定性・不確実性を内

在していることから(65),証券化には適さない。

以上,特許前の発明(未登録発明:特許を受

ける権利)は,譲渡性はあるが,権利として不

安定性・不明確性,キャッシュ・フローの創出

性の⽋如,特許要件としての新規性喪失等の諸

理由により,その証券化は困難と判断される。

4.1.2 特許後の発明(特許発明・登録済みの発

明)の証券化の適合性

特許権とは,特許権者が「特許発明」(patented

invention)を業として独占・排他的に実施でき

る権利である(66)。この特許権は,上記の特許を

受ける権利が審査・登録処分により発展的消滅

をしたものと考えることができるが,独占・排

他的という強⼒な法的効⼒で「特許発明」を保

護・規制する点で,特許を受ける権利とは法的

性質を異にしている。

特許権は債権,物権と同様に代表的な財産権

といわれ,法的には,その譲渡性が認められ,

登録を譲渡の効⼒発⽣要件としている(67)。譲渡

性を有する特許権は,⼀律にすべて証券化でき

る可能性がある。以下,個別的なケースに即し

て特許権の証券化の適合性を検討する。

① ⾃社実施している特許権

特許権者が当該特許権を⾃社実施し,⾃ら製

品・商品の製造・販売を⾏い,そして特許発明

の実施中に無効審判の請求がない場合は,特許

権としての客観的な安定性・確実性が⾼いとい

える(68)。すなわち,特許発明の実施・事業化の

後に,他社が当該発明の存在を知り,その発明

「つぶし」の⼿段として無効審判の請求をする

ことが多い。当該請求がないことは,無効審決

の確定による特許権の遡及的消滅がないことを

意味する(69)。要するに,無効審判の請求の有無

は,特許権の存続性・安定性の試⾦⽯である。

⾃社で特許発明を実際に実施・利⽤し,そし

て当社の製品・商品を販売することにより,そ

第7巻 第3号188

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の販売実績に基づいて将来のキャッシュ・フ

ローの創出性を予測することが,ある程度,可

能となる。この結果,⾃社実施中の特許権は,

証券化の可能性の⽬途が具体的に⽴つ。

しかし,当該特許権⾃体の SPVへの譲渡の

みでは,キャッシュ・フローの創出性を⽋くた

め,不動産証券化で⽤いられる「セール・アン

ド・リースバック」(sale and leaseback)のス

キームの構築が必要となる(70)。

通常,⾃社実施している特許権は,研究・開

発を通じて⾃社製品・商品の製造・販売におけ

る競争優位性を確保・維持しつつ,独占的な事

業利益を実現することを⽬的に⽣み出されたも

のである。従って,当該特許権の原保有企業以

外の者へ移転し資⾦調達の⼿段として利⽤(証

券化)することは,⼀般的には,想定外である

ことが多い。

「⾃社製品・商品の製造・販売における競争優

位性を確保・維持しつつ,独占的な事業利益を

実現することを⽬的に⽣み出されたものであ

る。」ということは,要するに,⾃社製品の販売

を通して投下した技術開発費を回収することを

意図したものである。

しかし,製品の売上は,好不調の波があり,

また営業⼒や経済市況等,他の多くの諸事情に

も影響される結果,その技術開発費を早期・確

実に,また,まとめて回収することは,事実上,

不可能である。そこで,⾃社実施している特許

権を証券化し,経営資⾦や次の技術開発資本を

早期に⼀括して調達し,同時に SPVから実施

許諾を受けて事業活動の継続を確保するという

発想に転換することも企業経営の⼀策と思われ

る。

そして,特許権を担保とする資⾦調達⼿段と

しては,証券化(アセット・ファイナンス:

asset finance)より,当該特許権を保有する企

業の事業価値を評価したコーポレート・ファイ

ナンス(corporate finance)を基本に考えた⽅

がよい場合もある(71)。

② 未利⽤・休眠中の特許権

未利⽤・休眠中の特許発明とはいえ,審査・

登録された特許権の客体であることから特許前

の発明よりも権利としての安定性は,それなり

にある。

未利⽤・休眠特許発明には,いろいろなケー

スが考えられる。すなわち,

ⅰ)技術的・経済的価値を喪失した陳腐化特

許や,専ら基本発明を防衛するための防衛特許

は,経済的価値も低く実施化による安定した

キャッシュ・フローの創出⼒がないことが多く,

その証券化は難しい。

ⅱ)技術的には⾼度な基本特許であるが,そ

の実施化のための資⾦・ノウハウ等の不⾜ある

いは⼯場等,実施・事業化するための⼿段を⽋

く等の理由に基づいて,未利⽤・休眠特許発明

となることがある。

未利⽤・休眠発明は,実施前の発明であり,

その実施・事業化後に無効審判が請求されるこ

ともありうる。当該特許権の安定性は,実施中

の特許発明より劣り,その証券化は未知数的で

ある。

⼤学や公的研究機関が,保有する未利⽤・休

眠特許発明の数は膨⼤であり「宝の⼭」ともい

われ,その解消・活⽤のあり⽅が問題となって

いる。これは「宝の持ち腐れ」を意味すると同

時に独占・排他性を有する当該特許権の存在は,

却って活発な企業・事業活動を阻害する要因と

もなる。知的財産⽴国を⽬指す我国は,TLO

(Technology Licensing Organization:技術移

転機関)等を活⽤しながら(72),当該特許発明を

広く企業・関係機関に具体的に紹介・開⺬し実

施に向けての国と企業の⼀体的な努⼒が求めら

れる。

新しい⾦融技術である証券化は,こうした未

利⽤特許発明の解消・活⽤⼿段として積極的に

利⽤されるべきである。

特許権と商標権の証券化対象資産としての適合性(岡本) 189

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なお,⾃社か他社かを問わず,実施中の特許

発明は,その実施を通じて,当該特許発明の技

術的・経済的価値がある時点において社会的に

認められ,同時にその価値の存在が客観的に証

明されていることを意味する。⼀⽅,未利⽤・

休眠特許発明は,実施中の特許発明とは異なっ

た社会的評価がされる恐れがあり,経営戦略上,

その活⽤のあり⽅が問われる。

③ 共有に係わる特許権

共有に係わる特許権の譲渡は,他の共有者の

同意が必要であるとされ(73),⺠法上の共有とは

異なった扱いをしている。他の共有者の同意が

得られなければ,当該特許権の証券化はできな

い。

これは特許発明が無体物であるため,複数の

⼈が,同時に実施できるという特性を有する,

⼀⽅,他の共有者の経済的利害は,新しく共有

者となる者の資本⼒・信⽤⼒・技術⼒等の如何

によって著しく影響されることを考慮したこと

に基づくものである。

④ 効⼒が制限される特許権

特許法は発明の保護および利⽤を図ることに

より,発明を奨励し,究極的には産業の発達に

寄与することを法⽬的としている(74)。特許権

は,その保護⼿段として付与されるものであ

る(75)。

しかし,特許権ではあるが,衡平,公益,産

業政策等の諸理由により,特許権の効⼒が制限

され,財産権としての経済的価値の減少または

⾦銭の⽀払いを余儀なくされることがある(76)。

このような特許権は,実施権化されることが稀

で,証券化の適性を⽋くことが多い。

⑤ バイオ特許権(バイオや医療関連の特許権

の略称とする)と技術系特許権(バイオ特許権

を除外した特許権の略称とする)

近時の技術⾰新の結果,1つの製品に数百,

あるいは千を超える技術系特許が⽤いられてい

ることもある。1企業が,1製品に使⽤されて

いる全ての特許を保有していることは稀有であ

る。技術系特許権が,証券化コストに⾒合うロ

イヤリティを⽣むのは⾄難の技であるようにも

思える。⼀⽅,バイオ系特許権(例えば,医薬

品特許)は,1製品に関係する特許権の数は,

技術系特許権より少ない場合が多く,1つの特

許権を利⽤した医薬品等の売上が,巨額になる

ことも珍しくない(77)。

このことから,バイオ系特許権は,技術系特

許権より証券化に有利といえる。1つの製品に

関連する特許権数および,その特許権に関与す

る権利者の数がより少ない⽅が,利害関係の対

⽴も少なく証券化し易いことになる。同様のこ

とは,化学物質等の物質特許発明についてもい

える。

⑥ 他社へ実施権を許諾し,実施料収⼊を⽣じ

ている特許権(実施権付きの特許権)

他社へ実施権を許諾し,⼀定額の実施料⾦を

⽣んでいる特許権は,実施権に基づき他社が,

実施を開始した後,第三者からの無効審判の請

求がなければ,権利としての客観的な安定性・

確実性があるといえる。また現実の実施料⾦の

収⼊は,将来に向かってのキャッシュ・フロー

創出の予測可能性を与えることにもなる。ライ

センシーが⼀流企業であれば,実施許諾に供さ

れた当社の特許権⾃体が,技術的に⾼いものと

の社会的評価を得たと同然であり,また証券化

で SPVへ譲渡した当該特許権を処分するに際

して,ライセンシーに購⼊してもらうことも選

択肢の⼀つとなり得る(78)。

この結果,既に,他社へ実施権を許諾し,現

実に実施料収⼊を⽣じている特許権は,①の⾃

社実施している特許権より,証券化対象資産と

しての適合性が⾼いといえる。

⑦ 実施権

①∼⑥のケースは,特許権⾃体の証券化の可

能性を検討したものである。その中で上記⑥の

場合は,実施権を許諾している特許権⾃体の証

第7巻 第3号190

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券化を問題としたが,ここでは,特許権から派

⽣する実施権の証券化を考察する。

⑥と⑦は,共に実施権と関係しているが,⑥

の証券化では実施権付きで特許権を譲渡する

が,⑦のケースでは特許権を譲渡せず留保し,

実施権のみを譲渡する点に違いがある。

⼀般的に,⑥の場合は,企業等が倒産あるい

は廃業をし,今後,その保有する特許発明を利

⽤して事業活動を⾏わないケースであり,⼀⽅,

⑦のケースは,今後とも当該特許権に基づいて

事業活動を継続する企業等の場合が想定され

る。

特許法上,実施権は,その発⽣原因別に分類

すれば,契約⾃由の原則に基づく許諾実施権,

衡平と企業施設の保護を図るための法定実施

権,そして発明の利⽤を促進する趣旨での裁定

実施権等が存在する(79)。許諾実施権には,独

占・排他的な専⽤実施権(exclusive license)と

債権的な通常実施権(non exclusive license)と

がある(80)。

これらの実施権は,特許権とは分離・独⽴し

た1つの財産権として譲渡性が認められ,登録

を効⼒発⽣または第三者対抗要件としてい

る(81)。譲渡性を有する実施権は,基本的には,

証券化が可能である。

しかし,法定実施権のうち,職務発明に係わ

る実施権と先使⽤権は,衡平性の趣旨から,法

律上無償とされている(82)。無償であることは,

キャッシュ・フローを創出しないことを意味し,

両実施権の証券化の可能性はない。

⼀⽅,無償性の職務発明に係わる実施権と先

使⽤権を除いて,有償の実施権は,特許権以上

に証券化対象資産としての適合性を具備してい

るといえる。けだし,実施権は,証券化に必要

とされる譲渡性,換⾦性,キャッシュ・フロー

の創出⼒,評価可能性,そして権利の安定性・

特定性等の諸条件をすべて備えているからであ

る。

結論として,特許権⾃体の証券化は,キャッ

シュ・フローの創出⼿段として,実施権制度と

いう法的スキームを必ず介しないと実現でき

ず,実施権の許諾という事務・⼿続の負担が強

いられる。

これに対して,既にキャッシュ・フローの創

出⼒を有する実施権⾃体は,特許権以上に証券

化の適合性がより⾼いといえる。とにかく⾃社

か,他社かを問わず,特許発明を実施化できな

い特許権は,換⾦性が弱く,証券化の適合性に

劣る。

なお,実施権制度は,専ら他社による特許発

明の実施・利⽤を促進し拡⼤を図り,その結果,

実施料の収⼊をもたらすものに過ぎなかった

が,⾦融技術としての証券化の出現に伴い,特

許権の証券化におけるキャッシュ・フロー創出

の⼿段として,新たに別の制度的意義が⽣じた

ことになる。特許権等の証券化の法的スキーム

として,今後,実施権制度のあり⽅が注⽬され

る。

4.2 商標権関係の証券化の適合性

商標権は,産業財産権であること,出願・登

録により発⽣すること,譲渡性があること,第

三者による登録商標の使⽤を認める使⽤許諾制

度があること等は,特許権と同⼀・重複するこ

とが多い。しかし,

第1に,商標は,既存の記号・⽂字・⾊彩等

の採択・選択⾏為であって創作とは無関係であ

り,それ⾃体は無価値なものである(83)。これに

対して,発明は膨⼤な開発資⾦の投資の下,⼈

の英知・努⼒等精神的活動の所産として⽣まれ

る創作⾏為である。

第2に,商標法と⽐較すると,特許法は,私

益保護の⾊彩が強いが,商標法は商標に化体す

る営業上の信⽤・顧客吸引⼒等,商標権者の私

的な経済的利益の保護と同時に健全な商品の流

通秩序の維持を図るという⼀般需要者・消費者

特許権と商標権の証券化対象資産としての適合性(岡本) 191

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等の公益の保護をも併せて法⽬的としてい

る(84)。

このような権利客体と法⽬的の相違が,商標

権の証券化に影響を与えていることを念頭に置

きながら,以下,法的側⾯から出願登録の前後

を基準として,商標権関係の証券化の適合性を

検討する。

4.2.1 登録前の商標(未登録商標)の証券化の

適合性

① 商標登録出願前

商標は,上述したように採択・選択の結果,

発⽣するものであるから,創作を本質とする発

明のごとく「特許を受ける権利」の発⽣はなく,

また公知とならないように秘密裏に扱う必要も

ない。商標は,商品の流通市場で公然と広く永

続的に使⽤されることに基づいて,その財産的

価値が構築・蓄積される。

出願前に,財産的価値を既に蓄積している商

標は,⼀般的に,未登録周知・著名商標と称さ

れるが,商標権の客体として法的な保護はなさ

れない。けだし,我国は,商標を形式的・画⼀

的・静的に保護するため,使⽤主義ではなく登

録主義を採⽤しているからである。この未登録

周知・著名商標の保護は,主に,不正競争防⽌

法でなされることのほか,商標法上は不登録事

由として登録を排除する効⼒と法定使⽤権(先

使⽤権)が認められるに過ぎない(85)。

未登録周知・著名商標に化体した事実上の財

産的価値は,合併の際,投資差額として「暖簾」

と評価されることはあるが,その財産的価値の

内容・範囲・程度等の価値を特定することも,

また分離することも難しい。そして,譲渡性の

法的容認や使⽤許諾制度によるキャッシュ・フ

ローの創出性もなく,証券化は不可能である。

なお,周知・著名でない未登録商標は,保護

すべき財産的価値が皆無のため,法的保護に値

しない。

② 出願後商標登録前

出願の効果として,特許を受ける権利に類似

した「商標登録出願により⽣じた権利」が発⽣

し,その移転性も認められている(86)。

しかし,この権利は,出願権の確保以外に経

済的価値が僅少であり,分離可能性,権利の安

定性を⽋くことから,証券化の可能性は考えに

くい。

商標登録出願に係わる商標の使⽤による業務

上の損失額の⽀払いを内容とする登録前の⾦銭

的請求権は,権利の安定性・確定性,キャッ

シュ・フローの創出性等を有せず,その証券化

の余地はない(87)。

4.2.2 商標登録後の証券化の適合性

商標登録により発⽣した商標権は,商標権者

が指定商品または指定役務について登録商標を

独占・排他的に使⽤できる権利である(88)。

原則として,商標権は譲渡性が認められてい

ることから(89),その証券化の可能性はある。以

下,個別的ケースに即して商標権の証券化の適

合性について考察する。

① ⾃社使⽤の商標権

商標権者が,⾃らの製品・商品に登録商標を

付して,その商標権を⾃社使⽤し,第三者から

無効・取消の審判等の請求がなければ(90),商標

権としての客観的な安定性・確実性があり,ま

た将来キャッシュ・フロー創出を予測すること

が可能である。特許権と同様に「セール・アン

ド・リースバック」⽅式により,この商標権の

証券化は理論上可能である。しかし,現実に⾃

社使⽤している商標権の証券化の可能性は低

い。

唯⼀無⼆的な存在である商標は,発明と違い

技術的に陳腐化することもなく,使⽤すればす

る程,次第に著名化(ブランド化)し経済的価

値を増す。通常,商標権者⾃⾝は,⾃⼰の信⽤

が化体した商標を継続的に使⽤する。特許権と

第7巻 第3号192

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は異なり,廃業等の例外的なケースを除いて,

その商標権が,他⼈に譲渡されたり,あるいは

使⽤権が,許諾されることは少ないであろう。

② 未使⽤・休眠中の商標権

商標の本質上,未使⽤・休眠商標権は,特許

権と異なり,その数は少ない。その理由は,第

三者の商標の採択幅を確保するため,不使⽤の

登録商標は取消審判の対象とされること(91),ま

た商標は使⽤しないと商標に蓄積された経済的

価値が次第に消失するからである。

例外的に,商標ブローカーが販売するために

ストック登録商標を保有することはあるが,い

ずれにせよ,未使⽤・休眠中の商標の証券化は

予想し難い。

③ 譲渡が禁⽌・制限されている商標権と共有

に係わる商標権

例外的ではあるが,譲渡が禁⽌されている

国・公共団体の商標権,地域団体商標に係わる

商標権は,証券化の対象の余地はない。

共有に係わる商標権の譲渡は,特許権の場合

と同様に,他の共有者の同意が必要とされてい

る。

他の共有者の同意が必要とされるのは,商標

が,その使⽤者および,その取扱う商品の品質

の如何によっては,他の共有者および,その商

品の信⽤に⼤きく影響し,ひいては,その持分

の経済的価値を左右すること,また⼀般消費

者・需要者等の利益を害すること等をその理由

としている(92)。

その同意が得られなければ,当該商標権の証

券化は不可能である。

④ 効⼒が制限される商標権

商標権の効⼒は,登録商標をその指定商品ま

たは指定役務について専⽤できる専⽤権(独占

排他的効⼒)と他⼈が登録商標と類似する商標

を禁⽌する禁⽌権(禁⽌的効⼒)とに区別され

る(93)。

当事者の契約,公益上,他⼈との権利調整,

あるいは登録主義の修正としての使⽤主義的配

慮等の諸理由に基づき,商標権の効⼒は制限さ

れている(94)。

これらの場合,第三者が商標権を⾏使しても

商標権の侵害とはならず,当該商標権は,経済

的価値・換⾦性が低く,その証券化は難しい。

⑤ 他社へ使⽤権を許諾し使⽤料収⼊を⽣じて

いる商標権(使⽤権付きの商標権)

当該商標権は,無効審判のほか,使⽤権者の

不正使⽤で取消審判が請求され,その安定性が

損なわれることもあるが(95),使⽤料収⼊による

キャッシュ・フローの創出性の予測が可能であ

ること等から,理論上当該商標権の証券化適合

性が⾼いことになる。しかし,商標権者は,⾃

社の利害得失を考慮すれば,唯⼀無⼆的な商標

権に対する使⽤権を特定の同族・関係会社以外

の会社へ許諾することは少なく,実際上この

ケースにおける証券化は稀であろう。

⑥ 使⽤権

①∼⑤は,商標権⾃体の証券化の可能性を検

討したものである。⑤と⑥は,共に使⽤権が関

係しているが,⑤の証券化では使⽤権付きで商

標権を譲渡するが,⑥のケースでは,商標権は

譲渡せず留保し,使⽤権のみを譲渡する点に違

いがある。⼀般的に,⑤の場合は,企業が倒産

あるいは廃業をし,今後,その保有する登録商

標を使⽤して営業販売活動を⾏わないケースで

あり,⼀⽅,⑥のケースは,今後とも当該商標

権に基づいて営業販売活動を継続する企業の場

合が想定される。

商標権から分離・派⽣する使⽤権は,独⽴し

た財産権として譲渡性が認められ,キャッ

シュ・フローの創出性もあることから,専⽤ま

たは通常いずれの使⽤権とも証券化の適合性は

⾼いといえるが,上記⑤と同じ理由により使⽤

権の証券化は稀有なケースである。

なお,契約⾃由の原則に基づく使⽤権と使⽤

主義的側⾯から法律の規定により発⽣する「商

特許権と商標権の証券化対象資産としての適合性(岡本) 193

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標を使⽤する権利」とは法的性質が異なる(96)。

「商標を使⽤する権利」は,譲渡性を有するが,

無償であるためキャッシュ・フローの創出性が

なく証券化の可能性はない。

⑦ 禁⽌権と防護標章登録に基づく権利(97)

商標権の専⽤権は同⼀の範囲に限られてい

る。禁⽌権と防護標章登録に基づく権利は,他

⼈が類似及び⾮類似の範囲での商標を使⽤する

ことを禁⽌・排除する権利であって,商標権の

核⼼を構成する部分を防護する機能を持つもの

である。

禁⽌権等が,商標権の効⼒範囲を拡張するも

のとして,禁⽌権等の証券化が可能であるか否

かが問題となる。しかし,禁⽌権等の証券化の

可能性は全くない。その理由は,禁⽌権等には,

商標権と分離独⽴して移転できない付随性があ

ること(98),また法的に禁⽌権等のみを対象とす

る使⽤権の許諾ができずキャッシュ・フローの

創出性を⽋くからである。

結論として,商標の本質および機能からして,

商標権と使⽤権は,特許権や,その実施権と⽐

較した場合,証券化が著しく難しい。

まとめ

住宅ローン債権を対象として始められた資産

の証券化が,リース債権,不動産等へとその対

象を拡⼤しつつある。本稿は,資産の中でも特

異な属性を有する特許権と商標権が,証券化の

対象資産となり得るのか否かを属性⾯,会計

的・法的側⾯から考察したものである。

第1に,証券化の⽬的とその定義を総合的に

勘案して,証券化対象資産となり得るか否かの

判断基準を①資産の有償譲渡性,②資産の経済

的価値の保有性とその換⾦性,③キャッシュ・

フローの創出性,④価値評価可能性と決めた。

そして,この判断基準と属性との関係を検討

したところ,特許権・商標権には,Contractor

(2001)が指摘する「分離可能性・移転性」,「公

式性・形式性・成⽂化」,「評価可能性」等,知

的資産の属性が,他の知的資産と⽐べ最も⾼く,

かつ確実に存在していることが判明した。この

属性のうち,「分離可能性・移転性」・「公式性・

形式性・成⽂化」の2つの属性は,①資産の有

償譲渡性と,また「評価可能性」の属性は,②

資産の経済的価値の保有性とその換⾦性・③

キャッシュ・フローの創出性・④価値評価可能

性等の判断基準と相互に関係があり,双⽅には

整合する点があるとの結論に⾄った。この結

果,表現上の違いはあるが,筆者が提⺬した証

券化適合性の判断基準と Contractor(2001)が

指摘する知的資産等の属性とは,ほぼ同⼀内容

であり,知的資産等の属性の本質に沿って,証

券化適合性の判断基準を決定したことになる。

第2に,財務会計的側⾯と証券化適合性の判

断基準の関係についていえば,証券化対象資産

は FASB 概念ステートメント6号および5号

の資産性,資産認識,測定等における資産とは,

必ずしも⼀致しない。

購⼊特許権等と⾃家創設特許権等は,共に,

換⾦性・譲渡性等を具備する同じ特許権等であ

る。しかし,後者には,証券化の⽬的であるオ

フ・バランス効果が発⽣しないという不統⼀性

が存在することが判明した。この違いは,現⾏

の財務会計がプロダクト型経済下での会計観に

固執し続ける結果に基づくものであり,ナレッ

ジ型経済的な会計システムへの移⾏とその研究

が待たれる。

第3に,法的側⾯から検討したところ,登録

前より登録後の特許権等の⽅が,また商標権よ

り特許権の⽅が,それぞれ証券化対象資産とし

ての適合性により優れていることが確認でき

た。これは,権利の客体,法⽬的の相違に起因

する結果である。

特許権等の証券化には,住宅ローン債権等と

異なり,キャッシュ・フロー創出性のスキーム

第7巻 第3号194

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を構築する必要があり,その⼿段として実施・

使⽤許諾制度が不可⽋であることも1つの特⾊

である。換⾔すれば,実施・使⽤権化できない

特許権等は,証券化の対象資産とはなれないと

いう結論になる。

この他,1製品に関わる特許権の数とその関

係者の⼈数が少ない特許権(バイオ系発明ない

しは物質発明)は,証券化対象資産として⾼い

適合性を有するものであることが指摘できる。

最後に,①膨⼤な未利⽤・休眠特許発明の存

在とその活⽤⼿段としての証券化,②特許権等

の証券化を実現する⼿段としての実施・使⽤許

諾制度の再点検,③証券化を含めた特許権等の

⼀層の活⽤のための「場」としての取引市場・

知的財産権の鑑定⼈の育成等,これら証券化に

関係する諸問題は,今後の研究課題とする。

⑴ 井出保夫『証券化のしくみ』⽇本実業出版社 2004

年 p. 22 によれば,「証券化のはじまりは,1970 年の

住宅モーゲージ担保証券(MBS:mortgage backed

securities)の発⾏である。アメリカでは,持ち家の

促進という政策的な観点から,政府主導で住宅ロー

ンの証券化が進められた。具体的には S&L(貯蓄

貸付組合)等の⾦融機関が持つ住宅ローン債権を政

府の専⾨機関が買い上げることで,⾦融機関の資⾦

調達を援助する仕組みがつくられた。)

⑵ 鈴⽊正彦『証券化の法と経済学』NTT出版 2005

年 p. 5。

⑶ ⼩⼭明博『プロパテント・ウォーヅ国際特許戦争

の舞台裏』⽂藝春秋 2002 年 p. 125∼ 126によれば,

「プロパテント政策とは,1980 年代のアメリカ経済

の低迷期にアメリカが採⽤した特許重視政策のこ

と。この政策は,1985年,アメリカ産業の国際競争

⼒を再⽣するためレーガン⼤統領に提出されたヤン

グ・レポートの勧告を忠実に実⾏したものである。」

⑷ 知的財産戦略本部「知的財産の創造,保護,およ

び活⽤に関する推進計画」2003 年7⽉8⽇ pp. 4∼

5。

⑸ 知的財産戦略本部「知的財産の創造,保護,およ

び活⽤に関する推進計画」2003 年7⽉8⽇。

⑹ 渋⾕陽⼀郎『証券化のリーガルリスク』⽇本評論

社 2004 年 p. 177。

岡内幸策『証券化⼊⾨第2版』⽇本経済新聞社

2006年 p. 149。

平野嘉秋 ⼤藪卓也『証券化ハンドブック』税務

経理協会 2002 年 p. 266。

広瀬義州『知的財産会計』税務経理協会 2006年

p. 155等。

⑺ 経済産業省の主導による国内最初の特許権証券化

事例(2003 年2⽉),いわゆる「ピンチェンジモデ

ル」。これは,「ベンチャー企業であるスカラ社が,

保有する4つ特許権を TMKに譲渡し,TMKは,

譲り受けた特許権に係わる専⽤実施権をピンチェン

ジ社に許諾し,許諾されたピンンチェンジ社は

TMK にロイヤリティーを⽀払う。このロイヤリ

ティー債権を証券化したものである。投資者とし

て,三井住友銀⾏は特定社債,伊藤商事は優先出資,

また,ピンチェンジ社は特定出資を実⾏した」とい

う内容の事例。

⑻ 古賀智敏『知的資産の会計』東洋経済新報社 2005

年 p. 69。

⑼ 古賀智敏『上掲書』p. 5。

⑽ Iternational Accounting Standards Committee

(IASC) (1998), IAS38 : IntangibleAssets, par. 7(⽇

本公認会計⼠協会訳『国際会計基準 2001』同⽂館

2001 年。)

⑾ FASB, No. 141, par. A14 : Statement of Financial

Accounting Standards No141, par. A14

⑿ Bruch, Lev (2001) , Intangibles : Management,

Measurement, and Reporting The Brookings Institu-

tion Press. p. 5.

⒀ Contractor, F., (2001) , Valuation of Intangible

Assets in Global Operations, Quorum Books. p. 6。

⒁ Contractor, F., (2001), (Ibid., pp. 8∼ 10)。

⒂ 古賀智敏『前掲書』p. 9。

⒃ 古賀智敏『上掲書』p. 10 によれば,「知的資産を

会計上どのように分類すべきかに関し,究極的には

企業利益は誰に帰属すべきか,企業レポーティング

の役割は何かという本質に係わる問題である。⼀般

的分類アプローチは,経験的アプローチである。

ヨーロッパで広く採⽤されている知的資産の分類は

特許権と商標権の証券化対象資産としての適合性(岡本) 195

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①「⼈的資産(Human capital)――⼈の知識,コン

ピテンス,経験,スキル,才能等,従業員の退職時

に⼀緒に持ち出す知識をいう,②「構造資産

(Structural capital)――データベース,ソフトウェ

ア,組織的プロセス,特許権等,従業員の退職時に

企業内に残留する知識をいう③「関係資産(Re -

lational capital)―顧客関係,顧客ロイヤリティと満

⾜,流通関係等,企業の対外的関係に付随したすべ

ての資源をいう。」

⒄ イギリス 1985年会社法,スケジュール 4a,9(2)。

⒅ Toll ington , t . ( 2002 ) , Brand Assets , John

Wiley&Sons, Ltd8(古賀智敏監訳,⾼橋聡・岡本紀

明・KPMGビジネスアシュアランス訳『ブランド資

産の会計』東洋経済新報社 2004p. 60).

⒆ 古賀智敏『前掲書』pp. 76∼ 77。

⒇ SFAS No. 141, par. 39.

7 ⻄澤茂「ブランドをめぐる会計基準の論点『企業

会計』2002. 09 VOL. 54 No. 9 p. 130。

8 無⽅式主義 著作権法第 17条2項。

9 特許法第 73条1項,商標法第 24条の2と同法 35

条は特許権等の譲渡禁⽌を規定している。

: 特許法第 98条1項1号,著作権法第 61条。

; ⽇本経済新聞 2006年6⽉8⽇・16⽇付の記事。

< 特許法第 29条,29 の2条,39条。

= ⼤判昭 12.6.21 ⺠集 16 p. 974 を参照。

> ⼯業所有権⽤語辞典編集委員会『⼯業所有⽤語辞

典〈新版〉』⽇本⼯業新聞社 1975年 p. 735。

? 社標とは,営業⾃体の同⼀性を表彰するための記

号,営業標識の⼀種。商⼈⾃体を表彰するため⽂字

で構成しかつ発⾳できる名称をいう商号とは異な

る。例,武⽥薬品⼯業㈱のマーク,㈱⽇⽴製作所の

マーク。

@ 営業標識とは,社標や営業名のように営業の同⼀

性を表すために使⽤される標識。

A 商標法第 24 の2 2項3項4項,24条の 4,52

条の 3,53条。

B 周知商標とは,国内で取引者・需要者間に広く認

識されている商標のことである。「周知」とは,少な

くとも⼀定の何⼈かの商品に使⽤されている標識で

あることの認識が,国内において需要者間に相当広

く認識されている状態をいう(⼤判⼤ 3・5・12,⺠

録・20 382)。周知商標の認定は事実問題である。

⼀⽅,著名商標とは,周知商標のうち,特に名声

が⾼く,他⼈がその商標を⾮類似商品に使⽤する場

合にも取引者・需要者に混同した認識を与える程度

に知れわたっている商標のことである。

C 商標法第 24 の2 2項3項4項,24条の 4,52

条の 3,53条。

D 特許法第 36 条1項2号。

E 著作権法第 18条 19条 20条,ベルヌ条約6の2。

F 著作⼈格権には,公表権,⽒名表⺬権,同⼀性保

持権があり(同法 18条 19条 20条),これらの権利

侵害に関しては,差⽌等の⺠事のほか刑事救済があ

る(同法 112条 115 条 119条)。

G ⾦⼦宏 新堂幸司 平井宜雄編集『法律学⼩辞典

[第4版]』2004 年 p. 24 によれば,「⼀⾝専属権と

は,特定の権利主体のみが,⾏使あるいは享有でき

るとされている権利の総称。⾏使上の⼀⾝専属権は

債権者代位の⽬的になれず(⺠法 423条1項但書)

また享有の⼀⾝専属権は譲渡または相続が不可能。

なお,⼀⾝専属権であるか否かは,その権利の性質

や特別な規定の趣旨等から判断されるが,⾝分上の

権利(親権)の多くは⼀⾝専属権である。」

H 著作権法第 59条。

I 経済産業省の平成 14 年企業法研究会(担保制度

研究会)報告書(案)は,「不動産担保から事業の収

益性に着⽬した資⾦調達へ」(副題)を提案している。

J 渋⾕陽⼀郎『前掲書』p. 188。

K 経済産業省企業法制研究会『ブランド価値評価研

究会報告書』2002 年 p. 45。

L 広瀬義州『前掲書』p. 25。

M Contractor, F.,. (2001), (Ibid., pp. 8∼ 10).

N 購⼊特許権等とは,⾃⼰以外の者が保有する特許

権等を売買取引等により取得した特許権等のことで

ある。⼀⽅,⾃家創設特許権等とは,⾃⼰(⾃社)

開発の発明(商標)を出願し,取得した特許権等の

ことである。

O 特許庁『特許⾏政年次報告書 1999 年』によれば,

「①特許流通を促進するインフラ整備

ⅰ)特許流通データベースと未利⽤特許活⽤例集

の作成・公開

ⅱ)特許評価指標案の策定・公表

ⅲ)技術分野別特許マップの作成・公開

②技術移転仲介機能の強化・拡充

ⅰ)特許流通アドバイザーの育成

ⅱ)知的財産取引の仲介等を営む事業者情報の

第7巻 第3号196

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データベース化

③普及・商談機会の提供

ⅰ)特許流通フェアの開催」

P 渡邊俊輔編著『知的財産 戦略・評価・会計』東

洋経済新報社 2002 年 p. 218。

Q (FASB Concepts Statement No. 6, No. 5) FASB,

Statements of Financial Accounting Concepts No. 1,

No. 2, No. 4, No. 5, No. 6, No. 7(平松⼀夫 広瀬義州

(訳)『FASB財務会計諸概念〈増補版〉』中央経済

社 2002 年)を参照。経済産業省企業法研究会『前掲

書』pp. 68∼ 69 を参照。

W SFAC No. 6 : Statement of Financial Accounting

Concepts No. 6, Elements of Financial Statements (a

replacement of SFAC, No. 3), 1985.

[ SFAC No. 6, par. 28.

\ 古賀智敏『前掲書』p. 73。

] 古賀智敏『上掲書』p. 73。

^ SFAC No. 6, par. 187.

_ SFAC No. 6, par. 187.

` Baruch Lev (2001), (Ibid., p. 33∼ 34).

a SFAC No. 6, par. 190.

b SFAC No. 6, par. 191.

c 古賀智敏『上掲書』p. 74。

d Statements of Financial Accounting Concepts

No. 5, Recognition and Measurement in Financial

Statements of Business Enterprises, 1984.

e IASCフレームワーク 1989。par. 83。

f SFAC No. 5 par. 63.

g 経済産業省企業法制研究会『前掲書』p. 69。

h 特許法第 33条,34条。

i 同法第 29条,29条の 2,49条。

j 同法第 64条,65 条。

k 同法第 65 条4項。

l 同法第 65 条4項。

m 同法第 98条1項1号,27条1項1号。

n 同法第 123条,126 条。

o 同法第 125 条。

p セール・アンド・リースバック(sale and lease

back)とは,「不動産流動化において,不動産の原所

有者が当該不動産を信託または第三者に譲渡した

後,受託者または譲受⼈から賃貸借し,継続して譲

渡不動産を使⽤すること。」

q ⼩林卓泰『知的財産ファイナンス』清⽂社 2004 年

p. 73。

r ⼭本⼤輔,森智世『知的資産の価値評価』東洋経

済新報社 2002 年 pp. 137∼ 138。

s 特許法第 73条1項。

t 同法第1条。

u 同法第 68条。

v 同法第 69条,72条 175 条。

w ⼩林卓泰『前掲書』pp. 74∼ 75。

x 同『上掲書』p. 74。

y 特許法第 78条,35 条1項,79条∼ 82条,176 条,

83条,92条,93条。

z 同法第 77条,78条。

{ 同法第 98条2項,99条3項。

| 同法第 35 条1項,79条。

} 商標法第2条1項。

~ 同法第1条。

� 同法第3条2項,32条。

� 同法第 13条2項。

� 同法第 13条の2。

� 同法第 18条1項,25 条。

� 同法第 24条の2 1項。

� 同法第 46 条,51条。

� 同法第 50条。

� 同法第 24条の2 2項3項4項,35 条。

� 同法第 25 条,37条。

� 同法第 30条,31条,26 条,32条,32 の2条,33

条,33条の 2,33条の 3,59条,60条。

� 同法第 53条。

� 同法第 30条,31条,32条,32 の2条,33条,33

条の 2,33条の 3,59条,60条。

� 同法第 37条1号,64条。

� 同法第 66 条。

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