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神聖びまきンみ帝国海 軍物語 - syosetu.org · 第六話き最強艦隊タ落日き ... ボ改良ャ受ゥ初期型スダ全ィ異セボ戦闘力ャ獲得ヵぎ現在ビ建造ー行ムき神聖びまきンみ帝国海軍ぎ主力魔導戦艦かゐみそ級く全長214.6mゼビ及デェタし流石かゐみそ級ぎ純金タ大奮発ゲセくじわケく

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神聖ミリシアル帝国海軍物語

凡人作者

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【注意事項】

 このPDFファイルは「ハーメルン」で掲載中の作品を自動的にPDF化したもので

す。

 小説の作者、「ハーメルン」の運営者に無断でPDFファイル及び作品を引用の範囲を

超える形で転載・改変・再配布・販売することを禁じます。

  【あらすじ】

 これは、かつて世界最強と言われた帝国の海軍の話である。彼等は自称最強国家だの

と罵倒され、貶されようとも一人一人が帝国の名誉の為に身を呈して戦った。

 これは語られる事のない、海の騎士達の物語である。

   神聖ミリシアル帝国に、何故かかっこよさを感じた為にこの小説を描きました。

ちょっとした気分で書いた小説の為、一応短編とさせて頂きます。

 疑問に思った事、質問したい事があれば感想欄でお願いします。解説と言う名の言い

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訳を返信しますので。

 今の所思い付くタグが余り無いので、何かあり次第タグを追加します。

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  目   次  

────

第一話 世界最強の艦隊 

1

────

第二話 第5爆撃戦闘団 

11

──────

第三話 精兵の意地 

24

───

第四話 太陽の騎士は沈む 

35

─────

第五話 ヘルダイバー 

46

────

第六話 最強艦隊の落日 

57

第七話 カルトアルパスの守護者 

──────────────────────────────────────────

72

─────

第八話 ファイターズ 

82

─────────

第九話 死闘 

94

──────

第十話 巣立ちの時 

104

────

第十一話 大海戦の前日 

115

───────

第十二話 前哨戦 

125

──

第十三話 ターキーシュート 

135

─────

第十四話 ハゲタカ共 

146

第十五話 STRIKE GROUP 

──────────────

8 

159

────────

第十六話 激戦 

169

──

第十七話 空の王者よ、前へ 

180

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第一話 世界最強の艦隊

  神聖ミリシアル帝国海軍

 戦艦『ガラティーン』

 マグドラ群島にある海軍基地にて、一人の士官が埠頭を歩いていた。目指す場所は、

静かに佇む大型戦艦3隻。

 この巨艦達が作り出す影が埠頭を黒く染め上げ、どこか陰鬱な雰囲気を作り出してい

た。

「これが、戦艦ガラティーンか。」

 士官は一度立ち止まり、そして静かに一言呟いた。彼は見上げる戦艦へ、新しい職場

への期待の目を向けていたのだった。またゆっくりと歩き出した時、下士官の一段の横

を通り掛けた。下士官たちは士官に気付き、そして慌てて談笑を止めて敬礼した。彼も

それに気付いて、微笑みながら敬礼を返す。

「それにしても、魔導艦って表面が綺麗だなぁ。」

 殆ど継ぎ目が見えない舷側は、神聖ミリシアル帝国の高い溶接技術を物語っていた。

そしてチラチラと見える金色の粒が、この戦艦の装甲に使用されている素材を主張して

1 第一話 世界最強の艦隊

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いた。

「流石ゴールド級、純金の大奮発だな。」

 神聖ミリシアル帝国海軍、主力魔導戦艦ゴールド級。全長214.6mにも及ぶこの

戦艦は、度重なる改良を受け初期型とは全く異なる戦闘力を獲得し、現在も建造が行わ

れている。

「これが、38.1cm連装砲………………。」

 この戦艦の最大の特徴は、世界最強の打撃力を持つ霊式38.1cm魔導砲を装備し

ている事だろう。射程18.35KM(34km)を誇る大蛇は、世界各国に畏怖の念

を持たれている傑作主砲だ。

「あ、精霊だ。」

 内部で遊んでいる精霊が、砲身から見え隠れする。この戦艦の主砲が何故『霊式』と

呼ばれているのか、それは砲弾が精霊の加護を受けて発射されるからである。

「アーサー?貴方アーサーじゃない?」

 つい精霊に目を奪われて居たが、横から女性に声を掛けられ、視線を移した。そこに

は金髪碧眼で、エルフ特有の長い耳の女性が居た。彼女の名はエミリー・コリンズ、海

軍大尉でガラティーンのレーダー官を勤めている。

「やっぱりアーサーだ!貴方もこの艦に配属されたのね!!」

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 甲高い声を響かせながら、エミリーは彼に小走りで近寄った。嬉しさで破顔し、元気

の良さが彼女から溢れている。

「あぁ、久し振りだねエミリー。トーマスは元気か?」

「えぇ勿論!!相変わらずバカなことやってるわ。」

 彼女から親友の息災を聞き、彼アーサー・カニンガムはとても嬉しく思った。そして

親友がバカをやっているとは、相変わらず面白い奴だとも感じたのだった。

    「本日中央歴1642年4月22日、アーサー・カニンガム海軍大尉の着任を認める。よ

うこそガラティーンへ、全乗組員を代表して歓迎するよ。」

 そう言ってガラティーン艦長のバーソロミュー・ワイアット海軍大佐は握手を求め、

アーサーはそれに答えた。

「第零魔導艦隊の名に恥じぬよう、決して驕る事無く、粉骨砕身努力致します。」

「うむ、貴官の今後の活躍に期待するよ。」

 アーサーの抱負を、バーソロミューは微笑んで激励した。そして懐かしむように、彼

3 第一話 世界最強の艦隊

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にゆっくりと昔話を語り掛けた。

「五年ぶりだな、相変わらず君は生き生きとして頼もしい物だ。海軍士官学院の頃と変

わらないではないか。」

「あの時に艦長には、士官のなんたるかを叩き込まれましたよ。鬼の教官ワイアットと

は、トーマスが名付けた渾名でしたね。」

 鬼の教官か、アイツめ後でトイレ掃除をさせてやろうかとバーソロミューは楽しそう

に呟いた。やっぱり容赦ない鬼教官かと、アーサーは口には出さず苦笑する。そして軽

く雑談を交わし会い、本題へと切り出した。バーソロミューは先程の好中年ぶりから一

転、鷹の目のように目を細め、厳しい軍人の顔となる。アーサーも知らず知らずの内に

気を引き締める。

「さて本題に入る、我々は明日出港する。理由は解るな?」

「先進11ヵ国会議ですね。」

「そうだ。」

 先進11ヵ国会議、それは二年に一回開催される国際会議の事だ。各文明国の有力

国、すなわち列強国や地方の大国が呼ばれる名誉ある会議である。第零式魔導艦隊は、

この会議が開催される時期にこのマグドラ群島沖で訓練に勤しむのである。この時期

特有の霧が薄い日ではあるが。

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「今回はイレギュラーが多い、最大限の注意を払った訓練する事となるだろうな。」

「日本国と、グラ・バルカス帝国ですね。」

「うむ。この二か国は相当ヤバイ。方や列強のパーパルディアを下し、方やレイフォル

を征服した。実力は未知数と言った所だ。」

 日本国とグラ・バルカス帝国は、ほんの三年でいきなり出現した新興国家である。技

術力は相当な物で、ほぼ無傷で列強に勝利した事から、第一文明圏相当の科学力が有る

と予想されて居るのだ。それを力強く、そして淡々と語るバーソロミューからは、殺気

めいた雰囲気が出ていた。それを見たアーサーは、事の重大さを知る事となる。

「海軍上層部では楽観視されているが、もし戦争となれば中々厄介な事になるぞ。気を

引き締めたまえよ?」

「ハッ!了解しました!!」

 そしてアーサーは艦長室を退室し、戦争になればどうなるのだろうか?もしかすると

戦死するかも知れないと考えるのであった。

   中央歴1642年4月23日

「いやぁ〜、今日は絶好の訓練日和ですなぁ。艦長?」

5 第一話 世界最強の艦隊

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 何処か軽薄気味な言葉が、バーソロミューに向けられた。発言主の名前はトーマス・

ベイカー海軍大尉、ガラティーンの航海士官を勤める男である。刈り上げた茶髪が制帽

の中に隠されており、タレ目の茶色い目が彼のトレードマークである。

「そうだな大尉。霧が薄く立ち込めては居るが、昼になれば晴れるだろうな。」

「そうなれば早速砲術訓練ですな、アーサー初の仕事となるでしょうな。」

 披露されるであろう親友の腕前に、トーマスは期待を寄せていた。海軍次席のエリー

ト様はどう活躍してくれるのか、先に第零艦隊に所属していた彼はワクワクしていたの

だった。

「ま、初日でヘマをやらかしたトーマスよりかは、上手くやるでしょうね。」

「おっと?初日で緊張しまくったエルフさんが何か言っとりますな?」

「なによぉ?この減らず口!!」

「自己紹介か?」

 そしてエミリーが発端となり、二人の口喧嘩が艦橋で起こった。ガラティーン配属さ

れて以来のこの喧嘩に、艦橋スタッフは慣れてしまった。そして慣れによって余裕が生

まれたのか、古参スタッフは彼等を微笑ましく見つめるのであった。

「止めんか、夫婦喧嘩はそこまでだぞ。」

「ハァイィ?!夫婦ぅ?コイツとですかぁ?!」

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 口喧嘩に苦言を漏らしたのは、ガラティーン副長のパーシヴァル・レッドフォード海

軍中佐であった。鬱陶しそうに彼が放った言葉がエミリーを刺激し、さらにパーシヴァ

ルをも巻き込んだ口喧嘩に発展する。これまた何時も通りと、艦橋スタッフはまた思う

のであった。

「たくもぉ〜…………………、ん?」

 口喧嘩に疲れたエミリーがレーダースクリーンへ目を向けると、先程までになかった

光点が浮き上がっていた。方位は9時、距離にして32.4NM(約60km)である。

 ミリシアル帝国が運用する魔力探知レーダーは、文字通り敵艦船や敵航空機に乗り込

む人間の魔力を探知して、搭乗員数に応じて光点が大きくなったり小さくなったりする

レーダーだ。

 戦艦クラスの光点が2、重巡クラスの光点が3、魔導船(軽巡)クラスの光点が2、小

型艦(駆逐艦)クラスの光点が5の12隻。光点の中にゴールド級クラスの光点が混

じっているが、付近にミリシアル帝国の艦隊が通行する予定は無い。

 彼女は国籍不明艦隊を探知した事を、慌ててレーダー長の少佐へ報告した。

「対水上レーダーに感!!9時の方向より艦影が接近。速力27ノット、距離32.4N

M。艦艇数12隻です!!」

 突然の報告により、コーヒーを飲んでいた少佐はカップをデスクに置いた。そしてエ

7 第一話 世界最強の艦隊

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ミリーに確認を取る。

「何、27ノットだと?ムーの艦艇では出せない速力だぞ、間違い無いのか?」

「間違いありません、たった今速力29ノットに上昇しました。」

 一体どういう事だ?艦橋スタッフは皆困惑した。これはムーの艦艇で無いのは明ら

かだ、彼等の主力戦艦の『ラ・カサミ』級にそんな能力は無いからだ。するとエミリー

の隣に座る同僚の魔導通信士官、クレア・マッケンジー海軍大尉が血相を変えて報告を

上げた。

「旗艦コールブランドより通信!『グラ・バルカス帝国艦隊接近、全艦第1種戦闘配置、

これは訓練ではない!!』」

 それを受けてバーソロミューは、腹の底から声を上げた。彼のダミ声が、艦橋スタッ

フに緊張を走らせたるのだ。

「総員第1種戦闘配置、これは演習にあらず、これは演習にあらず!!」

「対水上戦闘ヨーイ!!繰り返す、対水上戦闘ヨーイ!!」

 艦長の命令を、副長が、航海長が、砲術長が復唱し、末梢神経たる全乗組員に伝わっ

た。それを受けて各乗組員は日頃の猛訓練の賜物か、ほんの数分で戦闘配置を済ませる

のだった。

「副長、どう思うかね?」

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「時刻的には、まだ先進国11ヵ国会議は開催中です。流石にこの時期に戦闘行動を取

るのは、グラ・バルカス帝国の心象をさらに悪くするだけです。何しろレイフォル首都

に艦砲射撃を仕掛けた上に、イルネティアを占領した後ですから。」

 うむ、最もだとバーソロミューはパーシヴァルの意見に頷き、そして続けた。

「だがそれを狙った先制攻撃だとしたらどうするかね?」

「まさに命知らずと言った所ですな。我々ミリシアル帝国は世界最強であり、世界の盟

主であります。それに奇襲を仕掛けるとは世界各国に喧嘩を売るのも同意義、彼等の行

動は蛮勇でしかありません。」

 まぁそうなるなとバーソロミューは会話を切り、双眼鏡を覗き込んでグラ・バルカス

帝国艦隊を見つめた。敵艦隊からは黒煙がもうもうと立ち込めている。ムーと同じよ

うに、石油燃料を激しく燃焼させた時にできる黒煙だ。

 我がミリシアルは液状魔石を燃焼させているために煙が全く出ない、出るのは魔素だ

けである。故にミリシアル帝国と列強二位のムーには大きな壁が有ると言っても良い。

敵の戦艦は中々に大型だが、機関の能力は我々に劣るのだろう、よくて互角程度か。そ

うバーソロミューは、グラ・バルカス帝国のオリオン級を評価した。

「後方より機影接近、この反応はジグラントIIです。」

「海軍基地航空隊が到着したようだな…………。さて、何処まで活躍してくれるかねぇ

9 第一話 世界最強の艦隊

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…………。」

 エミリーからの報告に、トーマスは呟いた。何処まで活躍するかと言ったが、彼自身

はそこまで海軍航空隊に期待を抱いては居なかった。何故ならミリシアル帝国では大

艦巨砲主義が横行しており、海軍飛行隊は何時も割りを食っていたのだ。確かに、彼等

が運用する520kg爆弾では、装甲強化した戦艦の主要部(バイタルパート)は貫通

出来ない。もし仮に装甲強化前に貫通出来たとしても、機関室や弾薬庫に直撃しなけれ

ば致命傷にもならないのだ。これは地球でも言える事であり、戦艦を沈める事が出来る

のは、魚雷を持ってして水線下部に打撃を与えなければいけない。魚雷を持っていない

ミリシアル帝国が航空機が戦艦を撃沈出来ないと言うのも、あながち間違いでは無いの

である。

 そして、ミリシアル海軍航空隊への対空砲火が、マグドラ沖海戦の始まりを告げたの

であった。

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第二話 第5爆撃戦闘団

  中央歴1642年4月23日

 神聖ミリシアル帝国海軍

 南部戦闘機軍団 第25航空師団

 第5爆弾戦闘団

『第5爆撃戦闘団、スクランブル!!繰り返す、第5爆撃戦闘団、スクランブル!!』

 無機質なアナウンスが、パイロット達の宿舎に響き渡った。それを受けて彼等は飛行

服に着替え、ヘルメットを被りながら『ジグラントII』のコックピットへと飛び乗っ

た。

『ジグラントII』とは、神聖ミリシアル帝国が運用するマルチロール戦闘機である。

 その性能は最大速度510km、巡航速度410kmであり、爆弾積載量は600k

gまである戦闘機である。

 旧式戦闘機ではあるが、それでもムーの保有するマリン(最大速度380km)、列強

が保有するワイバーンロード(最大速度350km)を圧倒している。

 ミリシアルが世界最強であったと自負しても仕方がないスペックを保持し、魔導戦艦

11 第二話 第5爆撃戦闘団

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と並んで世界各国に恐怖を抱かれている戦闘機なのだ。

 ちなみにこの性能は、現実世界のアメリカ海軍のSBDドーントレスより高性能であ

り、爆弾積載量を除けばSB2Cヘルダイバーより高速である。

 WW2時点では優秀な艦上爆撃機と言えるだろう、ジェット戦闘機としては落第点で

しかないが。

「ヘンリー、お前はジェシカと共に俺の列機を作れ。」

 第5爆撃戦闘団の第2飛行隊隊長であるオメガ・ミラー少佐は、若手のパイロット二

人に指示を出した。

「「ウィルコ!!」」

 二つ返事で返答した二人の名前は、片方がヘンリー・ウィルソン少尉、もう片方がジェ

シカ・トンプソン少尉である。

 ヘンリーはエルフであるため、ロング赤毛から長い耳が見え隠れし。ジェシカもヘン

リーと同じ赤毛だが、此方はエルフじゃないし、短髪なので雰囲気が違う。

 二人とも20台前半の新米パイロットで、訓練もそこそこの兵士であった。

 実はこの第5爆撃戦闘団は定員割れを起こしており、しかも練度は低く半ば訓練部隊

と化しているのだ。

「お前ら絶対に俺の傍を離れるなよ?そして死ぬな、それが命令だ!!」

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「了解、敵戦艦を沈めてやりますよ!!」

「と、取り敢えず任務を果たします!!」

 全く正反対の反応が二人から帰ってき、オメガは二人の成長が楽しみになった。無

論、生き残る事が最優先である。

 まぁ大丈夫だろう、対空砲の命中率はとても低い、第零式魔導艦隊ですら録に当てら

れないのだ。大丈夫だと、オメガは自分に言い聞かせるのであった。

『第5爆撃戦闘団、離陸始め!繰り返す、離陸始め!!』

 そしてオメガ達は、マグドラ群島から飛び立った。目指すは敵艦隊、航空隊の底力を

見せてやると行き込んで鷲達は3000mの空を猛進するのだった。

        

13 第二話 第5爆撃戦闘団

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    「クソ!!、ヘンリー、ジェシカ、まだ生きてるか?!」

「こちらヘンリー機、まだ生きてます!!」

「こ、こちらジェシカ機、辛うじて。」

 オメガ達第5爆撃戦闘団は、敵艦隊の対空砲火により苦戦を強いられていた。

 距離14000mより40口径12.7cm連装高角砲や、駆逐艦の50口径12.

7cm連装砲の対空射撃を受けており、一機、また一機とジリジリ削られていた。

 そして気が付けばいつの間にか生き残っていたのは、自分を含めて20機であった。

 対空砲の命中率はとても低い為、5機の損失で押さえられた。しかし前方を飛行して

いた戦闘団隊長のアーウィング中佐は、対空砲の直撃を受けて戦死してしまった。

「こちら代理指揮官のオメガだ、全機爆撃開始!!墜とされた味方の仇を取れ!!」

 そして部下11機から了解との返答が帰った、先ず一番槍はオメガが務める。古参兵

たる彼が一番目に攻撃し、後続の11機はそれを修正していって戦艦に打撃を与える。

 目標はオリオン級戦艦『ペテルギウス』。狙われていると認識した彼女は、その重い図

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体を左へのたうつ。

「ヨーイ…………、テェ!!」

 オメガ機から、願いを込めた一撃が放たれた。520kgは『ペテルギウス』へと落

下して行き、そして外れて水柱が上がった。

「クソがぁ?!」

「隊長、次は俺が行きます!!」

 二番目に突入したヘンリーも、オメガに続いて爆弾を投下したがこれも外れた。相変

わらずの練度不足が、ここに来て響いてしまったのだ。ヘンリーはコックピットの中で

激しく悔しがった。

「つ、次は私が!!」

 三番目のジェシカ機は、恐怖からか通常より高い高度で投弾してしまった。しかしそ

れのお陰か、『ペテルギウス』の甲板に命中。薄い木製の甲板を貫き、中甲板の主装甲部

分でストップして爆発した。

『ペテルギウス』からは、第零艦隊からも見える程の爆煙が上がった。

 なお500kg程度の航空爆弾は、日本海軍のを参考にすると。99式50番通常爆

弾が炸薬200kgで70mm、2式50番通常爆弾が炸薬56.33kgで80〜1

20mmだったりする。

15 第二話 第5爆撃戦闘団

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 ジェシカが当てた520kg爆弾がオリオン級『ペテルギウス』の主要水平装甲を貫

通できなかったのは仕方が無かったのだ。オリオン級と同じ金剛型は、水平装甲127

mmなのだから。

「や、やった………………。うぎゃ?!」

「ジェシカ?!」

 そしてジェシカ機の主翼部分に、25mm機銃弾が直撃。しかし幸い彼女の『ジグラ

ントII』は、主翼から燃料が白い尾を引いているだけで撃墜には至らなかったのだっ

た。

 なお、臨時の大尉が指揮する第1飛行隊は、戦艦『プロキオン』に急降下爆撃を敢行

した。結果は前弾命中せずとなり、初戦にしては散々な結果となった。

「クソッ、命中1かよ!!」

「まぁ、こんな時も有りますよ隊長。」

 思わず毒づいたオメガを、ヘンリーは慰めるのであった。もっとも彼も愚痴の一つや

二つは言いたくなったのではあるが。

「命中はジェシカだけか、ジェシカ流石だぞ。誇ってもいい。」

「ま、まぐれですよぉ。」

 オメガからの激励に、ジェシカはまぐれだと謙遜する。卑屈に近い謙遜ではあるのだ

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が。

 しかしオメガは例えまぐれでも、ジェシカは凄いと思っていた。戦場では砲弾やら銃

弾やら、爆弾やらの命中率は一桁台にまで落ちるからだ。

 おまけに敵からの対空砲火を受けながらも投下し、爆弾を命中させたジェシカは光る

物が有ると言えるだろう。

 オメガは、この二人の新米パイロットの将来に、更に希望を抱くのだった。

        神聖ミリシアル帝国海軍

 戦艦『ガラティーン』

 「やっぱり駄目だったかぁ……………。」

17 第二話 第5爆撃戦闘団

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「大尉、言葉を選びたまえよ?」

「5BF─023と番号が振られているジグラントは、凄かったんですがねぇ〜。」

 トーマスの落胆した言葉に、パーシヴァルは注意した。言葉を選べと言う発言から、

彼も航空隊にそこまで期待して居なかったようだ。

「やはり、海戦は私達が決着を付けねばな。総員傾注!!」

 バーソロミューは艦長席に据え付けてある艦内魔信を繋ぎ、艦内全域で任務に当たる

乗組員へ演説を行った。

「総員、これより我が艦は敵艦隊と戦闘状態に入る。日頃の猛訓練の結果を示すチャン

スでる。ミリシアルは各員がその義務を尽くす事を期待するだろう!!交信終わり。」

 そしてバーソロミューは艦橋を見回した、何名かは笑いを堪えている状態である。何

故ならこの演説は、ミリシアル帝国海軍にとって有名な海軍提督が言った言葉なのだ。

「フッ、私には似合わない言葉だったかな?」

「いえ、中々様になっていましたよ。艦長。」

 苦笑したバーソロミューへ、すかさずパーシヴァルがフォローに回る。数年間一緒に

この戦艦で勤務していたからこそ、色々とわかる物が有ったりするのだ。

「砲術長より射撃方位盤へ、砲術長より射撃方位盤へ。アーサー大尉聞こえているか?」

「ハッ!!」

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 砲術長の少佐が、射撃方位盤で勤務しているアーサーへ艦内魔信を入れた。海戦を前

にして、彼に一つ渇を入れようとしているのだ。砲術長の言葉を待つアーサーに、緊張

が走る。

「お前の腕の見せ所って訳だ、士官学院二位の実力とやらを見せてもらおうか?」

「ご期待に添えれるよう、努力致します!!」

「おう、それで宜しい。」

 砲術長からの魔信を切り、アーサーは目の前にある方位盤に視線を移した。第零艦隊

の名誉の為にも、第一射で莢叉に持ち込まなければならない。とても責任重大だ、射撃

トリガーにかける指に自然と力が入る。

 そして誰かが唾を飲み込む音が聞こえた気がした、思わず周囲に目を向けると砲術士

達が顔を強張らせていた。

 如何に猛訓練を行おうと、実戦自体は初めての者が多いのだ。自分達の実力か敵にい

くら通用するのか、それは未知数と言えるだろう。

 緊張しているのは俺だけじゃないかと、アーサーは軽く安堵するのだった。

   

19 第二話 第5爆撃戦闘団

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 「全艦隊へ、手を止めて聞いてほしい。これより我が艦隊は、神聖ミリシアル帝国海軍へ

第一撃を加える。敵艦隊はミリシアル帝国でも最精鋭と言われる艦隊だ、各員一層、奮

励努力せよ!!交信終わり。」

 グラ・バルカス帝国特務軍より編成された、東征艦隊(第4打撃群《STRIKE 

GROUP 4》)司令マーク・アルカイド少将は、ケイン神王国との運命戦争以来の緊

張をしていた。

 異世界に転移して、初めての同クラスの敵との戦いである。何が起こるのかまるで検

討が付かないと言った思いで、この海戦に赴いていた。

「群司令、緊張しすぎですぞ。もう少し力を抜いたらどうですかな?」

 隣から落ち着きのある声が耳に入ってきた、声の主は第8戦艦戦隊《Battles

hip Division 8》の司令官。ジェラルド・A・アンドロメダ少将からで

あった。

 アルカイドは同じ少将で、実戦経験も同じな彼が何故まったりと出来るのか、とても

不思議に思った。

 それが表情に出ていたのか、アンドロメダは苦笑しながら訳を話す。

「まぁ、個人差と言うことで。」

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「ずるくないか?ソレは。」

「そう言われましてもなぁ……………。」

 ハハハっとアンドロメダは軽く笑う、その様子を見てアルカイドは自分が緊張してい

るのがバカらしくなった。

 気を引き締めるのと、緊張するのは全く違う物だなと、結論付けた時に後ろから声が

響いた。

「お二人方、コーヒーを入れてきましたぞ!!」

「うむ、艦長の淹れるコーヒーは格別だ、待っていたぞ。」

 その声は、この旗艦『ペテルギウス』の艦長を務める、ウィリアム・バーダン大佐で

あった。

 彼の淹れる美味いコーヒーは、『ペテルギウス』のみならず艦隊全員に知れ渡ってお

り。民間の新聞にはインタビュー記事が載るほどの大人気なのである。戦艦『ペテルギ

ウス』に載れば、一度は味わって見るべき逸品と言えるだろう。

「敵艦隊、更に近づーく!!」

「まずは帝国の主砲の射程を知らしめてやるか。主砲射撃準備!射程圏に入り次第、一

斉射せよ!!」

 見張り員の報告を受け、アルカイドは主砲の射撃準備を下令した。それを受けて、

21 第二話 第5爆撃戦闘団

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バーダンが各砲術員に命令を下して行く。

 オリオン級戦艦に備え付けて有るのは、前後合わせて連装4基8門の45口径35.

6cm連装砲である。

 今回は斜めから第零艦隊に近付いて居るために、使用できるのは艦前部の4門のみで

あるが。これは先手を打つためにこの様にしただけであり、第一斉射が終われば直ぐ様

同航戦に持ち込むつもりである。

 なお、45口径35.6cm連装砲の貫通力は

 15000mにて、垂直装甲426mm水平装甲124mm

 20000mにて、垂直装甲358mm水平装甲134mm

 25000mにて、垂直装甲271mm水平装甲157mm

 30000mにて、垂直装甲228mm水平装甲208mm

 となっている。

『ペテルギウス』は35500mより発砲したので、水平装甲の貫通力は208mmを超

える事は間違いないだろう。

 これはサウスダコタ級やアイオワ級の様な、40cm砲戦艦の水平装甲を貫通しうる

威力である。

 もっとも、35500m等と言うような超遠距離では、最新式の射撃レーダーや演算

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装置を持っている現代艦でも直撃どころか挟叉も難しいのではあるが。

 とにかく、マグドラ沖海戦の本格的な戦闘は、『ペテルギウス』の第一射から始まった

のであった。

23 第二話 第5爆撃戦闘団

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第三話 精兵の意地

  神聖ミリシアル帝国海軍

 戦艦『ガラティーン』

「敵艦発砲オォォォォォ!!」

 見張り員の絶叫の様な声が、艦橋内に響き渡った。それを受けてバーソロミューがす

かさず魔力障壁の展開を指示する。

「水属性魔力障壁展開、装甲強化!!」

「アイ・サー!水属性魔力障壁、展開します!!」

『ガラティーン』を青色のほのかな光が包み込んだ。これは対衝撃用の水属性障壁であ

る。ちなみに土属性の場合は装甲自体の硬度を増すことが出来き、強化シークエンスは

ゴールド級の場合、約25秒で装甲強化を可能とさせる。

「敵艦隊の目標、一番艦の『コールブランド』、二番艦の『クラレント』の模様!!」

「我が艦はフリーか。装甲強化解除、主砲射撃用意再開!!」

『ペテルギウス』と『プロキオン』が前方の僚艦へと攻撃を行っている隙に、『ガラティー

ン』は先手を撃ってやろうと目論んだ。

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 目標は比較的近くにいる、二番艦の『プロキオン』である。

「魔砲長より射撃盤へ、主砲射撃用意!!」

「アイ・サー!!主砲に魔力充填、属性比率は、雷72、炎28、砲弾の魔術回路起動!!」

 魔砲長から射撃指揮所のアーサーへ、命令が伝わる。アーサーは各砲塔への魔力構成

を、いい間違え無いようにゆっくりと確実に命令する。

「砲弾の呪発回路に雷82、炎16の比率で注入、魔力充填開始!!」

「魔力充填70%、80%、100%。砲弾の魔力充填完了!!」

 各砲塔長からの魔力充填完了の報告が上がる。ガラティーンは主砲射撃のプロセス

を終えて、漸くアーサーの本来の仕事へと移る。

「魔力探知レーダーから座標計算完了、測距儀による修正開始。仰角31から仰角28、

方位22から方位25に修正。」

 アーサーは射撃方位盤に備え付けてある、方位ダイヤルと仰角ダイヤルを回して、最

終的な修正を終わらせようとする。魔力探知レーダーの様な最新設備を使おうと、いつ

の時代も最後に手を加えるのは人間の仕事なのだ。

 測距儀から見える『プロキオン』には変化が見られない。今頃大慌てで次弾を発射し

ようとしているのだろう。

 だが彼等がこちらに命中弾を与える前に、こちらが命中弾を決めてやる。そうアー

25 第三話 精兵の意地

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サーはいき込んで最終調整を終わらせた。

「演算機からの初弾命中確率、3艦合計18発で23%に変化。発射10秒前、9、8、

7、6、5、4、3、2………………、Fire!!」

 号令と同時に、アーサーは主砲射撃トリガーを引いた。霊式38.1cm連装魔導砲

から、ビームと見間違う様な光が溢れ、砲弾は青白い尾を引いて敵戦艦に襲い掛かった

のだ。

「着弾まであと8秒、7、6、5、4、3、だんちゃーく、今!!」

『プロキオン』の周辺には、青や赤い色をした水柱が上がる。命中弾は無かったが、初撃

にて挟叉を叩き出した。

 これは第零艦隊の練度が高いことの証である、普通は第三射位でやっと挟叉へと持ち

込めるのだから。

「初弾挟叉か、成る程期待通りの実力だな。」

「流石だなアーサー、おめぇはすげえよ!!」

 バーソロミューはアーサーに感心し、トーマスは自分の親友を褒め称えた。艦橋から

も感嘆の声が上がる。

「第2射、発射準備ヨーイ!!仰角修正マイナス1度、左方27度へと修正!!」

「仰角ならびに方位の修正完了、主砲射撃回路に魔力充填、90%、100%。次弾発射

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準備完了!!」

「発射まで5、4、3、2、Fire!!」

『ガラティーン』は敵艦隊の次弾装填よりも早く、第2射の発射に成功した。遅れて東征

艦隊からも第2射が発砲される、見張り員がそれに気付いた。

「敵艦隊、更に発砲!!」

「再度魔力障壁展開、属性そのまま!!」

 東征艦隊の第二射もこれまた命中弾が無かった、この結果により、我々の練度は並み

と言う事かと、アルカイドは落胆したのだった。

 そして第零艦隊に勝てるのかと不安になり始める、我々はひょっとして負けるのでは

ないかと。

「着弾まで、5、4、3、だんちゃーく、今!!」

 そしてまたもや『プロキオン』の周囲に水柱が上がった。それに紛れて何かが爆発す

る音が上がり、水柱が収まった時には『プロキオン』はもうもうと黒煙を上げるのだっ

た。

「め、命中か!!」

「敵戦艦に命中確認、命中弾を与えたのは本艦です!!」

 見張り員の報告により、『ガラティーン』の艦内全域に歓声の声が上がった。各所で叫

27 第三話 精兵の意地

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び声が上がる。第2艦橋に、戦闘を見守っていた副砲砲座に、暇を持て余していた機銃

座に万歳、万歳との声が轟く。

「流石だ、アーサー。第2射で当てるとは中々やるな。」

「ハッ!ご期待に添えられて嬉しい限りです。」

「敵戦艦の速力低下、機関室に直撃した模様!!」

『プロキオン』は先程までの30ノットの高速とは一転、26ノットにまで速度を落とし

ていた。右舷機関室の一室に砲弾が貫通したのだろう、苦しそうに航行していた。

『ガラティーン』の38.1cm砲は、今までの35.6cm砲よりも明らかに威力が高

い。

 その貫通力は

 22000mにて、垂直装甲393mm、水平装甲105mm

 27000mにて、垂直装甲331mm、水平装甲138mm

 35000mにて、垂直装甲280mm、水平装甲211mm

 となっている。

 垂直装甲が203mm、水平装甲127mmのオリオン級戦艦にとっては強烈な一撃

であった。何しろ35000mの最大射程から砲弾が貫通してくるのだから。

「敵艦隊、第3射発砲!!」

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「っ?!魔力障壁展開再開!!」

 艦内の喧騒は、見張り員の報告によって中断された。受かれていた気分は、一転して

先程と同じように緊張感で押し込められたのだ。

 ゴゴゴゴゴと特急のような音が近付いて来る、恐らく目標は我が『ガラティーン』に

変更してきたのだろう。艦内全域は迫り来る恐怖に包まれた。

 そして『ガラティーン』の周囲に水柱が立ったのと同時に、船体が激しく揺れた。

「ぬわぁ?!」

「キャア!!」

 敵艦隊が発砲した砲弾の一発がガラティーンに直撃したのだろう、その数秒後にダ

メージコントロール班から連絡が届いた。

「左舷第7ブロックに直撃弾、浸水発生!!」

「なんと!!装甲強化しても貫かれたと言うのか?!」

 バーソロミューは驚愕した。グラ・バルカスの砲弾は、我が神聖ミリシアル帝国と同

等の威力を持っていると言う事である。

 やはり技術力はムーを明らかに上回っている。レイフォルが負けるのも無理はない

話であると言うことだ。

「ダメージコントロール、急げよ!!」

29 第三話 精兵の意地

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「アイ・サー!!」

『ガラティーン』のダメージコントロール班はとても優秀である。あらゆる想定に対処

するための訓練が施されていた。

 むろん、敵砲弾が水線部分を直撃して浸水が起こっても、傾斜と浸水を止める訓練も

行われている。

 3度近く左舷に傾斜していた船体が、みるみる内に元に戻って行った。

「戦闘は継続している、総員気を張れよ!!アーサー、仕返しを食らわせてやれ!!」

「アイ・サー」

 そして、海戦はまだ続くのであった。

    神聖ミリシアル帝国海軍

 重巡洋装甲艦『ロンゴミニアド』

 「敵重巡洋装甲艦接近!!距離10.8NM(20km)」

 第零艦隊所属である、第零巡洋艦戦隊。その旗艦である『ロンゴミニアド』の艦橋で

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は、淡々と見張り員からの報告を集計されていた。それを踏まえて指揮官席に座る女性

は、凛とした声で命令を伝える。

「巡洋艦戦隊各艦に告げる、距離8.1KM(15km)まで引き付けなさい。」

「アイ・サー!!」

 彼女は、エレイン・ペンウッド海軍少将。金髪碧眼であり、エルフの血を引いている

と言われているが、耳は長くない。その顔つきと言葉使いにより冷徹少将との声もある

が、彼女をよく知る者からすると結構なポンコツらしい。

「敵艦………、発砲。」

「魔力障壁展開せよ!!」

 その数十後に、『ロンゴミニアド』周囲に水柱が上がる。しかし挟叉すらしてない事か

ら、各巡洋艦艦長が敵巡洋艦への失望をあらわにする。

「敵巡洋艦はやる気が有るのでしょうか?先程から外れ弾ばかり撃ってますぞ。」

「何らかの意図があるのかもしれませんよ?油断するべからず。」

「アイ・サー」

 エレイン少将はそう判断するが、実際は敵重巡洋艦の練度が低いだけである。タウル

ス級の艦長は3斉射しても挟叉すら与えられない事に焦りを感じているのだが、彼女は

知る由も無かった。

31 第三話 精兵の意地

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「敵重巡洋艦一番艦へさらに命中弾……………、あっ!敵重巡一番艦の傾斜拡大、撃沈確

定です!!」

「うむ、続けて敵二、三番艦へ火力を集中しなさい。」

 そして第零巡洋艦戦隊は更に、グラ・バルカス海軍の第10巡洋艦戦隊《Cruis

er Division 10》を追い込んで行くのだった。

     神聖ミリシアル帝国海軍

 小型艦『マインゴーシュ』

「突撃だ!とにもかくにも突撃しろ!!敵小型艦戦隊を撃滅するのだ!!」

 ストーン級小型艦の艦橋にて怒号を上げるのは、獣人種族のジェームズ・マクスウェ

ル准将であった。

 どこの国でも駆逐艦乗りは気性が荒い者が多い。それはミリシアル帝国海軍の小型

艦乗りでも同じ事である。

「我が戦隊六番艦、ソードブレイカーの被害甚大!総員退艦命令が発令されました!!」

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「海図に沈没地点を記入せい。戦闘が終わり次第救出するぞ!!」

「アイ・サー」

 第零駆逐艦戦隊と第101駆逐隊《Destroyer Division 10

1》は、お互いの距離が7500mになるまでに接近して砲撃し合っていた。数にして

8対5であり、第零駆逐艦戦隊の方が戦力を上回っている。それに駆逐艦の質でも、ミ

リシアルの方が上回っていた。

 ミリシアルのストーン級小型艦は魚雷こそ搭載してはいないが、12cm連装高角砲

を4基8門搭載しており、

 12.7cm連装砲を3基6門搭載のキャニス・ミナー級駆逐艦、エクレウス級駆逐

艦よりも火力で上回っていた。

 そして練度は当然ながらミリシアルの方が勝っている。第101駆逐隊は必死に食

らいついている状況であった。

    グラ・バルカス帝国海軍

 第101駆逐隊

33 第三話 精兵の意地

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「状況が芳しくねぇなぁ?艦長。」

「ミリシアル帝国、侮り難しと行ったところですなぁ。」

 苦々しく艦長へ言葉をかけたのは、アーレイ・B・ブラックスター大佐であった。彼

はアルカイド少将の命を受けて、敵戦艦へ魚雷攻撃を掛けようと突撃したのだが。数で

上の第零駆逐艦戦隊によって近付けないでいたのだ。

 敵駆逐艦が邪魔で魚雷の射点に到達できない。さてどうした物かと考えていた。

 別に、第零駆逐戦隊は魚雷を知ってて妨害している訳ではない。ただ戦艦のデコイに

なろうとして突撃した所に、第101駆逐隊と出くわしただけであった。

 敵戦艦に肉薄して、嫌がらせの砲撃でもしようと思っていたのだが、手頃な敵駆逐隊

が居たために積極的に攻撃して来ただけである。第101駆逐隊にとっては、堪った物

では無かった。

「敵戦艦が見え次第魚雷をとにかくばら蒔いて、当たるのを願うしかねぇか?」

「それ以外に方法が有りそうにありませんなぁ!!隊司令。」

 ブラックスター大佐はこれ以上は戦局が好転しないと判断し、機会があり次第魚雷を

放って撤退すると言う決断をした。その決断は後に『ガラティーン』の運命を決定付け

る事になるとは、まだ誰も思いもしなかった。

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第四話 太陽の騎士は沈む

  神聖ミリシアル帝国海軍

 戦艦『ガラティーン』

「第25通路に直撃弾、火災発生!!」

「第2ブロックに浸水発生、隔壁閉鎖!!」

「左舷副砲群に負傷者多数、看護兵を寄越してくれ!!」

 戦艦『ガラティーン』は先程から集中砲火を受けていた。一度砲弾が命中した事に味

をしめたのか、戦艦のみならず重巡洋艦からも攻撃を受けていたのである。

 舷側に防水区画代わりに配置されていた通路は穴だらけとなり、足の踏み場がなく

なっていた。

 左舷副砲群は元々の装甲が薄いせいか、被害がすさまじい事になっており。15.2

cm単装副砲はひしゃげたり、砲身が中途で無くなってしまったものもある。

「邪魔だ、退け!!」

「負傷兵を蹴飛ばすのか!!」

「こっちの方が死にかけなんだ、仕方ないだろうが!!」

35 第四話 太陽の騎士は沈む

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『ガラティーン』の医務室は負傷兵で溢れかえっていた。被害担当艦じみた事になって

いる為である。

 通路にまで負傷兵が横たわり、廊下は血で本来の色がわからない程である。

「た、助けてくれ、目が見えないんだ……………。」

「殺して、殺してよぉ…………。」

 火災の時に発生した有毒ガスで目が見えなくなった者、あまりの激痛に殺してくれと

懇願する者、意識が無くなって虚ろな目で動かなくなった者と様々である。

 そんな中で軍医や看護兵はトリアージを決めて、一人でも助けようと奮闘していた。

「うぅ、ウエェェ………。グプウゥ…………。」

「おい、大丈夫か。少し休んでも良いんだぞ?」

「いえ、お気遣いなく。それより負傷者を運んで下さい。治療を再開します。」

 あまりの凄惨さに、胃の中の物を吐き出してしまう看護兵もいた。しかし彼等彼女等

はそんな状態でも負傷兵を見捨てないでいた。献身的に負傷者達に尽くす姿は、彼等に

とって天使の様な物であろう。

 なお『ガラティーン』の様に集中砲火を受けている『プロキオン』も、大体似たよう

な事になっている。あちらの方は魚雷とかあるので、浸水に対するダメージコントロー

ルは得意だが、火災や有毒ガスによる被害は大体『ガラティーン』と同じ対処であった。

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「仰角修正、プラス2度。左方85度へ修正…………。」

 射撃指揮所では、アーサーが相変わらず射撃の修正と発射を行っていた。かれこれ三

時間も戦闘を続けている事により、彼の精神は衰弱している。

 同じように勤務していた魔砲士の中には、疲労によって眠ってしまった者もいる。

 砲弾とかの被害こそないが、任務をしている人間への被害は確実に起こっていた。

 そして海戦が起こって二時間と数分たった時、この戦いに大きな変化が生まれた。

 それは『ガラティーン』が放った主砲弾によって、被害が拡大した『プロキオン』が

とうとう撃沈されたのである。

『ガラティーン』が放った38.1cm砲弾は、『プロキオン』の水平装甲を貫通し彼女

の弾薬庫へと飛び込んだのである。多数の弾薬を満載した部屋で砲弾が炸裂したのが、

彼女を一瞬にして海底に引き摺り下ろす原因になった。

 38.1cm主砲弾を12発、20.3cm主砲弾を7発も受けてなお沈まなかった

『プロキオン』は、とうとうその艦歴に終止符を打ったのだった。

 その爆発たるや凄まじい物であり、真っ二つに折れた船体からは巨大なキノコ雲が上

がっていたのだった。

「敵戦艦、轟沈!!繰り返す、敵戦艦轟沈!!」

 第零式魔導艦隊の艦内で、大きな歓声が上がった。比較的怪我が軽い負傷者も、健常

37 第四話 太陽の騎士は沈む

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者にまじって喜びの声を上げる。

「敵艦隊反転、逃げていくぞ!!」

「俺たちの勝ちだ。やったぞ、やったぞぉ!!」

 見張り員は本来の任務を忘れて、狂ったように喜んだ。しかし誰もその事を責める者

は居ない、何故なら見張り員と同じように騒いで居るからである。

「我々の勝利ですな、艦長。」

「うむ、我々は勝った。しかも初戦で勝利しただけではない、我が第零式魔導艦隊は無敵

だと誇示しての勝利である。」

 バーソロミューとパーシヴァルが誇らしく会話しているとき、後ろからエミリーが紅

茶を持ってきてくれた。

 茶葉のいい匂いが、戦闘の疲れを和らげてくれる。トーマスが俺の分は無いのかと聞

いたが、冷たくあしらわれてしまった。その光景をバーソロミューは面白く、パーシ

ヴァルは呆れながら見るのだった。

    

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 「お、お前その写真は…………。」

「そうさ、俺の息子だ!!出港する数日前に生まれたらしいぜ。」

「よかったじゃねえか、お前もオヤジだなぁ!!」

『ガラティーン』の後部艦橋にて、見張り員達が思い思いの談笑に耽っていた。特にある

下士官は、手紙で届いた我が子の魔写(写真)を眺めており。同僚達がそれを祝福して

いた。

「てめぇのカミさんとガキに、勝利を贈ることが出来たな!!」

「あぁ、無事に帰れたら存分に自慢してやるさ!!」

「では、勝利を祝ってこの酒を……………。」

 そしてある下士官がラム酒を取り出した事により、後部艦橋は宴会が開催されたの

だ。本来彼等を掌握する士官でさえも、彼等に混じって飲酒を楽しんでいる。

「……………うん?」

 ある見張り員は、不思議な光景を目撃した。海中を何かが走っている。白い航跡をた

なびかせて『ガラティーン』に近付いて来るのだ。

 見張り員は飲酒のし過ぎだと結論付け、また宴会を再開するのだが。

 唐突に上がった4本の水柱と、船体を大きく揺さぶる衝撃によって、それが見間違い

39 第四話 太陽の騎士は沈む

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ではない事を思い知らされたのであった。

     「な、何が起こったのだ?!誰か状況を報告せい!!」

「ダメージコントロール班より入電!!左舷より浸水発生、先程の比ではない程の海水が

流れ込んで来ているようです!!」

 艦橋で紅茶を楽しんでいたバーソロミューは、突然の衝撃によってカップを落として

しまった。しかし、その後入った魔信によって、その事を気にする余裕は無くなった。

 伝令より報告が入った数秒後、『ガラティーン』は急速に左舷へ傾斜していった。5

度、10度、15度と一秒経つ事に傾斜は拡大して行く、その速さはダメージコントロー

ル班の処理能力を飽和状態に陥れる程である。

「て、敵の攻撃か?!」

「バカな?!敵はもう撤退した筈だ!!発砲音すら聞こえなかったのだぞ?!」

 突然の事態に艦橋は混乱の渦が引き起こされた、誰も彼も現状を把握しきって居な

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い。もはや無法地帯の様な有り様である。しかしこの中で冷静を保っていた男が大き

く渇を入れた。

「静まれぇい、狼狽えるでなぁい!!我々幹部が取り乱しては、誰が指揮を執ると言うのだ

!!」

 その声で艦橋に落ち着きが取り戻された。彼等は本来やるべき任務を思いだし、そし

て『ガラティーン』を救うべく行動を開始したのだ。

 しかし、既に船体へ入り込んだ海水は、処理能力を越えたものである。右舷へ注水し

ようとも傾斜するスピードは変わらず仕舞いであった。

 傾斜は既に30度近くとなっており、物に掴まっていないと立って居られないような

所まで来てしまっている。

 バーソロミューは、非情な決断を下さなければならなくなった。『ガラティーン』に乗

艦する1300名の命を預かる者として、『ガラティーン』を捨てなくてはならない。

「旗艦『コールブラント』へ通信。われ被害甚大、総員退艦命令を下命す。皆の者、よく

頑張ってくれた。有り難う。」

「か、艦長………………。」

 バーソロミューは総員退艦命令を発令した。艦橋では一部幹部が『ガラティーン』を

救えなかった事に嗚咽を漏らした。それをバーソロミューは優しく声を掛けて慰める。

41 第四話 太陽の騎士は沈む

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「皆最善を尽くしたのだ、敵戦艦をやれてガラティーンも満足だろう。ガラティーンは

乗組員を道連れにする事を良く思わないだろうから、彼女が持ちこたえてる間に対艦し

よう」

 と艦橋スタッフを慰めて行くのだった。

「負傷者が先だ、急げよ!!」

「まだ上部格納庫に筏があった筈だ。急いで持ち運べ!!」

 甲板上では総員退艦を受けて、乗組員達が脱出の準備を行なっていた。退艦する訓練

も行われていたので、皆順序よく準備を進めて行く。

 負傷者は内火艇に乗せられて、足早に離脱していく。健常者は筏に乗るなり、右舷側

から海へ飛び込んで泳いで離脱する。

 その脱出した者の中に、バーソロミューは居なかった。彼は艦長として『ガラティー

ン』と運命を共にすると言いったのだ。パーシヴァルの説得も聞かずに艦橋の羅針盤

へ、自分の体をロープで固定した。

「ガラティーンが…………、沈む!!」

「ちくしょう、ちくしょう!!俺たちは何も出来やしなかった!!すまねぇガラティーン

………………。」

 そしてそのまま、『ガラティーン』は艦長と共に、深く静かな海底へと旅だったので

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あった……………。

「勇敢なる戦艦ガラティーンに、敬礼!!」

 救助にきた小型艦と魔導船の艦長は、沈み行く『ガラティーン』へ敬礼した。被害担

当艦となって、その攻撃を一身に受けた『ガラティーン』への勇姿を誉め称えたのであ

る。

 小型艦と魔導船は素早く救難者を救い上げ、それと落とされた『ジグランド2』のパ

イロットと敵側である『プロキオン』の乗組員を拾い上げて、第零艦隊へと合流するの

だった。

       神聖ミリシアル帝国海軍

 重巡洋装甲艦『ロンゴミニアド』

「レーダーに感あり、機械可動式の航空機械らしき機影が多数接近中!!距離およそ27

43 第四話 太陽の騎士は沈む

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NM(50km)、数は………… 200!!」

「何ですって?!」

 エレインはその報告を耳にして、思わず驚愕の声を上げた。普段の彼女とは思えない

程の驚きようであるが、200機もの航空機がやって来たら誰しもが驚くだろう。

 驚かないのは、太平洋戦中の日米海軍位だろう。この世界では初の大規模航空攻撃で

ある。前例の無い数が第零艦隊へと襲い掛かろうとしていた。

「対空戦闘用意、敵航空機を撃ち落としなさい!!」

『ロンゴミニアド』と『アスカロン』に備え付けてある霊式10.2cm連装高角砲が、

魔力探知レーダーと測距儀に連動して敵編隊を睨む。

 アクタイオン25mm対空魔光砲も、砲手が操縦して来るべき航空攻撃に備えた。

 他の艦艇も大体このような感じで、敵の攻撃に備えたのだった。

「魔力探知レーダーに感、後方より機影接近。数は11機、これは友軍の『ジクラント2』

です!!」

「先陣はまたもや航空隊が切るのですね、少しでも敵機を減らしてくれると良いのです

が……………。」

 エレインは何とも言えない不安に苛まれた。彼女は第六感の様な症状が出る事が

多々あり、嫌な予感がすればほぼ必ず悪い事が起きるのだ。

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 ただの思い過ごし、杞憂だと良いのですがと、彼女は願うのだった。

45 第四話 太陽の騎士は沈む

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第五話 ヘルダイバー

  神聖ミリシアル帝国海軍

 重巡洋装甲艦『ロンゴミニアド』

 雲間から小さい黒点が現れ、数分の内に大きくなりつつ数をふやしていった。数にし

て200機、戦闘機、急降下爆撃、攻撃機が第零式魔導艦隊へ向けて直進しつつあった。

どの航空機もミリシアル帝国を抜いて、世界最強の戦闘能力を保持している。

 第一次攻撃隊のみで出撃機数は200機である、恐らく撃ち漏らしを警戒して余力を

持っているだろうから、マグドラ沖海戦で投入されたグラ・バルカス帝国海軍東部方面

艦隊の空母は10隻近くいると思われる。

「数が多いですね、エアカバーの友軍機は?」

「11機らしいです、先程の『ジグラント2』だとか。」

 その言葉を聞いて、エレインは落胆した。とても数が少なすぎる。迎撃能力が飽和し

てしまうではないか。確かに『ジグラント2』は対艦、対地、制空を多目的に行える優

秀機で、最高速度510kmはワイバーンロードの上位種ワイバーンオーバーロードの

最高速度450kmを大幅に凌駕する。

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 しかし先程の戦闘で、グラ・バルカス帝国は我が国と同程度の性能を有していた。艦

船の製造能力が高くて、航空機の製造能力が遅れていると言う事も有るかもしれない

が、それでも200機と言う数は恐ろしい物である。

「戦隊司令、作戦行動中の軍艦が航空機に撃沈された事例はありません。」

 戦隊の主席参謀であるアンドルー・キャンベル海軍大佐は、そうエレインを勇気付け

ようと声を上げる。しかしそれは自分にも言い聞かせているだけであった。彼も20

0機の大群を見て怖じ気付いていたのだ。この様に発言する事によって、自分の中の不

安を取り除こうとしているのである。

「………………それは戦艦ならばと言うだけで、巡洋艦や小型艦は充分に撃沈する可能

性が有ると言われているでしょう…………?」

 エレインはげっそりした顔でアンドルーに返答し、そろそろ空戦が始まる空を見上げ

るのであった。

 確かに戦艦であれば、最も装甲が薄いでゴールド級であっても装甲強化前は225k

g爆弾に、装甲強化後では520kg爆弾にも坑堪するだろう。

 しかし重巡洋艦であるシルバー級は、装甲強化後で520kg爆弾に耐えれるかは未

知数と言った所であった。当たり所が悪ければ多大な被害を受ける事になるだろう。

 戦艦にしたって、『ジグラント3』用に完成間近となっている907kg爆弾に耐えれ

47 第五話 ヘルダイバー

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るかは解らないのだ。戦艦の砲弾を参考にして作られている爆弾なので、恐らく航空機

は戦艦を倒しうる火力を手に入れるのではないかと海軍上層部でも持ちきりの話であ

る。

 もし彼等がそれ相当の航空兵装を持っていたら?戦艦が時代遅れになる時が来たら

?もし戦艦を沈めうる攻撃力を持っており、その牙が我々に来たら?

 その様な不安を、エレインは感じ取って居た。

「もし航空機が我が『ロンゴミニアド』を攻撃しようと、我々乗組員の操艦によって回避

してやりますよ。安心してください。」

『ロンゴミニアド』の艦長ロバート・サマヴィル海軍大佐がそう発言した。しかし彼の表

情をよく見てみると、口元は引きつっており額には冷や汗が滲んでいた。人の表情や感

情に敏感なエレインは察した、彼は痩せ我慢しているのである。今までマグドラ群島で

の対空訓練では、軍艦が航空攻撃に対して回避行動を取るのは難しいと結論が出てい

た。

 艦隊防空の主戦力である重巡洋艦、魔導船(軽巡洋艦)、小型艦の対空攻撃も当たり難

い。現に先程のグラ・バルカス艦隊は『ジグラント2』を5機落とすのに留まっている

のだから。

「頼りにしていますよ、艦長。」

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 エレインはロバート艦長を勇気付ける言葉しか、掛けることが出来なかった。

       神聖ミリシアル帝国

 第5爆撃戦闘団

「ジョセフ、ジェシカに代わって俺の三番機となれ。」

「ま、待って下さい、私も行きます!!」

「主翼が穴だらけになった航空機でか?」

 オメガが下した指示に、ジェシカは大慌てで噛み付いた。しかしオメガが下した判断

は、とても理にかなった判断であった。損傷が見られる航空機に先程の戦闘で及び腰に

なってしまったパイロットを乗せて戦場へ送り込んでも、ただ味方の邪魔になるばかり

か時間を書けて育て上げたパイロットを損耗するだけの結果になるだろう。

 それを解った上でジェシカはオメガに反論していた、自分だけが安全な所に居るのが

49 第五話 ヘルダイバー

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彼女にとって苦痛だったのだ。

「まぁ解ってくれよ、隊長の苦悩もさ。別にお前をハブりたいから止めてるんじゃない。

お前の事を考えて判断しているんだからさ。」

 ヘンリーがジェシカに隊長の事も考えろと諭し出した・今までオメガ、ヘンリー、ジェ

シカの三人で編隊を組んでいたから彼女の事も解らなくも無かったし。彼女が反論す

る事の本質も彼は理解していた。

「大丈夫さ、俺と隊長はお前を残して行きやしないさ。代わりの機体が工面でき次第、第

二部隊として俺達を追いかけてくれよ?」

「べ、別にそんなつもりなんかじゃ………………。」

 それはジェシカが航空魔導学院でのあるトラウマが、彼女が口答えする遠縁になって

いた。彼女は訓練兵時代、親友を事故で亡くしているのだ。

 自分の機体が不調であった為、その時の訓練はお預けになったのだが、その日彼女の

親友が代わって三番機を務めたのだ。そして彼女の親友は空間失調症となり、海面へ自

ら激突して死亡した。

 その日以来彼女は、親友に自分の不幸を擦り付けと謂れの無い中傷を浴びせられ。後

に自分の上官となるオメガに拾われる事となる。

 そして彼女はオメガの指導の元めきめきと実力を伸ばしていったが、トラウマによる

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気の弱さ、相変わらずと言ったところであった。

『第5爆撃戦闘団、発進せよ!!繰り返す、第5爆撃戦闘団、発進せよ!!』

「さて、もう時間か。ジョセフ俺の背中を今回は頼んだぜ!!」

「おう、任せてくれよ!!」

 そしてオメガ達は『ジグラント2』へと飛び乗り、200機の攻撃隊から第零艦隊を

守るために大空へ飛翔して行くのだった。

       しかし現実は非情である。意気揚々と敵編隊に襲い掛かった『ジグラント2』は戦闘

機どころか、グラ・バルカス帝国の艦上爆撃機である『シリウス』にすら追い付けずに

艦隊防空圏への侵入を果たしてしまった。

 まぁこれは仕方がないとしか言えないだろう。『シリウス』は地球で言う所の艦上爆

撃機『彗星』でありWW2最速艦上爆撃機として有名な機体なのである。

51 第五話 ヘルダイバー

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 最高速度510kmの『ジグラント2』が、最高速度530kmの『シリウス』に追

い付ける筈がない。

 もしこの様な自機と同等、もしくは僅かに速い敵機を攻撃するには待ち伏せての奇襲

でしか打撃を与えられないだろう。

 ただし航空機と言うものは反復して攻撃を仕掛けるには、敵機より1.5倍のスピー

ドが必要と言われている。なので仮に『ジグラント2』が奇襲を成功させても、二回目

は攻撃できないのである。まぁ奇襲が失敗しているので、関係ないのだが。

 神聖ミリシアル帝国海軍

 第零式魔導艦隊

「航空隊の奴等、やる気があるのかよ?!」

「彼奴ら爆撃機の防御機銃が怖いんじゃないのか?」

「ケッ、腰抜け野郎が。地上では散々威張り散らしてるって言うのによ!!」

 実際は『ジグラント2』が遅いだけなのだが、艦艇乗組員からはそんな事がわかる筈

もない。なのでこの様な心無い罵声が航空隊に浴びせられたのである。パイロット達

にこの声が聞こえていたら、任務を放棄して味方艦隊に機銃掃射で返答しただろう。

「敵機急降下、さらに近づく!!」

「対空戦闘用意、魔力充填70、80、100%、連射モード切り替え完了!!属性比率雷

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14、風65、炎21、自動呪文詠唱完了!!」

 神聖ミリシアル帝国が保有する対空魔光砲は、それなりに高性能な対空機銃である。

もう既に運用されていない第一世代イクシオン20mm機銃は、毎分350発と地球の

エリコン20mm機銃と同じ連射力を誇っている。威力は勿論エリコン20mmと同

じで、有効射程は918mと短い。

 これを改良したのが、アクタイオン25mm機銃である。

 アクタイオン25mm機銃は発射速度こそ230発に低下したが、打撃力は段違いに

向上してあり。有効射程は一世代イクシオンより大幅に向上した3500mである。

 ミスリル級戦艦に備え付けられた連装26基52門の25mm機銃が、迫り来る敵機

を睨む。

「魔導整形砲弾、時限魔術回路榴弾へ弾種変更!!」

「アイ・サー」

 時限魔術回路榴弾とは、霊式魔導砲の為に作られた普通の榴弾である。弾殻が薄く作

られており、大量の炸薬と破片で攻撃を行う砲弾で、対空戦闘と対地攻撃の両方を行う

のだ。

 時限魔術回路榴弾は、38.1cm、20.3cm、15.2cm、10.2cmの

各砲に装填され、ゆっくりと砲身を敵編隊に向けた。

53 第五話 ヘルダイバー

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「魔力探知レーダーより報告、距離10.8NM(約20km)を切りました!!」

「主砲、発射準備完了。魔力探知レーダー及び測距儀から座標計算完了。仰角42、方位

左95、初弾命中確率2艦12発で1.5%。」

「命中確率1.5%か。」

 第零艦隊の艦隊司令バッティスタ・マウントバッテン中将は、あまりの命中率の低さ

に焦りを覚える。

 敵急降下爆撃機は曲がりなりにも戦闘機である『ジグラント2』より高速である事か

ら、相当な高性能爆撃機だと予想される。そのため敵にほぼ一方的に殴られる可能性が

ある、航空機に戦艦が沈められる事例は無いとは言え相当な被害を被るのでは?と心は

不安で鷲掴みにされた。

「主砲対空戦闘、撃ち方始め!!」

「うちーかたーはじめー!!」

 戦艦『コールブランド』、『クラレント』から一斉に38.1cm榴弾が12発発射さ

れた。それを受けて、副砲から15.2cm砲弾が6発、第零巡洋艦戦隊から20.3

cm砲弾が16発、第零魔導艦戦隊から15.2cm砲弾が36発発砲される。

 計70発の内、数発が敵編隊の内部で爆発すれば良い方であろう。数秒後砲弾内の魔

砲燃料によって、赤や緑と言ったカラフルな爆発が起きた。そして70機の『シリウス』

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爆撃機の内、6機が中途で火の玉となったり、赤い尾を引いて急速に海面へと墜ちて

いった。

「敵機撃墜数、6機!!」

「たったの6機か!!」

 対空監視員からの報告に、『コールブランド』艦長のリチャード・クロムウェル大佐は

思わず怒鳴り付けた。彼も対空射撃の命中率が低い事は知ってはいるのだが、それでも

怒りをぶつけなければ気がすまなかった。

 実際の所、まぐれでは有るとは言え、第零艦隊の対空射撃の命中率は先程近接信管を

用いて砲撃した東征艦隊より高いのだが、彼等には何の慰めにもならなかった。

「我爆撃ポイントに入った、投下よーい!!」

「クソッ!機銃の数だけは多い!!」

 64機の『シリウス』は250kg爆弾を3発ずつ抱え、第零艦隊の戦艦と重巡を狙っ

て急降下を開始した。

 急降下爆撃は相当危険な攻撃方法である。攻撃を受ける側から見ればまるで止まっ

ているように見えるのだ。それ故に最も攻撃を受けやすく、撃墜の確率も高まる。例え

射撃管制や測距儀が無くとも、充分に撃墜する事も有り得ると言うのだ。

 かの急降下爆撃で名を馳せた『スツーカ大佐』ことハンス・ウルリッヒ・ルーデルも、

55 第五話 ヘルダイバー

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その人生で高射砲により5回撃墜されているのだ。

「主翼に当たった、助けてくれ!!」

 友軍機が直撃を受けて悲鳴を上げる中を、『シリウス』爆撃隊は勇敢に降下して行く。

度胸勝負となり、何が起ころうと爆弾をぶつけてやると言う意地が彼等にはあった。

 そして高度600mにて爆弾を投下、250kg爆弾は『コールブランド』の副砲搭

目掛けて落ちていった。

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第六話 最強艦隊の落日

  神聖ミリシアル帝国

 第5爆撃戦闘団

 その頃オメガ率いる『ジグラント2』飛行隊は、『シリウス』に取り残された所を後方

から『アンタレス』に追撃された。両機の機体性能はとても隔絶している、元々オメガ

少佐は汎用機と制空機の不利を考えて『アンタレス』との交戦を避けたのだが上手く行

かなかった。

 彼等の『ジグラント2』は最大510km、対して『アンタレス』は零戦52型相当

の性能を持っており最大565kmと55kmもの大差が開いていた。

 普通のプロペラ機ならば、55kmの速度差は何とか挽回できる。実際に零戦52型

は最大610km(実際は570kmとの説あり)のF6F、最大671km(実際は

630kmとの説あり)に対して一方的な勝利をもぎ取ったりする戦歴を持ってのだ。

また零戦より鈍重であったF4Fでも、零戦に対して食い下がる事もあった。

 しかし『ジグラント2』はジェット機である、ジェット機は加速性能や旋回性能がプ

ロペラ機より劣る機体なのだ。ただでさえ『アンタレス』より最高速度で劣り、ジェッ

57 第六話 最強艦隊の落日

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ト機特有の弱点を持っている『ジグラント2』は絶望的な空戦を余儀なくされた。

「オメガ機よりヘンリー機、ジョセフ機へ、俺の後ろに敵機が食い付いた。やれ。」

「ウィルコ!!」

 11機対40機の上機体性能が下回る空戦だと言え、それでも彼等はグラ・バルカス

の戦闘機編隊に気を吐いて戦っていた。オメガの場合はあらかじめ自機を囮にして敵

を引き付け、敵機が躍起になって落とそうとするのを僚機に撃墜させていたのだ。

 オメガの後方を『アンタレス』2機編隊が襲い掛かっていたが、目の前の敵に夢中に

なって後方が疎かになっていた。そこをヘンリーとジョセフが4門ずつの7.7mm

魔光砲を浴びせて攻撃した。

 元々零戦52型は重量とエンジン、時代の関係から防弾を施してなかったのを改良し

た機体である。しかも『アンタレス』はそれよりも高性能な機体である。

 パイロットの背中に設置されていた12mm程度の防弾鋼板と、被弾した穴を塞ぐ防

弾タンクによって7.7mm魔光砲に耐えるのであった。しかし損傷したことに変わ

りが無い事と、敵戦闘機への恐怖から足早に空戦から離脱して行ってしまった。

「チッ、撃墜ならずかよ!!」

「死ぬのと戦果を手に入れる事、お前にとってはどっちが重要なんだヘンリー?」

「どちらともさ!!」

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「この強欲な奴め。」

 オメガ小隊はまだ会話が出来る程度の余裕があった。三機がお互いの視界をカバー

し合い、40機の敵機に囲まれるのを回避していた。他の小隊も似たような所が有り、

ある小隊は『ジグラント2』の高い降下速度(810km)を利用して『アンタレス』の

追撃をかわしたり、戦場を離脱しつつある戦闘機に追撃して確実に撃墜数を稼いだりし

ていた。

 対してグラ・バルカス帝国の航空隊は、チームプレーを無視して突出する傾向が多

かった。出撃した空母航空隊が、第5爆撃戦闘団とどっこいどっこいの低い練度の部隊

を優先して出撃させてたのが原因である。

 大体マグドラ沖海戦は、帝国特務軍司令長官のミケレネス大将が敵の実力を見たいと

言う意向で発生した戦闘である。ミケレネス大将の考えと、グラ・バルカス帝国の戦略

方針が一致した事による出来事でもあるが。

「クッ…………、相変わらず数が多い!!」

「全然キリがねぇぞ……………、グギャッ?!」

 しかし彼等の奮闘も空しく、オメガ隊は一機一機と数を減らして行き。最終的には約

半数の5機にまで減らしてでも戦い続けたが、これ以上戦闘は耐えられないとオメガは

撤退命令を下した。

59 第六話 最強艦隊の落日

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「た、隊長!!俺達が居なけりゃ誰が第零艦隊を守るんですか?!」

「これ以上戦っても無駄死にが出るだけだ、安心しろ!!作戦行動中の戦艦が殺られた事

例は無い、さっさと逃げるぞ!!責任は俺が取る!!」

 こうして『ジグラント2』と『アンタレス』の空戦は、6機の損失を出しただけでグ

ラ・バルカス側の圧勝と言う結果に終わった。この戦闘の情報は東部方面艦隊に報告さ

れ、東部方面艦隊司令長官カイザル・ローランド大将は『神聖ミリシアル帝国、侮り難

し』との言葉を残したとされる。

      神聖ミリシアル帝国

 第零式魔導艦隊

 第零艦隊では、艦隊と航空隊の必死の攻防が繰り広げられていた。第零艦隊は輪形陣

を組んで敵航空隊を迎え撃つ、まるで騎兵の突撃に対抗する方陣の様であった。

 戦艦『コールブランド』と『クラレント』を艦隊の中央に据え、その前方を2隻の重

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巡洋艦が、その後方を同じく3隻の魔導船が占位した。そしてその周囲を8隻の小型艦

が囲み、万全の状態で迎え撃って居たのだ。

 その艦隊から繰り出される数多の砲弾は、見る者に強烈な恐怖心を植え付けるが。グ

ラ・バルカス航空隊は臆さずに突撃して行く、さながら槍衾に突撃する騎士にも見えた。

「敵機が『コールブランド』へ突っ込んで行くぞ!!」

「敵を進ませるな!!機銃、高角砲弾援護射撃せよ!!」

『ロンゴミニアド』の右舷に2基設置された10.2cm連装高角砲が『シリウス』の編

隊へ指向され、一門につき毎分15発、計毎分60発が秒速805mで飛翔した。

 一般的に10cm高角砲と聞くと、皆秋月型の98式10cm高角砲を思い浮かべる

かもしれないが。シルバー級魔導巡洋艦が装備してある10.2cm高角砲は、イギリ

ス海軍のケント級重巡洋艦が装備する10.2cm高角砲と似通った性能を持ってい

る。

「敵機2機を撃墜したのを確認、ただし残り14機は未だに飛翔中!!」

「引き続き迎撃に当たりなさい、何としてでも『コールブランド』へ向かう機数を減らす

のです!!」

 エレインは各重巡洋艦に指示を飛ばし、旗艦『コールブランド』の負担を減らそうと

奮闘していた。何の為巡洋艦か、何の為の基幹戦力か、ここで旗艦を守らずしてどうす

61 第六話 最強艦隊の落日

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るとの意気込みが、各乗組員へと伝搬していった。

 しかし死神は『ロンゴミニアド』にも、命を刈るべく鎌に掛けようとしていたのだっ

た。

「敵機直上、急降下ァァ!!」

「面舵いっぱい、最大戦そーく!!」

 対空監視員の報告を受け、ロバート艦長は反射的に操舵手へと命令した。操舵手は力

を込めて舵輪を回し勢い良く回転した。『ロンゴミニアド』はゆっくりと右へ進路を変

え、『シリウス』から逃れるべく足掻いた。機体から投下された250kg爆撃は3発、

一機目の攻撃は全て回避する事に成功した。しかし続く二機目は『ロンゴミニアド』の

回避コースをしっかり先読みしており、それを踏まえた攻撃が降り注いだ。

「ダメです、爆弾直撃コース!!」

「総員衝撃にそなえよ!!」

 そして『ロンゴミニアド』の甲板に、強烈な閃光が走った。それに遅れて爆発音が轟

き、船体が激しく揺れる。

「わっ?!」

「し、司令!!」

 被弾の衝撃に伴い、艦橋の天井に張られていたパイプが、司令艦席で指揮を取ってい

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たエレインへ落ちてきた。

 エレインの額から血が垂れ落ち、その美貌が赤く染まる。

「私に構うな!現状を報告しろ!!」

「第三砲搭に直撃、第三主砲全損!!」

「右舷第一機銃群が壊滅しました!!」

「機関室より報告、ボイラー室の一部に直撃、機関出力低下!!」

 各部署から悲鳴の様な報告が入ってきた。3発の250kg爆弾により、『ロンゴミ

ニアド』は一瞬にして手負いの獲物にへと変化してしまったのだ。エレインは悔しさで

顔を歪ませる、やはり航空攻撃では重巡に甚大なダメージを与えるのは可能だったの

だ。

「クッ、航空攻撃ここまでとは!!」

「今は嘆いてる暇はありません、代理旗艦を二番艦の『ブリューナク』へ変更すると伝え

なさい。」

「了解!!」

「あぁ!!『クラレント』が!!」

 見張り員の叫び声につられ、艦橋スタッフは『クラレント』が居る方角へ目を向けた。

するとそこには爆撃を受けて景気良く炎上する『クラレント』の艦影が確認された。流

63 第六話 最強艦隊の落日

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石に戦艦である為か沈む気配は無いが、あまりの姿に見る者全てが絶望する。エレイン

は『クラレント』に勤務する一人娘の安全を、密かに願うのであった。

       「敵機、引き返して行きます。」

「こっ酷く殺られちまったな、艦長。」

 その頃第零駆逐戦隊では、ジェームズが疲れた顔で司令艦席に腰を沈めていた。彼の

戦隊も『シリウス』の攻撃に晒され、所属する小型艦の内3隻が沈められてしまった。今

残っている小型艦は4隻であり、彼等は身を呈して主人を守って沈んで行ったと言える

だろう。

 彼が乗艦する小型艦『マインゴーシュ』も、250kg爆撃の直撃によって後部の1

2cm連装高角砲2基が全滅した。速度を維持して航行しているのが奇跡であった。

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「通信によると、第4、第5艦隊が急行しとるそうですよ。」

「間に合わんだろ、それ。」

「ですな、ハハハ……………。」

 ジェームズと艦長は乾いた笑いを漏らした、手負いの主力艦と4隻に撃ち減らされた

小型艦で切り抜けなければならない。今度また同じような攻撃に晒されれば全滅は必

須であろう。

「報告、超低空に魔力探知、左舷35方向。距離24.3NM(45km)、機数82!!」

「ほれ見た事か、コイツらが本命だぞ!!」

「旗艦より全艦180度回頭命令下令!!」

 第零艦隊は艦隊の再編成を終わらせる前に、『リゲル』攻撃機の襲撃を受けた。とても

非常に不味い状況にある。

「対空戦闘再開、使える砲を全て向けろ!!」

 ジェームズは現状出せる命令を伝える、乗組員達と共に生き残る為に全力を出そうと

していた。全ての小型艦が『リゲル』へ12cm連装高角砲を指向し、20mm機銃の

砲手も目の前のレティクルを『リゲル』へ重ねた。

「来るならこい!!全艦撃ち方始め!!」

「シュート、ナウ!!」

65 第六話 最強艦隊の落日

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 一定のリズムを奏でながら、12cm砲弾が発射された。たちまち『リゲル』の周囲

で爆発が起きる、そして色とりどりの魔光弾が降り注いだ。

「クソッタレ、地雷源の中を飛んでいるみたいだぞ!!」

「メーデメーデ!!被弾した操縦不能!!」

 時速370kmで低空を直進する『リゲル』の被弾率は高い、あまり落ちていないの

は元々の対空砲の命中率が低いのとミリシアルの機銃が輪をかけて低いからだろう。

「投下ポイントまで20秒!!」

『リゲル』編隊の第3小隊隊長ケネス・パッシム大尉は生きた心地がしなかった。全ての

機銃座が此方を向いている感覚が湧き、ケイン神王国での戦いで感じた死と隣り合わせ

の恐怖を思い出す。

『リゲル』の星形エンジンは雄々しく咆哮し、機体はエンジンと至近弾によって激しく振

動する。

「……………4、3、2、1投下!!」

『リゲル』攻撃機は82機から76機まで数を減らしつつも、パッシム含む40機が魚雷

を発射する事に成功した。残りの機体も、各々射点に付き次第投下と離脱を開始する。

「うちの小隊は無事か?!」

「ユージンもマリオンも無事です、全員生きてます!!」

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「よーし、さっさと逃げるぞ。もうこれ以上ここに居るのはたくさんだ!!」

 魚雷の投下数は76本に及び、海面には雷跡が見たことも無いような模様を描いてい

た。パッシム機の機銃手はその光景をカメラで撮り、後に博物館でその写真は飾られる

事になるのであった。

    「あいつら、海面に爆弾を捨てて逃げていったぜ。」

「何がしたかったんだアイツら、臆病風にでも吹かれたか?」

 第零式魔導艦隊は、『リゲル』編隊の行動を訝かしんだ。折角近距離まで近付いたと言

うのに、弾幕の厚さに観念して爆弾を捨てて行ったのである。

「ま、これで戦闘も終わりさ、長く苦しい戦いだったな……………。」

 かれこれ5時間にも及ぶ大激戦であった、艦隊戦と対空戦の両方を行い、各艦艇の乗

組員は疲労困憊でそのまま床に寝転ぶ奴も居る。見張り員達が海面に目を向けると、そ

こにはまだ沈みきっていない小型艦が、炎を身に纏い横たえていたり。非金属構成素材

や物資、筏や救命具や内火艇が所々浮かんでいる。

67 第六話 最強艦隊の落日

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 小型艦4隻は反転して、溺者救助に赴こうとしていた。小さい船体ながら健気な物で

あると、戦艦乗組員は感想を漏らすのだった。

「おい、何だありゃ?」

 誰かがそう言葉を漏らすのが聞こえた、甲板に居る者達は海面へと目を向ける。白い

線が『コールブランド』、否全ての艦艇へと向かって伸びている。それも数十本にも及ぶ

数である。

 誰かが戦艦『ガラティーン』が最後に受けた攻撃を思いだし、艦内電話の受話器を強

引に取って艦橋へと通報した。

「至急、至急!!何かが多数本艦に向かってきます!!『ガラティーン』への攻撃に酷似、繰

り返す『ガラティーン』が受けた攻撃に酷似!!」

 その報告を受け、艦橋のスタッフは皆右舷の窓へと張り付く様に海面を確認した。確

かに白い航跡が、第零艦隊の全ての艦へと延びているのが確認された。

「土属性魔力障壁展開、装甲を最大まで強化!!」

 全ての艦の艦長が、絶叫するように部下へ指示を飛ばした。全艦が黄色いほのかな色

の光に包まれる。船体表面の合金が土属性を帯びた魔力障壁に反応し、物理的な衝撃に

強くなったのだ。

「海中攻撃と思われる攻撃、着弾まで12秒!!」

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 バッティスタが、クロムウェルが、エレインが、ジェームズが、生き残った全ての艦

の指揮官は海面を睨み続け、頬に汗が流れた。先程の『ガラティーン』の沈没を見た者

達が、この海中攻撃で沈められたと結論付けた。あの大きな船体がみるみる内に傾斜し

て行ったのを見て、砲撃よりも船体への損傷が大きくなるようだ。

 戦艦ですらあの様なのだ、戦艦以下の艦艇艦長の頭の中には撃沈の二文字がくっきり

刻まれていた。

「総員衝撃に備え!!」

 各艦艇乗組員が身近な者へと掴まる。次の瞬間、全ての艦に大きな水柱が上がった。

旗艦の『コールブランド』に至っては、七発もの水柱が上がっていた。

「くっ…………、損傷箇所を報告せよ!!」

 クロムウェルは衝撃に耐えられずよろめき、壁に頭を強打した。額からは血が滴り落

ち、片目に流れ込んで激痛が走る。

「右舷、7ヶ所に破口発生!!多数の浸水を認める!!」

 艦橋からの司令を受け、ダメージコントロール班は角材を抱えて被弾箇所へ急行し

た。しかしそこには大量の浸水で水没した区画があるのみで、彼等が出来たのは防水

ハッチを閉め、それを重量物で蓋をする事だけであった。

「左舷注排水システムを起動しましたが、浸水が多すぎます!!このままではじきに注水

69 第六話 最強艦隊の落日

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限界に達します!!」

「まさかこんな事が、作戦行動中の最新鋭戦艦が、航空機ごときにやられるとは!!」

 バッティスタはようやく気付いたのだ、ただ『ジグラント』が、この世界全ての飛行

部隊が戦艦を沈めうる性能を持っていなかっただけである。

 そして傾きつつある艦橋で彼は悟った、もうすぐ戦艦による砲撃戦は時代遅れになる

と言うことを………………。

「司令、艦長、早く退艦なさってください!!」

 士官達はバッティスタとクロムウェルに対艦を促したが、二人は疲れた顔で、何処か

達観した様な顔でこう答えるのであった。

「ノーセンキュー、貴官らの健闘を祈る。」

「そう言う事だ、私も残るぞ。『コールブランド』を一人寂しく沈めたくないからな。」

 その言葉を発して、二人は艦と運命を共にする事を選んだ。各幹部と艦隊参謀達は二

人の勇姿に背を向けながら、泣く泣く『コールブランド』を退艦したのだった。

 そして戦艦『コールブランド』は、二人の英雄と逃げ遅れた乗組員を巻き添えにしな

がら、深い海の底へと沈んで行った。『クラレント』や『ロンゴミニアド』も『コールブ

ランド』に付き添う様に沈没し、海面には沈みきっていない艦艇の破片や、海へ脱出し

た両軍の兵士だけとなったのだった。

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 落日と共に終わったこの海戦は、第零式魔導艦隊の結末を表しているかのようで、酷

く虚しい物であった。

71 第六話 最強艦隊の落日

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第七話 カルトアルパスの守護者

  マグドラ群島での海戦後。第零艦隊の全滅を確認した東征艦隊と航空隊は、本拠地の

海軍基地と海軍飛行隊基地を襲撃した。

 無論ミリシアル帝国も黙ってやられるつもりはなく、配備してあった対空砲と沿岸砲

台(余剰した34.3cm連装砲)で果敢に応戦した。

 そして重巡洋艦一隻と、航空機8機を道連れにして、この世から完全に消滅したので

あった。

「こいつは……………、大変な事になったぞ!!」

 島中央にある少し高めの山から、一連の出来事を目撃していた陸軍兵は急いで上層部

へ報告した。

 この報告は陸軍上層部のみならず、国防省や外務省をも巻き込んだ混乱へと発展し

た。

 第零式魔導艦隊の全滅と、グラ・バルカス帝国が余力を持ってして会議が継続中のカ

ルトアルパスへと向かって来ている。

 この異常事態でミリシアルが下した判断は、先ず各国の要人を退避させる。ここまで

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は常識の範囲内である、ここまでは良かったのだが……………………。

         「それで、航空部隊を伴った敵をここで迎え撃つんだとさ。いやぁ面白い事を考える

なぁ、各国のお偉方はよ。」

「我が国のお偉方も付け加えてですね、ハハハハ……………。」

 そう力のない声で笑い会うのは、南方地方隊所属の第18巡洋艦戦隊司令サミュエ

ル・パテス少将と、巡洋艦『ゲイジャルグ』艦長のフィリップ・ニウム大佐であった。

「明らかに邪魔になるだけだろう?戦列艦なんてなぁ。」

「素直に避難してくれたら良かったのですが…………、ハァ………………。」

73 第七話 カルトアルパスの守護者

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 まぁ、我々の戦力ならば撃滅とは言わないまでも、撃退程度は出来るだろうとパテス

は予想を立てていた。

 確かに彼は予め軍司令部から、第零艦隊全滅の報告を受け取っていた。全滅とは何か

の間違いでは?あの世界最強と噂される第零艦隊が全滅?生き残りの一隻もおらずし

てか……………?

「しかし第零艦隊が全滅とは、何かの間違いではないのでしょうか?一隻残らず沈むと

は、流石にあり得ませんよ。」

「確かに、これは盛りすぎだろうと私も思うぞ。まぁ仮に真実だとして、やる事は代わり

ないんだがな。」

 そうパテスはニウムに会話を返し、後ろを振り返ってカルトアルパスの街並みを眺め

た。自分達が守らなければならない街が、自分の真後ろで景気よく輝いている。この輝

きを悲しみの光にしてはならない、そう彼は心に誓うのであった。

 パテスと同じように決意を抱いたものは案外沢山居た。勿論彼が率いる第16巡洋

艦戦隊の各艦長は、彼と同じ様にカルトアルパスと帝国の名誉を守るために気を引き締

めている。

「魔導巡洋艦が8隻、ムーが相手でも充分に戦える戦力だが果たしてどうなるでしょう

か?」

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「先程あの『グレード・アトラスター』と言う戦艦が居たからな、恐らく奴と相見える事

となるだろう……………。」

 副長の発言に、ブロンズ級魔導船『アスカロン』の艦長は艦橋からフォーク海峡を、腕

を組んで睨み静かに返答した。我が国のミスリル級を遥かに凌ぐ大戦艦、重巡ですらミ

スリル級に勝てないと言うのに、一体どうやってかの戦艦と戦えばよいのだろうか?

 そして負ければどうなる?カルトアルパスは戦火に曝され、ミリシアルの誇りは失墜

するだろう。それは何としてでも避けなければならない、例えそれが数多の人骨をこの

海峡に吸わせようとも。

「副長、遺書は書いたかね?」

「自分は遺書を書かない主義なので。家内も私が軍人である以上、覚悟はしているで

しょう。」

「そうか…………………。」

 艦長はこれ以上追求するのを止めた、最早言葉は要らない。覚悟を決めている彼の心

を、ここで揺らがせるのは艦長としてどうかと思ったからだ。

「艦長、緊張しとりませんか?」

「当たり前だ、第零艦隊を全滅させる程の敵がやって来てるんだぞ。私達巡洋艦部隊が

何処までやれるのか……………。」

75 第七話 カルトアルパスの守護者

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 長年彼と勤務していた副長は、艦長の心がとても揺らいでいる事に直ぐ気付いた。確

かに艦長の言う事も解らんではない。何しろ地方艦隊と言う二線級艦隊が、第一線で戦

う艦隊に取って変われる訳がないのだ。だがしかし、副長はそれがどうしたと考えてい

た。

「だがそれでも、この街を守れるのは我々だけなんですよ。我々軍人のやる事はただ一

つ、国民の為に戦いきるだけです。」

「まぁ、それもそうだな……………。すまない副長、私は考えすぎてたようだ。」

 副長の気合いが入った言葉を聞いて、艦長は迷いを捨てることにした。確かにそう

だ、やる事は全く変わらないのである。何があろうとフォーク海峡は死守する、海軍軍

人としての意地を今こそ卑怯なる闖入者へぶつけてやるのだ。

      「こちら第7制空戦闘団、こちら第7制空戦闘団。着陸許可を求む。」

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「着陸を許可する、管制に従い着陸せよ。」

 細剣の様な胴体と、飛び出たテーパー翼が印象的な戦闘機がカルトアルパス付近の飛

行場に着陸した。神聖ミリシアル帝国が誇る最新鋭戦闘機『エルペシオ3』が、帝国の

名誉を守るべく降り立ったのであった。その数42機、一個戦闘団(飛行大隊とも、飛

行群とも呼称される)が東部戦闘機軍団から抽出されたのだ。

 他にも続々と戦闘機部隊が降り立つ。西部戦闘機軍団からは『ジグラント2』からな

る第21爆撃戦闘団が、訓練飛行を終えて帰投した第18爆撃戦闘団がカルトアルパス

の地を踏んだ。三個戦闘団126機が来るグラ・バルカス帝国の攻撃に備えて結集した

のである。

「ケッ!せっかくの休暇が取り消しかよ、有給は取れるのかいねぇ?」

「口を慎むんだエイブラハム、子供に敵機撃墜を誇れると思いな。」

「俺は子供と『平和』に遊ぶ予定だったんですよ、シルベスタ中佐。」

 不機嫌さを隠そうともせず、愚痴を溢す自分の部下を宥めるのは、第7制空戦闘団の

団長シルベスタ・ホイットル中佐である。彼の部下エイブラハム・ミッチェル大尉の言

う通り、彼等は折角の休暇を不意にしてやって来たのである。軍人である以上、国家の

異常事態に駆けつけなければならないのだが、何とも言えない気分が彼らの中にはあっ

た。

77 第七話 カルトアルパスの守護者

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「しっかし第零艦隊が殺られたとは、本当の事なんですかね…………?俄には信じられ

ませんぜ。」

「だが上層部がつまらない冗談を言うと思うか?しかも我が国最強の艦隊が殺られたな

どと言う、達の悪い冗談をだ。」

「まぁ確かに、頭のお堅い上官様がブラックジョークなんて言える筈もありません

なぁ。」

 半信半疑で質問するエイブラハムの言葉を、シルベスタは理にかなった持論を述べて

否定する。それ程までに最強の第零艦隊と言う名前は、一定量の説得力を持っているの

だ。大体強権を用いて各国艦艇に脱出命令を出さない位硬直した上層部が、冗談等を言

えるとはシルベスタは思ってもいない。

「それはそうと、向こうに居る『ゲルニカ』は何なんですかね?機体番号はマグドラ群島

の基地の奴ですけど。」

 エイブラハムは話を変えて、滑走路の向こうにある格納庫に収容されていた『ゲルニ

カ35型』について疑問を顕にした。シルベスタも彼につられて『ゲルニカ』へ目を向

ける、すると二人の近くで作業をしていた基地要員が、彼等の疑問の回答をするので

あった。

「あぁアレですか?マグドラ群島基地への空襲を逃れる為に、出撃出来ないパイロット

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でも避難させようと飛んできた奴ですよ。」

「どうやら上層部の話は、本当って言う確率が高くなって来ましたぜ……………。」

 エイブラハムの呟きを聞き、シルベスタは覚悟を決める時が来たと気を引き締める事

にした。第零艦隊を沈めうるグラ・バルカス帝国の実力、如何程の物なのか

………………。

「オメガ隊長、大丈夫なのかなぁ……………。」

『ゲルニカ』に乗って避難してきたジェシカは、出撃して行った自分の部隊の仲間の身を

案じていた。それは彼女と共にカルトアルパスまでやって来た、第5爆撃戦闘団のパイ

ロット達も同じ気持ちである。

「で、でも大丈夫だよね。何しろミリシアルで作った戦闘機なんだもん、あのオメガ隊長

が遅れを取るとも思えないし。」

 彼女は一人で勝手に結論付けた。いくら考えても不安は拭えないので、強引に思考停

止して流れに身を任せようと判断したのである。気が弱くくよくよ考えてしまう彼女

は、勝手に安全バイアスが掛かりやすくなっているのだ。

「それで、私は何をすればいいんだろ………………。」

 彼女の出番は数時間後に直ぐやって来るのだが、誰も予想が付かないでいた。辺境の

航空部隊に所属する新米パイロットが、逃げてきた先で活躍するだなんて誰が考え付く

79 第七話 カルトアルパスの守護者

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だろう。考え付いた者は未来予知の才能がある、誇ってもいいだろう……………。

       戦闘が始まる可能性が高いカルトアルパスでは、あちこちで臨時休業する店が出始め

ていた。だがそれでも、一部の危機感が薄い酒場などでは、相変わらず昼間から酒飲み

客が押し掛けて宴会が開かれていた。

「おい聞いたか?!グラ・バルカスつー国が全世界へ向けて宣戦布告したんだとよ。」

「ハァ?!冗談だろオイ。」

 カルトアルパスの守備をしている部隊の一つである第48高射砲連隊の一中隊の兵

員も、昼間からやることが無いので酒場で宴会を開いている集団であった。彼等は仲間

が発言した情報に、半ば信じられないとの声を上げていた。

「第2文明圏の国家だけでなく、世界最強のミリシアルにも喧嘩を売るとか。あいつら

頭おかしいんじゃねぇの?」

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「レイフォル潰してイキってるんだろ、察してやれよ。」

 そうやってグラ・バルカスの行動を笑い飛ばしていた。まだ一つの国に宣戦布告する

なら解らなくもないが、世界各国は流石に無茶しすぎだろうと。

「まぁ例えどんな敵が来ようと、俺達対空砲部隊で何とかなるだろうよ。」

「ちげえねぇ、40mm魔光砲さえありゃあムーの航空機でもイチコロさ。」

 誰もがグラ・バルカス帝国が神聖ミリシアル帝国を遥かに凌駕する大国等と、想像す

らしなかった。当然である、世界第一位の実力は、己の兵器、練度で手に入れた物だか

らだ。それ相応の自負と言う物が彼等に有ったことが、知らず知らずの内に敵を過小評

価する一因となっているのだ。彼等の宴はさらに続く……………。

81 第七話 カルトアルパスの守護者

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第八話 ファイターズ

  神聖ミリシアル帝国

 対空監視レーダー

「敵航空機接近を確認、数200!!」

「200機だと?!た、確かなのか?!」

 魔力探知レーダーのスクリーンを監視していたレーダー員のウリル・クラーク中尉

は、大声で上官へ現状を報告した。彼の報告に上官は驚いてスクリーンを覗く、確かに

そこには200機の光点が浮き出ていた。

「急いで連合艦隊に報告しろ、距離は!!」

「ハッ!!距離70NM(130km)です!!」

「空襲警報も発令させろ!!」

 対空監視レーダー基地の報告が、海軍基地や各対空砲、そして海峡に展開する艦隊へ

通報され。空襲サイレンがカルトアルパスに響き渡った、兵士達が持ち場へと駆け込み

魔光砲の砲口を上空へ向ける。

 

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   神聖ミリシアル帝国

 第7制空戦闘団

『第7制空戦闘団緊急発進!!繰り返す、第7制空戦闘団緊急発進!!』

「聞いたな貴様ら!!カルトアルパスの制空権を奴等に渡してやるなよ!!」

「おう!!」

 第7制空戦闘団の各パイロットは、意気揚々と『エルペシオ3』へ乗り込んだ。コッ

クピットの中で彼等は魔信を弄り、管制塔と各中隊へと繋ぐ。すると管制塔から早速通

信が入ってきた。

『第7制空戦闘団、聞こえているか?』

「こちら戦闘団長シルベスタ中佐、何かあったか?」

 シルベスタは何か異常事態が起こったのかと思い、管制塔へ聞き返したが、帰ってき

たのは彼等へのエールであった。

『敵は200機だ、恐らく今までの空戦とは違い過激な物になるだろうな。君達が頼り

だ、200機なんてさっさと叩き落として帰ってきてくれよ!!全員分の酒代を持つ!!』

「ハハッ、こりゃあいい!!息子と遊ぶ前に一杯やって帰ろうか!!」

83 第八話 ファイターズ

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 酒代を持つと言う管制官の発言を聞いて、第7制空戦闘団の各パイロットから歓声が

上がる。管制官は彼等が休日を返上してカルトアルパスを守る為にやって来たと聞き、

慰労を込めて酒を振る舞おうとしたのだ。

 出撃前に隊の士気を上げた管制官はただ者ではないなとシルベスタは思い、そして彼

の好意に応じるべく戦おうと思うのだった。

「聞いたな野郎共、宴会を開きたきゃちゃっちゃと終わらせるぞ!!」

 シルベスタは各員へ激励を送り、機体を滑走路へと向かわせる。彼の機体が付くと共

に、滑走路の両側に設置してある魔石が光出した。ジェット機である『エルペシオ3』は

滑走距離が長いので、竜母のワイバーンの様に魔石で補助してやるのである。

『滑走路の魔石の出力上昇、発進準備用意!!』

 シルベスタはエンジンのスロットルを少しずつ開き、それと同時に細身の機体が前進

し始めた。彼がスロットルを押し込んで行くと、機体のスピードがますます上がり、や

がて機体は最高速度にまで達した。

「シルベスタ機、発進する!!」

 そして彼は操縦桿を手前に引いた。すると『エルペシオ3』のフラップが下を向き、翼

に揚力が発生した。

 ギューンと高い音を立てて、42機の空の戦士達は敵を求めて飛んだのだった。

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「こうして見ると、普段と代わりねぇ様に感じるんだがなぁ……………。」

 エイブラハムがキャノピーからカルトアルパスの街並みを見下ろし、感慨深く呟くの

がイヤホン越しから聞こえてきた。

 シルベスタも下方へ注目する。家や店では明かりが点っており、人々が道路を渡って

いるのが見える。ここから数十キロの海峡では戦闘が始まろうとしているのに、何とも

気ままな感じである。危機感と言うものがこの街には無いのかと、嘆かわしくもあっ

た。

『管制より第7制空戦闘団へ、まもなく敵編隊と開敵。』

 管制から報告が入り、シルベスタは指揮下の航空機に魔信で指示を飛ばした。彼は初

の制空機同士の戦いを前にして緊張していた、操縦桿を握る手に自然と力が入る。

「全機高度18000ft(5500m)まで上昇せよ、下方の警戒を厳となせ。」

『ウィルコ』

 42機の編隊は一糸乱れず上昇し、急な角度で上昇を始めた。制空戦闘団は選りすぐ

りのパイロットが集められる部隊であり、彼等の練度の高さが見て取れた。

「どうなるか?この戦い………………。」

 神聖ミリシアル帝国が誇る『エルペシオ3』は、時速537kmの最高速度を誇る航

空機である。マリン(350km)は勿論風竜ですらも追い付けない程の速度を持ち、

85 第八話 ファイターズ

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ジェット機特有の高度性能が高い戦闘機である。武装は機首に7.7mm機銃が2丁、

主翼には20mm機銃を4丁備える攻撃力が高い航空機であり、マリンやワイバーンで

はひとたまりも無いだろう。

 練度も質も何もかもこちらが上、数では劣るが全部が制空戦闘機ではない筈だ、戦闘

は五分五分に終わるかどうか…………。

『こちらカルトアルパス司令。』

 彼が考えに耽っていると、カルトアルパス基地総司令が魔信を使って訓示を送った。

『我らの誇りは諸君らにかかっていると言っても過言ではない。諸君らに、戦神の導き

あらんことを!!』

『敵機発見、左方30下45!!』

 総司令が言葉を終えた直後、シルベスタの部下が声を上げた。全員が左下方へと視線

を向ける、報告にあった通り200機の編隊がカルトアルパスへ進軍していた。

 その身に抱えた爆弾が、魚雷が数多の人間を奪う為、今か今かと出番を待っている。

250kgの殺意が何人もの人間を殺め、800kgの槍が何百人の命を海中に引き込

むだろう。

 それを何としてでも止めさせなければならない、世界を守のは彼等第7制空戦闘団に

託されたのである。

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「先頭集団を叩くぞ!!前期突撃、敵編隊上空から攻撃を行った後、そのまま敵後方低空へ

すり抜ける!!」

『第2飛行隊了解』

『第3飛行隊了解』

 各飛行隊の隊長が返答し、全機が速度を上げて行く。マジックジェットエンジンの出

力が最大にまで上がり、高音が響いた。急降下も相まって、限界にまで加速する。

「……………ん?」

 今まさに攻撃隊へ攻撃を掛けようとしたとき、後方から殺気の様な物を感じた。照準

器から目をそらして、シルベスタは背後を見る。そこにはまだ落ちていない太陽が有る

だけでだが、彼は目を細めてみる。光量を絞ってようやくわかった、太陽に隠れて黒い

点が沢山こちらに向かってきていた。シルベスタは反射的に叫んだ。

「て…………敵襲!!後方上空、太陽から来るぞ!!」

『な、なに?!』

 シルベスタの報告を受け、友軍機が攻撃を中止して散開し始める。しかし何機かが判

断が遅れて、上空からの敵機『アンタレス』の20mm機銃と7.7mm機銃の餌食と

なった。

『こちらに第2飛行隊、2機やられた!!』

87 第八話 ファイターズ

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『クソッ!!小隊長機が撃墜されたぞ!!』

 魔信からパイロット達の悲鳴が上がった。第7制空戦闘団は初撃で5機も落とされ、

階級の区別なく無慈悲に海面へ叩き落とされたのである。

『クソッがぁ、変な見た目しやがってよこの風車野郎!!』

 エイブラハムが悔しそうに唸る。エルペシオの様な細身の機体の先端には高速回転

するプロペラ、マリンと同じ航空機だと言うのに単翼の機体が、彼等を追い抜いて下方

へと離脱して行った。

「クッ…………!!嘗められてると言うのか?!」

 我に追い付く敵機なしと言わんばかりに過ぎ去って行った『アンタレス』は、充分に

距離を話した後降下スピードを活かして反転上昇してきた。

 ヘッドオン、お互いが正面から接近しつつ攻撃を行い、相手を落とすかこちらが落と

すか、はたまた共倒れになるかの相当リスキーな戦法である。

「そっちがその気なら…………、良いだろう受けて立つ!!」

 シルベスタは腹立だしく感じたが、これはチャンスでもある。ここでヘッドオンを

行って少しでも撃墜できれば、こちら側が有利になる事間違い無しである。

 大体ミリシアル海軍航空隊の基本ドクトリンは一撃離脱、この機を逃して無理な旋回

戦に入るメリットは無いのだ。

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「全機、奴等は先程5機落として天狗になって居るらしい。我が帝国の『エルペシオ3』

は世界最高の攻撃力を持つ戦闘機だ、今こそアイツらにお灸を据えてやろうぜ!!」

『ウィルコ!!』

 第7制空戦闘団は崩れていた編隊を組み直した、それはまさに一瞬と言って良い速さ

である。相手側の『アンタレス』飛行隊のパイロット達は一瞬驚いたが、今更になって

突撃を止めると言う選択肢は無い。双方一つの塊とにってぶつかろうとして行った。

「よーい…………、撃て!!」

 両陣営がが射撃を開始したのはほぼ同時であった。多数の20mmの奔流が飛び交

い、エンジンや主翼やコックピットの区別なく蜂の巣にして行く。

「こちら隊長機!!何機やられた!!」

 すれ違うのは一瞬であった、その刹那の間に多数のパイロットが散る。主翼を砕かれ

た者、エンジンに被弾し緊急脱出した者。そしてこれは想像したくないが、20mm弾

を諸に食らって原型を留めなくなった者と様々である。

『第2飛行隊、第2小隊が全滅!!』

『こちら第3飛行隊の6番機、自分以外で生き残っているのは7機です!!』

 数にして4機が、空に命を散らした。しかし博打を打った成果はあった、敵の『アン

タレス』も同じように4機撃ち落とされ、共に陣形が大きく乱れたのだ。ここから両軍

89 第八話 ファイターズ

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が入り乱れての激戦となる。

「エイブラハム、俺についてこい。ロッテを組むぞ!!」

『ウィルコ!!』

 僚機を失ったエイブラハム機は、シルベスタ機の左後方で展開し。ロッテと呼ばれる

対戦闘機攻撃と対空警戒で有効な戦術を取る、これはミリシアルが長年研究して作られ

た技術の結晶たる戦法なのだ。

「まずは前方の敵機をやる、行くぞ!!」

『おう!!』

 早速シルベスタが目を付けたのは、友軍機を落とされた事により慌てて編隊を組み直

す機体であった。

 速度がかなり落ちており、『エルペシオ3』と『アンタレス』の速度差を感じさせない

程である。その機を彼は逃さない、歴戦パイロット故の技術が炸裂した。

「俺は左の奴をやる、お前は右だ!!」

『おうよ!!任せてくれ!!』

 役割分担を直ぐ様終わらせ、二人の機体は軸線を敵機にあわせる。ここまでてきぱき

とした早さで攻撃行動を終わらせ、彼等の魔光砲は『アンタレス』を構成する全てのパー

ツを撃ち抜いた。

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『よし!!一丁上がり!!』

『こちら第3飛行隊機、後ろに着かれた。助けてくれ!!』

 シルベスタが辺りを見渡すと、煙を吐いているエルペシオの1機が2機の敵編隊に追

いかけ回されているのを目撃した。急いで救出しないと危ない状況だ。

「そこの機体、俺達が助けてやる耐えろ!!」

『了解!!』

「行くぞエイブラハム!」

『合点だ!!』

 友軍機は旋回行動を取り、必死に『アンタレス』から逃れようとする。それは旋回戦

が得意な敵機に対しては悪手である、しかし第7制空戦闘団の各パイロットがその事を

知るよしもない。ただ『エルペシオ3』が旋回戦が不得意だと言うのはミリシアルのパ

イロットが皆知っている、友軍機がどれだけ危険な状況なのは直ぐわかった。

「友軍機、取り敢えず直進し、俺が合図したら右旋回しろ。。」

『りょ、了解!!』

 そこでシルベスタは一計を案じた。まず敵機を友軍機を直進させて誘き寄せ、その間

にシルベスタが友軍機と並走する。そして合図を掛けたら左方に居る友軍機が右旋回、

右方に居るシルベスタ機が左旋回する。機織りのようにお互いをクロスさせる様にし

91 第八話 ファイターズ

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てS字を書き、そして絶好の射点に到達次第、追撃する敵機を撃墜するのだ。

「よし…………、今だ!!」

『了解!!』

 準備が整い、友軍機は右旋回を開始した。『アンタレス』は罠に嵌まったのも気付かず

に右旋回を開始し、そして横から突っ込んできたシルベスタ機に蜂の巣にされた。

「よっしゃぁ一機撃墜!!エイブラハム、見てるか!!」

 シルベスタは一緒に飛行していたエイブラハムに確認を取った、しかし魔信からエイ

ブラハムの声が聞こえない。

「おい?エイブラハムどうした?」

 シルベスタは何度もエイブラハムに確認を取る、しかし魔信はウンともスンとも言わ

ない。先程まで友軍機と連絡が取れてたので故障はあり得ないのだが。

 シルベスタは左後方下部を見てみた、別に何の意図もない。何となくで見た先には、

炎上しつつ高度を下げるエイブラハム機が居た。しかもコックピットは火に包まれて

いる、パイロットは生きていないだろう。

『こちら第2飛行隊機、仲間が全員やられた、助けて…………グガッ?!』

『こちら第3小隊機、我劣勢、援護を…………ウワッ!!』

「おのれぇぇぇぇ!!」

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 シルベスタは頭の中が怒りで真っ白になった。友を落とされ、友軍機は少しずつ削ら

れて行く。味方の報告によると敵は上昇能力、速度、旋回性能全てで『エルペシオ3』に

勝っているらしい。

 こんな、こんなことが有ると言うのか、文明圏外国家の戦闘機に劣勢に立たされる事

が有ると言うのか?!

 シルベスタはただ怒り、そのまま敵機に後ろを取られて爆散した。

93 第八話 ファイターズ

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第九話 死闘

  神聖ミリシアル帝国海軍

 第18巡洋艦戦隊

「対空レーダーより報告!!第7制空戦闘団が…………全滅しました。」

「な、なんだとっ?!」

「それは本当か?!」

 魔導通信士官からの報告に、パテスとニウムは耳を疑った。彼等には最新鋭の『エル

ペシオ3』が配備されていた筈、ミリシアルの技術の結晶がまさか全滅とはどう言う事

なのか全く理解できなかった。

「何機落とした、まさか一機も落とさずでは無いだろう!!」

「敵の制空戦闘機を14機、らしいです…………。」

「なっ?!」

 キルレシオにして一対三、まさかそこまで差が開いているとは!!パテスは上層部に何

と報告すれば良いのかと頭を抱えた。敵の戦闘機一機に対して一個小隊の戦力をぶつ

けなければならない、多少第7制空戦闘団が奇襲を受けたとはいえこれ程とは

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……………。

「魔力探知レーダーより報告、敵編隊200機来ます!!」

「我が艦隊のエアカバーはどうなっている?!」

「ムー海軍の戦闘機60機です!!」

「なんと……………、丸裸も同然じゃないか…………。」

 確かにムーはミリシアルに次いで世界第二位の実力を持つ列強である。しかしムー

とミリシアルには大きな差があった、それは戦闘機を見ればはっきり解るだろう、旧式

機ですら『マリン』を大きく凌駕する。

 そしてその旧式機より強力な戦闘機を落とすグラ・バルカスの戦闘、『マリン』が何十

機居ようが何百機居ようが物の数にも入らないだろう。

 パテスの額に汗が流れ、手は小刻みに震える。一体この状況をどう乗り切る?カルト

アルパスを守るのは我々だけだと言うのに、自分の身すら守れる保証が無いじゃない

か。彼の頭の中には絶望の二文字しか浮かんでこなかった。

「パンドーラ公国艦隊より通信、我が勝利を貴艦に献上す!!」

「バカ共が、貴様らに何が出来るって言うんだ…………。」

 パンドーラから入ってきた場違いな通信に、ニウムは不快感を露にして罵倒した。戦

列艦ごときが何が出来ると言うのだ、貴様らはただのお荷物かデコイにしかならないと

95 第九話 死闘

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言うのに。

「対空監視員より報告、敵機多数12時より来ます!!」

「来たか、対空戦闘用意!!」

 監視員からの報告を受け、ニウムは頭を切り替える。彼の命令を受け、重巡洋装甲艦

『ゲイシャルグ』に搭載されている10.2cm単装高角砲4基が旋回した。『ゲイシャ

ルグ』は『ロンゴミニアド』と同じシルバー級に属する巡洋艦であったが、『ゲイシャル

グ』は前期生産型である。しかも改装が遅れて居る為に単装高角砲が搭載されているま

まなのだ。第18巡洋艦戦隊の各艦も高角砲を向けるが、全ての艦が単装砲である。

「我が艦隊だけが、まともな対空戦闘を行えそうですね。」

「あぁ、各国の艦隊は期待できんな。」

 彼等二人の言葉は、たった数時間後に現実の物となった。まず先程の通信を行ったパ

ンドーラ大魔導公国の艦隊が毒牙に掛かる、彼等の艦隊は『シリウス』の12.7mm

機銃だけであっさりと撃沈したのだ。木っ端微塵と言っても良い最後であり、生存者は

誰一人として居なかった。

「チッ!!やはり全滅したか!!」

『ニグラート連合竜騎士団、劣勢!』

『ムー戦闘機、また一機撃墜された!!』

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『アガルタ法国艦隊、遠距離魔法戦を開始!!』

 数々の凶法が魔信から入り、魔信通信士官の顔がますます真っ青になって行く。そし

て最後には殆どの艦隊が壊滅した事を告げ、パテスとニウムは絶望の縁に立たされた。

「西方低空から敵機接近!!機数24!!」

「低空、低空だと?!何をするつもりだ?」

 パテスは敵機が取った行動が全く理解できなかった。爆撃と言えば上空から落とす

水平爆撃と、急降下してピンポイントで叩く急降下爆撃が当たり前である。その両方に

属しない攻撃方法、これは辺りづらい水平爆撃の命中率を上げるグラ・バルカス帝国の

新戦法か?そうパテスは予想した。

「各国艦隊、低空敵機へ対空攻撃開始!!」

 ムーの7.7mm機銃が、『しきしま』の35mm機銃が、ニグラートや各国の対空バ

リスタが24機の雷撃機へと襲いかかった。ひときわ目立ったのは『しきしま』の35

mm機銃で、敵3機が一瞬の内に火だるまになった。

「ヒュー!!日本の魔光砲手は対空射撃が上手いな。」

「魔光砲の数が一門な辺り、少数精鋭主義を取っているんだろう。」

「俺達も負けてらんねぇな、攻撃開始!!」

「『しきしま』へ打電!!貴艦の勇戦に感服す、さらなる戦果拡大を期待す!!」

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「『しきしま』より返信。貴艦隊も中々なり、より一層の奮闘を期待する。」

 実際はFCS(射撃管制装置)による補助管制が大きい所があり、別に少数精鋭主義

を取っている訳でもないのだが。ミリシアルの射撃手達に良い誤解が生まれ、『しきし

ま』に触発されて奮戦する。

「敵機一機撃墜!!続いて別目標へ移る!!」

「敵機が爆弾を投棄したぞぉ!!」

「…………………何がしたかったんだ?あいつら。」

 当然第零艦隊の情報はこの時入っては居ない。彼らは何故態々低空飛行までして接

近し、最終的には全機が諦めて爆弾を投棄する愚を犯したのか全くわからなかった。意

味が無さすぎる、グラ・バルカス人は変な習性でも有ると言うのか。

「海中から何かが来ます!!航跡多数!!」

「回避せよ!!」

 パテスに言われるまでもなく、各巡洋艦の艦長は各自の判断で回避行動を取り始め

た。二線級の艦隊と言えど、歴戦の艦長には代わりなくある種の勘と言うものが彼等に

はあったのである。しかし20機近くの攻撃機達は全機が全く同じタイミングで魚雷

を発射し、まるで隙がない状態であった。

「巡洋艦『ゲイボー』被弾!!」

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 まず最初に被害を受けたのは『ゲイボー』であった。彼女は魚雷を同時に二本も受け、

急速に速度が低下した。彼女は必然的に魚雷に当たりやすい状態となり、そこへ魚雷が

弾薬庫へ直撃した。元々巡洋艦は戦艦に対して防御力が弱い上に、ミリシアルは対水雷

防御が全くなされていない。おまけに弾薬庫と言う致命的な部分の被弾と言う、不幸に

不幸が重なって『ゲイボー』は数分の内に轟沈した。

「『ゲイボー』轟沈!!『アーイン』航行不能!!」

 艦橋に居た各艦長とパテスは、あまりの光景に黙り込んでしまった。航空攻撃が軍艦

に対して大きな損害を与えうる事と、『ゲイボー』の末路が余りにも悲惨な為に次は我が

身かと思ってしまった。

 「『グレードアトラスター』接近、もうすぐ砲戦距離に入ります!!」

「一隻、だけだと………………?」

 各巡洋艦の艦長は困惑した、なぜ戦艦がたった一隻で戦いを挑んでくると言うのだ?

護衛も無しに勝てると高を括るっているのか、それとも第零艦隊の奮闘で参加艦艇数が

減っているのか。

「それがどうした!!全艦対艦戦闘用意。各艦隊、最大戦速!!敵は巨大な戦艦だが、我が世

界最強国家の意地を見せつけるぞ!!」

99 第九話 死闘

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 パテスの声を直で、もしくは魔信を通して聞いた各巡洋艦の乗組員は自分達がなすべ

き事を思い出す。怖じ気づく暇はないのだ、カルトアルパスの守護者たるは我らなの

だ。ここで戦わずしてどうする?我々は世界の王者たる神聖ミリシアル帝国ぞ!!

「総員気を張れ!!あんな戦艦一隻に何を尻込みしてる?!奴等を海に叩き込んでやれ!!」

「人を嘗めきっているヤワな奴の腹を食い破れ!!俺達は敵に食らいつくシャチとなるぞ

!!」

「突撃だ、突撃!!こうなりゃ道連れだ、『グレードアトラスター』がなんだ!!」

 敵を前にして乗組員達の士気が高まって行く、それはまるで古代魔王を倒した勇者の

如く。神がその様に作りたもうた戦士の様な勇ましさで、彼等彼女等は全力を尽くそう

とする!!

「敵艦との距離約8.1NM(約15km)!!」

「対艦攻撃、準備開始!!完了次第、各艦の判断で攻撃せよ!!敵をここで撃沈するのだ!!」

 全ての魔導砲に魔力が注入され、20.3cm連装魔導砲も15.2cm連装魔導砲

の区別なく敵へ指向する。魔導船(軽巡洋艦)『アスカロン』もそれは同じで、魔砲術士

が魔力の充填と砲弾の属性を淡々と報告していた。3基搭載してある15.2cm連

装砲は『グレードアトラスター』に指向されているが、本場の戦艦たる『グレードアト

ラスター』と比べると些かひ弱に見えた。

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「我が艦の攻撃がどれだけ効くかな?副長。」

「敵の魔力障壁を和らげる効果が有りますし、炎上だって狙えますからね……………。」

 戦艦を目の前にしても、艦長は泰然自若していた。本来なら戦艦と軽巡洋艦など勝負

にもならないと言うのに、彼は自分の任務を果たそうとして居たのだ。それは『ブ

リューナク』の艦橋スタッフ全員もである。

「敵間発砲!!目標は旗艦の『ゲイシャルグ』です!!」

「主砲射撃準備そのまま、敵が『ゲイシャルグ』を狙っている間にやるぞ!!」

『ゲイシャルグ』の皆には済まないが、これもカルトアルパスの為だと『アスカロン』の

艦長は心の中で謝罪した。今は目の前に居るバケモノを下さねばならない、その為には

何が有ろうと全力を出すとの心意気である。

「主砲発射あぁぁぁぁ!!」

 第18巡洋艦戦隊の各艦が砲撃を開始した、数多の砲弾が戦士達の思いを乗せて飛翔

する。それはグレードアトラスターの高角砲や機銃に直撃し、原型も留めないほど破壊

しつくすのだった。

「どうだ?!どうなったのだ?!」

 爆風が晴れ、視界が開ける。するとそこに居たのは速力を落とさずに未だに砲口を向

ける、ほぼ無傷の巨大戦艦の姿がそこにはあった。確かに高角砲やらは破壊している、

101 第九話 死闘

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ただし致命傷を与える所までは行っていない。まさか!!我々の行動はほぼ無意味だと

言うのか?!

「クソッ!!やはり巡洋艦じゃあ戦艦には太刀打ちできん!!」

「敵艦発砲!!あっ、ああぁぁぁぁ?!」

「どうした?!報告はしっかりとしないか!!」

 急に叫び声を上げた見張り員を副長は怒鳴った、今は驚いたりしている暇はないと言

うのに。何があってその様に錯乱しているのか全くわからなかった。

「『ゲイシャルグ』が、『ゲイシャルグ』がぁ!!」

「『ゲイシャルグ』がどうした…………、なあぁぁっ?!」

 ほんの一瞬後に、副長も見張り員と同じ間抜けな叫び声を上げた。彼等の目の前に

は、『グレードアトラスター』によって艦首を裂かれた『ゲイシャルグ』の姿があった。

「なっ、何と言うことだ……………、38.1cm砲ですらああはならんと言うのに

……………。」

「『ゲイシャルグ』総員退艦命令下令!!三番艦に旗艦が変更されます!!」

 艦長以外の艦橋スタッフは、旗艦が変更した事にあまり関心を寄せなかった。目の前

の『ゲイシャルグ』の悲惨さが忘れられないからである、だが次に入ってくる報告によっ

て無理矢理現実へ引き戻された。

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「敵艦発砲!!目標は本艦です!!」

「取りかじ一杯!!全力回避!!」

『ゲイシャルグ』を一瞬にして撃沈した戦艦は、『アスカロン』へと標的を変えた。なに

しろ近場で脅威度が高かったからである。まさしく死刑宣告とも言える報告を受け、艦

長は急いで回避運動を始めたのだ。

「第一斉射は当たりは────」

 そして彼の言葉は急に遮られた、それを疑問に思う者は誰一人として居ない。急に床

がたわんだかと思うと、次の瞬間には彼等の意識は刈り取られてしまっていた。

『グレードアトラスター』の放った一撃は、『アスカロン』の艦橋基部へと命中して爆発。

下から突き上げる様な爆発が艦橋スタッフを全滅させたのだった。艦橋を失いつつも

航行する『アスカロン』の姿は、一種の悲壮感を漂わせる。それは国を守れずして斬首

された、騎士の様であった。

 その他の艦も直ぐ様『アスカロン』と似たような最後を迎え、どの一隻も護国の戦士

となることが叶わずに倒れ行くのであった。

103 第九話 死闘

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第十話 巣立ちの時

  神聖ミリシアル帝国

 カルトアルパス海軍航空基地

「急げー!!敵が来るぞ!!」

「何でもいいから航空機を全部あげろ、急げ!!」

 カルトアルパス基地では蜂の巣をつついたかの様な大騒ぎとなっていた。基地防空

隊がもし敵機が来襲してきて、離陸途中の航空機を攻撃しないよう態勢を整える。

「整備が完了次第戦闘機に飛び乗れ!!誰が誰の機体か関係ねぇ!!」

 整備兵達が必死になって発進準備を整え、誰それの区別なくパイロット達が飛び乗っ

ていた。本来軍用機は別機種になれば訓練を変更するのだが、そんな事を気にしている

余裕は彼等には無かったのである。旧式機や新型機の区別無く、天の浮舟はカルトアル

パスを飛び去って行った。

「私に何か出来る事は?!」

 ジェシカは走り去る整備兵の一団を呼び止め、自分は何が出来るかを伺った。整備兵

のリーダーは一言「ついてこい」とだけ言い、格納庫へと走って行く。ジェシカは慌て

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て彼等の後を付いていった。

「やはりな、まだコイツは上がって居なかったか。」

「あの…………、これは?」

 彼等の目の前に有ったのは、白いキャンバスを被せられた機体であった。外見はおお

よそ判断付かないが、『エルペシオ3』より鋭い機首のシルエットが浮き出していた。そ

して整備兵連中は強引にキャンバスを取り払い、格納庫に一機の機体が正体を現した。

「こ、これは…………!!」

 その機体は『エルペシオ3』よりも遥かに先進的なキャノピーと鋭い機首、航空力学

の進歩により少ない開口部で済んだエアインテーク、遠目からでも特徴的な逆ガルウィ

ングとH字尾翼を持っていた。

「あぁ、コイツは整備訓練用として調整が行われた機体だが、燃料さえ入れれば動けるだ

ろう。」

「で、でもまさかこの機体が有るだなんて!!」

 ジェシカの目の前で姿を現したのは、神聖ミリシアル帝国の最新鋭汎用機として作ら

れた。彼女が乗っていた『ジグラント2』を改良し、さらに汎用性を高めた戦闘機『ジ

グラント3』であった。最新鋭すぎて空母艦隊に優先して配備されている機体だが、

近々基地航空隊も運用するだろうとジェシカはマグドラ群島の基地で小耳に挟んでい

105 第十話 巣立ちの時

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た。まさかこのカルトアルパスで、しかもこの様な出会いをするとは全く思わなかっ

た。現実は数奇な物である。

「よしお前ら、さっさと離陸準備始めるぞ!!燃料と魔力の充填急げよ!!」

「了解!!」

 彼等はジェシカを放置して、各々自分の役割を果たそうと動き始めた。いまジェシカ

に出来る事は、何時でも乗り込めるよう待機する事である。

「しっかしまぁ、おめぇみてぇな嬢ちゃんまでも、戦闘に投入する事になるとはなぁ。」

「は、はぁ……………。」

 ドワーフ人種の整備兵の一人は、ジェシカに酒を薦めつつ話を振った。彼女は出撃前

に飲酒するのはちょっと、と言って断ったが。ドワーフが言うには出撃前のラム酒はミ

リシアル海軍の伝統らしい、航空隊にはそんな物無いのだがとジェシカは口に出さず心

の中で反論した。

「発進準備完了!!牽引車に繋げ!!」

 燃料を大量に搭載した『ジグラント3』が、牽引車に繋がれた。それを受けてジェシ

カはコックピットへと乗り込んだ。そして彼女は驚く、なんと計器類の配置は『ジグラ

ント2』と殆ど同じだったのである。これは扱いやすさを重視して、研究者達が態々同

型に仕立てあげてくれたのである。おまけに今までの『エルペシオ3』を含めた戦訓や

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運用結果をも結集して、この汎用戦闘機は完成されたのである。ジェシカは未だに古代

の遺跡を研究している彼等に、感謝の念を抱くのだった。

「敵機直上、急降下!!」

「ハッ?!」

 ジェシカは慌てて後方を見る、するとそこには格納庫へと降下する『シリウス』の機

影が見てとれた。中に居た整備兵達が慌てて格納庫外へと逃れようとするが、既に投下

された250kg爆弾が降り注ぎ。逃げ遅れて吹き飛んだ。逞しそうなリーダー格の

整備兵や、曲がりなりにも自分を気に掛けてくれたドワーフの整備兵は跡形もなく消え

てしまった。

「クッ!!」

 ジェシカは涙を堪えて、発進までの最終行程を済ませる。直ぐにでも彼等の仇を取る

ために、焦らず正確に計器を弄って行く。魔導ジェットエンジンの音が高まり、それは

高出力である事を主張しているかの様である。

『ジグラント…………3?発進せよ、繰り返す発進せよ!!』

 管制塔から発進するように指示が入り、ジェシカはスロットルを全開にした。『ジグ

ラント3』はゆっくりと加速して行き、滑走路の端に近付いた所で機首が持ち上がり始

めた。そして機体は今も攻撃を受けつつあるカルトアルパスへ急ぐ、皆の仇を取るため

107 第十話 巣立ちの時

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にミリシアルの民を守る為に。

「行っちまったなぁ……………。」

「あぁ……………。」

 奇跡的に生き残った整備兵の一部は、感慨深くジェシカ機を見つめていた。彼等の心

有るのは彼女に対しての希望である、自分達は飛び立った彼等彼女等をひたすら待つこ

としかできないのだ、それが何とももどかしい。彼等が感傷に浸っていると、3機の『ジ

グラント2』が補給の為に着陸してきた。あれは確かマグドラ群島の航空隊だった筈で

ある。

「補給急いでくれ、直ぐにでも発進したい!!」

「了解、少し待っててくれよ!!」

      神聖ミリシアル帝国

 カルトアルパス

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 「これが…………、あのカルトアルパスだと言うの…………?」

 ジェシカの目の前には、悲惨な光景が映っていた。港湾にはひしゃげたクレーンが横

たわり、活気に満ち溢れていた街は赤黒く燃え盛る。上空は大火災によって黒く染ま

り、ここがまるで地獄の底の様に感じられた。

「ひ、ひどい………………、あぁ!!」

 目の前の惨状に気圧されていると、『アンタレス』が逃げ惑う市民達へ機銃掃射を掛け

ているのを確認した。ジェシカは彼等を救うべく、『アンタレス』の後方へ静かに回り込

む。幸い敵機は民間人を相手にした『狩り』に現を抜かしており、ジェシカに全く気付

いて居なかった。

「お願い……………、当たって!!」

 ジェシカは主翼に搭載された6門の20mm魔光砲を発射した。発射速度各砲75

0発/分、初速838m/sで放たれた光弾は、『アンタレス』のコックピットを撃ち抜

き中をぐしゃぐしゃにして撃ち落とす。

『なっ?!ギルフォードが!!』

『後方から新手が来るぞ!!見た事無い機体だ、注意しろ!!』

 咄嗟の事でグラ・バルカスの戦闘機隊は隊列を乱す。先程戦った『エルペシオ3』よ

109 第十話 巣立ちの時

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りも整った機体と遭遇し、警戒を増したのだった。

『こいつ、嘗めやがってよぉ!!』

『お、おい待て!!』

「来る!!」

 先程まで自分達がミリシアルを嘗めてたのだが、そんな事を棚にあげて、『アンタレ

ス』の一機はジェシカ機を追撃した。相当頭に血が上って居るようで、隊長機の話を一

切聞かず突出していた。

『くそう、コイツちょこまかと!!』

「くぅ!!」

『アンタレス』の攻撃はパイロットの精神状況が乱れている為か、自慢の20mm機銃が

当たらずに居た。それをジェシカは左右へ切り返すようにして回避する。神聖ミリシ

アル帝国の航空機は元が速度を重視した70年代相当のジェット機の為か、低速旋回や

旋回半径こそプロペラ機に劣るもののロール性能が高いのである。

 大体のプロペラ機が400km台で切り返しが悪くなるのに対し、ミリシアル戦闘機

は500km台でも速度を落とさずに切り返せる。まぁプロペラ機よろしく低速旋回

やら大掛かりな旋回をすると、致命的に速度が落ちるのだが。

「……………よし、そこ!!」

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『なっ?!うわあぁぁぁ!!』

 ジェシカはタイミングを見計らい、垂直急上昇を行った。追尾していた『アンタレス』

はジェシカの咄嗟の行動を目で追ったが、前方へ視界を移した時に彼女の行動を理解し

た。しかしそれは一瞬の事である、目の前には協会の塔が迫っており、『アンタレス』は

時速500kmで激突した。

    神聖ミリシアル帝国

 カルトアルパス地上

 「お、おい!!あれを見ろよ!!」

「すげえ、たった一人でグラ・バルカスを翻弄してるぞ!!」

 地上で対空戦闘を行っていた高射砲部隊の兵士や、逃げ惑っていた街の住民。避難指

示を出していた警察官は皆空を見上げてジェシカ機の戦いを目撃していた。たった一

人でグラ・バルカスを翻弄している、自分達が出来なかった事をやってのける彼女を見

て、高射砲部隊は士気を取り戻し始めた。

111 第十話 巣立ちの時

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「あいつ一人に任せたままにするな!!俺達もやってやろうぜ!!」

「あの戦闘機は俺達の尻拭いをしてるんだ、このまんまじゃあ恥かくだけだぜ!!いいぜ

やってやんよぉ!!」

 彼等は40mm魔光砲を敵機に向ける、目標はジェシカ機を追ってきている敵4機で

あった。続けて2機も落とされた事から、部隊全員の頭に血が上ったらしく。数で圧倒

すれば確実に倒せると踏んでの行動らしい。

「ケッ、俺達に目もくれずに追いかけてるぜ。」

「まるで女を追っかけ回しているヤツみたいだな、では奴等に教育ちゅう物を教えてや

ろうかね。」

 砲手はまずジェシカ機の進行方向先に砲口を向け、彼女が通り過ぎたのを見計らって

射撃を開始した。砲弾はジェシカの後ろを通過し弾幕を形成する、すると『アンタレス』

は諸に突っ込んで一機が火だるまになった。

「へへっ、ざまぁ見ろ!!」

「俺達を甘く見るから、こうなるんだ。」

 砲運用員は敵機撃墜により、手を上げて喜んだ。今まで上手く迎撃出来なかった事に

鬱憤を感じていたからである。そして見張り員の急降下爆撃機接近を受けて、砲を捨て

て避難するのだった。爆撃機を受けた40mm砲はカラフルな爆発が起こり、砲運用員

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は戦場に合わない光だと呟くのだった。

      神聖ミリシアル帝国

 海軍航空隊

「くっ、しつこい…………………。」

 対空砲で一旦編隊を崩された『アンタレス』は、以外と速く態勢を整えて先程と同じ

く追撃してきた。彼等が目指すのはジェシカ機の撃墜ただそれだけである。もはや地

上にいる民間人や高射砲は有象無象に過ぎない、確実にこの機体を落とすと誓ったので

ある。

 ジェシカの『ジグラント3』は先代の航空機よりエンジンが高出力だが、最大速度は

520km/hと毛が生えた程度の品物である。次第に『アンタレス』に追い付かれよ

うとした時、彼女等の後方から更に3機の影が突っ込んできた。

「たくっ、お前は本当に世話が焼ける奴だな。」

113 第十話 巣立ちの時

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「そっ、その声は!!」

 魔信から聞き慣れた声がしたと思ったその時、後ろの『アンタレス』に突如光弾が降

り注いだ。そしてその数秒後、ジェシカをしつこく追いかけ回した敵機は爆散か墜落の

どちらかの運命をたどるのであった。

「よぉ、お待たせ。よく持ちこたえたな。」

「ヘンリー、ジョセフ、隊長!!」

 オメガ率いる小隊が、ジェシカの周りに付いた。彼女の目から涙が溢れ、魔信から嗚

咽が漏れだした事により全員が苦笑をこぼした。一人で戦ってた癖にコイツは根本的

には変わら無いと、口には出さないが全員が抱いた感想であった。

 そして神聖ミリシアル帝国初の本土空襲、カルトアルパス空襲は数時間後に終結する

のであった。多くの資料は語らないが、そこには確かに国と人を守ろうとした多くの兵

士達の物語が、確かに有った事を個人個人の日誌は物語るのであった。

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第十一話 大海戦の前日

  神聖ミリシアル帝国

 帝都ルーンポリス 海軍作戦本部

 マグドラ沖海戦、フォーク海峡海戦、カルトアルパス空襲と言うミリシアル史上初の

本格的海戦、並びに本土空襲が終わった後日。早速現場指揮官へ対する査問会が開かれ

た。

 まず海軍からは、マグドラ沖海戦を生き延びた第零式魔導艦隊の指揮官クラスである

ジェームズ・マクスウェル准将と、エレイン・ペンウッド少将が召喚される手筈であっ

たが。エレイン少将は海戦による負傷により療養中であり、査問会には出席出来なかっ

た。

 ジェームズ准将に対する査問会の対応は、艦隊戦における不備は無かったかとの事で

ある。事前の砲戦における第零艦隊の戦果は曲がりなりにも認められている、これは海

軍上層部が殆ど同戦力である戦艦2、重巡3、軽巡2、駆逐艦5に負けたとは思いたく

なかっただけなのではあるが。何しろ第零艦隊は砲撃戦の訓練では負け無しなのだ、ミ

リシアルが砲撃戦で西の蛮族に殺られたとは考えたくも無いだろう。

115 第十一話 大海戦の前日

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 そこで焦点に当たったのが、その後の航空戦における対応であった。海軍上層部はミ

スリル級戦艦の喪失原因は、護衛艦が職務を遂行出来なかったのだと見ていたのであ

る。護衛を司る小型艦部隊の職務怠慢により、戦艦部隊の対空処理能力が飽和したので

ないかと追求したのだ。

「てめぇら、ふざけてんのか?!」

 軍判事の物言いはジェームズの逆鱗を触れた、彼にとってそれは部下に対する侮辱で

しかなかったからだ。確かに自分達は職務を遂行できず、『コールブラント』はおろか配

下の小型艦全てを海の藻屑にした。そこは確かに認められる、誰が見ても失点でしかな

い。だがしかし自分達はプロである、海軍軍人である以上プロを意識して戦ったのだ。

今までの軍務上、彼等は一切手を抜く事は無かったのだ。戦艦部隊や航空部隊に蔑まれ

ようとも、仕事の努力だけは譲れなかった。

「はぁ、これだから小型艦乗りは野蛮なんだ…………」

「なんだとテメェ?もういっぺん言ってみろ!!」

 軍判事や裁判官は、怒り狂ったジェームズに対して過激で口の悪い奴だと評を付け

た。自分の不手際を認めず、そして事実を言われたら怒鳴り散らして裁判を目茶苦茶に

する海軍軍人してはどうなのかと感想を抱くのだった。

「軍判事、裁判官。口が過ぎるぞ」

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「し、しかし司令長官」

 軍判事達や裁判官達に思わず苦言を漏らす声が聞こえた。それは軍事裁判所で最も

高い所に座っている男であった。西部方面艦隊を仕切り、肩に大将を示す階級章が輝い

ているクリング・コクラン海軍大将であった。

「それで、何があったと言うのかね?ジェームズ准将」

 ジェームズの言葉を真摯に聞くのは、クリングと東部方面艦隊司令長官のみであっ

た。

 そして査問会は続き、ジェームズに下された判決は一年間の謹慎であった。小型艦部

隊から下ろされる彼の心境は、恐らく誰も理解できないだろう。

 なお療養中のエレインに対する処罰はどうするかとの話になったが、国防省アグラが

「処罰なんか加えたら皇帝にキレられるだけだぞ」と発言し軍判事達を黙らせたのだっ

た。

     神聖ミリシアル帝国

117 第十一話 大海戦の前日

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 帝都中央病院

「怪我の具合が良くなって安心したよ、トーマス」

「あぁすまねぇ、心配かけちまったな」

 病院の一室にて、静かに語らう者が居た。戦艦『ガラティーン』の幹部であったアー

サーとトーマスである。彼等はお互いが無事に生きて帰れた事を喜び合っていた。

アーサーとトーマスはマグドラ沖の洋上で同じ様に脱出した者達と一緒に、救援の為に

付近から急行してきた豪華客船『クイーン・ミリシアル5世』に救助されたのだった。排

水量81961t、収容人数15000人(本来は2139人)のこの豪華客船は、外

国への圧力の為にカルトアルパスへ向かって居たのだが、海軍本部からの要請を受けて

やって来てくれたのだった。

「完治まで後どれくらいだ?」

「案外早いもんさ、一ヶ月後って所かね」

 トーマスは脱出の寸前に転倒してしまい、片腕と片足を骨折して動けなくなってし

まったのだ。幸い近くに機関科の下士官が居たために、担がれて退艦する事ができた。

『クイーン・ミリシアル5世』で再開した時に、エミリーがトーマスに抱きついて泣き出

して居たのをアーサーは今も覚えいる。

「それより聞いたぜ、あと六ヶ月したら艦隊出撃なんだってな?」

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「あぁ、よく知ってるな?」

「顔が広いからな俺は。で、新しく配属された艦隊には慣れたか?」

 アーサーは第零艦隊が解散されて数ヶ月後、西部方面艦隊に所属する第2魔導艦隊へ

と配属された。他の数々の将兵達もバラバラになって魔導艦隊や地方隊へと配置替え

がなされている。箝口令を敷かれてと言うおまけ付きではあったが。

 これは何故第零艦隊が全滅したかとかを、外に出さない為の処置であった。公式的に

は第零艦隊はグラ・バルカスの奇襲によって大損害を受けている程度の情報しかない。

「まぁな、白い目で見られる事もな」

「ハハッ、俺たちゃ敗残兵だもんなぁ」

 自嘲気味にトーマスは笑った、それにつられてアーサーも笑い始める。もう色々と虚

しいのだ、最強であるプライドはズタズタにされ、これから一生恥を晒しながら海軍生

活を送る羽目になるかも知れない。

「箝口令についても、何故機械文明ごときにやられたのか白状する気の無い臆病者だっ

てさ」

「へ、臆病者もんねぇ」

 元第零艦隊所属の兵士達への風当たりは強かった。世界最強、選ばれた者だけが参加

出来る新鋭艦隊との称号は、畏怖だけでなく嫉妬も高い名前だった。ここぞとばかりに

119 第十一話 大海戦の前日

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お前は第零艦隊の名を汚しただのと、表面と本心が隔離している中傷が浴びせられた。

 一体自分達は何処で失敗したのだろう?あの海戦が無ければとネガティブに考えて

しまう。彼等の精神状況は酷い事になっているだろう。

「……………アーサー、死ぬなよ?」

「俺は死なんさ、絶対に死なん」

 最後に一つ、トーマスは親友の無事を願うのだった。

     神聖ミリシアル帝国

 帝都ルーンポリス 港湾

 六ヶ月後、中央歴1643年1月18日にて、ルーンポリスの港は何時もより大規模

な賑わいが起こっていた。次々と港に押し寄せる観衆達、彼等が見るのは108隻にも

及ぶ大艦隊である。

「わー、凄い!!港を船が埋め尽くしているよ!!」

「あれはミスリル級戦艦だ!!かっこいいなぁ〜」

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 何時も空き地や公園で遊んでいる子供達も、艦隊の勇姿を見ようと港へ集まってきて

いた。未だに強力な戦力を保持する戦艦、次世代の主力艦と目されている航空母艦、

オールラウンダーが売りの巡洋艦、女王達の従者たる小型艦。子供達にとっては本屋の

雑誌でしか見れない光景が、生で目の前に広がっていた。

「凄い人気ですなぁ、総司令官」

「あぁ、そうだな……」

 この喧騒を少し離れた所で見ていたのは、第一魔導艦隊の司令長官兼魔導連合艦隊司

令長官のレッタル・カウラン中将であった。彼は副官の発言に空返事をしつつ、つい

一ヶ月前の西部方面艦隊の作戦会議の事を思い出していた。

「これよりブリーフィングを行います」

 陰湿そうな西部方面艦隊の参謀長たる少将が、始まりの合図を告げる。会議室にはそ

うそうたるメンバーが集まっていた。

 まず上座に座るは、西部方面艦隊司令長官のクリング・コクラン大将、その次に座る

は第一魔導艦隊司令長官のレッタル、そして第二魔導艦隊司令長官のジョージ・ウェル

ズリー中将と、第三魔導艦隊司令長官のロバート・ヒル中将であった。

「今回の連合艦隊の司令長官はレッタル・カウラン中将とする」

「連合艦隊司令長官の任、拝命致しました。国王の為に勇戦する事を誓います」

121 第十一話 大海戦の前日

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 実に三人の中将が肩を揃えていたし、三人とも海軍学院の同期だった。その中で最も

昇進が早かったレッタルに連合艦隊の指揮権が委ねられた。100隻もの大艦隊、数多

の海軍軍人が憧れる立場なのだが、現実はそう良い立場ではない。一個艦隊の人員だけ

で18000人、三艦隊の合計で54000人もの人命預かる事となるのだ。彼の一言

でこの54000人の内、何人かが家に帰れるかを決定付ける事になる。

 レッタルはその責任の重さに冷や汗をかき、胃を痛めるのだった。

「今回の作戦の説明を行わせていきます、先ずは目の前のスクリーンにご注目を」

 レッタルのストレスを無視して、会議は進行された。部屋の中が薄くなり、スクリー

ンに文字や海図がくっきりと浮かび上がる。

 戦法は至って単純である。第一、第二文明圏と南洋艦隊(地方艦隊の正式名称)の混

成艦隊たる世界連合艦隊によってグラ・バルカス帝国を誘引し、本命たる魔導連合艦隊

の艦載機336機と第二文明圏連合竜騎士団の500騎。計836機で敵艦隊を擊滅

すると言う物であった。

「なぁレッタル、どう思う?第零艦隊を全滅させた相手だが」

「どうと言われてもなぁ、俺にはちと判断しかねるな」

 隣に座っていたジョージに話を振られ、レッタルは名言しかねたのだった。第零艦隊

は録なエアカバーが居ない中を200機になぶられたのだ、その前にある程度の損害を

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受けてではあるが。

 水中攻撃を受けたとの噂があったが、恐らくそれは無いだろう。大体どうやって水中

を進む兵器が作れると言うのだろうか?自分は全く理解が出来ないとレッタルは考え

る。

「水中攻撃はどうだ?多数目撃されてるようだが」

「まさか、海魔と見間違えたんじゃないか?」

 隣から割り込んできたロバートの発言に、レッタルは全くだと彼と同じ意見を持っ

た。第零艦隊の生き残り自体は多数居たし。水中攻撃、すなわち魚雷の攻撃も報告が

有ったのだが。上層部は水中魚と間違えたのだろう、それが偶々爆弾の誘爆と被ったと

結論付けた。これは異世界の大型魚や、海魔と言った生物が居たゆえの誤解だと、後の

研究者は語る。

 常識外れ(ただし異世界基準だが)の物は、大体人間は選択肢から外す。常識外れを

真に受けて研究したり考慮するのは、天才か狂人かしか居ないだろう。

「艦隊は三個艦隊だけなのでしょうか?東部方面艦隊や地方艦隊は動員出来ないのです

か?」

「それは本気で言ってるのか?第二艦隊作戦参謀」

 第二艦隊の作戦参謀の質問に対して、参謀長は呆れた声を上げた。書籍によってはク

123 第十一話 大海戦の前日

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リング大将の三個艦隊で充分との発言は、最悪を想定してないとして非難されている

が。その実態はミリシアルの動員戦力が三個艦隊を超えると、本土防衛やシーレーン防

衛に影響が出るので行えなかっただけである。

 第一、バルチスタ海戦で全力の七個艦隊を投入し、大損害を受けていた場合。ミリシ

アルは制海権の確保や、その他多数の作戦行動に支障が出ていた可能性が高いのであ

る。

 クリング大将はこの事を理解しており、責任の全て(海軍上層部や国防省アグラ長官)

を引き受ける積もりだったと最近発見された手紙や部下の新たな証言により判明して

いる。

 しかしこのバルチスタ海戦は、提督一人のみならず参加した将兵に対しても悲劇で

あった海戦である。誰かが悪い誰かが良かっただのと言う不毛な言い争いを止め、その

出来事をありのまま受け止めて鎮魂してほしいと、研究者やごく一部(本当にごく一部)

ノンフィクション作家は願うのだった。

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第十二話 前哨戦

  世界連合艦隊

 バルチスタ近海

 ミリシアル南洋艦隊の13隻、ムー第一機動艦隊の50隻を含む、トルキア王国、ア

ガルタ法国、ギリスエイラ公国、中央法王国、マギカライヒ、ニグラート連合、パミー

ル王国の総計488隻にも及ぶ大艦隊が、ニグラート連合バルチスタ沖へと轡を揃えて

進行していた。

「とてつもない艦隊だな、総計488隻とはなぁ…………。」

「まぁ傍目から見れば、団子みたいになってるがな。」

 ニグラート連合から飛び立った偵察の竜騎士より、付近にグラ・バルカス帝国の艦隊

を補足したとの事で、世界連合艦隊は敵を求めて前進していたのである。

 488隻、数だけならば凄まじい大艦隊だが、内実はそう勇ましいものでは無い。こ

れは世界各国の大きな技術格差が原因であり、列強だろうが11ヶ国会議参加国だろう

が関係が無いのである。列強ですら戦列艦、正確には装甲を張った魔導艦なので地球の

戦列艦よりはマシなのだが……………。

125 第十二話 前哨戦

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「第二文明圏であるムーですら、我らミリシアルには遠く及ばないんだよなぁ

…………。」

「こんなので列強二位なんだぜ?周りが本当にアテになんねぇなぁ…………。」

 そう愚痴を漏らす、神聖ミリシアル帝国海軍南洋艦隊旗艦『ベガルタ』の見張り員で

あった。

 いや、お前らも当てになんないじゃんとの批判が有るかもしれないが、ムーの方が当

てにならないのは事実である。何しろ旧式戦艦と成り下がったマーキュリー級戦艦『ベ

ガルタ』ですら、ムー海軍の『ラ・カサミ』より遥かに強力な戦艦なのだ。

「旧式戦艦の我が『ベガルタ』ですらムーより強いんだから、意味わかんねぇよ。」

「ただ周りより強いと言うだけで、世界最強に匹敵するとは言えないもんなぁ

…………。」

 全長205mの戦艦は、131.7mの『ラ・カサミ』より大きく見えるだろう。主

砲もミリシアルのスタンダードである霊式34.3cm連装魔導砲であり、改良によっ

て38.1cm砲と同じ射程34kmとなって、射程13.7kmの30.5cm連装

砲よりも射程や威力の面で強力であった。

「しかもこの艦は曲がりなりにも戦艦として作られたから、我が国の戦艦の中で二番目

に装甲が強いんだよなぁ………。」

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 ゴールド級はマーキュリー級より後に作られていたのだが、速度の為に装甲を削って

いる所謂巡洋戦艦であっただ。その為マーキュリー級は二番目に装甲が強力な戦艦に

なってしまった。装甲強化後は305mm装甲に匹敵する強さを誇る………………。

「しかし、戦力になるのは俺達だけとは、とても不安だな。」

「だが俺達はやり遂げなきゃいけねぇんだよ。」

「ふ、副航海長!!」

 後ろから掛けられた言葉に顔を向けると、そこには『ベガルタ』の航海長であるトー

マス・ベイカー海軍『少佐』が仁王立ちをしていた。右目に縦に入った傷が、名誉戦傷

で場数を潜った事を思わせる。

 彼はかの第零艦隊が全滅し、中央病院に入院したが。傷が完治してそうそう地方艦隊

たる南洋艦隊に飛ばされたのだった。恐らく箝口令も含めての処置であったのだが、南

洋艦隊も出撃となったので意味が無くなった。

「そうそう、みんな全力を尽くしなさい。」

「レーダー長まで居られましたか!!」

 トーマスの後ろから現れたのは、同じく南洋艦隊に飛ばされたエミリー・コリンズ海

軍少佐である。実は彼女、異動してそうそう、天敵であるトーマスと遭遇し己の不運を

嘆いていた。切っても切れぬ腐れ縁でも有るのだろうか、この二人には。

127 第十二話 前哨戦

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「先程ムー艦隊から報告が入ったわ。偵察に出ていた航空隊が、敵の偵察機と遭遇した

とか。」

「な、なんと!!」

 エミリーの発言により、周囲にざわめきが起こる。敵は恐らく近いところまで来てい

る、すぐにでも海戦が起こる可能性が高いと言うことだ。

 もしらすると、我が世界連合艦隊が海戦の火蓋を切るかもしれない。無線封止中の魔

導連合艦隊の様子は解らないが、距離的にまだ会敵していない可能性がある。

「よしテメェら、敵の動向一つ見逃すなよ。お前らの働きが『ベガルタ』の運命を左右す

ると知れ!!」

「「おう!!」」

 見張り員へ軽く訓示をし、トーマスとエミリーは艦橋に上がる。その途中エミリーが

不安そうな声で、トーマスに話しかけた。

「で、どう思う?奴等また水中攻撃してくるんじゃないの?」

「ぜってぇするよなぁ、あれが俺の記憶違いじゃなかったらな。」

「一応見張り員には通じたとは思うけど、先入観や何やらで報告が遅れたらどうなるこ

とやら…………。」

 そして二人は大きな溜め息をついた、此処まで気が合うと実は仲がいいのでは?と

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思った者が何人か居たが、そんなことは言わぬが仏との事。余計な事は言わない方が良

いのだ……………。

     数時間後

 「ムー航空隊、敵偵察機の迎撃に失敗!!」

「魔力探知レーダーに感、37NM(約70km)に航空機一機を確認!!」

 ムーの迎撃が失敗した報告が『ベガルタ』に入ったが、艦橋にいる全員の心境は「やっ

ぱりな」と大して信用していない物であった。艦長のレルジェン・パウンド大佐に至っ

ては、そうかと呟いて直ぐ興味を失っている位である。

 彼が今考えている事は偵察機を落とすことでも海戦に勝つことでもなく、どうやって

自艦と乗組員を生き延びさせるかであった。

「やっぱ駄目でしたなぁ……………。」

「アンタ、マグドラ海戦でも同じ事言ってたよね?」

129 第十二話 前哨戦

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「だって俺航空隊なんて信用してねぇし。」

「どんだけ航空隊嫌いなのよアンタ……………。」

 副航海長とレーダー長の何気ない会話が聞こえ、レルジェンは二人に興味を持った。

そう言えば彼等は第零艦隊の生き残りだった筈、何か有益な情報でも持ってるかもしれ

ない。報告書には書いていない細かい所やら何やら…………。

「所で君達、ちょっといいかな?」

「ハッ!!何でしょうか艦長!!」

「いやなに、少し君達の知見を聞いておこうと思ってなぁ……………。」

 この時彼が話半分でトーマス達の話を聞いていた事が、後に自分達の運命を変えると

は思わなかっただろう。そして艦隊は数分後、上空に偵察機を確認した。南洋艦隊が所

属する戦艦3隻、巡洋艦4隻、小型艦6隻がたった一機の偵察機へ向かって弾幕を形成

する。

 相変わらず砲弾の炸裂は非常に綺麗で、真っ直ぐ伸びる青白い光は幻想的なのだが、

全く効果が無いのも相変わらずであった。偵察機は艦隊上空を暫く旋回した後、悠々と

来た方向をそのまま帰って言った。

 まぁ実際は

「オイオイ何で派手な対空砲火だ、まるで生きた心地がしねぇよ。」

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「さっさと無線で通報して離脱しましょう、まぐれ弾で落ちるのは勘弁ですから。」

 と一定の評価をグラ・バルカス帝国のパイロットは評価したのだが、戦時中はこう言

う回想は味方の士気を下げるとして当然ながら検閲されていた。戦後になってこの海

戦に参加したパイロットが、マスメディアの前で発言した。

「ハァ…………、ダメだこりゃ。」

「まんま弾の無駄使いになっちまったねぇ…………。」

 ミリシアルから見て見事なまでに予測された通りになり、思わず誰かが溜め息を付い

た。あぁ終わったな、あと数時間すれば百機ものハゲタカ共がやって来るんだなぁと、

皆諦めた気持ちで目の前の任務に集中し始めるのだった。

「全艦戦闘配置を下令せよ、私達は私達なりの職務を果たそう。」

 場の雰囲気を変えるために司令長官が号令したが、皆の顔は暗いままか何処か呆れた

様な顔である。士気は壊滅的に低いと言っても良い。大体世界連合艦隊は魔導連合艦

隊の囮なのである、誰かがそう言ったり命令した訳では無いのだが。出撃前からそんな

噂が立っており、ミリシアル南洋艦隊だけでなく各国の艦隊にも囮だと自覚している者

が多数いた。

 実はこれはグラ・バルカス帝国が流した噂であった。かの帝国は世界的に離反工作を

行っており、世界連合の結束を崩すべく既にスパイを放っていたのである。誰かが大き

131 第十二話 前哨戦

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な声で発言した内容が、多数に伝搬し疑心暗鬼に陥れる。古代からよく使われていた手

法であり、中々対応する事が難しい方法だ。

  そしてその数分後

 戦艦『ベガルタ』の艦橋には、戦況報告が絶え間なく入っていた。全て味方の不利を

呼び掛ける物しかないが。世界連合のエアカバーは秒刻みで崩壊して行き、全く当てに

ならないのがよく解った。何が列強だ、何が文明圏だ、ただ周りより少し賢いだけの奴

等がと、ミリシアルの全乗組員は連合艦隊に恨み節をぶつける。

「我々はやはり囮だったな。」

「何を今更、最初からわかっていたではありませんか。」

 レルジェンの呟きをトーマスは呆れた口調で返答した。第零艦隊を潰した奴等が相

手なのだ、連合艦隊が高価な弾除け位ミリシアル全海兵が暗黙の内に解りあっていた癖

に。何を何回も言ってるんだこの艦長はと、トーマスは口に出さないがそう思ってい

た。

「我々は生き残れるかね?副航海長。」

「数だけは多いですからなぁ。より攻撃しやすい各国艦隊へ目を向けてくれれば、15

分ほどで数だけは多い連合竜騎士団が加勢します。170騎でも加勢してくれれば、最

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初の一撃は何とか耐えれるでしょうなぁ。」

「そう『数だけは』を強調せんでくれ、心臓に悪い。」

 仕方ねえだろ、本当に数しかねぇんだからと、心の中で毒付くトーマスであった。何

が楽しくって、世界連合のお守りなんかやらなきゃならんのだ。このままじゃ全員犬死

に確定だなと予想を立て、溜め息を付きたくなった。

「敵機来襲!!12時方向上空4000mから来ます!!」

 見張り員の上ずった声が伝声管から響き、魔砲長が対空戦闘の指示を飛ばした。先程

から戦闘配置を解いていないので、ミリシアル艦隊は直ぐ様対空戦闘を開始する事が出

来た。

「クソッ、なんて数だ。敵さん本気だな!!」

 多数の砲弾がグラ・バルカスの第一次攻撃隊へと向かうが、100機もの大群の前で

は児戯に過ぎなく。上空は彼等が乱舞するパレードと化した。その内の一機が連合艦

隊に目もくれずに『ベガルタ』へと突入した。

「敵機が一機、我が艦に突入して来ます!!」

「全対空砲火、敵機に集中しろ!!何としてでも叩き落とせ!!」

「とーりかーじ一杯い!!急げ!!」

 魔砲長とトーマスが慌てて対応するが、迎撃も回避運動なんて意味が無いと言うかの

133 第十二話 前哨戦

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ように急降下爆撃機『シリアス』は『ベガルタ』へと迫る。

「駄目です!!間に合いません!!」

「総員衝撃に備え!!」

 レルジェンが叫び、艦橋にいる全てのスタッフが身近な物に捕まった。ヒュルルルと

言う飛翔音が近付いてき、10秒、20秒が永遠の様に感じられる。何時まで経っても

直撃しないと思ってしまい、気を抜いた時に船体が激しく揺さぶられ、捕まってなかっ

た物は床を転げ回った。

「旗艦『ベガルタ』が被弾!!『ベガルタ』が被弾したぞ!!」

『ベガルタ』が被弾した光景は、この海域に居た全ての艦艇から確認された。世界最強の

帝国が保有する戦艦が大炎上、それは他の文明圏が絶対に勝てない事をハッキリと見せ

付けているかのようである。しかし『ベガルタ』が松明と化したのは始まりに過ぎない。

ミリシアル帝国の主力たる魔導連合艦隊がグラ・バルカスの背後を取り、敵をその空飛

ぶ戦士達の射程に捉えたのだった。

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第十三話 ターキーシュート

  魔導連合艦隊 第6偵察飛行隊

 グラ・バルカス東部方面艦隊上空

 高度6000m。ワイバーンやマリンでは確実に上昇できない高度を、一つの機影が

ゆっくりと飛行していた。

 鋭いノーズコーンに、逆ガル翼とH尾翼が有名な『ジグラント3』の偵察機仕様であっ

た。

 単座(一人乗り)から複座(二人乗り)へと改造され、ノーズコーンの中身は写真機

や魔力探知機、機体後部には各種無線機が搭載されている。

 6門も有った20mm機銃は2門の12.7mm機銃へと変更され、後部座席には

ポールマウント式の7.7mm機銃が装備されている。

 最大速度は560km/h(なお主翼翼端切り取り、機体構造物の肉抜き、その他涙

ぐましい軽量化etc…………。実験時の急降下引き起こしの際機体がバラけると言

う暗い噂やら…………。)、最新鋭戦闘機の『エルペシオ3』よりも高速で、高度600

0mを飛行すればグラ・バルカスの『アンタレス』による迎撃は間に合わないだろう。

135 第十三話 ターキーシュート

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 無論、ワイバーンやマリンでは辿り着く事すら出来ない、まさに無敵の『写真屋』で

ある。

「おいジャック、魔力探知機に反応はあるか?」

「えぇ、12時方向15km先に反応が有ります。雲の下へ潜り込めば確認できるで

しょう。」

 機長はジャックと呼ばれたナビゲーター兼機銃手へ確認を取った。この偵察機のナ

ビゲーターは多数の役割をこなす、万能屋の様な者である。レーダー監視や目視による

探敵、後部機銃による迎撃や航路計測など負担が掛かりやすい職種だ。

「よしっ!!では覚悟を決めますかな。」

 機長は操縦幹を前に倒して雲に突っ込む、数秒もすれば真下にはグラ・バルカス帝国

海軍の艦隊が大艦隊を引っ提げて前進しているだろう。さて、奴等はどれぐらいの戦力

をこのバルチスタに投入してきた事か…………。

「……………なっ?!冗談だろ…………。」

「これは、流石に………………。」

 敵艦隊を視認して、二人は絶句した。大艦隊だと言うのは当たっていた、誰がどう見

ようと大艦隊だ。ただし規模は想像していたのとは遥かに隔絶していた。

 戦艦10、空母6、軽空母3、その他巡洋艦や駆逐艦を合わせれば200隻以上の大

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艦隊である。魔導連合艦隊どころか、ミリシアルの全主力艦隊を集めなければ、対抗な

んて到底出来ないのではないかと思わせる一大戦力である。

「こりゃ急いで報告しねぇと不味いぞ!!正攻法じゃ勝ち目なんてねぇ!!」

「機長、後方上空に敵機!!」

「長居は無用だ、急いでトンズラするぞ!!」

『アンタレス』の攻撃をすんでの所で回避した偵察機は、速度を最大にまで上げて離脱し

た。降下によって『アンタレス』はスピードが上がっていたのだが、その後の上昇によ

り上昇力が無くなって偵察機を取り逃がす事になった。

   神聖ミリシアル帝国海軍

 第2魔導艦隊旗艦 戦艦『クラウソラス』

「旗艦『カレドウルフ』より報告!!各艦隊の航空母艦は攻撃隊を編成し、敵艦隊を殲滅せ

よ!!」

「殲滅とは、レッタルの野郎相当張り切ってやがるなぁ。ま、俺も奴等を殲滅してやろう

とは思ってたがな。」

 レッタルの命令に対して獰猛に口角を上げる、第2魔導艦隊司令長官ジェームズ・

137 第十三話 ターキーシュート

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ウェルズリー中将。その勇敢さによって艦橋スタッフの士気が上がるが、実の所ジェー

ムズは内心に不安を抱えていた。彼は敵情をしっかりと把握してから攻撃を加える、ど

ちらかと言えば慎重な司令官である。

 グラ・バルカス帝国には謎が多すぎる、本土は島国であり大陸ほどの大きさこそ無い

が。かと言って人的資源が少ないとか、資源が無いとは言い切れないのである。

 そして最も不明なのは敵の航空機と、情報が上がっている『未知の水中攻撃』である。

上層部やレッタル、ロバートは敗北した第零艦隊の言い訳や、見間違いと言っては居た

が。彼の同期であるバッティスタが育て上げた部下が、そんなつまらない事を言うとは

思えなかったのだ。

「アーサー少佐、どう思うかね?この海戦は勝てると思うか?」

「常識的な判断を申し上げますと。敵艦隊は我が艦隊より大規模ですが、まだ我々の位

置を把握しておりません。攻撃隊の数も100機以上ですから、そう易々と迎撃される

される事は無いでしょう。」

「常識的と言うと、やはり敵の航空機の性能と、君の言う『未知の水中攻撃』かね?」

「はい、そうです。聞けばカルトアルパスの空戦で『エルペシオ3』のキルレシオは一対

三だとか。数の上で負けていれば、勝利は厳しいかと。」

「アーサー少佐、それは失言だぞ。今この時に言う台詞じゃない。………………もっと

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オブラートに包みたまえよ…………。」

 全く反論も出来ないアーサーの発言に、ジョージは胃が痛くなった。どうするんだ、

これは。奇襲だからダメージは与えられるだろう。いや、与えられなかったらそれはグ

ラ・バルカスに一切太刀打ち出来ない事を意味する。それだけは絶対に避けたい事案で

あった。

「万全を期すには、艦隊全ての艦載機336機を投入したいですが。まぁあり得ないで

しょう、流石にこれは。」

「常識に当てはまらないから、こちらも常識外な事をするのも手だぞ?まぁ連合艦隊参

謀部がそんなギャンブルをやるとは思えないがな。」

 事実アーサーは航空機全機を一斉に出し、敵の処理能力を飽和させようと提案した

が。参謀部や各艦隊各戦隊司令官に失笑されるに終わった。流石のジョージも苦笑い

を浮かべるしかなく、アーサーも流石にこれは無いなと思っていた節がある。

 もしアーサーの言った通りに全機出撃すれば、東部方面艦隊に打撃を与えられただろ

う。エアカバーを完全に失って、グラ・バルカスの第一次攻撃だけで連合艦隊が全滅し

た可能性が高いと言う事実に目を瞑ればだが。

「我が艦隊の空母『フェイルノート2』、『シェキナー4』より攻撃隊が発艦しました!!」

 ジョージは自艦隊が保有する空母2隻に目を向けた。双方20機程の艦載機が発艦

139 第十三話 ターキーシュート

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しているのが見える、6隻合わせて120機程となるだろう。普通これぐらいの艦載機

を飛ばせば、世界各国の艦隊はなす統べなく全滅するだろう。

 しかし敵は最低限で我が国と同等、自分の予想では差が開いている技術力を持ってい

るだろう。

 参謀部や司令部は万全だと思っているが、ジョージ率いる第2艦隊司令部は万全だと

は全然思えなかった。

   グラ・バルカス帝国海軍

 東部方面艦隊旗艦『グレードアトラスター』

「レーダに感あり!!艦隊より5時の方向、距離200km、飛行物体多数!!これは

……………100機を超えています!!」

「成る程、奇襲には奇襲で返して来たか。小癪な。」

 グラ・バルカス帝国最大の艦隊、東部方面艦隊を率いるカイザル・ローランド大将は

口角を上げて呟く。猛将と呼ばれるこの男の心の内は、冷静にこの戦いを見ていた。

「参謀、迎撃に出せる戦闘機の数は?!」

「ハッ!!艦隊周囲で哨戒していた12機と、出撃待機していた78機です。戦力的に充

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分な数ですが、敵は100機なのが不安材料ですね。」

 合計して90機の『アンタレス』が迎撃に差し向けれる数であった。この海戦で参加

した東部方面艦隊の戦闘機の数は、27機の戦闘機を持つ(艦載機自体は72機搭載)

『ペガスス』級空母が6隻、21機の戦闘機を持つ(艦載機自体は30機搭載)『アマル

テイア』級軽空母が3隻。計225機の『アンタレス』が居た。

 しかし世界連合艦隊への攻撃の為に半数の『アンタレス』を投入してしまった為、半

数しか戦闘機が居ない状況となっていた。

 そこを付かれた形となり、カイザルは中々嫌な所で攻撃してくるなとミリシアルを評

価していた。しかも今は格納庫内で航空機に爆装を施している最中である、ここを攻撃

されれば空母が大ダメージを受けるのは間違いない。

 手記にてカイザルは一生の不覚だったと記述している事から、相当際どい所だったの

だろう。

   そしてその数分後

 東部方面艦隊の戦闘指揮所と艦橋は、しっちゃかめっちゃかな大混乱に陥っていた。

何しろ数が多く、味方の『アンタレス』にもある程度の被害が出ていたのである。

141 第十三話 ターキーシュート

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「第4飛行隊、損害4!!第9飛行隊は壊滅!!」

「予備として待機していた第6飛行隊を投入しろ!!」

「第5セクターの迎撃網突破!!敵機が突っ込んできます!!」

 カイザルはその報告を聞き、第5セクターの方向を睨んだ。小さな点が四つ、高度4

000m辺りを飛行しているのが見える。雷撃機より早い機体が、『グレードアトラス

ター』へと向けて突っ込んで来たのだ。

「右舷高角砲群、迎撃用意!!主砲はtype3榴弾を装填して待機しろ!!」

『グレードアトラスター』艦長の、ラクスタル・A・バーク大佐は直ぐ様迎撃の命令を下

した。しかし主砲の発射は留められた、これは主砲の発砲煙により対空射撃を阻害する

のを防ぐためである。

「敵も中々やるようだな!!艦長!!」

「全くですな、長官!!航海長、回避は任せたぞ!!」

「ハッ!!了解しました!!」

 艦橋に居る士官達は固唾を飲んで、敵の多用途戦闘機『ジグラント3』を睨んだ。彼

等が抱えている爆弾の重量は905kg、それは戦艦主砲を改造した品物であり、戦艦

を撃沈しうると考えられる爆弾だ。

 距離8000mにまで近付いた時、右舷6基の12.7cm連装高角砲が火を吹い

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た。一分間に一門14発、計168発の対空榴弾が一斉に炸裂した。しかし狙いが甘い

のか、散布界はバラけきってしまっている。

「クッ!!修理したばかりで調整が完璧では無いか。射撃統制も測距射撃もまるで意味が

ないぞ!!」

『グレードアトラスター』はベストコンディションでこの大海戦に赴いている訳ではな

かった。フォーク海峡海戦によって高角砲に大きなダメージを受けており、新しく設置

し直されたばかりなのである。しかも優秀な砲手にも被害がでており、たった数ヶ月の

訓練では、年単位で実戦経験豊富なベテランを育成するのは無理な話である。

「敵機2機が火を吹きました!!しかし2機が未だに健在!!」

「面舵一杯!!機銃撃ち方初め!!」

 両舷75丁づつもの25mm機銃が『ジグラント3』に集中される、3発に1発づつ

の割合で混ぜられている曵火弾がきらびやかに輝いた。数秒も掛からない内に一機が

ズタボロにされて海中へ突っ込むが、仲間が全滅してもなお敵機は止まらなかった。

「敵機、爆弾投下!!命中コースです!!」

「総員衝撃に備えー!!」

 ラクスタルが力の限りを振り絞って叫ぶ、今まさに『グレードアトラスター』へ致命

傷を与えようとする攻撃が迫ろうとする。ラクスタルとカイザルは素直に評価した、ミ

143 第十三話 ターキーシュート

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リシアルのパイロットの技術は高い、勇気もある、そりゃ世界最強と謳われるのも無理

はないだろう。

 そして905kg爆弾は着弾した、命中箇所は後部主砲と副砲の間である。命中角度

が浅かったのか、主要水平装甲を貫いて直ぐ爆発した為に大した被害は無いように見え

た。

 しかし冷却機が故障したのか副砲と主砲の弾薬庫の温度が上昇し始め、ラクスタルは

仕方なく弾薬庫に注水するしかなかった。

 これにより『グレードアトラスター』の攻撃力は三分の二まで落ちたと言えよう。確

かに継戦能力はまだあるが、これは痛い損傷であった。

 なお最後の『ジグラント3』は退避行動中に対空砲で撃墜され、500kmものスピー

ドで海面に叩き付けられた。パイロットは即死だっただろう。

 その敢闘精神を称え、艦橋に居た一同は名も無きパイロットへ敬礼するのだった。

    なお世界最強の戦艦を窮地に陥れた優秀なパイロットの名前は、戦後博物館に記載さ

れた。何しろ戦後の捕虜交換で、グラ・バルカスに救助されたあの時の僚機のパイロッ

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トが証言して発覚した出来事なのだから。

        そのパイロットの名は、オメガ・ミラー少佐。第1魔導艦隊に転属したばかりの騎士

であった。

145 第十三話 ターキーシュート

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第十四話 ハゲタカ共

  神聖ミリシアル帝国海軍

 魔導連合艦隊 第2魔導艦隊

 「全滅ぅ?!100機もの攻撃隊が全滅?!ば、化け物か……………。」

「おい、それは本当なんだろうな?!レーダーに故障は無いのか?!」

 魔導艦隊全ての司令部が、攻撃隊全滅の報で恐慌状態に陥った。100機の天の浮船

が攻撃してきたら自国の『エルペシオ3』でも撃退出来るか出来ないかだと言うのに、全

滅とは一体どう言う事なのだろうか。

「やはり…………、か。何となく予想していたが、まさか全滅まで行くとはな

……………。」

 この状態を冷静に見ていたのは、カルトアルパス戦を生き延びたアーサーと一部の将

兵だけだった。直に奴等の攻撃を受けた彼らは、さもありなんと言った感で対策を考え

るのだった。

「司令、事態は一刻を争います。出し惜しみなく攻撃隊を出撃させなければ、奴等に傷一

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つ付ける事は出来ません。」

 実際はベテランパイロットたるオメガ・ミラー少佐や、その他の高練度の空母パイ

ロット達の奮戦により。

 戦艦一隻中破、空母一隻中破、重巡三隻少破の被害を与えていたのだが、攻撃隊全滅

によって敵艦隊の詳細な報告は届いていなかった。

 グラ・バルカス東部方面艦隊は部隊を分離させて、本隊の数は155隻(それでも魔

導連合艦隊108隻より多いが)と減ってはいたのだが、参謀達は最悪を想定して動こ

うとしていた。

「魔力探知レーダーに感!!反応1、南西方向!!」

「どうやら攻撃隊を送る話は無しになったな。」

 冷や汗をかきながら、ジェームズはアーサーへ呟く。最早攻撃隊を送る暇などない、

次は此方が敵を迎え撃たなければならないのだ。自分の身を守ることに精一杯となる

だろう、無論ただでは済まさないようにはするのだが。

「『ジグラント3』の爆装を解除しろ!!全ての戦闘機を迎撃に回せ!!」

「ぜ、全部でありますか?!しかし、第二次攻撃はどうするのです!!」

「次の攻撃は第1艦隊と第3艦隊が少し請け負ってもらう!!今飛んでいる上空直援機と

共同で迎撃するぞ!!」

147 第十四話 ハゲタカ共

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 ジェームズとアーサーの判断は素早かった。第2艦隊は爆撃隊の出撃準備が遅れて

い為、みすみす無防備な所を攻撃されるよりかは、直ぐ様機体を上がれる様にして迎撃

した方が手っ取り早かったのだ。

   神聖ミリシアル帝国海軍

 第2魔導艦隊 第2空母戦隊

 旗艦『フェイルノート2』

「俺達が艦隊を守る主戦力になるぞ、気合い入れろ!!」

「「オウ!!」」

『ジグラント3』と『エルペシオ3』の区別なく、全てのパイロットが艦隊を守るべく気

合いを入れた。第2艦隊で出撃できる迎撃機の数は、双方合わせて64機程度である。

 戦法によっては、敵の攻撃隊を迎撃出来なくもない、とてつもなく強敵ではあるが。

慢心しきっているミリシアル帝国航空隊、このまま行けば壊滅必須なのは後の世から見

ている我々だけが知っているだろう。まぁ、当時の人々や異世界の人々には全く予想で

きないだろう。

「よう『救国の戦乙女』!!アンタの活躍に期待しているぜ!!」

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「は、はぁ……………。」

「もう少し気を張れよ、『救国の戦乙女』さん?」

「止めてよぉ………、ヘンリーぃ…………。」

 ジェシカとヘンリーは、第2空母戦隊の『ジグラント3』攻撃隊に配属されていた。二

人ともカルトアルパス戦の功績によって、中尉に昇進している。しかしこれはプロパガ

ンダの意味合いが強い。カルトアルパス上空戦での空軍、海軍航空隊の失態を隠すべ

く、新米ながら活躍したジェシカを大々的に褒め称えたのである。新米と言う立場が、

彼女の輝きを更に際立たせていた。

 なおカルトアルパス上空戦でジェシカ共々『ジグラント3』も、大々的にマスメディ

アに勇ましく描かれていた。ミリシアルの民衆は『救国戦闘機』としてこの機体に多大

な期待を抱いており、軍部もまたそれに乗っかる形で過大評価を与えていた。

 機体に揃って御輿に担がれるジェシカ、彼女の肩身はとても狭い物となっていた。

『全航空隊出撃せよ!!撃墜されたら訓練増量を覚悟しておけ!!』

「ひえぇ、戦隊司令官また恐ろしい事いってんなぁオイ。」

「周りからキチガイ呼ばわりされているからなぁ、うちの司令。訓練ですら命懸けとか

やってられねぇよぉ。」

『7番機と8番機聞こえているぞ。帰ったら訓練な。』

149 第十四話 ハゲタカ共

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「「ひえぇ……………。」」

 第3飛行隊の7番機と8番機が悲鳴をあげる。ジェシカとトーマスは初めてこの空

母戦隊に配属された時、ここの訓練の厳しさには大層驚いた物である。数ヶ月経ってよ

うやく慣れてきたと言うところであった。

  発艦してから数分後

 ジェシカ達第2空母戦隊の面々は、飛行隊ごとに散会して警戒に付いた。魔力探知

レーダーは、機械文明国相手には相性が悪い事で有名である。対象がムーではあるが、

ムーが攻撃隊を放った時にレーダーに探知されず相当接近されるだろうとの予想が

あった。グラ・バルカス帝国はムーと同じ機械文明国、レーダーに映らず接近する可能

性は高いだろう。

「……………いた!!」

「こちら第2空母戦隊第2飛行隊、敵機を見つけた!!方位10時方向、距離86.4NM

(160km)、30機を超えるぞ!!」

 ジェシカとヘンリーが所属する第2飛行隊が、真っ先に敵の攻撃隊を発見した。数は

ミリシアルが迎撃に出せる約70機の方が多い、このまま行けば敵の攻撃隊に対して飽

和攻撃を仕掛ける事ができる。レッタルや多数の士官はほくそ笑んだ、しかし

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……………。

『こちら第1空母戦隊第6飛行隊、敵機発見!!数40機!!』

『第3空母戦隊第8飛行隊、敵機150機を発見した!!きょ、距離54NM(100km)

だ!!』

 凶報が立て続けに入ってきた、まともに敵を対処できると思ったとたんこれである。

しかも敵はご丁寧に攻撃隊を散会させて、他方向から魔導連合艦隊を攻撃しようと画作

していたのである。連合艦隊司令部の面々は、間抜け面を晒して呆然と立っていたと言

われている。

「全航空隊攻撃開始!!奴等を叩きのめせ!!」

「いまここで全力を出さずしてどうするか、皆の奮闘を期待する!!」

 ジェームズとアーサーは見敵必殺と言わんばかりに、戦闘機部隊へ迎撃命令を出し

た。後先考えずに命令を下したと非難する人もいるだろうが、航空戦では先手を取らな

ければ殺られると思っている二人に躊躇など無かった。

『全機反転!!後ろから殺るぞ!!』

『敵中型汎用機に対しては可及的速やかに攻撃せよ、奴のスピードは速い!!』

 第2空母戦隊の面々は攻撃を開始した、まず最初に洗礼を受けたのは『リゲル』艦上

攻撃機である。『リゲル』攻撃機は481kmを誇る、雷撃機としては高速の部類の機体

151 第十四話 ハゲタカ共

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だが。上方から急降下を開始してスピードが上がった『ジグラント3』の格好の的と

なってしまった。20mmの魔弾が彼等を貫き、火だるまとする。突然の攻撃を受けた

雷撃隊は泡を食って、一機一機と回避運動を取り始めた。

『クソっ!!被られた!!』

『奴等が上方から来る、た、助けて………ザザッ。』

 雷撃隊の航空無線は、救難信号によって混線した。無線は悲鳴とメーデーを鳴り響か

せ、奇襲を受けて雷撃隊を守り切れなかった『アンタレス』が大慌てで引き返してきた。

『隊長、雷撃隊がーー!!』

『俺達はさっさと敵戦艦を殺るぞ、全機続けー!!』

 艦爆隊は味方の損害を物ともせず、自分等の任務を遂行しようと突き進む。そんな彼

等の前に立塞がったのは、通信を受けて違うセクターから急行した『エルペシオ3』達

である。

『クソっ、戦闘機がお出ましだ!!』

『こっから先は行かせねぇよ、蛮族どもが!!ミリシアルの力を思いしれエェェェ!!』

 複数の編隊から繰り出される20mmの弾丸は、容赦なく『シリウス』へ襲い掛かる。

一通過を行うまでに約6機程度が落ちただろうか、『アンタレス』が失態を拭うべく『エ

ルペシオ3』へ強襲をかけた。お互いが入り乱れ、艦隊上空に白く円を描く飛行機雲が

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重なりあった。数十キロ先で行われる大空戦に、艦隊の乗組員は目を奪われて観戦す

る。

『クソっ何なんだコイツら、エルペシオに風車付けたような見た目しやがって。』

『こ、コイツらが風車野郎か!カルトアルパスの戦友が言ってたのはコイツらの事か!!』

 ミリシアル敵に言えば制空戦闘機、『アンタレス』が強力なのはカルトアルパス戦を生

き残ったパイロットから聞いてはいたが。機械文明国だからと言う上層部の方の通達

を、空母戦闘機部隊は信用していた。自国の戦闘機よりも強力だと思いたく無かったか

らこそ、彼等は無意識のうちにバイアスが掛かってしまったのである。

 徐々に『エルペシオ3』はグラ・バルカス相手に劣勢となって行く。ただし、ただで

は済まないのが世界最強国家たる神聖ミリシアル帝国の騎士であった。

『クソっ、プロペラが付いてない変な戦闘機が!!調子に乗りやがってよぉ!!』

『俺達は世界の覇者たるグラ・バルカスだ!!テメェらなんざ怖かねぇよぉ!!』

 しかし劣勢な事には変わり無く、次第にミリシアルの防空網は秒刻みで崩壊して行っ

た。グラ・バルカスと違って、レーダーによる整った迎撃が出来て居なかったのだ。ボ

ロが出る筈である、むしろ良くここまで粘れたと言っても良い。

  

153 第十四話 ハゲタカ共

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 神聖ミリシアル帝国海軍

 第2魔導艦隊旗艦 戦艦『クラウソラス』

「魔導探知レーダーに感!!敵機200を超える、来るぞおぉぉ!!」

「第8飛行隊より魔信!!敵機に突破されました、第2防空区が突破されました!!」

「第2飛行隊も突破されました、10機以上が来ます!!」

 艦橋内では各飛行隊からの通信がひっきりなしに鳴り響いた。通信士は至る所から

魔信が入り、対処能力が飽和しきっていた。初歩的なミスにより、ある事無い事が司令

官達や参謀達を惑わせる。

「クソっ、どれが本当の情報なんだ?!」

「届いた情報は一度精査させろ!!」

「しかし、それでは迎撃に遅れが出ます!!」

「正し情報が無けりゃ遅いも速いもねぇよ、今すぐにやれ!!」

「見張りより報告、敵機9が本艦上空に到達!!」

「海面スレスレにも敵機6が突っ込んで来る!!」

 アーサーと参謀が怒鳴り合う中、さらに凶報が入る。『シリウス』と『リゲル』の同時

攻撃、対空火力を激減させる為の合理的な攻撃。魚雷と爆弾と言う攻撃のレパートリー

が多い、グラ・バルカス帝国が為せる回避困難な攻撃だ。

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「あの行動…………、敵の水中攻撃です!!気を付けてください!!」

「高角砲を低空の爆撃機へ、機銃は上空の攻撃へ移せ!!」

 各々方の行動は素早かった。比較的低速の雷撃機へは威力が高く発射速度の遅い高

角砲が、上空の急降下爆撃機へは魔光砲が弾幕を形成する。108隻が繰り出す砲弾は

圧倒的であった。

『なんて攻撃だ!!近付けるのかよぉ?!』

『敵の攻撃を良く見ろ、弾幕がバラけきっている!まぐれじゃなきゃ当たらねぇ!!』

『あぁ、神様!!』

 ただ圧倒的に見えるだけで、対空砲は元々命中率が低い事で有名である。駆逐艦たる

小型艦がグラ・バルカスと違い高角砲を主兵装としているが、機銃たる魔光砲は射撃統

制していない。最初の高角砲の洗礼は恐ろしかったが、魔光砲の射程距離に到達すると

その粗さが目に見えた。

『よーい、テェー!!』

『痛いのをぶっ食らわせてやる!このデカブツめぇ!!』

『シリウス』が狙った標的は全ての魔導艦隊の戦艦、空母、重巡洋艦の様な高価な目標で

ある。多数の250kg爆弾が投下され、至る所で水柱や爆炎が巻き上がった。

「くぅ、損害状況を知らせ!!」

155 第十四話 ハゲタカ共

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「左舷魔光砲3基が根本からぶっ飛びました!火災発生!!」

「『シェキナー4』より通信。右舷飛行甲板に被弾、運用能力が半減しました!!」

『クラウソラス』と『シェキナー4』にも等しく攻撃が降り注ぎ、少なからず損傷した。

なお神聖ミリシアル帝国の空母は双胴空母で、そのちぐはぐさから至る所で非難されて

いる空母である。

 しかし双胴空母による恩恵は確かにあり、通常型の空母(例えば全長が近い我が国の

蒼龍やら)の二倍の発艦能力を持ち、片方の飛行甲板が損傷しても運用能力全てを喪失

する事が無い所である。

 我が国の三段甲板時代の赤城よりかは運用しやすいし、実は艦載機の収容数も多いの

である。まぁ通常形式の空母の方がよっぽど使い易いのではあるが。これよか全長2

35mの空母2隻作る方が手っ取り早く、リスクもうんと低いのではあるが。

「あぁっ!!第1艦隊の『ティソン』が!!」

 誰かの悲鳴につられて、艦橋全ての幹部が第1艦隊の方角を見た。するとそこには船

体を酷く傾かせ、苦しそうにのたうつ『ティソン』の艦影があった。

「あぁ…………、クソッたれ。またこんな光景を見るのかよ。」

 アーサーやら第零艦隊の生き残りは、『ティソン』の姿を見て頭が痛くなった。『ガラ

ティーン』に所属していた者の中には、トラウマが再発して気絶した者も居たとか。

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 アーサーはとにかく悪態を付くしかなかった、何一つ勝利にも更なる被害を抑える為

にも奮闘したが。結局何も実を結ぶ事無く、新たに自分と同じような無力な人間が出た

ことに、彼はこの先の未来が暗くなるように感じられた。

    神聖ミリシアル帝国海軍

 南洋艦隊 旗艦『ベガルタ』

「魔力探知レーダーに感!!21NM(37km)より敵艦隊接近、数42!!」

「おいおい冗談じゃねぇよ、42隻だと?」

 半壊した艦橋の中で、トーマスは呻くように聞き直した。彼の額には包帯が巻かれ、

血が滴っている。

『ベガルタ』の艦内は酷い有り様で、窓ガラスは砕け、天井からは配線やパイプが垂れ下

がり、火花が飛び散っている機器もある。

 艦橋スタッフもそれなりに被害を受けており、負傷して医務室へ連れていかれた者

や、その場で応急処置を受けている者も居る。

 艦隊司令長官も負傷して意識不明の為、二番艦に居た戦隊司令の少将が代わりに指揮

157 第十四話 ハゲタカ共

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を取ることとなった。

「私達の進退極まったんじゃない?この状況だと。」

「言うなよ、考えたくなかったんだそれ。」

 世界連合艦隊は90隻近くが撃沈され、約300隻が何らかの損傷を負って黒煙を吐

いている。南洋艦隊も同じ様な有り様で、小型艦や巡洋艦に被害が出ていた。具体的に

は戦艦1が撃沈、重巡洋1が撃沈、魔砲船1が撃沈、小型艦2が撃沈である。

 戦闘前にラ・カサミ級以上の威厳を放っていたマーキュリー級の1隻が撃沈されてい

る、勿論理由は『リゲル』の魚雷攻撃だ。

 現状の南洋艦隊の戦力は戦艦2、巡洋艦2、小型艦4と多数の巡洋艦と駆逐艦で構成

される敵艦隊には太刀打ちできる戦力ではない。

「第二ラウンドと行こうか…………、ヘッ!!」

 死ぬ覚悟を決めたトーマスの額に、冷や汗が流れた。

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第十五話 STRIKE GROUP 8

  神聖ミリシアル帝国海軍

 南洋艦隊旗艦『ベガルタ』

『機関室より艦橋、機関室より艦橋。応答してください!!機関室より艦橋!!』

「あ、あぁ…………。こちら艦橋、何があった?」

 艦内通信機から流れる機関室からのコールに、一人の男が立ち上がって周りを確認し

た。トーマスは艦内通信機を見つけて受話器を取り、機関室が何か有ったのかを聞き出

した。

『いえ、先程大きな振動が有ったので、何事かと思いまして……………。』

「こちらは以上無しだ、引き続き職務に励んでくれ。」

 トーマスは機関室からの通信を適当に返答し、未だに倒れている自分の同僚を起こし

出した。他にも艦橋で倒れていた幹部達が、頭を押さえながら起き上がる。

「あいっ、たたた……………。酷い目にあったわ…………。」

「おうそうか、奇遇だな。俺も酷い目にあったぜ。」

 エミリーはトーマスを冷たく睨み静かにため息を吐いた、彼に起こされた事が不服

159 第十五話 STRIKE GROUP 8

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だったらしい。彼女の様子を見て、トーマスは肩を竦めるだけだったが。

「し、司令!!大丈夫ですか、司令!!」

 急に悲鳴が艦橋全ての者達の耳に入り、そして全員が慌てた。艦隊を指揮していた長

官は背中に多数のガラス片が刺さり、意識不明の重体に陥っていたのだ。トーマスは急

いで艦内通信機で衛生兵を呼び出し、エミリーは長官に応急手当を施した。

 一連の出来事により、南洋艦隊の指揮は戦艦戦隊の司令へと移った。旗艦は二番艦へ

変更し、今度は『ベガルタ』が二番艦となる。

「第二文明圏連合竜騎士団、グラ・バルカス帝国艦隊を捕捉、我が連合艦隊の北方64.

8NM(120km)です。交戦に入る模様!!」

「…………たぶん全滅するだろうなぁ、それ。」

 トーマスはもう疲労が溜まりすぎて、考えるのを止めたくなった。どうせやっても無

駄だと言うのに、一体何をどうしろと言うのだ。壊滅する事も知らずに攻撃するだろう

竜騎士達へ、ただ達観しながら同情した。せめてその死が無駄にならなければ良いなぁ

と、失礼ながらトーマスは考えるのだった。

「ムー海軍より通信、艦隊を再編成し総旗艦を決める事を提案しているようです。」

「なんで我が艦に言うんだ………、あぁ旗艦変更を言ってなかったな。それにしても

ムーはまだやる気かよ…………。」

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 トーマスはムー機動艦隊へ向けて呆れた声を上げた。そりゃあこの海戦の意義は、表

向きは第二文明圏周囲の制海権確保であり、第二文明圏盟主であるムーがムキになるの

も解らなくもない。

 ただ、同じ機械文明国なんだから、もう少し頭を冷やせとも思った。おたくの自慢の

『マリン』は敵の戦闘機に手も足も出なかったんだぞ、そんなのに勝てると思っているの

か……………。

   数分後

「第二文明圏連合竜騎士団の通信途絶、全滅したようです。」

「あぁ、やっぱりな。」

 やっぱりなしか言ってないなと、トーマスは自分に対しても色々と呆れ果てていた。

結局再度グラ・バルカス艦隊へ攻撃する事が決定された、彼自信は猛烈に反対したのだ

が、ムーとミリシアルの体制を保つために撤退は却下された。もう乾いた笑いをするし

かない。

「そして総旗艦はムーの『ラ・エルド』へ決定か…………。」

 最も戦力を保持していたムー第2機動艦隊が、世界連合艦隊の主戦力となっていた。

161 第十五話 STRIKE GROUP 8

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神聖ミリシアル帝国を差し置いてである。知らず知らずの内に、自分の国は落ちぶれた

んじゃないかとトーマスは考える程、自分でも驚くぐらいに彼は大変ネガティブになっ

ていた。

「なーに似合わない顔してんのよ、アンタ。」

「こんな状況下だ、俺も色々と考えたりするのさ。」

「ふんっ、アンタが考え事なんてホンッとうに似合わない。」

 そう今までと変わり無いように振る舞うエミリーではあったが、誰が見ても解るほど

に彼女の顔は真っ青になっていた。明らかに強がりなのだが、そんな事を口に出せばや

やこしくなるので誰も指摘しなかった。

 そう言えばコイツも、あのミリシアル最初の敗北であるカルトアルパスの戦いを経験

してたんだったなぁ………と、トーマスは懐かしいように感じた。もう色々と吹っ切れ

てしまったのだろう。

「魔力探知レーダーに感!!距離21NM(37km)より敵艦隊接近、数42隻!!」

「おいおい冗談じゃねえよ、42隻だと?」

 レーダー監視員は震える声で敵の編成を報告する、ミスリル級クラス(ヘラクレス級

戦艦)が1隻、重巡洋装甲艦クラス(重巡洋艦)が4隻、魔砲船クラス(軽巡洋艦)が

13隻、小型艦クラス(駆逐艦)が24隻の計42隻。数だけみれば未だに360隻以

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上が浮いている世界連合艦隊が圧勝に見えるだろう。

 ただしトーマスはそんな楽観的な想像をすぐに捨てた、大幅な技術格差的にミリシア

ル8隻VSグラ・バルカス42隻の方が正しいに決まっている。戦力差は5倍、3倍で

圧倒できると言われているから絶望的と言わざるを得ない。

「私達以外の戦力、案外当てにならないよね?」

「言うなよ、本当にそれだけは言うなよ。」

 この時の世界連合艦隊の編成は、ミリシアルが戦艦2、重巡1、軽巡1、小型艦4。ア

ガルタ法国が戦列艦50、ギリスエイラ公国が戦列艦72、トルキア王国が魔法船団6

0、マギカライヒ共同体が蒸気船20、ニグラート連合が竜母機動艦隊22、パミール

王国が砲艦84。

 そしてムー海軍は、空母3、戦艦3、装甲巡洋艦6、巡洋艦12、軽巡16と計40

隻と言う戦力を保持していた。

 しかし大破した艦艇や、空母を離脱させる為に戦力を割いたので、実数戦力はここで

記入した物よりも遥かに小さい。現にニグラート連合なんて22隻が10隻に減った

し、ムーの最終的な戦力は戦艦3、装甲巡洋艦6、巡洋艦6、軽巡洋8の23隻にまで

下がった。

 なお中央法国は全滅した、たった二隻の戦列艦しか送ってないから当たり前である。

163 第十五話 STRIKE GROUP 8

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「ムー旗艦『ラ・エルド』より通信、全艦天祐を確信して突撃、敵艦隊を殲滅せよ!!」

「ケッ!もう世界の盟主と英雄気取りかよ。なんともお気楽な物で…………。」

 実際はムー機動艦隊司令長官レイダー中将は、勝てるだとか英雄になるとかとはちっ

とも思って居なかった。ただ自分の恐怖を、勇ましい号令でかき消そうとしていただけ

である。ただ、それだけである………………。

    そして両艦隊は接敵、戦闘の火蓋は射程に優れるグラ・バルカス帝国海軍第8打撃群

《STRIKE GROUP 8》のヘラクレス級戦艦が切った。彼女が握る41cm

砲と言う大剣は、38.4kmと言うオリオン級戦艦の35.6cm砲を上回る射程を

持っている。勿論、マーキュリー級戦艦の34.3cm砲を上回るのは言うまでもな

い。

「敵戦艦の標的、旗艦の『フラガラッハ』です!!」

「よし!!本艦はそのまま敵戦艦を叩くぞ、驚異目標を早々に撃破!!」

 世界連合艦隊は唯一の優位点、グラ・バルカスに対抗できる二隻の魔導戦艦で敵旗艦

を早々に叩く事を目標としていた。各国の艦隊の役割は、ムー、マギカライヒ、パミー

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ルの艦隊は18ノットの速力で第8打撃群の側面を突つき、ミリシアル海軍は25ノッ

トの速力で遊撃、その他の戦列艦達は囮として行動であった。

「囮の囮とか、一体なんなんだろうな?」

「それ、絶対に公の場で言うんじゃないよ、国交崩れかねないから。」

「もう既に崩れている様な気がするんだがなぁ…………。」

 当然グラ・バルカス側は世界連合艦隊の思惑を予期していた。重巡2隻、軽巡6隻、駆

逐艦12隻へ艦隊を分離し、グラ・バルカスから見て二番目に驚異度が高いムー艦隊へ

差し向けたのだった。

 その様子を見てミリシアルはムー艦隊が大打撃を受ける事を予想したが、残念ながら

指を咥えて見るだけしか出来なかった。自分がやることで必死なのである。

「みすみすやられるのを、ただ黙って見てるだけとは。俺たちって本当に情けねぇなぁ

…………。」

「仕方もあるまい、今の私達は自分の身を守るので必死なのだ。」

 レルジェンの返答に、ただトーマスは腹立たしくなった。レルジェンの物言いに対し

てではない、自分の無力さに対してである。こう少し前はボロクソに貶していた世界連

合艦隊の面々だが、流石に死ぬとわかって居るのを見て、それも目の前で何も出来ない

のはどうなのかと。

165 第十五話 STRIKE GROUP 8

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 何が世界最強だ、何が世界の盟主だ、どんな二つ名も意味が無いじゃないか。呆れる

しかない、勇ましい言葉が泣くな。

 自虐的に考える事しかできない、溜め息をつくトーマス。

「なにボサっとしてるのよ。悩むのは後にして自分の仕事ぐらいちゃんとしなさいよ。」

「お前は仕事に一途で本当に羨ましいな、何にも考えてないんだから。」

 その返答を聞いて、彼女の顔は真っ赤になり始めた。プルプルと少し震えている、相

当頭に来たようだ。これには艦長であり、色々と修羅場を潜ったレルジェンも驚いた。

そして彼は頭を抱える、あぁ余計な事を言うんじゃないと…………。

「あんたいい加減にしなさいよ!!そうやってウジウジウジウジ……………」

 艦橋スタッフは心の中で溜め息を付いた、あぁもう手に終えないや。

 どっちが悪いとか悪くないとは言えないが、ケンカはこの戦いが終わってからにして

くれよ、まぁ終わった後にどうなってるかは解らないが。

 とこの様に少し冷めたように感じていたが、彼等彼女等なりにも思う所があったの

で、最後の仕事として頑張るかと心を切り替えるのだった。

「あぁ解った解った、ちゃんとやるさ、うん。」

「本当に解ってるんでしょうね?えぇ?!」

 そしてまた、ケンカは海戦が終わってからにしてくれと、二人にうんざりするのだっ

166

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た。

  神聖ミリシアル帝国海軍

 第22巡洋艦戦隊

「敵艦、発砲!!」

「総員衝撃に備えぇ!!」

 南洋艦隊に所属する第22巡洋艦戦隊は、とてつもない危機に陥っていた。敵の数が

多い、ただその言葉に尽きる。

 元々第22巡洋艦戦隊は重巡2、軽巡2の編成なのだが、先程の航空攻撃で1隻づつ

撃沈された。もちろんこの戦隊にもカルトアルパス戦の生き残りは居たのだが、20機

にも及ぶ雷撃機の魚雷攻撃なぞ回避できる筈がなかった。

「敵は俺達が一発撃つごとに十発撃ち返してくるぞ!!」

「タコ殴りだ、一方的じゃないか!!」

 乗組員全員が悲鳴を上げる、相手は重巡2、軽巡7を伴って攻撃してくるのだ。戦力

差は4倍を超えている、絶望的な砲撃戦が繰り広げられた。

「敵艦隊より航跡発生、『水中攻撃』です!!」

「『フラガラッハ』へ通信!!『水中攻撃』回避の為に一時的に戦列を離れる!!」

167 第十五話 STRIKE GROUP 8

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 巡洋艦戦隊の司令である少将は、旗艦からの許可を貰う前に独自に回避運動を取っ

た。最早四の五を言っている暇など無いのだ、南洋艦隊の指揮系統は壊滅している。

「て、敵『水中攻撃』50を超えます、回避不能です!!」

「く、クソッタレェェェ!!」

 グラ・バルカスの重巡洋艦は高雄型、軽巡洋艦は15cm砲最上型に相当する。重巡

洋艦は方舷へ8門の魚雷を発射でき、軽巡洋艦は6門の魚雷を発射できる。

 グラ・バルカス巡洋艦戦隊の統制雷撃は戦艦をも撃沈するほどの強力な物、ユグド世

界のケイン神王国が恐れた攻撃なのだ。

 戦隊司令の絶叫は、そのままミリシアル巡洋艦戦隊の断末魔へと変わった。十本以上

の魚雷が巡洋艦を襲う、オーバーキルと言っても良い。

 戦隊は三個以上に別れ、粉々になった巡洋艦は乗組員全員を飲み込んで沈没した。一

瞬にして二千名近くの命が消えてなくなる、南洋艦隊VS第8打撃群の初戦は、巡洋艦

2隻撃沈と言う凄まじい物であった。

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第十六話 激戦

  神聖ミリシアル帝国海軍

 南洋艦隊 戦艦『ベガルタ』

「だ、第22巡洋艦戦隊が全滅した……………?」

「おいおい嘘だろ、ありゃ生存者なんて居やしねぇぞ………。」

 第22巡洋艦戦隊が酷い沈み方をしたのを、南洋艦隊全ての乗組員が目撃した。船体

がコナゴナになって、数秒もせずに沈んだ。誰一人海面に浮かび上がらず、一切の妥協

なく全員死んだ。次は我が身ではないかと、皆が震える。

「敵巡洋艦部隊、本艦に近付いて来ます!!」

「応戦!!副砲、主砲全門敵巡洋艦へ指向せよ、敵戦艦への攻撃を中止する!!」

『フラガラッハ』を攻撃している戦艦を撃沈し、少しでも我が連合艦隊が優位に立つ作戦

が破綻した。大体無茶に無茶を重ねた作戦だったのだ、これがもしナンバーズフリート

か南洋艦隊全力だったらまだ勝機はあった。

 しかし現実は非情、今タラレバを話しても無駄である。戦局は好転しない。

「願わくば『フラガラッハ』が敵戦艦を仕留めてくれれば良いのだが…………、それは賭

169 第十六話 激戦

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けに近いな。」

 レルジェンは静かに今の状態を冷静に見て呟く。『フラガラッハ』は未だに継戦能力

を保持して戦艦を攻撃しているが、彼女の周りで吹き荒れる水柱は38.1cmクラス

の大物である。もちろん彼女はこの状態でも敵戦艦に命中弾を時たま当てているが、双

眼鏡越しで見る敵戦艦は全く効果が現れていないようにも見えた。

「敵巡洋艦発砲!!」

「怯むな!!巡洋艦程度の艦砲なんぞ、装甲強化前でも防げるぞ!!」

 レルジェンが怯む乗組員を叱咤しつつ、冷静に応戦の命令を下す。先ずは突撃してく

る敵巡洋艦を撃沈し、出鼻を挫く事を最優先にして動いた。目の前で味方艦が被害を受

ければ、仕切り直しで敵は撤退すると予想したからである。

「弾着まで8秒、7、6、5、4、3、だんちゃーく、今!!」

 34.3cm砲弾は前方を進む重巡の周りに着弾した、しかし命中弾が与えられな

い。手数で劣る『ベガルタ』にとっては、早々に命中弾を与えたいのだが、そうそう当

たらないのが艦砲の定め。

「敵二番艦、発砲!!」

「クソッ、敵は艦ごとの交互に砲弾を放ってくるぞ!!」

 一番艦が射撃し終えたら二番艦が、二番艦が射撃し終えたら三番艦がと続けて発砲す

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るグラ・バルカス艦隊。こうした細かな戦術により、彼女等は射撃目標が重複しても射

撃データが取れるように戦うのだ。豊富な資源によってしっかりと訓練できる(砲弾の

在庫処分も兼ねてだが)グラ・バルカスは、月月火水木金金の訓練も相まってユグド世

界で精強を誇ったのだ。

 そして彼女等の20.3cm砲弾と15.5cm砲弾が『ベガルタ』に命中弾を与え

たのだった。

「そ、測距儀に被弾しました!!」

「な、なんだと?!これでは射撃が……………。」

 先程の衝撃に耐えたレルジェンは、ダメージコントロール班から驚きの報告を受け

た。砲撃を行う上で最も重要な測距儀が破壊される、これは海戦で最も避けなければな

らない出来事である。測距儀で勤務していた砲術士も含めて、『ベガルタ』に大きな被害

が襲った。

「砲ごとに射撃データを入手しろ、切り替え急げ!!」

「あぁ、『フラガラッハ』が!!」

「?!」

 レルジェンは目の前を進む『フラガラッハ』に視線を向けた、するとそこにはみるみ

る内に近付いてくる手負いの戦艦の姿があった。それは機関損傷により速力を落とし、

171 第十六話 激戦

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大きく傾斜した『フラガラッハ』である。死神達は第22巡洋艦戦隊だけでは飽きたら

ず、彼女の命を刈り取るつもりだったのだ。

「と、取り舵いっぱーい!!回避急げ!!」

 トーマスが直ぐ様『フラガラッハ』との衝突を防ぐ為に回避運動を命令し、『ベガルタ』

は『フラガラッハ』の横を通り過ぎようとした。追い抜き様にみた『フラガラッハ』の

様子は凄まじい物である。艦橋はチーズの様に穴だらけとなり、ぐちゃぐちゃになった

内部が外から見えた。4基の内2基の主砲がぶっ飛び、残りの2基からはまるで生気が

感じられない。そして甲板には血だらけとなり、体の一部が無くなった兵士達が蠢いて

まるでムシケラの様であった。

「『フラガラッハ』からの通信が途絶しています、恐らく通信能力が全滅したのでしょう

……………。」

 その言葉にレルジェンは天を仰ぎたくなった、次に彼がやるべき事は一つしかない。

重症のまま意識不明となった司令長官、指揮能力を喪失し生きてるかも解らない戦隊司

令官。ではこの南洋艦隊で一番階級が高いのはだれか?それは紛れもなく『ベガルタ』

艦長であるレルジェン本人だったのだ。

「全艦に通達、これより指揮権は『ベガルタ』に移る、私が艦隊の指揮を取る!!」

「ハッ、全艦に通達します!!」

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 そしてレルジェンは言う事だけはしっかりと言い、深くため息を付いた。今更自分に

何が出来ると言うんだ、もう南洋艦隊の戦力は戦艦1隻と小型艦2隻しかいない。戦闘

前に4隻居た小型艦は、12隻の駆逐艦に覆い被される様にして撃沈されたのだ。2隻

の小型艦、600名近くの人命が気付かれる事なくあっさりと消える。こんな無情な事

があるだろうか?

   ムー海軍

 第2機動艦隊 旗艦『ラ・エルド』

「魔力探知レーダーより報告、敵艦隊との距離17kmです!!」

「主砲射撃用意!!最大射程に入り次第これを撃て!!」

 ムー第2機動艦隊の司令官であるレイダー中将は、何とも言えない気持ちで一杯だっ

た。敵の艦隊は巡洋艦で構成される艦隊であり、『グレードアトラスター』の様なバケモ

ノ戦艦ではない。海軍上層部の判断は、敵艦は我が国の艦艇より少し性能が高いだけで

あり。我が艦隊は23隻と敵より3隻だけだが上回っており、最も小さな艦艇は軽巡洋

艦なのだ。腐っても15cm砲、ミリシアルの小型艦が持つ12cm砲よりかはパンチ

力が有る。

173 第十六話 激戦

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「もしかしたならば…………、もしかしたならば…………。何もかもが上手く、私の目論

見通りに転がるのではあるまいか…………?」

 などとレイダーは何処から毒電波を貰ったのか解らないが、フラグ満々の台詞を呟い

ていた。そしてフラグ通りに事は悪い方向へ進んだ。距離16kmにまで近付いた瞬

間、グラ・バルカス艦隊は駆逐艦の砲も合わせて一斉攻撃を掛けてきたのである。グラ・

バルカス帝国駆逐艦の砲射程は18km、これはラ・カサミ級戦艦の13.7kmより

も長いのであった。

「ば、バカな?!敵艦隊は我が艦隊よりも超射程で攻撃してくるのか、小型艦も含めて!!」

 実際の所、ミリシアルの小型艦もラ・カサミ級より射程の長い艦砲を所持している。

ただムーに対して情報公開をしていないだけであり、やっぱりムーはミリシアルに信頼

されて無いのだろう。

「戦艦部隊、装甲巡洋艦部隊、発砲を開始せよ!!」

「し、しかし提督!!敵はまだ本艦の最大射程に入って居ません!!」

「こけ脅しでも良い、撃って撃って撃ちまくれぇ!!」

『ラ・エルド』が発砲したのと同時に、ムー海軍の戦艦と装甲巡洋艦は30.5cm連装

砲を発砲した。36発の30.5cm砲弾は魔導砲とは違い、砲弾が輝いて飛翔する

が。その砲弾は虚しく巡洋艦の目の前で着弾して、ただただ派手な水柱を上げるに留

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まった。

「く、くそう!!全艦最大戦速、敵艦隊へ突撃せよ!!」

 レイダーは少しでも砲弾を届かせるべく、艦隊をグラ・バルカスへ突撃せたが。敵艦

隊は34ノットのスピードと18ノットよりも遥かに高速であり、ムーが近付けば離

れ、ムーが遠退けば近付くを繰り返して絶妙な距離で砲撃していた。

「な、なんと小癪なぁ……………!!」

 レイダーはグラ・バルカスへ恨みをぶつけるが、彼等にとっては知ったこっちゃない

と言う話である。そしてムーが苦戦している最中、グラ・バルカスは軽巡2隻と駆逐艦

12隻で突撃する。後続のマギカライヒ、パミール艦艇に接近しつつ、最終的にムー第

2機動艦隊へ突っ込む作戦だったのだ。

「巡洋艦、軽巡洋艦部隊は射撃目標変更、連合艦隊へ接近しつつある敵艦隊を攻撃せよ

!!」

 レイダーの命に従って、巡洋艦や軽巡洋艦は駆逐艦部隊へ20.3cm砲や15.2

cm砲は目標を変えて撃ちまくる。しかし両砲共に最大射程は9.14km、有効射程

は6km前後程度なのだ。マギカライヒやパミールなんて最大射程が3kmしかない。

 6倍の最大射程と有効射程を持つ駆逐艦に一方的に撃たれ、マギカライヒとパミール

の高速艦艇(ただし異世界基準)はなす統べなく全滅したのだった。

175 第十六話 激戦

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「じゅ、巡洋艦部隊に被害が出ています!!既に3隻が戦闘不能です!!」

 駆逐艦部隊へ喧しいだけの攻撃を繰り返した巡洋艦、軽巡洋艦部隊は、駆逐艦達の母

親であるグラ・バルカス帝国の軽巡洋艦に攻撃され。威力と射程で上回る15.5cm

砲の攻撃を受けた、勿論一方的にである。

「敵小型艦接近!!」

「な、何なんだ彼らは?何故彼らは接近してくるんだ?」

 レイダーは駆逐艦が近付いて来た理由が解らなかった。彼女等の主砲は12.7c

m砲と言えど、『ラ・カサミ』級よりも射程で勝ると言うのに。もしかして舐められてお

り、弾の無駄遣いをせぬ様に突撃して来たのか。ならば相応のお返しをしてやろうと意

気込んだ時、彼女等が何をしようとしていたのかを理解した。

「敵小型艦から何かが射出!!此方へ航跡を引いて近付いて来ます!!」

「ま、まさか『魚雷』だと言うのか?!」

 レイダーは即座に何が来たのかを理解した、それは日本から情報提供された『魚雷』と

言う兵器である。まさか敵は小型艦にも『魚雷』を装備していると言うのか?!冗談だろ

とレイダーは言いたくなった。まぁ冗談ではなく現実なのだが。

「敵魚雷本艦にも来ます、あっ!『ラ・ヤシブ』が!!」

「あのバカ、一体何をするつもりだ?!」

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『ラ・エルド』の後方を進んでいた装甲巡洋艦『ラ・ヤシブ』が速度を21ノットに増速

し、魚雷と『ラ・エルド』に割り込んできたのである。全員が理解した、コイツ死ぬ気

だと。

「『ラ・ヤシブ』より通信、我総員退艦、全艦隊の武運長久を祈る!!」

「あの、バカ野郎がぁ……………。」

 レイダーが呟いた直後、『ラ・ヤシブ』は魚雷を六本も食らった。急速に艦が傾き、そ

して最後には大きな爆発を起こして撃沈したのだった。

「くそ、くそがぁ…………!!ただ死ぬだけ、ただ死ぬだけじゃないか?!こんな事があって

良いと言うのか、どいつもこいつも皆死んじまうのか?!」

 そして海戦は続き、太陽が傾くまで海戦は続いた。その時にはもう、世界連合艦隊は

跡形も無くなっていた。ムーは23隻居た艦艇が9隻にまで撃ち減らされ、マギカライ

ヒとパミールは全滅。他の艦隊も100隻以上が撃沈された。

    神聖ミリシアル帝国海軍

 南洋艦隊 旗艦『ベガルタ』

177 第十六話 激戦

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「最早、これまでだな。副航海長……………。」

「そうですなぁ、艦長。」

 トーマスはタバコを吹かして、レルジェンの言葉を軽く返した。任務中だと言うのに

彼はタバコを吸っているが、誰もそれを咎める事は無い。

「アンタ………ねぇ。なに………、任務中にタバコ吸ってんのよ…………。」

「それ以上喋るなよ………、傷が開くぜ?皆も一杯居るか?」

 ただ一人注意したのは、レーダー長のエミリーだけである。ただしとても苦しそうに

言葉を発しているとの注意書きが必要なのだが。彼女の腹には包帯が巻かれてあり、脇

腹から血が滲み出ていた。至近弾によって艦橋内に破片が飛び込み、彼女を貫いたので

ある。

「はぁ、まぁ俺達は全力を尽くしましたよ。ただ、何もかもが力不足でしたがねぇ

…………。」

 トーマスは淡々と言葉を連ねる、それはこの海戦の総括と言っても良い事であった。

後はもう、今頃別動隊として行動しているアーサーだけが頼りである、もう俺達は何も

しないのだと……………。

「魔導連合艦隊より通信、今そちらに『古代兵器』を展開させる。各艦隊は空中戦艦に攻

撃しないよう周知徹底されたし。以上です!!」

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「『古代兵器』だと…………?ど、どう言う事だ?!」

 艦橋はざわめいた、一体『古代兵器』とは何物だと言うのか?まだ我々には知らない

隠し玉が、この戦場へ来ると言うのか?

 その疑問は、数分後に姿を表した。260mの巨体で空に浮かび、見るもの全てに畏

怖を与える戦艦がやって来たのだった。

179 第十六話 激戦

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第十七話 空の王者よ、前へ

  神聖ミリシアル帝国海軍

 南洋艦隊 旗艦『ベガルタ』

「で、結局の所古代の超兵器ってなんなの?」

「お前そんなのも知らないのかよ。」

 息をするようにトーマスが余計な事を言って、エミリーがイラつく。そしてそのまま

傷口が開きかけるので、済んでの所で何とか押さえるのを繰り返す。ちょっと酷い事し

たなと、トーマスは心の中で謝罪した。

「噂程度だがな、古の魔法帝国が作った超兵器を発掘して、運用するんだとよ。」

「へぇ、軍ってその様な兵器も運用してるんだ。まぁ『エルペシオ』や『ジグラント』も

発掘した技術使ってるしね。」

 成る程成る程とエミリーは頷く。しかし同時に彼女は不安も感じていた。何しろ古

の魔法帝国の技術で作った『エルペシオ3』や『ジグラント2』がグラ・バルカスの戦

闘機に落とされているのだ、本当にそんな兵器で戦って大丈夫なのかと考えのだった。

ひょっとして古の魔法帝国って、案外強く無いのではとの疑心も生まれる。

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「ま、俺も何処まで本当なのか解らないがな。こんな眉唾な話、誰が信じるってんだ。ハ

ハハハ…………。」

「な、何だコレ?!」

 相変わらずトーマスが力無く笑うのを遮って、レーダー監視員が大声を上げた。彼の

上司たるエミリーはレーダーパネルを確認して、レーダー監視員と同じ反応を行う。唐

突の出来事によって、レルジェンはイライラしながら確認を取った。

「何事だ?!報告はしっかりとせんか!!」

「ほ、北方より魔力探知レーダーに感!!ぞ、像が大きすぎます。戦艦以上の魔力の塊です

!!」

 レーダーには北方よりこの海域に近付いて来る大きな像が浮かび上がっていた。そ

れはミスリル級戦艦よりもグレードアトスターよりも遥かに大きい。比べ物にならな

いと言っても良いものである。

「北方だと…………?確か北方と言えば、魔導連合艦隊が寄越したと言う古の超兵器が

来るはず…………。まさか?!」

「見張りより報告!!北方から何か来ます!!」

 レルジェンの予測は的中する。そのバケモノは着実にこの海域へ歩を進めていたの

だ。世界連合艦隊全ての兵士が注目し、そして戦慄する。誰もがその後、目を疑った。

181 第十七話 空の王者よ、前へ

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今この時だけ夢なのではないかと思った。しかし現実である。夢でも妄想でも無いの

だ。

「な、何なんだアレは?!」

「お、大きすぎる。ミスリル級戦艦すらも超えるぞ!!」

「我が国がこんな大戦艦を保有しているとは、勝てるぞ!!この戦い我々の勝利だ!!」

 至るところで歓声が上がり、そして神聖ミリシアル帝国を称える声が大海原に伝わ

る。世界各国の希望、誰も倒しうる事の無い最強がこのバルチスタへ馳せ参じたのだ。

「頼むぞ古代の超兵器、友の仇を売ってくれ!!」

「よし行けぇ!!あんな蛮族を海の藻屑にしてやるんだ!!」

「アンナ…………、お父さんはどうやらお家に帰れそうだぞ!!」

 数千、数万もの期待を背負って、空中戦艦『パル・キマイラ』は進撃する。目標はグ

ラ・バルカス帝国海軍第8打撃群。おいたが過ぎた愚か者どもへ鉄槌を下すべく全ての

兵装が向けられた。

   グラ・バルカス帝国海軍

 東部方面艦隊 第8打撃群

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「対空レーダーより報告、巨大な飛行物体が北方より近付いて来ます。」

「巨大な飛行物体だと?航空機の編隊では無いのか?」

 第8打撃群の司令であるジェシー・プロミネンス少将はレーダー員からの報告に訝か

しんだ。もうすぐで異世界の連合艦隊を撃滅し、仕事を終えて帰還できると言う時に。

レーダー員が異常を知らせた為に些か気分が萎えた。余計な事を言いやがってと言う

話である。

「その報告は本当か?レーダーの故障だなんて言ったらただじゃ置かないぞ。」

「本当です!!先程再起動と配線の確認を行ったばかりですよ!!」

 レーダー員の強烈な抗議を受けて、ジェシーはつまらない冗談では無さそうだと結論

付けた。何が来ていると言うのだ?異世界に来てから異常事態ばかりだと言うのに、い

い加減にしてほしい物だと悪態を付きつつ。

「敵艦隊への第三次攻撃隊を向かわせろ、確認ついでに攻撃だ。」

「よろしいのですか?」

 作戦参謀が疑問の声を上げるのを、ジェシーは気だるげに説明する。大体この艦橋に

居る人員全てが、もう色々と気分が落ち込んでいるのだが。

「どうせ航空隊が居なくても敵艦隊を全滅出来るしなぁ。」

「ムー海軍と神聖ミリシアルはあのザマですし、他の艦隊なんて有象無象に過ぎません

183 第十七話 空の王者よ、前へ

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からねぇ…………。」

 そして艦橋内に笑いの渦が起きる。余裕が出来て皆気が緩んだのだろう。ただしそ

の数分後に地獄を見るとは、この時誰も知らなかった。

   神聖ミリシアル帝国海軍

 南洋艦隊 旗艦『ベガルタ』

「魔力探知レーダーに感、航空機120機を捕捉。古代の超兵器へ向かって行きます!!」

「古代の超兵器は巨大だからな、相当なデコイになってるんだろうな…………。」

 先程は260mの巨体で士気が上がったが、グラ・バルカスが攻撃隊を出したとたん

全員の士気が大いに下がった。如何に巨大な空中戦艦と言えど、航空機には殺られるだ

ろう。

 水中攻撃は効かなさそうだが、流石に急降下爆撃を何十機も受けたら人溜まりもな

い。

「結局ダメだったな、夢見させやがって……………。」

 トーマスはこの後に行われる虐殺劇を想像して、『パル・キマイラ』を貶し始めた。他

の面々も大体同じ様な反応で、そこまでグラ・バルカスの力が身に染みていたのである。

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「敵攻撃隊と接敵します!!」

「さて……………、どうなるかな……………?」

 世界連合艦隊の兵士達は『パル・キマイラ』に注目する、さて何が出るのか戦いはど

う転ぶのか。ある程度の期待をしつつ、何時でも逃げられるように準備をし始めてい

た。

「空中戦艦、対空戦闘を開始しました!!」

「結構引き付けて撃ったな、高角砲が無いのか?」

 機銃位の射程で『パル・キマイラ』が射撃を始めた、恐らくミスリル級と同じ様に高

角砲が無いのだろう。あんな巨体の上に空に浮いていたら、速攻で的になると言うのに

高角砲が無いとは。色々と設計ミスなんじゃないかと皆が思った。

「うん?敵編隊から爆発が起こったぞ?」

「なんだ?結局高角砲載っけてたのか……………。」

 最初に異変が起きたのはグラ・バルカス側であった。編隊内に爆発が起こり、大慌て

で散開し始める。なんだ、結局高角砲有るじゃないか、何で態々引き付けて撃ったんだ

?等と不思議に思ってた所、より詳しく見ていた見張り員達は驚愕していた。

「あ、あれば対空砲弾の爆発じゃねぇ。て、敵機がバタバタと落とされてるぞ!!」

「なんだありゃ?!百発百中で機銃弾が当たってやがる。何が起こっていると言うんだ

185 第十七話 空の王者よ、前へ

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?!」

『パル・キマイラ』が搭載するアトラタテス砲。それは日本が保有しているCIWSに相

当する能力を持っている。毎分3000発の魔光弾は正確に急降下爆撃機へ直撃し、蜂

の巣にしてもなお完全に破壊するまで撃ち続ける。

「あ、ありゃまるで……………。カルトアルパスで日本の巡洋艦がやっていたのと同じ

じゃねぇか?!いや、それ以上だぞ!!」

 カルトアルパスを戦った者にとっては、この光景は日本の巡視船『しきしま』の再来

と思っただろう。そしてこの興奮が周りにも広がり、そしてまた落ちかけていた士気が

回復して行く。何とも感情の起伏が激しい者達である。

「て、敵攻撃隊。全滅です!!」

「な、なんだと?!あっという間じゃないか!!」

 対空機銃だけで敵が全滅する、これは恐らく日本でも出来ない様な出来事だろう。1

20機もの航空機がほんの三十分で全滅とは、単艦で上げたのは戦果では世界一とも

言っても良い。

「古代の超兵器、敵艦隊へ向かいます!!」

「お、おう………………。」

 対空戦闘によって忘れていた事だが、本命は第8打撃群の42隻なのだ。恐らくこの

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海戦で『パル・キマイラ』の真価が問われるだろう。皆の視線が双方に注がれる、どの

様な結果が訪れるのだろうか。

  グラ・バルカス帝国海軍

 東部方面艦隊 第8打撃群

「な、なんだと…………。航空隊が全滅した…………。」

「め、目の前で……………、120機が一瞬で……………。」

 ヘラクレス級戦艦の艦橋内で戦慄が走った。まだ通信機越しで状況を報告される方

が。まだパイロットの見間違いだのと言い訳できた(それはそれでパイロットに対して

酷いが)が、こう目の前で圧倒されるのを目撃すると、今度は自分等の見間違いを期待

したくなる。

「い、いかん!!残敵掃討の為に艦隊がバラけきっている。この状況を狙われるのは不味

い!!」

「あぁ!!ムーに向かった分遣隊に攻撃し始めたぞ!!」

 行った側から最初の悲劇が発生した。近場の目標でそれなりに戦力が低い方であっ

た艦隊が狙われたのである。ほぼ真下に居た重巡洋艦が狙われる。

「うわっ、初弾で当てて来やがった!!」

187 第十七話 空の王者よ、前へ

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「な、なんだあの砲撃は。軽巡クラスの爆発しか起こらないぞ。」

『パル・キマイラ』の主兵装は15cm三連装砲が6基の18門、その一発一発の威力は

一撃で重巡洋艦を撃沈するには至らない。しかし正確無比なる砲撃は5発/分と素早

く、計90発/分と驚異的な攻撃。

「ひっでぇ、上部構造体が焼け野原だ。砲塔もマストも跡形もなく吹き飛んじまった。」

「こ、ここまでやるのか。なんて恐ろしい事を…………。」

 瞬く間に重巡洋艦は大規模な炎上を引き起こし、背中が燃えた乗組員が大慌てで逃げ

出して行く。恐らく自発的な行動なのだろう。あの状況で艦の幹部達が生き残ってい

る筈が無い。

「急いで分遣隊と合流しろ!!」

「主砲対空戦闘、急済射だ!!分遣隊を救援するんだ!!」

 艦長と群司令の判断は素早かった。射程圏内に入り次第、使用可能の主砲で攻撃す

る。41cm砲が20.5cm砲が『パル・キマイラ』を睨み付け、多数の航空機を撃

ち落とした近接信管をばら蒔いた。

「た、対空砲が効かないだと?!なんて化け物なんだヤツは!!」

「み、みるみる内に分遣隊が沈められて行く…………。もう駆逐艦の半数は沈められた

ぞ!!」

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 重巡洋艦をたっぷり痛め付けた『パル・キマイラ』は当然の様に、取り巻きたる軽巡

洋艦や駆逐艦にも目を付け始めた。勿論対空砲弾を必死に撃ち出して居るのだが、無論

ヒビ一つ入らずである。

「……………群司令、敵は恐らく戦艦と同じ防御力を誇って居るのではないでしょうか

?」

「バカな事を、そんな装甲を張って空なんか飛んでられるか!!」

「ですが現状、ヤツへの榴弾による攻撃は効いていません!!」

「分遣隊の一部が我が艦隊に合流しました!!」

 参謀が必死に群司令へ意見具申するが、ただでさえ命中率を下げる戦いをするべきか

決めあぐねてしまった。結局あの惨劇を生き延びたのは、たった駆逐艦4隻だけだ。殆

どの艦は海の上を漂流しているか、海面に重油だけを残して跡形もなく消えるかであ

る。

「主砲にだけは徹甲榴弾を装填して、高角砲は対空榴弾で射撃するべきです。」

「だがヤツのスピードは200km近くに及ぶんだぞ、30ノット(55.56km)を

超える敵に当てられるのか?!命中公算考えて言っているのか?!」

「ですがしかし!!」

「敵弾、二番艦に直撃!!戦闘行動不能です!!」

189 第十七話 空の王者よ、前へ

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 第8打撃群に猶予などは残されていなかった。急いで『パル・キマイラ』に対する有

効策を取らなければならないのだが、空中戦艦と言う非常識を前にして、群司令は判断

を取りかねていた。

「このままでは我が艦隊はなす統べなく全滅です、群司令決断を!!」

「…………わかった。至急弾種変更して攻撃しろ。」

 群司令はとうとう重い腰を上げて、主砲に徹甲榴弾を装填し変えるのを許可する。し

かし薬室内にある砲弾を撃ち出して、また新たに砲弾を入れ直して測距儀でデータを取

り直さなければならない。

 そのプロセスは1分から2分程度掛かる。41cm砲自体は30秒程度で装填出来

るのだが。そうゲームみたいにバンバン射撃出来ないのが艦砲である。そして、

「くそっ、やっぱりダメだ。当たりにくかったのが、ほぼ当たらなくなっちまった!!」

「何とかして当てられないのか?!」

「無茶を言うな!!」

 そして第8打撃群は数を減らし、とうとう旗艦一隻を残して大破するか行動不能にな

るか、戦意喪失して総員退艦するかと言う酷い有り様となった。

「総員退艦命令下令します。よろしいですか、群司令?」

「致し方あるまい、よし退艦するぞ!!」

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「敵空中兵器、本艦の真上に占位!!」

「何をするつもりだ、ヤツは?」

 その疑問は数分後に解決された。しかし彼等が何をされたかは解らなかったが。な

にしろ旗艦は『パル・キマイラ』から投下された大型爆撃『ジビル』によって、船体よ

り上がまっさらになってしまった。勿論乗組員全員は退艦できず、全員真っ黒こげと

なってあの世へ旅立ってしまった。その爆発は凄まじい物で、遠くからも大きなキノコ

雲が上がったのが見えた。それは破滅の光と炎であり、世界連合艦隊の全ての兵士は神

聖ミリシアル帝国へ多大なる畏怖を抱くのだった。

 そして、世界連合艦隊の戦いは終わった。魔導連合艦隊とグラ・バルカス艦隊本隊と

の決戦が近付きつつある。この海戦の終結は近い。

191 第十七話 空の王者よ、前へ