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計算機物理
上智大学理工学部物理学科 大槻東巳
2017 年 10 月 2 日
i
目 次
第 1章 はじめに 1
1.1 相転移とは . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 1
第 2章 相転移の一般論 4
2.1 相図 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 4
2.2 臨界指数 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 5
2.3 モデル化 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 7
2.4 平均場近似 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 8
2.4.1 平均場近似での臨界指数 . . . . . . . . . . . . . . . 10
2.4.2 平均場近似での相関長 . . . . . . . . . . . . . . . . 12
2.5 臨界次元 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 14
2.6 2Dイジングモデルの転移点 . . . . . . . . . . . . . . . . . 16
第 3章 繰り込み群とスケーリング 18
3.1 ブロックスピン変換 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 18
3.1.1 例:1次元イジングスピン系 . . . . . . . . . . . . . . 19
3.2 繰り込み群の一般論 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 22
3.3 スケーリングと臨界指数 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 23
3.3.1 相関関数のスケーリング関係式 . . . . . . . . . . . 25
3.4 有限サイズスケーリング . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 26
3.5 他の問題への応用 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 28
第 4章 統計力学と量子力学 31
4.1 経路積分 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 31
4.2 統計力学との接点 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 33
1
第1章 はじめに
20世紀後半から,コンピュータは急速に高速化,大容量化した。コンピュータは,単純な計算を膨大におこなうことを得意とする。そこで近年,注目を集めているのが計算物理である。従来,物理学は,理論物理学,実験物理学の 2本立てで発展してきた。
この計算物理は第 3の物理学の柱と言われている。どうして計算機を使う手法が物理の研究に向いているかというと,
1. 法則が単純で,その割りに結果が予想できない現象が数多く存在する。
2. 計算機の能力の向上が倍々ゲームなのに比べて,人間の脳,理論・実験物理の手法は,ペースが遅い
3. 予算がかからない
4. 環境に負荷がかからない
からである。計算機を使った物理には 2種類ある。一つは解析的には解けない方程式
を解くもので,もう一つは,コンピュータ上で実験をするというものである。後者はシミュレーション物理とも言われる。本講義では,相転移をテーマに,このシミュレーション物理を学ぶ。前
半は相転移の一般理論を学び,後半はコンピュータ教室で実際にシミュレーションを行い,磁性の相転移をコンピュータ上で再現する。
1.1 相転移とは
系をどんどん小さく分割していくと、物の性質はどうなるであろう?水は半分にしても水であるが、これを続けていくとやがて水分子というマクロな水とは似ても似つかない物になる。このように、ある長さのスケールから物の性質が違ってくる。この長さを相関長、ξとなづける。
ξ: fluctuationが相関を持つ長さ
第 1章 はじめに 2
十分大きな系 (L→ ∞)で温度、密度などを変えると相転移が起こる場合がある。このとき、2次以上の相転移では ξが発散する。この ξ → ∞を積極的に利用するのが、この授業で解説する繰り込み群とスケーリングである。この際、べき乗則が普遍的にみられる。このスケール普遍性とべき乗という考えがどのように結びつくか、古典力学の例で見てみよう。今、長さのスケールを r′ = αrとしたとき、時間のスケールが t′ = αst
と変換すれば、物理現象が同じに見えるようにする。ニュートンの第 2法則は
r′ = α−(2s−1)r
ここで惑星の運動を考えてみよう。このとき、r = A/r2なので
r′ = α−(2s−1) A
r2= α−2s+3 A
r′2
となる。よって、s = 3/2とすれば、惑星の運動がスケール不変になる。これより、
t′ = α3/2t , r′ = αr
となることからどのようなスケールを選んでも
t2/r3 = constant
となる。これはケプラー則に他ならない。このように単純なスケール変換で実は多くの物理現象が理解できるの
である。これを限界まで利用するのが近年の統計力学の理論である。本講義では、はじめに相転移の一般的な性質と平均場近似について主に磁性体を例に取りながら説明し、その後、スケーリングや繰り込み群について解説する。その後,場の理論と統計力学を経路積分を使って関係付ける。その後,実際にコンピュータシミュレーションを行い,相転移を具体的に調べる。
次元解析が出てきたついでに物理量 f(x1, x2, · · · , xn)を考える。ここで変数 xi のうち,はじめの k
個は独立な次元とする。f(a1, a2, · · · , ak, b1, . . . , bm)。m = n− k である。物理量 f の次元解析より,無次元量
Π =f(a1, a2, · · · , ak, b1, . . . , bm)
aα11 aα2
2 · · · aαkk
= Π(a1, a2, · · · , ak, b1, . . . , bm) (1.1)
が作れる。このΠの変数は,
Π = Π
(b1
aα111 aα21
2 · · · aαk1k
,b2
aα121 aα22
2 · · · aαk2k
, · · ·)
(1.2)
第 1章 はじめに 3
という無次元量のみである。これをバッキンガムのΠ定理と呼ぶ。例 1;ケプラーの第 3法則
惑星の周期T は軌道半径 r,太陽の質量M,万有引力定数Gの関数とする。
T = T (r,M,G)
[r] = L, [M ] =M, [G] =M−1L3T−2なので,
T (r,M,G) = (MG/r3)−1/2Π(変数なし)∝ r3/2(MG)−1/2
最後の式で第 1項はケプラーの法則を,第 2項は重い天体の周りほど,惑星は早く回転することを示す。例 2;振り子の周期 T
T は振り子の長さ l,振り子の振幅 a,および重力加速度 gの関数とする。つまり,T = T (l, g, a)。よって,T = g−1/2l1/2Π(a/l)。a/l ≪ 1の場合,これを 0とみなし,
T ∝√l
g
厳密に運動方程式を解くと
T = 4
√l
g
∫ π/2
0
dα√1− k2 sin2 α
= 4
√l
gf(k)
f(k)は第 1種完全楕円積分と呼ばれる。ただし,k = sin(θ0/2),θ0は最大角で θ0 = a/lであるので,確かに T = g−1/2l1/2Π(a/l)の形になっている。例 3;長い管を通る液体による力
圧力勾配をdp
dx= f(v,D, ρ, µ)
とする。vは液体の速さ,Dは管の直径,ρは液体の密度,µは粘性である。[dp
dx
]=ML−2T−2, [v] = LT−1, [D] = L, [ρ] =ML−3, [µ] =ML−1T−1
これより,dp
dx=ρv2
DΠ
(µ
ρvD
)なお,無次元量 ρvD/µはレイノルズ数と呼ばれる。
4
第2章 相転移の一般論
2.1 相図
例として強磁性-常磁性相転移を眺めてみよう。温度を変えていくとあるところで磁化が、0磁場でも有限になる。これが強磁性-常磁性相転移である。この模様を T −H 面で見てみると以下のようになる。温度を一定にして磁場Hを変えていくと、M に対して 3通りの振る舞
いが見られる。T < Tcでは磁化がH = ±0で不連続に飛ぶ。T = Tcでは連続的であるが、関数形が解析的でない。T > Tcでは関数形が解析的となる。興味深いのはH = 0の周りで ±M0の二つの値が見られるということ
である。これは自発的対称性の破れと名づけられていて、物理のいたるところに見られる現象である。磁化M が転移があるか、ないかを特徴づけるのでこれを秩序パラメー
タと呼ぶ。
図 2.1: H − T 面
第 2章 相転移の一般論 5
図 2.2: M −H 面
2.2 臨界指数
こうした相転移を特徴づけるのが臨界指数である。仮に転移点からの距離を
tdef=
T − TcTc
(2.1)
hdef=
H
kBTc= βcH (2.2)
とおく。このとき、臨界指数は以下のように定義される。
1. 比熱の異常を示す臨界指数 α
C ∼ |t|−α (2.3)
αは転移の前後で等しい。
2. 自発磁化の立ち上がりを示す臨界指数 β
M ∼ (−t)β (2.4)
3. 帯磁率の異常を示す臨界指数 γ
χdef=
(dM
dH
)H=0
∼ |t|−γ (2.5)
γは転移の前後で等しい。
4. 転移点 Tc直上での磁化の磁場依存性を表す δ
M ∼ |h|1/δ (2.6)
第 2章 相転移の一般論 6
5. 物理量A(r)の相関を
⟨A(r)A(0)⟩ = G(r)
とする。G(r)は相関関数である。このとき、多くの場合、
G(r) ∼ e−r/ξ (2.7)
となっている。そこでこの ξを相関長と定義する。相関長の発散を示す臨界指数 νは
ξ ∼ |t|−ν (2.8)
で定義される。νは転移の前後で等しい。
6. 転移点では相関関数が指数関数でなく
G(r) ∼ 1
rd−2+η(2.9)
となっている。Aを密度として上の式で定義されるのが ηでこれはフラクタル次元と関係している。
7. 系が平衡状態からずれたら、もとに回復するのが指数関数的に起こる。このとき、
δA(t) = e−t/τ (2.10)
で緩和時間を定義できる。この緩和は転移転付近ほど遅い。なぜなら転移点では秩序を作ろうか、無秩序状態になろうか、迷っているからである。よって、τ も転移点で発散する。そこで
τ ∼ ξz (2.11)
で動的臨界指数を定義する。
Problem 2.1 水の 3相の相図を p−T 面で描け。次に p−ρ(ρは密度)面で状態方程式を描け。転移点直上の圧力、密度を pc, ρc とおくと (pc =218
気圧,Tc =647K)、H ↔ p− pc , M ↔ ρ− ρc
という対応がつく。このとき、α, β, δはどう定義されるか?
実はこのα, β, δが水と磁性体で同じなのである。これが普遍性 (univer-
sality)である。
第 2章 相転移の一般論 7
2.3 モデル化
通常の物理ではある現象を説明するために、モデル化を行い、それによって出た誤差を訂正するために、さらにモデルを改良するというステップを踏む。ところが相転移の統計力学は、ある簡単なモデルが厳密に正しくなることがある。つまり相転移転付近では、無視した項がどんどん小さくなり、考慮する必要がなくなるのである。そこで、単純かつ本質を突いたモデルが必要となる。磁性体の最も単純なモデルは以下のハミルトニアンで与えられる。
H = −1
2
∑r,r′
J(r, r′)s(r) · s(r′)− µ∑r
B · s(r) (2.12)
これは n ベクトルモデルと呼ばれる。n はスピンの成分の数である。|s(r)| = 1とする。
1. n = 1の場合、sz = ±1のみを考える。これはイジング (Ising)モデルである。
2. n = 2の場合、スピンは平面上の単位円上にある。これはXYモデルと呼ばれる。
3. n = 3の場合、スピンは単位球上にある。これはハイゼンベルク(Heisenberg)モデルと呼ばれる。
4. 一般の nは現実的でないと思うかもしれないが、実は n = 0というおかしな極限が高分子の物理と関係している。
こんどは液体-気体相転移をモデル化しよう。N 粒子が r1, · · · , rN にいるときのエネルギーを
H =∑i<j
V (|ri − rj |)
とする。このとき、大分配関数は
Ξ =∑N
eβNµ
N !
∫d3r1 · · · d3rN exp[−β
∑i<j
V (|ri − rj |)] (2.13)
ここでモデル化を行う。空間は格子にきってしまう。粒子間の斥力は二つの粒子が同じ位置にこられないという条件に置きかえる。サイト rにいる粒子の個数を n(r) = 0, 1とし、相互作用を
V (|ri − rj |) → −2J(ri, rj)n(ri)n(rj)
第 2章 相転移の一般論 8
とおくと、
Ξ =∑
{n(r)=0,1}eβµ
∑rn(r) exp[2β
∑r =r′
J(r, r′)n(r)n(r′)] (2.14)
となる。s(r) = 2n(r)− 1
とすると、
Ξ =∑
{s(r)=±1}eβµ
∑r(s(r)+1)/2 exp[2β
∑i<j
J(r, r′)(s(r)+1)(s(r′)+1)/4] =∑
{s(r)=±1}e−βH
(2.15)
H = −(µ/2 + J ′)∑r
s(r)− 1
2
∑r,r′
J(r, r′)s(r)s(r′) (2.16)
これは磁場中のイジングモデルと同じである。イジングを馬鹿にしてはいけない。
Problem 2.2 元素Aと元素Bからなる化合物のエネルギーを、イジングモデルのように書き表せ。(Aどうしが隣り合うときのエネルギーを JAA、Bどうしが隣り合うときのエネルギーを JBB、ABが隣り合うときのエネルギーを JAB とおく)
2.4 平均場近似
平均場近似とは、粒子密度やスピンの揺らぎを無視するものである。もちろん近似であり、厳密解や繰り込み群による解析と比べると正確さにかけるが、簡単で直感的に分かりやすいという特徴がある。しかも出てきた解 (相)がどんなものかを教えてくれる。この節では平均場近似について、復習がてら説明する。磁場中のスピンのハミルトニアンは
H = −1
2
∑r,r′
J(r, r′)s(r) · s(r′)− µB ·∑r
s(r) (2.17)
となる。µB = H とおいてイジングモデル (sz = ±1)を考えると、分配関数は
Z =∑
{s(r)}exp(
β
2
∑r,r′
J(r, r′)s(r) · s(r′) + βH∑r
s(r)) (2.18)
ここでm = ⟨s(r)⟩として、
s(r)s(r′) = (m+ s(r)−m)(m+ s(r′)−m) (2.19)
≈ m2 +m(s(r)−m) +m(s(r′)−m) (2.20)
第 2章 相転移の一般論 9
とすると、分配関数の指数部分は
−β2NJm2 + β(Jm+H)
∑r
s(r)
となる。ここでJ =
∑r′
J(r, r′) (2.21)
とした。N は全格子点の数である。この近似では揺らぎを無視したので相関長が短いとしていることに注意。こうして分配関数は
Z =∑
{s(r)}exp(−β
2NJm2 + β(Jm+H)
∑r
s(r)) (2.22)
= e−NβJm2/2[2 coshβ(Jm+H)]N (2.23)
となる。これより格子点あたりのヘルムホルツの自由エネルギーは
f = −kBTN
logZ =Jm2
2− kBT log{2 cosh[β(Jm+H)]} (2.24)
となる。mの決め方は二通りある。⟨s⟩H(m)として両辺が等しくなるように決めるのと、自由エネルギーが最小になるように決めるやり方である。前者は 3年生の授業でやったので、ここでは後者でやる。(2.24)をmで微分し、
0 =df
dm= Jm− J tanhβ(Jm+H)
より、m = tanhβ(Jm+H) (2.25)
となる。これがmを決める方程式である。H = 0のとき、m = 0となるには βJ > 1が必要だということは学部の
ときやった。ここでは自由エネルギーという観点から眺めてみる。mが小さいとき、
fMFA(H = 0) ≈ Const.+1
2J(1− βJ)m2 +O(m4) + · · · (2.26)
となるので、この関数形が極小値をもつのは
kBT < kBTMFAc = J (2.27)
である。こうして臨界温度が決まる。
第 2章 相転移の一般論 10
図 2.3: T > Tc, T < Tcでの自由エネルギーの形。H = 0の場合。
図 2.4: T > Tc, T < Tcでの自由エネルギーの形。H = 0の場合。
2.4.1 平均場近似での臨界指数
次に平均場近似を用いて臨界指数を計算する。(2.24)をm,H が小さいとして展開すると、β(Jm+H) = xとおいて
f ≈ Jm2
2− kBT log 2− kBT log(1 + x2/2 + x4/24)
≈ g(T ) +1
2J(1− βJ)m2 − βJmH +
β3J4m4
12
となる。これを
fMFA(m,H) = a(T ) + btm2 + cm4 − dHm (2.28)
とかく。これがギンツブルク (Ginzburg)の自由エネルギーである。
t =T − TcTc
(2.29)
でこれは臨界点からのずれを表す。この自由エネルギーの表式から臨界指数を求めよう。
1. H = 0, t < 0として、0 = dfMFA(m,0)dm より、m ∼ (−t)1/2 となる。
(2.4)から
β =1
2
第 2章 相転移の一般論 11
となる。
2. H > 0, t > 0として、磁化 0 = dfMFA(m,H)dm より、2btm = dH, χ =
m/H ∼ 1/tとなる。(2.5)から
γ = 1
となる。
3. t = 0として、磁化 0 = dfMFA(m,H)dm より、m ∼ H1/3となる。(2.6)
からδ = 3
となる。
4. 比熱は微妙である。t > 0ではm = 0なので
fMFA(t > 0) = a(T ).
一方、t < 0ではm ≈√
−bt2c なので、
fMFA(t < 0) = a(T )− b2t2
4c.
となる。比熱は
CV = TdS
dT= −T ∂
2F
∂T 2
なので、不連続な飛びがあることになる。よって (2.3)から
α = 0
となる。
以上はイジングスピン系についての結果である。N−ベクトル模型では例えばH = 0の場合、
fMFA = A(T ) + btN∑a=1
m2a + c(
N∑a=1
m2a)
2 + · · · (2.30)
となる。t < 0で自由エネルギーの最小値が現れるのはイジングと同じだが、N ≥ 2だと、秩序パラメータmの向きが連続的に変われることに注意。
第 2章 相転移の一般論 12
2.4.2 平均場近似での相関長
スピンとスピンの相関は場所 0でスピンが s(0)を向いているとき、rでのスピンの値がどうなるかを表す。数学的には
G(r) = ⟨s(r)s(0)⟩ = Tr s(r)s(0)e−βH
Tr e−βH (2.31)
である。rが大きいと、臨界点以外ではG(r)は指数関数的に減衰し、
G(r) ∼ e−r/ξ
となる。こうして相関長 ξが定義される。
H = −1
2
∑r,r′
J(r, r′)s(r)s(r′)
を代入して、
G(r) =Tr s(r)s(0)e
β2
∑r,r′ J(r,r′)s(r)s(r′)
Tr eβ2
∑r,r′ J(r,r′)s(r)s(r′)
(2.32)
となる。ここで1 = δs(0),1 + δs(0),−1
を代入して、
G(r) =Tr s(r)s(0)[δs(0),1 + δs(0),−1]e
β2
∑r,r′ J(r,r
′)s(r)s(r′)
Tr δs(0),1eβ2
∑r,r′ J(r,r′)s(r)s(r′)
+Tr δs(0),−1eβ2
∑r,r′ J(r,r′)s(r)s(r′)
をえる。Tr ′を s(0) = 1とした和とおくと結局G(r)は
G(r) =Tr ′s(r)e
β2
∑r,r′ J(r,r
′)s(r)s(r′)
Tr ′eβ2
∑r,r′ J(r,r′)s(r)s(r′)
(2.33)
と書き表せるので、G(r)はまさしく “s(0) = 1のときの s(r)の期待値”
となる。ここで平均場近似を行う。その際、平均場 ⟨s(r)⟩ は位置の関数となる。
なぜなら、s(0) = 1という条件を課しているからである。よって
s(r) = m(r) + s(r)−m(r)
として、揺らぎの 2乗を無視すると
1
2
∑r,r′
J(r − r′)s(r)s(r′) =1
2
∑r,r′
J(r − r′)(m(r) + s(r)−m(r))(m(r′) + s(r′)−m(r′))
≈ −1
2
∑r,r′
J(r − r′)m(r)m(r′) +1
2
∑r,r′
J(r − r′)(m(r)s(r′) +m(r′)s(r))
第 2章 相転移の一般論 13
これより分配関数は
ZMFA = e−β/2∑
J(r−r′)m(r)m(r′)∏r′
[2 coshβ{∑r”
m(r”)J(r′ − r”)}]
となり、自由エネルギーは
FMFA =1
2
∑J(r−r′)m(r)m(r′)−kBT
∑r′
log[2 coshβ{∑r”
m(r”)J(r′−r”)}]
(2.34)
となる。そこで、δFMFA
δm(r′)= 0
より、
0 =∑r
J(r − r′)m(r)− kBT∑r
βJ(r − r′) tanh{∑r”
βJ(r − r”)m(r”)}
=∑r
J(r − r′)m(r)−∑r
J(r − r′) tanh{∑r”
βJ(r − r”)m(r”)}
=∑r
J(r − r′)m(r)− tanh{∑r”
βJ(r − r”)m(r”)}
これがすべての r′について成り立つためには
m(r) = tanh{∑r′
βJ(r − r′)m(r′)} (2.35)
として解けば良い。
Problem 2.3 m(0) = 1という条件で、(2.35)を数値計算で解け。
(2.35)をmが小さいとして展開すると
m(r) ≈ β∑r′
J(r − r′)m(r′) + C(r) (2.36)
となる。C(r)は rが小さいときにつく補正である。これをフーリエ変換すると
m(k) = βJ(k)m(k) + C ′ (2.37)
となる。
J(k) = J(1−R2k2) , R2 =
∑r r
2J(r)/2∑r J(r)
である。こうして、
m(k) =Const.
1− βJ(1−R2k2)≈ Const.
R−2
k2 + tR−2(2.38)
第 2章 相転移の一般論 14
となる。ξ−2 = tR−2 (2.39)
とおき、(2.33)からG(r) = m(r)を思い出すと、結局
G(r) ≈ Const.R−2∫
ddkeik·r
k2 + ξ−2(2.40)
となり、結局
G(r) ∼ e−r/ξ
r(d−1)/2(2.41)
となる。こうして相関長 ξは
ξ ∼ t−1/2
とわかり、(2.8)よりν = 1/2 (2.42)
となる。また、t = 0では ∫ddk
1
k2∼ r2−d
より、(2.9)からη = 0 (2.43)
となる。
2.5 臨界次元
以上が平均場近似での結果である。ところでまわりのスピンを平均するのが平均場近似なのだから、次元が高くて周りのスピンの数が多くなれば、近似が良くなるはずである。実はある次元以上で臨界指数が次元に依存しなくなり、平均場近似と等しくなる。これを上部臨界次元 (upper
critical dimension, dU)と呼ぶ。上部臨界次元は以下のようにして評価される。(2.26)より、
fMFA ≈ Jt2 (2.44)
となる。サイトあたりの内部エネルギーは
ϵ = E/N = − d
dβlogZ =
d
dβ(βfMFA) ∼ Jt (2.45)
第 2章 相転移の一般論 15
となる。これとくらべて、平均場近似で無視した項がはるかに大きいと具合が悪いのである。平均場近似で無視したのは
∑r′
J(r − r′)δs(r)δs(r′) ≈ J∑r′
G(r − r′) ≈ J
R2
∫ddk
1
k2 + ξ−2
である。積分は ∫ddk
1
k2− ξ−2
∫k<1/a
ddk1
k2(k2 + ξ−2)
となる。第 1項は温度と無関係な項で第 2項は ξ−2× ξ−(d−4)となるので、(2.39)から
Jt ∼ JR2
ξ2≫ J
R2ξ2−d (2.46)
となる。こうしてξ4−d ≪ R4 (2.47)
なら平均場近似が正当化されるのである。つまり、d > 4なら臨界点付近で ξが長くなっても平均場近似が良いが、d < 4だと臨界点付近で ξが長くなると平均場近似が成り立たなくなるのである。よって
dU = 4 (2.48)
である。upperがあれば lowerもある。イジング模型では 1次元では相転移は有
限温度では起こらなかった。このように、次元が下がりすぎると相転移は起こらない。この転移が見られなくなる次元を下部臨界次元 (lower critical
dimension,dL)とよぶ。イジングモデルでは dL = 1、n ≥ 2のベクトルモデルでは dL = 2であ
る。これは次のように考えればよい。2次元イジングでは、サイズ lの磁気モーメントが反転した区域 (magnetic domain)を考えるとその自由エネルギーは
∆F = AJl −BkBT l (2.49)
だけふえる。最初の項は磁気モーメントが反転しているために損をしたエネルギーで、後の項はエントロピーからきている。よって、T を変えていくとあるところでmagnetic domainを作った方が自由エネルギーが得をして磁性が消える。ベクトル模型だと事情が異なる。この場合、magnetic domainを作るの
に必要なエネルギーは∆E = Ald−2
第 2章 相転移の一般論 16
である。よって、d = 2では温度が有限な限り必ずエントロピーが勝ってしまい、domainが形成され磁化が消える。こうして 2次元のベクトル模型では自発磁化が起こらないことが示される。まとめると、
dL =
{1 イジング模型2 N ベクトル模型
(2.50)
となる。ここで述べた説明は磁性体について行ったものであるが、多くの相転移
は 3次元からおこる。また、4次元以上は平均場近似が成立っていて面白くない。我々はちょうどいい次元にすんでいるといえる。
2.6 2Dイジングモデルの転移点
イジングモデルの分配関数は
Z =1
2V
∑{σ}
exp(β∑<ij>
σiσj) (2.51)
である。1/2V は後で便利なためにつけた。ここで
t = tanhβ (2.52)
を定義すると、この分配関数は exp(βσiσj) = coshβ+σiσj sinhβを使って
Z = cosh2V β∑{nl}
t∑
nl (2.53)
とかける。nlは閉じたリンクの長さを表す。ここで dualな格子を考え、格子上のスピン {τa}を定義する。リンクの内側を τa = 1,外を-1とすると、∑
nl =∑<ab>
1
2(1− τaτb) (2.54)
となるので、Z = cosh2V β
∑{τ}
t∑
12(1−τaτb) (2.55)
となる。ここでt = exp(−2β) (2.56)
から βを定義すると、
Z = cosh2V β(e−β)2V∑{τ}
e∑
βτaτb (2.57)
= cosh2V β(2e−β)2V1
2V
∑{τ}
e∑
βτaτb
第 2章 相転移の一般論 17
となる。
t =1− tanh β
1 + tanh β=
1− t
1 + t, t =
1− t
1 + t
を使うと、2 cosh2 βe−2β = sinhV 2β = sinh−V 2β
となる。こうしてF (β) = ln(sinh 2β) + F (β) (2.58)
となる。転移点ではこれらの関数が異常を示す。この異常が一点だけで起こるとすると(転移が一度しかないとすると)、
β = β (2.59)
となっていなければならない。それゆえ、
t =1− t
1 + t
で
βc =1
2ln(
√2 + 1) = 0.44069.... , Tc/T
MFAc = 0.5673... (2.60)
となる。
18
第3章 繰り込み群とスケーリング
以上、相転移の一般的な概念と平均場近似をざっと復習した。次に相転移のより精密な議論を行うため、繰り込み群を説明する。これは粗視化、またはスケール変換というプロセスによって物理量がどのように変化するかを追う理論で、非常に一般的なものである。それゆえ、何か公式があり、それに当てはめるというものではない。以下に述べる概念を理解し、それを味わえば良い。
3.1 ブロックスピン変換
一番直感的に分かりやすいのはイジングスピン系であろうから、それを例にとって説明しよう。L× Lの正方格子を、例えば 3× 3のブロックに分けるとする。各格子点には±1の大きさのスピンがあるので、このブロックのスピンは+9,+7,+5,+3,+1,−1,−3,−5,−7,−9の値をとる。ここで粗視化を行う。つまり、この 3× 3のブロックを一つのスピンとみなすのである。そして
· ブロック中のスピンの和が正ならそのサイトを+1のスピンがのっているとみなし
· ブロック中のスピンの和が負ならそのサイトを-1のスピンがのっているとみなす
という手続きを行う。(出来上がった格子点の数はもとのよりも 3 × 3だけ少なくなる。)
さて、出来上がった格子ともとの格子の 3× 3の部分を比べてみると次のことに気がつく。
· T < Tcでは、この操作を繰り返す毎に同じ向きのスピンがどんどんそろっていく
· T > Tcでは、この操作を繰り返すとスピンがどんどんでたらめになっていく
· T = Tcでは、この操作を繰り返してもスピンの構造は変わらない
第 3章 繰り込み群とスケーリング 19
このように、目で見るだけで相転移の様子が分かるのである。これを数学的に表したのが繰り込み群である。分配関数は
Z = Tr {s}e−βH({s})
である。βHをこの際、Hと書いてしまう。ここで
T (s′; s1, s2, · · · , s9) ={
1 if s′ ×∑
i si > 0
0 otherwise(3.1)
を定義し、e−H′({s′}) = Tr s
∏blocks
T (s′; si)e−H({s}) (3.2)
とおく。これは
Tr {s′}e−H′({s′}) = Tr {s}e
−H({s}) (3.3)
を満たす。H′({s′}) = J ′ ∑
<i,j>
s′is′j + · · · (3.4)
である。このように J は J ′へと変換される。もし、次最近接項や次々最近接項まで考えると、結局変換によってこうしたハミルトニアンに出てくるパラメータ {K}が
{K ′} = R{K} (3.5)
と変換することが予想できる。これが繰り込み群変換である。
3.1.1 例:1次元イジングスピン系
ここで 1次元イジングスピン系のハミルトニアンに対して繰り込み変換を出してみて、感覚をつかんでおこう。温度 βを含んだハミルトニアンを
H = −K∑i
sisi+1 (3.6)
とする。βJ = Kである。スピン、s1, s2, s3, s4, s5, s6を考え、真ん中のスピン s2, s5の間の s3, s4について和をとってしまおう。分配関数を計算するさいには
eKs′1s3eKs3s4eKs4s′2
という項がでる。
eKsisj = coshK × (1 + xsisj) , x = tanhK (3.7)
第 3章 繰り込み群とスケーリング 20
より、この式は
(coshK)3(1 + xs′1s3)(1 + xs3s4)(1 + xs4s′2)
となる。ここで∑
s3=±1,∑
s4=±1をとることを考えると、s3, s4の奇数次項は 0となるので、∑
s3,s4=±1
eKs′1s3eKs3s4eKs4s′2 = (coshK)3∑
s3,s4=±1
(1 + x3s′1s′2)
= 4(coshK)3(1 + x3s′1s′2)
= 4(coshK)3eK′s′1s
′2/ coshK ′
tanhK ′ = (tanhK)3 (3.8)
をえる。こうして、
Z = Tr {s′}e−H′({s′}) , H′({s′}) = −K ′∑
i
s′is′i+1 +Ng(K) (3.9)
をえる。g(K)は
e−Ng(K) =
(4 cosh3K
coshK ′
)N/3
= exp[N
3log
4 cosh3K
coshK ′ ] (3.10)
となるように選べば良いので、
g(K) = −1
3log
4 cosh3K
coshK ′ (3.11)
結局、繰り込み変換すると最隣接格子上のスピンの結合の強さを示すK
は、(3.8)からK ′ = tanh−1(tanh3K) (3.12)
という繰り込み群方程式に従うことになる。この性質をもう少し詳しく見てみよう。(3.8)で、x = tanhKとすると
x′ = x3 , 0 < x < 1
となる。つまり x < 1の初期値からはじめると、繰り込み変換していくと終いに x→ +0になってしまうのである。K = βJ から x = +0が高温極限であることを思い出すと、結局繰り込み変換していくとどんどん温度が上がっていくように見えるということである。つまり、x < 1(つまり有限温度ではということ)は常磁性ということになる。また x = 1(絶対零度)では繰り込み群変換しても x = 1のままである
が、xが 1から少しでもずれると 0に向かって減ってしまう。このように
第 3章 繰り込み群とスケーリング 21
変換しても値が変わらない点を固定点 (fixed point)という。x = 0は安定固定点、x = 1は不安定固定点である。次に相関長 ξを求めてみよう。
ξ(x′) = b−1ξ(x) (3.13)
である。今、x′ = xb , b = 3である。この解は
ξ(x) =Const.
log x=
Const.
log tanhK(3.14)
となる。1次元イジングの場合、
Z = (2 coshK)N (3.15)
となり、
⟨sLs0⟩ =1
Z
∑s
sLs0eK∑
isisi+1 (3.16)
で、σi = sisi+1とおいてしまうと
⟨sLs0⟩ =1
Z
∑σ
σ0σ1 · · ·σL−1eK∑
iσi = (tanhK)L = eL log tanhK = e−L/ξ
(3.17)
から、
ξ = − 1
log tanhK
となり、確かに一致する。
Problem 3.1 スピンを一個置きに消すことにより、磁場中のイジングモデルの繰り込み群変換をだせ。つまり、
H = −K∑i
sisi+1 −H∑i
si
の {K,H}に対する方程式を導け。
Problem 3.2 ポッツ (Potts)モデル (q=3)
H = −K∑i
δsi,si+1
を繰り込み群で解析せよ。
第 3章 繰り込み群とスケーリング 22
3.2 繰り込み群の一般論
ハミルトニアンにおける長さのスケールを b倍して新しいハミルトニアンをつくるとする。その際、どちらで計算しても分配関数は変わらないとする。変換後のハミルトニアンと変換前のハミルトニアンに出てくるパラメータは (3.5)によって
{K ′} = R({K})
となる。この変換が繰り込み群変換で、その固定点K∗は
{K∗} = R({K∗}) (3.18)
を満たす。このとき、変換をK∗のまわりでテイラー展開したとすると
K ′a −K∗
a ≈∑b
Tab(Kb −K∗b ) , Tab =
dK ′a
dKb
∣∣∣∣K∗
(3.19)
となる。そこで Tabの固有値と固有ベクトルを∑a
ϕiaTab = λiϕib (3.20)
とすると、ui
def=∑a
ϕia(Ka −K∗a) (3.21)
は、
u′i =∑a
ϕia(K′a −K∗
a)
=∑ab
ϕiaTab(Kb −K∗b )
=∑b
λiϕib(Kb −K∗b )
となるので、u′i = λiui = byiui (3.22)
がえられる 1。ui をスケーリング変数 (scaling variable)、yi を繰り込み群固有値 (renormalization group eigenvalue) となづける。yiが正か、負か、0によって繰り込み変換した場合のパラメータK の振る舞いが異なる。yi > 0の場合、繰り込み変換するとどんどん固定点から離れる。この場合、スケーリング変数 uiは relevantだという。逆に yi < 0の場合、繰
1λi は正の実数であることがほとんどなのでここではそのように定義する
第 3章 繰り込み群とスケーリング 23
J1
J2
J*
Jc
図 3.1: 繰り込み群変換をしたときの流れ図
り込み変換するとどんどん固定点に近づく。この場合、スケーリング変数uiは irrelevantだという。yi = 0はmarginalと呼ばれる。N 個のパラメータがあり、そのうち n個が relevantだとN − n次元の
irrelevantなパラメータの作る面上ではK∗に吸い込まれる。これが critical
surfaceである。図にN = 2, n = 1を模式的に表す。
3.3 スケーリングと臨界指数
いよいよ現代物理学の金字塔、スケーリングと臨界指数を説明しよう。1次元の例で学んだのは
H → H′ +Ng({K})
であった。この変換により分配関数は不変で
Z = Tr e−H = Tr e−H′−Ng({K}) (3.23)
となる。これより自由エネルギーは
Nf({K}) = N ′f({K ′}) +Ng({K}) (3.24)
となる。N ′/N = b−dを用いてサイトあたりの自由エネルギーは
f({K}) = b−df({K ′}) + g({K}) (3.25)
第 3章 繰り込み群とスケーリング 24
となる。gは解析的な関数なので相転移付近でも連続的に振る舞う。よって相転移で特異な振る舞いをする部分、fsは
fs({K}) = b−dfs({K ′}) (3.26)
となる。このパラメータ {K}をスケーリング変数にとる。例えば磁性体の相転
移では ut, uhとする。この場合、(3.26)は簡単になり
fs(ut, uh) = b−dfs(bytut, b
yhuh) (3.27)
となる。つぎつぎとブロックを大きくしていくと、n回目の変換でこの式は
fs(ut, uh) = b−ndfs(bnytut, b
nyhuh)
となる。ここで、ut0 = |bnytut| (3.28)
とおいて、bを消してやると結局、
fs(ut, uh) = |ut/ut0 |d/ytfs(±ut0 , uh|ut/ut0 |−yh/yt) (3.29)
をえる。スケーリング変数は転移点近傍で
ut ∼ t =T − TcTc
, uh ∼ h (3.30)
なので、結局
fs(t, h) = |t/t0|d/ytΨ(
h/h0|t/t0|yh/yt
)(3.31)
となる。(3.31)から臨界指数の関係式が導かれる。
1. ∂2f/∂t2 ∼ Cv より、α = 2− d/yt (3.32)
2. ∂f/∂h ∼ β ∼ (−t)(d−yh)/yt より、
β = (d− yh)/yt (3.33)
3. ∂2f/∂h2 ≈ χ ∼ |t|(d−2yh)/yt より、
γ =2yh − d
yt(3.34)
第 3章 繰り込み群とスケーリング 25
4. M ∼ |t/t0|(d−yh)/ytΦ′((h/h0)/|t/t0|yh/yt)で、t → 0としてM ∼(h/h0)
(d−yh)/yh となるので、
δ =yh
d− yh(3.35)
これより、関係式
α+ 2β + γ = 2 , α+ β(1 + δ) = 2 (3.36)
が導かれる。これはスケーリング関係式と名づけられている。
3.3.1 相関関数のスケーリング関係式
こんどは相関関数のスケーリング関係式を導こう。
G(r1 − r2,H) = ⟨s1s2⟩H − ⟨s1⟩H⟨s2⟩H
=∂2 logZ(h)
∂h(r1)∂h(r2)
H(h) = H −∑r
h(r)s(r) (3.37)
さて、繰り込み変換をすると
H′(h) = H ′ −∑r′
h′(r′)s′(r′) , h′(r′) = byhh(r) (3.38)
となり、分配関数は不変で
Z ′(h′) = Z(h)
となっているので、
∂2 logZ ′(h′)
∂h′(r1′)∂h′(r2′)=
∂2 logZ(h)
∂h′(r1′)∂h′(r2′)(3.39)
である。左辺はG(r12/b,H′)
右辺はb−2yh⟨(sr11 + · · ·+ sr1
bd)(sr21 + · · ·+ sr2
bd)⟩
なので、よって
G(r12/b,H′) = b2(d−yh)G(r12,H) (3.40)
第 3章 繰り込み群とスケーリング 26
となる。h = 0とおくとこれは
G(r, t) = b−2(d−yh)G(r/b, bytt) (3.41)
となる。繰り込みを n繰り返すと
G(r, t) = b−2n(d−yh)G(r12/bn, bnytt)
となり、bnytt = t0となるまで繰り返すと
G(r, t) =
∣∣∣∣ tt0∣∣∣∣2(d−yh)/yt
Ψ(r/|t/t0|−1/yt) (3.42)
となる。相関関数は一般にG ∼ e−r/ξ = f(r/ξ) となるので、
ξ ∼ t−1/yt , ν =1
yt(3.43)
となる。また t = 0、つまり転移点で見ると (3.41)を
G(r, t) = b−2(d−yh)G(r/b) = b−2n(d−yh)G(r/bn)
となる。bn = r/r0となるまで繰り込みを繰り返すと
G(r, t) =
(r
r0
)−2(d−yh)
(3.44)
となる。よって、d− 2 + η = 2d− 2yh (3.45)
が得られる。ν = 1/yt,η = d + 2 − 2yh を使うとスケーリング関係式(3.32),(3.34)は
α = 2− dν , γ = ν(2− η) (3.46)
となる。この関係式はハイパースケーリング関係式 (hyperscaling relation)
と呼ばれている。
Problem 3.3 平均場近似での臨界指数を、スケーリング関係式とハイパースケーリング関係式に代入してみよ。
3.4 有限サイズスケーリング
次に有限サイズの系の場合のスケーリング関係式を議論しよう。系が有限で Ld = V という体積を持っているとする。格子定数 aの “立方格子”
第 3章 繰り込み群とスケーリング 27
を考えると一辺のサイト数は L/aとなる。大きさ Lをとめて a → baと繰り込み変換する。このとき、一辺のサイト数は
L/a = L = bL/(ba) = bL′
よりL′ = b−1L
と変換するので、(3.26)は
fs({K}, L−1) = b−dfs({K ′}, bL−1) (3.47)
これが有限サイズスケーリング (finite size scaling)である。これを磁性体に適用し、前と同じように繰り込み操作を繰り返すと
fs(t, h) =
∣∣∣∣ tt0∣∣∣∣dν Ψ
(h/h0
|t/t0|yhν,
(t
t0
)−ν
L−1
)(3.48)
となる。 (t
t0
)−ν
∼ ξ
に注意すると、結局
fs(t, h) =
∣∣∣∣ tt0∣∣∣∣dν Ψ( h/h0
|t/t0|yhν, ξ/L
)(3.49)
となる。これから物理量を計算してみよう。例えば帯磁率 χは
χ =∂2f
∂h2∼ |t/t0|(d−2yh)νψ(t−νL−1) ∼ |t|−γψ(t−νL−1) (3.50)
で、これからχ ∼ Lγ/νψ(tL1/ν) (3.51)
となる。例えばサイズごとにコンピュータシミュレーションを行い、プロットすると、上式から図のようになることが期待される。このように有限サイズスケーリングは有限系の情報を積極的に活用する
という節約型の方法であり、特に計算機上で相転移を調べるのに有効な方法である。
Problem 3.4 1次元イジング模型をサイズ Lで厳密に解き、
χ ∼ ξγ/νf(ξ/L)
となっていることを示せ。
第 3章 繰り込み群とスケーリング 28
図 3.2: 有限サイズスケーリングの模式図
Problem 3.5 スピン相関関数Gをだすとき、yhだけが現われ、ytは使わなかった。もったいない。なんとかこちらも使えないものか、考えよ。
Answer: 転移点での相関関数として sisj = E(r)に対する相関関数を考えると、この局所内部エネルギーの相関関数は
⟨E(r1)E(r2)⟩ ∼ |r12|−2d+2/ν (3.52)
となることが導かれる。
3.5 他の問題への応用
繰り込み群の章を終えるに当たって,他の問題への意外な応用を示しておく (田崎晴明,パリティ 11(1996) 11)。半径Rの球から質点を速さ u0で水平方向に投げて最大の距離Rmaxま
で離れたとする。このとき,
E0 =u202
− 1
R=u2max
2− 1
Rmax(3.53)
で,角運動量の保存則からRu0 = Rmaxumaxなので,
E0 =R2u202Rmax
− 1
Rmax(3.54)
となる。これから
2E0R2max + 2Rmax −R2u20 = 0 , Rmax =
1 +√1 + 2u20R
2E
−E0(3.55)
第 3章 繰り込み群とスケーリング 29
となる。
E0 =u202
− 1
R=
1
2(u0 −
√2
R)(u0 +
√2
R) (3.56)
なので,
Rmax ∝ (
√2
R− u0)
−1 (3.57)
となり,“臨界指数”は−1となる。これを繰り込み群から考える。この授業のはじめに述べたように重力下
での運動はr′ = αr , t′ = α3/2t (3.58)
のもとで不変である。このとき,水平方向と鉛直方向の速さは,α = e−τ
とすると,(u′, v′) = (α−1/2u, α−1/2v) = (eτ/2u, eτ/2v) (3.59)
となる。半径 e−τRからRまでいく時間は∆t ≈ τRv なので
v = v′ − 1
R2∆t = (1 + τ/2)v − τ/Rv (3.60)
u = (1 + τ/2)u (3.61)
さらに角度は∆θ = u′∆t/Rτu/vだけ変わっているので(cos∆θ − sin∆θ
sin∆θ cos∆θ
)(u
v
)=
((1− τ/2)u
(1 + τ/2)v + τu2/v − τ/Rv
)(3.62)
となる。よって,
R
(u
v
)=
(u
v
)+
(−u/2
v/2− 1/Rv + u2/v
)τ (3.63)
となり,τ → 0で(du/dτ
dv/dτ
)=
(−u/2
v/2− 1/Rv + u2/v
)(3.64)
となる。固定点は (u∗, v∗) = (0,√2/R)である。固定点のまわりで展開す
るとw = v − v∗ , dw/dτ ≈ w (3.65)
となる。固定点のまわりでは結局
u = ue−τ/2 , w = weτ (3.66)
となる。
第 3章 繰り込み群とスケーリング 30
スケーリング領域にいる時間は u(τ) = ϵe−(τ−τ0)/2, w = δweτ−τ0 で,Rmax = eτ1+τ2+τ3Rである。τi(i = 1, 2, 3)はそれぞれスケーリング領域に入るまでの時間,スケーリング領域に滞在する時間,スケーリング領域から出てきたあとの時間である。この τ2が発散するのである。この発散は
eτ2R ∝ 1
∆w∝ 1
u− uc(3.67)
なので臨界指数-1が求められた。以上の二つのアプローチの違いは
1. 角運動量保存則を使っていない
2. ucを求める必要がない
という点である。
31
第4章 統計力学と量子力学
前章まで、相転移の概念を学んできたが、実際にスケーリング変数がrelevantか irrelevantかとか、臨界指数の値を計算するにはやはり分配関数を真面目に計算する必要がある。そこで分配関数を計算する新しい手法について述べる。
4.1 経路積分
1次元のシュレーディンガー方程式
ih∂ϕ
∂t= − h2
2m
∂2ϕ
∂x2+ V (x)ϕ = Hϕ (4.1)
を考える。これより状態 |ϕ⟩の時間発展は
|ϕ(t′)⟩ = e−iH(t′−t)/h|ϕ(t)⟩ = U(t′, t)|ϕ(t)⟩ (4.2)
とかける。座標表示してやれば
ϕ(x′, t′) = U(x′, t′;x, t)ϕ(x, t) (4.3)
である。ここで時刻 tから t′を小さな時間に等分割して
U(t′, t) = U(t′, tN−1)U(tN−1, tN−2) · · ·U(t2, t1)U(t1, t) (4.4)
となり、座標表示してやると
U(x′, t′;x, t) =
∫dxN−1 · · · dx1U(x′, t′;xN−1, tN−1)U(xN−1, tN−1;xN−2, tN−2) · · ·U(x1, t1;x, t)
(4.5)
となる。ここで時間間隔は (t′ − t)/N = ∆tである。N が十分大きければ
⟨xk+1|e−iH∆t/h|xk⟩ = ⟨xk+1|1−i∆tH
h|xk⟩ (4.6)
となる。ここで完全系∫ dp
2πh |p⟩⟨p| = 1を使うと、
⟨xk+1|H|xk⟩ =∫
dp
2πh⟨xk+1|pk⟩⟨pk|H|xk⟩ (4.7)
第 4章 統計力学と量子力学 32
となる。⟨pk|H|xk⟩ = H(pk, xk)⟨pk|xk⟩ (4.8)
として、
U(xk+1, tk+1;xk, tk) ≈∫
dpk2πh
⟨xk+1|pk⟩⟨pk|xk⟩(1− i
h∆tH(pk, xk)
)(4.9)
≈∫
dpk2πh
exp
[ipkh(xk+1 − xk)−
i
h∆tH(pk, xk)
]をうる。こうして
U(x′, t′;x, t) =
∫dpN−1
2πh· · ·∫
dp02πh
∫dxN−1 · · ·
∫dx1 (4.10)
exp
[i
h
N−1∑k=0
{pk(xk+1 − xk)−∆tH(pk, xk)}]
となる。xk+1 − xk = x(t)∆tとして
U(x′, t′;x, t) =
∫dpN−1
2πh· · ·∫
dp02πh
∫dxN−1 · · ·
∫dx1 (4.11)
exp
[i
h
∫ t′
0dt′′
{p(t′′)x(t′′)−H(p, x)
}](4.12)
となる。作用積分 S = px−H(p, x)をつかうと、結局
U(x′, t′;x, t) =
∫DpDx exp
[i
hS
](4.13)
が得られる。これがファインマン (Feynmann)の経路積分である。注意点は p = mxということである。この物理的意味は、量子力学の時間発展というのは、古典的には許されないようなすべての経路を考えて、その作用を計算すればよいということである。古典的な軌道は解析力学で習ったようにこの作用積分が最小になるものである。経路がこの軌道から少しでもずれると古典系ではそのずれが hよりもはるかに大きくなり、位相がランダムになり打ち消しあってしまう。このため、古典軌道のみが観測されるのである。ハミルトニアンがH(p, x) = p2/2m+ V (x)の場合、∫ t′
t[p(t′′)x(t′′)− p2
2m]dt′′ =
∫ t′
tdt′′
[− 1
2m(p(t′′)−mx(t′′))2 +
mx(t′′)2
2
](4.14)
として pについてガウス積分してしまうと、
U(x′, t′;x, t) =
∫Dx exp
[i
h
∫ t′
tdt′′
{mx(t′′)2
2− V (x)
}](4.15)
第 4章 統計力学と量子力学 33
となる。変分原理を思い出すと、
δS(p, x) = 0 → x =p
m, p = −∂V
∂x(4.16)
δS(x) = 0 → mx = −∂V∂x
(4.17)
となる。経路積分はもう演算子を含まず、c数だけで書けていることに注意しよう。
4.2 統計力学との接点
時刻 t =で xにいた粒子が時刻 tで x′にいる確率振幅
⟨x′| exp(−iHt/h)|x⟩ (4.18)
で、t = −iτ とおくと、
⟨x′| exp(−Hτ/h)|x⟩ =
∫ x(τ)=x′
x(0)=xDx(τ ′)Dp(τ ′) (4.19)
exp
[−1
h
∫ τ
0dτ ′
{−ip(τ ′)x(τ ′) +
p(τ ′)2
2m+ V
}]
=
∫ x(τ)=x′
x(0)=xDx(τ ′) exp
[−1
h
∫ τ
0dτ ′
{mx(τ ′)2
2+ V
}]となる。ところで分配関数は
Z = Tr exp(−βH) (4.20)
で与えられるので、ここで基底を {|x⟩}とすると、
Z =
∫dx⟨x|e−βH |x⟩ (4.21)
となり、これを経路積分で表すと
Z =
∫x(0)=x(β)=x
Dx(τ ′) exp
[−1
h
∫ β
0dτ ′
{mx(τ ′)2
2+ V
}](4.22)
となる。ところでこの虚数時間 τ の表式で変分をみると、
mx =∂V (x)
∂x(4.23)
となり、符号逆である。これは何を意味しているかというと、古典的に許されない経路を量子力学では通っていけるということを意味している。
Problem 4.1 調和振動子の場合に、シュレーディンガー方程式、経路積分の両方で U を計算して、一致してるか、確かめてみよ。