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積層充塡による光重合型コンポジットレジンの色変化と 背景遮蔽効果について 逸見 恵里 § 明海大学歯学部機能保存回復学講座保存修復学分野 抄録近年,コンポジットレジン修復による審美的な治療の要求が高くなり,天然歯色に調和した充塡方法が求められ ている.半透明性材料であるコンポジットレジンは,下層充塡材料の色および窩底の色に大きく影響される.また Minimal InterventionMI)の普及により,着色象牙質上での充塡方法が行われており,限られた窩洞内において背景色を遮蔽す るためにフロアブルコンポジットレジンを一層塗布する積層充塡が行われている.しかし背景遮蔽効果を有しても天然歯 色との調和のとれるコンポジットレジン充塡での色の再現が困難であるのが現状である.本研究は,着色象牙質色上での フロアブルコンポジットレジンとユニバーサルコンポジットレジンとの積層した色の影響とその背景遮蔽効果について検 討した. 本研究での材料は,ソラーレ,Z 100 TM ,エステライト P クイックのそれぞれのスタンダードシェード A3(以下 S, Z, E と略す)と MI フロー,フィルテック TM シュープリームフロー,エステライトフロークイックのスタンダードシェード A3(以下 SF, ZF, EF と略す)とオペークシェード OA3(以下 SO, ZO, EO と略す)を使用した.S, Z, E は厚さ 1.5 mm 2.0 mm, SF, ZF, EF, SO, ZO, EO は厚さ 0.5 mm の単層試料を作成した.積層試料は,下層に厚さ 0.5 mm の試料を上層 に厚さ 1.5 mm の試料を重ね,厚さ 2.0 mm の試料とした.測色は,標準白色板および標準黒色板と L*値が 15, 45, 55, 65 および 75 の水性顔料無光沢色票のグレー色票を背景色とし,各厚さでの単層試料および積層試料を非接触型分光測色器 にて測色を行い,単層試料と積層試料の L*値,C*ab 値,Translusency parameterTP)値を算出した.統計学的分析で は,L*値,C*ab 値,TP 値は各厚さでの試料間,シェード間の有意差を求めるため一元配置分散分析,Schuffe の多重比 較を行った.また試料別での L*値と C*ab 値の各背景色上での影響力を求めるために回帰分析を行った. その結果,単層試料では標準白色板,標準黒色板上にてオペークシェードの方が L*値,C*ab 値が高い値を示し,TP 値は低い傾向を示した.積層試料では L*値は統計学的有意差を示したがどの試料も共に同程度の L*値を得られる結果と なり,TP 値はコントロール試料より高い傾向を示した.コンポジットレジンの色は天然歯色との調和が可能ではあった が,下層試料 0.5 mm では積層材料の色に影響し,背景色の明度は積層試料の彩度に影響を与えるが明度に対しての影響 が遥かに大きいと考えられた.今後さらに積層する方法について検討する必要性が示唆された. 索引用語コンポジットレジン,積層,色 Change in Color and Masking Effect of Layered Light-cured Composite Resin at Different Colered Background Eri HEMMI § Divisoin of Operative Dentistry, Department of Restrative & Biomaterials Siences, Meikai University School of Dentistry Abstract : With the rising demand for aesthetic dental restorations utilizing composite resins, the need has grown for filling techniques that match natural tooth color. As translucent materials, composite resins are significantly influenced by the colors of the lower filling layer and the cavity floor. The growth of minimal intervention MIdentistry, moreover, has led to increasing use of techniques for filling on discolored dentin and for masking the background color within the confines of the cavity by layered filling, in which one layer of flowable composite resin is applied. However, even with the background masking effect, it remains 明海歯学(J Meikai Dent Med 41 1, 6-19, 2012 6

積層充塡による光重合型コンポジットレジンの色変 …...The growth of minimal intervention(MI)dentistry, moreover, has led to increasing use of techniques for

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Page 1: 積層充塡による光重合型コンポジットレジンの色変 …...The growth of minimal intervention(MI)dentistry, moreover, has led to increasing use of techniques for

積層充塡による光重合型コンポジットレジンの色変化と背景遮蔽効果について

逸見 恵里§

明海大学歯学部機能保存回復学講座保存修復学分野

抄録:近年,コンポジットレジン修復による審美的な治療の要求が高くなり,天然歯色に調和した充塡方法が求められている.半透明性材料であるコンポジットレジンは,下層充塡材料の色および窩底の色に大きく影響される.また Minimal

Intervention(MI)の普及により,着色象牙質上での充塡方法が行われており,限られた窩洞内において背景色を遮蔽するためにフロアブルコンポジットレジンを一層塗布する積層充塡が行われている.しかし背景遮蔽効果を有しても天然歯色との調和のとれるコンポジットレジン充塡での色の再現が困難であるのが現状である.本研究は,着色象牙質色上でのフロアブルコンポジットレジンとユニバーサルコンポジットレジンとの積層した色の影響とその背景遮蔽効果について検討した.本研究での材料は,ソラーレ,Z 100TM,エステライト P クイックのそれぞれのスタンダードシェード A3(以下 S, Z,

E と略す)と MI フロー,フィルテックTM シュープリームフロー,エステライトフロークイックのスタンダードシェードA3(以下 SF, ZF, EF と略す)とオペークシェード OA3(以下 SO, ZO, EO と略す)を使用した.S, Z, E は厚さ 1.5 mm

と 2.0 mm, SF, ZF, EF, SO, ZO, EO は厚さ 0.5 mm の単層試料を作成した.積層試料は,下層に厚さ 0.5 mm の試料を上層に厚さ 1.5 mm の試料を重ね,厚さ 2.0 mm の試料とした.測色は,標準白色板および標準黒色板と L*値が 15, 45, 55, 65

および 75の水性顔料無光沢色票のグレー色票を背景色とし,各厚さでの単層試料および積層試料を非接触型分光測色器にて測色を行い,単層試料と積層試料の L*値,C*ab 値,Translusency parameter(TP)値を算出した.統計学的分析では,L*値,C*ab 値,TP 値は各厚さでの試料間,シェード間の有意差を求めるため一元配置分散分析,Schuffe の多重比較を行った.また試料別での L*値と C*ab 値の各背景色上での影響力を求めるために回帰分析を行った.その結果,単層試料では標準白色板,標準黒色板上にてオペークシェードの方が L*値,C*ab 値が高い値を示し,TP

値は低い傾向を示した.積層試料では L*値は統計学的有意差を示したがどの試料も共に同程度の L*値を得られる結果となり,TP 値はコントロール試料より高い傾向を示した.コンポジットレジンの色は天然歯色との調和が可能ではあったが,下層試料 0.5 mm では積層材料の色に影響し,背景色の明度は積層試料の彩度に影響を与えるが明度に対しての影響が遥かに大きいと考えられた.今後さらに積層する方法について検討する必要性が示唆された.

索引用語:コンポジットレジン,積層,色

Change in Color and Masking Effect of Layered Light-curedComposite Resin at Different Colered Background

Eri HEMMI§

Divisoin of Operative Dentistry, Department of Restrative & Biomaterials Siences, Meikai University School of Dentistry

Abstract : With the rising demand for aesthetic dental restorations utilizing composite resins, the need has grown for filling

techniques that match natural tooth color. As translucent materials, composite resins are significantly influenced by the colors of

the lower filling layer and the cavity floor. The growth of minimal intervention(MI)dentistry, moreover, has led to increasing use

of techniques for filling on discolored dentin and for masking the background color within the confines of the cavity by layered

filling, in which one layer of flowable composite resin is applied. However, even with the background masking effect, it remains

明海歯学(J Meikai Dent Med)41(1), 6−19, 20126

Page 2: 積層充塡による光重合型コンポジットレジンの色変 …...The growth of minimal intervention(MI)dentistry, moreover, has led to increasing use of techniques for

緒 言

近年,Minimal Intervention(MI)の概念の普及1)およびコンポジットレジンの材料学的性質や接着技法の向上により,コンポジットレジンは従来の Black の窩洞と比較し歯質切削量が少なく比較的浅い窩洞にも処置することが可能となった.さらに患者の審美的要求が高まり審美的治療のなかでもコンポジットレジン修復は多用され,この修復方法では残存する天然歯の色との調和が求められている.そのため修復材料の色を適確に選択し充塡することが重要となる.天然歯に調和したコンポジットレジンの色を選択するには,従来の Vitapan を使用したシェードテイキングや簡易測色器を使用した色数値による方法がある2−4).天然歯の色は透明度の高いエナメル質と色みが強い象牙質の二層で表現されており,同じ歯でも部位により色が変化する5).また天然歯の色は,年齢,性別や先天性疾患,歯髄障害などによる内因性変色とう蝕や金属性物質などの着色による外因性の変色歯もある6).それら多くの色

に合わせるため治療前に色を知ることは重要である.コンポジットレジンは光透過性を有すると同時に光を拡散させる性質を有する半透明性の材料である7).そのためコンポジットレジンの色は,充塡材料の厚み,窩底,窩壁の色,隣在歯の色などに影響される8).背景による色への影響については,背景色に白色,黒色,有彩色を使用した報告がある9−11).現在では細菌感染のない着色象牙質の保存が推奨されており,それらを窩底色とした充塡が増え天然歯に近似させるには考慮する必要がある.コンポジットレジン修復において背景色を完全に遮蔽し色を再現する方法について数多く検討されてきている12−18)が,完全に背景色を遮蔽できるコンポジットレジンの試料厚さは 4 mm 以上であり,オペークシェードでは試料厚さが 2.3 mm 必要であると報告されている12, 13).しかし歯種,部位や年齢により異なるがエナメル質の厚さは前歯では約 0.5~1.1 mm,臼歯では約 1.0~2.0 mm

を示し,象牙質の厚さは前歯では約 2.3~3.3 mm,臼歯では約 1.8~2.8 mm であると報告されており19),コンポジットレジンを用いて背景色を完全に遮蔽するには,特に前歯では十分な厚みがとれないのが現状である.この

difficult to match natural tooth color solely by color reproduction through composite resin filling. In the present study, the authon

investigated both the influence of discolored dentin on the color of layered composite resins, as well as the related background

masking effect.

The materials used in this study were : Solare, Z 100TM, and Estelite Pquick in standard shade A3(abbreviated S, Z, and E);

MI Flow, FiltekTM Supreme Flow, and Estelite Flow Quick in standard shade A3(abbreviated SF, ZF, and EF); and opaque shade

OA3(abbreviated SO, ZO, and EO). Single-layer test pieces were formed with S, Z, or E at thicknesses of 1.5 mm or 2.0 mm,

while 2.0 mm multilayer test pieces were formed by first applying SF, ZF, EF, SO, ZO, and EO at a thickness of 0.5 mm, and

then adding a 1.5 mm upper layer of resin. For background color measurements, a standard white board, a standard black board,

and water pigment matte color boards grey boards with L* values of 15, 45, 55, 65, and 75 were used. To determine L*, C*ab,

and TP values, colorimetry was performed using a non-contact spectrophotometer for both single- and multilayer test pieces at

each thickness. Statistical analyses of the results included one-way analysis of variance(ANOVA)and Scheffe’s method of multi-

ple comparisons to test for significant differences between test pieces and shades at each thickness in L*, C*ab, and TP values.

Regression analysis was performed to test for correlation between the L* value and the C*ab value of each test piece on each

background color.

For the single-layer test pieces on both the white board and the black board, opaque shades showed higher L* and C*ab values

and a tendency toward lower TP values. For the multilayer test pieces, the L* values showed statistically significant differences,

with the level of the L* value depending on the test piece combination and the TP values tending higher than that of the control.

Test results showed that it was possible to match the composite resin color to natural tooth color, but that lower-layer test pieces of

0.5 mm or more affected the layered material color. Additionally, while the lightness of the background color affected the chroma

of the layered test piece, it apparently had a far larger effect on its lightness. These results indicate a need for further investigations

into layering methods.

Key words : composite resin, layering, color

─────────────────────────────§別刷請求先:逸見恵里,〒350-0238埼玉県坂戸市けやき台 1-1明海大学歯学部機能保存回復学講座保存修復学分野

コンポジットレジンの色変化と背景遮蔽効果 7

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ように,コンポジットレジン修復では背景色を遮蔽することは困難であるため窩底の色を反映し天然歯色と調和のとれる充塡方法が重要となる.しかし天然歯色と充塡色を正確に把握することができたとしても,同種類のコンポジットレジンの積層方法,積層する試料の厚さにより色が変化することが報告されている20).また術者の熟練度に左右された色の選択と充塡が行われ,色の再現性が不確実なものもある.そのため,確実に天然歯の色と調和した積層方法を確立させることが必要である.本来,積層充塡法の目的は,コントラクションギャップの防止や重合収縮応力の緩和を考慮するためであるが,積層途中での色補正ができることからコンポジットレジンの色を調整しながら充塡が可能となっている21).コンポジットレジン修復において,天然歯の色に調和した色再現性の確立のために背景色となる着色象牙質上での積層充塡試料の色の特性を把握する必要がある.そこで本研究では,着色象牙質色の明度を参考にし22),背景色の明度(L*値)が積層したコンポジットレジンの明度(L*値),彩度(C*ab 値),透明度(TP 値)へ与える影響について基礎的な実験を行い検討した.

材料と方法

1.実験材料本実験に使用した材料は,ユニバーサルコンポジット

レジンのソラーレ(GC),Z 100TM(3 M ESPE, USA)およびエステライト P クイック(トクヤマデンタル)のスタンダードシェード A3(以下,S, Z, E と略す)とフロアブルコンポジットレジンの MI フロー(GC),フィルテックTM シュープリームフロー(3 M ESPE, USA)およびエステライトフロークイック(トクヤマデンタル)のスタンダードシェード A3(以下,SF, ZF, EF と略す)とオペークシェード OA3(以下 SO, ZO, EO と略す)の 6種類の市販の光重合型コンポジットレジンを試料とし使用した(Table 1).

2.実験方法1)試料の作成各コンポジットレジンを内径 8.0 mm,高さ 1.0 mm あるいは 2.0 mm のハイゾール分離材(松風)を塗布したアクリル樹脂性のプラスチックリングに塡入し,上下面にプラスチックストリップス(3 M ESPE, USA)を介し,スライドガラスを用いて圧接した.ハロゲンランプ光照射器 Astral(Sedlbauer, Germany)にて上下面各 20

秒間計 40秒間光照射し重合させ,室温蒸留水(23±2

℃)中にて保管した.24時間後,耐水研磨紙(Buehler,

USA)#400, #600, #800および#1200を用いて,試料 SF,

ZF, EF と SO, ZO, EO を厚さ 0.5±0.02 mm,試料 S, Z,

E を厚さ 1.5±0.02 mm と 2.0±0.02 mm になるように

Table 1 Composite Resin Materials used in this study10, 19, 54−57)

Material Brand name Color Code Lot No Filler size, content, particle Matrix

Solare GC A3 S 1008241

Silica glass(0.85 μm)Oraganic compound filler(16 μm)

Hyumudsilica(16 nm)73 wt%,Spherical filler

UDMA, dimethacrylate

MI Flow GCA3

AO3SFSO

10071421007231

Strontium glass(700 nm)69 wt%

Irregular fillerBis-MEPP

Z 100TM 3 M A3 Z W207BSilica glass

0.01~3.5 μm, 66 wt%Spherical filler

Bis-GMA, TEGDMA

FiltekTM Supreme Flow 3 MA3

AO3ZFZO

J201W7022

Silica glass0.005~0.02 μmSpherical filler

Bis-GMA, TEGDMA

Estelite P QuickTokuyama

DentalA3 E W207B

Silica glass0.2−3 μm, 84 wt%

Irregular fillerBis-GMA, TEGDMA

Estelite Flow QuickTokuyama

DentalA3

AO3EFEO

J201W7022

Silica glass0.1以下-0.4 μm, 71 wt%

Irregular fillerBis-GMA, TEGDMA

8 逸見恵里 明海歯学 41, 2012

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Digimatic Micrometer(Mitutoyo, Tokyo)にて厚さを計測しながら注水下にて両面研磨を行い,試料を各 3個ずつ作製した.厚さ 2.0 mm の試料は積層試料と比較するためのコントロールとした.積層試料の作製法は,上層に厚さ 1.5±0.02 mm の試

料を下層に厚さ 0.5±0.02 mm の試料をそれぞれの組み合わせにて重ね,厚さ 2.0 mm になるように積層した.上層試料と下層試料との介在部には介在部に生じる ege

loss を最小限に抑えるため,単層試料との色差が最小となる屈折率を選択し,Refractive Index Liquid 1.5023)(Car-

gille, USA 以下介在液 1.50)を 3 μl 介在させそれぞれ重ねた.(Fig 1)2)コンポジットレジン試料の測色試料の背景には標準白色板(L*=99.92, a*=0.02, b*

=0.02,以下背景 W と略す)と標準黒色板(L*=1.15,

a*=-0.02, b*=-0.04,以下背景 B と略す)を使用した.また着色象牙質 L*値の 8割が,L*値 45~75を示し,L*値 15 は着色象牙質の最も低い値を示すことから,L*値を 15(L*=15.14, a*=-0.15, b*=0.17,以下,背景 15と略す),45(L*=44.16, a*=0.36, b*=0.15,以下,背景 45 と略す),55(L*=54.22, a*=0.07, b*=0.52,以下,背景 55と略す),65(L*=64.85, a*=0.07,

b*=0.44,以下,背景 65 と略す)および 75(L*=75.74, a*=0.12, b*=0.60,以下,背景 75と略す)22)の水性顔料無光沢色票(村上色彩技術研究所)のグレー色票を使用した.色の測定は非接触式分光測色器 Spectra

Scan PR 650(Photo Research, USA)を用い,物体色の測色法(JIS Z 8722)24, 25)に準拠し,2 度視野,D 65 光源,照度 1000 lx, 45度照明-0度受光の条件下でそれぞ

れの試料表面を 5回測定し平均した.試料の測定方法は,始めに積層する前の個々の単層での厚さの試料を測定し,次に各積層試料を測定した.3)CIEL*a*b*値と C*ab 値の算出波長 380~780 nm の 4 nm 間隔での分光反射率を測定し,色の表示法(JIS Z 8729)21, 22)により CIE L*a*b*表色系の数値を算出した.表色系から CIE L*a*b*均等知覚色空間の L*値,a*値および b*値を選択し,それぞれの平均値および標準偏差値を算出した.L*値は各単層試料と積層試料の異なる背景色上の明度について求めた.異なる背景色上の各単層試料と積層試料の彩度を求めるために背景 W,背景 B と背景 15, 45, 55, 65および 75

のグレー色票上における単層試料と積層試料の CIE L*a

*b*表色系の数値,a*, b*値の結果より C*ab 値を以下の計算式を用いて算出した26).

C*ab=(a*2+b*2)1/2

4)Translucency parameter(TP 値)の算出27)

各単層試料と積層試料の背景遮蔽効果を調べるために白色背景と黒色背景上にて測定した CIE L*a*b*表色系の数値,L*, a*, b*値の結果より以下の計算式を用いて色差 Δ E*ab 値を算出し,TP 値を求めた.

TP={(LW*-LB*)2+(aW*-aB*)2+(bW*-bB*)2}1/2

LW*, aW*, bW*:背景 W 上で測定した CIE L*a*b*表色系の数値 L*, a*, b*値を示す.

LB*, aB*, bB*:背景 B 上で測定した CIE L*a*b*表色系の数値 L*, a*, b*値を示す.5)色差(Δ E*ab 値)の算出コントロール試料と積層試料の背景遮蔽効果を求めるため,背景 15と背景 75上にて測定した CIE L*a*b*表

Fig 1 About preparation of Learing sample

コンポジットレジンの色変化と背景遮蔽効果 9

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色系の数値,L*, a*, b*値の結果を用いて,背景 15と背景 75との間の色差(Δ E*ab 値)を以下の計算式にて算出し求めた.

Δ E*ab={(L75*-L15*)2+(a75*-a15*)2+(b75*-b15*)2}1/2

L75*, a75*, b75*:背景 75上で測定した CIE L*a*b*表色系の数値 L*, a*, b*値を示す.

L15*, a15*, b15*:背景 15上で測定した CIE L*a*b*表色系の数値 L*, a*, b*値を示す.測定結果より算出した,L*値,C*ab 値,TP 値を各厚さでの試料間およびシェード間での有意差を求めるため,一元配置分散分析,Scheffe の多重比較を行った.また各グレー色票上の単層試料と積層試料の L*値と C*

ab 値の相関を Pearson の相関係数を求め,各試料の L*

値と C*ab 値の影響力を調べるため以下の回帰式を用いて分析を行った.

L*=b1C*ab+b0

b0:定数項を示す.b1:回帰係数を示す.

結 果

1.L*値,C*ab 値1)背景 W,背景 B 上における厚さ 0.5 mm のフロアブルコンポジットレジン単層試料

Fig 2に背景 W と背景 B 上での L*値および C*ab 値の結果を示す.スタンダードシェードとオペークシェー

ドでは,試料の測定値の増加傾向が異なり,L*値は,背景 W 上では SF, ZF, EF の順に高い値を示し,EO,

SO, ZO の順に高い値を示した.また,SF と ZF は SO

と ZO より高い値を示したが EF は EO より低い値を示した.背景 B 上では SF, ZF, EF の順に高い値をし,ZO, SO, EO の順に高い値を示した.いずれの試料もオペークシェードの方がスタンダードシェードより高い値を示した(Fig 2a).

C*ab 値は,背景 W 上では EF, SF, ZF の順,EO, ZO,

SO の順に高い値を示し,オペークシェードの方がスタンダードシェードより高い値を示したが,EF は EO より高い値を示した.背景 B 上においては EF, SF, ZF の順,ZO, EO, SO の順に高い値を示し,いずれの試料もオペークシェードの方がスタンダードシェードより高い値を示した(Fig 2b).2)背景 W,背景 B 上における厚さ 1.5 mm のユニバーサルコンポジットレジン単層試料

Fig 3に背景 W と背景 B 上でのユニバーサルコンポジットレジンの L*値と C*ab 値の結果を示す.背景 W

上の L*値では,E は S, Z より低い値を示し,背景 B

上では E は S, Z より高い値を示した.S と Z は背景W,背景 B 上ともに統計学的有意差を示すことがなかった(Fig 3a).

C*ab 値は背景 W,背景 B 上共に E, S, Z の順に高い値を示した(Fig 3b).

Fig 2 L* volume and C*ab volume for Single sample of 0.5 mm thickness on White and Black backgroundW : Significantly different between the all samples on the White Background(p<0.05)B : Significantly different between the all samples on the Black Background(p<0.05)

10 逸見恵里 明海歯学 41, 2012

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3)背景 W,背景 B 上における厚さ 2.0 mm のユニバーサルコンポジットレジン単層試料(コントロール)と積層試料

Fig 4に背景 W と背景 B 上での各試料の L*値と C*

ab 値の結果を示す.背景 W での L*値は,S, S-SF, S-SO

の順と Z, Z-ZF, Z-ZO の順に高い値を示し,E-EO, E-

EF, E の順に高い値を示した.背景 B では,S-SO, S, S-

SF の順に高い値を示し,Z, Z-ZO, Z-ZF の順,E, E-EO,

E-EF の順に高い値を示した(Fig 4a).

C*ab 値では背景 W において S-SF, S, S-SO の順,Z-

ZO, Z-ZF, Z の順と E-EO, E-EF, E の順に高い値を示した.背景 B において S-SO, S, S-SF の順,Z-ZO, Z-ZF,

Z の順と E-EO, E-EF, E の順に高い値を示した(Fig

4b).4)背景 15, 45, 55, 65および 75上における厚さ 0.5 mm

のフロアブルコンポジットレジンの単層試料Fig 5に背景 15, 45, 55, 65 および 75 上での厚さ 0.5

mm の単層試料の L*値と C*ab 値を示す.

Fig 3 L* volume and C*ab volume for Single sample of 1.5 mm thickness on White and Black backgroundNS : Not significantly different between a sample on the White and Black Background(p>0.05)

Fig 4 L* volume and C*ab volume for control and Learing sample of 2.0 mm thickness on White and Black backgroundW : Significantly different between the all samples on the White Background(p<0.05)B : Significantly different between the all samples on the Black Background(p<0.05)

コンポジットレジンの色変化と背景遮蔽効果 11

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Fig 5a より L*値は,どの背景色上においても ZF, SF,

EF の順に高い値を示し,C*ab 値は EF, SF, ZF の順に高い値を示した.

Fig 5b より L*値は,背景色 15~65では ZO, SO, EO

の順に高い値を示し,背景 75では SO, ZO, EO の順に高い値を示した.C*ab 値では,背景色 15, 45では ZO,

EO, SO の順に高い値を示し,背景色 55~75 では EO,

ZO, SO の順に高い値を示した.また,試料 SF と ZF は同一材料の SO と ZO より L*

値,C*ab 値が低く,試料 EF は同一材料の EO より C*

ab 値が高い値を示し,背景色の L*値が増加するといずれの試料も L*値,C*ab 値が増加した.5)背景 15, 45, 55, 65および 75上における厚さ 1.5 mm

のユニバーサルコンポジットレジンの単層試料Fig 6に背景 15, 45, 55, 65,および 75上での厚さ 1.5

mm の単層試料の L*値と C*ab 値を示す.厚さ 1.5 mm

の単層試料では厚さ 0.5 mm と同様に背景色の L*値が増加すると共に試料の L*値,C*ab 値が増加し,L*値では S, Z, E の順に高い値を示し,C*ab 値は E, S, Z の順に高い値を示した.6)背景 15, 45, 55, 65および 75上における厚さ 2.0 mm

の単層試料(コントロール)と積層試料Fig 7の a, b, c に背景 15, 45, 55, 65, 75の L*値と C*

ab 値を示す.Fig 7a より,L*値は背景 15~65 では S-SO, S, S-SF

の順に高い値を示すが,背景 75では S, S-SO, S-SF の順に高い値を示した.C*ab 値はすべての背景色上において S, S-SF より S-SO の方が高い値を示した.

Fig 7b より,L*値はどの背景色上においても Z, Z-

ZF, Z-ZO の順に高い値を示した.C*ab 値では,どの背景上においても Z-ZO, Z-ZF, Z の順に高い傾向を示した.背景 75では,積層試料の Z-ZF と Z-ZO の C*ab 値が近い値を示した.

Fig 7c より,L*値は背景 15では E, E-EF, E-EO の順に高い値を示したが,背景 45~65 では E, E-EO, E-EF

の順に高い値を示し,背景 75では E-EF, E-EO, E の順に高い値を示し,E-EF が最も高い値を示した.

C*ab 値ではすべての背景色上において E-EO, E-EF, E

の順に高い値を示した.また E-EF, E-EO と E との C*ab

値はどの背景色上においても有意差を示したが,積層試

Fig 5 L* volume and C*ab volume for Single sample of 0.5 mm thickness on gray background of L*15, 45, 55, 65, 75Significantly different between samples and between all of the background(p<0.05)

Fig 6 L* volume and C*ab volume for Single sample of 1.5mm thickness on gray background of L*15, 45, 55, 65, 75Significantly different between samples and between all of thebackground(p<0.05)

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Fig 7 L* volume and C*ab volume for control and Learing sample of 2.0 mm thickness on gray background of L*15, 45, 55, 65, 75Significantly different between samples and between all of the background(p<0.05)

Fig 8 TP volume for Single sample of 0.5 mm thickness and 1.5 mm thickness Single speciumSignificantly different between samples and between all of the background(p<0.05)

コンポジットレジンの色変化と背景遮蔽効果 13

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料同士の E-EF と E-EO の C*ab 値が背景色の増加とともに互いの値が近似を示し,背景 55と背景 75においてC*ab 値が最も近い値を示した.

2.TP 値1)厚さ 0.5 mm のフロアブルコンポジットレジンの単層試料各試料の TP 値を Fig 8a に示す.いずれの試料もス

タンダードシェードの方がオペークシェードより高い値を示し,EF, ZF, SF の順と EO, SO, ZO の順に高い値を示した.2)厚さ 1.5 mm のユニバーサルコンポジットレジン単層試料各試料の TP 値を Fig 8b に示す.TP 値は S, Z, E の

順に高い値を示した.3)厚さ 2.0 mm の単層試料(コントロール)と積層試料各試料の TP 値と各試料の背景 75と背景 15との Δ E

*ab 値を示す.Fig 9a よりいずれの試料も S-SF, S, S-SO

と Z-ZF, Z, Z-ZO, E-EF, E-EO, E の順に高い値を示した.

Fig 9b では,実際の着色象牙質を想定し,着色象牙質上での背景 W を背景 75と着色象牙質上の背景 B を背景 15とした色差 Δ E*ab 値を求めた.その結果 S, S-

SF, S-SO の順,Z-ZF, Z, Z-ZO の順,E-EO, E, E-EF の順に高い値を示した.背景 W と背景 B の間の TP 値と同様の傾向を示したのは試料 Z-ZF, Z, Z-ZO だけであった.

考 察

積層したコンポジットレジンの色と透明度は,それらの試料組成や構造よりも積層方法に影響される14, 26, 28, 29).積層された試料の色は,Kubelka-Munk の理論による光の反射,散乱,吸収の傾向と上層試料の厚さと背景からの反射によって影響されると考えられており25),それらの特徴が視覚的な感受性により彩度,明度,透明度と認識され積層試料の色を発現する.そのため本実験では下層試料,上層試料の背景 W,背景 B 上での L*値,C*ab

値と TP 値を求め個々の試料の色の特性を把握し,その後積層試料の背景 W,背景 B 上での L*値,C*ab 値とTP 値と背景 15~75での L*値,C*ab 値と Δ E*ab 値を求め検討を行った.

1 .コンポジットレジンの明度(L*値),彩度(C*ab

値)1)厚さ 0.5 mm のフロアブルコンポジットレジン単層試料フロアブルコンポジットレジンは歯質保存的な修復治療に有効な材料として窩底部に一層塗布する方法が普及している30−32).本実験でのフロアブルコンポジットレジンの試料厚さは予備実験において下層に一層塗布した試料厚さを参考に 0.5 mm を採用した.結果より,背景W,背景 B 上での L*値および C*ab 値については,背景 B 上ではすべての試料でスタンダードシェードよりオペークシェードの方が高い値を示した.過去の研究にて33−35)オペークシェードは,暗い背景上で高い L*値,C

*ab 値を維持することが可能と報告されていることか

Fig 9 TP volume and Δ E*ab volume for Control and Learing sample of 2.0 mm thickness Signifi-cantly different between samples and between all of the background(p<0.05)

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ら,本実験でも同様な結果が確認できた.またオペークシェードはスタンダードシェードより明るい背景上において明度を低下させ彩度を増加させる効果が得られるとことができることも確認できたが,EO は EF より背景W 上において L*値が高い値を示し,C*ab 値では低い値を示したため EO は背景色の明暗に影響されず明度を高くすることが可能であると示唆された.

Fig 5の結果より各グレー色票上での L*値,C*ab 値は,試料,シェードの違いにより背景 15から背景 75の増加の仕方は異なるがいずれの試料も背景色の L*値が増加すると L*値,C*ab 値が増加し,回帰分析の結果よりいずれの試料も L*値に依存した傾向を示した.コンポジットレジンの色は,厚さ 4.0 mm 以上では完全に背景色に影響されず色を再現することができ,また厚さ1.0 mm 以上になると背景色の影響よりもコンポジットレジンの影響力の方が強くなると報告されている12, 13).そのため本実験での下層試料の厚さが 0.5 mm であることから背景色に大きく影響され,明度に依存した増加傾向を示したと示唆された.2)厚さ 1.5 mm のユニバーサルコンポジットレジン単層試料

L*値は,各試料ともに異なる値を示したが,背景 W,背景 B ともに S と Z には統計学的有意差を認めなかったため S と Z は違う材料であっても同程度の L*値を得ることができると考えられた.また E は背景 W 背景 B

上ともに S, Z と統計学的有意差を示した.C*ab 値では背景 W,背景 B 上共に E, S, Z の順に高い値を示し統計学的有意差を示した.前述より試料厚さ 1.5 mm では,コンポジットレジンの影響の方が背景色よりも強調され本実験の結果となったと考えられ,また明度のみでは各試料間の違いを識別するには困難であると示唆された.グレー色票上での各コンポジットレジンの L*値と C*

ab 値については Fig 6に示しており,背景色の L*値が増加するといずれの試料も L*値,C*ab 値が増加した.また回帰分析の結果からも,S, Z は L*値に依存した傾向を示したが,E では C*ab 値に依存した傾向を示した.そのため E は S, Z より高い彩度を得ることが可能であると考えられる.3)厚さ 2.0 mm の単層試料(コントロール)と積層試料積層試料の光学的性質は,積層試料表層面に光が一部当たり,表層面で一部が反射され残りの光は上層試料を透過し,吸収と散乱を繰り返す.そして下層試料に達し

た光が反射され再度上層試料内で吸収と散乱を繰り返し積層試料の色となる11).そのため,上層試料の L*値と下層試料の L*値と TP 値が影響するとされている.本実験での積層試料の L*値は,背景 W,背景 B 上

ともに同一の材料のコントロールより積層試料の方が低い値を示した.しかし背景 W では,E-EF と E-EO は E

より高い値を示し,背景 B では S-SO が S より高い値を示している.下層試料に使用したコンポジットレジンは低粘性を有したフロアブルコンポジットレジンを使用しており,ユニバーサルコンポジットレジンよりもフィラー含有率が低い傾向がある36−38).フィラーの含有量はフィラー・マトリックス界面の総面積に影響39)し,含有量が減少すると総面積が減少し,反射光,散乱光の減少,透過光の増加を示す.そのためフロアブルコンポジットレジンが下層試料の際,反射光,散乱光が減少し,コントロールより積層試料の方が L*値が低下したと考えられる.またコンポジットレジンの L*値は光が入射する表層面の反射光にも影響され,表層面はフィラーの含有量だけではなく,その形状,粒度にも影響される.従ってフィラーの粒度が増加し,球状のフィラーであると表層面での反射光が増加し L*値の増加を示すと考えられる.そのため積層試料の L*値は,Table 1の各材料の組成より上層試料と下層試料の表層面での反射光が影響し Fig 4の結果を示したと考えられる.よって背景W での E-EF および E-EO は,下層試料の反射光が低下し透過光が増加したためコントロールより高い値をし,背景 B での S-SO では,上層試料での透過光が高く,下層試料の反射光が高かったため L*値が増加したと示唆された.また,下層試料にスタンダードシェードとオペークシェードでの積層試料の L*値の違いについては,統計学的有意差を示したにもかかわらず,値による大きな差を示すことはなかった.これについては,上層試料と下層試料の試料厚さの比率と推測される.上層試料の厚さが 1 mm 以上あると下層試料の色に影響されにくいとされているため40, 41),本実験での上層試料厚さが1.5 mm であることから L*値に大きな差を示すことがなかったと考えられた.

C*ab 値では,背景 W,背景 B 上ともにコントロールが積層試料よりも低い値を示し,積層試料同士では下層試料にオペークシェードを用いた方がスタンダードシェードより高い値を示し,下層試料のシェードに影響される結果となった.本実験では日本人の天然歯歯冠色にもっとも類似したシェードとし A 系統のシェードを使用した42).A 系統シェードでの積層試料の色は,L*値,

コンポジットレジンの色変化と背景遮蔽効果 15

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b*値の減少傾向を示すとされているが,a*値についてはA 系統のシェードに a*値を変化させる成分があまり含まれていないとされている41).そのため C*ab 値の変化は b*値による変化に影響されやすいと推測ができる.オペークシェードはスタンダードシェードと比較し b*

値が高いことから,下層試料にオペークシェードを一層塗布することで C*ab 値が高い値を示したと考えられた.グレー色票上でのコントロールと積層試料について

は,背景色の L*値が増加するといずれの試料も L*値,C*ab 値の増加を示したが,L*値,C*ab 値の増加の仕方が各試料により異なる結果を示し統一性がなかった.S-

SF, S-SO と E-EF, E-EO はそれぞれのコントロールよりも C*ab 値が高い値を示し,同一材料のコントロールも含め値の変化傾向は C*ab 値に依存した傾向を示した.Z-ZF, Z-ZO では,コントロールよりも C*ab 値は高い値を示し,L*値は背景 55まではコントロールの方が高い値を示し,背景 65では Z-ZO が高い値を示した.背景 75では Z-ZF が高い値を示し,コントロールおよび積層試料共に値の変化は L*値に依存した傾向を示した.そのため,積層試料 S-SF, S-SO と E-EF, E-EO は積層することにより明度より彩度が強調された色を表し,Z-ZF, Z-ZO は彩度よりも明度を強調した色を再現する可能性が示唆された.

2.コンポジットレジンの透明度(TP 値)1)厚さ 0.5 mm のフロアブルコンポジットレジンの単層試料

TP 値は試料の透明度を表し,半透明性材料であるコンポジットレジンの背景遮蔽効果の一つの指標とされており TP 値が低いと背景遮蔽効果が高いとされている43).本実験での TP 値は Fig 7a の結果よりいずれの試料もオペークシェードがスタンダードシェードより低い値を示しているため,背景遮蔽効果が得られやすいと確認ができた.コンポジットレジンの色はマトリックスとフィラーの含有量,粒度,形態,着色材等による光の吸収,散乱,反射,透過が相互に影響し,それらの屈折率の差により明度,彩度,透明度として表現されている44).Table 1

より各試料材料のフィラーの含有率,粒度,形状およびフィラーの材質は異なっている.不定形フィラーは球状フィラーよりも光の拡散性が高く,またフィラー含有率が高い程光の拡散性が高いとされており45, 46),フィラー材質であるシリカジルコニアは

シリカガラスおよび有機複合体より光の拡散性が高いとされている.そのため L*値の増加,TP 値の減少を示すとされている47, 48).各材料の組成から SF, SO のストロンチウムガラスはシリカジルコニアより光の拡散性が乏しく49),L*値は低い値を示すが TP 値はシリカジルコニアである ZF, ZO の方が高い値を示すが,フィラー粒径が大きいために ZF, ZO より TP 値が低い値を示したと思われる.また ZF, ZO は SF, SO と EF, EO とは異なり,球状のフィラーではあるが粒径が大きくシリカジルコニアを使用しているため L*値と TP 値が低い値を示したと思われる.そのため本実験の ZO は背景遮蔽効果に優れたコンポジットレジンであるものと考えられた.しかし ZF は SF より L*値が低い値を示し,C*ab 値はいずれの試料よりも低い値を示しており,TP 値は EF

よりも低い値を示しているためオペークシェード,スタンダードシェード同士で他の試料と比較した結果が異なる順位を示したことから,同一のシェードであったとしても各メーカーによりそれぞれの材料の組成の組み合わせによって,オペークシェードでも他のスタンダードシェードと類似したシェードを証言することが可能であると推察される.また透明度は試料の厚さにも影響し各試料の TP 値は異なる結果を示したが,本実験での厚さ0.5 mm 試料においても,いずれの試料もオペークシェードの方が同一のスタンダードシェードより高い値を示したため,背景遮蔽効果が得られる試料厚さであると考えられた.2)厚さ 1.5 mm のユニバーサルコンポジットレジン単層試料

TP 値では,S, Z, E の順に高い値を示し,統計学的有意差を示した.TP 値はマトリックスレジンとフィラーの屈折率に影響される報告があり50, 51),本実験の S, Z, E

の材料での違いは,Table 1より各試料材料のフィラーの形状,粒度,材質とマットリックス成分等が関係している.マトリックス成分である UDMA は Bis-GMA,

TEGDMA より TP 値が高いと報告されており52, 53),それらが互いに影響し,本実験結果となったものと考えられた.3)厚さ 2.0 mm の単層試料(コントロール)と積層試料積層試料の TP 値は,L*値と相関があり,L*値が増

加傾向を示すと TP 値は減少傾向を示す負の相関を認められている.TP 値と b*値との相関についても L*値とTP 値同様に負の相関を示すとされている54).そのため,本実験では,L*値のみの相関ではなく C*ab 値の増

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加にともない TP 値の減少を示すと推測された.また積層試料における背景遮蔽効果については,TP 値はコントロール試料より高い値を示し,E-EO と Z-ZO のみ低い値を示した.オペークシェードによる背景遮蔽効果については,下層試料の試料厚さに影響し,試料厚さが1.0 mm 以上であるとき黒色背景上での遮蔽効果を得られるとされている55)が,本実験においては下層試料厚さが 0.5 mm であるため,試料においても十分な遮蔽効果を得るには困難であることが示唆された.本実験での TP 値は,背景 W と背景 B との色差 Δ E

*ab 値で表し,背景 W と背景 B との明度,彩度を含めた差を利用し,透明度として表される.しかし半透明性材料であるコンポジットレジンは,周囲の色および試料自体の光により透明度は変化するため,TP 値の相関については不明な点が多い.本実験において背景 15と背景 75との間の Δ E*ab 値を求めた.背景色 15と背景 75は着色象牙質上での背景 B と背

景 W に相当する.これによる Δ E*ab 値をもとめ各試料の着色象牙質上の背景遮蔽効果に求めた.その結果,コントロール試料および積層試料 S, Z, E の順に低い値を示し,どの試料材料共にオペークシェードを下層試料とした積層試料の方がスタンダードシェードを下層試料とした積層試料より低い値を示したため,背景遮蔽効果が期待できると思われる.また背景 15 と背景 75 間のΔ E*ab 値と背景 W と背景 B での TP 値においても同様の結果を示し,TP 値はコンポジットレジンの背景遮蔽効果の指標となることが確認された.本実験において同一のシェードを積層したとしてもコントロール試料と L*値,C*ab 値,TP 値が異なり下層試料に影響される結果が示された.各積層試料共に背景色の影響を受け,オペークシェードを下層試料にしたときの L*値,C*ab 値は,コントロール試料またはスタンダードシェード同士の積層試料よりも低い値を示したため,オペークシェード一層塗布しなくとも L*値と C*ab

値を高くすることができるものと本実験結果より示唆された.しかし各材料によるこれらの値の変化が異なるため,各材料での積層方法について今後さらに検討する必要性があると思われる.

結 論

MI 概念の普及により,着色象牙質が残存した窩洞内にてコンポジットレジン充塡が行われており,半透明性材料であるコンポジットレジンはそれらの窩底部の色に影響され,天然歯色に合わせた色の再現を困難なものと

させている.また臨床上,限られた窩洞内での充塡が求められており,フロアブルコンポジットレジンを一層塗布した使用法でのコンポジットレジンの積層充塡が多く用いられている.そのため本実験において,着色象牙質色の L*値を背景とし,フロアブルコンポジットレジンとユニバーサルコンポジットレジンでの積層した試料の色の変化および遮蔽効果について検討し,以下の結論に達した.①下層試料 0.5 mm では積層材料の色に影響する.②背景色の明度は積層試料の彩度に影響を与えるが明度に対しての影響が遥かに大きい.

稿を終えるにあたり,本研究にご理解,また,ご指導を賜りました本学大学院歯学研究科理工系歯材応用研究群片山直教授に深甚なる謝意を表します.さらに,ご指導,ご校閲を賜りました本学大学院歯学研究科理工系歯科器材研究群中嶌裕教授,理工系歯材応用研究群藤澤政紀教授に深甚なる謝意を表します.最後に,本研究にご尽力いただきました本学機能保存回復学講座保存修復学分野の先生方に厚く御礼を申し上げます.

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18 逸見恵里 明海歯学 41, 2012

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(受付日:2011年 11月 5日 受理日:2011年 11月 21日)

コンポジットレジンの色変化と背景遮蔽効果 19