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沖縄県図書館協会誌 第 15号 2011
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「蔵書満杯 捨ててます 区立図書館 新刊
増で年 90 万冊」(『朝日新聞』1991 年 10 月 6 日)
1990 年代前半、図書館の本の除籍と廃棄の問題がマスコミによって矢面に立たされた。CiNii で「本」、「リサイクル」、「図書館」などをキーワードに検索すると、ほとんど 1990 年代に発行された図書館関連雑誌にヒットする。このことから、図書館界でもよくこの問題が取り上げられていたことがわかる。 書架の狭隘。どこの図書館でも必ず頭を抱える問題ではないだろうか。約 20 年前と古いデータではあるが、1992 年の第 39 回国立大学図書館協議会総会において設置された「保存図書館に関する調査研究班」が全国の国立大学図書館に対して行ったアンケート調査によると、国立大学図書館全体の収容可能冊数に対する蔵書数比率は 1.08、冊数にして約 420 万冊分が溢れ出ていることになり、20 年も前に既に書架収容冊数を超過していることが明らかになっている。さらに、全体
(172 館)の 84% にあたる 145 館が「既に満杯、或いは数年後に満杯になる」と回答している。i また、1988 年 5 月、私立大学協会加盟の大学図書館を対象に行われた「資料の収集と保存」に関する実態調査の結果によると、回答した 231 館(91%)の 47% にあたる 108館が 3 年以内に、82%にあたる 189 館が 5 年以内にパンクすると回答している ii。
数十年も前から全国の図書館職員の頭を悩ましてきたこの問題は、それから 20 年以上経った現在も状況は変わらない。むしろ、書架の狭隘に頭を悩ます図書館は増えているのではないだろうか。 当館も例外ではなく、毎年、新たに購入した資料が増えていく中、書架の狭隘化にはいつも頭を抱えている。当館では、日々、新規購入図書を受入、排架していく中で、ある書架が狭隘化、しばらくすると、別の書架が狭隘化というように、常にその問題がつきまとう。解決方法として、まず、行うことは、ならし作業。それでも、解決できないときは、貸出頻度が少ない図書などを間引き、排架する書庫を変更している。その作業を繰り返していても、毎年、約 2 万冊の資料が増えていくようであれば、いつかは満杯になる日が来る。 その状況を受け、昨年度、本学図書委員会にて所蔵冊数の上限が設定され、承認された。それによって、上限冊数を超える分は、除籍または抹消を行うことができることになった。特に、研究助成費や指定図書などで購入された図書には重複している図書が多く、ひどいものでは、全く同じ図書が十数冊あることもある。上限冊数を超える分を除籍することによって、新しい図書が排架できるスペースを捻出できる。その方が賢明である。しかし、資産図書である図書を除籍したからといって、ただ、捨てるというわけにはいかな
書架の狭隘化と除籍図書のリサイクルについて
兼 村 ゆり香
沖縄国際大学図書館の「譲渡会(本のリサイクル)」を事例に
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い。 そこで、当館では昨年度から「譲渡会(本のリサイクル)」を行っている。昨年度は、1月 24 日~ 1 月 28 日の間、学内で最も学生の出入りの多い場所に譲渡会コーナーを設けた。本の量はブックトラック(両面)の二つ分なので、だいたい 400 ~ 500 冊くらいだろうか。初の試みで、どのような状況になるか想像がつかなかったが、なんと、設置してからわずか 2 時間で準備していた図書の半分、一日でそのほとんどが、それを必要としている学生や教職員の手へと渡っていった。こんなにニーズがあるならば…ということで、急遽、本を追加して対応するほどであった。 昨年度の譲渡会が好評だったのを受け、今年度も早速、7 月 11 日~ 7 月 15 日の期間、昨年度と同じ場所で譲渡会を行った。昨年の状況を見て、今年度は、いつでも図書を追加できるよう段ボールへ詰めておき、本番に臨んだ。今回は、段ボール 20 箱分ほど用意していた。5 日間の譲渡会期間を終え、最終的に 6 ~ 7 割程度、譲渡することができた。残った資料は、市内の福祉関係施設に古紙として回収を依頼し、再利用して頂いている。 さて、譲渡会へ出す前に本はどのように処理しているか。除籍された図書は、譲渡会へ出す前に物理的な処理として主に下記の 4 点を行っている。
① 図書 ID や請求記号等のラベルを剥がす。
② 「沖国大図書館」の天地小口印を塗りつぶす。
③ 蔵書印の箇所へ「除籍済」の印を押す。④ 磁気を抜く
特に、気をつけていることは、図書館に所蔵している図書と区別が付くようにすること
である。そこで、対策として、外見で除籍した図書とわかるようにする必要があった。それが①~③の処理である。開催場所を図書館内にしなかったのもそのためである。譲渡会へ出した図書が図書館内に紛れてしまっては困る。すでに除籍した本が館内の 40 万冊を超える膨大な図書の中に紛れてしまうと大変なことになるのは容易に想像がつくだろう。その他、工夫したことを挙げれば、学生の出入りの多い場所にしたことと、学生の多い時期を狙って開催したことなどである。 ところで、他の図書館では本のリサイクルはどのようなかたちで行われているのか。気になったのでインターネットで検索してみた。すると、譲渡会を行っているのは公立図書館に目立つが、いくつかの大学でも行われているようである。時期については、当館と同じく不定期で行っているところ、毎週何曜日というように定期的に行っているところ、大学祭の時期に合わせて開催しているところ、常時、リサイクル図書コーナーを設置しているところ、と色々あるようだ。持ち帰りできる冊数について、当館は特に制限はしていないが、一人何冊までと制限しているところが多く見られた。料金は無料のところが多かったが、中には有料(ただし、格安の料金)にし、売上金はすべて公益活動を通じて地域に還元しているというところもあった。また、対象図書に関しては、図書館の廃棄図書のリサイクルに留まらず、利用者の家で眠っている図書も対象としているところもあるようだ。 次に、書架スペースを捻出するための方法の一つである不要図書の除籍について考えてみたい。本学では、図書管理規定の除籍基準において、汚損・破損、盗難・紛失、寄贈す
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るものなどは理事長の承認を得て、除籍することができることとなっている。それに加えて、昨年度、「所蔵冊数の上限」が設定されたことは大きかった。長年、当館が頭を抱えてきた狭隘化問題に光が差したと言っても過言ではないだろう。ところで、その他の図書館では、除籍処理はどのようにしているのだろうか。ここでいくつかの例を挙げておきたい。 アメリカの公共図書館、ボルティモア・カウンティ・ライブラリーでは、要求のある本は複本を多数購入する方針をとっており、利用者の関心が過ぎ去ってしまえば、何冊かを残して後は除籍するという。驚くことに、除籍の量は毎年、蔵書の 20% 以上に及び、年間増加冊数にほぼ等しい。プラマイゼロというわけである。アメリカの公共図書館では、本を永久的な財産と見なすことはないらしい iii。 次に、中央大学図書館の事例を見てみよう。中央大学では、毎年、学部学生の学習用の開架閲覧室の定期的な除架を計画して行っているという。①過去 5 年間で一度も貸出されなかったもの ②出版年が 10 年以前のもの ③閉架書庫と重複しているものという 3 項目を基準に、年度末の 1 ヶ月間の蔵書点検作業期間中に、毎年、4,000 ~ 5,000 冊の除架を継続的に行っており、それを①閉架書庫に移すべきもの ②基本図書として元に戻すもの③不要資料とするものというふるいに掛け、毎年、約 2,000 冊を除籍・抹消対象資料として抽出している iv。 また、法政大学の市ヶ谷キャンパス図書館では、学部学生用の図書は、開架式の接架方式で、かなりの紛失が予想されるため、当初から、学部学生用に購入する図書は資産外と
しているらしい。そのため、かなり古い年代から、不要資料を利用者に持ち帰ってもらっていたようだ。一方、後に創設された多摩図書館では、収容能力を超えてきた頃から、年に一回、決まった時期に“利用者還元フェア”と銘打って、不要図書を放出していた。しかし、1998 年度から、新規購入図書が書架に収められない状況になり、随時、書架から不要図書を抜き出す必要に迫られたため、常時、いくつかの資料が持ち帰り用ブックトラックに並んでいる状態にあるそうだ v。 数十年前まで、書架の狭隘に対し、各大学図書館が行った対応策には、「書架を増設した」、「学内の他の施設を利用した」、「新・増築を行った」など、ハード面による対策が目立った。しかし、その方法だけではやはり限界がある。法政大学が早くから、本のリサイクルに取り組んできたように、収容可能冊数に近づくにつれて、不要図書を除籍・抹消することによって、書架スペースを捻出するところが増えている。それとともに、近年では、できるものは所蔵図書を電子化し、除籍・廃棄する傾向にある。 大学図書館は、学術研究の成果として新しい資料を収集していかなくてはならない。その一方で、過去の貴重な資料を保存し未来に伝えていく責務も持っている。しかし、書架スペースの関係から、両者を両立させることはとても困難なことである。公共図書館、大学図書館、それぞれの性質と役割は異なり、一概には言えないが、ここで例に挙げたようなボルティモア・カウンティ・ライブラリー、中央大学図書館に見るような斬新な除籍処理の方法とその考え方を取り入れてみるのもいいかもしれない。過去の貴重な資料、ニーズのある資料は残し、それから外れた図書
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は、譲渡会などを通して、積極的に利用者へ提供する。そして、最新の知と情報の詰まった資料収集に尽力する。書架の狭隘化が慢性的になってきた本学図書館においても、書架スペースを捻出するための不要図書の抽出と除籍は既に避けては通れない問題となっている。ただ、共通して言えるのは、誰もが本を
捨てたくないと思い、本が有効に利用されることを望んでいることだ。「譲渡会(本のリサイクル)」が、当館を含め、多くの図書館で定着していくのもそう遠くはないだろう。 【参考文献】(五十音順)・熊谷俊夫、重里信一「学術資源の全国的保
存システムと共同保存図書館(特集:リソース・シェアリング:資料利用のための協力)」
『情報の科学と技術』第 43 巻 11 号、1993 年、pp.996-1005.
・酒井信「大学図書館における保存と廃棄について(特集:本の行方を追う除籍・廃棄・共同保存・リサイクル)」『図書館雑誌』第86 巻 6 号、1992 年、pp.378-379.
・竹内悊「除籍と廃棄との間(特集:本の行方を追う除籍・廃棄・共同保存・リサイクル)」『図書館雑誌』第 86 巻 6 号、1992 年、
技 術 と サ ー ビ ス で 地 域 に 貢 献 す る
国建システム株式会社 900-0015 沖縄県那覇市久茂地1-2-20TEL (098)867-7584 FAX (098)866-5965 U R L h t t p : / / w w w . k u n i s y s . c o . j p /
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[ 本学図書館「譲渡会(本のリサイクル)」の様子 ]
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pp.368-370.・谷口豊「ウィーディングによる蔵書管理-
書架スペース捻出のための廃棄・除籍・保管・移管-」『図書館雑誌』第 93 巻 3 号、1999 年、pp.185-187.
・藤勝周次「気になる寄贈本の行方-喜び合える方法は?-(特集:本の行方を追う除籍・廃棄・共同保存・リサイクル)」『図書館雑誌』第 86 巻 6 号、1992 年、pp.380-381.
・山本なほ子「法政大学多摩図書館開架閲覧室資料のリサイクル」『図書館雑誌』第 93巻 3 号、1999 年、pp.194-195.
【参考ウェブサイト】(五十音順)
・豊中市立図書館リサイクル本販売のページ http://www.lib.toyonaka.osaka.jp/recicre.
html [2011/09/27]・瑞木祭「本のリサイクル市」のお知らせ /
図書館 / 産業能率大学 http://www.mi.sanno.ac.jp/library/libinfo/
mizuki.html [2011/09/27]・山口大学図書館学生協働
http://www.lib.yamaguchi-u.ac.jp/blog/index.php?e=18 [2011/09/27]
――――――――――――――――ⅰ熊谷俊夫、重里信一「学術資源の全国的保存シ
ステムと共同保存図書館(特集:リソース・シェ
アリング:資料利用のための協力)」『情報の科
学と技術』第 43 巻 11 号、1993 年、p.997.
ⅱ同上、p.998.
ⅲ竹内悊「除籍と廃棄との間(特集:本の行方を
追う除籍・廃棄・共同保存・リサイクル)」『図
書館雑誌』第 86 巻 6 号、1992 年、pp.368-369.
ⅳ藤勝周次「気になる寄贈本の行方-喜び合える
方法は?-(特集:本の行方を追う除籍・廃棄・
共同保存・リサイクル)」『図書館雑誌』第 86 巻
6 号、1992 年、p.380.
ⅴ山本なほ子「法政大学多摩図書館開架閲覧室資
料のリサイクル」『図書館雑誌』第 93 巻 3 号、
1999 年、p.195
――――――――――――――――――――かねむら ゆりか
:沖縄国際大学図書館図書課係員