3
新世代下水道支援事業 新技術活用型 4 放線菌スカム抑制 ~オゾン添加による処理機能障害の改善技術~ 共同研究者:川崎市 2.技術の概要 返送汚泥へのオゾン添加方式は,エアレーシ ョンタンク添加方式と比較し,オゾン反応槽の 管理が容易であり,オゾン消費量の低減,覆蓋 の無いエアレーションタンク施設への適用も可 能である。図-1に実施設返送汚泥系へのオゾ ン添加設備フローシートを示す。 3.研究成果 3.1 調査条件 実規模実証試験期間中の各RUNにおけるオゾ ン消費量は以下のとおりである。 ①RUN-1:スカム抑制運転を実施。オゾン消費 量は3mgO3/gSS・日とした。 ②RUN-2:スカム抑制運転を実施。オゾン消費 量は5mgO3/gSS・日とした。 ③RUN-3:スカム抑制効果持続運転を実施。オ ゾン消費量は1.5mgO3/gSS・日と した。 ④RUN-4:スカム抑制運転を再度実施。オゾン 消費量は5mgO3/gSS・日とした。 ⑤RUN-5:スカム抑制効果持続運転を実施。こ こでは,オゾン消費量を段階的に削 減することとし,オゾン消費量は 3.5mgO3/gSS・日とした。 1.はじめに 本研究の対象施設である川崎市等々力水処理 センター(処理方式:純酸素曝気法)は,昭和 57年11月に供用を開始したが,水量の増加に伴 い放線菌によるスカムの異常発生がおこり,最 終沈殿池における固液分離障害,エアレーショ ンタンクにおけるMLSS低下等の処理機能障害が 引き起こされていた。このため,様々なスカム 抑制の対策を検討してきたが,その中で最も有 効な手段は返送汚泥へのオゾン添加であった。 そこで,オゾン添加によるスカム発生抑制技術 の実用化を目的とし,機能高度化促進事業「新 技術活用型」の採択を受け,平成5,6,9年度に 実用化研究を実施した。平成12年度に等々力水 処理センター返送汚泥ラインにオゾンを添加す る実施設を建設し,この実施設を用いた性能評 価研究を平成13年度に実施した。 30 図-1 オゾン添加設備フロー

放線菌スカム抑制新世代下水道支援事業 新技術活用型 4放線菌スカム抑制 ~オゾン添加による処理機能障害の改善技術~ 共同研究者:川崎市

  • Upload
    others

  • View
    2

  • Download
    0

Embed Size (px)

Citation preview

新 世 代 下 水 道 支 援 事 業 新 技 術 活 用 型 4

放線菌スカム抑制

~オゾン添加による処理機能障害の改善技術~

共同研究者:川崎市

2.技術の概要

返送汚泥へのオゾン添加方式は,エアレーシ

ョンタンク添加方式と比較し,オゾン反応槽の

管理が容易であり,オゾン消費量の低減,覆蓋

の無いエアレーションタンク施設への適用も可

能である。図-1に実施設返送汚泥系へのオゾ

ン添加設備フローシートを示す。

3.研究成果

3.1 調査条件

実規模実証試験期間中の各RUNにおけるオゾ

ン消費量は以下のとおりである。

①RUN-1:スカム抑制運転を実施。オゾン消費

量は3mgO3/gSS・日とした。

②RUN-2:スカム抑制運転を実施。オゾン消費

量は5mgO3/gSS・日とした。

③RUN-3:スカム抑制効果持続運転を実施。オ

ゾン消費量は1.5mgO3/gSS・日と

した。

④RUN-4:スカム抑制運転を再度実施。オゾン

消費量は5mgO3/gSS・日とした。

⑤RUN-5:スカム抑制効果持続運転を実施。こ

こでは,オゾン消費量を段階的に削

減することとし,オゾン消費量は

3.5mgO3/gSS・日とした。

1.はじめに

本研究の対象施設である川崎市等々力水処理

センター(処理方式:純酸素曝気法)は,昭和

57年11月に供用を開始したが,水量の増加に伴

い放線菌によるスカムの異常発生がおこり,最

終沈殿池における固液分離障害,エアレーショ

ンタンクにおけるMLSS低下等の処理機能障害が

引き起こされていた。このため,様々なスカム

抑制の対策を検討してきたが,その中で最も有

効な手段は返送汚泥へのオゾン添加であった。

そこで,オゾン添加によるスカム発生抑制技術

の実用化を目的とし,機能高度化促進事業「新

技術活用型」の採択を受け,平成5,6,9年度に

実用化研究を実施した。平成12年度に等々力水

処理センター返送汚泥ラインにオゾンを添加す

る実施設を建設し,この実施設を用いた性能評

価研究を平成13年度に実施した。

30

図-1 オゾン添加設備フロー

⑥RUN-6:スカム抑制効果持続運転を実施。オ

ゾン消費量は2.0mgO3/gSS・日と

した。

3.2 スカム抑制効果

(1)スカム試験

先に実施した実用化研究の中で使用したスカ

ム試験法(活性汚泥が有する潜在的なスカム発

生量を調べる試験法で試験結果を「スカム高さ

(mm)」で表す)により,オゾン添加運転を実施

している実験系列の曝気槽混合液のスカム高さ

を求めた結果を,図-2に示す。

RUN-1,RUN-2でスカムは完全に抑制されたも

のとして,RUN-3でオゾン消費量を削減し,抑制

効果持続運転に移行したが,スカム発生量は増

加する傾向を示した。そこで,再度RUN-4で抑制

運転を実施し,その効果を確認後,RUN-5,

RUN-6と移行したが,RUN-6において再びスカム

発生量が増加した。以上の結果,スカム抑制運

転時のオゾン消費量は,5mgO3/gSS・日であ

り,スカム抑制持続効果運転時のオゾン消費量

は,3.5mgO3/gSS・日が限界であることを確認

した。

なお,写真-1にオゾン添加前のスカム状態を,

新世代下水道支援事業新技術活用型④

31

写真-2にオゾン添加後の状態を示す。

(2)SVI

実験期間中のSVIの計測結果を図-3に示す。

SVIの結果も「スカム試験」の結果と同様で,

RUN-1,RUN-2,RUN-4,RUN-5において低下し,

RUN-2の期間中は100~150の間で推移し,RUN-3,

RUN-6でオゾン添加量を削減した時点で,SVIは

上昇した。

(3)放線菌数

表-1に放線菌数の測定結果を示す。放線菌

数は,返送汚泥中においては顕著な減少は認め

られなかったが,曝気槽混合液中の減少が顕著

であった。

(4)ミコール酸

ミコール酸は,放線菌の細胞壁外部を覆って

いる強疎水性物質である。曝気槽で発生した泡

表面に放線菌が付着すると,ミコール酸の作用

によって泡との親和性によって,泡が強固にな

り,スカムとなる。したがって,ミコール酸量

の測定はスカム発生の度合いを知る手段のひと

つとなる。

表-2にミコール酸量の測定結果を示す。曝

気槽,返送汚泥のいずれの場合にも通常運転系

図-2 スカム高さの経時変化

図-3 SVIの経時変化

写真-1 オゾン添加前の最終沈殿池流入部の状況

写真-2 オゾン添加によるスカム抑制後の最終

沈殿池流入部

オゾン添加による処理機能障害の改善技術-川崎市

列に比べて,オゾン添加系列では,ミコール酸

量が減少していることがわかる。スカム抑制運

転では,減少量が顕著であるが,RUN-6の抑制効

果持続運転時においては,通常運転系列と顕著

な違いがなく,RUN-6では抑制効果が持続できな

かったことを示していた。

(5)処理水質

処理水質におけるSSの経時変化を図-4に,

T-BODの経時変化を図-5に示す。オゾン添加

によって活性汚泥の一部が解体し,その結果,

処理水質が悪化することが懸念されたが,図-4

および図-5から明らかなように今回のオゾン添

加量の範囲では,処理水質に影響は無かった。

3.3 維持管理性

等々力水処理センターでは,スカムにより

MLSS計,DO計等の自動計測機器の指示値が一

時的に不安定になる場合があり,運転状況の把

握やその指示値に基づいて行われる自動制御等

に支障をきたすなどの問題があった。

しかし,オゾン添加運転を行なうことでスカ

ムの影響が少なくなり,自動計測機器が正常に

働き,適切な値を示すため,その結果,運転状

況が正確に把握できるようになった。

また,スカムが抑制されることで,活性汚泥

の固液分離性が向上し,最終沈殿池における沈

殿汚泥の汚泥界面が明瞭になり,汚泥引き抜き

作業等の運転操作が容易になった。

32

4.まとめ

オゾン添加を行うことで,水処理施設内での

放線菌数およびミコール酸を減らし,スカムの

異常発生を抑制することが確認できた。また,

汚泥性状を正常かつ安定した状態に保つことが

でき,放線菌による固液分離障害に対して有効

な技術であった。

実施設を使った性能評価研究を実施した結果,

当初設定した性能目標を全て満足していること

が確認でき,性能評価書にとりまとめられた。

これにより,本技術は下水道事業における補助

対象設備として認められることとなった。

オゾン添加設備は,5系列中2系列に設置され

ており,平成13年8月よりNo.2系列で運転を開

始し,平成14年8月にはNo.1系列でも運転を開

始している。返送汚泥中へのオゾン添加量は,

MLSS1gあたりスカム発生時に5mg/日,スカム

抑制時に3mg/日程度でオゾン添加設備の稼働に

より,スカムの発生が抑制されたことで運転管理

が容易になった。さらに,活性汚泥の沈降性が改

善され,以前よりMLSSを高くした運転が可能と

なった。また,余剰汚泥濃度が高まり,引抜量を

低減することができるため,圧送先の汚泥処理施

設への負荷が軽減される等の効果があらわれてい

る。(関口洋史 建設局下水道建設部技術開発担当 主査)

新技術を採用して

図-4 処理水SS濃度の経時変化

表-1 放線菌測定結果例

表-2 ミコール酸測定結果

図-5 処理水T-BOD濃度の経時変化